(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108657
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】作業機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20240805BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
E02F9/20 K
E02F9/20 N
E02F9/20 M
E02F9/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013125
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】平岡 京
(72)【発明者】
【氏名】山本 透
(72)【発明者】
【氏名】洪水 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】小岩井 一茂
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB01
2D003AB02
2D003AB03
2D003AB04
2D003BA01
2D003BA02
2D003BA04
2D003BA06
2D003CA02
2D003DB05
2D003DC07
2D015HA03
(57)【要約】
【課題】オペレータの熟練度に応じて適切な作業支援を行いながらオペレータと協調して作業機械を操作することが可能な制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、作業操作装置40と、制御部80とを備える。制御部80は、作業者の操作を支援するアシスト率に従って、作業者による指定操作に対応する操作量である指定操作量と、目標動作に沿って作業アタッチメント14を動かすための支援操作の操作量である支援操作量とをそれぞれ変更することによって、作業駆動装置に入力される指令の入力量を設定して作業アタッチメント14を制御し、作業アタッチメント14の実動作の検出結果から目標動作と実動作との差分が小さくなるようにアシスト率kを設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業装置と、入力される指令に応じて前記作業装置が所定の作業動作を行うように当該作業装置を動かすことが可能な作業駆動装置と、を備えた作業機械を制御する制御装置であって、
作業者が前記作業装置の動きを指定するための操作である指定操作が入力される作業操作装置と、
前記作業装置の動きの目標である目標動作に関する情報を取得する目標動作取得部と、
前記作業装置の実際の動きである実動作を検出可能な実動作検出部と、
前記作業者の操作を支援する割合である操作支援率に従って、前記指定操作に対応する操作量である指定操作量、および前記目標動作に沿って前記作業装置を動かすための支援操作の操作量である支援操作量をそれぞれ変更することによって、前記作業駆動装置に入力される前記指令の入力量を設定して、前記作業装置を制御する制御部であって、前記実動作の検出結果から前記目標動作と前記実動作との差分が小さくなるように前記操作支援率を設定する制御部と、
を備える、作業機械の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、時刻に関する変数をt、前記指定操作量をuh(t)、前記支援操作量をuc(t)、前記操作支援率をk、前記作業駆動装置に入力される前記指令の入力量をu(t)とすると、u(t)=k・uc(t)+(1-k)・uh(t)の関係を満たすように前記入力量を設定して前記作業装置を制御する、請求項1に記載の作業機械の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記指定操作および前記支援操作の双方に対してPID制御則に基づく比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインをそれぞれ割り当てることで、前記指定操作量uh(t)および前記支援操作量uc(t)を定義する、請求項2に記載の作業機械の制御装置。
【請求項4】
前記制御部によって設定された前記操作支援率を表示することが可能な表示部を更に備える、請求項1乃至3の何れか1項に記載の作業機械の制御装置。
【請求項5】
前記表示部は、前記作業操作装置に前記指定操作が入力されるたびに前記制御部によって設定された前記操作支援率の推移を表示することが可能である、請求項4に記載の作業機械の制御装置。
【請求項6】
前記作業操作装置を操作する作業者の個人識別情報と、当該個人識別情報を有する作業者である特定作業者に対応する前記実動作の情報と、前記特定作業者に対して設定された前記操作支援率とが互いに関連付けられた情報である関連情報を記憶する記憶部を更に備え、
前記目標動作取得部は、前記関連情報のうち前記操作支援率が所定の閾値よりも低い前記特定作業者における前記実動作の情報を、前記目標動作に関する情報として取得する、請求項1乃至3の何れか1項に記載の作業機械の制御装置。
【請求項7】
前記作業機械は油圧ショベルであり、当該油圧ショベルは、機体をさらに含み、前記作業装置は、前記機体に対して起伏可能となるように当該機体に連結されるブームと、前記ブームに対して上下方向に回動可能となるように当該ブームに連結されるアームと、前記アームの先端部に連結されるバケットと、を含み、前記作業駆動装置は、前記ブームを起伏させるブーム駆動器と、前記ブームに対して前記アームを回動させるアーム駆動器と、を含み、前記制御部は、前記作業駆動装置のうちの少なくとも前記ブーム駆動器を前記操作支援率に基づいて制御するように構成されている、請求項1乃至3の何れか1項に記載の作業機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の動作を制御するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベル等の作業機械において、オペレータの操作をサポートするための装置が知られている。油圧ショベルは、機体と、前記機体に対して相対移動可能な作業アタッチメントとを有する。作業アタッチメントは、例えば、ブームと、アームと、バケットとを含む。オペレータが作業アタッチメントを操作することで、作業現場において掘削作業などが行われる。
【0003】
例えば特許文献1には、油圧ショベルにおいて、特定操作を行うオペレータの操作タイプに応じてサポートを行う技術が開示されている。具体的に、当該技術では、油圧ショベルは、運転データ取得部と、加減速データ特定部と、評価用データ取得部と、評価値演算部と、操作タイプ判定部と、表示制御部と、を備える。加減速データ特定部は、運転データのうち加速期間の加速データと減速期間の減速データとをそれぞれ特定する。評価用データ取得部は、加速評価用データと減速評価用データとをそれぞれ取得する。評価値演算部は、加速評価用データに基づいて加速評価値を演算すると共に減速評価用データに基づいて減速評価値を演算する。操作タイプ判定部は、加速評価値と減速評価値とに基づいてオペレータの操作タイプを判定する。表示制御部は、操作タイプに対応付けられたサポート情報を含む操作支援画像を出力する。加速評価値及び減速評価値に基づいてオペレータの操作タイプが判定され、当該操作タイプに対応するサポート情報がオペレータに通知される。前記サポート情報は、前記オペレータが注視すべき機体の状態を提示するための情報であって特定操作のスキルを間接的に向上させるための情報である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載される制御では、加速評価値及び減速評価値に基づいてオペレータの操作タイプが判定されるが、作業アタッチメントを操作する際の加速、減速の程度からは、必ずしもオペレータの熟練者、未熟者を正確に判定することはできない。このため、オペレータにとって適切なサポートを得ることができないという問題がある。
【0006】
本発明は、オペレータの熟練度に応じて適切な作業支援を行いながらオペレータと協調して作業機械を操作することが可能な作業機械の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるのは、作業装置と、入力される指令に応じて前記作業装置が所定の作業動作を行うように当該作業装置を動かすことが可能な作業駆動装置と、を備えた作業機械を制御する制御装置である。当該制御装置は、作業者が前記作業装置の動きを指定するための操作である指定操作が入力される作業操作装置と、前記作業装置の動きの目標である目標動作に関する情報を取得する目標動作取得部と、前記作業装置の実際の動きである実動作を検出可能な実動作検出部と、前記作業者の操作を支援する割合である操作支援率に従って、前記指定操作に対応する操作量である指定操作量、および前記目標動作に沿って前記作業装置を動かすための支援操作の操作量である支援操作量をそれぞれ変更することによって、前記作業駆動装置に入力される前記指令の入力量を設定して、前記作業装置を制御する制御部であって、前記実動作の検出結果から前記目標動作と前記実動作との差分が小さくなるように前記操作支援率を設定する制御部と、を備える。
【0008】
本構成によれば、制御部が操作支援率を実動作に応じて自動で設定することにより、作業者の熟練度に見合った操作の支援を行うことが可能となる。具体的に、非熟練者が目標動作と大きく異なる操作を行った場合には、目標動作と実動作との差分が大きくなるため、操作支援率も大きくなる。この結果、制御部による作業機械の操作支配が強い状態となり、非熟練者でも安心して操作を行うことができる。一方、熟練者が目標動作と同じ、もしくは目標動作に近い操作を行うと、目標動作と実動作との差分が小さくなるため、操作支援率が小さくなる。この結果、制御部による作業機械の操作支配が小さくなり、熟練作業者が自らの操作に基づいて操縦可能な状態となる。
【0009】
上記の構成において、前記制御部は、時刻に関する変数をt、前記指定操作量をuh(t)、前記支援操作量をuc(t)、前記操作支援率をk、前記作業駆動装置に入力される前記指令の入力量をu(t)とすると、u(t)=k・uc(t)+(1-k)・uh(t)の関係を満たすように前記入力量を設定して前記作業装置を制御するものでもよい。
【0010】
上記の構成において、前記制御部は、前記指定操作および前記支援操作の双方に対してPID制御則に基づく比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインをそれぞれ割り当てることで、前記指定操作量uh(t)および前記支援操作量uc(t)を定義するものでもよい。
【0011】
本構成によれば、制御部による支援操作のみならず、作業者による指定操作をもPID制御器と見做すことで、操作支援率を精度良く演算することができる。
【0012】
上記の構成において、前記制御部によって設定された前記操作支援率を表示することが可能な表示部を更に備えるものでもよい。
【0013】
本構成によれば、作業者が表示部に表示される操作支援率を確認することで、自らの熟練度を認知することができる。
【0014】
上記の構成において、前記表示部は、前記作業操作装置に前記指定操作が入力されるたびに前記制御部によって設定された前記操作支援率の推移を表示することが可能であるものでもよい。
【0015】
本構成によれば、作業者が表示部に表示される操作支援率の推移を確認することで、自らの熟練度(技量レベル)の変化、上達具合を認知することができる。また、作業を管理する管理者は、作業者の熟練度を把握して、作業指導に反映することができる。
【0016】
上記の構成において、前記作業操作装置を操作する作業者の個人識別情報と、当該個人識別情報を有する作業者である特定作業者に対応する前記実動作の情報と、前記特定作業者に対して設定された前記操作支援率とが互いに関連付けられた情報である関連情報を記憶する記憶部を更に備え、前記目標動作取得部は、前記関連情報のうち前記操作支援率が所定の閾値よりも低い前記特定作業者における前記実動作の情報を、前記目標動作に関する情報として取得するものでもよい。
【0017】
本構成によれば、熟練者に相当する特定作業者の操作結果から目標動作を設定することで、熟練者に対しては、目標動作を自身の好みに応じた動作に設定することができる。また、非熟練者に対しては、熟練者を目標とするように目標動作を設定することができる。
【0018】
上記の構成において、前記作業機械は油圧ショベルであり、当該油圧ショベルは、機体をさらに含み、前記作業装置は、前記機体に対して起伏可能となるように当該機体に連結されるブームと、前記ブームに対して上下方向に回動可能となるように当該ブームに連結されるアームと、前記アームの先端部に連結されるバケットと、を含み、前記作業駆動装置は、前記ブームを起伏させるブーム駆動器と、前記ブームに対して前記アームを回動させるアーム駆動器と、を含み、前記制御部は、前記作業駆動装置のうちの少なくとも前記ブーム駆動器を前記操作支援率に基づいて制御するように構成されているものでもよい。
【0019】
本構成によれば、油圧ショベルのブーム操作を操作支援率に応じて支援することができるため、例えば、整地作業などにおいて、作業者はブーム以外のアーム、バケットの操作に重点をおいて作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オペレータの熟練度に応じて適切な作業支援を行いながらオペレータと協調して作業機械を操作することが可能な作業機械の制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る作業機械の例である油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】前記油圧ショベルに搭載される油圧回路及び制御部を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置が行う操作アシスト処理を示すブロック線図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置が行う操作アシスト処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図4の操作アシスト処理の一部を詳しく示すフローチャートである。
【
図6】作業機械が土砂の均し作業を行う様子を示す模式図である。
【
図7】作業機械が土砂の均し作業を行う様子を示す模式図である。
【
図8】作業機械が土砂の均し作業を行う様子を示す模式図である。
【
図9】作業機械が土砂の均し作業を行う様子を示す模式図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置によって演算された、オペレータの熟練度に応じたアシスト率を示すグラフである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る作業機械の制御装置によって演算された、中レベルの熟練度を有するオペレータのアシスト率の推移を示すグラフである。
【
図12】本発明の第1変形実施形態における、目標入力値を説明するための模式図である。
【
図13】本発明の第2変形実施形態における、
図5に対応するフローチャートである。
【
図14】本発明の第2変形実施形態に係る作業機械の制御装置が行う操作アシスト処理を示すブロック線図である。
【
図15】本発明の第3変形実施形態における、目標入力値を説明するための熟練者データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の好ましい一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る油圧ショベル1(作業機械)を示す側面図である。
図2は、油圧ショベル1に搭載される油圧回路及び制御部を示すブロック図である。当該油圧ショベル1には、本実施形態に係る制御装置が搭載される。油圧ショベル1は、地面Gの上を走行可能な下部走行体10と、下部走行体10に搭載される上部旋回体12と、上部旋回体12に搭載される作業アタッチメント14(作業装置)と、作業駆動装置と、を備える。
【0024】
下部走行体10及び上部旋回体12は、作業アタッチメント14を支持する機体を構成する。上部旋回体12は、旋回フレーム16と、その上に搭載される複数の要素と、を有する。前記複数の要素は、エンジンを収容するエンジンルーム17及び運転室であるキャブ18を含む。
【0025】
作業アタッチメント14は、掘削作業のための動作である掘削作業動作や転圧作業のための動作である転圧作業動作などを行うことが可能である。前記掘削作業動作は、地盤や土砂を掘削する動作であり、前記転圧作業動作は、前記作業アタッチメント14に含まれる転圧作業部位を施工面に押付けながら、つまり施工面に転圧力を与えながら、当該転圧作業部位を前記施工面に沿って移動させることにより、地盤を固める動作である。
【0026】
作業アタッチメント14は、ブーム21、アーム22及びバケット24を含む。ブーム21は、基端部であるブームフットと、その反対側の先端部であるブームトップと、を有する。前記ブームフットはブーム21が前記機体に対して起伏可能すなわち上下方向に回動可能となるように旋回フレーム16の前端にブームフットピン23Bを介して連結される。アーム22は、基端部であるアームフットと、その反対側の先端部であるアームトップと、を有する。前記アームフットはアーム22がブーム21に対して上下方向に回動可能となるようにブーム21の前記先端部にアームフットピン23Aを介して連結される。バケット24は、アーム22に対して上下方向に回動可能となるように前記アームトップにバケットピン23Cを介して回動可能に取付けられる。
【0027】
前記作業駆動装置は、入力される指令に応じて作業アタッチメント14が所定の作業動作を行うように当該作業アタッチメント14を動かすことが可能である。当該作業駆動装置は、
図1及び
図2に示されるブームシリンダ26、アームシリンダ27及びバケットシリンダ28を含む。ブームシリンダ26は、ブーム駆動器であり、上部旋回体12と前記ブーム21との間に介在し、かつ、上部旋回体12に対してブーム21を起伏方向に回動させるように伸縮する。アームシリンダ27は、アーム駆動器であり、ブーム21とアーム22との間に介在し、かつ、アーム22をブーム21に対して回動させるように伸縮する。バケットシリンダ28は、バケット駆動器であり、アーム22に対してバケット24を上下方向に回動させるように伸縮する。
【0028】
ブームシリンダ26、アームシリンダ27及びバケットシリンダ28は、いずれも伸縮可能な油圧シリンダであり、互いに近似した構成を有する。代表的にアームシリンダ27について説明すると、前記アームシリンダ27は、ヘッド側室及びその反対側のロッド側室を有する。アームシリンダ27は、前記ヘッド側室に作動油が供給されることにより伸長してアーム22をアーム引き方向(前記アームトップがブーム21に近づく方向)に動かすとともに前記ロッド側室内の作動油を排出する。一方、アームシリンダ27は、前記ロッド側室に作動油が供給されることにより収縮してアーム22をアーム押し方向(前記アームトップがブーム21から離れる方向)に動かすとともに前記ヘッド側室内の作動油を排出する。
【0029】
図2は、油圧ショベル1に搭載される油圧回路30、作業操作装置40、複数のセンサ及びこれらに電気的に接続される制御部80などを示し、これらは前記制御装置を構成する要素を含む。制御部80は、例えばマイクロコンピュータからなり、油圧回路30に含まれる各要素の作動を制御する。
【0030】
油圧回路30は、ブームシリンダ26、アームシリンダ27及びバケットシリンダ28に加え、ポンプユニット32と、ブーム制御弁36と、アーム制御弁37と、バケット制御弁38と、ブーム流量操作弁76と、アーム流量操作弁77と、バケット流量操作弁78と、を含む。
【0031】
ポンプユニット32は、複数の油圧ポンプを含み、当該複数の油圧ポンプは、少なくとも一つのメインポンプとパイロットポンプとを含む。前記複数の油圧ポンプは、駆動源である図略のエンジンに接続され、当該エンジンが出力する動力により駆動されて作動油を吐出する。
【0032】
ブーム制御弁36は、ポンプユニット32とブームシリンダ26との間に介在し、ポンプユニット32からブームシリンダ26に供給される作動油の方向及び流量(ブーム流量)を変化させるように開閉動作する。ブーム制御弁36は、ブーム上げパイロットポート及びブーム下げパイロットポートを含むパイロット操作式の方向切換弁により構成され、前記ブーム上げパイロットポートにパイロット圧が入力されるとブームシリンダ26のへッド側室に当該パイロット圧の大きさに対応した流量(ブーム上げ流量)で作動油が供給されることを許容するように開弁し、前記ブーム下げパイロットポートにパイロット圧が入力されるとブームシリンダ26のロッド側室に当該パイロット圧の大きさに対応した流量(ブーム下げ流量)で作動油が供給されることを許容するように開弁する。
【0033】
アーム制御弁37は、ポンプユニット32とアームシリンダ27との間に介在し、ポンプユニット32からアームシリンダ27に供給される作動油の方向及び流量(アーム流量)を変化させるように開閉動作する。アーム制御弁37は、アーム引きパイロットポート及びアーム押しパイロットポートを含むパイロット操作式の方向切換弁により構成され、前記アーム引きパイロットポートにパイロット圧が入力されるとアームシリンダ27の前記へッド側室に当該パイロット圧の大きさに対応した流量(アーム引き流量)で作動油が供給されることを許容するように開弁し、前記アーム押しパイロットポートにパイロット圧が入力されるとアームシリンダ27の前記ロッド側室に当該パイロット圧の大きさに対応した流量(アーム押し流量)で作動油が供給されることを許容するように開弁する。
【0034】
バケット制御弁38は、ポンプユニット32とバケットシリンダ28との間に介在し、ポンプユニット32からバケットシリンダ28に供給される作動油の方向及び流量(バケット流量)を変化させるように開閉動作する。バケット制御弁38は、バケット掘削パイロットポート及びバケット開きパイロットポートを含むパイロット操作式の方向切換弁により構成され、前記バケット掘削パイロットポートにパイロット圧が入力されるとバケットシリンダ28のへッド側室に当該パイロット圧の大きさに対応した流量で作動油が供給されることを許容するように開弁し、前記バケット開きパイロットポートにパイロット圧が入力されるとバケットシリンダ28のロッド側室に当該パイロット圧の大きさに対応した流量で作動油が供給されることを許容するように開弁する。
【0035】
ブーム流量操作弁76は、図示されないブーム上げ流量操作弁とブーム下げ流量操作弁とを有し、それぞれが電磁弁(例えば電磁比例減圧弁または電磁逆比例減圧弁)により構成される。前記ブーム上げ流量操作弁は、前記パイロットポンプとブーム制御弁36の前記ブーム上げパイロットポートとの間に介在し、制御部80から前記ブーム上げ流量操作弁に入力されるブーム上げ指令信号に対応した大きさのパイロット圧が前記ブーム上げパイロットポートに入力されることを許容するように開弁する。同様に、前記ブーム下げ流量操作弁は、前記パイロットポンプと前記ブーム制御弁36の前記ブーム下げパイロットポートとの間に介在し、制御部80から前記ブーム下げ流量操作弁に入力されるブーム下げ指令信号に対応した大きさのパイロット圧が前記ブーム下げパイロットポートに入力されることを許容するように開弁する。
【0036】
アーム流量操作弁77は、図示されないアーム引き流量操作弁及びアーム押し流量操作弁を有し、それぞれが電磁弁(例えば電磁比例減圧弁または電磁逆比例減圧弁)により構成される。前記アーム引き流量操作弁は、前記パイロットポンプとアーム制御弁37の前記アーム引きパイロットポートとの間に介在し、制御部80から前記アーム引き流量操作弁に入力されるアーム引き指令信号に対応した大きさのパイロット圧が前記アーム引きパイロットポートに入力されることを許容するように開弁する。同様に、前記アーム押し流量操作弁は、前記パイロットポンプとアーム制御弁37の前記アーム押しパイロットポートとの間に介在し、制御部80から前記アーム押し流量操作弁に入力されるアーム押し指令信号に対応した大きさのパイロット圧が前記アーム押しパイロットポートに入力されることを許容するように開弁する。
【0037】
バケット流量操作弁78は、図示されないバケット掘削流量操作弁及びバケット開き流量操作弁を有し、それぞれが電磁弁(例えば電磁比例減圧弁または電磁逆比例減圧弁)により構成される。前記バケット掘削流量操作弁は、前記パイロットポンプとバケット制御弁38の前記バケット掘削パイロットポートとの間に介在し、制御部80から前記バケット掘削流量操作弁に入力されるバケット掘削指令信号に対応した大きさのパイロット圧が前記バケット掘削パイロットポートに入力されることを許容するように開弁する。同様に、前記バケット開き流量操作弁は、前記パイロットポンプとバケット制御弁38の前記バケット開きパイロットポートとの間に介在し、制御部80から前記バケット開き流量操作弁に入力されるバケット開き指令信号に対応した大きさのパイロット圧が前記バケット開きパイロットポートに入力されることを許容するように開弁する。
【0038】
作業操作装置40は、作業アタッチメント14の動き、更にその動作速度を指定するための作業操作(指定操作)の入力を受け、当該作業操作に対応した速度指令信号を制御部80に入力する。本実施形態に係る作業操作装置40は、
図2に示されるブーム操作器46、アーム操作器47及びバケット操作器48を含む。
【0039】
ブーム操作器46は、ブームレバーを含み、当該ブームレバーに与えられるブーム操作、具体的には、ブーム21をブーム上げ方向及びブーム下げ方向にそれぞれ動かすためのブーム上げ操作及びブーム下げ操作、に対応したブーム上げ操作信号又はブーム下げ操作信号を生成して制御部80に入力する。
【0040】
アーム操作器47は、アームレバーを含み、当該アームレバーに与えられるアーム操作、具体的には、アーム22をアーム引き方向及びアーム押し方向にそれぞれ動かすためのアーム引き操作及びアーム押し操作、に対応したアーム引き操作信号又はアーム押し操作信号を生成して制御部80に入力する。
【0041】
バケット操作器48は、バケットレバーを含み、当該バケットレバーに与えられるバケット操作、具体的には、バケット24をバケット掘削方向及びバケット開き方向にそれぞれ動かすためのバケット掘削操作及びバケット開き操作、に対応したバケット掘削操作信号又はバケット開き操作信号を生成して制御部80に入力する。
【0042】
前記複数のセンサは、複数のストロークセンサ66~68を含む。前記複数のストロークセンサ66~68は、作業アタッチメント14の姿勢を検出するために当該作業アタッチメント14に取付けられるものであり、詳しくは、ブームシリンダストロークセンサ66、アームシリンダストロークセンサ67及びバケットシリンダストロークセンサ68である。これらは、ブームシリンダ26、アームシリンダ27及びバケットシリンダ28のそれぞれのストローク長の検出、換言すれば、シリンダチューブに対するシリンダロッドのストローク方向の相対位置の検出、を行う。
【0043】
前記複数のセンサのそれぞれは、検出した物理量に対応する検出信号を生成し、当該検出信号を制御部80に入力する。
【0044】
油圧ショベル1は、入力部45と、表示部49とを更に備える。
【0045】
入力部45は、キャブ18内に配置され、各種の情報の入力を受け付ける。一例として、入力部45は、各種の入力ボタン、スイッチや表示部49に含まれるタッチパネルなどを有する。特に、入力部45は、後記の操作アシスト処理において参照される情報の入力を受け付けることが可能とされており、前記操作アシストを開始するための開始信号などの入力を受け付ける。また、入力部45は、オペレータ(作業者)が携帯するIDカードと非接触通信を行うことが可能であり、前記IDカードからオペレータのID番号(個人識別情報)の入力を受け付けることも可能である。受け付けられた情報は、制御部80の記憶部804に記憶される。
【0046】
表示部49は、キャブ18内に設けられた液晶ディスプレイであり、油圧ショベル1の作動、制御装置の制御結果、演算結果などに関する各種の情報を表示して、オペレータに報知する。この際、表示部49は、制御部80より所定の表示指令信号を受け入れ、当該表示指令信号に応じて、オペレータに報知する各種の情報を表示する。当該情報には、オペレータの熟練度を示すアシスト率などが含まれる。
【0047】
制御部80は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部80は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部801、目標軌跡決定部802(目標動作取得部)、アシスト率演算部803および記憶部804の各機能部を備えるように機能する。これらの機能部は、実体を有するものではなく、前記制御プログラムによって実行される機能の単位に相当する。なお、制御部80のすべてまたは一部は、油圧ショベル1内に設けられるものに限定されず、油圧ショベル1がリモート制御される場合には、油圧ショベル1とは異なる位置に配置されても良い。また、前記制御プログラムは遠隔地のサーバ(管理装置)やクラウドなどから油圧ショベル1内の制御部80に送信され実行されるものでもよいし、前記サーバーやクラウド上で前記制御プログラムが実行され、生成された各種の指令信号が油圧ショベル1に送信されるものでもよい。
【0048】
駆動制御部801は、ブーム操作器46、アーム操作器47及びバケット操作器48からそれぞれ入力される操作指令信号に基づき、基本制御を行う。当該基本制御は、前記ブーム上げ操作指令信号または前記ブーム下げ操作指令信号に対応した速度でブームシリンダ26を伸縮させる(つまりブーム21に起伏動作をさせる)ためのブーム上げ指令信号又はブーム下げ指令信号を生成してブーム流量操作弁76に入力することと、前記アーム引き操作指令信号または前記アーム押し操作指令信号に対応した速度でアームシリンダ27を伸縮させる(つまりアーム22に回動動作をさせる)ためのアーム引き指令信号又はアーム押し指令信号を生成してアーム流量操作弁77に入力することと、前記バケット掘削操作指令信号または前記バケット開き操作指令信号に対応した速度でバケットシリンダ28を伸縮させる(つまりバケット24に回動動作をさせる)ためのバケット掘削指令信号又はバケット開き指令信号を生成してバケット流量操作弁78に入力することと、を含む。
【0049】
目標軌跡決定部802は、後記の操作アシスト処理において、作業アタッチメント14の動きの目標である目標動作に関する情報を取得する。具体的に、目標軌跡決定部802は、作業アタッチメント14のバケット24の先端25の移動先(目標値)に関する情報を取得する。一例として、オペレータが入力部45を通じて、前記目標値を入力する。更に、目標軌跡決定部802は、取得した前記目標値に基づいて、バケット24の先端25が移動する際の軌跡(目標軌跡)を決定する。当該目標軌跡の情報には、先端25とともに移動する作業アタッチメント14のブーム21、アーム22、バケット24の各々の姿勢に関する情報も含まれる。なお、上記の目標値、目標軌跡は、オペレータによって入力部45から入力されてもよい。また、予めティーチングなどによって記憶部804に記憶されてもよい。
【0050】
アシスト率演算部803は、前記操作アシスト処理において、現在のオペレータに対応するアシスト率(操作支援率)を演算する。当該アシスト率は、オペレータによる操作量と、制御部80による操作量との比率に相当する。換言すれば、前記アシスト率は、油圧ショベル1の作業アタッチメント14を動かすための指令において、制御部80がどの程度オペレータの操作を支援するかの指標を意味する。
【0051】
記憶部804は、前記アシスト処理において参照される各種のパラメータ、閾値、グラフ、データなどを格納している。
【0052】
<操作アシスト処理について>
次に、本実施形態に係る制御部80が実行する操作アシスト処理について説明する。
図3は、本実施形態に係る油圧ショベル1の制御装置が行う操作アシスト処理を示すブロック線図である。この制御系では、オペレータによる操作とこの操作を支援する制御部80(PID制御器C
1)とによって協調制御を行う。ここで、PID制御器によるアシスト率k(オペレータの操作を支援する割合)は、オペレータの操作特性や作業結果に応じて公知のFRIT(Fictitious Reference Iterative Tuning)法を用いて算出する。FRIT法では、オペレータを定量的に表現する必要があるため、定量的にオペレータの操作特性を評価し、その作業結果からオペレータをPID制御器C
2と見做す。
【0053】
図3では、アシスト率kを演算する制御部80の機能が「shared management(協調制御)」と表示されている。アシスト率kに応じて、制御部80の駆動制御部801(
図2)が前記作業駆動装置のブーム流量操作弁76、アーム流量操作弁77およびバケット流量操作弁78に入力する前記指令の入力量がu(t)と定義される。なお、以下では、変数tは、時刻に関する変数を意味する。制御部80が、オペレータの操作を支援するように、予め設定された目標動作(目標値、目標軌跡を含む)に沿って作業アタッチメント14を動かすための入力(支援操作量)がu
c(t)と定義される。また、オペレータがブーム操作器46、アーム操作器47、バケット操作器48を操作する操作量(前記指定操作に対応する指定操作量)がu
h(t)と定義される。更に、作業アタッチメント14が実際に動いた結果の出来形もしくはバケット24の先端25の軌跡がy(t)と定義される。制御部80が、作業アタッチメント14を制御するために最終的に前記作業駆動装置に入力する入力u(t)は、前記支援操作量に対応する入力u
c(t)とオペレータの指令操作に対応する操作量u
h(t)とから、以下の式1のように表すことができる。
【数1】
【0054】
本実施形態では、速度型I-PD制御則を適用する。
図3における制御部80の入力u
c(t)およびオペレータの操作量u
h(t)は、各々以下の式2、式3で表される。
【数2】
【数3】
【0055】
なお、式2、3において、KPc(t)、KIc(t)、KDc(t)およびKPh(t)、KIh(t)、KDh(t)は、それぞれ制御部80およびオペレータの各時刻tにおける比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインを示している。
【0056】
なお、Δは差分演算子であり、以下の式4によって定義される。
【数4】
【0057】
また、式2、式3の左辺のΔu(t)は、以下の式5に基づいている。
【数5】
【0058】
さらに,油圧ショベルに入力されるu(t)は、先の式2、式3に基づいて、以下の式6、式7によって表すことができる。
【数6】
【数7】
【0059】
ここで、式2、式3、式7に含まれるe(t)は制御誤差であり、予め設定される目標値r(t)とシステム出力y(t)とによって、以下の式8、式9で定義される。なお、FRIT法によってアシスト率kを算出するために、オペレータが1度作業アタッチメント14を操作することで、得られるシステム出力および操作量のデータがそれぞれy0(t)、u0(t)と定義される。また、r~(t)は、これらのデータから算出される擬似参照入力である。(なお、各式と異なり、本文中ではチルダの符号を対象とする符号の直後に上付きで示している)
【0060】
【0061】
更に、参照モデルを以下の式10、式11、式12のように定義する。なお、本実施形態では、参照モデルを2次式で表しているが、参照モデルは一次式でも多項式でも良い。式10のdはむだ時間を表しており、既知とする。
【0062】
【数10】
【数11】
【数12】
なお、式12において、Tsはサンプリング時間、σ、δはそれぞれ制御系の立ち上がり特性、減衰特性を示しており、所望の特性に合わせて予め任意に設定されればよい。
【0063】
上記の参照モデルは、位置成分に速度成分や加速度成分を含むシステムに相当する。更に、前述の疑似参照入力r
~(t)に対する参照モデル出力が、y
~
r(t)と定義され、前述の参照モデルを用いて、以下の式13で表すことができる。
【数13】
【0064】
また、FRIT法において、評価関数Jを以下の式14のように定義する。アシスト率演算部803は、この評価関数Jが最小となるような、アシスト率kを演算する。換言すれば、アシスト率演算部803は、前記指定操作に対応する前記実動作の検出結果から前記目標動作と前記実動作との差分が小さくなるようにアシスト率kを設定する。なお、Nは対象とする作業における入出力データの総ステップ数である。
【数14】
【0065】
なお、C1コントローラは前述の参照モデルで設定した所望の応答特性となるように設定される。この際、参照モデルの最も簡単な設定方法として、後述のように熟練者の応答特性を伝達関数で示しても良い。換言すれば、C1コントローラは、試行錯誤的に作業アタッチメント14が熟練者の操作によって動作するように設定されている。一方、C2コントローラは、オペレータの操作特性についてシステム同定等を使い、前述の3つのゲインで表現される。
【0066】
また、評価関数Jを最小化するアシスト率kは、公知の最適化手法等を使って探索される。アシスト率kの探索方法には、ネルダーミード法、遺伝的アルゴリズム等の一般的な大域探索手法を使用することが可能である。また、最急降下法等の局所探索手法を用いてもよい。
【0067】
<操作アシスト処理の流れについて>
図4は、前記操作アシスト処理を示すフローチャートである。
図5は、
図4の操作アシスト処理の一部を詳しく示すフローチャートである。
図6から
図9は、油圧ショベル1が土砂の均し作業を行う様子を示す模式図である。以下では、一例として、
図6に示すように、油圧ショベル1の横に土砂の山が存在し、作業アタッチメント14によってその土砂の一部を削り取る(均す、掘削する)作業を想定する。この場合、オペレータは自らアーム22を操作する一方、ブーム21の操作については制御部80による操作支援を受けるものとする。なお、バケット24はアーム22に対して相対的に固定されていると仮定する。この場合、
図6に示すように、オペレータによるブーム上げ操作量が入力u(t)となり、これに応じてブーム21がオペレータおよび制御部80によって適切に駆動制御される。
【0068】
操作アシスト処理は、例えば、オペレータが入力部45から入力する開始指令信号を受けて開始される。なお、初期的に、アシスト率kは、ゼロに設定されている。操作アシスト処理が開始されると、目標値r(t)(出来形)の指定が行われる(
図4のステップS1)。この場合、土砂が掘削された後の山の高さが目標値r(t)として指定される。当該高さは、入力部45を通じてオペレータが入力してもよい。
【0069】
次に、制御部80の目標軌跡決定部802が、上記の目標値r(t)を達成するための作業アタッチメント14の目標操作軌跡y(t)を決定する(
図4のステップS2)。
図7では、この際のバケット24の先端25の軌跡が破線で図示されている。また、
図4では、ステップS1とステップS2との間に、目標値r(t)に到達するまでの目標操作軌跡y
r(t)が簡易的に描かれている。前述のように、目標軌跡決定部802は、目標操作軌跡y
r(t)を式13によって算出することができる。
【0070】
次に、オペレータが作業操作装置40を操作して、土砂の山の一部を掘削する作業を実施する(ステップS3、
図8)。この際、表示部49に当該操作を促すメッセージが表示されてもよい。また、前述のように、初期的にアシスト率kはゼロに設定されているため、制御部80による操作支援は行われず、専らオペレータの操作に基づいて作業アタッチメント14が駆動される。
【0071】
アシスト率演算部803は、上記の作業アタッチメント14の動きに基づいて、操作データy0(t)、u0(t)を取得する(ステップS4)。すなわち、オペレータが作業操作装置40を操作する際の操作量のデータu0(t)と、この操作量に応じて作業アタッチメント14が動いた軌跡に関するデータy0(t)とがそれぞれ取得される。
【0072】
この際、アシスト率演算部803は、ストロークセンサ66~68によりそれぞれ検出されるシリンダストロークに基づいて作業アタッチメント14の姿勢を演算し、各姿勢におけるバケット24の先端25の座標の推移から、上記の軌跡に関するデータを取得する。なお、本実施形態では、これらのストロークセンサ66~68は、実動作検出部として機能する。当該実動作検出部は、作業アタッチメント14の実際の動きである実動作を検出することが可能である。
【0073】
なお、
図4では、ステップS4の直下に、各データの時間推移が簡易的に図示されている。また、作業アタッチメント14の姿勢を検出するためのセンサ、すなわち姿勢検出センサは前記のようなストロークセンサ66~68に限られない。前記姿勢検出センサは、例えば、ブーム角度(上部旋回体12に対するブーム21の相対角度)、アーム角度(ブーム21に対するアーム22の相対角度)及びバケット角度(アーム22に対するバケット24の相対角度)をそれぞれ検出する角度センサと、検出された角度に基づいて作業アタッチメント14の姿勢を演算する演算部と、を含むものでもよい。
【0074】
ステップS4において上記のデータが取得されると、アシスト率演算部803は、前述の各式に基づいてアシスト率kを計算する(ステップS5)。この際、オペレータが操作した作業アタッチメント14(バケット24の先端25)の軌跡が目標軌跡に近い場合は、大きな操作支援が不要であるため、アシスト率kは小さくなる。一方、オペレータが操作した作業アタッチメント14の軌跡が目標軌跡から大きく外れている場合は、大きな操作支援が必要であるため、アシスト率kは大きくなる。
【0075】
その後、計算されたアシスト率kを使用して、作業が実施される(ステップS6)。すなわち、2回目の掘削作業に対して、上記の計算されたアシスト率kが適用される。なお、2回目の掘削作業の開始にあたって、目標値r(t)、目標操作軌跡y(t)の各々が新たに設定される。この際、目標値r(t)は手動で入力されても良いし、予め設定された作業内容に基づいて自動で設定されてもよい。上記のような作業が繰り返され、やがて
図9のように土砂の山の掘削が終了する。
【0076】
<アシスト率kの算出の詳細について>
次に、
図5を参照して、
図4のステップS5におけるアシスト率kの算出手順について更に詳述する。なお、
図5のステップS11は、
図4のステップS4に相当する。前述のように、本実施形態では、
図3における制御部80の入力u
c(t)とオペレータの操作量u
h(t)とが、式2、式3のように定義される。ここで、コントローラC
1に関する式2のK
Pc(t)、K
Ic(t)、K
Dc(t)については、予め計算され、記憶部804に記憶されている。一方、コントローラC
2に関する式3のK
Ph(t)、K
Ih(t)、K
Dh(t)については、以下の式15のように、ステップS11(
図4のステップS4)において取得した操作データを式3に代入するとともに、公知の最小二乗法や最適化手法などを用いて同定し、決定することができる(
図5のステップS12)。
【数15】
【0077】
その後、前述のように、式14で示す評価関数Jが最小になるようなアシスト率kが求められる(
図4のステップS5、
図5のステップS13)。
【0078】
なお、上記では、コントローラC
2に関する式3のK
Ph(t)、K
Ih(t)、K
Dh(t)を式15に基づいて算出する態様にて説明したが、これらのゲインは、コントローラC
1と同様に、予め設定されるものでもよい。表1は、オペレータの熟練度に応じて、予め設定される各ゲインの一例である。
【表1】
【0079】
表1は、実際に油圧ショベル1を操作するオペレータの中から被験者として抽出したオペレータのデータを示しており、各被験者の操作技量を既知な低中高の3段階で大別し、技量が低い被験者2名(スキルレベル低)、技量が中程度の被験者1名(スキルレベル中)の計3名に対して検証を行った結果である。表1は、ブーム下げ操作において算出した、人をコントローラC2と見做した時のPIDゲインを示している。表1より、技量が中程度の被験者は技量が低い被験者と比較して、PIDゲインの値が高くなっていることがわかる。特に,技量が中程度の被験者の積分ゲインの値は、技量が低い被験者2名の平均値の2倍の値となっており、追従性が高い操作を行っていることがわかる。
【0080】
なお、式3のKPh(t)、KIh(t)、KDh(t)を式15に基づいて算出する態様の方が、実際に油圧ショベル1を操作しているオペレータに応じたゲインを採用するため、精度の高いアシスト率kを算出することができる。
【0081】
<アシスト率kの表示について>
図10は、本実施形態に係る油圧ショベル1の制御装置によって演算された、オペレータの熟練度に応じたアシスト率kを示すグラフであって、
図6から
図9に示すように土砂の山の掘削動作を繰り返す回数ごとにアシスト率kが変化する様子を示している。なお、
図10に示される3人の被験者は、上記の表1に対応している。
図10に示すように、スキルレベル中のオペレータの場合、2回目以降の作業ではアシスト率kが60%前後で推移している。一方、スキルレベル低の2名のオペレータの場合、2回目以降の作業においてアシスト率kが90%前後で推移している。これにより、操作支援が必要な技量が低い被験者には高い操作支援度となり、自身で作業を行える技量が中程度の被験者は相対的に低い操作支援度となっており、本実施形態に係る操作アシスト処理によって、オペレータのスキルに応じた操作支援度が自動で算出できることが確認される。
【0082】
図11は、本実施形態に係る油圧ショベル1の制御装置によって演算された、スキルレベル中のオペレータのアシスト率kの推移を、
図10よりも長い作業回数まで示したグラフである。
図11に示すように、スキルレベル中のオペレータが作業を繰り返すことで、アシスト率kが低下していることがわかる。これは、作業に慣れることで、よりスキルが向上し、操作支援を必要とする割合が減ることを意味している。
【0083】
なお、表示部49(
図2)に、
図10、
図11のようなグラフを画像表示することで、油圧ショベル1を作業しているオペレータが、自身のアシスト率kを把握することができる。更に、
図11のようにアシスト率kの推移を確認することで、自らのスキル、熟練度の向上を確認することも可能になる。
【0084】
以上のように、本実施形態では、制御部80が、オペレータの操作を支援する割合であるアシスト率kに従って、前記指定操作量および前記支援操作量をそれぞれ変更することによって、前記作業駆動装置に入力される前記指令の入力量を設定して、作業アタッチメント14を制御する。特に、制御部80がアシスト率kを作業アタッチメント14の動き(実動作)に応じて自動で設定することにより、オペレータの熟練度に見合った操作の支援を行うことが可能となる。具体的に、非熟練者が目標動作と大きく異なる操作を行った場合には、目標動作と実動作との差分が大きくなるため、アシスト率kも大きくなる。この結果、制御部80による油圧ショベル1の操作支配が強い状態となり、非熟練者でも安心して操作を行うことができる。一方、熟練者が目標動作と同じ、もしくは目標動作に近い操作を行うと、目標動作と実動作との差分が小さくなるため、アシスト率kが小さくなる。この結果、制御部80による油圧ショベル1の操作支配が小さくなり、熟練オペレータが自らの操作に基づいて操縦可能な状態となる。
【0085】
特に、本実施形態では、制御部80による支援操作のみならず、オペレータによる指定操作をもPID制御器と見做すことで、アシスト率kを精度良く演算することができる。
【0086】
また、本実施形態では、油圧ショベル1が、制御部80によって設定されたアシスト率kを表示することが可能な表示部49を更に備えている。このような構成によれば、オペレータが表示部49に表示されるアシスト率kを確認することで、自らの熟練度を認知することができる。
【0087】
特に、表示部49は、作業操作装置40に指定操作が入力されるたびに制御部80によって設定されたアシスト率kの推移を表示することが可能である。このような構成によれば、オペレータが表示部49に表示されるアシスト率kの推移を確認することで、自らの熟練度(技量レベル)の変化、上達具合を認知することができる。また、作業を管理する管理者は、オペレータの熟練度を把握して、作業指導に反映することができる。
【0088】
また、本実施形態では、制御部80は、前記作業駆動装置のうちの少なくとも前記ブーム駆動器をアシスト率kに基づいて制御するように構成されている。このような構成によれば、油圧ショベル1のブーム操作をアシスト率kに応じて支援することができるため、例えば、整地作業などにおいて、オペレータはブーム21以外のアーム22、バケット24の操作に重点をおいて作業を行うことができる。
【0089】
以上、本発明の一実施形態に係る油圧ショベル1の制御装置について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のような変形実施態様を包含する。
【0090】
(1)
図12は、本発明の第1変形実施形態における、目標入力値を説明するための模式図である。先の実施形態では、
図6に示すように、掘削後の土砂の山の高さを目標値r(t)として入力する態様にて説明したが、
図12に示すように、目標値r(t)は、例えば縦×横×高さの各成分を含む平面の情報であってもよい。また、所定の原点を有する座標系に基づく平面の方程式が、目標値r(t)として入力されてもよい。更に、マシンコントロール(自動運転)において油圧ショベル1(作業アタッチメント14)の動きを指示する際のデータに基づいて、目標値r(t)が指定されてもよい。
【0091】
(2)
図13は、本発明の第2変形実施形態における、
図5に対応するフローチャートである。
図14は、本変形実施形態に係る油圧ショベル1の制御装置が行う操作アシスト処理を示すブロック線図である。先の実施形態では、
図3に示すように、オペレータの操作をPID制御則に基づくコントローラとして見做す態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
図13では、
図5と比較してステップS12が存在していない点で相違する。
図13のステップS31、S32は、
図5のステップS11、S13にそれぞれ対応する。本変形実施形態では、前述の式9の代わりに以下の式16を用いることで、オペレータの操作をコントローラで同定しなくても、アシスト率kを算出することが可能となる。なお、式16において、u
h0(t)はオペレータが操作した際のデータである。
【0092】
【数16】
この場合も、
図14のブロック線図に示すように、コントローラC
1とオペレータとが協調して操作を行うことができる。
【0093】
(3)
図15は、本発明の第3変形実施形態における、目標入力値を説明するための熟練者データを示すグラフである。先の実施形態では、
図6に示すように、掘削後の土砂の山の高さを目標値r(t)として入力する態様にて説明したが、
図15に示すように、熟練者(アシスト率kが低いオペレータ)の過去の操作データを手本として目標値r(t)が設定されてもよい。
【0094】
この場合、制御部80の記憶部804には、作業アタッチメント14を操作するオペレータの個人識別情報と、当該個人識別情報を有するオペレータである特定オペレータ(特定作業者)に対応する作業アタッチメント14の先端25の軌道(実動作)の情報と、前記特定オペレータに対して設定されたアシスト率kとが互いに関連付けられた情報である関連情報が記憶されていることが望ましい。そして、目標軌跡決定部802は、前記関連情報のうちアシスト率kが所定の閾値よりも低い特定オペレータにおける先端25の軌道(応答特性)の情報を、目標値r(t)(目標動作に関する情報)として取得すればよい。
【0095】
このような構成によれば、熟練者に相当する特定オペレータの操作結果から目標値r(t)を設定することで、熟練者に対しては、目標値r(t)を自身の好みに応じた動作に設定することができる。また、非熟練者に対しては、熟練者を目標とするように目標値r(t)を設定することができる。
【0096】
(4)先の実施形態では、式2、式3に示すように積分ゲインのみを制御誤差に作用させる、いわゆるI-PD制御則に基づいて各コントローラC
1、C
2を定義する態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。式17、式18のように、比例、積分、微分の各ゲインを制御誤差に作用させる、いわゆる古典的PID制御則に基づいて、各コントローラC
1、C
2を定義してもよい。
【数17】
【数18】
【0097】
この場合、前述の式7、式9は、それぞれ式19、式20のように表すことができる。
【数19】
【数20】
【0098】
(5)先の実施形態では、アシスト率演算部803が、バケット24の先端25の軌道を演算することで、作業アタッチメント14の実際の動きに関する情報を取得する態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。アシスト率演算部803は、LiDAR(Light Detection and Ranging)等(実動作検出部)によって検出される施工面の状態を出来形として直接検出することで、作業アタッチメント14の実際の動きに関する情報を取得し、アシスト率kを演算するものでもよい。
【0099】
(6)本発明に係る作業操作装置40は、作業アタッチメント14の動きを指定するための作業操作が与えられるものであればよく、前記操作器46~48のように前記作業操作を電気信号に変換するものに限らない。当該作業操作装置40は、例えば、前記作業操作に対応したパイロット圧が前記作業駆動装置につながるパイロット操作式の制御弁に入力されることを許容するように開弁するバルブ、すなわちリモコン弁、であってもよい。この場合も、前記作業操作に対応する指定操作量は、前記リモコン弁から出力される前記パイロット圧を圧力センサにより検出すること、及び、その検出されたパイロット圧を前記指定操作量に換算することにより特定されることが可能である。
【0100】
(7)前記実施形態に係るアシスト対象はブーム操作であるが、当該アシスト対象はアーム操作またはバケット操作であってもよく、更に作業アタッチメント14全体の操作でもよい。
【0101】
(8)本発明に係る作業装置は、前記作業アタッチメント14、すなわち、油圧ショベル1に搭載される作業装置であって、前記ブーム21、前記アーム22及び前記バケット24を含むものに限られない。
【0102】
(9)なお、先の説明において、式2、式3、式7、式9、式15から式20までの各式では、PIDゲインに、時間を変数とするように(t)を付しているが、各ゲインは時間変化しない固定値でもよい。すなわち、各ゲインは、時間変化してもよいし、時間変化しなくてもよい。
【0103】
(10)また、上記の実施形態では、キャブ18内のオペレータが油圧ショベル1を操作する態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。油圧ショベル1を遠隔で操作する装置や油圧ショベル1の情報を表示する装置が、油圧ショベル1と分かれて配置されるものでもよい。この場合も、制御部80が、オペレータの操作を支援する割合であるアシスト率kに従って、前記指定操作量および前記支援操作量をそれぞれ変更することによって、前記作業駆動装置に入力される前記指令の入力量を設定して、作業アタッチメント14を制御することができる。
【0104】
一例として、作業操作装置40、入力部45、表示部49は、油圧ショベル1とは別体の遠隔操作装置に設けられる。作業操作装置40が作業操作の入力を受けると、作業操作に対応した速度指令が無線通信を介して油圧ショベル1に設けられた制御部80に入力される。同様に、入力部45が各種の情報の入力を受け付けると、無線通信を介して油圧ショベル1に設けられた制御部80に前記情報が入力される。表示部49は、制御部80より無線通信を介して入力される表示指令信号を受け入れ、表示指令信号に応じて、オペレータに報知する各種の情報を表示する。
【0105】
なお、遠隔操作を行う装置としては、遠隔操作装置やスマートフォン、タブレットなどの情報端末でもよい。また、情報端末については、遠隔操作を行うものに限定されるものではなく、油圧ショベル1の管理やメンテナンスのため、機械の細かな調整と機械の動作状況の確認のみを外部で行う、入力部45および表示部49の機能だけを持った態様でもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 油圧ショベル(作業機械)
10 下部走行体
12 上部旋回体
14 作業アタッチメント(作業装置)
21 ブーム
22 アーム
24 バケット
25 先端
26 ブームシリンダ
27 アームシリンダ
28 バケットシリンダ
30 油圧回路
32 ポンプユニット
36 ブーム制御弁
37 アーム制御弁
38 バケット制御弁
40 作業操作装置
45 入力部
46 ブーム操作器
47 アーム操作器
48 バケット操作器
49 表示部
66 ブームシリンダストロークセンサ
67 アームシリンダストロークセンサ
68 バケットシリンダストロークセンサ
76 ブーム流量操作弁
77 アーム流量操作弁
78 バケット流量操作弁
80 制御部
801 駆動制御部
802 目標軌跡決定部(目標動作取得部)
803 アシスト率演算部
804 記憶部
k アシスト率(操作支援率)