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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108492
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】堆積判定方法及び基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/52 20060101AFI20240805BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20240805BHJP
   H04N 23/40 20230101ALI20240805BHJP
   H04N 23/60 20230101ALI20240805BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20240805BHJP
【FI】
C23C16/52
C23C16/50
H04N23/40 300
H04N23/60 500
G03B15/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012891
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】渡井 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4K030
5C122
【Fターム(参考)】
4K030CA06
4K030CA17
4K030EA04
4K030FA01
4K030FA04
4K030GA02
4K030JA07
4K030JA11
4K030JA13
4K030JA20
4K030KA26
4K030KA39
4K030KA41
5C122DA03
5C122DA30
5C122EA12
5C122FH11
5C122HA88
5C122HB01
5C122HB06
5C122HB10
(57)【要約】
【課題】堆積物の堆積を正確に判定する。
【解決手段】処理容器の評価対象における堆積物の堆積状態の情報を含む、処理容器の内部の動画を構成する各フレームの画像から取得されたエッジ画像の全画素の輝度値の平均であるエッジ情報を取得し、評価対象に堆積物が堆積していない状態で、着火時からの待機時間を除いた、プラズマが発光している基準期間の基準動画を構成する複数のフレームの画像の各々から基準エッジ情報を取得し、複数の基準エッジ情報の平均値と分散から取得されるエッジ情報に関連する指標の確率分布から当該指標の閾値を求め、基準期間以外でプラズマが発光しているときに取得された動画の1つのフレームの画像から取得された試験エッジ情報をエッジ情報に関連する指標に換算して試験指標を取得し、試験指標が指標の閾値を越えたときに、評価対象に予め定められた堆積物が堆積したと判定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器の内部にプラズマを生成する工程と、
前記処理容器の内部の動画を撮影する工程と、
前記動画を構成する複数のフレームの画像の各々からエッジを抽出して、前記エッジを描画するエッジ画像を取得し、前記エッジ画像の全画素の輝度値の平均であるエッジ情報を取得する工程と、を有し、
前記動画は、前記処理容器に備えられた評価対象における堆積物の堆積状態に関する情報を含み、
前記評価対象に堆積物が堆積していない状態で、前記プラズマの着火時からの予め定められた待機時間を除いた、前記プラズマが発光している基準期間の前記動画を基準動画として取得する工程と、
前記基準動画を構成する複数のフレームの画像の各々から前記エッジ情報を基準エッジ情報として取得する工程と、
複数の前記基準エッジ情報の平均値と分散を算出し、前記平均値と前記分散から前記エッジ情報に関連する指標の確率分布を取得する工程と、
前記確率分布から前記指標の閾値を求める工程と、
前記基準期間以外で前記プラズマが発光しているときに取得された前記動画の少なくとも1つのフレームの画像の前記エッジ情報を試験エッジ情報として取得する工程と、
前記試験エッジ情報を前記エッジ情報に関連する指標に換算して試験指標を取得する工程と、
前記試験指標が前記指標の閾値を越えたときに、前記評価対象に予め定められた量の堆積物が堆積したと判定する工程とを、さらに有する堆積判定方法。
【請求項2】
前記評価対象は前記処理容器の内部を監視するために設けられた監視窓である、請求項1に記載の堆積判定方法。
【請求項3】
前記評価対象は前記処理容器の内部の構造部材である、請求項1に記載の堆積判定方法。
【請求項4】
前記エッジ情報に関連する指標の確率分布は、複数の前記基準エッジ情報の平均値と分散から求められるカイ二乗分布である、請求項1に記載の堆積判定方法。
【請求項5】
異常と考えられる出現確率を設定し、前記カイ二乗分布において前記設定された出現確率に対応する前記エッジ情報に関連する指標を前記指標の閾値とする、請求項4に記載の堆積判定方法。
【請求項6】
前記試験指標は、複数の前記基準エッジ情報の平均値と分散を用いて求められる前記試験エッジ情報のマハラノビスの距離である、請求項1に記載の堆積判定方法。
【請求項7】
前記評価対象から堆積物が除去される度、若しくは、前記評価対象が交換される度、複数の前記基準エッジ情報と前記エッジ情報に関連する指標の確率分布を取得し直す、請求項1に記載の堆積判定方法。
【請求項8】
処理容器の内部でプラズマによって基板へ処理を施す基板処理装置であって、
前記処理容器の内部の動画を撮影する撮影部と、
制御部とを、備え、
前記動画は、前記処理容器に備えられた評価対象における堆積物の堆積状態に関する情報を含み、
前記制御部は、前記動画を構成する複数のフレームの画像の各々からエッジを抽出して、前記エッジを描画するエッジ画像を取得し、前記エッジ画像の全画素の輝度値の平均であるエッジ情報を取得する工程を実行し、
さらに、前記制御部は、
前記評価対象に堆積物が堆積していない状態で、前記プラズマの着火時からの予め定められた待機時間を除いた、前記プラズマが発光している基準期間の前記動画を基準動画として取得する工程と、
前記基準動画を構成する複数のフレームの画像の各々から前記エッジ情報を基準エッジ情報として取得する工程と、
複数の前記基準エッジ情報の平均値と分散を算出し、前記平均値と前記分散から前記エッジ情報に関連する指標の確率分布を取得する工程と、
前記確率分布から前記指標の閾値を求める工程と、
前記基準期間以外で前記プラズマが発光しているときに取得された前記動画の少なくとも1つのフレームの画像の前記エッジ情報を試験エッジ情報として取得する工程と、
前記試験エッジ情報を前記エッジ情報に関連する指標に換算して試験指標を取得する工程と、
前記試験指標が前記指標の閾値を越えたときに、前記評価対象に予め定められた量の堆積物が堆積したと判定する工程とを、実行する基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、堆積判定方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板にプラズマ処理を施す基板処理装置では、処理容器の外部に設けられたカメラによって処理容器の内部が監視窓を介して監視される。ところで、プラズマ処理を繰り返すと、反応生成物等の堆積物が処理容器の内部の構造部材の表面に堆積するが、監視窓の内側表面にも堆積物が堆積することがある。この場合、監視窓が曇ってカメラによる処理容器の内部の監視が困難になるため、異常状態であるとして監視窓の清掃や交換が必要となる。そして、異常状態か否かの判定は、カメラが撮影した画像に基づいて行われる。
【0003】
例えば、特許文献1の技術では、チャンバに設けられた検出窓が汚れていない状態で集光したプラズマ光の特定波長毎の発光強度のピーク値を記憶し、その最大値の何割か(例えば、8割)を閾値として設定する。その後、次回のエッチング時より毎回、特定波長毎に発光強度の検出レベルの最大値を観測し、観測された値(モニタ値)と記憶されている閾値を比較し、モニタ値が閾値を下回ったら検出窓のメンテナンスの必要性を通知する。
【0004】
また、特許文献2の技術では、撮影した画像からエッジパターンを検出し、エッジパターンを比較することで異常を検出する。具体的には、画像の予め設定された領域に対してエッジ検出処理を行って入力画像中のエッジ情報を抽出し、記憶された標準画像(異常のない場合の画像)から抽出したエッジパターンと抽出したエッジ情報を比較する。抽出したエッジパターンと抽出したエッジ情報の差異が許容範囲を超えている場合には異常有りと判定する。
【0005】
さらに、特許文献3の技術では、撮影した画像から輝度を得て、輝度の平均値や標準偏差を利用して堆積物を検出する。具体的には、撮影画像の各画素から検出されるエッジに基づき、カメラに堆積した堆積物に対応する堆積物領域の候補領域を抽出し、候補領域の帯領域を、所定画素数を単位とする単位領域に分割する。次いで、単位領域の輝度の平均値および輝度の標準偏差を算出し、算出した輝度の標準偏差が所定値未満であるか否かを判定する。ここで、輝度の標準偏差が所定値以上である場合、単位領域の代表値として異常値を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-045113号公報
【特許文献2】特開平11-220721号公報
【特許文献3】特開2021-052235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示に係る技術は、堆積物の堆積を正確に判定する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る技術の一態様は、堆積判定方法であって、処理容器の内部にプラズマを生成する工程と、前記処理容器の内部の動画を撮影する工程と、前記動画を構成する複数のフレームの画像の各々からエッジを抽出して、前記エッジを描画するエッジ画像を取得し、前記エッジ画像の全画素の輝度値の平均であるエッジ情報を取得する工程と、を有し、前記動画は、前記処理容器に備えられた評価対象における堆積物の堆積状態に関する情報を含み、前記評価対象に堆積物が堆積していない状態で、前記プラズマの着火時からの予め定められた待機時間を除いた、前記プラズマが発光している基準期間の前記動画を基準動画として取得する工程と、前記基準動画を構成する複数のフレームの画像の各々から前記エッジ情報を基準エッジ情報として取得する工程と、複数の前記基準エッジ情報の平均値と分散を算出し、前記平均値と前記分散から前記エッジ情報に関連する指標(異常度)の確率分布(カイ二乗分布)を取得する工程と、前記確率分布から前記指標の閾値を求める工程と、前記基準期間以外で前記プラズマが発光しているときに取得された前記動画の少なくとも1つのフレームの画像の前記エッジ情報を試験エッジ情報として取得する工程と、前記試験エッジ情報を前記エッジ情報に関連する指標に換算して試験指標を取得する工程と、前記試験指標が前記指標の閾値を越えたときに、前記評価対象に予め定められた量の堆積物が堆積したと判定する工程とを、さらに有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る技術によれば、堆積物の堆積を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施の形態に係る堆積判定方法が適用される成膜装置の構成を概略的に示す断面図である。
図2】監視窓が曇っていない場合に撮影された処理容器の内部の画像を説明するための図である。
図3】監視窓が曇っている場合に撮影された処理容器の内部の画像を説明するための図である。
図4】エッジ情報を説明するための図である。
図5】複数の基準エッジ情報の標準正規分布から得られる自由度1のカイ二乗分布を示す図である。
図6】一実施の形態に係る堆積判定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ところで、特許文献1の技術では、発光強度の閾値が異常判定に用いられ、特許文献2の技術では、エッジパターンとエッジ情報の差異の許容範囲が異常判定に用いられ、特許文献3の技術では、輝度の標準偏差の所定値が異常判定に用いられる。
【0012】
しかしながら、これらの閾値、許容範囲や所定値等の判定基準値は、ユーザの経験等に基づいて設定されるものであり、判定基準値の出現確率を考慮していない。したがって、これらの判定基準値は、確率的に妥当でないことがある。例えば、閾値に相当する発光強度の出現確率が高すぎる場合、必要以上にメンテナンスの必要性が通知される。また、例えば、所定値に相当する輝度の標準偏差の出現確率が低すぎる場合、本来であれば異常状態に相当する状態であっても、異常状態と判定されないことがある。すなわち、監視窓への堆積物の堆積を正確に判定できないおそれがある。
【0013】
これに対して、本開示に係る技術は、観測対象であるエッジ情報に基づく確率分布から異常判定のための閾値を取得し、確率的に妥当な異常判定を行い、堆積物の堆積を正確に判定する。
【0014】
以下、図面を参照して本開示に係る技術の一実施の形態を説明する。図1は、一実施の形態に係る堆積判定方法が適用される成膜装置の構成を概略的に示す断面図である。
【0015】
図1の成膜装置10は、誘導結合型のプラズマ処理装置(基板処理装置)である。成膜装置10は、処理ガスから生成したプラズマを用いて、矩形の基板、例えば、FPD(Flat Panel Display)用のガラス基板G(以下、「基板G」という)に保護膜などを形成する成膜処理を施す。
【0016】
成膜装置10は、導電性材料からなる角筒形状の処理容器11を備え、処理容器11は基板Gを収容する。処理容器11の上部は窓部材12によって気密に塞がれる。処理容器11の内部において、下部には基板Gを載置する載置台13が配置され、載置台13は窓部材12と対向する。また、処理容器11では、載置台13と窓部材12の間に処理空間Uが形成される。処理空間Uでは、後述するように、処理ガスからプラズマが生成される。
【0017】
載置台13の上面には不図示の静電チャックが設けられる。載置台13に載置された基板Gは、静電チャックによって載置台13に吸着保持される。また、載置台13の内部には、載置された基板Gの温度を制御するために、チラー等の温調機構や伝熱ガス供給機構(いずれも不図示)が設けられる。なお、載置台13は絶縁体枠14を介して処理容器11の底面に設置される。
【0018】
処理容器11の側壁の上端には金属枠15が設けられ、金属枠15の上面には側壁部16が設置される。側壁部16は天板17を支持し、天板17は窓部材12を上方から覆う。処理容器11の側壁と金属枠15との間にはOリング等のシール部材18が設けられ、処理空間Uを気密に保つ。
【0019】
処理容器11の一の側壁には、基板Gを処理空間Uへ搬入出するための搬入出口19及び搬入出口19を開閉するゲートバルブ20が設けられる。また、処理容器11の他の側壁には、監視窓21(評価対象の一例)が設けられ、処理容器11の外部には、監視窓21を介して処理容器11の内部を監視するカメラ22(撮影部)が設けられる。カメラ22は撮影した処理容器11の内部の画像を後述する制御部37へ送信する。本実施の形態においてカメラ22が撮影する画像は静止画では無く、動画である。カメラ22により撮影された動画は、監視窓21など、処理容器11に備えられた評価対象における堆積物の堆積状態に関する情報を含んでいる。この堆積状態に関する情報に基づき、あるいは、この堆積状態に関する情報に分析や加工などの処理を施すことにより、例えば、後述のエッジ情報など、堆積物の堆積状態に関する判定のための情報を抽出する。なお、判定のための情報は、エッジ情報に限られない。
【0020】
窓部材12は導電体、例えば、金属で構成され、矩形状を呈し、複数の分割片23に分割され、互いに隣接する各分割片23の間のそれぞれに絶縁体によって構成される仕切部材24が配置される。仕切部材24は、隣接する各分割片23を仕切り、互いに電気的に絶縁する。
【0021】
成膜装置10において、窓部材12、側壁部16及び天板17にて囲まれた空間はアンテナ室25を構成する。アンテナ室25には、窓部材12を介して載置台13の基板Gと対向するように、誘導結合アンテナ26が配置される。また、誘導結合アンテナ26は、全体として、各分割片23に対向する領域に跨がって配置され、且つ窓部材12の周方向に沿って周回するように、渦巻状に形成されるが、誘導結合アンテナ26の形状は渦巻状に限られない。
【0022】
各分割片23には、処理空間Uに向けて開口する多数のガス孔27が形成される。各分割片23にはガス供給管28が接続され、ガス供給管28はガス供給装置29に接続される。また、各分割片23の内部にはガス拡散室30が形成され、ガス供給装置29はガス供給管28を介してガス拡散室30へ処理ガスを導入する。ガス拡散室30へ導入された処理ガスは各ガス孔27から処理空間Uへ供給される。
【0023】
また、成膜装置10では、誘導結合アンテナ26には整合器31を介して高周波電源32が接続される。高周波電源32は、例えば、13.56MHzのプラズマ生成用の高周波電力を誘導結合アンテナ26に供給する。これにより、窓部材12を構成する各分割片23のそれぞれにおいて、上面(誘導結合アンテナ26側)から下面(処理空間U側)に亘って周回する渦電流が誘起され、この渦電流によって処理空間Uに誘導電界が形成される。そして、この誘導電界が処理空間Uに供給された処理ガスを励起してプラズマを生成する。なお、上述の実施形態では、窓部材12が金属などの導電体で構成されている場合について説明したが、窓部材12は誘電体で構成されてもよい。その場合、誘導結合アンテナ26により形成される電界は窓部材12を透過し、直接処理ガスに作用してプラズマを生成する。
【0024】
さらに、載置台13には整合器33を介して高周波電源34が接続される。高周波電源34は、例えば、3.2MHzのバイアス用の高周波電力を載置台13に供給する。これにより、処理空間Uのプラズマ中の各種イオンを基板Gに引き込み、基板Gに保護膜を形成する成膜処理を施すことができる。
【0025】
さらに、成膜装置10では、処理容器11の底面に排気口35が形成される。この排気口35にはターボ分子ポンプやドライポンプ等の排気装置36が接続される。成膜処理を実行する際、排気装置36は、処理空間Uを大気圧よりも低い所定の圧力に維持する。また、成膜装置10には制御部37が設けられる。制御部37は、少なくともCPUとメモリを有するコンピュータからなり、メモリには所定の成膜処理や後述する堆積物の堆積判定を実行するためのレシピ(プログラム)が記録される。
【0026】
図2は、カメラ22によって撮影された処理容器11の内部の画像を説明するための図である。なお、図2や後述の図3では、カメラ22によって撮影された動画を構成する複数のフレームのうちの1つのフレームの撮影画像を示す。
【0027】
上述したように、カメラ22は監視窓21を介して処理容器11の内部を撮影し、図2(A)に示すような撮影画像38を得る。撮影画像38には、処理容器11の内部の構造部材、例えば、載置台13や処理空間Uに面する窓部材12の各分割片23が含まれる。そして、カメラ22は撮影画像38を制御部37に送信する。
【0028】
制御部37は、受信した撮影画像38から、既存のエッジ抽出方法、例えば、Canny法によってエッジを抽出し、図2(B)に示すようなエッジを描画するエッジ画像39を取得する。抽出されるエッジは処理容器11の内部の各構造部材の輪郭が主であり、エッジ画像39では、抽出されたエッジが白線で描画される。なお、本実施の形態で用いられるエッジ抽出方法はCanny法に限られず、他のエッジ抽出方法であってもよい。
【0029】
ところで、通常、処理容器11の内部には照明装置が設けられていないため、カメラ22は、処理容器11の内部においてプラズマが生成された際、プラズマによる発光を光源として処理容器11の内部を撮影する。このとき、監視窓21の内側表面に反応生成物等の堆積物が堆積しておらず、監視窓21が曇っていないと、図2(B)のエッジ画像39のように、各構造部材の輪郭(エッジ)が非常に明瞭なエッジ画像39が取得される。
【0030】
一方、監視窓21の内側表面に反応生成物等の堆積物が堆積して監視窓21が曇ると、図3(A)に示すような不明瞭な撮影画像40しか得られない。このような撮影画像40からエッジを抽出しても、各構造部材の輪郭(エッジ)が擦れたり、不連続となる不明瞭なエッジ画像41しか得られない。そして、このような不明瞭なエッジ画像41からは処理容器11の内部の状態を正確に把握することができないため、監視窓21の清掃(堆積物の除去)や交換が必要となる。
【0031】
そこで、本実施の形態では、監視窓21の清掃や交換の必要性を判定するために、監視窓21の曇りが発生しているか否かを判定する。また、当該判定に下記のエッジ情報を用いる。なお、本実施の形態において、監視窓21の曇りが発生していることは、監視窓21の内側表面に所定量(予め定められた量)の堆積物が堆積していることと同義である。
【0032】
図4は、エッジ情報を説明するための図である。本実施の形態におけるエッジ情報は、1つのフレームの撮影画像から取得されたエッジ画像を構成する全画素の輝度値の平均である。例えば、図4(A)に示すように、エッジ画像が25個の画素で構成される場合であって、4個の画素の輝度値が「255」であり、残りの21個の画素の輝度値が「0」の場合、エッジ情報は下記式(1)から40.8となる。
エッジ情報 = (255×4+0×19)/25 … (1)
【0033】
エッジ画像では、監視窓21の内側表面へ堆積物が堆積するにつれてエッジが擦れたり、不連続となり、輝度値が小さい画素が増えるため、監視窓21が曇るとエッジ情報が小さくなると考えられる。
【0034】
なお、本実施の形態では、カメラ22によって撮影された動画を構成する複数のフレームの各々からエッジ情報が取得されるため、結果として、複数のエッジ情報が取得される。
【0035】
また、本実施の形態では、上述したように、カメラ22は、プラズマによる発光を光源として撮影を行うため、成膜装置10では、プラズマ処理である成膜処理が実行されてプラズマが生成される期間に処理容器11の内部が撮影される。したがって、成膜装置10において成膜処理が繰り返される度に、各成膜処理に対応した複数のエッジ情報が取得される。そして、本実施の形態では、監視窓21が曇っていない状態でカメラ22によって撮影された動画を基準動画と定義し、該基準動画から取得された複数のエッジ情報を、後述する堆積物の堆積判定処理において、教師データとして用いる。なお、以下において、教師データに含まれるエッジ情報を「基準エッジ情報」と称する。
【0036】
しかしながら、各成膜処理の初期段階、例えば、プラズマが着火してから暫くの間はプラズマの生成が不安定であり、プラズマによる発光も不安定である。そのため、プラズマが着火してから暫くの間に取得されたエッジ画像の各画素の輝度値も不安定であり、これらのエッジ画像から求められるエッジ情報も安定しない。そして、このようなエッジ情報を教師データとして用いることは適切ではない。
【0037】
そこで、本実施の形態では、教師データを取得する際、プラズマ着火後に待機時間を設け、待機時間のエッジ画像から求められるエッジ情報は除外する。具体的には、図4(B)に示すように、成膜処理が実行される際(図中においてエッジ情報が0より大きくなる期間)、プラズマの着火時からの所定の待機時間(予め定められた待機時間)、例えば、5秒を除いた、プラズマが発光している期間を基準期間と定義する。なお、基準期間は監視窓21が曇っていない状態での成膜処理を前提として定義される。
【0038】
そして、基準期間において、カメラ22によって撮影された動画から教師データとして複数の基準エッジ情報を取得する。なお、図4(B)において、基準期間をハッチングにて示す。
【0039】
本実施の形態では、教師データを構成する複数の基準エッジ情報は1回の成膜処理の動画(例えば、図4(B)の最左方の基準期間の動画)のみから取得される。しかしながら、監視窓21の内側表面へ堆積物が堆積していない限り、複数の成膜処理の動画、例えば、図4(B)の最左方の基準期間の動画だけでなく、他の2つの基準期間の動画からも教師データを構成する複数の基準エッジ情報を取得してもよい。
【0040】
また、本実施の形態では、教師データを取得した後の成膜処理の動画を構成する複数のフレームのうちの1つのフレームの撮影画像のエッジ情報を用いて監視窓21の内側表面に所定量の堆積物が堆積したか否かを判定する。ここで、教師データを取得した後の成膜処理は基準期間以外の成膜処理に相当する。また、以下、基準期間以外の成膜処理の動画を構成する複数のフレームのうちの1つのフレームの撮影画像のエッジ情報を「テストデータ」(試験エッジ情報)と称する。なお、テストデータも、基準期間以外の成膜処理においてプラズマの着火時からの所定の待機時間を除いた動画から取得される。
【0041】
そして、本実施の形態では、教師データの分布の中心に対してテストデータがどの程度離れているかに基づいて、テストデータが異常であるか否か、すなわち、テストデータを取得したタイミングにおいて監視窓21の曇りが発生しているか否かを判定する。上述したように、監視窓21の曇りが発生していることは、監視窓21の内側表面に所定量の堆積物が堆積していることと同義であるため、以下、この判定を「堆積判定」と称する。
【0042】
そこで、本実施の形態では、教師データに含まれる複数の基準エッジ情報の平均値μと分散σを算出し、テストデータをx’と定義したときに、下記式(2)で示されるテストデータのマハラノビスの距離を異常度a(x’)として定義し、堆積判定を行う。なお、この異常度a(x’)は、エッジ情報に関連する指標に該当する。
【0043】
【数1】
【0044】
上述した異常度a(x’)は、複数の基準エッジ情報の正規分布の確率密度関数(下記式(3))の負の対数尤度(下記式(4))を求め、この負の対数尤度からテストデータx’に関係のない定数項を無視し、さらに式の形式を整理することによって得られる。
【0045】
【数2】
【0046】
【数3】
【0047】
そして、本実施の形態の堆積判定では、異常検知技術として知られているホテリング理論を用いる。ホテリング理論を本実施の形態に適用すると、複数の基準エッジ情報が正規分布に従う場合、上記式(1)で定義される異常度a(x’)は、複数の基準エッジ情報の正規分布から求められる自由度1のカイ二乗分布に従うことになる。
【0048】
そこで、本実施の形態では、まず、教師データから複数の基準エッジ情報の正規分布を推定し、さらに、当該正規分布から自由度1のカイ二乗分布の確率密度(関数)を取得する。ここで、自由度が1の場合、カイ二乗分布は標準正規分布に従う確率密度関数を二乗したものに等しくなることが知られている。したがって、複数の基準エッジ情報の標準正規分布に従う確率密度関数をZとすると、自由度1のカイ二乗分布に従う確率密度関数χは下記式(5)から求められる。
【0049】
【数4】
【0050】
図5は、複数の基準エッジ情報の標準正規分布から得られる自由度1のカイ二乗分布を示す図である。上述したように、ホテリング理論によれば、異常度a(x’)は複数の基準エッジ情報の正規分布から求められる自由度1のカイ二乗分布に従うため、図5のカイ二乗分布は、異常度a(x’)の確率密度(出現確率)の分布を示す確率分布となる。
【0051】
また、本実施の形態では、異常度a(x’)のカイ二乗分布を用いて、堆積判定の閾値(指標の閾値)を決定する。具体的には、異常と考えられる出現確率を設定し、カイ二乗分布において設定された出現確率に対応する異常度を堆積判定の閾値として決定する。例えば、出現確率が10%以下であれば異常(監視窓21の曇りが発生)と考えられる場合、図5のカイ二乗分布において、出現確率の累積が10%となる範囲が異常と判定される領域となる(ハッチングで示す領域参照)。そこで、当該領域における異常度の最小値を堆積判定の閾値κとして決定する。
【0052】
そして、テストデータから換算された異常度a(x’)(試験指標)が閾値κを上回れば、監視窓21の曇りが発生したと判定し、異常度a(x’)が閾値κを上回らなければ、監視窓21の曇りが発生していないと判定する。なお、異常と考えられる出現確率は、10%に限られず、成膜装置10の仕様や成膜処理の内容に応じて変更されてもよい。但し、異常と考えられる出現確率は20%を越えないことが好ましい。
【0053】
図6は、一実施の形態に係る堆積判定方法を示すフローチャートである。この堆積判定方法は、制御部37が、所定のプログラムに従って実行する。
【0054】
まず、監視窓21の清掃や交換の後の基準期間の動画から各フレームに対応する複数の基準エッジ情報を教師データとして取得する(ステップS61)。次いで、教師データを構成する複数の基準エッジ情報の標準正規分布を推定し(ステップS62)、推定された標準正規分布から上記式(5)によって自由度1のカイ二乗分布を取得する(ステップS63)。
【0055】
次いで、ユーザ等が異常と考えられる出現確率を設定し、上記カイ二乗分布において当該出現確率に対応する領域(例えば、図5においてハッチングで示す領域)における異常度の最小値を堆積判定の閾値として決定する(ステップS64)。
【0056】
次いで、基準期間以外の成膜処理の動画を構成する複数のフレームのうちの1つのフレームの撮影画像からテストデータを取得する(ステップS65)。そして、取得したテストデータを上記式(2)によって異常度に換算する(ステップS66)。
【0057】
次いで、換算されたテストデータの異常度が堆積判定の閾値より大きいか否かを判定する(ステップS67)。ステップS67において、テストデータの異常度が堆積判定の閾値よりも大きくないと判定された場合、ステップS65に戻る。このステップS65では、前回のステップS65でテストデータを取得したフレームの次のフレームの撮影画像から次のテストデータを取得する。なお、連続した次のフレームではなく、一つ飛ばし、或いは複数のフレームを飛ばした後のフレームから次のテストデータを取得してもよい。
【0058】
一方、ステップS67において、テストデータの異常度が堆積判定の閾値よりも大きいと判定された場合、テストデータが異常である旨、すなわち、監視窓21の曇りが発生した旨を報知する(ステップS68)。異常の報知手段としては、成膜装置10に設けられたディスプレイへの警告表示であってもよく、成膜装置10に設けられたブザーによる発音であってもよい。
【0059】
本実施の形態によれば、テストデータから換算される異常度の閾値は、異常度の確率分布であるカイ二乗分布において、異常と考えられる出現確率に基づいて決定される。したがって、当該異常度の閾値は確率的に妥当となり、監視窓21の曇りが発生したか否か、すなわち、監視窓21の内側表面に所定量の堆積物が堆積しているか否かを正確に判定することができる。
【0060】
また、エッジ情報は監視窓21の曇りが発生したか否かに応じて明確に変化するため、
上述した堆積判定方法においてエッジ情報を用いることにより、堆積判定をより正確におこなうことができる。
【0061】
なお、監視窓21の清掃や交換が行われると、基準エッジ情報が変化する可能性があるため、監視窓21の清掃や交換が行われる度に、ステップS61~S64を再実行し、教師データ、カイ二乗分布や異常度の閾値を取得し直すのが好ましい。
【0062】
ところで、本実施の形態は、ホテリング理論を用いて堆積判定方法を実行するが、ホテリング理論は標本データが正規分布に従っていることを前提とする。したがって、上述した堆積判定方法のステップS61において複数の基準エッジ情報を取得した後、複数の基準エッジ情報のヒストグラムを作成し、これらの基準エッジ情報が正規分布に従って分布しているか否かを判定するのが好ましい。
【0063】
基準エッジ情報が正規分布に従って分布していない場合、次の基準期間の動画から複数の基準エッジ情報を取得し、これらの基準エッジ情報が正規分布に従って分布しているか否かを判定する。そして、正規分布に従って分布している複数の基準エッジ情報が取得されるまで、ステップS62以降の処理を保留するのが好ましい。これにより、その後に得られるカイ二乗分布の信頼性を向上させることができ、もって、堆積判定の精度を向上させることができる。
【0064】
以上、本開示の好ましい実施の形態について説明したが、本開示は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0065】
例えば、上述した実施の形態に係る堆積判定方法では、エッジ情報を用いて監視窓21の内側表面に所定量の堆積物(予め定められた量の堆積物)が堆積しているか否かを判定した。しかしながら、処理容器11の内部の構造部材(評価対象の一例)の表面に所定量の堆積物が堆積すると、構造部材の輪郭が変わって構造物のエッジ(縁)が丸みを帯び、エッジからの反射率が変わる、すなわち、エッジ情報が変わることがある。したがって、上述した堆積判定方法は、処理容器11の内部の構造部材の表面に所定量の堆積物が堆積したか否かの判定にも適用することができる。例えば、上述した堆積判定方法においてテストデータが異常である旨が報知されたにもかかわらず、監視窓21の曇りが発生していない場合は、処理容器11の内部の構造部材の表面に所定量の堆積物が堆積したと判定することができる。
【0066】
また、上述した実施の形態に係る堆積判定方法では、複数のフレームのうちの1つのフレームの撮影画像のエッジ情報をテストデータとして用いた。しかしながら、テストデータは1つのフレームの撮影画像からだけでなく、複数、例えば、2つや3つのフレームの撮影画像から取得してもよい。この場合、テストデータは複数のフレームの撮影画像のエッジ情報の平均となる。
【0067】
上述した一実施の形態では、本開示の堆積判定方法を成膜装置10に適用する場合について説明した。しかしながら、本開示の堆積判定方法が適用可能な装置は成膜装置10に限られず、時間の経過とともに堆積物が堆積する装置であれば、本開示の堆積判定方法を適用することができる。例えば、堆積物を発生させるエッチング処理を行うエッチング装置や基板に付着した堆積物が持ち込まれる可能性がある検査装置、搬送装置にも本開示の堆積判定方法を適用することができる。
【0068】
また、上述した一実施の形態では、基板処理装置として、誘導結合によってプラズマを生成する装置へ本開示の堆積判定方法を適用する場合について説明した。しかしながら、本開示の堆積判定方法を適用する基板処理装置はこれに限られず、容量結合によってプラズマを生成する装置や、マイクロ波によってプラズマを生成する装置など、他の方式によってプラズマを生成し、基板Gに処理を施す装置であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 成膜装置
11 処理容器
21 監視窓
22 カメラ
37 制御部
38,40 撮影画像
39,41 エッジ画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6