(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024108856
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】X線透過検査装置及びX線透過検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/18 20180101AFI20240805BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20240805BHJP
【FI】
G01N23/18
G01N23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023013467
(22)【出願日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】松原 哲
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA06
2G001DA08
2G001FA18
2G001GA01
2G001KA03
2G001KA04
2G001KA05
(57)【要約】
【課題】異物の大きさ(平面積)をより高精度に求めることができるX線透過検査装置及びX線透過検査方法を提供すること。
【解決手段】試料に対してX線を照射するX線源と、試料に対してX線源と反対側に設置されX線が試料を透過した際の透過X線を検出するX線センサと、X線センサで検出した透過X線に基づいて試料中の異物の平面積を算出する演算部とを備え、演算部が、X線の照射方向に垂直な面において透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求め、輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値R1以上の輝度低下量となる画素の数を有効画素数として算出し、有効画素数に基づいて異物の平面積を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対してX線を照射するX線源と、
前記試料に対して前記X線源と反対側に設置され前記X線が前記試料を透過した際の透過X線を検出するX線センサと、
前記X線センサで検出した前記透過X線に基づいて前記試料中の異物の平面積を算出する演算部とを備え、
前記演算部が、前記X線の照射方向に垂直な面において前記透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求め、前記輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる前記画素の数を有効画素数として算出し、前記有効画素数に基づいて前記異物の平面積を算出することを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線透過検査装置において、
前記演算部が、複数の異なる前記輝度低下量閾で算出した複数の前記有効画素数に基づいて前記平面積を算出することを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線透過検査装置において、
前記演算部が、予め求めておいた前記最大輝度低下量と前記異物の厚さとの関係に基づいて前記異物の厚さを算出することを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線透過検査装置において、
前記演算部が、求めた前記異物の平面積と厚さとから前記異物の体積を算出することを特徴とするX線透過検査装置。
【請求項5】
試料に対してX線源からX線を照射するX線照射ステップと、
前記試料に対して前記X線源と反対側に設置されたX線センサで前記X線が前記試料を透過した際の透過X線を検出する透過X線検出ステップと、
前記X線センサで検出した前記透過X線に基づいて前記試料中の異物の平面積を算出する演算ステップとを有し、
前記演算ステップが、前記X線の照射方向に垂直な面において前記透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求める分布作成ステップと、
前記輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる前記画素の数を有効画素数として算出する画素数算出ステップと、
前記有効画素数に基づいて前記異物の平面積を算出する平面積算出ステップとを有することを特徴とするX線透過検査方法。
【請求項6】
請求項5に記載のX線透過検査方法において、
前記画素算出ステップが、複数の異なる前記輝度低下量閾値で複数の前記有効画素数を算出し、
前記平面積算出ステップが、前記算出した複数の前記有効画素数に基づいて前記平面積を算出することを特徴とするX線透過検査方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のX線透過検査方法において、
前記演算ステップが、予め求めておいた前記最大輝度低下量と前記異物の厚さとの関係に基づいて前記異物の厚さを算出する厚さ算出ステップを有していることを特徴とするX線透過検査方法。
【請求項8】
請求項7に記載のX線透過検査方法において、
前記演算ステップが、求めた前記異物の平面積と厚さとから前記異物の体積を算出する体積算出ステップを有していることを特徴とするX線透過検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の金属異物等を検出可能なX線透過検査装置及びX線透過検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル水素系バッテリーよりもエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池は、非水電解質二次電池の一種で、電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担い、かつ金属リチウムを電池内に含まない二次電池であり、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話機含め自動車,ハイブリッド車又は電気自動車等のバッテリーとして採用されている。
一般に、試料中の金属異物等を検出するために、試料にX線を照射して取得したX線透過像により検査を行うX線透過検査が用いられており、例えば上記リチウムイオン二次電池の材料中の異物検査にもX線透過検査が用いられている。
【0003】
従来、例えば特許文献1には、厚み20μm一定の円柱Fe異物サンプルにおいて、直径と輝度低下量との相関関係を予め求めておき、定められた大きさ以上の異物が膜電極接合体に含まれるか否かを判定する膜電極接合体の検査方法および検査装置が記載されている。この特許文献1の
図2では、厚み20μmで直径の異なる円柱Fe異物サンプルにおいて、輝度低下量の大きさを矢印で示しており、異物の大きさ(平面積)と最も輝度低下量の大きい部分とには線形的な相関があるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、膜電極接合体のX線透過像を取得する第1工程と、第1工程で取得したX線透過像において、周囲の領域よりも輝度が低い輝度低下領域を特定する第2工程と、膜電極接合体中の異物の平面サイズとX線の回折による輝度変化との相関関係に基づき、輝度低下領域の平面サイズに応じて第2工程で特定した輝度低下領域の輝度を補正する第3工程と、第3工程で補正した輝度に基づき膜電極接合体中の異物の厚みを求める第4工程と、を備える膜電極接合体の検査方法および検査装置が記載されている。
この特許文献2の技術では、輝度低下領域の平面サイズを、周囲の画素の輝度値よりも、10倍以上暗い輝度値の画素の集合を、輝度低下領域として特定して算出している(段落0018参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-135125号公報
【特許文献2】特開2022-141078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記特許文献1では、異物の大きさと輝度低下量との相関のみを考慮しており、異物の厚みと輝度低下量との相関を考慮できていない。例えば、円盤状の異物の場合、
図10に示すように、その直径の変化に対して輝度低下量が直線的に変化するものとして設定している。このように、異物の厚みを固定値として輝度低下量から異物の大きさを推定しているため、推定される異物の3次元形状の厚みも固定値になる。したがって、これらの要因により、特許文献1の技術では、異物の大きさの推定精度が低いという問題があった。
また、特許文献2では、輝度低下領域の平面サイズを、周囲の画素の輝度値よりも、10倍以上暗い輝度値の画素の集合を、輝度低下領域として特定するして算出しているが、輝度低下領域を特定するための輝度値が固定値であるため、平面サイズが同じ異物であっても、異物の厚みの違いにより輝度低下領域が変化することを考慮できていない。したがって、これらの要因により、特許文献2の技術では、異物の平面サイズ及び立体サイズの推定精度が低いという問題があった。
このように上記従来技術では、輝度低下量から異物の大きさ(平面積)を算出しているが、基準としている異物の厚みと実際の異物の厚みとに差異がある場合に、異物の大きさを過小評価もしくは過大評価してしまう問題があった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、異物の大きさ(平面積)をより高精度に求めることができるX線透過検査装置及びX線透過検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るX線透過検査装置は、試料に対してX線を照射するX線源と、前記試料に対して前記X線源と反対側に設置され前記X線が前記試料を透過した際の透過X線を検出するX線センサと、前記X線センサで検出した前記透過X線に基づいて前記試料中の異物の平面積を算出する演算部とを備え、前記演算部が、前記X線の照射方向に垂直な面において前記透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求め、前記輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる前記画素の数を有効画素数として算出し、前記有効画素数に基づいて前記異物の平面積を算出することを特徴とする。
【0009】
このX線透過検査装置では、演算部が、X線の照射方向に垂直な面において透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求め、輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる画素の数を有効画素数として算出し、有効画素数に基づいて異物の平面積を算出するので、異物の大きさ(平面積)を高精度に求めることが可能になる。
すなわち、従来は異物の厚さを十分に考慮していないため、予め推定した異物の厚みが実際の厚みと異なると異物の大きさ(平面積)を正確に求めることができないのに対し、本発明では、最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる有効画素数から異物の平面積を求めるので、異物の厚みが変わっても有効画素数が変わらず、異物の厚みに依存せずに異物の平面積を高精度に求めることができる。
【0010】
第2の発明に係るX線透過検査装置は、第1の発明において、前記演算部が、複数の異なる前記輝度低下量閾で算出した複数の前記有効画素数に基づいて前記平面積を算出することを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、演算部が、複数の異なる輝度低下量閾で算出した複数の有効画素数に基づいて平面積を算出するので、異物の平面積をさらに高精度に求めることが可能になる。
【0011】
第3の発明に係るX線透過検査装置は、第1又は第2の発明において、前記演算部が、予め求めておいた前記最大輝度低下量と前記異物の厚さとの関係に基づいて前記異物の厚さを算出することを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、演算部が、予め求めておいた最大輝度低下量と異物の厚さとの関係に基づいて異物の厚さを算出するので、算出した異物の平面積と厚さとから異物の体積を得ることができる。
【0012】
第4の発明に係るX線透過検査装置は、第3の発明において、前記演算部が、求めた前記異物の平面積と厚さとから前記異物の体積を算出することを特徴とする。
すなわち、このX線透過検査装置では、演算部が、求めた異物の平面積と厚さとから異物の体積を算出するので、異物の立体サイズを得ることができる。
【0013】
第5の発明に係るX線透過検査方法は、試料に対してX線源からX線を照射するX線照射ステップと、前記試料に対して前記X線源と反対側に設置されたX線センサで前記X線が前記試料を透過した際の透過X線を検出する透過X線検出ステップと、前記X線センサで検出した前記透過X線に基づいて前記試料中の異物の平面積を算出する演算ステップとを有し、前記演算ステップが、前記X線の照射方向に垂直な面において前記透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求める分布作成ステップと、前記輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる前記画素の数を有効画素数として算出する画素数算出ステップと、前記有効画素数に基づいて前記異物の平面積を算出する平面積算出ステップとを有することを特徴とする。
【0014】
第6の発明に係るX線透過検査方法は、第5の発明において、前記画素算出ステップが、複数の異なる前記輝度低下量閾値で複数の前記有効画素数を算出し、前記平面積算出ステップが、前記算出した複数の前記有効画素数に基づいて前記平面積を算出することを特徴とする。
【0015】
第7の発明に係るX線透過検査方法は、第5又は第6の発明において、前記演算ステップが、予め求めておいた前記最大輝度低下量と前記異物の厚さとの関係に基づいて前記異物の厚さを算出する厚さ算出ステップを有していることを特徴とする。
【0016】
第8の発明に係るX線透過検査方法は、第7の発明において、前記演算ステップが、求めた前記異物の平面積と厚さとから前記異物の体積を算出する体積算出ステップを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法によれば、X線の照射方向に垂直な面において透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求め、輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量に対して所定の割合である輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる画素の数を有効画素数として算出し、有効画素数に基づいて異物の平面積を算出するので、異物の大きさ(平面積)を高精度に求めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の一実施形態において、X線透過検査装置を示す概略的な全体構成図である。
【
図2】本実施形態において、異物に対する透過X線の異物透過像の例を示す図である。
【
図3】本実施形態において、X線透過検査方法を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態において、厚い異物に対する輝度低下量を示すグラフ(a)及び薄い異物に対する輝度低下量を示すグラフ(b)である。
【
図5】本実施形態において、異物の厚みと画素数との関係を示すグラフである。
【
図6】本実施形態において、異物の厚みと輝度低下量との関係を示すグラフである。
【
図7】本実施形態において、複数の輝度低下量閾値で有効画素数を算出する場合の説明図である。
【
図8】本実施形態において、複数の輝度低下量閾値で、複数の異なる輝度低下量閾値R11以上の輝度低下量となる画素数をカウントした場合を示す図である。
【
図9】本実施形態において、輝度低下量閾値と有効画素数との相関関係を示す線図である。
【
図10】本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の従来技術において、異物の厚みと輝度低下量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るX線透過検査装置及びX線透過検査方法の一実施形態を、
図1から
図9を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態のX線透過検査装置1は、
図1に示すように、試料Sに対してX線X1を照射するX線源2と、試料Sに対してX線源2と反対側に設置されX線X1が試料Sを透過した際の透過X線を検出するX線センサ3と、X線センサ3で検出した透過X線に基づいて試料S中の異物Aの平面積を算出する演算部4とを備えている。
【0021】
上記演算部4は、
図2に示すように、X線X1の照射方向に垂直な面において透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求め、
図2及び
図4に示すように、輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量K1に対して所定の割合である輝度低下量閾値R1以上の輝度低下量となる画素の数を有効画素数として算出し、有効画素数に基づいて異物Aの平面積を算出する。
【0022】
上記異物Aの平面積とは、X線X1の照射方向から視た異物Aの面積である。なお、本実施形態では、異物Aの平面積を、異物の大きさとも称する。
また、上記輝度低下量とは、X線透過像(透過X線)の最大輝度からの輝度の低下量のことをいい、X線X1の減衰量を表す。
【0023】
上記演算部4は、複数の異なる輝度低下量閾で算出した複数の有効画素数に基づいて平面積を算出する機能も有している。例えば、演算部4は、複数の異なる輝度低下量閾値で算出した複数の有効画素数の平均値を有効画素数として平面積を算出する機能を有している。
さらに、演算部4は、予め求めておいた最大輝度低下量と異物Aの厚さとの関係に基づいて異物Aの厚さを算出する機能を有している。
また、本実施形態のX線透過検査装置1は、X線源2からのX線X1を照射中に試料Sを搬送方向(試料Sの厚さ方向に直交する方向)に移動させる試料移動機構5と、X線源2,X線センサ3,試料移動機構5及び演算部4を制御する制御部Cを備えている。
なお、制御部Cは、演算部4を含んでいる。
【0024】
上記試料Sは、例えば帯状に形成されたリチウムイオンバッテリー用の材料や医薬品系に用いられる材料である。
上記X線源2は、X線X1を照射可能なX線管球であって、管球内のフィラメント(陰極)から発生した熱電子がフィラメント(陰極)とターゲット(陽極)との間に印加された電圧により加速されターゲットのW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)などに衝突して発生したX線Xをベリリウム箔などの窓から出射するものである。
なお、本実施形態のX線透過検査装置1は、X線源2からのX線X1を平行X線に変換するポリキャピラリ6を備えている。また、本実施形態のX線透過検査装置1は、X線源2からのX線X1の拡がりを制限するコリメータを備えてもよい。
【0025】
上記X線センサ3は、試料Sが移動する搬送方向に対して垂直方向(検査幅方向)に延在した、例えばTDI(Time Delay Integration)センサ等のラインセンサである。
TDIセンサは、対応するX線源に対向した面に複数のセル(センサ素子)を配置したものであって、検出面に配された蛍光体と、蛍光体下に複数の光ファイバを二次元的に縦横に複数列並べて配したFOP(ファイバオプティクスプレート)と、FOPの下に配されたSi受光素子とを備え、ラインセンサを複数列並べたような構成を有している。
X線センサ3では、例えば、試料Sの送り方向に200~1000段の単位ラインセンサが並んでTDIセンサが構成されている。
【0026】
上記制御部Cは、X線源2,X線センサ3及び試料移動機構5等に接続され、これらを制御するCPU等で構成されたコンピュータである。
この制御部Cは、TDIセンサであるX線センサ3の電荷転送の方向及び速度を、試料Sの移動方向及び速度に合わせると共に、受光面の検出領域においてX線センサ3が受光したX線の輝度値を積算する機能を有している。
【0027】
上記試料移動機構5は、X線センサ3に対して、例えばシート状の試料Sの延在方向に相対的に移動可能なモータ等である。上記試料移動機構5は、例えば帯状の試料Sをロール・to・ロール方式で延在方向に移動させる少なくとも一対のローラ等を備えている。
上記演算部4は、検出された透過X線の強度の分布を示すX線透過像からコントラスト像(輝度分布)を得る機能を有している。
【0028】
本実施形態のX線透過検査装置1を用いたX線透過検査方法は、
図3に示すように、試料Sに対してX線源2からX線X1を照射するX線照射ステップS1と、試料Sに対してX線源2と反対側に設置されたX線センサ3でX線X1が試料Sを透過した際の透過X線を検出する透過X線検出ステップS2と、X線センサ3で検出した透過X線に基づいて試料S中の異物Aの平面積を算出する演算ステップS3とを有している。
【0029】
上記演算ステップS3は、X線X1の照射方向に垂直な面において透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求める分布作成ステップS4と、輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量K1に対して所定の割合である輝度低下量閾値R1以上の輝度低下量となる画素の数を有効画素数として算出する画素数算出ステップS5と、有効画素数に基づいて異物Aの平面積を算出する平面積算出ステップS6とを有している。
【0030】
なお、上記画素算出ステップS5では、複数の異なる輝度低下量閾値R1で複数の有効画素数を算出し、上記平面積算出ステップS6では、複数の有効画素数の平均値を有効画素数として平面積を算出しても構わない。
また、上記演算ステップS3では、予め求めておいた最大輝度低下量と異物Aの厚さとの関係に基づいて異物Aの厚さを算出する厚さ算出ステップS7を有している。
さらに、演算ステップS3では、求めた異物Aの平面積と厚さとから異物の体積を算出する体積算出ステップS8を有している
【0031】
上記X線透過検査方法の演算ステップS3について、
図2から
図7を参照して、より詳しく以下に説明する。
【0032】
上述したように演算ステップS3では、検出した異物AのX線透過像から、演算部4が、輝度低下量と輝度低下量閾値以上の画素数とを求め、これらの値から異物Aの大きさ(平面積)と厚みとを算出する。また、演算部4が、異物Aの大きさと厚みとから、さらに体積を算出し、体積閾値と比較することで、規定サイズ以上の異物Aが含まれるか否かを判定する。
【0033】
すなわち、分布作成ステップS4において、
図2に示すように、演算部4が、X線X1の照射方向に垂直な面(X-Y平面)において、X線センサ3が検出した透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を作成し、輝度低下領域を特定する。この
図2の輝度分布では、輝度低下量が大きいほど、画素の濃淡が濃く図示されている。
なお、この
図2の輝度分布のうち、最も輝度低下量が大きい部分を通る破線H1部分の輝度変化、すなわち
図4に示すように、X方向に対する輝度の変化を示すグラフにおいて、
図4の破線K0(最大輝度)から輝度の最も低い部分まで垂直に伸びる矢印の長さが、最大輝度低下量K1に相当する。
【0034】
上記輝度低下量閾値R1は、異物毎に最大輝度低下量K1に一定の割合をかけて設定される。例えば、
図4の(a)(b)に示すように、前記一定の割合を50%とし、最大輝度低下量K1の50%が輝度低下量閾値R1に設定される。なお、異物Aが厚い場合、
図4の(a)に示すように、透過X線が相対的に少なく最大輝度低下量K1が大きくなり、異物Aが薄い場合、
図4の(b)に示すように、透過X線が相対的に多く最大輝度低下量K1が小さくなる。
【0035】
このように得た輝度低下量閾値R1に基づいて、画素数算出ステップS5では、
図4に示すように、輝度曲線のうち輝度低下量閾値R1となる部分から輝度軸方向に垂直に伸びる一対の破線K2間に相当する画素が、有効画素数として算出される。すなわち、
図2に示すように、破線H2で囲まれた画素が輝度低下量閾値R1以上となった輝度低下量の画素であり、有効画素数(
図2では画素数21)として算出される。
【0036】
なお、上記特許文献2の技術では、輝度低下領域の平面サイズを求めるための画素数の算出に、周囲の画素の輝度値よりも10倍以上暗い輝度値を固定的に用いているが、本実施形態では、異物毎に輝度低下量の最大値に一定の割合をかけた輝度低下量(輝度低下量閾値)を用いている。
また、特許文献2の技術では、異物によらず周囲の画素の輝度値を基準とした1つの輝度値の閾値を固定的に用いているのに対し、本実施形態では、異物A毎に輝度低下量の最大値(最大輝度低下量K1)を基準とした輝度低下量閾値R1を用いている点で異なっている。
【0037】
次に、平面積算出ステップS6において、輝度低下量閾値R1を異物A毎に輝度低下量に対する割合で定めることで、異物の厚みによらず異物Aの平面積を算出することができる。
これは、ある画素の輝度低下量が異物Aを透過するX線の割合に比例するためである。
すなわち、本実施形態では、最も輝度低下量の大きい部分に対する輝度低下量の割合が、異物の厚みとは相関がなく、異物の大きさ(平面積)と相関があることを利用している。
【0038】
例えば、
図5に示すように、予め既知の標準の異物を用いて、異物の平面積(直径)と輝度低下量閾値以上の画素数(有効画素数)との関係を求め、これを演算部4に記憶させておき、演算部4が、上記関係に基づいて上記算出された有効画素数に対応する異物Aの平面積(直径)を求める。
図5に示すグラフは、上記関係を求めるために既知の標準の異物として円盤状の異物を採用しており、異物の平面積に直接的に対応する数値として直径を横軸としている。
【0039】
なお、予め既知の標準の異物を用いて、異物の平面積(直径)と輝度低下量閾値以上の画素数(有効画素数)との関係を求めず、
図2の輝度分布に基づいて、輝度低下量閾値以上の画素数(有効画素数)に相当する面積を求めることで、異物Aの平面積(大きさ)を算出しても構わない。この場合、平面形状が円形以外の形状の異物Aに対して平面積を求めることが可能になる。
【0040】
次に、厚さ算出ステップS7では、
図6に示すように、予め厚みと直径とが既知の標準の異物を用いて、異物の厚みと最大輝度低下量との関係を求めておき、演算部4が、この異物の厚みと最大輝度低下量との関係に基づいて、異物Aの厚みを算出する。
なお、直径が異なる異物の最大輝度低下量の「比」は、異物の厚みには依存しない。つまり、ある程度基準となる異物の最大輝度低下量を取得しておけば、取得していない直径の異物の最大輝度低下量は、計算で算出することができる。言い換えれば、最大輝度低下量は、異物の直径の関数と異物の厚みの関数との積となる。
【0041】
なお、複数の輝度低下量閾値を設定することで異物の大きさの推定精度が向上する。すなわち、上述したように、画素数算出ステップS5において、複数の異なる輝度低下量閾値で複数の有効画素数を算出し、上記平面積算出ステップS6では、複数の有効画素数の平均値を有効画素数として平面積を算出する。
例えば、
図7の(a)(b)では、異物Aに対して、複数の輝度低下量閾値で、輝度低下量閾値以上の輝度低下量となる有効画素数をカウントした場合の画素数を記載している。
【0042】
図7の(a)では、異物Aに対して1回目の測定において、3段階の輝度低下量閾値R1a,R1b,R1cでカウントすると、それぞれ有効画素数が8画素,6画素,5画素となり、平均6.3画素となる。
また、
図7の(b)では、異物Aに対して2回目の測定において、3段階の輝度低下量閾値R1a,R1b,R1cでカウントすると、それぞれ有効画素数が8画素,7画素,5画素となり、平均6.6画素となる。
【0043】
このように、同一の異物Aでも測定バラつきによって輝度分布にバラつきが現れる。このため、例えば輝度低下量閾値R1bのみで算出する場合、
図7の(a)に示す測定では6画素、
図7の(b)に示す測定では画素は7画素と判定され、1画素の差異が生まれている。したがって、複数の輝度低下量閾値での判定結果の平均を取る計算を行うことで、この差を小さくすることができる。すなわち、複数の輝度低下量閾値による有効画素数を平均すると値が安定する。
【0044】
さらに、体積算出ステップS8において、算出した異物の直径と算出した異物の厚みとから異物の体積(立体サイズ)を算出する。
この後、演算部4において、得られた異物の体積(立体サイズ)に基づいて試料Sの良否判定を行う(S9)。
【0045】
このように、本実施形態のX線透過検査装置1及びX線透過検査方法では、X線X1の照射方向に垂直な面において透過X線の輝度に応じて複数の画素に分けた輝度分布を求め、輝度分布の中で最も輝度低下量の大きい最大輝度低下量K1に対して所定の割合である輝度低下量閾値R1以上の輝度低下量となる画素の数を有効画素数として算出し、有効画素数に基づいて異物Aの平面積を算出するので、異物Aの大きさ(平面積)を高精度に求めることが可能になる。
【0046】
すなわち、従来は異物の厚さを十分に考慮していないため、予め推定した異物の厚みが実際の厚みと異なると異物の大きさ(平面積)を正確に求めることができないのに対し、本実施形態では、最大輝度低下量K1に対して所定の割合である輝度低下量閾値R1以上の輝度低下量となる有効画素数から異物Aの平面積を求めるので、異物Aの厚みが変わっても有効画素数が変わらず、異物Aの厚みに依存せずに異物Aの平面積を高精度に求めることができる。
【0047】
さらに、複数の異なる輝度低下量閾値R1で算出した複数の有効画素数の平均値を有効画素数として平面積を算出するので、異物Aの平面積をさらに高精度に求めることが可能になる。
また、予め求めておいた最大輝度低下量K1と異物の厚さとの関係に基づいて異物Aの厚さを算出するので、算出した異物Aの平面積と厚さとから異物Aの体積を得ることができる。
【0048】
なお、前記演算部4や平面積算出ステップS6では、複数の有効画素数の平均値を有効画素数として平面積を算出する事例を示したが、輝度低下量閾値と有効画素数との相関関係を示す線図を作成して、その相関関係の線図から平面積算出に使う有効画素数を決定してもよい。
すなわち、複数の異なる輝度低下量閾で算出した複数の有効画素数に基づいて、輝度低下量閾値と有効画素数との相関関係を求め、この相関関係から得た有効画素数により平面積を算出してもよい。
例えば、
図8では複数の輝度低下量閾値で、複数の異なる輝度低下量閾値R11以上の輝度低下量となる画素数をカウントした場合の有効画素数54を記載している。4段階の輝度低下量閾値R11でカウントすると、それぞれ有効画素数54が7画素,6画素,4画素,3画素となっている。
【0049】
図9に示すように、輝度低下量閾値と有効画素数との相関関係を示す線図を作成し、その線図を基に平面積算出に使う有効画素数を決定する。
図9のグラフ上で輝度低下量閾値が0.5の時の有効画素数は6であり、この値を平面積算出に使う。
複数の有効画素数の平均値を有効画素数として平面積を算出する方法では、複数の輝度低下量閾値次第で、目的の輝度低下量閾値での有効画素数が得られない場合があるが、輝度低下量閾値と有効画素数との相関関係を示す線図を基に平面積算出に使う有効画素数を決定方法では、目的の輝度低下量閾値での有効画素数が必ず得られるため、より高精度に平面積を算出できる。
【0050】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…X線透過検査装置、2…X線源、3…X線センサ、4…演算部、A…異物、K1…最大輝度低下量、R1,R1a,R1b,R1c…輝度低下量閾値、S…試料、X1…X線