(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108634
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】情報処理装置、機差特定方法及び熱処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240805BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
H01L21/02 Z
H01L21/31 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013092
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】土屋 裕祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 政和
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 宏之
【テーマコード(参考)】
5F045
【Fターム(参考)】
5F045AA06
5F045AA20
5F045AD01
5F045AE01
5F045BB02
5F045BB03
5F045BB08
5F045DP19
5F045DP28
5F045DQ05
5F045EF03
5F045EG01
5F045EK06
5F045EK22
5F045EK30
5F045GB05
5F045GB16
5F045GB17
(57)【要約】
【課題】熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、熱処理装置の機差の候補を特定する技術を提供する。
【解決手段】熱処理装置の機差を特定する情報処理装置であって、レシピを実行した複数台の熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを取得する時系列データ取得部と、熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、レシピを実行した熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを予測する時系列データ予測部と、取得した時系列データと予測した時系列データとの差分データを、複数台の熱処理装置ごとに算出する差分データ算出部と、差分データを用いて、仮想モデルのパラメータを熱処理装置ごとに調整する調整部と、調整前後のパラメータの変化に基づいて、機差の候補のパラメータを特定する機差特定部と、を有することで上記課題を解決する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を熱処理する熱処理装置の機差を特定する情報処理装置であって、
レシピを実行した複数台の前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを取得するように構成された時系列データ取得部と、
前記熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、前記レシピを実行した前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを予測するように構成された時系列データ予測部と、
前記取得した時系列データと前記予測した時系列データとの差分データを、複数台の前記熱処理装置ごとに算出するように構成された差分データ算出部と、
前記差分データを用いて、前記仮想モデルのパラメータを前記熱処理装置ごとに調整するように構成された調整部と、
調整前後の前記パラメータの変化に基づいて、機差の候補の前記パラメータを特定するように構成された機差特定部と、
を有する情報処理装置。
【請求項2】
前記機差特定部は、調整前後の前記変化が大きい前記パラメータを優先して機差の候補の前記パラメータとして特定するように構成されていること
を特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記調整部は、第1の熱処理装置の温度挙動に関する時系列データと前記予測した時系列データとの差分データが小さくなるように前記仮想モデルのパラメータを調整すると共に、第2の熱処理装置の温度挙動に関する時系列データと前記予測した時系列データとの差分データが小さくなるように前記仮想モデルのパラメータを調整するように構成されており、
前記機差特定部は、前記第1の熱処理装置の調整前後の前記パラメータの変化率と前記第2の熱処理装置の調整前後の前記パラメータの変化率との差に基づいて、機差の候補の前記パラメータを特定するように構成されていること
を特徴とする請求項1又は2記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記機差特定部が特定した機差の候補の前記パラメータに対応する前記熱処理装置の部品を表示するように構成された表示制御部、を更に有する
請求項1又は2記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記機差特定部が特定した機差の候補の前記パラメータに応じた対応を表示するように構成された表示制御部、を更に有する
請求項1又は2記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データは、前記被処理基板を収容する処理容器内を加熱する加熱部に供給される電力の時系列データと、前記処理容器内を冷却する冷却部に供給される電力の時系列データと、前記処理容器内の測定温度の時系列データと、を含む
請求項1又は2記載の情報処理装置。
【請求項7】
被処理基板を熱処理する熱処理装置の機差を特定する情報処理装置が実行する機差特定方法であって、
レシピを実行した複数台の前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを取得することと、
前記熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、前記レシピを実行した前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを予測することと、
前記取得した時系列データと前記予測した時系列データとの差分データを、複数台の前記熱処理装置ごとに算出することと、
前記差分データを用いて、前記仮想モデルのパラメータを前記熱処理装置ごとに調整することと、
調整前後の前記パラメータの変化に基づいて、機差の候補の前記パラメータを特定することと、
を有する機差特定方法。
【請求項8】
被処理基板を熱処理する熱処理装置であって、
レシピを実行した複数台の前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを取得するように構成された時系列データ取得部と、
前記熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、前記レシピを実行した前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを予測するように構成された時系列データ予測部と、
前記取得した時系列データと前記予測した時系列データとの差分データを、複数台の前記熱処理装置ごとに算出するように構成された差分データ算出部と、
前記差分データを用いて、前記仮想モデルのパラメータを前記熱処理装置ごとに調整するように構成された調整部と、
調整前後の前記パラメータの変化に基づいて、機差の候補の前記パラメータを特定するように構成された機差特定部と、
を有する熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、機差特定方法及び熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば熱処理装置は、ヒータに供給する電力を同一にしても、熱処理装置の個体差である機差の存在により、処理容器内の高さ方向に沿った温度分布に差が生じる。従来、熱処理の結果を安定させるため、熱処理装置の機差を補正し、処理容器内の高さ方向に沿った温度分布の均一性を出す技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、熱処理装置の機差の候補を特定する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、被処理基板を熱処理する熱処理装置の機差を特定する情報処理装置であって、レシピを実行した複数台の前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを取得するように構成された時系列データ取得部と、前記熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、前記レシピを実行した前記熱処理装置の温度挙動に関する時系列データを予測するように構成された時系列データ予測部と、前記取得した時系列データと前記予測した時系列データとの差分データを、複数台の前記熱処理装置ごとに算出するように構成された差分データ算出部と、前記差分データを用いて、前記仮想モデルのパラメータを前記熱処理装置ごとに調整するように構成された調整部と、調整前後の前記パラメータの変化に基づいて、機差の候補の前記パラメータを特定するように構成された機差特定部と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、熱処理装置の理想的な仮想モデルを用いて、熱処理装置の機差の候補を特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る熱処理装置を概略的に示す縦断面図である。
【
図3】本実施形態に係る情報処理システムの一例の構成図である。
【
図4】コンピュータの一例のハードウェア構成図である。
【
図5】本実施形態に係る熱処理装置の制御部の一例の機能構成図である。
【
図6】本実施形態に係る解析サーバの一例の機能構成図である。
【
図7】本実施形態に係る情報処理システムの処理手順の一例を表したフローチャートである。
【
図8】機差の候補を特定する処理手順の一例を表したフローチャートである。
【
図9】機差の候補を特定する処理の一例の説明図である。
【
図10】作業者に提示する表示イメージの一例を示した図である。
【
図11】理想的な仮想モデルのパラメータと熱処理装置の部品とを対応付けるテーブルの一例の構成図である。
【
図12】機差の要因候補と対応とを対応付けるテーブルの一例の構成図である。
【
図13】本実施形態に係る熱処理装置を概略的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0009】
図1は本実施形態に係る熱処理装置を概略的に示す縦断面図である。
図2は熱処理炉の構成の概略を示す断面図である。
【0010】
熱処理装置10は縦型の熱処理炉60を備え、ウエハWをボートに縦方向に沿って所定の間隔で保持及び収容し、ウエハWに対して酸化、拡散、減圧CVD等の各種の熱処理を施すことができる。以下では、処理容器65内にガスを供給することによって、処理容器65内に設置されているウエハWの表面を熱処理する例について説明する。ウエハWは被処理基板の一例である。被処理基板は円形のウエハWに限られない。
【0011】
図1の熱処理装置10は、載置台20、筐体30、及び制御部100を有する。載置台20は例えばロードポートである。載置台20は筐体30の前部に設けられている。筐体30は、ローディングエリア40及び熱処理炉60を有する。
【0012】
ローディングエリア40は例えば作業領域である。ローディングエリア40は、筐体30内の下方に設けられている。熱処理炉60は、筐体30内であって、ローディングエリア40の上方に設けられている。また、ローディングエリア40と熱処理炉60との間には、ベースプレート31が設けられている。
【0013】
載置台20は、筐体30内へのウエハWの搬入搬出を行うためのものである。載置台20には、収納容器21及び22が載置されている。収納容器21及び22は、前面に図示しない蓋を着脱可能に備えた、複数枚(例えば25枚程度)のウエハWを所定の間隔で収納可能な密閉型収納容器(フープ)である。
【0014】
また、載置台20の下方には、移載機構47により移載されたウエハWの外周に設けられた切欠部(例えばノッチ)を一方向に揃えるための整列装置(アライナ)23が設けられていてもよい。
【0015】
ローディングエリア40は、収納容器21及び22とボート44との間でウエハWの移載を行い、ボート44を処理容器65内に搬入(ロード)し、ボート44を処理容器65から搬出(アンロード)するためのものである。ローディングエリア40には、ドア機構41、シャッター機構42、蓋体43、ボート44、基台45a、基台45b、
図2の昇降機構46、及び移載機構47が設けられている。
【0016】
ドア機構41は収納容器21及び22の蓋を取り外すことで、収納容器21、22内をローディングエリア40内に連通開放する。シャッター機構42は、ローディングエリア40の上方に設けられている。シャッター機構42は蓋体43を開けているときに、炉口68aから高温の炉内の熱がローディングエリア40に放出されるのを抑制ないし防止するために炉口68aを覆う(又は塞ぐ)ように設けられている。
【0017】
蓋体43は、保温筒48及び回転機構49を有する。保温筒48は、蓋体43上に設けられている。保温筒48は、ボート44が蓋体43側との伝熱により冷却されることを防止し、ボート44を保温するためのものである。回転機構49は、蓋体43の下部に取り付けられている。回転機構49は、ボート44を回転するためのものである。回転機構49の回転軸は蓋体43を気密に貫通し、蓋体43上に配置された回転テーブルを回転するように設けられている。
【0018】
昇降機構46は、ボート44のローディングエリア40から処理容器65に対する搬入及び搬出に際し、蓋体43を昇降駆動する。昇降機構46により上昇させられてボート44が処理容器65内に搬入されているときに、蓋体43は、炉口68aに当接して炉口68aを密閉するように設けられている。
【0019】
蓋体43に載置されているボート44は、処理容器65内でウエハWを水平面内で回転可能に保持することができる。なお、熱処理装置10は、ボート44を複数有していてもよい。ローディングエリア40には、ボート44a及び44bが設けられている。
【0020】
ローディングエリア40には、基台45a、基台45b、及びボート搬送機構が設けられている。基台45a及び45bは、それぞれボート44a及び44bが蓋体43から移載される載置台である。ボート搬送機構は、ボート44a又は44bを、蓋体43から基台45a又は45bに移載するためのものである。
【0021】
ボート44a及び44bは例えば石英製であり、大口径(例えば直径300mm)のウエハWを水平状態で上下方向に所定の間隔(ピッチ幅)で搭載する。ボート44a及び44bは、天板と底板の間に複数本(例えば3本)の支柱が設けられる。支柱には、ウエハWを保持するための爪部が設けられている。また、ボート44a及び44bは、支柱と共に補助柱が適宜設けられていてもよい。
【0022】
移載機構47は、収納容器21又は22とボート44a又は44bとの間でウエハWの移載を行う。移載機構47は、基台57、昇降アーム58、及び、複数のフォーク(移載板)59を有する。基台57は、昇降及び旋回可能に設けられている。昇降アーム58はボールネジ等により上下方向に移動可能(昇降可能)に設けられている。基台57は、昇降アーム58に水平旋回可能に設けられている。
【0023】
図2は、熱処理炉の構成の概略を示す断面図である。
図2の熱処理炉60は、複数枚の薄板円板状のウエハWを収容して所定の熱処理を施すための縦型炉の一例である。熱処理炉60は、ジャケット62、ヒータ63、空間64、及び処理容器65を備えている。
【0024】
処理容器65は、ボート44に保持されたウエハWを収納して熱処理するためのものである。処理容器65は、例えば石英製であり、縦長の形状を有している。処理容器65は下部のマニホールド68を介してベースプレート66に支持されている。マニホールド68から処理容器65へは、インジェクタ71を通してガスが供給される。インジェクタ71は吹き出し部分(穴)から処理容器65内にガスを供給する。インジェクタ71はガス供給源72と接続されている。また、処理容器65に供給されたガスは、排気ポート73を通して減圧制御が可能な真空ポンプを備えた排気系74から排気される。
【0025】
蓋体43は、ボート44が処理容器65内に搬入されているときに、マニホールド68下部の炉口68aを閉塞する。蓋体43は、昇降機構46により昇降移動可能に設けられている。蓋体43の上部には保温筒48が載置されている。保温筒48の上部には、ウエハWを多数枚上下方向に所定の間隔で搭載するボート44が設けられている。
【0026】
ジャケット62は、処理容器65の周囲を覆うように設けられているとともに、処理容器65の周囲に空間64を画成している。ジャケット62は処理容器65と同様、円筒形状を有している。ジャケット62は、ベースプレート66に支持されている。ジャケット62の内側であって、空間64の外側には、例えばグラスウールよりなる断熱材62aが設けられていてもよい。
【0027】
ヒータ63は、処理容器65の周囲を覆うように設けられている。例えばヒータ63はジャケット62の内側であって空間64の外側に設けられている。ヒータ63は、処理容器65を加熱するとともに、ボート44に保持されたウエハW、すなわち処理容器65内のウエハWを加熱する。ヒータ63は、処理容器65内を加熱する加熱部として機能する。
【0028】
また、ヒータ63は例えばカーボンワイヤ等の発熱抵抗体を含み、空間64の内部を流れるガスの温度を制御するとともに、処理容器65内を所定の温度(例えば50~1200℃)に加熱制御可能である。
【0029】
空間64及び処理容器65内の空間は、縦方向に沿って複数の単位領域、例えば10の単位領域A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、A8、A9、A10に分割されている。ヒータ63は上下方向に沿って単位領域の何れかと対応するように、63-1、63-2、63-3、63-4、63-5、63-6、63-7、63-8、63-9、及び63-10に分割されている。
【0030】
ヒータ63-1~63-10の各々は、例えばサイリスタを含むヒータ出力部86の出力信号である電力(ヒータパワー)により、単位領域A1~A10の各々に対応して独立に加熱を制御できるように構成されている。ヒータ63-1~63-10は発熱素子の一例である。
【0031】
なお、
図2では、空間64及び処理容器65内の空間を上下方向に沿って10の単位領域に分割した例について示した。単位領域の分割数は10に限られず、空間64及び処理容器65内の空間を、10以外の数で分割されてもよい。また、
図2では均等に分割しているが、これに限らず、温度変化の大きい炉口68a付近を細かい領域に分割するようにしてもよい。ヒータ63は、縦方向に沿って各々が互いに異なる位置に設けられていればよく、単位領域A1~A10の各々に1対1に対応して設けられていなくてもよい。
【0032】
空間64には、単位領域A1~A10の各々に対応して温度を測定するためのヒータ温度センサAo1~Ao10がOuterT/Cとして設けられている。また、処理容器65内の空間にも、単位領域A1~A10の各々に対応して温度を測定するための処理容器内温度センサAi1~Ai10がInnerT/Cとして設けられている。ヒータ温度センサAo1~Ao10及び処理容器内温度センサAi1~Ai10は、縦方向に沿った温度分布を測定するために温度を測定する。処理容器内温度センサAi1~Ai10が測定する温度は、処理容器65内の測定温度の一例である。
【0033】
ヒータ温度センサAo1~Ao10からの測定信号は、それぞれライン81を介して制御部100に入力される。処理容器内温度センサAi1~Ai10からの測定信号は、それぞれライン82を介して制御部100に入力される。測定信号が入力された制御部100は、後述の設定温度に基づいて、ヒータ出力部86がヒータ63-1~63-10に供給するヒータパワーを制御する。ヒータ出力部86は制御部100から出力される制御信号に従い、ヒータ出力ライン87及びヒータ端子88を介してヒータ63-1~63-10の各々へヒータパワーを供給する。
【0034】
また、熱処理炉60は、処理容器65を冷却するための冷却機構90を備える。冷却機構90は、例えば、送風機91、送風管92、及び排気管94を有する。冷却機構90は処理容器65内を冷却する冷却部の一例である。冷却機構90は強制冷却ユニット(RCU:Rapid Cooling Unit)であってもよい。
【0035】
送風機91は、例えばブロワである。送風機91は、ヒータ63が設けられている空間64内に、例えば空気よりなる冷却ガスを送風して処理容器65を冷却する。送風管92は、送風機91からの冷却ガスを空間64に送る。送風管92は、噴出孔92a-1~92a-10の各々に接続されており、冷却ガスを空間64に供給する。
【0036】
排気管94は、空間64内の空気を排出するためのものである。空間64には、冷却ガスを空間64から排気するための排気口94aが設けられている。排気管94は、一端が排気口94aに接続されている。
【0037】
また、
図2に示すように、熱処理炉60は排気管94の途中に熱交換器95を設けるとともに、排気管94の他端を送風機91の吸引側に接続してもよい。そして、排気管94により排気した冷却ガスを工場排気系に排出せずに、熱交換器95で熱交換した後、送風機91に戻し、循環使用するようにしてもよい。その場合は、図示しないエアフィルタを介して循環させてもよい。空間64から排出された冷却ガスは、排気管94から熱交換器95を介して工場排気系に排出されるようになっていてもよい。
【0038】
送風機91は、電力供給部91aの出力信号である電力(RCUパワー)により、処理容器65内の冷却を制御できるように構成されている。例えばインバータを含む電力供給部91aは、制御部100からの制御信号に従って、送風機91に供給するRCUパワーを制御することによって、送風機91の風量を制御できる。
【0039】
制御部100は、例えば後述のコンピュータ500により実現される。制御部100は記憶装置に記録されたプログラムを読み取り、そのプログラムに従って、熱処理装置10を構成する各部に制御信号を送り、熱処理を実行する。例えば制御部100は処理容器内温度センサAiが測定した測定温度及びレシピに含まれる設定温度に基づいて、ヒータ63及び送風機91に供給する電力を制御することで、処理容器65内の温度を調整する。
【0040】
例えば熱処理装置10では、機差が温度挙動に及ぼす影響を緩和するためにMBTCと呼ばれる温度モデルによる制御が行われている。MBTC(モデルベース温度制御)ではヒータパワー及びRCUパワーを熱処理装置10ごとに調整することで機差を吸収し、熱処理装置10間で極力同じ温度挙動となるように制御が行われる。
【0041】
熱処理装置10間の機差はMBTCにより吸収できるが、MBTCがフィードバック制御であるために、制御初期などの機差が大きい場合に温度挙動に差が生じる。また、熱処理装置10間に機差がある状態でMBTCにより機差を吸収して運用を続けると、部品の寿命低下及び破損を引き起こす可能性もあった。例えば断熱材が割れた状態で運用される熱処理装置10は断熱材が正常な状態の熱処理装置10よりも大きなヒータパワーが必要となるため、ヒータエレメントの寿命低下に繋がることがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、熱処理装置10の設計情報に忠実な仮想モデル(熱処理装置10の理想的な仮想モデル)の温度挙動に関する時系列データと、実機である熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データと、を比較することで、理想的な仮想モデルに対する実機のずれを把握する。温度挙動に関する時系列データは、例えばヒータパワー、RCUパワー、及び処理容器65内の測定温度の時系列データである。本実施形態では、熱処理装置10の理想的な仮想モデルの温度挙動に関する時系列データと実機である熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データとの差分データの二乗和を最小にするように、理想的な仮想モデルのパラメータの調整(最適化)を行う。
【0043】
理想的な仮想モデルは設計情報に忠実であるため、調整(最適化)による変化率が大きいパラメータほど、理想的な熱処理装置10の状態からずれていると言える。つまり、仮想モデルのパラメータは調整(最適化)による変化率が大きいほど、機差の候補として有力となる。
【0044】
作業者は機差の候補として特定された仮想モデルのパラメータに対応する実機の箇所を調査し、不具合や問題点を解消することで、熱処理装置10間の機差を根本から減少させることができる。このため、本実施形態によれば、制御初期における熱処理装置10間の機差が小さくなり、動的な温度挙動を合わせやすくなる。また、本実施形態によれば機差の候補のパラメータに基づき、健康度の低い部品(性能が劣化している部品)を特定して部品交換することで、健康度の低い部品が他の部品の劣化及び破損を引き起こすことを未然に防ぐことができる。
【0045】
図3は本実施形態に係る情報処理システムの一例の構成図である。
図3の情報処理システムは、熱処理装置10、装置制御コントローラ200、ホストコンピュータ210、及び解析サーバ300を有する。
【0046】
熱処理装置10、装置制御コントローラ200、ホストコンピュータ210、及び解析サーバ300は、LAN(Local Area Network)などのネットワークを介して通信可能に接続される。
【0047】
熱処理装置10は、装置制御コントローラ200から出力された制御命令(レシピ)に従ってプロセスを実行する。装置制御コントローラ200は熱処理装置10を制御するためのコンピュータ構成を持ったコントローラである。装置制御コントローラ200は熱処理装置10の制御部品を制御する制御命令を熱処理装置10に出力する。
【0048】
ホストコンピュータ230は、熱処理装置10に対する指示を作業者から受け付けると共に、熱処理装置10に関する情報を作業者に提供するマンマシンインタフェース(MMI)の一例である。解析サーバ300は、理想的な仮想モデルのパラメータから、機差の候補のパラメータを後述のように特定する。理想的な仮想モデルは、熱処理装置10の装置寸法及び物性データなどを基に作成され、熱のやり取りの関係や比熱などがモデル化されている。
【0049】
また、解析サーバ300は、特定した機差の候補のパラメータ、特定した機差の候補のパラメータに対応する熱処理装置10の部品、又は、特定した機差の候補のパラメータに応じた対応を、例えばホストコンピュータ230に表示させ、作業者に確認させるようにしてもよい。
【0050】
なお、
図3の情報処理システムは一例であって、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があることは言うまでもない。
図3に示した熱処理装置10、装置制御コントローラ200、ホストコンピュータ210、及び解析サーバ300のような装置の区分は一例である。
【0051】
例えば情報処理システムは、熱処理装置10、装置制御コントローラ200、ホストコンピュータ210、及び解析サーバ300の少なくとも2つが一体化された構成や、更に分割された構成など、様々な構成が可能である。解析サーバ300は、熱処理装置10の機差を特定する情報処理装置の一例である。熱処理装置10の機差を特定する情報処理装置は、制御部100、装置制御コントローラ200、又はホストコンピュータ210により実現してもよい。
【0052】
図3に示した情報処理システムの装置制御コントローラ200、ホストコンピュータ210、及び解析サーバ300は、例えば
図4に示すハードウェア構成のコンピュータにより実現される。また、
図1及び
図2に示した熱処理装置10の制御部100は、例えば
図4に示すハードウェア構成のコンピュータにより実現される。
図4はコンピュータの一例のハードウェア構成図である。
【0053】
図4のコンピュータ500は、入力装置501、出力装置502、外部I/F(インタフェース)503、RAM(Random Access Memory)504、ROM(Read Only Memory)505、CPU(Central Processing Unit)506、通信I/F507及びHDD(Hard Disk Drive)508などを備え、それぞれがバスBで相互に接続されている。なお、入力装置501及び出力装置502は必要なときに接続して利用する形態であってもよい。
【0054】
入力装置501はキーボードやマウス、タッチパネルなどであり、作業者等が各操作信号を入力するのに用いられる。出力装置502はディスプレイ等であり、コンピュータ500による処理結果を表示する。通信I/F507はコンピュータ500をネットワークに接続するインタフェースである。HDD508は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。
【0055】
外部I/F503は、外部装置とのインタフェースである。コンピュータ500は外部I/F503を介してSD(Secure Digital)メモリカードなどの記録媒体503aの読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。ROM505は、プログラムやデータが格納された不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。RAM504はプログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。
【0056】
CPU506は、ROM505やHDD508などの記憶装置からプログラムやデータをRAM504上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0057】
図3に示した情報処理システムの装置制御コントローラ200、ホストコンピュータ210、及び解析サーバ300は、
図4に示したハードウェア構成のコンピュータ500により、各種機能を実現できる。また、
図1及び
図2に示した熱処理装置10の制御部100は、
図4に示したハードウェア構成のコンピュータ500により、各種機能を実現することができる。
【0058】
熱処理装置10の制御部100は例えば
図5に示す機能構成で実現される。
図5は本実施形態に係る熱処理装置の制御部の一例の機能構成図である。なお、
図5の機能構成図は本実施形態の説明に不要な構成について図示を省略している。
【0059】
制御部100はプログラムを実行することで、レシピ取得部102、温度センサデータ取得部104、プロセス制御部106、加熱制御部108、冷却制御部110、ヒータパワーデータ取得部116、RCUパワーデータ取得部118、レシピ出力部120、及び時系列データ出力部122を実現している。
【0060】
レシピ取得部102は、熱処理装置10で実行するプロセスのレシピを取得する。レシピ取得部102は、取得したレシピのデータ(レシピデータ)をプロセス制御部106に提供する。レシピデータには、処理容器65内の設定温度が含まれている。また、レシピ取得部102は、レシピデータをレシピ出力部120に提供する。
【0061】
温度センサデータ取得部104は、ヒータ温度センサAo(OuterT/C)及び処理容器内温度センサAi(InnerT/Cと)の時系列データである測定温度データを取得する。温度センサデータ取得部104は、測定温度データをプロセス制御部106及び時系列データ出力部122に提供する。
【0062】
プロセス制御部106は、レシピ取得部102から提供されたレシピに従って、熱処理装置10でプロセスを実行する。プロセス制御部106は加熱制御部108及び冷却制御部110を有する。加熱制御部108は、提供された処理容器65内の設定温度及び測定温度に従って、ヒータ出力部86がヒータ63に供給するヒータパワーを決定する。加熱制御部108は、ヒータパワーの制御信号をヒータ出力部86に提供することで、ヒータ出力部86からヒータ63に供給するヒータパワーを制御する。
【0063】
冷却制御部110は提供された処理容器65内の設定温度及び測定温度に従って、電力供給部91aが送風機91に供給するRCUパワーを決定する。冷却制御部110はRCUパワーの制御信号を電力供給部91aに提供することで、電力供給部91aから送風機91に供給するRCUパワーを制御する。
【0064】
ヒータパワーデータ取得部116はヒータ出力部86からヒータ63に供給したヒータパワーの時系列データを取得し、ヒータパワーデータとして時系列データ出力部122に提供する。RCUパワーデータ取得部118は電力供給部91aから送風機91に供給したRCUパワーの時系列データを取得し、RCUパワーデータとして時系列データ出力部122に提供する。
【0065】
レシピ出力部120はレシピ取得部102から提供されたレシピデータを解析サーバ300に出力する。また、時系列データ出力部122は、温度センサデータ取得部104から提供された測定温度データ、ヒータパワーデータ取得部116から提供されたヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータ取得部118から提供されたRCUパワーデータを熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データとして解析サーバ300に出力する。
【0066】
解析サーバ300は例えば
図6に示す機能構成で実現される。
図6は本実施形態に係る解析サーバの一例の機能構成図である。なお、
図6の機能構成図は本実施形態の説明に不要な構成について図示を省略している。
【0067】
解析サーバ300はプログラムを実行することで、レシピ取得部302、時系列データ取得部304、時系列データ予測部306、理想的な仮想モデル308、差分データ算出部310、調整部312、パラメータ記憶部314、機差特定部316、及び表示制御部318を実現している。
【0068】
レシピ取得部302は、レシピを実行した複数台の熱処理装置10からレシピデータを取得する。レシピ取得部302は、取得したレシピデータを時系列データ予測部306に提供する。時系列データ予測部306は、熱処理装置10から取得したレシピデータを理想的な仮想モデル308に実行させることで、レシピを実行した熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データを予測する。時系列データ予測部306が予測する熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データは、測定温度データ、ヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータを含む。このように、時系列データ予測部306は理想的な仮想モデル308を用いて、レシピを実行した熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データを予測する。
【0069】
時系列データ取得部304は、レシピを実行した複数台の熱処理装置10から熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データを取得する。差分データ算出部310は、熱処理装置10から取得した熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データと時系列データ予測部306が予測した熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データとの差分データを熱処理装置10ごとに算出する。
【0070】
具体的に、差分データ算出部310は、時系列データ取得部304が熱処理装置10から取得した熱処理装置10のヒータパワーの時系列データと時系列データ予測部306が予測した熱処理装置10のヒータパワーの時系列データとの差分データを熱処理装置10ごとに算出する。
【0071】
差分データ算出部310は、時系列データ取得部304が熱処理装置10から取得した熱処理装置10のRCUパワーの時系列データと時系列データ予測部306が予測した熱処理装置10のRCUパワーの時系列データとの差分データを熱処理装置10ごとに算出する。
【0072】
差分データ算出部310は、時系列データ取得部304が熱処理装置10から取得した熱処理装置10の測定温度の時系列データと時系列データ予測部306が予測した熱処理装置10の測定温度の時系列データとの差分データを熱処理装置10ごとに算出する。
【0073】
調整部312は、差分データ算出部310が算出した熱処理装置10ごとの差分データが小さくなるように、理想的な仮想モデル308のパラメータを、熱処理装置10ごとに調整する。調整部312は、熱処理装置10ごとの差分データを用いて、理想的な仮想モデル308のパラメータを、熱処理装置10ごとに調整する。このように、調整部312は同一のレシピを実行する熱処理装置10の温度挙動に関する時系列データと理想的な仮想モデル308の温度挙動に関する時系列データとが同化するように、理想的な仮想モデル308のパラメータを調整(最適化)する。
【0074】
パラメータ記憶部314は、調整部312による調整前後の理想的な仮想モデル308のパラメータを熱処理装置10ごとに記憶する。機差特定部316は、調整前後の理想的な仮想モデル308のパラメータの変化に基づいて、以下のように理想的な仮想モデル308のパラメータから機差の候補のパラメータを特定する。
【0075】
例えば機差特定部316は、理想的な仮想モデル308のパラメータのうち、調整前後の変化が大きいパラメータを優先して機差の候補として特定してもよい。また、機差特定部316は第1の熱処理装置10の調整前後のパラメータの変化率と第2の熱処理装置10の調整前後のパラメータの変化率との差に基づいて、第1及び第2の熱処理装置10の機差の候補のパラメータを特定してもよい。第1の熱処理装置10は基準となる熱処理装置10である基準機であってもよい。また、第2の熱処理装置10は基準機と比較する熱処理装置10である比較機であってもよい。
【0076】
表示制御部318は、機差特定部316が特定した機差の候補のパラメータを、例えばホストコンピュータ230に表示させる。表示制御部318は、機差特定部316が特定した機差の候補のパラメータに対応する熱処理装置10の部品、又は、特定した機差の候補のパラメータに応じた対応を、例えばホストコンピュータ230に表示させてもよい。
【0077】
図7は本実施形態に係る情報処理システムの処理手順の一例を表したフローチャートである。ここでは、実機である第1の熱処理装置10(以下、基準機と呼ぶ)及び実機である第2の熱処理装置10(以下、比較機と呼ぶ)の機差の候補のパラメータを特定する例を説明する。
【0078】
ステップS10において、基準機、比較機、及び理想的な仮想モデル308は同一のレシピに従ってプロセスを実行する。解析サーバ300は、同一のレシピを実行した基準機及び比較機から測定温度データ、ヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータの時系列データを取得する。また、解析サーバ300は基準機及び比較機と同一のレシピを理想的な仮想モデル308に実行させることで、基準機及び比較機の測定温度データ、ヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータの時系列データを予測する。
【0079】
ステップS12において、解析サーバ300は基準機及び理想的な仮想モデル308の測定温度データ、ヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータの時系列データごとに差分データを算出する。また、解析サーバ300は比較機及び理想的な仮想モデル308の測定温度データ、ヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータの時系列データごとに差分データを算出する。
【0080】
なお、ステップS12で算出した測定温度データ、ヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータの差分データは、標準化などの前処理を行い、後述の評価関数f(p)における影響力を均一にするように調整してもよい。
【0081】
ステップS14において、解析サーバ300は以下のような差分データの二乗和を評価関数f(p)として用いる。評価関数f(p)の変数は、測定温度データ、ヒータパワーデータ、及びRCUパワーデータの差分データdとなる。解析サーバ300は評価関数f(p)が最小になるように、理想的な仮想モデル308のパラメータを最適化(調整)する。
【0082】
【0083】
ステップS16において、解析サーバ300はステップS14の最適化の計算が収束したか否かを判定する。解析サーバ300はステップS14の最適化の計算が収束したと判定するまで、ステップS12~S16の処理を繰り返す。ステップS12~S16の処理により、解析サーバ300は同一のレシピを実行する基準機の状態と同化するように理想的な仮想モデル308のパラメータを最適化(調整)できる。また、ステップS12~S16の処理により、解析サーバ300は同一のレシピを実行する比較機の状態と同化するように理想的な仮想モデル308のパラメータを最適化(調整)できる。
【0084】
ステップS14及びS16の処理は、例えば評価関数f(p)の勾配を用いる方法、遺伝的アルゴリズムを用いる方法、ベイズ最適化を用いる方法など、様々考えられる。評価関数f(p)の勾配を用いる方法では、最急降下法、ニュートン法、準ニュートン法などの手法を用いることができる。解析サーバ300は評価関数f(p)の勾配に従い解を更新していき、解の変化あるいは勾配の変化(解の更新度合い)が、学習前に定めた閾値(収束判定条件)よりも小さくなったときの解を最適解として出力する。また、遺伝的アルゴリズムを用いる方法では、ランダムに生成したN個の解の中で、評価関数f(p)が良好な値を示す解をいくつか選択(淘汰)し、それらの解の値を一部違う値に変更(突然変異)させたり、解同士を交換(交叉)させたりすることで、解の良好さを保ちつつ、より適した解を探索する。ベイズ最適化を用いる方法では、代表的な確率モデルとして、ブラックボックスのサロゲート関数としてガウス過程回帰を用いるガウス過程的アプローチと、全てのハイパーパラメータが独立であると仮定して、カーネル密度推定により確率密度関数の推定を行うTree-structured Parzen estimator(TPE)によるアプローチがある。ガウス過程によるアプローチでは、カーネル関数と観測データから分散共分散行列を求め、未知の点での平均と分散を推定する。続いて、獲得関数が最大の点を次の探索点として、その点での観測値を調べる。獲得関数はサロゲート関数の平均と分散で与えられる。平均を用いることで取得済みの観測値を活用しつつ、分散を用いることで未知の点を探索することができる。一方、TPEによるアプローチは、スコア上位群と下位群でのパラメータの確率密度関数をカーネル密度推定により推定し、二郡の密度比から次の探索点を決定する。またある最適化問題の特徴を類似した他の最適化問題の特徴に転移させることで、少ないデータ点でも精度の高いサロゲートモデルを構築し、効率よく最適解を探索する、マルチタスクベイズ最適化と呼ばれる最適化手法を用いることも、モデル実運用時のパラメータ最適化に対して有効だと考えられる。
【0085】
ステップS14の最適化の計算が収束したと判定すると、解析サーバ300はステップS18において、最適化(調整)の前後のパラメータの変化に基づき、機差の候補を例えば
図8に示すように特定する。
【0086】
図8は機差の候補を特定する処理手順の一例を表したフローチャートである。
図9は機差の候補を特定する処理の一例の説明図である。
図9は仮想モデル308のパラメータが4つの例を示したが、4つ以外であってもよい。
【0087】
ステップS30において、解析サーバ300は理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率を、基準機及び比較機のそれぞれで算出する。理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率CRは、以下の式により算出できる。
【0088】
CR=((popt-pbefore)/pbefore)
pbeforeは最適化(調整)前のパラメータである。また、poptは最適化(調整)後のパラメータである。ここで、poptは以下の式で表される。
【0089】
【0090】
ステップS30の処理では、例えば
図9(A)に示すように、理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率を、基準機及び比較機のそれぞれで算出する。
【0091】
なお、
図9(A)では理想的な仮想モデル308のパラメータの例として、部品名「熱容量1」の密度、部品名「熱容量2」の高さ、部品名「熱容量3」の面積、及び部品名「熱伝導1」の熱交換面積を示したが、例えば位置、接触熱抵抗、接触熱コンダクタンス、ゲインなどであってもよい。
【0092】
ステップS32において、解析サーバ300はステップS30で基準機及び比較機ごとに算出した理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率の差の絶対値を算出する。ステップS32の処理では、例えば
図9(B)に示したように各パラメータの変化率の差の絶対値を算出できる。
図9(B)では、基準機の状態と同化するように最適化(調整)された理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率を「基準機の変化率」と記載している。また、
図9(B)では、比較機の状態と同化するように最適化(調整)された理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率を「比較機の変化率」と記載している。
【0093】
ステップS34において、解析サーバ300はステップS32で算出した理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率の差の絶対値が大きい上位k個のパラメータを機差の候補のパラメータとして特定する。ステップS34の処理では、例えば
図9(C)に示したように変化率の差の絶対値が大きい順に理想的な仮想モデル308のパラメータをソートし、上位k個のパラメータを機差の候補として特定できる。
【0094】
解析サーバ300は、ステップS34においてソートした結果を例えば
図10(A)に示すように表示して作業者に提示してもよい。
図10は、作業者に提示する表示イメージの一例を示した図である。
【0095】
図10(A)は、変化率の差の絶対値が大きい順に、理想的な仮想モデル308のパラメータの変化率の差の絶対値を表したグラフ例である。
図10(A)のグラフを参照した作業者は、理想的な仮想モデル308のパラメータ「A:熱容量1の密度」を、基準機と比較機との機差の1番目の候補として特定できる。また、
図10(A)のグラフを参照した作業者は、理想的な仮想モデル308のパラメータ「D:熱伝導1の熱交換面積」を、基準機と比較機との機差の2番目の候補として特定できる。
【0096】
解析サーバ300は、ステップS30において基準機及び比較機のそれぞれについて算出した理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率を、例えば
図10(B)に示すように表示して作業者に提示してもよい。
図10(B)は、基準機について算出した理想的な仮想モデル308の最適化(調整)前後のパラメータの変化率を表したグラフ例である。
図10(B)のグラフを参照した作業者は、基準機と理想的な仮想モデル308との状態の差を、最適化(調整)前後のパラメータの変化率により判断できる。例えば
図10(B)のグラフを参照した作業者は、基準機と理想的な仮想モデル308との状態の差として、パラメータ「B:熱容量2の高さ」に1番大きな差があることを判断できる。
【0097】
なお、解析サーバ300は例えば
図11に示すようなテーブルを用いて、機差の候補のパラメータに対応する部品を例えばホストコンピュータ230に表示させ、作業者に確認させるようにしてもよい。
図11は理想的な仮想モデルのパラメータと熱処理装置の部品とを対応付けるテーブルの一例の構成図である。
【0098】
例えば1D-CAEのシミュレーションソフトウェアの場合は、各部品で設定可能なパラメータが決まっているため、各部品で設定可能なパラメータを用いることで
図11に示すようなテーブルを作成できる。例えば部品「熱容量1」のパラメータ「密度」が基準機と比較機との機差の1番目の候補として特定された場合、解析サーバ300は「熱容量1」の部品を作業者に提示できる。
【0099】
また、解析サーバ300は例えば
図12に示すようなテーブルを用いて、機差の要因候補に応じた対応を例えばホストコンピュータ230に表示させ、作業者に確認させるようにしてもよい。
図12は機差の要因候補と対応とを対応付けるテーブルの一例の構成図である。
【0100】
例えば機差の要因候補と、その要因候補に対する対応との関係は、作業者が考えて
図12のテーブルに設定しておいてもよいし、運用を続けることで蓄積されるデータから自動作成されてもよい。
【0101】
本実施形態では、同一のレシピを実行する実機の温度挙動に関する時系列データと理想的な仮想モデルが予測する温度挙動に関する時系列データとの差分データが小さくなるように理想的な仮想モデルのパラメータを最適化(調整)することで、実機の状態と同化させた仮想モデル308に最適化(調整)する。
【0102】
実機の状態と同化した仮想モデル308のパラメータは最適化(調整)前後の変化率が大きいほど、理想的な熱処理装置10の状態からずれていると言えるため、熱処理装置10の機差の候補の特定に利用できる。
【0103】
本実施形態に係る情報処理システムは、デジタルツイン技術を利用することで、熱処理装置10の機差の候補を特定できる。上記の実施形態では、解析サーバ300が熱処理装置10の機差の候補を特定していた。熱処理装置10の機差の候補を特定する処理は、熱処理装置10の制御部100、装置制御コントローラ200、又はホストコンピュータ210に実行させてもよい。また、熱処理装置10の機差の候補を特定する処理は、
図13に示すような熱処理装置10の解析サーバ部400に実行させてもよい。
図13は、本実施形態に係る熱処理装置を概略的に示す縦断面図である。
図13の熱処理装置10は
図1の構成に加えて、解析サーバ部400を有する。解析サーバ部400は解析サーバ300と同様な処理を行う。
【0104】
なお、上記の情報処理システムは一例であり、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があることは言うまでもない。例えば情報処理システムは、熱処理装置10、装置制御コントローラ200、ホストコンピュータ210、及び解析サーバ300の少なくとも2つが一体化された構成や、更に分割された構成など、様々な構成が可能である。
【0105】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0106】
10 熱処理装置
63、63-1~63-10 ヒータ
65 処理容器
100 制御部
200 装置制御コントローラ
210 ホストコンピュータ
300 解析サーバ
302 レシピ取得部
304 時系列データ取得部
306 時系列データ予測部
308 理想的な仮想モデル
310 差分データ算出部
312 調整部
314 パラメータ記憶部
316 機差特定部
318 表示制御部
400 解析サーバ部
500 コンピュータ
Ai1~Ai10 処理容器内温度センサ
W ウエハ