(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011102
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】甲状腺被ばく予防用経口組成物および甲状腺被ばく予防用飲食品
(51)【国際特許分類】
A61K 31/724 20060101AFI20240118BHJP
A61P 5/14 20060101ALI20240118BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240118BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A61K31/724
A61P5/14
A23L33/10
A23L2/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112824
(22)【出願日】2022-07-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 令和 3年 9月11日 開催場所 オンライン(Zoom)による開催 集会名 第16回 小動物インビボイメージング研究会
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】廣田 昌大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】桧垣 正吾
(72)【発明者】
【氏名】西 弘大
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD36
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZC06
(57)【要約】
【課題】放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくを予防又は低減する甲状腺被ばく予防用経口組成物と、これを含む甲状腺被ばく予防用飲食品を提供すること。
【解決手段】シクロデキストリンを含み、
放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくを予防又は低減する甲状腺被ばく予防用経口組成物、および、この甲状腺被ばく予防用経口組成物を含む甲状腺被ばく予防用飲食品。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンを含み、
放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくを予防又は低減する甲状腺被ばく予防用経口組成物。
【請求項2】
前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリンを50質量%以上含む請求項1に記載の甲状腺被ばく予防用経口組成物。
【請求項3】
経口または吸入摂取された放射性ヨウ素を、消化器内にてシクロデキストリンで包接することにより、小腸における前記放射性ヨウ素の吸収を抑制する請求項1または2に記載の甲状腺被ばく予防用経口組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の甲状腺被ばく予防用経口組成物を含む甲状腺被ばく予防用飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲状腺被ばく予防用経口組成物と、これを含む甲状腺被ばく予防用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
甲状腺は、頸部にある臓器であり、甲状腺ホルモンを生産している。甲状腺ホルモンは、トリヨードチロニンとチロキシンの2種類の化合物の総称であり、トリヨードチロニンは分子中に3個、チロキシンは分子中に4個のヨウ素原子を含む。甲状腺ホルモンは、成長や代謝等に関わり、生命活動の維持に重要なホルモンである。そのため、動物は、甲状腺ホルモンの原料であるヨウ素が不足しないように、甲状腺内に原料であるヨウ素を蓄積している。また、動物が蓄積するヨウ素量には上限があり、ある程度のヨウ素が蓄積されると、過剰なヨウ素は尿として排出される。
【0003】
チョルノービリ原子力発電所での事故後に小児甲状腺がんの患者数が急増したことが知られている。これは、原発事故により環境中に放出された放射性ヨウ素(131I)が、野菜や牛乳等の飲食品を通じて体内に取り込まれ、特に成長期である小児は大量の甲状腺ホルモンが生産されるため大人よりも多くの放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積したことによる内部被ばくが原因とされている。
また、放射性ヨウ素(123I、125I、131I)は、甲状腺疾患の診断薬や治療薬にも用いられている。ここで、ヨウ素は揮発性であるため、放射性ヨウ素は、投与された患者の呼気、汗、唾液、排泄物を介して体外に排出され、空気中に飛散するため、医師や看護師等の医療従事者、患者の家族等に移行するおそれがある。特に、日常的に放射性ヨウ素が投与された患者と向き合う医療従事者は、放射性ヨウ素による内部被ばくのリスクが継続する。
【0004】
放射性ヨウ素による内部被ばくを低減する方法として、安定ヨード剤(ヨウ化カリウム)の服用が知られている。安定ヨード剤は、放射性ヨウ素に晒される24時間前から晒された直後に服用するものであり、放射性でないヨウ素を事前に甲状腺に蓄積することにより、放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積されることを防ぎ、内部被ばくを抑えるものである。
しかし、安定ヨード剤は、放射性ヨウ素に晒される24時間前から晒された直後に服用する必要があり、服用するタイミングがずれると内部被ばくを低減する効果は期待できない。また、ヨウ素は、過剰に摂取しすぎると甲状腺ホルモンの生成能が低下する甲状腺機能障害が起こることが知られており、放射性ヨウ素による被ばくリスクのないタイミングでの安定ヨード剤の服用はデメリットしかない。そのため、安定ヨード剤は、放射性ヨウ素に晒されるリスクが非常に高まった状態で専門家の指示に従って服用するものであって、服用による甲状腺機能障害のリスクがあることから、放射性ヨウ素による被ばくリスクが低いときに、予防的に服用することはできない。
また、継続的に放射性ヨウ素に晒されるリスクのある医療従事者にとっても、微量の放射性ヨウ素に晒されることのリスクより、安定ヨード剤の服用による甲状腺機能障害のリスクの方が大きいため、安定ヨード剤を予防的に服用することはできない。
【0005】
放射性ヨウ素による内部被ばくを抑えるために、放射性ヨウ素に晒されるリスクが低いときに予防的に服用できる薬剤は知られていない。そのため、放射性ヨウ素による被ばくリスクを低減するには、放射性ヨウ素を環境中に放出しないことが最重要対策であり、例えば、特許文献1には、放射性物質捕捉成分を含む放射性物質回収フィルターを用いた、特に気体中の放射性ヨウ素を吸着する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくを予防又は低減する甲状腺被ばく予防用経口組成物と、これを含む甲状腺被ばく予防用飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.シクロデキストリンを含み、
放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくを予防又は低減する甲状腺被ばく予防用経口組成物。
2.前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリンを50質量%以上含む1.に記載の甲状腺被ばく予防用経口組成物。
3.経口または吸入摂取された放射性ヨウ素を、消化器内にてシクロデキストリンで包接することにより、小腸における前記放射性ヨウ素の吸収を抑制する1.または2.に記載の甲状腺被ばく予防用経口組成物。
4.1.または2.に記載の甲状腺被ばく予防用経口組成物を含む甲状腺被ばく予防用飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の甲状腺被ばく予防用経口組成物は、食品でもあるシクロデキストリンを有効成分としており、服用による副作用がないため、放射性ヨウ素による内部被ばくのリスクが低いときでも予防的に服用することができる。
本発明の甲状腺被ばく予防用経口組成物は、放射性ヨウ素を強力に包接し、小腸における放射性ヨウ素の取り込みを阻害するため、放射性ヨウ素に晒された際の甲状腺の内部被ばくを低減することができる。本発明の甲状腺被ばく予防用経口組成物は、排便を促す作用を有しており、放射性ヨウ素が体内に留まる時間を短くすることができるため、甲状腺のみならず人体全体への内部被ばくを低減することができる。
【0010】
本発明の甲状腺の内部被ばく予防用飲食品は、飲料、食品、サプリメント等の形態として、放射性ヨウ素による内部被ばくのリスクが低いときでも予防的に摂取することができる。本発明の甲状腺の内部被ばく予防用飲食品は、様々な飲食品とすることができるため、ゼリー等のお菓子やジュース等の飲料とすることにより、薬の服用が困難である乳児や幼児等の小児であっても容易に摂取することができ、放射性ヨウ素による甲状腺がんの発症リスクが特に高い小児における甲状腺がんのリスクを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1と比較例1におけるマウス頸部断面方向から見た甲状腺への放射性ヨウ素集積状況を示す画像。
【
図2】実施例1と比較例1、2における放射性ヨウ素の基準線源(1MBq)に対する甲状腺集積量を示すグラフ。
【
図3】実施例1と比較例1における放射性ヨウ素の基準線源(1MBq)に対する腹部残存量を示すグラフ。
【
図4】実施例2における、人工尿中の放射性ヨウ素残存率を示すグラフ。
【
図5】比較例3における、精製水中の放射性ヨウ素残存率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の甲状腺被ばく予防用経口組成物(以下、経口組成物ともいう)は、シクロデキストリンを含む。
シクロデキストリン(以下、CDともいう)は、α-グルコピラノース基がα-1,4-グリコシド結合によって環状につながった円錐台状の構造を有する化合物であり、環状オリゴ糖とも呼ばれる。シクロデキストリンは、環を構成するピラノース基の個数により、α-CD(6個)、β-CD(7個)、γ-CD(8個)の主に3種類が存在する。
CDは、その円錐台状の内側が疎水性、外側が親水性であり、内部に疎水性の物質を取り込んで包接することができる。
【0013】
本発明の経口組成物において、CDは、α-CDを含むことが好ましく、α-CDを含む2種以上のCDの混合物であってもよい。本発明の経口組成物は、CD全体に対して、α-CDを50質量%以上含むことが好ましい。α-CDとβ-CDは、内径のサイズとヨウ素原子の大きさとが近く、より効率的にヨウ素原子を包接することができる。なお、α-CDは、β-CDと比べて包接したヨウ素原子がCDから外れにくいため、小腸でのヨウ素の体内への取り込みをより抑制することができる。さらに、β-CDには5mg/kg/dayの摂取限度がある一方、α-CDには摂取限度がない。また、α-CDは、β-CDと比較して水への溶解度が高い。本発明の経口組成物は、CD全体に対するα-CDの割合が80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがよりさらに好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0014】
本発明の甲状腺被ばく予防用経口組成物は、食品、飲料、サプリメント等の飲食品、医薬品等として使用することができる。
食品としては、通常の食品の他、栄養補助食品、機能性食品、健康食品、特定保健用食品等とすることができる。飲料としては、例えば、清涼飲料、果実飲料、乳清飲料等とすることができる。ただし、後述するように、アルコール飲料とすることは好ましくない。サプリメントとする場合、形態としては、例えば、粉末、散剤、顆粒、錠剤、カプセル等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。
医薬品用途において、投与に関しては、有効成分を、経口摂取に適した固体又は液体の医薬用担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。形態としては、例えば、粉末、散剤、顆粒、錠剤、カプセル等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。
【0015】
サプリメントや医薬品用途とする場合、これらの製剤は、常法により調製することができる。製剤用の担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチレンデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、結合剤、等張化剤、保存剤、緩衝材、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0016】
本発明の経口組成物は、食品、飲料、サプリメント等の飲食品、医薬品等として経口摂取され、経口または吸入摂取された放射性ヨウ素と消化器内で出会うことにより、この放射性ヨウ素を包接する。消化管内に存在するCDの量が多くなるほど、放射性ヨウ素を包接する確率が高くなるため、CDの摂取量は多いほど好ましく、例えば、1g/日以上であることが好ましく、2g/日以上であることがより好ましく、5g/日以上であることがさらに好ましく、10g/日以上であることがよりさらに好ましく、15g/日以上であることがよりさらに好ましい。これらの量のCDを1度に摂取するよりも、複数回に分けて摂取する方が放射性ヨウ素に晒された際に消化器内にCDが残留している可能性が高くなるため好ましい。さらに、CDは難消化性食物繊維であるため、一度に大量に摂取した場合にお腹が緩くなることが懸念されることからも、複数回に分けて摂取する方が好ましい。そのため、CDを1日に何度も気軽に摂取することができるよう、食品または飲料であることが好ましく、飲料であることがより好ましく、飲料水であることがさらに好ましい。飲料である場合、飲料中のCD濃度は、1g/L以上であることが好ましく、2g/L以上であることがより好ましく、5g/L以上であることがさらに好ましく、10g/L以上であることがよりさらに好ましい。飲料中のCD濃度は高いほうが好ましく、例えば、α-CDは150g/L以下とすることができ、100g/L以下や50g/L以下とすることもでき、β-CDは15g/L以下とすることができ、12g/L以下とすることができる。
【0017】
ここで、CDとの親和性が特に高い化合物のうち、飲食品中に含まれる化合物として、エタノールがある。本発明の経口組成物を服用した際に、消化器内にエタノールが存在すると、CDは放射性ヨウ素よりも優先的にエタノールを包接してしまうため、本発明の経口組成物による放射性ヨウ素の体内への取り込み防止効果が低下してしまう。そのため、本発明の経口組成物を服用する場合、消化器内にエタノールが存在することは好ましくなく、本発明の経口組成物の服用24時間前からエタノールを多く含む酒類等を摂取しないことが好ましい。
【0018】
ヨウ素は小腸で体内に取り込まれ、甲状腺に蓄積される。CDは小腸では分解(消化)されないため、CDに包接された放射性ヨウ素は、CDに包接されたまま小腸を通過し、体内に取り込まれない。CDは、大腸のいわゆる善玉菌により多少分解されるが、ヨウ素は大腸からは吸収されないため、大腸内でCDが分解されて放射性ヨウ素がCDから離れても、放射性ヨウ素は体内へ取り込まれることなくそのまま排泄される。
【0019】
本発明の経口組成物は、ヒトを含む様々な動物に投与することができる。
本発明の経口組成物は、食品としても用いられているCDを有効成分とするものであり、CDによる副作用リスクはほとんど考えられない。そのため、放射性ヨウ素に被ばくするリスクがある場合に、CD摂取による副作用リスクを考慮することなく、予防的に摂取することができる。そして、本発明の経口組成物は、実際に放射性ヨウ素に晒された場合は内部被ばくを抑制することができ、放射性ヨウ素に晒されなかった場合に健康を害することはない。
CDは、いわゆる難消化性食物繊維であり、排泄を促進する作用を有する。そのため、本発明の経口組成物は、放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積を防ぐのみならず、放射性ヨウ素が体内に留まる時間を短くすることができるため、内部被ばくの総量を抑えることができる。
【実施例0020】
「実験例1」
投与18時間前より絶食した週齢6週間のDDYマウスを用いた。
化学形がヨウ化ナトリウムの放射性ヨウ素131(131I)10MBqおよびα-CD12.5μgが溶解した生理食塩水250μLを、経口ゾンデを用いてマウスの胃内に投与した。
【0021】
「比較例1」
α-CDを含まない以外は実施例1と同様にした。
「比較例2」
α-CDをβ-CDとした以外は実施例1と同様にした。
【0022】
投与から1、3、6、23時間後に、SPECT/CT(TriFoil社 FX3400)で以下の条件で撮像した。
「撮像条件」
STEP and SHOOT法
走査限界:15秒/撮影
プロジェクション数:64
回転角度:360
回転半径:60mm
コリメータ:Single-pinhole 1mm F90
【0023】
撮像結果から、放射性ヨウ素の甲状腺移行率、および腹部残存率を評価した。ただし、比較例1は、投与から1、3、6、23時間後に撮像したシリーズと1、3、6、24時間後に撮像したシリーズがあり、数値の算出には後者のデータを用いた。比較例2は、投与から1、3、6、24時間後に撮像した。
【0024】
実施例1と比較例1のマウス頸部断面方向から見た甲状腺への放射性ヨウ素集積状況を示す画像を
図1に示す。
各画像の中央下に甲状腺が位置し、放射性ヨウ素の集積量に比例して輝度が高く写っている。α-CDを含む実施例1に対して、α-CDを含まない比較例1の画像は、いずれの時間においても輝度が高くなっている。このことから、α-CDが、放射性ヨウ素が甲状腺に集積するのを抑制し、被ばくを低減させられることが確かめられた。
【0025】
図2は、放射性ヨウ素の基準線源(1MBq)に対する甲状腺集積量を示す。別に撮像した基準線源画像と甲状腺集積画像の輝度を比較することによって算出した。
α-CDを含む実施例1の投与から1、3、6、23時間後の甲状腺集積量は、それぞれ0.005、0.01、0.015、0.04であった。
これに対して、α-CDを含まない比較例1の投与から1、3、6、24時間後の甲状腺集積量は、それぞれ0.004、0.009、0.015、0.08であった。
β-CDを含む比較例2の甲状腺集積量は、それぞれ0.01、0.03、0.058、0.081であった。
このことから、α-CDは、全時間に渡って放射性ヨウ素の甲状腺集積を低減させられることが確かめられた。一方、β-CDは、投与から6時間後まではα-CDと同等以上に甲状腺集積量積を低減させているが、24時間後は低減効果が見られなくなった。
【0026】
図3は、放射性ヨウ素の基準線源(1MBq)に対する腹部残存量を示す。別に撮像した基準線源画像と腹部集積画像の輝度を比較することによって算出した。
α-CDを含む実施例1の投与から1、3、6、23時間後の腹部残存量は、それぞれ1.25、0.85、0.7、0.3であった。
これに対して、α-CDを含まない比較例1の腹部残存量は、それぞれ1.42、1.2、0.98、0.3であった。
α-CDを含む実施例1は、投与から6時間後までの腹部残存量が低下していることから、排泄を促進して放射性ヨウ素が消化器内に留まる時間が短くなり、放射性ヨウ素による腹部の被ばく低減にも効果が認められた。
【0027】
「実験例2」
揮発性であるヨウ素は、開放状態で静置すると時間とともにヨウ素量が減少するが、CDに包接されると揮発が抑制される。そのため、CDの有無による揮発量の差を見ることでCDのヨウ素包接効果を検証することができる。また、不純物の有無による揮発量の差を見ることで、不純物がCDのヨウ素包接に与える影響を検証することができる。
【0028】
模擬体液として、JIS T 3214:2021「ぼうこう(膀胱)留置用カテーテル」に用いられる人工尿を用いた。この人工尿は、尿素、塩化ナトリウム、無水りん酸二水素ナトリウム、塩化アンモニウム等を含む。
人工尿にα-CDを0%、0.5%、1%、2%、5%となるよう添加し、さらに化学形がヨウ化ナトリウムの安定ヨウ素及び放射性ヨウ素125(125I)を溶解させ、含有ヨウ素が全て放射性ヨウ素131(131I)であった場合に1.5MBq/mLになるようヨウ素濃度を調整した。
50mLねじ口U式容器にヨウ素含有人工尿20mLを注入し、γ線シンチレーション測定装置(アロカJDC-1812)により125Iの放射能を測定した。その後、開放状態で静置するとともに、数日から数十日おきに125Iの放射能を測定した。人工尿注入直後の放射能に対する各測定回の放射能から、容器におけるヨウ素残存率を評価した。
【0029】
「比較例3」
人工尿を精製水とした以外は実施例1と同様にした。
【0030】
実施例2、比較例3の結果を、それぞれ
図4、5に示す。
人工尿(実施例2)、精製水(比較例3)ともに、α-CDの含有量が増えるとともに、ヨウ素の残存率が高くなった。CDの添加量が多いほど、包接量(CDに包接されるヨウ素の数)が増加したことが確かめられた。
CDが添加されてないネガティブコントロールにおいて(α-CD0%)、精製水中(比較例3)は、人工尿中(実施例2)よりもヨウ素残存量が大幅に低く、ヨウ素が揮発しやすかった。これは、人工尿では水分が蒸発すると尿成分が結晶化してこの結晶がヨウ素を固定したが、精製水では結晶が生じず結晶によるヨウ素の固定が起きなかったためであると考えられる。
CDが添加されている場合(α-CD0.5%、1%、2.5%、5%)、人工尿中(実施例2)と精製水中(比較例3)とで、ヨウ素残存量に大きな差はなかった。このことから、体液(人工尿)に含まれる塩化ナトリウム等の成分が、CDのヨウ素包接能に影響を与えないことが確認できた。