(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111551
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品及びフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240809BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L81/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016127
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】大友 新治
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF00W
4J002CF16W
4J002CN03X
4J002GF00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】液晶ポリエステルを含有し、異方性が緩和された樹脂組成物、並びに、この樹脂組成物を成形した成形品及びフィルムを提供する。
【解決手段】特定の液晶ポリエステルと、特定の芳香族ポリスルホンとを併用する樹脂組成物を採用する。特定の液晶ポリエステルは、式(I)で表される繰返し単位(i)を有する。特定の芳香族ポリスルホンは、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)を有する。特定の芳香族ポリスルホンが有する官能基(fg)の総量は、10μmol/g以上である。式(I)中、ナフチレン基にある水素原子の一部又は全部は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されていてもよい。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとを含有し、
前記液晶ポリエステルは、下記式(I)で表される繰返し単位(i)を有し、
前記芳香族ポリスルホンは、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)を有し、
前記芳香族ポリスルホンが有する前記官能基(fg)の総量は、10μmol/g以上である、樹脂組成物。
【化1】
[式(I)中、ナフチレン基にある水素原子の一部又は全部は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されていてもよい。]
【請求項2】
前記液晶ポリエステルが有する前記繰返し単位(i)の数は、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計数(100モル%)に対して40モル%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリスルホンの含有量は、前記液晶ポリエステルと前記芳香族ポリスルホンとの合計の含有量100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含有する、成形品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含有する、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形品及びフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、化学的安定性、耐熱性及び寸法精度が高いことが知られており、電気、電子、機械、光学機器、自動車、航空機及び医療分野等の様々な分野で利用されている。これらの分野の中でも、液晶ポリエステルは、高周波特性及び吸水性の点から、特に電子部品用の材料として注目されている。
【0003】
液晶ポリエステルは、他の熱可塑性樹脂と比較して、高周波での誘電正接が優れている。また、液晶ポリエステルは、耐熱性が高いことから、比誘電率及び誘電正接が熱的にも安定している。また、液晶ポリエステルは、低吸水性であるため、比誘電率及び誘電正接の吸水による変化がほぼない。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定4種の繰り返し構造単位を所定の割合で有する芳香族液晶ポリエステルが開示されている。この特許文献1に開示される芳香族液晶ポリエステルは、耐熱性とフィルム加工性とのバランスに優れ、誘電損失が小さいフィルムの調製に有用であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液晶ポリエステルを成形材料に用いる場合、異方性が問題となる。
液晶ポリエステルを含有する従来の成形材料を用いた場合、液晶ポリエステルが流動方向(MD)に配向しやすい。このため、成形品において、MDと、MDに直交する方向(TD)と、の特性に差が生じて、電子部品の製造加工性が悪くなる場合がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、液晶ポリエステルを含有し、異方性が緩和された樹脂組成物、並びに、この樹脂組成物を成形した成形品及びフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の態様を包含する。
【0009】
[1] 液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとを含有し、前記液晶ポリエステルは、下記式(I)で表される繰返し単位(i)を有し、前記芳香族ポリスルホンは、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)を有し、前記芳香族ポリスルホンが有する前記官能基(fg)の総量は、10μmol/g以上である、樹脂組成物。
【0010】
【化1】
[式(I)中、ナフチレン基にある水素原子の一部又は全部は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されていてもよい。]
【0011】
[2] 前記液晶ポリエステルが有する前記繰返し単位(i)の数は、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計数(100モル%)に対して40モル%以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
【0012】
[3] 前記芳香族ポリスルホンの含有量は、前記液晶ポリエステルと前記芳香族ポリスルホンとの合計の含有量100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0013】
[4] [1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含有する、成形品。
[5] [1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含有する、フィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液晶ポリエステルを含有し、異方性が緩和された樹脂組成物、並びに、この樹脂組成物を成形した成形品及びフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
(樹脂組成物)
樹脂組成物の一実施形態は、液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとを含有する。
本実施形態の樹脂組成物における液晶ポリエステルは、式(I)で表される繰返し単位(i)を有する。本実施形態の樹脂組成物における芳香族ポリスルホンは、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)を有し、前記芳香族ポリスルホンが有する前記官能基(fg)の総量は、10μmol/g以上である。
かかる実施形態の樹脂組成物は、なかでも電子部品用の成形材料として好適なものであり、異方性が緩和されたものである。
【0017】
<液晶ポリエステル>
本実施形態の樹脂組成物が含有する液晶ポリエステルは、下記式(I)で表される繰返し単位(i)を有する。このような液晶ポリエステルとしては、少なくともヒドロキシナフトエ酸と、脂肪酸無水物と、をアシル化して得られるアシル化物を重合させてなる液晶ポリエステルが挙げられる。
【0018】
【化2】
[式(I)中、ナフチレン基にある水素原子の一部又は全部は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されていてもよい。]
【0019】
前記式(I)で表される繰返し単位(i)は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、又は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸のフェノール性水酸基がアシル化された化合物に由来する繰返し単位であることが好ましい。
【0020】
尚、本明細書において「由来」とは、原料モノマーが重合するために、重合に寄与する官能基の化学構造が変化し、その他の構造変化を生じないことを意味する。
【0021】
前記式(I)において、ナフチレン基にある水素原子と置換可能なハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
前記式(I)において、ナフチレン基にある水素原子と置換可能なアルキル基としては、炭素原子数1~10のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
前記式(I)において、ナフチレン基にある水素原子と置換可能なアルコキシ基としては、炭素原子数1~6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、イソプロピオキシ基、ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などが挙げられる。
前記式(I)において、ナフチレン基にある水素原子と置換可能なアリール基としては、炭素原子数6~20のアリール基が好ましく、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基等の単環式芳香族基;1-ナフチル基、2-ナフチル基等の縮環式芳香族基が挙げられる。
【0022】
ナフチレン基にある水素原子がハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されている場合、そのナフチレン基1つ当たりの置換数は、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。
本実施形態の樹脂組成物が含有する液晶ポリエステルにおいて、前記式(I)で表される繰返し単位(i)におけるナフチレン基は、置換されていないことが好ましい。
【0023】
本実施形態の樹脂組成物が含有する液晶ポリエステルが有する前記繰返し単位(i)の数は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計数(100モル%)に対して40モル%以上であることが好ましく、45モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。
また、前記繰返し単位(i)の数は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計数(100モル%)に対して90モル%以下が好ましく、85モル%以下がより好ましく、80モル%以下がさらに好ましい。
【0024】
液晶ポリエステルにおける前記繰返し単位(i)の数が、上記の好ましい範囲内であると、液晶ポリエステルの異方性の緩和効果が得られやすくなる。加えて、成形品の低誘電正接化が図られる。
【0025】
例えば、液晶ポリエステルが有する前記繰返し単位(i)の数は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計数(100モル%)に対して、40モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上85モル%以下がより好ましく、50モル%以上80モル%以下がさらに好ましい。
【0026】
本実施形態の樹脂組成物が含有する液晶ポリエステルは、上記繰返し単位(i)に加えて、これ以外のその他繰返し単位を有してもよい。
その他繰返し単位としては、ヒドロキシナフトエ酸以外の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンのそれぞれから誘導される繰返し単位等が挙げられる。
【0027】
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のような、カルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基に変換してなるエステル、カルボキシ基をハロホルミル基に変換してなる酸ハロゲン化物、カルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換してなる酸無水物が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシアミンのような、ヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるアシル化物が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンのような、アミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるアシル化物が挙げられる。
【0028】
かかる液晶ポリエステルは、前記式(I)で表される繰返し単位(i)に加え、さらに、下記式(1)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(1)」という。)を有するものが好ましい。
かかる液晶ポリエステルは、前記繰返し単位(i)に加え、さらに、下記式(2)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(2)」という。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(3)」という。)と、を有するものが好ましい。
【0029】
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-CO-Ar2-CO-
(3)-X3-Ar3-Y-
【0030】
前記の式(1)、式(2)及び式(3)中、Ar1は、フェニレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X3及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(-NH-)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0031】
(4)-Ar4-Z-Ar5-
【0032】
前記式(4)中、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。
【0033】
Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子と置換可能なハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基としては、上記式(I)中のナフチレン基にある水素原子と置換可能なハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基とそれぞれ同様のものが挙げられる。
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、2個以下が好ましく、1個以下がより好ましい。
【0034】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基、2-エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素原子数は1~10が好ましい。
【0035】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1が1,4-フェニレン基であるもの(4-ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0036】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2が1,4-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が1,3-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar2が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、Ar2がジフェニルエ-テル-4,4’-ジイル基であるもの(ジフェニルエ-テル-4,4’-ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が挙げられる。
【0037】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。
繰返し単位(3)としては、Ar3が1,4-フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、4-アミノフェノールまたは4-フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、Ar3が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル又は4,4’-ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が挙げられる。
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位であることが、溶融粘度が低くなり易いことから好ましい。
繰返し単位(3)は、芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位、又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位を含んでもよい。しかし、この場合の液晶ポリエステルは、アミド結合を含むことで、吸水率の上昇、誘電率の上昇;熱安定性が低下し、成形品に黒点が発生しやすくなる等のおそれがある。このような点から、これらのアミンに由来する繰返し単位を含まないことが好ましい。
【0038】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、10モル%以上が好ましく、10モル%以上60モル%以下がより好ましく、15モル%以上55モル%以下がさらに好ましく、20モル%以上50モル%以下が特に好ましい。
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0039】
繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、35モル%以下が好ましく、10モル%以上35モル%以下がより好ましく、15モル%以上30モル%以下がさらに好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下が特に好ましい。
【0040】
繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、35モル%以下が好ましく、10モル%以上35モル%以下がより好ましく、15モル%以上30モル%以下がさらに好ましく、17.5モル%以上27.5モル%以下が特に好ましい。
【0041】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、0.9/1~1/0.9が好ましく、0.95/1~1/0.95がより好ましく、0.98/1~1/0.98がさらに好ましい。
【0042】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0043】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、X3およびYがそれぞれ酸素原子であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが、溶融粘度が低くなり易いため、好ましく、繰返し単位(3)として、X3及びYがそれぞれ酸素原子であるもののみを有することが、より好ましい。
【0044】
液晶ポリエステルは、ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、50モル%を超えることが好ましく、55モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましく、65モル%以上であることが特に好ましく、70モル%以上であることがとりわけ好ましい。
【0045】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよい。
【0046】
液晶ポリエステルの流動開始温度は、250℃以上が好ましく、250℃以上370℃以下がより好ましく、275℃以上350℃以下がさらに好ましい。
かかる液晶ポリエステルの流動開始温度が高いほど、液晶ポリエステルの耐熱性並びに強度が向上する傾向がある。一方で、液晶ポリエステルの流動開始温度が400℃を超えると、液晶ポリエステルの溶融温度や溶融粘度が高くなる傾向がある。そのため、液晶ポリエステルの成形に必要な温度が高くなる傾向がある。
【0047】
本明細書において、液晶ポリエステルの流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、液晶ポリエステルの分子量の目安となる温度である(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
流動開始温度は、毛細管レオメーターを用いて、液晶ポリエステルを9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下4℃/分の速度で昇温しながら溶融させ、内径1mmおよび長さ10mmのノズルから押し出すときに、当該液晶ポリエステルが4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度である。
【0048】
本実施形態で、液晶ポリエステルは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物における液晶ポリエステルの含有量は、樹脂組成物全量100質量%に対して、90質量%以上が好ましく、92.5質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物における液晶ポリエステルの含有量は、樹脂組成物全量100質量%に対して、99.9質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下がさらに好ましい。
例えば、本実施形態の樹脂組成物における液晶ポリエステルの含有量は、樹脂組成物全量100質量%に対して、90質量%以上99.9質量%以下が好ましく、92.5質量%以上99質量%以下がより好ましく、95質量%以上98質量%以下がさらに好ましい。
【0050】
<芳香族ポリスルホン>
本実施形態の樹脂組成物が含有する芳香族ポリスルホンは、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)を有する。この芳香族ポリスルホンが有する前記官能基(fg)の総量は、10μmol/g以上である。
このような芳香族ポリスルホンとしては、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)とスルホニル基(-SO2-)と酸素原子(-O-)とを含む繰返し単位を有する樹脂であって、該樹脂の主鎖中又は主鎖末端に、ヒドロキシ基又はアミノ基を有するものが挙げられる。
【0051】
芳香族ポリスルホンは、下記式(S-1)で表される構造を含む繰返し単位を有することが好ましい。
-ph1-SO2-ph2-O- ・・・(S-1)
式(S-1)中、ph1及びph2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいフェニレン基である。
【0052】
ph1及びph2におけるフェニレン基は、p-フェニレン基であってもよいし、m-フェニレン基であってもよいし、o-フェニレン基であってもよいが、p-フェニレン基であることが好ましい。
【0053】
上記フェニレン基が有してもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子が挙げられる。
ここでの置換基としてのアルキル基、アリール基、ハロゲン原子は、上記式(I)中のナフチレン基にある水素原子と置換可能なアルキル基、アリール基、ハロゲン原子とそれぞれ同様のものが挙げられる。
【0054】
前記フェニレン基の水素原子が上述した官能基(fg)で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基ごとに、それぞれに独立に、2個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
前記フェニレン基の水素原子は置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。本実施形態においては、置換されていないことが特に好ましい。
なお、芳香族ポリスルホンが主鎖中に官能基(fg)を有する場合は、前記フェニレン基が置換基として官能基(fg)を有する。
【0055】
芳香族ポリスルホンは、上記式(S-1)で表される構造に加えて、下記式(S-2)で表される構造、又は下記式(S-3)で表される構造を含む繰返し単位を含んでもよい。
-ph3-R-ph4-O- ・・・(S-2)
-(ph5)n-O- ・・・(S-3)
式(S-2)中、ph3及びph4は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいフェニレン基である。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子である。
式(S-3)中、ph5は、置換基を有してもよいフェニレン基である。nは、1~3の整数である。nが2以上である場合、複数存在するph5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
ph3、ph4及びph5としては、それぞれ、式(S-1)中のph1及びph2における、置換基を有してもよいフェニレン基と同様のものが挙げられる。
上記アルキリデン基としては、炭素原子数1~5のアルキリデン基が好ましく、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、1-ブチリデン基等が挙げられる。
式(S-3)中、nは、好ましくは1又は2である。
【0057】
芳香族ポリスルホンは、官能基(fg)を、主鎖中に有してよく、主鎖末端に有してもよいが、官能基(fg)を主鎖末端の一部又は全部に有することが好ましい。
より具体的には、芳香族ポリスルホンは、下記式(S-1-1)で表される繰返し単位と、下記式(Se-1-1)で表される末端単位と、を有する芳香族ポリスルホンであることが好ましい。
【0058】
【化3】
式(S-1-1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、又は炭素原子数6~20のアリール基である。n1及びn2は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、n1又はn2が2以上である場合、複数個のR
1及びR
2は互いに同一でも異なっていてもよい。Xは、単結合又はビスフェノール若しくはビフェノールから誘導される基である。n3は1以上の整数である。
【0059】
【化4】
式(Se-1-1)中、R
fgは、ヒドロキシ基又はアミノ基である。Ar
0は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、又は炭素原子数6~20のアリール基である。n1及びn2は、それぞれ独立に、0~4の整数であり、n1又はn2が2以上である場合、複数個のR
1及びR
2は互いに同一でも異なっていてもよい。*は結合手を示す。
【0060】
式(S-1-1)及び(Se-1-1)中のR1及びR2における炭素原子数1~10のアルキル基、及び炭素原子数6~20のアリール基としては、式(S-1)中のph1及びph2におけるフェニレン基が有してもよい置換基で例示したものとそれぞれ同様のものが挙げられる。
式(S-1-1)及び(Se-1-1)中、n1及びn2は、それぞれ独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
【0061】
ビスフェノールから誘導される基は、具体的には、ビスフェノールの2つのヒドロキシ基のうち、1つのヒドロキシ基と、もう1つのヒドロキシ基の水素原子とを除いた2価の基である。具体的には、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールAF(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド及びビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルからそれぞれ誘導される基が挙げられ、その中でも、ビスフェノールAから誘導される基、すなわちビスフェノールAの2つのヒドロキシ基のうち、1つのヒドロキシ基と、もう1つのヒドロキシ基の水素原子とを除いた2価の基が好適である。
【0062】
ビフェノールから誘導される基としては、4,4’-ビフェノール(4,4’-ジヒドロキシビフェニル)、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジフェニル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル及び4,4’’’-ジヒドロキシ-p-クォターフェニルからそれぞれ誘導される基が挙げられ、4,4’-ビフェノールから誘導される基、すなわち4,4’-ビフェノールの2つのヒドロキシ基のうち、1つのヒドロキシ基と、もう1つのヒドロキシ基の水素原子とを除いた2価の基が好適である。
【0063】
Xは、好ましくは単結合である。
n3は、5~600が好ましい。
式(Se-1-1)中、Ar0における芳香族炭化水素基は、芳香環を少なくとも1つ有する炭化水素基である。この芳香環は、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば限定されず、単環式でも多環式でもよく、環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環であってもよい。該芳香族炭化水素基における芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等が挙げられ、その中でも、ベンゼン環が好ましい。すなわち、Ar0における芳香族炭化水素基は、フェニレン基が好ましい。
Ar0における芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。該アルキル基としては、炭素原子数1~10のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基等が好適に挙げられる。該アリール基としては、炭素原子数6~20のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が好適に挙げられる。
【0064】
芳香族ポリスルホンが有する、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)の総量は、10μmol/g以上である。
前記官能基(fg)としてヒドロキシ基を有する場合、芳香族ポリスルホンが有するヒドロキシ基の含有量は、20μmol/g以上が好ましく、30~200μmol/gがより好ましく、40~180μmol/gがさらに好ましく、50~160μmol/gが特に好ましい。
前記官能基(fg)としてアミノ基を有する場合、芳香族ポリスルホンが有するアミノ基の含有量は、10~200μmol/gが好ましく、15~190μmol/gがより好ましく、20~180μmol/gがさらに好ましい。
芳香族ポリスルホンが有する、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)の総量が、上記の好ましい範囲内であると、樹脂組成物において、液晶ポリエステルの異方性の緩和効果がより得られやすくなる。
【0065】
芳香族ポリスルホンが有する、ヒドロキシ基の含有量、及びアミノ基の含有量は、それぞれ、以下のようにして測定することができる。
【0066】
[芳香族ポリスルホンが有するヒドロキシ基の含有量の測定方法]
まず、所定量(単位:g)の芳香族ポリスルホンをジメチルホルムアミドに溶解させた後、p-トルエンスルホン酸を加え、芳香族ポリスルホンのカリウムフェノキシドを中和してフェノール性水酸基とする。
次いで、得られた溶液を、電位差測定装置を用いて、溶液の全量(L)に対して0.05mol/Lのカリウムメトキシドを含むトルエンおよびメタノールの混合溶液(トルエン/メタノール=80/20(v/v))を用いて未反応のp-トルエンスルホン酸を中和する。これにより、反応に用いたp-トルエンスルホン酸のモル数が判り、p-トルエンスルホン酸のモル数から芳香族ポリスルホン中のカリウムフェノキシドのモル数が判る。
さらに、フェノール性水酸基を中和し、フェノール性水酸基の中和に用いたカリウムメトキシドのモル数から、フェノール性水酸基のモル数を得る。フェノール性水酸基のモル数とカリウムフェノキシドのモル数との差分から、所定量(単位:g)の芳香族ポリスルホン中のフェノール性水酸基のモル数を得る。
得られたフェノール性水酸基のモル数を、芳香族ポリスルホンの前記所定量(単位:g)で除することで、芳香族ポリスルホン中のフェノール性水酸基の含有量、すなわち、芳香族ポリスルホンが有するヒドロキシ基の含有量(単位:μmol/g)を求める。
【0067】
[芳香族ポリスルホンが有するアミノ基の含有量の測定方法]
芳香族ポリスルホンが有するアミノ基の含有量は、1H-NMR測定によって算出される。具体的な算出方法は、以下の通りである。
(i)芳香族ポリスルホンの主鎖の繰返し単位において、既に水素原子の数が分かっている主鎖の芳香環に結合している水素原子に帰属されるピーク面積Aを、1H-NMRの測定で求める。
(ii)ピーク面積Aを、芳香族ポリスルホンの主鎖の芳香環に結合している水素原子の数で割ることにより、繰返し単位数(ユニット数)を算出することができる(例えば、ピーク面積Aが、主鎖の芳香環に結合している4つの水素原子に帰属されるピーク面積である場合は、4で割る)。
(iii)芳香族ポリスルホンの主鎖末端の芳香環におけるアミノ基が結合している炭素原子に隣接する炭素原子に結合している水素原子に帰属されるピーク面積Bを、1H-NMRの測定で求める。
(iv)ピーク面積Bを、アミノ基が結合している炭素原子に隣接する炭素原子に結合している水素原子の数で割ることにより、アミノ基の数を算出することができる。例えば、ピーク面積Bが、アミノ基が結合している炭素原子に隣接する炭素原子に結合している2つの水素原子に帰属されるピーク面積である場合は、2で割る。
(v)(iv)で求めたアミノ基の数を、(ii)で求めた繰返し単位数(ユニット数)で割り、さらに100(100ユニット)を掛けることにより、芳香族ポリスルホンの主鎖を形成している繰返し単位100ユニット当たりのアミノ基量を算出することができる。
【0068】
1H-NMR測定における測定溶媒としては、1H-NMR測定が可能であり、芳香族ポリスルホンを溶解し得る溶媒であればよく、重ジメチルスルホキシドが好適である。
【0069】
かかる芳香族ポリスルホンは、それを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノ芳香族スルホン化合物とジヒドロキシ芳香族化合物とを重縮合させることにより、製造することができる。
かかる芳香族ポリスルホンの原料となるモノマーは、合成したものでもよく、市販品であってもよい。
かかる芳香族ポリスルホンが有する官能基(fg)の総量は、重縮合の際における、原料となるモノマーの使用量、重縮合の反応条件などにより制御することができる。
【0070】
芳香族ポリスルホンの還元粘度(単位:dL/g)は、0.20dL/g以上0.76dL/g以下が好ましく、0.24dL/g以上0.60dL/g以下がより好ましい。
ここでいう芳香族ポリスルホンの還元粘度は、以下のようにして求める。芳香族ポリスルホン1gをN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させて、容量が1dLの溶液を得る。この溶液の粘度(η)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度(η0)を、オストワルド型粘度管を用いて、25℃で測定する。上記溶液の濃度は1g/dLであるので、比粘性率((η-η0)/η0)の値が、単位dL/gの還元粘度の値となる。
【0071】
芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、4000以上がさらに好ましい。また、芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、30000以下が好ましく、25000以下がより好ましく、15000以下がさらに好ましい。
芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、成形品の機械的強度がより向上する。一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、芳香族ポリスルホン質量当たりの官能基(fg)を増やすことができるため、特性の制御が容易となる。
例えば、芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、1000以上30000以下が好ましく、2000以上25000以下がより好ましく、4000以上15000以下がさらに好ましい。
ここでいう芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によって算出される。
【0072】
本実施形態で、芳香族ポリスルホンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
本実施形態の樹脂組成物における芳香族ポリスルホンの含有量は、樹脂組成物全量100質量%に対して、10質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。また、本実施形態の樹脂組成物における芳香族ポリスルホンの含有量は、樹脂組成物全量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。
例えば、本実施形態の樹脂組成物における芳香族ポリスルホンの含有量は、樹脂組成物全量100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上7.5質量%以下がより好ましく、2質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0074】
あるいは、本実施形態の樹脂組成物における芳香族ポリスルホンの含有量は、液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとの合計の含有量100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、1質量部以上7.5質量部以下がより好ましく、2質量部以上5質量部以下がさらに好ましい。
樹脂組成物における芳香族ポリスルホンの含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、液晶ポリエステルの異方性の緩和効果がより得られやすくなる。一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、電気特性及び製造加工性がいずれも良好となりやすい。
【0075】
<その他成分>
本実施形態の樹脂組成物は、上述した特定の液晶ポリエステル及び特定の芳香族ポリスルホン以外のその他成分を、必要に応じて含有してもよい。
その他成分としては、溶媒、充填材、上述した特定の液晶ポリエステル及び特定の芳香族ポリスルホン以外の樹脂、添加剤が挙げられる。
【0076】
[樹脂組成物の調製方法]
本実施形態の樹脂組成物は、上述した特定の液晶ポリエステルと、特定の芳香族ポリスルホンと、必要に応じてその他成分と、を混合することにより得られる。
例えば、二軸押出機内で、特定の液晶ポリエステルと、特定の芳香族ポリスルホンと、必要に応じてその他成分とを、加熱しながら、一括で又は適当な順序で混合して造粒することで、ペレット状の樹脂組成物が得られる。その際の加熱温度は、例えば、液晶ポリエステルの流動開始温度プラス10℃から、液晶ポリエステルの流動開始温度プラス50℃の範囲に設定することが好ましい。
【0077】
以上説明した本実施形態の樹脂組成物においては、芳香族ポリスルホンが有する官能基(fg)のヒドロキシ基及びアミノ基が、それぞれ、塩素等のハロゲン原子に比べて、液晶ポリエステルと相互作用しやすい。このため、一定の割合以上の官能基(fg)を有する芳香族ポリスルホンを、液晶ポリエステルと混ぜ合わせることで、液晶ポリエステルの流動方向(MD)への配向しやすさが弱められ、MDとMDに直交する方向(TD)との特性に差を生じにくくなると考えられる。例えば、成形品のMDとTDとの線膨張率の差を小さくできる。
したがって、本実施形態の樹脂組成物によれば、液晶ポリエステルの異方性が緩和された成形品を容易に得ることができる。
【0078】
加えて、本実施形態の樹脂組成物が採用する液晶ポリエステルは、式(I)で表される繰返し単位(i)を有する。この繰返し単位(i)を提供するモノマーは、低誘電正接化に効果的なモノマーである。このため、かかる特定の液晶ポリエステルを含有する樹脂組成物は、誘電正接の更なる低減化が図られた成形材料を提供することができる。
したがって、本実施形態の樹脂組成物によれば、電気特性(低誘電正接、低比誘電率)に優れ、さらに、異方性が緩和される。
【0079】
本発明は以下の側面を有する。
【0080】
[6] 液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとを含有し、
前記液晶ポリエステルは、上記式(I)で表される繰返し単位(i)を有し、
前記芳香族ポリスルホンは、ヒドロキシ基を有し、
前記芳香族ポリスルホンが有するヒドロキシ基の含有量は、20μmol/g以上であり、好ましくは30~200μmol/gであり、より好ましくは40~180μmol/gであり、さらに好ましくは50~160μmol/gである、樹脂組成物。
【0081】
[7] 液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとを含有し、
前記液晶ポリエステルは、上記式(I)で表される繰返し単位(i)を有し、
前記芳香族ポリスルホンは、アミノ基を有し、
前記芳香族ポリスルホンが有するアミノ基の含有量は、10μmol/g以上であり、好ましくは10~200μmol/gであり、より好ましくは15~190μmol/gであり、さらに好ましくは20~180μmol/gである、樹脂組成物。
【0082】
[8] 前記液晶ポリエステルが有する前記繰返し単位(i)の数は、前記液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計数(100モル%)に対して、40モル%以上であり、好ましくは40モル%以上90モル%以下であり、より好ましくは45モル%以上85モル%以下であり、さらに好ましくは50モル%以上80モル%以下である、前記の[1]、[6]又は[7]に記載の樹脂組成物。
【0083】
[9] 前記芳香族ポリスルホンの含有量は、前記液晶ポリエステルと前記芳香族ポリスルホンとの合計の含有量100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは1質量部以上7.5質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上5質量部以下である、前記の[1]、[6]~[8]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0084】
[10] 前記液晶ポリエステルは、前記繰返し単位(i)と、上記式(2)で表される繰返し単位(2)と、上記式(3)で表される繰返し単位(3)とを有する液晶ポリエステルである、前記の[1]~[3]、[6]~[9]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0085】
[11] 前記液晶ポリエステルは、前記繰返し単位(i)と、上記式(1)で表される繰返し単位(1)とを有する液晶ポリエステルである、前記の[1]~[3]、[6]~[9]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0086】
[12] 前記芳香族ポリスルホンは、上記式(S-1-1)で表される繰返し単位と、上記式(Se-1-1)で表される末端単位と、を有する芳香族ポリスルホンである、前記の[1]~[3]、[6]~[11]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0087】
[13] 液晶ポリエステルの配向を制御する、液晶配向制御剤であって、
ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)を10μmol/g以上有する芳香族ポリスルホンを含有する、液晶配向制御剤。
【0088】
(成形品)
成形品の一実施形態は、上述した樹脂組成物を含有するものである。
本実施形態の成形品は、上述した樹脂組成物を用いて公知の成形方法により得ることができる。
樹脂組成物から成形品を成形する方法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法、プレス成形が挙げられる。
【0089】
例えば、樹脂組成物を成形材料とし、射出成形法により成形する場合、公知の射出成形機を用いて、樹脂組成物を溶融させ、溶融した樹脂組成物を、金型内に射出することにより成形する。
射出成形機のシリンダー温度は、例えば液晶ポリエステルの種類に応じて適宜決定され、その流動開始温度より10~50℃高い温度に設定することが好ましく、例えば300~400℃である。
【0090】
本実施形態の成形品は、例えば、自動車部品や、コネクタ、ソケット、ボビン、リレー部品等の電子部品に適用可能である。
【0091】
(フィルム)
図1は、フィルムの一実施形態を示す断面図である。
図1に示すフィルム10は、上述した樹脂組成物を含有する。
フィルム10は、上述した樹脂組成物を、溶融成形して製造することができる。
溶融成形の方法としては、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形法が挙げられる。
フィルム10は、例えばTダイ法を用いて製造しても、本実施形態の樹脂組成物を含有するため、異方性が緩和されている。
【0092】
加えて、フィルム10は、式(I)で表される繰返し単位(i)を有する液晶ポリエステルを含む樹脂組成物を材料とするため、電気特性(低誘電正接、低比誘電率)の付与に効果的なものでもある。
したがって、フィルム10は、例えば、共振器、フィルタ、アンテナ、回路基板、積層回路素子基板等のフィルムに適用可能である。フィルム10は、高周波もしくは高速型回路基板用等のフィルムとして好適に用い得る。
【0093】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。上述した形態例は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例0094】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
[液晶ポリエステルの流動開始温度の測定]
フローテスター(株式会社島津製作所製の「CFT-500EX型」)を用いて、試料として液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、試料を溶融させ、ノズルから押し出し、当該液晶ポリエステルが4800Pa・sの粘度を示す温度を測定し、流動開始温度とした。
【0096】
[芳香族ポリスルホンが有するヒドロキシ基の含有量の測定]
まず、所定量(単位:g)の芳香族ポリスルホンをジメチルホルムアミドに溶解させた後、p-トルエンスルホン酸を加え、芳香族ポリスルホンのカリウムフェノキシドを中和してフェノール性水酸基とした。
次いで、得られた溶液を、電位差測定装置を用いて、溶液の全量(L)に対して0.05mol/Lのカリウムメトキシドを含むトルエンおよびメタノールの混合溶液(トルエン/メタノール=80/20(v/v))を用いて未反応のp-トルエンスルホン酸を中和した。これにより、反応に用いたp-トルエンスルホン酸のモル数が判り、p-トルエンスルホン酸のモル数から芳香族ポリスルホン中のカリウムフェノキシドのモル数が判った。
さらに、フェノール性水酸基を中和し、フェノール性水酸基の中和に用いたカリウムメトキシドのモル数から、フェノール性水酸基のモル数を得た。フェノール性水酸基のモル数とカリウムフェノキシドのモル数との差分から、所定量(単位:g)の芳香族ポリスルホン中のフェノール性水酸基のモル数を得た。
得られたフェノール性水酸基のモル数を、芳香族ポリスルホンの前記所定量(単位:g)で除することで、芳香族ポリスルホン中のフェノール性水酸基の含有量、すなわち、芳香族ポリスルホンが有するヒドロキシ基の含有量(単位:μmol/g)を得た。
【0097】
[芳香族ポリスルホンが有するアミノ基の含有量の測定]
芳香族ポリスルホンが有するアミノ基の含有量は、NMR法により測定した。
具体的には、重水素化ジメチルスルホキシドの溶媒中に芳香族ポリスルホンを溶解し、1H-NMR測定において、アミノ基で置換された芳香族炭素に隣接する炭素に結合する2つのプロトンのピーク面積(1HNH2)と、芳香族ポリスルホンの構造単位に由来する芳香族炭素に隣接する4つのプロトンのピーク面積(1HPES)とを観測した。これらのピーク面積に基づいて、前記一般式(S-1):-Ph1-SO2-Ph2-O-(ph1及びph2は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいフェニレン基である。)で表される構造単位100個当たりの、アミノ基を有する末端単位(H2N-C6H4-)量を、下式により算出した。得られたアミノ末端単位量(アミノ基の含有量)の単位をμmol/gに換算した。
[アミノ基を有する末端単位量(個/100単位)]
=[1HPESのピーク面積を100とした時の1HNH2のピーク面積]×2
【0098】
NMR法による測定において、使用した測定装置、測定条件を以下のとおりとした。
[測定装置]
NMR装置:Varian NMR System PS400WB
磁場強度:9.4T(400MHz)
プローブ:Varian 400 DB AutoX WB Probe(5mm)
【0099】
[溶液1H-NMRの測定条件]
測定核:1H
測定法:シングルパルス法
測定温度:50℃
重溶媒:d6-DMSO(TMS含有)
待ち時間:10sec
パルス照射時間:11.9μsec(90℃パルス)
積算回数:64回
外部標準:TMS(0ppm)
【0100】
[線膨張率CTEの測定]
測定用の試料として、平板を成形した。
熱分析装置((株)リガク製、型式:TMA8310)を用い、平板のMD方向及びTD方向のそれぞれの50℃から100℃の線膨張率CTE(単位:×10-5(1/K))を測定した。
【0101】
<液晶ポリエステルの製造>
本実施例で用いた液晶ポリエステルA及び液晶ポリエステルBを、それぞれ以下のようにして製造した。
【0102】
液晶ポリエステルAの製造方法:
撹拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸1035.0g、ハイドロキノン255.2g、2,6-ナフタレンジカルボン酸378.3.g、テレフタル酸83.1g、無水酢酸1189.9gおよび触媒として1-メチルイミダゾール0.175gを添加し、室温で15分間撹拌した後、撹拌しながら昇温した。内温が140℃となったところで、同温度を保持したまま1時間撹拌した。
次に、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、140℃から310℃まで4時間40分かけて昇温した。同温度310℃で1時間30分保温して、芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm~約1mm)を得た。この粉末(芳香族液晶ポリエステル)について、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、274℃であった。
得られた粉末を、25℃から260℃まで1時間かけて昇温した後、同温度260℃から284℃まで3時間かけて昇温し、次いで、同温度284℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステルAを得た。冷却後の粉末(液晶ポリエステルA)を、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、311℃であった。液晶ポリエステルAが有する、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の繰返し単位の数は、液晶ポリエステルAを構成する全繰返し単位の合計数(100モル%)に対して55モル%であった。
【0103】
液晶ポリエステルBの製造方法:
撹拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、4-ヒドロキシ安息酸911.6g、4,4’-ビフェノール409.7g、テレフタル酸274.1g、イソフタル酸91.4g、無水酢酸1235.3gおよび触媒として1-メチルイミダゾール0.169gを添加し、室温で15分間撹拌した後、撹拌しながら昇温した。内温が140℃となったところで、同温度を保持したまま1時間撹拌した。
次に、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、140℃から305℃まで4時間30分かけて昇温した。同温度305℃で50分間保温して、芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm~約1mm)を得た。この粉末(芳香族液晶ポリエステル)について、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、265℃であった。
得られた粉末を、25℃から235℃まで1時間かけて昇温した後、同温度235℃から284℃まで6時間20分かけて昇温し、次いで、同温度284℃で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステルBを得た。冷却後の粉末(液晶ポリエステルB)を、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、330℃であった。
【0104】
<芳香族ポリスルホンの製造>
本実施例で用いた芳香族ポリスルホンC、芳香族ポリスルホンD、芳香族ポリスルホンE及び芳香族ポリスルホンFを、それぞれ以下のようにして製造した。
【0105】
芳香族ポリスルホンCの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(300.3g)、ビス(4-クロロフェニル)スルホン(330.8g)および重合溶媒としてジフェニルスルホン(560.3g)を仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温して、溶液を得た。
得られた溶液に、炭酸カリウム(159.7g)を添加した後、290℃まで徐々に昇温し、290℃でさらに3時間反応させた。得られた反応液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトンおよびメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで、150℃で加熱乾燥させて、芳香族ポリスルホンC粉末を得た。得られた芳香族ポリスルホンC中のフェノール性水酸基の含有量を測定したところ、160μmol/gであった。
また、得られた芳香族ポリスルホンCの数平均絶対分子量は10000であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕、分級することで、芳香族ポリスルホンC微粒子(D50の値:500μm)を得た。
【0106】
芳香族ポリスルホンDの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(300.3g)、ビス(4-クロロフェニル)スルホン(346.3g)および重合溶媒としてジフェニルスルホン(570.1g)を仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温して、溶液を得た。
得られた溶液に、炭酸カリウム(170.8g)を添加した後、290℃まで徐々に昇温し、290℃でさらに1時間30分反応させた。得られた反応液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトンおよびメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで、150℃で加熱乾燥させて、芳香族ポリスルホンD粉末を得た。得られた芳香族ポリスルホンD中のフェノール性水酸基の含有量を測定したところ、55μmol/gであった。
また、得られた芳香族ポリスルホンDの数平均絶対分子量は18000であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕、分級することで、芳香族ポリスルホンD微粒子(D50の値:540μm)を得た。
【0107】
芳香族ポリスルホンEの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(300.3g)、ビス(4-クロロフェニル)スルホン(365.3g)および重合溶媒としてジフェニルスルホン(594.0g)を仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温して、溶液を得た。
得られた溶液に、炭酸カリウム(172.5g)を添加した後、288℃まで徐々に昇温し、288℃でさらに3時間反応させた。得られた反応液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトンおよびメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで、150℃で加熱乾燥させて、芳香族ポリスルホンE粉末を得た。得られた芳香族ポリスルホンE中のフェノール性水酸基の含有量を測定したところ、5.2μmol/gであった。
また、得られた芳香族ポリスルホンEの数平均絶対分子量は14000であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕、分級することで、芳香族ポリスルホンE微粒子(D50の値:520μm)を得た。
【0108】
芳香族ポリスルホンFの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、炭酸カリウム3.57質量部、ビス(4-クロロフェニル)スルホン5.13質量部およびN-メチル-2-ピロリドン120質量部を加えて混合し、100℃に昇温後、ポリエーテルスルホン(住友化学株式会社製、スミカエクセルPES3600P)120質量部を加えた。ポリエーテルスルホンが溶解した後、190℃に昇温後、4-アミノフェノール4.53質量部およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)60質量部を混合したものを滴下し、200℃に昇温して10時間反応させた。理論上、芳香族ハロゲノスルホン化合物の末端のハロゲン原子(ポリエーテルスルホン及びビス(4-クロロフェニル)スルホンの末端の総Cl原子)に対する、アミノ化合物(4-アミノフェノール)のモル比(アミノ化合物/ハロゲン原子)を0.8とした。
次いで、得られた反応混合溶液を、NMPで希釈し、室温まで冷却して、未反応の炭酸カリウム及び副生した塩化カリウムを析出させた。上述の析出操作後の反応混合溶液を、水中に滴下し、芳香族ポリスルホンを析出させ、ろ過で、不要なNMPを除去することにより、析出物を得た。得られた析出物を、入念に水で繰り返し洗浄し、150℃で加熱乾燥させることにより、アミノ基を主鎖の末端の少なくとも一方に有するアミノ基含有芳香族ポリスルホン、すなわち芳香族ポリスルホンFを得た。
得られた芳香族ポリスルホンF中のフェノール性水酸基の含有量を測定したところ、0.2μmol/gであった。また、得られた芳香族ポリスルホンF中のアミノ基の含有量を測定したところ、172μmol/gであった。
また、得られた芳香族ポリスルホンFの数平均絶対分子量は6600であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕、分級することで、芳香族ポリスルホンF微粒子(D50の値:43μm)を得た。
【0109】
<樹脂組成物の調製>
表1に示す割合で、液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとを混合し、二軸押出機により造粒して、ペレット状の樹脂組成物を得た。
実施例1~6及び比較例1~3の樹脂組成物の調製においては、加熱温度325℃で造粒した。比較例4~6の樹脂組成物の調製においては、加熱温度345℃で造粒した。
【0110】
<成形品の製造>
得られたペレット状の樹脂組成物を射出成形して、30mm×30mm×0.3mmの平板を得た。
実施例1~6及び比較例1~3の樹脂組成物を用いた場合には、成形温度330℃にて射出成形した。比較例4~6の樹脂組成物を用いた場合には、成形温度350℃にて射出成形した。
【0111】
<評価>
上記で得られた成形品の平板を、窒素雰囲気下、340℃で1時間熱処理を行い、平板の射出成形方向(MD)及びMDに直交する方向(TD)のそれぞれにおける、50℃から100℃の線膨張率CTE(単位:×10-5(1/K))を測定し、MDとTDとの差の絶対値を算出した。その結果を表1に示した。
【0112】
【0113】
比較例1と比較例2~3と実施例1~6との対比から、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基(fg)の総量が10μmol/g以上である芳香族ポリスルホン、を含有する実施例1~6の樹脂組成物は、異方性が緩和される効果がより高められていることが確認できる。
【0114】
比較例4と比較例5~6と実施例1~2との対比から、本発明は、式(I)で表される繰返し単位(i)を有する液晶ポリエステル、を含有する実施例1~2の樹脂組成物において有用であることが確認できる。