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特開2024-108679立体組織構造体形成用足場材及び立体組織構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108679
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】立体組織構造体形成用足場材及び立体組織構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20240805BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20240805BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C12N1/00 A
C12N5/077
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013166
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 典弥
(72)【発明者】
【氏名】ルイス フィオナ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B065AA90X
4B065BC46
4B065CA41
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】より確実に所望の形状の立体組織構造体を製造可能な足場材を提供すること。
【解決手段】断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料で形成され、貫通孔を有する、立体組織構造体形成用足場材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料で形成され、貫通孔を有する、立体組織構造体形成用足場材。
【請求項2】
前記断片化細胞外マトリックス成分が、細胞外マトリックス成分ナノファイバーである、請求項1に記載の足場材。
【請求項3】
前記断片化細胞外マトリックス成分が、断片化コラーゲンを含む、請求項2に記載の足場材。
【請求項4】
前記貫通孔の直径が1~5mmの範囲内である、請求項1に記載の足場材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の足場材の前記貫通孔の内部で細胞を培養する工程を備える、立体組織構造体の製造方法。
【請求項6】
前記細胞が骨格筋細胞及び/又は衛星細胞を含む、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体組織構造体形成用足場材及び立体組織構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオプリンティングは、細胞等の生体材料を含むバイオインクを用いて印刷をすることにより、生体材料を基材上に、形状を制御して配置することができる技術として知られている。そのため現在、例えば再生医療及び食品の分野において、バイオプリンティングにより細胞を三次元的に配置し、生体組織、生体臓器等の立体組織構造体を製造することが検討されている。
【0003】
バイオプリンティングによる立体組織構造体の製造について、例えば非特許文献1には、骨格筋組織を製造するにあたり、その特徴的な構造を模倣するため、新たに開発したテンドンゲル統合型バイオプリンティング(Tendon-gel Integrated Bioprinting ;TIP)法により、複数の繊維状の筋組織、脂肪組織、血管組織を構築し、これらを組み立てたことが記載されている。TIP法による繊維状の組織の製造方法は、印刷槽の上下にコラーゲンナノファイバー溶液を充填しておき、組織が印刷された後、コラーゲンナノファイバーをゲル化することを含む。これにより、印刷された繊維状の組織の両端がゲルで固定され、繊維状の形状を保つことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kang DH, et al. “Engineered whole cut meat-like tissue by the assembly of cell fibersusing tendon-gel integrated bioprinting.” Nat Commun.2021 Aug 24;12(1):5059.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、TIP法では、印刷された繊維状の組織の両端がコラーゲンナノファイバーゲルによって固定されている一方、当該組織に収縮しようとする力が働いているため、印刷した繊維状の組織が切断されてしまうことがあり、所望の形状の立体組織構造体を得ることができない場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、より確実に所望の形状の立体組織構造体を製造可能な足場材を提供することを目的とする。また、本発明は、当該足場材を使用した立体組織構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、後述の実施例に記載のとおり、貫通孔を有し、コラーゲンナノファイバーで形成された足場材を使用し、当該足場材の貫通孔内部で細胞を培養することによって、収縮に基づく引張力等の力が分散することで、立体組織構造体が切断されることなく、所望の形状の立体組織構造体を得ることができることを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものである。
【0008】
本発明は、例えば、以下の各発明を包含する。
[1]
断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料で形成され、貫通孔を有する、立体組織構造体形成用足場材。
[2]
上記断片化細胞外マトリックス成分が、細胞外マトリックス成分ナノファイバーである、[1]に記載の足場材。
[3]
上記断片化細胞外マトリックス成分が、断片化コラーゲンを含む、[1]又は[2]に記載の足場材。
[4]
上記貫通孔の直径が1~5mmの範囲内である、[1]~[3]のいずれかに記載の足場材。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の足場材の前記貫通孔の内部で細胞を培養する工程を備える、立体組織構造体の製造方法。
[6]
上記細胞が骨格筋細胞及び/又は衛星細胞を含む、[5]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より確実に所望の形状の立体組織構造体を製造可能な足場材を提供することができる。また、本発明によれば、当該足場材を使用した立体組織構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る立体組織構造体形成用足場材の斜視図である。
図2】一実施形態に係る立体組織構造体形成用足場材の上面図である。
図3】一実施形態に係る立体組織構造体形成用足場材の斜視図である。
図4】参考例1の立体組織構造体形成用足場材に細胞を注入した際の、細胞の並びの方向性を示す画像(A)及びグラフ(B)である。
図5】参考例2の立体組織構造体形成用足場材に細胞を注入した際の、細胞の並びの方向性を示す画像(A)及びグラフ(B)である。
図6】実施例1の立体組織構造体形成用足場材を用いて製造した立体組織構造体をヘマトキシン・エオジン(HE)で染色し、当該立体組織構造体を観察した方向を示す図(A)及び観察した結果を示す写真(B)である。
図7図6の40倍で観察した写真において濃淡値を判定した結果を示すグラフである。
図8】実施例1の立体組織構造体形成用足場材を用いて製造した立体組織構造体をHEで染色し、当該立体組織構造体を観察した方向を示す図(A)及び観察した結果を示す写真(B)である。
図9図8の40倍で観察した写真において濃淡値を判定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
〔立体組織構造体形成用足場材〕
本実施形態に係る立体組織構造体形成用足場材(以下、単に「足場材」ともいう。)は、断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料で形成され、貫通孔を有する。足場材は、例えば、断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料を含有するバイオインクを用いたバイオプリンティングによって形成することができる。
【0013】
本実施形態に係る足場材は、任意の形状の貫通孔を有しており、当該貫通孔に細胞を注入することができるため、立体組織構造体を形成する際の鋳型の役割を担うことができる。貫通孔内部の壁面は、断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料で形成されているため、細胞は壁面全面に接着することができ、収縮に基づく引張力等の力を分散させることができる。そのため、本実施形態に係る足場材は、より確実に所望の形状の立体組織構造体を形成することができる。したがって、立体組織構造体の形成用途に好適に使用することができる。
【0014】
本明細書において、「立体組織構造体」とは、細胞培養によって人工的に作られ、細胞が三次元的に配置されている細胞の集合体(塊状の細胞集団)を意味する。
【0015】
図1は、一実施形態に係る足場材を示す斜視図である。図1に示す足場材10及び11は、貫通孔20を有する。図1中、Zは足場材の厚みを示す。また、図1(B)中、右手前側の貫通孔20のみにおいて壁面を図示しており、他3つの貫通孔20の壁面の図示は省略している。図2は、一実施形態に係る足場材11の上面図である。図2中、Pは貫通孔20の直径、Wは壁の厚み、Xは足場材の幅、Yは足場材の長さを示す。
【0016】
図3は、他の実施形態に係る足場材を示す斜視図である。図3に示すとおり、足場材の形状は、特に限定されず、例えば、円柱状、楕円柱状、多角形柱状等であってもよい。多角形は、正多角形であってもよく、非正多角形であってもよい。多角形としては例えば、四角形、五角形、六角形、八角形、十二角形等が挙げられる。足場材の形状は、これらを組み合わせたような形状であってもよい。
【0017】
貫通孔20は、足場材を厚さ方向に貫通するように形成されている。一実施形態に係る足場材は、図1(A)に示されるように、1つの貫通孔20を有していてもよく、図1(B)に示されるように、複数の貫通孔20を有していてもよい。足場材が複数の貫通孔20を有する場合、足場材は貫通孔20を、2個以上、3個以上、4個以上、又は5個以上有していてもよく、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、又は5個以下有していてもよい。
【0018】
貫通孔20の形状は、立体組織構造体を形成できれば特に限定されず、例えば、円柱状、楕円柱状、多角形柱状等であってもよい。多角形は、正多角形であってもよく、非正多角形であってもよい。多角形としては例えば、四角形、五角形、六角形、八角形、十二角形等が挙げられる。貫通孔20の形状は上記足場材の形状と同一のものであってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
貫通孔20が多角形状である場合、貫通孔20の直径(P)とは、貫通孔20の中心を通る直線の中で最短の直線の長さを意味する。貫通孔20の中心とは、貫通孔の形状に外接する円の中心、又は外接する楕円の長軸と短軸の交点を意味する。貫通孔20の直径(P)は、例えば、1mm以上、2mm以上、3mm以上、4mm以上、又は5mm以上であってもよく、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下であってもよい。
【0020】
貫通孔20の面積は、例えば、0.5mm以上、1.0mm以上、3.0mm以上、5.0mm以上、7.5mm以上、10.0mm以上、13.5mm以上、15.0mm以上、又は20.0mm以上であってもよく、100mm以下、86.5mm以下、80.0mm以下、70.0mm以下、60.0mm以下、50.0mm以下、40.0mm以下、30.0mm以下、20.0mm以下、10.0mm以下、又は7.5mm以下であってもよい。
【0021】
壁の厚み(W)は、例えば、0.3mm以上、0.5mm以上、1.0mm以上、2.0mm以上、3.0mm以上、4.0mm以上、又は5.0mm以上であってもよく、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下、又は2mm以下であってもよい。
【0022】
足場材の幅(X)は、例えば、1mm以上、2mm以上、3mm以上、4mm以上、5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上、9mm以上、10mm以上、11mm以上、12mm以上、13mm以上、14mm以上、15mm以上、16mm以上、17mm以上、18mm以上、19mm以上、又は20mm以上であってもよく、50mm以下、45mm以下、40mm以下、35mm以下、30mm以下、25mm以下、20mm以下、15mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下であってもよい。
【0023】
足場材の長さ(Y)は、例えば、1mm以上、2mm以上、3mm以上、4mm以上、5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上、9mm以上、10mm以上、11mm以上、12mm以上、13mm以上、14mm以上、15mm以上、16mm以上、17mm以上、18mm以上、19mm以上、又は20mm以上であってもよく、50mm以下、45mm以下、40mm以下、35mm以下、30mm以下、25mm以下、20mm以下、15mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下であってもよい。
【0024】
足場材の厚み(Z)は、例えば、1mm以上、2mm以上、3mm以上、4mm以上、又は5mm以上であってもよく、30mm以下、25mm以下、20mm以下、15mm以下、10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下であってもよい。
【0025】
貫通孔20の体積は、例えば、0.5mm以上、1.0mm以上、10.0mm以上、50.0mm以上、100.0mm以上、150.0mm以上、200.0mm以上、250.0mm以上、300.0mm以上、350.0mm以上、400.0mm以上、450.0mm以上、500.0mm以上又はであってもよい。また、貫通孔20の体積は、1000.0mm以下、865.0mm以下、800.0mm以下、750.0mm以下、700.0mm以下、650.0mm以下、600.0mm以下、550.0mm以下であってもよい。
【0026】
足場材は、断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料で形成されている。生体適合性材料は、細胞の生育等に悪影響がなく、立体組織構造体の形成が妨げられない材料である。本明細書における「断片化細胞外マトリックス成分」は、細胞外マトリックス成分を断片化して得ることができる。
【0027】
細胞外マトリックス成分は、複数の細胞外マトリックス分子によって形成されている、細胞外マトリックス分子の集合体である。細胞外マトリックス分子とは、多細胞生物において細胞の外に存在する物質であってよい。細胞外マトリックス分子としては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の物質を用いることができる。細胞外マトリックス分子として、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、及びプロテオグリカン等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分としては、これら細胞外マトリックス分子を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
細胞外マトリックス分子は、上述の細胞外マトリックス分子の改変体及びバリアントであってもよく、化学合成ペプチド等のポリペプチドであってもよい。細胞外マトリックス分子は、コラーゲンに特徴的なGly-X-Yで表される配列の繰り返しを有するものであってよい。ここで、Glyはグリシン残基を表し、X及びYはそれぞれ独立に任意のアミノ酸残基を表す。複数のGly-X-Yは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有することによって、分子鎖の配置への束縛が少なくなる。Gly-X-Yで示される配列の繰り返しを有する細胞外マトリックス分子において、Gly-X-Yで示される配列の割合は、全アミノ酸配列のうち、80%以上であってよく、好ましくは95%以上である。また、細胞外マトリックス分子は、RGD配列を有するポリペプチドであってもよい。RGD配列とは、Arg-Gly-Asp(アルギニン残基-グリシン残基-アスパラギン酸残基)で表される配列をいう。Gly-X-Yで表される配列と、RGD配列とを含む細胞外マトリックス分子としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カドヘリン等が挙げられる。
【0029】
コラーゲンとしては、例えば、線維性コラーゲン及び非線維性コラーゲンが挙げられる。線維性コラーゲンとは、コラーゲン線維の主成分となるコラーゲンを意味し、具体的には、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン等が挙げられる。非線維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。コラーゲンは好ましくは繊維性コラーゲンである。
【0030】
プロテオグリカンとして、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
細胞外マトリックス成分は、コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよく、細胞接着性に優れるという観点から、コラーゲンを含むことが好ましい。コラーゲンは好ましくは繊維性コラーゲンであり、より好ましくはI型コラーゲンである。線維性コラーゲンは、市販されているコラーゲンを用いてもよく、その具体例としては、日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲンが挙げられる。
【0032】
細胞外マトリックス成分は、動物由来の細胞外マトリックス成分であってよい。細胞外マトリックス成分の由来となる動物種として、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックス成分は、一種類の動物に由来する成分を用いてもよいし、複数種の動物に由来する成分を併用してもよい。
【0033】
本明細書において、「断片化」とは、細胞外マトリックス分子の集合体をより小さなサイズにすることを意味する。断片化は、細胞外マトリックス分子内の結合を切断する条件で行われてもよいし、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われてもよい。断片化された細胞外マトリックス成分は、上述の細胞外マトリックス成分を物理的な力の印加により解繊した成分である、解繊された細胞外マトリックス成分(解繊細胞外マトリックス成分)を含んでいてよい。解繊は、断片化の一態様であり、例えば、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われるものである。
【0034】
細胞外マトリックス成分を断片化する方法としては、特に制限されない。細胞外マトリックス成分を解繊する方法としては、例えば、超音波式ホモジナイザー、撹拌式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー等の物理的な力の印加によって細胞外マトリックス成分を解繊してもよい。撹拌式ホモジナイザーを用いる場合、細胞外マトリックス成分をそのままホモジナイズしてもよいし、生理食塩水等の水性媒体中でホモジナイズしてもよい。また、ホモジナイズする時間、回数等を調整することでミリメートルサイズ、ナノメートルサイズの解繊細胞外マトリックス成分を得ることも可能である。解繊細胞外マトリックス成分は、凍結融解を繰り返すことで解繊することにより得ることもできる。
【0035】
断片化細胞外マトリックス成分は、解繊細胞外マトリックス成分を少なくとも一部に含んでいてよい。断片化細胞外マトリックス成分は、解繊細胞外マトリックス成分のみからなっていてもよい。すなわち、断片化細胞外マトリックス成分は、解繊細胞外マトリックス成分であってよい。解繊細胞外マトリックス成分は、解繊コラーゲン成分を含むことが好ましい。解繊コラーゲン成分は、コラーゲンに由来する三重らせん構造を維持していることが好ましい。解繊コラーゲン成分は、コラーゲンに由来する三重らせん構造を完全に、又は部分的に維持している成分であってよい。
【0036】
断片化細胞外マトリックス成分の形状としては、例えば、線維状が挙げられる。線維状とは、糸状の断片化細胞外マトリックス成分で構成される形状、又は糸状の断片化細胞外マトリックス成分が分子間で架橋して構成される形状を意味する。断片化細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は、線維状であってよい。線維状の細胞外マトリックス成分には、複数の糸状細胞外マトリックス分子が集合して形成された細い糸状物(細線維)、細線維が更に集合して形成される糸状物、これらの糸状物を解繊したもの等が含まれる。線維状の細胞外マトリックス成分ではRGD配列が破壊されることなく保存されている。
【0037】
断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、100nm以上400μm以下であってよく、100nm以上200μm以下であってよい。一実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、5μm以上400μm以下であってよく、10μm以上400μm以下であってよく、22μm以上400μm以下であってよく、100μm以上400μm以下であってよい。他の実施形態において、断片化細胞外マトリックス成分の平均長は、100μm以下であってよく、50μm以下であってよく、30μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよく、1μm以下であってよく、100nm以上であってよい。断片化細胞外マトリックス成分全体のうち、大部分の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であってよい。具体的には、断片化細胞外マトリックス成分全体のうち95%の断片化細胞外マトリックス成分の平均長が上記数値範囲内であってよい。断片化細胞外マトリックス成分は、平均長が上記範囲内である断片化コラーゲン成分であってよく、平均長が上記範囲内である解繊コラーゲン成分であってよい。
【0038】
断片化細胞外マトリックス成分の平均径は、例えば、20nm以上30μm以下であってよく、20nm以上10μm以下であってもよい。平均径がナノオーダー(1000nm以下)の断片化細胞外マトリックス成分を、細胞外マトリックス成分ナノファイバーとも称する。細胞外マトリックス成分ナノファイバーの平均径は、例えば、20nm以上1000nm以下であってよく、20nm以上500nm以下であってよく、20nm以上200nm以下であってよく、20nm以上150nm以下であってよく、40nm以上130nm以下であってよく、20nm以上100nm以下であってもよい。平均径がマイクロオーダー(1000nm超)の断片化細胞外マトリックス成分を、細胞外マトリックス成分マイクロファイバーとも称する。細胞外マトリックス成分マイクロファイバーの平均径は、例えば、1μm超30μm以下であってよく、1μm超30μm以下であってよく、1μm超10μm以下であってよく、1.5μm以上8.5μm以下であってよく、2μm以上8.5μm以下であってよい。断片化細胞外マトリックス成分は、平均径が上記範囲内である断片化コラーゲン成分であってよく、平均径が上記範囲内である解繊コラーゲン成分であってよい。本実施形態において、細胞外マトリックス成分ナノファイバー及び細胞外マトリックス成分マイクロファイバーの形状は、上述の断片化細胞外マトリックスである限り、線維状でなくともよい。
【0039】
足場材は、細胞外マトリックス成分ナノファイバー、及び細胞外マトリックス成分マイクロファイバーの一方又は両方を含んでいてよく、細胞外マトリックス成分ナノファイバーを含むことが好ましい。足場材が細胞外マトリックス成分ナノファイバー及び細胞外マトリックス成分マイクロファイバーの両方を含む場合、細胞外マトリックス成分ナノファイバーを細胞外マトリックス成分マイクロファイバーよりも重量換算で多く用いることが好ましい。足場材中の断片化細胞外マトリックス成分全質量を基準とする、細胞外マトリックス成分ナノファイバーの質量は、例えば、80~100質量%、90~100質量%又は95~100質量%であってよい。
【0040】
断片化細胞外マトリックス成分の平均長及び平均径は、光学顕微鏡によって個々の断片化細胞外マトリックス成分を測定し、画像解析することによって求めることが可能である。本明細書において、「平均長」は、測定した試料の長手方向の長さの平均値を意味し、「平均径」は、測定した試料の長手方向に直交する方向の長さの平均値を意味する。
【0041】
断片化細胞外マトリックス成分の粒子サイズは40μm未満であってよい。粒子サイズ40μm未満の断片化細胞外マトリックス成分は、孔径40μmのフィルターを通過する断片化細胞外マトリックス成分である。断片化細胞外マトリックス成分の粒子サイズは40μm未満である場合、バイオインク中の成分の凝集がより起こりにくくなり、3Dプリンターによる吐出がよりスムーズになる。
【0042】
断片化細胞外マトリックス成分の少なくとも一部は分子間又は分子内で架橋されていてもよい。断片化細胞外マトリックス成分は、断片化細胞外マトリックス成分を構成する分子内で架橋されていてもよく、断片化細胞外マトリックス成分を構成する分子間で架橋されていてよい。
【0043】
少なくとも一部が分子間又は分子内で架橋された断片化細胞外マトリックス成分は、例えば、断片化細胞外マトリックス成分を架橋する工程(架橋工程)を含む方法によって製造することができる。断片化細胞外マトリックス成分は、例えば、断片化及び架橋された細胞外マトリックス成分を含むことができる。断片化及び架橋された細胞外マトリックス成分は、例えば、細胞外マトリックス成分を断片化する工程と、断片化された細胞外マトリックス成分を架橋する工程とをこの順に備える方法、又は、細胞外マトリックス成分を架橋する工程と、架橋された細胞外マトリックス成分を断片化する工程とをこの順に備える方法によって製造することができる。
【0044】
架橋する方法としては、例えば、熱、紫外線、放射線等の印加による物理架橋、架橋剤、酵素反応等による化学架橋等による方法が挙げられるが、その方法は特に限定されない。架橋は、共有結合を介した架橋であってよい。
【0045】
断片化細胞外マトリックス成分が断片化コラーゲン成分を含む場合、架橋は、コラーゲン分子(三重らせん構造)の間で形成されていてもよく、コラーゲン分子によって形成されたコラーゲン細繊維の間で形成されていてもよい。
【0046】
断片化細胞外マトリックス成分は、例えば、架橋剤を使用することによって架橋させることができる。架橋剤は、例えば、カルボキシル基とアミノ基とを架橋可能な架橋剤、又はアミノ基同士を架橋可能な架橋剤であってよい。架橋剤は、例えば、経済性、安全性及び操作性の観点から、アルデヒド系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、エポキシド系架橋剤及びイミダゾール系架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド・スルホン酸塩等の水溶性カルボジイミドを挙げることができる。
【0047】
足場材は、断片化細胞外マトリックス以外の生体適合性材料として、例えば、細胞外マトリックス成分、フィブリン、キトサン、ナノセルロース、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ヒドロキシアパタイト(HA)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)、アルギン酸、ゼラチンメタクリロイル、細胞等が挙げられる。
【0048】
断片化細胞外マトリックス成分の含有量は、生体適合性材料(足場材)の総重量を基準として、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は100質量%であってもよく、100質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。
【0049】
〔立体組織構造体形成用足場材の製造方法〕
本実施形態に係る足場材を製造する方法は、特に限定されないが、好ましくはバイオプリンティングによって製造する方法である。バイオプリンティングによって製造する方法は、例えば、断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料含有するバイオインクを調整すること、上記バイオインクを印刷すること、及び上記印刷されたバイオインクを固化させること、並びに/又は上記印刷されたバイオインクを架橋することを含んでいてもよい。
【0050】
バイオインクは、バイオプリンティングによって足場材を形成し得るインク組成物である。具体的には、バイオインクは、断片化細胞外マトリックス成分を含む生体適合性材料を含有し、プリンターで吐出する時点では液状であり、プリンターから吐出した後に、刺激又は時間経過等によって固化するインク組成物である。断片化細胞外マトリックス成分は、バイオインク中で分散していてもよい。
【0051】
バイオインクは、水性媒体を含んでいてよい。「水性媒体」とは、水を必須構成成分とする液体を意味する。水性媒体としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の生理食塩水、滅菌水、グッドバッファー等のpH緩衝液が挙げられる。
【0052】
バイオインク中の断片化細胞外マトリックス成分の含有量は、バイオインクの全重量を基準として、例えば、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は2.0質量%以上であってもよい。また、バイオインク中のコラーゲンナノファイバーの含有量は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。
【0053】
バイオインク中に、断片化細胞外マトリックス成分以外の生体適合性材料を含む場合、バイオインク中の足場材形成材料の含有量は、バイオインクの全重量を基準として、例えば、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は2.0質量%以上であってもよい。また、バイオインク中の足場材形成材料の含有量は、例えば、20質量%以下、18質量%以下、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。
【0054】
バイオインクを調整することは、例えば、断片化細胞外マトリックス成分と、水性媒体と、必要に応じて断片化細胞外マトリックス成分以外の生体適合性材料とを混合することであってもよい。
【0055】
バイオインクを印刷する方法は、足場材の形状、バイオインクの組成等に応じて適宜選択することができる。バイオインクを印刷する方法の具体例としては、例えば、インクジェット法、材料押出法、レーザー転写法、光造形法等が挙げられる。
【0056】
バイオプリンターは、特に制限されないが、モーター、プリントヘッド、プリント基板、プリント構造、カートリッジ、シリンジ、プラットフォーム、レーザー及び制御装置等の標準構成要素を備えるロボット型バイオプリンターであってもよい。バイオプリンターは、CELLINK AB社製のINKREDIBLE(商標)、INKREDIBLE+(商標)若しくはBIO X(商標)等の3Dバイオプリンターであってよい。
【0057】
印刷する際の条件(例えば、温度、プリント圧力、ノズル等)は、プリンター、足場材の形状及び用途等に応じて適宜設定することができる。印刷する際の温度は、例えば、4℃以上であってよく、40℃以下であってよい。印刷する際のプリント圧力は、例えば、1kPa以上であってよく、200kPa以下であってよい。
【0058】
印刷されたバイオインクを固化させる方法は、バイオインクの組成等に応じて適宜選択することができる。印刷されたバイオインクを固化させる方法としては、光、熱等の刺激、時間経過、液状媒体等との接触によって固化させる方法を用いることができる。印刷されたバイオインクは、プリンター等から液状媒体に吐出することによって液状媒体を含む支持浴中で固化させてよい。支持浴中の液状媒体は、バイオインクの組成等に応じて適宜設定することができる。液状媒体のpHは、例えば、5.0~8.0であってよい。
【0059】
支持浴に用いられる液状媒体の一例として、粒子が分散した液状媒体(以下「粒子分散媒体」)が挙げられる。支持浴に用いられる液状媒体が、粒子分散媒体である場合、吐出されたバイオインク、又は、吐出により形成された足場材の前駆体の形状が液状媒体中の粒子によって保持されるため、高い強度を有する足場材の形成がより一層容易になる。
【0060】
粒子分散媒体における粒子は、バイオガムを含んでいてよい。バイオガムは、微生物、又は、植物等の生体が産生する多糖類を意味する。バイオガムとしては、例えば、微生物バイオガム、又は植物性バイオガムが挙げられる。微生物バイオガムとしては、例えば、ジェランガム、キサンタンガム、デュータンガム、ウェランガム、及びプルランガムが挙げられる。植物性バイオガムとしては、例えば、アカシアガム、タラガム、グルコマンナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン、及びトラガカントが挙げられる。バイオガムは、高強度の足場材の形成に特に好適であることから、ジェランガムであってよい。
【0061】
粒子分散媒体中の粒子の粒径は、例えば、10μm以上、20μm以上、30μm以上、又は40μm以上であってよく、100μm以下、80μm以下、又は60μm以下であってよい。粒径が上記範囲内にある場合、高い強度を有する足場材の形成がより一層容易になる。粒径は、共焦点レーザー走査型顕微鏡(例えば、FV3000)を用いた画像によって測定することができる。具体的には、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて、粒子分散媒体の画像の取得、及びImage Jによる画像解析を行い、手動で粒径を算出することによって粒径を測定することができる。
【0062】
支持浴に用いられる液状媒体の他の一例として、有機溶媒を含む液体が挙げられる。支持浴に用いられる液状媒体として、例えば、アセトニトリルと水との混合物、エタノールとPBSの混合物を用いることができる。粒子分散体における粒子の粒径が小さい場合でも安定に保持できることから、エタノールとPBSの混合物が好ましい。
【0063】
バイオプリンティングによって製造する方法は、バイオインクを印刷することの前に、印刷により形成する足場材を設計することを更に含んでいてよい。
【0064】
〔立体組織構造体の製造方法〕
本実施形態に係る立体組織構造体の製造方法は、上記本実施形態に係る足場材の貫通孔の内部で細胞を培養する工程(以下、「培養工程」ともいう。)を備える。培養工程は、貫通孔の内部に細胞が存在する足場材を培地に浸漬する工程であってもよい。
【0065】
立体組織構造体は、例えば、骨格筋組織、脂肪組織、血管組織、神経組織、表皮組織、上皮組織、心筋組織、軟骨組織等であってもよい。
【0066】
立体組織構造体の形状は、特に限定されず、上記足場材の貫通孔の形状に依存するが、繊維状であることが好ましい。
【0067】
培養する細胞は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の哺乳類動物に由来する細胞であってよい。細胞の由来部位も特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液等に由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよい。さらに、細胞は、幹細胞であってもよく、また、初代培養細胞、継代培養細胞及び細胞株細胞等の培養細胞であってもよい。
【0068】
細胞は、具体的には、例えば、骨格筋細胞、平滑筋細胞(例えば、大動脈平滑筋細胞(Aorta-SMC)、心筋細胞(例えば、ヒトiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM))、脂肪細胞(例えば、成熟脂肪細胞)、血管内皮細胞(例えば、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC))、血管周皮細胞、リンパ管内皮細胞、神経細胞、樹状細胞、免疫細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、上皮細胞(例えば、ヒト歯肉上皮細胞)、角化細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞(例えば、衛星細胞、間葉系幹細胞)、アストロサイト、大腸がん細胞(例えば、ヒト大腸がん細胞(HCT116、HT29))、肝癌細胞等の癌細胞等等が挙げられる。細胞は、一種単独で用いてもよいし、複数種類の細胞を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
細胞は、骨格筋細胞及び/又は衛星細胞を含むことが好ましい。培養する細胞が、骨格筋細胞及び/又は衛星細胞を含む場合、立体組織構造体として骨格筋組織を製造することができる。
【0070】
培地は、培養する細胞の種類等によって適宜選択することができる。培地としては、例えば、Eagle’s MEM培地、DMEM、Modified Eagle培地(MEM)、Minimum Essential培地、RPMI、及びGlutaMax培地、EGM2等の液体培地等が挙げられる。培地は、血清を添加した培地であってもよいし、無血清培地であってもよい。培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。
【0071】
細胞外マトリックス成分と接触させた細胞を培養する方法は、培養する細胞の種類に応じて好適な培養方法を用いることができる。培養温度は20℃~40℃、又は30℃~37℃であってもよい。培地のpHは、6.0~8.0、又は7.2~7.4であってもよい。培養時間は、1日~2週間、又は1週間~2週間であってもよい。
【0072】
培養工程における上記足場材の貫通孔内部中の細胞密度は、立体組織体の形状、足場材の形状、足場材の体積等によって適宜設定できる。培養工程における貫通孔内部の細胞密度は、例えば、1~10細胞/mLであってもよく、10~10細胞/mLであってもよい。
【0073】
足場材が貫通孔を複数個有する場合には、各貫通孔全てで同一の細胞を培養してもよく、各貫通孔で異なる細胞を培養してもよい。
【0074】
培養する細胞は、ゲルに分散したものであってもよい。そのようなゲルとしては、フィブリンゲル、ハイドロゲル、マトリゲル、コラーゲンゲル、ゼラチンゲル等であってもよい。フィブリンは、フィブリノゲン及びトロンビンを反応させることによって、形成することができる。細胞がゲルに分散したものである場合、より所望の形状の立体組織構造体を形成することが容易になる。
【0075】
ゲルに分散した細胞は、細胞を足場材の貫通孔に注入する際の細胞懸濁液に液体としてのゲル化剤を含有させ、貫通孔に細胞を注入した後に当該ゲル化剤をゲル化させることで得ることができる。
【0076】
培養する細胞が幹細胞を含む場合、培養工程は、増殖培養すること及び分化誘導培養することを含んでいてもよい。分化誘導培養は、常法により行うことができ、例えば、増殖培養時の培地を分化誘導可能な所定の培地に交換することであってもよく、分化誘導剤を培地に添加することであってもよい。
【0077】
本実施形態に係る立体組織構造体を製造する方法は、足場材の貫通孔に細胞懸濁液を注入する工程(注入工程)を含んでいてもよい。
【0078】
細胞懸濁液は、培養する所望の細胞を水性媒体に懸濁することで得ることができ水性媒体としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の生理食塩水、滅菌水、グッドバッファー等のpH緩衝液、培地等が挙げられる。培地としては、例えば上述のものが挙げられる。
【0079】
細胞懸濁液には、例えば、更に細胞外マトリックス成分、断片化細胞外マトリックス成分等が含まれていてもよい。細胞外マトリックス成分、断片化マトリックス成分は上述のとおりである。
【0080】
細胞懸濁液を足場材の貫通孔に注入する方法としては、例えば、細胞懸濁液を足場材の貫通孔に直接注ぎ込む方法、細胞懸濁液をスポイト、ピペットマン等を用いて注入する方法、細胞懸濁液をバイオインクとし、上述と同様にしてバイオプリンターにより注入する方法等が挙げられる。
【実施例0081】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0082】
[参考例:足場材を用いた立体組織構造体の製造]
<1.コラーゲンナノファイバーの作製>
I~III型コラーゲン50mgを10xPBS 5mLに懸濁し、ホモジナイザーを用いて室温で6分間ホモジナイズした後、10000rpm、5分間、室温の条件で遠心分離を行い、沈殿物として、平均径がマイクロメートルオーダーの断片化コラーゲン(CMF)を含むCMF溶液を得た。当該溶液から、上清を除き、1xPBSを加えた。添加量は、所望の最終濃度に応じて、5mLもしくは2.5mLとした。その後、2分間ホモジナイズし、4℃環境下で3日間保存することにより、平均径がナノメートルオーダーの断片化コラーゲン(CNF)を含むバイオインクを調製した。
【0083】
得られたCNFの平均径は、84.4±43.0nmであった。平均径は線維径分布を測定することで算出される。
【0084】
<2.足場材の作製>
上記1.で得られたコラーゲンナノファイバーの濃度が、2質量%となるようにバイオインクを調整した。その後、上記バイオインクをBio X(CELLINK AB社製)プリンターを用いて、3Dプリントすることにより参考例1及び参考例2の略0.75cmの長方形状のシート状足場材を作製した。
【0085】
3Dプリントにおいて、支持浴には、30%のエタノールを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に、0.5質量%となるように粒状ジェランガム(GG)ゲルを混合したものを用いた。3Dプリントによる上記足場材の作製は、まず、30G(160μm)を有するノズルを備える空気圧シリンジに上記バイオインクを充填し、バイオインクを支持浴中に押出しながら、プログラムに従いノズルを動かすことにより支持浴中に作製した。参考例1の足場材はノズルを垂直方向に動かすことによって作製し、参考例2の足場材はノズルを水平方向に動かすことによって作製した。
【0086】
印刷条件は、以下のとおりである。
シリンジ圧:80kPa
ノズル移動速度:20mm/s
温度:室温(20℃)
【0087】
その後、作製した参考例1及び2の足場材を、50%エタノールを含有する超純水に浸漬して洗浄し、次いで、参考例1及び2の足場材におけるコラーゲンナノファイバーを、0.25%グルタルアルデヒドを含有する超純水に浸漬して架橋した。架橋後、参考例1及び2の足場材を超純水に浸漬して再度洗浄した。
【0088】
<3.立体組織構造体の製造>
前処理として、参考例1及び2の足場材を10U/mLのトロンビンを含有するPBSに浸漬した。その後、60%の20mg/mLのフィブリノゲン及び40%のマトリゲルを含有する溶液中にウシ衛星細胞(bSCs)を懸濁したバイオインクを調製した。ディッシュ上で参考例1及び2の足場材に、上記バイオインクをbSCsが1.5×10細胞/足場材となるように播種した。足場材を37℃で15分間静置し、注入したバイオインクをゲル化させた。次いで、bSCsが播種された参考例1及び2の足場材を、20%FBSを含有するDMEM培地に浸漬し、bSCsを37℃、5%COの条件で2日間培養し増殖させた。2日後、培地を、2%ウマ血清を含有するDMEM培地に交換し、同様の条件で4日間培養することでbSCsを筋細胞へと分化させた。その結果、参考例1又は2の足場材を用いた場合のどちらでも、立体骨格筋組織構造体が得られた。
【0089】
参考例1及び2の足場材を用いて製造した立体骨格筋組織構造体における細胞の並びを以下の手順で解析した。得られた立体骨格筋組織構造体を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、核及びアクチンをDAPIおよびTRITC標識ファロイジンにより染色を行った。染色処理を行った立体骨格筋組織構造体を蛍光顕微鏡で観察した。また、立体骨格筋組織構造体を観察した際の顕微鏡写真に対して、ImageJのDirectionalityプラグインを用いて細胞の並びの方向性を評価した。その結果を図4及び5に示す。
【0090】
図4及び図5から、参考例1又は2の足場材を用いた場合のどちらでも、細胞の並びの方向性に有意な差はないことがわかった。このことから、足場材の製造において、3Dプリンターのノズルを動かす方向性は、足場材中の細胞の並びの方向性に影響を与えないことが確認された。
【0091】
[試験例1:立体筋組織構造体の製造]
<1.足場材の作製>
足場材の形状を図1(B)のようなものにし、足場材の貫通孔の直径(P)を3mm、壁の厚み(W)を1mm、足場材の幅(X)を12.7mm、足場材の長さ(Y)を9mm、足場材の厚み(Z)を7mmとしたこと、ノズルを水平方向に動かしたこと以外は参考例の2.と同様にして、実施例1の足場材を作製した。
【0092】
<2.立体組織構造体の作製>
前処理として、実施例1の足場材を10U/mLのトロンビンを含有するPBSに浸漬した。その後、DMEM中で10U/mLのトロンビン及び20mg/mLのフィブリノゲンを混合して調製したフィブリンゲルを接着剤として、これを実施例1の足場材の接合部に塗布し、ディッシュに接着した。次いで、5×10細胞/mLのbSCs及び20mg/mLのフィブリノゲンを含有するバイオインクを調製し、実施例1の足場材の貫通孔に3Dプリンターを用いて注入した。細胞懸濁液を注入した実施例1の足場材を、37℃、5%COの条件で30分間静置し、細胞懸濁液をゲル化させ、実施例1の足場材をディッシュから取り外した。ディッシュから取り外した実施例1の足場材を、20%FBSを含有するDMEM培地に浸漬して、2日間培養することによりbSCsを増殖させ、繊維状の立体骨格筋組織構造体(骨格筋繊維)を製造した。
【0093】
<3.細胞分布の評価>
上記2.で得た立体骨格筋組織構造体を、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、ヘマトキシン・エオジン(HE)染色を行った。染色処理を行った立体骨格筋組織構造体を位相差顕微鏡で観察した。また、立体骨格筋組織構造体を観察した際の顕微鏡写真においてImageJを用いて、濃淡値を判定することにより、足場材中の立体骨格筋組織構造体における細胞の分布を解析した。その結果を図6~9に示す。図6(B)は、実施例1の足場材中の立体骨格筋組織構造体を、図6(A)に示すとおりに上部から10倍及び40倍の倍率で撮影した写真である。図7は、図6により得た写真において濃淡値を判定した結果を示す。図8(B)は、実施例1の足場材中の立体骨格筋組織構造体を図8(A)に示すとおりに側断面から10倍及び40倍の倍率で撮影した写真である。図9は、図8の画像において濃淡値を判定した結果を示す。
【0094】
図6~9に示すとおり、実施例1の足場材において、貫通孔にのみ細胞が均一に分布していることが示された。このことから、足場材の形状及びサイズを変化させた場合であっても、所望の形状の立体骨格筋組織構造体を得られることが示された。
【符号の説明】
【0095】
10,11,12,13,14…立体組織構造体形成用足場材、20…貫通孔、Z…立体組織構造体形成用足場材の厚み、P…貫通孔の直径、W…壁の厚み、X…立体組織構造体形成用足場材の幅、Y…立体組織構造体形成用足場材の長さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9