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特開2024-1106203次元造形用材料、3次元造形用フィラメント、巻回体、3Dプリンター用カートリッジ、並びに、樹脂成形体及びその製造方法
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  • 特開-3次元造形用材料、3次元造形用フィラメント、巻回体、3Dプリンター用カートリッジ、並びに、樹脂成形体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110620
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】3次元造形用材料、3次元造形用フィラメント、巻回体、3Dプリンター用カートリッジ、並びに、樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20240808BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240808BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240808BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y80/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015313
(22)【出願日】2023-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄太
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA19
4F213AA24
4F213AA25
4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL24
4F213WL27
4F213WL32
(57)【要約】
【課題】3Dプリンターのノズル温度や造形テーブル温度が比較的低温の場合であっても使用することが可能な、低温造形性及び低反り性に優れた3次元造形用材料を提供すること。
【解決手段】ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含む、3次元造形用材料、3次元造形用フィラメント、巻回体、3Dプリンター用カートリッジ、並びに、樹脂成形体及びその製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含む、3次元造形用材料。
【請求項2】
示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)が30℃以上100℃以下である、請求項1に記載の3次元造形用材料。
【請求項3】
示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)が210℃以下である、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項4】
示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が50J/g以下である、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項5】
210℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが6g/10分以上である、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項6】
前記ポリエステル系樹脂が二種以上の異なるポリエステル系樹脂からなる、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項7】
前記ポリエステル系樹脂がグリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項8】
前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以下である、請求項7に記載の3次元造形用材料。
【請求項9】
前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)が210℃以下である、請求項7に記載の3次元造形用材料。
【請求項10】
前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが1g/10分以上である、請求項7に記載の3次元造形用材料。
【請求項11】
前記ポリエステル系樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項12】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が100J/g以下である、請求項11に記載の3次元造形用材料。
【請求項13】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)が210℃以下である、請求項11に記載の3次元造形用材料。
【請求項14】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが6g/10分以上である、請求項11に記載の3次元造形用材料。
【請求項15】
前記ポリエステル系樹脂が再生樹脂を含む、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項16】
前記ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項17】
前記ポリビニルアセタール樹脂の示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)が10℃以上100℃以下である、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項18】
前記ポリビニルアセタール樹脂が再生樹脂を含む、請求項1又は2に記載の3次元造形用材料。
【請求項19】
請求項1又は2に記載の3次元造形用材料を用いて得られ、直径が1.0mm以上5.0mm以下である、3次元造形用フィラメント。
【請求項20】
請求項19に記載の3次元造形用フィラメントを巻回してなる、巻回体。
【請求項21】
請求項20に記載の巻回体を収納容器に収納してなる、3Dプリンター用カートリッジ。
【請求項22】
請求項1又は2に記載の3次元造形用材料を用いて3Dプリンターにより成形された、樹脂成形体。
【請求項23】
請求項1又は2に記載の3次元造形用材料を用いて3Dプリンターにより樹脂成形体を製造する工程を含む、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元造形用材料及びそれを用いた樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、種々の付加製造方式(例えば、結合剤噴射式、材料押出式、液槽光重合式等)の3Dプリンターが販売されている。これらの中で、材料押出(Material Extrusion)式による3Dプリンターシステム(例えば、米国のストラタシスインコーポレイテッド社製のシステム)では、造形材料として熱可塑性樹脂を用いることができ、熱可塑性樹脂をフィラメント、ペレット、粉体、又は顆粒などとして押出ヘッドへ挿入することで、加熱溶融され、押出ヘッドに備えたノズル部位からチャンバー内の任意の軌道上に連続的に押し出される。押し出された樹脂は既に堆積している樹脂積層体上に堆積すると同時に融着し、これが冷却するにつれて一体となって固化する。材料押出式はこのような簡単なシステムであるため、広く用いられている(特許文献1)。
【0003】
従来、材料押出式の原料としては、一般的にアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂(以下「ABS樹脂」と称することがある)やポリ乳酸(以下「PLA樹脂」と称することがある)等の熱可塑性樹脂が、成形加工性や流動性の観点から好適に用いられてきた(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-502184号公報
【特許文献2】特表2010-521339号公報
【特許文献3】特開2008-194968号公報
【特許文献4】国際公開第2015/037574号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、3Dプリンターは、工業的な用途のみならず、個人消費者にも普及しつつあり、より簡便に使用することができる。そのため、造形精度や耐久性のみならず、意匠性や安全性等の面でも良好な樹脂成形体を製造することが求められており、それらの樹脂成形体を簡易に製造するための良好な造形性を有した3次元造形用材料も求められている。しかしながら、従来の一般的な3Dプリンターに用いられているABS樹脂よりなる3次元造形用材料は、良好な吐出性を得るには、3Dプリンターで造形する際のノズル温度を240℃前後と高い温度に設定しなければならず、また造形テーブルへの接着性向上や造形物の反りを抑制するため、造形テーブル温度を100℃前後に設定する必要がある。さらには、加熱溶融時に臭気が発生する問題がある。これは、個人消費者による家庭用3Dプリンターでの使用を想定した場合、3Dプリンターの高温部分が危険であり、取り扱いやすさに欠ける。一方、PLA樹脂よりなる3次元造形用材料は、3Dプリンターのノズル温度が200℃前後で良好な吐出性を有し、臭気も少ない特徴があるが、造形される樹脂成形体が脆く、耐久性や機械的強度に劣るという問題点がある。
【0006】
上記のABS樹脂やPLA樹脂よりなる3次元造形用材料の問題を解決し得るものとして、非晶性ポリエステル系樹脂であるグリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下「PETG」と称することがある)が近年用いられている。PETGよりなる3次元造形用材料は、ABS樹脂と比較して低いノズル温度で造形が可能であり、PLA樹脂より機械的強度に優れる特徴を有するものの、PLA樹脂よりノズル温度を高く設定しなければならず、良好な樹脂成形体を得るには、依然として3Dプリンターのノズル温度や造形テーブル温度を高く設定する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、3Dプリンターのノズル温度や造形テーブル温度が比較的低温の場合であっても使用することが可能な、低温造形性及び低反り性に優れた3次元造形用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含む3次元造形用材料により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
本発明の態様1は、
ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含む、3次元造形用材料である。
【0011】
本発明の態様2は、態様1の3次元造形用材料において、
示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)が30℃以上100℃以下である、3次元造形用材料である。
【0012】
本発明の態様3は、態様1又は2の3次元造形用材料において、
示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)が210℃以下である、3次元造形用材料である。
【0013】
本発明の態様4は、態様1~3のいずれか1つの3次元造形用材料において、
示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が50J/g以下である、3次元造形用材料である。
【0014】
本発明の態様5は、態様1~4のいずれか1つの3次元造形用材料において、
210℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが6g/10分以上である、3次元造形用材料である。
【0015】
本発明の態様6は、態様1~5のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリエステル系樹脂が二種以上の異なるポリエステル系樹脂からなる、3次元造形用材料である。
【0016】
本発明の態様7は、態様1~6のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリエステル系樹脂がグリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む、3次元造形用材料である。
【0017】
本発明の態様8は、態様7の3次元造形用材料において、
前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が5J/g以下である、3次元造形用材料である。
【0018】
本発明の態様9は、態様7又は8の3次元造形用材料において、
前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)が210℃以下である、3次元造形用材料である。
【0019】
本発明の態様10は、態様7~9のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂の、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが1g/10分以上である、3次元造形用材料である。
【0020】
本発明の態様11は、態様1~10のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリエステル系樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、3次元造形用材料である。
【0021】
本発明の態様12は、態様11の3次元造形用材料において、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)が100J/g以下である、3次元造形用材料である。
【0022】
本発明の態様13は、態様11又は12の3次元造形用材料において、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)が210℃以下である、3次元造形用材料である。
【0023】
本発明の態様14は、態様11~13のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックスが6g/10分以上である、3次元造形用材料である。
【0024】
本発明の態様15は、態様1~14のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリエステル系樹脂が再生樹脂を含む、3次元造形用材料である。
【0025】
本発明の態様16は、態様1~15のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である、3次元造形用材料である。
【0026】
本発明の態様17は、態様1~16のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリビニルアセタール樹脂の示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)が10℃以上100℃以下である、3次元造形用材料である。
【0027】
本発明の態様18は、態様1~17のいずれか1つの3次元造形用材料において、
前記ポリビニルアセタール樹脂が再生樹脂を含む、3次元造形用材料である。
【0028】
本発明の態様19は、
態様1~18のいずれか1つの3次元造形用材料を用いて得られ、直径が1.0mm以上5.0mm以下である、3次元造形用フィラメントである。
【0029】
本発明の態様20は、
態様19の3次元造形用フィラメントを巻回してなる、巻回体である。
【0030】
本発明の態様21は、
態様20の巻回体を収納容器に収納してなる、3Dプリンター用カートリッジである。
【0031】
本発明の態様22は、
態様1~18のいずれか1つの3次元造形用材料を用いて3Dプリンターにより成形された、樹脂成形体である。
【0032】
本発明の態様23は、
態様1~18のいずれか1つの3次元造形用材料を用いて3Dプリンターにより樹脂成形体を製造する工程を含む、樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、3Dプリンターのノズル温度や造形テーブル温度が比較的低温の場合であっても使用することが可能な、低温造形性及び低反り性に優れた3次元造形用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、実施例及び比較例の低温造形性評価に用いた試験片の形状を模式的に示す図である。
図2図2は、実施例及び比較例のフィラメントじん性(折れやすさ)の評価のために、フィラメントを固定具に通す様子を模式的に示す図である。
図3図3は、固定具に通されたフィラメントの形状を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0036】
<3次元造形用材料>
本発明の3次元造形用材料は、ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含む。
また、本発明は、本発明の3次元造形用材料を用いて3Dプリンターにより成形された樹脂成形体にも関する。
【0037】
[3次元造形用材料の特性]
本発明の3次元造形用材料を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、耐熱性や剛性の観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましく、50℃以上が特に好ましい。また、造形時の吐出性や低反り性の観点から、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、70℃以下がさらに好ましく、60℃以下が特に好ましい。一態様として、本発明の3次元造形用材料を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)は、30℃以上100℃以下とすることができる。
【0038】
本発明の3次元造形用材料を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)は特に限定されないが、低温での吐出性の観点から、融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)は210℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、190℃以下がさらに好ましく、185℃以下が特に好ましい。また、耐熱性の観点から、Tmは100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましく、170℃以上が特に好ましい。
特に、本発明の3次元造形用材料が結晶性の低い樹脂や非晶性の樹脂を主成分とする場合は、融解温度(Tm)が無いことが多いが、その場合、結晶化収縮に起因する造形物の反りを抑制する観点から最も好ましい。ここで、融解温度(Tm)とは、5J/g以上の結晶融解熱量(ΔHm)を有する融解ピークのピークトップの温度を指す。
【0039】
本発明の3次元造形用材料を、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)は特に限定されないが、低反り性の観点から、50J/g以下が好ましく、30J/g以下がより好ましく、5J/g以下がさらに好ましく、0J/gが特に好ましい。
【0040】
本発明の3次元造形用材料を、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックス(MI)の値は特に限定されないが、造形時の吐出性の観点から、6g/10分以上が好ましく、8g/10分以上がより好ましく、10g/10分以上がさらに好ましい。また、造形時の糸引きやダマ等の外観不良抑制の観点から、50g/10分以下が好ましく、30g/10分以下がより好ましく、20g/10分以下が特に好ましい。
【0041】
[ポリエステル系樹脂]
本発明の3次元造形用材料は、ポリエステル系樹脂を含む。
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分とジオール成分との縮合重合からなる樹脂が挙げられる。ジカルボン酸成分およびジオール成分のうち、片方の成分もしくは両方の成分は、単一の化合物からなるものであってもよく、二種以上の混合物であってもよい。
【0042】
また、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、オキシ酸の重合体、あるいはオキシ酸の共重合体からなるポリエステル系樹脂であってもよい。オキシ酸の代表的なものとしては、乳酸、ε-カプロラクトン、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、結晶性の調整など物性を改良するために、トリメリット酸、ピロメリット酸など三官能以上のカルボン酸成分及び/又はトリメチロールプロパンペンタエリスリトールなど三官能以上のポリオール成分などが微量共重合されたものを用いてもよい。
【0043】
ポリエステル系樹脂の組成としては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分との縮合重合からなるものが挙げられる。ジカルボン酸成分およびジオール成分のうち、片方の成分もしくは両方の成分は、単一の化合物からなるものであってもよく、二種以上の混合物であってもよい。
上記の「ジカルボン酸成分」の代表的なものとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ネオペンチル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、p-オキシ安息香酸等が挙げられる。これらは、上記の「ジカルボン酸成分」として選択される際、一種でも二種以上の混合物であってもよく、混合される際の量も適宜選択することができる。これらの中でも、耐熱性や機械特性の観点から芳香族ジカルボン酸成分を用いることが好ましく、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が最も好ましい。
【0044】
上記の「ジオール成分」の代表的なものとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチルペンタンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。これらは、上記の「ジオール成分」として選択される際、一種でも二種以上の混合物であってもよく、混合される際の量も適宜選択することができる。これらの中でも、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチルペンタンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールがさらに好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコールが特に好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構造を有することが最も好ましい。
【0045】
ポリエステル系樹脂は、上記から選択されたジカルボン酸成分およびジオール成分以外の共重合可能なその他の酸成分やジオール成分を含有していてもよい。その他の酸成分の例としては、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、4,4-スチルベンジカルボン酸、4,4-ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4-ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-Naスルホイソフタル酸、エチレン-ビス-p-安息香酸等から誘導される芳香族ジカルボン酸成分や、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等から誘導される脂肪族ジカルボン酸成分が挙げられる。なかでもイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸をはじめとする芳香族ジカルボン酸成分が好ましい。
【0046】
共重合可能なその他のジオール成分の例としては、ジエチレングリコール、トランス-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、スピログリコール、及びポリテトラメチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、トランス-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、スピログリコール、及びポリテトラメチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の脂環構造を有するジオール成分が好適に用いられ、経済性、工業的な入手し易さなどの観点から、特に1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、及びポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0047】
ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンイソフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂及びポリトリメチレンテレフタレート樹脂などの芳香族ポリエステル樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、などの脂肪族ポリエステル樹脂や、ポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂のようなオキシ酸の重合体、あるいはポリエステルエラストマーなどが挙げられる。上記ポリエステル系樹脂の具体例として挙げたものは単独重合体であってもよく、また任意の組み合わせからなる共重合体であってもよい。これらは、上記ポリエステル系樹脂として選択される際、一種でも二種以上の混合物であってもよく、混合される際の量も適宜選択することができる。より具体的には、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)やイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(IPA-PET)等が挙げられるが、汎用性や耐衝撃性の観点からPETGを用いることが好ましい。
【0048】
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、二種以上の異なるポリエステル系樹脂からなることが好ましい。本明細書において、「異なるポリエステル系樹脂」とは、互いに構造が異なるポリエステル系樹脂を意味し、例えば、少なくとも一種のモノマー単位が互いに異なるポリエステル系樹脂、モノマー単位が同じであって共重合比率が互いに異なるポリエステル系樹脂、モノマー単位が同じであって分子鎖の分岐構造が互いに異なるポリエステル系樹脂、モノマー単位が同じであって分子鎖の立体規則性が互いに異なるポリエステル系樹脂を意味する。一方で、モノマー単位及び共重合比率が同一であるが、分子量や結晶構造などの高次構造が互いに異なるのみのポリエステル系樹脂は、異なるポリエステル系樹脂ではないとする。
【0049】
本発明の3次元造形用材料が二種以上の異なるポリエステル系樹脂からなるポリエステル系樹脂を含む場合は、二種以上の異なるポリエステル系樹脂のうち最も高いガラス転移温度(Tg)を有するポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を低下させる観点から、二種以上の異なるポリエステル系樹脂は部分的に相溶又は完全に相溶していることが好ましく、完全に相溶していることがより好ましい。
二種以上の異なるポリエステル系樹脂が完全に相溶しているとは、JIS K7244-4に記載の動的粘弾性の温度分散測定により、歪み0.07%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分で任意の温度範囲にて測定した際の、二種以上の異なるポリエステル系樹脂に由来する損失正接(tanδ)のガラス転移を示すピークが単一であることを指す。
【0050】
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)を含むことが好ましい。他の一態様において、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい。
さらなる他の一態様において、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)とポリブチレンテレフタレート樹脂とを含むことがより好ましい。
【0051】
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、プラスチック廃棄物や端材などから再生された再生樹脂を含んでもよい。その際のリサイクル手法としては、使用済み樹脂を化学的に組成変換したのち再生されるケミカルリサイクルや、使用済み樹脂の選別、不純物除去ののちに粉砕、洗浄及び造粒等の工程を経て再生されるマテリアルリサイクル等があげられる。また、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、再生樹脂とバージン樹脂を混合して含んでもよい。
【0052】
ポリエステル系樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、上記3次元造形用材料の造形時の吐出性や低反り性の観点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、80℃以下が特に好ましい。また、耐熱性や剛性の観点から、-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、30℃以上が特に好ましい。
【0053】
ポリエステル系樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)は特に限定されないが、低温での吐出性の観点から、融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)は210℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、190℃以下がさらに好ましく、180℃以下が特に好ましい。また、耐熱性の観点から、Tmは100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましく、170℃以上が特に好ましい。特に、上記ポリエステル系樹脂が結晶性の低い樹脂や非晶性の樹脂を主成分とする場合は、融解温度(Tm)が無いことが多いが、その場合、結晶化収縮に起因する造形物の反りを抑制する観点から最も好ましい。ここで、融解温度(Tm)とは、5J/g以上の結晶融解熱量(ΔHm)を有する融解ピークのピークトップの温度を指す。
【0054】
ポリエステル系樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)は特に限定されないが、低反り性の観点から、100J/g以下が好ましく、80J/g以下がより好ましく、50J/g以下がさらに好ましく、30J/g以下が特に好ましい。
【0055】
ポリエステル系樹脂を、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックス(MI)の値は特に限定されないが、造形時の吐出性の観点から1g/10分以上が好ましく、3g/10分以上がより好ましく、5g/10分以上がさらに好ましい。また、造形時の糸引きやダマ等の外観不良抑制の観点から、100g/10分以下が好ましく、50g/10分以下がより好ましく、30g/10分以下がさらに好ましい。
【0056】
ポリエステル系樹脂の市販品としては、例えば、SKケミカル社製「SKYGREEN(登録商標)」シリーズ、イーストマンケミカル社製「Eastar Copolyester(登録商標)」シリーズ、「TRITAN(登録商標)」シリーズ、三菱ガス化学株式会社製「ALTESTER(登録商標)」シリーズ、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン(登録商標)」シリーズ、ポリプラスチックス株式会社製「ジュラネックス(登録商標)」シリーズ、東洋紡株式会社製「バイロン(登録商標)」シリーズ、三菱ケミカル株式会社製「テファブロック」シリーズなどが挙げられる。
上記3次元造形用材料中のポリエステル系樹脂の含有量は特に限定されないが、3次元造形用材料の物性を好ましい範囲に調整する観点から、10重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましく、80重量%以上が最も好ましい。また、同様の観点から、99重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましく、90重量%以下であることがさらに好ましく、85重量%以下であることが最も好ましい。
【0057】
以下、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂の具体例について述べる。
【0058】
(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂)
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)を含むことが好ましい。
【0059】
グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、耐熱性や剛性の観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましく、65℃以上が特に好ましい。また、造形時の吐出性や低反り性の観点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
【0060】
グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)は特に限定されないが、低温での吐出性の観点から、結晶性を有しない、すなわち融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)は280℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましく、180℃以下が特に好ましい。ここで、融解温度(Tm)とは、5J/g以上の結晶融解熱量(ΔHm)を有する融解ピークのピークトップの温度を指す。
【0061】
グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)を、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)は特に限定されないが、造形時の低反り性の観点から、50J/g以下が好ましく、30J/g以下がより好ましく、5J/g以下がさらに好ましく、0J/gが特に好ましい。
【0062】
グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)を、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックス(MI)の値は特に限定されないが、造形時の吐出性の観点から1g/10分以上が好ましく、3g/10分以上がより好ましく、5g/10分以上がさらに好ましい。また、造形時の糸引きやダマ等の外観不良抑制の観点から、50g/10分以下が好ましく、30g/10分以下がより好ましく、20g/10分以下がさらに好ましい。
【0063】
グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)の組成は特に限定されない。PETGの結晶性を適した範囲に調整する観点から、エチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジメタノールとを合わせた全ジオール成分中の、1,4-シクロヘキサンジメタノールの含有量は10mol%以上が好ましく、15mol%以上がより好ましく、20mol%以上がさらに好ましい。また、60mol%以下が好ましく、50mol%以下がより好ましく、40mol%以下がさらに好ましい。
【0064】
グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)の市販品としては、例えば、SKケミカル社製「SKYGREEN(登録商標)」シリーズ、イーストマンケミカル社製「Eastar Copolyester(登録商標)」シリーズ、「TRITAN(登録商標)」シリーズ、三菱ガス化学株式会社製「ALTESTER(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
上記3次元造形用材料中のグリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)の含有量は特に限定されないが、3次元造形用材料の物性を好ましい範囲に調整する観点から、50~90重量%が好ましく、55~85重量%がより好ましく、60~80重量%がさらに好ましく、65~75重量%が特に好ましい。
【0065】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことが好ましい。
【0066】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、耐熱性や剛性の観点から、-10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、20℃以上が特に好ましい。また、造形時の吐出性や低反り性の観点から、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましく、40℃以下が特に好ましい。
【0067】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)は特に限定されないが、低温での吐出性の観点から、融解温度(Tm)は280℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましく、200℃以下が特に好ましい。ここで、融解温度(Tm)とは、5J/g以上の結晶融解熱量(ΔHm)を有する融解ピークのピークトップの温度を指す。
【0068】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)は特に限定されないが、造形時の低反り性の観点から、100J/g以下が好ましく、80J/g以下がより好ましく、60J/g以下がさらに好ましく、40J/g以下が特に好ましい。
【0069】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックス(MI)の値は特に限定されないが、造形時の吐出性や低温造形性の観点から、1g/10分以上が好ましく、5g/10分以上がより好ましく、6g/10分以上がさらに好ましく、10g/10分以上が特に好ましく、20g/10分以上が最も好ましい。また、造形時の糸引きやダマ等の外観不良抑制の観点から、100g/10分以下が好ましく、50g/10分以下がより好ましく、30g/10分以下がさらに好ましい。
【0070】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸と、これとは異なるジカルボン酸成分とを共重合させたものを用いることができる。テレフタル酸とは異なるジカルボン酸成分は特に限定されないが、他の樹脂との相溶性の観点から、イソフタル酸を用いることが好ましい。テレフタル酸とは異なるジカルボン酸成分としてイソフタル酸を用いる場合、テレフタル酸を含む全ジカルボン酸成分中の、イソフタル酸の含有量は5mol%以上が好ましく、10mol%以上がより好ましく、15mol%以上がさらに好ましい。また、50mol%以下が好ましく、40mol%以下がより好ましく、30mol%以下がさらに好ましい。
【0071】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の市販品としては、例えば、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ノバデュラン(登録商標)」シリーズ、ポリプラスチックス株式会社製「ジュラネックス(登録商標)」シリーズ、東洋紡株式会社製「バイロン(登録商標)」シリーズ、三菱ケミカル株式会社製「テファブロック」シリーズなどが挙げられる。
上記3次元造形用材料中のポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は特に限定されないが、3次元造形用材料の剛性やじん性の観点から、5~50重量%が好ましく、10~40重量%がより好ましく、20~30重量%がさらに好ましい。
【0072】
また、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリエステル系樹脂は、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)とポリブチレンテレフタレート樹脂とを含むことがより好ましい。この場合、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)とポリブチレンテレフタレート樹脂とは、部分的に相溶又は完全に相溶していることが好ましく、完全に相溶していることがより好ましい
グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(PETG)とポリブチレンテレフタレート樹脂とが完全に相溶しているとは、上述のとおり、JIS K7244-4に記載の動的粘弾性の温度分散測定により、歪み0.07%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分で任意の温度範囲にて測定した際の、前記両樹脂に由来する損失正接(tanδ)のガラス転移を示すピークが単一であることを指す。
【0073】
[ポリビニルアセタール樹脂]
本発明の3次元造形用材料は、ポリビニルアセタール樹脂を含む。
【0074】
ポリビニルアセタール樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、耐熱性や剛性の観点から、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましく、30℃以上が特に好ましい。また、造形時の吐出性や低反り性の観点から、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましく、40℃以下が特に好ましい。一態様として、ポリビニルアセタール樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時のガラス転移温度(Tg)は、10℃以上100℃以下とすることができる。
【0075】
ポリビニルアセタール樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の昇温速度で測定した再昇温時の融解温度(Tm)は特に限定されないが、低温での吐出性の観点から、融解温度(Tm)が無い、又は融解温度(Tm)は280℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましく、200℃以下が特に好ましい。ここで、融解温度(Tm)とは、5J/g以上の結晶融解熱量(ΔHm)を有する融解ピークのピークトップの温度を指す。
【0076】
ポリビニルアセタール樹脂を、示差走査熱量測定において10℃/分の降温速度で測定した際の結晶化熱量(ΔHc)は特に限定されないが、造形時の低反り性の観点から、100J/g以下が好ましく、80J/g以下がより好ましく、60J/g以下がさらに好ましく、40J/g以下が特に好ましい。
【0077】
ポリビニルアセタール樹脂を、210℃、2.16kgで測定したメルトインデックス(MI)の値は特に限定されないが、造形時の吐出性や低温造形性の観点から、1g/10分以上が好ましく、5g/10分以上がより好ましく、10g/10分以上がさらに好ましく、20g/10分以上が特に好ましい。また、造形時の糸引きやダマ等の外観不良抑制の観点から、100g/10分以下が好ましく、50g/10分以下がより好ましく、30g/10分以下がさらに好ましい。
【0078】
本発明の3次元造形用材料に含まれるポリビニルアセタール樹脂は、プラスチック廃棄物や端材などから再生された再生樹脂を含むことが好ましい。その際のリサイクル手法としては、使用済み樹脂を化学的に組成変換したのち再生されるケミカルリサイクルや、使用済み樹脂の選別、不純物除去ののちに粉砕、洗浄及び造粒等の工程を経て再生されるマテリアルリサイクル等があげられる。また、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリビニルアセタール樹脂は、再生樹脂とバージン樹脂を混合して含んでもよい。
【0079】
本発明で使用されるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂をアルデヒド類によりアセタール化することにより得られる樹脂である。ここで、原料となるアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが使用され、好ましくは、炭素数1~12のアルデヒド化合物であり、更に好ましくは炭素数1~6の飽和アルキルアルデヒド化合物であり、特に炭素数1~4の飽和アルキルアルデヒド化合物が好ましい。なかでも、機械的強度の点で、原料としてブチルアルデヒドを用いたポリビニルブチラール樹脂が特に好ましい。また、原料となるアルデヒド類は単一のものが使用されていても良いし、2種以上が併用されていても良い。更に、多官能アルデヒド類やその他の官能基を有するアルデヒド類などを全アルデヒド類の20質量%以下の範囲で少量併用されていても良い。
【0080】
ポリビニルアセタール樹脂の市販品としては、例えば、積水化学工業株式会社製「エスレックB」シリーズ、株式会社クラレ製「モビタール」シリーズ、HAINAUT-PLAST INDUSTRY社製「Polyvinyl Butyral Post Consumer」などが挙げられる。
上記3次元造形用材料中のポリビニルアセタール樹脂の含有量は特に限定されないが、3次元造形用材料の剛性やじん性の観点から、1~40重量%が好ましく、5~30重量%がより好ましく、10~15重量%がさらに好ましい。
【0081】
また、3次元造形用材料の物性を好ましい範囲に調整する観点から、本発明の3次元造形用材料に含まれるポリビニルアセタール樹脂とポリエステル系樹脂とは、部分的に相溶又は完全に相溶していることが好ましく、完全に相溶していることがより好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂とポリエステル系樹脂とが完全に相溶しているとは、上述のとおり、JIS K7244-4に記載の動的粘弾性の温度分散測定により、歪み0.07%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分で任意の温度範囲にて測定した際の、前記両樹脂に由来する損失正接(tanδ)のガラス転移を示すピークが単一であることを指す。
【0082】
[その他の成分]
本発明の3次元造形用材料は、本発明の効果を損なわない程度にその他の樹脂やフィラー(有機系粒子、無機系粒子および補強材など)、その他の成分を含んでもよい。
その他の樹脂としては、上記ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂以外のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂や各種エラストマー等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の3次元造形用材料中のその他の樹脂の配合量は、特に限定されないが、通常50重量%以下であり、好ましくは30重量%以下である。
【0083】
フィラーのうち有機系粒子の具体例としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン系樹脂粒子などが挙げられる。
フィラーのうち無機系粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、カオリン、二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0084】
フィラーのうち補強材の具体例としては、無機充填材や無機繊維が挙げられる。
無機充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ガラスバルーン、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、石膏、焼成カオリン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ワラストナイト、シリカ、タルク、金属粉、アルミナ、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0085】
無機繊維の具体例としては、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスファイバー、石膏ウィスカー、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、炭素繊維、セルロースナノファイバーなどが挙げられる。
ここで、本発明の3次元造形用材料がフィラーを含有する際の本発明の3次元造形用材料中のフィラーの含有量は、特に規定されないが、通常50重量%以下であり、好ましくは30重量%以下である。
【0086】
その他の成分としては、耐熱剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、スリップ剤、結晶核剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、離型剤、可塑剤、顔料、染料、香料、難燃剤、生分解促進剤、エステル交換促進剤、エステル交換阻害剤、相溶化剤などが挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
<3次元造形用材料の用途>
本発明の3次元造形用材料は、材料押出法に用いられる原料として大別される。造形材料と支持材料のどちらに用いても構わないが、造形材料として用いることが好ましい。造形物本体となるものが造形材料であり、積層された造形材料が所望の形に固まるまで支えるものが支持材料である。
【0088】
<3次元造形用材料の製造方法>
本発明の3次元造形用材料は、上記ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を用いて製造される。これらの混合方法としては特に制限されるものではないが、公知の方法、例えば、単軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどの溶融混練装置を用いる等方法を挙げることができる。
【0089】
本発明の3次元造形用材料の製造方法は特に制限されるものではないが、上記ポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂、並びに、必要に応じてその他の成分を、押出成形等の公知の成形方法により成形する方法等を挙げることができる。例えば、本発明の3次元造形用材料を押出成形により得る場合、その条件は、用いる樹脂の流動性や成形加工性等によって適宜調整されるが、通常80~300℃、好ましくは100~280℃である。
【0090】
<3次元造形用材料の形態>
本発明の3次元造形用材料は、実施の形態に合わせた形状で用いて構わない。3次元造形用材料の形状は、例えば、ペレット、粉体、顆粒、フィラメント等が挙げられる。中でも、家庭用3Dプリンターで容易に利用できる観点から、フィラメント形状で用いることが好ましい。すなわち、本発明の3次元造形用材料を用いて得られる3次元造形用フィラメントとすることが好ましい。
【0091】
<3次元造形用材料の構造>
本発明の3次元造形用材料を用いて得られる3次元造形用フィラメントの直径は、材料押出法による樹脂成形体の成形に使用するシステムの仕様に依存するが、通常1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは1.6mm以上、さらに好ましくは1.7mm以上であり、一方、上限は通常5.0mm以下、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3.0mm以下である。一態様として、本発明の3次元造形用フィラメントは、本発明の3次元造形用材料を用いて得られ、直径が1.0mm以上5.0mm以下とすることができる。
なお、ここでいう3次元造形用フィラメントの直径とは、3次元造形用フィラメントの長軸に垂直な断面(以下、「3次元造形用フィラメントの断面」と称することがある)の直径を指す。
【0092】
更に、3次元造形用フィラメントの直径の精度はフィラメントの任意の測定点に対して±5%以内の誤差に収めることが、造形時の原料供給の安定性の観点から好ましい。特に、本発明の3次元造形用フィラメントは、直径の標準偏差が0.07mm以下であることが好ましく、0.06mm以下であることがより好ましい。
【0093】
また、3次元造形用フィラメントの断面は、真円度が0.93以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましい。真円度の上限は1.0である。このように、フィラメントの直径の標準偏差が小さく、真円度が高い3次元造形用材料であれば、造形時の吐出ムラが抑制され、外観や表面性状等に優れた樹脂成形体を安定して製造することができる。そして、本発明の3次元造形用材料を用いることで、このような標準偏差及び真円度を満たす3次元造形用フィラメントを比較的容易に製造することができる。
【0094】
<3次元造形用材料の巻回体及びカートリッジ>
本発明の3次元造形用材料を用いて3Dプリンターにより樹脂成形体を製造するにあたり、3次元造形用材料を安定に保存すること、及び、3Dプリンターに3次元造形用材料を安定供給することが求められる。そのために、本発明の3次元造形用材料は、ボビンに巻きとった巻回体として包装されている、又は、巻回体がカートリッジに収納されていることが、長期保存、安定した繰り出し、紫外線等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。
一態様として、本発明の3次元造形用フィラメントを巻回してなる巻回体とすることができる。
【0095】
カートリッジとしては、ボビンに巻き取った巻回体の他、内部に防湿材または吸湿材を使用し、少なくともフィラメントを繰り出すオリフィス部以外が密閉されている構造のものが挙げられる。
通常、3次元造形用材料をボビンに巻きとった巻回体、又は、巻回体を含むカートリッジは3Dプリンター内又は周囲に設置され、成形中は常にカートリッジからフィラメントが3Dプリンターに導入され続ける。
一態様として、本発明の巻回体を収納容器に収納してなる3Dプリンター用カートリッジとすることができる。
【0096】
<樹脂成形体の製造方法>
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、本発明の3次元造形用材料を用い、3Dプリンターにより成形することにより樹脂成形体を得る。3Dプリンターによる成形方法としては材料押出法(ME法)、粉末焼結方式、インクジェット方式、光造形方式(SLA法)などが挙げられるが、本発明の3次元造形用材料は、材料押出法に用いることが特に好ましい。
一態様として、本発明の3次元造形用材料を用いて3Dプリンターにより樹脂成形体を製造する工程を含む、樹脂成形体の製造方法とすることができる。
以下、材料押出法の場合を例示して説明する。
【0097】
材料押出法に用いられる3Dプリンターは一般に、チャンバーを有しており、該チャンバー内に、加熱可能な基盤、ガントリー構造に設置された押出ヘッド、加熱溶融器、フィラメントのガイド、フィラメントカートリッジ設置部等の原料供給部を備えている。3Dプリンターの中には押出ヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものもある。
押出ヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基盤のX-Y平面上に任意に移動させることができる。基盤は目的の3次元物体や支持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで積層物との接着性を得たり、得られる樹脂成形体を所望の3次元物体として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。また、積層物との接着性を向上させるため、基盤上に粘着性のある糊を塗布したり、積層物との接着性が良好なシート等を貼りつけたりしてもよい。ここで積層物との接着性が良好なシートとしては、無機繊維のシートなど表面に細かな凹凸を有するシートや、積層物と同種の樹脂からなるシートなどが挙げられる。なお、押出ヘッドと基盤とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0098】
押出ヘッドの数は、通常1~2つである。押出ヘッドが2つあれば、2つの異なるポリマーをそれぞれ異なるヘッド内で溶融し、選択的に印刷することができる。この場合、ポリマーの1つは3D対象物を造形する造形材料であり、もう一方は、例えば一時的な基材として必要とされる支持材料とすることができる。この支持材料は、例えば、水性系(例えば、塩基性又は酸性媒体)における完全な又は部分的な溶解によって、その後除去することができる。
【0099】
3次元造形用材料は原料供給部から繰り出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押出ヘッドへ送り込まれ、押出ヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押し出される。CADモデルを基にして発信される信号により、押出ヘッドはその位置を移動しながら原料を基盤上に供給して積層堆積させていく。この工程が完了した後、基盤から積層堆積物を取り出し、必要に応じて支持材等を剥離したり、余分な部分を切除したりして所望の3次元物体として樹脂成形体を得ることができる。
【0100】
押出ヘッドへ連続的に原料を供給する手段は、フィラメント又はファイバーを繰り出して供給する方法、粉体又は液体をタンク等から定量フィーダを介して供給する方法、ペレット又は顆粒を押出機等で可塑化したものを押し出して供給する方法等が例示できる。工程の簡便さと供給安定性の観点から、フィラメントを繰り出して供給する方法、即ち、前述の本発明の3次元造形用材料を繰り出して供給する方法が最も好ましい。
【0101】
3Dプリンターにフィラメントを供給する場合、ニップロールやギアロール等の駆動ロールにフィラメントを係合させて、引き取りながら押出ヘッドへ供給することが一般的である。ここでフィラメントと駆動ロールとの係合による把持をより強固にすることで原料供給を安定化させるために、フィラメントの表面に微小凹凸形状を転写させておいたり、係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、粘着剤、ゴム等を配合したりすることも好ましい。フィラメントの太さにムラがある場合、フィラメントと駆動ロールとの係合による把持が行えず、駆動ロールが空転しフィラメントを押出ヘッドに供給出来なくなる場合がある。
【0102】
本発明で用いる3次元造形用材料は、先端ノズルからの押出に適当な流動性を得るための温度が、通常150~300℃程度と、通常の3Dプリンターが設定可能な温度である。本発明の樹脂成形体の製造方法においては、加熱押出ヘッドの温度を通常290℃以下、好ましくは160~260℃とし、また、造形テーブル温度を通常100℃以下、好ましくは70℃以下として安定的に樹脂成形体を製造することができる。本発明の3次元造形用材料を用いることで上記製造方法にて良好に造形が可能となる。
【0103】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂の温度(吐出温度)は160℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、一方、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、230℃以下であることが特に好ましい。溶融樹脂の温度が上記下限値以上であると、耐熱性の高い樹脂を押し出す上で好ましく、また、高速で吐出することが可能となり、造形効率が向上する傾向にあるため好ましい。一方、溶融樹脂の温度が上記上限値以下であると、樹脂の熱分解や焼け、発煙、臭い、べたつきといった不具合の発生を防ぎやすく、また一般に、糸引きと呼ばれる溶融樹脂が細く伸ばされた破片や、ダマと呼ばれる余分な樹脂が塊状になったものが樹脂成形体に付着し、外観を悪化させることを防ぐ観点からも好ましい。
【0104】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂は、好ましくは直径0.01~1.0mm、より好ましくは直径0.02~0.5mmのストランド状で吐出される。溶融樹脂がこのような形状で吐出されると、CADモデルの再現性が良好となる傾向にあるために好ましい。
本発明の3次元造形用材料を用いる3次元造形における高速造形とは、造形速度が1mm/s以上であることを表す。造形に要する時間の観点から、造形速度は3mm/s以上が好ましく、5mm/s以上がより好ましく、7mm/s以上がさらに好ましく、10mm/s以上が特に好ましい。上限は特に限定されないが、速ければ速いほど好ましい。ただし、前述のフィラメントの屈曲や、後述の外観の悪化等、造形性に問題のない速度であるためには、造形速度は、100mm/s以下が好ましく、80mm/s以下がより好ましく、60mm/s以下がさらに好ましい。
【0105】
本発明の樹脂成形体は、使用する用途などに応じて、造形後、熱処理により結晶化を促進あるいは完了させてもよい。
本発明の樹脂成形体を製造するにあたり、支持材料を同時に造形してもよい。支持材料の種類は特に限定されるものではないが、市販されている支持材料フィラメントの組成としては、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合樹脂(BVOH)、ポリビニルアルコール(PVOH)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などが挙げられる。
【0106】
<樹脂成形体の用途>
本発明の樹脂成形体は、造形性や耐熱性に優れたものである。用途については特に制限されるものではないが、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材;家電製品、OA機器、自動車、オートバイ、自転車等の部品;電機・電子機器用資材;農業用資材;園芸用資材;漁業用資材;土木・建築用資材;医療用品;試作部品等の用途に好適に用いることができる。
【実施例0107】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書中に表示される種々の測定値および評価は次のようにして行った。
【0108】
(1)メルトインデックス(MI)
メルトインデクサ((株)東洋精機製作所製)を用いて、JIS K7210に準じて、210℃、2.16kgにてMI(g/10min)を測定した。
【0109】
(2)降温結晶化熱量(ΔHc)
示差走査熱量計「Pyris1 DSC」((株)パーキンエルマー製)を用いて、JIS K7122に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で0℃から250℃まで昇温し、該温度で1分間保持した。その後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温した時に測定されたサーモグラムから、降温過程での結晶化熱量(ΔHc)(降温結晶化熱量)を求めた。
【0110】
(3)融解温度(Tm)、結晶融解熱量(ΔHm)、ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計「Pyris1 DSC」(株式会社パーキンエルマージャパン製)を用いて、JIS K7121に準じて、試料約10mgを加熱速度10℃/分で0℃から250℃まで昇温し、該温度で1分間保持した。その後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で250℃まで昇温した時に測定された各サーモグラムから融解温度(Tm)(℃)(再昇温過程)、結晶融解熱量(ΔHm)(J/g)(再昇温過程)、およびガラス転移温度(Tg)(℃)(再昇温過程)を求めた。ここで、融解温度(Tm)とは、5J/g以上の結晶融解熱量(ΔHm)を有する融解ピークのピークトップの温度を指す。
【0111】
(4)tanδのピーク数、及びピーク温度
粘弾性スペクトロメーター「DVA-200」(アイティー計測制御株式会社製)を用いて歪み0.07%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分で-100~150℃の温度範囲にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS K7244-4の動的粘弾性測定)を行い、0~100℃の範囲での損失正接(tanδ)のピークの数、及びピークの温度を求めた。
【0112】
(5)低温造形性
本明細書における低温造形性とは、ノズル温度がおおよそ180℃~230℃前後での造形性を指し、以下の手法にて評価した。3次元造形用材料の低温造形性は、3Dプリンター「MF-2200D」(武藤工業株式会社製)を用いて、造形テーブル温度60℃、ノズル温度160~230℃、造形速度50mm/s、外壁数1層にて図1に示すモデルを造形して評価した。その際、モデル下部より230℃から5℃刻みでノズル温度を下げていき、ノズルから材料が吐出されなくなった温度を最低吐出温度とした。最低吐出温度が低いほど、低温造形性が良いと判断し、下記のとおり評価した。
・AA:最低吐出温度が170℃以下であった
・A: 最低吐出温度が175℃であった
・B: 最低吐出温度が180℃以上であった
【0113】
(6)低反り性
3次元造形用材料により得られる樹脂成形体の低反り性は、3Dプリンター「MF-2200D」(武藤工業株式会社製)を用いて、造形テーブル温度60℃、ノズル温度210℃、造形速度50mm/s、内部充填率100%にてダンベル試験片を長軸方向が造形テーブルと平行となる方向で造形したサンプルを用いて、下記のとおり評価した。
・AA:得られた試験片の端部に反りが全く見られなかった
・A: 得られた試験片の端部に若干の反りがみられたが、造形外観に顕著な影響を及ぼさなかった
・B: 得られた試験片の端部に反りが大きく造形外観へ影響を及ぼした
【0114】
(7)フィラメントじん性(折れやすさ)
図2に示すように、直径が1.75mmのフィラメント1を、厚さ2.5mm、開口の直径4mm、開口の中心間距離が12mmの板状の固定具2に通し、図3の形状になるまでにフィラメント1が破断するかどうかを判断した。試行回数10回のうち固定具2の2つの穴に通す際中にフィラメント1が破断した回数をもとに、下記のとおり評価した。
・AA:2回以下
・A: 3~5回
・B: 6回以上
【0115】
実施例、比較例で用いた原料は以下のとおりである。
【0116】
<ポリエステル系樹脂>
(A-1):SKYGREEN PN100(SKケミカル社製、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂、MI:4.7g/10分、ΔHc:0J/g、Tg:79℃、Tm:なし)
(A-2):ノバデュラン 5610N(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、MI:22.2g/10分、ΔHc:34J/g、Tg:35℃、Tm:193℃)
【0117】
<ポリビニルアセタール樹脂>
(B-1):Polyvinyl Butyral Post Consumer B0(HAINAUT-PLAST INDUSTRY社製、再生ポリビニルブチラール樹脂、MI:2.6g/10分、ΔHc:0J/g、Tg:23℃、Tm:なし)
【0118】
(実施例1~3)
表1に示す配合でドライブレンドした原料を、スクリュー径φ25mmの単軸押出機にて、設定温度240℃で口径2.5mmのノズルから押出し、30℃の水槽を経て引取装置で20m/minで引取り、直径1.75mm±0.05mmのフィラメント形状の3次元造形用材料を得た。製造したフィラメント形状の3次元造形用材料で、物性、造形性及び樹脂成形体の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0119】
(比較例1)
表1に示す配合でドライブレンドした原料もしくは単一の原料を用いて、実施例1~3と同様にしてフィラメントを製造し、評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
表1より、実施例1~3の3次元造形用材料はポリエステル系樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含むため、低温造形性及び低反り性に優れる。これに対して、比較例1の3次元造形用材料はポリエステル系樹脂のみを含むため、種々物性が好ましい範囲に入らず、低温造形性及び低反り性に劣る。
【0122】
また、実施例2~3の3次元造形用材料はポリエステル系樹脂が2種以上の異なるポリエステル系樹脂からなることで、実施例1の3次元造形用材料と比較してMI@210℃,2.16kgが好ましい範囲になり、低温造形性及び低反り性に優れる。さらに、実施例3の3次元造形用材料はポリブチレンテレフタレート樹脂(A-2)をより好ましい範囲で含むため、実施例2の3次元造形用材料と比較してフィラメントじん性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の樹脂成形体は、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材;家電製品、OA機器、自動車、オートバイ、自転車等の部品;電機・電子機器用資材;農業用資材;園芸用資材;漁業用資材;土木・建築用資材;医療用品;試作部品等の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0124】
1 フィラメント
2 固定具
図1
図2
図3