IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特開2024-110677ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法
<>
  • 特開-ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法 図1
  • 特開-ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法 図2
  • 特開-ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法 図3
  • 特開-ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法 図4
  • 特開-ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法 図5
  • 特開-ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024110677
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ニッケル基超合金、ニッケル基超合金粉末および造形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/03 20060101AFI20240808BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240808BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20240808BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20240808BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20240808BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240808BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240808BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240808BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20240808BHJP
【FI】
C22C19/03 P
B22F1/00 M
B22F10/28
B22F10/64
C22C1/04 B
B22F3/24 C
B33Y70/00
B33Y10/00
B22F10/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015398
(22)【出願日】2023-02-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」委託研究(管理法人:国立研究開発法人科学技術振興機構)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 誠
(72)【発明者】
【氏名】日比野 真也
(72)【発明者】
【氏名】藤光 利茂
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼梨 直人
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 具教
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】出村 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴由
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA09
4K018FA08
4K018KA07
4K018KA12
(57)【要約】
【課題】高温での延性が良好なニッケル基超合金を提供する。
【解決手段】一実施形態に係るニッケル基超合金は、質量百分率で、4.8%以上5.1%以下のAl、1.4%以上1.7%以下のTi、14.2%以上19.2%以下のCr、4.5%以上12.4%以下のCo、0.7%以上1.5%以下のTa、2.8%以上5.3%以下のW、4.1%以下のMo、0.02%以上0.15%以下のC、0.002%以上0.02%以下のB、0.06%以下のZrを含有する。また、当該ニッケル基超合金では、以下の式で規定されるホウ素当量Zが0.007以上0.018以下である。
Z=X+10.811/91.224×Y
X:質量百分率でのBの含有率
Y:質量百分率でのZrの含有率
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、4.8%以上5.1%以下のAl、1.4%以上1.7%以下のTi、14.2%以上19.2%以下のCr、4.5%以上12.4%以下のCo、0.7%以上1.5%以下のTa、2.8%以上5.3%以下のW、4.1%以下のMo、0.02%以上0.15%以下のC、0.002%以上0.02%以下のB、0.06%以下のZrを含有し、
以下の式で規定されるホウ素当量Zが0.007以上0.018以下である、ニッケル基超合金。
Z=X+10.811/91.224×Y
X:質量百分率でのBの含有率
Y:質量百分率でのZrの含有率
【請求項2】
請求項1に記載のニッケル基超合金の粒子で構成される、ニッケル基超合金粉末。
【請求項3】
請求項2に記載のニッケル基超合金粉末を敷き詰めて層を形成することと、前記層にエネルギー線を照射して前記層の少なくとも一部を溶融および凝固させることを繰り返して造形体を製造する、造形体の製造方法。
【請求項4】
製造された前記造形体を、1100℃以上1250℃以下の温度にて1時間以上5時間以下の時間保持した後に900℃以下まで冷却し、ついで800℃以上900℃以下の温度にて12時間以上48時間以下の時間保持した後に室温まで冷却する、請求項3に記載の造形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニッケル基超合金およびニッケル基超合金粉末に関するとともに、前記ニッケル基超合金粉末を用いた造形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル基超合金は、高温で優れた強度と耐酸化性を有することが知られている。このため、航空機のエンジンや火力発電所で使用されるタービン等の、高温・酸化性環境下で高応力が負荷される部材に使用されている。中でもIN738LC(INはインコネル(登録商標)の略である)は、γ’相の析出強化により、優れた高温強度を有する合金として知られている。
【0003】
しかし、IN738LCは、溶接時に微小割れを生じやすいため、溶接が極めて困難であることが知られている。また、積層造形法で造形体を製造する際にも、IN738LCの粉末を用いた場合には造形体中に微小割れが生じることが報告されている。特許文献1参照。なお、積層造形法は、粉末を敷き詰めて層を形成することと、前記層にエネルギー線を照射して前記層の少なくとも一部を溶融および凝固させることを繰り返して造形体を製造する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-224394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、本件出願に先立って、IN738LCと同程度の体積割合のγ’相を析出可能で、溶接や積層造形法等の急速溶融急速凝固プロセスで発生するクラックが少ないニッケル基超合金を発明した(特願2021-138686)。このようなニッケル基超合金は、熱処理によりIN738LCと同程度の体積割合のγ’相を析出するので、優れた高温強度を有する。ただし、このニッケル基超合金はIN738LCに比べて高温での延性が劣るため、高温での延性を改善することが望まれる。
【0006】
そこで、本開示は、高温での延性が良好なニッケル基超合金を提供することを目的とする。また、本開示は、前記ニッケル基超合金の粒子で構成されたニッケル基超合金粉末を提供するとともに、前記ニッケル基超合金粉末を用いた造形体の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一つの側面から、質量百分率で、4.8%以上5.1%以下のAl、1.4%以上1.7%以下のTi、14.2%以上19.2%以下のCr、4.5%以上12.4%以下のCo、0.7%以上1.5%以下のTa、2.8%以上5.3%以下のW、4.1%以下のMo、0.02%以上0.15%以下のC、0.002%以上0.02%以下のB、0.06%以下のZrを含有し、以下の式で規定されるホウ素当量Zが0.007以上0.018以下である、ニッケル基超合金を提供する。
Z=X+10.811/91.224×Y
X:質量百分率でのBの含有率
Y:質量百分率でのZrの含有率
【0008】
また、本開示は、別の側面から、上記のニッケル基超合金の粒子で構成される、ニッケル基超合金粉末を提供する。
【0009】
さらに、本開示は、さらに別の側面から、上記のニッケル基超合金粉末を敷き詰めて層を形成することと、前記層にエネルギー線を照射して前記層の少なくとも一部を溶融および凝固させることを繰り返して造形体を製造する、造形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高温での延性が良好なニッケル基超合金、前記ニッケル基超合金の粒子で構成されたニッケル基超合金粉末および前記ニッケル基超合金粉末を用いた造形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】積層造形装置の模式図である。
図2】試験片の形状を示す図である。
図3】実施例1および比較例1-5におけるホウ素当量と破断伸びとの関係を示すグラフである。
図4】実施例1および比較例1-5におけるホウ素当量とクラック量との関係を示すグラフである。
図5】実施例1および比較例1,2,4,5におけるホウ素当量と0.2%耐力との関係を示すグラフである。
図6】実施例1および比較例1-5におけるホウ素当量と引張強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ニッケル基超合金]
本開示の一つの側面に係るニッケル基超合金は、Ni以外の必須成分として、質量百分率で、4.8%以上5.1%以下のAl、1.4%以上1.7%以下のTi、14.2%以上19.2%以下のCr、4.5%以上12.4%以下のCo、0.7%以上1.5%以下のTa、2.8%以上5.3%以下のW、0.02%以上0.15%以下のC、0.002%以上0.02%以下のBを含有する。なお、以下の説明では、「%」は「質量%」を意味する。
【0013】
また、前記ニッケル基超合金は、その他の選択的成分として、4.1%以下のMo、0.06%以下のZrの少なくとも1つを含有してもよい。ニッケル基超合金の上述した成分以外の残部は、Niおよび不可避的不純物である。不可避的不純物には、Si、Mn、P、S、Cu、Nb、Fe、O、Nなどが含まれる。
【0014】
さらに、前記ニッケル基超合金では、以下の式(1)で規定されるホウ素当量Zが0.007以上0.018以下である。
Z=X+10.811/91.224×Y ・・・(1)
X:質量百分率でのBの含有率
Y:質量百分率でのZrの含有率
【0015】
Alは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、γ’相の形成作用を有し、Alの含有量の増加に伴いγ’相の体積割合も増加する。このため、Alの含有率を4.8%以上5.8%以下とすることで、γ’相の体積割合を所定の範囲内とすることができる。
【0016】
TiもAlと同様に、上述の組成を有するニッケル基超合金において、γ’相の形成作用を有する。このため、Tiの含有率を1.4%以上とすることで、γ’相の体積割合を高めることができる。他方、Tiは、僅かではあるものの凝固脆性温度域(Brittle Temperature Range、以下、BTR)を広げる作用を有する。このため、Tiの含有率を1.7%以下とすることで、BTRが広くなりすぎることを防止できる。BTRは急冷凝固時の液相線温度と固相線温度との差であり、BTRが狭いほど急速溶融急速凝固プロセスで発生するクラックが少なくなる。
【0017】
Crは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、耐酸化性を向上させる作用、およびニッケル固溶体相の固溶強化作用を有する。このため、Crの含有率を14.2%以上とすることで、ニッケル基超合金を耐酸化性および機械的強度に優れるものとすることができる。他方、Crは、僅かではあるもののγ’相の体積割合を低減する作用、およびBTRを広げる作用を有する。このため、Crの含有率を19.2%以下とすることで、γ’相の体積割合を高めつつ、BTRが広くなりすぎることを防止できる。
【0018】
Coは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、ニッケル固溶体相の固溶強化作用を有する。このため、Coの含有率を4.5%以上とすることで、ニッケル基超合金の機械的強度を十分なものとすることができる。他方、Coは、Crと同様に僅かではあるもののγ’相の体積割合を低減する作用、およびBTRを広げる作用を有する。このため、Coの含有率を12.4%以下とすることで、γ’相の体積割合を高めつつ、BTRが広くなりすぎることを防止できる。
【0019】
Taは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、γ’相の固溶強化作用を有し、Taの含有量の増加に伴いγ’相の体積割合も増加する。このため、Taの含有率を0.7%以上1.5%以下とすることで、γ’相の体積割合を所定の範囲内とすることができる。
【0020】
Wは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、ニッケル固溶体相の固溶強化作用を有する。このため、Wの含有率を2.8%以上とすることで、ニッケル基超合金を機械的強度に優れるものとすることができる。他方、Wはγ’相の体積割合を高める作用、および僅かではあるもののBTRを広げる作用を有する。このため、Wの含有率を5.3%以下とすることで、γ’相の体積割合を所定の範囲内としつつ、BTRが広くなりすぎることを防止できる。
【0021】
Cは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、BTRを狭める作用を有する。このため、Cの含有率を0.024%以上とすることで、BTRが狭く、急冷凝固時のクラックの発生が抑制されたニッケル基超合金が得られる。他方、Cは、他の金属元素と反応して粒界に炭化物を生成し、耐食性および靭性の低下を引き起こすことがある。このため、Cの含有率を0.15%以下とすることで、粒界での炭化物の生成を抑制することができる。
【0022】
Bは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、高温での延性を高める作用を有する。このため、Bの含有率を0.002%以上とすることで、高温での延性が改善されたニッケル基超合金が得られる。他方、Bは、BTRを広げる作用を有する。このため、Bの含有率を0.02%以下とすることで、クラックの発生を抑制することができる。好ましくは、Bの含有率は0.004%以上0.012%以下である。
【0023】
Moは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、ニッケル固溶体相の固溶強化作用を有する。このため、ニッケル基超合金がMoを含有することで、ニッケル基超合金を機械的強度に優れるものとすることができる。他方、Moはγ’相の体積割合を高める作用を有する。このため、Moの含有率を4.1%以下とすることで、γ’相の体積割合を所定の範囲内とすることができる。
【0024】
Zrは、上述の組成を有するニッケル基超合金において、およびBTRを広げる作用を有する。このため、Zrの含有率を0.06%以下とすることで、BTRが広くなりすぎることを防止できる。また、Zrは高温での延性を高める作用も有するため、Zrの含有率は0.02%以上であることが好ましい。
【0025】
ニッケル基超合金が上述の組成を有することは、エネルギー分散型エックス線分光(EDX)法、波長分散型エックス線分光(WDS)法、蛍光エックス線分析法(XRF)、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、燃焼赤外線吸収法、加熱融解赤外線吸収法、または湿式化学分析法のいずれかにより確認することができる。
【0026】
[ニッケル基超合金粉末]
本開示の別の側面に係るニッケル基超合金粉末は、上述の組成を有するニッケル基超合金の粒子で構成される。当該ニッケル基超合金粉末は、積層造形法に適用した際に、造形体中のクラックの発生を抑制できる。
【0027】
前記ニッケル基超合金粉末の粒径および当該粉末を構成する粒子の形状は特に限定されない。粒径については、例えば、JIS Z 8801(2019)で規定される、公称目開き106μmの篩を通過するものとすることができ、公称目開き75μm、63μmまたは53μmの篩を通過するものとすることが好ましい。粒径の下限については、1μm以上とすることができ、5μm以上、15μm以上または25μm以上とすることが好ましい。また、粒子の形状については、例えば、球形とすることができる。
【0028】
前記ニッケル基超合金粉末の製造方法は特に限定されず、公知の金属粉末の製法の中から所定の粒径および粒子形状の粉末が得られるものを適宜選択すればよい。一例として、溶融金属に高圧のガスを吹き付けて冷却し、金属粒子を得るガスアトマイズ法が挙げられる。ガスアトマイズ法は、金属の酸化を抑制しつつ、球形の粒子が得られる利点を有する。得られたニッケル基超合金粉末は、そのまま造形体の製造に供してもよく、篩等により分球して粒度を揃えた後、造形体の製造に供してもよい。
【0029】
[造形体の製造方法]
本開示のさらに別の側面に係る造形体の製造方法は、図1に示すように、上述のニッケル基超合金粉末3を敷き詰めて層5を形成することと、層5にエネルギー線6を照射して層5の少なくとも一部を溶融および凝固させることを繰り返して造形体7を製造する方法である。この製造方法により、クラックの少ない造形体7を得ることができる。
【0030】
前記製造方法は、例えば図1に示すような積層造形装置1を用いて行われる。なお、前記製造方法で用いられる積層造形装置はこれに限られず、公知の金属用積層造形装置から適宜選択すればよい。
【0031】
積層造形装置1は、ニッケル基超合金粉末3を貯留する貯留槽31と、貯留槽31に隣接する造形室32と、造形室32を挟んで貯留槽31と反対側に位置するコレクター33を含む。また、積層造形装置1は、貯留槽31の底を構成する供給ピストン21と、造形室32の底を構成する造形ピストン22と、コレクター33の底を構成する回収ピストン23を含む。さらに、積層造形装置1は、貯留槽31の上方からコレクター33の上方まで移動するリコータ4と、造形室32の上方でエネルギー線6を放射するエネルギー線放射装置を含む。
【0032】
積層造形装置1では、まず供給ピストン21が上昇し、貯留槽31内のニッケル基超合金粉末3が所定の高さだけ押し上げられる。ついで、リコータ4の移動によって、押し上げられたニッケル基超合金粉末3が造形室32へと供給されるとともに、平面上に敷き詰められて層5が形成される。余剰のニッケル基超合金粉末3はリコータ4の移動に伴ってコレクター33に落下する。その後、層5に所定のパターンでエネルギー線6が照射され、これにより層5の少なくとも一部が溶融および凝固する。これにより、造形体7中の特定断面が形成される。この工程が繰り返されることにより特定断面が積み重ねられて造形体7が製造される。
【0033】
層5への所定のパターンでのエネルギー線6の照射は、エネルギー線6が層5の表面上に所定のピッチおよび所定の速度で走査されながら行われる。例えば、エネルギー線6はレーザまたは電子ビームである。
【0034】
製造された造形体7は熱処理されてもよい。造形体7に行う熱処理としては、溶体化処理および時効処理が挙げられる。溶体化処理および時効処理はこの順に行われる。溶体化処理と時効処理とは、異なる熱処理装置を用いて別々に行ってもよく、同一の熱処理装置を用いて連続的に行ってもよい。また、溶体化処理の前に造形体7に熱処理としてHIP(Hot Isostatic Pressing)処理を施してもよい。
【0035】
例えば、溶体化処理として、造形体7を1100℃以上1250℃以下の温度にて1時間以上5時間以下の時間保持した後に900℃以下まで冷却してもよい。このときの冷却は、比較的に短時間で行われることが好ましい(急冷)。また、時効効果として、溶体化処理された造形体7を800℃以上900℃以下の温度にて12時間以上48時間以下の時間保持した後に室温まで冷却してもよい。このときの冷却も、比較的に短時間で行われることが好ましい(急冷)。
【0036】
溶体化処理および時効処理のいずれについても、熱処理雰囲気は特に限定されない。例えば、熱処理雰囲気は、真空、アルゴン、空気のいずれであってもよい。また、冷却(急冷)は、水冷、空冷、油冷、ガスファン冷却のいずれであってもよい。
【実施例0037】
以下、本開示を実施例により説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
合金組成が、Al:5%、Ti:1.6%、Cr:17.5%、Co:8.6%、Ta:1%、W:4%、Mo:1.9%、C:0.06%、B:0.05%、Zr:0.07%、残部:Niおよび不可避的不純物となるように調製されたニッケル基超合金粉末を準備した。粒子径分布は、d10=24.88μm、d50=37.42μm、d90=56.32μmであった。
【0039】
上記のニッケル基超合金粉末を、積層造形装置(EOS社製、M290)に装填し、レーザ出力210W、走査速度1200mm/s、走査ピッチ60μm、積層厚40μmの条件で第1の造形体を製造した。また、レーザ出力を270W、走査速度を1000mm/s、走査ピッチを70μmに変更して第2の造形体を製造した。第1の造形体の形状は幅60mm、奥行き10mm、高さ(積層方向)10mmの直方体状とし、第2の造形体の形状は、幅6mm、奥行き5mm、高さ(積層方向)4.5mmの直方体状とした。
【0040】
第2の造形体には熱処理を施さず、第1の造形体には以下のように熱処理を施した。まず、第1の造形体を熱処理炉内に配置し、溶体化処理として、熱処理炉内の雰囲気を50Pa以上70Pa以下のアルゴンとしたまま造形体を1170℃で2時間保持した後、400kPaのアルゴンによるガスファン冷却で室温まで急冷した。ついで、時効処理として、熱処理炉内の雰囲気を50Pa以上70Pa以下のアルゴンとしたまま造形体を840℃で24時間保持した後、400kPaのアルゴンによるガスファン冷却で室温まで急冷した。
【0041】
[比較例1]
合金組成が、Al:5%、Ti:1.6%、Cr:17.5%、Co:8.6%、Ta:1%、W:4%、Mo:1.9%、C:0.06%、Zr:0.04%、残部:Niおよび不可避的不純物となるように調製されたニッケル基超合金粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして熱処理された第1の造形体と未熱処理の第2の造形体を得た。ニッケル基超合金粉末の粒子径分布は、d10=27.87μm、d50=43.93μm、d90=66.68μmであった。
【0042】
[比較例2]
ニッケル基超合金粉末として市販のIN738LC-P粉末を用いるとともに下記の熱処理以外は実施例1と同様にして熱処理された第1の造形体と未熱処理の第2の造形体を得た。ニッケル基超合金粉末の粒子径分布は、d10=24.86μm、d50=33.54μm、d90=48.04μmであった。
【0043】
熱処理として、溶体化処理の前に、HIP処理を行った。HIP処理では、熱処理炉内の雰囲気を104MPaのアルゴンとした上で、造形体を1204℃で4時間保持した後に室温までゆっくり冷却した。HIP処理後の溶体化処理では、熱処理炉内の雰囲気を50Pa以上70Pa以下のアルゴンとしたまま造形体を1204℃で2時間保持した後、400kPaのアルゴンによるガスファン冷却で室温まで急冷した。溶体化処理後の時効処理では、熱処理炉内の雰囲気を50Pa以上70Pa以下のアルゴンとしたまま造形体を843℃で24時間保持した後、400kPaのアルゴンによるガスファン冷却で室温まで急冷した。
【0044】
[比較例3]
ニッケル基超合金粉末として市販のIN738LC-T1粉末を用いたことと、第1の造形体の形状を幅50mm、奥行き6mm、高さ(積層方向)6mmの直方体状としたこと以外は比較例2と同様にして熱処理された第1の造形体と未熱処理の第2の造形体を得た。ニッケル基超合金粉末の粒子径分布は、d10=26.57μm、d50=43.93μm、d90=66.80μmであった。
【0045】
[比較例4]
ニッケル基超合金粉末として市販のIN738LC-T2粉末を用いた以外は比較例2と同様にして熱処理された第1の造形体と未熱処理の第2の造形体を得た。ニッケル基超合金粉末の粒子径分布は、d10=29.66μm、d50=44.90μm、d90=66.66μmであった。
【0046】
[比較例5]
ニッケル基超合金粉末として市販のIN738LC-T4粉末を用いた以外は比較例2と同様にして熱処理された第1の造形体と未熱処理の第2の造形体を得た。ニッケル基超合金粉末の粒子径分布は、d10=25.96μm、d50=41.64μm、d90=63.26μmであった。
【0047】
[組成]
実施例1および比較例1-5で用いたニッケル基超合金粉末のミルシートに記載された組成を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
また、表1中のB含有率およびZr含有率から、上記の式(1)に従ってホウ素当量を計算した。ホウ素当量の計算結果を表2に示す。なお、表2中には、後述する引張試験の結果およびクラック量観察の結果も含まれる。
【0050】
【表2】
【0051】
[引張試験]
実施例1および比較例1-5の熱処理された第1の造形体から、図2に示すような棒状の試験片を削り出し、この試験片に対してASTM(American Society for Testing and Materials) E21に従って引張試験を行い、760℃での0.2%耐力、引張強度および破断伸びを測定した。引張試験の結果を表2に示す。また、図3に実施例1および比較例1-5のホウ素当量と破断伸びとの関係を示す。
【0052】
[クラック量観察]
実施例1および比較例1-5の未熱処理の第2の造形体を幅方向の中心線に沿って切断し、その断面を光学顕微鏡(OM)(オリンパス製、GX53)にて撮影した。そのOM像に対して画像解析により二値化処理を行った後、20ピクセル(1ピクセルの幅は0.926μmとなる解像度で撮像)以上の面積を有する黒色部分をクラックとして抽出した。ついで、クラックとして抽出した各部分のフェレー径を測定し、各クラックの長さとした。最後に、各クラックの長さの合計(μm)を、OM像を得た領域の面積(mm2)で割った商を、単位面積あたりのクラック量(mm/mm2)とした。クラック量観察の結果を表2に示す。また、図4に実施例1-5のホウ素当量とクラック量との関係を示す。
【0053】
図3および図4から、ホウ素当量が0.007以上0.018以下の実施例1では、クラックの発生が抑制されるだけでなく、高温での延性が良好であることが分かる。その他にも、図5および図6に示す上記の引張試験の結果から、ホウ素当量が0.007以上0.018以下の実施例1では、高温強度が高いことが分かる。
【0054】
<まとめ>
第1の態様として、本開示は、一つの側面から、質量百分率で、4.8%以上5.1%以下のAl、1.4%以上1.7%以下のTi、14.2%以上19.2%以下のCr、4.5%以上12.4%以下のCo、0.7%以上1.5%以下のTa、2.8%以上5.3%以下のW、4.1%以下のMo、0.02%以上0.15%以下のC、0.002%以上0.02%以下のB、0.06%以下のZrを含有し、以下の式で規定されるホウ素当量Zが0.007以上0.018以下である、ニッケル基超合金を提供する。
Z=X+10.811/91.224×Y
X:質量百分率でのBの含有率
Y:質量百分率でのZrの含有率
【0055】
上記の構成によれば、優れた高温強度を有するとともに高温での延性が良好なニッケル基超合金が提供される。
【0056】
第2の態様として、本開示は、別の側面から、上記のニッケル基超合金の粒子で構成される、ニッケル基超合金粉末を提供する。
【0057】
第3の態様として、本開示は、さらに別の側面から、上記のニッケル基超合金粉末を敷き詰めて層を形成することと、前記層にエネルギー線を照射して前記層の少なくとも一部を溶融および凝固させることを繰り返して造形体を製造する、造形体の製造方法を提供する。
【0058】
第4の態様として、第3の態様において、例えば、製造された前記造形体を、1100℃以上1250℃以下の温度にて1時間以上5時間以下の時間保持した後に900℃以下まで冷却し、ついで800℃以上900℃以下の温度にて12時間以上48時間以下の時間保持した後に室温まで冷却してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 積層造形装置
3 ニッケル基超合金粉末
5 層
6 エネルギー線
7 造形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6