(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024109445
(43)【公開日】2024-08-14
(54)【発明の名称】リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240806BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014247
(22)【出願日】2023-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡 裕輔
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050DA02
5H050FA17
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高い電池容量と出力特性が得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の提供。
【解決手段】物質量比でLi:Ni:Mn:Co:M=1+u:x:y:z:tの割合で含有し(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1)、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を備えたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む粒子であり、
複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、
平均粒径が2μm以上10μm以下、
〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下、
DBP吸収量が34.5mL/100g以上、
硫酸根の含有量が0.3質量%以上1.0質量%以下であり、
凝集した一次粒子を含む外殻部と、外殻部の内側に存在する中空部とを有する中空構造を備える、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質となるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子であって、
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量比でLi:Ni:Mn:Co:M=1+u:x:y:z:tの割合で含有し(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、前記元素MはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種類以上の元素である)、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を備えたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む粒子であり、
複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、
平均粒径が2μm以上10μm以下であり、
粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下、
DBP吸収量が34.5mL/100g以上であり、
硫酸根の含有量が0.3質量%以上1.0質量%以下であり、
凝集した一次粒子を含む外殻部と、前記外殻部の内側に存在する中空部とを有する中空構造を備える、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子。
【請求項2】
前記外殻部の厚さは、前記二次粒子の粒径に対する比率で5%以上45%以下である、請求項1に記載のリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子。
【請求項3】
正極が、請求項1または請求項2に記載のリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、モーター駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解質などで構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池が良好な性能(高サイクル特性、低抵抗、高出力)を得る条件として、正極材料には、均一で適度な粒径を有する粒子によって構成されていることが要求される。
【0005】
粒径が大きく比表面積が低い正極材料を使用すると、電解質との反応面積が十分に確保できず、反応抵抗が上昇して高出力の電池が得られない。また、粒度分布が広い正極材料を使用すると、電極内で粒子に印加される電圧が不均一となることに起因して、充放電を繰り返すと微粒子が選択的に劣化し、容量が低下してしまう。
【0006】
リチウムイオン二次電池の高出力化を目指すためには、リチウムイオンの正極負極間移動距離を短くすることが有効であることから、正極板を薄く製造することが望まれており、この観点からも小粒径の正極材料を用いることが有用である。
【0007】
このような電解質との反応面積を十分に確保でき、小粒径で粒径が均一な粒子からなる正極活物質が提案されている。
【0008】
例えば特許文献1には、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が2~8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を備える非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0009】
この正極活物質を非水系電解質二次電池に用いた場合に高容量でサイクル特性が良好で、高出力を可能とするものであり、該正極活物質を含む正極で構成された非水系二次電池は、優れた電池特性を備えたものとなるとされている。
【0010】
特許文献2には、一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物で構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、前記二次粒子の〔(前記二次粒子内部の空隙面積/前記二次粒子断面積)×100〕(%)で表される平均疎密度が20%以上40%以下であり、JIS規格のK6217-4:2008に準拠して測定されるDBP吸収量が28cm3/100gを超え40ml/100g以下である非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0011】
この正極活物質は、非水系電解質二次電池に用いられた際に、非常に高い出力特性を有し、かつ、二次電池として十分なエネルギー密度を有する非水系電解質二次電池の実現が可能であるとしている。
【0012】
特許文献3には、JIS K5101-13―1に準拠した方法で測定されたNMP(N‐メチルピロリドン)に対する吸油量が、粉末100g当たり30mL以上50mL以下であり、スピネル構造又は層状構造を有するLiaFewNixMnyCozO2(1.0<a/(w+x+y+z)<1.3、0.8<w+x+y+z<1.1)で表され、かつFe、Ni、Mn、Coの成分の内、少なくとも3成分以上を含有することを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質が開示されている。
【0013】
この正極活物質は、塗布性に優れかつ高い電池特性を有するとされている。
【0014】
特許文献4には、中空構造または多孔質構造を有するリチウムニッケル複合酸化物からなり、硫酸根及びナトリウムを含み、硫酸根含有量が0.25質量%以下、Na含有量が0.020質量%以下である非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0015】
この正極活物質は、高容量であり、不可逆容量が小さく、クーロン効率および反応抵抗に優れた非水系電解質二次電池を得られるとしている。
【0016】
特許文献5には、硫酸根含有量が0.5質量%以上2.0質量%以下であるニッケル複合水酸化物が開示されている。
【0017】
このニッケル複合水酸化物から得られる正極活物質は、電池の正極材に用いた場合に、高エネルギー密度とともに高出力が実現可能であり、高温保存時のガス発生を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開2012/131881号
【特許文献2】国際公開2018/021557号
【特許文献3】国際公開2010/064504号
【特許文献4】特開2020-17525号公報
【特許文献5】特開2017-84628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
近年、リチウムイオン二次電池を大型二次電池に用いようという動きも盛んであり、中でもハイブリッド自動車用や電気自動車用の電源としての期待が大きい。自動車用の電源として用いる場合、高容量と高出力を両立したリチウムイオン二次電池が望まれている。
【0020】
特許文献1~5は、出力特性の向上を課題としているものであるが、上述のように自動車用電源などの二次電池では、さらなる出力特性の向上が期待されている。
【0021】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高い電池容量と出力特性が得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質となるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子であって、
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量比でLi:Ni:Mn:Co:M=1+u:x:y:z:tの割合で含有し(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、前記元素MはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種類以上の元素である)、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を備えたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む粒子であり、
複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含み、
平均粒径が2μm以上10μm以下であり、
粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下、
DBP吸収量が34.5mL/100g以上であり、
硫酸根の含有量が0.3質量%以上1.0質量%以下であり、
凝集した一次粒子を含む外殻部と、前記外殻部の内側に存在する中空部とを有する中空構造を備える、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、高い電池容量と出力特性が得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
【
図2】
図2は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。また、以下の説明において、「A~B」との記載は、「A以上B以下」を意味する。
【0026】
1.リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子
本実施形態のリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質とすることができる。
【0027】
本実施形態のリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子(以下、単に「複合酸化物粒子」と記載することがある。また、リチウムニッケルマンガン複合酸化物のことを単に「複合酸化物」と記載することがある。)は、リチウム(Li)と、Ni(ニッケル)と、Mn(マンガン)と、Co(コバルト)と、元素M(M)と、を物質量の比でLi:Ni:Mn:Co:M=1+u:x:y:z:tの割合で含有し、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を備えたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む粒子である。なお、リチウムニッケル複合酸化物粒子は、上記リチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる粒子とすることもできるが、この場合でも不可避不純物を含有する場合を排除するものではない。
【0028】
上記u、x、y、z、tは、-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1を充足することが好ましい。また、元素MはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素であり、添加元素である。
【0029】
(組成)
本実施形態の複合酸化物粒子においては、リチウムの過剰量を示すuが、-0.05から0.50までの範囲である。リチウムの過剰量uが-0.05未満の場合、該複合酸化物粒子を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。一方、リチウムの過剰量uが0.50を超える場合、該複合酸化物粒子を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。リチウムの過剰量uは、該反応抵抗をより低減させるためには0.02以上とすることが好ましく、0.35以下とすることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態の複合酸化物粒子は、添加元素である元素Mを含有することが好ましい。上記添加元素を含有することで、該複合酸化物粒子を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の耐久特性や出力特性を特に向上させることができる。
【0031】
全原子に対する元素Mの物質量比tが0.1を超えると、Redox反応に貢献する金属元素が減少するため、電池容量が低下するため好ましくない。したがって、元素Mは、元素Mの含有割合を示す既述のtが上記範囲を充足するように調整することが好ましい。
【0032】
なお、本実施形態の複合酸化物粒子の組成を一般式で表記する場合、Li1+uNixMnyCozMtO2+αのように表記できる。u、x、y、z、tは既述の範囲を充足することが好ましく、αは-0.2≦α≦0.2を充足することが好ましい。
【0033】
(硫酸根)
本実施形態の複合酸化物粒子は、硫酸根の含有量が0.3質量%~1.0質量%であり、好ましくは0.35質量%~0.9質量%であり、より好ましくは0.4質量%~0.8質量%、さらに好ましくは0.5質量%を超え0.8質量%以下である。硫酸根の含有量を上記範囲とすることで、複合酸化物粒子のDBP吸収量が増加し、電解質との接触が増加して、電池の出力特性を向上させることができる。
【0034】
(平均粒径)
本実施形態の複合酸化物粒子は、平均粒径が2μm~10μmである。平均粒径が2μm未満の場合には、正極を形成したときに粒子の充填密度が低下して、正極の容積あたりの電池容量が低下する。一方、平均粒径が10μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電池の電解質との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下する。
【0035】
本実施形態の複合酸化物粒子の平均粒径は上述のように2μm~10μmとすることができ、好ましくは3μm~8μm、より好ましくは3μm~7μmである。本実施形態の複合酸化物粒子の平均粒径を上記範囲とすることで、該複合酸化物粒子を正極活物質として正極に用いたリチウムイオン二次電池では、特に、容積あたりの電池容量を大きくすることができるとともに、高安定性、高出力などに優れた電池特性が得られる。平均粒径は、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積基準の粒度分布における体積平均径MVを意味する。
【0036】
(粒度分布)
本実施形態の複合酸化物粒子は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下、好ましくは0.55以下である、極めて粒径の均質性が高いリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子により構成される。
【0037】
複合酸化物粒子の粒度分布を前記指標〔(d90-d10)/平均粒径〕で0.60以下とすることで、微粒子や粗大粒子の割合を少なくすることができ、この複合酸化物粒子を正極活物質として正極に用いたリチウムイオン二次電池は、特に安定性に優れ、良好なサイクル特性および電池出力を有するものとなる。
【0038】
粒度分布の広がりを示す指標〔(d90-d10)/平均粒径〕において、d10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、d90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。平均粒径は、体積平均径MVを意味する。
【0039】
平均粒径や、d90、d10を求める方法は特に限定されないが、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積基準の粒度分布における体積積算値から求めることができる。平均粒径は、d90等と同様に体積基準の粒度分布を用いて算出できる。
【0040】
(粒子構造)
本実施形態の複合酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含む。そして、二次粒子内部の中空部とその外側の外殻部で構成される中空構造を有する。すなわち、本実施形態の複合酸化物粒子は、凝集した一次粒子を含む外殻部と、外殻部の内側に存在する中空部とを有する中空構造を備えることができる。なお、外殻部が含有する凝集した一次粒子は焼結していることが好ましい。
【0041】
本実施形態の複合酸化物粒子が、上述のような中空構造とすることにより、反応面積(反応表面積)を大きくすることができる。また、外殻部の一次粒子間の粒界あるいは空隙から電解質が侵入して、粒子内部の中空側の一次粒子表面における反応界面でもリチウムの挿脱入が行われるため、Liイオン、電子の移動が妨げられず、出力特性を高くすることができる。
【0042】
外殻部の厚さは、上記複合酸化物粒子の二次粒子の粒径に対する比率で5%~45%であることが好ましく、8%~38%であることがより好ましい。また、外殻部の厚さは、絶対値においては0.4μm~2.5μmの範囲にあることが好ましく、0.5μm~2.0μmの範囲にあることがより好ましい。
【0043】
外殻部の厚さの比率を上記範囲にすることにより、外殻部の厚さが薄くなることによる複合酸化物粒子の強度の低下を抑制して、粉体取扱時および電池の正極とするときの粒子の破壊を低減し、特性を向上できる。一方、外殻部の厚さが厚くなることによる粒子内部の中空部へ電解質の侵入の減量を抑制し、電池反応に寄与する表面積を大きなものとして出力特性を向上できる。
【0044】
二次粒子の粒径に対する外殻部の厚さの比率は、複合酸化物粒子の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することによって測定できる。
【0045】
例えば、複数の複合酸化物粒子(二次粒子)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャー加工などにより該粒子の断面観察が可能な状態とする。そして、樹脂中の二次粒子から、ほぼ粒子中心の断面観察が可能な粒子を選択して、3箇所以上の任意の箇所で、外殻部の外周上と中心部側の内周上の距離が最短となる2点間の距離を測定して、粒子ごとの外殻部の平均厚みを求める。二次粒子外周上で距離が最大となる任意の2点間の距離を二次粒子の粒径として該平均厚みを除することで、粒子ごとの外殻部の厚さの上記比率を求める。さらに、10個以上の粒子について求めた粒子ごとの該比率を平均することで、上記複合酸化物粒子における、二次粒子の粒径に対する外殻部の厚さの比率を求めることができる。
【0046】
(DBP吸収量)
本実施形態の複合酸化物粒子は、DBP吸収量が34.5mL/100g以上である。DBP吸収量は、JIS K 6217-4:2017に準拠して測定される。正極活物質と電解質の接触は、BET法などによる比表面積で評価されることが多いが、比表面積は気体を媒介して測定されるため、液体または固体である電解質との接触の多さの指標としては十分でない。電解質としては電解液を用いられることが多く、DBP(Dibutyl phthalate)は、電解液と同様の液体であることから、DBP吸収量により評価することが、電解質との接触の指標としては優れている。特に中空粒子では、電解質が侵入可能な空間を粒子内部に有することから、電解質と同様に侵入できる空間の評価としてDBP吸収量が優れている。
【0047】
DBP吸収量を34.5mL/100g以上、好ましくは35mL/100g以上、より好ましくは35.5mL/100g以上とすることで、電解質との接触を良好なものとすることができ、電池の出力特性を向上させることができる。DBP吸収量の上限は、特に限定されないが、中空粒子として強度を十分に維持するという観点から、55mL/100g以下であることが好ましく、50mL/100g以下であることがより好ましく、45mL/100g以下であることがさらに好ましく、40mL/100g以下であることが特に好ましい。
【0048】
2.リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の製造方法
本実施形態のリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の製造方法(以下、単に「本製造方法」と記載することがある。)は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極活物質となるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の製造方法である。そして、本実施形態のリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子の製造方法は、特に限定されない。例えば、晶析反応によって得られるニッケルマンガン複合水酸化物粒子(以下、単に「複合水酸化物粒子」と記載することがある。また、ニッケルマンガン複合水酸化物のことを単に「複合水酸化物」と記載することがある。)を前駆体として用いて実施できる。
【0049】
本製造方法によれば、既述の複合酸化物を製造できるため、既に説明した事項については説明を省略する場合がある。
【0050】
2-1.晶析工程
本製造方法において複合水酸化物粒子を得る晶析工程は、a)核生成を行う核生成工程と、b)核生成工程において生成(形成)された核を成長させる粒子成長工程とを有することができる。
【0051】
本製造方法により製造する複合水酸化物粒子は、Niと、Mnと、Coと、元素Mと、を物質量比でNi:Mn:Co:M=x:y:z:tの割合で含有するニッケルマンガン複合水酸化物を含む粒子である。なお、上記複合水酸化物粒子は、上記複合水酸化物からなる粒子とすることもできるが、この場合でも不可避不純物を含有する場合を排除するものではない。本実施形態の複合水酸化物粒子の製造方法によれば、後述する複合水酸化物粒子を製造できるため、重複する説明は省略する。x、y、z、tや元素Mについては複合水酸化物粒子で説明するため、ここでは説明を省略する。
【0052】
核生成工程と粒子成長工程とに分離した晶析によって複合酸化物粒子を得る方法は、例えば国際公開第2012/131881号に開示されており、得られる複合水酸化物粒子の粒度分布を狭くすることができる。また、核生成工程および粒子成長工程の条件を選択することで、複合水酸化物粒子の粒子構造を、微細一次粒子を含む中心部と、微細一次粒子より大きな板状一次粒子を含む外殻部とを備えた構造とすることができる。
【0053】
なお、核生成工程では、例えば予め所定のpH値となるように調整された反応前水溶液に、金属化合物の水溶液を添加し、反応水溶液である核生成用水溶液を形成し、晶析を行うことができる。
【0054】
また、粒子成長工程では、核生成工程で形成した核を含む粒子成長用水溶液に金属化合物の水溶液を添加し、反応水溶液である粒子成長用水溶液を形成し、晶析を行うことができる。
【0055】
反応水溶液に金属化合物の水溶液を添加する際、必要に応じて反応水溶液のpHを調整するためのpH調整水溶液や錯化剤を添加することもできる。pH調整水溶液としては、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いることができる。錯化剤としては例えばアンモニア水、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムの水溶液等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0056】
核生成工程は、少なくともニッケルを含有する金属化合物およびマンガンを含有する金属化合物を含む核生成用水溶液を、液温25℃基準でのpH値が12.0~14.0となるように制御して、酸素濃度が1容量%を超える酸化性雰囲気中で実施できる。核生成工程においては、核生成を行うことができる。なお、本明細書において、以下、液温25℃基準でのpH値のことを、単に「pH値」と記載することがある。
【0057】
核生成用水溶液には、複合水酸化物粒子の目的とする組成にあわせて、コバルトを含有する金属化合物や、元素Mを含有する金属化合物を添加することもできる。核生成用水溶液は、複合水酸化物粒子の目的組成に応じて、各金属元素を含有することが好ましい。
【0058】
粒子成長工程は、上記核生成工程において形成された核を成長させることができる。粒子成長工程は、第1粒子成長工程と、第2粒子成長工程とを有し、粒子成長工程の途中で、第1粒子成長工程から、第2粒子成長工程に切り替えることができる。
【0059】
第1粒子成長工程では、核生成工程において形成された核を含有する粒子成長用水溶液を、酸素濃度が1容量%を超える酸化性雰囲気中、液温25℃基準でのpH値が核生成工程の核生成用水溶液のpH値より低く、かつ10.5~12.0となるように制御できる。
【0060】
第2粒子成長工程では、酸素濃度が1容量%以下であり、不活性ガスを含む非酸化性雰囲気中、粒子成長用水溶液の液温25℃基準でのpH値が第1粒子成長工程と同様の範囲となるように制御できる。
【0061】
粒子成長工程では粒子成長工程の開始時から、粒子成長工程を実施する全体の時間に対して0以上40%以下の時間が経過した際に、第1粒子成長工程から第2粒子成長工程に切り替えることができる。すなわち、粒子成長工程を開始時から上記切り替え時まで第1粒子成長工程を実施した後、第2粒子成長工程を実施できる。なお、粒子成長工程では、第1粒子成長工程を実施せず、第2粒子成長工程のみとすることもできる。
【0062】
第2粒子成長工程への切り替えは、晶析を行う反応槽の雰囲気を非酸化性雰囲気に切り替え、粒子成長用水溶液のpH値を制御することで実施できる。
【0063】
以上のように、酸化性雰囲気における晶析である第1粒子成長工程では液温25℃基準でのpH値が核生成工程の核生成用水溶液のpH値より低く、かつ10.5~12.0となるように制御できる。また、非酸化性雰囲気に切り替えた後の晶析、すなわち第2粒子成長工程ではpH値を第1粒子成長工程と同様の範囲に制御できる。
【0064】
第1粒子成長工程において、酸化性雰囲気、かつpH値を10.5~12.0とすることにより、核生成工程において形成された核に微細一次粒子が晶析して中心部が形成される。この中心部は、全体が微細一次粒子の凝集により形成されている。従って、リチウム化合物と混合して焼成した際に、一次粒子の焼結が進行しやすく中心部が収縮して空間を形成しやすいものとなる。
【0065】
一方、第2粒子成長工程において、非酸化性雰囲気、かつpH値を第1粒子成長工程と同様の範囲とすることにより、析出速度が緩やかとなり一次粒子の成長が進む。このため、二次粒子を所望の粒径まで成長させやすくなり、酸化性雰囲気の晶析で形成された中心部の外に板状一次粒子が晶析して外殻部が形成される。
【0066】
なお、第1粒子成長工程と、第2粒子成長工程とでは、粒子成長用水溶液のpH値がそれぞれ既述の範囲で制御されていればよく、第1粒子成長工程と、第2粒子成長工程とで、粒子成長用水溶液のpH値が同じであっても良く、異なっていても良い。
【0067】
また、上記粒子成長工程で得られた晶析粒子を、固液分離後、不純物を低減するため、洗浄することもできる。洗浄を行うことで、複合水酸化物粒子の硫酸根量を十分に低減することができ、後述するように硫酸根量の制御を容易にすることができる。硫酸根量の制御を容易にする観点から、硫酸根量は、0.3質量%以下とすることが好ましい。洗浄は、従来技術で実施でき、洗浄液と複合水酸化物粒子とを混合しスラリー化して撹拌後、固液分離し、乾燥すればよい。
【0068】
複合水酸化物粒子の硫酸根量は、スラリー濃度、撹拌時間により制御することができる。このため、洗浄を実施する場合、硫酸根量が上記範囲となるようにスラリー濃度、撹拌時間を決定できる。
【0069】
(反応雰囲気)
本実施形態のニッケルマンガン複合水酸化物粒子が有する粒子構造は、核生成工程および粒子成長工程における反応槽内の雰囲気制御により形成される。晶析反応中の反応槽内の雰囲気により、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を形成する一次粒子の成長が制御され、酸化性雰囲気では、微細な一次粒子を含み、空隙が多い低密度の粒子が形成され、非酸化性雰囲気では、一次粒子が大きく緻密で高密度の粒子が形成される。なお、非酸化性雰囲気においても微量の酸素を含んでいても良く、非酸化性雰囲気は、弱酸化性雰囲気も包含する。
【0070】
すなわち、例えば核生成工程と粒子成長工程の初期の一部を酸化性雰囲気とすることで、微細一次粒子を含む 中心部が形成できる。そして、その後の粒子成長工程において酸化性雰囲気から切り替えて非酸化性の雰囲気とすることで、該中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子を含む外殻部を有する上記粒子構造を形成できる。
本実施形態における上記中心部を形成するための酸化性雰囲気は、反応槽内空間の酸素濃度が1容量%を超える雰囲気と定義される。酸化性雰囲気は、酸素濃度が2容量%を超えることが好ましく、酸素濃度が10容量%以上であることがさらに好ましく、制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とすることが特に好ましい。
【0071】
一方、上記外殻部を形成するための非酸化性雰囲気は、反応槽内空間の酸素濃度が1容量%以下である雰囲気と定義される。非酸化性雰囲気は、好ましくは酸素濃度が0.5容量%以下、より好ましくは0.2容量%以下となるように制御する。なお、非酸化性雰囲気は、不活性ガスを含み、上記範囲で酸素を含有することもできる。このため、非酸化性雰囲気は、例えば酸素と不活性ガスとを含む混合雰囲気とすることができる。不活性ガスとしては、窒素ガスや希ガス等が挙げられる。
【0072】
上記粒子成長工程における雰囲気の切り替えは、最終的に得られる複合酸化物粒子において微粒子が発生して、電池に適用した際にサイクル特性が悪化しない程度の中空部が得られるように、複合水酸化物粒子の中心部の大きさを考慮し、タイミングが決定される。例えば、粒子成長工程の全体の時間のうち、粒子成長工程の開始時から0~40%、好ましくは0~30%、さら好ましくは0~25%、特に好ましくは5~25%の時間が経過した際に切り替えを行う。
【0073】
(複合水酸化物粒子の粒径制御)
上記複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程の時間により制御できるので、所望の粒径に成長するまで粒子成長工程を継続すれば、所望の粒径を有する複合水酸化物粒子を得ることができる。また、複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程のみならず、核生成工程のpH値と核生成のために投入した原料量でも制御することができる。
【0074】
以下、金属化合物、反応液温度などの条件を説明するが、核生成工程と粒子成長工程との相違点は、pH値および反応槽内の雰囲気を制御する範囲のみであり、金属化合物、反応液温度などの条件は、両工程において実質的に同様にできる。
【0075】
(金属化合物)
金属化合物としては、目的とする金属元素を含有する化合物を用いることができる。本実施形態の複合水酸化物粒子は、ニッケルおよびマンガンと、必要に応じてコバルトや、元素Mを含有できる。
【0076】
使用する化合物は、水溶液として添加することが好ましいため、水溶性の化合物を用いることが好ましく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などが挙げられる。例えば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルト等を好ましく用いることができる。複合水酸化物の硫酸根を制御する観点から、晶析工程で用いる金属化合物は、少なくとも硫酸塩を1種類用いることが好ましい。
【0077】
(添加元素)
既述のように、本実施形態の複合水酸化物は、添加元素である元素Mを含有することもできる。元素Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種類以上の元素である。
【0078】
元素Mを含有する化合物としても、水溶性の化合物を用いることが好ましく、例えば、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを用いることができる。
【0079】
なお、既述の金属化合物や、元素Mを含有する化合物は、全ての化合物を含む1つの水溶液として、核生成用水溶液等の反応水溶液に添加することもできるが、一部または全部の化合物を別個の水溶液として、反応水溶液に添加することもできる。
【0080】
(製造設備)
本実施形態の複合水酸化物粒子の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置、例えばバッチ式の装置を用いることが好ましい。例えば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽等を好適に用いることができる。バッチ式の装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒度分布がより狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
【0081】
また、反応雰囲気を制御する必要があるため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を用いることが好ましい。雰囲気制御が可能な装置を用いることで、核生成工程や、粒子成長工程において、得られる複合水酸化物粒子を容易に所望の構造とすることができる。
【0082】
(ニッケルマンガン複合水酸化物粒子)
上述した晶析工程で得られるニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、既述の複合酸化物粒子の前駆体となるニッケルマンガン複合水酸化物粒子である。ニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、コバルト(Co)と、元素M(M)と、を物質量比でNi:Mn:Co:M=x:y:z:tの割合で含有するニッケルマンガン複合水酸化物を含む粒子である。上記ニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、上記ニッケルマンガン複合水酸化物からなる粒子とすることもできるが、この場合でも不可避不純物を含有する場合を排除するものではない。x、y、z、tは、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1を充足することが好ましい。また、元素MはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素であり、添加元素である。
【0083】
なお、本実施形態の複合水酸化物粒子の組成を一般式で表記する場合、NixMnyCozMt(OH)2+βのように表記できる。x、y、z、tは既述の範囲を充足することが好ましく、βは-0.2≦β≦0.2を充足することが好ましい。
【0084】
本実施形態のニッケルマンガン複合水酸化物の粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含むことができ、該二次粒子は、中心部と、中心部の外側に配置された外殻部とを有することができる。中心部は一次粒子を含有でき、係る中心部が含有する一次粒子は微細な一次粒子(微細一次粒子)とすることができる。また、外殻部は、中心部が含有する一次粒子よりも平均粒径が大きな板状一次粒子を含むことができる。
【0085】
複合水酸化物粒子は、その平均粒径が、好ましくは3μm~10μmであり、より好ましくは3.5μm~8.5μmである。平均粒径を3μm~10μmとすることで、本実施形態の複合水酸化物粒子を原料として得られる複合酸化物粒子について、容易に所定の平均粒径、例えば2μm~10μmに調整することができる。また、複合水酸化物粒子は、その粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕について、好ましくは0.65以下、より好ましくは0.60以下である。
【0086】
複合酸化物粒子の粒度分布は、原料である複合水酸化物粒子の影響を強く受けるため、複合水酸化物粒子に微粒子あるいは粗大粒子が混入していると、正極活物質にも同様の粒子が存在するようになる。すなわち、〔(d90-d10)/平均粒径〕を0.65以下とすることにより、粒度分布が狭い状態となり、複合酸化物粒子への微粒子あるいは粗大粒子の混入をさらに抑制することができる。
【0087】
平均粒径や、d90、d10については、複合酸化物粒子で既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0088】
2-2.混合工程
混合工程は、ニッケルマンガン複合化合物粒子(以下、単に「複合化合物粒子」と記載することがある。)の外殻部に、複合化合物粒子に対して0.5質量%を超え1.0質量%以下となるように硫酸根を含有させた後、リチウムを含有する物質、例えばリチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0089】
上記複合化合物粒子としては、晶析工程で得られた複合水酸化物粒子、あるいは複合水酸化物粒子の熱処理物(以下、単に「熱処理粒子」と記載することがある。)を好適に用いることができる。
【0090】
混合工程において複合水酸化物粒子の熱処理物を供給するため、本実施形態の複合酸化物の製造方法は、混合工程の前に、複合水酸化物粒子を熱処理する熱処理工程を有することもできる。
【0091】
熱処理工程は、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を105~750℃の温度に加熱して熱処理する工程であり、該複合水酸化物粒子に含有されている水分を除去するものである。この熱処理工程を実施することによって、粒子中に焼成工程まで残留している水分を一定量まで減少させることができる。これにより、得られる複合酸化物粒子中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことをより低減できる。
【0092】
リチウムを含有する物質と混合する前に、複合化合物粒子の外殻部に硫酸根を含有させることで、後述の焼成時において中心部の収縮により空間形成する際、外殻部を形成する一次粒子間の焼結の進行を緩慢なものにできる。このため、複合化合物粒子を用いて調製した複合酸化物粒子において電解質が侵入可能な空隙をより多く残すことが可能となり、出力特性をさらに向上できる。このような電解質が侵入可能な空隙は、後述のようにDBP吸収量によって確認することができる。
【0093】
外殻部へ硫酸根を含有させる方法は、特に限定されることなく、例えば複合化合物粒子を加熱しながら、複合化合物粒子に対して硫酸塩水溶液を噴霧し、外殻部に硫酸塩を含浸させることができる。前記加熱温度を水溶液の乾燥が促進される温度、例えば80℃~120℃とすることで、中心部への含浸を抑制しながら外殻部に硫酸塩を含浸することができる。これにより、外殻部の収縮をさらに緩慢としてDBP吸収量を増加することができる。
【0094】
噴霧する硫酸塩は、特に限定されないが、不純物の混入を防止する観点から、硫酸リチウムを用いることができる。
【0095】
混合工程において、複合水酸化物粒子、あるいは熱処理粒子であるニッケルマンガン複合化合物粒子とリチウム化合物とは、Li/Meが0.95~1.5となるように混合してリチウム混合物を調製することが好ましい。Li/Meとは、リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和、すなわち、ニッケル、マンガン、コバルトおよび元素Mの原子数の和(Me)に対する、リチウムの原子数(Li)の比を意味する。上記Li/Meは、より好ましくは1~1.5、さらに好ましくは1.02~1.35である。ここで、リチウム混合物中のリチウムには、外殻部に含浸させた硫酸塩がリチウムを含む場合、硫酸塩中のリチウムが含まれる。
【0096】
焼成工程前後でLi/Meはほとんど変化しないので、混合工程で得られるリチウム混合物におけるLi/Meが、複合酸化物粒子におけるLi/Meとなる。このため、リチウム混合物におけるLi/Meが、得ようとする複合酸化物粒子におけるLi/Meと同じになるように混合することが好ましい。
【0097】
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムから選択された1種類以上、もしくは上記化合物から選択された1種類以上の混合物が、入手が容易であるという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、リチウム化合物は、水酸化リチウムもしくは炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0098】
2-3.焼成工程
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を形成する工程である。焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、複合水酸化物粒子、あるいは熱処理粒子に、リチウムが拡散して反応し、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子が形成される。
【0099】
リチウム混合物は、800℃~980℃で、より好ましくは820℃~960℃で焼成される。また、焼成時間のうち、上記所定温度での保持時間は、少なくとも2時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、4時間~24時間である。上記時間の保持により、複合酸化物粒子の生成が十分に行われ、結晶性がより向上する。
【0100】
また、焼成工程では、リチウム混合物に対して、焼成前に予め350℃~800℃、好ましくは450℃~780℃の温度(仮焼温度)で仮焼を行うこともできる。上記仮焼温度は、焼成温度より低いことが好ましい。上記温度(仮焼温度)で仮焼する時間は限定されないが、例えば1時間~10時間程度、好ましくは3時間~6時間、保持して仮焼することが好ましい。仮焼により、上記リチウムの拡散が十分に行われ、より均一な複合酸化物粒子を得ることができる。
【0101】
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度を18容量%~100容量%とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスとの混合雰囲気とすることが特に好ましい。例えば大気ないしは酸素気流中で焼成することにより、結晶性をより高いものとすることができ、電池特性を特に向上させることができる。
【0102】
焼成工程後に得られた焼成物を解砕する解砕工程を実施してもよく、これにより、二次粒子の凝集を解消することができ、粗大粒子の混入をさらに低減することができる。
【0103】
3.リチウムイオン二次電池
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」と記載することがある。)は、正極が、上記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を含むことができる。以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。
【0104】
本実施形態の二次電池は、正極の正極材料、より具体的には正極活物質として既述の複合酸化物粒子を用いたこと以外は、一般的なリチウムイオン二次電池と実質的に同様の構造を備えている。
【0105】
具体的には、本実施形態の二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解質、および必要に応じてセパレーターを備えた構造を有している。より具体的にいえば、例えば非水系電解液を用いる場合であれば、セパレーターを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉することによって、本実施形態の二次電池は形成される。
【0106】
なお、本実施形態の二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、また、その外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0107】
(正極)
まず、本実施形態の二次電池の特徴である正極について説明する。正極は、シート状の部材であり、例えば、正極活物質として既述の複合酸化物粒子を含有する正極合材ペーストを、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成されている。
【0108】
なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。例えば、目的とする二次電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等が行われる。
【0109】
正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成されたものである。正極合材は、粉末状になっている既述の複合酸化物粒子と、導電材および結着剤とを混合して形成されたものである。
【0110】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。この導電材は、特に限定されないが、例えば黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0111】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。この正極合材に使用される結着剤は、特に限定されないが、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0112】
なお、正極合材には、活性炭などを添加してもよく、活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0113】
溶剤は、結着剤を溶解して、正極活物質、導電材および活性炭などを結着剤中に分散させるものである。この溶剤は特に限定されないが、たとえば、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0114】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は、特に限定されない。例えば溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部~95質量部、導電材の含有量を1質量部~20質量部、結着剤の含有量を1質量部~20質量部とすることができる。
【0115】
(負極)
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。この負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材などは異なるものの、実質的に前記正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に、必要に応じて各種処理が行われる。
【0116】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にしたものである。
【0117】
負極活物質は、例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0118】
吸蔵物質は、特に限定されないが、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0119】
(セパレーター)
セパレーターは、非水系電解液を用いる場合に正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。セパレーターは、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
【0120】
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0121】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0122】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0123】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0124】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0125】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0126】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、たとえば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0127】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、たとえば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0128】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0129】
有機固体電解質としては、イオン電導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように、本実施形態の二次電池は、円筒形や積層形等、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合では、セパレーターを介して正極、および負極を積層させて電極体とする。得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0130】
なお、本実施形態に係る二次電池は、非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば、固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて適宜変更することができる。
【0131】
本実施形態に係る二次電池は、上述したように、本実施形態に係る複合酸化物粒子を正極の材料として用いているため、電池容量、および出力特性に優れる。そのため、本実施形態に係る二次電池は、携帯電話、スマートフォン、タブレット若しくはノート型パソコン等の携帯情報端末、携帯音楽プレーヤー、デジタルカメラ、医療機器、HEV、またはEVもしくはPHEV等のクリーンエネルギー自動車等の充放電可能な電池として好適に用いることができる。
【実施例0132】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0133】
[実施例1]
(1)複合水酸化物粒子の製造(晶析工程)
(1-1)複合水酸化物粒子の製造条件について
(核生成工程)
まず、反応槽内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。このときの反応槽内は、大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)とした。なお、核生成工程と、第1粒子成長工程との間、反応槽内を大気雰囲気に保持した。反応槽としてはバッチ反応槽を用い、反応槽内の雰囲気が制御できるように密閉式の装置を用いた。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液温25℃基準で、槽内の反応液のpH値が13.0となるように反応前水溶液を調整した。
【0134】
次に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムを水に溶かして混合水溶液を調製した。
【0135】
上記混合水溶液とタングステン酸ナトリウム水溶液を同時に、各金属元素の物質量比がNi:Mn:Co:Zr:W=33:33:33:0.5:0.5となるように反応槽内の反応前水溶液に一定速度で加えて、反応水溶液(核生成用水溶液)とした。上記混合水溶液、タングステン酸ナトリウム水溶液と同時に、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加え、反応水溶液のpH値(25℃基準)を13.0(核生成pH値)に制御しながら、2分30秒間晶析させて核生成を行った。
【0136】
(粒子成長工程)
核生成工程終了後、反応水溶液のpH値が液温25℃基準で11.4になるまで、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止した。
【0137】
(第1粒子成長工程)
反応水溶液のpH値が11.4に到達した後、反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開した。再開後、反応水溶液のアンモニア濃度を保持しつつ、pH値を液温25℃基準で11.4に制御し、30分間の晶析を継続し粒子成長を行った。
【0138】
(第2粒子成長工程)
第1粒子成長工程終了後に、反応水溶液への給液を停止し、反応槽内空間の酸素濃度が0.2容量%以下の非酸化性雰囲気となるまで窒素ガスを5L/minで流通させた。なお、第2粒子成長工程の間、反応槽内空間の酸素濃度は0.2容量%以下に保持した。その後、給液を再開し、粒子成長開始からあわせて4時間晶析を行った。第2粒子成長工程の間、粒子成長用水溶液のpH値(25℃基準)は11.4に制御した。
【0139】
そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。なお、上記大気雰囲気から非酸化性雰囲気への切り替え、すなわち第1粒子成長工程から第2粒子成長工程への切り替えは、粒子成長工程の開始時から粒子成長工程時間の全体に対して12.5%の時点で行ったことになる。粒子成長工程の全体の時間のうち、第1粒子成長工程を実施した時間の割合を表1の「雰囲気切換時」の欄に示す。
【0140】
(1-2)複合水酸化物粒子の分析
得られた複合水酸化物粒子について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、物質量比がNi:Mn:Co:Zr:W=33:33:33:0.5:0.5の複合水酸化物であった。また、硫黄は全て硫酸根で存在するとして硫酸根の含有量を算出したところ、0.29質量%であった。
【0141】
また、この複合水酸化物粒子について、平均粒径および粒度分布を示す〔(d90-d10)/平均粒径〕値を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出して求めた。その結果、平均粒径は5.1μmであり、〔(d90-d10)/平均粒径〕値は、0.52であった。複合水酸化物粒子の平均粒径を表1の「平均粒径」の欄に示す。
【0142】
また、得られた複合水酸化物粒子の試料を、樹脂に埋め込み、SEMによる断面観察を行ったところ、この複合水酸化物粒子は複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成され、該二次粒子は、針状の微細一次粒子(平均粒径0.2μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(平均粒径0.8μm)からなる外殻部とにより構成されていることが確認された。
【0143】
上記微細一次粒子および板状一次粒子の平均粒径は、上記二次粒子中の、10個の上記各一次粒子断面の最大径を粒径として測定し、平均値を計算することで求めた。
【0144】
(2)複合酸化物粒子の製造
(2-1)熱処理工程
上記複合水酸化物粒子を、空気(酸素:21容量%)気流中にて、700℃で6時間の熱処理を行って、ニッケルマンガン複合酸化物粒子に転換して熱処理粒子を回収した。
(2-2)混合工程
熱処理工程後、熱処理粒子を100℃に加熱しながら硫酸リチウム水溶液を噴霧し、外殻部に硫酸リチウムを含浸し、充分に乾燥した。含浸後の複合酸化物粒子について、硫酸根の含有量を複合水酸化物粒子と同様に算出したところ、0.59質量%であった。硫酸根を含浸後の熱処理粒子の硫酸根の含有量を、表1の「硫酸根量」の欄に示す。
【0145】
Li/Me=1.05となるように水酸化リチウムを秤量し、上記硫酸根を含有させた熱処理粒子と混合してリチウム混合物を調製した。なお、Li/Meは、リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和、すなわち、ニッケル、マンガン、コバルトおよび元素Mの原子数の和(Me)に対する、リチウムの原子数(Li)の比を意味する。
【0146】
(2-3)焼成工程、解砕工程
得られたリチウム混合物を大気中(酸素:21容量%)にて、500℃で4時間仮焼した後、900℃で4時間焼成し、冷却した後、解砕して、正極活物質であるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を得た。
【0147】
(3)複合酸化物粒子の分析
複合水酸化物粒子と同様の方法で、得られた複合酸化物粒子の粒度分布を測定したところ、平均粒径は4.5μmであり、〔(d90-d10)/平均粒径〕値は、0.50であった。
【0148】
また、得られた複合酸化物粒子の試料をSEM観察したところ、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。一方、複合酸化物粒子の試料を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャー加工を行ったものについて、倍率を10,000倍としたSEMによる断面観察を行った。その結果、複合酸化物粒子が、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。すなわち、外殻部は凝集した一次粒子を含むことを確認できた。この断面観察から求めた、正極活物質の二次粒子の粒径に対する外殻部の厚さの比率は14%であった。正極活物質の二次粒子の粒径に対する外殻部の厚さの比率を、表2の「外殻部の厚さ」の欄に示している。
【0149】
なお、外殻部の厚さの二次粒子の粒径に対する比率は、上記樹脂中の二次粒子から、ほぼ粒子中心の断面観察が可能な粒子を選択して、任意の3箇所で、外殻部の外周上と中心部側の内周上の距離が最短となる2点間の距離を測定して、該粒子の外殻部の平均厚みを求めた。二次粒子外周上で距離が最大となる任意の2点間の距離を二次粒子の粒径として該平均厚みを除することで、粒子ごとの外殻部の厚さの上記比率を求めた。さらに、10個の粒子について求めた粒子ごとの該比率を平均することで、複合酸化物粒子における、二次粒子の粒径に対する外殻部の厚さの比率を求めた。
【0150】
さらに、同様にICP発光分光法により複合酸化物粒子の組成分析を行ったところ、物質量比がLi:Ni:Mn:Co:Zr:W=1.05:0.33:0.33:0.33:0.005:0.005の複合酸化物であった。また、硫酸根の含有量は0.48質量%であった。
【0151】
複合水酸化物粒子のDBP吸収量を、JIS K 6217-4:2017に準拠して測定したところ、36.9mL/100gであり、BET法により求めた比表面積は、1.5m2/gであった。
【0152】
得られた複合酸化物粒子について、X線回折パターンを測定したところ、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有することを確認できた。以下の実施例2、実施例3で得られた複合酸化物粒子についても同様の結晶構造を有することを確認できた。
【0153】
(3)リチウムイオン二次電池の作製及び電池特性の評価
以下の方法により、リチウムイオン二次電池としてコイン型電池を作製し、正極活物質の電池特性を評価した。
【0154】
(3-1)コイン型電池の作製
コイン型電池としては、
図1に示す構造を有する、2032型コイン電池(以下、「コイン型電池」ともいう)10を使用した。コイン型電池10は、正極11、負極12、セパレーター13、ガスケット14、ウェーブワッシャー15、正極缶16及び負極缶17を備えるリチウムイオン二次電池である。なお、正極11、負極12及びセパレーター13には電解液を含浸させた。
【0155】
コイン型電池10内には、正極11、セパレーター13、負極12及びウェーブワッシャー15がこの順に正極缶16から負極缶17に向かって積層されるように配置されている。正極11は正極缶16の内面に接触し、負極12はウェーブワッシャー15を介して負極缶17の内面に接触している。
【0156】
正極缶16及び負極缶17は、それぞれ、中空かつ一端が開口された構成を有しており、正極缶16の開口部に負極缶17が配置される。コイン型電池10は、負極缶17を正極缶16の開口部に配置することで、正極缶16と負極缶17との間に、正極11、負極12、セパレーター13、ガスケット14及びウェーブワッシャー15が収容される。
【0157】
また、ガスケット14が正極缶16と負極缶17との間に配置されており、このガスケット14によって、正極缶16及び負極缶17は、これらの間が非接触の状態、すなわち電気的に絶縁状態を維持するように相対的な移動を規制し、固定されている。また、ガスケット14は、正極缶16と負極缶17との隙間を密封して、コイン型電池10内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0158】
コイン型電池10は、以下のようにして作製した。
【0159】
まず、作製した複合酸化物粒子52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、
図1に示す正極(評価用電極)11を作製した。その後、作製した正極11を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0160】
正極11、負極12、およびセパレーター13に電解液を含浸させた後、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内でコイン型電池10を作製した。正極缶16に、作製した正極11、セパレーター13、負極12、およびウェーブワッシャー15をこの順に積層した後、負極12がウェーブワッシャー15を介して負極缶17の内面に接触するように正極缶16の開口部に負極缶17を被せることで、コイン型電池10を組み立てた。
【0161】
負極12には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた、平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
【0162】
セパレーター13には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
【0163】
電解液には、1MのLiPF6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合比が体積基準で1:1である等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0164】
(コイン型電池の電池特性の評価)
製造したコイン型電池10の電池特性を示す、電池容量、出力特性は、以下のように測定し、評価した。
【0165】
(a)電池容量
電池容量は、初期放電容量を測定することで評価した。初期放電容量は、コイン型電池10を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。表2中、「放電容量」の欄に結果を示す。
【0166】
(b)出力特性
出力特性は、コイン型電池の正極抵抗により評価した。なお、正極抵抗が小さいほど出力特性に優れる。コイン型電池10を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により測定すると、
図2(A)に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき、
図2(B)に示した等価回路を用いてフィッティング計算して、正極抵抗の値を算出した。
【0167】
上記複合酸化物粒子を用いて形成された正極を有するコイン型電池10について、電池評価を行ったところ、初期放電容量は158.2mAh/gであり、正極抵抗は3.7Ωであった。
【0168】
本実施例により得られた複合水酸化物粒子の平均粒径、硫酸根を含浸後の熱処理粒子の硫酸根量を表1に、複合酸化物粒子の特性およびコイン型電池の各評価を表2に、それぞれ示す。表1には、晶析工程の粒子成長工程における第1粒子成長工程から第2粒子成長工程への切り替えのタイミングに当たる、粒子成長工程のうちの第1粒子成長工程の時間の割合も雰囲気切換時の欄にあわせて示している。また、以下の実施例2、実施例3および比較例1についても、同様の内容について、表1および表2に示す。
【0169】
(実施例2)
複合水酸化物粒子を製造する晶析工程のうち、粒子成長工程において、第1粒子成長工程から第2粒子成長工程への切り替えを、粒子成長工程時間全体に対して18.75%の時点で行った。また、混合工程で、熱処理粒子への硫酸リチウム水溶液の噴霧を、硫酸根の含有量が0.52質量%となるように行った。以上の点以外は、実施例1と同様にして、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を得るとともに評価を行った。得られた複合水酸化物粒子および複合酸化物粒子の組成は、実施例1と同じであった。複合水酸化物粒子は実施例1と同様に複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成され、針状の微細一次粒子(平均粒径0.2μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(平均粒径0.8μm)からなる外殻部とにより構成されていた。また、複合酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。
【0170】
(実施例3)
複合酸化物粒子を製造する工程のうち、混合工程で、熱処理粒子への硫酸リチウム水溶液の噴霧を、硫酸根の含有量が0.65質量%となるように行ったこと以外は、実施例1と同様にして、複合酸化物粒子を得るとともに評価を行った。得られた複合水酸化物粒子、および複合酸化物粒子の組成は、実施例1と同じであった。複合水酸化物粒子は実施例1と同様に複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成され、針状の微細一次粒子(平均粒径0.2μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(平均粒径1.0μm)からなる外殻部とにより構成されていた。また、複合酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。
【0171】
(比較例1)
複合水酸化物粒子を製造する工程のうち、混合工程で、熱処理粒子への硫酸リチウム水溶液の噴霧を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、複合酸化物粒子を得るとともに評価を行った。得られた複合水酸化物粒子および複合酸化物粒子の組成は、実施例1と同じであり、複合水酸化物粒子は実施例1と同様に複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成され、針状の微細一次粒子(平均粒径0.2μm)からなる中心部と、該中心部の外側にこの微細一次粒子よりも大きい板状の一次粒子(平均粒径0.6μm)からなる外殻部とにより構成されていた。また、複合酸化物粒子は、一次粒子が焼結して構成された外殻部と、その内部に中空部を備える中空構造となっていることを確認した。
【0172】
【0173】
【表2】
表1に示したように、本実施形態に係る実施例1~実施例3の複合水酸化物粒子は、微細一次粒子からなる中心部と、中心部の外側に該微細一次粒子よりも大きな板状一次粒子からなる外殻部を有し、硫酸根の含有量が本発明の好適な範囲内である。一方、比較例1は、粒子構造は実施例と同様の形態であるが、硫酸根の含有量が低い。
【0174】
表1の複合水酸化物粒子から得られた複合酸化物粒子についての評価結果を表2に示すが、実施例1~実施例3の複合酸化物粒子は、DBP吸収量が多く、電池容量と出力特性に優れていることが分かる。一方、比較例1は、比表面積は実施例と同等以上であるが、実施例よりDBP吸収量が少なく、硫酸根の含有量が少ない。硫酸根の含有量が少ないため、外殻部の一次粒子の焼結が進行し、DBP吸収量を指標として評価される電解質が侵入可能な空隙が少なくなり、電池特性や、出力特性の低下が大きくなったと考えられる。