(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111452
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】光制御デバイス
(51)【国際特許分類】
G02F 1/295 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
G02F1/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015970
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳邦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢司
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102AA28
2K102BA07
2K102BA10
2K102BB04
2K102BB08
2K102BC04
2K102BC10
2K102BD01
2K102BD09
2K102CA20
2K102DA04
2K102DC08
2K102DD01
2K102DD02
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA05
2K102EA18
2K102EA21
2K102EB08
2K102EB14
(57)【要約】
【課題】多くの消費電力や複雑な信号制御をする必要がない光制御デバイスを提供する。
【解決手段】光ビーム制御デバイス1は、1xM MMI光スプリッタと、(M-2)x1 MMI光コンバイナと、を近接配置して構成した1入力3出力の光分配素子30を利用しており、電極長が互いに異なる複数の焦点制御用位相制御部10と、互いに異なる整数M(M≧3)で特定される複数の光分配素子30と、を備え、光分配素子において、3出力の光強度比が1:(M-2):1であり、所定値Mで特定される光分配素子の光強度の割合が(M-2)/Mである出力が焦点制御用位相制御部の光導波路を介し、1入力3出力かつ3出力の光強度比が1:(M-4):1である光分配素子に接続されており、すべての焦点制御用位相制御部は信号線82を共有し、各焦点制御用位相制御部が電気光学効果に基づいて光位相を変化させることにより、出力光ビーム焦点位置を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1xM MMI光スプリッタと、(M-2)x1 MMI光コンバイナと、を近接配置して構成した1入力3出力の光分配素子を用いた光制御デバイスであって、
電極長が互いに異なる複数の焦点制御用位相制御部と、
互いに異なる整数M(M≧3)で特定される複数の光分配素子と、を備え、
前記光分配素子において、3出力の光強度比が1:(M-2):1であり、
所定値Mで特定される光分配素子の光強度の割合が(M-2)/Mである出力が、前記焦点制御用位相制御部の光導波路を介し、1入力3出力かつ3出力の光強度比が1:(M-4):1である前記光分配素子に接続されており、
すべての前記焦点制御用位相制御部は信号線を共有し、
前記焦点制御用位相制御部のそれぞれが電気光学効果に基づいて光位相を変化させることにより、出力光ビーム焦点位置を制御する光制御デバイス。
【請求項2】
前記光分配素子と前記焦点制御用位相制御部とが交互に配置されて接続され、
デバイスの一端から他端に向かう順序にそれぞれ配置された前記焦点制御用位相制御部の各電極の長さの比が、それぞれの前記焦点制御用位相制御部の入力側に配置された前記光分配素子のそれぞれの3出力における最小強度に対する最大強度の割合の比と等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の光制御デバイス。
【請求項3】
複数の光出力部にそれぞれ接続された光導波路のチャネル数が偶数であって、
デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された前記焦点制御用位相制御部は、当該焦点制御用位相制御部への光入力側に、3出力の光強度比が1:2P:1である前記光分配素子が接続され、かつ、当該焦点制御用位相制御部からの光出力側に、3出力の光強度比が1:(2P-2):1である前記光分配素子が接続され、
デバイスの光出力端の最も近くに配置された前記焦点制御用位相制御部の電極の長さを2としたときに、デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された前記焦点制御用位相制御部の電極の長さは2Pであることを特徴とする請求項2に記載の光制御デバイス。
【請求項4】
複数の光出力部にそれぞれ接続された光導波路のチャネル数が奇数であって、
デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された前記焦点制御用位相制御部は、当該焦点制御用位相制御部への光入力側に、3出力の光強度比が1:(2P-1):1である前記光分配素子が接続され、かつ、当該焦点制御用位相制御部からの光出力側に、3出力の光強度比が1:(2P-3):1である前記光分配素子が接続され、
デバイスの光出力端の最も近くに配置された前記焦点制御用位相制御部の電極の長さを1としたときに、デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された前記焦点制御用位相制御部の電極の長さは(2P-1)であることを特徴とする請求項2に記載の光制御デバイス。
【請求項5】
複数の光出力部にそれぞれ接続された光導波路に沿って設けられた電極をそれぞれ有する複数の偏向制御用位相制御部をさらに備え、
少なくとも2つの前記偏向制御用位相制御部は信号線を共有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光制御デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の光制御デバイスを、その光出力部の個数よりも1つ多く備えると共に、前記光出力部の個数と同数の接続用光導波路を備え、
いずれか1つの前段となる光制御デバイスが備える複数の光出力部に、前記接続用光導波路を介して、他の複数の後段となる光制御デバイスの光入力部がそれぞれ接続されており、
いずれか1つの後段となる光制御デバイスにおいて複数の前記偏向制御用位相制御部が共有する信号線は、他の後段となる光制御デバイスにおいて複数の前記偏向制御用位相制御部が共有する信号線と電気的に接続されていることを特徴とする光制御デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームパターンを制御するデバイスに係り、特に、光ビームの焦点制御が可能な光制御デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
空間光通信や測距、3次元情報取得・表示システムなどへの応用を目指し、光ビームパターンを制御するデバイスの研究開発が進められている。光の位相制御と多光束干渉を基本原理とする光フェーズドアレイ(Optical Phased Array; 以下、OPA)は、光導波路構造を適用することで機械的な可動部なしに光ビームパターンを自在に制御できるため、小型・軽量で耐久性の高い光ビーム走査デバイスや焦点制御デバイスなどへの応用が期待されている(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
図16は、光導波路を用いた一般的なOPAの構成を示す模式図である。OPA901は、基板902上に、光入力部903と、光分離部904と、マルチチャネル光導波路905と、を備えている。OPA901は、ここでは、一例として、マルチチャネル光導波路905のチャネル数を8とした1次元偏向型のOPAである。なお、チャネルは、手前から0,1,2,…,7とする。マルチチャネル光導波路905は、チャネルごとに個別の位相制御部910を備え、その先端を光出力部907として用いる。
【0004】
なお、チャネル数は2本以上であれば良く、その数に合わせて光分離部904の出力本数が決定される。また、光出力部907は光導波路先端の端面に限らず、プリズムや回折格子などの光路変換素子を用いて光導波路906と非平行に光を出射する構造であってもよい。さらに、光出力部907を2次元配列させることにより、2次元偏向型のOPAを構成することもできる。なお、
図16では、光導波路906として光導波路コアのみ図示しており、コア周囲のクラッド層の図示を省略している。
【0005】
OPA901の光分離部904には、8本の光導波路906からなるマルチチャネル光導波路905に入射光を分配するために、1x2 マルチモード干渉(Multi-Mode Interference;MMI)光スプリッタ20が7個配置されている。1x2 MMI光スプリッタ20は、1つの入射光を2つの光導波路に分配する素子である。例えば16本のマルチチャネル光導波路に分配するには、1x2 MMI光スプリッタ20を15個接続して配置することができる。また、1つの入射光を、2より多いN本の光導波路に分配する光分配素子として、1xN MMI光スプリッタやスターカプラなどを用いることも可能である。
【0006】
OPA901の位相制御部910には、信号線908を介した外部からの電圧印加や電流注入などにより屈折率が変化する材料が使用される。このような材料には、例えば電気光学(EO)効果を有する材料(以下、EO材料と称す)や熱光学(TO)効果を有する材料(以下、TO材料と称す)、液晶材料(以下、LC材料と称す)などが利用される。
【0007】
位相制御部910は、各チャネルの光出力部907における出射光の位相を任意に制御することが可能であり、複数の出射光は、干渉して位相分布に応じた光ビームパターンを形成する。したがって、OPA901は、各位相制御部910の動作により光ビームパターンを制御することができる(例えば非特許文献2参照)。
【0008】
ここで、位相制御部910の動作を、EO材料の1つであるEOポリマーをコアに適用した光導波路を例に挙げて説明する。外部電界Eを与えたとき、EOポリマーの屈折率nは、外部電界がない場合の屈折率をn
0として次の式(1)で与えられる。
n=n
0-0.5r
33n
3E … 式(1)
この現象をEO効果と呼び、屈折率変化の大きさを示す物性値r
33をEO係数と呼ぶ。
図2は、EOポリマーをコア61に、これよりも屈折率の低い材料をクラッド62に適用した光導波路(位相制御部910に相当する)の構造を示す断面図である。
図2に示す構造は、基板上に導電性薄膜を被覆して下部電極11とし、下部電極11上に例えば有機シリカを成膜してクラッドとし、さらにEOポリマーを塗布の上、光導波路パターンをエッチングしてコアとし、さらに有機シリカを成膜してクラッドとし、さらに導電性材料で被覆して上部電極12とすることで作製できる。なお、
図2のコア61を導波路として機能させるために、有機シリカの屈折率は、EOポリマーの屈折率よりも低いものとする。
【0009】
図2において、下部電極11と上部電極12との間に電位差を与えると、コア61に外部電界Eが生じ、EO効果によってコア61の電界方向(基板と垂直な方向)の屈折率が変化する。長さLかつコア屈折率nである位相制御部910に入射した基本TM(Transverse Magnetic)モード(基板と垂直な方向に電界振幅を有する)で波長λの光の位相は、位相制御部910の終端においてφ
n=2πnL/λだけ変化する。外部電界がない場合の位相の変化φ
n0を基準に外部電界Eの作用による位相変化量Δφ(E)を求めると、次の式(1b)が得られる。
Δφ(E)=φ
n-φ
n0=2π(n-n
0)L/λ … 式(1b)
これに式(1)を代入すると、次の式(2)が得られる。
Δφ(E)=2π(n
0-0.5r
33n
0
3E-n
0)L/λ=-πr
33n
0
3EL/λ…式(2)
【0010】
図2の構造を有する位相制御部910に電位差Vを与えた場合の外部電界Eは、一般にE=aV(ただし、aは比例定数)であるから、位相制御部910への印加電圧により、印加電圧が0の場合を基準とした光位相の任意な制御が可能である。なお、ここではEO効果を用いた位相制御部910について説明したが、TO材料やLC材料をコアに用いた場合においても、位相制御部910の基本的な作用は同様である。ただし、TO材料では信号として電流を用い、負荷抵抗で発生するジュール熱により位相制御部910の屈折率を変化させる。
【0011】
OPA901より出力される光ビームは、光出力部907より出射された複数の出射光による干渉により形成される。出射光の位相は位相制御部910で任意に調節できるため、これを通じて光ビームの波面形状を自由に制御することができる。
OPA901による光ビーム制御動作を、偏向を例にとり説明する。以下の説明において、入射光は、波長λで基本TMモードの伝搬光とする。位相制御部910の作用により位相制御された光が光出力部907より出射すると、複数の出射光による干渉パターンが形成される。これがOPA901により形成される光ビームである。
図16において、光出力部907は、例えば間隔pで基板平面における直線(以下、出射端線と称す)上に配置されている。各光出力部907からの出射光の光位相が出射端線上で同一であるとき、光ビームは平行光となる。
また、OPA901の出射光の光位相が光出力部907において線形の傾きを有するとき、光ビームは、出射端線と直交する方向に対して有限の角度をもつ平行光となる。
たとえば、光出力部907における光位相がチャネル番号に比例して遅れており、かつ、隣接する光出力部907における位相差がdFであるとき、光出力部907の出力光は、
図17(a)に示すように角度θ=sin
-1((dF/2π)(λ/p))だけ偏向した光ビームになる。
したがって、光ビームの偏向制御を行うには、光出力部907における光位相が、チャネル番号に対して線形に変化するよう、位相制御部910により制御する。
なお、前記の例において光出力部907における光位相がチャネル番号に比例して進んでいる場合、光ビームは、角度θ=sin
-1((-dF/2π)(λ/p))だけ傾斜した方向すなわち光出力部907が配列される方向と直交する方向に対し、前記の例と逆方向に偏向される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Paul F. McManamon, et al., “A Review of Phased Array Steering for Narrow-Band Electrooptical Systems”, Proceedings of the IEEE, Vol.97, Issue: 6, June 2009, p.1078-1096
【非特許文献2】平野芳邦、外7名、「電気光学ポリマーを用いた4μmピッチ光フェーズドアレイによる偏向動作」、映像情報メディア学会誌、2019年、Vol.73, No.2, pp.392-396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図16に示すOPA901において、チャネルj(j: 0, 1, 2,…, 7)における出射光の光位相Fjが光出力部907において2次の位相分布をとるとき、光ビームは、
図17(b)に示すように、出射端線と直交する方向に焦点を結ぶ。焦点は、レンズを用いた光の絞りと同様に、光ビーム断面の幅が最小となる点を表す。
光出力部907の間隔をp、チャネル数をN(
図16ではN=8)としたとき、たとえば、出射端線におけるチャネル3とチャネル4の中点(以下、基準点と称す)からチャネルjの出射端までの距離は、|jp-(N-1)p/2|である。そのため、次の式(3)に示す光位相Fjの位相分布を、各チャネルの出射端に与えると、出射端線と直交し、かつ基準点を通る直線(以下、中心線と称す)上で、出射端よりfの位置に焦点が形成される。
Fj=2π(jp-3.5p)
2/(2fλ) (j: 0, 1, 2,…, 7) …式(3)
なお、λは入射光の波長を示し、fは焦点距離であって、出射端の一次元配列を含む直線(出射端線)から焦点までの距離を表す。
したがって、光ビームの焦点制御を行うには、光出力部907における光位相が、式(3)に示す光位相Fjの位相分布となるよう位相制御部910により制御を行えばよい。
【0015】
また、焦点位置を出射端線に沿って u だけシフトさせるには、式(3)を次の式(4)のように変更すればよい。
Fj=2π(jp-3.5p-u)2/(2fλ) (j: 0, 1, 2,…, 7) …式(4)
また、焦点制御と偏向制御とを同時に行うには、式(4)で与えられる光位相Fj に対して、さらに位相差dFを加算した位相分布を位相制御部910により与えればよい。すなわち、焦点距離f・焦点シフトu・偏向角度θの光ビームを得るには、次の式(5)に基づいて位相分布を与えればよい。
Fj=2π[(jp-3.5p-u)2/(2f)+jp sinθ]/λ (j: 0, 1, 2,…, 7) …式(5)
ここでは特に空間光ビーム制御において重要な偏向・焦点制御の原理について述べたが、OPA901では光導波路の出力端における光位相分布を適切に選ぶことにより、出力される光ビームパターンを自在に制御することが可能である。
【0016】
一方で、従来のOPA901による光ビーム制御を行うには、すべてのチャネルにおける位相制御部910を個別に動作させる必要がある。このため、従来のOPA901では、例えば光ビームの焦点制御により実現される光ビームスポットの空間2次元制御を行うには、多くの消費電力や複雑な信号制御が要求される。
【0017】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、制御信号源の個数を低減することで、多くの消費電力や複雑な信号制御をする必要がない光制御デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために、本発明に係る光制御デバイスは、1xM MMI光スプリッタと、(M-2)x1 MMI光コンバイナと、を近接配置して構成した1入力3出力の光分配素子を用いた光制御デバイスであって、電極長が互いに異なる複数の焦点制御用位相制御部と、互いに異なる整数M(M≧3)で特定される複数の光分配素子と、を備え、前記光分配素子において、3出力の光強度比が1:(M-2):1であり、所定値Mで特定される光分配素子の光強度の割合が(M-2)/Mである出力が焦点制御用位相制御部の光導波路を介し、1入力3出力かつ3出力の光強度比が1:(M-4):1である光分配素子に接続されており、すべての前記焦点制御用位相制御部は信号線を共有し、各焦点制御用位相制御部が電気光学効果に基づいて光位相を変化させることにより、出力光ビーム焦点位置を制御することとした。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来よりも制御信号源の個数を低減できるので、多くの消費電力や複雑な信号制御をする必要がない光制御デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る光制御デバイスを模式的に示す平面図である。
【
図3】実施形態に係る光制御デバイスの出力する光ビームの模式図であり、(a)は焦点制御の原理、(b)は偏向制御の原理をそれぞれ示している。
【
図4】
図1で使用する1:6:1光分配素子を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図4に示す光分配素子の構成要素に等価な光部品の模式図であって、(a)は1x8 MMI光スプリッタ、(b)は6x1 MMI光コンバイナをそれぞれ示している。
【
図6】
図1で使用する光分配素子を模式的に示す平面図であって、(a)は1:4:1光分配素子、(b)は1:2:1光分配素子をそれぞれ示している。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る光制御デバイスを模式的に示す平面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係る光制御デバイスを模式的に示す平面図である。
【
図9】本実施形態の焦点・偏向制御可能な光制御デバイスを組み合わせて空間3次元制御可能とした光制御デバイスの構成を示す平面図である。
【
図10】実施例に係る光制御デバイスの一部を省略して光導波路を模式的に示す平面図である。
【
図11】実施例に係る光制御デバイスのシミュレーション結果(0V)を示す図である。
【
図12】実施例に係る光制御デバイスのシミュレーション結果(12.5V)を示す図である。
【
図13】実施例に係る光制御デバイスのシミュレーション結果(15V)を示すグラフである。
【
図14】実施例に係る光制御デバイスのシミュレーション結果(偏向)を示すグラフである。
【
図15】実施例に係る光制御デバイスのシミュレーション結果(焦点・偏向)を示すグラフである。
【
図16】従来の光フェーズドアレイの構成を示す模式図である。
【
図17】
図16の光制御デバイスの出力する光ビームの模式図であり、(a)は偏向制御の原理、(b)は焦点制御の原理をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
[光制御デバイスの概要]
まず、
図1を参照して第1実施形態に係る光制御デバイス1の概要について説明する。なお、
図16に示すOPA901と同様の構成には同様の符号の1桁目の数字を付して説明を適宜省略する。また、各図面に示される部材のサイズや位置関係は、説明を明確にするため誇張していることがある。また、
図1では、光導波路コアのみ図示しており、コア周囲のクラッド層の図示を省略している。
【0022】
図1に示すように、光制御デバイス1は、ここでは、一例として、マルチチャネル光導波路5のチャネル数を偶数である8とした1次元偏向型のOPAであるものとする。光制御デバイス1は、基板2上に、光入力部3と、マルチチャネル光導波路5と、光出力部7と、光分離部4としての複数の光分配素子30(30A,30B,30C)と、複数の焦点制御用位相制御部10(106,104,102)と、を備えている。なお、光分配素子を区別しない場合、単に光分配素子30と表記し、また、焦点制御用位相制御部を区別しない場合、単に焦点制御用位相制御部10と表記する。
【0023】
光制御デバイス1は、以下の規則性を備えている。
光制御デバイス1は、1xM MMI光スプリッタと、(M-2)x1 MMI光コンバイナと、を近接配置して構成した1入力3出力の光分配素子30を用いた光制御デバイスである。光制御デバイス1は、電極長が互いに異なる複数の焦点制御用位相制御部10と、互いに異なる整数M(M≧3)で特定される複数の光分配素子30と、を備えている。光分配素子30において、3出力の光強度比は1:(M-2):1である。例えば所定値M=8で特定される光分配素子30Aの光強度の割合が(M-2)/Mである出力は、焦点制御用位相制御部106の光導波路を介し、1入力3出力かつ3出力の光強度比が1:(M-4):1である光分配素子30Bに接続されている。
また、別の所定値M=6で特定される光分配素子30Bの光強度の割合が(M-2)/Mである出力は、焦点制御用位相制御部104の光導波路を介し、1入力3出力かつ3出力の光強度比が1:(M-4):1である光分配素子30Cに接続されている。
すべての焦点制御用位相制御部10は信号線82を共有し、各焦点制御用位相制御部10は、電気光学(EO)効果に基づいて光位相を変化させることにより、出力光ビーム焦点位置を制御する。
【0024】
また、光制御デバイス1は、光分配素子30と焦点制御用位相制御部10とが交互に配置されて接続されている。光制御デバイス1において、デバイスの一端から他端に向かう順序にそれぞれ配置された焦点制御用位相制御部10の各電極の長さの比は、それぞれの焦点制御用位相制御部10の入力側に配置された各光分配素子30の3出力における最小強度に対する最大強度の割合(最大強度/最小強度)の比と等しくなるように設定されている。
【0025】
光制御デバイス1についての上記の規則性の詳細について、各部の構成例、制御例、部品の設計例を順次説明する。
[各部の構成例]
まず、各部の構成例について説明する。
基板2は、様々な材料を用いて形成することができる。基板2の一方の面には、光入力部3と、光分離部4と、信号線82と、が形成されている。
光入力部3は、外部の光源から光を光分離部4へ入射する光導波路から形成される。光源としては、レーザー光源や発光ダイオード(LED)等を適用することができる。光制御デバイス1には、さらに必要に応じて、光源と光入力部3との間に、ボールレンズやシリンドリカルレンズ等を備えるようにしてもよい。
【0026】
光出力部7は、マルチチャネル光導波路5の端面によって構成され、端面は直線状に間隔pで配置されるものとする。光出力部7は、位相が制御された光を外部空間へ放射するものであり、光導波路の幅方向に並設されている。それぞれの光出力部7から放射された光は、それぞれの光位相の関係によって決まる干渉パターンを形成する。なお、光出力部7から出力する光ビームを上方に出射するために、光導波路に回折格子をさらに設けるようにしてもよい。さらに必要に応じて、光出力部7の外部かつ放射された光の照射範囲内に、ボールレンズやシリンドリカルレンズ等を備えるようにしてもよい。
【0027】
光導波路6は、コアとクラッドから形成され、コアはクラッドに比較して屈折率が大きい。焦点制御用位相制御部10の光導波路を形成するコアの材料は、外部信号の印加により屈折率が変化する材料である。印加電圧によって屈折率が変化するLC材料やEO材料、あるいはヒーター電極の通電に伴うジュール加熱によって屈折率が変化するTO材料が利用できる。焦点制御用位相制御部10以外の光導波路コアの材料には、酸化チタンなどの無機物のほか、EO効果を有さない一般的なポリマー材料を用いることができる。コア材料やクラッド材料は、光導波路の全体を通じて同じ材料でもよいし、各機能部に応じた異なる材料を用いるようにしてもよい。なお、複数の光出力部7にそれぞれ接続された光導波路6は、一例として、
図1では8本が配置されている。
【0028】
光分離部4は、光入力部3を導波した光を、マルチチャネル光導波路5に分配するものである。光分離部4は、一例として、光分配素子30と焦点制御用位相制御部10とを交互に接続することで、入力光の強度をマルチチャネル光導波路5に等分配する。マルチチャネル光導波路5には光出力部7のチャネル数と同数の8本の光導波路6が並列配置されている。ここでは、
図1において下から順に、チャネル番号を0,1,2,…,7とする。各チャネルの光導波路を、マルチチャネル光導波路#0,#1,#2,#3,#4,#5,#6,#7と表記する。なお、光導波路6は、シングルモードで光の伝搬を行うことを前提としている。
【0029】
光制御デバイス1は、光入力部3に、光分離部4として光分配素子30Aが接続されている。光分配素子30Aは、1つの入射光を光強度比1:6:1の3つに分配するものである。光分配素子30Aを、以下、1:6:1光分配素子30Aと称す。1:6:1光分配素子30Aの出力光導波路のうち強度が最大のものを、以下、6/8出力光導波路6A1(
図4参照)と称す。この6/8出力光導波路6A1には、
図1に示すように焦点制御用位相制御部106を介して光分配素子30Bが接続されている。
【0030】
光分配素子30Bは、1つの入射光を光強度比1:4:1の3つに分配するものである。光分配素子30Bを、以下、1:4:1光分配素子30Bと称す。1:4:1光分配素子30Bの出力光導波路のうち強度が最大のものを、以下、4/6出力光導波路6B1(
図6(a)参照)と称す。この4/6出力光導波路6B1には、
図1に示すように焦点制御用位相制御部104を介して光分配素子30Cが接続されている。
【0031】
光分配素子30Cは、1つの入射光を光強度比1:2:1の3つに分配するものである。光分配素子30Cを、以下、1:2:1光分配素子30Cと称す。1:2:1光分配素子30Cの出力光導波路のうち強度が最大のものを、以下、2/4出力光導波路6C1(
図6(b)参照)と称す。この2/4出力光導波路6C1には、
図1に示すように焦点制御用位相制御部102を介して1x2 MMI光スプリッタ20が接続されている。
【0032】
1:6:1光分配素子30Aのうち全光出力に対する出力が1/8である2本の光導波路6A2(
図4参照)には、
図1に示すようにマルチチャネル光導波路#0,#7がそれぞれ接続されている。
1:4:1光分配素子30Bのうち全光出力に対する出力が1/6である2本の光導波路6B2(
図6(a)参照)には、
図1に示すようにマルチチャネル光導波路#1,#6がそれぞれ接続されている。
1:2:1光分配素子30Cのうち全光出力に対する出力が1/4である2本の光導波路6C2(
図6(b)参照)には、
図1に示すようにマルチチャネル光導波路#2,#5がそれぞれ接続されている。
1x2 MMI光スプリッタ20の2出力には、
図1に示すようにマルチチャネル光導波路#3,#4がそれぞれ接続されている。
【0033】
焦点制御用位相制御部10は、外部印加電圧等で生じる電界、あるいは電流供給により発生するジュール熱により屈折率が変化する材料を含んでいる。焦点制御用位相制御部10は、
図1に示すように信号線82を介して送られる電気信号によって光導波路を形成するコアの屈折率を変化させる。つまり、焦点制御用位相制御部10は、信号線82から送られる電気信号によって、焦点制御用位相制御部10内を伝搬する光の位相が制御可能になっている。外部印加電圧で生じる電界により屈折率が変化する材料を含む焦点制御用位相制御部10には、電極(下部電極11、上部電極12:
図2参照)が設けられている点が光出力部7等の光導波路とは異なっている。電流供給に伴うジュール熱により屈折率が変化する材料を含む焦点制御用位相制御部10には、
図2における下部電極11もしくは上部電極12のうち1つないしは2つが設けられている。外部印加電圧で生じる電界により屈折率が変化する材料を含む焦点制御用位相制御部10の電極配置においては、電圧印加により生じる基板2と垂直な方向の電界成分の分布により屈折率分布が変化する。このため本構成例では、伝播する光として電界の振幅方向が基板2と垂直な方向であるTMモードの偏光を用いる。ただし、電極は、コアの上下方向に配置されるものに限らず、コア61の側方に配置して、TE(Transverse Electric)モードの偏光を用いてもよい。
【0034】
焦点制御用位相制御部10の断面構造は
図2と同様である。焦点制御用位相制御部10以外の光導波路の断面構造は、
図2より上部電極12を除いたものと同様、もしくは
図2より上部電極12および下部電極11を除いたものと同様である。このとき各焦点制御用位相制御部10に同一の信号を与えたときの位相変化量は、焦点制御用位相制御部10の電極長に比例する。なお、焦点制御用位相制御部10の電極長は、光導波路6に沿った電極の長さである。
【0035】
したがって、焦点制御用位相制御部106,104,102の電極長の比は、それぞれの前段(入力側)に配置された光分配素子30による出力の、最小強度に対する最大強度の割合(最大強度/最小強度)の比と同じとする。
焦点制御用位相制御部106の前段に配置された1:6:1光分配素子30Aによる出力の最大強度/最小強度は、6/1(=6)である。
焦点制御用位相制御部104の前段に配置された1:4:1光分配素子30Bによる出力の最大強度/最小強度は、4/1(=4)である。
焦点制御用位相制御部102の前段に配置された1:2:1光分配素子30Cによる出力の最大強度/最小強度は、2/1(=2)である。
したがって、焦点制御用位相制御部106,104,102の電極長の比は6:4:2とする。
【0036】
以上をまとめると、光制御デバイス1は、以下の規則性を備えている。
光制御デバイス1は、複数の光出力部7にそれぞれ接続された光導波路のチャネル数が偶数であって、デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された焦点制御用位相制御部10は、当該焦点制御用位相制御部10への光入力側に、3出力の光強度比が1:2P:1である光分配素子30が接続され、かつ、当該焦点制御用位相制御部10からの光出力側に、3出力の光強度比が1:(2P-2):1である光分配素子30が接続されている。光制御デバイス1において、デバイスの光出力端の最も近くに配置された焦点制御用位相制御部10の電極の長さを2としたときに、デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された焦点制御用位相制御部10の電極の長さは2Pである。
【0037】
図2に示すように、焦点制御用位相制御部10の下部電極11および上部電極12は信号線82を介して焦点制御信号源81に接続されている。焦点制御信号源81は、例えば波形発生器を備えている。光制御デバイス1の駆動時には、焦点制御信号源81が、定められた波形の駆動電圧を焦点制御用位相制御部10に印加する。
【0038】
信号線82は、
図1に示すように、各焦点制御用位相制御部10の電極にそれぞれ電気的に接続されている。信号線の材料としては、例えば、Al、Cu、Au、Ti、Crなどの金属を用いることができる。信号線を透明電極としてもよく、その場合、材料としては、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)やITO(Indium Tin Oxide:インジウム-スズ酸化物)などを挙げることができる。
【0039】
信号線82の端部には焦点制御用信号端子C(
図1参照)が設けられている。この焦点制御用信号端子Cには、焦点制御信号源81(
図2参照)が接続される。
図16に示す従来のOPA901は、光ビームの焦点制御を行う際に、すべてのチャネルにおける位相制御部910を個別に動作させる複数の制御信号源を必要とする。これに対して、光制御デバイス1は、すべての焦点制御用位相制御部10が、共有する信号線82を介して1つの焦点制御信号源81からの制御信号によって駆動することができる。
【0040】
[制御例]
光制御デバイス1の各焦点制御用位相制御部10に電圧もしくは電流からなる同一の信号を与えたとき、各焦点制御用位相制御部10の位相変化量の比は、各焦点制御用位相制御部10の入力側に配置された光分配素子30の3出力における最小強度に対する最大強度の割合の比によって決まる。各焦点制御用位相制御部10の位相変化量は、光出力側の焦点制御用位相制御部102から光入力側の焦点制御用位相制御部106に向かう順番で増加する等差数列で示される。
【0041】
具体的には、光制御デバイス1により焦点位置を制御するには、焦点制御用位相制御部106,104,102に例えば信号sを入力する。
信号sの入力により、焦点制御用位相制御部106に、その電極長に応じた位相変化量6sが生じる。
信号sの入力により、焦点制御用位相制御部104に、その電極長に応じた位相変化量4sが生じる。
信号sの入力により、焦点制御用位相制御部102に、その電極長に応じた位相変化量2sが生じる。
言い換えると、最後段の焦点制御用位相制御部10(すなわち102)の位相変化量を2としたときに、最後段から最前段に向かってP(P≧2)番目に配置された焦点制御用位相制御部10の位相変化量は2Pとなっている。
【0042】
このとき、焦点制御用位相制御部106の作用は1:4:1光分配素子30Bに入射する光位相に影響を与え、マルチチャネル光導波路#0,#7をそれぞれ通る光の位相に影響を与えない。焦点制御用位相制御部104の作用は1:2:1光分配素子30Cに入射する光位相に影響を与え、マルチチャネル光導波路#0,#7,#1,#6をそれぞれ通る光の位相に影響を与えない。焦点制御用位相制御部102の作用は1x2 MMI光スプリッタ20に入射する光位相に影響を与え、マルチチャネル光導波路#0,#7,#1,#6,#2,#5をそれぞれ通る光の位相に影響を与えない。
【0043】
したがって、このときマルチチャネル光導波路#0,#7では位相変化量が0である。
一方、マルチチャネル光導波路#1,#6では、位相変化量が6sとなる。
またマルチチャネル光導波路#2,#5では、位相変化量が(6+4)sとなる。
またマルチチャネル光導波路#3,#4では、位相変化量が(6+4+2)sとなる。
そのため、光出力部7における位相分布は、2次曲線(-[(jp-3.5p)
2-12.25]s,ただし、jはチャネル番号:0, 1,…, 7)になる。
これを前記式(4)と比較すれば、f=-sπ/λと相似であり、信号sにより焦点距離を制御することが可能であることが分かる。なお、焦点距離の基準位置は、光出力部7における端面が配置される直線の位置にとる。また、信号sの符号を逆にとれば、焦点位置を、基準位置から見て逆方向につくることが可能である(
図3(a)参照)。
【0044】
光制御デバイス1において、チャネル数Nを8であるものとして説明したが、チャネル数はこれに限らない。例えばチャネル数Nを6にする場合、光分離部4は、2段の光分配素子30B,30Cと、1x2 MMI光スプリッタ20と、を備えていればよい。また、光分離部4は、4段以上の光分配素子30を設けてもよく、チャネル数Nを10以上にしてもよい。
【0045】
なお、チャネル数Nが8以外の偶数の場合の焦点制御用位相制御部による位相変化量(本例では電極長)の比は、最後段の焦点制御用位相制御部(本例では焦点制御用位相制御部102)から、最前段の焦点制御用位相制御部(本例では焦点制御用位相制御部106)に向かって、2:4:…:(N-2)とする。このとき、信号sにより生じる光出力部7における位相分布は、x=(j-(N-1)/2)p として、-x2/16+[N2/4-N/2+1/4]であり、2次の位相分布を生成することができる。
【0046】
ここでは焦点位置の制御について述べたが、光入力部3から光出力部7にいたる各チャネルの導波路長に起因する位相差を補正する操作、すなわち位相補償に、前記焦点制御用位相制御部10を用いることも可能である。
まず、1xN MMI光スプリッタの出力位相分布は、2次の位相分布を生成することが知られている(例えば下記参考文献1参照)。
(参考文献1)光導波路解析入門pp.186 など
基本TMモードの伝搬定数(伝搬距離による位相変化を表す物性値)は、おおむね材料の屈折率とコアの厚みによって決まることが知られている。したがって、1xN MMI光スプリッタと、Nx1 光コンバイナを接続した光導波路における位相変化量は、コア・クラッドの、材料・厚みおよび長さが同一である光導波路における位相変化量とおおむね等しい。すなわち、光分配素子30を用いたチャネル数Nである光制御デバイス1の光出力部7における位相分布は、1xN MMI光スプリッタの出力位相分布とおおむね等しい。そこで、焦点制御用位相制御部10による位相変化量を、1xN MMI光スプリッタの出力位相分布と逆相になるよう調整することにより、位相補償を行うことができ、このとき、光出力部7における光位相は同一となる。
【0047】
[光分配素子の構造の設計例]
次に、光制御デバイス1に用いる光分配素子30の構造について
図4に示す1:6:1光分配素子30Aを例にとって説明する。
【0048】
図4の1:6:1光分配素子30Aは、幅Wcの光導波路を入力部とし、また、幅Ws8(=pox8)で長さLs8なる光導波路(以下、1x8光スプリッタ部40Aと称す)と、幅Wc6(=pox6)で長さLc6なる光導波路(以下、6x1光コンバイナ部50Aと称す)とを隙間なく配置して構成されている。この1:6:1光分配素子30Aは、出力部として、1x8光スプリッタ部40Aに2本の光導波路6A2が接続されており、また、6x1光コンバイナ部50Aに1本の光導波路6A1が接続されている。なお、poについては後述する。
【0049】
ここで、1x8光スプリッタ部40Aは、幅の狭い光導波路に幅が広い光導波路を接続したときに、幅の広い光導波路内で生じる現象であるマルチモード干渉に基づき、入力部から長さLs8の地点に8個の光強度ピークが発生するよう設計されたマルチモード光導波路である。
【0050】
前記1x8光スプリッタ部40Aは、
図5(a)に示すように、1つの光導波路を入力部とし、8本の光導波路を等しい間隔poで配置した出力部を有するとき、入力部より入射した光を8本の光導波路に分配する機能を有する、1x8 MMI光スプリッタの構成部品と等価な部品である。
【0051】
1x8 MMI光スプリッタの設計においては、まず出力光導波路のピッチpoと本数8とによって幅Ws8=8×poを定め、次いで、入力部より光を入射した際に1x8光スプリッタ部40A内に生じる光干渉パターンを、ビーム伝搬法などの数値シミュレーションにより求める。なお、光干渉パターンは解析式や近似式によって求めても構わない。得られる光干渉パターンは、伝搬長が特定の値と一致するとき、1つもしくは複数の光強度ピークをつくり、幅方向の強度分布は入力光導波路の延長線上を中心とする対称なものとなる。幅方向における光強度ピークが1つに収束する伝搬長の4/3倍の長さをLa8とする(すなわち、伝搬長3La8/4のとき光強度ピークが一点に収束する)と、前記の特定の値は、長さLa8の3a/b倍となることが理論的に知られている。ただし、aとbは整数である(例えば下記参考文献2参照)。
(参考文献2)光導波路解析入門pp.176-198 など
【0052】
前記の理論より求めた長さLa8を用いることにより、1x8光スプリッタ部40Aの長さ(Ls8)は、Ls8=3La8/32と決定される。なお、出力ピッチpoや本数Nが異なる場合の設計においても、それに合わせて長さLaの値を求めれば、1xN光スプリッタ部の長さを3La/(4N)より決定することが可能である。
【0053】
たとえば1x6 MMI光スプリッタや、
図6(a)に示す1:4:1光分配素子30Bに用いる1x6光スプリッタ部40Bの設計においては、幅方向における光強度ピークが一点に収束する伝搬長の4/3倍として長さLa6を求めれば、1x6光スプリッタ部40Bの長さ(Ls6)は、Ls6=3La6/24より決定することができる。
【0054】
図4に戻って、1:6:1光分配素子30Aに用いる6x1光コンバイナ部50Aの長さは、1x6 MMI光スプリッタの設計で求めた長さLa6に基づいて決定する。具体的には、伝搬長が1x6 MMI光スプリッタの長さLs6と等しいとき、幅方向における光強度ピークが6個存在し、伝搬長が長さLa6と等しいときに一点に収束することから、次の式(6)で示される関係式とする。
Lc6=La6-Ls6 … 式(6)
この設計は、6本の入力光導波路と1本の出力光導波路とを備えた、
図5(b)に示す6x1 MMI光コンバイナを設計することと等価である。なお、Wc6=6×poである。
【0055】
以上により決定された1x8 MMI光スプリッタと、6x1 MMI光コンバイナとを、中心軸を一致させて近接配置することにより、1:6:1光分配素子30Aを構成することができる。
上記の設計を要約すると、長さLa8および長さLa6より1:6:1光分配素子30Aは設計される。すなわち、1:6:1光分配素子30Aは、長さLa8に基づいて1x8光スプリッタ部40Aの長さ(Ls8)を求め、長さLa6に基づいて6x1光コンバイナ部50Aの長さ(Lc6)を求め、これらを用いることによって設計される。
【0056】
同様に、長さLa6および長さLa4より1:4:1光分配素子30Bは設計され、長さLa4および長さLa2より1:2:1光分配素子30Cは設計される。なお、チャネル数Nが多い場合にも同様に、長さLaNおよび長さLa(N-2)より1:(N-2):1光分配素子が設計される。
【0057】
例えば1:6:1光分配素子30Aには、1x8 MMI光スプリッタと6x1 MMI光コンバイナとをつなぐ導波路がなく、これらは一体で作られており、間をつなぐ導波路が存在しないことから光の損失が少なくなるメリットがある。同様に1:4:1光分配素子30Bは、1x6 MMI光スプリッタと4x1 MMI光コンバイナの組み合わせに比して光の損失が少ない。また、1:2:1光分配素子30Cは、1x4 MMI光スプリッタと2x1 MMI光コンバイナの組み合わせに比して光の損失が少ない。
【0058】
(第2実施形態)
次に、
図7を参照して第2実施形態に係る光制御デバイス1Bについて説明する。なお、
図1に示す光制御デバイス1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。光制御デバイス1Bは、マルチチャネル光導波路5のチャネル数を奇数(例えば7)としたことに伴って光分配素子30が入射光を3つに分配するときの光強度比を変更した点と、1x2 MMI光スプリッタ20を省略した点が、
図1に示す光制御デバイス1と相違する。
【0059】
光制御デバイス1Bにおいて、マルチチャネル光導波路5は、ここでは、
図7において下から順に、チャネル番号を0,1,2,…,6とする。各チャネルの光導波路を、マルチチャネル光導波路#0,#1,#2,#3,#4,#5,#6と表記する。光出力部7は、マルチチャネル光導波路5の端面によって構成され、端面は直線状に間隔pで配置されるものとする。
【0060】
光制御デバイス1Bは、光入力部3に、光分離部4として光分配素子30Dが接続されている。光分配素子30Dは、1つの入射光を光強度比1:5:1の3つに分配するものである。光分配素子30Dを、以下、1:5:1光分配素子30Dと称す。1:5:1光分配素子30Dの出力光導波路のうち強度が最大のものを、以下、5/7出力光導波路と称す。この5/7出力光導波路には、
図7に示すように焦点制御用位相制御部106を介して光分配素子30Eが接続されている。
【0061】
光分配素子30Eは、1つの入射光を光強度比1:3:1の3つに分配するものである。光分配素子30Eを、以下、1:3:1光分配素子30Eと称す。1:3:1光分配素子30Eの出力光導波路のうち強度が最大のものを、以下、3/5出力光導波路と称す。この3/5出力光導波路には、
図7に示すように焦点制御用位相制御部104を介して光分配素子30Fが接続されている。
【0062】
光分配素子30Fは、1つの入射光を光強度比1:1:1の3つに分配するものである。光分配素子30Fを、以下、1:1:1光分配素子30Fと称す。1:1:1光分配素子30Fの出力光導波路のうち強度が最大のものを、以下、1/3出力光導波路と称す。この1/3出力光導波路には、
図7に示すように焦点制御用位相制御部102を介してマルチチャネル光導波路#3が接続されている。
1:5:1光分配素子30Dのうち全光出力に対する出力が1/7である2本の光導波路には
図7に示すようにマルチチャネル光導波路#0,#6がそれぞれ接続されている。
1:3:1光分配素子30Eのうち全光出力に対する出力が1/5である2本の光導波路には
図7に示すようにマルチチャネル光導波路#1,#5がそれぞれ接続されている。
1:1:1光分配素子30Fのうち全光出力に対する出力が1/3である2本の光導波路には
図7に示すようにマルチチャネル光導波路#2,#4がそれぞれ接続されている。
【0063】
焦点制御用位相制御部106,104,102の電極長の比は、それぞれの前段(入力側)に配置された光分配素子30による出力の、最小強度に対する最大強度の割合(最大強度/最小強度)の比と同じとする。
焦点制御用位相制御部106の前段に配置された1:5:1光分配素子30Dによる出力の最大強度/最小強度は、5/1(=5)である。
焦点制御用位相制御部104の前段に配置された1:3:1光分配素子30Eによる出力の最大強度/最小強度は、3/1(=3)である。
焦点制御用位相制御部102の前段に配置された1:1:1光分配素子30Fによる出力の最大強度/最小強度は、1/1(=1)である。
したがって、焦点制御用位相制御部106,104,102の電極長の比は5:3:1とする。第2実施形態においても、各焦点制御用位相制御部10の位相変化量は、光出力側の焦点制御用位相制御部102から光入力側の焦点制御用位相制御部106に向かう順番で増加する等差数列で示される。
【0064】
以上をまとめると、光制御デバイス1Bは、以下の規則性を備えている。
光制御デバイス1Bは、複数の光出力部7にそれぞれ接続された光導波路のチャネル数が奇数であって、デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された焦点制御用位相制御部10は、当該焦点制御用位相制御部10への光入力側に、3出力の光強度比が1:(2P-1):1である光分配素子30が接続され、かつ、当該焦点制御用位相制御部10からの光出力側に、3出力の光強度比が1:(2P-3):1である光分配素子30が接続されている。光制御デバイス1Bにおいて、デバイスの光出力端の最も近くに配置された焦点制御用位相制御部の電極の長さを1としたときに、デバイスの光出力端から光入力端に向かってP(P≧2)番目に配置された焦点制御用位相制御部の電極の長さは(2P-1)である。
【0065】
光制御デバイス1Bにより焦点位置を制御するには、焦点制御用位相制御部106,104,102に例えば信号sを入力する。
信号sの入力により、焦点制御用位相制御部106に、その電極長に応じた位相変化量5sが生じる。
信号sの入力により、焦点制御用位相制御部104に、その電極長に応じた位相変化量3sが生じる。
信号sの入力により、焦点制御用位相制御部102に、その電極長に応じた位相変化量1sが生じる。
言い換えると、最後段の焦点制御用位相制御部10(すなわち102)の位相変化量を1としたときに、最後段から最前段に向かってP(P≧2)番目に配置された焦点制御用位相制御部10の位相変化量は(2P-1)となっている。
【0066】
光制御デバイス1Bのようにマルチチャネル光導波路5のチャネル数Nが奇数の場合には、焦点制御用位相制御部による位相変化量(本例では電極長)の比は、最後段の焦点制御用位相制御部(本例では焦点制御用位相制御部102)から、最前段の焦点制御用位相制御部(本例では焦点制御用位相制御部106)に向かって、1:3:…(N-2)とする。なお、Nは5以上の奇数である。
【0067】
このとき、マルチチャネル光導波路#0,#6では、位相変化量が0である。
一方、マルチチャネル光導波路#1,#5では、位相変化量が5sとなる。
また、マルチチャネル光導波路#2,#4では、位相変化量が(5+3)sとなる。
また、マルチチャネル光導波路#3では、位相変化量が(5+3+1)sとなる。
したがって、第2実施形態に係る光制御デバイス1Bにおいても、信号sにより生じる光出力部7における位相分布は2次曲線になるので、第1実施形態のように2次の位相分布を生成することができる。
【0068】
(第3実施形態)
次に、
図8を参照して第3実施形態に係る光制御デバイス1Cについて説明する。なお、
図1に示す光制御デバイス1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。光制御デバイス1Cは、複数の光出力部7にそれぞれ接続された光導波路6に沿って設けられた電極をそれぞれ有する複数の偏向制御用位相制御部70~77および信号線83~85を付加した点が、
図1に示す光制御デバイス1と相違する。
【0069】
光制御デバイス1Cにおいて、マルチチャネル光導波路5は、ここでは、
図8において下から順に、チャネル番号を0,1,2,…,7とする。各チャネルの光導波路を、マルチチャネル光導波路#0,#1,#2,#3,#4,#5,#6,#7と表記する。光出力部7は、マルチチャネル光導波路5の端面によって構成され、端面は直線状に間隔pで配置されるものとする。
【0070】
光制御デバイス1Cは、複数の光分配素子30において、3出力の光強度比は1:(M-2):1であり(Mは2より大きい任意の整数)、チャネル数N(NはM<Nである任意の整数、ここではN=8)である。
1:6:1光分配素子30Aのうち全光出力に対する出力が1/8である2本の光導波路6A2(
図4参照)には、偏向制御用位相制御部70,77が配置される。
1:4:1光分配素子30Bのうち全光出力に対する出力が1/6である2本の光導波路6B2(
図6(a)参照)には、偏向制御用位相制御部71,76が配置される。
1:2:1光分配素子30Cのうち全光出力に対する出力が1/4である2本の光導波路6C2(
図6(b)参照)には、偏向制御用位相制御部72,75が配置される。
1x2 MMI光スプリッタ20Cの出力には、偏向制御用位相制御部73,74が配置される。
【0071】
具体的には、
図8に示すように、マルチチャネル光導波路#0~#3には、それぞれ偏向制御用位相制御部70~73が設けられている。偏向制御用位相制御部70~73は、信号線84を共有している。また、マルチチャネル光導波路#4~#7には、それぞれ偏向制御用位相制御部74~77が設けられている。偏向制御用位相制御部74~77は、信号線85を共有している。このうち偏向制御用位相制御部77には、信号線83も接続されている。
なお、偏向制御用位相制御部70~77の符号はチャネル番号(0~7)にそれぞれ対応している。
【0072】
偏向制御用位相制御部70~77の断面構造は
図2と同様である。偏向制御用位相制御部70~77以外の光導波路の断面構造は、
図2より上部電極12を除いたものと同様、もしくは
図2より上部電極12および下部電極11を除いたものと同様である。このとき各偏向制御用位相制御部70~77に同一の信号を与えたときの位相変化量は、偏向制御用位相制御部70~77の電極長に比例する。
【0073】
偏向制御用位相制御部70の電極長は、偏向制御用位相制御部77の電極長と等しい。
偏向制御用位相制御部71の電極長は、偏向制御用位相制御部76の電極長と等しい。
偏向制御用位相制御部72の電極長は、偏向制御用位相制御部75の電極長と等しい。
偏向制御用位相制御部73の電極長は、偏向制御用位相制御部74の電極長と等しい。
偏向制御用位相制御部70,71,72,73の電極長の比は7:5:3:1とする。
【0074】
偏向制御用位相制御部70~73が共有する信号線84の偏向制御用信号端子A(または偏向制御用信号端子a)には、図示しない偏向制御信号源Aが接続される。偏向制御用位相制御部74~77が共有する信号線85の偏向制御用信号端子B(または偏向制御用信号端子b)には、図示しない偏向制御信号源Bが接続される。偏向制御信号源Bの出力と偏向制御信号源Aの出力とは逆相であるものとする。
このとき、偏向制御信号源A,Bの出力がともに0であれば、マルチチャネル光導波路#0を通る光の光出力部7における位相は、マルチチャネル光導波路#7を通る光の光出力部7における位相と等しい。
また、マルチチャネル光導波路#1を通る光の光出力部7における位相は、マルチチャネル光導波路#6を通る光の光出力部7における位相と等しい。
また、マルチチャネル光導波路#2を通る光の光出力部7における位相は、マルチチャネル光導波路#5を通る光の光出力部7における位相と等しい。
さらに、マルチチャネル光導波路#3を通る光の光出力部7における位相は、マルチチャネル光導波路#4を通る光の光出力部7における位相と等しい。したがって、第1実施形態で説明した前記の位相補償を行った場合、光制御デバイス1Cの出射光ビームは偏向角度0度の平行光になる。
【0075】
また、前記位相補償を行った上で、偏向制御信号源A,Bに、振幅aで逆相の信号を与えると、偏向制御用位相制御部70~77に対応したマルチチャネル光導波路#0,#1,#2,#3,#4,#5,#6,#7への信号入力は7a,5a,3a,1a,-1a,-3a,-5a,-7aとなり、線形の位相分布を付加することができる。したがって、この場合、光制御デバイス1Cの出射光ビームは、偏向した平行光になる(
図3(b)参照)。
【0076】
第3実施形態に係る光制御デバイス1Cは、第1実施形態で説明した前記の式(5)に基づいてマルチチャネル光導波路5の各チャネルの位相を決定することにより、光ビームの焦点制御および偏向制御(以下、焦点・偏向制御と表記する)が可能となる。これは、
図8に示す光制御デバイス1Cを用いれば、焦点制御信号源81(
図2参照)と偏向制御信号源A,Bとの合計3個の信号源を使用するだけで、焦点・偏向制御が可能であることを示している。すなわち、3個の信号源を用いて焦点距離の制御と1次元偏向の制御とを行い、光ビームスポットの空間2次元制御が可能であることを示している。
【0077】
なお、チャネル数の半分(4つ)の偏向制御用位相制御部が信号線を共有することとしたが、少なくとも2つの偏向制御用位相制御部が信号線を共有するようにしてもよい。
また、偏向制御用位相制御部70~77の電極長の比は、チャネル0からチャネル7に向かって線形に増加もしくは減少してもよく、この場合、偏向制御用位相制御部70~77に接続される信号源は単一でよく、あるいは、出力の等しい複数の信号源を用いることができる。また、チャネル0~7に、信号線を共有せずに信号線が独立した偏向制御用位相制御部を設けてもよく、このとき、信号源は偏向制御用位相制御部ごとに個別のものとし、出力は任意である。また、信号源の個数はチャネル数Nよりも少ないものとする。なお、第3実施形態に係る光制御デバイス1Cの変形例として、マルチチャネル光導波路のチャネル数を奇数であるものとしてもよい。
【0078】
図16に示す従来のOPA901は、
図17(a)を参照して説明した単純な偏向制御や
図17(b)を参照して説明した単純な焦点制御を実現するにも、全チャネルの制御を行う必要がある。このため、従来のOPA901は、焦点・偏向制御により実現される光ビームスポットの空間2次元制御や3次元制御を行うには、多くの消費電力や複雑な信号制御が要求される。これに対して、光制御デバイス1Cは、焦点制御用位相制御部10および偏向制御用位相制御部70~77によって、信号制御の簡易化や消費電力の低減を実現することができる。
また、光出力部7のチャネル数がNである光制御デバイス1Cにより、1次元偏向および焦点の制御による2次元空間光ビームスポット制御を行うに必要な信号源の数を、
図16に示す従来構成と比べて減じることができ、2または3で構成することが可能である。
【0079】
(第4実施形態)
次に、
図9を参照(適宜
図8参照)して第4実施形態に係る光制御デバイス90について説明する。光制御デバイス90は、空間3次元制御OPAである。この光制御デバイス90は、光制御デバイス1D-0を前段とし、その後段として光制御デバイス1D-1,1D-2,1D-3,1D-4(以下、区別しない場合には単に1Dと表記する)を、それぞれ接続用光導波路6D-1,6D-2,6D-3,6D-4(以下、区別しない場合には単に6Dと表記する)を介して多段接続して構成されている。
光制御デバイス1Dは、それぞれが
図8に示される光制御デバイス1Cのチャネル数を4に減じたものである。つまり、光制御デバイス1Dは、光制御デバイス1Cの一部分(1:2:1光分配素子30C、焦点制御用位相制御部102および1x2 MMI光スプリッタ20等)を備える。全チャネル数が4なので、1:2:1光分配素子30Cのうち全光出力に対する出力が1/4である2本の光導波路には、マルチチャネル光導波路#0,#3がそれぞれ接続され、1x2 MMI光スプリッタ20の2出力には、マルチチャネル光導波路#1,#2がそれぞれ接続される。唯一の焦点制御用位相制御部102への入力信号sに対して#0,#1,#2,#3の位相変化量は0,2s,2s,0となる。また、マルチチャネル光導波路#0~#3には、それぞれ偏向制御用位相制御部72~75(
図8参照)が設けられている。そのため、各光制御デバイス1Dは、光制御デバイス1Cのように焦点・偏向制御可能な焦点・偏向制御OPAである。なお、以下の説明において、
図8に示す光制御デバイス1Cと同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0080】
前段の光制御デバイス1D-0に備わる第1の光出力部7は、長さL1の接続用光導波路6D-1を介して、後段の光制御デバイス1D-1の光入力部3に接続されている。
前段の光制御デバイス1D-0に備わる第2の光出力部7は、長さL2の接続用光導波路6D-2を介して、後段の光制御デバイス1D-2の光入力部3に接続されている。
前段の光制御デバイス1D-0に備わる第3の光出力部7は、長さL3の接続用光導波路6D-3を介して、後段の光制御デバイス1D-3の光入力部3に接続されている。
前段の光制御デバイス1D-0に備わる第4の光出力部7は、長さL4の接続用光導波路6D-4を介して、後段の光制御デバイス1D-4の光入力部3に接続されている。
ただし、4本の接続用光導波路6Dは、その長さを入射光の波長λで除した余りが等しくなるよう調整されたものとする。すなわち、接続用光導波路6D-1~6D-4の長さL1~L4は、L1 mod λ=L2 mod λ=L3 mod λ=L4 mod λを満たすものとする。
【0081】
後段の光制御デバイス1D-1は、4つのチャネルに対応して、マルチチャネル導波路の各チャネルのそれぞれの長さが異なっており、光導波路の長さが長い順に第1~第4の光出力部7をそれぞれ備えている。
同様に、後段の光制御デバイス1D-2~1D-4も、光導波路の長さが長い順に第1~第4の光出力部7をそれぞれ備えている。
【0082】
光制御デバイス90の全体としての光出力部は、放射素子群86で形成されている。放射素子群86は、ここでは4×4個の放射素子R11~R14、R21~R24、R31~R34、R41~R44(以下、区別しない場合、単に放射素子Rと表記する)を備えている。
放射素子Rは、光導波路の伝搬光を基板と垂直な方向(Y軸の正の方向)へ放射する素子であり、一般的にグレーティング(回折格子)や斜めミラー、散乱物体が用いられる。
【0083】
放射素子R11~R14は、光制御デバイス1D-1に備わる第1~第4の光出力部7の端部にそれぞれ設けられている。
放射素子R21~R24は、光制御デバイス1D-2に備わる第1~第4の光出力部7の端部にそれぞれ設けられている。
放射素子R31~R34は、光制御デバイス1D-3に備わる第1~第4の光出力部7の端部にそれぞれ設けられている。
放射素子R41~R44は、光制御デバイス1D-4に備わる第1~第4の光出力部7の端部にそれぞれ設けられている。
【0084】
光制御デバイス90において、後段の光制御デバイス1D-4は、偏向制御用信号端子Aに偏向制御信号源87の一方の端子(例えば正極)が接続されており、偏向制御用信号端子Bに偏向制御信号源87の他方の端子(例えば負極)が接続されている。偏向制御信号源87は、
図8に示す信号線84の偏向制御用信号端子Aに接続される偏向制御信号源A(不図示)と、この偏向制御信号源Aの逆相であって信号線83の偏向制御用信号端子Bに接続される偏向制御信号源B(不図示)とを兼ねる信号源に相当し、
図9におけるX軸方向の偏向を制御するための信号源である。
【0085】
後段の光制御デバイス1D-1~1D-4において、偏向制御用信号端子Aは、信号線84(
図8参照)によって偏向制御用信号端子aに接続されており、偏向制御用信号端子Bは、信号線83(
図8参照)によって偏向制御用信号端子bに接続されている。
後段の光制御デバイス1D-4の偏向制御用信号端子aは、後段の光制御デバイス1D-3の偏向制御用信号端子Aに接続されている。
後段の光制御デバイス1D-3の偏向制御用信号端子aは、後段の光制御デバイス1D-2の偏向制御用信号端子Aに接続されている。
後段の光制御デバイス1D-2の偏向制御用信号端子aは、後段の光制御デバイス1D-1の偏向制御用信号端子Aに接続されている。
後段の光制御デバイス1D-4の偏向制御用信号端子bは、後段の光制御デバイス1D-3の偏向制御用信号端子Bに接続されている。
後段の光制御デバイス1D-3の偏向制御用信号端子bは、後段の光制御デバイス1D-2の偏向制御用信号端子Bに接続されている。
後段の光制御デバイス1D-2の偏向制御用信号端子bは、後段の光制御デバイス1D-1の偏向制御用信号端子Bに接続されている。
したがって、光制御デバイス90において、後段の光制御デバイス1D-1~1D-3も、それぞれ、偏向制御用信号端子Aに偏向制御信号源87の一方の端子(例えば正極)が接続されており、偏向制御用信号端子Bに偏向制御信号源87の他方の端子(例えば負極)が接続されている。
【0086】
光制御デバイス90において、前段の光制御デバイス1D-0は、偏向制御用信号端子Aに偏向制御信号源88の一方の端子(例えば正極)が接続されており、偏向制御用信号端子Bに偏向制御信号源88の他方の端子(例えば負極)が接続されている。偏向制御信号源88は、
図8に示す信号線84の偏向制御用信号端子Aに接続される偏向制御信号源A(不図示)と、この偏向制御信号源Aの逆相であって信号線83の偏向制御用信号端子Bに接続される偏向制御信号源B(不図示)とを兼ねる信号源に相当し、
図9におけるY軸方向の偏向を制御するための信号源である。
【0087】
光制御デバイス90において、前段の光制御デバイス1D-0は、焦点制御用信号端子Cに焦点制御信号源89の一方の端子(例えば正極)が接続されており、焦点制御信号源89の他方の端子は接地されている。焦点制御信号源89は、
図9におけるZ軸方向における焦点位置を制御するための信号源である。
前段の光制御デバイス1D-0の焦点制御用信号端子Cは、後段の光制御デバイス1D-1~1D-4の焦点制御用信号端子Cにそれぞれ電気的に接続されている。
したがって、光制御デバイス90において、後段の光制御デバイス1D-1~1D-4も、それぞれ、焦点制御用信号端子Cに焦点制御信号源89の一方の端子(例えば正極)が接続されている。
【0088】
光制御デバイス90は、前記のように構成されているので、各放射素子Rの位相分布には、
図8に示す光制御デバイス1Cの制御と同様な方法を、後段の光制御デバイス1D-1~1D-4に適用することにより、焦点・偏向制御された位相分布を与えることができる。同様に、放射素子Rの位相分布は、前段の光制御デバイス1D-0によっても制御され、光システムの線形性により、この制御は、後段の光制御デバイス1D-1~1D-4による位相変化に加算される。この結果、光制御デバイス90は、基板(XZ平面)と平行な平面内で光ビームスポットを偏向し得ることに加え、基板と焦平面との距離(Y軸方向の距離)を同時に制御できる。すなわち、光制御デバイス90は、光ビームスポットの空間3次元制御が可能である。
【0089】
なお、
図9には、チャネル数Nが4である5つの光制御デバイス1Dを図示したが、光制御デバイス1Dのチャネル数は5以上であることが好ましい。例えば光制御デバイス1Dのチャネル数が8である場合、合計9個の光制御デバイス1Dを組み合わせる。
【0090】
以上をまとめると、光制御デバイス90は、以下の規則性を備えている。
光制御デバイス90は、焦点・偏向制御可能な光制御デバイス1Dを、その光出力部7の個数よりも1つ多く備えると共に、光出力部7の個数と同数の接続用光導波路6Dを備えている。いずれか1つの前段となる光制御デバイス1D-0が備える複数の光出力部7に、接続用光導波路6Dを介して、他の複数の後段となる光制御デバイス1D-1等の光入力部3がそれぞれ接続されている。いずれか1つの後段となる光制御デバイス1D-1において複数の偏向制御用位相制御部72~75等が共有する信号線84,85等は、他の後段となる光制御デバイス1D-2等において複数の偏向制御用位相制御部72~75等が共有する信号線84,85等と電気的に接続されている。
図9に示す光制御デバイス90を用いれば、偏向制御信号源87,88と、焦点制御信号源89との合計3個の信号源を使用するだけで、焦点・偏向制御による空間3次元制御が可能であり、空間3次元制御をするために必要な信号源の個数を大幅に削減することができる。
【0091】
以上、本発明の各実施形態に係る光制御デバイスについて説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変などしたものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【実施例0092】
チャネル数Nを8とした場合の光制御デバイス1Cの実施例について
図8を参照(適宜
図1,
図2,
図4~
図6,
図8参照)して説明する。
本実施例で用いる光導波路は、
図2に示す断面構造を有する。作製においては、基板2としてシリコン基板を準備し、シリコン基板表面を焼成して厚さ3μmの酸化シリコン層により被膜を形成する。そして、基板2の被膜の上に、焦点制御用位相制御部10および偏向制御用位相制御部70~77(以下、単に位相制御部という)のパターンに合わせて厚さ0.1μmの導電性薄膜を形成して下部電極11を形成する。その上にクラッド62(下部クラッド層)となる厚さ2.5μmの誘電体材料(屈折率1.48)と、コア61となる厚さ1.5μmのEO材料(屈折率1.62)を順次積層する。必要に応じてEO材料の配向処理を行ったのち、EO材料層を幅1.5μmの後記する光導波路パターンにエッチングする。光導波路パターンを形成したのち、その上にクラッド62(上部クラッド層)となる厚さ2.5μmの誘電体材料(屈折率1.48)を積層する。その上に、位相制御部のパターンに合わせて厚さ0.1μmの導電性材料で被覆し、上部電極12とする。なお、上部電極12および下部電極11は、位相制御部である光導波路にのみ配置されるが、位相制御部以外の光導波路にも、上部電極12および下部電極11の片方のみが配置されても構わない。
【0093】
前記の基板2には、シリコン基板のほか、ソーダガラスやパイレックス(登録商標)、溶解石英、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、サファイア基板などを使用しても良く、酸化シリコン層は形成せずともよい。
前記の導電性薄膜には金、銀、銅、ニッケル、アルミニウムなどの金属、もしくは金属酸化物や窒化物が好適である。
前記の上部クラッド層および下部クラッド層をなす誘電体材料には、酸化シリコン、五酸化タンタル、五酸化ニオブなどの無機誘電体材料に加え、PMMA(ポリメチルメタクリレート)やSU-8等の有機ポリマー材料を適用できる。
前記のコア材料には、EO効果を有するLiNbO3やLiTaO3などの無機物のほか、EO効果を有するポリマー材料、あるいはEO効果を有する色素を混合したポリマー材料を用いることができる。
前記EO材料を上部・下部クラッドのいずれか、もしくは両方に用いてもよいが、クラッド材料の屈折率はコア材料の屈折率に比して小さいものとする。
前記コア材料に関し、位相制御部以外の部分において、位相制御部とは異なる誘電体材料を積層し、コアとしてパターニングしてもよい。
【0094】
本実施例における光導波路パターンについて
図10を参照して説明する。なお、図面上のサイズは、後記する部品サイズと同じとは限らず誇張している場合がある。また、
図10は、光導波路となる部材を説明するために、
図8に示す光制御デバイス1Cの焦点制御用位相制御部10および偏向制御用位相制御部70~77の電極、信号線、信号端子を取り除いた説明用の光制御デバイスを符号1Eで示す図面である。具体的には、光制御デバイス1Eは、光入力部3と、1:6:1光分配素子30Aと、1:4:1光分配素子30Bと、1:2:1光分配素子30Cと、1x2 MMI光スプリッタ20と、マルチチャネル光導波路#0~#7とを備えている。また、図示を省略しているが、
図8に示す光制御デバイス1Cと同様に、光制御デバイス1Eには、1:6:1光分配素子30Aと1:4:1光分配素子30Bとの間には、焦点制御用位相制御部106が配置される。また、1:4:1光分配素子30Bと1:2:1光分配素子30Cとの間には、焦点制御用位相制御部104が配置される。また、1:2:1光分配素子30Cと1x2 MMI光スプリッタ20との間には、焦点制御用位相制御部102が配置される。さらに、マルチチャネル光導波路#0~#7には、偏向制御用位相制御部70~77が配置される。
【0095】
後記するシミュレーション用に光制御デバイス1Eの光部品のサイズは次の通りに設定した。
図10における光入力部3は、幅1.5μm、長さ100μmの光導波路である。
1:6:1光分配素子30Aは、1x8光スプリッタ部40Aと、6x1光コンバイナ部50Aとを隣接配置した構造である。
1x8光スプリッタ部40Aのサイズは、幅80μm、長さ826μmである。
6x1光コンバイナ部50Aのサイズは、幅60μm、長さ3106μmである。
1x8光スプリッタ部40Aには、幅方向の両端から各5μmの位置を中心として、マルチチャネル光導波路#0,#7がそれぞれ接続される。
【0096】
1:4:1光分配素子30Bは、1x6光スプリッタ部40Bと、4x1光コンバイナ部50Bとを隣接配置した構造である。
1x6光スプリッタ部40Bのサイズは、幅60μm、長さ625μmである。
4x1光コンバイナ部50Bのサイズは、幅40μm、長さ1264μmである。
1x6光スプリッタ部40Bには、幅方向の両端から各5μmの位置を中心として、マルチチャネル光導波路#1,#6がそれぞれ接続される。
【0097】
1:2:1光分配素子30Cは、1x4光スプリッタ部40Cと、2x1光コンバイナ部50Cとを隣接配置した構造である。
1x4光スプリッタ部40Cのサイズは、幅40μm、長さ424μmである。
2x1光コンバイナ部50Cのサイズは、幅20μm、長さ222μmである。
1x4光スプリッタ部40Cには、幅方向の両端から各5μmの位置を中心として、マルチチャネル光導波路#2,#5がそれぞれ接続される。
【0098】
1x2 MMI光スプリッタ20のサイズは、幅20μm、長さ223μmである。
1x2 MMI光スプリッタ20には、幅方向の中心から各5μmの位置を中心として、マルチチャネル光導波路#3,#4がそれぞれ接続される。
マルチチャネル光導波路のピッチは10μmである。
【0099】
本実施例における位相制御部の構成を
図8により説明する。
焦点制御用位相制御部106は、電極長6mmの位相制御部であり、1:6:1光分配素子30Aと1:4:1光分配素子30Bの間に配置され、1:6:1光分配素子30Aにおける6x1光コンバイナ部50Aの出力端、および1:4:1光分配素子30Bにおける1x6光スプリッタ部40Bの入力端に光導波路を介して接続される。
焦点制御用位相制御部104は、電極長4mmの位相制御部であり、1:4:1光分配素子30Bと1:2:1光分配素子30Cの間に配置され、1:4:1光分配素子30Bにおける4x1光コンバイナ部50Bの出力端、および1:2:1光分配素子30Cにおける1x4光スプリッタ部40Cの入力端に光導波路を介して接続される。
焦点制御用位相制御部102は、電極長2mmの位相制御部であり、1:2:1光分配素子30Cと1x2 MMI光スプリッタ20の間に配置され、1:2:1光分配素子30Cにおける2x1光コンバイナ部50Cの出力端、および1x2 MMI光スプリッタ20の入力端に光導波路を介して接続される。
焦点制御用位相制御部102,104,106は、同一の断面構造とし、電極長1mmのとき、+10Vの電圧印加によって位相がおおむね-2π変化する(また、-10Vの電圧印加によって位相がおおむね+2π変化する)EOポリマーをコア材料に使用した。焦点制御用位相制御部102,104,106は、焦点制御用信号端子Cを介して焦点制御信号源81(
図2参照)に接続される。
【0100】
偏向制御用位相制御部70~77には、焦点制御用位相制御部102,104,106と同一の断面構造・材料を適用した。
チャネル0に設けられた偏向制御用位相制御部70の長さは7mmである。
チャネル1に設けられた偏向制御用位相制御部71の長さは5mmである。
チャネル2に設けられた偏向制御用位相制御部72の長さは3mmである。
チャネル3に設けられた偏向制御用位相制御部73の長さは1mmである。
チャネル4に設けられた偏向制御用位相制御部74の長さは1mmである。
チャネル5に設けられた偏向制御用位相制御部75の長さは3mmである。
チャネル6に設けられた偏向制御用位相制御部76の長さは5mmである。
チャネル7に設けられた偏向制御用位相制御部77の長さは7mmである。
【0101】
チャネル4~7に設けられた偏向制御用位相制御部74~77は、偏向制御用信号端子b(またはB)を介して、図示しない共通の偏向制御信号源Bにそれぞれ接続される。
チャネル0~3に設けられた偏向制御用位相制御部70~73は、偏向制御用信号端子a(またはA)を介して、図示しない共通の偏向制御信号源Aにそれぞれ接続される。
なお、本実施例における偏向制御信号源A,B(不図示)は、出力電圧の大きさが同一かつ、出力電圧の位相が互いに逆相であるものとする。
本実施例の効果を確認するために、数値シミュレーションを実施した。
【0102】
上記構造の光制御デバイスについて行った数値シミュレーションについて
図11を参照(適宜、
図1、
図2および
図4参照)して説明する。数値シミュレーションには、光学機器設計に実績のある、ビーム伝搬法シミュレーションソフトウェアOptiBPM(Optiwave社製)を使用した。また、数値シミュレーションにける入射光は、波長1.55μmのCW(Continuous Wave)レーザー光とし、本実施例に示す構造の光制御デバイスの光伝搬を計算し、光出力部7における位相分布を確認した。
【0103】
(焦点制御用位相制御部10への電圧印加がない場合)
図11は、焦点制御用位相制御部への電圧印加がない場合のシミュレーション結果を示す図である。すなわち、光制御デバイス1Cの焦点制御用信号端子Cには、電圧が印加されていない。なお、偏向制御用信号端子A,Bにも電圧が印加されていない。
図11の横軸は、
図1におけるX軸方向における光出力部7の位置を示し、縦軸は
図1におけるY軸方向における光出力部7の位置を示している。各軸の目盛の単位はμmである。
図11では、光出力部7における光位相分布として、光入力部3における光位相を基準(0)とした相対位相値-π~0~+πを、白~灰色~黒により示した。なお、白枠は光出力部7における光導波路の境界線に相当する。枠の底部(0.0μm)から上方2.5μmまでの範囲の下部クラッドと、その上の1.5μm厚のコアとが分かるように仕切り(水平の線)がついているが、その上の2.5μm厚の上部クラッド部は一部を省略して図示している。これらの枠の幅は、光導波路の幅(1.5μm)である。
【0104】
図11によれば、チャネル0~3の光位相はそれぞれ3.0325,1.1432,-1.477,1.044である。
光位相が2πの整数倍を加算・減算しても同一であることを考慮すると、チャネル0~3の光位相は0.0,23.24,39.47,48.28と読み替えることができ、これを多項式でフィッティングすると-4(jp-3.5p)
2+48.775となり、1x8 MMI光スプリッタの作用により、2次の位相分布となっていることがわかる。
なお、チャネル7~4の光位相は、チャネル0~3の光位相と同様であり、チャネル0,7の光位相は、チャネル3,4の光位相に比べて遅れている。この遅れは、例えば
図1のマルチチャネル光導波路#7の位相と、マルチチャネル光導波路#4の位相が同じになっている地点を結ぶと、Z軸において、マルチチャネル光導波路#7の該当地点がマルチチャネル光導波路#4の該当地点より左側に位置することに対応する。
【0105】
(焦点制御用位相制御部10へ12.5Vの電圧印加)
次に、光制御デバイス1Cの焦点制御用信号端子Cに対して、焦点制御信号源81(
図2参照)より12.5Vの電圧を与える。このとき、焦点制御用位相制御部102,104,106における位相変化量は2.5π,5.0π,7.5πとなり、チャネル0~3の光位相には0.0,-23.56,-39.27,-47.12の変化が起きる。この結果、光路長の違いによる光位相分布が平坦化される。
図12は、このときのビーム伝搬シミュレーションの結果を示す図である。
図12により、光出力部7における位相分布が平坦化されたことが確認できる。
【0106】
(焦点制御用位相制御部10へ15Vの電圧印加)
次に、光制御デバイス1Cの焦点制御用信号端子Cに対して、焦点制御信号源81(
図2参照)より15Vの電圧を与える。このとき、焦点制御用位相制御部102,104,106における位相変化量は3π,6π,9πとなり、光出力部7の前方(
図8における右)に焦点を結ぶ収束球面波が出射される。
【0107】
図13は、この場合のシミュレーション結果である位相分布を示すグラフである。
図13の横軸は、
図1におけるX軸方向における光出力部7の位置を示す。
図13の縦軸は光位相を示し、チャネル0,7の光位相を基準0にして進んでいる光位相を正で示し、遅れている光位相を負で示している。
図13において、シミュレーションで得られたチャネル0~7の光位相をプロットしてこれらを繋いだ3種の線のうち、太線は、15Vの電圧を印加した場合の結果を示している。なお、細線は、参考であって、電圧を印加していない場合の結果を示し、一点鎖線は、参考であって、12.5の電圧を印加した場合の結果を示している。
【0108】
図13に示す通り、焦点制御信号源81(
図2参照)から15Vの電圧が出力されたときのチャネル0,1,2,3の光位相は0,-4.99,-7.64,-8.31であり、多項式で近似すると、結果は、0.0071(jp-3.5p)
2-8.9522となる。なお、ピッチpがミクロン単位なので0.0071の次元は(1/μm)
2である。上記結果のうち、-8.9522は、位相の基準位置を決める定数項であるから、上記結果からこの定数項を除いて、前記した式(4)と比較すると、焦点位置を求めることができる。ここでは、式(4)中のuは0であるので、比較により、2π/(2fλ)=0.0071となる。これをfの式に変形して入射光の波長λを1.55μmとした場合、焦点位置fは0.285mmとなる。この焦点距離の値(正の値)により、光出力部7の前方(
図8における右;
図13の縦軸の正の方向に対応)に焦点を結ぶ収束球面波(
図3(a)参照)が出射されることが示される。
【0109】
(偏向制御用位相制御部70~77への電圧印加)
図8の光制御デバイス1Cにおいて、出力光ビームを平行光とするために焦点制御用信号端子Cに対して12.5Vの電圧を印加し、その上で、偏向制御用信号端子Aに対して-10Vの電圧を印加し、偏向制御用信号端子Bに対して+10Vの電圧を印加した。すなわち、焦点制御用位相制御部102,104,106に対して12.5Vの電圧を印加しながら、偏向制御用位相制御部70~73に対して-10Vの電圧を印加し、かつ、偏向制御用位相制御部74~77に対して+10Vの電圧を印加した。なお、この条件は、焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を12.5Vとして、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を-10V,+10Vとした場合に相当する(以下、第1条件という)。
次に、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を入れ替えた。すなわち、焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を12.5Vとして、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を+10V,-10Vとした(以下、第2条件という)。
【0110】
図14は、前記第1条件および第2条件の場合のシミュレーション結果である位相分布を示すグラフである。
図14の横軸および縦軸は、
図13の横軸および縦軸と同様のものである。
図14において、シミュレーションで得られたチャネル0~7の光位相をプロットしてこれらを繋いだ3種の線のうち、太線は、前記第1条件(不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を-10V,+10Vとした場合)の結果を示している。破線は、前記第2条件(不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を+10V,-10Vとした場合)の結果を示している。一点鎖線は、参考であって、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を0V,0Vとした場合の結果を示している。
【0111】
図14に示すように前記第1条件(不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を-10V,+10Vとした場合)では、位相分布は傾き-0.2の直線で近似される。よって、光位相πが、
図1におけるZ軸方向の距離π[μm]に対応する場合、第1条件では、
図8の光制御デバイス1Cから、おおむねtan
-1(-0.2)=-11.3°偏向した光ビームが形成されることが分かる。
【0112】
同様に、前記第2条件(不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を+10V,-10Vとした場合)では、位相分布は傾き+0.2の直線で近似される。よって、光位相πが、
図1におけるZ軸方向の距離π[μm]に対応する場合、第2条件では、
図8の光制御デバイス1Cから、おおむねtan
-1(0.2)=11.3°偏向した光ビームが形成されることが分かる。
【0113】
(焦点と偏向を同時制御)
次に、焦点と偏向を同時に制御した場合の動作を調べるために、
図8の光制御デバイス1Cにおいて、焦点制御用信号端子Cに対して15Vの電圧を印加し、その上で、偏向制御用信号端子Aに対して-10Vの電圧を印加し、偏向制御用信号端子Bに対して+10Vの電圧を印加した。なお、この条件は、焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を15Vとして、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を-10V,+10Vとした場合に相当する(以下、第3条件という)。
次に、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を入れ替えた。すなわち、焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を15Vとして、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を+10V,-10Vとした(以下、第4条件という)。
【0114】
図15は、前記第3条件および第4条件の場合のシミュレーション結果である位相分布を示すグラフである。
図15の横軸および縦軸は、
図13の横軸および縦軸と同様のものである。
図15において、シミュレーションで得られたチャネル0~7の光位相を×印でプロットして繋いだ線は、前記第3条件(焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を15Vとして、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を-10V,+10Vとした場合)の結果を示している。
チャネル0~7の光位相を三角形の印でプロットして繋いだ線は、前記第4条件(焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を15Vとして、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を+10V,-10Vとした場合)の結果を示している。
チャネル0~7の光位相を丸印でプロットして繋いだ線は、参考であって、焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を15Vとして、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を0V,0Vとした場合の結果を示している。
【0115】
図15に示すように前記第3条件(焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を15V、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を-10V,+10Vとした場合)では、位相分布は、焦点距離0.28mm、かつ、傾き-0.2(偏向角:-11.3°)の2次曲線(×印でプロットして繋いだ線)で近似される。
同様に、前記第4条件(焦点制御信号源81(
図2参照)の出力を15V、不図示の偏向制御信号源A,Bの出力を+10V,-10Vとした場合)では、位相分布は、焦点距離0.28mm、かつ、傾き-0.2(偏向角:-11.3°)の2次曲線(三角形の印でプロットして繋いだ線)で近似される。
以上の結果により、光制御デバイス1Cにより所望の焦点位置・偏向角を有する光ビームを形成できることが示された。
本実施形態に係る光制御デバイスは、光フェーズドアレイ、小惑星探査機の母船とその衛星との通信に使うアンテナ等の空間光通信、車載用レーダーに使うビームスキャン装置、奥行センサ、レーダー、LiDAR、可視光ビームスキャン装置、立体ディスプレイ等、種々の光制御デバイスに幅広く利用することができる。