(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010991
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】放射線画像処理装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20240101AFI20240118BHJP
【FI】
A61B6/00 333
A61B6/00 350Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112633
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧 伴子
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093EA07
4C093FC16
4C093FD09
4C093FD11
4C093FF18
4C093FF22
4C093FF34
4C093FF35
4C093FG11
(57)【要約】
【課題】放射線画像処理装置、方法およびプログラムにおいて、被写体内の組成割合を精度よく導出できるようにする。
【解決手段】プロセッサは、複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得し、複数の組成についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出し、第1の体厚および第2の体厚に基づいて、放射線画像の画素毎に、被写体の組成割合を導出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得し、
前記複数の組成についての前記放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、前記2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、前記被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出し、
前記第1の体厚および前記第2の体厚に基づいて、前記放射線画像の画素毎に、前記被写体の組成割合を導出する放射線画像処理装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記被写体を、前記複数の組成のそれぞれがまとめられて前記組成のそれぞれが1つの厚さを有するように分割されたモデルと見なして、前記組成割合を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記第1の体厚と前記第2の体厚との相違に基づいて、前記組成割合を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記組成の厚さおよび前記組成毎の減弱係数を変更しつつ、変更された前記組成の厚さおよび前記組成毎の減弱係数を用いて前記第1の体厚および前記第2の体厚を導出し、前記第1の体厚と前記第2の体厚との相違が予め定められたしきい値以下となる前記組成の厚さに基づいて、前記組成割合を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記2つの放射線画像に含まれる散乱線成分を除去し、
前記散乱線成分が除去された前記2つの放射線画像に基づいて前記組成割合を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項6】
前記2つの放射線画像は、前記被写体を透過した放射線を、互いに重ねられた2つの放射線検出器に同時に照射することによって、前記2つの放射線検出器により取得されたものである請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記組成割合の分布を、前記2つの放射線画像のいずれかと重畳してディスプレイに表示する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項8】
前記複数の組成は、筋肉および脂肪である請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項9】
前記複数の組成は、骨部および軟部である請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項10】
前記複数の組成は、前記被写体に注入された造影剤および前記造影剤以外の組織である請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記2つの放射線画像および前記組成割合に基づいて前記複数の組成のうちの少なくとも1つの組成についての組成画像を導出する請求項1に記載の放射線画像処理装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記組成画像に基づいて前記組成画像により表されている前記組成を定量化する請求項11に記載の放射線画像処理装置。
【請求項13】
複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得し、
前記複数の組成についての前記放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、前記2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、前記被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出し、
前記第1の体厚および前記第2の体厚に基づいて、前記放射線画像の画素毎に、前記被写体の組成割合を導出する放射線画像処理方法。
【請求項14】
複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得する手順と、
前記複数の組成についての前記放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、前記2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、前記被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出する手順と、
前記第1の体厚および前記第2の体厚に基づいて、前記放射線画像の画素毎に、前記被写体の組成割合を導出する手順とをコンピュータに実行させる放射線画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線画像を用いて被写体の組成割合を導出する放射線画像処理装置、方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、脂肪および筋肉等の人体の組成を導出するための各種手法が提案されている。例えば、特許文献1には、被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線により取得された2つの放射線画像のそれぞれについて、被写体の体厚を第1の体厚および第2の体厚として導出し、第1の体厚および第2の体厚に基づいて、筋肉および脂肪といった被写体の組成割合を導出する手法が提案されている。
【0003】
ここで、放射線源から出射される放射線はエネルギー分布を持つ。被写体における放射線の減弱係数は放射線のエネルギーに対する依存性があり、高エネルギー成分ほど減弱係数が小さくなる特性を持つ。このため、放射線は物質を透過する過程で相対的に低エネルギー成分を多く失い、高エネルギー成分の割合が増えてくる、ビームハードニングという現象が生じる。ビームハードニングの程度は、被写体内における脂肪の厚さおよび筋肉の厚さに依存する。このため、特許文献1に記載された手法においては、脂肪の減弱係数μfおよび筋肉の減弱係数μmは、脂肪の厚さtfおよび筋肉の厚さtmの非線形の関数として表される減弱係数μf(tf,tm)、μm(tf,tm)を用いて、第1の体厚および第2の体厚を導出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際にはビームハードニングの影響は、放射線が透過する物質の順序に影響される。例えば、2つの物質があり、先に放射線が透過する第1の物質については自身の厚さにのみ依存してビームハードニングの影響が生じるが、次に放射線が透過する第2の物質の減弱係数は、第2の物質自身の厚さのみならず、先に放射線が透過した第1の物質の厚さに依存してビームハードニングの影響が生じる。このため、特許文献1に記載された手法では、ビームハードニングの影響を過剰に与えることとなるため、被写体の組成割合の導出精度に誤差が生じる。
【0006】
本開示は上記事情に鑑みなされたものであり、被写体内の組成割合をより精度よく導出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示による放射線画像処理装置は、少なくとも1つのプロセッサを備え、
プロセッサは、複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得し、
複数の組成についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出し、
第1の体厚および第2の体厚に基づいて、放射線画像の画素毎に、被写体の組成割合を導出する。
【0008】
なお、本開示による放射線画像処理装置においては、プロセッサは、被写体を、複数の組成のそれぞれがまとめられて組成のそれぞれが1つの厚さを有するように分割されたモデルと見なして、組成割合を導出するものであってもよい。
【0009】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、プロセッサは、第1の体厚と第2の体厚との相違に基づいて、組成割合を導出するものであってもよい。
【0010】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、プロセッサは、組成の厚さおよび組成毎の減弱係数を変更しつつ、変更された組成の厚さおよび組成毎の減弱係数を用いて第1の体厚および第2の体厚を導出し、第1の体厚と第2の体厚との相違が予め定められたしきい値以下となる組成の厚さに基づいて、組成割合を導出するものであってもよい。
【0011】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、プロセッサは、2つの放射線画像に含まれる散乱線成分を除去し、
散乱線成分が除去された2つの放射線画像に基づいて組成割合を導出するものであってもよい。
【0012】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、2つの放射線画像は、被写体を透過した放射線を、互いに重ねられた2つの放射線検出器に同時に照射することによって、2つの放射線検出器により取得されたものであってもよい。
【0013】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、プロセッサは、組成割合の分布を、2つの放射線画像のいずれかと重畳してディスプレイに表示するものであってもよい。
【0014】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、複数の組成は、筋肉および脂肪であってもよい。
【0015】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、複数の組成は、骨部および軟部であってもよい。
【0016】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、複数の組成は、被写体に注入された造影剤および造影剤以外の組織であってもよい。
【0017】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、プロセッサは、2つの放射線画像および組成割合に基づいて複数の組成のうちの少なくとも1つの組成についての組成画像を導出するものであってもよい。
【0018】
また、本開示による放射線画像処理装置においては、プロセッサは、組成画像に基づいて組成画像により表されている組成を定量化するものであってもよい。
【0019】
本開示による放射線画像処理方法は、複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得し、
複数の組成についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出し、
第1の体厚および第2の体厚に基づいて、放射線画像の画素毎に、被写体の組成割合を導出する。
【0020】
本開示による放射線画像処理プログラムは、複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得する手順と、
複数の組成についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出する手順と、
第1の体厚および第2の体厚に基づいて、放射線画像の画素毎に、被写体の組成割合を導出する手順とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、被写体内の組成割合を精度よく導出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示の第1の実施形態による放射線画像処理装置を適用した放射線画像撮影システムの構成を示す概略ブロック図
【
図2】第1の実施形態による放射線画像処理装置の概略構成を示す図
【
図3】第1の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図
【
図4】低エネルギー画像および高エネルギー画像により導出される体厚の相違を説明するための図
【
図5】体厚の差と脂肪の組成割合との関係を規定したテーブルを示す図
【
図6】放射線のエネルギー分布が筋肉および脂肪の配置によって変更されないことを説明するための図
【
図8】第1の実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【
図9】第2の実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【
図10】第3の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図
【
図12】筋肉組織を透過後の放射線と脂肪組織を透過後の放射線とのエネルギースペクトルの一例を示す図
【
図13】第3の実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。
図1は本開示の第1の実施形態による放射線画像処理装置を適用した放射線画像撮影システムの構成を示す概略ブロック図である。
図1に示すように、本実施形態による放射線画像撮影システムは、撮影装置1と、第1の実施形態による放射線画像処理装置10とを備える。
【0024】
撮影装置1は、第1の放射線検出器5および第2の放射線検出器6に、放射線源3から発せられ、被写体Hを透過したX線等の放射線を、それぞれエネルギーを変えて照射するいわゆる1ショット法によるエネルギーサブトラクションを行うための撮影装置である。撮影時においては、
図1に示すように、放射線源3に近い側から順に、第1の放射線検出器5、銅板等からなる放射線エネルギー変換フィルタ7、および第2の放射線検出器6を配置して、放射線源3を駆動させる。なお、第1および第2の放射線検出器5,6と放射線エネルギー変換フィルタ7とは密着されている。
【0025】
これにより、第1の放射線検出器5においては、いわゆる軟線も含む低エネルギーの放射線による被写体Hの第1の放射線画像G1が取得される。また、第2の放射線検出器6においては、軟線が除かれた高エネルギーの放射線による被写体Hの第2の放射線画像G2が取得される。第1および第2の放射線画像G1,G2は、放射線画像処理装置10に入力される。
【0026】
なお、本実施形態においては、被写体Hの撮影時には、被写体Hを透過した放射線の散乱線成分を除去する散乱線除去グリッドは使用されない。このため、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2には、被写体Hを透過した放射線の一次線成分および散乱線成分が含まれる。
【0027】
ここで、エネルギーサブトラクション処理とは、被写体を構成する物質によって透過した放射線の減衰量が異なることを利用して、エネルギー分布が異なる2種類の放射線を被写体に照射して得られた2枚の放射線画像を用いて、被写体内の異なる組織(例えば軟部および骨部)を抽出した画像を生成する処理である。本実施形態による放射線画像撮影システムにおける撮影装置1は、エネルギーサブトラクション処理を行うことが可能なものであるが、第1の実施形態は、被写体の組成割合を導出するものであるため、エネルギーサブトラクション処理についての詳細な説明は省略する。
【0028】
第1および第2の放射線検出器5,6は、放射線画像の記録および読み出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチをオン・オフさせることによって放射線画像信号が読み出される、いわゆるTFT読出方式のもの、または読取り光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0029】
次いで、第1の実施形態による放射線画像処理装置について説明する。まず、
図2を参照して、第1の実施形態による放射線画像処理装置のハードウェア構成を説明する。
図2に示すように、放射線画像処理装置10は、ワークステーション、サーバコンピュータおよびパーソナルコンピュータ等のコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)11、不揮発性のストレージ13、および一時記憶領域としてのメモリ16を備える。また、放射線画像処理装置10は、液晶ディスプレイ等のディスプレイ14、キーボードおよびマウス等の入力デバイス15、並びに不図示のネットワークに接続されるネットワークI/F(InterFace)17を備える。CPU11、ストレージ13、ディスプレイ14、入力デバイス15、メモリ16およびネットワークI/F17は、バス18に接続される。なお、CPU11は、本開示におけるプロセッサの一例である。
【0030】
ストレージ13は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、およびフラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としてのストレージ13には、放射線画像処理装置10にインストールされた放射線画像処理プログラム12が記憶される。CPU11は、ストレージ13から放射線画像処理プログラム12を読み出してメモリ16に展開し、展開した放射線画像処理プログラム12を実行する。
【0031】
なお、放射線画像処理プログラム12は、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置、あるいはネットワークストレージに、外部からアクセス可能な状態で記憶され、要求に応じて放射線画像処理装置10を構成するコンピュータにダウンロードされ、インストールされる。または、DVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の記録媒体に記録されて配布され、その記録媒体から放射線画像処理装置10を構成するコンピュータにインストールされる。
【0032】
次いで、第1の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を説明する。
図3は、第1の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図である。
図3に示すように、放射線画像処理装置10は、画像取得部21、散乱線除去部22、体厚導出部23、組成割合導出部24および表示制御部25を備える。そして、CPU11は、放射線画像処理プログラム12を実行することにより、画像取得部21、散乱線除去部22、体厚導出部23、組成割合導出部24および表示制御部25として機能する。なお、第1の実施形態においては、組成割合として、脂肪の組成割合を導出するものとする。このため、被写体Hには骨部が含まれているが、説明のために、第1および第2の放射線画像G1,G2には、骨部は含まれず、軟部のみが含まれているものとして説明する。
【0033】
画像取得部21は、撮影装置1に被写体Hのエネルギーサブトラクション撮影を行わせることにより、第1および第2の放射線検出器5,6から、被写体Hの第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2を取得する。第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2の取得に際しては上述したように撮影条件が設定される。
【0034】
散乱線除去部22は、第1および第2の放射線画像G1,G2に含まれる、被写体H内において放射線が散乱することにより生じる散乱線成分を除去する。散乱線成分を除去する手法としては、例えば、特開2014-207958号公報等に記載された任意の手法を用いることができる。特開2014-207958号公報に記載された手法は、放射線画像の撮影時に散乱線を除去するために使用が想定されるグリッドの特性を取得し、この特性に基づいて放射線画像に含まれる散乱線成分を導出し、導出された散乱線成分を用いて散乱線除去処理を行う手法である。なお、以降の処理における第1および第2の放射線画像G1,G2は散乱線成分が除去されたものである。
【0035】
体厚導出部23は、散乱線成分が除去された第1および第2の放射線画像G1,G2のそれぞれについての画素毎に、被写体Hの体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出する。具体的には、体厚導出部23は、第1の放射線画像G1に関して、輝度分布が被写体Hの体厚の分布と一致するものと仮定し、第1の放射線画像G1の画素値を、被写体Hの筋肉における減弱係数を用いて厚さに変換することにより、被写体Hの第1の体厚t1を導出する。また、体厚導出部23は、第2の放射線画像G2に関して、輝度分布が被写体Hの体厚の分布と一致するものと仮定し、第2の放射線画像G2の画素値を、被写体Hの筋肉における減弱係数を用いて厚さに変換することにより、被写体Hの第2の体厚t2を導出する。
【0036】
ここで、放射線源3から出射される放射線はエネルギー分布を持ち、被写体Hにおける放射線の減弱係数も放射線のエネルギーに対する依存性があり、高エネルギー成分ほど減弱係数が小さくなる特性を持つ。このため、放射線は物質を透過する過程で相対的に低エネルギー成分を多く失い、高エネルギー成分の割合が増えてくる、ビームハードニングという現象が生じる。ビームハードニングの程度は、被写体H内における脂肪の厚さtfおよび筋肉の厚さtmに依存する。また、被写体H内における放射線が透過する物質の順序にも依存する。すなわち、放射線が先に脂肪を透過する場合、脂肪の減弱係数は脂肪の厚さtfにのみ依存するが、脂肪の次に放射線が透過する筋肉の減弱係数は、筋肉の厚さtmのみならず、脂肪の厚さtfにも依存する。このため、脂肪の減弱係数μfは、脂肪の厚さtfの非線形の関数として、μf(tf)と定義することができ、筋肉の減弱係数μmは、脂肪の厚さtfおよび筋肉の厚さtmの非線形の関数として、μm(tf,tm)と定義することができる。
【0037】
ここで、被写体Hの軟部組織は、筋肉、脂肪、血液、および水分を含む。本実施形態においては、軟部組織における脂肪以外の組織を、筋肉とみなす。すなわち、本実施形態においては、筋肉に血液および水分も含めた非脂肪の組織を含むものとして扱うものとする。
【0038】
本実施形態のように、2つの異なるエネルギー分布の放射線により取得された第1および第2の放射線画像G1,G2は、それぞれ低エネルギー画像および高エネルギー画像に相当する。このため、本実施形態においては、低エネルギー画像である第1の放射線画像G1についての脂肪の減弱係数はμlf(tf)、筋肉の減弱係数はμlm(tf,tm)と表すことができる。また、高エネルギー画像である第2の放射線画像G2についての脂肪の減弱係数はμhf(tf)、筋肉の減弱係数はμhm(tf,tm)と表すことができる。
【0039】
また、低エネルギー画像である第1の放射線画像G1の各画素の画素値G1(x,y)および高エネルギー画像である第2の放射線画像G2の各画素の画素値G2(x,y)は、対応する画素位置における脂肪の厚さtf(x,y)、筋肉の厚さtm(x,y)、および減弱係数μlf(x,y)、μhf(x,y)、μlm(x,y)、μhm(x,y)を用いて、下記の式(1)、(2)により表される。なお、式(1)、(2)においては(x,y)の記載は省略している。
G1=μlf×tf+μlm×tm (1)
G2=μhf×tf+μhm×tm (2)
【0040】
上述したように、本実施形態においては、第1の体厚t1および第2の体厚t2を導出する際には、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2の画素値を、被写体Hにおける筋肉の減弱係数を用いて厚さに変換している。このため、第1の実施形態においては、体厚導出部23は、第1の体厚t1および第2の体厚t2を、下記の式(3)、(4)により導出していることとなる。なお、第1の体厚t1および第2の体厚t2は第1および第2の放射線画像G1,G2の各画素(x,y)において導出されるが、式(3)、(4)においては(x,y)の記載は省略している。
t1=G1/μlm (3)
t2=G2/μhm (4)
【0041】
第1および第2の体厚t1,t2を導出した画素位置において、被写体Hに筋肉のみしか含まれない場合、第1の体厚t1と第2の体厚t2とは一致する。しかしながら、実際の被写体Hにおいては、第1および第2の放射線画像G1,G2の同一の画素位置においては、筋肉および脂肪の双方が含まれる。このため、式(3)、(4)により導出した第1および第2の体厚t1,t2は、被写体Hの実際の体厚とは一致しなくなる。また、低エネルギー画像である第1の放射線画像G1から導出した第1の体厚t1と、高エネルギー画像である第2の放射線画像G2から導出した第2の体厚t2とでは、第1の体厚t1の方が第2の体厚t2よりも大きい値となる。例えば、
図4に示すように、実際の体厚が100mmであり、脂肪および筋肉の厚さがそれぞれ30mmおよび70mmであったとする。この場合、低エネルギーの放射線による取得される第1の放射線画像G1により導出した第1の体厚t1は例えば80mm、高エネルギーの放射線による取得される第2の放射線画像G2により導出した第2の体厚t2は例えば70mmと導出される。また、第1の体厚t1と第2の体厚t2との相違は、脂肪の組成割合が大きいほど大きくなる。
【0042】
ここで、第1の体厚t1と第2の体厚t2との相違は、被写体Hにおける脂肪および筋肉の組成割合に応じて変化する。このため、本実施形態においては、脂肪の組成割合を種々変化させた被写体モデルを、異なるエネルギー分布の放射線により撮影し、これにより取得された2つの放射線画像から体厚をそれぞれ導出し、2つの放射線画像から導出した体厚の差と、脂肪の組成割合とを対応づけたテーブルを予め作成してストレージ13に保存しておく。
【0043】
図5は、2つの放射線画像から導出した体厚の差と脂肪の組成割合とを対応づけたテーブルを示す図である。
図5に示すように、テーブルLUT1は横軸が2つの放射線画像のそれぞれから導出した体厚の差であり、縦軸が脂肪の組成割合である。
図5に示すように、2つの放射線画像のそれぞれから導出した体厚の差が大きいほど脂肪の組成割合が大きくなっている。なお、2つの放射線画像のそれぞれから導出した体厚の差と、脂肪の組成割合とを対応づけたテーブルは、撮影時に使用する放射線のエネルギー分布毎に用意されて、ストレージ13に保存される。
【0044】
ここで、本実施形態においては、脂肪および筋肉について放射線が透過する順序に応じたビームハードニングの影響を考慮した減弱係数を用いている。一方、被写体H内においては、脂肪および筋肉が混在しているため、放射線の透過経路上に様々な厚さの脂肪および筋肉が交互に存在する。しかしながら、被写体H内において、全体の筋肉厚および脂肪厚を固定にした条件で、筋肉および脂肪の配置を変更しても、エネルギー毎の減弱係数は物質によって決まるため、全体を透過した放射線スペクトルは同じになる。
【0045】
図6は放射線のエネルギー分布が筋肉および脂肪の配置によって変更されないことを説明するための図である。
図6に示すように、厚さtf1の脂肪および厚さtm2の筋肉がこの順序で並ぶ被写体31、厚さtm2の筋肉および厚さtf1の脂肪がこの順序で並ぶ被写体32、並びに厚さtf11の脂肪、厚さtm2の筋肉および厚さtf12の脂肪がこの順序で並ぶ被写体33を考える。なお、tf1=tf11+tf12であるとする。このような3つの被写体31~33にエネルギー分布30を有する放射線を照射する。エネルギー分布30において横軸は放射線のエネルギー、縦軸は放射線の光子数である。被写体31を透過後の放射線のエネルギー分布34、被写体32を透過後の放射線のエネルギー分布35、および被写体33を透過後の放射線のエネルギー分布36は、同一となる。これは、脂肪および筋肉の配置を変更しても、エネルギー毎の減弱係数は物質によって決まるためである。
【0046】
このため、本実施形態においては、被写体Hを、脂肪および筋肉がそれぞれまとめられて脂肪および筋肉のそれぞれ1つの厚さを有するように2分割されたモデルと見なして、組成を求めるものとする。
【0047】
組成割合導出部24は、体厚導出部23が導出した第1の体厚t1と第2の体厚t2との差分を導出し、ストレージ13に保存されたLUT1を参照して、脂肪の組成割合を導出する。なお、導出した脂肪の組成割合を100%から減算することにより、筋肉の組成割合を導出することができる。
【0048】
表示制御部25は、組成割合導出部24が導出した第1および第2の放射線画像G1,G2の画素毎の脂肪の組成割合に基づいて、脂肪の組成分布をディスプレイ14に表示する。
図7はディスプレイ14に表示された脂肪の組成分布の表示画面を示す図である。
図7に示すように、表示画面40には、脂肪の組成分布が、体脂肪率分布として第1の放射線画像G1に重畳されて表示されている。なお、体脂肪率分布を第2の放射線画像G2に重畳してもよい。なお、
図7においては、体脂肪率分布を3段階に色分けして表示している。なお、
図7においては色分けを濃度の相違により表しており、濃度が大きいほど体脂肪率が高いことを示している。また、ディスプレイ14には、濃度と体脂肪率との関係を表すリファレンス41が表示されている。リファレンス41を参照することにより、体脂肪率の分布を容易に認識することができる。
【0049】
次いで、第1の実施形態において行われる処理について説明する。
図8は第1の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。なお、第1および第2の放射線画像G1,G2は、撮影により取得されてストレージ13に保存されているものとする。処理を開始する指示が入力デバイス15から入力されると、画像取得部21が、第1および第2の放射線画像G1,G2をストレージ13から取得する(ステップST1)。次いで、散乱線除去部22が、第1および第2の放射線画像G1,G2から散乱線成分を除去する(ステップST2)。さらに、体厚導出部23が、散乱線成分が除去された第1および第2の放射線画像G1,G2のそれぞれについての画素毎に、脂肪および筋肉についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、被写体Hの体厚をそれぞれ第1の体厚t1および第2の体厚t2として導出する(ステップST3)。
【0050】
続いて、組成割合導出部24が、体厚導出部23が導出した第1の体厚t1と第2の体厚t2との相違を導出し、ストレージ13に保存されたLUT1を参照して、脂肪の組成割合を導出する(ステップST4)。そして、組成割合導出部24は、全画素の組成割合を導出したか否かを判定し(ステップST5)、ステップST5が否定されると、ステップST3に戻る。ステップST5が肯定されると、表示制御部25が、組成割合導出部24が導出した脂肪の組成割合に基づく脂肪の組成分布をディスプレイ14に表示し(ステップST6)、処理を終了する。
【0051】
このように、第1の実施形態においては、第1および第2の放射線画像G1,G2のそれぞれについての画素毎に、脂肪および筋肉についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、被写体Hの体厚をそれぞれ第1の体厚t1および第2の体厚t2として導出し、第1の体厚t1および第2の体厚t2との相違に基づいて、被写体Hの組成割合を導出するようにした。このため、被写体H内において放射線が透過する物質の順序に応じたビームハードニングの影響を考慮して第1の体厚t1および第2の体厚t2、さらには脂肪の割合を導出することができる。したがって、本実施形態によれば、被写体内の組成割合を精度よく導出できる。
【0052】
また、被写体Hを脂肪および筋肉がそれぞれまとまった1つの厚さを有するように2分割されたモデルと見なして組成を求めているため、比較的簡易な演算により組成を導出することができる。したがって、本実施形態によれば、短い処理時間で被写体Hの組成割合を導出できる。
【0053】
なお、上記第1の実施形態においては、体厚導出部23は、第1および第2の放射線画像G1,G2の画素値を筋肉の減弱係数を用いて厚さに変換することにより、第1および第2の体厚t1,t2を導出しているが、これに限定されるものではない。第1および第2の放射線画像G1,G2の画素値を脂肪の減弱係数を用いて厚さに変換することにより、第1および第2の体厚t1,t2を導出してもよい。この場合、2つの放射線画像から導出した体厚の差と、筋肉の組成割合とを対応づけたテーブルを予め作成して、ストレージ13に保存しておく。そして、組成割合導出部24は、2つの放射線画像から導出した体厚の差と、筋肉の組成割合とを対応づけたテーブルを参照して、筋肉の組成割合を導出するものとすればよい。この場合、導出された筋肉の組成割合を100%から減算することにより、脂肪の組成割合を導出することができる。
【0054】
次いで、本開示の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態における放射線画像処理装置は、
図3に示す本開示による第1の実施形態による放射線画像処理装置の構成と同一であり、行われる処理のみが異なる。このため、ここでは装置についての詳細な説明は省略する。第2の実施形態による放射線画像処理装置は、体厚導出部23が、複数の組成についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、第1の体厚t1および第2の体厚t2を導出し、組成割合導出部24が、組成の厚さおよび組成毎の減弱係数を変更しつつ、変更された組成の厚さおよび組成毎の減弱係数を用いて体厚導出部23に第1の体厚t1および第2の体厚t2を導出させ、第1の体厚t1と第2の体厚t2との相違が予め定められたしきい値Th1以下となる組成の厚さに基づいて、組成割合を導出するようにした点が第1の実施形態と異なる。
【0055】
ここで、第1の体厚t1は、脂肪の厚さtfと筋肉の厚さtmとの加算値、すなわちt1=tf+tmとなる。tm=t1-tfであるため、上記式(1)は、下記の式(5)に変形できる。なお、式(5)~(7)においても(x,y)の記載を省略している。
G1=μlf×tf+μlm×(t1-tf) (5)
【0056】
式(5)をt1について解くと、下記の式(5)となる。
t1={G1+(μlm-μlf)×tf}/μlm (6)
【0057】
また、第2の体厚t2=tf+tmであるため、式(2)を式(5)と同様に変形してt2について解くと、下記の式(7)となる。
t2={G2+(μhm-μhf)×tf}/μhm (7)
【0058】
t1とt2との相違が小さくなるように、好ましくはt1=t2となるように脂肪の厚さtfを導出することにより、脂肪の組成割合を導出することができる。しかしながら、減弱係数μlf、μhfは脂肪の厚さtfについての非線形の関数であり、μlm、μhmは、脂肪の厚さtfおよび筋肉の厚さtmについての非線形の関数であるため、式(6)、(7)からは、代数的に脂肪の厚さtfを導出することはできない。このため、第2の実施形態においては、組成割合導出部24は、脂肪の厚さtfおよび減弱係数μlf、μhf、μlm、μhmを変更しつつ、変更された組成の厚さtfおよび減弱係数μlf、μhf、μlm、μhmを用いて体厚導出部23に第1の体厚t1および第2の体厚t2を導出させる。そして、組成割合導出部24は、第1の体厚t1と第2の体厚t2との相違が予め定められたしきい値Th1以下となる、すなわち|t1-t2|≦Th1となる脂肪の厚さtfを導出し、脂肪の厚さtfに基づいて脂肪の組成割合を導出する。なお、しきい値Th1はできるだけ小さい値であることが好ましく、Th1=0であることがより好ましい。
【0059】
具体的には、tf=0であり、かつt1=t2である場合は、その画素(x,y)はすべて筋肉である。また、tf=0であり、かつt1≠t2となる場合、組成割合導出部24は、脂肪の厚さtfを変更しつつ、|t1-t2|≦Th1となる脂肪の厚さtfを探索することにより、脂肪の厚さtfを導出する。そして、組成割合導出部24は、導出された脂肪の厚さtfを第1の体厚t1または第2の体厚t2で除算することにより、脂肪の組成割合を導出する。なお、導出した脂肪の組成割合を100%から減算することにより、筋肉の組成割合を導出することができる。
【0060】
次いで、第2の実施形態において行われる処理について説明する。
図9は第2の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。なお、第1および第2の放射線画像G1,G2は、撮影により取得されてストレージ13に保存されているものとする。処理を開始する指示が入力デバイス15から入力されると、画像取得部21が、第1および第2の放射線画像G1,G2をストレージ13から取得する(ステップST11)。次いで、散乱線除去部22が、第1および第2の放射線画像G1,G2から散乱線成分を除去する(ステップST12)。さらに、体厚導出部23が、脂肪の厚さtfの初期値を設定し(ステップST13)、散乱線成分が除去された第1および第2の放射線画像G1,G2のそれぞれについての画素毎に、脂肪および筋肉についての放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、被写体Hの体厚をそれぞれ第1の体厚t1および第2の体厚t2として導出する(ステップST14)。なお、脂肪の厚さtfの初期値は、組成割合導出部24が設定してもよい。
【0061】
続いて、組成割合導出部24が、|t1-t2|≦Th1であるか否かを判定し(ステップST15)、ステップST15が否定されると、脂肪の厚さtfを変更し(ステップST16)、ステップST14に戻る。ステップST15が肯定されると、組成割合導出部24は、ステップST15が肯定された際の脂肪の厚さtfに基づいて、脂肪の組成割合を導出する(ステップST17)。そして、組成割合導出部24は、全画素の組成割合を導出したか否かを判定し(ステップST18)、ステップST18が否定されると、ステップST13に戻る。ステップST18が肯定されると、表示制御部25が、組成割合導出部24が導出した脂肪の組成割合に基づく脂肪の組成分布をディスプレイ14に表示し(ステップST19)、処理を終了する。
【0062】
このように、第2の実施形態においても、被写体内の組成割合を精度よく導出できる。
【0063】
とくに、第2の実施形態においては、被写体Hを脂肪および筋肉がそれぞれまとまった1つの厚さを有する2分割されたモデルと見なして組成を求めている。このため、第2の実施形態のように、繰り返し演算を行うことにより組成を導出する際に、脂肪および筋肉の厚さおよび配置を同時に求める場合と比較して、求めるべき脂肪の厚さtfが発散したり、実際の脂肪の厚さとの誤差が大きくなったり、処理時間が長くなったりすることを防止することができる。すなわち、体厚を導出する繰り返し処理の中の計算式で使用する不必要な変数を減らすことにより、従来の方法よりも短時間で最適解に収束する確率を高くすることができる。
【0064】
なお、上記第2の実施形態においては、脂肪の厚さtfに基づいて脂肪の組成割合を導出しているが、筋肉の厚さtmに基づいて、筋肉の組成割合を導出してもよい。この場合、tf=t1-tmであり、式(1)に基づいてt1を導出すると下記の式(8)となる。また、式(2)をt2について解くと下記の式(9)となる。なお、式(8)、(9)においても(x,y)の記載を省略している。
t1={G1+(μlf-μlm)×tm}/μlf (8)
t2={G2+(μhf-μhm)×tm}/μhf (9)
【0065】
この場合、組成割合導出部24は、第1の体厚t1と第2の体厚t2との相違が予め定められたしきい値Th2以下となる、すなわち|t1-t2|≦Th2となるtmを探索することにより、筋肉の厚さtmを導出し、導出された筋肉の厚さtmを第1の体厚t1または第2の体厚t2で除算することにより、筋肉の組成割合を導出する。
【0066】
また、上記各実施形態においては、放射線が先に脂肪を透過するものとしているが、これに限定されるものではない。放射線が先に筋肉を透過するものとして組成割合を導出するようにしてもよい。この場合、筋肉の減弱係数μmは、筋肉の厚さtmの非線形の関数として、μm(tm)と定義することができ、脂肪の減弱係数μfは、脂肪の厚さtfおよび筋肉の厚さtmの非線形の関数として、μf(tf,tm)と定義することができる。このため、低エネルギー画像である第1の放射線画像G1についての脂肪の減弱係数はμlf(tf,tm)、筋肉の減弱係数はμlm(tm)と表すことができる。また、高エネルギー画像である第2の放射線画像G2についての脂肪の減弱係数はμhf(tf,tm)、筋肉の減弱係数はμhm(tm)と表すことができる。
【0067】
次いで、本開示の第3の実施形態について説明する。
図10は第3の実施形態による放射線画像処理装置の機能的な構成を示す図である。なお、
図10において
図3と同一の構成については同一の参照番号を付与し、詳細な説明は省略する。第3の実施形態においては、定量化部26を備えた点が第1および第2の実施形態と異なる。
【0068】
定量化部26は、散乱線除去部22により散乱線成分が除去された第1および第2の放射線画像G1,G2から、被写体Hの軟部が抽出された軟部画像Gsを導出する。具体的には、定量化部26は、第1および第2の放射線画像G1,G2に対して、下記の式(10)に示すように、それぞれ対応する画素間での重み付け減算を行うことにより各放射線画像G1,G2に含まれる被写体Hの軟部のみが抽出された軟部画像Gsを生成する。式(10)において、β2は重み係数である。軟部画像Gsを
図11に示す。
Gs(x、y)=G1(x、y)-β2×G2(x、y) (10)
【0069】
定量化部26は、軟部画像Gsにおける軟部領域の画素毎に、画素値に基づいて筋肉量を導出する。定量化部26は、軟部画像Gsから、筋肉組織および脂肪組織のエネルギー特性の差を利用して、筋肉と脂肪とを分離する。
図12に示すように、人体である被写体Hに入射前の放射線に比べて、被写体Hを透過後の放射線の線量は低くなる。また、筋肉組織と脂肪組織とは吸収するエネルギーが異なり、減弱係数が異なるため、被写体Hを透過後の放射線のうち、筋肉組織を透過後の放射線と、脂肪組織を透過後の放射線とではエネルギースペクトルが異なる。
図12に示すように、被写体Hを透過して、第1の放射線検出器5および第2の放射線検出器6の各々に照射される放射線のエネルギースペクトルは、被写体Hの体組成、具体的には、筋肉組織と脂肪組織との割合に依存する。筋肉組織よりも脂肪組織の方が放射線を透過しやすいため、脂肪組織に比べて筋肉組織の割合が多い方が、人体を透過後の放射線の線量が少なくなる。
【0070】
このため、定量化部26は、軟部画像Gsから、上述した筋肉組織および脂肪組織のエネルギー特性の差を利用して、筋肉と脂肪とを分離する。すなわち、定量化部26は、軟部画像Gsから筋肉画像と脂肪画像とを生成する。また、定量化部26は、筋肉画像の画素値に基づいて各画素の筋肉量を導出する。
【0071】
具体的には、定量化部26は、下記の式(11)により、軟部画像Gsから筋肉画像を生成する。式(11)においてrm(x,y)は、組成割合導出部24が導出した筋肉の組成割合である。また、定量化部26は、下記の式(12)により、軟部画像Gsから脂肪画像を生成する。式(12)においてrf(x,y)は、組成割合導出部24が導出した脂肪の組成割合である。
Gm(x,y)=rm(x,y)×Gs(x,y) (11)
Gf(x,y)=rf(x,y)×Gs(x,y) (12)
【0072】
そして、定量化部26は、下記式(13)に示すように、筋肉画像Gmの各画素(x,y)に対して、予め定められた画素値と筋肉量との関係を表す係数C1(x,y)を乗算することにより、筋肉画像Gmの画素毎の筋肉量M(x,y)(g/cm2)を導出する。また、定量化部26は、下記式(14)に示すように、脂肪画像Gfの各画素(x,y)に対して、予め定められた画素値と脂肪量との関係を表す係数C2(x,y)を乗算することにより、脂肪画像Gfの画素毎の脂肪量F(x,y)(g/cm2)を導出する。
M(x,y)=C1(x,y)×Gm(x,y) (13)
F(x,y)=C2(x,y)×Gf(x,y) (14)
【0073】
次いで、第3の実施形態において行われる処理について説明する。
図13は第3の実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。なお、
図13においては、
図8に示す第1の実施形態のフローチャートにおけるステップST5、または
図9に示す第2の実施形態のフローチャートにおけるステップST18以降の処理について説明する。
【0074】
ステップST5またはステップST18に続いて、定量化部26が、第1および第2の放射線画像から軟部画像Gsを導出する(ステップST21)。続いて、定量化部26は、軟部画像Gsから筋肉画像Gmおよび脂肪画像Gfを導出する(ステップST22)。さらに,定量化部26は、筋肉画像Gmから筋肉量を導出し(ステップST23)、脂肪画像Gfから脂肪量を導出し(ステップST24)、処理を終了する。
【0075】
ここで、第3の実施形態においては、導出した筋肉量および脂肪量の分布を、表示制御部25がディスプレイ14に表示するようにしてもよい。例えば脂肪量の分布は、体脂肪率の分布と相関があるため、
図7に示す体脂肪率と類似する表示画面となる。
【0076】
なお、上記第3の実施形態において、上記第2の実施形態の手法により脂肪の厚さtfおよび筋肉の厚さtmを導出し、脂肪の厚さtfおよび筋肉の厚さtmのみに基づく減弱係数を用いて、脂肪画像Gfおよび筋肉画像Gmを導出するようにしてもよい。具体的には、下記の式(15)、(16)により脂肪画像Gfおよび筋肉画像Gmを導出すればよい。ここで、μf(tf)は脂肪の厚さtfにのみ基づく脂肪の減弱係数であり、μm(tm)は筋肉の厚さtmにのみ基づく筋肉の減弱係数である。なお、式(15)、(16)においても(x,y)の記載を省略している。
Gf=I0×exp(-μf(tf)・tf) (15)
Gm=I0×exp(-μm(tm)・tm) (16)
【0077】
なお、式(15)、(16)において、I0は、被写体Hが存在しない状態において、放射線源3を駆動して放射線検出器5に放射線を照射した場合における、放射線源3から発せられた放射線の放射線検出器5への到達線量I0である。到達線量I0は、下記の式(17)により表される。式(17)において、mAsは線量、kVは管電圧である。ここで、Fは基準となるSID(例えば100cm)にて、基準となる線量(例えば1mAs)を被写体Hがない状態で放射線検出器5に照射した場合に、放射線検出器5に到達する放射線量を表す線形または非線形の関数である。Fは、管電圧に依存して変化する。また、到達線量I0は、放射線検出器5により取得される放射線画像G0の画素毎に導出されるため、(x,y)は各画素の画素位置を表す。
I0(x,y)=mAs×F(kV)/SID2 (17)
【0078】
なお、放射線検出器5に到達線量を検出するための線量センサを設け、線量センサにより到達線量I0を取得するようにしてもよい。この場合、線量センサは放射線検出器5の画像センサの一部を置換することにより放射線検出器5に設けてもよく、放射線検出器5における画像の検出面の外側に線量センサを設けるようにしてもよい。
【0079】
なお、上記各実施形態においては、被写体Hの脂肪および筋肉の組成割合を導出しているが、これに限定されるものではない。被写体Hの骨部および骨部以外の軟部の組成割合を導出する場合にも、本開示の技術を適用することができる。この場合においても、第1の体厚t1および第2の体厚t2を導出する際に、骨部および軟部の放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いればよい。ここで、被写体Hにおいて放射線が先に軟部を透過するとした場合、軟部の減弱係数μsは、軟部の厚さtsの非線形の関数として、μs(ts)と定義することができ、骨部の減弱係数μbは、軟部の厚さtsおよび骨部の厚さtbの非線形の関数として、μb(ts,tb)と定義することができる。
【0080】
また、組成割合としては、脂肪および筋肉、並びに骨部および軟部に限定されるものではない。人体内に埋め込まれた人工骨またはシリコン等の人工物と人体組織との組成割合、あるいは乳房における脂肪および乳腺の組成割合を導出する場合にも本開示の技術を適用することができる。また、被写体Hに造影剤を注入して撮影を行った場合、造影剤と造影剤以外の組織との組成割合を導出する場合にも、本開示の技術を適用することができる。
【0081】
また、上記各実施形態においては、散乱線除去部22により,第1および第2の放射線画像G1,G2から散乱線成分を除去しているが、これに限定されるものではない。例えば、撮影時に散乱線除去グリッドを用いた場合、第1および第2の放射線画像G1,G2から散乱線成分を除去することなく、組成割合を導出する処理を行うようにしてもよい。この場合、本実施形態の放射線画像処理装置においては、散乱線除去部22は不要となる。
【0082】
また、上記各実施形態においては、1ショット法により第1および第2の放射線画像G1,G2を取得しているが、放射線検出器を1つのみ用いて撮影を2回行ういわゆる2ショット法により第1および第2の放射線画像G1,G2を取得してもよい。2ショット法の場合、被写体Hの体動により、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2に含まれる被写体Hの位置がずれる可能性がある。このため、第1の放射線画像G1および第2の放射線画像G2において、被写体の位置合わせを行った上で、本実施形態の処理を行うことが好ましい。
【0083】
また、上記各実施形態においては、第1および第2の放射線検出器5,6を用いて被写体Hの放射線画像G1,G2を撮影するシステムにおいて取得した放射線画像を用いて、組成割合を導出する処理を行っているが、放射線検出器に代えて、蓄積性蛍光体シートを用いて第1および第2の放射線画像G1,G2を取得する場合にも、本開示の技術を適用できることはもちろんである。この場合、2枚の蓄積性蛍光体シートを重ねて被写体Hを透過した放射線を照射して、被写体Hの放射線画像情報を各蓄積性蛍光体シートに蓄積記録し、各蓄積性蛍光体シートから放射線画像情報を光電的に読み取ることにより第1および第2の放射線画像G1,G2を取得すればよい。なお、蓄積性蛍光体シートを用いて第1および第2の放射線画像G1,G2を取得する場合にも、2ショット法を用いるようにしてもよい。
【0084】
また、上記各実施形態における放射線は、とくに限定されるものではなく、X線の他、α線またはγ線等を適用することができる。
【0085】
また、上記各実施形態において、例えば、放射線画像処理装置10の画像取得部21、散乱線除去部22、体厚導出部23、組成割合導出部24および表示制御部25といった各種の処理を実行する処理部(Processing Unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(Processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、上述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device :PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0086】
1つの処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせまたはCPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0087】
複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントおよびサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアとの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0088】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(Circuitry)を用いることができる。
【0089】
以下、本開示の付記項を記載する。
(付記項1)
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記プロセッサは、
複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得し、
前記複数の組成についての前記放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、前記2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、前記被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出し、
前記第1の体厚および前記第2の体厚に基づいて、前記放射線画像の画素毎に、前記被写体の組成割合を導出する放射線画像処理装置。
(付記項2)
前記プロセッサは、前記被写体を、前記複数の組成のそれぞれがまとめられて前記組成のそれぞれが1つの厚さを有するように分割されたモデルと見なして、前記組成割合を導出する付記項1に記載の放射線画像処理装置。
(付記項3)
前記プロセッサは、前記第1の体厚と前記第2の体厚との相違に基づいて、前記組成割合を導出する付記項1または2に記載の放射線画像処理装置。
(付記項4)
前記プロセッサは、前記組成の厚さおよび前記組成毎の減弱係数を変更しつつ、変更された前記組成の厚さおよび前記組成毎の減弱係数を用いて前記第1の体厚および前記第2の体厚を導出し、前記第1の体厚と前記第2の体厚との相違が予め定められたしきい値以下となる前記組成の厚さに基づいて、前記組成割合を導出する付記項1から3のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項5)
前記プロセッサは、前記2つの放射線画像に含まれる散乱線成分を除去し、
前記散乱線成分が除去された前記2つの放射線画像に基づいて前記組成割合を導出する付記項1から4のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項6)
前記2つの放射線画像は、前記被写体を透過した放射線を、互いに重ねられた2つの放射線検出器に同時に照射することによって、前記2つの放射線検出器により取得されたものである付記項1から5のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項7)
前記プロセッサは、前記組成割合の分布を、前記2つの放射線画像のいずれかと重畳してディスプレイに表示する付記項1から6のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項8)
前記複数の組成は、筋肉および脂肪である付記項1から7のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項9)
前記複数の組成は、骨部および軟部である付記項1から7のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項10)
前記複数の組成は、前記被写体に注入された造影剤および前記造影剤以外の組織である付記項1から7のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項11)
前記プロセッサは、前記2つの放射線画像および前記組成割合に基づいて前記複数の組成のうちの少なくとも1つの組成についての組成画像を導出する付記項1から10のいずれか1項に記載の放射線画像処理装置。
(付記項12)
前記プロセッサは、前記組成画像に基づいて前記組成画像により表されている前記組成を定量化する付記項11に記載の放射線画像処理装置。
(付記項13)
複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得し、
前記複数の組成についての前記放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、前記2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、前記被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出し、
前記第1の体厚および前記第2の体厚に基づいて、前記放射線画像の画素毎に、前記被写体の組成割合を導出する放射線画像処理方法。
(付記項14)
複数の組成を含む被写体を透過したそれぞれエネルギー分布が互いに異なる放射線に基づく2つの放射線画像を取得する手順と、
前記複数の組成についての前記放射線が透過する順序に応じた減弱係数を用いて、前記2つの放射線画像のそれぞれについての画素毎に、前記被写体の体厚をそれぞれ第1の体厚および第2の体厚として導出する手順と、
前記第1の体厚および前記第2の体厚に基づいて、前記放射線画像の画素毎に、前記被写体の組成割合を導出する手順とをコンピュータに実行させる放射線画像処理プログラム。
【符号の説明】
【0090】
1 放射線画像撮影装置
2 コンピュータ
3 放射線源
5、6 放射線検出器
7 放射線エネルギー変換フィルタ
10 放射線画像処理装置
11 CPU
12 放射線画像処理プログラム
13 ストレージ
14 ディスプレイ
15 入力デバイス
16 メモリ
17 ネットワークI/F
18 バス
21 画像取得部
22 散乱線除去部
23 体厚導出部
24 組成割合導出部
25 表示制御部
26 定量化部
30 被写体を透過前の放射線のエネルギー分布
31~33 被写体
34~36 被写体を透過後の放射線のエネルギー分布
40 表示画面
41 リファレンス
Gs 脂肪画像
LUT1 テーブル