(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011057
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】銅含有FAU型ゼオライト
(51)【国際特許分類】
C01B 39/24 20060101AFI20240118BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20240118BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240118BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240118BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240118BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C01B39/24
B01J20/18 D
B01J20/28 Z
B01J20/30
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112741
(22)【出願日】2022-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】三橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】中尾 圭太
【テーマコード(参考)】
3G091
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
3G091AB10
3G091BA15
3G091GA16
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3G091GB09W
4G066AA34D
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4G073GA14
4G073GA19
4G073GB10
4G073UA05
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】
高い炭化水素浄化性能を示す銅含有FAU型ゼオライト及びその製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【解決手段】
格子定数が24.370Å以上24.490Å以下、バルクSARが10以上20以下かつ骨格内Al比率が70%以上100%以下である、銅含有FAU型ゼオライト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子定数が24.370Å以上24.490Å以下、バルクSARが10以上20以下かつ骨格内Al比率が70%以上100%以下である、銅含有FAU型ゼオライト。
【請求項2】
銅含有率が0.5質量%以上5.0質量%以下である請求項1に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
【請求項3】
アルカリ金属含有率が0質量%以上0.15質量%以下である請求項1又は2に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
【請求項4】
平均結晶径が0.5μm以上2.0μm以下である請求項1又は2に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
【請求項5】
BET比表面積が300m2/g以上1500m2/g以下かつミクロ細孔容積が0.20mL/g以上0.70mL/g以下である請求項1又は2に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
【請求項6】
アルカリ金属含有率が0質量%以上0.20質量%以下である原料FAU型ゼオライトを3体積%以上10体積%以下の水蒸気を含有する空気雰囲気で焼成する焼成工程、及び前記焼成工程で得られるゼオライト焼成体と酸とを接触させる酸処理工程、を含む、銅含有FAU型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記原料FAU型ゼオライトの格子定数が24.350Å以上24.550Å以下であり、かつ前記焼成工程における焼成温度が500℃以上800℃であり、かつ前記酸処理工程における酸が塩酸である、請求項6に記載の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
前記酸処理工程において、ゼオライト焼成体に対する塩化水素の質量比が0.035以上0.600以下となるようにゼオライト焼成体と塩酸とを接触させる、請求項7に記載の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動車や船舶などの移動体に使用されている内燃機関から排出される排ガスは炭化水素を多く含み、内燃機関から排出される炭化水素は三元触媒により浄化される。ただし三元触媒が機能するためには200℃以上の温度環境が必要であるため、いわゆるコールドスタート時など、三元触媒が機能しない温度域では炭化水素吸着剤に炭化水素を吸着し、三元触媒が機能し始める温度域で吸着剤から炭化水素を放出し、これを三元触媒で分解・浄化している。
【0002】
自動車排ガスはエンジン運転状況により、排ガス温度は900℃以上に達する。また運転状況に応じて、排ガス組成は変化する。そのため、炭化水素吸着剤には耐熱性が求められる。
【0003】
低温時の排ガスからの炭化水素を吸着浄化する方法として、ゼオライトなどの炭化水素吸着材を使用する方法が知られており、
特許文献1では、銅を含有するFAU型ゼオライトが、高温高湿の還元雰囲気下への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今では、より高い炭化水素浄化性能を示すゼオライトが望まれている。本開示は、高い炭化水素浄化性能を示す銅含有FAU型ゼオライト及びその製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来のゼオライトと比べて優れた炭化水素吸着性能を示す銅含有FAU型ゼオライト、及びその製造方法を見出した。
【0007】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に記載のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 格子定数が24.370Å以上24.490Å以下、バルクSARが10以上20以下かつ骨格内Al比率が70%以上100%以下である、銅含有FAU型ゼオライト。
[2] 銅含有率が0.5質量%以上5.0質量%以下である前記[1]に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
[3] アルカリ金属含有率が0質量%以上0.15質量%以下である前記[1]又は[2]に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
[4] 平均結晶径が0.5μm以上2.0μm以下である前記[1]乃至[3]に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
[5] BET比表面積が300m2/g以上1500m2/g以下かつミクロ細孔容積が0.20mL/g以上0.70mL/g以下である前記[1]乃至[4]に記載の銅含有FAU型ゼオライト。
[6] アルカリ金属含有率が0質量%以上0.20質量%以下である原料FAU型ゼオライトを3体積%以上10体積%以下の水蒸気を含有する空気雰囲気で焼成する焼成工程、及び前記焼成工程で得られるゼオライト焼成体と酸とを接触させる酸処理工程、を含む、銅含有FAU型ゼオライトの製造方法。
[7] 前記原料FAU型ゼオライトの格子定数が24.350Å以上24.550Å以下であり、かつ前記焼成工程における焼成温度が500℃以上800℃以下であり、かつ前記酸処理工程における酸が塩酸である、前記[6]に記載の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法。
[8] 前記酸処理工程において、ゼオライト焼成体に対する塩化水素の質量比が0.035以上0.600以下となるようにゼオライト焼成体と塩酸とを接触させる、前記[7]に記載の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、高い炭化水素吸着特性を示す銅担持FAU型ゼオライトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示について、その実施態様の一例を示して説明する。なお、本実施形態における用語は以下の通りである。
【0010】
「アルミノシリケート」は、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰返しからなる構造を有する複合酸化物である。アルミノシリケートのうち、その粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンにおいて、結晶性のXRDピークを有するものが「結晶性アルミノシリケート」、及び、結晶性のXRDピークを有さないものが「非晶質アルミノシリケート」である。
【0011】
本実施形態において、XRDパターンは以下の条件のXRD測定より得られるものが挙げられる。
【0012】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 40°/分
計測時間 : 3秒
測定範囲 : 2θ=3°から43°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
受光ソーラースリット : 5°
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
XRDパターンは一般的な粉末X線回折装置(例えば、UltimaIV Protectus、リガク社製)を使用して測定することができる。また、結晶性のXRDピークは、一般的な解析ソフトを使用したXRDパターンの解析においてピークトップの2θが特定され検出されるピークであり、半値幅が2θ=0.50°以下のXRDピークが例示できる。
【0013】
「ゼオライト」とは、骨格原子(以下、「T原子」ともいう。)が酸素(O)を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子が金属原子及び又は半金属原子の少なくともいずれかからなる化合物である。金属原子としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)及びスズ(Sn)からなる群から選ばれる1以上が例示できる。半金属原子としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)及びテルル(Te)からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示できる。
【0014】
「ゼオライト類似物質」とは、T原子が酸素を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子に少なくとも金属及び半金属以外の原子を含む化合物である。ゼオライト類似物質として、アルミノフォスフェート(AlPO)やシリコアルミノフォスフェート(SAPO)など、T原子としてリン(P)を含む複合リン化合物が例示できる。「ゼオライト類似物質」は、「ゼオライト」とは区別される。
【0015】
ゼオライトやゼオライト類似物質における「規則的構造(以下、「ゼオライト構造」ともいう。)」とは、国際ゼオライト協会(International Zeolite Association、以下、単に「IZA」ともいう。)のStructure Commissionが定めている骨格コード(以下、単に「骨格コード」ともいう。)で特定される骨格構造である。例えば、「FAU型ゼオライト」は構造コード「FAU」で特定される骨格構造を有するゼオライトである。ゼオライトの骨格構造はCollection of simulated XRD powder patterns for zeolites,Fifth revised edition(2007)に記載された各ゼオライト構造のXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)と、対象とするゼオライトのXRDパターンとの対比によって、同定できる。ゼオライト構造に関し、骨格構造、結晶構造又は結晶相はそれぞれ同義で使用される。
【0016】
「銅含有ゼオライト」とは、銅元素を含有するゼオライトをいう。含有される銅元素の状態は特に限定されず、例えば金属、イオン、及び化合物の群より選ばれる少なくとも一種の状態であることが挙げられる。ゼオライトが銅元素を含有するかどうかは、ICPなどの元素分析によって銅元素が検出されれば十分である。
【0017】
「バルクSAR」とは、ゼオライトのバルク体に含有されるアルミニウム(Al)(以下、「バルクAl」ともいう。)をAl2O3換算したモル数[mol]に対する、ゼオライトのバルク体に含有されるケイ素(Si)をSiO2換算したモル数[mol]との比である。
【0018】
「骨格SAR」とは、ゼオライトのT原子として存在するアルミニウム原子(以下、「骨格内Al」ともいう。)をAl2O3換算したモル数[mol]に対する、ゼオライトのバルク体に含有されるケイ素(Si)をSiO2換算したモル数[mol]との比であり、「Crystal Research and Technology,1984,19巻,1号,p.K1-K3」に記載のEngelhardt式より算出すればよい。
【0019】
骨格SAR
=((192/(112.4×(格子定数(Å)-24.233)))-1)×2
「骨格内Al比率」とは、バルクAl量に対する骨格内Al量の比であり、以下の式により求めることができる。
【0020】
骨格内Al比率[%]=(バルクSAR/骨格SAR)×100
「骨格外Al」とは、ゼオライトのバルクAlのうち、T原子以外として存在するアルミニウム原子である。
【0021】
「ゼオライトスラリー」とは、ゼオライトと溶媒を含み、流動性を有する液体である。
【0022】
「固形分濃度」とは、ゼオライトスラリーの質量に占めるゼオライトの質量の割合であり、以下の式で求められる。
【0023】
固形分濃度(質量%)
=(ゼオライト質量(g)/ゼオライトスラリー質量(g))×100
ゼオライトスラリーの質量は、ゼオライトスラリーの質量測定により得られる値であり、また、ゼオライト質量は、質量測定後のゼオライトスラリーを乾燥後、大気中600℃で処理して得られる固形分の質量である。
【0024】
以下、本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトについて説明する。
【0025】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、格子定数が24.370Å以上24.490Å以下、バルクSARが10以上20以下かつ骨格内Al比率が70%以上100%以下である銅含有FAU型ゼオライトである。
【0026】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、銅を含有する。銅含有FAU型ゼオライトは、銅を含有しないFAU型ゼオライトと比べ、炭化水素の保持力が向上する。銅を含有しないFAU型ゼオライトに吸着された殆どの炭化水素は、容易にFAU型ゼオライトから再放出される。これに対し、FAU型ゼオライトが銅を含有することで炭化水素とFAU型ゼオライトの相互作用がより強くなり、吸着した炭化水素がFAU型ゼオライトから再放出されにくくなる。
【0027】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトの銅含有率は、0.5質量%以上、1.2質量%以上、1.7質量%以上又は2.2質量%以上、また5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.5質量%以下又は3.0質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトの銅含有率は、銅含有FAU型ゼオライトに含有される金属及び半金属元素を酸化物換算した質量に対する、銅の質量割合である。例えば、銅(Cu)及びアルカリ金属(M)を含有する銅含有FAU型ゼオライトの銅含有率は以下の式から求めることができる。
【0029】
銅含有率(質量%)=W’Cu/(WAl+WSi+WM+WCu)×100
上式において、W’Cuは銅(Cu)の質量である。WAl、WSi、WM及びWCuは、それぞれ、アルミニウム(Al)を酸化物(Al2O3)換算した質量、WSiはケイ素(Si)を酸化物(SiO2)換算した質量、WMはアルカリ金属(M)を酸化物(M2O)換算した質量、及び、WCuは銅を酸化物(CuO)換算した質量である。
【0030】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、格子定数が24.370Å以上24.490Å以下である。格子定数が24.370Å未満である銅含有FAU型ゼオライトは、結晶構造の骨格を構成するアルミニウムと銅との相互作用が弱い。その結果、高温高湿の雰囲気下への暴露による銅の凝集が進行しやすい。その結果、高温高湿の雰囲気下への暴露後、炭化水素吸着特性が著しく低下する。格子定数が24.490Åを超えると銅含有FAU型ゼオライトの骨格構造の耐熱性が低下するため、高温高湿の雰囲気下への暴露後、炭化水素吸着特性が低下する。
【0031】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、格子定数が24.370Å以上又は24.390Å以上、また24.490Å以下又は24.470Å以下が好ましい。
【0032】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトの格子定数は、一般的なX線回折装置(例えば、UltimaIV Protectus、リガク社製)を使用し、得られるXRDパターンを用いて、ASTM D3942-80(「Standard Test Method for Determination of the Unit Cell Dimension of a Faujasite-Type Zeolite」)に準拠した格子定数の測定方法により求めることができる。
【0033】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトのバルクSARは10以上20以下である。バルクSARが10未満の場合、骨格外Alが過剰に存在し、銅と炭化水素の接触を妨害するため、炭化水素吸着特性が低下する。また、バルクSARが20を超えると、銅含有FAU型ゼオライトの結晶性が低下し、炭化水素吸着特性が低下する。本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトのバルクSARは11以上又は12以上、また、18以下又は16以下が好ましい。
【0034】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトの骨格内Al比率は70%以上100%以下である。骨格内Al比率が70%未満の場合、骨格外Alが過剰に存在し、銅と炭化水素の接触を妨害するため、炭化水素吸着特性が低下する。
【0035】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、銅含有FAU型ゼオライトのバルクSARが10以上20以下であり、かつ骨格内Al比率を70%以上100%以下であることで、高い炭化水素吸着特性を示す。
【0036】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトはアルカリ金属を含有してもよく(すなわち、アルカリ金属含有率が0質量%を超えていてもよく)、アルカリ金属含有率が0.15質量%以下であることが好ましい。これにより、本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、高温高湿の雰囲気への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す傾向がある。アルカリ金属含有率は0質量%以上0.15質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.10質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上0.07質量%以下であることが更に好ましい。
【0037】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトのアルカリ金属含有率は、銅含有FAU型ゼオライトに含有される金属を酸化物換算した質量に対する、アルカリ金属を酸化物換算した質量の割合である。例えば、銅(Cu)及びアルカリ金属(M)を含有する銅含有FAU型ゼオライトのアルカリ金属含有率は以下の式から求めることができる。
【0038】
アルカリ金属含有率(質量%)=WM/(WAl+WSi+WM+WCu)×100
例えば、アルカリ金属がナトリウムである場合は、アルカリ金属含有率をNa2O含有率ともいう。
【0039】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトが含有するアルカリ金属は例えばカリウム(K)及びナトリウム(Na)の少なくともいずれかであることが挙げられ、好ましくはアルカリ金属がナトリウムであることが挙げられる。
【0040】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、触媒や、吸着剤等の用途で使用する場合、銅以外の遷移金属を含有してもよい。本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトが含有する好ましい遷移金属として、周期表の8族、9族、10族及び11族からなる群の少なくとも1種、更には白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)からなる群の1種以上を挙げることができる。
【0041】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトの平均結晶径は0.5μm以上2.0μm以下である。吸着剤担体への塗布性などの操作性を改善する観点から銅含有FAU型ゼオライトの平均結晶径は0.6μm以上1.5μm以下であることが好ましく、0.65μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。
【0042】
本実施形態において、平均結晶径は一次粒子の平均粒子径である。一次粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察により得られたSEM観察像で確認された一次粒子の粒子径であり、平均結晶径は当該一次粒子の粒子径の平均値である。平均結晶径の測定方法として、3,000倍~20,000倍の倍率で観察された一次粒子80個~150個の粒子径を計測し、その平均値を平均結晶径とする方法が挙げられる。粒子径の計測にあたり、SEM観察像は1以上であればよい。
【0043】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトの一次粒子は、倍率3,000~20,000倍のSEM観察において独立した粒子として観察される粒子である。
【0044】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトはBET比表面積が300m2/g以上、500m2/g以上又は700m2/g以上であり、また、1500m2/g以下、1000m2/g以下又は900m2/g以下、であることが好ましい。
【0045】
BET比表面積は、一般的な窒素吸着装置(例えば、BELSORP-mini II、マイクロトラック・ベル社製)を使用して、JIS Z8830:2013に準じた窒素吸着法によるBET1点法により求めることができる。窒素吸着は前処理後の試料について測定すればよい。前処理条件及び窒素吸着条件を以下に示す。
【0046】
測定方法 :定容法
測定温度 :77K(-196℃)
前処理 :350℃、2時間の真空乾燥
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、円筒近似した場合の直径2nm以下の細孔の容積(以下、「ミクロ細孔容積」ともいう。)が0.20mL/g以上、0.25mL/g以上又は0.30mL/g以上であり、また、0.70mL/g以下、0.50mL/g以下又は0.40mL/g以下であることが好ましい。
【0047】
ミクロ細孔容積は、BET比表面積の測定と同様な方法で得られる窒素吸着等温線をt-plot解析することで求めることができる。t-plot解析は、以下の条件により解析することが挙げられ、窒素吸着装置に付属の解析ソフト(例えば、BELMASTER、マイクロトラック・ベル社製)を使用して解析すればよい。
【0048】
吸着質断面積 :0.162nm2
飽和水蒸気圧 :103.72kPa
第一直線 :t=0nmの点及びt=0.27±0.03nmの点を結合した直線
第二直線 :t=0.80±0.10nmの点及びt=1.00±0.10nmの点を結合した直線
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトは、結合剤を含んでいてもよい。結合剤として、シリカ、アルミナ、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロェン及びセピオライトの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0049】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトは炭化水素の吸着方法に使用でき、炭化水素吸着剤が高温に暴露される環境下における炭化水素の吸着方法に使用することが好ましく、内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することがより好ましく、移動体の内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することが更に好ましい。
【0050】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、固体酸触媒、金属触媒担体、又は炭化水素吸着剤として使用することができる。
【0051】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトは、これを含む炭化水素吸着剤として用いられ、さらに、本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトのみからなる炭化水素吸着剤であってもよい。
【0052】
本実施形態において、銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤と炭化水素含有気体を接触させる工程(以下、「接触工程」ともいう。)、を有する方法により、炭化水素吸着剤を炭化水素の吸着方法に使用することができる。
【0053】
接触工程において、銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤の形状は任意であり、粉末又は成形体の少なくともいずれかを挙げることができる。
【0054】
銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤の形状が粉末である場合、銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤含むスラリーを基材に塗布し、これを含む吸着部材として使用することができる。銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤の形状が成形体である場合、例えば、転動造粒成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形及びシート成形の群から選ばれる少なくとも1種、などの任意の成形方法で任意の形状として使用することができる。成形体の形状として、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、多面体状、不定形状及び花弁状の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0055】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤は、炭化水素の吸着方法で使用することができる。
【0056】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤は、炭化水素含有流体と本実施形態の炭化水素吸着剤とを接触させる工程を有する方法により、炭化水素を吸着することができる。
【0057】
炭化水素含有流体としては、例えば、炭化水素含有ガス又は炭化水素含有液体を挙げることができる。
【0058】
炭化水素含有ガスは少なくとも1種の炭化水素を含むガスであり、2種以上の炭化水素を含むガスであることが好ましい。該炭化水素含有ガスに含まれる炭化水素はパラフィン、オレフィン及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。該炭化水素の炭素数は1以上であればよく、1以上15以下であることが好ましい。炭化水素含有ガスに含まれる炭化水素は、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、ブタン、炭素数5以上の直鎖状パラフィン、炭素数5以上の直鎖状オレフィン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも2種が好ましく、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、ブタン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも2種であることがより好ましく、メタン、エタン、エチレン及びプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種と、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも1種とであることが更に好ましい。炭化水素含有ガスは一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び水からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。具体的な炭化水素含有ガスとして、例えば内燃機関の排ガス等の燃焼ガスを挙げることができる。
【0059】
好ましくは当該工程における炭化水素含有流体と本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤との接触温度は室温~200℃である。
【0060】
次に、銅含有FAU型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0061】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法は、アルカリ金属含有率が0質量%以上0.20質量%以下である原料FAU型ゼオライトを3体積%以上10体積%以下の水蒸気を含有する空気雰囲気で焼成する焼成工程及び前記焼成工程で得られるゼオライト焼成体と酸とを接触させる酸処理工程、を含む製造方法である。
【0062】
原料FAU型ゼオライトのアルカリ金属含有率は0質量%以上0.20質量%以下である。原料FAU型ゼオライトのアルカリ金属含有率が0.20質量%を超えると焼成により過剰に格子定数が減少する。原料FAU型ゼオライトのアルカリ金属含有率は0.01質量%以上又は0.02質量%以上、また、0.15質量%以下又は0.10質量%以下が好ましい。
【0063】
原料FAU型ゼオライトのアルカリ金属含有率は、原料FAU型ゼオライトに含有される金属を酸化物換算した質量に対する、アルカリ金属を酸化物換算した質量の割合であり、以下の式から求めることができる。
【0064】
原料FAU型ゼオライトのアルカリ金属含有率[質量%]
=WM/(WAl+WSi+WM)×100
該原料FAU型ゼオライトが含有するアルカリ金属は、例えばカリウム(K)及びナトリウム(Na)の少なくともいずれかであることが挙げられ、好ましくは該アルカリ金属がナトリウムであることが挙げられる。
【0065】
原料FAU型ゼオライトの格子定数は24.450Å以上又は24.480Å以上、また、24.600Å以下又は24.550Å以下が好ましい。
【0066】
原料FAU型ゼオライトのカチオンタイプは、ナトリウムイオンタイプ、水素イオンタイプ及びアンモニウムイオンタイプの群から選ばれる1以上が例示できる。原料FAU型ゼオライトのカチオンタイプの組み合わせとして、水素イオン及びナトリウムイオンタイプ、並びにアンモニウム及びナトリウムタイプが例示できる。
【0067】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法は、前記原料FAU型ゼオライトを3体積%以上10体積%以下の水蒸気を含有する空気(以下、「スチーム」ともいう。)雰囲気で焼成する焼成工程(以下、単に「焼成工程」ともいう。)を含む。
【0068】
焼成工程におけるスチームの水蒸気濃度は、FAU型ゼオライトの格子定数を好ましい範囲に調整するため、3体積%以上10体積%以下であり、3.5体積%以下9体積%以下が好ましく、4体積%以上8体積%以下がさらに好ましい。
【0069】
焼成工程では、焼成温度は400℃以上900℃以下であり、500℃以上800℃以下が好ましく、600℃以上750℃以下がより好ましい。
【0070】
焼成工程の時間は任意であるが、30分以上10時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下がより好ましい。
【0071】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法は、前記焼成工程で得られるFAU型ゼオライト(以下、「ゼオライト焼成体」ともいう。)と酸とを接触させる酸処理工程(以下、単に「酸処理工程」ともいう。)を含む。酸処理工程によってゼオライト焼成体に含まれる、ゼオライト骨格外に存在するAlが液相に溶出させ、銅含有FAU型ゼオライトのバルクSARが増加し、かつ骨格内Al比率が増加する。
【0072】
前記酸処理工程において、ゼオライト焼成体と接触させる酸は、塩酸であることが好ましい。
【0073】
前記酸処理工程において、ゼオライト焼成体に対する塩化水素の質量比(以下、「HCl/ゼオライト質量比」ともいう。)が0.035以上0.600以下となるよう、ゼオライト焼成体と塩酸とを接触させることが好ましい。HCl/ゼオライト質量比が高いほどFAU型ゼオライトのバルクSARが大きくなりやすく、またHCl/ゼオライト質量比が低いほどFAU型ゼオライトのバルクSARが小さくなりやすい。HCl/ゼオライト質量比が高すぎると、骨格外Alだけではなく、骨格内Alも溶出し、FAU型ゼオライトの結晶性が低下する。HCl/ゼオライト質量比は0.070以上又は0.100以上、かつ、0.350以下又は0.280以下であることが好ましい。
【0074】
酸処理工程において、ゼオライト焼成体と酸とを接触させる方法は任意であるが、ゼオライト焼成体と塩酸とを混合し、40℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上80℃以下で撹拌する方法が挙げられる。処理温度が高いほどFAU型ゼオライトのバルクSARが大きくなりやすく、また処理温度が低いほどFAU型ゼオライトのバルクSARが小さくなりやすい。
【0075】
酸処理工程において、ゼオライト焼成体と酸を含むゼオライトスラリーの固形分濃度は任意であるが、5質量%以上40質量%以下が好ましく15質量%以上35質量%以下がより好ましい。
【0076】
酸処理工程において原料として用いる塩酸の濃度は任意であるが、15質量%40質量%以下が好ましい。
【0077】
酸処理工程により得られるFAU型ゼオライト(以下、「ゼオライト酸処理体」ともいう。)のバルクSARが、ゼオライト焼成体のバルクSARより高くなっていることが好ましい。
【0078】
本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトの製造方法は、ゼオライト酸処理体と銅源とを接触させる金属含有工程(以下、単に「金属含有工程」ともいう。)を含むことが好ましい。該金属含有工程により、ゼオライト酸処理体に銅を含有させ、本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトを得ることができる。
【0079】
金属含有工程に供するゼオライト酸処理体の格子定数は特に限定されないが、金属含有工程に上記した本実施形態の銅含有FAU型ゼオライトの格子定数を得やすいため、24.350Å以上24.520Å以下であることが好ましく、24.370Å以上24.490Å以下であることがより好ましい。
【0080】
銅源は銅(Cu)を含む化合物であり、銅の塩であることが好ましく、銅を含む硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物及び複合酸化物の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、硝酸銅、硫酸銅及び酢酸銅の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0081】
ゼオライト酸処理体と銅源との接触方法は公知の方法を適用することができ、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法及び物理混合法の群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、イオン交換法又は含侵担持法の少なくともいずれかであることが好ましく、含侵担持方法であることがより好ましい。
【0082】
金属含有工程で得られた銅含有FAU型ゼオライトは、残留する塩を除去するため、焼成することが好ましい。
【0083】
焼成条件は任意であるが、以下の条件を挙げることができる。
【0084】
焼成雰囲気 : 酸化雰囲気、好ましくは大気中
焼成温度 : 400℃以上600℃以下
焼成時間 : 30分以上5時間以下
本実施形態の製造方法では、上記に記載した工程の他に、アルカリ除去工程、洗浄工程、乾燥工程、金属含有工程後の洗浄工程及び金属含有工程後の乾燥工程を含んでもよい。
【0085】
アルカリ除去工程は、酸処理工程後の銅含有FAU型ゼオライトに含まれるアルカリ金属を除去する。該アルカリ金属は、原料FAU型ゼオライトに含まれている成分が由来である。アルカリ除去の方法として、電解質溶液による液相処理、レジンによる交換処理、熱分解処理及び焼成処理の群から選ばれる1つ以上が例示できる。好ましくは、電解質溶液(例えば塩化アンモニウム水溶液)による液相処理が挙げられる。
【0086】
洗浄工程は、酸処理工程後又はアルカリ除去工程後の銅含有FAU型ゼオライトと液相とを固液分離する。洗浄工程は、公知の方法で固液分離をし、固相として得られる銅含有FAU型ゼオライトを純水で洗浄すればよい。
【0087】
乾燥工程は、洗浄工程後の銅含有FAU型ゼオライトに物理吸着している水分を除去する。乾燥条件は任意であり、FAU型ゼオライトを、大気中、50℃以上250℃以下、1時間以上120時間以下で静置、又はスプレードライヤーによる乾燥が例示できる。
【0088】
本実施形態の製造方法で、各工程で原料として用いるFAU型ゼオライトの含水率は任意であるが、3質量%以上25質量%以下、好ましくは5質量%以上15質量%以下が例示できる。
【実施例0089】
以下、実施例において本実施形態をさらに詳細に説明する。しかし、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
(結晶構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV Protectus、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりである。
【0091】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 40°/分
測定範囲 : 2θ=3°から43°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
受光ソーラースリット : 5°
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
得られたXRDパターンと参照パターンとを対比することで、ゼオライト構造を同定した。
【0092】
(格子定数の測定)
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV Protectus、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりである。
【0093】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 1°/分
測定範囲 : 2θ=52°から60°
発散縦制限スリット: 5mm
発散/入射スリット: 2°
受光スリット : open
検出器 : D/teX Ultra
Niフィルター使用
得られたXRDパターンを用いて、ASTM D3942-80(「Standard Test Method for Determination of the Unit Cell Dimension of a Faujasite-Type Zeolite」)に準拠した格子定数の測定方法により、測定試料の格子定数(Å)求めた。
【0094】
(組成分析)
フッ酸(HF:48質量%)と硝酸(HNO3:60質量%)を純水で混合希釈して調製した水溶液(HF:0.96質量%、HNO3:1.2質量%)10mLに試料2mgを溶解して透明な試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定した。得られたSi、Al、Na及びCuの測定値から、試料のバルクSAR、銅含有率及びアルカリ金属含有率(Na2O含有率)を求めた。
【0095】
(骨格内Al比率の算出)
試料の骨格内Al比率は下記の式より算出した。
【0096】
骨格内Al比率[%]=(バルクSAR/骨格SAR)×100
骨格SARは下記の式より算出した。
【0097】
骨格SAR
=((192/(112.4×(格子定数(Å)-24.233)))-1)×2
(BET比表面積及びミクロ細孔容積の測定)
測定試料を350℃で2時間脱気し、前処理とした。前処理後、通常の窒素吸着装置(装置名:BELSORP-mini II、MicrotracBEL社製)を使用し、測定温度77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。窒素ガスの吸着結果に、BET法を適用することにより、試料のBET比表面積を求めた。
【0098】
また、窒素ガスの吸着結果に、t-plot法を適用することにより、ミクロ細孔容積を求めた。t-plot法は窒素吸着装置付属の解析ソフト(製品名:BELMaster、マイクロトラック・ベル社製)を使用し以下の条件により行った。なお、窒素ガス吸着は、通常の定容量法を用いた。 吸着質断面積 :0.162nm2
飽和水蒸気圧 :103.72kPa
第一直線 :t=0nmの点及びt=0.27±0.03nmの点を結合した直線
第二直線 :t=0.80±0.10nmの点及びt=1.00±0.10nmの点を結合した直線
(水熱処理前後のHC通過率)
<測定試料の作製>
測定試料を、を400kgf/cm2、60秒間の圧力条件で直径20mm高さ10mmの円柱形に成形し、次に乳鉢を用いて粉砕し、分級することで凝集径20~30メッシュの不定形のペレット状成形体とし、得られた成形体をそれぞれ実施例及び比較例に係る測定試料とした。
【0099】
<水熱処理>
得られた成形体3mL(嵩体積)を常圧固定床流通式反応管に充填し、以下の条件で水熱処理を行い、水熱処理後の成形体を得た。
【0100】
処理ガス : 水 10体積%
乾燥空気 残部
ガス流量 : 200mL/分
空間速度 : 4000hr-1
処理温度 : 900℃
処理時間 : 1時間
<測定試料の前処理>
測定試料の作製で得られた成形体0.1g及び水熱処理後の成形体0.1gをそれぞれ常圧固定床流通式反応管に充填し、窒素流通下、500℃で30分間処理した後、50℃まで降温することで前処理とした。
【0101】
<HC通過率>
上記の前処理を施した各測定試料に炭化水素含有ガスを流通させ、50℃から600℃の間で試料を通過した炭化水素を測定した。炭化水素含有ガスの組成及び測定条件を以下に示す。
【0102】
炭化水素含有ガス :トルエン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 3体積%
窒素 残部
ガス流量 :200mL/分
測定温度 :50~600℃
昇温速度 :10℃/分
測定時間 :55分
入口濃度及び出口濃度を、FIDを使用して測定し、入口濃度の積分値を流通前HC量[μmolC]とし、出口濃度の積分値を流通後HC量[μmolC]とした。炭化水素通過率(以下、「HC通過率」ともいう。)は、測定温度50℃から200℃の範囲における流通前HC量及び流通後HC量から、下式を用いて算出した。
【0103】
HC通過率[%]
=100-((流通前HC量-流通後HC量)/流通前HC量)×100
実施例1
FAU型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-341NHA、東ソー社製;バルクSAR:7.3、Na2O:0.08質量%、含水率:16.0質量%、格子定数:24.531Å、カチオンタイプ:アンモニウムイオン及びナトリウムタイプ、骨格内Al比率:77.1%)50gを、水分含有量が5体積%の水蒸気混合ガスを流通させた雰囲気で、昇温速度3.7℃/分で700℃まで昇温した後、700℃、2時間焼成処理をし、6時間かけて室温まで放冷し、ゼオライト焼成体を得た。該ゼオライト焼成体は、含水率が10.3質量%、格子定数が24.418Å、バルクSARが7.3、骨格内Al比率が44.3%、Na2O含有率が0.08質量%、並びにカチオンタイプが水素イオン及びナトリウムイオンタイプであった。
【0104】
次に、該ゼオライト焼成体35.7gを純水102gと混合し、撹拌することでゼオライトスラリーを得た。次に、HCl/ゼオライト質量比が0.14となるよう、35質量%の塩酸12.8gを加え、60℃の条件で1時間撹拌し、固形分濃度20.0質量%のゼオライトスラリーを得た。得られたゼオライトスラリーをろ過し、純水で洗浄した後、大気中110℃で15時間乾燥し、ゼオライト酸処理体を得た。該ゼオライト酸処理体は、含水率が8.0質量%、格子定数24.452Å、バルクSARが12.7、骨格内Al比率が93.4%、Na2O含有率が0.03質量%、並びにカチオンタイプが水素イオン及びナトリウムイオンタイプであった。
【0105】
次に、該ゼオライト酸処理体10.9gを純水3.9g及び38.8質量%の硝酸銅水溶液1.95gと混合し、大気中110℃で15時間乾燥した。乾燥後の試料を空気中、550℃で2時間焼成することで、本実施例の銅含有FAU型ゼオライトを得た。得られた本実施例のゼオライトは、格子定数が24.422Å、バルクSARが12.7、骨格内Al比率が79.0%、Na2O含有率が0.03質量%、銅含有率が2.5質量%、カチオンタイプが銅イオン、水素イオン及びナトリウムイオンタイプ、平均結晶径が0.75μm、BET比表面積が845m2/g、並びにミクロ細孔容積が0.33mL/gであった。
【0106】
比較例1
FAU型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-341NHA、東ソー社製;バルクSAR:7.3、Na2O:0.08質量%、含水率:16.0質量%、格子定数:24.531Å、カチオンタイプ:アンモニウムイオン及びナトリウムイオンタイプ、骨格内Al比率:77.1%)304gを純水74.0g及び38.8質量%の硝酸銅水溶液49.7gと混合した後、大気中110℃で15時間乾燥した。乾燥後の試料を空気中、550℃で2時間焼成することで、銅含有FAU型ゼオライトを得、本比較例のゼオライトとした。得られた本比較例のゼオライトは、格子定数が24.491Å、バルクSARが7.3、骨格内Al比率が64.9%、Na2O含有率が0.08質量%、銅含有率が2.6質量%、カチオンタイプが銅イオン、水素イオン及びナトリウムイオンタイプ、平均結晶径が0.75μm、BET比表面積が799m2/g、並びにミクロ細孔容積が0.32mL/gであった。
【0107】
比較例2
FAU型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-341NHA、東ソー社製;バルクSAR:7.3、Na2O:0.08質量%、含水率:16.0質量%、格子定数:24.531Å、カチオンタイプ:アンモニウムイオン及びナトリウムイオンタイプ、骨格内Al比率:77.1%)500gを、水分含有量が30体積%の水蒸気混合ガスを流通させた雰囲気で、昇温速度4.0℃/分で740℃まで昇温した後、740℃、2時間焼成処理をし、6時間かけて放冷し、ゼオライト焼成体を得た。該ゼオライト焼成体は、含水率が3.8質量%、格子定数が24.340Å、バルクSARが7.3、骨格内Al比率が24.4%、Na2O含有率が0.08質量%、並びにカチオンタイプが水素イオン及びナトリウムイオンタイプであった。
【0108】
次に、該ゼオライト焼成体385gを純水1280gと混合し、撹拌することでゼオライトスラリーを得た。次に、HCl/ゼオライト質量比が0.175となるよう、35質量%の塩酸185gを加え、60℃の条件で1時間撹拌し、固形分濃度20.0質量%のゼオライトスラリーを得た。得られたゼオライトスラリーをろ過し、純水で洗浄した後、大気中110℃で15時間乾燥し、ゼオライト酸処理体を得た。該ゼオライト酸処理体は、含水率が9.6質量%、格子定数が24.367Å、バルクSARが23.6、骨格内Al比率が100%、Na2O含有率が0.07質量%、並びにカチオンタイプが水素イオン及びナトリウムイオンタイプであった。
【0109】
次に、該ゼオライト酸処理体282gを純水95.5g及び38.8質量%の硝酸銅水溶液49.7gと混合し、大気中110℃で15時間乾燥した。乾燥後の試料を空気中、550℃で2時間焼成することで、銅含有FAU型ゼオライトを得、本比較例のゼオライトとした。得られた本比較例のゼオライトは、格子定数24.358Å、バルクSARが14.7、骨格内Al比率が58.0%、Na2O含有率が0.07質量%、銅含有率が2.3質量%、カチオンタイプが銅イオン、水素イオン及びナトリウムイオンタイプ、並びに平均結晶径が0.75μmであった。
【0110】
比較例3
水蒸気混合ガスの代わりに水分含有率0体積%の空気を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライト焼成体を得た。該ゼオライト焼成体は、含水率が6.2質量%、格子定数24.443Å、バルクSARが7.3、骨格内Al比率が56.9%、Na2O含有率が0.08質量%、並びにカチオンタイプが水素イオン及びナトリウムイオンタイプであった。
【0111】
次に、該ゼオライト焼成体10.7gを純水4.1g及び38.8質量%の硝酸銅水溶液1.95gと混合し、大気中110℃で15時間乾燥した。乾燥後の試料を空気中、550℃で2時間焼成することで、銅含有FAU型ゼオライトを得、本比較例のゼオライトとした。得られた本比較例のゼオライトは、格子定数が24.443Å、バルクSARが14.7、骨格内Al比率が51.2%、Na2O含有率が0.08質量%、銅含有率が2.5質量%、カチオンタイプが銅イオン、水素イオン及びナトリウムイオンタイプ、並びに平均結晶径が0.75μmであった。
【0112】
比較例4
FAU型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-331HSA、東ソー社製;SiO2/Al2O3=6.1、Na2O:0.24質量%、含水率:19.4質量%、格子定数:24.480Å、骨格内Al比率:51.6%、カチオンタイプ:水素イオン及びナトリウムイオンタイプ)39.7gと純水97.9gとを混合し、撹拌することでゼオライトスラリーを得た。次に、HCl/ゼオライト質量比が0.070となるよう、35質量%の塩酸6.4gを加え、固形分濃度20.0質量%のゼオライトスラリーを得、60℃の条件で1時間撹拌した。得られたゼオライトスラリーをろ過し、得られたケークに20質量%の塩化アンモニウム水溶液80gを流通し純水で洗浄した後、大気中110℃で3時間乾燥し、ゼオライト酸処理体を得た。該ゼオライト酸処理体は、含水率が30.3質量%、格子定数が24.521Å、バルクSARが8.6、骨格内Al比率が56.9%、Na2O含有率が0.05質量%、並びにカチオンタイプが水素イオン及びナトリウムイオンタイプであった。
【0113】
次に、該ゼオライト酸処理体14.3gを純水0.5g及び38.8質量%の硝酸銅水溶液1.95gと混合し、10分間乳鉢を用いて手練した後、大気中110℃で15時間乾燥した。乾燥後の試料を空気中、550℃で2時間焼成することで、銅含有FAU型ゼオライトを得、本比較例のゼオライトとした。得られた本比較例のゼオライトは、格子定数24.492Å、バルクSARが8.6、骨格内Al比率が76.9%、Na2O含有率が0.05質量%、銅含有率が2.5質量%、カチオンタイプが銅イオン、水素イオン及びナトリウムタイプ、並びに平均結晶径が0.75μmであった。
【0114】
実施例1、及び比較例1乃至4の銅含有FAU型ゼオライトの水熱処理前後のHC通過率を下表に示す。
【0115】
【0116】
実施例1、及び比較例1乃至4より、炭化水素吸着剤に含まれる銅含有FAU型ゼオライトに関し、格子定数が24.370Å以上24.490Å以下、かつバルクSARが10以上20以下、かつ骨格内Al比率が70%以上100%以下である銅含有FAU型ゼオライトである銅含有FAU型ゼオライトは、本条件を満たさない銅含有FAU型ゼオライトと比べ、水熱処理前HC通過率及び水熱処理後HC通過率がいずれも低くなることが確認できる。
【0117】
実施例1と比較例1、2及び4より、格子定数が24.370Å未満又は24.490Å超である銅含有FAU型ゼオライトは、格子定数が24.370Å以上24.490Å以下である銅含有FAU型ゼオライトと比べ、水熱処理前HC通過率及び水熱処理後HC通過率がいずれも低くなることが確認できる。
【0118】
実施例1と比較例3より、格子定数が24.370Å以上24.490Å以下であっても、骨格内Al比率が70%未満である銅含有FAU型ゼオライトと比べ、骨格内Al比率が70%以上である銅含有FAU型ゼオライトは、水熱処理前HC通過率が低くなることが確認できる。
本開示の銅含有FAU型ゼオライトは、炭化水素の吸着方法に使用することができ、特に自動車排ガス等の内燃機関の排ガス中の炭化水素を吸着する方法に使用することができる。