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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108771
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】積層フィルム、および、包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240805BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013325
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】久世 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】神阪 輝
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB01
3E086BB23
3E086BB35
3E086BB51
3E086BB55
3E086BB58
3E086CA01
3E086CA03
3E086CA35
3E086DA03
3E086DA08
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK08A
4F100AK08B
4F100AK09A
4F100AK09B
4F100AK12B
4F100AK62B
4F100AK64A
4F100AK64B
4F100AK66B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA00
4F100CA00B
4F100CA06
4F100CA06B
4F100EC18
4F100EH17
4F100EH20
4F100EJ37
4F100EJ38
4F100EJ55
4F100GB15
4F100JA04
4F100JA04B
4F100JA06
4F100JK01
4F100JK04
4F100JK06
4F100JK07
4F100JL12
4F100JL12B
4F100JL13
4F100JL16
(57)【要約】
【課題】リサイクル性に優れると共に、比較的低温でシール強度を得られ、包装した後の形状を維持することができる積層フィルムおよび包装袋を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る積層フィルムは、基材層とシーラント層とを含む積層フィルムであって、基材層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、シーラント層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスが8~18μg/μmであり、膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネスが8~25μg/μmであり、DSCで観測される50℃から200℃までの累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’が60~130℃である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層とシーラント層とを含む積層フィルムであって、
基材層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、
シーラント層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、
膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスが8~18μg/μmであり、膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネスが8~25μg/μmであり、
DSCで観測される50℃から200℃までの累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’が60~130℃である、積層フィルム。
【請求項2】
前記基材層が、プロピレン単独重合体および/またはプロピレン-エチレン共重合体を含有する、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記シーラント層が、さらに、炭素原子数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位を50質量%以上含むα-オレフィン系重合体を含有する、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記α-オレフィン系重合体が、1-ブテンに基づく単量体単位を50質量%以上含む、請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記シーラント層が、プロピレン-エチレン共重合体と、プロピレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素原子数は4~12である)とを含有する、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記プロピレン-エチレン共重合体が、プロピレンに基づく単量体単位を95~98質量%と、エチレンに基づく単量体単位を2~5質量%と、を含み、
前記プロピレン-α-オレフィン共重合体が、プロピレンに基づく単量体単位を70~99質量%と、α-オレフィンに基づく単量体単位を1~30質量%と、を含む、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の積層フィルムを備える包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、および、包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
各種包装材料として、基材層とシーラント層とを備える積層フィルムが広く使用されている。かかる積層フィルムは、シーラント層を内側にして、収容空間を形成するようにヒートシールすることで包装袋を形成する(製袋する)ことができる。
【0003】
近年、このような積層フィルムにおいても、リサイクルの要望が高まっていることから、モノマテリアル化が要求されている。例えば、特許文献1には、延伸樹脂フィルムであるポリオレフィン樹脂層およびバリアコート層を備える基材とポリオレフィンから構成されるヒートシール層とを備え、基材のポリオレフィン樹脂層を構成するポリオレフィンとヒートシール層を構成するポリオレフィンとが同一のポリオレフィンである、高いリサイクル性を有する包装材料用積層体が開示されている。該包装材料用積層体は、バリアコート層の厚みが、ポリオレフィン樹脂層よりも小さいことを特徴とし、高い強度、耐熱性、酸素バリア性および水蒸気バリア性を有する。
【0004】
また、特許文献2には、オレフィン系(共)重合体を含む熱融着層を有する無延伸フィルムであるシーラントフィルムと、無延伸ポリプロピレンフィルムおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる基材フィルムとを含み、特定の質量割合のプロピレン(共)重合体および/または1-ブテン(共)重合体を含む積層体が開示されている。該積層体は、環境問題の面からリサイクル性を考慮し、できるだけ単一素材とすべくプロピレン系共重合体を主成分としており、低温ヒートシール性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-40253号公報
【特許文献2】特開2020-192695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のような同一のポリオレフィンまたは上記特許文献2のような単一素材を用いる積層フィルムをヒートシールする場合、充分なシール強度を得るために、ヒートシール温度を高くする必要がある。ところが、ヒートシール温度を高くすると、熱で積層フィルムの基材が変形して包装(シール)できない虞がある。そのため、積層フィルムには、低温でシール強度が得られること(シール可能な最低温度を低くできること)、および、包装した後の形状を維持できること(製袋性が良いこと)が要望されている。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、リサイクル性に優れると共に、比較的低温でシール強度を得られ、包装した後の形状を維持することができる積層フィルム、および、包装袋を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層フィルムは、基材層とシーラント層とを含む積層フィルムであって、基材層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、シーラント層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスが8~18μg/μmであり、膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネスが8~25μg/μmであり、DSCで観測される50℃から200℃までの累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’が60~130℃である。
【0009】
本発明に係る包装袋は、上述の積層フィルムを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リサイクル性に優れると共に、比較的低温でシール強度を得られ、包装した後の形状を維持することができる積層フィルム、および、包装袋を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態、実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態、実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0012】
<積層フィルム>
本実施形態に係る積層フィルムは、基材層とシーラント層とを含む。
【0013】
本実施形態に係る積層フィルムは、膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスが8~18μg/μmであり、膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネスが8~25μg/μmであり、DSCで観測される50℃から200℃までの累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’が60~130℃である。
【0014】
ループスティフネス(単位:μg)は、以下の測定方法によって測定される。
【0015】
[ループスティフネス(単位:μg)の測定方法]
積層フィルムから、長さ170mm(流れ方向)、幅25mm(垂直方向)の試験片Aと、長さ170mm(垂直方向)、幅25mm(流れ方向)の試験片Bとを採取する。積層フィルムの流れ方向のループスティフネスは、採取した試験片Aを用いて測定し、積層フィルムの垂直方向のループスティフネスは、採取した試験片Bを用いて測定する。採取した2つの試験片を、積層フィルムの基材層側が凸変形、シーラント層側が凹変形する向きにループ長となるように10cmに折り曲げる。ループの直径方向にロードセルを押し込んでいき、負荷が最大となった数値をループスティフネスとする。なお、ループスティフネスは、ループスティフネステスター(株式会社東洋精機製作所社製)を用いて、温度23℃、相対湿度50%の条件で測定される。
【0016】
膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスは、8~18μg/μmであり、好ましくは8~16μg/μmであり、より好ましくは10~15μg/μmである。膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスが、上記の範囲であることにより、包装体の製造過程において積層フィルムの形態が維持されやすい傾向にあり、製袋性を向上させることができる。基材層および/またはシーラント層に用いるプロピレン系重合体およびα-オレフィン系重合体に含まれるプロピレン以外の単量体単位の種類および含有量を変更することにより、高分子鎖の剛直性が変化するため流れ方向のループスティフネスを制御することができる。具体的には、プロピレン以外の単量体単位の種類としてエチレンおよび炭素数4~12のα-オレフィンを用いることができるが、炭素数5~12のα-オレフィンよりも炭素数4のα-オレフィンを用いることにより流れ方向のループスティフネスを高めることができ、炭素数4のα-オレフィンよりもエチレンを用いることにより、流れ方向のループスティフネスを高めることができる。また、プロピレン系重合体およびα-オレフィン系重合体に含まれるプロピレン以外の単量体単位の合計の含有量を減らすことによっても鎖の剛直性が増すため、流れ方向のループスティフネスを高めることができる。また、基材層および/またはシーラント層に含まれるプロピレン系重合体の配向を高めることによっても流れ方向のループスティフネスを高めることができる。具体的には流れ方向の延伸倍率を高くすると重合体の分子鎖が流れ方向に配向するため流れ方向のループスティフネスを高めることができる。
流れ方向のループスティフネスを下げるためには反対の操作を行えばよく、以上のように基材層および/またはシーラント層に用いるプロピレン以外の単量体単位の種類、量、流れ方向の延伸倍率を適宜調節することにより流れ方向のループスティフネスを制御することができる。
【0017】
膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネスは、8~25μg/μmであり、好ましくは8~20μg/μmであり、より好ましくは12~18g/μmである。膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネスが、上記の範囲であることにより、包装体の製造過程において積層フィルムの形態が維持されやすい傾向にあり、製袋性を向上させることができる。基材層および/またはシーラント層に用いるプロピレン系重合体およびα-オレフィン系重合体に含まれるプロピレン以外の単量体単位の種類および含有量を変更することにより、高分子鎖の剛直性が変化するため垂直方向のループスティフネスを制御することができる。具体的には、プロピレン以外の単量体単位の種類としてエチレンおよび炭素数4~12のα-オレフィンを用いることができるが、炭素数5~12のα-オレフィンよりも炭素数4のα-オレフィンを用いることにより垂直方向のループスティフネスを高めることができ、炭素数4のα-オレフィンよりもエチレンを用いることにより、垂直方向のループスティフネスを高めることができる。また、プロピレン系重合体およびα-オレフィン系重合体に含まれるプロピレン以外の単量体単位の合計の含有量を減らすことによっても鎖の剛直性が増すため、垂直方向のループスティフネスを高めることができる。また、基材層および/またはシーラント層に含まれるプロピレン系重合体の配向を高めることによってもループスティフネスを高めることができる。具体的には垂直方向の延伸倍率を高くするとプロピレン系重合体の分子鎖が垂直方向に配向するため垂直方向のループスティフネスを高めることができる。
垂直方向のループスティフネスを下げるためには反対の操作を行えばよく、以上のように基材層および/またはシーラント層に用いるプロピレン以外の単量体単位の種類、量、垂直方向の延伸倍率を適宜調節することにより垂直方向のループスティフネスを制御することができる。
【0018】
本実施形態に係る積層フィルムのDSCで観測される50℃から200℃までの累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’(単位:℃)は、以下の測定方法によって測定される。以下、温度T’をDSC55%温度(単位:℃)と称する場合がある。
【0019】
[DSC55%温度(T’)(単位:℃)の測定方法]
温度変調示差走査熱量計(ティーエイインスツルメント社製Q100)を用いて、シーラント層約5mgを窒素ガス雰囲気下(窒素ガス流量50ml/分)で0℃に降温する。次に、0℃で5分保持した後、平均昇温速度2℃/分、温度変調振幅±0.5℃、温度変調周期1分で昇温させて230℃まで測定し、Reversing Heat Flow(比熱成分)を得る。なお、同じ示差走査熱量計を用いて、インジウム(In)約4mgを窒素ガス雰囲気下(窒素ガス流量50ml/分)、110℃に平衡温度となるよう昇温した後、5℃/分の昇温速度で昇温させて180℃まで測定し、得られた融解吸熱カーブの最大ピーク開始温度をオンセット温度としたところ、156.6℃であった。
【0020】
50℃から200℃までのある温度Tに対するReversing Heat Flowの値Q(T)について、50℃における熱量Q(50)と200℃における熱量Q(200)の2点を結ぶ直線をベースラインとして、ある温度Tにおけるベースライン補正後のReversing Heat Flowの熱量Q’(T)を以下の式(1)と定義する。
【0021】
【数1】
【0022】
50℃を始点とし、50℃から200℃まで範囲のある温度T’までベースライン補正後のReversing Heat Flowの積分を以下の式(2)のA(T’)と定義する。
【0023】
【数2】
【0024】
A(T’)について、以下の式(3)を満たす温度T’を、累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’温度と定義する。
【0025】
【数3】
【0026】
本実施形態に係る積層フィルムのDSC55%温度(T’)は、60~130℃であり、好ましくは65~120℃であり、より好ましくは80~120℃である。積層フィルムのDSC55%温度(T’)が、上記の範囲であることにより、包装体の製造過程において、フィルムの表層が効果的に融解し、包装体がシールされやすくなるため、シール可能最低温度を低下させることができる。
シーラント層に用いるプロピレン系重合体および/またはα-オレフィン系重合体に含まれるプロピレン以外の単量体単位の種類および含有量を変更することにより、フィルム表層が融解しやすくなるためDSC55%温度を制御することができる。具体的には、プロピレン以外の単量体単位の種類としてエチレンおよび炭素数4~12のα-オレフィンを用いることができるが、炭素数5~12のα-オレフィンよりもエチレンを用いることによりDSC55%温度を低下させることができ、エチレンよりも炭素数4のα-オレフィンを用いることにより、DSC55%温度を低下させることができる。また、プロピレン系重合体および/またはα-オレフィン系重合体に含まれるプロピレン以外の単量体単位の合計の含有量を増やすことによってもDSC55%温度を低下させることができる。プロピレン系重合体および/またはα-オレフィン系重合体が複数含まれている場合には各重合体の平均として、プロピレン以外の単量体単位の種類、含有量を変更することによりDSC55%温度を制御することができる。
DSC55%温度を高めるためには反対の操作を行えばよく、以上のようにシーラント層に用いるプロピレン以外の単量体単位の種類、量を適宜調節することによりDSC55%温度を制御することができる。
【0027】
<基材層>
基材層は、1つ以上のプロピレン系重合体を含有する。プロピレン系重合体は、プロピレンに基づく単量体単位を50質量%以上含む重合体であり、プロピレン単独重合体であってもよいし、プロピレン系共重合体であってもよい。プロピレン系共重合体は、エチレンおよび/または炭素数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位を含んでいてもよい。炭素数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられ、好ましくは1-ブテンである。なお、基材層は、単量体単位の種類および含有量の異なるプロピレン系重合体を2つ以上含有していてもよい。
【0028】
一態様において、基材層は、プロピレン-エチレン共重合体を含有する。プロピレン系重合体において、エチレンに基づく単量体単位の含有量は、膜厚の3乗で除した積層フィルムのループスティフネスを高めて製袋性を向上させる観点から、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~1質量%である。ここで、0質量%はプロピレン単独重合体をあらわす。
【0029】
一態様において、基材層は、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムを用いることができる。ループスティフネスを高くし、製袋性を良好にする観点から、基材層としては、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムが好ましく、二軸延伸フィルムがさらに好ましい。ループスティフネスを高くし、製袋性を良好にする観点から、フィルムの延伸倍率としては、3~15倍が好ましく、5~10倍がさらに好ましい。
【0030】
<シーラント層>
シーラント層は、1つ以上のプロピレン系重合体を含有する。プロピレン系重合体は、プロピレンに基づく単量体単位を50質量%以上含む重合体であり、プロピレン単独重合体であってもよいし、プロピレン系共重合体であってもよい。プロピレン系共重合体は、エチレンおよび/または炭素数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位を含んでいてもよい。炭素数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられ、好ましくは1-ブテンである。なお、シーラント層は、単量体単位の種類および含有量の異なるプロピレン系重合体を2つ以上含有していてもよい。また、シーラント層に含まれるプロピレン系重合体は、基材層に含まれるプロピレン系重合体と同一の重合体であってもよいし、異なる重合体であってもよい。
【0031】
シーラント層は、さらに、DSC55%温度(T’)を所望の範囲に制御し、シール可能温度を低下させると共に、包装体の製造過程におけるフィルム同士の融着を抑制する観点から、好ましくは、炭素原子数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位を50質量%以上含むα-オレフィン系重合体を含有する。すなわち、α-オレフィン系重合体は、炭素原子数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位を50質量%以上含む重合体であり、α-オレフィン単独重合体であってもよいし、α-オレフィン系共重合体であってもよい。
【0032】
炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられ、好ましくは、1-ブテンである。すなわち、α-オレフィン系重合体は、好ましくは、1-ブテンに基づく単量体単位を50質量%以上含む。また、α-オレフィン系共重合体に含まれる炭素原子数4~12のα-オレフィン以外の単量体単位としては、エチレンおよびプロピレンが挙げられ、好ましくは、エチレンである。
【0033】
α-オレフィン系重合体におけるα-オレフィンに基づく単量体単位の含有量は、DSC55%温度(T’)を所望の範囲に制御し、シール可能温度を低下させると共に、包装体の製造過程におけるフィルム同士の融着を抑制する観点から、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは70~100質量%であり、さらに好ましくは80~95質量%である。
【0034】
一態様において、シーラント層は、プロピレン-エチレン共重合体と、プロピレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素原子数は4~12である)とを含有する。一態様において、プロピレン-エチレン共重合体は、プロピレンに基づく単量体単位を95~98質量%と、エチレンに基づく単量体単位を2~5質量%と、を含み、プロピレン-α-オレフィン共重合体は、プロピレンに基づく単量体単位を70~99質量%と、α-オレフィンに基づく単量体単位を1~30質量%と、を含む。
【0035】
シーラント層全体に含まれるエチレンに基づく単量体単位および/または炭素数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位の合計含有量は、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは20~50質量%であり、さらに好ましくは20~45質量%である。シーラント層全体に含まれるエチレンに基づく単量体単位および/または炭素数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位の合計含有量が大きいと、DSC55%温度(T’)が低くなり、シール可能最低温度が低下する傾向にある。また、シーラント層全体に含まれるエチレンに基づく単量体単位および/または炭素数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位の合計含有量が小さいと、DSC55%温度(T’)が高くなり、包装体の製造過程におけるフィルム同士の融着が起こりにくい傾向にある。
【0036】
基材層およびシーラント層において、プロピレン系重合体の製造方法としては、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒等を用いて、原料であるプロピレン、エチレン等を重合させる方法が挙げられる。プロピレン系重合体の重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等の不活性溶剤中で重合する方法、液状のプロピレンまたはエチレン中で重合する方法、気体であるプロピレンまたはエチレン中に触媒を添加し、気相状態で重合する方法、またはこれらを組み合わせて重合する方法が挙げられる。
【0037】
プロピレン系重合体の製造方法は、生産性を向上させる観点から、好ましくは、実質的に不活性溶剤の不存在下で、プロピレン系重合体を生成する第一工程を行い、次いで、該プロピレン系重合体の存在下、気相中で、プロピレンとエチレンとを重合して、該プロピレン系重合体と異なるエチレン-プロピレン共重合体を生成する第二工程を行う方法である。これによって、プロピレン系重合体および該プロピレン系重合体と異なるエチレン-プロピレン共重合体を含むプロピレン系重合体組成物を製造することができる。このようなプロピレン系重合体組成物は、プロピレン系重合体を2つ含む。
【0038】
プロピレン系重合体および該プロピレン系重合体と異なるエチレン-プロピレン共重合体を含むプロピレン系重合体組成物における、エチレンに基づく単量体単位の含有量の調整方法としては、重合時の各工程で、水素ガス、金属化合物等の分子量調節剤およびエチレンを、それぞれ適切な量で加える方法、重合時の温度・圧力等を調節する方法が挙げられる。
【0039】
プロピレン系重合体および該プロピレン系重合体と異なるエチレン-プロピレン共重合体の生成割合は、第一工程および第二工程における重合時間、重合槽の大きさ、重合槽中の重合体の保持量、重合温度、重合圧力等により制御することができる。必要に応じて、ポリプロピレンの残留溶媒、製造時に副生する超低分子量のオリゴマー等を除去するために、ポリプロピレンが融解する温度以下の温度で乾燥を行ってもよい。乾燥方法としては、例えば、特開昭55-75410号、特許第2565753号公報に記載された方法等が挙げられる。
【0040】
第二工程で得られる重合体のメルトフローレート(MFR)は、フィルムの加工性および衛生性を良好にするという観点から、好ましくは0.001~10g/10分であり、より好ましくは0.01~10g/10分であり、さらに好ましくは0.01~5g/10分である。なお、前記MFRは、JIS K 7210-1-2014に規定されたA法により、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0041】
基材層およびシーラント層は、必要に応じて、添加剤、その他の樹脂等を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、粘着剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、メルトフローレート調整剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられ、1分子中にフェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。その他の樹脂としては、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体を水添したスチレン系共重合体ゴム等のエラストマーが挙げられる。
【0042】
基材層およびシーラント層は、上記プロピレン系重合体、および、必要に応じて上記の各種添加剤を溶融混練して形成することができる。
【0043】
上記の溶融混練を行う方法としては、従来公知の方法および装置を用いて行うことができる。例えば、上記の各材料を、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー等の混合装置を用いて混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。または、定量供給機を用いて、一定の割合で、上記の各材料をそれぞれ連続的に供給することによって均質な混合物を得た後、該混合物を、単軸または二軸以上の押出機、バンバリーミキサー、ロール式混練機等を用いて、溶融混練する方法が挙げられる。
【0044】
基材層を形成する際の溶融混練温度は、好ましくは190~320℃であり、より好ましくは210~280℃である。シーラント層を形成する際の溶融混練温度は、好ましくは190~320℃であり、より好ましくは190~250℃である。
【0045】
本実施形態に係る積層フィルムは、基材層とシーラント層とを積層して形成することができる。基材層とシーラント層とを積層して積層フィルムを製造する方法としては、各層を重ねることで形成する方法でもよいし、共押出しで形成する方法でもよく、例えば、ドライラミネート法、Tダイ法、チューブラー法等が挙げられる。共押出しで形成する方法としては、例えば、複数の押出機からダイ内に流入した溶融樹脂をダイ内で層状に組み合わせるフィードブロック式ダイを用いる方法、複数の押出機からダイ内に流入した溶融樹脂が別々のマニホールドに送り込まれてダイのリップ部直前で層状に組み合わせるマルチマニホールド式ダイを用いる方法等が挙げられる。
【0046】
基材層の厚さとシーラント層の厚さとの合計を100%として、基材層の厚さは、好ましくは70~90%であり、より好ましくは70~85%であり、さらに好ましくは75~85%である。また、基材層の厚さとシーラント層の厚さとの合計を100%として、シーラント層の厚さは、好ましくは10~30%であり、より好ましくは15~30%であり、さらに好ましくは15~25%である。基材層の厚さとシーラント層の厚さとが上記の範囲であることで、基材層とシーラント層との間で層間剥離がより発生しにくくなると共に、ヒートシール強度と落袋強度に優れた積層フィルムとなり、また、積層フィルムが加熱された際に積層フィルムの表面に凹凸(ゆず肌)が生じるのを抑制することができる。
【0047】
積層フィルムの厚さは、好ましくは5~500μmであり、より好ましくは30~150μmである。
【0048】
積層フィルムは、通常工業的に採用されている方法によって、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0049】
積層フィルムは、その他のバリア性フィルム、転写性フィルム等と複合して複合フィルムとしてもよい。バリア性フィルムとしては、例えば、延伸ナイロンフィルム、アルミニウム箔、ポリ塩化ビニリデンフィルム等が挙げられる。バリア性フィルムの厚さは、好ましくは5~20μmである。また、転写性フィルムとしては、ナイロンフィルム、ポリプロピレン二軸延伸フィルム、ポリエチレンテレフタラートフィルム等が挙げられる。転写性フィルムの厚さは、好ましくは10~20μmである。積層フィルムとその他のフィルムを複合する方法としては、例えば、ドライラミネート法、押出ラミネート法等が挙げられる。
【0050】
積層フィルムの用途としては、包装用途等が挙げられ、例えば、食品、繊維、雑貨等の包装用途が挙げられる。積層フィルムは、好ましくは、レトルト食品包装用積層フィルムである。また、積層フィルムは、包装袋を形成する材料として用いることができる。すなわち、本実施形態に係る包装袋は、上述の積層フィルムを備える。該包装袋は、食品、衣料品、雑貨等の任意の包装対象物を包装する用途として使用し得る。
【0051】
本実施形態に係る積層フィルムは、基材層とシーラント層がいずれもプロピレン系共重合体を主成分としており、リサイクル性に優れる。
【0052】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]基材層とシーラント層とを含む積層フィルムであって、
基材層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、
シーラント層が1つ以上のプロピレン系重合体を含有し、
膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスが8~18μg/μmであり、膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネスが8~25μg/μmであり、
DSCで観測される50℃から200℃までの累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’が60~130℃である、積層フィルム。
[2]前記基材層が、プロピレン単独重合体および/またはプロピレン-エチレン共重合体を含有する、上記[1]に記載の積層フィルム。
[3]前記シーラント層が、さらに、炭素原子数4~12のα-オレフィンに基づく単量体単位を50質量%以上含むα-オレフィン系重合体を含有する、上記[1]または[2]に記載の積層フィルム。
[4]前記α-オレフィン系重合体が、1-ブテンに基づく単量体単位を50質量%以上含む、上記[3]に記載の積層フィルム。
[5]前記シーラント層が、プロピレン-エチレン共重合体と、プロピレン-α-オレフィン共重合体(α-オレフィンの炭素原子数は4~12である)とを含有する、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の積層フィルム。
[6]前記プロピレン-エチレン共重合体が、プロピレンに基づく単量体単位を95~98質量%と、エチレンに基づく単量体単位を2~5質量%と、を含み、
前記プロピレン-α-オレフィン共重合体が、プロピレンに基づく単量体単位を70~99質量%と、α-オレフィンに基づく単量体単位を1~30質量%と、を含む、上記[5]に記載の積層フィルム。
[7]上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の積層フィルムを備える包装袋。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、発明の詳細な説明、実施例および比較例における各項目の測定値は、下記の方法で測定した。
【0054】
(1)プロピレン-エチレン共重合体中のエチレンに基づく単量体単位の含有量(単位:質量%)
高分子分析ハンドブック(1985年、朝倉書店発行)の第256頁に記載されているIRスペクトル測定法により求めた。
【0055】
(2)プロピレン-1-ブテン中の1-ブテンに基づく単量体単位の含有量(単位:質量%)
高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の第619頁に記載されているIRスペクトル測定法により求めた。
【0056】
(3)α-オレフィン系重合体中のエチレンに基づく単量体単位の含有量(単位:質量%)、1-ブテンに基づく単量体単位の含有量(単位:質量%)
非特許文献Journal of polymer science A 28, 1237-1254 (1990)に記載の方法で求めた。
【0057】
(4)メルトフローレート(単位:g/10分)
プロピレン系重合体組成物のMFRは、JIS K7210-1-2014に規定されたA法に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。α-オレフィン系重合体のMFRは、JIS K7210-1-2014に規定されたA法に従い、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0058】
(5)膜厚の3乗で除したループスティフネス(単位:μg/μm
積層フィルムから、長さ170mm(流れ方向)、幅25mm(垂直方向)の試験片Aと、長さ170mm(垂直方向)、幅25mm(流れ方向)の試験片Bとを採取した。積層フィルムの流れ方向のループスティフネスは、採取した試験片Aを用いて測定し、積層フィルムの垂直方向のループスティフネスは、採取した試験片Bを用いて測定した。採取した2つの試験片を、積層フィルムの基材層側が凸変形、シーラント層側が凹変形する向きにループ長となるように10cmに折り曲げた。ループの直径方向にロードセルを押し込んでいき、負荷が最大となった数値をループスティフネスとした。なお、ループスティフネスは、ループスティフネステスター(東洋精機製作所社製)を用いて、温度23℃、相対湿度50%の条件で測定した。測定したループスティフネスを積層フィルムの膜厚(基材層の厚さとシーラント層の厚さの和)の3乗で除して、膜厚の3乗で除したループスティフネスとした。
【0059】
(6)DSC55%温度(単位:℃)
温度変調示差走査熱量計(ティーエイインスツルメント社製Q100)を用いて、シーラントフィルム約5mgを窒素ガス雰囲気下(窒素ガス流量50ml/分)で0℃に降温した。次に、0℃で5分保持した後、平均昇温速度2℃/分、温度変調振幅±0.5℃、温度変調周期1分で昇温させて230℃まで測定し、Reversing Heat Flow(比熱成分)を得た。なお、同じ示差走査熱量計を用いて、インジウム(In)約4mgを窒素ガス雰囲気下(窒素ガス流量50ml/分)、110℃に平衡温度となるよう昇温した後、5℃/分の昇温速度で昇温させて180℃まで測定し、得られた融解吸熱カーブの最大ピーク開始温度をオンセット温度としたところ、156.6℃であった。
【0060】
50℃から200℃までのある温度Tに対するReversing Heat Flowの値Q(T)について、50℃における熱量Q(50)と200℃における熱量Q(200)の2点を結ぶ直線をベースラインとして、ある温度Tにおけるベースライン補正後のReversing Heat Flowの熱量Q’(T)を以下の式(1)と定義する。
【0061】
【数4】
【0062】
50℃を始点とし、50℃から200℃まで範囲のある温度T’までベースライン補正後のReversing Heat Flowの積分を以下の式(2)のA(T’)と定義する。
【0063】
【数5】
【0064】
A(T’)について、以下の式(3)を満たす温度T’を累積融解熱量変化のうち、55%を占める累積融解熱量変化が50℃から温度T’までとなる温度T’温度と定義する。
【0065】
【数6】
【0066】
(7)シール可能最低温度(単位:℃)
2枚のシーラントフィルムの表面同士を重ね合わせた後、ヒートシーラー(東洋精機製作所社製)を用いて、所定の温度、1kg/cmの荷重、1秒間の条件で圧着して、ヒートシールを行った。ヒートシールされた試料を、24時間、温度23℃、湿度50%の条件で状態保持した後、引張試験機を用いて、温度23℃、湿度50%、剥離速度200mm/分、剥離角度180度の条件で剥離した時の剥離抵抗力が300g/15mmになるシール温度を求め、シール可能な最低温度とした。
【0067】
(8)ヤング率(単位:MPa)
積層フィルムから、長さ120mm(流れ方向)、幅20mm(垂直方向)の試験片を採取した。採取した試験片を、卓上引張試験機(エー・アンド・デイ社製)を用いて、チャック間隔60mm、引張速度5mm/分の条件で、S-S曲線(応力-歪み曲線)をとり、初期弾性率(ヤング率)を測定した。
【0068】
(9)製袋性
自立袋三方シール袋兼用製袋機(西部機械社製、SBM-350-SST型)を用いて、以下の条件で三方シール袋の形成可否を評価した。
2枚の積層フィルムのシーラントフィルム同士が向き合う状態で、流れ方向に平行な幅10mmのヒートシールバーを140℃に設定し、150mm間隔で0.5秒間、2枚の積層体に押下し、三方シール袋の底部を形成した。垂直方向に平行な幅10mmヒートシールバーを140℃に設定し、150mm間隔で0.5秒間、2枚の積層体に押下し、三方シール袋の両脇部分を形成した。垂直方向に150mm間隔で裁断し、流れ方向150mmで両側5mmがシールされ、垂直方向270mmで片側10mmがシールされた三方シール袋を形成した。
【0069】
実施例および比較例で用いた各成分は以下の通りである。
【0070】
[プロピレン系重合体組成物1]
チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、第一工程では、液相中でプロピレンとエチレンを共重合し、次いで、第二工程では、気相中でプロピレンと1-ブテンを共重合し、プロピレン-エチレン共重合体1とプロピレン-1-ブテン共重合体1からなるプロピレン系多段重合体1を得た。プロピレン-エチレン共重合体1のエチレンに由来する単量体単位の含有量は4質量%であり、プロピレン-1-ブテン共重合体1の1-ブテンに由来する単量体単位の含有量は25質量%であった。得られたプロピレン系多段重合体1は、プロピレン-エチレン共重合体A-1の含有量が19質量%であり、プロピレン-1-ブテン共重合体の含有量が81質量%であった。得られたプロピレン系多段重合体1の100質量部に対して、ハイドロタルサイト(協和化学工業社製)0.01質量部、イルガノックス1010(BASF社製)0.15質量部、スミライザーGP(住友化学社製)0.03質量部を混合した後、溶融混練して、230℃で測定したメルトフローレートが7g/10分であるプロピレン系重合体組成物1を得た。
【0071】
[プロピレン系重合体組成物2]
チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、気相法によりプロピレンとエチレンを共重合し、プロピレン-エチレン共重合体2を得た。プロピレン-エチレン共重合体2のエチレンに基づく単量体単位の含有量は4質量%であった。得られたプロピレン-エチレン共重合体2の100質量部に対して、ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製)0.05質量部、イルガノックス1010(BASF社製)0.2質量部、イルガフォス168(BASF社製)0.03質量部を混合した後、溶融混練して、230℃で測定したメルトフローレートが6g/10分であるプロピレン系重合体組成物2を得た。
【0072】
[プロピレン系重合体組成物3]
チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、気相法によりプロピレンとエチレンを共重合し、プロピレン-エチレン共重合体3を得た。プロピレン-エチレン共重合体3のエチレンに基づく単量体単位の含有量は0.6重量%であった。得られたプロピレン-エチレン共重合体3の100質量部に対して、ハイドロタルサイト(協和化学工業社製)0.01質量部、イルガノックス1010(BASF社製)0.1質量部、イルガフォス168(BASF社製)0.05質量部を配合した後、溶融混練して、230℃で測定したメルトフローレートが3g/10分であるプロピレン系重合体組成物3を得た。
【0073】
[プロピレン系重合体組成物4]
チーグラー・ナッタ型触媒を用いて、気相重合法によりプロピレンを重合し、プロピレン単独重合体4を得た。得られたプロピレン単独重合体4の100質量部に対して、ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製)0.10質量部、イルガノックス1010(BASF社製)0.15質量部、イルガフォス168(BASF社製)0.15質量部を配合した後、溶融混練して、230℃で測定したメルトフローレートが2.3g/10分であるプロピレン系重合体組成物4を得た。
【0074】
[α-オレフィン系重合体5]
α-オレフィン系重合体であるタフマーBL3450M(商品名)(三井化学社製)を用いた。230℃で測定したメルトフローレートは4g/10分であった。α-オレフィン系重合体5のエチレンに基づく単量体単位の含有量は5.7質量%であり、1-ブテンに基づく単量体単位の含有量は94.3質量%であった。
【0075】
[シーラント層1]
プロピレン系重合体組成物1の80質量部とα-オレフィン系重合体5の20質量部とをペレットブレンドした。得られた混合物を1台の押出機で溶融混練した後、Tダイ(ダイ幅400mm、リップ開度0.8mm)に導入して、ダイ温度250℃で溶融押出を行った。押し出された溶融膜を、17m/分で回転する冷却温度40℃の冷却ロールで冷却固化させ、厚さ30μmのシーラント層1を得た。
【0076】
[シーラント層2]
プロピレン系重合体組成物2の60質量部とα-オレフィン系重合体5の40質量部とをペレットブレンドした。得られた混合物を用いた以外は、シーラント層1と同様にして、厚さ30μmのシーラント層2を得た。
【0077】
[シーラント層3]
プロピレン系重合体組成物1の60質量部とα-オレフィン系重合体5の40質量部とをペレットブレンドした。得られた混合物を用いた以外は、シーラント層1と同様にして、厚さ30μmのシーラント層3を得た。
【0078】
[シーラント層4]
プロピレン系重合体組成物2の100質量部を用いた以外は、シーラント層1と同様にして、厚さ30μmのシーラント層4を得た。
【0079】
[基材層1]
プロピレン系重合体組成物3の100質量部を用い、3台の押出機で溶融混練した後、一基の共押出Tダイ(ダイ幅mm、リップ開度mm)に導入して、ダイ温度260℃で溶融押出を行った。押し出された溶融膜を30℃の冷却ロールで冷却して、厚み約1mmのキャストシートを得た。得られたキャストシートを4m/分で回転する低速ロールと、20m/分で回転する高速ロールの周速差により140℃で縦方向に5倍延伸した。引き続いて加熱炉にて予熱温度175℃、延伸温度157℃で横方向に8倍延伸し、165℃で熱処理を行いながら横方向の幅を6.5%緩和した。加熱炉から出たフィルムを20℃の冷却ロールで冷却し厚さ20μmの基材層1を得た。
【0080】
[基材層2]
プロピレン系重合体組成物4の100質量部を用い、3台の押出機で溶融混練した後、一基の共押出Tダイ(ダイ幅mm、リップ開度mm)に導入して、ダイ温度260℃で溶融押出を行った。押し出された溶融膜を30℃の冷却ロールで冷却して、厚み約1mmのキャストシートを得た。得られたキャストシートを4m/分で回転する低速ロールと、20m/分で回転する高速ロールの周速差により147℃で縦方向に5倍延伸した。引き続いて加熱炉にて予熱温度190℃、延伸温度170℃で横方向に8倍延伸し、165℃で熱処理を行いながら横方向の幅を19.5%緩和した。加熱炉から出たフィルムを20℃の冷却ロールで冷却し厚さ20μmの基材層2を得た。
【0081】
[実施例1:積層フィルム1]
上記で得られたシーラント層1と基材層1とを、ドライラミネート法により積層し、積層フィルム1を得た。得られた積層フィルム1の物性を表2に示す。得られた積層フィルム1は、ヤング率および製袋性に優れる積層フィルムであった。
【0082】
[実施例2:積層フィルム2]
上記で得られたシーラント層2と基材層1とを、ドライラミネート法により積層し、積層フィルム2を得た。得られた積層フィルム2の物性を表2に示す。得られた積層フィルム2は、ヤング率および製袋性に優れる積層フィルムであった。
【0083】
[実施例3:積層フィルム3]
上記で得られたシーラント層3と基材層2とを、ドライラミネート法により積層し、積層フィルム3を得た。得られた積層フィルム3の物性を表2に示す。得られた積層フィルム3は、ヤング率および製袋性に優れる積層フィルムであった。
【0084】
[比較例1:積層フィルムC1]
上記で得られたシーラント層4と基材層2とを、ドライラミネート法により積層し、積層フィルムC1を得た。得られた積層体の物性を表2に示す。得られた積層フィルムC1は、製袋性に劣る積層フィルムであった。
【0085】
[比較例2:積層フィルムC2]
3台の押出機のうち2台の押出機で基材層用にプロピレン系重合体組成物2の100質量部を溶融混練し、1台の押出機でシーラント層用にプロピレン系重合体組成物2の60質量部とα-オレフィン系重合体5の40質量部とをペレットブレンドして得られた混合物を溶融混練し、一基の共押出Tダイに供給した。このTダイから2種2層構成(基材層80質量%、シーラント層20質量%の比率で、冷却ロール側に基材層)で押し出された溶融フィルムを40℃の冷却ロールで冷却して、厚さ70μmの積層フィルムC2フィルムを得た。得られた積層フィルムC2の物性を表2に示す。得られた積層フィルムC2は、ヤング率が不十分であり、製袋性の劣る積層体であった。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
<まとめ>
表2を見ると、実施例1~3の積層フィルムは、比較例1の積層フィルムよりもシール可能最低温度が低いことが認められる。また、実施例1~3の積層フィルムは、比較例2の積層フィルムよりもシール可能最低温度が低く、弾性率(ヤング率)が高いことが認められる。そして、比較例1および2の積層フィルムは製袋できなかったが、実施例1~3の積層フィルムは製袋できた(製袋可能なシール強度が得られた)ことが認められる。つまり、膜厚の3乗で除した積層フィルムの流れ方向のループスティフネスと膜厚の3乗で除した積層フィルムの垂直方向のループスティフネス、および、DSC55%温度(T’)が本発明の構成要件をすべて満たす実施例1~3の積層フィルムは、シール可能最低温度が低く、製袋可能であることが認められる。
すなわち、本発明の構成要件をすべて満たす積層フィルムは、リサイクル性に優れると共に、比較的低温でシール強度を得られ、包装した後の形状を維持することができる。