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特開2024-109079接着剤組成物、硬化物、接合体、接合体の解体方法、および、硬化物の除去方法
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  • 特開-接着剤組成物、硬化物、接合体、接合体の解体方法、および、硬化物の除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109079
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】接着剤組成物、硬化物、接合体、接合体の解体方法、および、硬化物の除去方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 11/04 20060101AFI20240805BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240805BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240805BHJP
【FI】
C09J11/04
C09J201/00
C09J163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009725
(22)【出願日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2023013105
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】古嶋 亮一
(72)【発明者】
【氏名】尾村 直紀
(72)【発明者】
【氏名】北 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】浦田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC001
4J040GA05
4J040GA11
4J040GA14
4J040GA18
4J040GA20
4J040GA24
4J040HA026
4J040HA036
4J040HC01
4J040HC10
4J040KA16
4J040MA02
4J040MA10
4J040PA30
4J040PA32
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】被着体同士の接着強度を維持しつつ、被着体同士の解体も容易にする。
【解決手段】樹脂系接着剤と、膨張黒鉛とを含み、前記樹脂系接着剤の含有量は、70体積%以上99体積%以下であり、前記膨張黒鉛の粒径は、76μm以上であり、前記膨張黒鉛の粒径をX(μm)として、前記膨張黒鉛の含有率をY(体積%)としたときに、以下の式(1)を満たす接着剤組成物。9.49×100×X-1.07<Y<30・・・(1)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂系接着剤と、
膨張黒鉛とを含み、
前記樹脂系接着剤の含有量は、70体積%以上99体積%以下であり、
前記膨張黒鉛の粒径は、76μm以上であり、
前記膨張黒鉛の粒径をX(μm)として、前記膨張黒鉛の含有率をY(体積%)としたときに、以下の式(1)を満たす
9.49×100×X-1.07<Y<30・・・(1)
接着剤組成物。
【請求項2】
以下の式(2)を満たす
9.49×100×X-1.07<Y<25.7×exp(-1.15÷1000×X)・・・(2)
請求項1の接着剤組成物。
【請求項3】
前記樹脂系接着剤は、硬化することで、アミド結合により架橋された構造を形成するエポキシ樹脂系接着剤である
請求項1または2の接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1または2の接着剤組成物の硬化物。
【請求項5】
2つの被着体と、
請求項4の硬化物からなり、前記2つの被着体の間に位置し、当該2つの被着体を接合する接着層と
を具備する接合体。
【請求項6】
請求項5の接合体を解体する方法であって、
前記接着層に含まれる前記膨張黒鉛を加熱により膨張させることで、前記2つの被着体を解体する解体工程を含む
解体方法。
【請求項7】
前記解体工程では、前記接合体のうち前記接着層と前記2つの被着体とが重なる接着部を選択的に加熱することで、当該2つの被着体を解体する
請求項6の解体方法。
【請求項8】
前記2つの接合体のうちの一方は、炭素繊維強化プラスチックであり、
前記膨張黒鉛の加熱は、マイクロ波の照射により行う
請求項6の解体方法。
【請求項9】
前記マイクロ波の照射は、前記接着部にマイクロ波を吸収する吸収体を接触させた状態で行う
請求項8の解体方法。
【請求項10】
請求項6の解体方法で接合体を解体した後に、
前記被着体を酸に浸漬することで、当該被着体に残存した硬化物を除去する除去工程を含み、
前記酸は、酢酸、乳酸および硝酸の1種以上である
除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、硬化物、接合体、接合体の解体方法、および、硬化物の除去方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や航空機などの大型輸送機器において、適切な材料を適切な部位に用いるマルチマテリアル化が進んでいる。マルチマテリアル化において、材料(被着体)同士の接合技術は、重要な課題として挙げられている。特に、接着剤を用いた材料同士の接合は、軽量であることから、有力な接合技術として考えられている。
【0003】
一方で、接着剤を用いて接合された2つの材料(以下「接合体」という)において、リサイクルの必要性から、通常の使用環境下では容易に分離せず、特定の条件下において短時間で容易に分離する技術(以下「易解体技術」という)が求められている。接合体の易解体技術としては、例えば、以下の易解体技術(1)~(3)が知られている。
【0004】
易解体技術(1)は、硬化後の接着剤組成物を光照射により分解や劣化することで接合体を解体する技術である(例えば特許文献1,2)。易解体技術(2)は、硬化後の接着剤組成物の単純加熱により軟化、膨張および熱分解することで接合体を解体する技術である(例えば特許文献3,4)。易解体技術(3)は、硬化後の接着剤組成物をマイクロ波加熱により膨張および劣化させることで接合体を解体する技術である(例えば特許文献5,6)。
【0005】
易解体技術(1)では、接着剤組成物に直接光を照射する必要がある。したがって、被着体が光を透過する材質である必要がある。すなわち、易解体技術(1)を適用できる被着体の種類(材質)は、非常に限定的である。
【0006】
易解体技術(2)や易解体技術(3)では、所定の添加物を接着剤組成物に添加することで、加熱後に容易に解体できるように設計されている。添加物は、例えば特定の温度まで加熱すると膨張する物質(例えば膨張黒鉛)やマイクロ波を吸収して局所的に加熱が可能な物質(例えば炭化ケイ素)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2011-158654号公報
【特許文献2】WO2012-029718号公報
【特許文献3】特開2010-106193号公報
【特許文献4】特許第7005089号公報
【特許文献5】特開2017-214558号公報
【特許文献6】特開2019-147874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、易解体技術(2)や易解体技術(3)では、適用できる被着体の種類は易解体技術(1)のように限定的ではないものの、添加物の粒径や形状、その添加割合によっては接着強度が低下する恐れがある。接着強度の低下は、産業における接合体の実用化において大きな課題となる。以上の事情を考慮して、本発明では、被着体同士の接着強度を維持しつつ、被着体同士の解体も容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]樹脂系接着剤と、膨張黒鉛とを含み、前記樹脂系接着剤の含有量は、70体積%以上99体積%以下であり、前記膨張黒鉛の粒径は、76μm以上であり、前記膨張黒鉛の粒径をX(μm)として、前記膨張黒鉛の含有率をY(体積%)としたときに、以下の式(1)を満たす接着剤組成物。
9.49×100×X-1.07<Y<30・・・(1)
【0010】
[2]以下の式(2)を満たす[1]の接着組成物。
9.49×100×X-1.07<Y<25.7×exp(-1.15÷1000×X)・・・(2)
【0011】
[3]前記樹脂系接着剤は、硬化することで、アミド結合により架橋された構造を形成するエポキシ樹脂系接着剤である[1]の接着剤組成物。
【0012】
[4][1]または[2]の接着剤組成物の硬化物。
【0013】
[5]2つの被着体と、[4]の硬化物からなり、前記2つの被着体の間に位置し、当該2つの被着体を接合する接着層とを具備する接合体。
【0014】
[6][5]の接合体を解体する方法であって、前記接着層に含まれる前記膨張黒鉛を加熱により膨張させることで、前記2つの被着体を解体する解体工程を含む解体方法。
【0015】
[7]前記解体工程では、前記接合体のうち前記接着層と前記2つの被着体とが重なる接着部を選択的に加熱することで、当該2つの被着体を解体する[6]の解体方法。
【0016】
[8]前記2つの接合体のうちの一方は、炭素繊維強化プラスチックであり、前記膨張黒鉛の加熱は、マイクロ波の照射により行う[6]の解体方法。
【0017】
[9]前記マイクロ波の照射は、前記接着部にマイクロ波を吸収する吸収体を接触させた状態で行う[8]の解体方法。
【0018】
[10][6]から[9]の解体方法で接合体を解体した後に、前記被着体を酸に浸漬することで、当該被着体に残存した硬化物を除去する除去工程を含み、前記酸は、酢酸、乳酸および硝酸の1種以上である除去方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る接着剤組成物および硬化物によれば、被着体同士の接着強度を維持しつつ、被着体同士の解体も容易にする。本発明に係る接合体は、接合体の接着強度が維持され、かつ、解体も容易である。本発明に係る接合体の解体方法によれば、加熱により容易に解体できる。本発明に係る硬化物の除去方法によれば、解体後に残存する硬化物を、酸を用いて除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】接合体の一例に係る上面図および側面図である。
図2】接合体の解体方法の一例を説明する図である。
図3】実施例に係る除去方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る接着剤組成物は、樹脂系接着剤と膨張黒鉛とを含む。接着剤組成物は、2つの被着体を接合するために使用される。以下の説明では、図1に例示される通り、2つの被着体と、接着剤組成物を硬化した硬化物からなる接着層20とを具備する構造体を「接合体」100と表記する。図1では、接合体100の側面図と上面図とを図示する。接着層20は、2つの被着体10(10A,10B)の間に位置し、当該2つの被着体10A,10Bを接合する層である。
【0022】
[接着剤組成物]
<樹脂系接着剤>
樹脂系接着剤は、樹脂基材と硬化剤とを含む。樹脂基材としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが例示される。なお、基材樹脂は、ゴム状であっても良い。ゴム状の基材樹脂としては、フッ素ゴム、シリコーンゴムやウレタンゴム等が例示される。以上に例示した樹脂基材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。接着強度の観点からは、これらの中でもエポキシ樹脂を基材樹脂として用いることが好ましい。
【0023】
エポキシ樹脂は、1つ以上のエポキシ基を有する樹脂である。本発明で用いられるエポキシ樹脂は、硬化剤との併用により架橋重合反応を起こして硬化する材料であれば任意であり、特に限定されない。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、2,2’-ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリアジン型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アルキルポリオール型エポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、グリシジルエステル化合物等が例示される。以上に例示したエポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
樹脂系接着剤中の樹脂基材の含有量は、例えば20質量%以上90質量%以下であり、好ましくは40質量%以上80質量%以下である。
【0025】
硬化剤は、樹脂基材の種類に応じて適宜に変更し得る。硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、チオール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、シアネート系硬化剤、および、活性エステル系硬化剤などが例示される。
【0026】
樹脂基材がエポキシ樹脂である場合には、エポキシ樹脂を架橋して硬化可能であるアミン系硬化剤が好ましい。アミン系硬化剤としては、例えばアミノ基を有する化合物であり、脂肪族アミン類、ポリエーテルアミン類、脂環式アミン類、または、芳香族アミン類等が挙げられる。アミン系硬化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。基材樹脂がエポキシ樹脂であり、アミン硬化剤を用いる場合には、樹脂系接着剤は、硬化することで、アミド結合により架橋された構造を有する硬化物となる。
【0027】
樹脂系接着剤中の硬化剤の含有量は、例えば10重量%以上80重量%以下であり、好ましくは20質量%以上60質量%以下である。
【0028】
樹脂系接着剤は、樹脂基材および硬化剤に加えて硬化促進剤を含んでもよい。硬化促進剤は、例えば、ポリアミン化合物、アミド化合物、酸無水物、フェノ-ル性水酸基含有樹脂、リン化合物、イミダゾール化合物、イミダゾリン化合物、尿素系化合物、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0029】
なお、樹脂系接着剤には、本発明の目的が達成される範囲内において、粘着付与剤、チクソトロピック剤、密着促進剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈殿防止剤、抗菌剤や有機微粒子、樹脂基材以外の樹脂等のその他の各種の成分が配合される。
【0030】
接着剤組成物における樹脂系接着剤の含有量は、70体積%以上99体積%以下であり、好ましくは80体積%以上97体積%以下であり、より好ましくは90体積%以上95体積%以下である。接着剤組成物中における樹脂系接着剤の含有量が上記の範囲内にあることで、被着体同士の接着強度を十分に維持することが可能になる。
【0031】
なお、樹脂系接着剤は、耐食性、接着性、電気絶縁性、耐水性、耐薬品性、耐熱性、耐候性および靭性などの特性を良好にするために、複数種を混合して使用してもよい。樹脂系接着剤は、市販のものでも問題なく、1液型であっても2液型であってもよい。樹脂系接着剤の硬化速度に関しても特に制限はない。
【0032】
樹脂系接着剤の硬化物性については、特に限定されないが、ガラス転移温度は、例えば-40℃以上280℃以下であり、硬さ(ショアD)については、例えば15以上100以下である。
【0033】
<膨張黒鉛>
膨張黒鉛は、加熱により体積が膨張する黒鉛である。具体的には、膨張黒鉛は、公知の方法により製造できる。例えば、原料黒鉛(例えば鱗片状黒鉛)の層間に酸(例えば硫酸)を浸入させた後に、洗浄および乾燥することで膨張黒鉛が製造される。膨張黒鉛が加熱されると、層間の酸がガス化することで層間が部分的に広げられる(すなわち体積が膨張する)。膨張黒鉛を室温から300℃まで10℃/分で昇温したときの室温からの体積膨張の下限値は、被着体10同士を剥離しやすくする観点からは、例えば8倍以上であり、好ましくは10倍以上であり、当該体積膨張の上限値は、接着強度を低下させない観点からは、例えば25倍以下であり、好ましくは15倍以下である。
【0034】
膨張黒鉛は、例えば扁平なフレーク状である。以下、膨張黒鉛(膨張前)の粒径について説明する。本発明において膨張黒鉛における最大長さを有する方向を粒径方位とし、その長さを粒径と定義する。これに対し、粒径方位に直交する2方位でそれぞれ最も長い部分の長さを比べた時、短い方の長さを厚さと定義する。膨張黒鉛の厚さは、例えば100μm以上170μm以下(一般に150μm程度)となっている。膨張黒鉛の粒径は、目開きが相異なる複数の篩を目開きの大きい順に上から順に重ね合わせ、膨張黒鉛をそれら篩の上から投入し、十分な時間(例えば20分から1時間)振動させた後、目開きW1(μm)とW2(μm)と(W1>W2)の篩の間に存在する膨張黒鉛の粒径を2種の篩の目開きの平均値、すなわち(W1+W2)÷2と定義する。なお、篩の目開きは、JIS Z8801に準拠するものである。
【0035】
膨張黒鉛の粒径が76μm未満である場合、加熱による膨張力が十分でなく、接合体100を容易に解体できない。以上の事情を踏まえて、膨張黒鉛の粒径は、76μm以上であり、好ましくは140μm以上であり、より好ましくは240μm以上である。一方で、膨張黒鉛の粒径が2mmより大きい場合、接着剤に添加すると、膨張黒鉛が破壊の起点となりやすく著しく接着強度の低下を招く。以上の事情を踏まえて、膨張黒鉛の粒径は、好ましくは2mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下であり、さらに好ましくは1mm以下である。膨張黒鉛の粒径を上記の範囲内にすることで、被着体同士の接着強度を維持しつつ、被着体同士の解体も容易にすることができる。
【0036】
なお、膨張黒鉛は上記の粒径を満たすものであれば、市販のものであっても問題ない。市販されている膨張黒鉛の粒径は、一般的には1mm以上である。したがって、必要に応じて膨張黒鉛の粒径を粉砕および分級などで細かくしてから接着剤に添加する。
【0037】
ここで、膨張黒鉛の粒径と、接着剤組成物中の膨張黒鉛の含有率との関係が、接合体の接着強度と接合体の解体性(解体の容易性)とに相関があることが本発明の発明者らによる実験(以下「実験A」という)から新たな知見として得られた。そして、膨張黒鉛の粒径をX(μm)として、接着剤組成物中の膨張黒鉛の含有率をY(体積%)としたときに、以下の式(1)を満たすことで、接着剤組成物として利用可能で(すなわち接合体の接着強度を維持しつつ)、接合体の解体も容易にするこが可能になることを特定した。
9.49×100×X-1.07<Y<30・・・(1)
【0038】
接着剤組成物中の膨張黒鉛の含有率Yが式(1)の下限値未満になると、接合体の解体が困難になる。一方、接着剤組成物中の膨張黒鉛の含有率Yが式(1)の上限値を超えると、接着剤としての塗布性能が著しく低下し、使用が困難となる。
【0039】
さらに、膨張黒鉛の粒径をX(μm)と、接着剤組成物中の膨張黒鉛の含有率をY(体積%)の関係が、以下の式(2)を満たすことで、接合体の接着強度を十分に維持しつつ、接合体の解体もより容易にするこが可能になることを特定した。
9.49×100×X-1.07<Y<25.7×exp(-1.15÷1000×X)・・・(2)
【0040】
本発明の発明者らは、上記式(1)を得るために、接着剤組成物中の膨張黒鉛の粒径と含有率とを相違させた接合体について、接着強度と解体性とを確認する実験Aを行った。実験Aの詳細ついては、後述する。
【0041】
上記の式(1)を充足した上で、接着剤組成物中の膨張黒鉛の含有量Yの下限値は、1体積%以上であり、好ましくは3体積%以上であり、より好ましくは5体積%以上であり、当該膨張黒鉛の含有量Yの上限値は、30体積%であり、好ましくは20体積%以下であり、より好ましくは10体積%以下である。
【0042】
膨張黒鉛は、樹脂系接着剤の硬化前に添加して、硬化する前に十分に撹拌することが望ましい。撹拌の方法については、手動、機械による撹拌など手法は問わない。
【0043】
接着剤組成物には、樹脂系接着剤および膨張黒鉛に加えて、他の成分が含有されてもよい。その他の成分としては、例えば、グリシジルエーテル、グリシジルエステルやグリコールエーテルなどの希釈剤が想定される。
【0044】
[硬化物]
接着剤組成物は、硬化することで硬化物となる。本発明に係る硬化物は、硬化後の樹脂系接着剤と、当該硬化後の樹脂系接着剤中に分散した状態の膨張黒鉛とを含む。接着剤組成物を硬化させる方法は、樹脂系接着剤の種類に応じて適宜に相違し得る。例えば、水分との反応、加熱または光、特に紫外線の照射により接着剤組成物が硬化する。2液型の樹脂系接着剤の場合には、硬化剤と樹脂基材とを混合することで硬化する。
【0045】
硬化物中における樹脂系接着剤(すなわち硬化後の樹脂系接着剤)の含有率は、接着剤組成物中の樹脂系接着剤と同様であり、70体積%以上99体積%以下であり、好ましくは80体積%以上97体積%以下であり、より好ましくは90体積%以上95体積%以下である。硬化物中における樹脂系接着剤の含有量が上記の範囲内にあることで、被着体同士の接着強度を十分に維持することが可能になる。
【0046】
硬化物中における膨張黒鉛の含有率は、接着剤組成物中の膨張黒鉛と同様であり、例えば1体積%以上30体積%以下であり、好ましくは3体積%以上20体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上10体積%以下である。硬化物中における膨張黒鉛の含有量が上記の範囲内にあることで、被着体同士の接着強度を維持しつつ、被着体同士の解体も容易にすることができる。
【0047】
硬化物中における膨張黒鉛の粒径は、接着剤組成物中の膨張黒鉛の粒径が維持され、上述した通りである。具体的には、膨張黒鉛の下限は、例えば76μm以上であり、好ましくは140μm以上であり、より好ましくは240μm以上である。膨張黒鉛の上限は、2mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下であり、さらに好ましくは1mm以下である。なお、樹脂系接着剤の硬化に伴って接着剤組成物が収縮する場合に膨張黒鉛に圧縮応力がかかることも想定されるが、その場合には硬化物中における膨張黒鉛の粒径が76μmよりも小さくなる場合もある。ただし、硬化物についても、典型的には、膨張黒鉛の粒径をX(μm)として、硬化物中の膨張黒鉛の含有率をY(体積%)としたときに、上述の式(1)を満たすことが想定される。
【0048】
[接合体]
上述した通り、図1の接合体100は、2つの被着体10(10A,10B)と、接着剤組成物を硬化した硬化物からなる接着層20とを具備する。なお、接着層20の厚さ(積層方向の長さ)は、特に限定されないが、例えば10μm以上500μm以下が想定される。
【0049】
被着体10は、樹脂系接着剤で接着できる材料であれば任意であり、例えば、金属(例えばアルミニウム)、合金、セラミックス、または、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)などが例示される。2つの被着体10は、同種であっても異種であってもよい。
【0050】
接合体100は、被着体10のうち所望する領域(以下「接着領域」という)に接着剤組成物を塗布して、当該接着剤組成物を硬化することで製造される。接着剤組成物を硬化する方法は、上述した通りである。接着剤組成物は、2つの被着体の双方に塗布してもよいし、一方のみに塗布してもよい。なお、接着領域は、事前にサンドブラストややすりなどで表面を荒らしておくことが望ましい。接着領域の表面粗さについては、特に限定されないが、算術平均粗さとして1μm以上50μm以下程度が望ましい。
【0051】
本発明では、膨張黒鉛が式(1)を満たすことで、接合体100(被着体10同士)の接着強度を維持しつつ、後述する解体方法において接合体100の解体も容易にすることができる。
【0052】
接合体10における接着強度は、例えば4.5MPa以上であり、好ましくは6MPa以上であり、より好ましくは7MPa以上である。なお、接合体10における接着強度は、JIS K 6850に基づく試験片の引張せん断試験により特定される。万能試験機に試験片長手方向の両端部を治具により挟み、室温下、引張速度1mm/minで引張り、剥離したときの力を測定する。さらに剥離したときの力を接着面の断面積で割ることにより接着応力を求めることができる。試験片は各5本用意し、得られた接着応力の平均値を接着強度とする。
【0053】
[解体方法]
以下、本発明の接合体100を解体する解体方法を説明する。本発明の解体方法は、接着層20に含まれる膨張黒鉛を加熱により膨張させることで、2つの被着体10(10A,10B)を解体する工程(以下「解体工程」という)を含む。膨張黒鉛を加熱により膨張させて、被着体10から接着層20を剥離させる。すなわち、解体工程において、2つの被着体が分離される。以下の説明では、接合体100のうち接着層20と2つの被着体10(10A,10B)とが重なる部分を「接着部R」と表記する。
【0054】
解体工程において、接着部(膨張黒鉛)を加熱する方法は、任意である。例えば、加熱した物体(以下「特定物体」という)を接着部に接触させることで間接的に接着部を加熱する方法や、接着部を加熱器(例えばバーナー等の火炎器)により直接的に加熱する方法が採用される。温度の管理のしやすさを考慮すると、加熱した特定物体を接着部Rに接触させることで接着部Rを加熱する方法が好ましい。加熱する特定物体について材質および形態(例えばバルク体、粉末または繊維)は、限定されず、接合体100の形状や解体時の条件に応じて適宜に変更し得る。
【0055】
図2は、接着部Rを加熱する方法の一例を説明する図である。図2に例示される通り、例えばマイクロ波を照射可能なマイクロ波加熱装置を用いて接着部Rを加熱する。マイクロ波加熱装置の内部に接合体100を設置する。なお、接合体100は、耐火物に載置した状態でマイクロ波加熱装置の内部に設置してもよい。
【0056】
図2では、マイクロ波の照射は、接着部Rにマイクロ波を吸収する吸収体(以下「マイクロ波吸収体」という)Qを接触させた状態で行う構成を例示する。接着部Rのうち一方の被着体10の表面にマイクロ波吸収体Qが接触する。マイクロ波吸収体Qは、「特定物体」の一例である。マイクロ波吸収体Qは、マイクロ波の照射による接着部Rの加熱を補助するための要素であり、マイクロ波を吸収して加熱されるような材料(例えば炭化ケイ素やジルコニア)で構成される。
【0057】
マイクロ波吸収体Qを用いて接着部Rを加熱する場合には、照射したマイクロ波の大部分をマイクロ波吸収体Qに吸収させることが望ましい。膨張黒鉛の膨張開始温度は低いもので100℃程度だが、接着層20の剥離を促すほどに十分に膨張黒鉛を膨張させるには、さらに200℃以上高い温度を必要とする。したがって、接着部Rが目的とする温度(例えば300~400℃)になるまでマイクロ波の照射を行うことが好ましい。接着部Rについて目的とする温度の設定値については、添加する膨張黒鉛の種類や量、膨張性の違いに応じて適宜に変更し得る。マイクロ波吸収体Qを介して間接的に接着部R(ひいては膨張黒鉛)が加熱される。なお、接着部Rの温度は、例えば、サーモカメラ(図2)、または、マイクロ波吸収体Qまたは接着部Rに接触させた熱電対を用いて測定される。
【0058】
接着部Rの加熱後に2つの被着体10(10A,10B)が自発的に解体されているか否かは不問である。マイクロ波の照射後に容易に人の手で剥離できるまで、接合体100の接着強度が弱くなっていることが好ましい。
【0059】
マイクロ波加熱装置の種類は、マイクロ波の照射が可能であれば特に限定されず、産業用であっても家庭用であってもよい。マイクロ波の照射条件(照射エネルギーおよび時間)は、特に限定されず、マイクロ波吸収体Qを介して間接的に接着部Rを目的の温度まで加熱可能であれば任意である。
【0060】
なお、マイクロ波の照射する際に、接合体100の断熱性を上げるために、接合体100の周りを断熱材で保護してもよい。接合体100の断熱性を上げることで、マイクロ波吸収体Qで発生した熱が接着部Rを介して接合体100全体へ伝わった後に、外部に拡散しにくくなる。したがって、より低い温度で接合体100の解体が可能となる。
【0061】
マイクロ波吸収体Qを用いて接着部Rを加熱する方法によれば、マイクロ波吸収体Qを接着部Rに接触させた状態で当該マイクロ波吸収体Qの加熱が可能になる。したがって、例えば特定物体を加熱炉で加熱した後に加熱炉から取り出して接着部に接触させる方法と比較して、加熱炉への特定物体の出し入れが不要である。ひいては、簡便な方法で高効率に接着部Rの温度を上げることができるという利点がある。
【0062】
解体工程において、特定物体を用いることは必須ではない。ただし、接合体100のうち接着部R以外の部分における熱による損傷を防ぐ観点からは、図2で例示したように加熱した特定物体を用いて接着部Rを選択的に加熱することで被着体10(10A,10B)を解体することが好ましい。
【0063】
解体工程における接着部Rの加熱は、マイクロ波による加熱には限定されない。接着部Rの具体的な加熱の方法は、被着体10の種類に応じて適宜に変更し得る。マイクロ波による加熱は、被着体の少なくとも一方が炭素繊維強化プラスチックである場合に特に有効である。マイクロ波による加熱によれば、炭素繊維強化プラスチックのマトリクス部分の熱による劣化をマイクロ波吸収の多い接着部に限定し、リサイクルに適した形で回収できるという利点がある。
【0064】
[除去方法]
本発明に係る除去方法は、接合体の解体後に、被着体に残存した硬化物(硬化後の接着剤組成物)を除去する工程(以下「除去工程」)を含む。なお、接合体の解体後に被着体に硬化物が残存していない場合には、除去工程を行わなくてもよい。
【0065】
除去工程において硬化物を除去する具体的な方法は、硬化物(架橋構造)の種類に応じて適宜に変更し得る。例えば、硬化物が有する架橋構造が酸加水分解性である場合(例えばアミド結合である場合)には、除去工程では、被着体を酸に浸漬することで、当該被着体に残存した硬化物を除去する。硬化物におけるアミド結合が酸により加水分解されて(架橋構造が破壊されて)、硬化物が分解される。
【0066】
除去工程に用いられる酸(混酸を含む)の種類は、特に制限されないが、被着体を酸で溶解させることなく、硬化物を除去する観点からは、例えば酢酸、乳酸および硝酸の1種以上が好ましい。すなわち、酸は、酢酸、乳酸および硝酸から選択される1種でもよいし、2種または3種の混酸であってもよい。酢酸は、硬化物の除去速度が速く、乳酸は、作業性および安全性が優れている。浸漬時間は、任意であり、被着体の材質、形状、作業性、硬化物の組成、および、膨張黒鉛の添加量に応じて適宜に変更し得る。ただし、除去工程の時間は、産業化の観点からは短いほど好ましい。除去工程の時間を短くする観点からは、硬化物の分解の効果を高める目的で、使用する酸の濃度や温度を上げることが好ましい。
【0067】
酸の温度は、例えば40℃以上であり、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上であり、特に好ましくは85℃以上である。酸の温度の上限値は、特に限定されないが、例えば120℃以下である。酸の温度が上記の範囲内であることで、硬化物の分解速度を速めることができる。なお、酸を加熱する方法は、任意である。例えば、酸とともに接合体を入れた容器を加熱することで酸を加熱してもよいし、当該容器を水中に投入して当該水を加熱することで間接的に酸を加熱してもよい。
【0068】
酸の濃度は、例えば8mol/l以上であり、好ましくは10mol/l以上であり、より好ましくは12mol/l以上であり、さらに好ましくは14mol/l以上である。酸の濃度の上限値は、特に限定されないが、被着体を酸で溶解させない観点からは、例えば20mol/l以下であり、好ましくは18mol/l以下である。酸の濃度が上記の範囲内であることで、硬化物の分解速度を速めることができる。
【0069】
ここで、リサイクル効率の観点からは、解体した被着体に残存する硬化物(接着剤成分)が問題視されている。例えばアルミニウムを被着体として硬化物が残存した場合、リサイクルのための溶解の工程で接着剤成分が不純物(ドロス)として溶湯表面に析出する。したがって、溶湯表面から不純物の除去が必要となり、リサイクル効率が低下するという問題があった。本発明に係る除去方法によれば、解体後の被着体に残存する硬化物を酸に浸漬することで除去できるという利点がある。したがって、リサイクル効率を向上させることができる。
【0070】
さらに、酸による硬化物(接着剤成分)の分解を利用した接合体の解体技術(例えば特開2008-297520号公報)がある。酸を用いた接合体の解体技術では、酸による処理の前段階で接着強度を落とすことなく、接合体を容易に解体でき、さらに被着体表面の硬化物を除去できる。しかし、硬化物の除去に多大な時間(例えば単位面積あたりの処理時間:1.0時間/cm)がかかってしまい、リサイクルを念頭にした産業上の技術としては不十分であった。それに対して、本発明では、上述した解体工程での処理時間は1~3分/cm程度であり、除去工程での処理時間は1~2分/cm程度である。すなわち、接合体の解体および解体度の硬化物の除去にかかる時間が短時間であるという利点がある。
【0071】
以上に説明した通り、除去工程は、例えば、硬化物が有する架橋構造が酸加水分解性である場合(例えばアミド結合である場合)には、酸により硬化物を除去する方法が有効に用いられる。ただし、除去工程における硬化物の具体的な除去方法は、酸による除去には限定されない。例えば、硬化物が有する架橋構造がエステル結合のようなアルカリ加水分解性である場合には、除去工程では、例えば、被着体をアルカリ溶液に浸漬することで、当該被着体に残存した硬化物を除去する方法が採用され得る。
【0072】
[式(1)について]
以下、上述した膨張黒鉛に関する式(1)を求めるために行った実験Aについて説明する。実験Aにより、膨張黒鉛の粒径と、接着剤組成物(硬化物)中の膨張黒鉛の含有率との関係が、接合体の接着強度と接合体の解体性(解体の容易性)とに相関があることが確認された。
【0073】
具体的には、実験Aでは、接着剤組成物で2つの被着体を接着することで作製した接合体(試験体)について、接着強度と解体性とを確認した。接着強度と解体性とは、接着剤組成物中の膨張黒鉛の粒径と膨張黒鉛とをそれぞれ相違させた複数の接合体について確認した。2つの被着体のうちの一方は、アルミニウム(JIS記号:A5052P)であり、他方は、炭素繊維強化複合プラスチック(CFRP:サンワトレーディング株式会社製)である。各被着体は、長さ100mm、幅25mm、厚さ1mmとした。
【0074】
被着体の接合に用いた接着剤組成物は、二液性エポキシ樹脂接着剤(セメダイン株式会社製、EP007)に膨張黒鉛(富士黒鉛工業株式会社製、EXP-50S120K)を混合することで作製した。接着剤を構成する2液の混合比は、エポキシ樹脂主剤50重量%、硬化剤50重量%とした。膨張黒鉛の混合割合(体積%)は、硬化したエポキシ樹脂接着剤と膨張黒鉛の合計体積に対して、変化させた。2液の混合過程で、膨張黒鉛を添加し、3分間撹拌することで接着剤組成物を作製した。比較のため、膨張黒鉛を添加しない接着剤組成物も作製した。
【0075】
JIS K 6850に基づき接合体を作製した。具体的には、図1に示される通り、2つの被着体の長手方向における端部から12mmまでの部分に接着剤組成物をそれぞれ塗布した後、塗布した面を重ね合わせて接合体を作製した。接着層の厚みは200μmになるように接着剤組成物の塗布重量を調整した。接合体は、70℃の乾燥機に1日以上保持して、接着剤組成物を硬化させた。乾燥機での硬化課程では、自重などにより接着部が剥離しないよう治具により接合体の接着状態を保持させた。
【0076】
接着強度は、JIS K 6850に基づく試験片の引張せん断試験(常温接着強度)により確認した。具体的には、万能試験機(島津製作所社製、AUTOGRAPH AGX-plus、10kN)に試験片長手方向の両端部を治具により挟み、室温下、引張速度1mm/minで引張り、剥離したときの力を測定した。さらに剥離したときの力を接着面の断面積で割ることにより接着応力を求めた。試験片は各5本用意し、得られた接着応力の平均値を求めた。
【0077】
解体性は、引張せん断試験に用いたのと同じ条件で作製した試験片にマイクロ波を図2のように照射することで確認した。接着部の表面には、マイクロ波吸収体として、接着部と同等の面積を有し、厚さ約5mmの炭化ケイ素のバルク体を設置した。マイクロ波の照射には、マグネトロン型のマイクロ波照射装置(四国計測工業株式会社製、μReacor Ex)を用いた。マイクロ波照射装置の上部にはφ3.5mmの穴が開いており、そこからサーモカメラでマイクロ波吸収体の温度を測定できるようにした。マイクロ波の周波数は2.45GHzであり、出力は600Wとした。照射時間は原則4分としたが、サーモカメラで測定したマイクロ波吸収体の中心部の温度が400℃に達した場合、400℃までに達する時間までとした。マイクロ波照射後、試験片を取り出し、接合体の解体状態を確認した。そして、一方の被着体をピンセットで軽く持ち上げて(接着部に強制的な分離の力を加えない形で)、接合体にせん断力を加えないと解体できない状態は解体性に問題があるとした。なお、2つの被着体に解体できた場合と、一部は接着した状態ではあるものの大部分が剥離した場合とは、解体性に問題はなく良好とした。
【0078】
<1>膨張黒鉛の粒径が140μmである場合
硬化物中の膨張黒鉛の含有量が5体積%未満であると、加熱に伴う膨張黒鉛の膨張による接合部の剥離の促進効果が十分でなく、接合体を解体できず、解体性に問題があった。一方で、硬化物中の膨張黒鉛の含有量が30体積%より大きいと、接合体の接着強度が膨張黒鉛を添加しなかったときよりも大幅に低減してしまった。
【0079】
<2>膨張黒鉛の粒径が240μmである場合
硬化物中の膨張黒鉛の含有量が3体積%未満であると、加熱に伴う膨張黒鉛の膨張による接合部の剥離の促進効果が十分でなく、接合体を解体できず、解体性に問題があった。一方で、硬化物中の膨張黒鉛の含有量が30体積%より大きいと、接合体の接着強度が膨張黒鉛を添加しなかったときよりも大幅に低減してしまった。
【0080】
<3>膨張黒鉛の粒径が400μmである場合
硬化物中の膨張黒鉛の含有量が2体積%未満であると、加熱に伴う膨張黒鉛の膨張による接合部の剥離の促進効果が十分でなく、接合体を解体できず、解体性に問題があった。一方で、硬化物中の膨張黒鉛の含有量が30体積%より大きいと、接合体の接着強度が膨張黒鉛を添加しなかったときよりも大幅に低減してしまった。
【0081】
<4>膨張黒鉛の粒径が1mmである場合
硬化物中の膨張黒鉛の含有量が1.5体積%未満であると、加熱に伴う膨張黒鉛の膨張による接合部の剥離の促進効果が十分でなく、接合体を解体できず、解体性に問題があった。一方で、硬化物中の膨張黒鉛の含有量が30体積%より大きいと、接合体の接着強度が膨張黒鉛を添加しなかったときよりも大幅に低減してしまった。
【0082】
以上の実験Aを踏まえて、本発明の発明者らは、式(1)を満たすことで、十分な接着強度を維持しつつ、接合体の解体が容易になることを新たな知見として得た。
【実施例0083】
以下、本発明について実施例を踏まえて詳述する。ただし、本発明は実施例には限定されない。
【0084】
[接着剤組成物の作製]
二液性エポキシ樹脂系接着剤に膨張黒鉛(富士黒鉛工業株式会社製、EXP-50S120K)を混合して、接着剤組成物を作製した。使用した二液性エポキシ樹脂系接着剤の詳細は、表1の通りである。
【0085】
【表1】
【0086】
接着剤を構成する2液の混合比は、エポキシ樹脂主剤50重量%、硬化剤50重量%とした。膨張黒鉛の混合割合は、エポキシ樹脂接着剤と膨張黒鉛との合計体積(すなわち接着剤組成物全体の体積)に対して、0.5体積%、1体積%、3体積%、5体積%、10体積%、20体積%、25体積%とした。2液の混合過程で、膨張黒鉛を添加し、3分間撹拌することで接着剤組成物を作製した。
【0087】
なお、膨張黒鉛は乳鉢で粉砕した後、種々の篩に通した。具体的には、JIS Z8801に準拠する目開きが53μm、100μm、180μm、300μm、500μm、1000μmである篩を目開きの大きい順に上から重ね合わせ、膨張黒鉛を篩に上から投入して、十分な時間振動させた。そして、篩の目開き53μm以上100μm未満の間に存在する膨張黒鉛の粒径を76.53μmと定義し、篩の目開き100μm以上180μm未満の間に存在する膨張黒鉛の粒径を140μmと定義し、篩の目開き180μm以上300μm未満の間に存在する膨張黒鉛の粒径を240μmと定義し、篩の目開き300μm以上500μm未満の間に存在する膨張黒鉛の粒径を400μmと定義し、篩の目開き500μm以上1000μm未満の間に存在する膨張黒鉛の粒径を750μmと定義した。以上の計5種類の粒径を持つ膨張黒鉛を使用して接着剤組成物を作製した。
【0088】
[被接合体の材質]
被着体の材質は、アルミニウム(JIS記号:A5052P)、または、炭素繊維強化複合プラスチック(CFRP:サンワトレーディング株式会社製)である。各被着体は、長さ100mm、幅25mm、厚さ1mmとした。図1に示す通り、長さ100mm、幅25mm、厚さ1mmに切り出して被着体とした。
【0089】
[接合体の作製]
JIS K 6850に基づき実施例および比較例に係る接合体を作製した。接合体は、異種接合体(アルミニウムとCFRP)、または、同種接合体(アルミニウムとアルミニウム)の2種とした。具体的には、両方の被着体の端部から12mmまでの部分に接着剤組成物をそれぞれ塗布した後、塗布した面を重ね合わせ、図1に示すような接合体(試験片)を作製した。接着層の厚みは200μmになるように接着剤組成物の塗布重量を調整した。接着剤組成物中の膨張黒鉛は、厚みが150μm以下の扁平なフレーク状となっており、被着体に塗布した際に厚さ方向が塗布面に対し概ね垂直かつ重ならないように配向させて、接着層の厚みが200μm以上にならないように塗布することが望ましい。接合体は、70℃の乾燥機に1日以上保持して、接着剤組成物を硬化させた。乾燥機での硬化課程では、自重などにより接着部が剥離しないよう治具により接合体の接着状態を保持させた。実施例および比較例において使用した接着剤組成物(膨張黒鉛の粒径および体積率)や接合体の種類は、表2~5の通りである。なお、参考例1~5では、接着剤組成物に膨張黒鉛を添加せずに接合体を作製した。
【0090】
[引張剪断強度強さ試験1(常温接着強度)]
JIS K 6850に基づいて試験片の引張せん断試験を行った。万能試験機(島津製作所社製、AUTOGRAPH AGX-plus、10kN)に試験片長手方向の両端部を治具により挟み、室温下、引張速度1mm/minで引張り、剥離したときの力を測定した。さらに剥離したときの力を接着面の断面積で割ることにより接着応力を求めた。試験片は各5本用意し、得られた接着応力の平均値と標準偏差を求めた。
【0091】
接着強度の評価基準は、接着応力の平均値が4.5MPa未満である場合を「×」と評価し、4.5MPa以上6MPa未満である場合を「〇」と評価し、6MPa以上である場合を「◎」と評価した。
その結果を表2-5に示す。
【0092】
[解体性]
引張せん断試験に用いたのと同じ条件で作製した試験片にマイクロ波を図2のような形で照射した。接着部には、マイクロ波吸収体として、接合部と同等の面積を有し、厚さ約5mmの炭化ケイ素のバルク体を設置した。マイクロ波の照射には、マグネトロン型のマイクロ波照射装置(四国計測工業株式会社製、μReacor Ex)を用いた。マイクロ波照射装置の上部にはφ3.5mmの穴が開いており、そこからサーモカメラでマイクロ波吸収体の温度を測定できるようにした。マイクロ波の周波数は2.45GHz,出力は600Wとした。照射時間は原則4分としたが、サーモカメラで測定したマイクロ波吸収体の中心部の温度が400℃に達した場合、400℃までに達する時間までとした。マイクロ波照射後、試験片を取り出し、接合体の解体状態を確認した。片方の被着体をピンセットなどで軽く持ち上げるなど接着部に強制的な分離の力を加えない形で、2つの被着体に解体できた場合を「◎」と評価し、一部接着した状態が残るものの概ね解体できた場合を「〇」と評価し、接合体にせん断力を加えないと解体できない状態を「×」と評価した。その結果を表2~5に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
表2~5に示される通り、式(1)を満たすように接着剤組成物(硬化物)中に膨張黒鉛が含まれる実施例1~43では、接着強度は「◎」または「〇」で、解体性も「◎」または「〇」であり、接着強度と解体性との双方が良好であることが確認できた。
【0098】
一方で、式(1)を満たさない比較例1~5や膨張黒鉛を添加していない参考例1~5では、接着強度は「◎」または「〇」であるものの、解体性が「×」であり、接着強度と解体性との双方を良好にすることはできなかった。
【0099】
表2に着目すると、異種接合体の結果は、実施例1~13と比較例1~5である。実施例1~5は、膨張黒鉛の体積率は同じであり、粒径を相違させた例である。実施例1~5までを比較すると、接着応力の平均値は、膨張黒鉛の粒径が小さくなるにつれ、大きくなっていく傾向が確認できる。この結果は、膨張黒鉛の粒径が大きいほど接着応力を下げてしまうことを示唆している。以上のことから接着強度の観点からは、膨張黒鉛の粒径は小さい方が好ましい。一方で、膨張黒鉛の粒径が加熱による膨張黒鉛の膨張度合い(すなわち解体に寄与する力)に関係することから、膨張黒鉛の粒径が小さいほど解体性が低下する傾向がある。さらに、膨張黒鉛の粒径が同じである、実施例6,7の比較と、実施例8~10の比較と、実施例11,12の比較とよると、添加割合が少なくなるほど、解体性が低下する傾向がある。以上の通り、接着強度と解体性との双方を良好にするには、膨張黒鉛の粒径と添加割合との双方を加味する必要がある。
【0100】
同種接合体の結果は、実施例14~17である。同種接合体については、異種接合体において解体が確認できた各膨張黒鉛の粒径について添加割合が最小の条件で接着強度と解体性とを確認したが、異種接合体の場合と同様に、接着強度と解体性との双方を良好にすることが確認できた。
【0101】
[除去性能]
表6に記載の実施例3の接合体についてマイクロ波の照射により解体した被着体に残存する硬化物が除去可能か否かを評価した。具体的には、被着体を種々の酸に浸漬することで、被着体に残存した硬化物が除去可能かを調べた。図3に実験の概要図を示す。図3に示される通り、酸とともに被着体が入れられた試験管を、ウォーターバスを用いて加熱した。酸の量は被着体1つに対し、約20ccとした。酸の種類および濃度、酸の温を表2に示す。
【0102】
浸漬から20分以内に硬化物が被着体から除去できた場合には除去性能を「〇」と評価して、浸漬から20分経過したときに硬化物がわずかにしか除去できなかった場合には「△」と評価して、浸漬から20分経過しても硬化物の除去が確認できなかった場合は、除去性能がない(または弱い)と判断して「×」と評価した。除去性能の評価が「〇」の場合には、除去までの時間も計測した。その結果を表6に示す。
【0103】
【表6】
【0104】
表6の結果から把握される通り、酢酸と乳酸と硝酸とに浸漬した場合には、接着剤成分を除去できる効果があり、特に酢酸には優れた除去性能があることが確認された。乳酸は、酢酸よりの除去性能は落ちるものの、匂いが少ないなど取り扱いのしやすさから有意な点がある。硝酸は、劇物であり取り扱いに注意が必要な上、被着体の種類によっては溶解を起こしてしまうものの、除去性能は高いため、被着体の種類(例えばアルミニウムなど)によっては十分に用いることが可能である。また、酢酸に関しては、酸の温度を上げるほど硬化物の除去速度が高まることが確認された。
【0105】
それに対して、塩酸は、アルミニウムが激しく溶解してしまうため使用に適さなかった。次亜塩素酸ナトリウム水溶液およびクエン酸水溶液においては、除去性能が確認できなかった。
【0106】
なお、比較のために有機溶剤であるアセトンに浸漬した被着体においては、20分経過後に接着剤は一部除去されていたが、完全に除去はされなかった。したがって、短時間での接着剤成分の除去を目指す場合には、アセトンは不適であることが確認された。
【符号の説明】
【0107】
10 :被着体
20 :接着層
100 :接合体
Q :マイクロ波吸収体
R :接着部
図1
図2
図3