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特開2024-109374非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法および非対称含フッ素フマル酸ジエステル類組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109374
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法および非対称含フッ素フマル酸ジエステル類組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/14 20060101AFI20240806BHJP
   C07C 69/60 20060101ALI20240806BHJP
   C07C 67/60 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C07C67/14
C07C69/60
C07C67/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014129
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉村 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】小峯 拓也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD30
4H006BA51
4H006KA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高純度な非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を効率よく得る方法を提供する。
【解決手段】含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に対し、酸ハロゲン化物を逐次添加することでエステル化することを特徴とする非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法において、酸ハロゲン化物が下記一般式(1)

(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。)で表される化合物である、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法、精製方法及び非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を含む組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に対し、酸ハロゲン化物を逐次添加することでエステル化することを特徴とする非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法において、酸ハロゲン化物が
下記一般式(1)
【化8】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物である、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法。
【請求項2】
含窒素複素環式化合物がピリジンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物のアルキル基が、イソプロピル基であり、含窒素複素環式化合物がピリジンである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物のアルキル基が、イソプロピル基であり、含フッ素アルコールが2,2,2-トリフルオロエタノールであり、含窒素複素環式化合物がピリジンである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
エステル化後、第2級アミン存在下で加熱を行う請求項1に記載の方法。
【請求項6】
下記一般式(2)
【化9】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基、C=C結合の立体はトランスを示す。)
で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類と、
下記一般式(3)
【化10】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基を示し、XとXは、Xが水素原子かつXがハロゲン原子か、Xがハロゲン原子かつXが水素原子示す。)
で表される化合物を含む混合物を、第2級アミン存在下で加熱を行い精製する、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の精製方法。
【請求項7】
前記一般式(2)で表される化合物のアルキル基が、イソプロピル基である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記一般式(2)で表される化合物がフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルであり、前記一般式(3)で表される化合物のハロゲン原子が塩素原子である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
下記一般式(2)で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類100重量部に対して、下記一般式(3)で表される化合物を0.00001重量部~4.0重量部含む組成物。
【化11】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基、C=C結合の立体はトランスを示す。)
【化12】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基を示し、XとXは、Xが水素原子かつXがハロゲン原子か、Xがハロゲン原子かつXが水素原子示す。)
【請求項10】
前記一般式(2)で表される化合物において、アルキル基が、イソプロピル基である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記一般式(2)で表される化合物がフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルであり、前記一般式(3)で表される化合物のハロゲン原子が塩素原子である請求項9に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法および非対称含フッ素フマル酸ジエステル類組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フマル酸ジイソプロピルをはじめとするフマル酸ジエステル類は、可塑剤、樹脂の改質剤としてだけではなく、フマル酸ジエステル類重合体の高透明性、高耐熱性などの性質から、機能性高分子材料の原料として注目を集めている。フマル酸ジエステル類の中でも、エステル部分が含フッ素骨格で置換されたフマル酸ジエステル類は、重合体において、フッ素原子を導入したことによる特異な表面特性や光学特性を有する機能性高分子材料としての応用が期待される。
【0003】
単独重合性が期待できる含フッ素フマル酸ジエステル類としては、一方のエステルにアルキル基を、もう一方のエステルに含フッ素骨格を有する、フマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルをはじめとした非対称含フッ素フマル酸ジエステル類が挙げられる。
【0004】
非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を得る方法としては、パラトルエンスルホン酸の存在下、マレイン酸モノエステルと含フッ素アルコールから非対称含フッ素マレイン酸ジエステルを得た後、モルホリンを用いた異性化反応を行い、蒸留精製する方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。
特許文献1に記載の製造方法は、マレイン酸モノエステルから非対称含フッ素マレイン酸ジエステルを合成した後、異性化反応を実施しなければならず、反応および反応後処理の工程数の増加により製造コストが増大してしまうため、製造方法の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-169807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高純度な非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を効率よく得るための新たな手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法について鋭意検討した結果、マレイン酸モノエステルを、求電子的ハロゲン化剤でフマル酸モノエステル酸ハロゲン化物とした後、含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に対し、フマル酸モノエステル酸ハロゲン化物の反応液を逐次添加することで、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を効率よく得られることを見出した。また、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類は第2級アミン存在下で加熱後、蒸留精製することで効率よく高純度化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は下記の要旨に係るものである。
[1]含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に対し、酸ハロゲン化物を逐次添加することでエステル化することを特徴とする非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法において、酸ハロゲン化物が
下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物である、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法。
[2]含窒素複素環式化合物がピリジンである項[1]に記載の方法。
[3]前記一般式(1)で表される化合物のアルキル基が、イソプロピル基であり、含窒素複素環式化合物がピリジンである項[1]に記載の方法。
[4]前記一般式(1)で表される化合物のアルキル基が、イソプロピル基であり、含フッ素アルコールが2,2,2-トリフルオロエタノールであり、含窒素複素環式化合物がピリジンである項[1]に記載の方法。
[5] エステル化後、第2級アミン存在下で加熱を行う項[1]に記載の方法。
[6]下記一般式(2)
【化2】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基を示す。)
で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類と、
下記一般式(3):
【化3】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基を示し、XとXは、Xが水素原子かつXがハロゲン原子であるか、Xがハロゲン原子かつXが水素原子を示す。)
で表される化合物を含む混合物を、第2級アミン存在下で加熱し精製する、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の精製方法。
[7]前記一般式(2)で表される化合物のアルキル基が、イソプロピル基である項[6]に記載の方法。
[8]前記一般式(2)で表される化合物がフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルであり、前記一般式(3)で表される化合物のハロゲン原子が塩素原子である項[6]に記載の方法。
[9]下記一般式(2)で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類100重量部に対して、下記一般式(3)で表される化合物を0.00001重量部~4.0重量部含む組成物。
【化4】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基を示す。)
【化5】
(式中、Rは炭素数1~10のアルキル基、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基を示し、XとXは、Xが水素原子かつXがハロゲン原子であるか、Xがハロゲン原子かつXが水素原子を示す。)
[10]前記一般式(2)で表される化合物において、アルキル基が、イソプロピル基である項[9]に記載の組成物。
[11]前記一般式(2)で表される化合物がフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルであり、前記一般式(3)で表される化合物のハロゲン原子が塩素原子である項[9]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により高純度な非対称含フッ素フマレート類を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様は、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法および非対称含フッ素フマル酸ジエステル類組成物に関する。
【0011】
[フマル酸モノエステル酸ハロゲン化物の製造方法]
本発明の製造方法に用いられることがあるフマル酸モノエステル酸ハロゲン化物は、文献既知の方法、例えば、特許5728313号公報に記載の方法で得ることができる。本発明の製造方法に用いられることがあるフマル酸モノエステル酸ハロゲン化物の原料であるマレイン酸モノエステルは、文献既知の方法、例えば、Angew.Chem., 2017, 129, 12450-12455.に記載の方法で得ることができる。マレイン酸モノエステルは、求電子的ハロゲン化剤でフマル酸モノエステル酸ハロゲン化物とすることができる。
【0012】
[非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法]
本発明の非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法は、含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に対し、フマル酸モノエステル酸ハロゲン化物などの酸ハロゲン化物を逐次添加することでエステル化反応を行なわせてエステル化することを特徴とする。
【0013】
<含窒素複素環式化合物>
本発明の非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法において、含窒素複素環式化合物を使用することで、副生するハロゲン化水素を塩の形態として反応に不活性な形態とし、ハロゲン化水素が目的物の多重結合性基へ付加することを抑制することができる。しかしながら、後述するように含窒素複素環式化合物のみの添加では非対称含フッ素フマル酸ジエステル類は重質化してしまう。このため、含フッ素アルコールと含窒素複素環式化合物を混合液に対しフマル酸モノエステル酸ハロゲン化物を逐次添加することで、重質化、すなわち高粘度なあるいは高分子量化した液体となることを抑制しながらエステル化を行う必要がある。
【0014】
含窒素複素環式化合物は、特に種類は限定されないが、例えば、ピリジン、2,6-ルチジン、4―ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセン,1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、ピロリジン、ピぺリジンなど挙げられる。これらの内、入手性の良さおよび塩の溶解性が良い点からピリジンが好ましい。
【0015】
含窒素複素環式化合物の添加量は、求電子的ハロゲン化剤のハロゲン原子数とモル比で等当量加えるのが最も望ましい。例えば、塩化チオニルを求電子的ハロゲン化剤として使用する場合、塩化チオニルに対してモル比で2倍モル当量の含窒素複素環式化合物を添加するのが望ましい。含窒素複素環式化合物が求電子的ハロゲン化剤のハロゲン原子数のモル比と比べ少ない場合、目的物の多重結合性基へ付加反応を抑制効果が小さくなることがある。反対に、含窒素複素環式化合物の過剰の添加は、目的物の多重結合性基へ含窒素複素環式化合物の付加が進行することで反応収率が低下することがある。
【0016】
<含フッ素アルコール>
本発明において用いられる含フッ素アルコールは、特に種類は限定されないが、フッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10の含フッ素アルコールあることが好ましい。合成の容易さ、入手性のよさ、および非対称含フッ素フマル酸ジエステル類が単独重合性を有する可能性があることから、炭素数2~10の含フッ素アルコールであることがより好ましい。例えば、2,2,2-トリフルオロエタノール、1H,1H-ペンタフルオロプロパノール、1H,1H-ヘプタフルオロブタノール、2-(パーフルオロブチル)エタノール、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール、1H,1H,3H-テトラフルオロプロパノール、1H,1H,5H-オクタフルオロペンタノール、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプタノール、2H-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブタノールなど挙げられる。これらの内、入手性の点から、2,2,2-トリフルオロエタノールおよび2H-ヘキサフルオロ-2-プロパノールが好ましく、中でも非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の反応生成速度が速く、製造が容易な点から2,2,2-トリフルオロエタノールが好ましい。
【0017】
<酸ハロゲン化物>
本発明において用いられる酸ハロゲン化物は、上記一般式(1)であれば特に種類は限定されないが、例えば、一般式(1)で表される化合物のアルキル基が炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。重合性や耐熱性に優れることから炭素数3~6のアルキル基がより好ましく、特に炭素数3が好ましい。耐熱性向上の観点から、アルキル基は分岐構造や環状構造を有するなど、炭素鎖の柔軟性が抑えられた構造を有することがより好ましい。本発明において用いられる酸ハロゲン化物としては、例えば、モノメチルフマル酸クロリド、モノエチルフマル酸クロリド、モノノルマルプロピルフマル酸クロリド、モノイソプロピルフマル酸クロリド、モノノルマルブチルフマル酸クロリド、モノ(1-メチルプロピル)フマル酸クロリド、モノ(2-メチルプロピル)フマル酸クロリド、モノ(1,1-ジメチルエチル)フマル酸クロリド、モノノルマルペンチルフマル酸クロリド、モノ(2-メチルブチル)フマル酸クロリド、モノ(3-メチルブチル)フマル酸クロリド、モノ(1,1-ジメチルプロピル)フマル酸クロリド、モノ(1,2-ジメチルプロピル)フマル酸クロリド、モノ(2,2-ジメチルプロピル)フマル酸クロリド、モノノルマルヘキシルフマル酸クロリド、モノノルマルヘプチルフマル酸クロリド、モノノルマルオクチルフマル酸クロリドなどの直鎖または分岐構造のアルキル基を有する酸ハロゲン化物、モノシクロプロピルフマル酸クロリド、モノシクロブチルフマル酸クロリド、モノシクロペンチルフマル酸クロリド、モノシクロヘキシルフマル酸クロリド、モノ(2-ノルボルニル)フマル酸クロリド、モノ(1-アダマンチル)フマル酸クロリド、モノ(2-アダマンチル)フマル酸クロリドなどの環状構造のアルキル基を有する酸ハロゲン化物など挙げられる。これらの内、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類が単独重合性を有する可能性が高く、合成が容易な点からモノイソプロピルフマル酸クロリドが好ましい。
【0018】
<溶媒>
本発明の非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法において、反応時に上記化合物以外に溶媒を添加してもよい。
溶媒は反応に対し不活性であれば特に種類は限定されないが、塩の溶解性が良好である点から非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。中でも、求電子的ハロゲン化剤より副生するハロゲン化水素の活性を低下させることから、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド化合物が好ましい。特に入手性の点からN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0019】
<酸ハロゲン化物の添加>
本発明の非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の製造方法において、含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に対し、酸ハロゲン化物を加えてエステル化すればよい。さらに酸ハロゲン化物の加える方法については、酸ハロゲン化物逐次添加すればよく、例えば次のように種々の処方がある。
・含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に、酸ハロゲン化物を含む溶液を一定量に小分けした上で、これらを複数回に分けて加える方法。
・含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に、酸ハロゲン化物を含む溶液を、反応時間内に一定速度で滴下して、継続して加える方法。
・含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に、酸ハロゲン化物を含む溶液を、徐々に添加量を増やしながら、継続して加える方法。
・含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールの混合液に、酸ハロゲン化物を含む溶液を、徐々に添加量を減らしながら、継続して加える方法。
酸ハロゲン化物を加えた後、所定時間反応を継続して反応を進行させることもできる。
【0020】
[非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の精製方法]
本発明の非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の精製方法は、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類と、一般式(3)で表される化合物を含む混合物を第2級アミン存在下で加熱を行い、蒸留精製することで高純度化することを特徴とする。
【0021】
<非対称含フッ素フマル酸ジエステル類>
本発明の精製方法において精製の対象となる非対称含フッ素フマル酸ジエステル類は、上記一般式(2)であれば特に種類は限定されないが、例えば、一般式(2)中のRは炭素数1~10のアルキル基であり、Rはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基であればよい。
さらに、一般式(2)中のRは前記の通り炭素数3~10のアルキル基であることが好ましく、特に炭素数3のイソプロピル基であることが好ましい。
また、一般式(2)中のRは前記の通りフッ素原子を1つ以上含む炭素数2~10のアルキル基であることが好ましく、特にRがCHCFであることが好ましい。
すなわち、一般式(2)で表される化合物がフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルであることが好ましい。
また、一般式(2)で表される化合物において、式中のC=C結合の立体はトランスであることが好ましい。立体がシスである場合、単独重合を行うことが困難になる可能性がある。
【0022】
<一般式(3)で表される化合物>
本発明の精製方法において精製の対象となる非対称含フッ素フマル酸ジエステル類より分離し、あるいは除去される一般式(3)で表される化合物は、特に種類は限定されない。
例えば、一般式(3)中のXとXは、Xが水素原子かつXがハロゲン原子か、Xがハロゲン原子かつXが水素原子であることが好ましい。特にハロゲン原子が塩素原子または臭素原子であることが、光や熱による着色懸念の大きいヨウ素原子を含まないため好ましい。
一般式(3)中のRは炭素数3~10のアルキル基であることが好ましく、特に炭素数3のイソプロピル基であることが好ましい。また一般式(3)中のRはフッ素原子を1つ以上含む炭素数2~10のアルキル基であることが好ましく、特にRがCHCFであることが好ましい。
一般式(3)で表される化合物は、製造工程にて生成を抑制することおよび精製にて除去されることが好ましい。一般式(3)で表される化合物は、一般的なラジカル重合において、分子内に含有するハロゲン原子が連鎖移動反応を起こすことでラジカル重合を阻害し、一般式(2)で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類から得られるポリマーの分子量を低下させ、高分子材料としての利用を困難にする可能性がある。
【0023】
<混合物>
本発明において精製の対象となる一般式(2)で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類と一般式(3)で表される化合物を含む混合物は、上記の通り、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類と一般式(3)で表される化合物であればよい。
【0024】
<精製手段>
本発明の非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の精製方法は、一般的に行われている方法で行うことができる。例えば、溶媒抽出、再結晶、シリカゲルクロマトグラフィー、薄層分取クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィーまたは蒸留などの方法が挙げられる。中でも、一度に多量の精製が可能な点から、再結晶または蒸留が好ましい。
【0025】
<第2級アミン>
本発明の非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の精製方法において、第2級アミンと非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を混合し加熱することで、副生成物である前記一般式(3)で表されるハロゲン化水素付加体のハロゲン化水素部位を、着色することなく、アミン塩の形で脱離させ、目的物たる非対称含フッ素フマル酸ジエステル類に再生することができる。
【0026】
本発明者らは、後述する実施例に示すように、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類の精製について、特許第5209201号公報を参考に第3級アミンによる高純度化方法を試みた。しかしながら、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類は、含フッ素エステル部位を有しているために多重結合性部位の反応性が高く、求核性の大きい第3級アミンと混合加熱すると着色してしまうことが判明した。そこで鋭意検討を行った結果、第3級アミンよりも求核性の小さな第2級アミンを用いることで、上記の脱ハロゲン化水素反応を効率よく実施することが可能となった。
【0027】
本発明の精製方法に用いられる第2級アミンとしては、特に種類は限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエチルアミン、N-エチルイソブチルアミン、ピロリジン、ピぺリジンなどが挙げられる。中でも入手性の良さ、沸点が適度に大きい点からジイソプロピルアミンが好ましい。第2級アミンの沸点が小さすぎると、加熱時に揮散し脱ハロゲン化水素反応が困難となる可能性がある。また、第2級アミンの沸点が大きすぎると、目的物たる非対称含フッ素フマル酸ジエステル類との蒸留分離が困難となる可能性がある。
【0028】
[非対称含フッ素フマル酸ジエステル類組成物]
<組成物>
本発明の一般式(2)で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類と一般式(3)で表される化合物を含む組成物は、一般式(2)で表される非対称含フッ素フマル酸ジエステル類100重量部に対して、一般式(3)で表される化合物を0.00001重量部~4.0重量部含んでおればよい。
さらに、一般式(2)中のRは炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数3~6のアルキル基であることがより好ましく、特に炭素数3のイソプロピル基であることが好ましい。
また、一般式(2)中のRはフッ素原子を1つ以上含む炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、2~10のアルキル基であることがより好ましく、特にRがCHCFであることが好ましい。
すなわち、一般式(2)で表される化合物がフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルであることが好ましい。
また、一般式(2)で表される化合物において、式中のC=C結合の立体はトランスであることが好ましい。
【0029】
<任意成分>
上記の非対称含フッ素フマル酸ジエステルを含む組成物は、1種以上の他の成分を含むこともできる。上記組成物に任意に含まれ得る成分としては、例えば、非対称含フッ素フマル酸ジエステルを合成する過程で生じた副生物等を挙げることができる。かかる副生物としては、非対称含フッ素マレイン酸ジエステル、1分子に同じ2つのアルコールがエステル部位に導入されたフマル酸ジエステル類およびマレイン酸ジエステル類、およびフマル酸ジエステル類のオレフィン部分にハロゲン化水素が付加したハロゲン化水素付加体が挙げられる。
例えば、求電子的ハロゲン化剤として塩化チオニルを使用し、非対称含フッ素フマル酸ジエステルとしてフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルを製造する場合、1分子に同じ2つのアルコールがエステル部位に導入されたフマル酸ジエステル類としては、フマル酸ジイソプロピルおよびフマル酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)を、副生するハロゲン化水素付加体として下記式(X’)の構造を有する化合物を含む場合がある。
【0030】
【化6】
(式中、XとXは、Xが水素原子かつXがハロゲン原子であるか、Xがハロゲン原子かつXが水素原子を示す。)
【0031】
前記式(X’)で示される塩化水素付加体の含有割合は非対称含フッ素フマル酸ジエステル類100重量部に対し4.0重量部以下が好ましく、3.0重量部以下がさらに好ましく、2.0重量部以下が特に好ましい。塩化水素付加体の含有割合が非対称含フッ素フマル酸ジエステル類100重量部に対し低減させることで高分子量体のポリマーが得られる。
【0032】
また、上記組成物は、溶媒を含んでもよい。溶媒としては、特に限定されるものではないが、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を溶解し非対称含フッ素フマル酸ジエステル類と反応せず、次工程の重合反応を阻害しない溶媒が好ましい。好ましい溶媒の具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、ドデカン等の鎖状アルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン等の芳香族化合物などの通常使用される溶媒、パーフルオロヘキサン、C13、CCHFCHFCF等のフッ素化鎖状アルカン、c-C等のフッ素化環状アルカン、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、パーフルオロトルエン等のフッ素化芳香族化合物、CFCHOCFCFH、CОCH、CОC、C13ОCH等のフルオロアルキルエーテル、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン等のフッ素化アルキルアミン等の含フッ素溶媒を挙げることができる。溶媒の含有量は、非対称含フッ素フマル酸ジエステル類に対し、重量比で0.1倍量~10倍量であることが好ましい。
【実施例0033】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、分析に当たっては下記機器を使用した。
ガスクロマトグラフィー(GC):島津製作所製 GC-2025
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS):島津製作所製 GCMS-QP2010Plus
H NMRおよび19F NMR:ブルカー(BRUKER)社製AVANCE II 400
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC):東ソー製 HLC8320GPC(カラムGMHHR―Hを装着)
【0034】
[参考例1]
マレイン酸モノイソプロピルの調製
あらかじめ窒素ガスを吹き込んで不活性ガス雰囲気下とした、撹拌機、滴下ロート、コンデンサー、温度計、オイルバスを備えた1000mL三口フラスコに、無水マレイン酸396g(4.03mol)を仕込み、70℃に加熱撹拌して無水マレイン酸を溶融させた。その後、滴下ロートからイソプロパノール248g(4.12mol)を逐次添加し、70℃で1日反応させた。反応液をHNMRで測定し、目的物たるマレイン酸モノイソプロピルが598g生成したことを確認した(収率94%)。反応後は後処理を実施せず、そのまま次の反応を実施した。
【0035】
[参考例2]
モノイソプロピルフマル酸クロリドの調製
あらかじめ窒素ガスを吹き込んで不活性ガス雰囲気下とした撹拌機を備えた100mLナスフラスコに、参考例1で調製した反溶液17.0g(マレイン酸モノイソプロピル0.100mol相当)、溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド20mL(0.258mol)を仕込み、氷浴下で十分に撹拌した。その後、シリンジを用いて塩化チオニル15.6g(0.131mol)をゆっくりと滴下し、室温下で30分反応させた。反応液をHNMRで測定し、モノイソプロピルフマル酸クロリドが生成したことを確認するとともに、原料のマレイン酸イソプロピルが完全に消費されたことを確認した。反応後は後処理を実施せず、そのまま次の反応を実施した。
【0036】
[実施例1]
フマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)の調製
【化7】
(式中、XとXは、Xが水素原子かつXがハロゲン原子であるか、Xがハロゲン原子かつXが水素原子を示す。)
【0037】
あらかじめ窒素ガスを吹き込んで不活性ガス雰囲気下とした撹拌機を備えた100mLナスフラスコに、ピリジン20mL(0.248mol)および2,2,2-トリフルオロエタノール11.0g(0.110mol)を加え氷冷下で撹拌した。参考例2と同様に調製したモノイソプロピルフマル酸クロリド反応液の全量(モノイソプロピルフマル酸クロリド0.100mol相当)を滴下ロートに移し、氷冷下で撹拌しながら含窒素複素環式化合物と含フッ素アルコール混合液へゆっくりと逐次添加し、その後室温下で1日反応させた。
反応液にヘキサン50mLを加え、塩酸50mLおよび水50mLで洗浄・分液した後、エバポレーターで減圧濃縮し、さらに150℃、絶対圧力1kPa減圧下にて単蒸留を実施した。留出液をHNMRで測定し、目的物たるフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)が14.6g生成したことを確認した(純度94重量%、収率60%)。
【0038】
分析結果を表1に示す。なお、不純物として2種類の化合物(X’)を含んでいることを、HNMRおよびGC-MSにより確認した。
化合物(X’)のH NMRによる分析(CDCl,400MHz):
異性体1・・・δ=3.26(dd,J=17.1Hz,J=8.1Hz,1H,CHClCH-H),3.05(dd,J=17.1Hz,J=7.0Hz,1H,CHClCH-H).
異性体2・・・δ=3.15(dd,J=16.9Hz,J=8.2Hz,1H,CHClCH-H),2.96(dd,J=16.9Hz,J=6.4Hz,1H,CHClCH-H).
化合物(X’)(異性体混合物)GC-MS:m/z(M-OiPr)219(4%),(M-OiPr)217(12%),189(5%),181(5%),155(5%),147(7%),135(8%),(CFCH)83(17%),62(6%),45(12%),(iPr)43(100%),41(30%).
【0039】
[比較例1]
あらかじめ窒素ガスを吹き込んで不活性ガス雰囲気下とした撹拌機を備えた100mLナスフラスコに、参考例2と同様に調製したモノイソプロピルフマル酸クロリド反応液の全量(モノイソプロピルフマル酸クロリド0.100mol相当)を加え、氷冷下で撹拌した。ピリジン20mL(0.248mol)および2,2,2-トリフルオロエタノール11.0g(0.110mol)の混合液を滴下ロートに移し、氷冷下で撹拌しながらモノイソプロピルフマル酸クロリド反応液へゆっくりと逐次添加した。含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコール混合液を逐次添加するにつれて、反応液が粘稠な黒色液体となり、フマル酸エステルが重質化したことが示唆された。実施例1と同様に反応液を洗浄・分液した後、エバポレーターで減圧濃縮したところ目的物たるフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)が0.5g生成したことを確認した(収率2%)。分析結果を表1に示す。
【0040】
[比較例2]
ピリジンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様に実施した。分析結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
参考例2および実施例1より、特許文献1のような異性化工程を行わずとも、目的物であるフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)を効率よく得られることが分かる。
実施例1および比較例1より、酸クロリドを含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールへ逐次添加する場合は、目的物たるフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)が得られるが、含窒素複素環式化合物および含フッ素アルコールを酸クロリドへ逐次添加すると目的物がほとんど得られないことが分かる。
実施例1および比較例2より、含窒素複素環式化合物であるピリジンを加えることで化合物(X’)の生成を抑制できることが分かる。
【0043】
[実施例2]
フマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)の精密蒸留
実施例1と同様の反応を行うことで得た化合物(1’)濃縮液151g(化合物(1’)100重量部に対し、化合物(X’)0.81重量部を含有)を、撹拌装置、温度計、オイルバス、還流分配器、マノメータ、真空ポンプ、ビグリュー菅を備えた蒸留装置にて、絶対圧力1.0kPa減圧下、還流比150で減圧蒸留を実施した。主留として、化合物(1)の留出割合(留出した化合物(1’)のモル数/仕込んだ化合物(1’)のモル数)が40%における時の留分組成をGCにて確認したところ、化合物(1’)100重量部に対し化合物(X’)を0.15重量部含有していた。留分は無色透明液体であった。分析結果を表2に示す。
【0044】
[実施例3]
化合物(1’)濃縮液を含む蒸留釜に、ジイソプロピルアミン5.3g(化合物(X’)に対し32倍モル当量)を添加し、蒸留前に100℃大気圧下にて30分加熱したこと以外は、実施例2と同様に実施した。主留として、化合物(1’)の留出割合が40%における組成をGCにて確認したところ、化合物(X’)は観測されなかった。留分は無色透明液体であった。分析結果を表2に示す。
【0045】
[比較例3]
比較例2と同様の反応を行うことで得た化合物(1’)濃縮液179g(化合物(1’)100重量部に対し、化合物(X’)13重量部を含有)を実施例2と同様に減圧蒸留した。主留として、化合物(1’)の留出割合が40%における組成をGCにて確認したところ、化合物(1’)100重量部に対し化合物(X’)を4.5重量部含有していた。留分は無色透明液体であった。分析結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
実施例2と比較例3との比較より、化合物(X’)は精密蒸留でも分離除去が困難で、化合物(1’)100重量部に対して1重量部以下の留分を得るには、含窒素複素環式化合物を使用した実施例1の製造方法が有益であることが分かる。
実施例2と実施例3との比較より、化合物(X’)は第2級アミンであるジイソプロピルアミンを加えて加熱することで化合物(X’)を検出下限以下にまで除去でき、より高純度な化合物(1’)を収率よく得られることが分かる。
【0048】
[実施例4]
化合物(X’)除去の検討
2mLのガラスバイアルに実施例2で得られた初留分としてフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)の混合物(化合物(1’)100重量部に対し化合物(X’)を0.093重量部含有、無色透明液体)0.30gに対し10mgのジイソプロピルアミンを添加し、ヒートガンで150℃で1分間加熱を行った。加熱後の液体は無色透明であった。加熱後、GC分析を行うことでフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)に対する化合物(X’)の含有量を調べた。分析結果を表3に示す。
【0049】
[比較例4]
ジイソプロピルアミンの代わりにトリエチルアミンを用いたこと以外は実施例4と同様に添加および加熱を実施した。加熱後、溶液は橙色へ着色し、化合物(X’)除去に用いる塩基としては不適切であった。
【0050】
[比較例5]
ジイソプロピルアミンの代わりにジアザビシクロウンデセンを用いたこと以外は実施例4と同様に添加および加熱を実施した。加熱後、溶液は黒色へ着色し、化合物(X’)除去に用いる塩基としては不適切であった。
【0051】
[比較例6]
ジイソプロピルアミンの代わりにピリジンを用いたこと以外は実施例4と同様に添加および加熱を実施した。加熱後、化合物(X’)含有割合はほとんど変化せず、化合物(X’)除去に用いる塩基としては不適切であった。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例4より、第2級アミン存在下で化合物(X’)を含むフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル(1’)を加熱すれば、着色なく化合物(X’)含有量を低減できることが分かる。
これに対して比較例4および比較例5の溶液色の観察結果から明らかなように、第3級アミンの添加では加熱後に着色が発生することが分かる。さらに比較例6の化合物(X’)の割合の結果から明らかなように、含窒素複素環式化合物には化合物(X’)の除去能力がないことが分かる。
【0054】
[実施例5]
フマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルの重合
容量75mLのガラスアンプルに実施例4で得られたフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル1.99g(8.3mmol)、パーブチルPV(日油社製)0.017g(0.067mmol)入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを50℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン20gで溶解させた。このポリマー溶液をメタノール75g、水25g混合溶剤の中に滴下して析出させたのち、80℃で10時間真空乾燥することにより樹脂を得た。GPC測定を実施したところ、得られた樹脂の重量平均分子量は70,000であった。分析結果を表4に示す。
【0055】
[比較例7]
フマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチルの重合
容量75mLのガラスアンプルに実施例4で得られたフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル5.01g(20.9mmol)、パーブチルPV0.048g(0.19mmol)入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを50℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン50gで溶解させた。このポリマー溶液をメタノール190g、水60g混合溶剤中に滴下して析出させたのち、80℃で10時間真空乾燥することにより樹脂を得た。GPC測定を実施したところ、得られた樹脂の重量平均分子量は30,000であった。分析結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
実施例5および比較例7より、化合物(X’)の含有割合がフマル酸イソプロピル2,2,2-トリフルオロエチル100重量部に対し4.0重量部以下であれば、ポリマーの高分子量化を可能とし、化合物(X’)の含有量を低減する必要があることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、高純度な非対称含フッ素フマル酸ジエステル類を効率よく得るための新たな手段を提供が可能となった。非対称含フッ素フマル酸ジエステル類はその重合体において、フッ素原子を導入したことによる特異な表面特性や光学特性を有する機能性高分子材料としての応用が期待される。