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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011006
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】高融点金属薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 5/04 20060101AFI20240118BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20240118BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240118BHJP
   C22B 34/12 20060101ALI20240118BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C22B5/04
C23C18/52 Z
C23C18/31 Z
C22B34/12 102
C22B26/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112658
(22)【出願日】2022-07-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和3年8月13日 The Minerals,Metals & Materials Society and ASM International 2021 のWEBサイトの掲載アドレス: https://link.springer.com/article/10.1007/s11663-021-02293-5
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】関本 英弘
【テーマコード(参考)】
4K001
4K022
【Fターム(参考)】
4K001AA27
4K001AA34
4K001BA04
4K001BA08
4K001DA05
4K001HA02
4K001KA08
4K001KA09
4K001KA13
4K022AA02
4K022BA22
4K022BA31
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】 厚みが均一で平滑な金属薄膜を安価で製造することが可能であり、従来の製造方法に比べて、目的金属の溶融、圧延の工程を必要としない高融点金属薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 高融点金属薄膜の製造方法であって、薄膜とする金属の金属ハロゲン化物と、金属よりも比重が小さい溶融塩と、金属よりも比重が大きい希土類金属とを用い、金属ハロゲン化物と溶融塩及び希土類金属とを溶融させる溶融工程と、金属ハロゲン化物を希土類金属により還元する還元工程と、その後冷却又は還元温度より低い温度で一定時間保持し、薄膜とする金属を希土類金属の表面に偏析させる偏析工程とを有し、溶融塩と希土類金属との界面に金属の薄膜を形成する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高融点金属薄膜の製造方法であって、
薄膜とする金属の金属ハロゲン化物と、前記金属よりも比重が小さい溶融塩と、前記金属よりも比重が大きい希土類金属とを用い、
前記金属ハロゲン化物と前記溶融塩及び前記希土類金属とを溶融させる溶融工程と、
前記金属ハロゲン化物を前記希土類金属により還元する還元工程と、
その後冷却又は還元温度より低い温度で一定時間保持し、薄膜とする金属を希土類金属の表面に偏析させる偏析工程とを有し、
前記溶融塩と前記希土類金属との界面に前記金属の薄膜を形成することを特徴とする高融点金属薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記溶融塩が、前記希土類金属に対して安定なハロゲン化物であることを特徴とする請求項1に記載の高融点金属薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記還元工程が、前記金属ハロゲン化物を前記金属又は前記希土類金属との合金にする合金化工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の高融点金属薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記高融点金属薄膜がチタン薄膜であり、前記金属ハロゲン化物がハロゲン化チタンであり、前記溶融塩及び前記希土類金属の融点が1000℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の高融点金属薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属ハロゲン化物がフッ化チタン、フッ化チタン酸リチウム、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタンのいずれかであり、前記溶融塩がフッ化リチウム、フッ化カルシウム、及びこれらフッ化物の混合塩、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及びこれら塩化物の混合塩、臭化カルシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、及びこれら臭化物の混合塩、ヨウ化カルシウム、ヨウ化リチウム、及びこれらヨウ化物の混合塩のいずれかであり、前記希土類金属がセリウム、ランタン、プラセオジム、ユウロピウム、イッテルビウムのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の高融点金属薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点金属薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン及びその合金は優れた腐食防止材料であり、特に、工業用純チタンは海水中であっても腐食速度がごく僅かである。また、様々な薬品に対して耐食性を有する。このため、これまでに化学プラント、発電プラント、海洋船、海洋付近の建造物などに利用されいる。
【0003】
また、チタンは近年、橋梁塗膜の耐食性補強や車載用燃料電池のセパレータとして用いられており、これらの用途では、薄膜状又はプレート状のチタンが必要とされる。これらのチタン薄膜やチタンプレートは、通常、チタン鉱石をか焼コークスと共に塩素と反応させて得られた塩化チタンをマグネシウムで還元することで金属チタンを製造するクロール(Kroll)法及び、その後の真空アーク溶融によって製造されたチタンインゴットを圧延することによって製造される。しかしながら、上記従来のクロール(Kroll)法を使用したチタン鉱石からの純粋なチタンの抽出には非常にコストがかかり、また、チタンの溶融、圧延も高コストであるという問題があった。
【0004】
このような問題に対してこれまでに、チタン原料を溶融塩中でパルス電解を行うことによって、モリブデン又はシリコン基板上にチタンを平滑に電析したのち、機械的に剥離することによるチタン箔を得る方法や(特許文献1)、粉末を圧延してチタンシートを製造する方法も提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-109209号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W.H.PETER,T.MUTH,W.CHEN,Y.YAMAMOTO,BRIAN JOLLY,N.A.STONE,G.M.D.CANTIN,J.BARNES,M.PALIWAL,R.SMITH,J.CAPONE,A.LIBY,J.WILLIAMS, and C.BLUE "Titanium Sheet Fabricated from Powder for Industrial Applications" JOM, Vol.64, No.5, 2012 p.566-571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の提案では、特定の金属基板上でのみチタンが平滑に電析する特性を利用しており、電析中においてチタン上にチタンが核生成することを防止する条件でチタンを成長させるため、印加電流・電圧の複雑な制御が必要であり、均一かつ平滑で厚いチタン膜を成長させることが非常に困難であるという問題があった。また、非特許文献1の提案のような圧延によるチタンシートの製造方法においても、厚みが均一かつ平滑なチタンシートを得ることは困難であった。
【0008】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、厚みが均一で平滑な金属薄膜を安価で製造することが可能であり、従来の製造方法に比べて、目的金属の溶融、圧延の工程を必要としない高融点金属薄膜の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の高融点金属薄膜の製造方法は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0010】
第1に、本発明の高融点金属薄膜の製造方法は、薄膜とする金属のハロゲン化物と、前記金属よりも比重が小さい溶融塩と、前記金属よりも比重が大きい希土類金属とを用い、前記金属ハロゲン化物と前記溶融塩及び前記希土類金属とを溶融させる溶融工程と、前記金属ハロゲン化物を前記希土類金属により還元する還元工程と、その後冷却又は還元温度より低い温度で一定時間保持し、薄膜とする金属を希土類金属の表面に偏析させる偏析工程とを有し、前記溶融塩と前記希土類金属との界面に前記金属の薄膜を形成することを特徴とする。
第2に、上記第1の発明の高融点金属薄膜の製造方法において、前記溶融塩が、前記希土類金属に対して安定なハロゲン化物であることが好ましく考慮される。
第3に、上記第1又は第2の発明の高融点金属薄膜の製造方法において、前記還元工程が、前記金属ハロゲン化物を前記金属又は前記希土類金属との合金にする合金化工程を含むことが好ましく考慮される。
第4に、上記第1から第3の発明の高融点金属薄膜の製造方法において、前記高融点金属薄膜がチタン薄膜であり、前記金属ハロゲン化物がハロゲン化チタンであり、前記溶融塩及び前記希土類金属の融点が1000℃以下であることが好ましく考慮される。
第5に、上記第1から第4の発明の高融点金属薄膜の製造方法において、前記金属ハロゲン化物がフッ化チタン、フッ化チタン酸リチウム、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタンのいずれかであり、前記溶融塩がフッ化リチウム、フッ化カルシウム、及びこれらフッ化物の混合塩、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及びこれら塩化物の混合塩、臭化カルシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、及びこれら臭化物の混合塩、ヨウ化カルシウム、ヨウ化リチウム、及びこれらヨウ化物の混合塩のいずれかであり、前記希土類金属がセリウム、ランタン、プラセオジム、ユウロピウム、イッテルビウムのいずれかであることが好ましく考慮される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高融点金属薄膜の製造方法によれば、厚みが均一で平滑な金属薄膜を安価で製造することが可能となる。また、従来の製造方法に比べて、目的金属の溶融、圧延の工程を必要としないため、これらに掛かるコストを大幅に削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)はCeとTiの状態図であり、(B)はYbとTiの状態図である。
図2】Ceに対するフッ化物の反応性を示すエリンガム図である。
図3】Ceに対する塩化物の反応性を示すエリンガム図である。
図4】Ceに対する臭化物の反応性を示すエリンガム図である。
図5】Ceに対するヨウ化物の反応性を示すエリンガム図である。
図6】Ceを用いたチタン薄膜の生成機構を示す説明図である。
図7】Ybを用いたチタン薄膜の生成機構を示す説明図である。
図8】実施例で用いた成膜装置を示す模式図である。
図9】実施例で得られた試料断面の電子顕微鏡写真である。
図10】実施例で得られた試料断面のTi、Ce、F、O分布を示す元素マップである。
図11】実施例で得られたTi薄膜のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の高融点金属薄膜の製造方法は、薄膜とする金属の金属ハロゲン化物と溶融塩及び希土類金属を用いて、金属ハロゲン化物と溶融塩と希土類金属とを溶融させる溶融工程と、金属ハロゲン化物を希土類金属により還元する還元工程と、その後冷却又は還元温度より低い温度で一定時間保持し、薄膜とする金属を希土類金属の表面に偏析させる偏析工程とを有し、溶融塩と希土類金属の界面に金属の薄膜を形成することを特徴としている。また、上記溶融塩は、薄膜金属の固体金属よりも比重が小さく、上記希土類金属は、上記固体金属よりも比重が大きいものを用いることを条件としている。
【0014】
本発明の高融点金属薄膜の製造方法による具体的な金属薄膜の生成機構は以下のとおりである。まず、金属ハロゲン化物と溶融塩及び希土類金属を溶融して接触させると、金属ハロゲン化物中の金属イオンが希土類金属自体に還元され、希土類金属と金属の合金が生成する。その後、徐冷又は還元温度より低い温度で一定時間保持すると、合金中から金属が偏析する。この際、偏析する金属の比重が溶融塩と希土類金属の中間であるので、溶融塩と希土類金属の界面に薄膜を形成する。
【0015】
本発明において製造可能な金属薄膜の金属としては、高融点の金属であり、具体的には、例えば、チタン、バナジウム、チタン合金を例示することができる。これらの中でもチタンの薄膜を好適に製造することができる。なお、本発明において高融点金属とは、融点が1000℃より高い金属をいう。
【0016】
上記金属の薄膜を製造するために用いる金属ハロゲン化物としては、例えば、上記薄膜金属のフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物を例示することができ、これらの中でも金属フッ化物を好適に用いることができる。
【0017】
また、金属ハロゲン化物と混合される溶融塩としては、金属薄膜の固体金属よりも比重が小さいハロゲン化物であり、希土類金属に対して安定なハロゲン化物であることが好ましく考慮される。具体的には、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物を例示することができ、特に、融点が1000℃以下のハロゲン化アルカリ金属やアルカリ土類金属のハロゲン化物を好適に用いることができる。
【0018】
また、上記金属ハロゲン化物、溶融塩とともに溶融混合する希土類金属としては、金属薄膜の固体金属よりも比重が大きく、溶融して金属と完全に相分離して化合物を形成しない特性を有するものであり、例えば、ランタノイド、具体的には、ランタン、セリウム、プラセオジム、ユウロピウム、イッテルビウム等を例示することができる。また、これらの希土類金属は、取り扱い容易性等の観点から融点が1000℃以下のものが好ましい。
【0019】
本発明の高融点金属薄膜の製造方法では、上記の条件の金属ハロゲン化物、溶融塩及び希土類金属を混合して加熱し、溶融、還元、そして冷却又は還元温度より低い温度で一定時間保持することにより、溶融塩と希土類金属との界面に金属の薄膜を偏析させて金属薄膜を形成させることができる。なお、溶融して液体金属となった希土類金属の表面は非常に平滑な状態となるため、液体金属と溶融塩との界面に形成される金属薄膜もまた平滑かつ均一な厚みに形成される。
【0020】
以下、本発明の高融点金属薄膜の製造方法の実施形態として、チタン薄膜の製造方法について詳述する。チタン薄膜の製造方法では、金属ハロゲン化物、即ちチタンハロゲン化物として、フッ化チタン、フッ化チタン酸リチウム、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン等を用いることができる。
【0021】
また、溶融塩のハロゲン化物は、成膜の際、溶融して希土類金属と分離する特性を有するものである。そのため、希土類金属と化合物を形成しないように、希土類金属に対して安定である必要がある。一方、チタン薄膜の製造に用いる希土類金属としては、チタンよりも比重が大きく、融点が1000℃以下の希土類金属として、セリウム(Ce)(融点:798℃)、イッテルビウム(Yb)(融点:819℃)を好適に用いることができる。
【0022】
図1(A)にCeとTiの状態図を示し、図1(B)にYbとTiの状態図を示す。図1(A)のCeとTiの状態図から、温度が高い状態では均一な融体ができることがわかるが、温度が降下するとβTiと液体Ceの2相に分離することがわかる。即ち、比重の関係から液体Ceの表面にTiが乗っている状態となる。また、図1(B)のYbとTiの状態図からは、完全に液体のYbと固体のTiとが溶融せずに分離することがわかる。即ち、液体Ybの表面にTiが乗っている状態となる。なお、希土類金属としては、上記Ce、Ybの他、ランタン(La:融点918℃)、プラセオジム(Pr:融点935℃)、ユウロピウム(Eu:融点822℃)等の希土類金属も使用可能である。
【0023】
ここで、溶融塩として用いるハロゲン化物は、希土類金属に対して安定なもの用いるが、例えば、ハロゲン化物としてフッ化物を用い、希土類金属としてCeを用いる場合、図2に示す各種フッ化反応についてのエリンガム図において、縦軸の標準生成ギブズエネルギーがCeよりも低いハロゲン化物を用いることが考慮される。具体的には、フッ化リチウム(LiF)、フッ化カルシウム(CaF)及びこれらフッ化物の溶融塩等を用いることができ、これらの中でもLiFを好適に用いることができる。
【0024】
また、溶融塩のハロゲン化物として塩化物を用いる場合には、図3に示す各種塩化反応についてのエリンガム図において、縦軸の標準生成ギブズエネルギーがCeよりも低い塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)及びこれら塩化物の混合塩等を用いることができる。
【0025】
さらに、溶融塩のハロゲン化物として臭化物を用いる場合には、図4に示す各種臭化反応についてのエリンガム図において、臭化カルシウム(CaBr)、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)及びこれら臭化物の混合塩等を用いることができる。
【0026】
さらにまた、溶融塩のハロゲン化物としてヨウ化物を用いる場合には、図5に示す各種ヨウ化反応についてのエリンガム図において、ヨウ化カルシウム(CaI)、ヨウ化リチウム(LiI)及びこれらヨウ化物の混合塩等を用いることができる。
【0027】
以下に、金属ハロゲン化物としてフッ化チタン(III)(TiF)、溶融塩のハロゲン化物としてフッ化リチウム(LiF)を用い、希土類金属としてセリウム(Ce)を用いたチタン薄膜の生成機構について、図6のCeを用いたチタン薄膜の生成機構説明図を用いて説明する。まず、溶融工程として、TiFとLiFを含む溶融塩とCeを溶融して接触させると、還元工程として、溶融塩中のTiイオンがCe自体に還元され、合金化工程として界面反応によりCeとTiの合金が生成する(図6(A))。この際、以下の反応式(1)により、副生成物としてCeFが発生するが、溶融塩に溶解し除去される。
TiF+Ce=Ti+CeF ・・・(1)
なお、溶融工程における加熱温度は、選択する希土類金属及び溶融塩の融点等に応じて決定されるが、通常、900~1200℃程度が考慮される。
【0028】
そしてその後、偏析工程として徐冷又は還元温度より低い温度で一定時間保持すると、合金中からTiが偏析してTi膜が成長する(図6(B))。この際、偏析する金属の密度は溶融塩と希土類金属の中間であるので、溶融塩と希土類金属の界面でTi薄膜を形成させることができる。なお、偏析工程における徐冷条件としては、通常、使用する希土類金属の融点より約50℃程度高い温度までの冷却速度1~0.1℃/min程度が考慮される。また、還元温度より低い温度で一定時間保持する場合には、還元温度より100℃程度低く、使用する希土類金属の融点より約50℃程度高い温度が考慮される。例えば、希土類金属にセリウムを用いており、還元温度1000℃の場合、偏析温度850~900℃で3~12時間程度の保持が考慮される。
【0029】
また、希土類金属としてCeを用いる場合、界面反応と偏析を利用していることから、還元・合金化温度と偏析温度との差やCeに対するTiの量を調整することによりTi薄膜の膜厚を制御することが可能となる。
【0030】
一方、希土類金属としてYbを用いた場合には、図1(B)のYbとTiの状態図に示すように、TiとYbは殆ど相互溶融しないため、図7のYbを用いたチタン薄膜の生成機構説明図に示すように、溶融塩中のTiイオンがYbによって還元されると界面反応でTi薄膜が成長する。そして、Tiが液体Ybの表面を覆うと反応は終了してTi薄膜が形成される。
【0031】
なお、本実施形態のチタン薄膜の製造方法においては、予めTiFとLiFを混合して固化させた溶融塩とCeを溶融させて反応させる方法の他、まず、CeとLiFが溶けた状態を作り、そこにLiTiF等の化合物を直接投入して溶融、冷却して成膜させることもできる。即ち、希土類金属に対して安定なハロゲン化物を含む複塩を用いることもできる。
【0032】
上記の希土類金属としてCeを用いる実施形態のチタン薄膜の製造方法においては、偏析したチタン薄膜を回収し、熱処置・表面処理を施してTi薄膜を製造することができる。また、本実施形態では、偏析後のCeはTiの還元に戻すことができ、溶融塩は、溶融塩電解によりLiF、Ceに、またフッ素(F)を経由してフッ化水素(HF)としてフッ酸物変換に用いることができるため、材料の廃棄量を少量に抑えることができる。
【実施例0033】
以下、本発明の高融点金属薄膜の製造方法として、チタン薄膜の製造方法について実施例を挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(溶融塩の調整)
まず、金属ハロゲン化物としてTiFを用い、溶融塩のハロゲン化物としてLiFを用いて、TiF及びLiFからなるTiF含有溶融塩を調整した。60%HTiF(aq)とLiCOをモル比Ti/Liで混合し、HFを加えて攪拌しながら温度40℃で3時間保持した。なお、この操作に係る化学式は以下のとおりである。
【数1】
【0035】
次に、この混合物を100℃で50時間維持することで蒸発乾固させた後、Cu-Kα線を用いたX線解析(XRD)により相の同定を行った。この結果から溶融塩としてLiTiFが調整されていることが確認できた。
【0036】
次に、得られたLiTiFを秤量してTi坩堝に挿入し、SUS304容器内にArガスとともに封入して、温度900℃で3時間保持して溶融した。そして、炉冷後、試料を回収して水素発生法及び滴定法により化学分析を行い、溶融塩試料中のTiF濃度を測定した。その結果、TiF-LiF系溶融塩中のTiF濃度が34.6質量%であることを確認した。
【0037】
(高融点金属薄膜の成膜)
次に、図8に示す装置を用いて、溶融工程として、Mo坩堝にCeを入れて電気炉にセットし、温度900℃まで昇温して溶融させた。続けて、サンプル投入口から、製造したTiF-LiF系溶融塩を投入し、還元・合金化工程として、温度900℃で12時間保持した。次に、偏析工程として、温度700℃まで、冷却速度0.3℃/minで徐冷して、Ce表面にTi薄膜を形成した。
【0038】
(SEM-EDSによる観察)
取り出した試料をMo坩堝ごとエポキシ樹脂に埋め、続いて研磨して表面を露出させ、溶融塩/Ce界面付近の断面を走査電子顕微鏡(SEM-EDS)により観察して薄膜の形成状態を確認した。その電子顕微鏡写真を図9に、また、同視野における、Ti、Ce、F及びOの分布を示す元素マップを図10に示す。図9の電子顕微鏡写真から、溶融塩とCeとの界面に約40μmのTi薄膜が形成されていることが確認された。また、図9のTi薄膜の下の白色領域は、図10の元素マップからCe及びOが確認されたが、このOは、研磨中にCeが酸化して混入したものと考えられ、研磨前のこの部分は液体Ceであった。また、溶融塩相中にCeOFが分散されていることが確認された。なお、反応後の溶融塩中にはTiFは認められなかった。
【0039】
(XRD分析)
次に、得られた試料のCeを蒸留水で溶かし出し、Ti薄膜を回収してXRD分析を行った。そのXRDパターンを図11に示す。このパターンから、Ti薄膜はα-Tiであると同定された。なお、28°及び32°における未知のピークは水に殆ど溶解しないオキシフッ化セリウムに起因するものと考えられる。これらの結果から、液体CeによるTiFの還元及びTi-Ce合金の生成と、それに続く液体CeとLiF-CeF溶融塩との間の界面での偏析によりTi薄膜が形成されたことを示している。
【0040】
これらの結果から、本発明の高融点金属薄膜の製造方法によれば、金属の溶融、圧延の工程を必要とせず、厚みが均一で平滑なチタン薄膜を安価で確実に製造することが可能であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11