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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111336
(43)【公開日】2024-08-16
(54)【発明の名称】物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20240808BHJP
【FI】
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103468
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2024508681の分割
【原出願日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2022130049
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】角田 皓亮
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真平
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
(57)【要約】
【課題】初期値依存性を維持しつつ局所解に陥り難い局所探索を行う。
【解決手段】物質の製造方法が、目的物質の組成候補に含まれる各因子を所定の探索範囲で変動させた周辺組成を生成する工程と、目的物質の材料組成を説明変数とし、目的物質の材料特性を目的変数とする予測モデルを用いて、周辺組成に基づいて目的物質の第1の材料特性及び第2の材料特性を予測する工程と、第1の材料特性が維持され、第2の材料特性が改善する周辺組成があるとき、当該周辺組成で組成候補を更新する工程と、第2の材料特性が改善する周辺組成がないとき、探索範囲を拡大する工程と、探索範囲が所定の最大探索範囲を超えたとき、予測モデルにおける第2の材料特性に対する寄与度が高い因子を、第1の材料特性に対する寄与度が低い因子に交換する工程と、組成候補に従って目的物質を製造する工程と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、目的物質の組成候補に含まれる各因子を所定の探索範囲で変動させた周辺組成を生成する工程と、
前記コンピュータが、前記目的物質の材料組成を説明変数とし、前記目的物質の材料特性を目的変数とする予測モデルを用いて、前記周辺組成に基づいて前記目的物質の第1の材料特性及び第2の材料特性を予測する工程と、
前記コンピュータが、前記第1の材料特性が維持され、前記第2の材料特性が改善する前記周辺組成があるとき、当該周辺組成で前記組成候補を更新する工程と、
前記コンピュータが、前記第2の材料特性が改善する前記周辺組成がないとき、前記探索範囲を拡大する工程と、
前記コンピュータが、前記探索範囲が所定の最大探索範囲を超えたとき、前記予測モデルにおける前記第2の材料特性に対する寄与度が高い因子を、前記第1の材料特性に対する寄与度が低い因子に交換する工程と、
前記組成候補に従って前記目的物質を製造する工程と、
を有する物質の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の物質の製造方法であって、
前記コンピュータが、前記目的物質の材料組成全体からランダムに又は所定の刻み幅で生成した材料組成のうち、前記第1の前記材料特性が良好な前記材料組成を前記組成候補として決定する工程をさらに有する、
物質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の物質の製造方法であって、
前記交換する工程は、種類が同一の因子同士を交換する、
物質の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の物質の製造方法であって、
前記更新する工程は、前記組成候補を所定の回数更新したとき、前記組成候補を出力する、
物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の物質の製造方法であって、
前記予測する工程は、前記組成候補との類似度が所定の閾値以上である前記周辺組成について、前記第1の材料特性及び前記第2の材料特性を予測する、
物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械学習等を活用して材料開発を効率化する技術が利用されている。機械学習等を活用した材料開発では、大規模探索と局所探索とを組み合わせて効率的に特性値の最適解を探索することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、目的物質に関する特性値の最適値を与える複数のパラメータの値の組合せを探索する問題をモデル化したベイズモデルを生成し、複数のパラメータの値の全組合せによる全探索空間よりも狭い探索空間において、ベイズモデルを用いた組合せの探索を実行する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-187642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、局所探索において因子交換が行われないという課題がある。因子交換が行われないと、局所探索における初期値に依存して局所解に陥るおそれがある。一方、ランダムな因子交換を行うと、初期値では良好であった材料特性が失われるおそれがある。
【0006】
本開示の一態様は、初期値依存性を維持しつつ局所解に陥り難い局所探索を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下に示す構成を備える。
【0008】
[1] コンピュータが、目的物質の組成候補に含まれる各因子を所定の探索範囲で変動させた周辺組成を生成する工程と、
前記コンピュータが、前記目的物質の材料組成を説明変数とし、前記目的物質の材料特性を目的変数とする予測モデルを用いて、前記周辺組成に基づいて前記目的物質の第1の材料特性及び第2の材料特性を予測する工程と、
前記コンピュータが、前記第1の材料特性が維持され、前記第2の材料特性が改善する前記周辺組成があるとき、当該周辺組成で前記組成候補を更新する工程と、
前記コンピュータが、前記第2の材料特性が改善する前記周辺組成がないとき、前記探索範囲を拡大する工程と、
前記コンピュータが、前記探索範囲が所定の最大探索範囲を超えたとき、前記予測モデルにおける前記第2の材料特性に対する寄与度が高い因子を、前記第1の材料特性に対する寄与度が低い因子に交換する工程と、
前記組成候補に従って前記目的物質を製造する工程と、
を有する物質の製造方法。
【0009】
[2] 上記[1]に記載の物質の製造方法であって、
前記コンピュータが、前記目的物質の材料組成全体からランダムに又は所定の刻み幅で生成した材料組成のうち、前記第1の前記材料特性が良好な前記材料組成を前記組成候補として決定する工程をさらに有する、
物質の製造方法。
【0010】
[3] 上記[1]又は[2]に記載の物質の製造方法であって、
前記交換する工程は、種類が同一の因子同士を交換する、
物質の製造方法。
【0011】
[4] 上記[1]から[3]のいずれかに記載の物質の製造方法であって、
前記更新する工程は、前記組成候補を所定の回数更新したとき、前記組成候補を出力する、
物質の製造方法。
【0012】
[5] 上記[1]から[4]のいずれかに記載の物質の製造方法であって、
前記予測する工程は、前記組成候補との類似度が所定の閾値以上である前記周辺組成について、前記第1の材料特性及び前記第2の材料特性を予測する、
物質の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、初期値依存性を維持しつつ局所解に陥り難い局所探索を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、設計支援システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、コンピュータのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、設計支援システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、材料設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5図5(A)は、接着力に対する寄与度の一例を示す図である。図5(B)は、強度に対する寄与度の一例を示す図である。
図6図6(A)は、組成候補の初期値の一例を示す図である。図6(B)は、1回目の因子交換後の組成候補の一例を示す図である。図6(C)は、2回目の因子交換後の組成候補の一例を示す図である。
図7図7(A)は、1回目の局所探索の一例を示す図である。図7(B)は、1回目の局所探索の一例を示す図である。図7(C)は、2回目の局所探索の一例を示す図である。図7(D)は、2回目の局所探索の一例を示す図である。
図8図8(A)は、x回目の局所探索の一例を示す図である。図8(B)は、x回目の局所探索の一例を示す図である。図8(C)は、x回目の局所探索の一例を示す図である。図8(D)は、x回目の局所探索の一例を示す図である。
図9図9(A)は、1回目の局所探索の結果の一例を示す図である。図9(B)は、2回目の局所探索の結果の一例を示す図である。図9(C)は、3回目の局所探索の結果の一例を示す図である。図9(D)は、因子交換後の1回目の局所探索の結果の一例を示す図である。図9(E)は、因子交換後の2回目の局所探索の結果の一例を示す図である。図9(F)は、因子交換後の3回目の局所探索の結果の一例を示す図である。
図10図10(A)は、1回目の更新後の1回目の局所探索の結果の一例を示す図である。図10(B)は、2回目の更新後の1回目の局所探索の結果の一例を示す図である。図10(C)は、3回目の更新後の1回目の局所探索の結果の一例を示す図である。
図11図11(A)は、最初の探索から最後の探索までの探索結果をまとめたグラフの一例を示す図である。図11(B)は、最初の探索及び最後の探索における周辺組成の材料特性をプロットしたグラフの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0016】
[実施形態]
従来、材料開発は技術者の経験や勘等に基づいて行われてきた。近年、機械学習等を活用して材料開発を効率化する技術が利用されている。機械学習を活用した材料開発では、例えば、機械学習による大規模探索が行われる。機械学習による大規模探索によれば、人間が予想していなかった領域まで含めて材料の設計条件を探索することができる。
【0017】
機械学習による大規模探索では、ある材料特性Aについては目標値を達成することができるが、材料特性Aとトレードオフの関係にある他の材料特性Bは基準を満たすことができない設計条件が得られることがある。このとき、材料特性Aについては目標値を達成しているため、その設計条件を活用して材料設計を進展することができれば効率的である。
【0018】
この場合、例えば、機械学習による探索を再度実行することが考えられる。しかしながら、機械学習による再探索では、少なくとも材料特性Aについて目標値を達成することができた設計条件を考慮することができない。また、機械学習による探索のみでは、良好な材料特性を得られると予測されても、実際に実現可能な材料組成であることまでは保証されない。
【0019】
また、例えば、得られた設計条件を初期値として実験計画法により探索を実行することが考えられる。もしくは、得られた設計条件を技術者がチューニングすることも考えられる。しかしながら、実験計画法やチューニング等による手法では、実験回数が多くなる、初期値に含まれる因子以外の因子を考慮することが難しい等の課題がある。
【0020】
機械学習による探索では、大規模探索と局所探索とを組み合わせて効率的に探索を行うことが行われることがある。しかしながら、従来技術では探索中に因子交換が行われないため、初期値に依存して局所解に陥るおそれがある。遺伝的アルゴリズム等に基づく突然変異での因子交換を組み合わせても、最適化対象とする材料特性に関係のない因子の交換が行われ、材料特性が悪化するおそれもある。
【0021】
本開示の一実施形態は、複数の物質を用いて製造される物質の設計を支援する設計支援システムである。以下、設計対象とする物質を「目的物質」と呼び、目的物質の製造に用いられる物質を「材料物質」と呼ぶ。本実施形態における設計支援システムは、ユーザの指示に応じて、所望の材料特性が最適化された目的物質の材料組成を探索し、探索結果をユーザに提示する情報処理システムである。
【0022】
本実施形態における目的物質は、一例として、複数の樹脂、添加剤及び/又はフィラーを含んで構成される半導体材料等の複合材料である。したがって、本実施形態における材料物質は、一例として、樹脂、添加剤及び/又はフィラー等である。半導体材料の一例は、レジスト材、接着剤、粘着剤、封止材等である。目的物質及び材料物質はこれらに限定されず、本実施形態は、複数の物質を用いて製造される物質であれば、どのようなものであっても適用可能である。
【0023】
本実施形態における設計支援システムは、ユーザにより選択された目的物質の材料組成を組成候補の初期値として、組成候補の周辺領域で局所探索を繰り返し、良好な材料特性を得られる目的物質の組成候補を探索する。局所探索では、所定の探索範囲で組成候補の各因子を変動させた複数の周辺組成を生成し、各周辺組成に基づいて予測される材料特性が、ユーザにより指定された目標値よりも良好な周辺組成があれば、その周辺組成で組成候補を更新する。
【0024】
本実施形態における設計支援システムは、ある探索範囲で材料特性が改善する周辺組成がないとき、探索範囲を拡大して再度局所探索を行う。また、探索範囲が予め定めた最大探索範囲を超えたとき、組成候補の因子を交換し、再度局所探索を行う。因子交換では、改善したい材料特性に対する影響が大きい因子を、維持したい材料特性に対する影響が小さい因子に交換する。
【0025】
したがって、本実施形態における設計支援システムによれば、組成候補の初期値から大きく離れることがなく、初期値依存性が維持された探索結果を得ることができる。また、本実施形態における設計支援システムによれば、所定の探索範囲内で組成候補の更新が発生しないとき因子交換を行うため、局所解に陥り難い探索を行うことができる。
【0026】
<設計支援システムの全体構成>
本実施形態における設計支援システムの全体構成を、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態における設計支援システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図1に示されているように、本実施形態における設計支援システム1は、材料設計装置10及びユーザ端末20を含む。材料設計装置10及びユーザ端末20は、LAN(Local Area Network)又はインターネット等の通信ネットワークN1を介してデータ通信可能に接続されている。
【0028】
材料設計装置10は、ユーザ端末20からの要求に応じて、良好な材料特性が得られる目的物質の材料組成を探索するパーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ等の情報処理装置である。材料設計装置10は、ユーザ端末20から目的物質の材料組成に関する初期組成データを受信する。材料設計装置10は、初期組成データに基づいて目的物質の材料組成を探索し、探索結果として得られた目的物質の材料組成を表す探索結果データをユーザ端末20に送信する。
【0029】
ユーザ端末20は、ユーザが操作するパーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等の情報処理端末である。ユーザ端末20は、ユーザの操作に応じて、初期組成データを生成し、材料設計装置10に送信する。ユーザ端末20は、材料設計装置10から受信した探索結果データに基づいて、探索結果をユーザに対して表示する。
【0030】
なお、図1に示した設計支援システム1の全体構成は一例であって、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があり得る。例えば、材料設計装置10は、複数台のコンピュータにより実現してもよいし、クラウドコンピューティングのサービスとして実現してもよい。また、例えば、設計支援システム1は、材料設計装置10及びユーザ端末20がそれぞれ備えるべき機能を兼ね備えたスタンドアローンの情報処理装置により実現してもよい。
【0031】
<設計支援システムのハードウェア構成>
本実施形態における設計支援システム1のハードウェア構成を、図2を参照しながら説明する。
【0032】
≪コンピュータのハードウェア構成≫
本実施形態における材料設計装置10及びユーザ端末20は、例えばコンピュータにより実現される。図2は、本実施形態におけるコンピュータ500のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0033】
図2に示されているように、コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、HDD(Hard Disk Drive)504、入力装置505、表示装置506、通信I/F(Interface)507及び外部I/F508を有する。CPU501、ROM502及びRAM503は、いわゆるコンピュータを形成する。コンピュータ500の各ハードウェアは、バスライン509を介して相互に接続されている。なお、入力装置505及び表示装置506は外部I/F508に接続して利用する形態であってもよい。
【0034】
CPU501は、ROM502又はHDD504等の記憶装置からプログラムやデータをRAM503上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0035】
ROM502は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。ROM502は、HDD504にインストールされている各種プログラムをCPU501が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する主記憶装置として機能する。具体的には、ROM502には、コンピュータ500の起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、EFI(Extensible Firmware Interface)等のブートプログラムや、OS(Operating System)設定、ネットワーク設定等のデータが格納されている。
【0036】
RAM503は、電源を切るとプログラムやデータが消去される揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。RAM503は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等である。RAM503は、HDD504にインストールされている各種プログラムがCPU501によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0037】
HDD504は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。HDD504に格納されるプログラムやデータには、コンピュータ500全体を制御する基本ソフトウェアであるOS、及びOS上において各種機能を提供するアプリケーション等がある。なお、コンピュータ500はHDD504に替えて、記憶媒体としてフラッシュメモリを用いる記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive等)を利用するものであってもよい。
【0038】
入力装置505は、ユーザが各種信号を入力するために用いるタッチパネル、操作キーやボタン、キーボードやマウス、音声等の音データを入力するマイクロホン等である。
【0039】
表示装置506は、画面を表示する液晶や有機EL(Electro-Luminescence)等のディスプレイ、音声等の音データを出力するスピーカ等で構成されている。
【0040】
通信I/F507は、通信ネットワークに接続し、コンピュータ500がデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0041】
外部I/F508は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、ドライブ装置510等がある。
【0042】
ドライブ装置510は、記録媒体511をセットするためのデバイスである。ここでいう記録媒体511には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記録媒体511には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。これにより、コンピュータ500は外部I/F508を介して記録媒体511の読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。
【0043】
なお、HDD504にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体511が外部I/F508に接続されたドライブ装置510にセットされ、記録媒体511に記録された各種プログラムがドライブ装置510により読み出されることでインストールされる。あるいは、HDD504にインストールされる各種プログラムは、通信I/F507を介して、通信ネットワークとは異なる他のネットワークよりダウンロードされることでインストールされてもよい。
【0044】
<設計支援システムの機能構成>
本実施形態における設計支援システムの機能構成を、図3を参照しながら説明する。図3は本実施形態における設計支援システム1の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0045】
≪材料設計装置の機能構成≫
図3に示されているように、本実施形態における材料設計装置10は、モデル記憶部100、初期組成決定部101、周辺組成生成部102、特性予測部103、探索範囲拡大部104、因子交換部105、組成候補更新部106、探索範囲縮小部107及び結果出力部108を備える。
【0046】
初期組成決定部101、周辺組成生成部102、特性予測部103、探索範囲拡大部104、因子交換部105、組成候補更新部106、探索範囲縮小部107及び結果出力部108は、図2に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。モデル記憶部100は、図2に示されているHDD504によって実現される。
【0047】
モデル記憶部100には、学習済みの特性予測モデルが記憶されている。特性予測モデルは、目的物質の材料組成に含まれる各因子を説明変数とし、目的物質の材料特性を目的変数とする機械学習モデルである。機械学習モデルの一例は、回帰モデルである。機械学習モデルの構造は、例えば、ランダムフォレスト又はディープニューラルネットワーク等である。
【0048】
初期組成決定部101は、ユーザの操作に応じて生成された初期組成データをユーザ端末20から受信する。本実施形態における初期組成データは、目的物質の材料組成及び材料特性の目標値を含む。初期組成決定部101は、初期組成データに含まれる目的物質の材料組成を組成候補の初期値として決定する。
【0049】
初期組成データに含める材料組成は、実験結果又は機械学習による大規模探索の結果から、所望の材料特性の測定値又は予測値が良好な材料組成を選択すればよい。また、大規模探索により探索された材料組成を用いた実験結果から、所望の材料特性の測定値が良好な材料組成を選択してもよい。実験結果で良好な材料特性を得られる材料組成を初期値として選択すれば、実現可能性の高い組成候補を得られることが期待できる。
【0050】
なお、材料特性が良好か否かは、目的物質を用いて製造される製品が備えるべき特性として優れているか否かを表す。製品の特性として、材料特性の値が大きい方が優れている場合、材料特性の値が大きいほど良好な値であると言える。一方、製品の特性として、材料特性の値が小さい方が優れている場合、材料特性の値が小さいほど良好な値であると言える。
【0051】
一例として、大規模探索により探索された材料組成を用いた実験結果は、以下のように得ることができる。まず、目的物質の材料組成全体から各因子を所定の変動幅かつ全範囲で変動させた材料組成の集合を生成する。次に、材料組成の集合から、所定数の材料組成をランダムにサンプリングする。続いて、サンプリングされた材料組成について実験を行い、所望の材料特性を含む複数の材料特性を測定する。このようにして得られた実験結果から、所望の材料特性が良好な材料組成を、初期組成データに含める材料組成として選択すればよい。所定数の材料組成は、材料組成の集合から所定の刻み幅でサンプリングしてもよい。
【0052】
初期組成データに含める材料特性の目標値は、ユーザが任意に定めればよい。実験結果又は大規模探索の結果で得られた最良の材料特性、又は最良の材料特性をさらに向上させた材料特性を、目標値に定めてもよい。
【0053】
周辺組成生成部102は、目的物質の組成候補に含まれる各因子を所定の探索範囲で変動させた複数の周辺組成を生成する。具体的には、周辺組成生成部102は、組成候補に含まれる各因子の配合量を、所定の変動幅かつ所定の探索範囲で変動させた材料組成の集合から、所定数の材料組成をランダムに又は所定の刻み幅でサンプリングすることで、所定数の周辺組成を生成する。
【0054】
特性予測部103は、周辺組成生成部102により生成された各周辺組成に基づいて、複数の材料特性を予測する。複数の材料特性は、初期組成に基づく材料特性のうち、維持したい材料特性(以下、「維持特性」とも呼ぶ)と改善したい材料特性(以下、「改善対象特性」とも呼ぶ)とを含む。特性予測部103は、モデル記憶部100に記憶されている学習済みの特性予測モデルに、周辺組成に含まれる各因子を入力することで、複数の材料特性を計算する。
【0055】
特性予測部103は、組成候補との類似度が所定の閾値以上である周辺組成についてのみ、材料特性を予測してもよい。本実施形態における類似度は、例えば、組成候補及び周辺組成それぞれについて、各因子の配合量を要素とするベクトルを生成し、任意の距離尺度でベクトル間の距離を計算すればよい。本実施形態における距離尺度の一例は、ユークリッド距離である。
【0056】
探索範囲拡大部104は、特性予測部103による材料特性の予測値が材料特性の目標値よりも良好な周辺組成がないとき、探索範囲を拡大する。
【0057】
因子交換部105は、探索範囲が予め定めた最大探索範囲以上であるとき、組成候補の因子を交換する。本実施形態における最大探索範囲の一例は、探索範囲拡大部104により所定回数の拡大が行われた範囲である。因子交換部105は、因子を交換したとき、探索範囲を初期状態に戻す。
【0058】
因子交換部105は、モデル記憶部100に記憶されている学習済みの特性予測モデルにおける各因子に対する寄与度に基づいて、因子交換を行う。具体的には、因子交換部105は、組成候補の初期値において、改善対象特性に対する寄与度が高い因子を、維持特性に対する寄与度が低い因子に交換する。
【0059】
組成候補更新部106は、特性予測部103による材料特性の予測値が材料特性の目標値よりも良好な周辺組成があるとき、その周辺組成で組成候補を更新する。組成候補更新部106は、周辺組成の維持特性が目標値を維持し、周辺組成の改善対象特性が目標値よりも改善するとき、その周辺組成を新たな組成候補とする。組成候補更新部106は、組成候補を更新したとき、新たな組成候補に基づく材料特性の予測値で、材料特性の目標値を更新する。
【0060】
なお、材料特性の維持は、元の材料特性の値と新たな材料特性の値との間で、その材料特性に有意な差が表れない場合を言う。材料特性の改善は、新たな材料特性の値が元の材料特性の値よりも良好な値であることを言う。
【0061】
探索範囲縮小部107は、因子交換部105により組成候補の因子が交換されたとき、又は、組成候補更新部106により組成候補が更新されたとき、探索範囲を初期状態に縮小する。
【0062】
結果出力部108は、所定の終了条件を満たすとき、探索結果データを生成し、ユーザ端末20に送信する。本実施形態における終了条件の一例は、組成候補の更新が所定回数行われたときである。本実施形態における終了条件の他の例は、組成候補に基づく材料特性の予測値がユーザにより指定された目標値を達成したときである。
【0063】
本実施形態における探索結果データは、目的物質の現在の組成候補及びその組成候補に基づく複数の材料特性の予測値を含む。本実施形態における探索結果データは、探索中に更新された組成候補の履歴情報を含んでもよい。組成候補の履歴情報は、例えば、探索中に更新された各組成候補の一覧及び各組成候補に基づく複数の材料特性の予測値の一覧を含んでもよい。
【0064】
≪ユーザ端末20の機能構成≫
図3に示されているように、本実施形態におけるユーザ端末20は、初期組成入力部201及び結果表示部202を備える。
【0065】
初期組成入力部201及び結果表示部202は、図2に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。
【0066】
初期組成入力部201は、ユーザの操作に応じて、初期組成データの入力を受け付ける。初期組成入力部201は、受け付けた初期組成データを、材料設計装置10に送信する。
【0067】
結果表示部202は、材料設計装置10から探索結果データを受信する。結果表示部202は、受信した探索結果データに基づいて、目的物質の組成候補及び当該組成候補における材料特性を表示装置506に表示する。
【0068】
<設計支援システムの処理手順>
本実施形態における設計支援システム1が実行する材料設計方法の処理手順を、図4を参照しながら説明する。図4は、本実施形態における材料設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0069】
ステップS1において、ユーザ端末20が備える初期組成入力部201は、ユーザの操作に応じて、目的物質の材料組成及び材料特性の目標値を含む初期組成データの入力を受け付ける。次に、初期組成入力部201は、受け付けた初期組成データを、材料設計装置10に送信する。
【0070】
材料設計装置10では、初期組成決定部101が、初期組成データをユーザ端末20から受信する。次に、初期組成決定部101は、初期組成データに含まれる目的物質の材料組成を組成候補の初期値として決定する。続いて、初期組成決定部101は、組成候補の初期値及び材料特性の目標値を周辺組成生成部102に送る。
【0071】
ステップS2において、材料設計装置10が備える周辺組成生成部102は、組成候補の初期値及び材料特性の目標値を初期組成決定部101から受け取る。次に、周辺組成生成部102は、目的物質の組成候補に含まれる各因子を所定の探索範囲で変動させた複数の周辺組成を生成する。続いて、周辺組成生成部102は、生成した複数の周辺組成を特性予測部103に送る。
【0072】
本実施形態における探索範囲は、一例として、初期状態では±5%の範囲とする。探索範囲は、1回目の拡大では±10%の範囲に拡大される。また、探索範囲は、2回目の拡大では±15%の範囲に拡大される。
【0073】
ステップS3において、材料設計装置10が備える特性予測部103は、複数の周辺組成を周辺組成生成部102から受け取る。次に、特性予測部103は、組成候補と各周辺組成との類似度を計算し、類似度が所定の閾値未満の周辺組成を削除する。
【0074】
特性予測部103は、学習済みの特性予測モデルをモデル記憶部100から読み出す。次に、特性予測部103は、各周辺組成に含まれる各因子を学習済みの特性予測モデルに入力することで、維持特性と改善対象特性とを含む複数の材料特性を予測する。
【0075】
ステップS4において、材料設計装置10が備える特性予測部103は、材料特性を予測した周辺組成のうち、材料特性の予測値が材料特性の目標値よりも良好な周辺組成があるか否かを判定する。特性予測部103は、材料特性が改善する周辺組成があるとき(YES)、ステップS9に処理を進める。一方、特性予測部103は、材料特性が改善する周辺組成がないとき(NO)、ステップS5に処理を進める。
【0076】
ステップS5において、材料設計装置10が備える探索範囲拡大部104は、探索範囲の拡大回数が所定の閾値以上であるか否かを判定する。拡大回数が所定の閾値以上である場合(YES)、探索範囲拡大部104は、ステップS7に処理を進める。一方、拡大回数が所定の閾値未満である場合(NO)、探索範囲拡大部104は、ステップS6に処理を進める。
【0077】
本実施形態における拡大回数は、最大2回とする。すなわち、現在の探索範囲が±15%以上であるとき、探索範囲拡大部104は、ステップS7に処理を進め、現在の探索範囲が±15%未満(±5%又は±10%)であるとき、探索範囲拡大部104は、ステップS6に処理を進めることになる。
【0078】
ステップS6において、材料設計装置10が備える探索範囲拡大部104は、探索範囲を拡大する。探索範囲拡大部104は、現在の探索範囲が±5%の範囲であれば、±10%の範囲に拡大し、現在の探索範囲が±10%の範囲であれば、±15%の範囲に拡大する。
【0079】
ステップS7において、材料設計装置10が備える因子交換部105は、学習済みの特性予測モデルをモデル記憶部100から読み出す。次に、因子交換部105は、学習済みの特性予測モデルから各因子の寄与度を取得する。寄与度は、各因子がモデル学習に与えた影響の大きさを表す指標である。因子交換部105は、特性予測部103が予測する材料特性ごとに各因子の寄与度を取得する。
【0080】
ここで、本実施形態における寄与度について、図5を参照しながら説明する。図5は、本実施形態における寄与度の一例を示す図である。
【0081】
図5は、目的物質を接着剤とし、組成候補の初期値に基づく接着力を維持しつつ、強度を改善したいケースを想定している。図5(A)は接着力に対する寄与度の一例を示す図である。図5(B)は強度に対する寄与度の一例を示す図である。
【0082】
図5に示されているように、各因子の寄与度は、因子と寄与度との組み合わせであり、材料特性ごとに取得される。図5の例は、ランダムフォレストにより実装された特性予測モデルから取得された寄与度の一例であるが、学習済みのモデルから学習又は予測における影響を表す指標が取得又は導出可能であれば、その指標を寄与度として利用してもよい。
【0083】
因子交換部105は、各因子の寄与度に基づいて、組成候補の因子を交換する。具体的には、因子交換部105は、改善対象特性の寄与度が高い因子を、維持特性の寄与度が低い因子に交換する。なお、因子交換部105は、材料物質の種類が同一の因子同士を交換する。例えば、改善対象特性の寄与度が高い因子が添加剤であるとき、添加剤の中で維持特性の寄与度が低い因子を選択する。
【0084】
ここで、本実施形態における因子交換について、図6を参照しながら説明する。図6は、本実施形態における因子交換前後の組成候補の一例を示す図である。
【0085】
図6(A)は、組成候補の初期値の一例を示す図である。図6(B)は、1回目の因子交換後の組成候補の一例を示す図である。図6(C)は、2回目の因子交換後の組成候補の一例を示す図である。
【0086】
図6に示されているように、因子交換後の因子には、最小値及び最大値が設定される。最小値及び最大値は、目的物質の製造において当該材料物質を配合可能な最小量及び最大量を表す。最小値及び最大値はその材料物質を用いた他の実験結果に基づいて予め設定されているものとする。
【0087】
図6(B)に示した1回目の因子交換の例では、「添加剤5」が「添加剤6」に交換されていることがわかる。「添加剤5」は、図6(A)に示した組成候補に含まれる材料物質のうち、図5(B)に示した強度に対する寄与度が最も高い。「添加剤6」は、図6(A)に示した組成候補に含まれない添加剤のうち、図5(A)に示した接着力に対する寄与度が最も低い。そのため、図6に示した因子交換の例では、「添加剤5」を「添加剤6」に交換することが行われている。
【0088】
なお、因子交換では、常に、組成候補の初期値に基づいて、因子交換を行うものとする。すなわち、複数回の因子交換が行われた場合であっても、因子交換後の組成候補からさらに因子交換を行うことはない。これにより、探索結果として得られる材料組成は、組成候補の初期値と1つの因子のみが交換されたものとなり、初期値依存性を維持することができる。
【0089】
図6(C)に示した2回目の因子交換の例では、「樹脂5」が「樹脂4」に交換されていることがわかる。図6(A)に示した組成候補に含まれる材料物質のうち、図5(B)に示した強度に対する寄与度が「添加剤5」を除いて最も高いのは「樹脂5」であり、図6(A)に示した組成候補に含まれない樹脂のうち、図5(A)に示した接着力に対する寄与度が最も低いのは「樹脂4」であるからである。このとき、1回目の因子交換で交換された「添加剤5」及び「添加剤6」は初期値に戻っていることがわかる。
【0090】
図4に戻って説明する。ステップS8において、材料設計装置10が備える探索範囲縮小部107は、探索範囲を初期状態に縮小する。探索範囲縮小部107は、現在の探索範囲が±5%を超える(±10%又は±15%)範囲であれば、探索範囲を±5%の範囲に縮小する。
【0091】
ステップS9において、材料設計装置10が備える組成候補更新部106は、材料特性の予測値が材料特性の目標値よりも良好な周辺組成があるとき、その周辺組成で組成候補を更新する。組成候補更新部106は、材料特性の予測値が材料特性の目標値よりも良好な周辺組成が複数あるとき、それらの周辺組成のうち最も材料特性が良好な周辺組成で組成候補を更新する。次に、組成候補更新部106は、新たな組成候補に基づく材料特性の予測値で、材料特性の目標値を更新する。
【0092】
ステップS10において、材料設計装置10が備える組成候補更新部106は、組成候補の更新回数が所定の閾値以上であるか否かを判定する。更新回数が所定の閾値以上である場合(YES)、組成候補更新部106は、ステップS11に処理を進める。一方、更新回数が所定の閾値未満である場合(NO)、組成候補更新部106は、ステップS8に処理を戻す。
【0093】
本実施形態における所定回数の一例は、5回である。組成候補の更新回数が多すぎると、組成候補の初期値から離れた領域で探索されることが起こり得る。その結果、初期値依存性が失われる、現実的ではない材料組成が出力される等の問題が発生する。そのため、本実施形態では、組成候補の更新回数を制限し、所定回数の更新が行われたら、探索を終了するように構成している。
【0094】
ステップS11において、材料設計装置10が備える結果出力部108は、目的物質の組成候補及び当該組成候補に基づく材料特性の予測値を含む探索結果データを生成する。次に、結果出力部108は、探索結果データをユーザ端末20に送信する。
【0095】
ユーザ端末20では、結果表示部202が、探索結果データを材料設計装置10から受信する。結果表示部202は、受信した探索結果データに基づいて、目的物質の組成候補及び当該組成候補における材料特性を表示装置506に表示する。
【0096】
ここで、本実施形態における探索の流れを、図7及び図8を参照しながら説明する。図7及び図8は、探索の流れの一例を示す図である。
【0097】
図7に示した平面は、材料組成の分布を表すグラフである。実際には、材料組成に含まれる因子数と同じ次元数の空間で表現されるべきものであるが、説明のために任意の2因子x1及びx2を用いて二次元平面に表している。
【0098】
図7(A)は、1回目の局所探索において、組成候補の初期値301から±5%の探索範囲311内で局所探索が行われることを表している。図7(B)は、1回目の局所探索の結果、±5%の探索範囲311内で新たな組成候補302が探索されたことを表している。
【0099】
図7(C)は、2回目の局所探索において、新たな組成候補302から±5%の探索範囲312内で局所探索が行われることを表している。図7(D)は、2回目の局所探索の結果、±5%の探索範囲312内で新たな組成候補303が探索されたことを表している。
【0100】
図8(A)は、x回目の局所探索において、組成候補321から±5%の探索範囲331内で組成候補の更新が行われず、±10%の探索範囲332内で局所探索が行われることを表している。図8(B)は、x回目の局所探索の結果、±10%の探索範囲332内で新たな組成候補322が探索されたことを表している。
【0101】
図8(C)は、x回目の局所探索において、組成候補321から±10%の探索範囲332内でも組成候補の更新が行われず、±15%の探索範囲333内で局所探索が行われた結果、新たな組成候補323が探索されたことを表している。
【0102】
図8(D)は、x回目の局所探索において、組成候補321から±15%の探索範囲333内でも組成候補の更新が行われず、因子x1が因子x3に交換されたことを表している。このとき、探索範囲は組成候補321から±5%の探索範囲334に縮小され、探索範囲334内で局所探索が行われる。
【0103】
<実施例>
本開示の一実施例は、本実施形態における材料設計装置10により、接着剤の材料設計において、接着力を維持しながら目標値を達成する強度を得られる材料組成を探索した例である。図9から図11は、本実施例における材料組成の探索結果の一例を示す図である。
【0104】
本実施例では、接着力が4.4、強度が52を得られた材料組成を組成候補の初期値として選択した。これに対して、接着力の目標値を4.6、強度の目標値を64に設定した。図9及び図10に示した各グラフは、それぞれ1回の局所探索で生成された周辺組成について、探索空間上の座標と材料特性とを表示したものである。図9及び図10に示した各グラフにおいて、左縦軸と横軸が材料組成であり、右縦軸はカラーバーで、カラーで改善対象特性である強度が示されている。各グラフにおいて、初期値を白抜きの星印、最良値を黒抜きの星印で表している。
【0105】
図9(A)は1回目の局所探索の結果である。1回目の局所探索では±5%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.42、強度が58.784であった。材料特性が目標値を満たさないため、組成候補の更新は行われなかった。
【0106】
図9(B)は2回目の局所探索の結果である。2回目の局所探索では±10%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.41、強度が61.683であった。材料特性が目標値を満たさないため、組成候補の更新は行われなかった。
【0107】
図9(C)は3回目の局所探索の結果である。3回目の局所探索では±15%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.22、強度が61.734であった。材料特性が目標値を満たさないため、組成候補の更新は行われなかった。
【0108】
図9(D)は因子交換後の1回目の局所探索の結果である。因子交換後の1回目の局所探索では±5%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.45、強度が58.933であった。材料特性が目標値を満たさないため、組成候補の更新は行われなかった。
【0109】
図9(E)は因子交換後の2回目の局所探索の結果である。因子交換後の2回目の局所探索では±10%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.38、強度が62.191であった。材料特性が目標値を満たさないため、組成候補の更新は行われなかった。
【0110】
図9(F)は因子交換後の3回目の局所探索の結果である。因子交換後の3回目の局所探索では±15%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.53、強度が64.024であった。材料特性が目標値を満たしたため、最良値が得られた材料組成で組成候補及び目標値の更新が行われた。
【0111】
図10(A)は1回目の更新後の1回目の局所探索の結果である。1回目の更新後の1回目の局所探索では±5%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.55、強度が65.430であった。材料特性が目標値を満たしたため、最良値が得られた材料組成で2回目の更新が行われた。
【0112】
図10(B)は2回目の更新後の1回目の局所探索の結果である。2回目の更新後の1回目の局所探索では±5%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.56、強度が65.437であった。材料特性が目標値を満たしたため、最良値が得られた材料組成で3回目の更新が行われた。
【0113】
図10(C)は3回目の更新後の1回目の局所探索の結果である。3回目の更新後の1回目の局所探索では±5%の範囲で周辺組成を生成した。最良値は接着力が4.59、強度が65.549であった。材料特性が目標値を満たしたため、最良値が得られた材料組成で4回目の更新が行われた。
【0114】
図11は、本実施例における材料組成の探索結果の一例を示す図である。図11(A)は、図9(A)から図10(C)に示した、1回目の局所探索(以下、「最初の探索」と呼ぶ)から3回目の更新後の1回目の局所探索(以下、「最後の探索」と呼ぶ)までの探索結果をまとめたグラフである。図11(A)に示したグラフでは、最初の探索における初期値、因子交換後3回目の探索における最良値、及び最後の探索における最良値を示している。図11(A)に示されているように、目標値を達成する材料組成を得られた探索では、近い領域で探索が行われていたことがわかる。
【0115】
図11(B)は、横軸を接着力、縦軸を強度として、最初の探索における周辺組成の材料特性と、最後の探索における周辺組成の材料特性とをプロットしたグラフである。図11(B)に示されているように、最後の探索では、最初の探索と比較して接着力も強度も高い領域で探索が行われていたことがわかる。
【0116】
以上の結果から、本実施形態における材料設計装置10によれば、良好な材料特性が得られる材料組成を効率的に探索できることが示された。
【0117】
<実施形態の効果>
本実施形態における設計支援システムは、目的物質の組成候補に含まれる各因子を所定の探索範囲で変動させた周辺組成のうち、材料特性が改善する周辺組成があるとき、その周辺組成で組成候補を更新し、材料特性が改善する周辺組成がないとき、探索範囲を拡大する。このとき、探索範囲が所定の範囲を超えたとき、組成候補の因子を交換する。したがって、本実施形態における設計支援システムによれば、初期値依存性を維持しつつ局所解に陥り難い局所探索を行うことができる。
【0118】
特に、本実施形態における設計支援システムは、局所探索では、維持したい材料特性を維持し、改善したい材料特性を改善する周辺組成で組成候補を更新し、因子交換では、改善したい材料特性の寄与度が高い因子を、維持したい材料特性の寄与度が低い因子に交換する。したがって、本実施形態における設計支援システムによれば、トレードオフの関係にある複数の材料特性を考慮しつつ、材料特性が改善する材料組成を探索することができる。
【0119】
さらに、本実施形態における設計支援システムは、組成候補を所定回数更新した後、探索を終了し、その組成候補を探索結果として出力する。また、本実施形態における設計支援システムは、組成候補との類似度が所定の閾値未満である周辺組成については探索の対象としない。したがって、本実施形態における設計支援システムによれば、組成候補の初期値から大きく離れた領域で組成候補が探索されることがなく、初期値依存性を維持することができる。
【0120】
[補足]
上記で説明した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)や従来の回路モジュール等の機器を含むものとする。
【0121】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【0122】
本願は、日本国特許庁に2022年8月17日に出願された日本国特許出願2022-130049号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照することにより本願に援用する。
【符号の説明】
【0123】
1 設計支援システム
10 材料設計装置
101 初期組成決定部
102 周辺組成生成部
103 特性予測部
104 探索範囲拡大部
105 因子交換部
106 組成候補更新部
107 探索範囲縮小部
108 結果出力部
20 ユーザ端末
201 初期組成入力部
202 結果表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11