(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109053
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】異性体混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 2/34 20060101AFI20240805BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240805BHJP
C08G 61/06 20060101ALI20240805BHJP
C08G 61/00 20060101ALI20240805BHJP
C07C 11/02 20060101ALI20240805BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240805BHJP
【FI】
C07C2/34
C08L65/00
C08G61/06
C08G61/00
C07C11/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024001368
(22)【出願日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2023013298
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】長岡 正宏
(72)【発明者】
【氏名】佐貫 加奈子
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4J002
4J032
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA23
4H006BA37
4H006BA44
4H006BA48
4H006BA51
4H039CA20
4H039CE90
4J002CE001
4J002CE002
4J002EU046
4J002EZ007
4J002FD206
4J032CA28
4J032CB01
4J032CD02
4J032CD07
4J032CD09
4J032CE03
4J032CE17
4J032CE22
(57)【要約】
【課題】オレフィンメタセシス反応において生成物のZ選択性を簡便に高める手法を提供する。
【解決手段】メタセシス触媒および添加剤の存在下、オレフィンメタセシス反応を用いて異性体混合物を製造する方法であって、添加剤が、下記の条件(1)および(2)の少なくとも一方を満たす置換ピリジン類を含む、異性体混合物の製造方法。
(1)ピリジン環の2位および/または6位に、TaftのEs値が1.0以下である置換基を有する。
(2)ピリジン環の窒素原子を中心とした半径3Å以内の空間に占める置換基の体積率が、60%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタセシス触媒および添加剤の存在下、オレフィンメタセシス反応を用いて異性体混合物を製造する方法であって、
前記添加剤が、下記の条件(1)および(2)の少なくとも一方を満たす置換ピリジン類を含む、異性体混合物の製造方法。
(1)ピリジン環の2位および/または6位に、TaftのEs値が1.0以下である置換基を有する。
(2)ピリジン環の窒素原子を中心とした半径3Å以内の空間に占める置換基の体積率が、60%以上である。
【請求項2】
前記メタセシス触媒がルテニウム触媒である、請求項1に記載の異性体混合物の製造方法。
【請求項3】
前記ルテニウム触媒がルテニウムカルベン錯体よりなる、請求項2に記載の異性体混合物の製造方法。
【請求項4】
前記メタセシス触媒が下記の何れかの構造:
【化1】
を有する化合物である、請求項1に記載の異性体混合物の製造方法。
【請求項5】
前記置換ピリジン類が、下記の構造:
【化2】
〔式中、R
1は、有機基またはハロゲン原子であり、R
2~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、有機基またはハロゲン原子であり、R
2~R
5から選択される2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。〕
を有する、請求項1に記載の異性体混合物の製造方法。
【請求項6】
前記置換ピリジン類が、下記の何れかの構造:
【化3】
を有する、請求項5に記載の異性体混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異性体混合物の製造方法に関し、特には、オレフィンメタセシス反応を用いた異性体混合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オレフィンメタセシス反応は、炭素-炭素二重結合を有する様々な化合物の合成に使用されており、非常に価値のある合成手法の一つとして知られている。そして、近年では、開環メタセシス重合反応(ROMP)、開環交差メタセシス反応(ROCM)、交差メタセシス反応(CM)、閉環メタセシス反応(RCM)、非環式ジエンメタセシス反応(ADMET)などの様々なオレフィンメタセシス反応を用いて様々な化合物が合成されている。
【0003】
ここで、一般に、オレフィンメタセシス反応では、E体とZ体との異性体混合物が得られ、多くの場合、E体が主要生成物となる。他方、生成物の用途によっては、Z体が多く求められる場合もある。そこで、立体配置を制御し、Z体の割合(Z選択性)を高める様々な手法が検討されている。
【0004】
具体的には、例えば特定の構造を有する触媒を用いることにより、Z選択的なオレフィンメタセシス反応を実現する手法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2018-538301号
【特許文献2】特表2020-529502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術には、特定の構造を有する触媒を合成する必要があり、触媒の準備が煩雑であるという問題があった。
【0007】
そのため、オレフィンメタセシス反応において生成物のZ選択性を簡便に高める手法の確立が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、オレフィンメタセシス反応において通常は触媒毒となる化合物であると考えられていたルイス塩基のうち特定の化合物を添加剤として使用すれば、意外なことにZ選択性を有さない触媒を用いた場合であっても生成物のZ選択性を高めることができることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明の異性体混合物の製造方法は、メタセシス触媒および添加剤の存在下、オレフィンメタセシス反応を用いて異性体混合物を製造する方法であって、前記添加剤が、下記の条件(1)および(2)の少なくとも一方を満たす置換ピリジン類を含むことを特徴とする。
(1)ピリジン環の2位および/または6位に、TaftのEs値が1.0以下である置換基を有する。
(2)ピリジン環の窒素原子を中心とした半径3Å以内の空間に占める置換基の体積率が、60%以上である。
このように、所定の置換ピリジン類を添加剤として使用してオレフィンメタセシス反応を行えば、添加剤を使用しない場合と比較し、Z選択性を簡便に高めることができる。
なお、本発明において、「TaftのEs値」は、例えばJournal of the American Chemical Society,1953, 75,4538等に記載の定義に従って算出された各置換基のTaftのEs値を平均することで求めることができる。また、「置換基の体積率」は、ピリジン環の窒素原子を中心原子として、半径3Åの範囲の球の体積の内、置換基の非水素原子が占める体積の比率を指し、例えば計算化学用プログラム(Gaussian16)を使用し、汎関数としてB3LYP、基底関数として6-31g(d,p)を用いた構造最適化計算により構造最適化した分子構造からCavalloらの手法(Nature Chemistry,2019,11,872.)を用いて算出することができる。
【0010】
ここで、[2]本発明の異性体混合物の製造方法は、上記[1]に記載の異性体混合物の製造方法において、前記メタセシス触媒がルテニウム触媒であることが好ましい。ルテニウム触媒を用いれば、Z選択性を高めた異性体混合物を良好に製造することができる。
【0011】
また、[3]本発明の異性体混合物の製造方法は、上記[2]に記載の異性体混合物の製造方法において、前記ルテニウム触媒がルテニウムカルベン錯体よりなることが好ましい。ルテニウムカルベン錯体よりなるルテニウム触媒を用いれば、Z選択性を高めた異性体混合物を良好に製造することができる。
【0012】
更に、[4]本発明の異性体混合物の製造方法は、上記[1]~[3]の何れかに記載の異性体混合物の製造方法において、前記メタセシス触媒が下記の何れかの構造を有する化合物であることが好ましい。
【化1】
上記構造の化合物よりなる触媒を用いれば、Z選択性の向上効果を更に高めることができる。
【0013】
更に、[5]本発明の異性体混合物の製造方法は、上記[1]~[4]の何れかに記載の異性体混合物の製造方法において、前記置換ピリジン類が、下記の構造を有することが好ましい。
【化2】
〔式中、R
1は、有機基またはハロゲン原子であり、R
2~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、有機基またはハロゲン原子であり、R
2~R
5から選択される2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。〕
上記構造の置換ピリジン類を用いれば、Z選択性の向上効果を更に高めることができる。
【0014】
更に、[6]本発明の異性体混合物の製造方法は、上記[5]に記載の異性体混合物の製造方法において、前記置換ピリジン類が、下記の何れかの構造を有することが好ましい。
【化3】
上記構造の置換ピリジン類を用いれば、Z選択性の向上効果を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オレフィンメタセシス反応を使用し、Z選択性を高めた異性体混合物を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
ここで、本発明の異性体混合物の製造方法は、オレフィンメタセシス反応を用いてE体とZ体との異性体混合物を製造する際に用いられる。
【0017】
(異性体混合物の製造方法)
本発明の異性体混合物の製造方法は、メタセシス触媒および添加剤の存在下、オレフィンメタセシス反応を用いて異性体混合物を製造する方法であり、添加剤として所定の置換ピリジン類を用いることを特徴とする。なお、オレフィンメタセシス反応は、任意に反応溶媒の存在下で行ってもよい。
【0018】
そして、本発明の異性体混合物の製造方法によれば、所定の置換ピリジン類を含む添加剤を用いているので、当該添加剤を用いない場合と比較し、Z体の含有割合を高めた異性体混合物を簡便に製造することができる。この理由は、明らかではないが、所定の置換ピリジン類の窒素原子が触媒と適度に相互作用することによりZ選択性が向上するものと推察される。
【0019】
<オレフィンメタセシス反応>
ここで、本発明の異性体混合物の製造方法において用いるオレフィンメタセシス反応としては、特に限定されることなく、開環メタセシス重合反応、開環交差メタセシス反応、自己メタセシス反応、交差メタセシス反応、閉環メタセシス反応、非環式ジエンメタセシス反応などの様々なオレフィンメタセシス反応が挙げられる。中でも、オレフィンメタセシス反応としては、開環メタセシス重合反応、開環交差メタセシス反応、自己メタセシス反応または交差メタセシス反応が好ましく、開環メタセシス重合反応または自己メタセシス反応がより好ましい。
なお、「自己メタセシス反応」とは、例えば2分子のプロピレンがエチレンと2-ブテンに変換される反応のような、1種類のオレフィン同士のメタセシス反応を指す。
【0020】
<反応原料>
また、オレフィンメタセシス反応の反応原料としては、オレフィンメタセシス反応を経て所望の異性体混合物が得られる化合物であれば特に限定されることなく、任意の化合物を用いることができる。
【0021】
具体的には、反応原料としては、特に限定されることなく、鎖式骨格を有するオレフィン(環式骨格は有さない)、単環式や多環式骨格を有するオレフィンが挙げられる。例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、アリルベンゼン、アリルトリメチルシラン、アリルアニリン、アリルシクロヘキサン等の(置換)α-オレフィン;1,3-ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、5-エチルノルボルネン、5-ブチルノルボルネン、5-ヘキシルノルボルネン、5-デシルノルボルネン、5-シクロヘキシルノルボルネン、5-シクロペンチルノルボルネン等の非置換またはアルキル基を有するノルボルネン類;5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-プロペニルノルボルネン、5-シクロヘキセニルノルボルネン、5-シクロペンテニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5-フェニルノルボルネン、1,4-ジヒドロ-1,4-メタノナフタレン等の芳香環を有するノルボルネン類;5-メトキシカルボニルノルボルネン、5-エトキシカルボニルノルボルネン、5-メチル-5-メトキシカルボニルノルボルネン、5-メチル-5-エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル-2-メチルプロピオネート、ノルボルネニル-2-メチルオクタネート、5-ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6-ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5-ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5-ヒドロキシ-i-プロピルノルボルネン、5,6-ジカルボキシノルボルネン、5-メトキシカルボニル-6-カルボキシノルボルネン等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5-シアノノルボルネン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;2,3-ジブロモノルボルナジエン等のハロゲン原子を含む置換基を有するノルボルネン類;ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ノルボルナジエン、1,5-シクロオクタジエン、1,4-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1-メチル-1,4-シクロヘキサジエン、3a,4,7,7a-テトラヒドロインデン、ビシクロ[3.2.1]オクタ-2-エン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-8-エン等が挙げられる。また、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロ-9H-フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ-4,6,8,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9,9a,10-ヘキサヒドロアントラセンともいう)等の芳香環を有するノルボルネン誘導体;テトラシクロドデセン、8-メチルテトラシクロドデセン、8-エチルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8-シクロペンチルテトラシクロドデセン等の非置換またはアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8-メチリデンテトラシクロドデセン、8-エチリデンテトラシクロドデセン、8-ビニルテトラシクロドデセン、8-プロペニルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8-シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8-フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8-メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8-ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8-カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8-シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8-クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8-トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;などが挙げられる。更に、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、4-メチル-1-シクロヘキセン、3-メチル-1-シクロヘキセン等なども挙げられる。なお、「(置換)α-オレフィン」とは、α-オレフィンおよび/またはα-オレフィンの水素原子を1つ以上置換基で置換してなる置換α-オレフィンを指す。
これらの反応原料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上の任意の比率で混合して用いてもよい。
【0022】
より具体的には、例えばオレフィンメタセシス反応として自己メタセシス反応用いる場合には、反応原料としては、特に限定されることなく(置換)α-オレフィンを用いることができ、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどのα-オレフィンを用いることが好ましい。
また、オレフィンメタセシス反応として開環メタセシス重合反応(ROMP)を用いる場合には、反応原料としては、特に限定されることなく、シクロオクテン、1,5-シクロオクタジエン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエンなどを用いることが好ましい。
【0023】
<メタセシス触媒>
メタセシス触媒としては、反応原料およびオレフィンメタセシス反応の種類に応じた任意のメタセシス触媒を用いることができる。
【0024】
中でも、メタセシス触媒としては、ルテニウム触媒を用いることが好ましく、グラブス触媒などのルテニウムカルベン錯体よりなる触媒を用いることがより好ましい。
【0025】
ここで、ルテニウム触媒としては、特に限定されることなく、例えば、特表2018-538301号に記載の触媒や特表2020-529502号に記載の触媒のほか、下記(I)~(III)の何れかの構造を有する化合物などが挙げられる。中でも、添加剤を用いた際のZ選択性の向上効果に優れる観点から、ルテニウム触媒としては、下記(I)または(II)の構造を有する化合物が好ましく、下記(I)の構造を有する化合物がより好ましい。
【化4】
【0026】
なお、上述した触媒は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0027】
そして、メタセシス触媒の使用量は、特に限定されることなく、例えば反応原料100mol当たり、0.001mol以上とすることが好ましく、0.01mol以上とすることがより好ましく、20mol以下とすることが好ましく、10mol以下とすることがより好ましい。
【0028】
<添加剤>
添加剤としては、下記の条件(1)および(2)の少なくとも一方を満たす置換ピリジン類を用いることを必要とする。なお、添加剤としては、条件(1)および(2)の少なくとも一方を満たす置換ピリジン類に加え、当該置換ピリジン類以外の化合物を用いてもよいが、条件(1)および(2)の少なくとも一方を満たす置換ピリジン類のみを用いることが好ましい。
(1)ピリジン環の2位および/または6位に、TaftのEs値が1.0以下である置換基を有する。
(2)ピリジン環の窒素原子を中心とした半径3Å以内の空間に占める置換基の体積率が、60%以上である。
【0029】
ここで、上記条件(1)において、置換基のTaftのEs値は、-1.6以上1.0以下であることが好ましく、-0.5以上1.0以下であることがより好ましい。
また、上記条件(2)において、置換基の体積率は60%以上80%以下であることが好ましく、60%以上75%以下であることがより好ましい。
【0030】
なお、Z選択性を更に高める観点からは、置換ピリジン類は、上記条件(1)および(2)の双方を満たすことが好ましい。
【0031】
また、Z選択性を更に高める観点からは、上述した置換ピリジン類は、下記の条件(3)~(5)の少なくとも一つ、好ましくは全部を更に満たすことが好ましい。
(3)Hammettの置換基定数が、-0.30以上0.60以下である。
(4)酸解離定数の負の常用対数pKaが、-7.0以上7.0以下である。
(5)TaftのEs値と、酸解離定数の負の常用対数pKaとの積(pKa×Es)が、1.1以下である。
なお、本発明において、「Hammettの置換基定数」は、例えばChemical Reviews,199l,91,165等に記載の定義に従って算出された各置換基のHammettの置換基定数を平均することで求めることができる。また、本発明において「pKa」は、Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V11.02によって算出することができる。
【0032】
そして、置換ピリジン類としては、下記の構造を有する置換ピリジン類を用いることができる。
【化5】
〔式中、R
1は、有機基またはハロゲン原子であり、R
2~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、有機基またはハロゲン原子であり、R
2~R
5から選択される2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。〕
【0033】
ここで、R1~R5のハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0034】
また、R1~R5の有機基としては、特に限定されることなく、メチル基、エチル基、n-ブチル基、t-ブチル基(-tBu)等のアルキル基;フェニル基(-Ph)などのアリール基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等のフルオロアルキル基;メトキシ基(-OMe)、エトキシ基等のアルコキシ基;アミノ基、ジメチルアミノ基等のアミノ基;キノリン、イソキノリン、アクリジン等の環構造を有している基;などが挙げられる。
【0035】
なお、上述した構造を有する置換ピリジン類において、R2~R4は水素原子であることが入手容易性の観点から好ましい。
【0036】
そして、Z選択性を良好に高め得る置換ピリジン類としては、特に限定されることなく、例えば以下の構造を有する化合物(i)~(ix)が挙げられる。中でも、Z選択性を更に高める観点からは、(i),(ii),(iv)~(ix)が好ましく、(i),(ii),(iv)~(vii),(ix)がより好ましく、(iv)または(ix)が更に好ましい。
【化6】
【0037】
そして、置換ピリジン類の使用量は、特に限定されることなく、例えば反応原料100mol当たり、0.1mol以上80mol以下とすることができる。
また、置換ピリジン類の使用量は、特に限定されることなく、例えばメタセシス触媒100mol当たり、1mol以上10000mol以下とすることができる。
【0038】
<反応溶媒>
反応溶媒としては、オレフィンメタセシス反応に不活性なものであれば、特に限定されず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;または、これらの混合溶媒を用い得る。これらの溶媒の中でも、トルエン、ジクロロメタンが好ましく用いられる。
【0039】
そして、反応溶媒を使用する場合には、反応溶媒の使用量は、特に限定されることなく、例えばオレフィンメタセシス反応時の反応原料の濃度が0.01mol%以上10mol%以下となる量とすることができる。
【0040】
<反応条件>
オレフィンメタセシス反応を行う際の温度は、特に限定されることなく、例えば0℃以上120℃以下とすることができる。
【0041】
また、オレフィンメタセシス反応を行う際の圧力(ゲージ圧)は、特に限定されることなく、例えば0.01MPa以上10MPa以下とすることができる。
【0042】
更に、オレフィンメタセシス反応を行う時間は、特に限定されることなく、例えば5分間以上48時間以下とすることができる。
【0043】
そして、オレフィンメタセシス反応を行う雰囲気は、特に限定されることなく、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下とすることができる。
【0044】
<異性体混合物>
本発明の異性体混合物の製造方法で得られる異性体混合物は、通常、炭素-炭素二重結合を有する化合物のE体とZ体との混合物である。
例えば、反応原料にα-オレフィンを使用した場合には、オレフィンのE体とZ体の混合物が得られる。また、反応原料に炭素-炭素二重結合を有する環状化合物を使用した場合には、生じるポリマーの炭素-炭素二重結合の立体配置がEまたはZの混合物が得られる。
【実施例0045】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
三方バルブおよび撹拌子を備えた30mL二口フラスコに下記の構造を有するメタセシス触媒(Grubbs Catalyst(登録商標) M101)を0.28mg(0.30mmоl)秤量し、窒素置換した。窒素気流下で、反応溶媒としてのトルエン10mL、反応原料としての1-ヘキセン0.84mg(10mmоl)、添加剤としての2,6-ルチジン0.64mg(6.0mmоl)を加え、室温で24時間攪拌した。
得られた生成物(5-デセン)について、クメンを内部標準物質として、
1H-NMR(溶媒:CDCl
3)スペクトルによって、cis-5-デセン(Z体) およびtrans-5-デセン(E体)の収率、並びに、転化率を求め、Z選択性(=Z体の収率/(E体の収率+Z体の収率))を算出した。結果を表1に示す。
【化7】
【0047】
(実施例2)
添加剤として2,6-ルチジンに替えて2,6-ジフェニルピリジン1.39mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例3)
添加剤として2,6-ルチジンに替えて2,6-ジ-tert-ブチルピリジン1.15mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例4)
添加剤として2,6-ルチジンに替えて2,6-ジメトキシピリジン0.83mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例5)
添加剤として2,6-ルチジンに替えて2,6-ジフルオロピリジン0.69mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例6)
添加剤として2,6-ルチジンに替えて2,6-ジクロロピリジン0.89mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例7)
添加剤として2,6-ルチジンに替えて2,6-ジブロモピリジン1.42mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例8)
添加剤として2,6-ルチジンに替えて2,6-ビス(トリフルオロメチル)ピリジン1.29mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例9)
反応溶媒としてトルエンに替えて塩化メチレン(ジクロロメタン)10mLを使用し、添加剤として2,6-ルチジンに替えて2-メチルピリジン0.56mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例10)
2,6-ルチジンの量を0.32mg(3.0mmоl)に変更した以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例11)
2,6-ルチジンの量を1.29mg(12mmоl)に変更した以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
添加剤として2,6-ルチジンに替えてピリジン0.47mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を試みたが、5-デセンは得られなかった。結果を表2に示す。
【0058】
(比較例2)
反応溶媒としてトルエンに替えて塩化メチレン10mLを使用した以外は比較例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を試みたが、5-デセンは得られなかった。結果を表2に示す。
【0059】
(比較例3)
反応溶媒としてトルエンに替えて塩化メチレン10mLを使用し、添加剤として2,6-ルチジンに替えて2-フルオロピリジン0.58mg(6.0mmоl)を用いた以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
(比較例4)
添加剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
(比較例5)
メタセシス触媒(Grubbs Catalyst(登録商標) M101)の量を0.46mg(0.50mmоl)に変更した以外は比較例4と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
(比較例6)
反応溶媒としてトルエンに替えて塩化メチレン10mLを使用し、添加剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にして、生成物の合成、並びに、収率、転化率およびZ選択性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表1および2より、実施例1~11では比較例3~6に比べてZ選択性が向上していることが分かる。また、表2より、ピリジンを用いた比較例1,2ではピリジンが触媒毒として作用してオレフィンメタセシス反応が進行しないことが分かる。
【0065】
(実施例12)
三方バルブおよび撹拌子を備えた30mL二口フラスコに上述した構造を有するメタセシス触媒(Grubbs Catalyst(登録商標) M101)を0.18mg(0.020mmоl)秤量し、窒素置換した。窒素気流下で、反応溶媒としてのトルエン4mL、反応原料としての1,5-シクロオクタジエン2.16g(20mmоl)、添加剤としての2,6-ルチジン21mg(0.20mmоl)を加え、室温で2時間攪拌した。
得られた溶液を減圧乾燥することで、粗生成物を得て、Z選択性(=Z部位の積分強度/(E部位の積分強度+Z部位の積分強度))を1H-NMR(溶媒:CDCl3)スペクトルによって算出した。粗生成物をメタノール200mLで洗浄し、減圧乾燥することで、生成物であるポリ(1,5-シクロオクタジエン)の収率を算出した。結果を表3に示す。
【0066】
(実施例13)
添加剤としての2,6-ルチジンの量を64mg(0.60mmоl)に変更した以外は実施例12と同様にして、生成物の合成、並びに、収率およびZ選択性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0067】
(実施例14)
添加剤としての2,6-ルチジンの量を107mg(1.0mmоl)に変更した以外は実施例12と同様にして、生成物の合成、並びに、収率およびZ選択性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0068】
(比較例7)
添加剤を使用しなかった以外は実施例12と同様にして、生成物の合成、並びに、収率およびZ選択性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0069】
(比較例8)
添加剤として2,6-ルチジンに替えてピリジン0.47mg(0.60mmоl)を用いた以外は実施例12と同様にして、生成物の合成、並びに、収率およびZ選択性の評価を試みたが、ポリ(1,5-シクロオクタジエン)は得られなかった。結果を表3に示す。
【0070】
【0071】
表3より、実施例12~14では比較例7に比べてZ選択性が向上していることが分かる。また、表3より、ピリジンを用いた比較例8ではピリジンが触媒毒として作用してオレフィンメタセシス反応が進行しないことが分かる。