(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110175
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】高ニッケル含有耐食性合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20240807BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240807BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C22C19/05 Z
C22C38/00 302Z
C22C30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014593
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 優佑
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼岡 孝宜
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋳造性に優れた高ニッケル含有耐食性合金の提供。
【解決手段】高ニッケル含有耐食性合金は、
C:0.0010-0.100質量%、Si:0.01-2.00質量%、Mn:0.01-2.00質量%、S:0.010質量%以下、Cr:5.0-35.0質量%、Mo:0.10-10.00質量%、Cu:0.10-5.00質量%、Ti:0.010-2.00質量%、Al:0.010-2.00質量%、N:0.0001-0.05質量%、Ca:0.0001-0. 020質量%及びFe:32.6-53.7質量%を含有する。残部は、Ni及び不可避不純物である。この合金は、下記数式(1)を満たす。
P
Ti≦10.4×P
Al-5.93×10
-3(1)
上記数式(1)において、P
TiはTiの質量含有率を表し、P
AlはAlの質量含有率を表す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.0010質量%以上0.100質量%以下
Si:0.01質量%以上2.00質量%以下
Mn:0.01質量%以上2.00質量%以下
S:0.010質量%以下
Cr:5.0質量%以上35.0質量%以下
M o:0.10質量%以上10.00質量%以下
Cu:0.10質量%以上5.00質量%以下
Ti:0.010質量%以上2.00質量%以下
Al:0.010質量%以上2.00質量%以下
N:0.0001質量%以上0.05質量%以下
Ca:0.0001質量%以上0. 020質量%以下
及び
Fe:32.6質量%以上53.7質量%以下
を含有し、
残部がNi及び不可避不純物であり、
下記数式(1)を満たす、高ニッケル含有耐食性合金。
PTi≦ 10.4 × PAl- 5.93 × 10-3 (1)
(上記数式(1)において、PTiはTiの質量含有率を表し、PAlはAlの質量含有率を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、Niの含有率が大きい耐食性合金を開示する。
【背景技術】
【0002】
高ニッケル含有合金は、耐食性に優れている。この合金からなる金属製品は、腐食環境下での使用に適している。高ニッケル含有耐食性合金の一例が、特開2013-040379公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この金属製品は、鋼塊に加工が施されることで得られうる。この鋼塊は、溶鋼がノズルを介して鋳型へと注入され、凝固することで得られうる。特開2013-040379公報に開示された高ニッケル含有耐食性合金の場合、溶鋼によるノズル閉塞が生じやすい。さらに、この高ニッケル含有耐食性合金の場合、溶鋼による鋳型の湯道の閉塞が生じやすい。これらの閉塞は、鋼塊の生産性を阻害する。この閉塞はさらに、金属製品の品質を阻害しうる。鋳造性に優れた高ニッケル含有耐食性合金が、望まれている。
【0005】
本出願人の意図するところは、鋳造性に優れた高ニッケル含有耐食性合金の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する高ニッケル含有耐食性合金は、
C:0.0010質量%以上0.100質量%以下
Si:0.01質量%以上2.00質量%以下
Mn:0.01質量%以上2.00質量%以下
S:0.010質量%以下
Cr:5.0質量%以上35.0質量%以下
M o:0.10質量%以上10.00質量%以下
Cu:0.10質量%以上5.00質量%以下
Ti:0.010質量%以上2.00質量%以下
Al:0.010質量%以上2.00質量%以下
N:0.0001質量%以上0.05質量%以下
Ca:0.0001質量%以上0. 020質量%以下
及び
Fe:32.6質量%以上53.7質量%以下
を含有する。残部は、Ni及び不可避不純物である。この高ニッケル含有耐食性合金は、下記数式(1)を満たす。
PTi≦ 10.4 × PAl- 5.93 × 10-3 (1)
この数式(1)において、PTiはTiの質量含有率を表し、PAlはAlの質量含有率を表す。
【0007】
本明細書が開示する高ニッケル含有耐食性合金の製造方法は、
(1)Ti及びAlの含有率が下記数式(1)を満たす溶鋼を得る工程、
(2)上記溶鋼にCaを添加する工程、
(3)上記溶鋼を、鋳型に注入する工程、
及び
(4)上記溶鋼を凝固させて、その材質が、
C:0.0010質量%以上0.100質量%以下
Si:0.01質量%以上2.00質量%以下
Mn:0.01質量%以上2.00質量%以下
S:0.010質量%以下
Cr:5.0質量%以上35.0質量%以下
M o:0.10質量%以上10.00質量%以下
Cu:0.10質量%以上5.00質量%以下
Ti:0.010質量%以上2.00質量%以下
Al:0.010質量%以上2.00質量%以下
N:0.0001質量%以上0.05質量%以下
Ca:0.0001質量%以上0. 020質量%以下
及び
Fe:32.6質量%以上53.7質量%以下
を含有し、残部がNi及び不可避不純物である合金である鋼塊を、得る工程
を含む。
PTi≦ 10.4 × PAl- 5.93 × 10-3 (1)
この数式(1)において、PTiはTiの質量含有率を表し、PAlはAlの質量含有率を表す。
【発明の効果】
【0008】
材質がこの高ニッケル含有耐食性合金である金属製品のための鋳造では、ノズル又は湯道が閉塞しにくい。この鋳造は、生産性に優れる。この金属製品は、高品質である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、Al含有率とTi含有率との関係が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[組成]
本実施形態に係る高ニッケル含有耐食性合金は、
C:0.0010質量%以上0.100質量%以下
Si:0.01質量%以上2.00質量%以下
Mn:0.01質量%以上2.00質量%以下
S:0.010質量%以下
Cr:5.0質量%以上35.0質量%以下
M o:0.10質量%以上10.00質量%以下
Cu:0.10質量%以上5.00質量%以下
Ti:0.010質量%以上2.00質量%以下
Al:0.010質量%以上2.00質量%以下
N:0.0001質量%以上0.05質量%以下
Ca:0.0001質量%以上0. 020質量%以下
及び
Fe:32.6質量%以上53.7質量%以下
を含有する。好ましくは、残部は、Ni及び不可避不純物である。
【0011】
[関係式]
図1において符号L1で示された直線は、下記数式で表される。
P
Ti= 10.4 × P
Al- 5.93 × 10
-3
この数式において、P
TiはTiの質量含有率を表し、P
AlはAlの質量含有率を表す。この数式は、熱力学平衡計算ソフトによって導出されうる。
図1において、本実施形態に係る高ニッケル含有耐食性合金の座標(P
Al,P
Ti)は、この直線上か、又はこの直線の下方に位置する。換言すれば、この高ニッケル含有耐食性合金は、下記数式(1)を満たす。
P
Ti≦ 10.4 × P
Al- 5.93 × 10
-3 (1)
【0012】
この高ニッケル含有耐食性合金を材質とする金属製品は、鋼塊に加工が施されることで得られうる。この鋼塊は、溶鋼がノズルを介して鋳型へと注入され、凝固することで得られうる。従来の溶鋼では、酸化アルミニウム(Al2O3)又は酸化チタン(TiOx、xは自然数)が、非金属酸化物安定相として生成しうる。後述されるように、この高ニッケル含有耐食性合金は、Caを含んでいる。この安定相が酸化チタンであるとき、Caが添加されると、Ca-Ti酸化物が固体として生成する。このCa-Ti酸化物は、ノズル又は湯道を閉塞させる。本実施形態では、合金が上記数式(1)を満たすよう、Alの含有率とTiの含有率とのバランスが、調整される。この溶鋼では、酸化チタンではなく酸化アルミニウムが、主として生成する。この溶鋼にCaが添加されても、固体の酸化物はほとんど生成しない。従って、ノズル及び湯道の閉塞が生じにくい。
【0013】
ノズル及び湯道の閉塞の抑制の観点から、高ニッケル含有耐食性合金が下記数式(2)を満たすことが好ましい。
PTi≦ 10.4 × PAl- 3.9 × 10-2 (2)
【0014】
[炭素(C)]
Cは、固溶強化及び析出強化によって合金の強度に寄与しうる。この観点から、Cの含有率は0.0010質量%以上が好ましく、0.0030質量%以上がより好ましく、0.0050質量%以上が特に好ましい。Cの含有率が過剰であると、このCの一部がCrと結合して炭化物を形成する。この炭化物は、粒界腐食を招来する。さらに、この炭化物を過剰に含む合金では、融点が低く変形抵抗が大きい。従ってこの合金は、熱間加工性及び冷間加工性に劣る。耐食性及び加工性の観点から、Cの含有率は0.100質量%以下が好ましく、0.050質量%以下がより好ましく、0.020質量%以下が特に好ましい。
【0015】
[ケイ素(Si)]
Siは、製鋼工程での脱酸に寄与する。この観点から、Siの含有率は0.01質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が特に好ましい。過剰のSiは、合金の靱性を損なう。靱性の観点から、Siの含有率は2.00質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましく、0.50質量%以下が特に好ましい。
【0016】
[マンガン(Mn)]
Mnは、Sを固定して合金の熱間加工性に寄与しうる。Mnはさらに、合金においてγ相の安定に寄与しうる。これらの観点から、Mnの含有率は0.01質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましく、0.50質量%以上が特に好ましい。Mnのこの効果は、含有率が2.00質量%で飽和する。さらに、過剰のMnは、合金の硬さを阻害する。硬さの観点から、Mnの含有率は2.00質量%以下が好ましく、1.50質量%以下がより好ましく、1.00質量%以下が特に好ましい。
【0017】
[硫黄(S)]
Sは、不純物である。Sは低融点硫化物を形成しうる。この硫化物は、合金の熱間加工性を阻害する。熱間加工性の観点から、Sの含有率は、0.010質量%以下が好ましく、0.005質量%以下がより好ましく、0.003質量%以下が特に好ましい。Sの含有率が検出限界未満であってよい。
【0018】
[クロム(Cr)]
Crは、鋼の表面において不働態被膜を形成する。この不働態被膜は、鋼の腐食を抑制する。耐食性の観点から、Crの含有率は5.0質量%以上が好ましく、10.0質量%以上がより好ましく、15.0質量%以上が特に好ましい。Crを過剰に含む合金では、融点が低く変形抵抗が大きい。従ってこの合金は、熱間加工性及び冷間加工性に劣る。加工性の観点から、Crの含有率は35.0質量%以下が好ましく、30.0質量%以下がより好ましく、25.0質量%以下が特に好ましい。
【0019】
[モリブデン(Mo)]
Moは、合金の耐食性に寄与しうる。耐食性の観点から、Moの含有率は0.10質量%以上が好ましく、1.00質量%以上がより好ましく、2.00質量%以上が特に好ましい。Moを過剰に含む合金では、融点が低く変形抵抗が大きい。従ってこの合金は、熱間加工性及び冷間加工性に劣る。さらに、Moは高価である。加工性及びコストの観点から、Moの含有率は10.00質量%以下が好ましく、5.00質量%以下がより好ましく、3.00質量%以下が特に好ましい。
【0020】
[銅(Cu)]
Cuは、合金の耐食性に寄与する。Cuはさらに、合金においてγ相の安定に寄与する。これらの観点から、Cuの含有率は0.10質量%以上が好ましく、1.00質量%以上がより好ましく、1.50質量%以下が特に好ましい。Cuの含有率が検出限界未満であってよい。Cuを過剰に含む合金では、融点が低く変形抵抗が大きい。従ってこの合金は、熱間加工性及び冷間加工性に劣る。さらに、Cuは高価である。加工性及びコストの観点から、Cuの含有率は5.00質量%以下が好ましく、3.00質量%以下がより好ましく、2.00質量%以下が特に好ましい。
【0021】
[チタン(Ti)]
Tiは、TiC及びTiNを生成する。TiC及びTiNは、ピン止め効果によって微細な結晶粒を達成し、合金の強度及び靱性に寄与しうる。さらにTiは、Cを固定して合金の耐食性に寄与しうる。これらの観点から、Tiの含有率は0.010質量%以上が好ましく、0.100質量%以上がより好ましく、0.500質量%以上が特に好ましい。過剰のTiは、溶鋼において、非金属酸化物としての酸化チタン(TiOx)の生成を招来する。従って、この溶鋼にCaが添加されると、Ca-Ti酸化物が固体として生成し、ノズル又は湯道を閉塞させる。換言すれば、過剰のTiは、合金の鋳造性を阻害する。過剰のTiはさらに、過剰のTiNを生成する。過剰のTiNは、合金の耐食性を阻害する。過剰のTiNは、合金に冷間加工が施されるときの割れ及び傷の基点となり得る。TiNを過剰に含む合金では、融点が低く変形抵抗が大きい。従ってこの合金は、熱間加工性及び冷間加工性に劣る。鋳造性、耐食性及び加工性の観点から、Tiの含有率は2.00質量%以下が好ましく、1.50質量%以下がより好ましく、1.00質量%以下が特に好ましい。
【0022】
[アルミニウム(Al)]
Alは、溶鋼において、非金属酸化物としての酸化アルミニウム(Al2O3)を生成し、酸化チタン(TiOx)の生成を抑制する。従って、この溶鋼にCaが添加されても、Ca-Ti酸化物の生成が抑制され、ノズル及び湯道の閉塞が抑制される。換言すれば、Alは、合金の鋳造性に寄与しうる。Alは、製鋼工程での脱酸に寄与する。さらにAlは、AlNを生成する。AlNは、ピン止め効果によって微細な結晶粒を達成し、合金の強度及び靱性に寄与しうる。これらの観点から、Alの含有率は0.010質量%以上が好ましく、0.030質量%以上がより好ましく、0.050質量%以上が特に好ましい。Alを過剰に含む合金では、融点が低く変形抵抗が大きい。従ってこの合金は、熱間加工性及び冷間加工性に劣る。過剰のAlは、過剰のAlNを生成する。過剰のAlNは、合金の耐食性を阻害する。過剰のAlNは、合金に冷間加工が施されるときの割れ及び傷の基点となり得る。加工性及び耐食性の観点から、Alの含有率は2.00質量%以下が好ましく、0.50質量%以下がより好ましく、0.100質量%以下が特に好ましい。
【0023】
[窒素(N)]
Nは、γ相の安定に寄与しうる。この観点から、Nの含有率は0.0001質量%以上が好ましく、0.001量%以上がより好ましく、0.010質量%以上が特に好ましい。過剰のNは、過剰の窒化物を生成する。過剰の窒化物は、合金の耐食性及び冷間加工性を阻害する。耐食性及び冷間加工性の観点から、Nの含有率は0.05質量%以下が好ましく、0.03質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が特に好ましい。
【0024】
[カルシウム(Ca)]
Caは、Sと反応し、CaSを生成する。従ってCaは、Sの粒界偏析に起因する粒界脆化を抑制し、合金の靱性に寄与する。Caはさらに、MnSの生成を抑制し、合金の耐食性に寄与する。これらの観点から、Caの含有率は0.0001質量%以上が好ましく、0.0005質量%以上がより好ましく、0.0008質量%以上が特に好ましい。Caは、低融点化合物を形成しうる。この化合物は、合金の熱間加工性を阻害する。熱間加工性の観点から、Caの含有率は0.020質量%以下が好ましく、0.015質量%以下がより好ましく、0.100質量%以下が特に好ましい。
【0025】
[鉄(Fe)]
Feは、熱間加工及び冷間加工における変形抵抗の抑制に寄与する。Feは、低価格である。これらの観点から、Feの含有率は32.6質量%以上が好ましく、33.5質量%以上がより好ましく、34.0質量%以上が特に好ましい。他の元素が十分に添加されうるとの観点から、Feの含有率は53.7質量%以下が好ましい。
【0026】
[ニッケル(Ni)]
以上説明された元素の残部は、Ni及び不可避的不純物である。Niは、合金の靱性及び耐食性に寄与しうる。これらの観点から、Niの含有率は20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。他の元素が十分に添加されうるとの観点から、Niの含有率は55質量%以下が好ましい。
【0027】
[製造方法]
以下、本実施形態に係る製造方法の一例が説明される。まず、電気炉等で原料が加熱されて溶融し、溶鋼が得られる。この溶鋼が、取鍋等に移され、成分が調整される。調整後の溶鋼は、Ti及びAlを含有する。Tiの含有率PTiとAlの含有率PAlとは、下記の数式(1)を満たす。
PTi≦ 10.4 × PAl- 5.93 × 10-3 (1)
この溶鋼の温度は、1500℃から1600℃である。この溶鋼では、非金属酸化物安定相として、酸化アルミニウム(Al2O3)が生成している。この溶鋼では、酸化チタン(TiOx)は生成していないか、酸化チタンを生成していてもその量は少ない。
【0028】
この溶鋼にCa(又はCa含有合金)が添加される。前述の通り、溶鋼には酸化チタンは生じていない。従って、Caが添加されても、このCaと酸化チタンとの反応によるCa-Ti酸化物は、ほとんど生成しない。
【0029】
この溶鋼が、鋳型に注入される。通常は、ノズルを通して、溶鋼が鋳型に注入される。前述の通り、溶鋼がCa-Ti酸化物を含んでいないので、この溶鋼はノズルを閉塞させない。溶鋼は、湯道を通解して鋳型のキャビティに侵入する。溶鋼がCa-Ti酸化物を含んでいないので、この溶鋼は湯道を閉塞させない。この溶鋼が鋳型内で凝固し、鋼塊が得られる。この鋼塊に熱間加工性又は冷間加工が施され、金属製品が得られる。この金属製品の材質は、前述の高ニッケル含有耐食性合金である。
【実施例0030】
以下、実施例に係る高ニッケル含有耐食性合金の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0031】
[実施例1]
90トン電気炉にて原料を溶解し、溶鋼を得た。この溶鋼を取鍋に移し、脱硫を施した。この溶鋼に、RH真空脱ガス装置にて処理を施した。この溶鋼に、Ca合金を添加した。この溶鋼を、取鍋のノズルから鋳型へと注入した。この溶鋼を凝固させて、材質が高ニッケル含有耐食性合金である鋼塊を得た。鋳型に注入される直前の溶鋼から採取されたサンプルに化学成分分析を実施し、合金の組成を特定した。
【0032】
[実施例2-5及び比較例1-5]
成分の異なる原料を用いた他は実施例1と同様にして、鋼塊を得た。
【0033】
[鋳造性]
溶鋼の鋳型への注入時に、ノズルの意図されない閉塞が生じたか否かを、目視で確認した。この結果が、下記の表1に示されている。
【0034】
【0035】
表1に示されるように、各実施例の高ニッケル含有耐食性合金は、鋳造性に優れている。この評価結果から、この合金の優位性は明らかである。
前述の高ニッケル含有耐食性合金は、耐食性が要求される種々の用途に適している。この合金は、化学プラントの部品(例えば配管)、海水が使用される熱交換器の部品等に、特に適している。