(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108462
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】錬かん炉の熔体保持領域の水平断面積の測定方法
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
C22B15/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012846
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】本村 優貴
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA03
4K001BA10
4K001DA03
4K001GA04
4K001GA06
4K001GA18
4K001GA19
4K001GB01
4K001GB02
4K001GB11
(57)【要約】
【課題】 炉壁や炉底に付着した凝固物によって保持容積が減少した錬かん炉内の熔体保持領域における湯面下の水平断面積を簡便に測定する方法を提供する。
【解決手段】 錬かん炉のスラグ層の下層側にマット層を形成するマット層形成工程と、該形成したマット層に対してその少なくとも一部の熔融マットを抜き出すか又は熔融マットを添加することで、該スラグ層と該マット層との間の界面位置を移動させる界面位置移動工程と、該界面位置移動工程の前後においてそれぞれ該界面位置を測定する移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程と、該界面位置移動工程で抜き出し又は添加した熔融マットの量を、該移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程でそれぞれ測定した該界面位置から求めた界面移動距離で除算する算出工程とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
錬かん炉内の熔体保持領域の水平断面積を測定する方法であって、
前記錬かん炉のスラグ層の下層側にマット層を形成するマット層形成工程と、前記形成したマット層に対してその少なくとも一部の熔融マットを抜き出すか又は熔融マットを添加することで、前記スラグ層と前記マット層との間の界面位置を移動させる界面位置移動工程と、前記界面位置移動工程の前後においてそれぞれ前記界面位置を測定する移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程と、前記界面位置移動工程で抜き出し又は添加した熔融マットの量を、前記移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程でそれぞれ測定した前記界面位置から求めた界面移動距離で除算する算出工程とを有することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記マット層形成工程が、自熔炉内の熔融マットの前記錬かん炉への供給であることを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記界面位置移動工程が、前記マット層形成工程で形成した前記マット層の厚み範囲内に位置する錬かん炉の側壁の排出口から前記熔融マットを抜き出すことにより前記界面位置を降下させることを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
前記界面位置移動工程で抜き出した前記少なくとも一部の熔融マットを自熔炉又は転炉に供給する回収工程を更に有することを特徴とする、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記界面位置移動工程が、前記錬かん炉に他の炉から熔融マットを添加することにより前記界面位置を上昇させることを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項6】
前記移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程が、前記スラグ層の湯面の上から前記界面まで界面測定具を挿し込むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錬かん炉の熔体保持領域における湯面下の水平断面積を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式銅製錬では、鉱山から採掘した主として黄銅鉱からなる鉱石原料に対して粉砕・分級や浮遊選鉱を行なって銅品位20~30%程度の銅精鉱を生産した後、自熔炉で該銅精鉱を熔融及び酸化することで、主としてFeからなる不純物をスラグとして分離除去して銅品位60~65%程度のマットを生成している。このマットは転炉で更に酸化してFe及びSを除去し、更に精製炉において酸素等の不純物を除去することで、銅品位99%程度の高品位の精製粗銅とした後、アノードに鋳造して電解精製することにより電気銅が製造される。
【0003】
上記の自熔炉で除去されるスラグは、分離しきれなかった微量のマットを含んでいるので、水砕設備で処理する前に錬かん炉に移送して銅の回収を行っている。この錬かん炉は耐火物で内張りされた好適には円筒状の炉体からなり、樋を介して装入された熔融状態のスラグの温度保持のため、該炉体中央部には上方から熱源となる電極棒やバーナーが垂直に挿し込まれている。
【0004】
上記構造の錬かん炉は、炉壁や炉底からの放熱により炉内周辺部で温度が低くなりやすく、熔融スラグが凝固して生じる凝固物が炉壁部や炉底部に付着している。この凝固物は付着量が少なければ炉壁や炉底を保護する効果が期待できるが、付着量が過度になると装入可能な熔融スラグの保持容積が実質的に小さくなり、炉内に装入した熔融スラグの滞留時間が短くなってしまう。このように熔融スラグの滞留時間が短くなると、該熔融スラグ中に混在する熔融マットを沈降させて該熔融スラグから分離させることが困難になる。
【0005】
そこで特許文献1には、錬かん炉内に自熔炉で生成したマットを流し込むことによって、該錬かん炉の炉底に形成されたFe3O4を主成分とする炉底堆積物を該マットの熱及びマットによる還元反応で熔解する技術が開示されている。この特許文献1の技術を用いることで、炉底堆積物をある程度熔解できると思われるが、この熔解により炉内の保持容量がどの程度大きくなったのか確認する方法としては、特許文献1には錬かん炉からレードルに抜き出されるマットの量によって判断すると記載されており、正確に確認するのが困難であった。熔解後の炉底堆積物の状態を炉の上部から目視により確認することが考えられるが、炉内は常時熔融スラグ等の不透明な熔体が貯留してあるため、湯面下の状況を把握するのが難しく、よって炉壁部や炉底部にどの程度の凝固物が付着しているのかを目視にて確認することは難しかった。
【0006】
上記の凝固物の付着状態を直接確認するには、錬かん炉とは別に熔融スラグを受け入れ可能な容器や槽を用意するか建設することで、該錬かん炉から一時的に熔融スラグ等の熔体を全量移し替えて炉壁部や炉底部を露出させて確認する方法が考えられる。しかしながら、この確認方法では、高温の熔体が錬かん炉から全量抜き取られるので、錬かん炉の耐火材が急冷により損傷するおそれがある。また、錬かん炉の操業再開時に新たに装入した熔融スラグが冷えた炉体によって凝固し、結果的に目視により確認した凝固物よりも多くの凝固物が堆積することになるので、目視により確認する意味がなくなってしまう。
【0007】
特許文献2には高炉を対象とするものであるが、羽口から炉内に追跡子となる物質を微量添加し、該添加直後から炉外に排出される内容物の流量及びその追跡子濃度を採取した試料から測定することによって、該炉内における熔体の滞留時間や保持容積に代表される熔体の貯留状況を推定する技術が開示されている。しかしながら、この特許文献2に記載されている追跡子を利用する技術を、熔体を長時間保持することを目的とする錬かん炉に適用する場合は、長時間に亘って試料の採取を行なう必要があるため、多大な工数を割く必要がある。また、炉から排出される熔体から試料を採取する作業は火傷や熱中症のリスクが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-241423号公報
【特許文献2】特開昭55-104405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、炉壁や炉底に付着した凝固物によって保持容積が減少した錬かん炉内における熔体の湯面下である熔体保持領域の水平断面積を簡便に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記したように錬かん炉から熔体を全量抜き出すことによる該錬かん炉の急冷などの問題を防ぐには、熔体を全量抜き出すのではなく抜出量を制限して錬かん炉の炉底が露出しないように留意すればよいと考えた。これは、錬かん炉の側壁下部に、後で塞ぐことができるような構造の排出口や排出管を炉底より上側の位置に穿孔したり挿し込んだりすればよく、これにより排出口の位置や排出管の排出側先端部の位置よりも湯面が下回ることはないので、炉底が露出するのを避けることができる。
【0011】
上記のようにして設けた排出口又は排出管からある程度の量の熔体を抜き出すと、上記の急冷などの問題を生じさせることなく錬かん炉内の熔体の湯面を下げることができるので、湯面が低下した距離が分かればこの距離で熔体の抜出量を除算することで、錬かん炉内の熔体保持領域の水平面積を間接的に求めることができることを見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る測定方法は、錬かん炉内の熔体保持領域の水平断面積を測定する方法であって、前記錬かん炉のスラグ層の下層側にマット層を形成するマット層形成工程と、前記形成したマット層に対してその少なくとも一部の熔融マットを抜き出すか又は熔融マットを添加することで、前記スラグ層と前記マット層との間の界面位置を移動させる界面位置移動工程と、前記界面位置移動工程の前後においてそれぞれ前記界面位置を測定する移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程と、前記界面位置移動工程で抜き出し又は添加した熔融マットの量を、前記移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程でそれぞれ測定した前記界面位置から求めた界面移動距離で除算する算出工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、錬かん炉内の熔体保持領域の水平断面積を簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の測定方法が好適に適用される錬かん炉を備えた製錬設備のフロー図である。
【
図2】本発明の実施形態の測定方法のブロックフロー図である。
【
図3】本発明の実施形態の測定方法を錬かん炉に対して行っているときの工程順の縦断面図である。
【
図4】本発明の実施形態の測定方法において好適に使用される界面測定具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、乾式銅精錬の自熔炉1では、リアクションシャフト11の頂部に設けた精鉱バーナー12からフラックスと共に装入した銅精鉱を酸化処理することで、主として硫化銅からなる熔融マットと、主として酸化鉄及びシリカからなる熔融スラグとが生成される。前者の熔融マットは熔融スラグより比重が大きいので、セトラー13内において熔融マットを沈降分離させることで、マット層をスラグ層の下層として層分離させることが可能になる。このマット層を構成する熔融マットは、セトラー13の壁部に設けたマット排出口から排出された後、レードル2を介して転炉3に装入され、ここで更に処理される。
【0016】
ところで、熔融スラグには微細な液滴状の熔融マットが含まれており、これは自熔炉1のセトラー13内では容易に沈降分離されずに懸垂(浮遊)状態にある。そのため、この熔融マットの懸垂による銅ロスを減らすため、熔融スラグはセトラー13の壁部に設けたスラグ排出口から排出されて隣接する錬かん炉4にスラグ用樋14を介して移送され、ここで熔融スラグを熔融状態のまま保持することで、該熔融スラグ中に懸垂している微量の熔融マットを時間をかけて沈降分離している。沈降分離された熔融マットは、錬かん炉内においてスラグ層の下層側において徐々にマット層を形成していく。そして、このマット層の厚みがある程度厚くなった時点で、これらスラグ層とマット層との間の界面よりも下側に設けたマット排出口41から熔融マットを抜き出して回収している。
【0017】
なお、錬かん炉4内のスラグ層を構成する熔融スラグは、上記界面よりも上側に設けたスラグ排出口42から抜き出された後、図示しない水砕設備において水流により砂状に破砕することにより、建設資材などに利用される水砕スラグになる。これら熔融スラグや熔融マットは不透明な熔体であるため、上記の界面は湯面の上から目視により直接観察することはできないが、後述する界面測定具を用いることにより、その位置を知ることができる。
【0018】
上記のように、錬かん炉4では長期間かけて熔融スラグ中に懸垂する熔融マットを沈降分離させるため、安定的にこの沈降分離を行なうために錬かん炉4内の熔体の湯面よりも下の熔体保持領域の状態を把握しておくことが望まれる。しかしながら、前述したように錬かん炉4内では操業を続けていくうちに凝固物が炉壁や炉底に堆積して該熔体保持領域の容量が徐々に減少することがあるうえ、錬かん炉4に受け入れる熔体は不透明であるので、該凝固物の湯面下の状態を目視で確認することができない。
【0019】
そこで、本発明の第1の実施形態においては、
図2に示すように、錬かん炉内のスラグ層の下層側にマット層を形成するマット層形成工程と、上記の形成したマット層に対してその少なくとも一部の熔融マットを抜き出すことにより上記スラグ層と上記マット層との間の界面位置を下方に移動させる界面位置移動工程と、上記界面位置移動工程の前後にそれぞれ上記界面位置を測定する移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程と、上記界面位置移動工程で抜き出した熔融マットの量Vを上記移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程でそれぞれ測定した該界面位置から求めた界面移動距離Δhで除算する算出工程とを行なっている。これにより、下記式1に示すように、錬かん炉内の熔体保持領域の水平断面積Sを求めることができる。
[式1]
S=V/Δh
【0020】
各工程について具体的に説明すると、先ずマット層形成工程においては、錬かん炉において、自熔炉1から装入されるFeO、SiO2などの熔融混合物を含んだ熔融スラグを静置させる。これにより、該熔融スラグ内に懸垂状態で含まれる主として硫化銅からなる液滴状の熔融マットを沈降分離させてスラグ層の下層としてある程度の厚みを有するマット層を形成することができる。
【0021】
このマット形成工程では、
図3(a)に示すように、スラグ層とマット層との間の界面位置が、後工程の界面位置移動工程において錬かん炉4から熔融マットを抜き出す際に利用するマット排出口41よりも十分に上に位置するように、且つ該界面位置移動工程において界面位置を顕著に移動させることができるように十分な厚みを有するマット層を形成する。これにより、該界面位置移動工程において熔融マットの抜き出しにより界面位置が低下しても、この抜き出した熔融マットに熔融スラグが混入するのを防ぐことができる。なお、上記の熔融スラグ中に懸垂している熔融マットを沈降分離させるだけでは上記の十分な厚みを有するマット層を形成するのに時間がかかりすぎる場合は、自熔炉1からマット用樋15を介して錬かん炉4へ熔融マットを供給してもよい。
【0022】
次に、移動前界面測定工程において、錬かん炉4内の上記のスラグ層とマット層との間の界面位置の高さL
1を測定する。この測定方法には特に限定はないが、
図3(b)に示すように湯面の上からスラグ層とマット層との間の界面に達するまで界面測定具Mを挿し込むことで、該界面より上側及び下側の熔体を採取又は付着させることが好ましい。これにより、採取した成分を高さ毎に分析したり、付着物の付着状態や物性等から目視によりスラグとマットの境界位置を確認したりすることで、界面位置を測定することができる。なお、前工程のマット層形成工程において錬かん炉内において上層をなしているスラグ層の下層側にほぼ均一で且つ十分な厚みのマット層を形成するので、それらの界面は炉内において水平面上の全面に亘るように広がっており、よって該水平面上の任意の1ヶ所で測定すれば界面位置を特定することができる。
【0023】
上記の熔体を付着させる方式では、例えば
図4(a)のような金属棒状の界面測定具を用いることができる。この場合は、付着したスラグとマットとでは光学特性差や温度差により顕著に見た目が異なるので、界面位置を定めることができる。一方、熔体を採取する方式では、例えば
図4(b)に示す形状の界面測定具を用いることができる。この測定具は、金属棒に一定の間隔をあけて複数の金属製の升型容器を取り付けたものであり、熔体に接してからある程度の時間経過後に消失するような例えば段ボールからなる蓋材で各升型容器に蓋をしてガムテープで容易に外れないように固定する。この状態で測定具を熔体に浸漬して蓋材が焼失したタイミングで引き上げることで、各升型容器においてその蓋材の消失時に容器の周辺の存在する熔体をサンプリングすることが可能になる。このようにしてサンプリングした各升型容器ごとの内容物を分析することで、界面位置を定めることができる。
【0024】
次に、界面位置移動工程において、上記マット層形成工程で形成したマット層を構成する熔融マットを錬かん炉の側壁に設けた上記マット排出口41から抜き出す。この熔融マットの抜き出しでは、
図3(c)に示すように、界面の位置がマット排出口41の位置を下回らないように留意する。これにより、スラグ層とマット層との間の界面が大きく乱されるのを防ぐことができるうえ、抜き出される熔融マットに熔融スラグが混入するのを防ぐことができる。なお、このマット排出口41は熔融マットの抜き出しを行なわないときは塞いでおくことになる。
【0025】
この界面位置移動工程で錬かん炉4から抜き出される熔融マットの抜出量は後工程の算出工程で用いるので、質量又は体積を測定することが必要になる。この測定方法には特に限定はないが、例えば抜き出した熔融マットをロードセルを備えたレードルに受け入れることで質量を測定してもよいし、レードルに受け入れたときの液位や受け入れ回数に基づいて体積を求めてもよい。
【0026】
このようにしてレードルに受け入れた熔融マットは、自熔炉に装入してもよいし、転炉に装入してもよい。このように自熔炉又は転炉に装入する場合は、ホイストクレーンを用いて該レードルを搬送してもよいし、該レードルから樋に流し込むことで移送してもよい。このように、本発明の第1の実施形態の測定方法では、界面位置移動工程で熔融マットが大量に抜き出されるものの、この熔融マットは直ぐに自熔炉や転炉に供給して処理できるので、保管場所を別途確保する必要はない。また、錬かん炉からの熔融マットの抜き出し作業は、日常的に実施している業務とほぼ同じ作業であるため、この界面位置移動工程のために作業員に大きな負担をかけるものでもない。
【0027】
なお、界面位置移動工程では熔融マットを全量抜き出さずに錬かん炉内に一部を残したままにしてもよい。錬かん炉内に残した熔融マットは、次回の錬かん炉内の熔体保持領域の水平断面積の測定を行なう際に、マット層形成工程で形成するマット層として利用することができる。錬かん炉4において熔融マットが除去された熔融スラグは、スラグ排出口42から排出される。その際、熔融マットが混入することのないように、スラグ層とマット層との間の界面の位置が、このスラグ排出口42の位置を上回らないように留意する。
【0028】
次に移動後界面測定工程において、
図3(d)に示すように、熔融マットが抜き出されることで低下したスラグ層とマット層との間の界面位置を測定する。この測定方法は、前述した移動前界面測定工程と同様の界面測定具Mを用いる方法で測定するのが好ましい。このようにして移動後界面測定工程で求めた界面位置の高さL
2を上記の移動前界面測定工程で求めた界面位置の高さL
1から減算することで、下記式2に示すように前述した式1の界面移動距離Δhを求めることができる。
[式2]
Δh=L
1-L
2
【0029】
上記した本発明の第1の実施形態の測定方法で求めることができる錬かん炉内の熔体保持領域の水平断面積は、スラグ層とマット層との間の界面位置における水平断面積である。従って、錬かん炉内の熔体保持領域のうち水平断面積を知りたい高さが現状のスラグ層とマット層との間の界面高さと異なる場合は、錬かん炉内に形成されているマット層の厚みを増加又は減少させて、当該知りたい高さ付近にスラグ層とマット層との間の界面高さを上昇又は下降させればよい。
【0030】
上記の本発明の第1の実施形態では、界面位置移動工程において、マット層に対して少なくとも一部の熔融マットを抜き出すものであったが、これに代えて熔融マットを添加してもよい。すなわち、本発明の第2の実施形態の測定方法は、錬かん炉内のスラグ層の下層側にマット層を形成するマット層形成工程と、上記形成したマット層に対して熔融マットを添加することにより上記スラグ層と上記マット層との間の界面位置を上方に移動させる界面位置移動工程と、上記の界面位置移動工程の前後にそれぞれ上記界面位置を測定する移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程と、上記の界面位置移動工程で添加した熔融マットの量Vを上記移動前界面測定工程及び移動後界面測定工程でそれぞれ測定した界面位置から求めた界面移動距離Δhで除算する算出工程とを有している。
【0031】
これにより、前述した式1により、錬かん炉内の熔体保持領域における湯面下の水平断面積Sを求めることができる。但し、この本発明の第2の実施形態では、移動前界面測定工程で求めた界面位置の高さL1を移動後界面測定工程で求めた界面位置の高さL2から減算することで下記式3に示すように界面移動距離Δhを求めることになる。
[式3]
Δh=L2-L1
【0032】
この第2の実施形態の測定方法では、界面位置移動工程において熔融マットを添加するので、該添加した熔融マットの添加量に応じて界面位置が上昇する際に界面が大きく乱れることのないように、錬かん炉内のマット層内に熔融マットを添加するのが好ましい。また、添加する熔融マットの添加量は第1の実施形態と同様に質量や体積などを測定しておく必要がある。このように、本発明の第2の実施形態の測定方法は、マット層内に直接熔融マットを添加するので、マット層形成工程で十分な厚みのマット層が形成されていなくてもよい。なお、添加する熔融マットの成分や温度が錬かん炉内の熔融マットと同程度であれば、体積変化等による界面の乱れなどの問題は特に生じない。
【実施例0033】
銅製錬プラントの錬かん炉に対して、マット層形成工程、移動前界面測定工程、熔融スラグ抜き出しによる界面位置移動工程、移動後界面測定工程、及び算出工程をこの順に行なうことで、熔体保持領域の水平断面積を測定した。具体的には、先ず自熔炉から錬かん炉に熔融マットを10立方メートル移送してマット層を形成した。なお、この量の算出は、錬かん炉内の湯面上方の空間の寸法を目視および距離計(レーザー式ほか)により測定することによりマット層形成工程の前の体積を求め、同様にマット層形成工程の後の体積を求め、両者の差として計算した。次に錬かん炉の天井から鉄棒を熔体に挿し込んだ後に引き抜き、該鉄棒に付着したスラグとマットの境界位置を測定した。次に錬かん炉の側壁におけるマット層の厚み範囲内に設けたマット排出口から熔融マットを5立方メートル抜き出した。なお、この量は熔融マットを受け入れたレードルの液位から求めた。その後、錬かん炉の天井から再度鉄棒を熔体に挿し込んだ後に引き抜き、該鉄棒に付着したスラグとマットの境界位置を測定した。
【0034】
その結果、上記の熔融マットを抜き出す前に測定した場合に比べて0.1mだけ境界位置が低くなっていた。すなわち、熔融スラグを抜き出すことで錬かん炉内のスラグ層とマット層との間の界面位置は0.1mだけ低下したことになるので、0.1mで5m3を除算することにより(5m3/0.1m)、錬かん炉の上記界面位置における水平断面積50m2を求めることができた。