(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111335
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103329
(22)【出願日】2024-06-26
(62)【分割の表示】P 2022028545の分割
【原出願日】2022-02-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO先導研究プログラム/新産業創出新技術先導研究プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴則
(72)【発明者】
【氏名】神永 賢吾
(57)【要約】
【課題】スパッタリングターゲットの割れを抑制できる、Al含有量の高いCu-Al2元合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】Cu及びAlの2元合金を含み、残部が不可避的不純物からなる焼結体により構成されるスパッタリングターゲットであって、CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たし、相対密度が95%以上であるスパッタリングターゲット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu及びAlの2元合金を含み、残部が不可避的不純物からなる焼結体により構成されるスパッタリングターゲットであって、
CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たし、
相対密度が95%以上であるスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットのスパッタ面の中心から外周に延び、互いに直交する2本の直線上に並ぶ、前記スパッタ面の中心位置、外周位置、及びそれらの中間にある中間位置の合計5点におけるAlの含有量を誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定した場合、それぞれの含有量の最大値及び最小値の差が0.2at%以下である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
X線回折装置で分析し、その結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を用いて定量分析すると、CuAl2とCuAlの合計値の質量比が95%以上である、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記Cu及びAlの2元合金が、CuAl2及び/又はCuAlの金属間化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
酸素含有量が50~1000質量ppmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
Cu及びAlの2元合金を含み、残部が不可避的不純物からなる焼結体により構成されるスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記焼結体におけるCuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たし、
前記方法は、
アトマイズ粉を作製する工程と、
前記アトマイズ粉、及びこれに由来する粉末のうち少なくとも一方を、550℃以上の温度でホットプレスにて焼結させる工程と
を含む方法。
【請求項7】
前記アトマイズ粉を作製する前に、CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たすようにインゴットを作製する工程を更に含み、
前記インゴットから前記アトマイズ粉を作製する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
焼結の前に、前記アトマイズ粉を更に粉砕する工程を更に含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記Cu及びAlの2元合金が、CuAl2及び/又はCuAlの金属間化合物を含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」と称する場合もある。)及びその製造方法に関する。とりわけ、Cu-Al2元合金を含むスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一部の半導体装置は、多層配線構造体を有しており、前記多層配線構造体は、導体配線、絶縁膜、拡散バリア層等を備える。従来、導体配線には純Cuが使用されることが多かったが、近年、配線の微細化に伴い、電気抵抗等の新たな問題が浮上してきている。これに伴い、新たな導体配線用の材料の模索が行われている。
【0003】
特許文献1では、配線材料として、種々の金属間化合物を開示しており、その1つとしてCuAl2を開示している。また、金属間化合物CuAl2を形成するために、特許文献1では、CuとAlの純金属ターゲットを直流スパッタ法で蒸着することを開示している。
【0004】
特許文献2では、配線材料用途として、CuAl合金のスパッタリングターゲットを、鍛造及び圧延等のプロセスを経て製造することが開示されている。
【0005】
特許文献3では、CuAl合金のスパッタリングターゲットの代わりに、ターゲット表面形状を扇状としたCuとAl金属を交互に組み合わせたターゲットを使用することが提案されている。このスパッタリングターゲットを用いて、成膜した結果、CuとAlが組成的に所望の濃度に混ざり合い、Cu-Al合金からなるスパッタターゲットと同等のCu-Al合金膜が得られたことが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4では、Cuターゲットの上に、添加物としてAlチップを置いて、これをターゲットとして成膜する手法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-212892号公報
【特許文献2】国際公開第2015/151901号
【特許文献3】特開2009-188281号公報
【特許文献4】特開2004-076080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属間化合物CuAl2は、新たな配線材料として着目を集めていることから、スパッタリングにより配線を形成する方法が模索されている。ここで、特許文献1のように純Cuと純Alの2種類のターゲットを共スパッタリングすることは煩雑であり、また、目的通りの金属間化合物を形成するために様々なスパッタ条件を調節する必要がでてくる。
【0009】
従って、スパッタする時点で既に金属間化合物CuAl2が形成されている方が有利となる。即ち、CuAl2のターゲット材が望まれる。
【0010】
しかし、本発明者が検討した結果、特許文献2に開示された方法と同様の方法(圧延、鍛造等のプロセス)に基づき、特許文献2に記載のCuAl(Al:0.01wt%、10wt%)のインゴットではなく、CuAl2のインゴットを準備した後、これに対して圧延、鍛造等の加工を行うとき、材料が割れてしまい、実際にスパッタリングターゲットを製造できないことが判明した。これは、特許文献2に記載のCuAl(Al:0.01wt%、10wt%)の場合と比べて、CuAl2において、Alの含有量が増えたことから、靭性が低くなってしまったと考えられる。したがって、従来では、Al含有量の高いCu-Al2元合金スパッタリングターゲットの実現は事実上不可能であった。
【0011】
特許文献3及び4の手法では、熱膨張や収縮特性などの特性が異なる材料が近接しているため、スパッタリングターゲットが加熱・冷却される際や加工の際に割れが発生する可能性が高い。また、異素材を使用するため、スパッタリング時に不純物が混入するリスクが高い。そのため、スパッタリングターゲットの割れを抑制し、スパッタリング時の不純物の混入を抑制する観点から、異種成分を組み合わせたスパッタリングターゲットではなく、より均一な組成を有するCu-Al2元合金スパッタリングターゲットのほうが望ましい。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、一実施形態において、スパッタリングターゲットの割れを抑制できる、Al含有量の高いCu-Al2元合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意検討したところ、スパッタリングターゲットを焼結体とすることにより、Al含有量の高いCu-Al2元合金スパッタリングターゲットを実現することができることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0014】
[1]
Cu及びAlの2元合金を含み、残部が不可避的不純物からなる焼結体により構成されるスパッタリングターゲットであって、
CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たし、
相対密度が95%以上であるスパッタリングターゲット。
[2]
前記スパッタリングターゲットのスパッタ面の中心から外周に延び、互いに直交する2本の直線上に並ぶ、前記スパッタ面の中心位置、外周位置、及びそれらの中間にある中間位置の合計5点におけるAlの含有量を誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定した場合、それぞれの含有量の最大値及び最小値の差が0.2at%以下である、[1]に記載のスパッタリングターゲット。
[3]
X線回折装置で分析し、その結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を用いて定量分析すると、CuAl2とCuAlの合計値の質量比が95%以上である、[1]又は[2]に記載のスパッタリングターゲット。
[4]
前記Cu及びAlの2元合金が、CuAl2及び/又はCuAlの金属間化合物を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
[5]
酸素含有量が50~1000質量ppmである、[1]~[4]のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
[6]
Cu及びAlの2元合金を含み、残部が不可避的不純物からなる焼結体により構成されるスパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記焼結体におけるCuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たし、
前記方法は、
アトマイズ粉を作製する工程と、
前記アトマイズ粉、及びこれに由来する粉末のうち少なくとも一方を、550℃以上の温度でホットプレスにて焼結させる工程と
を含む方法。
[7]
前記アトマイズ粉を作製する前に、CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たすようにインゴットを作製する工程を更に含み、
前記インゴットから前記アトマイズ粉を作製する、[6]に記載の方法。
[8]
焼結の前に、前記アトマイズ粉を更に粉砕する工程を更に含む、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]
前記Cu及びAlの2元合金が、CuAl2及び/又はCuAlの金属間化合物を含む、[6]~[8]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スパッタリングターゲットの割れを抑制できる、Al含有量の高いCu-Al2元合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】組成の均一性を評価するためのスパッタリングターゲットの測定箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】
(1.組成)
本発明は一実施形態において、Cu及びAlの2元合金を含み、残部が不可避的不純物からなる焼結体により構成されるスパッタリングターゲットである。スパッタリングターゲットは、バッキングプレートを含んでもよく、これに加えて、ボンディング層を含んでもよい。
【0019】
スパッタリングターゲットの形状も特に限定されないが、典型的には平板状(例えば、円形、矩形等)であり得る。
【0020】
スパッタリングターゲットにおいて、CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たす。
【0021】
Cu及びAlの合計含有量に対して、Alの含有率を48at%以上かつ70at%以下とすることにより、Cu及びAlの金属間化合物からなる導電体を良好に形成することができる。この導電体は、導電性、及び導電体と絶縁体との間の密着性に優れるなどの特性を期待することができる。この観点から、Cu及びAlの合計含有量に対してAlの含有率は、50at%以上が好ましく、55at%以上がより好ましく、62at%以上がさらにより好ましく、66at%以上がさらにより好ましい。
【0022】
また、同様の観点から、Cu及びAlの合計含有量に対してAlの含有率は、69at%以下が好ましく、68at%以下がより好ましい。
【0023】
スパッタリングターゲットは、CuAl2及び/又はCuAlの金属間化合物を含むことが好ましく、さらにより好ましくは、スパッタリングターゲットは、CuAl2及び/又はCuAlの金属間化合物である。すなわち、CuとAlの含有量はAl/(Cu+Al)=0.67±0.02、又はAl/(Cu+Al)=0.50±0.02であることがさらにより好ましく、Al/(Cu+Al)=0.67±0.01、又はAl/(Cu+Al)=0.50±0.01であることがさらにより好ましく、CuとAlの含有量はAl/(Cu+Al)=0.67、又はAl/(Cu+Al)=0.50であることがさらにより好ましい。
【0024】
CuAl2又はCuAlの金属間化合物のターゲット材を作製できれば、CuAl2配線材料又はCuAl配線材料を形成するためのCuとAlの純金属ターゲットを別々に作製する必要はなく、またスパッタリング中に不純物が混入するリスクが少ない。したがって、本実施形態のスパッタリングターゲットの純度は、好ましくは4N(99.99質量%)以上、より好ましくは4N5(99.995質量%)以上、さらにより好ましくは5N(99.999質量%)以上である。
【0025】
ここで、スパッタリングターゲットの純度が4N(99.99質量%)以上とは、グロー放電質量分析法(GDMS)にて組成分析したときに、スパッタリングターゲットに含有されるNa、P、S、K、Ca、Cr、Fe、Ni、As、Ag、Sb、Bi、Th、Uの合計量が0.01質量%(100質量ppm)未満であることを意味する。
【0026】
なお、Cu及びAlの含有量は、後述のようにCu及びAlの金属間化合物からなるインゴットからスパッタリングターゲットを製造する場合、当該インゴット中のCu及びAlの含有量とすることができ、製品のスパッタリングターゲットから測定する場合、スパッタリングターゲットの組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により測定することができる。
【0027】
スパッタリングターゲットの酸素含有量は特に限定されないが、製法上50質量ppm以上が不可避であり、1500質量ppm以下が好ましい。典型的には、酸素含有量の下限は、200質量ppm以上、又は500質量ppm以上になることがあり、酸素含有量の上限は、1000質量ppm以下になることがある。スパッタリングターゲットの酸素含有量は、不活性ガス融解-赤外線吸収法(例えば、LECO社製TCH600)により測定される。
【0028】
(2.相対密度)
本発明のスパッタリングターゲットは、一実施形態において、相対密度が95%以上である。ターゲットの相対密度を高くすることにより、スパッタリングターゲットの加工時やスパッタリング時の割れの発生を抑制できる。また、ターゲットの相対密度は高い方が、アーキングの少ない安定的なスパッタリングを行う上で、好ましい。相対密度は好ましくは97%以上であり、より好ましくは98%以上であり、さらにより好ましくは99%以上である。相対密度の上限は特にはないが、例えば100%以下とすることができ、又は99.9%以下とすることができ、又は99.5%以下とすることができ、又は99.0%以下とすることができる。
【0029】
相対密度は、相対密度=実測密度÷理論密度×100(%)の式より算出する。ここで、実測密度は、重量を体積で割った値であり、体積をアルキメデス法により測定する。理論密度は、スパッタリングターゲットの全体がCuAl2(θ相)及びCuAl(η相)であると仮定して、CuAl2(θ相)の理論密度を4.35g/cm3、CuAl(η相)の理論密度を5.36g/cm3として加重平均により計算される。なお、CuAl2(θ相)及びCuAl(η相)の割合はスパッタリングターゲットの組成から計算される。この理論密度を用いて算出された当該相対密度は、100%を超えることもあり得る。
【0030】
スパッタリングターゲットの加工時やスパッタリング時の割れの発生を抑制する観点から、相対密度が高いほうが望ましいが、単にCuとAl、あるいはCu-Al合金を溶解して、インゴットを鋳造するだけでは、相対密度を高くすることができるとしても、切断や固定の途中で割れやすく、製品としてのスパッタリングターゲットを得ることが困難である。本発明は、後述のように、アトマイズ粉を作製して、このアトマイズ粉などをさらに所定の条件で焼結することにより、初めて相対密度の高く、割れにくいCu-Al2元合金スパッタリングターゲットを実現できる。
【0031】
(3.組成の均一性)
本発明の一実施形態において、平板状のスパッタリングターゲットのスパッタ面の中心から外周に延び、互いに直交する2本の直線上に並ぶ、スパッタ面の中心位置、外周位置、及びそれらの中間にある中間位置の合計5点におけるAlの含有量をICP-OESにより測定した場合、それぞれの含有量の最大値及び最小値の差が0.2at%以下であることが好ましい。なお、外周位置は、スパッタリングターゲットの最外周から中心方向に、中心から最外周の長さの1/8の位置とする。中心位置と外周位置との中間にある中間位置は、中心位置と外周位置を結ぶ直線の中心点にある位置とする。このように、測定箇所でのAl含有量の差が小さく、組成の均一性が高いことにより、スパッタリングターゲットの組成が各箇所において均一になり、均一な導電層の形成に役立つ。
【0032】
この観点から、上記方法に基づき測定されたAlの含有量の最大値及び最小値の差は0.1at%以下であることがより好ましい。この組成の均一性は、例えばCu単体とAl単体を交互に配置又は混合したスパッタリングターゲットでは達成し得ないものであるが、後述のようにアトマイズ粉を作製することで、高い水準の均一化を達成することが可能である。
【0033】
ここで、
図1を参照して説明すると、スパッタリングターゲットのスパッタ面が円形である場合、その中心Aは円心であり、中心位置Aと、外周位置C、Eと、その中間にある中間位置B、Dの5点はL字型に配置される。外周位置C、Eはスパッタリングターゲットの最外周から中心Aの方向に、中心Aから最外周の長さの1/8の位置とする。スパッタリングターゲットのスパッタ面が矩形である場合、その中心は対角線の交点である。
【0034】
(4.結晶構造)
スパッタリングターゲットの結晶構造は、スパッタ面に対してXRD(X線回折装置)で分析することで特定することができる。各結晶相の質量比は、XRD分析の結果に対してRIR(Reference Intensity Ratio)法を用いて定量分析することで得られる。ここで、RIR法とはRIR値と、XRDの結果より得られた各結晶相の最強ピーク強度の値との比から結晶相の質量比を求める方法である。スパッタリングターゲットに結晶相A、B、C、・・・が含まれる場合、結晶相Aの質量比XAは以下の式で計算される。
XA=IAkA/(IAkA+IBkB+ICkC+・・・)
ここで、Iは各結晶相のX線の最強ピークの強度、kは各結晶相のRIR値を示す。RIR値には、国際回折データセンターの粉末回折ファイル(PDF)データベースに記載の値を用いることができる。
RIR法を用いて定量分析をすることにより、Cu、Al、CuAl2、CuAlの各相の定量値を得ることができ、したがって、CuAl2+CuAlの合計値の質量比を得ることもできる。
【0035】
CuAl2+CuAlの合計値の質量比は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。これにより、Cu及びAlの金属間化合物からなる導電体を良好に形成することができる。また、CuAl2が主要な相である場合、CuAl2の質量比は70%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらにより好ましい。ここで、主要な相とは、スパッタリングターゲットに含まれる結晶相のうち、最も多い結晶相のことである。CuAlが主要な相である場合、CuAlの質量比は70%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらにより好ましい。これにより、Cu及びAlの金属間化合物からなる導電体を良好に形成することができる。さらに、本発明の好ましい実施形態において、CuAl2+CuAlの合計値の質量比が100%であり、すなわち、Cu単相又はAl単相が含まれない。
【0036】
(5.製造方法)
本発明のスパッタリングターゲットは焼結体により構成されれば、具体的な製造方法は限定されないが、一実施形態における製造方法は、少なくとも以下の工程を含む。
・アトマイズ粉を作製する工程、並びに、
・アトマイズ粉、及びこれに由来する粉末のうち少なくとも一方を、550℃以上の温度でホットプレスにて焼結させる工程。
【0037】
より好ましくは、CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たすようにインゴットを作製し、インゴットからアトマイズ粉を作製してもよい。
また、アトマイズ粉は、更に粉砕されてもよく、当該粉砕の後に、ホットプレスで焼結されてもよい。
【0038】
以下では、各工程について詳述する。
【0039】
5-1.インゴットを作製する工程
後述のように、Cu-Al2元合金の原材料となるアトマイズ粉を作成できれば、インゴットを用意することは必ずしも必要ではないが、本発明の一部の実施形態において、所望のCu及びAlを溶解して、又は所望のCu-Al合金を溶解して、CuとAlの含有量(at%)が、0.48≦Al/(Cu+Al)≦0.70の関係式を満たすように、インゴットを作製することが好ましい。その場合、溶解対象については、上述した最終的なターゲットの成分に応じて選択することができる。例えば、ターゲットの成分がCuAl2である場合には、CuAl2合金を溶解してもよいし、又は、CuとAlの原子比が1:2となるように投入して溶解してもよい。溶解してインゴットを作製することで、原料がいったん撹拌されて均一化を促進することができる。
【0040】
溶解温度は特に限定されないが、800~1000℃が好ましく、850~950℃が更に好ましい。
【0041】
溶湯を鋳型(モールド)に出湯し、所望のインゴットを作製することができる。
【0042】
5-2.インゴットからアトマイズ粉を作製する工程
得られたインゴットに対して、アトマイズ処理を行いアトマイズ粉を得ることができる。なお、原料としては上記インゴットを用いることが好ましいが、所望のCuとAlの原子比を有するアトマイズ粉が作製できれば特に限定はない。例えば、ターゲットの成分がCuAl2である場合には、原子比が1:2となるようにCuとAlをアトマイズ装置に投入して溶解し、アトマイズ粉を作製してもよい。アトマイズ処理により粉末にすることで、後工程のホットプレスに供することができ、ターゲットを製造することが可能となる。また、アトマイズ粉を作製することで、材料の均一化を促進することができる。
【0043】
アトマイズ処理は、ディスクアトマイズ、水アトマイズ、ガスアトマイズなどが挙げられるが、ガスアトマイズが好ましい。ガスアトマイズの条件は特に限定されないが、アトマイズ処理の温度は700~900℃が好ましく、750~850℃が更に好ましい。ガス圧についても特に限定されないが、1~10MPaが好ましく、3~7MPaが更に好ましい。
【0044】
5-3.アトマイズ粉を粉砕する工程
アトマイズ粉は、その後、ホットプレスに供して焼結体を形成してもよいが、別の一実施形態では、アトマイズ粉を更に粉砕してから、ホットプレスに供してもよい。これにより、ターゲットの相対密度を向上させることができる。そして、相対密度が向上することで、スパッタ特性を向上させることができる。
【0045】
粉砕する手段については、特に限定されないが、公知の機械式粉砕機を使用することができる(例えば、卓上型衝撃式粉砕機(例えば、エヌワイラボ社製SPミル))。
【0046】
上記アトマイズ粉又は当該アトマイズ粉を粉砕することにより得られる粉末の粒径(レーザー回折法による粒子径分布測定における体積基準の50%累積頻度における粒子径D50)は、好ましくは、35μm~45μm程度となるようにすることが好ましい。なお、アトマイズ粉を粉砕する工程を実施しない場合、アトマイズ粉の粒径は、上記範囲より大きくてもよく、例えば、45μm~100μmであってもよい。
【0047】
5-4.ホットプレスする工程
上記アトマイズ粉又は当該アトマイズ粉を粉砕することにより得られる粉末を、ホットプレスの容器に投入し、ホットプレスを行うことで焼結体を得ることができる。ホットプレスの条件として、少なくとも550℃以上で行う。550℃以上で行うことにより、加工性が向上する(例えば、製造途中での割れの可能性を低減できる)。また、550℃以上で行うことにより、相対密度も向上する。温度の上限は特に限定されないが、700℃以下、典型的には、600℃以下である。更に好ましくは、560~580℃である。
【0048】
圧力は、特に限定されないが、200~450kgf/cm2が好ましく、250~350kgf/cm2が更に好ましい。また、保持時間も特に限定されないが、3~8時間が好ましく、5~6時間が更に好ましい。
【0049】
5-5.その他の工程
ホットプレスによって焼結体が得られた後は、適宜他の加工処理を行ってもよい。例えば、更に相対密度を向上させるために熱間等方圧加圧処理を行ってもよい。また、焼結体を、出荷用の製品の形状に仕上げるために、適宜研削及び/又は切断等の機械加工を実施してもよい。そして、焼結体をバッキングプレートに結合させて最終製品に仕上げてもよい。これらその他の工程の条件については、特に限定されず、当分野で公知の条件を適宜採用すればよい。
【0050】
なお、上述したように、上記製造方法では粉末を焼結させるという理由から、圧延工程及び鍛造工程を含まなくてもよい。
【0051】
本発明の一実施形態によるスパッタリングターゲットは、加工性に優れ、製造途中の加工(例えば、研削、切断等)に対しての割れの可能性が少ない。また、相対密度も比較的高いことから、研削油等による濡れも回避できる。また、焼結体として製造されるため、圧延工程及び鍛造工程を実施する必要はなく、これらの圧延工程及び鍛造工程に起因する割れの可能性を排除できる。
【0052】
さらに、本発明の一実施形態によるスパッタリングターゲットは、材料の均一性にも優れており、例えば、外観上のムラ(例えば、色ムラ)が少ない。例えば、SEM等の手段で組織を観察したときの、観察場所による濃淡差が少ない。
【実施例0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、ここでの説明は単なる例示を目的とするものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0054】
(実施例1~3、比較例1、2)
組成がAl66.7at%±0.5at%、残部がCu及び不可避的不純物であるCuAl2金属間化合物を溶解(900℃)してインゴットを作製した。次に、実施例1~3及び比較例2のインゴットに対してアトマイズ処理(ガスアトマイズ)を実施した。アトマイズ処理の温度は780℃であり、ガス圧は5MPaであった。一部の実施例(実施例1)では、得られたアトマイズ粉をSPミルにより更に粉砕した。粉砕前の粒子のD50は75μm、粉砕後の粒子のD50は40μmであった。ただし、比較例1については、インゴットを作製した後、アトマイズ処理などを行わず、圧延及び鍛造によってスパッタリングターゲットの作製を試みた。
【0055】
(実施例4)
組成がAl62.7at%±0.5at%、残部がCu及び不可避的不純物であるCu及びAlの金属間化合物を溶解(900℃)してインゴットを作製した。次に、インゴットに対してアトマイズ処理(ガスアトマイズ)を実施した。アトマイズ処理の温度は780℃であり、ガス圧は5MPaであった。
【0056】
(実施例5)
組成がAl50at%±0.5at%、残部がCu及び不可避的不純物であるCuAl金属間化合物を溶解(900℃)してインゴットを作製した。次に、インゴットに対してアトマイズ処理(ガスアトマイズ)を実施した。アトマイズ処理の温度は780℃であり、ガス圧は5MPaであった。
【0057】
得られた粉末に対して、温度570℃(一部の実施例では550℃、555℃、及び一部の比較例では525℃)、250~350kgf/cm2、保持時間5~6時間の条件でホットプレスを実施し、厚さ16~17mm、直径460mmの円形の焼結体を得た。最後に、各焼結体に対して、切断・研削等の加工を実施した。その際の割れの有無を確認した。
【0058】
得られた焼結体に対して、前述のように相対密度を測定した。理論密度としては、実施例4、5以外は、CuAl2(θ相)及びCuAl(η相)の割合をそれぞれ97.5vol%、2.5vol%として、加重平均して求めた値(4.38g/cm3)を用いた。実施例4では理論密度4.39g/cm3、実施例5では、CuAl(η相)の理論密度5.36g/cm3を用いた以外、同様の方法で相対密度を測定した。
【0059】
また、焼結体の純度及び酸素含有量は、前述のように測定した。なお、比較例1、2については加工性が悪く、スパッタリングターゲットとして使用できないので、純度や酸素含有量の測定は行っていない。
【0060】
また、実施例2及び5の焼結体において、前述のように
図1に示されたA~Eの5点のそれぞれから、試料10g程度を切り出した。そして、それぞれの試料に対してAlの含有量をICP-OES(アジレント・テクノロジー社製、Agilent 5110 ICP-OES)により測定した。具体的には、点Aは中心位置、点B及びDは中間位置、点C及びEは外周位置であるとし、試料を切り出す際にはこれらの点を中心に5mm以内にある試料のみを切り出すように注意した。それぞれの含有量の最大値及び最小値の差を計算したところ、実施例2及び5において0.1at%であった。
【0061】
また、実施例2、4及び5の焼結体のスパッタ面をX線回折装置(Rigaku社製、型式MiniFlex600)により分析し、RIR(Reference Intensity Ratio)法を適用して、CuAl2(θ相)及びCuAl(η相)を定量化した。計算方法は、X線回折装置で得られた回折パターンのうち各相の最強ピークの積分強度とRIR値を乗じた値を、各相の最強ピークの積分強度とRIR値を乗じた値の合計で除して求めた。RIR値には、国際回折データセンターの粉末回折ファイル(PDF)データベースに記載の値を用いた(ICSDのNo.01-071-5027及び03-065-1228)。具体的には、CuAl2(θ相)のRIR値として2.74(No.01-071-5027)、CuAl(η相)のRIR値として2.06(No.03-065-1228)を用いた。分析条件は以下の通りに設定した。
・X線源:CuK α線
・測定範囲:2θ=10°~90°
・ステップ:0.01°
・スキャンスピード:20.0°/min
・検出器:高速1次元検出器D/teX Ultra
・管電圧:40kV
・管電流:30mA
【0062】
各実施例及び比較例の製造条件及び評価の内容を表1~3に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
実施例1~5においては、いずれも割れが発生することなく、ターゲットを製品として製造することができた。その上、相対密度が95%以上であった。さらに、本発明のスパッタリングターゲットは、加熱と冷却の繰り返しに強く、スパッタリング時にも割れが発生しにくかった。また、実施例2及び5に対する組成の分析から、各測定箇所でAlの含有量はほぼ同じであり、表2には記載していないが、各測定箇所の残部はCuであることが分かった。すなわち、本発明のスパッタリングターゲットは、Cu及びAlの組成の均一性が良好であることが分かった。なお、表2に示されるように、最終的に作製されるスパッタリングターゲットの元素組成比は原材料の組成比とわずかに異なることがある。
【0067】
比較例1では、溶解してインゴットを製造した後、圧延及び鍛造によって製造することを試みた例である。圧延及び鍛造までに至らず、インゴットの切断や固定の途中で割れが発生してしまった。
【0068】
比較例2では、実施例2~3と同じ条件で、溶解してインゴットを製造した後、アトマイズ粉を作製している。しかし、ホットプレスの温度が低すぎて、最終製品に仕上げる加工(切断、研削)のときに割れ及び研削油による濡れが発生してしまった。
【0069】
実施例1では、アトマイズ粉を作製した後、更に粉砕を行っているため、実施例2と比べると最終製品における相対密度が向上した。
【0070】
さらに、表3から分かるように、CuとAlの金属間化合物は本発明で問題なく生成できている。また、実施例2及び4では、CuAl2(θ相)が多く形成できているので、比較的均一なCuAl2組成のスパッタ膜の形成に有利であると考えられる。実施例5では、CuAl(η相)が多く形成できているので、比較的均一なCuAl組成のスパッタ膜の形成に有利であると考えられる。表3に示されるように、これらの例では、CuAl2+CuAlの合計値の質量比が100%であり、すなわち、Cu単相又はAl単相がなかった。
【0071】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記各実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明はこれら実施形態に限定されない。例えば、上述の各実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。