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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108851
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】食品素材
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240805BHJP
   A23G 3/34 20060101ALN20240805BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20240805BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L7/10 A
A23G3/34 107
A23L2/38 102
A23L2/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013459
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】519418204
【氏名又は名称】北大阪農業協同組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥西 智哉
(72)【発明者】
【氏名】浦松 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】津田 貴央
【テーマコード(参考)】
4B014
4B023
4B117
【Fターム(参考)】
4B014GG03
4B014GP14
4B023LC09
4B023LE19
4B023LE30
4B023LG01
4B023LG05
4B023LK12
4B023LK13
4B023LL01
4B023LP07
4B023LP08
4B023LP20
4B117LC04
4B117LG11
4B117LG12
4B117LG13
4B117LK01
4B117LK12
4B117LK29
4B117LP05
(57)【要約】
【課題】本発明は、ae米、wx/ae米の新たな加工用途を提供するとともに、これまでにない物性を有する米加工食品素材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米を含む穀物の糊化物を含む、食品素材を提供する。また、工程1)アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米を含む穀物原料に吸水させること、工程2)吸水した原料の湿式粉砕、液相の糊化を行い、糊化物を回収することを含む、上記食品素材の製造方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米を含む穀物の糊化物を含む、食品素材。
【請求項2】
アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米が、アミロペクチン枝作り酵素IIb型及び顆粒結合型デンプン合成酵素I二重欠損変異を有する米である、請求項1に記載の食品素材。
【請求項3】
工程1)アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米を含む穀物原料に吸水させること、
工程2)吸水した原料の湿式粉砕、液相の糊化を行い、糊化物を回収することを含む、
請求項1又は2に記載の食品素材の製造方法。
【請求項4】
糊化は、70℃以上での加熱処理である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
加熱処理の時間は、1分以上である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
湿式粉砕が、摩砕処理及び/又は撹拌処理である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の食品素材を含む、加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材に関し、詳しくは、食品素材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネのアミロペクチン枝作り酵素IIb型(BEIIb)が欠損したアミロースエクステンダー米(ae米)は、難消化性澱粉を多く含み血糖上昇抑制作用を有し、健康食品として期待されている(特許文献1及び非特許文献1)。
また、BEIIb及びアミロース合成酵素I(GBSSI)の二重変異米(wx/ae米)は、難消化性澱粉が多く、またγオリザノールも豊富なことから機能性食品素材としての利用が期待されている(特許文献2、非特許文献2)。
【0003】
一方、米の加工技術として、特許文献3には、玄米又は精米をα-アミラーゼで処理後、磨砕、ろ過し、さらに加圧処理することにより得られるライスミルクは、舌にザラツキ感を与えずに滑らかな食感を発揮できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-217813号公報
【特許文献2】特開2009-254265号公報
【特許文献3】特開2011-062165号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nishi A.et al.(2001)Plant Physiol.127(2):459-472 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC125082/
【非特許文献2】Horino S.et al.(2011)J.Life Sci.Res.9:7-11 https://www.rehab.osakafu-u.ac.jp/osakafu-content/uploads/sites/103/2015/12/jlsr_009_2011_02.pdf
【非特許文献3】中村ほか(2013)「日本栄養・食料学会誌 第66巻第1号35-40 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/66/1/66_35/_pdf/-char/ja
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ae米、wx/ae米は、その機能性の付加価値を生かして、より広い加工方法が模索されている。一方、米から液状、ゲル状等の物性を呈する加工品を得る技術は、特許文献3の方法のように酵素を必要とし、さらに粉砕手段も準備する必要があるなど、長時間を要し操作が煩雑である、コストがかかる等の問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ae米、wx/ae米の新たな加工用途を提供するとともに、これまでにない物性を有する米加工食品素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の〔1〕~〔7〕を提供する。
〔1〕アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米を含む穀物の糊化物を含む、食品素材。
〔2〕アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米が、アミロペクチン枝作り酵素IIb型及び顆粒結合型デンプン合成酵素I二重欠損変異を有する米である、〔1〕に記載の食品素材。
〔3〕工程1)アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米を含む穀物原料に吸水させること、
工程2)吸水した原料の湿式粉砕、液相の糊化を行い、糊化物を回収することを含む、
〔1〕又は〔2〕に記載の食品素材の製造方法。
〔4〕糊化は、70℃以上での加熱処理である、〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕加熱処理の時間は、1分以上である、〔3〕又は〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕湿式粉砕が、摩砕処理及び/又は撹拌処理である、〔3〕~〔5〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔7〕〔1〕又は〔2〕に記載の食品素材を含む、加工食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ae米、wx/ae米を利用することにより、様々な硬度を示し、食品の硬さ、食感、風味等の物性の調整に利用できる食品素材が提供される。また、本発明によれば、簡便かつ容易に上記食品素材を製造できる製造方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔1.食品素材〕
食品素材は、アミロペクチン枝作り酵素IIb欠損変異を有する米を含む穀物の糊化物を含む。
〔1.1 原料米〕
原料米は、アミロペクチン枝作り酵素IIb(BEIIb)欠損変異を有する米(ae米)である。原料米は、BEIIb欠損変異を少なくとも有する米であればよいが、他の欠損変異を有していてもよい。例えば、BEIIb及び顆粒結合型デンプン合成酵素(例えば、I型、IIa型、IIIa型、IVb型、好ましくはI型(GBSSI))二重欠損変異を有する米(wx/ae米、WE米(登録商標)、以下、ウイ米と称する)が挙げられる。
本明細書において欠損変異とは、発現、活性を抑制させる変異が導入されていること意味する。変異は、例えば、酵素遺伝子を構成する少なくとも1つの塩基の置換、欠失、挿入及び付加からなる群より選ばれる1以上の変化が挙げられる。変異の導入方法としては、変異原性化学物質(ニトロソ化合物(例えば、N-メチル-N-ニトロソウレア等のニトロソウレア類、ニトロソグアニジン)、高エネルギーの電磁波(放射線、紫外線等)照射、塩基類似化合物(例えば、BrdU化合物)、アルキル化剤(例えば、N-エチル-N-ニトロソウレア、メタンスルホン酸メチル)、多環芳香族炭化水素(例えば、ベンゾピレン、クリセン)、DNAインターカレーター(例えば、臭化エチジウム)、DNA架橋剤(例えば、シスプラチン、マイトマイシンC)、活性酸素)による処理によってゲノムDNAにランダム変異を導入する方法等が挙げられる。
【0011】
原料米としては、例えば、クロフツ尚子ほか(2019)応用糖質科学 第9巻第2号76-8、A.Nishi et al.(2001)Plant Physiology,127,459-472(非特許文献1)、R.Matsushima et al.(2010)Plant and Cell Physiology,51,728-741、M.Nakata et al.(2018)Plant Biotechnology Journal,16,111-123、T.Wada et al.(2018)Breed Science,68,278-283、中屋 愼ほか(2016)応用糖質科学 第6巻第3号176-179、Asai H.et al(2014)Journal of Experimental Botany Vol.65,No.18,pp.5497-5507、Horino S.et al.(2011)J.Life Sci.Res.9:7-11(非特許文献2)に記載されている各変異米が挙げられる。
【0012】
米原料は、米の穀粒及び米粉のいずれでもよいが、作業性がよいことから、穀粒が好ましい。米の穀粒は、糠、胚芽が残っていてもよく、玄米、分づき米(3分、5分、7分など)、白米のいずれでもよい。
【0013】
米原料は、1種単独でも、2種以上の異なる米原料の組み合わせでもよい。
【0014】
〔1.2 他の穀物原料〕
糊化物は、米のみに由来する糊化物でもよいし、米と米以外の穀物原料の糊化物でもよい。他の穀物原料としては、例えば、大麦、小麦、オート麦、トウモロコシ、ライ麦、ハト麦、モロコシ、アワ、キビ、ヒエ、ソバ、コウリャン、ライ小麦が挙げられ、大麦が好ましい。
【0015】
-大麦原料-
大麦(Hordeum vulgare)は、二条大麦及び六条大麦のいずれでもよく、皮麦及び裸麦のいずれでもよい。大麦の産地、種類等には、特に制限はない。産地は、国産でもよいし外国産(例えば、ロシア、ウクライナ、フランス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、トルコ)でもよい。また、品種も特に限定されず、例えば、はるか二条、白妙二条、小春二条、煌二条、キリニジョウ、ニシノホシ等の二条皮麦;ワキシーファイバー、ビューファイバー、キラリモチ、ユメサキボシ等の二条裸麦;ゆきはな六条、ゆきみ六条、カシマゴール等の六条皮麦;ダイキンボシ、ハルアカネ、フクミファイバー、長崎御島、ハルヒメボシ等の六条裸麦が挙げられる。これらのうち、高アミロース大麦が好ましい。本明細書において高アミロース大麦とは、アミロース含量が通常30%以上、好ましくは30~40%の大麦を意味する。高アミロース品種としては、例えば、amo1変異種が挙げられる。本明細書において、amo1変異種は、高アミロース品種グレイシャーAC38株(Merritte (1967) J.Inst.Brew.Vol.73,583-585;Walker and Merritt(1969)nature Vol.221,482-483)、AC38株が有するamo1変異と同様の変異を有する種(例えば、谷系RA8315-9、フクミファイバー)、AC38株の後代の高アミロース品種(例えば、四国裸84号のamo1変異株、Li et al.(2011)Journal of Experimental Botany Vol.62,5217-5231に記載の株)を意味する。amo1変異種の後代、例えば、上記amo1変異種のいずれかを交配親とし、交配親で特定されるamo1変異を有する系統でもよい。amo1変異種は、上記文献に記載に従って得ることができるほか、既存のamo1変異種、又はその後代かつ親株と同等の高アミロース含量を示す種を用いてもよい。高アミロース大麦は、上記品種の1種でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。大麦原料は、米の穀粒及び大麦粉のいずれでもよいが、穀粒が好ましい。大麦の穀粒は、糠、胚芽が残っていてもよく、玄麦、押し麦、丸麦、白麦及び米粒麦のいずれでもよく、玄麦、丸麦が好ましい。
【0016】
大麦原料は、1種単独でも、品種、栽培方法、精麦の有無等が異なる2種以上の大麦原料の組み合わせでもよい。
【0017】
-米及び大麦原料の使用量-
米及び大麦原料の重量比は、米:大麦が、通常、1:99~99:1であり、10:90~90:10、20:80~80:20又は30:70~70:30が好ましく、40:60~60:40がより好ましい。これにより、食品素材に適度なゲル硬度を付与できる。
〔1.3 糊化物〕
食品素材は、米の糊化物を含む。本明細書において糊化物は、米原料から、粉砕、糊化を経て得られる加工物を意味し、通常、液状、ゲル状、半固形状、固形状等の性状を有する。粉砕に供される米原料の精米の程度(例えば、玄米、分づき米(3分、5分、7分など))は特に限定されないが、白米が好ましい。粉砕は、通常は湿式粉砕であり、糊化は通常は糊化温度以上に加熱及び/又は加圧処理する処理である。粉砕、糊化にあたり、あらかじめ米に吸水させる(例えば、浸漬処理)ことが好ましい。また、必要に応じて粉砕、糊化の前後に加水し、水量を調整してもよい。水量の調製は、水性原料の調整により行うことができる。水性原料は、通常は水であるが、液状の食品又は食品原料(例えば、牛乳、豆乳、ココア、果汁(レモン果汁など)、酒、紅茶、抹茶、コーヒー、出汁)でもよい。水性原料は、1種でもよいし2種以上の組み合わせでもよい。粉砕と糊化の順序は特に限定されず、好ましくは吸水のあとに粉砕、糊化の順、または糊化、粉砕の順に行えばよい。
【0018】
〔1.4 他の成分〕
食品素材は、糊化物、水以外の成分を含んでもよい。他の成分としては例えば、塩、胡椒、油脂、香辛料、甘味料(例えば、砂糖、きび砂糖、グラニュー糖、ハチミツなど)、添加剤(例えば、酸味料、着色料、保存料、膨化剤(発泡剤)、香料など)、野菜・果実類、卵、動物性クリーム(生クリーム、ホイップなど)、スキムミルク、チーズ、植物性(ココナツ、アーモンドなどの豆)クリーム、植物性タンパク(例えば、豆類(例、小豆))、植物性デンプン(例えば、コーンスターチ、タピオカスターチなど)、菓子材料(例えば、ココアパウダー、インスタントコーヒーの粉、ジャム、カラメル、チョコレートチップ、ショートニング、ドライイースト、ベーキングパウダー、米糀、クラッシュアイス(氷片)、ナッツ、フローズンフルーツ、ドライフルーツ、ドライ野菜、粉末野菜)、発酵調味料(例えば、みりん、酒、甘酒)が挙げられる。副材料は、1種でもよいし2種以上の組み合わせでもよい。副材料の含有量は、種類、食品素材の用途に応じて適宜定めることができる。
【0019】
〔1.5 用途〕
食品素材は、食品の原料として利用できるほか、それ自体、加工食品として利用できる。例えば、ジュース、スープ、ソース、等の加工食品が挙げられる。また、他の食品(例えば上記の加工食品、酒類)の調製用の食材として利用してもよい。
【0020】
〔2.食品素材の製造方法〕
食品素材は、以下の工程1~2を含む方法により、製造できる。
工程1)アミロペクチン枝作り酵素IIb型欠損変異を有する米を含む穀物原料に吸水させること、
工程2)吸水した原料を湿式粉砕し液相を回収し、液相を糊化するか、または、吸水した原料を糊化し、糊化物を湿式粉砕して液相を得ること
【0021】
〔2.1 工程1:吸水〕
工程1では、穀物原料に吸水させる。
【0022】
-吸水-
原料の吸水は、既述の水性原料に穀物原料を浸漬して行えばよい。吸水は、容器に穀物原料(例えば、穀粒)と、穀物原料が浸る程度か、それ以上の水性原料を収容して行えばよい。吸水の際の温度条件は、常温(例えば、15~25℃)で行うことができるが、特に制限はない。また、吸水時間は、所定の吸水量に達するまで行えばよく、水性原料の温度等の条件により調節できるが、例えば、1.5時間以上が好ましい。これにより、穀物原料の上限値まで吸水させることができる。一方、上限は、通常、25時間以下であり、一晩(例えば、約10~15時間)以下が好ましい。これにより、原料の腐敗を抑制できる。吸水後の穀粒は、必要に応じて水切り、加水等の水分調整を行ってもよいし、そのまま工程2の湿式粉砕、糊化に供してもよい。
【0023】
穀物原料の吸水量は特に制限はなく、目的の食品素材の所望の硬度に合わせて適宜調節可能である。吸水量の上限値は、穀物原料の種類や品種によっても異なるが、通常、米は約30重量%以上(具体的には、1.2~1.5倍)、大麦は200重量%(具体的には、3~5倍)である。穀類原料が米以外を含む場合には、その穀物の吸水量の上限値を参照することが好ましい。例えば、大麦は200重量%(具体的には、3~5倍)である。上限値まで吸水させてもよいし、上限値以下までの吸水にとどめてもよい。吸水量が異なる穀類を組み合わせる場合、吸水は別個に行ってもよいし、一緒に行ってもよい。
【0024】
〔2.2 工程2:湿式粉砕及び液相の回収/糊化〕
工程2では、吸水した原料の湿式粉砕、液相の糊化を行う。粉砕と糊化の順序は限定されず、先に湿式粉砕し、続いて糊化処理してもよいし、先に糊化処理し、その後湿式粉砕してもよいが、先に湿式粉砕し、続いて糊化処理することが好ましい。
【0025】
-湿式粉砕-
湿式粉砕は、穀物原料を溶媒(例えば、水)と混合した状態で粉砕する処理であればよく、摩砕処理、撹拌処理であることが好ましい。処理の際には、例えば、摩砕機、融砕機、ミキサー、ブレンダー、フードプロセッサー、ロールミル、コロイドミル、スターバースト、ビーズミル、ボールミル(転動式、振動式、遊星式ミルなど)、ホモジナイザー(例えば、高圧ホモジナイザー)等の機器を用いて行えばよい。湿式粉砕は、吸水した穀粒をそのまま、又は必要に応じて減水又は加水して、上記機器での処理に供することができる。溶媒の添加量は、穀物原料(乾燥重量)に対し通常1.5倍以上、又は2倍以上である。上限は特にないが、10倍以下である。湿式粉砕の条件は、穀粒の組成、給水量、粉砕機器、食品素材の所望の物性、用途等によって適宜定めることができる。
【0026】
-液相の回収-
湿式粉砕後に液相を回収する処理を行ってもよい。これにより、ドリンク状の滑らかな食感の糊化物を得ることができる。液相を回収する方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、静置等の固液分離法が挙げられる。ろ過に用いるフィルターの密度(目開き)は、好ましくは5メッシュ以上、より好ましくは8メッシュ以上、更に好ましくは10メッシュ以上である。上限は、通常100メッシュ以下、好ましくは80メッシュ以下、更に好ましくは60メッシュ以下、更により好ましくは50メッシュ以下である。フィルターの素材は特に限定されず、ステンレス製の網又はザルを用いてもよい。
【0027】
-糊化-
糊化は、湿式粉砕前後の穀物原料を含む溶液(通常、水分散液、懸濁液又は溶液)、又はその湿式粉砕後に回収された液相の加熱及び/又は加圧処理によって行うことができ、少なくとも加熱を行うことが好ましい。加熱温度は、液相に含まれるae米等穀物原料の糊化温度以上であればよく、例えば、70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上である。上限は、通常、110℃以下、好ましくは105℃以下であるが、特に制限はない。これにより、製造途中での突沸、ae米等の穀物原料の過剰加熱による硬度の上昇、メイラード反応の進行、焦げ、苦味の発生等の望ましくない事態を防ぐことができる。加熱時間は、糊化する時間であればよく、通常、1分以上、好ましくは2分以上、より好ましくは3分以上である。上限は、通常、45分以下、好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下である。
【0028】
加熱処理には、炊飯器、鍋、圧力鍋、電磁調理器(例:IH)、電子レンジ、スチームオーブン等の加熱手段を用いることができる。食品素材が焦げ付かず糊化が十分に進む時間を適宜調整する。温度、圧力、時間等の加熱条件は、糊化が妨げられない範囲で、加工食品の種類に応じて自由に選択することができる。例えば、加熱手段内に内蔵された条件モード(例えば、お粥モード)に従って調整してもよい。
【0029】
副材料の添加量及び添加時期は、食品素材の用途、添加する副材料の種類によりそれぞれ定めることができる。副材料の添加時期は、本発明の製造工程の開始時、途中、終了後、又は、工程1~2の開始時、途中、終了後のいずれでもよく、副材料ごとに適宜定めることができる。副材料については、上述したとおりである。
【0030】
〔2.3 混合(任意)〕
米原料以外の穀物原料を用いる場合、(1)工程1において吸水前に米原料と他の穀物原料を混合して同時に処理を行ってもよいし、(2)各穀物原料を個別に処理して、最後に糊化物を混合してもよいし、(3)工程1のみ個別に行い、それぞれの吸水処理済みの穀物原料を混合して工糊化程2から同時に処理を行ってもよいし、(4)工程1、工程2の浸漬までを個別に行い、それぞれの液相を混合して糊化処理を行ってもよい。
【0031】
〔2.4 後処理(任意)〕
工程2を経て得られる生成物をそのまま食品素材として用いてもよいし、さらに、保存のための処理を行ってもよい。斯かる処理としては、例えば、冷蔵、冷凍、レトルトパウチ処理が挙げられる。レトルトパウチ処理の場合、レトルト容器に密封後に殺菌処理を行ってもよい。殺菌処理は常法により行えばよく、例えば、レトルト釜にて、100~150℃で10~60分加熱する方法が挙げられる。
【0032】
〔3.用途〕
食品素材は、加工食品の原料として利用してもよいし、それ自体、加工食品として利用してもよい。食品としては、例えば、ドリンク、ジュース、スープ、ソース等の加工食品、羊羹、外郎、ゼリー、ババロア等のゲル状加工食品、ケーキ、パウンドケーキ、パン、クッキー等の焼成加工食品が挙げられる。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0034】
(実施例1:リキッド状食品素材の調製(試作2))
生米(ウイ米)100gを水500mLに浸漬(2時間、重量比は、生米:水=1:5)した後、粉砕機(バイタミックス1.4L E310)で2分間粉砕した。粉砕後、フライパンで加熱した(中火、2分、約70℃)。加熱後、そのまま得られた食材は、リキッド状で滑らかな仕上がりで白色を呈していた。
【0035】
(製造例1:大麦からの食品素材調製(試作1))
生大麦(フクミファイバー丸麦)100gを水500mLに一晩(12時間)浸漬した(重量比は、水:大麦=1:5)。浸漬済みの大麦の重量は、生大麦の2倍量であった。浸漬後、水分量を調整し(調整後の重量比は、水:浸漬済みの大麦=1:1)粉砕機(バイタミックス1.4L E310)で2分間粉砕した。粉砕後にザル(目開き10メッシュ)で濾した後、水分量を調整し(調整後の重量比は、水:粉砕後の大麦=2:4)、フライパンで加熱した(中火、6分、約80~95℃)。得られた食材は、リキッド状で滑らかな仕上がりであった。
【0036】
(実施例2:ドリンクの調製(試作3))
製造例1の食材150g、実施例1の食材50g、牛乳60g、フルーツ(ミックスベリー)80g、及びきび糖50gを添加混合した。得られた食品(ドリンク)は、沈殿せず良好な溶液安定性を呈していた。
【0037】
(実施例3:スイーツの調製(試作4))
製造例1の食材150g、製造例2の食材50g、及びココア10gを添加混合した。得られた食品(スイーツ)は、良好なココア風味を呈していた。ココアの添加量を増量することで、より良好な風味を呈していた。ココアに代えて抹茶を添加した場合も良好な風味を呈していた。
【0038】
(実施例4:スイーツの調製(試作4´))
製造例1の食材150g、製造例2の食材50g、ココア15g、及び生クリーム100mLを添加混合した。得られた食品(スイーツ)は、実施例2(ココアの添加量10g)と比較してより良好なココア風味を呈していた。なお、生クリームは共立てよりも別立てのほうが風味良好であった。
【0039】
(実施例5:粥の調製(試作6))
生大麦(フクミファイバー丸麦)100g、生米(ウイ米)100gをそれぞれの水に浸漬させて(大麦は一晩(12時間)、米は2時間)吸水させた後、だし汁(風味調味料(かね七、白えびだし)1重量%水溶液)500mL(大麦と米の2倍量程度)を加え、粉砕機(バイタミックス1.4L E310)で2分間粉砕した。粉砕後にザル(目開き10メッシュ)で濾した後、加水しフライパンで中火で6分(約80~95℃)加熱した。得られた食品(粥)は、大麦の粒感が感じられて風味良好であった。
【0040】
(実施例6:リキッド状食品素材の調製(試作7))
生米(ウイ米)50gを水250mLに浸漬(2時間、重量比は、水:生米=1:5)した。浸漬時、浮く米が比較的多くみられた。浸漬後、粉砕機(バイタミックス1.4L E310)で2分間粉砕した。粉砕後にザル(目開き10メッシュ)で濾した後、フライパンで加熱した(中火、6分、約80~95℃)。得られた食材は、リキッド状で滑らかな仕上がりであり、2日間はリキッドの状態を維持していた。
【0041】
(実施例7:羊羹状食品素材の調製(試作10))
加水を省略、又は加水量を減らしたほかは、実施例6と同様に行った。得られた食材は羊羹状の仕上がりであり、1日経過後にはつまめる程度の硬さを示していた。
【0042】
(実施例8:粥状食品素材の調製(試作13))
生大麦(フクミファイバー丸麦)25g、生米(ウイ米)25gをそれぞれ水250mLに浸漬した(大麦は一晩(12時間)、米は2時間)。浸漬時には浮く米が比較的多くみられた。浸漬済みの大麦及び米について、水分量を、大麦と米の総量の2倍量程度となるように調整し(調整後の重量比は、水:浸漬済みの大麦及び米=1:1)粉砕機(バイタミックス1.4L E310)で2分間粉砕した。粉砕後にザル(目開き10メッシュ)で濾した後、必要に応じて水分量を調整し、フライパンで中火で6分(約80~95℃)加熱した。得られた食品素材は、粥状を呈し、用いるウイ米の生産年、入手経路によっては、サッパリ、又はもっちりした食感が得られ、いずれも良好であった。
【0043】
(実施例9:ドリンクの調製(試作15))
実施例10で調製した粥状食品素材、小豆甘酒20g、きび砂糖2g及び塩0.5gを添加混合し、フライパンで加熱した(中火、2分、約70℃)。得られた食品(ドリンク)は、沈殿せず良好な溶液安定性を呈しており、良好な風味を示していた。
小豆甘酒は、以下の手順で調製した。小豆100gに加水していったん茹でこぼし、さらに、豆粒が縦につぶれる程度まで煮た。その後、小豆に湯100mLを加え、60℃以下で米糀100gを添加し、発酵させた(55℃、10時間)。発酵後(全体量は550g)、ザルで濾して固液分離し、小豆甘酒を得た。
得られた食品(ドリンク)は、沈殿せず良好な溶液安定性を呈しており、良好な風味を示していた。
【0044】
(実施例10:ドリンクの調製(試作17))
実施例10で調製した粥状食品素材、えのきとトマトのペースト40g、粉チーズ2g及び塩1gを添加混合した。得られた食品(ドリンク)は、沈殿せず良好な溶液安定性を呈しており、良好な風味を示していた。
えのきとトマトのペーストは、以下の手順で調製した。えのきだけ400gと水400mlを粉砕機(バイタミックス1.4L E310)で2分間粉砕した。粉砕後の処理物をフライパンで加熱した(中火、15分)。得られたえのきペーストをトマトペースト(トマト1個を上記粉砕機で1分粉砕して調製)100gをフライパンで加熱した(中火、2分)。
得られた食品(ドリンク)は、沈殿せず良好な溶液安定性を呈しており、良好な風味を示していた。
【0045】
(実施例11:ドリンクの調製(試作19))
生大麦(フクミファイバー丸麦)25g、生米(ウイ米)25gをそれぞれの水に浸漬させて(大麦は一晩(12時間)、米は2時間)吸水させた後、だし汁(風味調味料(かね七、白えびだし)1重量%水溶液)500mLと塩1gを添加した後、粉砕機(バイタミックス1.4L E310)で2分間粉砕した。粉砕後、塩1gを添加してフライパンで中火で8分(約80~95℃)加熱した。得られた食品(ドリンク状)は、同じだし汁を用いて調製した実施例4の粥と比較してより液状であった。また、用いるウイ米の生産年、入手経路によっては、サラッとしているか、またはとろみがあり、いずれも風味良好であった。
【0046】
【表1】
【0047】
(実施例12:レトルト食品の調製(We米ペースト))
生米(ウイ米)と水を計量し、水:生米に浸漬(2時間、重量比は、水:生米=4.88:1)した後、そのまま加熱した(90~95℃、30分)。続いて冷却後、マスコロイダー(増幸産業株式会社製、目開き:最小)で粉砕して水相を分離し、レトルトパウチ容器に充填した。レトルトパウチ容器のまま、レトルト釜にて後殺菌を行った(121℃、約30分)。粉砕後、フライパンで加熱した(中火、2分)。加熱後、そのまま得られた食材は、リキッド状で滑らかな仕上がりで白色を呈していた。