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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108749
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】眼科用医療器具およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/14 20060101AFI20240805BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20240805BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240805BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20240805BHJP
   G02C 11/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
A61L27/14
C08F20/10
A61L27/54
G02C7/04
G02C11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013280
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中路 正
(72)【発明者】
【氏名】磯部 潤
(72)【発明者】
【氏名】金森 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】万代 修作
【テーマコード(参考)】
2H006
4C081
4J100
【Fターム(参考)】
2H006BC07
2H006CA00
4C081AB23
4C081BB06
4C081CA011
4C081CA081
4C081CE02
4C081EA02
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100AL09P
4J100AL10P
4J100AL62P
4J100AL66P
4J100AM19P
4J100AM21Q
4J100BA08P
4J100BA14R
4J100BA31P
4J100BA32Q
4J100BA32R
4J100BA77P
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA05
4J100JA33
4J100JA34
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】徐放性に優れる眼科用医療器具およびその製造方法の提供。
【解決手段】樹脂成分を含む眼科用医療器具であって、前記樹脂成分中に、カチオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a1)と、両性イオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a2)と、を含む、眼科用医療器具。水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)と、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとを反応させ、更に、カチオン基を有するアクリル系モノマーおよび両性イオン基を有するアクリル系モノマーを含むモノマー混合物を加えて重合する、眼科用医療器具の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分を含む眼科用医療器具であって、
前記樹脂成分中に、カチオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a1)と、両性イオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a2)と、を含む、眼科用医療器具。
【請求項2】
前記樹脂成分中に、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(b1)を含む請求項1に記載の眼科用医療器具。
【請求項3】
前記樹脂成分がSi-O-C結合を有する請求項2に記載の眼科用医療器具。
【請求項4】
前記樹脂成分が、前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)とを含む樹脂成分(A)と、前記構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)との反応物を含む請求項3に記載の眼科用医療器具。
【請求項5】
前記樹脂成分(A)がアクリル系樹脂(A1)である請求項4に記載の眼科用医療器具。
【請求項6】
前記樹脂成分が、前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)とを含む樹脂成分(A)と、前記構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)と、を含む請求項2に記載の眼科用医療器具。
【請求項7】
前記構成単位(a1)/前記構成単位(a2)で表されるモル比が10/90~90/10である請求項1~6のいずれか1項に記載の眼科用医療器具。
【請求項8】
前記樹脂成分(A)中の前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)との合計量が、前記樹脂成分(A)中の全てのモノマーに由来する構成単位の合計量に対して20~100モル%である請求項4~6のいずれか1項に記載の眼科用医療器具。
【請求項9】
医療用コンタクトレンズである請求項1~6のいずれか1項に記載の眼科用医療器具。
【請求項10】
薬剤を更に含有する請求項9に記載の眼科用医療器具。
【請求項11】
2質量%塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝生理食塩水に浸漬したときに前記薬剤が放出される請求項10に記載の眼科用医療器具。
【請求項12】
前記リン酸緩衝生理食塩水に24時間浸漬したときの前記薬剤の総放出量が、前記リン酸緩衝生理食塩水に15分間浸漬したときの前記薬剤の総放出量に対して2倍以上である請求項11に記載の眼科用医療器具。
【請求項13】
カチオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a1)と、両性イオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a2)とを含む樹脂成分(A)と、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)との反応物を含む眼科用医療器具の製造方法であり、
前記樹脂成分(B)と、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとを反応させ、更に、カチオン基を有するアクリル系モノマーおよび両性イオン基を有するアクリル系モノマーを含むモノマー混合物を加えて重合する、眼科用医療器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用医療器具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療を目的として薬剤を含んだ眼科用医療器具を装着することで、眼中の患部に薬剤を長期間に渡って送出できる様、薬剤の徐放性を有する眼科用医療器具が検討されてきた。かかる眼科用医療器具として、薬剤を担持したハイドロゲルコンタクトレンズが知られている(特許文献1)。
また、薬剤放出速度を制御するために、ハイドロゲルにプラズマ照射、紫外線照射、表面改質モノマーのグラフト重合等の表面改質を施すことが提案されている(特許文献2)。表面改質モノマーとしては、ジメチルアクリルアミドまたはメタクリル酸が用いられている。
また、アニオン性薬剤の初期放出量を制御するために、ハイドロゲルが少なくともカチオン性モノマーおよびアニオン性モノマーであるイオン性モノマーからなり、アニオン性モノマーの含量がカチオン性モノマーに対して所定の範囲内である徐放性ハイドロゲルコンタクトレンズが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-539837号公報
【特許文献2】特開2005-218780号公報
【特許文献3】国際公開第2010/095478号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、カチオン性モノマーおよび/またはアニオン性モノマーであるイオン性モノマーからなるハイドロゲルは、薬剤の徐放性が低下することがある。特に、より効率よく徐放性の眼科用医療器具を生産する為に、ハイドロゲルをコンタクトレンズ等の眼科用医療器具に成形したのち、イオン性モノマー単位を有するアクリル系樹脂で表面を修飾した場合、イオン基が局在化するためか、薬剤と眼科用医療器具の吸着力が強くなり、薬剤の放出量が極めて少なくなる。
【0005】
本発明は、徐放性に優れる眼科用医療器具およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、樹脂成分中にカチオン基を有するモノマーに由来する構成単位と両性イオン基を有するモノマーに由来する構成単位とを含むことで、樹脂成分中のカチオン基の分布が均一化され、カチオン基による薬剤の吸着力をコントロールでき、薬剤の徐放性に優れる眼科用医療器具となることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づくものであり、以下の態様を含む。
【0007】
[1]樹脂成分を含む眼科用医療器具であって、
前記樹脂成分中に、カチオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a1)と、両性イオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a2)と、を含む、眼科用医療器具。
[2]前記樹脂成分中に、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(b1)を含む[1]に記載の眼科用医療器具。
[3]前記樹脂成分がSi-O-C結合を有する[2]に記載の眼科用医療器具。
[4]前記樹脂成分が、前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)とを含む樹脂成分(A)と、前記構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)との反応物を含む[3]に記載の眼科用医療器具。
[5]前記樹脂成分(A)がアクリル系樹脂(A1)である[4]に記載の眼科用医療器具。
[6]前記樹脂成分が、前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)とを含む樹脂成分(A)と、前記構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)と、を含む[2]に記載の眼科用医療器具。
[7]前記構成単位(a1)/前記構成単位(a2)で表されるモル比が10/90~90/10である[1]~[6]のいずれかに記載の眼科用医療器具。
[8]前記樹脂成分(A)中の前記構成単位(a1)と前記構成単位(a2)との合計量が、前記樹脂成分(A)中の全てのモノマーに由来する構成単位の合計量に対して20~100モル%である[4]~[7]のいずれかに記載の眼科用医療器具。
[9]医療用コンタクトレンズである[1]~[8]のいずれかに記載の眼科用医療器具。
[10]薬剤を更に含有する[9]に記載の眼科用医療器具。
[11]2質量%塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝生理食塩水に浸漬したときに前記薬剤が放出される[10]に記載の眼科用医療器具。
[12]前記リン酸緩衝生理食塩水に24時間浸漬したときの前記薬剤の総放出量が、前記リン酸緩衝生理食塩水に15分間浸漬したときの前記薬剤の総放出量に対して2倍以上である[11]に記載の眼科用医療器具。
[13]カチオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a1)と、両性イオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a2)とを含む樹脂成分(A)と、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)との反応物を含む眼科用医療器具の製造方法であり、
前記樹脂成分(B)と、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとを反応させ、更に、カチオン基を有するアクリル系モノマーおよび両性イオン基を有するアクリル系モノマーを含むモノマー混合物を加えて重合する、眼科用医療器具の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、徐放性に優れる眼科用医療器具およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「アクリル系樹脂」は、アクリル系モノマー単位を有する樹脂を意味する。アクリル系樹脂は、アクリル系モノマー以外のモノマー単位(スチレン単位等)を更に有していてもよい。
「アクリル系モノマー」は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を意味する。
「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の総称である。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリロニトリル」、「(メタ)アクリルアミド」も同様である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0010】
〔眼科用医療器具〕
本発明の眼科用医療器具は、カチオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a1)と、両性イオン基を有するモノマーに由来する構成単位(a2)とを含む樹脂成分を含む。樹脂成分は、水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(b1)を含んでいてもよい。
眼科用医療器具は、薬剤を更に含んでいてもよい。
樹脂成分および薬剤については後で詳しく説明する。
【0011】
眼科用医療器具としては、医療用コンタクトレンズ、埋込み型薬剤徐放デバイス、涙点プラグ、結膜リング等が挙げられる。中でも、患者の利便性、非侵襲性、また医師の習熟の必要性の点から、医療用コンタクトレンズが好ましい。
【0012】
<樹脂成分>
樹脂成分中、構成単位(a1)/構成成分(a2)で表されるモル比は、10/90~90/10が好ましく、50/50~90/10がより好ましく、60/40~80/20が更に好ましく、65/35~75/25が特に好ましい。該モル比が10/90以上であれば、アニオン性薬剤の担持および放出効果がより優れる傾向があり、90/10以下であれば、タンパク付着抑制効果がより優れる傾向がある。
【0013】
好ましい一実施形態において、樹脂成分は、構成単位(a1)と構成単位(a2)とを含む樹脂成分(A)と、構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)との反応物を含む。樹脂成分(A)および樹脂成分(B)については後で詳しく説明する。
樹脂成分が、樹脂成分(A)と樹脂成分(B)との反応物と、薬剤とを含む場合、薬剤は、樹脂成分(A)に担持されていることが好ましい。
【0014】
本実施形態において、樹脂成分(A)と樹脂成分(B)との反応物中の全てのモノマーに由来する構成単位、つまり樹脂成分(A)中の全てのモノマーに由来する構成単位と樹脂成分(B)中の全てのモノマーに由来する構成単位との合計量に対する樹脂成分(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との合計量の割合は、1~70モル%が好ましく、5~50モル%がより好ましく、15~35モル%が更に好ましい。該合計量の割合が1モル%以上であれば、薬剤、特にアニオン性薬剤の担持および放出効果がより優れる傾向があり、70モル%以下であれば、眼科用医療器具の形状安定性がより優れる傾向がある。
【0015】
本実施形態において、樹脂成分(A)と樹脂成分(B)との反応物はSi-O-C結合を有していてもよい。反応物がSi-O-C結合を有することは、反応物の得やすさの点で好ましい。
【0016】
Si-O-C結合を有する反応物は、例えば、樹脂成分(B)と、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとを反応させ、更に、カチオン基を有するアクリル系モノマーおよび両性イオン基を有するアクリル系モノマーを含むモノマー混合物を加えて重合する方法により得られる。
樹脂成分(B)と、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとを反応させると、樹脂成分(B)がアルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーで修飾される。具体的には、アルコキシシリル基のアルコキシが加水分解で抜け、水酸基のプロトンを引き抜いてアルコールになると同時に樹脂側のOがSiと結合し、Si-O-C結合が形成され、樹脂成分(B)にSi-O-C結合および(メタ)アクリロイル基が導入される。その後、モノマー混合物を加えて重合すると、(メタ)アクリロイル基の部分にモノマー混合物の重合体である樹脂成分(A)がグラフトされ、Si-O-C結合を有する反応物が得られる。こうして得られる反応物は、樹脂成分(B)が樹脂成分(A)で修飾されたものともいえる。上記方法については後で詳しく説明する。
【0017】
他の好ましい一実施形態において、樹脂成分は、樹脂成分(A)と、樹脂成分(B)と、を含む。
樹脂成分は、樹脂成分(A)と樹脂成分(B)との反応物、樹脂成分(A)および樹脂成分(B)の3成分を同時に含んでいてもよい。
樹脂成分が、樹脂成分(A)と、樹脂成分(B)と、薬剤とを含む場合、薬剤は、樹脂成分(A)に担持されていることが好ましい。
【0018】
本実施形態において、樹脂成分(A)中の全てのモノマーに由来する構成単位と樹脂成分(B)中の全てのモノマーに由来する構成単位との合計量に対する樹脂成分(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)との合計量の割合は、1~70モル%が好ましく、5~50モル%がより好ましく、15~35モル%が更に好ましい。該合計量の割合が1モル%以上であれば、薬剤、特にアニオン性薬剤の担持および放出効果がより優れる傾向があり、70モル%以下であれば、眼科用医療器具の形状安定性がより優れる傾向がある。
【0019】
<樹脂成分(A)>
樹脂成分(A)は、構成単位(a1)と構成単位(a2)とを含む。
樹脂成分(A)は、カチオン基を有するモノマーおよび両性イオン基を有するモノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位を更に含んでいてもよい。
【0020】
構成単位(a1)におけるカチオン基を有するモノマーのカチオン基としては、例えば3級アミノ基、4級アンモニウム基が挙げられる。
カチオン基を有するモノマーは、アクリル系モノマーでもよく、アクリル系モノマー以外のモノマーでもよく、これらを併用してもよい。カチオン基を有するモノマーの少なくとも一部はアクリル系モノマーであることが好ましい。
カチオン基を有するモノマーの具体例としては、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリメチル(3-(メタ)アクリロイルアミノプロピルアンモニウム塩、2-メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、2-メタクリロキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩、2-メタクリロキシエチルジメチルn-ペンチルアンモニウム塩等のエチルメタクリレート(特にアンモニウムクロライド)、メタクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、2-(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
構成単位(a2)における両性イオン基を有するモノマーの両性イオン基は、カチオン部およびアニオン部を有する基である。カチオン部としては、カチオン基を有するモノマーのカチオン基と同様のものが挙げられる。アニオン部としては、例えばカルボキシ基、スルホ基、リン酸基が挙げられる。
両性イオン基を有するモノマーは、アクリル系モノマーでもよく、アクリル系モノマー以外のモノマーでもよく、これらを併用してもよい。両性イオン基を有するモノマーの少なくとも一部はアクリル系モノマーであることが好ましい。
両性イオン基を有するモノマーの具体例としては、[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、[3-((メタ)アクリロイルアミノ)プロピル]ジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル-2-(トリエチルアンモニオ)エチルホスフェート、[[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル](ジメチル)アンモニオ]アセテートが挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、グリシジルメタクリレート等の(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0023】
樹脂成分(A)中、構成単位(a1)/構成成分(a2)で表されるモル比は、10/90~90/10が好ましく、50/50~90/10がより好ましく、60/40~80/20が更に好ましく、65/35~75/25が特に好ましい。該モル比が10/90以上であれば、アニオン性薬剤の担持および放出効果がより優れる傾向があり、90/10以下であれば、タンパク付着抑制効果がより優れる傾向がある。
【0024】
樹脂成分(A)中、構成単位(a1)と構成成分(a2)との合計量は、樹脂成分(A)中の全てのモノマーに由来する構成単位の合計量に対して、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、100モル%であってもよい。該合計量が20モル%以上であれば、アニオン性薬剤の担持および放出効果がより優れる傾向がある。
【0025】
<樹脂成分(B)>
樹脂成分(B)は、構成単位(b1)を含む。
樹脂成分(B)は、水酸基を有するモノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位を更に含んでいてもよい。ただし、構成単位(b1)を有する樹脂成分であっても、構成単位(a1)および構成単位(a2)を有するものは、樹脂成分(A)に該当し、樹脂成分(B)には該当しないものとする。
【0026】
構成単位(b1)における水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性モノマー、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のオキシアルキレン変性モノマー、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸等の1級水酸基含有モノマー;2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の2級水酸基含有モノマー;2,2-ジメチル-2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の3級水酸基含有モノマーを挙げることができる。これらのモノマーは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
構成単位(b1)は、酢酸ビニルやアルコキシシランに由来する構成単位の加アルコールまたは加水分解物であってもよい。
樹脂成分(B)中の構成単位(b1)の含有量は70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、95モル%以上が特に好ましい。
【0027】
樹脂成分(B)は、眼科用医療器具を構成する樹脂として公知の樹脂であってよい。
樹脂成分(B)はアクリル系樹脂であってもよい。
樹脂成分(B)は、ハイドロゲルであってもよい。「ハイドロゲル」とは、重合体の分子鎖同士が物理的または化学的に架橋されて形成された網目構造を有し、この網目構造に水を取り込んで膨潤する構造体である。水酸基を有する樹脂がハイドロゲルであると、薬剤を担持しやすい。
樹脂成分(B)は、眼科用医療器具の形状に成形されていてもよい。
【0028】
樹脂成分(B)は、市販品を用いてもよく、公知の方法により製造したものを用いてもよい。
予め眼科用医療器具の形状に成形された樹脂成分(B)として、市販のコンタクトレンズを用いてもよい。市販のコンタクトレンズとしては、例えばポリビニルアルコール系、シリコーンメタクリレート系、フッ素メタクリレート系、シリコーンハイドロゲル系、グリセロールメタクリレート系、N,N-ジメチルアクリルアミド系、ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」とも記す。)系が挙げられる。
【0029】
<薬剤>
薬剤としては、特に制限は無く、治療しようとする疾患に応じ、公知の薬剤のなかから適宜選定できる。
薬剤は、例えば、核酸、タンパク質、炭水化物(多糖等)、その他の有機化合物、無機化合物、またはこれらの2以上の組み合わせであってよい。
【0030】
眼科疾患に適用される薬剤の例としては、特に限定するものではないが、抗感染症剤(抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤等)、血管新生抑制剤(抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)剤等)、抗炎症剤、眼圧降下剤、抗悪性腫瘍剤、麻酔剤、自律神経剤、ステロイド(コルチコステロイド等)、抗ヒスタミン剤、肥満細胞安定化剤、免疫抑制剤、有糸分裂阻害剤等が挙げられる。
【0031】
抗菌剤の非限定的な例としては、バシトラシン、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、レボフロキサシン、スルファセタミド、ポリミキシンB、バンコマイシン、トブラマイシン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
抗ウイルス剤の非限定的な例としては、トリフルリジン、ビダラビン、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、フォスカーネット、ガンシクロビル、フォルミビルセン、シドフォビル、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
抗真菌剤の非限定的な例としては、アンフォテリシンB、ナタマイシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
抗原虫剤の非限定的な例としては、ポリミキシンB、ネオマイシン、クロトリマゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、プロパミジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン、イトラコナゾール、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
抗炎症剤の非限定的な例としては、任意の公知のステロイド性抗炎症剤(SAIDs)、任意の公知の非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、またはそれらの組み合わせが挙げられる。SAIDsの非限定的な例としては、デキサメタゾン、プレドニゾロン、フルオロメトロン、ロテプレドノール、メドリゾン、リメキソロン等のグルココルチコイドが挙げられる。NSAIDsの非限定的な例としては、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ケトロラック、ブロモフェナク、ネパフェナク、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
抗悪性腫瘍剤の非限定的な例としては、当該分野で周知の化学療法剤が挙げられる。
麻酔剤の非限定的な例としては、アミノアミド、アミノエステル、またはそれらの組み合わせが挙げられる。アミノアミドの非限定的な例としては、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ロピバカイン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。可能なアミノエステルの非限定的な例としては、ベンゾカイン、プロカイン、プロパラカイン、テトラカイン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
自律神経剤の非限定的な例としては、アセチルコリン、カルバコール、ピロカルピン、フィゾスチグミン、エコチオフェート、アトロピン、スコポラミン、ホモトラピン、シクロペントレート、トロピカミド、ジピベフリン、エピネフリン、フェニレフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、コカイン、ヒドロキシアンフェタミン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、ダピプラゾール、ベタキソロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、チモロール、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
抗ヒスタミン剤の非限定的な例としては、フェニラミン、アンタゾリン、ナファゾリン、エメダスチン、レボカルバスチン、クロモリン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
肥満細胞安定化剤の非限定的な例としては、ロドキサミド、ペミロラスト、ネドクロミル、オロパタジン、ケトチフェン、アゼラスチン、エピナスチン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
薬剤としては、アクリル系樹脂へ吸着しやすく放出を制御しやすい点から、アニオン系薬剤、両性薬剤またはカチオン性薬剤が好ましい。
アニオン系薬剤は、アニオン性基を有し、水中で負電荷を示す薬剤である。
アニオン系薬剤の非限定的な例としては、核酸、トラニラスト、アシタザノラスト水和物、クロモグリク酸ナトリウム、グルタチオン、プラノプロフェン、ブロムフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、ベボタスチンベシル酸塩またはそれらの組み合わせが挙げられる。
アニオン系薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0037】
両性薬剤は、アニオン性基およびカチオン性基を有し、水中での電荷がゼロとなる薬剤である。眼科用薬のオロパタジンは単一の正に荷電した三級アミン基、および単一の負に荷電したカルボン酸基を有するので、ゼロの正味電荷を有するとみなされる。
両性薬剤の非限定的な例としては、塩酸レボカバスチン、アンレキサノクス、オロパタジン、ロメフロキサシン塩酸塩、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、トスフロキサシン、ピレノキシン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
両性薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0038】
カチオン性薬剤は、カチオン性基を有し、水中で正電荷を示す薬剤である。
一例では、カチオン性薬剤はポリマーである。例となるカチオン性ポリマーとしては、複数のアルギニンおよび/またはリジン基を含む抗菌性ペプチドであるイプシロンポリリジン(εPLL)、ポリコート(polyquat)等が挙げられる。
他の一例では、カチオン性薬剤は、3個の窒素原子に共有結合した中心炭素原子を含み、1個の窒素原子と中心炭素との間に二重結合を有する、正に荷電した基であるグアニジウム基を含む。少なくとも1つのグアニジウム基を含む眼科用途に典型的な有益な薬剤としては、抗ヒスタミン薬、例えばエピナスチンおよびエメダスチン;緑内障薬、例えばアプラクロニジンおよびブリモニジン;グアニン誘導体抗ウイルス薬、例えばガンシクロビルおよびバルガンシクロビル;アルギニン含有抗菌性ペプチド、例えばデフェンシンおよびインドリシジン;並びにビグアナイド系抗菌剤、例えばクロルヘキシジン、アレキシジン、およびポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)が挙げられる。
眼科用途の他のカチオン性薬剤としては、ケトチフェン、カチオン性ステロイド、メチル硫酸ネオスチグミン、塩酸オキシブプロカイン、硝酸ナファゾリン、塩酸ナファゾリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、塩酸ピロカルピン、臭化ジスチグミン、ヨウ化エコチオパート、エピネフェリン、酒石酸水素エピネフェリン、塩酸カルテオロール、塩酸ベフノロール、リパスジル塩酸塩が挙げられる。
カチオン系薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0039】
眼科用医療器具が薬剤を含有する場合、眼科用医療器具は、2質量%塩化ナトリウム(NaCl)を含有するリン酸緩衝生理食塩水に浸漬したときに薬剤が放出されることが好ましい。該リン酸緩衝生理食塩水で薬剤が放出されれば、生体内条件下での放出が可能であるため、眼科用医療器具として有用である。
【0040】
また、眼科用医療器具を前記リン酸緩衝生理食塩水に24時間浸漬したときの薬剤の総放出量(以下、「24時間後放出量」とも記す。)は、眼科用医療器具を前記リン酸緩衝生理食塩水に15分間浸漬したときの薬剤の総放出量(以下、「15分後放出量」とも記す。)に対して2倍以上が好ましく、6倍以上がより好ましく、10倍以上が更に好ましく、また、1000倍以下が好ましく、500倍以下がより好ましく、100倍以下が更に好ましい。24時間後放出量が15分後放出量の2倍以上であれば、24時間装着における薬剤の徐放性に優れる。24時間後放出量が15分後放出量の1000倍以下であれば、早期での薬剤放出性に優れる。前記下限値および上限値は適宜組み合わせることができる。
【0041】
<眼科用医療器具の製造方法>
本発明の眼科用医療器具は、例えば、樹脂成分(B)と、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとを反応させ、更に、カチオン基を有するアクリル系モノマーおよび両性イオン基を有するアクリル系モノマーを含むモノマー混合物を加えて重合する方法により製造できる。
この方法によれば、前記したように、Si-O-C結合を有する、樹脂成分(B)と樹脂成分(A)との反応物を含む眼科用医療器具が得られる。
【0042】
樹脂成分(B)は、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーを反応させる前に予め、眼科用医療器具の形状に成形されていることが好ましい。モノマー混合物の重合後、得られた樹脂成分を眼科用医療器具の形状に成形してもよいが、樹脂成分(B)を予め成形しておくことで、効率よく眼科用医療器具を製造できる。
【0043】
アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとしては、例えば3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
モノマー混合物中のカチオン基を有するモノマーと両性イオン基を有するモノマーとのモル比の好ましい範囲は、樹脂成分(A)中の構成単位(a1)と構成単位(a2)とのモル比(構成単位(a1)/構成単位(a2))の好ましい範囲と同様である。
モノマー混合物は、カチオン基を有するモノマーおよび両性イオン基を有するモノマー以外の他のモノマーを更に含んでいてもよい。
モノマー混合物中のカチオン基を有するモノマーと両性イオン基を有するモノマーとの合計量は、モノマー混合物を構成する全モノマーの合計量に対し、20モル%以上が好ましく、50モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましく、100モル%であってもよい。
樹脂成分(B)とモノマー混合物との合計量に対するカチオン基を有するモノマーと両性イオン基を有するモノマーとの合計量の割合は、1~70モル%が好ましく、5~50モル%がより好ましく、15~35モル%が更に好ましい。該合計量が1モル%以上であれば、薬剤、特にアニオン性薬剤の担持および放出効果がより優れる傾向があり、70モル%以下であれば、形状安定性がより優れる傾向がある。
【0045】
樹脂成分(B)とアルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーとを反応させる方法は特に限定されない。
例えば、樹脂成分(B)で構成されたコンタクトレンズをエタノールに浸漬することで、コンタクトレンズ中の水分を除去し、次いで、コンタクトレンズを、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーの脱水エタノール溶液に浸漬し、水酸基とアルコキシシリル基とを反応させることで、コンタクトレンズをアクリル系モノマーで修飾する。
アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーの添加量は、脱水エタノール量に対し、0.5~5w/v%が好ましく、1~2w/v%がより好ましい。アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマーの添加量が前記下限値以上であれば、反応の均一性がより優れる傾向があり、前記上限値以下であれば、コンタクトレンズへアルコキシシリル基を導入しやすい傾向がある。
反応条件は、例えば15~25℃で180~2880分間である。
【0046】
モノマー混合物の重合方法は特に限定されない。
例えば、前記のようにしてコンタクトレンズをアクリル系モノマーで修飾した後、このコンタクトレンズを、モノマー混合物を含む脱水エタノール溶液に浸漬し、重合開始剤を添加して重合する。これにより、樹脂成分(B)と樹脂成分(A)との反応物を含むコンタクトレンズが得られる。
脱水エタノール溶液中のモノマー混合物の添加量は、脱水エタノール量に対し、0.05~1.00mol/Lが好ましく、0.10~0.50mol/Lがより好ましい。モノマー混合物の添加量が前記下限値以上であれば、コンタクトレンズに導入されやすい傾向があり、前記上限値以下であれば、反応の均一性がより優れる傾向がある。
重合開始剤としては公知のものを適宜選択できる。重合開始剤の添加量は、例えばモノマー混合物中の全てのモノマーの合計量に対して0.1~1.0mol%である。
重合条件は、例えば60~80℃で180~2880分間ある。
【0047】
必要に応じて、得られた眼科用医療器具に薬剤を含浸させる。含浸方法としては、例えば薬剤の水溶液中に眼科用医療器具を浸漬する方法が挙げられる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1~4、比較例1~3)
<アクリレート修飾コンタクトレンズの作成>
水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(b1)を含む樹脂成分(B)からなるコンタクトレンズ(市販のHEMA系ハイドロゲルコンタクトレンズ)を遠沈管に入れ純水で2回洗浄した後、エタノール中で5回洗浄した後、更に20分間浸漬し、コンタクトレンズ中の水分をエタノールと置換した。エタノールで処理したコンタクトレンズを15mLの脱水エタノールと3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン144μLの混合溶液中に添加し、24時間室温で反応させ、アクリレート修飾コンタクトレンズを得た。反応後のコンタクトレンズはエタノールで充分洗浄した。
【0050】
<樹脂成分(A)含有コンタクトレンズの作成>
カチオン基を有するモノマー(以下、「カチオン性モノマー」とも記す。)としてトリメチル(3-メタクリロイルアミノプロピルアンモニウムクロリドを用い、両性イオン基を有するモノマー(以下、「両性イオン性モノマー」とも記す。)として[[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル](ジメチル)アンモニオ]アセテートを用いた。
カチオン性モノマーおよび両性イオン性モノマーを表1に示すモル比で、全モノマー濃度が0.5mоl/Lとなるように脱水エタノールに溶解し、モノマー溶液を得た。
モノマー溶液100mLに、アクリレート修飾コンタクトレンズを浸漬し、全モノマーに対して0.5mol%のアゾビスイソブチロニトリルを添加し、窒素バブリングしながら、75℃に昇温し、24時間重合した。その後、コンタクトレンズを取り出し、エタノールで充分洗浄した後、純水で洗浄することでエタノールを除去した。これにより、Si-O-C結合を有する、樹脂成分(B)と樹脂成分(A)との反応物で構成されたコンタクトレンズ(以下、「樹脂成分(A)含有コンタクトレンズ」とも記す。)を得た。
実施例1~4、比較例2~3の樹脂成分(A)含有コンタクトレンズにおいて、樹脂成分(A)中の全てのモノマーに由来する構成単位に対する構成単位(a1)と構成単位(a2)との合計の割合は、100モル%であった。
また、樹脂成分(A)中の全てのモノマーに由来する構成単位と樹脂成分(B)中の全てのモノマーに由来する構成単位との合計量に対する構成単位(a1)と構成単位(a2)との合計量の割合は22モル%であった。その計算方法は、樹脂成分(A)含有コンタクトレンズと市販のHEMA系ハイドロゲルコンタクトレンズを105℃3時間で乾燥させて質量を量り、それらの差から樹脂成分(A)の質量を算出し、市販のHEMA系ハイドロゲルコンタクトレンズの構成モノマーの平均モノマー分子量、カチオン性モノマーおよび両性イオン性モノマーの仕込み時の割合から算出した見かけの平均モノマー分子量で割って算出した。
【0051】
<薬剤含有コンタクトレンズの作成>
樹脂成分(A)含有コンタクトレンズを、モデル薬剤として核酸(Malat1:塩基数16、理論分子量5097.28、c^t^a^g^t^t^c^a^c^t^g^a^a^t^g^c)の1mg/mLの水溶液2mLに24時間浸漬して薬剤含有コンタクトレンズを得た。
【0052】
<徐放性試験>
24well細胞培養プレートに、薬剤含有コンタクトレンズを入れ、NaClを加えてNaCl濃度を2質量%とした1000μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加し、37℃で15分静置した後、PBSを全量採取した。次いで、同じくNaClを含有する1000μLのPBSを添加し、同じく37℃で15分静置した後(計30分後)、PBSを全量採取した。次いで、同じくNaClを含有する1000μLのPBSを添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、PBSを全量採取した。その後も、NaClを含有するPBSの添加、37℃で30分の静置およびPBSの全量採取を繰り返した。最初にPBSを添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したPBSを測定サンプルとし、HPLC[Agilent Technologies社製]で、0.1Mトリエチレンアミン水溶液と0.1Mトリエチルアミンの50%アセトニトリル/水溶液でグラジエントをかけ、波長260nmの吸光度を測定し、事前に作成した検量線を用いて核酸濃度を求め、各時間までの累積放出量(μg)を算出した。また、24時間後の累積放出量に対する15分後の累積放出量の比(15分後/24時間後)を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例1~3はいずれも薬剤の徐放性を有していなかった。カチオン性モノマーに由来する構成単位(a1)を含まない比較例1および比較例3は、薬剤が吸着しなかったと考えられる。両性イオン性モノマーに由来する構成単位(a2)を含まない比較例2は、薬剤の吸着力が強すぎて薬剤が放出されなかったと考えられる。
これに対し、樹脂成分(B)と樹脂成分(A)との反応物を含むコンタクトレンズである実施例1~4はいずれも、徐々に薬剤が溶出しており、徐放性に優れていた。特に、構成単位(a1)と構成単位(a2)をとの比が70/30である実施例1の徐放性が優れていた。これは、構成単位(a1)により薬剤が充分に吸着して、吸着量が多くなったためと思われる。
この結果から、構成単位(a1)と共に構成単位(a2)を含有することで、構成単位(a1)の分布を均一化し、吸着力をコントロールできることが確認された。