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特開2024-108812エラストマー組成物の製造方法、架橋性エラストマー組成物の製造方法、架橋物の製造方法、及び、成形体の製造方法
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  • 特開-エラストマー組成物の製造方法、架橋性エラストマー組成物の製造方法、架橋物の製造方法、及び、成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108812
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】エラストマー組成物の製造方法、架橋性エラストマー組成物の製造方法、架橋物の製造方法、及び、成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240805BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20240805BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/06
C08K9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013396
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】上野 真寛
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC141
4J002BC051
4J002BD141
4J002BD151
4J002BG051
4J002CG001
4J002DA016
4J002EH117
4J002EH127
4J002EJ038
4J002EK008
4J002EN038
4J002EN078
4J002EV008
4J002FA056
4J002FD016
4J002FD116
4J002FD148
4J002GJ00
4J002GJ02
4J002GM00
4J002GM01
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GQ02
(57)【要約】
【課題】
引張強度に優れる成形体を得るための新たな技術を提供する。
【解決手段】
複数のカーボンナノチューブと、化合物Aと、を含むエラストマー組成物を製造するにあたり、カーボンナノチューブ集合体を含む粉体として、低密度なものを原材料として選定して、かかる低密度な粉体を、高密度化処理するとともに化合物Aを含浸させて含浸物を得て、かかる含浸物をエラストマーと併せて分散処理する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、複数のカーボンナノチューブと、化合物Aと、を含むエラストマー組成物の製造方法であって、
前記複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を含む粉体であり、かさ密度が0.020g/cm3未満である粉体に対して高密度化処理を行って、かさ密度が0.020g/cm3以上である高密度化粉体を得る高密度化工程と、
前記高密度化粉体に対して前記化合物Aを含浸させて含浸物を得る含浸工程と、
前記含浸物と前記エラストマーとを含む組成物に対して分散処理を施す分散工程と、
を含む、エラストマー組成物の製造方法。
【請求項2】
前記高密度化工程における前記高密度化処理が、前記粉体を造粒加工する処理、又は、前記粉体を圧縮加工する処理である、請求項1に記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記エラストマー組成物が、前記エラストマー100質量部当たり、前記化合物Aを10質量部以上60質量部以下含む、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
前記分散工程において、前記エラストマー100質量部当たりの前記カーボンナノチューブの配合量が0.1質量部以上10質量部以下となるようにすることを含む、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブを含む、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項6】
前記化合物Aは、25℃での蒸気圧が1.0kPa以下であり、かつ芳香環を有する化合物であり、
前記カーボンナノチューブと前記化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R1が6.0MPa1/2以下であり、
前記エラストマーと前記化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R2が前記R1よりも大きい、請求項1又は2に記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のエラストマー組成物の製造方法により得られたエラストマー組成物と架橋剤とを混合して架橋性エラストマー組成物を得る工程を含む、架橋性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の架橋性エラストマー組成物の製造方法により得られた架橋性エラストマー組成物を架橋する工程を含む、架橋物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の架橋物の製造方法により得られた架橋物を成形する工程を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー組成物の製造方法、架橋性エラストマー組成物の製造方法、架橋物の製造方法、及び、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性、熱伝導性、及び強度などの特性に優れる材料として、エラストマーにカーボン材料を配合してなるエラストマー組成物が使用されている。近年では、上記特性の向上効果が高いカーボン材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記する場合がある。)が注目されている。
【0003】
CNTは、一本一本の特性は優れているものの、外径が小さいため、バルク材料として使用する際にファンデルワールス力によってバンドル化し易い(束になり易い)。そのため、エラストマーとCNTとを含有するエラストマー組成物を用いて成形体を作製するに際しては、CNTのバンドル構造体を解繊し、エラストマーのマトリックス中にCNTを良好に分散させることが求められている。なお、本明細書において、カーボンナノチューブ(CNT)には、複数本のカーボンナノチューブが含まれているものとする。
【0004】
特許文献1及び2では、エラストマーと、カーボンナノチューブと、化合物Aとを含むエラストマー組成物であり、それぞれのハンセン溶解度パラメータが、所定の関係を満たすように選定することで、エラストマー中にカーボンナノチューブを良好に分散させうる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/172555号
【特許文献2】国際公開第2022/070780号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2の技術でもエラストマー中にCNTを分散させることができる旨記載されているものの、エラストマー中に良好にCNTを分散させて、引張強度に優れる成形体を製造することができる新たな技術が望まれている。
【0007】
本発明は、引張強度に優れる成形体を得るための新たな技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、エラストマーと、複数のカーボンナノチューブと、化合物Aと、を含むエラストマー組成物を製造するにあたり、カーボンナノチューブ集合体を含む粉体として、低密度なものを原材料として選定して、かかる低密度な粉体を、高密度化処理するとともに化合物Aを含浸させて含浸物を得て、かかる含浸物をエラストマーと併せて分散処理することで、引張強度に優れる成形体を提供可能なエラストマー組成物を製造することができることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
[1]本発明のエラストマー組成物の製造方法は、エラストマーと、複数のカーボンナノチューブと、化合物Aと、を含むエラストマー組成物の製造方法であって、前記複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を含む粉体であり、かさ密度が0.020g/cm3未満である粉体に対して高密度化処理を行って、かさ密度が0.020g/cm3以上である高密度化粉体を得る高密度化工程と、前記高密度化粉体に対して前記化合物Aを含浸させて含浸物を得る含浸工程と、前記含浸物と前記エラストマーとを含む組成物に対して分散処理を施す分散工程と、を含むことを特徴とする。このような高密度化工程、含浸工程、及び分散工程を経てエラストマー組成物を製造することで、引張強度に優れる成形体を提供することができる。なお、粉体のかさ密度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0010】
[2]上記[1]のエラストマー組成物の製造方法にて、前記高密度化工程における前記高密度化処理が、前記粉体を造粒加工する処理、又は、前記粉体を圧縮加工する処理であることが好ましい。このような高密度化処理によれば、かさ密度が0.020g/cm3未満である粉体を効率的に高密度化して、かさ密度が0.020g/cm3以上である高密度化粉体を得ることができ、結果的に、エラストマー中におけるCNTの分散状態を良好なものとして、引張強度に一層優れる成形体を提供することができる。
【0011】
[3]上記[1]又は[2]のエラストマー組成物の製造方法にて、前記エラストマー組成物が、前記エラストマー100質量部当たり、前記化合物Aを10質量部以上60質量部以下含むことが好ましい。化合物Aの含有量を上記範囲とすることにより、エラストマー中におけるCNTの分散状態を良好なものとして、引張強度に一層優れる成形体を提供することができる。
【0012】
[4]上記[1]~[3]の何れかのエラストマー組成物の製造方法にて、前記分散工程において、前記エラストマー100質量部当たりの前記カーボンナノチューブの配合量が0.1質量部以上10質量部以下となるようにすることを含むことが好ましい。分散工程においてエラストマーとCNTとの割合が上記範囲を満たすようにすることで、エラストマー中におけるCNTの分散状態を良好なものとして、引張強度に一層優れる成形体を提供することができる。
【0013】
[5]上記[1]~[4]の何れかのエラストマー組成物の製造方法にて、前記カーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。CNTとして単層CNTを含むエラストマー組成物によれば、引張強度に一層優れる成形体を得ることができる。
【0014】
[6]上記[1]~[5]の何れかのエラストマー組成物の製造方法にて、前記化合物Aは、25℃での蒸気圧が1.0kPa以下であり、かつ芳香環を有する化合物であり、前記カーボンナノチューブと前記化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R1が6.0MPa1/2以下であり、前記エラストマーと前記化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R2が前記R1よりも大きい、ことが好ましい。かかる属性を満たす化合物Aを含むエラストマー組成物によれば、引張強度に一層優れる成形体を得ることができる。
【0015】
[7]本発明の架橋性エラストマー組成物の製造方法は、上記[1]~[6]の何れかのエラストマー組成物の製造方法により得られたエラストマー組成物と架橋剤とを混合して架橋性エラストマー組成物を得る工程を含むことを特徴とする。かかる架橋性エラストマー組成物の製造方法によれば、引張強度に優れる架橋物を製造可能な架橋性エラストマー組成物を得ることができる。
【0016】
[8]本発明の架橋物の製造方法は、上記[7]の架橋性エラストマー組成物の製造方法により得られた架橋性エラストマー組成物を架橋する工程を含むことを特徴とする。かかる架橋物の製造方法によれば、引張強度に優れる架橋物を得ることができる。
【0017】
[9]本発明の成形体の製造方法は、上記[8]の架橋物の製造方法により得られた架橋物を成形する工程を含むことを特徴とする。かかる架橋物の製造方法によれば、引張強度に優れる成形体としての架橋物を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、引張強度に優れる成形体を得るための新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】CNT製造装置の一例の概略構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(エラストマー組成物の製造方法)
本発明のエラストマー組成物の製造方法は、エラストマーと、複数のカーボンナノチューブと、化合物Aと、を含むエラストマー組成物の製造方法である。具体的には、エラストマー組成物の製造方法は、カーボンナノチューブ集合体を含む比較的低密度な粉体を高密度化処理することにより高密度化粉体を得る高密度化工程と、得られた高密度化粉体に対して化合物Aを含浸させて含浸物を得る含浸工程と、得られた混合物とエラストマーとを含む組成物に対して分散処理を施す分散工程と、を含むことを特徴とする。このような一連の工程を経ることで、引張強度に優れる成形体を提供可能なエラストマー組成物を製造することができる。その理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。まず、初期特性が「低密度」である、CNT集合体を含む粉体に含まれるCNTは、比較的分散性に優れる傾向がある。ここで、CNT集合体は、本発明の技術分野においては「CNTフォレスト」あるいは「CNTバンドル」などと称されることもある通り、複数本のCNTが配向して集合し、まさに林立或いは束状となった構造を有している。CNT集合体においては比較的狭い間隔で複数本のCNTが寄り集まっているが、粉体に含まれる複数本のCNT集合体間には、CNT集合体に含まれる複数本のCNT間の間隔よりもはるかに広い間隔がある。このような広い間隔を保持した状態の粉体に対して化合物A(後述する通り、CNT集合体の解繊作用を奏し得る液体である。)を混合し、エラストマーと併せて分散しても、毛管現象が均一に作用せずにCNTの分散性が不十分となりうる。そこで、本発明では、複数のCNT集合体を含む粉体(低密度)を、一旦高密度化することによりCNT集合体間の間隙を狭くしてから、化合物Aを含浸させて、これをエラストマーと併せて分散することで、粉体に含有されるCNT全体に化合物A、ひいてはエラストマーが均一に行きわたりやすくなるようにすることができる。
【0022】
<エラストマー>
エラストマーとしては、特に限定されることなく、例えば、任意のゴム、樹脂又はそれらの混合物を用いることができる。
具体的には、ゴムとしては、特に限定されることなく、例えば、天然ゴム;フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系ゴム(FFKM)などのフッ素ゴム;ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(H-SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)などのジエンゴム;シリコーンゴム;等が挙げられる。
また、樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル樹脂;ポリスチレン(PS);ポリカーボネート(PC);等が挙げられる。
【0023】
上述した中でも、エラストマーとしては、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系ゴム(FFKM)などのフッ素ゴム;ニトリルゴム(NBR);水素化ニトリルゴム(H-NBR);ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;ポリスチレン;ポリカーボネート;が好ましく、FKM、FEPM、H-NBR、PTFE、PMMA、PS及びPCがより好ましく、FKMが特に好ましい。これらのエラストマーの少なくとも何れかを含むエラストマー組成物を用いれば、CNTがエラストマー中に一層良好に分散した成形体を得ることができる。
なお、これらのエラストマーは、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
<カーボンナノチューブ>
本発明のエラストマー組成物の製造方法にて用いるカーボンナノチューブは、高密度化工程に供する前の段階(以下、原料段階とも称する。)において、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を含む粉体であり、かさ密度が0.020g/cm3未満である粉体である限りにおいて、特に限定されない。かさ密度は、0.017g/cm3以下であることが好ましく、0.016g/cm3以下であることがより好ましい。原料段階においてかさ密度が上記上限値以下である粉体に含有されるCNTは、組成物を調製した場合に分散性に優れる傾向がある。なお、原料段階の粉体のかさ密度の下限値は特に限定されないが、例えば、0.004g/cm3以上でありうる。
【0025】
また、組成物中における分散性を高めて、得られる成形体の引張強度を一層高める観点から、CNTは、下記(1)~(3)の条件のうち少なくとも1つを満たすことが好ましい。
(1)カーボンナノチューブを、バンドル長が10μm以上になるように分散させて得たカーボンナノチューブ分散体について、フーリエ変換赤外分光光分析して得たスペクトルにおいて、カーボンナノチューブ分散体のプラズモン共鳴に基づくピークが、波数300cm-1超2000cm-1以下の範囲に、少なくとも1つ存在する。
(2)カーボンナノチューブについて測定した微分細孔容量分布における最大のピークが、細孔径100nm超400nm未満の範囲にある。
(3)カーボンナノチューブの電子顕微鏡画像の二次元空間周波数スペクトルのピークが、1μm-1以上100μm-1以下の範囲に少なくとも1つ存在する。
【0026】
上記条件(1)~(3)のうちの少なくとも1つを満たすCNTが分散性に優れる理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。上記条件(1)~(3)のうちの少なくとも1つを満たすCNTは、波状構造を有し、かかる「波状構造」に起因して、各CNT間における相互作用が抑制され得ると推察される。そして、各CNT間における相互作用が抑制されていれば、各CNTが強固にバンドル化すること及び凝集化することが抑制され得る。これにより、CNTを容易に分散させることが可能となり得る。以下、上記条件(1)~(3)について、それぞれ詳述する。
【0027】
-条件(1)
条件(1)は、「カーボンナノチューブを、バンドル長が10μm以上になるように分散させて得たカーボンナノチューブ分散体について、フーリエ変換赤外分光光分析して得たスペクトルにおいて、カーボンナノチューブ分散体のプラズモン共鳴に基づくピークが、波数300cm-1超2000cm-1以下の範囲に、少なくとも1つ存在する。」ことを規定する。
【0028】
条件(1)において、CNTのプラズモン共鳴に基づくピークは、好ましくは波数500cm-1以上2000cm-1以下の範囲に存在し、より好ましくは波数650cm-1以上2000cm-1以下の範囲に存在する。
【0029】
なお、フーリエ変換赤外分光光分析により得られたスペクトルでは、カーボンナノチューブ分散体のプラズモン共鳴に基づく比較的緩やかなピーク以外に、波数840cm-1付近、1300cm-1付近、及び、1700cm-1付近に、鋭いピークが確認されることがある。これらの鋭いピークは、「カーボンナノチューブ分散体のプラズモン共鳴に基づくピーク」には該当せず、それぞれが、官能基由来の赤外吸収に対応している。より具体的には、波数840cm-1付近の鋭いピークは、C-H面外変角振動に起因し;波数1300cm-1付近の鋭いピークは、エポキシ三員環伸縮振動に起因し;波数1700cm-1付近の鋭いピークは、C=O伸縮振動に起因する。
【0030】
ここで、条件(1)において、フーリエ変換赤外分光光分析によるスペクトルを取得するにあたり、バンドル長が10μm以上になるようにカーボンナノチューブを分散させることにより、カーボンナノチューブ分散体を得る必要がある。ここで、例えば、カーボンナノチューブ、水及び界面活性剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を適切な比率で配合して、超音波等により所定時間にわたり攪拌処理することで、水中に、バンドル長が10μm以上であるカーボンナノチューブ分散体が分散されてなる分散液を得ることができる。
【0031】
カーボンナノチューブ分散体のバンドル長は、湿式画像解析型の粒度測定装置により解析することで、得ることができる。かかる測定装置は、カーボンナノチューブ分散体を撮影して得られた画像から、各分散体の面積を算出して、算出した面積を有する円の直径(以下、ISO円径(ISO area diameter)とも称することがある)を得ることができる。そして、本明細書では、各分散体のバンドル長は、このようにして得られるISO円径の値であるものとして、定義する。
【0032】
-条件(2)
条件(2)は、「カーボンナノチューブについて測定した微分細孔容量分布における最大のピークが、細孔径100nm超400nm未満の範囲にある。」ことを規定する。カーボンナノチューブの微分細孔容量分布は、液体窒素の77Kでの吸着等温線から、BJH(Barrett-Joyner-Halenda)法に基づいて求めることができる。なお、BJH法は、細孔がシリンダ状であると仮定して細孔径分布を求める測定法である。
【0033】
ここで、CNTの微分細孔容量分布における最大のピークにおける微分細孔容量の値は、2cm/g以上であることが好ましい。
【0034】
-条件(3)
条件(3)は、「カーボンナノチューブの電子顕微鏡画像の二次元空間周波数スペクトルのピークが、1μm-1以上100μm-1以下の範囲に少なくとも1つ存在する。」ことを規定する。かかる条件の充足性は、下記の要領で判定することができる。まず、判定対象であるCNTを、電子顕微鏡(例えば、電解放射走査型電子顕微鏡)を用いて拡大観察(例えば、1万倍)して、1cm四方の視野で電子顕微鏡画像を複数枚(例えば、10枚)取得する。得られた複数枚の電子顕微鏡画像について、高速フーリエ変換(FFT)処理を行い、二次元空間周波数スペクトルを得る。複数枚の電子顕微鏡画像のそれぞれについて得られた二次元空間周波数スペクトルを二値化処理して、最も高周波数側に出るピーク位置の平均値を求める。得られたピーク位置の平均値が1μm-1以上100μm-1以下の範囲内である場合には、条件(3)を満たすとして判定する。ここで、上記の判定において用いる「ピーク」としては、孤立点の抽出処理(即ち、孤立点除去の逆操作)を実施して得られた明確なピークを用いるものとする。従って、孤立点の抽出処理を実施した際に1μm-1以上100μm-1以下の範囲内にて明確なピークが得られない場合には、条件(3)は満たさないものとして判定する。
【0035】
ここで、二次元空間周波数スペクトルのピークは、2.5μm-1以上100μm-1以下の範囲に存在することが好ましい。
【0036】
そして、カーボンナノチューブは、上記(1)~(3)の条件のうちを少なくとも2つを満たすことが好ましく、(1)~(3)の条件全てを満たすことがより好ましい。
【0037】
なお、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブを含むことが好ましく、単層カーボンナノチューブを含むことがより好ましい。その上、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブを主として含むことがより好ましく、単層カーボンナノチューブを主として含むことがさらに好ましい。
ここで、あるCNTを「主として含む」とは、複数本のカーボンナノチューブの全本数のうち、半数超が当該あるCNTであることを意味する。
【0038】
また、CNTは、BET法による全比表面積が、好ましくは600m/g以上、より好ましくは700m/g以上であり、好ましくは2600m/g以下、より好ましくは1400m/g以下である。さらに開口処理したものにあっては、1300m/g以上であることが好ましい。高い比表面積を有するCNTは、過度にCNTがバンドル化していない。そのため、個々のCNT同士が緩やかに結合しており、容易に分散させることが可能になる。なお、CNTのBET法による全比表面積は、例えば、JIS Z8830に準拠した、BET比表面積測定装置を用いて測定できる。
【0039】
更に、CNTの平均外径は、0.5nm以上であることが好ましく、1.0nm以上であることが更に好ましく、15.0nm以下であることが好ましく、10.0nm以下であることがより好ましく、5.0nm以下であることが更に好ましい。CNTの平均外径が上記下限値以上であれば、CNT同士のバンドル化が低減でき、高い比表面積を維持できる。CNTの平均外径が上記上限値以下であれば、多層CNTの比率を低減でき、高い比表面積を維持することができる。ここで、CNTの平均外径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0040】
CNTのG/D比は、1以上50以下であることが好ましい。G/D比が1に満たないCNTは、結晶性が低く、アモルファスカーボンなどの汚れが多い上、多層CNTの含有量が多いことが考えられる。反対にG/D比が50を超えるCNTは直線性が高く、CNTが隙間の少ないバンドルを形成しやすく、比表面積が減少する可能性がある。G/D比とはCNTの品質を評価するのに一般的に用いられている指標である。ラマン分光装置によって測定されるCNTのラマンスペクトルには、Gバンド(1600cm-1付近)とDバンド(1350cm-1付近)と呼ばれる振動モードが観測される。GバンドはCNTの円筒面であるグラファイトの六方格子構造由来の振動モードであり、Dバンドは非晶箇所に由来する振動モードである。よって、GバンドとDバンドのピーク強度比(G/D比)が高いものほど、結晶性(直線性)の高いCNTと評価できる。
【0041】
CNTの炭素純度は、好ましくは98.0質量%以上、より好ましくは98.5質量%以上である。炭素純度が上記範囲内であれば、CNT本来の諸特性を充分に発揮することができる。ここで、CNTの炭素純度は、蛍光X線を用いた元素分析や熱重量測定分析(TGA)等から得ることができる。
【0042】
なお、上述したCNTは、例えば国際公開第2021/172078号に記載の方法を用いて製造することができる。
【0043】
<化合物A>
化合物Aとしては、特に限定されず、任意の有機化合物を用いることができる。中でも、得られるエラストマー組成物中におけるCNTの分散性を一層高めて成形体の引張強度を一層高める観点からは、下記所定の属性を満たす化合物が好ましい。かかる属性とは、25℃での蒸気圧が1.0kPa以下であり、かつ芳香環を有する化合物であり、カーボンナノチューブと化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R1が6.0MPa1/2以下であり、エラストマーと化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R2が前記R1よりも大きい、というものである。
【0044】
CNTと化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R1の値が上記所定の値以下であって、かつ、化合物Aが芳香環を有すると、化合物AとCNTとが親和性に優れ、さらに、化合物AがCNTのバンドル構造体の内部に含浸することで当該バンドル構造体の解繊を促進しうる。その上、エラストマーと化合物Aのハンセン溶解度パラメータの距離R2の値が、上記したR1の値よりも大きい場合には、化合物AはエラストマーよりもCNTに対して良好に親和することができ、エラストマーの存在が上述した化合物Aによるバンドル構造体の解繊を過度に阻害することもないと考えられる。そのため、上述したエラストマー組成物によれば、CNTのバンドル構造体を十分に解繊して、エラストマー中にCNTが良好に分散した成形体を得ることができると考えられる。
【0045】
ここで、化合物Aが有し得る芳香環としては、特に限定されないが、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環等を挙げることができる。なお、化合物Aは、1種類の芳香環を有していてもよく、2種類以上の芳香環を有していてもよい。その中でも、芳香環としては、CNTをエラストマー中に一層良好に分散させる観点から、ベンゼン環が好ましい。
【0046】
また、芳香環を有する化合物としては、成形体においてCNTをエラストマー中により一層良好に分散させる観点から、エステル基及び芳香環を有する化合物が好ましい。エステル基及び芳香環を有する化合物としては、フェニルエステル化合物が好ましく、例えば、安息香酸メチルや、安息香酸ベンジル、安息香酸フェニル等の安息香酸エステル化合物、3-フェニルプロピオン酸メチル等の3-フェニルプロピオン酸アルキルを挙げることができる。なお、化合物Aは、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
また、化合物Aの25℃での蒸気圧は、上記の通り、1.0kPa以下であることが好ましく、0.1kPa以下であることがより好ましい。化合物Aの蒸気圧が1.0kPaを超えると、化合物Aの流動性が十分に確保できずCNTのバンドル構造体内部への含浸が困難となるためと推察されるが、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に良好に分散させることができない。なお、化合物Aの蒸気圧の下限値は、特に限定されないが、例えば10-5kPa以上である。
【0048】
化合物Aは、沸点が120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。化合物Aの沸点が120℃以上であれば、エラストマー組成物及び成形体を得る際に化合物Aが過度に気化することもなく、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に良好に分散させることができる。なお、化合物Aの沸点の上限値は、特に限定されないが、例えば400℃以下である。
【0049】
化合物Aは、分子量が100以上であることが好ましく、120以上であることがより好ましく、500以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましく、300以下であることが更に好ましい。化合物Aの分子量が上記範囲内であれば、化合物AがCNTのバンドル構造体内部へ容易に含浸し得るためと推察されるが、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に一層良好に分散させることができる。
【0050】
<<ハンセン溶解度パラメータの距離R1>>
ここで、上記の通り、化合物Aと、上述したCNTとは、ハンセン溶解度パラメータの距離R1(単位:MPa1/2)が、6.0MPa1/2以下であることが好ましく、5.0MPa1/2以下であることがより好ましく、4.5MPa1/2以下であることが更に好ましく、4.0MPa1/2以下であることが更により好ましく、3.5MPa1/2以下であることが特に好ましい。R1が6.0MPa1/2を超えると、化合物AのCNTとの親和性が低下して化合物AがCNTのバルク構造体内部に含浸し難くなるためと推察されるが、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に良好に分散させることができない。また、R1の値の下限は、特に限定されないが、0.5MPa1/2以上であることが好ましく、1.0MPa1/2以上であることがより好ましい。
【0051】
なお、「カーボンナノチューブと化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R1(MPa1/2)」は、下記式(1)を用いて算出することができる。
R1={4×(δd3-δd2)+(δp3-δp2)+(δh3-δh2)1/2・・・(1)
δd2:化合物Aの分散項
δd3:カーボンナノチューブの分散項
δp2:化合物Aの極性項
δp3:カーボンナノチューブの極性項
δh2:化合物Aの水素結合項
δh3:カーボンナノチューブの水素結合項
【0052】
<<ハンセン溶解度パラメータの距離R2>>
また、化合物Aと上述したエラストマーのハンセン溶解度パラメータの距離R2(単位:MPa1/2)は、上述した通りR1より大きいことが好ましい。R2がR1より大きければ化合物Aは、エラストマーとの親和性が高くなることによりCNTのバルク構造体内部に含浸し易くなるためと推察されるが、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に良好に分散させ易くなり得る。なお、R2-R1の値は、0.5MPa1/2以上が好ましく、1.0MPa1/2以上がより好ましく、8.5MPa1/2以下であることが好ましく、8.0MPa1/2以下であることがより好ましい。
【0053】
具体的に、R2は、4.0MPa1/2以上であることが好ましく、4.5MPa1/2以上であることがより好ましく、16.0MPa1/2以下であることが好ましく、9.0MPa1/2以下であることがより好ましい。R2が上記範囲内であれば、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に一層良好に分散させることができる。
【0054】
なお、「エラストマーと化合物Aとのハンセン溶解度パラメータの距離R2(MPa1/2)」は、下記式(2)を用いて算出することができる。
R2={4×(δd1-δd2)+(δp1-δp2)+(δh1-δh2)1/2・・・(2)
δd1:エラストマーの分散項
δd2:化合物Aの分散項
δp1:エラストマーの極性項
δp2:化合物Aの極性項
δh1:エラストマーの水素結合項
δh2:化合物Aの水素結合項
【0055】
なお、ハンセン溶解度パラメータの定義及び計算方法は、下記の文献に記載されている。Charles M. Hansen著、「Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook」、CRCプレス、2007年。
【0056】
また、ハンセン溶解度パラメータの文献値が未知の物質については、コンピュータソフトウェア(Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP))を用いることによって、その化学構造から簡便にハンセン溶解度パラメータを推算することができる。
具体的には、例えば、HSPiPバージョン3を用い、データベースに登録されている化合物についてはその値を用い、登録されていない化合物については推算値を用いればよい。
【0057】
<<含有量>>
エラストマー組成物は、エラストマー100質量部当たり、上述した化合物Aを0.1質量部以上含むことが好ましく、5質量部以上含むことがより好ましく、10質量部以上含むことが更に好ましく、20質量部以上含むこととしてもよい。また、エラストマー組成物は、エラストマー100質量部当たり、上述した化合物Aを60質量部以下含むことが好ましく、50質量部以下含むことがより好ましく、40質量部以下含むことが更に好ましい。エラストマー組成物中の化合物Aの含有量が上記範囲内であれば、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に一層良好に分散させることができる。
【0058】
<高密度化工程>
高密度化工程においては、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を含む粉体であり、かさ密度が0.020g/cm3未満である粉体に対して高密度化処理を行って、かさ密度が0.020g/cm3以上である高密度化粉体を得る。粉体としては、<カーボンナノチューブ>の項目で説明した好適属性を満たす粉体を用いることができる。そして、高密度化工程では、高密度化処理により粉体のかさ密度を0.020g/cm3以上として高密度化粉体を得る。高密度化粉体のかさ密度は、0.020g/cm3以上である必要があり、0.022g/cm3以上が好ましい。高密度化粉体のかさ密度が上記下限値以上であれば、粉体に含有されるCNT集合体間の間隙が十分に狭くなっており、後続する混合工程等において化合物Aを粉体全体に満遍なく含浸させ得る。なお、高密度化粉体のかさ密度の上限は特に限定されないが、0.500g/cm3以下でありうる。
【0059】
ここで、高密度化処理前後のかさ密度の変化量が、高密度化粉体のかさ密度の値を、原料段階の粉体のかさ密度の値で除した値(倍)で表されるものとして、かかる変化量が1.5倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましい。変化量が上記下限値以上であれば、高密度化処理により粉体中のCNT集合体間の空隙を良好に狭めることができ、エラストマー組成物の製造工程においてCNT集合体を良好に解繊することができるため、結果的に成形体中におけるCNT分散性を一層高めることができる。かかる変化量の上限値は特に限定されないが、通常125.0倍以下であり、80.0倍以下であることが好ましく、30.0倍以下であることがより好ましく、15.0倍以下であることが更に好ましい。
【0060】
ここで、高密度化工程における高密度化処理が、粉体を造粒加工する処理、又は、粉体を圧縮加工する処理であることが好ましい。本明細書において「造粒」とは、原料段階の粉体に対して、1atmにおける沸点が100℃以下である溶媒を添加してから攪拌することで、原料段階の粉体よりも大きな粒状に加工する操作を意味する。1atmにおける沸点が100℃以下である溶媒としては、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン等の溶媒が挙げられる。また、この際の撹拌には、特に限定されることなく、ハイスピードミキサーなどの造粒機を用いることができる。造粒加工する処理の処理条件は特に限定されることなく、目的とする高密度化粉体のかさ密度に応じて適宜設定することができる。また、高密度化処理として圧縮加工する場合には、<化合物A>として上記列挙した化合物を原料段階の粉体に対して添加してから加圧圧縮する。加圧圧縮における圧力は1mPa以上でありうる。この際の圧縮度合いは、特に限定されることなく、目的とする高密度化粉体のかさ密度に応じて適宜設定することができる。
【0061】
<含浸工程>
含浸工程では、高密度化粉体に対して化合物Aを含浸させて含浸物を得る。含浸工程における具体的な操作は、高密度化粉体に対して化合物Aを含浸させ得る限りにおいて特に限定されない。例えば、含浸工程においては、上記工程で得られた高密度化粉体と、化合物Aとを共存させた状態で、例えば、化合物Aの凝固点以上沸点未満の温度条件で、1時間以上、好ましくは10時間以上保持して、高密度化粉体に対して化合物Aを含浸させる。また、化合物Aの高密度化粉体への含浸は、特に限定されないが、通常は常圧(1atm)下で行われる。
【0062】
<分散工程>
分散工程では、含浸物とエラストマーとを含む組成物に対して分散処理を施す。具体的には、分散工程を実施するに際して、上記含浸工程で得られた含浸物をエラストマーと合わせつつ分散処理する。
【0063】
分散処理としては、エラストマー中にCNTを分散させることができれば特に限定されず、既知の分散処理を用いることができる。このような分散処理としては、例えば、ずり応力による分散処理、衝突エネルギーによる分散処理、キャビテーション効果が得られる分散処理を挙げることができる。このような分散処理によれば、従来の超臨界状態の二酸化炭素雰囲気下で実施しなくてもよく、比較的簡便に分散処理を実施できる。
【0064】
ずり応力による分散処理に使用し得る装置としては、2本ロールミルや3本ロールミル等が挙げられる。
衝突エネルギーによる分散処理に使用し得る装置としては、ビーズミル、ローター/ステーター型分散機等が挙げられる。
キャビテーション効果が得られる分散処理に使用し得る装置としては、ジェットミル、超音波分散機等が挙げられる。
【0065】
上記分散処理の条件は特に限定されず、例えば上述した装置における通常の分散条件の
範囲内で適宜設定することができる。
【0066】
本工程にて、含浸物とエラストマーとを合わせるに際して、エラストマー100質量部当たりのCNTの割合が0.1質量部以上となるようにすることが好ましく、1質量部以上となるようにすることがより好ましく、2質量部以上となるようにすることが更に好ましく、3質量部以上となるようにしてもよく、10質量部以下となるようにすることが好ましく、8質量部以下となるようにすることがより好ましく、7質量部以下となるようにすることが更に好ましく、6質量部以下となるようにしてもよい。含浸物とエラストマーとを合わせるに際して、エラストマーとCNTとの量比が上記範囲となるようにすることで、エラストマー組成物から得られる成形体において、CNTをエラストマー中に一層良好に分散させることができ、その結果、得られる成形体の引張強度を高めることができる。
【0067】
なお、分散工程では、目的とする成形体の用途に応じて、任意に、添加剤を組成物に含有させてもよい。
【0068】
<添加剤>
添加剤としては、特に限定されることなく、分散剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料などを挙げることができる。より具体的な添加剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。なお、添加剤は、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
また、添加剤の配合量は、特に限定されず、既知のエラストマー組成物中において通常使用する量とすることができる。例えば、添加剤の配合量は、エラストマー100質量部当たり5質量部以上40質量部以下とすることができる。
【0069】
なお、本発明のエラストマー組成物の製造方法は、上述した高密度化工程、含浸工程、及び分散工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、上記分散工程の実施後に、別途、上記した添加剤等を添加して更に分散処理を行ってもよい。
【0070】
(架橋性エラストマー組成物の製造方法)
本発明の架橋性エラストマー組成物の製造方法は、上述した本発明のエラストマー組成物の製造方法により得られたエラストマー組成物と架橋剤とを混合して架橋性エラストマー組成物を得る工程を含むことを特徴とする。かかる架橋性エラストマー組成物の製造方法によれば、引張強度に優れる架橋物を製造可能な架橋性エラストマー組成物を得ることができる。
【0071】
<架橋剤>
架橋剤としては、特に限定されないが、上記エラストマーを架橋可能な既知の架橋剤を用いることができる。このような架橋剤としては、例えば、硫黄系架橋剤、パーオキサイド系架橋剤、ビスフェノール系架橋剤、ジアミン系架橋剤が挙げられる。
なお、架橋剤は、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
また架橋剤の配合量は、特に限定されず、既知のエラストマー組成物中において通常使用する量とすることができる。
【0072】
エラストマー組成物と架橋剤とを混合する方法としては、特に限定されず、例えば、上述した<分散工程>と同様の方法を用いることができる。
【0073】
(架橋物の製造方法)
本発明の架橋物の製造方法は、上述した本発明の架橋性エラストマー組成物の製造方法により得られた架橋性エラストマー組成物を架橋する工程を含むことを特徴とする。かかる架橋物の製造方法によれば、引張強度に優れる架橋物を得ることができる。
【0074】
架橋に際しては、配合された架橋剤に応じて、加圧、加熱などの一般的な架橋操作を実施することができる。
【0075】
(成形体の製造方法)
本発明の成形体の製造方法は、上述した本発明の架橋物の製造方法により得られた架橋物を成形する工程を含むことを特徴とする。かかる架橋物の製造方法によれば、引張強度に優れる成形体としての架橋物を得ることができる。
【0076】
成形体は、特に限定されず、例えばベルト、ホース、ガスケット、パッキン、オイルシールである。上述した本発明のエラストマー組成物を成形してなる成形体は、CNTがエラストマー中に良好に分散しているため、引張強度に優れ、さらには、導電性及び熱伝導性にも優れる。成形体の成形方法として、目的とする成形体の形状に応じて、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ロール成形などを採用することができる。
【実施例0077】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、引張強度は下記の方法に従って評価した。
【0078】
<引張強度測定>
実施例、比較例で得た架橋ゴムシートを、ダンベル試験片状(JIS3号)に打ち抜き、試験片を作製した。引張試験機(ストログラフVG、東洋精機社製)を用い、JIS K6251:2010に準拠して、試験温度:200℃、試験湿度:50%、引張速度:500±50mm/分の条件で引張試験を行い、引張強度(試験片を切断するまで引っ張ったときに記録される最大の引張力(N)を試験片の初期断面積(m)で除した値)を測定した。
【0079】
<かさ密度>
200mlメスシリンダーを計量した後、かかるメスシリンダーに対して、実施例、比較例で準備し架橋性エラストマー組成物などの製造に使用したCNTを、軽くタップしながら100mlとなるように投入した。CNTの入ったメスシリンダーを計量し、差分からCNT質量を算出し、体積(100ml)で除することで、かさ密度を算出した。
【0080】
<CNTの属性評価>
実施例1~5,及び比較例2で用いた原料粉体に含まれるCNTの集合体について、国際公開第2021/172078号の実施例1と同様にして評価したところ、
(1)バンドル長が10μm以上になるように分散させて得たカーボンナノチューブ分散体について、フーリエ変換赤外分光光分析して得たスペクトルにおいて、カーボンナノチューブ分散体のプラズモン共鳴に基づくピークが、波数830cm-1に観測され、
(2)カーボンナノチューブについて、液体窒素の77Kでの吸着等温線から、Barrett-Joyner-Halenda法に基づいて得られる、細孔径とLog微分細孔容積との関係を示す細孔分布曲線における最大のピークが細孔径100nm超400nm未満の範囲内に存在し、
(3)カーボンナノチューブの電子顕微鏡画像の二次元空間周波数スペクトルのピークが、3.0μm-1の位置に存在した。
【0081】
(実施例1)
<高密度化工程>
―造粒加工する処理による高密度化処理
ハイスピードミキサー(アーステクニカ社製、装置名「LFS2」)に、下記の方法に従って合成した、原料粉体としての単層カーボンナノチューブ(BET比表面積:754m/g、炭素純度99.5%、原料粉体としてのかさ密度:0.007g/cm3、比重:1.7、ハンセン溶解度パラメータ(δd3=19.4、δp3=6.0、δh3=4.5))10.0g、アセトン60.0gを添加し、20分間攪拌した後、加熱乾燥させることで高密度化粉体としての造粒カーボンナノチューブを得た。得られた高密度化粉体としてのCNTのかさ密度は0.025g/cm3であった。
<原料粉体としての単層カーボンナノチューブの合成>
原料粉体としての単層CNTは、粒子状の触媒担持体をスクリュー回転によって連続的に搬送しながら原料ガスを供給する方法にて作製した。
用いたCNT集合体製造装置100の概略構成を図1に示す。図1に示すCNT集合体製造装置100は、フォーメーションユニット102、成長ユニット104、フォーメーションユニット102から成長ユニット104を通過するまでの間に基材を搬送する搬送ユニット107と、フォーメーションユニット102と成長ユニット104とを相互に空間的に接続する接続部108と、フォーメーションユニット102と成長ユニット104との間でガスが相互に混入することを防止するガス混入防止装置103とを備える。さらに、CNT集合体製造装置100は、フォーメーションユニット102の前段に配置された入口パージ装置101、成長ユニット104の後段に配置された出口パージ装置105、さらには、出口パージ装置105の後段に配置された冷却ユニット106等の構成部を備える。フォーメーションユニット102は、還元ガスを保持するためのフォーメーション炉102a、還元ガスを噴射するための還元ガス噴射装置102b、触媒と還元ガスの少なくとも一方を加熱するための加熱装置102c、炉内のガスを系外へと排出する排気装置102d等により構成されている。ガス混入防止装置103は、排気装置103a、パージガス(シールガス)を噴射するパージガス噴射装置103bを備える。成長ユニット104は、原料ガス環境を保持するための成長炉104a、原料ガスを噴射するための原料ガス噴射装置104b、触媒及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱するための加熱装置104c、炉内のガスを系外へと排出する排気装置104d等を備える。入口パージ装置101が、ホッパー112を介して系内に基材111を導入する構成部である前室113とフォーメーション炉102aとを接続する接続部109に対して取り付けられている。冷却ユニット106は、不活性ガスを保持するための冷却容器106a、及び冷却容器106a内空間を囲むように配置した水冷冷却装置106bを備える。搬送ユニット107は、基材111をスクリュー回転によって連続的に搬送するユニットである。スクリュー羽根107a、及び、かかるスクリュー羽根を回転させて基材搬送能を発揮せしめる状態としうる駆動装置107bにより実装される。加熱装置114は、フォーメーションユニットにおける加温温度よりも低温で系内を加熱可能に構成され、駆動装置107b付近を加熱する。
<<触媒層形成工程>>
基材としてのジルコニア(二酸化ジルコニウム)ビーズ(ZrO2、体積平均粒子径D50:650μm)を、回転ドラム式塗工装置に投入し、ジルコニアビーズを攪拌(20rpm)させながら、アルミニウム含有溶液をスプレーガンによりスプレー噴霧(噴霧量3g/分間、噴霧時間940秒間、スプレー空気圧10MPa)しつつ、圧縮空気(300L/分)を回転ドラム内に供給しながら乾燥させ、アルミニウム含有塗膜をジルコニアビーズ上に形成した。次に、480℃で45分間焼成処理を行い、酸化アルミニウム層が形成された一次触媒粒子を作製した。さらに、その一次触媒粒子を別の回転ドラム式塗工装置に投入し攪拌(20rpm)させながら、鉄触媒溶液をスプレーガンによりスプレー噴霧し(噴霧量2g/分間、噴霧時間480秒間、スプレー空気圧5MPa)しつつ、圧縮空気(300L/分)を回転ドラム内に供給しながら乾燥させ、鉄含有塗膜を一次触媒粒子上に形成した。次に、220℃で20分間焼成処理を行って、酸化鉄層がさらに形成された基材を作製した。
<<CNT合成工程>>
このようにして作製した表面に触媒を有する基材を製造装置のフィーダーホッパーに投入し、スクリューコンベアで搬送しながら、フォーメーション工程、成長工程、冷却工程の順に処理を行い、CNT集合体を製造した。
<<フォーメーション工程~冷却工程>>
CNT集合体製造装置の入口パージ装置、フォーメーションユニット、ガス混入防止装置、成長ユニット、出口パージ装置、冷却ユニットの各条件は以下のように設定し、CNTの連続製造を行った。
フィーダーホッパー
・フィード速度:1.25kg/h
・排気量:10sLm(隙間から自然排気)
入口パージ装置
・パージガス: 窒素40sLm
フォーメーションユニット
・炉内温度:800℃
・還元ガス:窒素6sLm、水素54sLm
・排気量:60sLm
・処理時間:20分
ガス混入防止装置
・パージガス:20sLm
・排気装置の排気量:62sLm
成長ユニット
・炉内温度:830℃
・原料ガス:窒素15sLm、エチレン5sLm、二酸化炭素1sLm、水素3sLm
・排気量:47sLm
・処理時間:10分
出口パージ装置
・パージガス:窒素45sLm
冷却ユニット
・冷却温度:室温
・排気量:10sLm(隙間から自然排気)
<<分離回収工程>>
基材上に合成されたCNT集合体は強制渦式分級装置(回転数2300rpm、空気風量3.5Nm/分)を用いて分離回収を行った。回収された原料粉体としての単層CNTの回収率は、96%であった。
<含浸工程>
900mlのガラス瓶に、高密度化粉体としての造粒カーボンナノチューブ10.0gを計量後、化合物Aとしての3-フェニルプロピオン酸メチル(東京化成工業社製、ハンセン溶解度パラメータ(δd2=17.4、δp2=3.8、δh2=5.1)、25℃での蒸気圧5.6×10-3kPa、沸点:239℃、分子量:178)を100.0g滴下した。次いで、40℃のオーブンに12時間静置し、高密度化粉体としての造粒CNTに3-フェニルプロピオン酸メチルを含浸させて、含浸物としての、造粒CNTと3-フェニルプロピオン酸メチルを含む混合物Aを得た。
<分散工程>
―マスターバッチの作製
エラストマーとしてのFKM(フッ化ビニリデン系ゴム、ケマーズ社製「Viton GBL600S」、ハンセン溶解度パラメータ(δd1=14.7、δp1=9.0、δh1=2.7))250.0gを、水冷し、ロール間隙0.5mmに調整した6インチオープンロール(2本ロールミル)に巻き付けた後、上述の混合物Aを添加し、60分間混錬を行い、FKMと単層CNTと3-フェニルプロピオン酸メチルとが複合したゴムシートを得た。さらに、上述のゴムシートを約5mm角に細断した後、150℃のオーブンにて12時間真空乾燥させることで、エラストマー組成物としての、ゴムマスターバッチを作製した。
【0082】
<架橋性エラストマー組成物の製造方法>
20℃のオープンロールを用いて、上記で得られたエラストマー組成物としてのゴムマスターバッチ260.0g(フッ素ゴム:250.0g、SGCNT:10.0g)と、受酸剤としての亜鉛華(亜鉛華二種)7.5gと、架橋剤としてのTAIC M―60 12.5g(三菱ケミカル株式会社製)及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(日本油脂社製、商品名「パーヘキサ25B40」)5.0gとを混練し、ロール間隔を2mmに調整した後、ゴムマスターバッチをロールに巻き付け、左右切り返しを各3回実施後、シート出しを行うことで、架橋性エラストマー組成物としての架橋剤を含むフッ素ゴム組成物を得た。
【0083】
<架橋物の製造方法>
上記で得られた、架橋性エラストマー組成物としての架橋剤を含むフッ素ゴム組成物を、温度160℃、圧力10MPaで20分間一次架橋した。次いで、232℃のギヤーオーブンで2時間加熱し、二次架橋を行うことにより成形体としての架橋ゴムシート(長さ:150mm、幅:150mm、厚さ:2mm)を得た。
そして、得られたゴムシートの引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例2)
高密度化工程を造粒加工する処理ではなく、原料粉体を圧縮加工する処理により実施した以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
<高密度化工程>
―圧縮加工する処理による高密度化処理
フッ素樹脂製の採取袋に原料粉体としての単層カーボンナノチューブ10.0g(諸属性は実施例1で用いたものと同じ)及び化合物Aとしての3-フェニルプロピオン酸メチル100.0gを添加し、エアーを抜きながら圧縮し、採取袋を封止した。得られた高密度化粉体としてのCNTのかさ密度は0.031g/cm3であった。
【0085】
(実施例3)
高密度化工程を造粒加工する処理ではなく、原料粉体を圧縮加工する処理(下記)により実施した以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
<高密度化工程>
―圧縮加工する処理による高密度化処理
実施例2の圧縮加工条件から、かさ密度が表1に示す通りとなるように圧縮条件を変更した。
【0086】
(実施例4)
高密度化工程を造粒加工する処理ではなく、原料粉体を圧縮加工する処理(下記)により実施した。また、原料粉体としてのCNTとして、実施例1と同様の方法に従って合成した単層カーボンナノチューブ(BET比表面積:776m/g、炭素純度98.8%、原料粉体としてのかさ密度:0.015g/cm3、比重:1.7、ハンセン溶解度パラメータ(δd3=19.4、δp3=6.0、δh3=4.5))10.0gを用いた。これらの点以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
<高密度化工程>
―圧縮加工する処理による高密度化処理
実施例2の圧縮加工条件から、かさ密度が表1に示す通りとなるように圧縮条件を変更した。
【0087】
(実施例5)
分散工程にて用いるエラストマーとしてのFKMの種類を変更した。具体的には、フッ化ビニリデン系ゴムである、デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」(ハンセン溶解度パラメータ(δd1=14.6、δp1=10.0、δh1=1.6))を10.0g用いた。また、高密度化工程を造粒加工する処理ではなく、原料粉体を圧縮加工する処理(実施例2に同じ)により実施した。さらに、架橋性エラストマー組成物の製造条件を下記の通りに変更した。これらの点以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0088】
<架橋性エラストマー組成物の製造方法>
20℃のオープンロールを用いて、上記で得られたエラストマー組成物としてのゴムマスターバッチ260.0g(フッ素ゴム:250.0g、SGCNT:10.0g)と、受酸剤としての酸化マンガン(協和化学工業製、キョーワマグ(登録商標)150、#100)7.5gと、架橋剤としての水酸化カルシウム(近江化学製品製、Caldic#1000)15.0g及びバイトン加硫剤(ケマーズVC-50)6.25gとを混練し、ロール間隔を2mmに調整した後、ゴムマスターバッチをロールに巻き付け、左右切り返しを各3回実施後、シート出しを行うことで、架橋性エラストマー組成物としての架橋剤を含むフッ素ゴム組成物を得た。
【0089】
(比較例1)
原料粉体としてのCNTとして、実施例1と同様にして合成した単層カーボンナノチューブ(BET比表面積:752m/g、炭素純度98.6%、原料粉体としてのかさ密度:0.010g/cm3、比重:1.7、ハンセン溶解度パラメータ(δd3=19.4、δp3=6.0、δh3=4.5))10.0gを用いた。また、高密度化工程を実施せず、原料粉体に対して、含浸工程を下記に従って実施した。これらの点以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
<含浸工程>
2000mlのポリ瓶に、単層カーボンナノチューブ10.0gを計量後、化合物Aとしての3-フェニルプロピオン酸メチル(東京化成工業社製、ハンセン溶解度パラメータ(δd2=17.4、δp2=3.8、δh2=5.1)、25℃での蒸気圧5.6×10-3kPa、沸点:239℃、分子量:178)を100.0g滴下した。次いで、40℃のオーブンに12時間静置し、CNTと3-フェニルプロピオン酸メチルを含む混合物Aを得た。
【0090】
(比較例2)
原料粉体としてのCNTとして、単層カーボンナノチューブ(日本ゼオン社製、製品名「ZEONANO SG101」、原料粉体としてのかさ密度:0.025g/cm3、BET比表面積:1452m/g、ハンセン溶解度パラメータ:δd3=19.4、δp3=6.0、δh3=4.5)10.0gを用いた。また、高密度化工程を実施せず、原料粉体に対して、含浸工程を比較例1と同様にして実施した。これらの点以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例3)
原料粉体としてのCNTとして、単層カーボンナノチューブ(日本ゼオン社製、製品名「ZEONANO SG101」、原料粉体としてのかさ密度:0.040g/cm3、BET比表面積:1218m/g、ハンセン溶解度パラメータ:δd3=19.4、δp3=6.0、δh3=4.5)10.0gを用いた。また、高密度化工程を実施せず、原料粉体に対して、含浸工程を比較例1と同様にして実施した。さらに、分散工程にて用いるエラストマーとしてのFKMの種類を変更した。具体的には、フッ化ビニリデン系ゴムである、デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」(ハンセン溶解度パラメータ(δd1=14.6、δp1=10.0、δh1=1.6))を10.0g用いた。そして、架橋性エラストマー組成物の製造条件を実施例5と同様に変更した。これらの点以外は、実施例1と同様の操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1より、実施例1~5では、比較例1~3に比して引張強度に優れるゴムシートが得られていたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、引張強度に優れる成形体を得るための新たな技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0095】
100 CNT集合体製造装置
101 入口パージ装置
102 フォーメーションユニット
102a フォーメーション炉
102b 還元ガス噴射装置
102c 加熱装置
102d 排気装置
103 ガス混入防止装置
103a 排気装置
103b パージガス噴射装置
104 成長ユニット
104a 成長炉
104b 原料ガス噴射装置
104c 加熱装置
104d 排気装置
105 出口パージ装置
106 冷却ユニット
106a 冷却容器
106b 水冷冷却装置
107 搬送ユニット
107a スクリュー羽根
107b 駆動装置
108~109 接続部
111 基材
112 ホッパー
114 加熱装置
図1