(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108342
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】体積ホログラム素子、画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/32 20060101AFI20240805BHJP
G02B 27/02 20060101ALI20240805BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
G02B5/32
G02B27/02 Z
G02B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012654
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】加茂 誠
【テーマコード(参考)】
2H199
2H249
【Fターム(参考)】
2H199CA12
2H199CA23
2H199CA25
2H199CA27
2H199CA29
2H199CA32
2H199CA42
2H199CA48
2H199CA68
2H199CA81
2H249CA04
2H249CA09
2H249CA15
2H249CA22
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、異なる波長の光を回折でき、かつ、光損失が少ない体積ホログラム素子を提供することにある。また、本発明の課題は、体積ホログラム素子を備える画像表示装置を提供することにある。
【解決手段】第1主面と、上記第1主面と対向する第2主面とを有し、厚みが10μm以上である、体積ホログラム素子であって、上記体積ホログラム素子は、非ホログラム領域と、面内方向において上記非ホログラム領域を囲むホログラム領域とを有し、上記ホログラム領域の全域に、それぞれが異なる波長の光を選択的に回折する複数の干渉縞が形成されており、上記ホログラム領域内において、上記複数の干渉縞はいずれも不連続部を有さない、体積ホログラム素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面とを有し、厚みが10μm以上である、体積ホログラム素子であって、
前記体積ホログラム素子は、非ホログラム領域と、面内方向において前記非ホログラム領域を囲むホログラム領域とを有し、
前記ホログラム領域の全域に、それぞれが異なる波長の光を選択的に回折する複数の干渉縞が形成されており、
前記ホログラム領域内において、前記複数の干渉縞はいずれも不連続部を有さない、体積ホログラム素子。
【請求項2】
厚みが50~800μmである、請求項1に記載の体積ホログラム素子。
【請求項3】
前記ホログラム領域内において、前記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞のスラント角が前記非ホログラム領域から前記ホログラム領域の外周端に向かって単調に増加し、且つ/または、前記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞の周期が前記非ホログラム領域から前記ホログラム領域の外周端に向かって単調に狭くなっている、請求項1に記載の体積ホログラム素子。
【請求項4】
前記ホログラム領域内において、前記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞のスラント角が前記非ホログラム領域から前記ホログラム領域の外周端に向かって単調に増加し、または、前記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞の周期が前記非ホログラム領域から前記ホログラム領域の外周端に向かって単調に狭くなっている、請求項1に記載の体積ホログラム素子。
【請求項5】
前記ホログラム領域に、前記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞が回折する波長の光を前記第1主面に対して入射した際、前記少なくとも1つの干渉縞により回折され、前記第2主面から出射した回折光が収束する収束点から前記第2主面に下した垂線と、前記収束点および前記ホログラム領域の外周端を結ぶ線分とのなす角度が50°以上である、請求項1に記載の体積ホログラム素子。
【請求項6】
前記複数の干渉縞として、3以上の干渉縞が形成されており、
前記3以上の干渉縞のそれぞれが選択的に回折する波長を有する3以上の光を前記第1主面に対して入射した際、前記ホログラム領域において前記3以上の干渉縞によりそれぞれ回折され、前記第2主面から出射した前記3以上の光が、同じ収束点で収束する、請求項1に記載の体積ホログラム素子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の体積ホログラム素子と、
前記体積ホログラム素子に画像を照射する表示素子と、を備える画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積ホログラム素子および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
仮想現実(Virtual Reality、VR)および拡張現実(Augmented Reality、AR)を使用者に提供する手段として、VRゴーグルおよびARグラス等のヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display、HMD)が実用化されている。
HMD等の光学システムにおいて光の方向の制御に利用可能な光学素子として、入射光を回折して偏向させるレンズとしての機能を有する体積ホログラム素子(体積位相型のホログラム光学素子)が挙げられる。
【0003】
体積ホログラム素子は、例えば、感光性のホログラム材料に対して干渉露光を実施することにより製造できる。より詳しくは、互いにコヒーレントな2つ以上の光束を交差させることによって生じる光の干渉現象を利用して、感光性ホログラム材料からなるホログラム記録部材内において微細な光の強度分布を形成すると、その分布に応じた化学変化および/または物理変化がホログラム材料に誘起される。その結果として、ホログラム記録部材内に、屈折率が高い領域および屈折率が低い領域が交互に配列してなる縞模様の構造(以下、「干渉縞」とも記載する。)が形成され、斯かる干渉縞が回折格子となり、入射光を回折するレンズの機能を有する体積ホログラム素子が得られる。
【0004】
干渉露光を利用する体積ホログラム素子の製造方法およびその製造方法により製造される体積ホログラム素子は、従来より提案されている。
例えば、特許文献1には、基板の回転軸に対して偏心した位置にホログラム光学素子を構成する一単位となるホログラムエレメントを形成する工程と、上記回転軸を中心にして基板を所定角度だけ回転させる工程とを繰り返すことにより、基板上に複数のホログラムエレメントを形成し、各ホログラムエレメントは、基板上に形成されるホログラム感光材料に対して、基板の回転軸上から発散してホログラム感光材料に入射する光束と、ホログラム感光材料に対する照射スポットが基板の回転軸に対して偏心する位置に形成される光束とからなる2光束を露光することによって形成される、体積位相型の透過型ホログラム光学素子の製造方法、並びに、その製造方法によって製造されるホログラム光学素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今、体積ホログラム素子の光学特性の更なる向上が求められている。そこで、特許文献1に記載の技術を参照しながら体積ホログラム素子の光学特性について検討したところ、特許文献1に記載の製造方法では、干渉露光を複数回実施することによりホログラム領域が形成されるため、重複して露光される領域が生じるという問題があった。
【0007】
ここで、
図11に、干渉露光により体積ホログラム素子を製造する従来の露光装置の構成の一例を概念的に示す。
図11に示す露光装置60は、レーザー62を備えた光源64と、レーザー62が出射したレーザー光Mを光束MAおよびMBの2つに分離する偏光ビームスプリッタ68と、分離された2つの光束MAおよびMBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70Aおよび70Bと、を備える。
図示する露光装置60は、いわゆる二光束露光系である。レーザー62から出射したレーザー光Mは、レンズおよびビームエキスパンダ等を組み合わせて平行光として光源64から出射され、偏光ビームスプリッタ68において分離された光束MAおよびMBは、それぞれ、ミラー70Aおよび70Bにより反射される。図示するように、反射された光束MAおよびMBが重なり合う位置に基材72上に形成された感光性のホログラム材料からなるホログラム記録層74を配置するとともに、光路上に配置された図示しない位相差板およびフィルタ等の光学素子によって光束MAと光束MBとが互いにコヒーレントになるように設定することにより、ホログラム記録層74の内部に光束MAと光束MBとの光の干渉による強度分布が生じ、ホログラムとして機能する干渉縞が形成される。
このような露光装置を用いてレンズとして機能する体積ホログラム素子を製造する場合、光軸が異なる2つの光束を用いて干渉露光を逐次実施する必要があるため、複数の露光領域の一部が重複している体積ホログラム素子、或いは、所望の領域の一部が露光されていない体積ホログラム素子が製造される。体積ホログラム素子において重複して露光された領域および/または露光されていない領域が存在すると、それらの領域において、回折効率の低下、光漏れおよび迷光等の光学性能の低下が生じ、結果として、体積ホログラム素子において光の利用効率の低下(光の損失)が生じてしまう。
【0008】
特許文献1には、遮光部材を用いて露光することにより重複して露光される領域を小さくできると記載されている。しかしながら、隣接する露光領域と重複する領域、および、露光されず干渉縞が形成されない領域がいずれも生じないようにするためには、各回の干渉露光において露光領域の位置および露光条件を精密に制御することが必要である。そのため、特許文献1に記載の技術では、実際上、体積ホログラム素子における露光領域の重複および/または露光されない領域の低減には限界があるものと考えられる。
【0009】
本発明の課題は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、異なる波長の光を回折でき、かつ、光損失が少ない体積ホログラム素子を提供することにある。また、本発明の課題は、体積ホログラム素子を備える画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により課題を解決できることを見出した。
【0011】
〔1〕第1主面と、上記第1主面と対向する第2主面とを有し、厚みが10μm以上である、体積ホログラム素子であって、上記体積ホログラム素子は、非ホログラム領域と、面内方向において上記非ホログラム領域を囲むホログラム領域とを有し、上記ホログラム領域の全域に、それぞれが異なる波長の光を選択的に回折する複数の干渉縞が形成されており、上記ホログラム領域内において、上記複数の干渉縞はいずれも不連続部を有さない、体積ホログラム素子。
〔2〕厚みが50~800μmである、〔1〕に記載の体積ホログラム素子。
〔3〕上記ホログラム領域内において、上記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞のスラント角が上記非ホログラム領域から上記ホログラム領域の外周端に向かって単調に増加し、且つ/または、上記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞の周期が上記非ホログラム領域から上記ホログラム領域の外周端に向かって単調に狭くなっている、〔1〕または〔2〕に記載の体積ホログラム素子。
〔4〕上記ホログラム領域内において、上記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞のスラント角が上記非ホログラム領域から上記ホログラム領域の外周端に向かって単調に増加し、または、上記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞の周期が上記非ホログラム領域から上記ホログラム領域の外周端に向かって単調に狭くなっている、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の体積ホログラム素子。
〔5〕上記ホログラム領域に、上記複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞が回折する波長の光を上記第1主面に対して入射した際、上記少なくとも1つの干渉縞により回折され、上記第2主面から出射した回折光が収束する収束点から上記第2主面に下した垂線と、上記収束点および上記ホログラム領域の外周端を結ぶ線分とのなす角度が50°以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の体積ホログラム素子。
〔6〕上記複数の干渉縞として、3以上の干渉縞が形成されており、上記3以上の干渉縞のそれぞれが選択的に回折する波長を有する3以上の光を上記第1主面に対して入射した際、上記ホログラム領域において上記3以上の干渉縞によりそれぞれ回折され、上記第2主面から出射した上記3以上の光が、同じ収束点で収束する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の体積ホログラム素子。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の体積ホログラム素子と、上記体積ホログラム素子に画像を照射する表示素子と、を備える画像表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、異なる波長の光を回折でき、かつ、光損失が少ない体積ホログラム素子を提供できる。また、本発明によれば、体積ホログラム素子を備える画像表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の体積ホログラム素子の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の体積ホログラム素子の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示す体積ホログラム素子の断面の一部を示す拡大断面図である。
【
図4】本発明の体積ホログラム素子が備える光学特性の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明の体積ホログラム素子の製造に用いられる露光装置の一例を示す概略図である。
【
図6】
図5に示す対物レンズの外形を示す概略図である。
【
図7】本発明の体積ホログラム素子の使用態様の一例を示す概略図である。
【
図8】本発明の体積ホログラム素子を製造する態様の他の例を示す概略図である。
【
図9】本発明の体積ホログラム素子の使用態様の一例を示す概略図である。
【
図10】本発明の体積ホログラム素子を含むヘッドマウントディスプレイの実施態様の一例を示す概念図である。
【
図11】体積ホログラム素子の製造に用いられる従来の露光装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の体積ホログラム素子および画像表示装置について、図面に示される実施態様を参照しながら、詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
以下に示す図はいずれも本発明を説明するための概念的な図であって、各部材および部位などの大きさ、厚みおよび位置関係等は、必ずしも現実の物と一致しない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[体積ホログラム素子]
本発明の体積ホログラム素子は、第1主面と、第1主面と対向する第2主面とを有し、厚みが10μm以上である、体積ホログラム素子であって、非ホログラム領域と、面内方向において非ホログラム領域を囲むホログラム領域とを有し、ホログラム領域の全域に、それぞれが異なる波長の光を選択的に回折する複数の干渉縞が形成されており、ホログラム領域内において、複数の干渉縞はいずれも不連続部を有さない、体積ホログラム素子である。
【0016】
図1に、本発明の体積ホログラム素子の構成の一例を概念的に示す。
図1(a)は、本発明の体積ホログラム素子10の構成の一例を示す平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)中のX-X線における断面図である。
図1(b)に示す体積ホログラム素子10の切断面は、厚み方向(Z方向)を含む。
図示するように、体積ホログラム素子10は、第1主面11と、第1主面11と対向する第2主面12とを有する。また、体積ホログラム素子10は、非ホログラム領域13と、面内方向において非ホログラム領域13を囲むホログラム領域14とを有する。
【0017】
本明細書において、体積ホログラム素子10の第1主面11および第2主面12を区別せずに言及する場合、単に「主面」とも記載する。また、主面(第1主面11および第2主面12)に平行な方向を、「面内方向」とも記載する。
図1中、矢印Zで示す方向は、体積ホログラム素子10の厚み方向、換言すると、主面に対する法線方向である。また、矢印A1およびA2で示す方向はいずれも、面内方向のうち、非ホログラム領域13からホログラム領域14の外周端14pに向かう方向、換言すると、体積ホログラム素子10の中心部から外側に向かう方向である。
本明細書において、矢印A1で示す方向、矢印A2で示す方向および矢印Zで示す方向を、それぞれ、「A1方向」、「A2方向」および「Z方向」とも記載する。また、A1方向およびA2方向に代表される、非ホログラム領域からホログラム領域の外周端に向かう方向を「A方向」とも記載する。
【0018】
非ホログラム領域13には、入射光を回折する干渉縞が形成されていない。このため、非ホログラム領域13は、入射光を回折せず透過する透過領域として機能する。
【0019】
ホログラム領域14の全域には、それぞれが異なる波長の光を回折する複数の干渉縞が形成されている。また、本発明の体積ホログラム素子10のホログラム領域14に形成されている複数の干渉縞はいずれも不連続部を有さない。
本明細書において、干渉縞における不連続部とは、ホログラム領域が他の領域と隣接する界面を除くホログラム領域の内部において、干渉縞を構成する縞の断絶している部位を意味する。即ち、干渉縞が不連続部を有さないとは、ホログラム領域内において干渉縞を構成する縞がいずれも途切れずに連続していることを意味する。
【0020】
ホログラム領域の内部において不連続部を有する干渉縞が形成される例としては、ホログラム領域の一部に対して複数回の干渉露光が施される第1の例、干渉縞を形成すべき領域の一部に対して干渉露光が施されない空白領域が形成される第2の例、および、特許文献1に記載されているような、所定の形状の干渉縞領域が隙間なく並ぶように逐次形成することでホログラム領域の全体を製造する第3の例が挙げられる。
上記例のうち、第1の例では、複数回の干渉露光により干渉縞が重複して形成された領域において、回折効率が低下し、光利用効率が低下してしまう。また、第2の例では、干渉縞が形成されていない空白領域では入射光が回折されないため、光漏れが生じてしまう。更に、第3の例においても、個別の干渉露光により形成される2つの干渉縞間の境界部では、微細な干渉縞の重複または空白領域の発生抑制は困難である。また、境界部において接する2つの干渉縞の周期を一致させることは殆ど実現困難であり、干渉縞間での屈折率のずれが生じてしまうことから、回折効率の低下または迷光等の発生は避けられないと考えられる。
【0021】
それに対して、本発明の体積ホログラム素子10では、
図1(a)に示すようにホログラム領域14内における複数の干渉縞のいずれにも不連続部が形成されていない。これは、後述するように、1つの波長を選択的に回折する干渉縞が1回の干渉露光により形成されるためである。これにより、上記の不連続部に起因する回折効率の低下、光漏れおよび迷光等の発生を抑制でき、体積ホログラム素子10における光の損失を抑制できる。
【0022】
次いで、
図2を参照しながら、ホログラム領域14の全域に形成されている複数の干渉縞について説明する。
【0023】
図2は、体積ホログラム素子10の構成の一例を示す斜視図である。
図2においては、体積ホログラム素子10の一部が切り欠かれ、第1主面11と、A1方向およびZ方向を含む断面(A1-Z面)とが示されている。
ホログラム領域14には、第1光を回折する第1干渉縞20と、第2光を回折する第2干渉縞22とが形成されている。
図2中、第1干渉縞20および第2干渉縞22を表す線は、ホログラム領域14における屈折率が極大となる点が連続してなる面と、第1主面11またはA1-Z面との交線を意味する。
図示するように、第1干渉縞20および第2干渉縞22は、ホログラム領域14内において、体積ホログラム素子10の内側から外側に向かうA方向(A1方向およびA2方向)に沿って屈折率が高い領域および屈折率が低い領域が交互に配列してなる周期構造により構成されている。また、体積ホログラム素子10の主面の法線方向からホログラム領域14を観察すると、第1干渉縞20および第2干渉縞22は、複数の同心円状の縞で構成されている。
【0024】
一方、
図2に示す第1干渉縞20および第2干渉縞22においては、互いに隣接する2つの縞の間隔である周期P(後述)、および、A1方向およびZ方向を含む断面における縞の傾斜角であるスラント角θ(後述)がいずれも異なっている。図示する体積ホログラム素子10は、周期Pおよびスラント角θがいずれも異なる第1干渉縞20および第2干渉縞22がホログラム領域14内に存在することにより、それぞれの干渉縞に応じた異なる波長の光を回折する機能を有する。
【0025】
ここで、
図3を参照しながら、ホログラム領域14に形成されている干渉縞の周期Pおよびスラント角について、説明する。
図3は、
図2に示す体積ホログラム素子10のA1-Z面における断面の一部を示す拡大断面図である。
図3では、説明の目的で、ホログラム領域14を構成する干渉縞のうち第1干渉縞20のみが示されている。第1干渉縞20は、A1方向に沿って所定の間隔を空けて周期的に配置された複数の縞21によって構成されており、複数の縞21は、ホログラム領域14において屈折率が極大となる点が連続してなる面とA1-Z面との交線を意味する。
【0026】
ここで、ホログラム領域を構成するそれぞれの干渉縞を構成する複数の縞のうち、隣接する2つの縞の間の距離を「周期P」とも記載する。
図3に示すホログラム領域14では、第1干渉縞20の周期Pは、非ホログラム領域13(
図2参照)からホログラム領域14の外周端14p(
図2参照)に向かうA1方向に沿って配置された複数の縞21のうち、隣接する2つの縞21の最短距離を意味する。
また、
図3に示すように、ホログラム領域のそれぞれの干渉縞を構成する縞(縞21)が、体積ホログラム素子の主面の法線(Z方向)となす角度を、「スラント角θ」とも記載する。隣接する2つの縞の間の最短距離を結ぶ線分を含む断面において体積ホログラム素子を観察した際、干渉縞を構成する縞が主面に垂直であればスラント角θは0°であり、上記縞が主面と平行であればスラント角θは90°である。
【0027】
本発明の体積ホログラム素子では、ホログラム領域に、上記周期Pおよびスラント角θの少なくとも一方が異なる複数の干渉縞が形成されることにより、それぞれの干渉縞に応じた異なる波長の光が回折される。
また、体積ホログラム素子のホログラム領域に形成されたそれぞれの干渉縞は、縞の位置に応じて周期Pおよびスラント角θの少なくとも一方が変化することで、光の進行方向を変える光学素子としての機能を発揮する。
【0028】
ホログラム領域を構成する干渉縞の周期Pおよびスラント角θは、目的とする光学機能に応じて、適宜調整される。
体積ホログラム素子をレンズとして機能させる場合、ホログラム領域に形成される干渉縞のスラント角θは、A方向に沿って単調に増加しているか、または、単調に減少していることが好ましい。また、体積ホログラム素子をレンズとして機能させる場合、ホログラム領域に形成される干渉縞の周期Pは、A方向(非ホログラム領域からホログラム領域の外周端に向かう方向)に沿って単調に狭くなっているか、または、単調に広がっていることが好ましい。
中でも、ホログラム領域において、複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞のスラント角θがA方向に沿って単調に増加し、且つ/または、複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞の周期PがA方向に沿って単調に狭くなっていることがより好ましく、体積ホログラム素子を凸レンズとして機能させる点では、複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞(特に好ましくはすべての干渉縞)において、スラント角θがA方向に沿って単調に増加しているか、または、周期PがA方向に沿って単調に狭くなっていることが更に好ましい。
【0029】
干渉縞の周期Pおよび干渉縞のスラント角θは、本発明の体積ホログラム素子で制御したい光の波長および入射光に対して光を曲げる角度に合わせて適宜設定される。
例えば、後述する可視光の波長範囲では、干渉縞の周期Pは、例えば100~2000nmであり、150~1800nmが好ましい。また、干渉縞のスラント角θは、例えば0~80°であり、3°~75°が好ましい。
また、本発明の体積ホログラム素子を紫外線に作用させる素子として利用する場合、干渉縞の周期Pは50~1600nmとすることができ、赤外線に作用させる素子として利用する場合、干渉縞の周期Pは150~3000nmとすることができる。これらの場合の干渉縞のスラント角θは、可視光の場合のスラント角の範囲と同様とすることができる。
【0030】
体積ホログラム素子のホログラム領域に形成される複数の干渉縞の形状は、共焦点レーザー顕微鏡を用いることにより、図示するような体積ホログラム素子における三次元的な屈折率分布として計測できる。
共焦点レーザー顕微鏡を用いて本発明の体積ホログラム素子のホログラム領域を観察すると、
図2に示すように、異なる波長の光をそれぞれ回折する複数の干渉縞が重なってなる複雑な模様が観察される。
図2では、それぞれの干渉縞が異なる線で概念的に表されているが、実際の測定では複数の干渉縞がほぼ同程度のコントラストで観察される。しかしながら、顕微鏡の視野内であれば、同じ波長の光を回折する干渉縞は、周期Pおよびスラント角θのそれぞれが近似した周期構造として観察される。よって、共焦点レーザー顕微鏡で得られた画像に含まれる周期構造を画像処理によって分離することにより、異なる波長に対応する複数の干渉縞をそれぞれ特定して、各干渉縞の周期Pおよびスラント角θを求めることができる。
共焦点レーザー顕微鏡は、例えば、株式会社東京インスツルメント製「Nanofinder」(商品名)として入手できる。
【0031】
ホログラム領域に形成される各干渉縞の周期Pおよびスラント角θは、ホログラム記録部材に物体光および参照光を照射して干渉縞を形成する際の、各光の波長およびホログラム記録部材に対する角度、並びに、物体光と参照光とのなす角度等により決定される。
【0032】
なお、
図2には、第1干渉縞20および第2干渉縞22のみが形成されているホログラム領域14が示されているが、本発明の体積ホログラム素子が有するホログラム領域は、それぞれが異なる波長の光を回折する干渉縞を2つ有するホログラム領域のみに制限されない。即ち、本発明の体積ホログラム素子が有するホログラム領域の全域には、それぞれが異なる波長の光を選択的に回折する3以上の干渉縞が形成されていてもよい。
また、ホログラム領域に形成される複数の干渉縞は、それぞれが選択的に回折する波長を有する複数(例えば3以上)の参照光が第1主面に対して入射された際、ホログラム領域において複数(例えば3以上)の干渉縞によりそれぞれ回折された後、第2主面から出射した3以上の再生光(回折光)が、同じ収束点で収束することが好ましい。これにより、再生光の色収差が低減され、HMD等の画像表示装置に用いた際、ピントが合った多色画像を表示できる。
【0033】
ホログラム領域に形成される干渉縞が回折する光の波長は特に制限されず、体積ホログラム素子の使用目的に応じて適宜選択される。
干渉縞が回折する可視光としては、例えば、波長600~800nm程度の範囲の赤色光、波長500~600nm程度の範囲の緑色光、および、波長420~500nm程度の範囲の青色光が挙げられる。干渉縞は、上記以外の波長の可視光を選択的に回折してもよく、赤外線および紫外線等の可視光以外の光を選択的に回折してもよい。
【0034】
本発明の体積ホログラム素子が有するホログラム領域に形成される複数の干渉縞の組み合わせとしては、例えば、赤色光、緑色光および青色光からなる群より選択される少なくとも1つの光を選択的に回折する干渉縞の組み合わせが挙げられる。ホログラム領域に3以上の干渉縞が形成される場合、赤色光、緑色光および青色光をそれぞれ選択的に回折する3つの干渉縞が形成されていることが好ましい。
また、ホログラム領域は、赤色光、緑色光および青色光等の可視光から選択される少なくとも1つの光を選択的に回折する干渉縞と、赤外線および紫外線等の可視光以外の光を選択的に回折する干渉縞を有してもよく、可視光以外の光のみを選択的に回折する干渉縞を複数有してもよい。
【0035】
体積ホログラム素子が有する非ホログラム領域およびホログラム領域の形状は特に制限されないが、非ホログラム領域が主面を底面とする円柱形状であり、かつ、ホログラム領域が円柱形状の非ホログラム領域を囲み、主面を底面とする円筒形状であることが好ましい。
また、ホログラム領域に形成されている各干渉縞は、それぞれを構成する縞の配置も含めて、非ホログラム領域を貫通する主面に垂直な軸を中心として回転対称であることが好ましく、任意の整数nに対してn回対称であることがより好ましい。
このように体積ホログラム素子のホログラム領域が回転対称に構成されていることにより、体積ホログラム素子を同軸光学系に容易に適用できる。
【0036】
本発明の体積ホログラム素子の厚みは10μm以上である。これにより、各干渉膜の回折性能がより安定する。この観点から、体積ホログラム素子の厚みは、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。
また、体積ホログラム素子の厚みは、体積ホログラム素子を備える画像表示装置(例えばHMD)の小型化の観点から、3000μm以下が好ましく、1500μm以下がより好ましく、800μm以下が更に好ましい。
【0037】
図4に、本発明の体積ホログラム素子が備える光学特性の一例を概略的に示す。
図4は、
図1(b)と同様、A方向およびZ方向を含む平面における本発明の体積ホログラム素子10の断面図である。
このような体積ホログラム素子10に、ホログラム領域14に形成された干渉縞が選択的に回折する波長の参照光L1を第1主面11に対して入射すると、参照光L1はホログラム領域14の干渉縞により回折され、第2主面12から再生光L2として出射し、収束点Fにおいて収束する。このとき、図示するように、収束点Fから第2主面12に下した垂線Lxと、収束点Fおよびホログラム領域14の外周端14pを結ぶ線分とのなす角度を、角度φとも記載する。
開口数(NA:Numerical Aperture)が大きくなり、焦点距離が短くなることで、例えばHMDに用いた際にHMDの小型化に資することから、ホログラム領域に形成される干渉縞について上記の方法で得られる角度φは大きい方が好ましい。
【0038】
体積ホログラム素子10としては、ホログラム領域14に形成されている複数の干渉縞のうち少なくとも1つの干渉縞(より好ましくはすべての干渉縞)について、上記の方法で測定される角度φが、45°以上であることが好ましく、50°以上であることがより好ましく、57°以上であることが更に好ましい。
角度φの上限は特に制限されないが、90°未満であり、80°以下であってよい。
体積ホログラム素子10のホログラム領域14に形成される干渉縞の角度φは、後述する体積ホログラム素子の製造方法において、ホログラム記録部材に入射する参照光および物体光を調整することにより、制御できる。
【0039】
〔体積ホログラム素子の製造方法〕
本発明の体積ホログラム素子は、感光性ホログラム材料を含むホログラム記録部材に対して、干渉性を有する参照光および物体光を照射して干渉縞を形成することにより、製造できる。
【0040】
ホログラム記録部材としては、例えば、基材と、感光性ホログラム材料を含むホログラム記録層とを備える態様が挙げられる。
感光性ホログラム材料としては、フォトポリマー、銀塩材料、および、重クロム酸ゼラチン等の公知の感光性材料が使用でき、ドライプロセスで容易に製造可能である点で、フォトポリマーが好ましい。
上記ホログラム記録部材は、感光性ホログラム材料を含む記録層形成用組成物を基材の表面に塗布し、必要に応じて塗膜を乾燥してホログラム記録層を形成することにより、製造できる。
【0041】
ホログラム記録部材のより好ましい態様としては、感光性ホログラム材料として、マトリックスポリマー、重合性モノマーおよび光重合開始剤を含むホログラム記録層を有する態様が挙げられる。
上記感光性ホログラム材料を含むホログラム記録層については、特表2017-523475号公報の段落[0022]~[0102]を参照でき、これらの記載は本明細書に組み込まれる。
また、感光性ホログラム材料およびホログラム記録層については、国際公開第2005/078532号、特開2009-080475号公報、特開平8-101627号公報、特開2014-026116号公報、特開2007-017601号公報、および、特開2010-250246号公報に記載されている感光性材料または記録層の記載も参照でき、これらの記載は本明細書に組み込まれる。
【0042】
ホログラム記録部材の基材としては、ホログラム記録層を支持可能な各種のシート状物(フィルム、板状物)が利用可能であり、例えば、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等の材料で構成される基材が挙げられる。
【0043】
図5に、本発明の体積ホログラム素子の製造に用いられる露光装置の構成の一例を示す。
図5には、説明の目的で、露光装置30および体積ホログラム素子の製造に用いられるホログラム記録部材40のそれぞれについて、干渉露光に用いる光束MAおよびMBの光軸を含む切断面のみが示されている。また、
図5において、光束MAの光路を実線で示し、光束MBの光路を破線で示す。
図5に示す露光装置30は、プリズム31と、対物レンズ32とを備える。また、いずれも図示されないが、露光装置30は、レーザーを備える光源、レーザーから出射された単一光を光束MAおよび光束MBに変換して光軸が共通するように配置する光学系、並びに、光束MAおよびMBをプリズム31および対物レンズ32に導く光学系を更に備える。上記光学系は、周知技術を参照して、フィルタ、アパーチャ、位相差板、レンズおよびプリズム等の光学素子を組み合わせて設けることができる。
【0044】
図6に、
図5に示す対物レンズ32の外形を概略的に示す。
図6に示すように、対物レンズ32の形状は、
図5に示す対物レンズ32の断面が軸LAを中心軸として回転してなる回転体であり、軸LAが貫通する中心部にある凹レンズ領域33と、凹レンズ領域33の周囲を取り囲む凸レンズ領域34とで構成されている。
【0045】
再び
図5を参照しながら、露光装置30を用いるホログラム記録部材40の干渉露光方法について詳しく説明する。
露光装置30において、図示しないレーザーから出射した光は、上記光学系によって、それぞれが軸LAを共通の光軸とする平行光である光束MAおよび光束MBに分離される。光軸(軸LA)に垂直な平面において、プリズム31に入射する前の光束MAの形状は円形であり、プリズム31に入射する前の光束MBの形状は光束MAを囲む円環形状である。このような光束MAおよびMBは、例えば、光束変換部材として、アキシコンレンズ、プリズム、および、中心が開口した中心開口凹レンズ等を組み合わせて用いることにより、単一のレーザー光から変換することが可能である。
【0046】
プリズム31に到達した光束MAは、プリズム31による進行方向の変換を受けず、軸LAに沿った平行光のまま直進し、対物レンズ32に入射する。対物レンズ32に入射した光束MAは、対物レンズ32の軸LA付近に形成された凹レンズ領域33によって、光軸を維持しつつ、且つ、やや光路径が拡幅される発散光に変換された後、ホログラム記録部材40に入射する。
一方、光束MBは、プリズム31によって、軸LAに沿った平行光から軸LAに向かう平行光に変換された後、対物レンズ32に入射する。対物レンズ32に入射した光束MBは、対物レンズ32の凸レンズ領域34によって、軸LA上の収束点Fに向かって集光する収束光に変換された後、ホログラム記録部材40に入射する。
図5に示すように、ホログラム記録部材40は、対物レンズ32と光束MBの収束点Fとの間に、ホログラム記録部材40の中心が軸LAに一致し、かつ、主面が軸LAに垂直になるように配置される。この位置でホログラム記録部材40に対して光束MA(参照光)および光束MB(物体光)を照射することにより、所定領域内に不連続部を有さず、特定の波長の光を選択的に回折する干渉縞が、1回の干渉露光によりホログラム記録部材40の内部に形成される。この干渉縞が形成される領域が、本発明の体積ホログラム素子が有するホログラム領域となる。
一方、ホログラム記録部材40の中心部には、光束MAが通過し、光束MBが通過しない領域41が存在する。この領域41には光の干渉による強弱分布が生じないため、光を回折する特性も生じない。この領域41が、本発明の体積ホログラム素子が有する非ホログラム領域となる。
【0047】
なお、
図5は、露光装置30が備える部材のうち、干渉縞の形成に関して重要な部材のみを概念的に示すものである。実際の干渉露光による干渉縞の形成においては、対物レンズの入射側に設けられる上記光学系による光束MAおよび光束MBの波面の調節が必要であるが、周知技術に基づいて、上述の光学素子を用いてこれらの光束の波面を調節することが可能である。
【0048】
本発明の体積ホログラム素子を製造するためには、目的とする体積ホログラム素子のホログラム領域に形成される、異なる波長を選択的に回折する干渉縞の数に応じて、上記の方法に従った干渉露光を繰り返し実施する。ホログラム領域に形成する干渉縞の数と同じ回数の干渉露光を実施することにより、それぞれが異なる波長を選択的に回折する複数の干渉縞がホログラム記録部材に形成される。
2回目以降の干渉露光では、それより前の回(例えば1回目)の干渉露光において照射したレーザーとは波長が異なるレーザーを照射して干渉露光を実施してもよい。或いは、2回目以降の干渉露光において、それより前の回(例えば1回目)の干渉露光と同じ波長のレーザーを照射し、且つ、露光によって生じる光の干渉模様の間隔Pとスラント角θが所望の値になるように、光束MAおよび光束MBの入射角を調整することによって、異なる波長の光を所望の方向へ選択的に回折する干渉縞を形成することができる。光束MAおよび光束MBの入射角の調整は、対物レンズ32の形状を変更することによって行うことができる。すなわち、単一の波長の光により、3つの異なる波長(例えば、λ=450nm(青)、λ=550nm(緑)およびλ=650nm(赤))の可視光にそれぞれ対応する3つの干渉縞の形成を行う場合は、露光装置において、ホログラム記録部材を露光する露光光の波長を同一にして、3つの対物レンズを入れ替えることで実施することができる。
【0049】
上記の干渉露光を実施した後、必要に応じてホログラム記録層の硬化処理(フォトポリマーのベイク処理)を実施することにより、非ホログラム領域と、異なる波長の光を選択的に回折する複数の干渉縞が形成されているホログラム領域とを有する体積ホログラム素子が製造される。
【0050】
図7に、上記の方法に従って製造された本発明の体積ホログラム素子の使用態様の一例を概略的に示す。なお、説明の簡略化を目的として、ホログラム領域に形成された1つの干渉縞の光学特性についてのみ説明する。
上記の干渉縞が形成されたホログラム領域を有する体積ホログラム素子10に、光束MAに相当する光路の参照光L1を入射すると、参照光L1はホログラム領域において選択的に回折され、光束MBに相当する光路の再生光L2として体積ホログラム素子10から出射され、収束点Fにおいて結像する。これにより、
図7に示す体積ホログラム素子10は、凸レンズとしての機能を発現する。
なお、参照光L1のうち非ホログラム領域に入射した光は体積ホログラム素子10を透過し、軸LAに沿って収束点F付近を通過することになる。
【0051】
本発明の体積ホログラム素子を製造するためのホログラム記録材料の干渉露光方法は、
図5に示す態様のみに制限されない。
図8に、
図5に示す露光装置30を用いて本発明の体積ホログラム素子を製造する態様の他の例を示す。
図8に示す露光装置30、プリズム31および対物レンズ32は既に説明したものと同じである。
図5に示す態様では、対物レンズ32と収束点Fとの間にホログラム記録部材40を配置して、そのホログラム記録部材40に対して光束MAおよび光束MBを照射することにより干渉露光する態様を示しているが、
図8に示すように、軸LAにおいて、収束点Fから見て、対物レンズ32とは反対側に形成される光束MAと光束MBとの重なり領域にホログラム記録部材40を配置して、干渉露光を実施することもできる。
【0052】
図9に、
図8に示す態様で干渉露光を実施することにより製造された本発明の体積ホログラム素子の使用態様の一例を概略的に示す。なお、
図7と同様、説明の簡略化を目的として、ホログラム領域に形成された1つの干渉縞の光学特性についてのみ説明する。
上記の方法で製造された体積ホログラム素子は、
図7に示す使用態様とは異なり、参照光L1として、光束MAの進行方向とは逆の方向から光を体積ホログラム素子に入射する。入射した参照光L1は、ホログラム領域14において選択的に回折された後、再生光L2として体積ホログラム素子10から出射され、光束MBの進行方向とは逆の方向から収束点Fに向かって集光し、収束点Fにおいて結像する。これにより、
図9に示す体積ホログラム素子10は、凸レンズとしての機能を発現する。
【0053】
なお、
図7および
図9により使用態様を説明した本発明の体積ホログラム素子は、それぞれに図示されている光路とは反対の光路で入射光を回折するレンズ機能を発揮させることも可能である。
例えば、
図9に示す体積ホログラム素子10は、収束点Fを通過して体積ホログラム素子10に向かって発散する光を参照光として出射し、体積ホログラム素子10のホログラム領域14において回折させることにより、
図9に示す参照光L1とは反対の進行方向に沿って出射する再生光を体積ホログラム素子から出射させることもできる。
【0054】
[体積ホログラム素子の用途]
本発明の体積ホログラム素子の用途としては、例えば、画像表示装置および照明装置が挙げられる。
【0055】
〔画像表示装置〕
画像表示装置としては、例えば、本発明の体積ホログラム素子と、体積ホログラム素子に画像を照射する画像素子とを備える画像表示装置が挙げられる。
【0056】
上記画像表示装置において、本発明の体積ホログラム素子は、例えば、表示素子と使用者との間に配置される。これにより、表示素子から出射され、体積ホログラム素子に照射された画像(画像に対応する光)は、体積ホログラム素子を透過する際に回折されることにより、集光され、空中に結像される。空中で結像した光は、使用者に空中像として観察される。
このような画像表示装置においては、観察画像の観点から、使用者から観察した際、面内方向の大きさが表示素子よりも大きいホログラム領域が表示素子の全体を覆うように、体積ホログラム素子を配置することが好ましい。体積ホログラム素子のホログラム領域が表示素子の一部のみを覆うように配置されていてもよい。
【0057】
表示素子は、空中に投映する画像(静止画または動画)を照射する装置である。
画像表示装置が備える表示素子は特に制限されず、各種の画像表示装置に用いられる公知の表示素子が利用可能である。表示素子としては、例えば、ディスプレイと投映レンズとを有する表示素子が挙げられる。
【0058】
ディスプレイとしては、例えば、液晶ディスプレイ(LCOS:Liquid Crystal On Siliconなどを含む)、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、および、DLP(Digital Light Processing)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーを用いたスキャニング方式ディスプレイが挙げられる。
ディスプレイとしては、体積ホログラム素子のホログラム領域に形成された各干渉縞が回折する波長の光を用いて多色画像を表示するディスプレイが挙げられる。
表示素子が有する投映レンズとしては、各種の画像表示装置に用いられる公知の投映レンズ(コリメートレンズ)が用いられる。
【0059】
(ヘッドマウントディスプレイ)
画像表示装置の好ましい一態様として、ヘッドマウントディスプレイが挙げられる。
本発明のホログラム素子を利用することにより、コンパクトな表示装置を構成しつつ、広い視野角(Field Of View、FOV)と視覚的に十分な解像度とを両立できるヘッドマウントディスプレイを構成することができる。
【0060】
ヘッドマウントディスプレイでは、広いFOVと、画像レンダリングの負荷とを両立するため、中心窩レンダリングという技術が提唱されている。これは、人間の視覚が、視線の中心付近では解像度に敏感でありながら、周辺視野ではぼやけた像しか認知できないことを利用し、周辺視野の解像度を抑えて演算負荷および表示素子の画素数を削減する技術である。こうした技術の一例として、特開2022-187199号公報に記載の技術が提案されている。また、米国特許第11493772号明細書に記載されているように、視線の中心が主に推移する中央部を高解像度ディスプレイとし、周辺視野は低解像度なディスプレイとする技術も提案されている。
【0061】
本発明の体積ホログラム素子を含むヘッドマウントディスプレイの好ましい実施態様の一例を、
図10(a)を用いて説明する。
図10(a)に概念的に示すヘッドマウントディスプレイ110は、本発明の体積ホログラム素子10と、本発明の体積ホログラム素子に画像を照射する表示素子80を含み、使用者側から観察した場合に、体積ホログラム素子10の非ホログラム領域13を通して観察される、表示素子80の表示面における領域81は高解像度領域である。
【0062】
人間の視線の分布は主に眼球正面方向に分布し、その角度分布は正面を0°として、頂角約20°~50°の円錐を描くとされている。この範囲の表示は、ヘッドマウントディスプレイ光学系の中では大きなレンズパワーを必要とせず、表示素子が十分な解像度を有していれば、使用者にとって良好な表示を得ることができる。よって、本発明の体積ホログラム素子10の非ホログラム領域と、表示素子80の高解像度領域(領域81)をこの円錐内に設ければよい。
逆に、周辺視野では、コンパクトな表示装置と、広いFOVを実現するためには、表示素子のサイズを抑えつつ、大きなレンズパワーで表示素子から出射された光を曲げて瞳へ入射させる必要がある。しかし、上述したように周辺視野は使用者にとってはぼやけて認知されるため解像度を必要としない。よって、本発明の体積ホログラム素子10のホログラム領域をこの領域に設けることによって、コンパクトな表示装置でありながら広いFOVを実現することができる。
【0063】
このような表示装置に用いる本発明の体積ホログラム素子においては、例えば
図1に示すような同心円状の形状のホログラム素子とする場合、非ホログラム領域13の直径は0.3~1cmとすることができ、0.5~0.8cmの範囲が好ましい。ホログラム領域14の外径は特に制限されないが、1.5~8cmとすることができ、2~5cmが好ましい。ホログラム領域14の外周端14pが円周状ではなく、楕円形、多角形、または、これらとは異なる形状である場合は、ホログラム領域14を包含する円の最小径が上記の範囲であればよい。
【0064】
ヘッドマウントディスプレイの更に好ましい態様の一例を、
図10(b)に概念的に示す。
図10(b)に示すヘッドマウントディスプレイ111は、
図10(a)に示すヘッドマウントディスプレイ110の構成に加えて、更に光学素子82を含む。光学素子82としては、単レンズであってもよく、いわゆるパンケーキレンズ(反射偏光子、ハーフミラーおよびλ/4板を用いた折り返し光学系、例えば国際公開第2021/145446号明細書に記載)等の折り返し光学系、または、焦点可変素子(例えば特表2022-548455号公報等に記載)であってもよい。また、
図10(b)では体積ホログラム素子10と表示素子80との間に光学素子82を設けているが、体積ホログラム素子10の瞳側(表示素子80とは反対側)に設ける形態であってもよい。
【0065】
ヘッドマウントディスプレイに使用する表示素子としては、LCD、OLED、マイクロLEDアレイおよびライトフィールドディスプレイ等の公知の表示素子を利用することができる。表示素子は平面状であってもよく、光学収差の補正のための曲面形状であってもよい。また、表示素子は、単一の表示素子で構成してもよく、高解像度領域81とそれ以外の領域とを別の表示素子の組合せとして構成してもよい。例えば高解像度領域81をLCDまたはマイクロLEDアレイとし、それ以外をOLEDまたはライトフィールドディスプレイとする構成が例示される。
【0066】
〔照明装置〕
照明装置としては、例えば、本発明の体積ホログラム素子と、光源とを備える照明装置が挙げられる。
光源としては、例えば、LED等の一定の放射角度で光を出射する光源が挙げられる。このような光源を体積ホログラム素子から離間した位置、好ましくはホログラム領域に形成された干渉縞の収束点に配置することにより、光源から出射された光(発散光)を体積ホログラム素子のホログラム領域において回折および集光し、平行光等のより収束された光として照明装置の外部に放射することができる。これにより、光源から出射される光の利用効率が高く、より明るい光を出射する照明装置が得られる。
【符号の説明】
【0067】
10 体積ホログラム素子
11 第1主面
12 第2主面
13 非ホログラム領域
14 ホログラム領域
14p 外周端
20 第1干渉縞
21 縞
22 第2干渉縞
30 露光装置
31 プリズム
32 対物レンズ
33 凹レンズ領域
34 凸レンズ領域
40 ホログラム記録部材
41 領域
60 露光装置
62 レーザー
64 光源
68 偏光ビームスプリッタ
70A,70B ミラー
72 基材
74 ホログラム記録層
80 表示素子
81 領域(高解像度領域)
82 光学素子
100 体積ホログラム素子
101,102 露光領域
103 重複領域
104 空白領域
110,111 ヘッドマウントディスプレイ
F 収束点
L1 参照光
L2 再生光
M レーザー光
MA,MB 光束