(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109110
(43)【公開日】2024-08-13
(54)【発明の名称】シリカゾルの製造方法、シリカゾル製造容器、研磨組成物の製造方法、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/145 20060101AFI20240805BHJP
【FI】
C01B33/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013069
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023013309
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 裕太
(72)【発明者】
【氏名】奈木野 勇生
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC02
4G072DD03
4G072EE06
4G072GG03
4G072HH30
4G072JJ23
4G072JJ38
4G072PP01
4G072RR12
4G072UU01
(57)【要約】
【課題】粗大粒子の少ないシリカゾルの製造方法を提供する。
【解決手段】アルコールを含むシリカ分散液に対して、分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行う工程を含み、前記除去及び前記置換の少なくとも一方を、気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である容器を用いて行う、シリカゾルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを含むシリカ分散液に対して、分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行う工程を含み、
前記除去及び前記置換の少なくとも一方を、気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である容器を用いて行う、シリカゾルの製造方法。
【請求項2】
前記S(m2)が、0.01m2~5m2である、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項3】
前記V(m3)が、0.002m3~50m3である、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項4】
前記容器はジャケット部を有する、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項5】
前記除去及び前記置換の少なくとも一方は、前記ジャケット部の液面を、前記容器の内部におけるシリカ分散液の液面より低い位置にして行う、請求項4に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項6】
前記除去及び前記置換は、前記分散媒の少なくとも一部を除去し、水を添加することで行われる、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項7】
前記アルコールが、メタノールを含む、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項8】
アルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させて、前記アルコールを含むシリカ分散液を得る工程をさらに含む、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項9】
前記除去の工程時間が7時間以下である、請求項1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項10】
アルコールを含むシリカ分散液に対して、分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行うシリカゾル製造容器であって、
気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である、シリカゾル製造容器。
【請求項11】
前記S(m2)が、0.01m2~5m2である、請求項10に記載のシリカゾル製造容器。
【請求項12】
前記V(m3)が、0.002m3~50m3である、請求項10又は11に記載のシリカゾル製造容器。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを添加して研磨組成物を製造する、研磨組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨する工程を有する、研磨方法。
【請求項15】
請求項14に記載の研磨方法を含む、半導体ウェハの製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載の研磨方法を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカゾルの製造方法、シリカゾル製造容器、研磨組成物の製造方法、研磨方法、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や無機化合物等の材料の表面を研磨する方法として、研磨液を用いた研磨方法が知られている。中でも、半導体用のプライムシリコンウェハやこれらの再生シリコンウェハの最終仕上げ研磨、及び、半導体デバイス製造時の層間絶縁膜の平坦化、金属プラグの形成、埋め込み配線形成等の化学的機械的研磨(CMP)では、その表面状態が半導体特性に大きく影響するため、これらの部品の表面や端面は、極めて高精度に研磨されることが要求されている。
【0003】
このような精密研磨においては、シリカ粒子を含む研磨組成物が採用されており、その主成分である砥粒として、シリカゾルが広く用いられている。シリカゾルは、その製造方法の違いにより、四塩化珪素の熱分解によるもの(ヒュームドシリカ等)、水ガラス等の珪酸アルカリの脱イオンによるもの、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応(一般に「ゾルゲル法」と称される)によるもの等が知られている。
【0004】
シリカゾル及びシリカゾルの製造方法に関し、これまで多くの検討がなされてきた。
例えば、特許文献1には、水を含む特定の反応液中で、アルコキシシランまたはその縮合物が加水分解及び重縮合することでシリカゾルを製造できることが開示されている。また、特許文献2では、アルコキシシランのうち、正ケイ酸メチルを用い、比較的低温でケイ酸への加水分解を経て、その縮合によりコロイダルシリカを製造できる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-189787号公報
【特許文献2】特開平11―60232号公報
【特許文献3】特開2015-071659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応により得られるシリカゾルには、シリカ粒子同士が凝集した粗大粒子が含まれる。このような粗大粒子が発生すると、精製時のろ過性が低下する。また、粗大粒子を多く含むシリカゾルを研磨組成物として研磨に用いると、被研磨体表面に生じるスクラッチが増加する等、研磨において悪影響を及ぼす。
【0007】
これに対し、上記特許文献1、2に開示されているシリカゾルやコロイダルシリカの製造方法では、粗大粒子の低減についての開示はない。
そこで、特許文献3によれば、一般的に粗大粒子はろ過によって除去できる。
【0008】
しかし、ろ過前のシリカゾル中の粗大粒子の数が多過ぎると、ろ過工程におけるフィルターの目詰まりや工程時間の延伸などを引き起こし、製造コストが増加する。
そのため、ろ過工程を経る前のシリカゾル中の粗大粒子を低減させることが強く望まれる。
【0009】
そこで本発明は、粗大粒子の少ないシリカゾルの製造方法の提供を目的とする。また、本発明は、粗大粒子を低減させるシリカゾル製造容器、被研磨体の生産性に優れた研磨組成物の製造方法、上記研磨組成物を用いた研磨方法、並びに、上記研磨方法を含む、半導体ウェハの製造方法及び半導体デバイスの製造方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に対し、本発明者らが鋭意検討した結果、シリカゾル中の粗大粒子は、アルコールを含むシリカ分散液の分散媒の除去や置換を行う工程で発生することを突き止めた。そして、さらなる検討により、本発明者らは、分散媒の除去や置換を行う容器の形状を特定のものとすることにより、上記粗大粒子の発生を抑制し、粗大粒子の少ないシリカゾルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] アルコールを含むシリカ分散液に対して、分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行う工程を含み、
前記除去及び前記置換の少なくとも一方を、気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である容器を用いて行う、シリカゾルの製造方法。
[2] 前記S(m2)が、0.01m2~5m2である、前記[1]に記載のシリカゾルの製造方法。
[3] 前記V(m3)が、0.002m3~50m3である、前記[1]又は[2]に記載のシリカゾルの製造方法。
[4] 前記容器はジャケット部を有する、前記[1]~[3]のいずれか1に記載のシリカゾルの製造方法。
[5] 前記除去及び前記置換の少なくとも一方は、前記ジャケット部の液面を、前記容器の内部におけるシリカ分散液の液面より低い位置にして行う、前記[4]に記載のシリカゾルの製造方法。
[6] 前記除去及び前記置換は、前記分散媒の少なくとも一部を除去し、水を添加することで行われる、前記[1]~[5]のいずれか1に記載のシリカゾルの製造方法。
[7] 前記アルコールが、メタノールを含む、前記[1]~[6]のいずれか1に記載のシリカゾルの製造方法。
[8] アルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させて、前記アルコールを含むシリカ分散液を得る工程をさらに含む、前記[1]~[7]のいずれか1に記載のシリカゾルの製造方法。
[9] 前記除去の工程時間が7時間以下である、前記[1]~[8]のいずれか1に記載のシリカゾルの製造方法。
【0012】
[10] アルコールを含むシリカ分散液に対して、分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行うシリカゾル製造容器であって、
気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である、シリカゾル製造容器。
[11] 前記S(m2)が、0.01m2~5m2である、前記[10]に記載のシリカゾル製造容器。
[12] 前記V(m3)が、0.002m3~50m3である、前記[10]又は[11]に記載のシリカゾル製造容器。
【0013】
[13] 前記[1]~[9]のいずれか1に記載のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを添加して研磨組成物を製造する、研磨組成物の製造方法。
[14] 前記[1]~[9]のいずれか1に記載のシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨する工程を有する、研磨方法。
[15] 前記[14]に記載の研磨方法を含む、半導体ウェハの製造方法。
[16] 前記[14]に記載の研磨方法を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態に係るシリカゾルの製造方法によれば、粗大粒子の少ないシリカゾルを得ることができる。また、本実施形態に係るシリカゾル製造容器を用いて、同様に粗大粒子の少ないシリカゾルを得ることができる。そのため、シリカゾルの精製のためのろ過を不要としたり、ろ過性低下を抑制したりすることができる。また、上記製造方法により得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨すると、被研磨体へ生じるスクラッチを低減できる。そのため、本実施形態に係る製造方法で得られるシリカゾルは、半導体ウェハや半導体デバイスの製造時にも非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳述するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いる。
【0016】
[シリカゾルの製造方法]
本実施形態に係るシリカゾルの製造方法は、以下の工程(2)を含む。
工程(2):アルコールを含むシリカ分散液に対して、分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行う工程
上記工程(2)において、シリカ分散液とはシリカ粒子が分散媒に分散した溶液である。工程(2)における除去及び置換の少なくとも一方は、気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である容器を用いて行う。
【0017】
また、本実施形態に係るシリカゾルの製造方法は、工程(2)の前に、下記工程(1)をさらに含むことが好ましい。また、工程(2)の前及び後の少なくとも一方に、下記工程(3)をさらに含むことも好ましい。工程(2)の前及び後の少なくとも一方や、工程(3)の前及び後の少なくとも一方において、下記工程(4)を含んでもよい。
工程(1):テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させて、上記アルコールを含むシリカ分散液を得る工程
工程(3):上記アルコールを含むシリカ分散液、又は、上記工程(2)で得られた別の分散媒に置換されたシリカゾルに、分散剤を添加する工程
工程(4):上記アルコールを含むシリカ分散液、上記工程(2)で得られた別の分散媒に置換されたシリカゾル、又は、上記工程(3)で得られた分散剤が添加されたシリカゾルを濃縮する工程
【0018】
以下、工程(1)~工程(4)について説明する。
【0019】
〈工程(2)〉
工程(2)は、アルコールを含むシリカ分散液における分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行う工程である。
分散媒の少なくとも一部の除去とは、分散媒の一部が除去される際には、アルコールを含むシリカ分散液が濃縮されたことと同義となる。分散媒の置換とは、アルコールを含む分散媒が、それとは異なる別の分散媒に置換されることで、当初のアルコールを含むシリカ分散液とは異なるシリカ分散液、すなわちシリカゾルが得られることを意味する。
【0020】
分散媒の少なくとも一部の除去及び分散媒の置換の少なくとも一方は、気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である容器を用いて行う。
【0021】
上記気液界面の面積S(m2)とは、容器に液体を入れたときの液体上部の気液界面の面積であり、地表に並行な平面での容器内部の断面を取るときの、断面の面積の最大値で代表させるものとする。
【0022】
かかる容器を用いて分散媒の少なくとも一部の除去及び置換の少なくとも一方を行うことにより、シリカゾル中の粗大粒子の発生を抑制できることが分かった。
なお、本明細書における粗大粒子とは、シリカ粒子同士が凝集したものであり、粒子径が0.5μm以上の粒子を意味する。
本明細書におけるシリカゾル中の粗大粒子の粒子径は、粒度分布計を用いてシリカゾルを測定することにより、求めることができる。
【0023】
工程(2)において、気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下となる容器を用いることで、シリカゾル中での粗大粒子の発生を抑制できる理由は定かではないか、以下のように考えている。
シリカ分散液の分散媒の除去や置換を行う工程において、シリカ分散液と気相の界面では分散媒が蒸発して局所的にシリカ濃度が高くなる。シリカ分散液中のシリカ粒子の濃度が高くなると、シリカ粒子同士の縮合、ひいては凝集が進行し、粗大粒子となる。これに対し、容器の容積V(m3)に対する気液界面の面積S(m2)を小さくすることで、得られるシリカゾルの単位体積あたりの、分散媒の除去や置換を行う工程で生成する粗大粒子の数を少なくすることができる。
【0024】
S/V(m-1)で表される値は5m-1以下であればよいが、粗大粒子の発生をより抑制する観点から、4.8m-1以下が好ましく、4.5m-1以下がより好ましく、4.2m-1以下がさらに好ましく、4m-1以下が特に好ましい。また、S/V(m-1)で表される値の下限は特に限定されないが、通常0.05m-1以上となる。
【0025】
工程(2)における気液界面の面積S(m2)は0.01m2~5m2が好ましい。ここで、原料投入ノズルや、温度計などの計器を容器内に配置しやすくする点から、気液界面の面積S(m2)は、0.01m2以上が好ましく、0.1m2以上がより好ましく、0.5m2以上がさらに好ましい。また、容器内の温度や物質濃度の均一性を保ちやすくする点から、気液界面の面積S(m2)は、5m2以下が好ましく、4.5m2以下がより好ましく、4m2以下がさらに好ましい。
【0026】
工程(2)に用いる容器の容積V(m3)は0.002m3~50m3が好ましい。ここで、1回の合成における収量を向上させる点から、容器の容積V(m3)は0.002m3以上が好ましく、0.01m3以上がより好ましく、0.1m3以上がさらに好ましい。また、容器内の温度や各物質の濃度の均一性を保ちやすくする点から、容器の容積V(m3)は50m3以下が好ましく、45m3以下がより好ましく、40m3以下がさらに好ましい。
【0027】
工程(2)の開始時に容器に入れるシリカ分散液の量は、容器の容積の6割~9割5分が好ましい。ここで、シリカ分散液の量が多いほど得られるシリカゾル単位体積当たりの粗大粒子数が低減する点から、上記量は容器の容積の6割以上が好ましく、7割以上がより好ましく、8割以上がさらに好ましい。また、撹拌や沸騰に伴う、分散液の容器上部への飛散を防止する観点から、上記量は容器の容積の9割5分以下が好ましく、9割4分以下がより好ましく、9割3分以下がさらに好ましい。
【0028】
上記容器はジャケット部を有することがシリカ分散液を簡便に加熱できる点から好ましい。ジャケット部を有するとは、温度調整を可能とするための2層構造となる部分を意味し、通常は内槽の外側に設けられる。ジャケット部の2層構造の空洞部分には蒸気、水、油等を入れて温度管理を行うことができる。
【0029】
ジャケット部の空洞部分に液体を入れる場合には、その液面が、内槽となる容器の内部におけるシリカ分散液よりも低い位置として、除去や置換を行うことが、槽の壁面、シリカ粒子の分散液及び気相部の三相界面におけるシリカ粒子の凝集を抑制できる点から好ましい。
【0030】
工程(2)では、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下となる容器を用いて、アルコールを含むシリカ分散液の分散媒の少なくとも一部の除去及び分散媒の置換の少なくとも一方を行うが、その一態様として、シリカ分散液の分散媒の少なくとも一部の除去を上記容器を用いて行う。
この場合、シリカ分散液の分散媒の少なくとも一部の除去を上記容器を用いて行った後、異なる容器を用いて分散媒の置換を行うことで、シリカゾルが得られる。ここで、シリカ分散液の分散媒のすべてを上記容器を用いて除去した場合には、シリカ粒子が得られることになる。この場合には、分散媒の置換ではなく、別の分散媒をシリカ粒子に添加することで、シリカゾルを得ることになる。
【0031】
工程(2)の別の態様として、シリカ分散液の分散媒の置換を上記容器を用いて行う。
この場合、シリカ分散液の分散媒の置換を上記容器を用いて行い、分散媒の除去は行わない又は別途、分散媒の一部の除去を行うことで、シリカゾルが得られる。ここで、分散媒の一部の除去を別途行うとは、上記置換の前又は後に、異なる容器を用いて分散媒の一部を除去し、濃縮を行うこととなる。
【0032】
工程(2)のさらなる別の態様として、シリカ分散液の分散媒の一部の除去及び分散媒の置換の両方を上記容器を用いて行う。
この場合、シリカ分散液の分散媒の一部を除去、すなわち濃縮し、次いで、同じ容器内で分散媒の置換を行うことで、シリカゾルが得られる。また、シリカ分散液の分散媒の置換を行ってシリカゾルを得た後、同じ容器内で分散媒の一部を除去、すなわちシリカゾルの濃縮を行ってもよい。
【0033】
上記態様のうち、後述するように、シリカ分散液の分散媒を水に置換することで半導体ウェハ又は半導体デバイスの製造に使われる研磨液として好適に使用できる点から、工程(2)として、少なくとも、アルコールを含むシリカ分散液の分散媒の置換を、上記容器を用いて行うことが好ましい。
【0034】
また、生産性の観点から、工程(2)は、アルコールを含むシリカ分散液の分散媒の一部を除去、すなわちシリカ分散液を濃縮し、次いで同じ容器内で分散媒の置換を行うことがより好ましい。
【0035】
なお、最終的に得られるシリカゾル中のシリカ濃度を容易に調整できる観点からは、アルコールを含むシリカ分散液の分散媒を水などの別の分散媒に置換してシリカゾルを得た後、得られたシリカゾルの分散媒の一部を除去して所望のシリカ濃度まで濃縮することも、より好ましい。また、分散媒の除去と置換を繰り返し行ってもよい。
【0036】
工程(2)におけるシリカ分散液の分散媒の除去は、その分散媒の沸点まで加熱することで蒸発により行うことができる。加熱は減圧しながら行ってもよく、その場合には常圧で加熱する場合に比べて、分散媒の沸点が低くなるため、加熱に要するエネルギーコストを削減できる。
【0037】
工程(2)において、シリカ分散液の分散媒の一部を除去し、シリカ分散液の濃縮を行う場合の濃縮率は、101~220質量%が好ましい。ここで、生産性の観点から、上記濃縮率は101質量%以上が好ましく、102質量%以上がより好ましい。また、得られるシリカゾルの粘度のばらつきや、粗大粒子形成をより好適に抑制する観点から、上記濃縮率は220質量%以下が好ましく、200質量%以下がより好ましい。
【0038】
なお、濃縮率は、下記式(1)によって求められる値である。
濃縮率(質量%)=(x/y)×100 ・・・(1)
上記式(1)中、xはアルコールを含むシリカ分散液の質量であり、yは濃縮後のシリカ分散液の質量である。
【0039】
工程(2)におけるシリカ分散液の分散媒の置換は、その分散媒の沸点まで加熱して分散媒を蒸発させながら、異なる分散媒を加えることで行うことができる。加熱は減圧しながら行ってもよく、その場合には常圧で加熱する場合に比べて、分散媒の沸点が低くなるため、加熱に要するエネルギーコストを削減できる。
【0040】
上記分散媒の置換は、シリカゾルにおけるシリカ粒子の分散性向上の観点から、水に置換することが好ましい。さらに、得られるシリカゾルの分散媒を水とすることで、半導体ウェハ又は半導体デバイスの製造に使われる研磨液として好適に使用できる。
上記に加え、水への置換により、シリカ分散液における分散媒であったアルコールに加えて、シリカ分散液中に残留しているアルカリ触媒も除去できる。
【0041】
工程(2)におけるシリカ分散液の分散媒の置換は、液面が一定に保たれるように新たな別の分散媒を添加することが好ましい。上記液面が一定とは、液面変化が一切ないような厳密さを要求するものではなく、例えば、単位時間あたりに留去する分散媒の体積と、添加する分散媒の体積との比を、4:6~6:4となるように維持することが好ましく、同比は4.5:5.5~5.5:4.5となるように維持することがより好ましい。これにより、得られるシリカゾルの粘度のばらつきや、粗大粒子の形成をより抑制できる。
【0042】
工程(2)における分散媒の除去を行う工程時間は、0~10時間が好ましい。ここで、粗大粒子数をより減らす観点から、上記工程時間は10時間以下が好ましく、7時間以下がより好ましく、6時間以下がさらに好ましく、0時間、すなわち分散媒の除去を行わなくてもよい。一方で、分散媒の除去を行うとシリカゾルの生産性が向上する。
【0043】
工程(2)における分散媒の置換を行う工程時間は、1~30時間が好ましい。ここで、粗大粒子数をより減らし、シリカゾルの製造時間を短縮する観点から、上記工程時間は30時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましく、15時間以下がさらに好ましい。一方、分散媒の蒸発速度が大きくなりすぎ、分散媒の蒸気にシリカ粒子が同伴することで、容器上部やガス配管の汚れの原因になるのを防ぐ観点から、上記工程時間は1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、6時間以上がさらに好ましい。
【0044】
工程(2)において、分散媒であるアルコールを水に置換する場合、置換を行う温度は、例えば、50~100℃が好ましい。
【0045】
工程(2)のアルコールを含むシリカ分散液におけるアルコールは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等が挙げられる。これらアルコールは1種を用いても、2種以上を併用してもよい。
中でも、シリカ粒子の原料となるテトラアルコキシシランを溶解しやすく、後述する加水分解反応及び縮合反応で用いるものと副生するものとが同一で、製造上の利便性に優れるといった観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールがさらに好ましい。
【0046】
シリカ分散液を構成する分散媒中のアルコール濃度は10~96質量%が好ましい。アルコール濃度は、後述するシリカ粒子の生成工程でシリカ粒子の粒径制御性に優れる点から10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、シリカ粒子の分散性に優れる点から、上記アルコール濃度は96質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。また、分散媒中に含まれるアルコールがメタノールのみである場合には、分散媒中のメタノール濃度は、上記アルコール濃度と同様の範囲が好ましい。
【0047】
シリカ分散液を構成する分散媒は、アルコール以外の溶液を含んでいてもよい。アルコール以外の溶液として、水や、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、酢酸エチル等のエステル等が挙げられる。これらは1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0048】
シリカ分散液には、シリカ粒子及び上記分散媒の他、シリカ分散媒を得るにあたって用いたアルカリ触媒や分散剤等が含まれていてもよい。
【0049】
〈工程(1)〉
工程(1)は、テトラアルコキシシランを加水分解反応及び縮合反応させて、工程(2)におけるアルコールを含むシリカ分散液を得る工程であり、工程(2)の前に含むことが好ましい。
【0050】
工程(1)では、例えば、アルカリ触媒を含む溶液(A)に、テトラアルコキシシランを含む溶液(B)及び必要に応じて溶液(C)を添加することにより、テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応をさせることができる。
【0051】
溶液(A)は、アルカリ触媒を含む。
アルカリ触媒としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチル水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらのアルカリ触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリ触媒の中でも、触媒作用、粒子形状の制御性、金属混入の抑制、反応後の除去性等の観点から、アンモニアが好ましい。
【0052】
溶液(A)は、アルコールを含むことが好ましい。
アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等が挙げられる。これらのアルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルコールの中でも、テトラアルコキシシランを溶解しやすく、加水分解反応及び縮合反応で用いるものと副生するものとが同一で、製造上の利便性に優れることから、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが更に好ましい。
【0053】
溶液(A)は、アルコキシシランの加水分解を促進させることができることから、水を含むことが好ましい。また、溶液(A)は、アルコール、水以外の溶媒を含んでもよい。
【0054】
溶液(A)中のアルカリ触媒の濃度は、0.5~2.0質量%が好ましい。ここでシリカ粒子の凝集をより抑制し、シリカゾル中のシリカ粒子の良好な分散安定性を得る観点から、アルカリ触媒の濃度は0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がより好ましい。また、反応制御性の観点から、アルカリ触媒の濃度は2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。
【0055】
溶液(A)中のアルコールの濃度は、10~96質量%が好ましい。ここで、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性の観点から、アルコールの濃度は10質量%以上が好ましく、69質量%以上がより好ましい。また、加水分解反応で生成するケイ酸の反応液中での分散性の観点から、アルコールの濃度は96質量%以下が好ましく、94質量%以下がより好ましい。
【0056】
溶液(A)中の水の濃度は、3~90質量%が好ましい。ここで、加水分解反応で生成するケイ酸の反応液中での分散性の観点から、水の濃度は3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性の観点から、水の濃度は90質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0057】
溶液(A)中のアルコール、水以外の溶媒の濃度は、アルカリ触媒とアルコールと水の残部の濃度とすることが好ましい。
【0058】
溶液(B)は、テトラアルコキシシランを含む。
テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン等が挙げられる。これらのテトラアルコキシシランは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのテトラアルコキシシランの中でも、加水分解反応が早く、未反応物が残留しづらく、生産性に優れ、安定なシリカゾルを容易に得ることができることから、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましく、テトラメトキシシランがより好ましい。
【0059】
溶液(B)は、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性に優れることから、溶媒を含むことが好ましい。
【0060】
溶液(B)中の溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチル等のエステル等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の中でも、加水分解反応及び縮合反応で用いるものと副生するものとが同一で、製造上の利便性に優れることから、アルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが更に好ましい。
【0061】
溶液(B)中のテトラアルコキシシランの濃度は、76~89質量%が好ましい。ここで、用いる溶媒の量を低減し、シリカ粒子の生産性を高める観点から、テトラアルコキシシランの濃度は76質量%以上が好ましく、77質量%以上がより好ましい。また、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性の観点から、テトラアルコキシシランの濃度は、89質量%以下が好ましく、88質量%以下がより好ましい。
【0062】
溶液(B)中の溶媒の濃度は、11~24質量%が好ましい。ここで、反応液中でのテトラアルコキシシランの分散性の観点から、溶媒の濃度は11質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましい。また、用いる溶媒の量を低減し、シリカ粒子の生産性を高める観点から、溶媒の濃度は24質量%以下が好ましく、23質量%以下がより好ましい。また、溶液(B)中の溶媒の濃度は、溶液(B)のテトラアルコキシシランの残部の濃度であることが好ましい。
【0063】
溶液(C)は、水を含む溶液であり、さらにアルカリ触媒を含むことが好ましい。
溶液(C)中のアルカリ触媒は、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチル水酸化アンモニウム等が挙げられる。これらのアルカリ触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリ触媒の中でも、触媒作用に優れ、粒子形状を制御しやすく、金属の混入を抑制することができ、揮発性が高く加水分解反応及び縮合反応後の除去性に優れることから、アンモニアが好ましい。
【0064】
溶液(C)は、水以外の溶媒を含んでもよい。
溶液(C)中の水以外の溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
溶液(C)中のアルカリ触媒の濃度は、0質量%~5質量%が好ましい。アルカリ触媒は0質量%、すなわち含まなくてもよいが、アルカリ触媒を含む場合には、その濃度は1質量%以上が好ましい。また、反応が過度に速く進行せず、反応制御性に優れる観点から、アルカリ触媒の濃度は5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。
【0066】
溶液(C)中の水の濃度は、95質量%~100質量%が好ましい。ここで、加水分解反応で生成するケイ酸の反応液中での分散性の観点から、水の濃度は95質量%以上が好ましく、96質量%以上がより好ましい。また、水の濃度は100質量%、すなわち溶液(C)は水のみから構成されていてもよいが、他の成分を含む場合には、99質量%以下が好ましい。
【0067】
溶液(C)中の水以外の溶媒の濃度は、水とアルカリ触媒の残部の濃度とすることが好ましい。
【0068】
加水分解反応及び縮合反応の反応系内の反応液に対する水の濃度は、反応中に大きく変化しないようにすることが好ましい。これは、工程(1)を通して中間生成物であるケイ酸の反応液中での分散性が変化すると、シリカ粒子の粒径制御性が損なわれるためである。水の濃度の変化率は、75%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがより好ましい。
【0069】
反応系内の水の濃度とは、加水分解反応及び縮合反応における反応系内の液体及び液体に溶解した物質の総量中の水の総量をいう。反応系内の液体及び液体に溶解した物質の総量は、反応開始時は溶液(A)のみとなり、反応中は溶液(A)、溶液(B)、溶液(C)及び反応で生成したアルコールの総量となる。反応系内の液体及び液体に溶解した物質に、液体に分散しているシリカ粒子は含まない。
【0070】
加水分解反応及び縮合反応の反応系内の反応液に対するアルカリ触媒の濃度は、0.5~2.0質量%に維持することが好ましい。ここで、シリカ粒子の凝集を抑制し、シリカゾル中のシリカ粒子の分散安定性を高める観点から、アルカリ触媒の濃度は0.5質量%以上に維持することが好ましく、0.6質量%以上に維持することがより好ましい。また、反応が過度に速く進行せず、反応制御性に優れる観点から、アルカリ触媒の濃度は2.0質量%以下に維持することが好ましく、1.5質量%以下に維持することがより好ましい。
【0071】
反応系内のアルカリ触媒の濃度とは、加水分解反応及び縮合反応における反応系内の液体及び液体に溶解した物質の総量中のアルカリ触媒の総量をいう。
【0072】
テトラアルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応の反応温度、すなわち、反応系内の反応液の温度は15~50℃が好ましい。ここで、反応が過度に遅く進行せず、制御性に優れる観点から、反応液の温度は15℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。また、加水分解反応速度と縮合反応速度のバランスの観点から、反応液の温度は50℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。
【0073】
本工程(1)において得られるシリカ粒子の分散液に含まれるアルコールが、上記工程(2)において除去もしくは置換されるシリカ分散液における分散媒のひとつであるアルコールとなる。
【0074】
〈工程(3)〉
工程(3)は、上記工程(2)に用いるアルコールを含むシリカ分散液、又は、上記工程(2)で得られた別の分散媒に置換されたシリカゾルに、分散剤を添加する工程であり、工程(2)の前及び後の少なくとも一方に、さらに含むことが好ましい。
工程(3)で分散剤を添加することにより、得られるシリカゾルにおけるシリカ粒子の凝集をより防ぐことができ、粗大粒子形成の抑制に寄与する。
【0075】
分散剤は、例えば、無機酸、無機酸塩、有機酸、有機酸塩、界面活性剤等が挙げられる。これらの分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの分散剤の中でも、高温でも分解しにくく、揮発性が低く、シリカ分散液又はシリカゾルにおけるシリカ粒子の凝集・沈降の抑制を維持することができることから、有機酸、有機酸塩が好ましく、分解温度及び沸点が共に60℃以上である有機酸、有機酸塩がより好ましく、クエン酸、安息香酸、安息香酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸テトラメチルアンモニウムがさらに好ましい。
【0076】
無機酸は、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、アルキルリン酸エステル、ホウ酸、ピロリン酸、ホウフッ酸、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。これらの無機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの無機酸の中でも、硫酸、硝酸が好ましい。
【0077】
無機酸塩は、例えば、硫酸アンモニウム、塩酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、ホウ酸アンモニウム八水和物等が挙げられる。これらの無機酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの無機酸塩の中でも、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムが好ましい。
【0078】
有機酸としては、例えば、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、コハク酸、マロン酸、フマル酸、フタル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコ-ル酸、サリチル酸、グリセリン酸、乳酸等が挙げられる。これらの有機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの有機酸の中でも、クエン酸、安息香酸が好ましい。
【0079】
有機酸塩は、例えば、安息香酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、シュウ酸アンモニウム一水和物、ギ酸アンモニウム、サリチル酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸テトラメチルアンモニウム等が挙げられる。これらの有機酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの有機酸塩の中でも、安息香酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸テトラメチルアンモニウムが好ましい。
【0080】
分散剤の添加量は、シリカ粒子に対して10~3000質量ppmが好ましい。ここで、シリカ粒子に対する分散剤の添加量は10質量ppm以上が好ましく、30質量ppm以上がより好ましく、また、3000質量ppm以下が好ましく、1200質量ppm以下がより好ましい。
また、シリカゾルにおけるシリカ粒子の凝集抑制の観点から、pHが6.9未満にならない範囲で分散剤を添加することが好ましい。
【0081】
〈工程(4)〉
工程(4)は、工程(2)の前のアルコールを含むシリカ分散液、工程(2)で得られた別の分散媒に置換されたシリカゾル、又は、上記工程(3)で得られた分散剤が添加されたシリカゾルを濃縮する工程である。工程(4)は、工程(2)の前及び後の少なくとも一方や、工程(3)の前及び後の少なくともにおいて、含んでもよい。なお、工程(2)が分散媒の少なくとも一部の除去、すなわち分散媒の濃縮を含む場合には、工程(2)の前に本工程(4)は不要であるが、工程(2)とは異なる容器で工程(4)を行いたい事情がある場合には、本工程(4)を行ってもよい。
工程(4)は必要に応じて複数回行ってもよい。
【0082】
シリカ粒子の分散液を濃縮する方法は、工程(2)におけるシリカ分散液に対する分散媒の少なくとも一部の除去と同様であり、例えば、加熱濃縮、減圧濃縮等が挙げられる。
【0083】
[シリカゾル]
本実施形態に係るシリカゾルの製造方法によって得られるシリカゾルは、上記工程(2)を経ることにより、シリカ粒子が凝集した粗大粒子数の増加が抑制される。
【0084】
粗大粒子は、粒子径が0.5μm以上1.0μm未満のものと、粒子径が1.0μm以上のものとで、ろ過による取り除きやすさが異なるが、上述した本実施形態に係るシリカゾルの製造方法においては、そのいずれの粗大粒子についても、発生を抑制できる。
【0085】
シリカゾル1mL中に含まれる、粒子径が0.5μm以上1.0μm未満の粗大粒子数は、200万個以下が好ましく、180万個以下がより好ましく、150万個以下がさらに好ましく、100万個以下が特に好ましく、少ないほど好ましい。粒子径が0.5μm以上1.0μm未満の粗大粒子は、シリカゾルを研磨に用いる際にスクラッチの原因となり、また、ろ過による除去も難しいため、低減することが望まれる。
【0086】
また、シリカゾル1mL中に含まれる、粒子径が1.0μm以上の粗大粒子数は、30万個以下が好ましく、28万個以下がより好ましく、25万個以下がさらに好ましく、20万個以下が特に好ましく、少ないほど好ましい。粒子径が1.0μm以上の粗大粒子は、シリカゾルを研磨に用いる際に大きなスクラッチの原因となるため、低減することが望まれる。なお、粒子径が1.0μm以上の粗大粒子における粒子径の上限は特に限定されないが、例えば100μm以下である。
【0087】
なお、上記粗大粒子数はいずれも、ろ過工程を経ない場合の数である。また、本明細書におけるシリカゾル中の粗大粒子数は、粗大粒子の粒子径と同様、粒度分布計を用いて測定できる。具体的には、シリカゾルを粒度分布計に注入し、装置内部にて水で約600倍に希釈して検出器に導入することで、シリカゾル1mL当たりに含まれるシリカ粒子の粗大粒子数を測定できる。
【0088】
シリカゾルの粘度は、取り扱い性の観点から90mPa・s以下が好ましく、60mPa・s以下がより好ましく、30mPa・s以下がさらに好ましい。また、粘度の下限は特に限定されないが、通常2mPa・s以上である。
本実施形態におけるシリカゾルの粘度とは、25℃、ずり速度150/秒の条件で、E型粘度計にて測定される値である。
【0089】
シリカゾル中のシリカ粒子の濃度は3~50質量%が好ましい。ここで、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる観点から、シリカ粒子の濃度は3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、シリカゾルや研磨組成物中のシリカ粒子の凝集を抑制することができ、シリカゾルや研磨組成物の保存安定性に優れるとの観点から、シリカ粒子の濃度は50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0090】
シリカゾル中に不純物として混入した金属、すなわち金属不純物は、シリコンウェハの研磨において、被研磨体の表面に付着し、被研磨体を汚染することで、被研磨体や最終製品の特性に悪影響を及ぼす。
また、シリカゾルに金属不純物が存在すると、酸性を示す表面シラノール基と金属不純物とが配位的な相互作用が発生し、酸性度等の表面シラノール基の化学的性質を変化させたり、シリカ粒子表面の立体的な環境、すなわちシリカ粒子の凝集のしやすさ等を変化させ、研磨レートに影響を及ぼす。
そのため、シリカゾル中の金属含有率、すなわち金属不純物の濃度は1質量ppm以下が好ましく、0.2質量ppm以下がより好ましい。
【0091】
シリカゾルの金属含有率は、高周波誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により測定する。具体的には、シリカ粒子を0.4g含むシリカゾルを正確に量り取り、硫酸とフッ酸を加え、加温、溶解、蒸発させ、残存した硫酸滴に対して、その総量が正確に10gとなるよう純水を加えて試験液を作製し、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定する。
対象の金属は、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、コバルト、クロム、銅、マンガン、鉛、チタン、銀、ニッケルとし、これらの金属の含有率の合計を金属含有率とする。
【0092】
シリカゾルの金属含有率は、例えば、アルコキシシランを主原料として加水分解反応及び縮合反応を行ってシリカ粒子を得ることで、1質量ppm以下とすることができる。
水ガラス等の珪酸アルカリの脱イオンによる方法では、原料由来のナトリウム等が残存するため、シリカ粒子の金属含有率を1質量ppm以下とすることが極めて困難である。
【0093】
シリカゾル中の分散媒の含有率は50~97質量%が好ましい。ここで、シリカゾルや研磨組成物中のシリカ粒子の凝集を好適に抑制し、シリカゾルや研磨組成物の保存安定性に優れるとの観点から、分散媒の含有率は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。また、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れる観点から、分散媒の含有率は97質量%以下が好ましく、96質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0094】
シリカゾル中のシリカ粒子や分散媒の含有率は、上述した工程(1)~工程(4)の各工程により、所望の範囲に設定できる。
【0095】
シリカゾルは、シリカ粒子及び分散媒以外に、その性能を損なわない範囲において、必要に応じて、酸化剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、pH緩衝剤、界面活性剤、キレート剤、抗菌殺生物剤等の他の成分を含んでもよい。
【0096】
特に、シリカゾルの保存安定性に優れることから、シリカゾル中に抗菌殺生物剤を含ませることが好ましい。
【0097】
抗菌殺生物剤としては、例えば、過酸化水素、アンモニア、第四級アンモニウム水酸化物、第四級アンモニウム塩、エチレンジアミン、グルタルアルデヒド、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。これらの抗菌殺生物剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの抗菌殺生物剤の中でも、シリカゾルとの親和性に優れることから、過酸化水素が好ましい。
抗菌殺生物剤は、一般に殺菌剤と言われるものも含む。
【0098】
シリカゾル中の抗菌殺生物剤の含有率は0.0001~10質量%が好ましい。ここで、シリカゾルの保存安定性の観点から、抗菌殺生物剤の含有率は0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましい。また、シリカゾルの本来の性能を損なわない観点から、抗菌殺生物剤の含有率は10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0099】
シリカゾルのpHは6.0~8.0が好ましい。ここで、分散安定性に優れ、シリカ粒子の凝集をより抑制する観点から、シリカゾルのpHは6.0以上が好ましく、6.5以上がより好ましい。また、シリカ粒子の溶解を防ぎ、長期間の保存安定性の観点から、シリカゾルのpHは8.0以下が好ましく、7.8以下がより好ましい。
シリカゾルのpHは、pH調整剤を添加することで、所望の範囲に設定することができる。
【0100】
[シリカ粒子の物性]
本実施形態に係るシリカゾルの製造方法により製造されるシリカゾル中のシリカ粒子の好適物性等について、以下に説明する。
【0101】
シリカ粒子の平均一次粒子径は5~100nmが好ましい。ここで、シリカゾルの保存安定性の観点から、平均一次粒子径は5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。また、シリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減し、シリカ粒子の沈降を抑制する観点から、平均一次粒子径は100nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましい。
【0102】
本明細書において、シリカ粒子の平均一次粒子径は、BET法により測定される値を用いる。具体的には、比表面積自動測定装置を用いてシリカ粒子の比表面積を測定し、下記式(2)を用いて平均一次粒子径を算出する。
平均一次粒子径(nm)=6000/(比表面積(m2/g)×密度(g/cm3))・・・(2)
【0103】
シリカ粒子の平均一次粒子径は、公知の条件及び方法により、所望の範囲に設定することができる。
【0104】
シリカ粒子の平均二次粒子径は10~200nmが好ましい。ここで、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れ、シリカゾルの保存安定性に優れる観点から、平均二次粒子径は10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。また、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れ、シリカ粒子の沈降をより抑制する観点から、シリカ粒子の平均二次粒子径は200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。
【0105】
本明細書において、シリカ粒子の平均二次粒子径は、DLS(Dynamic Light Scattering)法により測定される値を用いる。具体的には、動的光散乱粒子径測定装置を用いて測定する。
【0106】
シリカ粒子の平均二次粒子径は、公知の条件及び方法により、所望の範囲に設定することができる。
【0107】
シリカ粒子のcv値は10~50%が好ましい。ここで、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れる観点から、シリカ粒子のcv値は10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、研磨後の洗浄における粒子等の除去性に優れる観点から、シリカ粒子のcv値は50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
【0108】
本明細書において、シリカ粒子のcv値は、動的光散乱粒子径測定装置を用いてシリカ粒子の平均二次粒子径を測定し、下記式(3)を用いて算出される値を用いる。
cv値(%)=(標準偏差(nm)/平均二次粒子径(nm))×100(%)・・・(3)
【0109】
シリカ粒子の会合比は1.0~4.0が好ましい。ここで、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れ、シリコンウェハの生産性に優れる観点から、シリカ粒子の会合比は1.0以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。また、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減でき、シリカ粒子の凝集をより抑制する観点から、シリカ粒子の会合比は4.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましい。
【0110】
本明細書において、シリカ粒子の会合比は、前述の平均一次粒子径及び平均二次粒子径とから、下記式(4)を用いて算出する。
会合比=平均2次粒子径/平均1次粒子径・・・(4)
【0111】
シリカ粒子の表面シラノール基密度は、0.1個/nm2~10個/nm2が好ましく、0.5個/nm2~9個/nm2がより好ましく、2.0個/nm2~8個/nm2が更に好ましい。シリカ粒子の表面シラノール基密度が0.1個/nm2以上であると、シリカ粒子が適度な表面反発を有し、シリカゾルの分散安定性に優れる。また、シリカ粒子の表面シラノール基密度が10個/nm2以下であると、シリカ粒子が適度な表面反発を有し、シリカ粒子の凝集を抑制することができる。
【0112】
シリカ粒子の表面シラノール基密度は、シアーズ法により測定する。具体的には、下記に示す条件で測定し、算出する。
【0113】
シリカ粒子1.5gに相当するシリカゾルを採取し、純水を加えて液量を90mLにする。25℃の環境下、pHが3.6になるまで0.1mol/Lの塩酸水溶液を加える。そして、塩化ナトリウム30gを加え、純水を徐々に加えながら塩化ナトリウムを完全に溶解させ、最終的に試験液の総量が150mLになるまで純水を加え、試験液を得る。
【0114】
得られた試験液を自動滴定装置に入れ、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが4.0から9.0になるのに要する0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴定量A(mL)を測定する。
【0115】
下記式(5)を用いて、シリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の消費量V’(mL)を算出し、下記式(6)を用いて、シリカ粒子の表面シラノール基密度ρ(個/nm2)を算出する。
【0116】
V’=(A×f×100×1.5)/(W×C) ・・・(5)
A:シリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴定量(mL)
f:用いた0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の力価
C:シリカゾル中のシリカ粒子の濃度(質量%)
W:シリカゾルの採取量(g)
【0117】
ρ=(B×NA)/(1018×M×SBET) ・・・(6)
B:消費量V’から算出したシリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した水酸化ナトリウム量(mol)
NA:アボガドロ数(個/mol)
M:シリカ粒子量(1.5g)
SBET:平均1次粒子径の算出の際に測定したシリカ粒子の比表面積(m2/g)
【0118】
上記シリカ粒子の表面シラノール基密度の測定・算出方法は、「G.W.Sears,Jr.,Analytical Chemistry,Vol.28,No.12,pp.1981-1983(1956).」、「羽場真一,半導体集積回路プロセス用研磨剤の開発,高知工科大学博士論文,pp.39-45,2004年3月」、「日本国特許第5967118号公報」、「日本国特許第6047395号公報」を参考にする。
【0119】
シリカ粒子の表面シラノール基密度は、アルコキシシランの加水分解反応及び縮合反応の条件を調整することで、所望の範囲に設定することができる。
【0120】
シリカ粒子の形状は特に限定されないが、例えば、球状、鎖状、繭状(こぶ状や落花生状とも称される)、異形状(例えば、疣状、屈曲状、分岐状等)等が挙げられる。これらのシリカ粒子の形状の中でも、研磨時のシリコンウェハに代表される被研磨体の表面粗さや傷を低減させたい場合は、球状が好ましく、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートをより高めたい場合は、異形状が好ましい。
【0121】
[シリカゾル製造容器]
本実施形態に係るシリカゾル製造容器は、アルコールを含むシリカ分散液に対して、分散媒の少なくとも一部の除去、及び、分散媒の置換、の少なくとも一方を行うのに用いる。
シリカゾル製造容器は、気液界面の面積をS(m2)、容器の容積をV(m3)とした際に、S/V(m-1)で表される値が5m-1以下である。上記気液界面の面積S(m2)とは、容器に液体を入れたときの液体上部の気液界面の面積であり、地表に並行な平面での容器内部の断面を取るときの、断面の面積の最大値で代表させるものとする。
【0122】
シリカゾル製造容器の好ましい態様は、上記[シリカゾルの製造方法]の〈工程(2)〉における容器の好ましい態様と同様である。
すなわち、S/V(m-1)で表される値は5m-1以下であればよいが、粗大粒子の発生をより抑制する観点から、4.8m-1以下が好ましく、4.5m-1以下がより好ましく、4.2m-1以下がさらに好ましく、4m-1以下が特に好ましい。また、S/V(m-1)で表される値の下限は特に限定されないが、通常0.05m-1以上となる。
【0123】
また、シリカゾル製造容器における気液界面の面積S(m2)は0.01~5m2が好ましい。ここで、原料投入ノズルや、温度計などの計器を容器内に配置しやすくする点から、気液界面の面積S(m2)は、0.01m2以上が好ましく、0.1m2以上がより好ましく、0.5m2以上がさらに好ましい。また、容器内の温度や物質濃度の均一性を保ちやすくする点から、気液界面の面積S(m2)は、5m2以下が好ましく、4.5m2以下がより好ましく、4m2以下がさらに好ましい。
【0124】
さらに、シリカゾル製造容器の容積V(m3)は0.002~50m3が好ましい。ここで、1回の合成における収量を向上させる点から、容器の容積V(m3)は0.002m3以上が好ましく、0.01m3以上がより好ましく、0.1m3以上がさらに好ましい。また、容器内の温度や各物質の濃度の均一性を保ちやすくする点から、容器の容積V(m3)は50m3以下が好ましく、45m3以下がより好ましく、40m3以下がさらに好ましい。
【0125】
上記の他、シリカゾル製造容器を用いてシリカゾルを製造する際の、容器に入れるシリカ分散液の量等の使用方法・使用条件や、ジャケット部等の仕様についても、上記[シリカゾルの製造方法]の〈工程(2)〉における好ましい態様と同様である。
【0126】
[研磨組成物及びその製造方法]
本実施形態に係るシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルは、研磨組成物として好適に用いることができる。
研磨組成物は、本実施形態に係るシリカゾルの製造方法により製造されたシリカゾルと、水溶性高分子と、を含むことが好ましい。
【0127】
すなわち、本実施形態に係る研磨組成物の製造方法は、上記シリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを添加して研磨組成物を製造する工程を含み、シリカゾルの添加は、水溶性高分子に対して行うことが好ましい。
【0128】
水溶性高分子は、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨組成物の濡れ性を高める。水溶性高分子は、水親和性の高い官能基を保有する高分子であることが好ましい。水親和性の高い官能基とシリカ粒子の表面シラノール基との親和性が高く、研磨組成物中でより近傍にシリカ粒子と水溶性高分子とが安定して分散する。そのため、シリコンウェハに代表される被研磨体への研磨の際、シリカ粒子と水溶性高分子との効果が相乗的に機能する。
【0129】
水溶性高分子は、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン骨格を有する共重合体、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体等が挙げられる。
【0130】
セルロース誘導体は、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、加水分解処理を施したヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0131】
ポリビニルピロリドン骨格を有する共重合体は、例えば、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとのグラフト共重合体等が挙げられる。
【0132】
ポリオキシアルキレン構造を有する重合体は、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体等が挙げられる。
【0133】
これらの水溶性高分子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの水溶性高分子の中でも、シリカ粒子の表面シラノール基との親和性が高く、相乗的に作用して被研磨体の表面に良好な親水性を与えることから、セルロース誘導体が好ましく、ヒドロキシエチルセルロースがより好ましい。
【0134】
水溶性高分子の重量平均分子量は1,000~3,000,000が好ましい。ここで、研磨組成物の親水性向上の観点から、水溶性高分子の重量平均分子量は1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。また、シリカゾルとの親和性に優れ、シリコンウェハに代表される被研磨体に対する研磨レートに優れるとの観点から、水溶性高分子の重量平均分子量は3,000,000以下が好ましく、2,000,000以下がより好ましく、1,000,000以下がさらに好ましい。
【0135】
本明細書において、水溶性高分子の重量平均分子量は、ポリエチレンオキサイド換算で、0.1mol/LのNaCl溶液を移動相とする条件で、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定される値である。
【0136】
研磨組成物中の水溶性高分子の含有率は0.02~10質量%が好ましい。ここで、研磨組成物の親水性向上の観点から、水溶性高分子の含有率は0.02質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。また、研磨組成物調製時のシリカ粒子の凝集を抑制する観点から、水溶性高分子の含有率は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0137】
研磨組成物は、シリカゾル及び水溶性高分子以外に、その性能を損なわない範囲において、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、例えば、塩基性化合物、研磨促進剤、界面活性剤、親水性化合物、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、pH緩衝剤、界面活性剤、キレート剤、抗菌殺生物剤等が挙げられる。
【0138】
特に、シリコンウェハに代表される被研磨体の表面に化学的な作用を与えて化学的研磨、すなわちケミカルエッチングができ、シリカ粒子の表面シラノール基との相乗効果により、シリコンウェハに代表される被研磨体の研磨速度を向上させることができることから、研磨組成物中に塩基性化合物を含ませることが好ましい。
【0139】
塩基性化合物は、例えば、有機塩基性化合物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等が挙げられる。これらの塩基性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの塩基性化合物の中でも、水溶性が高く、シリカ粒子や水溶性高分子との親和性に優れることから、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムが好ましく、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウムがより好ましく、アンモニアがさらに好ましい。
【0140】
研磨組成物中の塩基性化合物の含有率は0.001~5質量%が好ましい。ここで、シリコンウェハに代表される被研磨体の研磨速度を向上させる観点から、塩基性化合物の含有率は0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。また、研磨組成物の安定性の観点から、塩基性化合物の含有率は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0141】
研磨組成物のpHは8.0~12.0が好ましい。ここで、研磨組成物中のシリカ粒子の凝集を抑制し、研磨組成物の分散安定性に優れるとの観点から、研磨組成物のpHは8.0以上が好ましく、9.0以上がより好ましい。また、シリカ粒子の溶解を抑制し、研磨組成物の安定性に優れるとの観点から、研磨組成物のpHは12.0以下が好ましく、11.0以下がより好ましい。
研磨組成物のpHは、pH調整剤を添加することで、所望の範囲に設定することができる。
【0142】
研磨組成物は、本実施形態に係る製造方法により得られたシリカゾル、水溶性高分子、及び、必要に応じて他の成分を混合することで得られるが、保管、運搬を考慮し、一旦高濃度で調製し、研磨直前に水等で希釈してもよい。
【0143】
[研磨方法]
本実施形態に係る研磨方法は、上記本実施形態に係るシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルを含む研磨組成物を用いて研磨する工程を有する。
研磨組成物は、上記[研磨組成物及びその製造方法]に記載の研磨組成物を用いることが好ましい。シリカゾル中の粗大粒子が少ないため、本実施形態に係る研磨方法を用いると、研磨ムラや研磨傷の発生が抑制される。
【0144】
具体的な研磨の方法としては、例えば、シリコンウェハの表面を研磨パッドに押し付け、研磨パッド上に上記研磨組成物を滴下し、シリコンウェハの表面を研磨する方法が挙げられる。
【0145】
[半導体ウェハの製造方法、半導体デバイスの製造方法]
本実施形態に係る半導体ウェハの製造方法及び本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法は、上記[研磨方法]に記載した研磨方法を含む。
【0146】
[用途]
本実施形態に係るシリカゾルは、研磨用途に好適に用いることができ、例えば、シリコンウェハ等の半導体材料の研磨、ハードディスク基板等の電子材料の研磨、集積回路を製造する際の平坦化工程における研磨(化学的機械的研磨)、フォトマスクや液晶に用いる合成石英ガラス基板の研磨、磁気ディスク基板の研磨等に用いることができ、中でもシリコンウェハの研磨や化学的機械的研磨に特に好適に用いることができる。
【実施例0147】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0148】
[実施例1]
温度計、攪拌機、供給管及び留出ラインを備えた反応槽に、予めメタノール、純水及びアンモニアを混合した溶液(A)を仕込んだ。溶液(A)中の水の濃度は7.5質量%、溶液(A)中のアンモニアの濃度は1.2質量%とした。
一方で、テトラメトキシシランとメタノールとを5.7:1(質量比)で混合した溶液(B)と4.0質量%アンモニア水溶液の溶液(C)とをそれぞれ調製した。
【0149】
反応液の温度を23℃に調整し、溶液(A)100体積部中に、溶液(B)58.2体積部及び溶液(C)16.5体積部を、それぞれ等速で添加し、アルコールを含むシリカ粒子の分散液、すなわちアルコールを含むシリカ分散液を得た。
得られたアルコールを含むシリカ分散液を容器にいれて、分散媒の一部を除去した後、置換を行った。S/V(m-1)で表される値は4m-1であった。用いたアルコールを含むシリカ分散液の量は、容器の容積の9割とした。また、容器はジャケット部を有しており、ジャケット部内の熱媒の液面は、容器内部のシリカ分散液の液面より、常に低い位置になるように操作した。
【0150】
上記分散媒の一部の除去は、アルコールを含むシリカ分散液を加熱してメタノールを留去させて、シリカ分散液中のシリカ粒子の濃度が17.5質量%になるまで行った。分散媒の一部の除去に要した時間は10時間だった。
次に、上記置換は、分散媒の一部を除去することにより濃縮されたシリカ分散液を加熱してメタノールを留去させながら、液面を一定に保つように水を加えることで行った。分散媒が水に置き換わるまで、すなわち分散液の温度が水の沸点に到達するまでに要した時間は15時間だった。
【0151】
上記分散媒の一部の除去及び置換の後、最後にシリカ粒子の濃度が20質量%になるまで再度置換された分散媒の一部を除去し、シリカゾルを得た。
【0152】
[比較例1]
分散媒の一部の除去及び置換に、S/V(m-1)で表される値が7m-1である容器を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順でシリカゾルを製造した。
【0153】
[実施例2]
アルコールを含むシリカ分散液における分散媒の一部の除去に要した時間が4.5時間であったこと以外は、実施例1と同様の手順でシリカゾルを製造した。実施例1と比較して、上記分散媒の一部の除去に要した時間が短くなったのは、ジャケットに流す熱媒の温度を高く設定したためである。
【0154】
[比較例2]
分散媒の一部の除去及び置換に、S/V(m-1)で表される値が7m-1である容器を用い、また、アルコールを含むシリカ分散液における分散媒の一部の除去に要した時間が4.5時間であったこと以外は、実施例1と同様の手順でシリカゾルを製造した。
【0155】
[実施例3]
分散媒の一部の除去及び置換に、S/V(m-1)で表される値が0.5m-1である容器を用い、また、アルコールを含むシリカ分散液における分散媒の一部の除去に要した時間が3時間であり、さらに、分散媒が水に置き換わるまでに要した時間が10時間であったこと以外は、実施例1と同様の手順でシリカゾルを製造した。実施例1及び実施例2と比較して、上記分散媒の一部の除去、及び上記分散媒の置換に要した時間が短くなったのは、ジャケットに流す熱媒の温度を高く設定したためである。
【0156】
[参考例]
実施例1の分散媒の一部の除去及び置換に供する前のアルコールを含むシリカ分散液を、参考例としてそのまま用いた。
【0157】
[評価]
(粗大粒子数)
得られたシリカゾル又は参考例のシリカ分散液を粒度分布計(AccuSizer(登録商標)A7000、日本インテグリス社製)に注入し、装置内部にて水で約600倍に希釈して検出器に導入することで、シリカゾル又はシリカ分散液1mL当たりに含まれるシリカ粒子の粗大粒子数を測定した。結果を表1に示すが、粗大粒子径が0.5μm以上1.0μm未満のものと、粗大粒子径が1.0μm以上100μm以下のものと、分けて示す。
【0158】
(平均一次粒子径)
得られたシリカゾル中に含まれるシリカ粒子に対し、比表面積自動測定装置(BELSORP-MR1、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、BET法により比表面積を測定した。求められた比表面積から、下記式(2)を用いて平均一次粒子径を算出した。結果を表1に示す。
平均一次粒子径(nm)=6000/(比表面積(m2/g)×密度(g/cm3))・・・(2)
【0159】
(平均二次粒子径)
得られたシリカゾル中に含まれるシリカ粒子に対し、動的光散乱粒子径測定装置(ゼーターサイザーナノZS、マルバーン社製)を用いて、平均二次粒子径を求めた。結果を表1に示す。
【0160】
(表面シラノール基密度)
得られたシリカゾル中に含まれるシリカ粒子に対し、自動滴定装置(GT-200、日東精工アナリテック社製)を用いて、シアーズ法により表面シラノール基密度を求めた。
具体的には、シリカ粒子1.5gに相当するシリカゾルを採取し、純水を加えて液量を90mLにした。25℃の環境下、pHが3.6になるまで0.1mol/Lの塩酸水溶液を加えた。そして、塩化ナトリウム30gを加え、純水を徐々に加えながら塩化ナトリウムを完全に溶解させ、最終的に試験液の総量が150mLになるまで純水を加え、試験液を得た。
【0161】
得られた試験液を上記自動滴定装置に入れ、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが4.0から9.0になるのに要する0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴定量A(mL)を測定した。
【0162】
下記式(5)を用いて、シリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の消費量V’(mL)を算出し、下記式(6)を用いて、シリカ粒子の表面シラノール基密度ρ(個/nm2)を算出した。
結果を表1に示す。
【0163】
V’=(A×f×100×1.5)/(W×C) ・・・(5)
A:シリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴定量(mL)
f:用いた0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の力価
C:シリカゾル中のシリカ粒子の濃度(質量%)
W:シリカゾルの採取量(g)
【0164】
ρ=(B×NA)/(1018×M×SBET) ・・・(6)
B:消費量V’から算出したシリカ粒子1.5gあたりのpHが4.0から9.0になるのに要した水酸化ナトリウム量(mol)
NA:アボガドロ数(個/mol)
M:シリカ粒子量(1.5g)
SBET:平均1次粒子径の算出の際に測定したシリカ粒子の比表面積(m2/g)
【0165】
【0166】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、のそれぞれの比較から、アルコールを含むシリカ分散液の分散媒の一部の除去及び置換の工程時間が同じ場合、用いる容器のS/V(m-1)で表される値が小さいほど粗大粒子数が少ないことが分かった。さらに実施例1と実施例2、比較例1と比較例2、のそれぞれの比較から、用いる容器のS/V(m-1)で表される値を小さくしたうえで、濃縮時間を短くすると、粗大粒子数を著しく低減させることができることが分かった。
実施例3と、それ以外の実施例及び比較例との比較から、用いる容器のS/V(m-1)で表される値をより小さくし、濃縮時間を短くすることで、さらに粗大粒子数を低減させることができることが明らかになった。
本実施形態に係るシリカゾルの製造方法で得られたシリカゾルは、シリカゾル中の粗大粒子数を低減できる。そのため、研磨用途にかかるシリカゾルを用いることにより、研磨ムラや研磨傷の発生を好適に抑制できる。その結果、例えば、シリコンウェハ等の半導体材料の研磨、ハードディスク基板等の電子材料の研磨、集積回路を製造する際の平坦化工程における研磨(化学的機械的研磨)、フォトマスクや液晶に用いる合成石英ガラス基板の研磨、磁気ディスク基板の研磨等に好適に用いることができ、中でもシリコンウェハの研磨や化学的機械的研磨に特に好適に用いることができる。