(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110309
(43)【公開日】2024-08-15
(54)【発明の名称】固形分の計測方法及び潤滑油組成物の劣化診断方法並びに固形分の計測システム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/30 20060101AFI20240807BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G01N33/30
G01N21/27 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014832
(22)【出願日】2023-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 知己
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀弥
(72)【発明者】
【氏名】奥山 元気
(72)【発明者】
【氏名】関口 浩紀
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059CC14
2G059EE13
2G059GG02
2G059GG10
2G059HH02
2G059KK04
2G059MM02
2G059MM09
(57)【要約】
【課題】潤滑油組成物中の固形分を、簡便に且つ短時間で適切に計測することができる固形分の計測方法及び当該計測方法を利用した潤滑油組成物の劣化診断方法並びに固形分の計測システムを提供する。
【解決手段】潤滑油組成物中に存在する固形分の計測方法であって、前記潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する工程(S1)と、前記赤色成分画像を二値化して、前記固形分を抽出する工程(S2)と、前記工程(S2)において抽出された前記固形分に基づいて、前記固形分を計測する工程(S3)とを含む、計測方法とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物中に存在する固形分の計測方法であって、
前記潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する工程(S1)と、
前記赤色成分画像を二値化して、前記固形分を抽出する工程(S2)と、
前記工程(S2)において抽出された前記固形分に基づいて、前記固形分を計測する工程(S3)とを含む、計測方法。
【請求項2】
前記工程(S3)において、前記固形分の量を計測する、請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記工程(S3)において、前記固形分の数及び径の少なくともいずれかを抽出する、請求項1又は2に記載の計測方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の計測方法を利用して計測された結果に基づいて、前記潤滑油組成物の劣化状況を診断する、潤滑油組成物の劣化診断方法。
【請求項5】
潤滑油組成物中に存在する固形分の計測システムであって、
前記潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する赤色成分画像取得部と、
前記赤色成分画像を二値化して、前記固形分を抽出する抽出部と、
前記抽出部において抽出された前記固形分に基づいて、前記固形分を計測する計測部とを備える、計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形分の計測方法及び当該計測方法を利用した潤滑油組成物の劣化診断方法並びに固形分の計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物の管理を的確に行うためには、潤滑油組成物の劣化及び汚損状態等を把握することが重要である。特に、潤滑油組成物中の摩耗粉、粉塵、及びスラッジ等の固形分は、当該潤滑油組成物を使用している設備機械の損傷及び寿命等に大きく影響する。したがって、これら固形分の把握は、潤滑油組成物の管理を行う上で、極めて重要である。
【0003】
潤滑油組成物中の固形分を把握する指標としては、例えばミリポア値が知られている。ミリポア値は、メンブランフィルタで潤滑油組成物をろ過することで固形分(汚染物)を捕捉するため、潤滑油組成物の全体的な汚染度を評価できる。
【0004】
また、近年では、金属粉末の粒子形状を分析する方法として、走査電子顕微鏡で得られた画像を利用した方法等も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ミリポア値の計測には、油量が100mL程度必要であるとともに、ろ過の工程も伴うため、簡便かつ迅速な方法であるとは言い難い。
また、特許文献1に記載の方法は、画像による判定を行うことができるため、ミリポア値の計測のように油を多く用いることや、ろ過を行う必要がない。その点では簡便であるとも言える。しかし、特許文献1に記載の方法は、走査電子顕微鏡により撮影した画像が必要であり、そのためのサンプルの準備や測定の手間等がかかる。また、特許文献1に記載の方法は、積層セラミックコンデンサ、積層インダクタ等の電子部品の電極材料、電子機器部品に用いられる導電性ペーストのフィラーなどに好適なニッケル粉末のような、ナノ及びサブミクロンサイズの粒子集合体を対象とした方法であり、潤滑油組成物を対象にした方法については何ら検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は、潤滑油組成物中の固形分を、簡便に且つ短時間で適切に計測することができる固形分の計測方法及び当該計測方法を利用した潤滑油組成物の劣化診断方法並びに固形分の計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下記[1]~[3]が提供される。
[1] 潤滑油組成物中に存在する固形分の計測方法であって、
前記潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する工程(S1)と、
前記赤色成分画像を二値化して、前記固形分を抽出する工程(S2)と、
前記工程(S2)において抽出された前記固形分に基づいて、前記固形分を計測する工程(S3)とを含む、計測方法。
[2] 上記[1]に記載の計測方法を利用して計測された値に基づいて、前記潤滑油組成物の劣化状況を診断する、潤滑油組成物の劣化診断方法。
[3] 潤滑油組成物中に存在する固形分の計測システムであって、
前記潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する赤色成分画像取得部と、
前記赤色成分画像を二値化して、前記固形分を抽出する抽出部と、
前記抽出部において抽出された前記固形分に基づいて、前記固形分を計測する計測部と、を備える、計測システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、潤滑油組成物中の固形分を、簡便に且つ短時間で適切に計測することができる固形分の計測方法及び当該計測方法を利用した潤滑油組成物の劣化診断方法並びに固形分の計測システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の固形分の計測方法の一例を示す工程フローである。
【
図2】本実施形態の固形分の計測システムの一例を示す概略構成図である。
【
図3】実施例1、比較例1、比較例7、及び比較例13の検討結果を示す図である。
【
図4】実施例2、比較例2、比較例8、及び比較例14の検討結果を示す図である。
【
図5】実施例3、比較例3、比較例9、及び比較例15の検討結果を示す図である。
【
図6】実施例4、比較例4、比較例10、及び比較例16の検討結果を示す図である。
【
図7】実施例5、比較例5、比較例11、及び比較例17の検討結果を示す図である。
【
図8】実施例6、比較例6、比較例12、及び比較例18の検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以降の説明では、「固形分の計測方法」を単に「計測方法」ともいう。
また、「固形分の計測システム」を単に「計測システム」ともいう。
【0012】
[本実施形態の計測方法及び計測システムの態様]
本実施形態の計測方法は、潤滑油組成物中に存在する固形分を計測するための方法である。
本実施形態の計測方法は、大まかには、
図1に示すように、赤色成分画像取得工程(S1)と、固形分抽出工程(S2)と、計測工程(S3)とを含む。
本実施形態の計測方法は、詳細には、潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する工程(S1)と、赤色成分画像を二値化して、固形分を抽出する工程(S2)と、工程(S2)において抽出された固形分に基づいて、固形分を計測する工程(S3)とを含む。
【0013】
本実施形態の計測方法は、例えば、下記計測システムにより実施することができる。
すなわち、本実施形態の計測システム1は、
図2に示すように、撮影装置2と、計測部3とを備える。
計測部3は、例えばコンピュータであり、処理部31、記憶部32、入力部33、及び出力部34を備える。処理部31は、潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する赤色成分画像取得部301と、赤色成分画像を二値化して、固形分を抽出する抽出部302と、抽出部において抽出された固形分に基づいて、固形分を計測する計測部303とを備える。
撮影装置2、処理部31、記憶部32、入力部33、及び出力部34は、それぞれバス40を介して接続される。但し、これらの接続は、バス40を介した有線での接続には限定されず、無線での接続であっても勿論よい。また、撮影装置2で撮像して取得した画像データは、USBメモリ、SDカード、またはmicrоSDカード等の記憶媒体を介して、計測部3に入力するようにしてもよい。
【0014】
処理部31は、予め格納されているオペレーティングシステムプログラムなどの基本プログラムや画像処理プログラムなどのアプリケーションプログラムを読み出し、これらの各種プログラムに従って、計測システム1全体を制御する。赤色成分画像取得部301における処理、抽出部302における処理、計測部303における処理は、処理部31で行われる。
記憶部32は、例えば、半導体記憶装置、磁気テープ装置、磁気ディスク装置、又は光ディスク装置等であり、処理部31での処理に用いられる各種プログラム及び各種データ等を記憶する。
入力部33は、例えば、キーボード、マウス、又はタッチパネル等であり、作業者は、入力部33を用いて、文字、数字、及び記号等を入力したり、オペレーティングシステム及び各種アプリケーションプログラム等を操作・実行したりすることができる。入力部33は、作業者により操作されると、その操作に対応する信号を生成する。そして、生成された信号は、作業者の指示として、処理部31に供給される。
出力部34は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等であり、処理部31から入力されたデータに応じた画像及び判定結果等を表示する。なお、出力部34は、紙等の表示媒体に画像及び文字等を印刷する機器であってもよい。
【0015】
なお、本実施形態の計測システム1において、撮影装置2は必ずしも備えずともよく、例えば、潤滑油組成物のユーザーが取得した画像を、計測部3に送信するようにしてもよい。
また、本実施形態の計測システム1において、撮影装置2は、携帯端末に備えられたカメラであってもよい。さらに、本実施形態の計測システム1において、計測部3は、携帯端末であってもよい。例えば、当該携帯端末に備えられたカメラで撮影した画像を、当該携帯端末で処理し、固形分の計測を行うようにしてもよい。
なお、携帯端末としては、例えば、携帯電話機、スマートフォン、タブレット型端末、ノート型PC、及びPDA(Personal Data Assistant)等が挙げられる。これらの中でも、広く普及しているスマートフォン及びタブレット型端末が好ましい。
【0016】
以下、本実施形態の計測方法及び計測について、詳細に説明する。
【0017】
<計測対象物>
本実施形態において、計測対象物は、潤滑油組成物中に存在する固形分である。
当該固形分としては、例えば、潤滑油組成物の使用時に潤滑油組成物内に混入する摩耗粉及び粉塵等の汚損性固形分;潤滑油組成物の酸化劣化に伴い潤滑油組成物内に発生するスラッジやバーニッシュ等の固形分等が挙げられる。
【0018】
<工程(S1):赤色成分画像取得工程>
工程(S1)では、潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する。
赤色成分画像は、例えば、下記(1)~(2)の方法により取得することができる。
(1)赤色成分を含む光(例えば、白色光等)を潤滑油組成物に透過させて得られるカラー画像から、赤色成分を抽出して得られる画像
(2)赤色成分を潤滑油組成物に透過させて得られる画像
【0019】
潤滑油組成物は、酸化劣化に伴い、色相が変化する(色が濃くなる)ことが知られている。そのため、白色光を潤滑油組成物に透過させてRGB成分のいずれも含むカラー画像を取得し、工程(S2)においてこれを二値化しても、潤滑油組成物の色相の変化に起因して、固形分の抽出精度が不十分となることがわかった。
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、白色光を潤滑油組成物に透過させてRGB成分のいずれも含むカラー画像を取得した後、当該カラー画像からB(青色成分)及びG(緑色成分)よりも長波長であるR(赤色成分)を抽出したR抽出画像を用いることで、潤滑油組成物の色相の変化に起因する上記不具合を抑制して、固形分を精度よく抽出できることが明らかとなった。
なお、この結果から、上記(2)の方法であっても、潤滑油組成物の色相の変化に起因する上記不具合を抑制して、固形分を精度よく抽出できることが明確である。
因みに、当該カラー画像からG(緑色成分)を抽出したG抽出画像及び当該カラー画像からB(青色成分)を抽出したB抽出画像を用いた場合には、潤滑油組成物の色相の変化に起因して、固形分の抽出精度が不十分となる。したがって、上記のように、B(青色成分)及びG(緑色成分)よりも長波長であるR(赤色)成分を用いることが重要である。
【0020】
なお、上記(1)及び(2)において、潤滑油組成物の撮影に用いられる撮影装置としては、CCDカメラ及びCMOSカメラ等のカメラが挙げられる。
【0021】
ここで、計測精度の向上の観点、工程(S1)の実施のしやすさ等の観点から、工程(S1)は、上記(1)によって実施することが好ましく、上記(1)は下記(1a)であることがより好ましい。
(1a)白色光を潤滑油組成物に透過させて得られるカラー画像から、赤色成分を抽出して得られる画像
【0022】
なお、上記(1)及び(1a)のように、カラー画像から赤色を抽出する処理は、市販されている各種ソフトウエアを用いて実施することができる。このようなソフトウエアとしては、例えば、WinROOF(三谷商事株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
工程(S1)において取得した赤色成分画像は、工程(S2)に供し、固形分抽出を行う。
【0024】
<工程(S2):固形分抽出工程>
工程(S2)では、工程(S1)で取得した赤色成分画像を二値化して、固形分を抽出する。
なお、「二値化」とは、画素0から255の値を、設定した閾値を境として0と1の二値に変換する処理をいう。
【0025】
二値化の閾値の設定方法については、特に制限されるものではなく、例えば、モード法、P-タイル法、判別分析法、微分ヒストグラム法、ラプラシアンヒストグラム法、及び移動平均法、部分画像分割法等が挙げられる。
ここで、本実施形態では、測定精度の向上の観点から、下記アルゴリズムを用いて、閾値を設定することが好ましい。
【0026】
(アルゴリズム)
本実施形態では、閾値は、固形分を含む潤滑油組成物の赤色成分画像の輝度値ヒストグラムの傾きに基づいて設定することが好ましい。
本発明者らの検討によると、固形分を含む潤滑油組成物の赤色成分画像の輝度値ヒストグラムにおいて、固形分の画素は、ピークより輝度が低い側に検出される。また、固形分の増加に伴い、ピークより輝度が高い側にも画素が検出されるが、これは潤滑油組成物の画像において、固形分周辺の画素が高い輝度で検出されるためである。以上のことから、適切な閾値は、輝度値ヒストグラムにおいて、ピークより輝度が低い側のふもとであって、度数変化が顕著な輝度である。
かかる特徴を踏まえ、下記手順(I)~(IV)により、閾値を設定することが好ましい。
(I)an+1-an(n=0,2,...254:ある輝度における度数):横軸を輝度とし、縦軸を度数(頻度)とした輝度ヒストグラムについて、傾きを算出する(1階微分)。
(II)上記(I)で算出した傾きが0以外である場合、傾きの変化割合を算出する(2階微分)。傾きが0である場合には傾きの変化割合を算出せず、データを除外する。
(III)傾きの変化割合が1以上である場合、傾きの変化割合の比を算出する(3階微分)。傾きの変化割合が1未満である場合には傾きの変化割合の比を算出せず、データを除外する。
(IV)上記(III)の値が最大値を示す際の輝度を確認し、当該輝度よりも1つ小さい輝度を閾値とする。但し、0と隣り合う値は採用しない。
上記手順(I)~(IV)により閾値を決定し、当該閾値よりも小さな値を示す画素(二値化した際に「0」となる画素)を、固形分の画素として抽出する。
【0027】
二値化により抽出された固形分は、工程(S3)に供し、固形分の計測を行う。
【0028】
<工程(S3):固形分計測>
工程(S3)では、工程(S2)において抽出された前記固形分に基づいて、固形分を計測する。
例えば、工程(S2)において抽出された前記固形分に基づいて、固形分の量を計測することができる。固形分の量は、例えば、二値化した際に固形分を示す画素の数(二値化面積率)に基づいて計測することができる。
より詳細には、例えば、固形分の量が異なる標準試料を複数準備し、本実施形態の方法を実施し二値化して抽出した固形分(例えば、二値化面積率)と標準試料中の固形分量との関係を示す検量線を予め作成しておき、この検量線を利用することで、実試料の二値化面積率から、固形分の量を計測(推定)することができる。
また、工程(S2)において抽出された前記固形分に基づいて、固形分の数及び径の少なくともいずれかを計測することができる。固形分の数及び径は、例えば、二値化した際に固形分を示す画素について、画素同士の連結により形成される領域の大きさ及び当該領域の数等に基づいて計測することができる。
より詳細には、例えば、固形分の径が異なる標準試料を複数準備し、本実施形態の方法を実施し二値化して抽出した固形分の径(例えば、連続した一塊の二値化画素領域の径の最大値)と標準試料中の固形分の径との関係を示す検量線を予め作成しておき、この検量線を利用することで、実試料の連続した一塊の二値化画素領域の径の最大値から、固形分の径を計測(推定)することができる。固形分の数については、例えば、連続した一塊の二値化画素領域を1つの固形分として捉え、その量をカウントすることで計測することができる。
【0029】
<潤滑油組成物の劣化診断方法>
本実施形態の潤滑油組成物の劣化診断方法は、上記の計測方法を利用して計測された結果に基づいて、潤滑油組成物の劣化状況を診断するようにしている。
上記の計測方法によれば、潤滑油組成物の劣化状況の指標となる固形分の情報を取得することができる。しかも、カメラ等の撮像装置で得られた画像から、当該情報を取得することが可能である。したがって、簡便に且つ短時間で潤滑油組成物の劣化診断を行うことができ、潤滑油組成物の管理をさらに的確に行うことが可能になる。
加えて、カメラ等の撮像装置で得られた画像から、潤滑油組成物の劣化状況の指標となる固形分の情報を取得することができることから、例えば、潤滑油組成物のユーザーが撮影した画像に基づいて、本発明の方法を実施することができる。したがって、潤滑油組成物のユーザーが撮影した画像に基づいて、潤滑油組成物の劣化状況の指標となる固形分の情報を大量に取得することができ、AIや機械学習等を用いて、固形分計測の精度を向上させることも可能になる。
【0030】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[5]が提供される。
[1] 潤滑油組成物中に存在する固形分の計測方法であって、
前記潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する工程(S1)と、
前記赤色成分画像を二値化して、前記固形分を抽出する工程(S2)と、
前記工程(S2)において抽出された前記固形分に基づいて、前記固形分を計測する工程(S3)とを含む、計測方法。
[2] 前記工程(S3)において、前記固形分の量を計測する、上記[1]に記載の計測方法。
[3] 前記工程(S3)において、前記固形分の数及び径の少なくともいずれかを抽出する、上記[1]又は[2]に記載の計測方法。
[4] 上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の計測方法を利用して計測された結果に基づいて、前記潤滑油組成物の劣化状況を診断する、潤滑油組成物の劣化診断方法。
[5] 潤滑油組成物中に存在する固形分の計測システムであって、
前記潤滑油組成物の赤色成分画像を取得する赤色成分画像取得部と、
前記赤色成分画像を二値化して、前記固形分を抽出する抽出部と、
前記抽出部において抽出された前記固形分に基づいて、前記固形分を計測する計測部とを備える、計測システム。
【実施例0031】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[試料油の準備]
株式会社シラド化学製の石油製品色標準試料 ASTM色用セットA1、A3、及びA5を準備した。そして、石油製品色標準試料100mLに対し、関東ローム又は酸化鉄粉を10mg添加し、超音波洗浄機にて30分間拡散させ、試料油を準備した。
なお、ASTM色用セットA1、A3、及びA5は、ASTM D1500に規定されるASTM色1.0、3.0、及び5.0に対応する色を示す試料である。
試料油は、表1に示す6種類を準備した。
【0033】
【0034】
関東ロームは、JIS試験用粉体1(JIS Z8901:2006)の7種を選定した。JIS試験用粉体1は、関東地方の地表に広く分布している火山灰土壌である関東ロームを、800℃で焼成後に粒子径分布を調整したものである。
使用したJIS試験用粉体1(JIS Z8901:2006)の7種の重量基準の粒径分布を表2に示す。なお、表2中、「オーバーサイズ」とは、粉体に含まれているある粒径より大きな粒子量を全粉体量に対する百分率で示したものである。
【0035】
【0036】
酸化鉄粉は、純正化学株式会社製、酸化鉄(II)(品番:32220-1501)を用いた。
【0037】
[撮影方法]
外側表面に黒色フィルムを貼り付けたポリアセタール樹脂製円筒の底部に乳白半透明アクリル製円板が設けられ、上部が開放している円筒状容器内に、試料油5mLを収容し、円筒状容器の底部から上部解放部に向けて白色LEDライト(OptoSupply製:OERS08W414)を照射して、試料油に白色光を透過させ、円筒状容器の上部解放部から試料油を撮影した。白色光の光路長(円筒状容器に収容した試料油の高さ)は、10.2mm(概算値)とした。
撮影には、一般的なCMOSカメラを使用した。撮影は、ISO感度を100、シャッター速度1/10,000、ホワイトバランスはオートとして行った。
また、撮影の際には、撮影補助器具として、拡大レンズ(Kenko製:REAL PRO CLIP LENS)を、円筒状容器の上方解放部とCMOSカメラのレンズとの間に設けた。
【0038】
撮影装置を用いて取得した試料油画像は「Adobe Lightroom」を用いてホワイトバランスを5,650としてRAW画像編集し、カラースペースは国際標準規格であるsRGBとしてTIFFファイル形式でRAW現像した。
【0039】
[実施例1~6、比較例1~18]
試料油X1~X3、Y1~Y3を撮影して得られたカラー画像について、画像解析・計測ソフトウエア「WinROOF(三谷商事株式会社製)」を用い、以下の検討を行った。
(1)カラー画像から下記表3に示す画像を取得した。なお、下記表3中、「R」はカラー画像からR成分のみを抽出した画像(R抽出画像)を意味し、「G」はカラー画像からG成分のみを抽出した画像(G抽出画像)を意味し、「B」はカラー画像からB成分のみを抽出した画像(B抽出画像)を意味する。また、「モノクロ」はカラー画像をモノクロに変換処理した画像を意味する。
【0040】
【0041】
(2)撮影して得られた画像のうち、試料油部分の中心部(試料油部分の全面積の約1/2)を選択し、試料油画像の濃淡ムラを補正するために自動水平補正を行った。
(3)試料油部分の輝度ヒストグラムを取得し、既述のアルゴリズム(上記(I)~(IV)の手順)で閾値を算出した。
(4)二値化を行い、閾値より小さな値を示した画素が占める割合(二値化面積率)を算出した。
【0042】
取得した画像と面積率を
図3~
図8に示す。
また、実施例1~6及び比較例1~18のうち、関東ロームを添加物とした場合について、石油製品色標準試料の種類毎に、モノクロ画像、R抽出画像、G抽出画像、及びB抽出画像の面積率をまとめた結果を表4に示す。
さらに、実施例1~6及び比較例1~18のうち、酸化鉄粉を添加物とした場合について、石油製品色標準試料の種類毎に、モノクロ画像、R抽出画像、G抽出画像、及びB抽出画像の二値化面積率をまとめた結果を表5に示す。
なお、表4及び表5には、石油製品色標準試料をA1とした試料油との二値化面積率の差を求めた。石油製品色標準試料をA1とした試料油との二値化面積率の差が小さいほど、潤滑油組成物の酸化劣化に伴う二値化面積率の変化が小さく、信頼性の高い測定結果が得られていることを意味する。
【0043】
【0044】
【0045】
図3~
図8及び表4~表5に示す結果から、R抽出画像を用いることで、潤滑油組成物の酸化劣化が進んだ状態であっても、適切な二値化面積率を得られることがわかる。一方、モノクロ画像、G抽出画像、及びB抽出画像を用いた場合には、滑油組成物の酸化劣化が進むと、適切な二値化面積率を得られないことがわかる。
以上のことから、R抽出画像を用いることで、潤滑油組成物の酸化劣化が進んだ場合であっても、固形分を適切に抽出し、計測できることがわかった。