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特開2024-110022半導体インゴットのスライシング加工条件決定方法および半導体ウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110022
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】半導体インゴットのスライシング加工条件決定方法および半導体ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
H01L21/304 611W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014321
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】木原 誉之
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕帆
(72)【発明者】
【氏名】福田 正樹
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA12
5F057BA01
5F057BB03
5F057CA02
5F057DA15
5F057EB24
5F057GA05
5F057GA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】半導体インゴットのスライシング加工条件を決定するための新たな方法を提供する。
【解決手段】半導体インゴットをワイヤソーによって切断するスライシング加工の加工条件決定方法は、複数のローラー11と、ワイヤ12と、スラリ供給ノズル13と、テーブル14と、フレームと、を有するワイヤソー1によって行われる。加工条件の決定は、スライシング加工中のフレーム内の冷却水温度プロファイルの決定を含み、フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定は、テスト加工条件下でのスライシング加工によって半導体インゴットから切り出された複数の半導体ウェーハの平均形状データと、テスト加工条件下でのスライシング加工中のフレーム内の冷却水温度の関係データに基づき、スライシング加工によって半導体インゴットから切り出される半導体ウェーハの平坦度を高める冷却水温度プロファイルを決定することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体インゴットをワイヤソーによって切断するスライシング加工の加工条件決定方法であって、
前記スライシング加工は、
複数のローラーと、
前記複数のローラーに巻掛けされたワイヤと、
前記複数のローラーと接続されたフレームと、
前記フレームと接続された半導体インゴット支持台と、
を有するワイヤソーによって行われ、
前記加工条件の決定は、
スライシング加工中の前記フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定を含み、
前記フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定は、
テスト加工条件下でのスライシング加工によって半導体インゴットから切り出された複数の半導体ウェーハの平均形状データに基づき、スライシング加工によって半導体インゴットから切り出される半導体ウェーハの平坦度を高める冷却水温度プロファイルを決定することを含む、前記加工条件決定方法。
【請求項2】
前記加工条件の決定は、
スライシング加工中の前記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定、および
スライシング加工中に前記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定、
を更に含む、請求項1に記載の加工条件決定方法。
【請求項3】
スライシング加工中の前記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定は、
前記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含む、請求項2に記載の加工条件決定方法。
【請求項4】
スライシング加工中に前記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定は、
前記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含む、請求項2に記載の加工条件決定方法。
【請求項5】
スライシング加工中の前記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定は、
前記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含み、かつ
スライシング加工中に前記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定は、
前記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含む、請求項2に記載の加工条件決定方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の加工条件決定方法により半導体インゴットをワイヤソーによって切断するスライシング加工を決定すること、および
決定された加工条件下で半導体インゴットをワイヤソーによって切断して半導体インゴットから半導体ウェーハを切り出すこと、
を含む半導体ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体インゴットのスライシング加工条件決定方法および半導体ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハは、半導体インゴット(以下、単に「インゴット」とも記載する。)をワイヤソーによって切断すること(スライシング加工)によって製造できる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3734018号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スライシング加工前には、インゴットが想定された切断面に沿ってスライスされるようにワイヤソー装置の加工条件が設定される。一方、スライシング加工中に発生するインゴットとワイヤソーのワイヤとの相対的な位置の変動(位置ずれ)は、切り出された半導体ウェーハに予期しない反りが発生する原因となる。したがって、スライシング加工の加工条件は、予期しない反りの発生を抑制すべく、上記位置ずれを抑制可能な条件に設定することが望ましい。
【0005】
以上に鑑み本発明の一態様は、半導体インゴットのスライシング加工条件を決定するための新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特許第3734018号明細書(特許文献1)には、スライシング加工時の反りの形状をシミュレーションで予測し、シミュレーションの結果に基づき、被加工物(具体的にはインゴット)の温度を制御できるように、スライシング加工中に被加工物に温度制御媒体を供給することが提案されている。
これに対し本発明者らは、半導体インゴットのスライシング加工条件を決定するための新たな方法を提供すべく検討を重ねる中で、近年、ワイヤソーとして、ワイヤが巻掛けされた複数のローラーおよびインゴット支持台と接続されたフレーム内に冷却水を流通させる機構を有するワイヤソーが実用化されていることに着目した。かかるワイヤソーでは、フレームの温度変化によるフレームの形状変化が、インゴットとワイヤとの相対的な位置が変動する現象(位置ずれ)の発生原因になり得る。なぜなら、ワイヤが巻掛けされた複数のローラーおよびインゴット支持台の両方が、フレームに接続されているからである。そして本発明者らは更に鋭意検討を重ねた結果、フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定を含む以下の新たな方法を見出すに至った。
【0007】
即ち、本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]半導体インゴットをワイヤソーによって切断するスライシング加工の加工条件決定方法(以下、「スライシング加工条件決定方法」または単に「加工条件決定方法」とも記載する。)であって、
上記スライシング加工は、
複数のローラーと、
上記複数のローラーに巻掛けされたワイヤと、
上記複数のローラーと接続されたフレームと、
上記フレームと接続された半導体インゴット支持台と、
を有するワイヤソーによって行われ、
上記加工条件の決定は、
スライシング加工中の上記フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定を含み、
上記フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定は、
テスト加工条件下でのスライシング加工によって半導体インゴットから切り出された複数の半導体ウェーハの平均形状データに基づき、スライシング加工によって半導体インゴットから切り出される半導体ウェーハの平坦度を高める冷却水温度プロファイルを決定することを含む、上記加工条件決定方法。
[2]上記加工条件の決定は、
スライシング加工中の上記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定、および
スライシング加工中に上記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定、
を更に含む、[1]に記載の加工条件決定方法。
[3]スライシング加工中の上記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定は、
上記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含む、[2]に記載の加工条件決定方法。
[4]スライシング加工中に上記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定は、
上記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含む、[2]に記載の加工条件決定方法。
[5]スライシング加工中の上記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定は、
上記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含み、かつ
スライシング加工中に上記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定は、
上記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含む、[2]に記載の加工条件決定方法。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の加工条件決定方法により半導体インゴットをワイヤソーによって切断するスライシング加工を決定すること、および
決定された加工条件下で半導体インゴットをワイヤソーによって切断して半導体インゴットから半導体ウェーハを切り出すこと、
を含む半導体ウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、半導体インゴットのスライシング加工条件を決定するための新たな方法を提供できる。更に本発明の一態様によれば、かかる方法により決定されたスライシング加工条件下でスライシング加工が行われる半導体ウェーハの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ワイヤソーの一例を示す模式図(正面図)である。
図2】(a)~(c)は、スライシング加工中のワイヤソーの動作を示す模式図(側面図)である。
図3】(a)~(c)は、スライシング加工中のインゴットの切断軌跡を示す模式図である。
図4】テスト加工条件1のスラリ供給温度プロファイルを示す。
図5】テスト加工条件1のフレーム冷却水温度プロファイルを示す。
図6】テスト加工条件1下でのスライシング加工によって得られた複数のウェーハの形状データ(インゴットの各位置から切り出されたウェーハの形状)を示す。
図7】インゴットの熱膨張に起因する反り量(推定)を示す。
図8】フレームの熱膨張に起因する反り量を示す。
図9図6に示す形状データから図7に示す反り量および図8に示す反り量を差し引いた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[スライシング加工条件決定方法]
本発明の一態様は、半導体インゴットをワイヤソーによって切断するスライシング加工の加工条件決定方法に関する。上記スライシング加工は、複数のローラーと、上記複数のローラーに巻掛けされたワイヤと、上記複数のローラーと接続されたフレームと、上記フレームと接続された半導体インゴット支持台と、を有するワイヤソーによって行われる。上記加工条件の決定は、スライシング加工中の上記フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定を含む。上記フレーム内の冷却水温度プロファイルの決定は、テスト加工条件下でのスライシング加工によって半導体インゴットから切り出された複数の半導体ウェーハの平均形状データに基づき、スライシング加工によって半導体インゴットから切り出される半導体ウェーハの平坦度を高める冷却水温度プロファイルを決定することを含む。
【0011】
以下、上記加工条件決定方法について、更に詳細に説明する。
【0012】
<半導体インゴット>
スライシング加工に供される半導体インゴットとしては、シリコンインゴット(好ましくは単結晶シリコンインゴット)等の各種半導体インゴットを挙げることができる。例えば、単結晶シリコンインゴットは、公知の方法、例えばCZ法(Czochralski法)またはFZ法(Floating Zone法)によって作製できる。本発明および本明細書において、スライシング加工に供される半導体インゴットには、公知の方法によって作製されたインゴットから所定長さにカットされたブロックの形態も包含される。
【0013】
<スライシング加工>
半導体インゴットのスライシング加工は、半導体インゴットをワイヤソーにより切断することによって行われる。以下、図面を参照してスライシング加工について説明する。ただし、本発明は、図面に示す形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、ワイヤソーの一例を示す模式図(正面図)である。
図2(a)~(c)は、スライシング加工中のワイヤソーの動作を示す模式図(側面図)である。
図3(a)~(c)は、スライシング加工中のインゴットの切断軌跡を示す模式図である。
図1に示すワイヤソー1は、2つのローラー11にワイヤ12が巻掛けされている。ワイヤ12は、図中に両矢印で示すように2つのローラー12の間で両方向に走行できる。図中に示していないが、2つのローラー11には、ローラーの長さ方向にワイヤ12が複数巻掛けされている。
各ローラー11の上方には、スラリ供給ノズル13が配置されている。
スライシング加工対象のインゴット(半導体インゴット)2は、ワイヤソー1の半導体インゴット支持台(以下、「テーブル」とも記載する。)14に保持される。
図2に示すように、2つのローラー11およびテーブル14は、ワイヤソーのフレーム15に接続されている。
スライシング加工では、2つのローラー11を回転させることによってワイヤ12を走行させるとともに、テーブル14を下降させて走行中のワイヤ12にインゴット2を押し当てることにより、インゴットが切断される。このスライシング加工中、スラリ供給ノズル13からスラリがワイヤ12に供給される。
インゴット2が切断された後、テーブル14を上昇させることにより、ワイヤ12がインゴットから引き抜かれる。こうして、切断された複数の半導体ウェーハが得られる。
【0015】
ワイヤソーによるスライシング加工では、スライシング加工中に発生する摩擦熱等によってインゴットやローラーの温度が上昇する。この温度上昇に伴うインゴットやローラーの熱膨張によって、ワイヤとインゴットの接触位置が変位すると位置ずれが発生し、切断されたウェーハに大きな反りが生じて平坦度が悪化してしまう。
以下、図2(a)~(c)および図3(a)~(c)を参照し、スライシング加工中の変位によってウェーハが反るメカニズムを説明する。
図2(a)~(c)には、図1に示すワイヤソー1のスライシング加工における動作が示されている。
図3(a)~(c)において、インゴット2の側面図には、ワイヤ12の位置が黒丸で、切断軌跡が破線Aで示されている。
インゴット2をスライシング加工する際、切断開始時(図2(a))には、図3(a)に示される位置でワイヤ12がインゴット2に進入する。
切断中盤(図2(b))では、切断開始時(図2(a))における位置に対して、インゴット2は白矢印で示すように図中右側に変位し、ローラー11は黒矢印で示すように図中左側に変位している。このとき、ワイヤ12は、図3(a)における位置に対して図中左側に変位する。
切断終了時(図2(c))では、切断中盤(図2(b))における位置に対して、インゴット2は白矢印で示すように図中左側に変位し、ローラー11は黒矢印で示すように図中右側に変位している。このとき、ワイヤ12は、図3(b)における位置に対して図中右側に変位する。
以上の結果として、図3(a)から図3(c)にかけてインゴットの切断軌跡は湾曲する。
このようにインゴットおよびローラーの変位が生じることによってインゴットの切断軌跡が湾曲すると、インゴットから切断されたウェーハに大きな反りが生じて平坦度は悪化してしまう。ただし、テーブルおよびローラーがフレームに接続されているワイヤソーでは、例えば上記のようなテーブルおよびローラーの変位は、テーブルおよびローラーが接続されているフレームの温度調整によりフレームの形状変化を制御することによって、抑制できる。そしてフレームの温度は、フレーム内の冷却水温度によって調整できる。そこで、上記加工条件決定方法では、スライシング加工中のフレーム内の冷却水温度プロファイルの決定を行う。
なお、図2には、図1に正面図を示したワイヤソー1の側面図が示されている。このワイヤソー1において、フレーム15の後方側壁は、テーブル14およびローラー11とそれぞれ接続されている。フレーム15は、少なくとも後方側壁の内部に冷却水配管を含む。ローラー11とフレーム15の前方側壁との間には隙間が存在する。
【0016】
以下に、スライシング加工の加工条件の決定について、具体例に基づき説明する。
【0017】
<加工条件の決定>
図1および図2に示す構成のワイヤソーを用いて、各種加工パラメータを表1、図4および図5に示すように設定して直径300mmの半導体インゴットのスライシング加工(テスト加工条件1下でのスライシング加工)を行った。
フレーム冷却水温度制御を行わない点以外はテスト加工条件1と同じ加工条件をテスト加工条件2として、直径300mmの半導体インゴットのスライシング加工(テスト加工条件1下でのスライシング加工)を半導体インゴットの温度を測定しながら行った。なお、半導体インゴットの温度の測定には、熱電対、放射温度計等の既知の手段を用いることができる。
ワイヤに供給するためにスラリノズルから吐出されるスラリの温度を「スラリ供給温度」、フレーム内の冷却水配管に流通させる冷却水の温度を「フレーム冷却水温度」、ローラー内の冷却水配管に流通させる冷却水の温度を「ローラー冷却水温度」、ワイヤの走行速度を「ワイヤ速度」、スライシング加工中にワイヤに加えられるテンションを「ワイヤテンション」と記載する。
【0018】
【表1】
【0019】
図6に、テスト加工条件1下でのスライシング加工によって得られた複数のウェーハの形状をコベルコ科研製平坦度測定装置で測定した形状データ(インゴットの各位置から切り出されたウェーハの形状)の一部を示す。インゴットの両端の一方をTOP、他方をBOTTOMとして、各ウェーハを、TOP側からBOTTOM側に向かって1枚目、2枚目、、、とする。テスト加工条件2下でのスライシング加工によって得られた複数のウェーハの形状も上記の方法によって測定した。
【0020】
ウェーハの反り量は、以下の3種の反り量からなると考えられる。
(1)インゴットの熱膨張に起因する反り量
(2)フレームの熱膨張に起因(詳しくはフレームに接続されたテーブルとローラーとの相対変位に起因)する反り量
(3)ローラーの熱膨張に起因する反り量
【0021】
インゴットの熱膨張に起因する反りは、ワイヤソーが変位しないと仮定したときの、熱膨張によるインゴットの寸法の変化に伴う、インゴットとワイヤソーとの相対位置の変化量を示す。インゴットの長さをl、温度変化をΔt、熱膨張係数を定数αとしたとき、熱膨張によるインゴットの寸法の変化量Δlは以下の数式(1)で計算される。
【0022】
【数1】
【0023】
したがって、「(1)インゴットの熱膨張に起因する反り量」は、インゴット温度の実測値から推定できる。図7は、インゴット温度の実測値からインゴットの熱膨張に起因する反り量を推定した結果を示す。
【0024】
インゴットとメインローラーはそれぞれ熱分布のばらつきが非常に小さいため、インゴットおよびメインローラーの熱膨張はそれぞれの中心に対して対称に発生する。インゴットの中心とメインローラーの中心はほぼ一致しているため、「(1)インゴットの熱膨張に起因する反り量」および「(3)ローラーの熱膨張に起因する反り量」は、それぞれ図2紙面上において左右対称に発生すると考えられる。一方で、「(2)フレームの熱膨張に起因する反り量」はメインローラー全体をインゴットに対して変位させるものであるため、全てのウェーハにわたっておよそ同じ向きかつ同じ量だけ発生する。そのため、1つのインゴットから切り出された全ウェーハの平均形状を算出することで、「(1)インゴットの熱膨張に起因する反り量」および「(3)メインローラーの熱膨張に起因する反り量」をそれぞれ図2紙面上における左側と右側とで打ち消しあい、「(2)フレームの熱膨張に起因(詳しくはフレームに接続されたテーブルとローラーとの相対変位に起因)する反り量」を算出できる。図8は、各テスト加工条件下(テスト加工条件1または2)でのスライシング加工によって得られた全ウェーハの形状を平均した平均形状として算出された、「(2)フレームの熱膨張に起因する反り量」を示す。図8に示す結果から、フレーム冷却水温度制御を行うことによって、フレームの熱膨張に起因する反り量を低減できることが確認できる。したがって、例えばこのように、異なるテスト加工条件下でのスライシング加工によって得られた平均形状データを対比し、平均形状データにおいて、より反り量が少ないテスト加工条件のフレーム冷却水温度プロファイルを、実際に半導体インゴットをスライシング加工する際のフレーム冷却水温度プロファイルとして決定できる。
【0025】
「(3)ローラーの熱膨張に起因する反り量」は、ウェーハの反り量から、(1)の反り量および(2)の反り量を差し引くことによって算出できる。図9は、図6に示す形状データから、図7に示す(1)の反り量および図8に示す(2)の反り量を差し引いた結果を示す。
【0026】
図7および図9から、「(1)インゴットの熱膨張に起因する反り量」と「(3)ローラーの熱膨張に起因する反り量」は逆向きになる傾向にあることが確認できる。この結果から、スラリ供給温度とローラー冷却水温度を適宜設定して(1)の反り量の絶対値と(3)の反り量の絶対値との差を低減することによってウェーハの反り量を小さくできること、好ましくは、(1)の反り量の絶対値と(3)の反り量の絶対値を揃えることによって(1)の反り量と(3)の反り量を打ち消すことが可能であることがわかる。
また、(1)の反り量と(3)の反り量を打ち消すと、ウェーハの反り量としては、(2)のフレームの熱膨張に起因する反り量が残る。また、(1)の反り量と(3)の反り量を完全に打ち消さずとも、(1)の反り量の絶対値と(3)の反り量の絶対値との差を低減することによって、(1)と(3)とに起因する反り量を低減できる。そこで、(2)のフレームの熱膨張に起因する反り量が低減されるようにスライシング加工中にフレーム冷却水温度を制御することによって、ウェーハの反り量を低減して平坦度が高いウェーハを得ることが可能になる。
【0027】
以上の通り、本発明の一態様にかかる加工条件決定方法は、テスト加工条件下でのスライシング加工によって半導体インゴットから切り出された複数の半導体ウェーハの平均形状データに基づき、スライシング加工によって半導体インゴットから切り出される半導体ウェーハの平坦度を高める冷却水温度プロファイルを決定することを含む。
【0028】
更に、本発明の一態様にかかる加工条件決定方法は、スライシング加工中の上記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定、および、スライシング加工中に上記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定、を含むことができる。
【0029】
スライシング加工中の上記複数のローラー内の冷却水温度プロファイルの決定は、上記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含むことができる。
【0030】
スライシング加工中に上記ワイヤに供給されるスラリ温度プロファイルの決定は、上記複数のローラーの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値とスライシング加工対象の半導体インゴットの熱膨張に起因する半導体ウェーハの反り量の絶対値との差を低減する温度プロファイルの決定を含むことができる。
【0031】
[半導体ウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、上記加工条件決定方法により半導体インゴットをワイヤソーによって切断するスライシング加工の加工条件を決定すること、および、決定された加工条件下でスライシング加工を行い半導体インゴットをワイヤソーによって切断して半導体インゴットから半導体ウェーハを切り出すこと、を含む半導体ウェーハの製造方法に関する。
【0032】
上記製造方法では、本発明の一態様にかかる加工条件決定方法によって決定された加工条件を採用してスライシング加工を行うことにより、半導体インゴットから切り出される半導体ウェーハにおける反りの発生を抑制して平坦度を高めることができる。
【0033】
上記製造方法の詳細については、半導体ウェーハの製造に関する公知技術を提供できる。例えば、インゴットから切り出された半導体ウェーハに各種加工を施すことにより、製品として出荷される半導体ウェーハを作製できる。上記加工としては、面取り加工、平坦化加工(ラップ、研削、研磨)等、エッチング、洗浄等を挙げることができる。また、各種加工を経た半導体ウェーハは、製品として出荷される前に一種以上の検査に付される場合もある。上記製造方法により得られる半導体ウェーハは、反り量が少ないか、または反りのない、平坦度が高い良品ウェーハであることができる。
【0034】
上記では、本発明について、具体的形態に基づき説明した。ただし、説明した形態は例示であって、本発明は例示した形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、シリコンウェーハ等の各種半導体ウェーハの製造分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9