(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110506
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】情報処理システム
(51)【国際特許分類】
G06N 7/01 20230101AFI20240808BHJP
G06N 5/04 20230101ALI20240808BHJP
【FI】
G06N7/01
G06N5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015099
(22)【出願日】2023-02-03
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業(通常型)「活力ある社会を創る適応自在AIロボット群(研究開発課題:成功体験マネージャー)」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100205084
【弁理士】
【氏名又は名称】吉浦 洋一
(72)【発明者】
【氏名】稲邑 哲也
(72)【発明者】
【氏名】郷津 優介
(57)【要約】
【課題】
スキル(技術、技能)が必要とされるタスク(課題)について、その難易度を設定することを支援する情報処理システムを提供することを目的とする。
【解決手段】
タスクの難易度の設定を支援する情報処理システムであって、タスクにおける測定点の物理量の時系列データを受け付けるデータ受付処理部と、受け付けた時系列データを用いて、測定点の予測した物理量の時系列データを出力する予測処理部と、タスクの難易度を設定するパラメータと、出力した予測した物理量の時系列データとを用いてタスクのシミュレーション処理を実行して、難易度と難易度を設定するパラメータの対応関係を出力するシミュレーション処理部と、を有する情報処理システムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タスクの難易度の設定を支援する情報処理システムであって、
前記情報処理システムは、
前記タスクにおける測定点の物理量の時系列データを受け付けるデータ受付処理部と、
前記受け付けた時系列データを用いて、前記測定点の予測した物理量の時系列データを出力する予測処理部と、
前記タスクの難易度を設定するパラメータと、前記出力した予測した物理量の時系列データとを用いて前記タスクのシミュレーション処理を実行して、前記難易度と前記難易度を設定するパラメータの対応関係を出力するシミュレーション処理部と、
を有することを特徴とする情報処理システム。
【請求項2】
前記予測処理部は、
前記受け付けた時系列データに対し、状態遷移を確率的に予測する手法を用いて、前記測定点の予測した物理量の時系列データを出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記状態遷移を確率的に予測する手法としてGPDMを用いる、
ことを特徴とする請求項2に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記予測処理部は、
前記受け付けた多次元の時系列データに対して、次元圧縮を行い、その状態遷移を低次元特徴空間上の軌跡として表現し、
前記低次元特徴空間上の空間表現を用いて、前記測定点の将来の物理量の時系列変化を予測して出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記情報処理システムは、さらに、
前記出力した難易度を設定するパラメータを用いて、前記タスクの難易度を設定する難易度設定処理部、を有しており、
前記難易度設定処理部は、
前記難易度は前記タスクのユーザに対して表示せずに、難易度を調整するパラメータを変更する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記タスクは仮想現実によるけん玉、前記難易度を調整するパラメータは皿の直径であって、
前記仮想現実によるけん玉のコンピュータシステムは、
前記難易度設定処理部から受け付けた皿の直径の情報に基づいて、ユーザに対して表示する皿の直径を変更せずに、玉が乗ったと判定する皿の領域の直径を変更する、
ことを特徴とする請求項5に記載の情報処理システム。
【請求項7】
コンピュータを、
タスクにおける測定点の物理量の時系列データを受け付けるデータ受付処理部、
前記受け付けた時系列データを用いて、前記測定点の予測した物理量の時系列データを出力する予測処理部、
前記タスクの難易度を設定するパラメータと、前記出力した予測した物理量の時系列データとを用いて前記タスクのシミュレーション処理を実行して、前記難易度と前記難易度を設定するパラメータの対応関係を出力するシミュレーション処理部、
として機能させることを特徴とする情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキル(技術、技能)が必要とされるタスク(課題)について、その難易度設定を支援する情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ある人物が、与えられたタスクを実行するにあたって、タスクの難易度を当該人物のスキルに応じて調整することが求められる場合がある。この難易度の調整は、従来は、失敗することが多ければ難易度が徐々に低いタスクとなり、失敗することが少なければ難易度が徐々に高いタスクになるように変更される。
【0003】
たとえば、けん玉によるリハビリの場合、そのリハビリを行う人物は、当該人物の身体の状況に応じて、けん玉の皿の大きさを変更することが求められる。回復状況から遠い場合には、皿の大きなけん玉の使用が求められるし、回復状況に近い場合には、皿の小さなけん玉の使用が求められる。このような場合、当該人物のリハビリの回数、過去の成功、失敗の回数などの状況に応じて、理学療法士の経験に基づく判断により、大きな皿のけん玉から小さな皿のけん玉に徐々に移行していく。このようなリハビリに用いるけん玉の一例として、下記特許文献1、特許文献2がある。
【0004】
また、タスクとしてゲームの場合もある。ある人物がゲームを行う場合、その人物のゲームの習熟度合いに応じてそのゲームの難易度を適宜、変更する場合である。この場合、ゲームのプレイヤーのスコアが悪ければゲームの難易度が低くなるように、スコアが良ければゲームの難易度が高くなるように、ゲームの難易度に関連するパラメータを徐々に変更して調整をしている。このような一例が、下記特許文献3乃至特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-092943号公報
【特許文献2】特開平11-313907号公報
【特許文献3】特開2017-164207号公報
【特許文献4】特開2015-016131号公報
【特許文献5】特開2012-029825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1および特許文献2に開示されるけん玉、特許文献3乃至特許文献5に開示されるゲームのいずれの場合においても、けん玉を行う、ゲームをプレイするなどのタスクの実行結果に応じて、タスクの難易度を徐々に変更する装置やシステムである。そのため、タスクの難易度が適切なものとなるためには、多数回のタスクの実行が必要となる。そのため、適切な難易度となるまで、タスクを実行する人物が辛抱強く、タスクを繰り返して実行しなければならない。
【0007】
しかし、たとえばリハビリを行っている人物などは、失敗が繰り返されると諦めが生じ、リハビリそのものに対する嫌悪感などが生じる場合もある。またゲームの場合であっても、難易度の変化は徐々に行われるので、ゲームのプレイヤーに応じた難易度に調節されるまでに数多くの回数、ゲームをプレイしなければならず時間を要する。
【0008】
このように、従来の装置やシステムでは、タスクを多数回実行しなければ適切な難易度に設定できず、適切な難易度となるまでに時間を要することとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、上記課題に鑑み、従来のように、タスクを多数回実行することで難易度を徐々に調整するのではなく、少ない回数のタスクの実行で、目標とする難易度に調整することが可能な情報処理システムを発明した。
【0010】
第1の発明は、タスクの難易度の設定を支援する情報処理システムであって、前記情報処理システムは、前記タスクにおける測定点の物理量の時系列データを受け付けるデータ受付処理部と、前記受け付けた時系列データを用いて、前記測定点の予測した物理量の時系列データを出力する予測処理部と、前記タスクの難易度を設定するパラメータと、前記出力した予測した物理量の時系列データとを用いて前記タスクのシミュレーション処理を実行して、前記難易度と前記難易度を設定するパラメータの対応関係を出力するシミュレーション処理部と、を有する情報処理システムである。
【0011】
本発明の情報処理システムを用いることで、少数回のタスクを実行だけで、タスクにおいて、目標とする難易度の調整をすることが可能となる。
【0012】
上述の発明において、前記予測処理部は、前記受け付けた時系列データに対し、状態遷移を確率的に予測する手法を用いて、前記測定点の予測した物理量の時系列データを出力する、情報処理システムのように構成することができる。
【0013】
上述の発明において、前記状態遷移を確率的に予測する手法としてGPDMを用いる、情報処理システムのように構成することができる。
【0014】
上述の発明において、前記予測処理部は、前記受け付けた多次元の時系列データに対して、次元圧縮を行い、その状態遷移を低次元特徴空間上の軌跡として表現し、前記低次元特徴空間上の空間表現を用いて、前記測定点の将来の物理量の時系列変化を予測して出力する、情報処理システムのように構成することができる。
【0015】
測定点の予測した物理量の時系列データは、これらの発明を用いることで出力することができる。
【0016】
上述の発明において、前記情報処理システムは、さらに、前記出力した難易度を設定するパラメータを用いて、前記タスクの難易度を設定する難易度設定処理部、を有しており、前記難易度設定処理部は、前記難易度は前記タスクのユーザに対して表示せずに、難易度を調整するパラメータを変更する、情報処理システムのように構成することができる。
【0017】
上述の発明において、前記タスクは仮想現実によるけん玉、前記難易度を調整するパラメータは皿の直径であって、前記仮想現実によるけん玉のコンピュータシステムは、前記難易度設定処理部から受け付けた皿の直径の情報に基づいて、ユーザに対して表示する皿の直径を変更せずに、玉が乗ったと判定する皿の領域の直径を変更する、情報処理システムのように構成することができる。
【0018】
これらの発明のように、難易度の表示そのものは変更せずに、そのパラメータだけを変更することで、ユーザは、難易度が変わったことを意識せずにタスクを実行できる。そのため、ユーザはタスクに対する達成感を得やすくなる。
【0019】
第1の発明の情報処理システムは、本発明の情報処理プログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで実現できる。すなわち、コンピュータを、タスクにおける測定点の物理量の時系列データを受け付けるデータ受付処理部、前記受け付けた時系列データを用いて、前記測定点の予測した物理量の時系列データを出力する予測処理部、前記タスクの難易度を設定するパラメータと、前記出力した予測した物理量の時系列データとを用いて前記タスクのシミュレーション処理を実行して、前記難易度と前記難易度を設定するパラメータの対応関係を出力するシミュレーション処理部、として機能させる情報処理プログラムのように構成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の情報処理システムを用いることで、少ない回数のタスクの実行で、目標とする難易度に調整することが可能となる。これによって、目標とするタスクの難易度に至るまでの時間を大幅に短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の情報処理システムのシステム構成を示すブロック図の一例である。
【
図2】本発明の情報処理システムを実現するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】本発明の情報処理システムの全体の処理プロセスの一例を示すフローチャートである。
【
図4】GPDMによるモデル化処理を示す数式である。
【
図5】人間が移動する場合の行動をGPDMによりモデル化する場合を模式的に示す図である。
【
図6】仮想けん玉システムの一例を模式的に示す図である。
【
図7】物理量(けん玉の皿と玉との位置関係)の時系列データをグラフとして示す図である。
【
図8】
図7の時系列データを潜在空間でモデル化した場合のグラフを示す図である。
【
図9】
図8の潜在空間表現を用いて物理量(けん玉の皿と玉との位置関係)の予測結果のグラフを示す図である。
【
図10】予測処理部で出力した物理量の予測結果を用いて、難易度を調整するパラメータを変化させてシミュレーション処理を実行した場合の成功確率を示す図である。
【
図11】仮想けん玉システムで、難易度を調整するパラメータとしての皿の直径を変更する場合を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の情報処理システム1の以下の説明では、まず情報処理システム1の一般的な処理を説明し、その後、具体的な一実施例として、タスクとして仮想現実(Virtual Reality)によるけん玉を行う場合を説明する。
【0023】
本発明の情報処理システム1の全体の処理機能の一例をブロック図で
図1に示す。情報処理システム1はコンピュータで実現される。
【0024】
情報処理システム1におけるコンピュータのハードウェア構成の一例を模式的に
図2に示す。コンピュータは、プログラムの演算処理を実行するCPUなどの演算装置70と、情報を記憶するRAMやハードディスクなどの記憶装置71と、情報を表示するディスプレイなどの表示装置72と、情報の入力が可能なキーボードやマウスなどの入力装置73と、演算装置70の処理結果や記憶装置71に記憶する情報をインターネットやLANなどのネットワークを介して送受信する通信装置74とを有していることが好ましいが、それに限るものではなく、表示装置72、入力装置73、通信装置74の一部または全部は備えていなくてもよい。
【0025】
コンピュータがタッチパネルディスプレイを備えている場合には、表示装置72と入力装置73とが一体的に構成されていてもよい。タッチパネルディスプレイは、たとえばタブレット型コンピュータやスマートフォンなどの可搬型通信端末などで利用されることが多いが、それに限定するものではない。
【0026】
タッチパネルディスプレイは、そのディスプレイ上で、直接、所定の入力デバイス(タッチパネル用のペンなど)や指などによって入力を行える点で、表示装置72と入力装置73の機能が一体化した装置である。
【0027】
本発明の情報処理システム1は、一台のコンピュータで実現されていてもよいし、複数台から構成されていてもよい。また情報処理システム1の一部または全部がクラウドコンピューティングにより実現されていてもよい。さらに、情報処理システム1が、他のコンピュータシステムや装置に組み込まれていて、その一部であってもよい。また本発明の情報処理システム1の処理が制御回路として実現されていてもよい。
【0028】
本発明における各手段は、その機能が論理的に区別されているのみであって、物理上あるいは事実上は同一の領域を為していても良い。本発明の各手段における処理は、その処理順序を適宜変更することもできる。また、処理の一部を省略してもよい。
【0029】
情報処理システム1は、データ受付処理部10と予測処理部11とシミュレーション処理部12と難易度設定処理部13とを有する。
【0030】
データ受付処理部10は、後述の予測処理部11で用いるための、タスクを実行する人物(以下、「ユーザ」という)によるタスクの実行結果の入力を受け付ける。タスクの実行結果としては、タスクにおける観測対象の任意の測定点の物理量を測定し、その時系列データを、実行結果として入力を受け付ける。
【0031】
たとえばタスクがけん玉の場合、観測対象としてはけん玉のけんと玉、測定点としては、けん玉におけるけん軸、けん先、大皿、小皿、中皿、玉における玉の重心、穴などがある。物理量としてはそれぞれの測定点の空間上の位置、傾き、速度などがある。また、けん玉の測定点と、玉の測定点との空間上での相対的な位置関係などを物理量としていてもよい。観測対象、測定点、測定する物理量としては、タスクによって任意に設定することができる。
【0032】
そのため、データ受付処理部10は、通常、観測対象の測定点の物理量の時系列データ、すなわち、時間的に状態が変化する多次元の時系列データの入力を受け付ける。
【0033】
タスクにおける観測対象の任意の測定点の物理量の測定方法としては、観測対象の各測定点に物理量を測定するセンサを取り付け、それによって物理量のデータを取得することができる。また、ユーザがタスクを実行する状況を撮影し、撮影した画像情報を画像解析することで、観測対象の各測定点における物理量のデータを推定してもよい。さらに、ユーザが仮想現実においてタスクを実行し、仮想現実におけるタスクの実行によって得られる観測対象の各測定点における物理量のデータを取得してもよい(仮想現実におけるタスクの実行では、仮想現実の処理のため、観測対象の各測定点における物理量のデータが生成されている)。
【0034】
タスクの実行回数としては、たとえば5回以下、10回以下、20回以下程度の少ない実行回数でよい。タスクの実行回数としては、タスクに応じて任意に設定することができる。
【0035】
予測処理部11は、データ受付処理部10で入力を受け付けたタスクの実行結果(時間的に状態が変化する多次元の時系列データ)を用いて、所定のモデル化処理を実行し、測定点について将来の予測した物理量の時系列データを出力する。より具体的には、データ受付処理部10で入力を受け付けたタスクの実行結果に対して、状態遷移を確率的に予測する手法によりモデル化する処理を実行し、測定点について将来の予測した物理量の時系列データを出力する。モデル化処理の一例としては、たとえばGPDM(Gaussian Process Dynamical Models)があげられるが、それに限定されるものではない。
【0036】
GPDMは、時刻tにおけるデータをより低次元な状態空間上の点に次元圧縮する手法であって、ガウス過程によって、ダイナミクスをもつ時系列データの低次元化、ダイナミクスのモデリングを同時に行う手法である。
【0037】
GPDMによるモデル化処理は、潜在空間でのデータの時系列遷移を予測する関数(f関数)を用いて行うダイナミクスのモデル化処理(ダイナミクスモデル化処理)と、潜在空間表現(全体空間表現)から実際のデータを生成する関数(g関数)を用いて行う潜在空間でのモデル化処理(潜在空間モデル化処理)とを有している。けん玉の例では、潜在空間モデル化処理は、「手(けん玉のけん)」と「けん玉の玉」はおおよそこのような動きになることをモデル化する処理であり、ダイナミクスモデル化処理は、実際にこのユーザの「手(けん玉のけん)」と「けん玉の玉」の動きを予測するモデル化処理である。
【0038】
ダイナミクスモデル化処理としては、潜在空間でのデータの時系列遷移を予測する関数(f関数)を用い、潜在空間モデル化処理としては、潜在空間表現(全体空間表現)から実際のデータを生成する関数(g関数)を用いるが、これを示すのが、
図4の数式である。
図4(b)は
図4(a)を非線形化したものである。
【0039】
GPDMは、多次元の時系列データを低次元、好ましくは2次元または3次元に圧縮して処理を行う。たとえば、人間が移動することをGPDMを用いてモデル化する場合、人間の複数の関節の3次元空間における位置を測定値として時系列データとする多次元時系列データを2次元または3次元空間にモデル化し(潜在空間モデル化処理)、それに基づいて、当該人間が将来の移動するときの各関節の位置の予測を出力する(ダイナミクスモデル化処理)。これを模式的に示すのが
図5である。
図5(a)は人間が3次元空間を移動する場合を示しており、人間が移動する際の各関節の位置データを測定値として多次元時系列データとして取得している。たとえば1秒ごとに4秒間の人間の移動の各関節の位置データを測定値として取得する。そして
図5(b)は取得した多次元時系列データに対してGPDMにより次元圧縮した潜在空間でのモデル化処理をしたものである。○が付されたグラフが予測される動作モデルであり、○が付されていないグラフが予測される動作の平均である。
図5(c)は
図5(b)の動作モデルに対して予測の確率分布の分散を示したものであり、将来、当該人間が移動するときの各関節の予測される位置の確率分布の分散である。
【0040】
以上のように、予測処理部11では、データ受付処理部10で入力を受け付けた、測定点の時間的に状態が変化する物理量の多次元の時系列データに対して、次元圧縮を行い、その状態遷移を低次元特徴空間(潜在空間)上の軌跡として表現(潜在空間表現)し、潜在空間表現を用いて、測定点の将来の物理量(予測した物理量)の時系列変化を予測し(ダイナミクスモデル化)、その物理量を出力する。
【0041】
たとえば、予測処理部11は上述のようにモデル化処理を行うことで、将来の物理量の時系列データの予測、たとえばけん玉であれば、けん玉におけるけんおよび玉の位置の時系列変化(軌道)を予測することができる。
【0042】
シミュレーション処理部12は、予測処理部11で出力した測定点の将来の物理量の時系列データを用いて、難易度を変動させて、タスクのシミュレーション処理を実行する。
【0043】
具体的には、予測処理部11で生成した、タスクにおける観測対象の測定点の将来の物理量の時系列データによるモデルに対して、タスクの難易度を調整するパラメータを変動させてシミュレーションする処理を実行し、そのときの難易度を特定する。そして、難易度を調整するパラメータと、その難易度とを対応づけて記憶させる。
【0044】
たとえばタスクが、VRによるけん玉を実行するシステム(以下、「仮想けん玉システム」という)を用いたけん玉(VRによるけん玉)であり、難易度を調整するパラメータが皿の直径である場合、シミュレーション処理部12は、予測処理部11で生成した、皿と玉との相対位置の時系列データの予測に基づいて、皿の直径がxセンチメートルのときのシミュレーション結果(複数回のシミュレーションによる成功確率)を対応づけて記憶する。このシミュレーション処理を、皿の直径を変化させる。これにより、皿の直径とそのときの成功確率とを対応づけて記憶させることができる。
【0045】
難易度を調整するパラメータとしては、タスクごとに一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0046】
難易度設定処理部13は、ユーザあるいは第三者などから難易度の設定を受け付け、設定を受け付けた難易度にタスクを設定する。
【0047】
たとえば成功確率がX%になるような設定を受け付けた場合には、けん玉の皿の直径を成功確率X%に対応づけられた皿の直径を特定し、その皿の直径にタスクの難易度を設定するパラメータを設定する。
【0048】
以上のような処理を実行することで、タスクごとの難易度をすぐに設定することができる。
【0049】
タスクとしては、けん玉に限るものではなく、各種の遊技、スポーツ、ゲームなどがある。たとえばダーツ、サッカーのPK、バスケットボールのフリースロー、ボーリング、ゲームなど各種のタスクで用いることができる。また、仮想現実に限るものではなく、現実世界のタスクであってもよい。また難易度を調整するパラメータとしては、けん玉の場合には皿の直径、玉の直径、玉の穴の直径などがある。ダーツの場合には、的と矢の距離、的および/または矢の大きさなどがある。サッカーのPKの場合にはキッカーとゴールまでの距離、ゴールサイズ、ボールの大きさ、キーパーの大きさ、ボールの速度などがある。バスケットボールのフリースローの場合は、ゴールとプレイヤーとの距離、ゴールの大きさ、ボールの大きさなどがある。ボーリングの場合にはピンまでの距離、ガターの有無、ボールの重さ、直径などがある。ゲームの場合には自キャラクターのレベル、敵キャラクターの強さ、攻撃力、防御力、妨害行為の頻度などがある。タスクの難易度を調整するパラメータとしては、タスクごとに任意のパラメータを設定することができ、上述に限定するものではない。
【0050】
仮想現実ではなく、現実世界で難易度を調整する場合には、シミュレーション処理部12で記憶した、難易度を調整するパラメータと成功確率との対応関係に基づいて、現実世界でタスク実行時の難易度を変更すればよい。
【実施例0051】
つぎに本発明の情報処理システム1の処理プロセスの一例を
図3のフローチャートを用いて説明する。以下の実施例では、タスクとして、リハビリで仮想けん玉システムを用いてVRによるけん玉を実行する場合であり、難易度を調整するパラメータとして皿の直径の場合とする。仮想けん玉システムの一例を
図6に示す。
【0052】
まず、ユーザは、仮想けん玉システムを用いてVRによるけん玉を実行する。この際、所定の方法によって、あらかじめ定められた測定点の物理量を測定しデータ化する。このデータ化は、データ受付処理部10が測定してもよいし、仮想けん玉システムで測定していてもよい。
【0053】
難易度のパラメータとなる皿の直径は初期値あるいは平均値など任意の値で設定しておく。たとえばユーザは、20回程度、VRによるけん玉を実行し、その各回の測定点の物理量の時系列遷移をデータ化しておく。本実施例では物理量として、0.1秒ごとのけん玉の皿と玉との位置関係をデータ化し、それを20回繰り返したとする。
【0054】
データ受付処理部10は、上述で測定した、20回実行した物理量の時系列データ(けん玉の皿と玉との位置関係の時系列データ)の入力を受け付ける(S100)。入力を受け付けた時系列データをグラフとして示すのが
図7である。
【0055】
そして予測処理部11は、入力を受け付けた時系列データに対して、状態遷移を確率的に予測する手法、たとえばGPDMによりモデリング処理を実行する(S110)。予測処理部11は、入力を受け付けた時系列データを用いて、潜在空間モデル化処理を実行し、たとえば
図8に示すようなモデルを生成する。本実施例では、けん玉の皿と玉との位置関係の時系列データに対して、2次元に次元圧縮して潜在空間でのモデル化処理を行う。
【0056】
また、予測処理部11は、潜在空間モデル化処理で生成した潜在空間表現を用いて、ダイナミクスモデル化処理を実行し、潜在空間表現に基づく物理量の将来のデータ、すなわち、将来の行動予測を出力する。ここでは、20回の実行による時系列データに基づいて潜在空間表現でモデル化処理されているので、このモデルを用いて、将来の物理量、けん玉の皿と玉との位置関係を予測する結果を出力する。これを模式的に示すのが
図9である。この物理量は、任意の回数分だけ出力すればよく、たとえばシミュレーションに必要な回数分だけ出力できればよい。
【0057】
予測処理部11で、ユーザが将来、VRによるけん玉を実行した場合の予測される測定点の物理量、すなわち、けん玉の皿と玉との位置関係を出力したので、その物理量を用いて、シミュレーション処理部12で難易度を調整するパラメータを変更しながら、シミュレーション処理を実行する(S120)。
【0058】
たとえば予測処理部11で出力した予測される物理量(皿の直径と玉の位置関係)を用いて、皿の直径を5cm、5.5cm、6cm、6.5cm、7cm、7.5cmのそれぞれに設定して仮想けん玉システムによるシミュレーションを複数回実行する。そして、それぞれの皿の直径の場合の成功と失敗の回数に基づいて、それぞれの皿の直径の場合の成功確率を算出する。たとえば、それぞれの成功確率が5%、15%、15%、25%、45%、60%であったとする。これを模式的に示すが
図10である。
図10の各グラフは予測処理部11で出力した予測される物理量(皿の直径と玉の位置関係)を示すグラフであり、それぞれのシミュレーションで同じである。皿の直径が大きい方が成功確率が一般的に上がりやすいので、皿の直径が大きくなるほど成功確率が高くなる。
【0059】
そしてシミュレーション処理部12は、難易度と難易度を調整するパラメータとを対応づけて記憶させる。ここでは皿の直径と成功確率とを対応づけて記憶させることとなる。以上のようにすることで、当該ユーザの難易度と難易度を調整するパラメータが設定できる。ユーザごとの難易度と難易度を調整するパラメータは、ユーザの識別情報に対応づけて記憶されているとよい。
【0060】
ユーザが実際に、VRによるけん玉を実行し、その難易度を調整することを所望する場合、所定の担当者、たとえば理学療法士が当該ユーザに対する難易度として成功確率45%を入力すると、その入力を難易度設定処理部13が受け付け、当該ユーザのユーザ識別情報と入力を受け付けた難易度としての成功確率45%に基づいて、難易度を調整するパラメータ、皿の直径7cmを特定する。そして仮想けん玉システムに皿の直径7cmのデータを渡し、皿の直径を7cmに変更させる。これによって、ユーザは、成功確率45%の難易度の皿の直径で、VRによるけん玉を利用してリハビリを行うことができる。
【0061】
また、成功確率として10%の入力を受け付けたときは、難易度とそのパラメータとの対応関係に基づいて所定の演算をして皿の直径を5.25cm(=(5+5.5)÷2)のように、パラメータを算出してもよい。