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  • 特開-めっき装置 図1
  • 特開-めっき装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110121
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】めっき装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 21/12 20060101AFI20240807BHJP
   C25D 17/08 20060101ALI20240807BHJP
   C25D 17/06 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C25D21/12 C
C25D17/08 J
C25D17/08 S
C25D17/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014499
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 潤一
(57)【要約】
【課題】クランプのバネの破損を検知できるめっき装置を提供する。
【解決手段】めっき装置は、幅方向が鉛直方向に沿う姿勢の基材Fの下縁を把持してめっき装置内を搬送する複数のクランプ20と、バネ破損検知装置30とを有する。クランプ20は、上端に基材Fと接触する第1挟持部24Aを有する基部21と、基部21に対して回動可能であり、上端に基材Fと接触する第2挟持部24Bを有する可動片22と、第1挟持部24Aと第2挟持部24Bとの間が閉まる方向に可動片22を付勢するバネ25とを有する。バネ破損検知装置30は、クランプ20の開閉状態に基づき、バネ25の破損を検知する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材に対してめっきを行うめっき装置であって、
幅方向が鉛直方向に沿う姿勢の前記基材の下縁を把持して前記めっき装置内を搬送する複数のクランプと、
バネ破損検知装置と、を備え、
前記クランプは、
上端に前記基材と接触する第1挟持部を有する基部と、
前記基部に対して回動可能であり、上端に前記基材と接触する第2挟持部を有する可動片と、
前記第1挟持部と前記第2挟持部との間が閉まる方向に前記可動片を付勢するバネと、を備え、
前記バネ破損検知装置は、前記クランプの開閉状態に基づき、前記バネの破損を検知する
ことを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記バネ破損検知装置は、
前記可動片との距離を測定する距離センサと、
前記距離センサの測定値が閾値以下の場合に前記バネが破損していると判断する判断部と、を備える
ことを特徴とする請求項1記載のめっき装置。
【請求項3】
前記距離センサは非接触式センサである
ことを特徴とする請求項2記載のめっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、基材に対してめっきを行うめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムに銅箔を積層した銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行われる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を成膜する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を成膜する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を成膜する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
銅めっき被膜はめっき装置を用いて成膜される。めっき装置として、ロールツーロールにより長尺帯状の基材を搬送しつつ、基材に対して電解めっきを行う装置が知られている(例えば、特許文献1)。この種のめっき装置は複数のクランプが設けられた上下一対のエンドレスベルトを有する。基材はその幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプに把持される。エンドレスベルトの動作により基材はめっき槽内を搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-123741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基材を把持するクランプは、基部と、基部に対して回動可能な可動片と、基部および可動片の先端部同士を閉じる方向に付勢するバネとを有する。クランプは基材の着脱のたびに開閉するため、めっき装置の稼働に伴いバネに金属疲労が蓄積し、最終的にはバネが破損する。バネが破損すると基材の正常な把持ができなくなる。また、クランプが開いたまま搬送されることで、めっき装置の他の構成部材と接触し、その部材が損傷することがある。しかし、クランプの数は多いため、作業員が一つ一つクランプを目視点検すると多大な労力と時間がかかる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、クランプのバネの破損を検知できるめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のめっき装置は、長尺帯状の基材に対してめっきを行うめっき装置であって、幅方向が鉛直方向に沿う姿勢の前記基材の下縁を把持して前記めっき装置内を搬送する複数のクランプと、バネ破損検知装置と、を備え、前記クランプは、上端に前記基材と接触する第1挟持部を有する基部と、前記基部に対して回動可能であり、上端に前記基材と接触する第2挟持部を有する可動片と、前記第1挟持部と前記第2挟持部との間が閉まる方向に前記可動片を付勢するバネと、を備え、前記バネ破損検知装置は、前記クランプの開閉状態に基づき、前記バネの破損を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のめっき装置によれば、バネ破損検知装置がクランプのバネの破損を検知するので、クランプの点検に要する作業員の労力を大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るめっき装置の斜視図である。
図2】クランプの正面図である。
図3】クランプの側面図である。
図4】図(A)はバネが破損した状態のクランプの側面図である。図(B)はバネが破損していない状態のクランプの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るめっき装置AAは、ロールツーロールにより長尺帯状の基材Fを搬送しつつ、基材Fに対してめっきを行う装置である。めっき方法は電解めっきでもよいし、無電解めっきでもよい。基材Fは薄膜状であり、その両面または片面にめっき被膜が成膜される。
【0012】
めっき装置AAはロール状に巻回された基材Fを繰り出す供給装置11と、めっき後の製品をロール状に巻き取る巻取装置12とを有する。また、めっき装置AAは基材Fを搬送する上下一対のエンドレスベルト13を有する。エンドレスベルト13は各種のローラで画定された経路を周回する。エンドレスベルト13には基材Fを把持する複数のクランプ20が設けられている。供給装置11から繰り出された基材Fは、その幅方向が鉛直方向に沿う懸垂姿勢となり、両縁が上下のクランプ20に把持される。基材Fはエンドレスベルト13の動作によりめっき装置AA内を周回した後、クランプ20から開放され、巻取装置12で巻き取られる。
【0013】
基材Fの搬送経路には、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16が配置されている。基材Fは、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16の内部をこの順に通過する。
【0014】
前処理槽14は、基材Fの表面を清浄化したり、濡れ性を高めたりする前処理を行う槽である。
【0015】
めっき槽15は基材Fの搬送方向に沿った横長の槽である。めっき槽15にはめっき液が貯留されている。めっき槽15内を搬送される基材Fは、その全体がめっき液に浸漬されている。電解めっき装置の場合、めっき槽15の内部には、基材Fの搬送方向に沿ってアノードが配置されている。また、上側のエンドレスベルト13に設けられたクランプ20は基材Fに電流を供給する給電端子としての機能も有する。基材Fとアノードとの間に電流を流すことで、基材Fの表面にめっき被膜を成膜できる。
【0016】
後処理槽16は、めっき被膜が成膜された基材Fの洗浄などの後処理を行う槽である。
【0017】
図2および図3に下側のクランプ20を示す。下側のクランプ20は、下側のエンドレスベルト13に設けられ、基材Fの下縁を把持する。クランプ20は所謂バネクランプである。クランプ20は略板状の基部21と、略棒状の可動片22とを有する。基部21と可動片22とはヒンジ23を介して連結されており、可動片22は基部21に対して回動可能である。
【0018】
基部21の上端には第1挟持部24Aが設けられており、可動片22の上端には第2挟持部24Bが設けられている。可動片22が基部21に対して回動することにより、第1挟持部24Aと第2挟持部24Bとの間が開閉する。すなわち、クランプ20の開閉部は上向きである。
【0019】
ヒンジ23は基部21に設けられたブラケットと、ブラケットおよび可動片22の中間部を貫通するピンとからなる。ピンにはバネ25が介装されている。バネ25は第1挟持部24Aと第2挟持部24Bとの間が閉まる方向に可動片22を付勢している。なお、図示の例においてバネ25はねじりコイルバネであるが、これに限定されず、種々のバネを用いることができる。
【0020】
バネ25の付勢力により第1挟持部24Aと第2挟持部24Bとの間を閉じることで、基材Fの下縁を把持できる。この際、第1挟持部24Aおよび第2挟持部24Bは基材Fの表裏面と接触する。また、第1挟持部24Aと第2挟持部24Bとの間を開くことで、把持していた基材Fを開放できる。
【0021】
基部21はエンドレスベルト13(図2および図3において図示省略)に固定されている。そのため、エンドレスベルト13が移動すると、クランプ20が移動し、基材Fを搬送できる。
【0022】
可動片22の下端にはローラ26が回転自在に設けられている。ローラ26を押し込むと第1挟持部24Aと第2挟持部24Bとの間が開く。基材Fの搬送経路のうち、前処理槽14の直前および後処理槽16の直後には、ローラ26を押し込むレールが配置されている。前処理槽14の直前でローラ26を押し込み、開いた第1、第2挟持部24A、24Bの間に基材Fを挿入した後、第1、第2挟持部24A、24Bを閉じることで基材Fを把持できる。また、後処理槽16の直後にローラ26を押し込み第1、第2挟持部24A、24Bを開くことで基材Fを開放できる。
【0023】
クランプ20は基材Fの着脱のたびに開閉するため、めっき装置AAの稼働に伴いバネ25に金属疲労が蓄積し、最終的にはバネ25が破損する。そこで、本実施形態のめっき装置AAは、バネ25の破損を検知するバネ破損検知装置30を有する。
【0024】
図3に示すように、バネ破損検知装置30は、可動片22との距離を測定する距離センサ31を有する。距離センサ31はクランプ20の可動片22側にクランプ20から離れた位置に固定される。距離センサ31として光電センサ、超音波センサなどの非接触式センサが好適に用いられる。非接触式センサは検知軸上の物体との距離を測定する。距離センサ31の検知軸は可動片22の回動中心(ピン)よりも上部が通過する高さに設定される。
【0025】
距離センサ31の測定値は判断部32に入力されている。判断部32としてコンピュータ、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)などを用いることができる。判断部32は距離センサ31の測定値に基づきバネ25が破損しているか否かを判断する機能を有する。
【0026】
図4(A)にバネ25が破損した状態のクランプ20を示す。可動片22の重心は可動片22の回動軸を通る鉛直面よりも可動片22側の外側に位置している。そのため、バネ25が破損すると、ローラ26をレールなどで押し込まなくても可動片22が傾き、クランプ20が開いた状態となる。一方、図4(B)は、バネ25が破損していない正常な状態のクランプ20を示す。バネ25が破損していない場合には、バネ25の付勢力によりクランプ20は閉じた状態となる。
【0027】
バネ25が破損するとクランプ20が開くため、距離センサ31と可動片22との距離が短くなる。すなわち、バネ25が破損した場合に距離センサ31が測定する距離をD1とし、バネ25が破損していない場合に距離センサ31が測定する距離をD2とすると、距離D1は距離D2よりも短い。したがって、距離センサ31の測定値に基づいてバネ25が破損しているか否かを判断できる。
【0028】
判断部32は距離センサ31の測定値が閾値以下の場合にバネ25が破損していると判断する。一方、判断部32は距離センサ31の測定値が閾値を超える場合にバネ25が破損していないと判断する。なお、閾値はバネ25の破損を検知できる値に設定される。具体的には、閾値はD1以上、D2未満の値である。例えば、閾値は(D2+D1)/2である。
【0029】
距離センサ31は、クランプ20の移動経路のいずれかの位置に固定される。距離センサ31はローラ26を押し込むレールが配置されていない箇所に配置すればよい。また、距離センサ31は、他の部材との干渉を避けるため、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16の外部であることが好ましい。
【0030】
クランプ20はエンドレスベルト13の動作により移動するため、距離センサ31をいずれかの位置に固定しておけば、全てのクランプ20に対してバネ25が破損しているか否か検査できる。
【0031】
なお、クランプ20の移動に伴い、距離センサ31の検知軸が隣り合うクランプ20の間に位置することがある。この際、距離センサ31の測定値は距離D2よりも長くなる。この場合も、判断部32はバネ25が破損していると判断しない。このように、距離センサ31の検知軸上に可動片22が有るか否かを判断しなくても、バネ25が破損しているか否かを正常に判断できる。そのため、距離センサ31とクランプ20との位置関係を特定するセンサなどを別途設ける必要がない。
【0032】
バネ破損検知装置30はクランプ20の開閉状態に基づきバネ25の破損を検知する構成であればよく、上記構成に限定されない。すなわち、バネ破損検知装置30は、通常であれば閉じているはずのクランプ20が開いていることを検知できる構成であればよい。
【0033】
本実施形態のめっき装置AAによれば、バネ破損検知装置30がクランプ20のバネ25の破損を検知するので、クランプ20の点検に要する作業員の労力を大幅に低減できる。
【0034】
つぎに、めっき装置AAの運転方法を説明する。
図1に示すように、まず、基材Fをロール状に巻回した基材ロールを供給装置11にセットする。例えば、基材Fは絶縁性を有するベースフィルムの両面または片面に金属層が形成されたものである。ベースフィルムとしてポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層はスパッタリングなどの真空成膜法により成膜される。金属層は下地金属層と銅薄膜層とからなる。一般に、下地金属層はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。
【0035】
めっき装置AAの運転を開始し、ロールツーロールにより基材Fを搬送しつつ、基材Fの両面または片面にめっき被膜を成膜する。基材Fは供給装置11から繰り出され、前処理槽14、めっき槽15、および後処理槽16の内部をこの順に通過し、巻取装置12で巻き取られる。めっき槽15内において基材Fに対するめっきが行われる。基材Fに銅めっき被膜を成膜すれば銅張積層板が得られる。なお、めっき装置AAは銅張積層板を製造するのに限定されず、種々の製品を製造するのに用いられる。
【0036】
基材Fに対してめっき処理を行う間、バネ破損検知装置30でクランプ20のバネ25を検査する。複数のクランプ20はエンドレスベルト13の動作により移動するため、クランプ20の搬送経路上に設けられた一つのバネ破損検知装置30で全てのクランプ20を検査できる。
【0037】
バネ破損検知装置30がいずれかのクランプ20のバネ25の破損を検知した場合、めっき装置AAを即座に停止して、クランプ20を交換または修理する。あるいは、供給装置11にセットされている1ロールの基材Fに対するめっき処理が終了してからめっき装置AAを停止して、クランプ20を交換または修理してもよい。このように、バネ25の破損を検知して、処置ができるので、クランプ20を正常な状態に維持しつつ銅張積層板などの製品を製造できる。
【符号の説明】
【0038】
AA めっき装置
20 クランプ
21 基部
22 可動片
23 ヒンジ
24A 第1挟持部
24B 第2挟持部
25 バネ
26 ローラ
30 バネ破損検知装置
31 距離センサ
32 判断部
図1
図2
図3
図4