(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111556
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】フィルム、及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016136
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】土佐 桃波
(72)【発明者】
【氏名】大友 新治
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA48
4F071AA64
4F071AA81
4F071AF13Y
4F071AF32Y
4F071AH07
4F071AH12
4F071AH17
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC15
4F071BC16
(57)【要約】
【課題】液晶ポリエステルを含み、応力緩和の値が低減されたフィルムを提供する。
【解決手段】液晶ポリエステルを含むフィルムであって、前記フィルムの最大断面高さRtmで表される表面粗さが2.0μm以下であり、前記フィルム1枚あたりの、CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が1.5以下である、フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルを含むフィルムであって、
前記フィルムの最大断面高さRtmで表される表面粗さが2.0μm以下であり、
前記フィルム1枚あたりの、CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が1.5以下である、フィルム。
【請求項2】
最大断面高さRtmで表される表面粗さが1.1μm以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記フィルム1枚あたりの、CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が1.1以下である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルは、
下記式(1-1)で表される繰返し単位を有し、
(1-1)-O-Ar1-1-CO-
[式中、Ar1-1は、ナフチレン基を表す。Ar1-1で表される前記ナフチレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
前記液晶ポリエステルの全繰返し単位の合計数100%に対し、前記式(1-1)で表される繰返し単位を30%以上含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】
さらに、芳香族ポリスルホンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記芳香族ポリスルホンが、下記式(S1)で表される繰返し単位を有する、請求項5に記載のフィルム。
(S1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基で置換されていてもよい。]
【請求項7】
前記液晶ポリエステルと前記芳香族ポリスルホンとの合計含有量100質量部に対する、前記芳香族ポリスルホンの含有量が、0.2質量部以上15質量部以下である、請求項5に記載のフィルム。
【請求項8】
前記芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量が5000以上である、請求項5に記載のフィルム。
【請求項9】
前記フィルムの総質量100質量%に対する、前記液晶ポリエステルの含有量の割合が、50質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項10】
前記フィルムの厚さが5μm以上500μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項11】
液晶ポリエステルを含む樹脂組成物を、インフレーション法又はTダイ法により前記フィルムに成形することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム、及びフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、化学的安定性、耐熱性及び寸法精度が高いことが知られており、電気、電子、機械、光学機器、自動車、航空機及び医療分野等の様々な分野で利用されており、液晶ポリエステルを含むフィルムとして提供される場合がある。
【0003】
液晶ポリエステルを含むフィルムの品質向上の観点から、フィルムの表面状態が着目される場合がある。例えば、特許文献1には、液晶ポリマー又は液晶ポリマーを含むポリマーアロイからなる樹脂フィルムと、フッ素樹脂多孔質フィルムとのラミネート体を延伸後、該フッ素樹脂多孔質フィルムを剥離させることによって得られる融点が335℃以上でありかつ表面粗さRaがMD及びTDのいずれの方向においても0.1μm以下である液晶ポリマーフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製膜されたフィルムは、製膜後や使用時に、フィルムの反りなどの意図しない変形が生じることがある。これらの変形の素因を把握できれば、変形の生じ難いフィルムの提供に有効である。そこで、発明者らによる検討の結果、上記変形の発生の要因として、フィルムの残留応力が一因であるとの知見が得られた。
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、液晶ポリエステルを含み、応力緩和の値が低減されたフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、最大断面高さRtmで表される表面粗さの値と、CIELAB色空間における明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値と、を特定の数値範囲で有するフィルムが、応力緩和の値が低減されていることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0007】
<1> 液晶ポリエステルを含むフィルムであって、
最大断面高さRtmで表される表面粗さが2.0μm以下であり、
前記フィルム1枚あたりの、CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が1.5以下である、フィルム。
<2> 最大断面高さRtmで表される表面粗さが1.1μm以下である、前記<1>に記載のフィルム。
<3> 前記フィルム1枚あたりの、CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が1.1以下である、前記<1>又は<2>に記載のフィルム。
<4> 前記液晶ポリエステルは、
下記式(1-1)で表される繰返し単位を有し、
(1-1)-O-Ar1-1-CO-
[式中、Ar1-1は、ナフチレン基を表す。Ar1-1で表される前記ナフチレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
前記液晶ポリエステルの全繰返し単位の合計数100%に対し、前記式(1-1)で表される繰返し単位を30%以上含有する、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載のフィルム。
<5> さらに、芳香族ポリスルホンを含む、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載のフィルム。
<6> 前記芳香族ポリスルホンが、下記式(S1)で表される繰返し単位を有する、前記<5>に記載のフィルム。
(S1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基で置換されていてもよい。]
<7> 前記液晶ポリエステルと前記芳香族ポリスルホンとの合計含有量100質量部に対する、前記芳香族ポリスルホンの含有量が、1質量部以上10質量部以下である、前記<5>又は<6>に記載のフィルム。
<8> 前記芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量が5000以上である、前記<5>~<7>のいずれか一つに記載のフィルム。
<9> 前記フィルムの総質量100質量%に対する、前記液晶ポリエステルの含有量の割合が、50質量%以上である、前記<1>~<8>のいずれか一つに記載のフィルム。
<10> 前記フィルムの厚さが5μm以上500μm以下である、前記<1>~<9>のいずれか一つに記載のフィルム。
<11> 液晶ポリエステルを含む樹脂組成物を、インフレーション法又はTダイ法によりフィルム成形することを含む、前記<1>~<10>のいずれか一つに記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液晶ポリエステルを含み、応力緩和の値が低減されたフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態のフィルムの製造方法に用いられる製造装置の構成の一例、及びフィルムの製造過程の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフィルム、及びフィルムの製造方法の実施形態を説明する。
【0011】
≪フィルム≫
実施形態のフィルムは、液晶ポリエステルを含むフィルムであって、前記フィルムの最大断面高さRtmで表される表面粗さが2.0μm以下であり、前記フィルム1枚あたりの、CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が1.5以下である。
【0012】
前記Rtmの値の数値範囲、及び上記標準偏差の和の値の数値範囲を満たす実施形態のフィルムは、これらの数値範囲を満たさないフィルムに比べ、応力緩和の値が低減される。
【0013】
また、上記Rtmの値の数値範囲、及び上記標準偏差の和の値の数値範囲を満たす実施形態のフィルムは、応力緩和の値の低減の度合いと、光沢度の度合いとのバランスにも優れる。
【0014】
実施形態のフィルムの前記Rtmの値は、2.0μm以下であり、1.5μm以下が好ましく、1.1μm以下がより好ましく、1.0μm以下が更に好ましく、0.9μm以下が特に好ましい。
前記Rtmの値が上記上限値以下であるフィルムは、フィルムの応力緩和の値の低減と、フィルムの光沢度の向上との程度が、より一層優れる。
【0015】
実施形態のフィルムの前記Rtmの値は、低い値ほど好ましいが、一例として、0.1μm以上であってよく、0.2μm以上であってよく、0.3μm以上であってよい。
【0016】
実施形態のフィルムの前記Rtmの値の数値範囲の一例としては、0.1μm以上2.0μm以下であってよく、0.1μm以上1.5μm以下であってよく、0.2μm以上1.1μm以下であってよく、0.2μm以上1.0μm以下であってよく、0.3μm以上0.9μm以下であってよい。
【0017】
実施形態のフィルムの前記Rtmの値は、以下の測定方法により取得される。
【0018】
〔フィルムの最大断面高さRtmの測定〕
フィルムを、長さ方向(MD:Machine Direction)に7cm、幅方向(TD:Traverse Direction)に7cmの正方形に切り出し、ガラスエポキシ樹脂板に両面テープを用いて貼り合わせ、試験サンプルとする。長さ方向(MD)はフィルム製膜において樹脂を押出する時の樹脂の流れ方向とする。幅方向(TD)はMDに対して垂直な方向とする。ガラスエポキシ樹脂板に貼り合わせた面とは反対側のフィルムの表面について、表面粗さ計(例えば、SE600LK31、株式会社小坂研究所製)を用いてフィルムの最大断面高さRtmを測定する。具体的には、フィルムの長さ方向について、フィルム上の異なる5点を無作為に選出する。各点を測定開始点として、JIS B 0633:2001に準拠して、以下の条件でJIS B 0601:2013で定められる最大断面高さRtを測定する。幅方向についても同様に、異なる5点を無作為に選出し、各点を測定開始点としてJIS B 0601:2013で定められる最大断面高さRtを測定する。長さ方向と幅方向の合計10点でのRtの測定値の平均を算出し、実施形態のフィルムの最大断面高さRtmとする。
触針先端半径:2μm
触針速度 :0.5mm/sec
測定力 :0.75mN
評価長さ :4mm
基準長さ :0.8mm
【0019】
実施形態のフィルムは、フィルム1枚あたりの、CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が1.5以下であり、1.1以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.9以下が更に好ましく、0.7以下が特に好ましい。
CIELAB色空間における、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が小さいほど、所謂、フィルムの“色ムラ”が小さい状態といえる。
上記の標準偏差の和の値が上記上限値以下であるフィルムは、フィルムの応力緩和の値の低減の程度が、より一層優れる。
【0020】
実施形態のフィルムの前記標準偏差の和の値は、一例として、0.05以上であってよく、0.1以上であってよく、0.2以上であってよい。
【0021】
実施形態のフィルムの前記標準偏差の和の値の数値範囲の一例としては、0.05以上1.5以下であってよく、0.05以上1.1以下であってよく、0.1以上1.0以下であってよく、0.1以上0.9以下であってよく、0.2以上0.7以下であってよい。
【0022】
実施形態のフィルムの、前記標準偏差の和の値は、以下の測定方法により取得される。
【0023】
〔CIELAB色空間の各座標の標準偏差の和の算出〕
フィルムに対し、上記の〔フィルムの最大断面高さRtmの測定〕で用意される試験サンプルと同一の試験サンプルのフィルム面側から、分光測色計(例えば、CM-3600A、コニカミノルタセンシング株式会社製)を用いて、JIS Z 8722:2009 幾何条件cに準拠し、以下の条件で、CIELAB色空間における、JIS Z 8781-4:2013で定められる明度L*、色度a*、及び色度b*を測定する。
フィルムの長さ方向(MD)に4.5cm、幅方向(TD)に4.5cmの正方形の領域内で、異なる任意の16点を測定点とする。ただし、すべての測定点の測定径(4mmφ)の中心同士の間隔は1.2cm以上とする。
L*値の標準偏差をσ(L*)、a*値の標準偏差をσ(a*)、b*値の標準偏差をσ(b*)とし、標準偏差の和=σ(L*)+σ(a*)+σ(b*)を算出する。
正反射光処理:SCI(正反射光込み)
測定径 :4mmφ
UV条件 :410nm以下カット
【0024】
実施形態のフィルムの前記Rtmの値および前記標準偏差の和の値は、例えば、フィルムを液晶ポリエステルおよび芳香族ポリスルホンを含む樹脂組成物から成形し、芳香族ポリスルホンの量を種類等に応じて適宜調整することなどにより、制御可能である。また、後述のフィルムの製造方法にて例示の冷却ロールによる挟み込み等の表面処理によっても、フィルムの前記Rtmの値を制御できる。
【0025】
フィルムの応力緩和の値は、以下の測定方法により取得される。
【0026】
〔フィルムの応力緩和の測定〕
精密万能試験機(例えば、AG-IS、株式会社島津製作所製)と恒温槽を用いて、フィルムの応力緩和を測定する。フィルムを、幅方向(TD)が長手となるようにJIS K 6251に記載のダンベル状3号形に打ち抜き、試験片とする。100℃に設定した恒温槽内で、試験片を初期長50mm、0.1mm/minで引っ張り、試験力が1Nとなった位置で引っ張りを停止して30分間保持する。試験力が1Nとなった時点と、30分経過した時点との応力の差を応力緩和とする。
【0027】
フィルムの光沢度の値は、以下の測定方法により取得される。
【0028】
〔フィルムの光沢度の測定〕
上記の〔フィルムの最大断面高さRtmの測定〕で用意される試験サンプルと同一の試験サンプルのフィルム面側から、グロスチェッカ(光沢計)(例えば、IG-331、株式会社堀場製作所製)を用いて、入射角20°と60°のフィルムの光沢度をそれぞれ測定する。フィルム面の無作為に選出した異なる9点を測定し、それらの平均を算出する。
【0029】
実施形態のフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、5μm以上500μm以下であることが好ましく、50μm以上450μm以下であることがより好ましく、100μm以上400μm以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、フィルムの「厚さ」とは、無作為に選出した9箇所の厚さを測定して得た値の平均値とする。
【0030】
実施形態のフィルムは、液晶ポリエステルを含有し、必要に応じて任意成分をさらに1種以上含有してもよい。
【0031】
実施形態のフィルムは、フィルムの総質量(100質量%)に対し、液晶ポリエステル、及び必要に応じて含有されてよい任意成分を、それらの含有量(質量%)の合計が100質量%を超えないように含有することができる。
【0032】
実施形態のフィルムは、液晶ポリエステルの他に、更に芳香族ポリスルホンを含むことが好ましい。実施形態のフィルムが芳香族ポリスルホンを含むことで、上記の最大断面高さRtmの値の数値範囲、及び上記L*、a*、及びb*の標準偏差の和の値の数値範囲を満たすフィルムが容易に得られる。
【0033】
以下、実施形態のフィルムに含有される液晶ポリエステルについて、および芳香族ポリスルホン等の任意成分について説明する。
【0034】
<液晶ポリエステル>
本実施形態のフィルムが含有する液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステル樹脂であれば、特に限定されない。液晶ポリエステルは、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。
【0035】
液晶ポリエステルの流動開始温度は、250℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることがさらに好ましい。
また、液晶ポリエステルの流動開始温度は、400℃以下であることが好ましく、360℃以下であることがより好ましく、340℃以下であることがさらに好ましい。
【0036】
例えば、液晶ポリエステルの流動開始温度は、250℃以上400℃以下であることが好ましく、270℃以上360℃以下であることがより好ましく、280℃以上340℃以下であることがさらに好ましい。
【0037】
本明細書において、流動開始温度は、フロー温度または流動温度とも呼ばれ、液晶ポリエステルの分子量の目安となる温度である(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0038】
液晶ポリエステルの流動開始温度の測定方法として、具体的には、フローテスターを用いて、液晶ポリエステルを9.8MPaの荷重下4℃/分の速度で昇温しながら溶融させ、内径1mmおよび長さ10mmのノズルから押し出すときに、液晶ポリエステルが4800Pa・sの粘度を示す温度である。
【0039】
液晶ポリエステルは、芳香族化合物に由来する繰返し単位のみを有する全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0040】
なお、本明細書において「由来」とは、原料モノマーの重合において、重合に寄与する官能基の化学構造が変化し、その他の化学構造は変化しないことを意味する。ここでの由来は、原料モノマーの重合可能な誘導体を由来とする場合も包含する概念である。
【0041】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換したエステル;カルボキシル基をハロホルミル基に変換した酸ハロゲン化物;カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換した酸無水物等が挙げられる。
【0042】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換したアシル化物等が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換したアシル化物等が挙げられる。
【0043】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(1)」ともいう)を有することが好ましい。
【0044】
(1)-O-Ar1-CO-
[式中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
【0045】
液晶ポリエステルは、前記式(1)で表される繰返し単位として、下記式(1-1)で表される繰返し単位を有することが好ましい。
(1-1)-O-Ar1-1-CO-
(Ar1-1は、ナフチレン基を表す。
Ar1-1で表される前記ナフチレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0046】
液晶ポリエステルが前記式(1-1)で表される繰返し単位を含むことで、誘電損失の低い優れた特性を示す液晶ポリエステルが得られる一方、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値が大きくなりやすい。
そこで、前記式(1-1)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステルを含むフィルムにおいて、当該標準偏差の和の値を所定の数値範囲内とすることで、応力緩和の値の低減の効果が発揮されやすい。
【0047】
液晶ポリエステルにおける前記式(1-1)で表される繰返し単位の数は、全繰り返し単位の合計数100%に対して、30%以上が好ましく、30%以上90%以下が好ましく、40%以上80%以下がより好ましく、45%以上80%以下がさらに好ましい。
別の側面として、液晶ポリエステルにおける前記式(1-1)で表される繰返し単位の数は、全繰り返し単位の合計数100%に対して、40%以上70%以下がより好ましく、45%以上70%以下がさらに好ましい。
【0048】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(2)」ともいう)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下「繰返し単位(3)」ともいう)とを有することがより好ましい。
【0049】
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-CO-Ar2-CO-
(3)-X-Ar3-Y-
[式中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。Ar2およびAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(-NH-)を表す。Ar1、Ar2またはAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。]
【0050】
(4)-Ar4-Z-Ar5-
[式中、Ar4およびAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。]
【0051】
Ar1、Ar2またはAr3が有する水素原子と置換可能なハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0052】
Ar1、Ar2またはAr3が有する水素原子と置換可能なアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基等が挙げられ、炭素数1~10のアルキル基が好ましい。アルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐していてもよい。
【0053】
Ar1、Ar2またはAr3が有する水素原子と置換可能なアリール基としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられ、炭素数6~20のアリール基が好ましい。アリール基は、単環であってもよく、縮環であってもよい。また、アリール基は、トリル基のように、芳香環の水素原子がアルキル基で置換された基でもよい。
【0054】
Ar1、Ar2またはAr3が有する水素原子が上述した基で置換されている場合、置換数は、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。
上記の中でも、Ar1、Ar2またはAr3で表される前記基にある水素原子は、置換されていないことが好ましい。
【0055】
式(4)中のZにおけるアルキリデン基としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基、2-エチルヘキシリデン基等が挙げられ、炭素数1~10のアルキリデン基が好ましい。
【0056】
繰返し単位(1)としては、Ar1が1,4-フェニレン基である繰返し単位、又は2,6-ナフチレン基である繰返し単位が好ましい。
【0057】
繰返し単位(2)としては、Ar2が1,4-フェニレン基である繰返し単位、1,3-フェニレン基である繰返し単位、2,6-ナフチレン基である繰返し単位、2,7-ナフチレン基である繰返し単位、4,4’-ビフェニリレン基である繰返し単位、又はジフェニルエ-テル-4,4’-ジイル基である繰返し単位が好ましく、Ar2が1,4-フェニレン基である繰返し単位、1,3-フェニレン基である繰返し単位、又は2,6-ナフチレン基である繰返し単位がより好ましい。
【0058】
繰返し単位(3)としては、Ar3が1,4-フェニレン基である繰返し単位、又は4,4’-ビフェニリレン基である繰返し単位が好ましい。
【0059】
繰返し単位(3)は、XおよびYがそれぞれ酸素原子である繰返し単位を有すると、液晶ポリエステルの溶融粘度が低くなり易いため好ましく、繰返し単位(3)のXおよびYがそれぞれ酸素原子である繰返し単位のみであるとより好ましい。
【0060】
上記の繰返し単位(1)~(3)を有する液晶ポリエステルとして、より具体的には、下記式(11)で表される繰返し単位、下記式(12)で表される繰返し単位、及び下記式(13)で表される繰返し単位を有することがより好ましい。
(11)-O-Ar11-CO-
(12)-CO-Ar12-CO-
(13)-O-Ar13-O-
(Ar11は、2,6-ナフチレン基、又は1,4-フェニレン基を表す。
Ar12は、2,6-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、4,4’-ビフェニリレン基、又はジフェニルエ-テル-4,4’-ジイル基を表す。
Ar13は、1,4-フェニレン基、又は4,4’-ビフェニリレン基を表す。
Ar11、Ar12又はAr13で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0061】
液晶ポリエステルは、前記式(11)で表される繰返し単位として、下記式(11-1)で表される繰返し単位を有することが好ましい。
(11-1)-O-Ar11-1-CO-
(Ar11-1は、2,6-ナフチレン基を表す。
Ar11-1で表される前記2,6-ナフチレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0062】
液晶ポリエステルにおける前記式(11-1)で表される繰返し単位の数は、全繰り返し単位の合計数100%に対して、30%以上が好ましく、30%以上90%以下が好ましく、40%以上80%以下がより好ましく、45%以上80%以下がさらに好ましい。
別の側面として、液晶ポリエステルにおける前記式(11-1)で表される繰返し単位の数は、全繰り返し単位の合計数100%に対して、40%以上70%以下がより好ましく、45%以上70%以下がさらに好ましい。
【0063】
前記式(11)で表される繰返し単位、前記式(12)で表される繰返し単位、及び前記式(13)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルとしては、下記式(11-1)で表される繰返し単位、下記式(12-1)で表される繰返し単位、下記式(12-2)で表される繰返し単位、及び下記式(13-1)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルが好ましい。
(11-1)-O-Ar11-1-CO-
(12-1)-CO-Ar12-1-CO-
(12-2)-CO-Ar12-2-CO-
(13-1)-O-Ar13-O-
(Ar11-1は、2,6-ナフチレン基を表す。
Ar12-1は、1,4-フェニレン基を表す。
Ar12-2は、2,6-ナフチレン基を表す。
Ar13-1は、1,4-フェニレン基を表す。
Ar11-1、Ar12-1、Ar12-2又はAr13-1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0064】
より好ましくは、当該液晶ポリエステルとしては、前記式(11-1)で表される繰返し単位、前記式(12-1)で表される繰返し単位、前記式(12-2)で表される繰返し単位、及び前記式(13-1)で表される繰返し単位のみからなる液晶ポリエステルであってよい。
【0065】
繰返し単位(1)の数は、液晶ポリエステルを構成する全繰返し単位の合計数(100%)(以下、「全繰り返し単位の合計数」と称する)に対して、30%以上80%以下が好ましく、40%以上70%以下がより好ましく、45%以上70%以下がさらに好ましい。
【0066】
繰返し単位(2)の数は、全繰り返し単位の合計数に対して、10%以上35%以下が好ましく、15%以上30%以下がより好ましく、15%以上27.5%以下がさらに好ましい。
【0067】
繰返し単位(3)の数は、全繰り返し単位の合計数に対して、10%以上35%以下がより好ましく、15%以上30%以下がより好ましく、15%以上27.5%以下がさらに好ましい。
【0068】
繰返し単位(1)~(3)を有する液晶ポリエステルは、例えば、繰り返し単位(1)の数が全繰り返し単位の合計数に対して30%以上80%以下であり、繰り返し単位(2)の数及び繰り返し単位(3)の数がいずれも、全繰り返し単位の合計数に対して10%以上35%以下が好ましい。
【0069】
また、液晶ポリエステルは、繰り返し単位(1)の数が全繰り返し単位の合計数に対して40%以上70%以下であり、繰り返し単位(2)の数及び繰り返し単位(3)の数がいずれも、全繰り返し単位の合計数に対して15%以上30%以下がより好ましい。
【0070】
さらに、液晶ポリエステルは、繰り返し単位(1)の数が全繰り返し単位の合計数に対して45%以上70%以下であり、繰り返し単位(2)の数及び繰り返し単位(3)の数がいずれも、全繰り返し単位の合計数に対して15%以上27.5%以下がより好ましい。
【0071】
繰返し単位(2)の数と繰返し単位(3)の数との割合は、[繰返し単位(2)の数]/[繰返し単位(3)の数]で表して、0.9/1~1/0.9が好ましく、0.95/1~1/0.95がより好ましく、0.98/1~1/0.98がさらに好ましい。
【0072】
尚、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)を、それぞれ2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その数は、全繰返し単位の合計数に対して、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0073】
本明細書において、各繰返し単位の数は、特開2000-19168号公報に記載の分析方法によって求められる。
具体的には、液晶ポリエステルを超臨界状態の低級アルコールと反応させて解重合し、解重合生成物(各繰返し単位を誘導するモノマー)を液体クロマトグラフィーによって定量することで、全繰り返し単位に対する各繰返し単位の数を算出することができる。
【0074】
液晶ポリエステルは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
[液晶ポリエステルの製造方法]
液晶ポリエステルは、それを構成する構造単位に対応する原料モノマーを溶融重合させて、製造することができる。例えば、特許第4639756号に記載の方法に従って製造することができる。
【0076】
<芳香族ポリスルホン>
本明細書において、芳香族ポリスルホンとは、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)と、エーテル結合(-O-)と、スルホニル基(-SO2-)とを含む繰返し単位を有する樹脂である。
【0077】
芳香族ポリスルホンは、主鎖末端に少なくとも1つのヒドロキシ基、アミノ基、又はハロゲン原子を有していてよい。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0078】
芳香族ポリスルホンは、耐熱性や耐薬品性に優れる点から、下記式(S1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(S1)」ということがある。)を有するものであることが好ましい。繰返し単位(S1)の他に、さらに、下記式(S2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(S2)」ということがある。)や、下記式(S3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(S3)」ということがある。)等の他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0079】
(S1)-Ph1-SO2-Ph2-O-
[式中、Ph1及びPh2は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基で置換されていてもよい。]
【0080】
(S2)-Ph3-R-Ph4-O-
[式中、Ph3及びPh4は、それぞれ独立に、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基で置換されていてもよい。Rは、アルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【0081】
(S3)-(Ph5)n-O-
[式中、Ph5は、フェニレン基を表す。前記フェニレン基にある水素原子は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、スルホ基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は水酸基で置換されていてもよい。nは、1~3の整数を表す。nが2以上である場合、複数存在するPh5は、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0082】
Ph1~Ph5のいずれかで表されるフェニレン基は、p-フェニレン基であってもよいし、m-フェニレン基であってもよいし、o-フェニレン基であってもよいが、p-フェニレン基であることが好ましい。
【0083】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアルキル基において、炭素数は、1~10であることが好ましい。具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0084】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいアリール基において、炭素数は、6~20であることが好ましい。具体例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0085】
前記フェニレン基にある水素原子を置換していてもよいハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0086】
前記フェニレン基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合は、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
上記の中でも、前記フェニレン基にある水素原子は置換されていないことが好ましい。
【0087】
Rで表されるアルキリデン基において、炭素数は、1~5であることが好ましい。具体例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、1-ブチリデン基等が挙げられる。
【0088】
芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(S1)を、全繰返し単位の合計100%に対して、50%以上有することが好ましく、80%以上有することがより好ましく、繰返し単位として実質的に繰返し単位(S1)のみを有することがさらに好ましい。なお、芳香族ポリスルホンは、繰返し単位(S1)~(S3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
【0089】
芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、5000以上がさらに好ましい。また、芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、30000以下が好ましく、25000以下がより好ましい。
芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、芳香族ポリスルホンを含有させた場合の、フィルムの応力緩和の低減作用が一層優れる。
例えば、芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、1000以上30000以下が好ましく、2000以上25000以下がより好ましく、5000以上25000以下がさらに好ましい。
【0090】
ここでいう芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量は、下記の測定条件によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によってJIS K 7252-5に準拠して算出される。
【0091】
[測定条件]
試料:10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド溶液1mLに対し、芳香族ポリスルホン0.002gを配合
試料注入量:100μL
カラム(固定相):東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR-H」(7.8mmφ×300mm)を2本直列に連結
カラム温度:40℃
溶離液(移動相):10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.8mL/分
検出器:示差屈折率計(RI)+多角度光散乱光度計(MALS)
分子量標準物質:ポリスチレン
【0092】
本実施形態で、芳香族ポリスルホンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
[芳香族ポリスルホンの製造方法]
芳香族ポリスルホンは、それを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重縮合させることにより、製造することができる。
【0094】
例えば、繰返し単位(S1)を有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として下記式(S4)で表される化合物(以下、「化合物(S4)」ともいう)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(S5)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。
【0095】
例えば、繰返し単位(S1)と繰返し単位(S2)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(S4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(S6)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。
【0096】
例えば、繰返し単位(S1)と繰返し単位(S3)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(S4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記式(S7)で表される化合物を用いることにより、製造することができる。
【0097】
(S4)X1-Ph1-SO2-Ph2-X2
[式中、X1は及びX2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。Ph1及びPh2は、前記と同義である。]
【0098】
(S5)HO-Ph1-SO2-Ph2-OH
[式中、Ph1及びPh2は、前記と同義である。]
【0099】
(S6)HO-Ph3-R-Ph4-OH
[式中、Ph3、Ph4及びRは、前記と同義である。]
【0100】
(S7)HO-(Ph5)n-OH
[式中、Ph5及びnは、前記と同義である。]
【0101】
芳香族ポリスルホンの重縮合は、炭酸のアルカリ金属塩を用いて、溶媒中で行うことが好ましい。炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸塩であってもよいし、酸性塩である重炭酸塩(炭酸水素塩)であってもよいし、両者の混合物であってもよい。炭酸塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく用いられ、炭酸水素塩としては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましく用いられる。
【0102】
重縮合の溶媒としては、有機極性溶媒が好ましく用いられる。具体例としては、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリドン、スルホラン(1,1-ジオキソチラン)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0103】
実施形態のフィルムは、一例として、液晶ポリエステルおよび芳香族ポリスルホンを含む樹脂組成物から成形可能である。樹脂組成物が芳香族ポリスルホンを含むことで、フィルム成形に係る樹脂組成物の粘度の温度依存性、及びせん断速度依存性が低下し、安定した製膜が可能となると考えられる。また、樹脂組成物が芳香族ポリスルホンを含むことで、液晶ポリエステルと芳香族ポリスルホンとの界面の不規則性が増すことが考えられる。これらの作用により、最大断面高さRtmの値と、CIELAB色空間における明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値とが、特定の数値範囲であるフィルムを、容易に提供可能であると推定される。
【0104】
<その他の任意成分>
本実施形態のフィルムは、上述した芳香族ポリスルホン以外にも、添加剤等の任意成分を更に含有してもよい。
その他成分としては、充填材、上述した液晶ポリエステル及び芳香族ポリスルホン以外の樹脂、難燃剤、導電性付与材剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、染料、発泡剤、制泡剤、粘度調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0105】
(組成)
実施形態のフィルムの総質量100質量%に対する、前記液晶ポリエステルの含有量の割合は、液晶ポリエステルの特性が発揮されやすいとの観点から、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0106】
実施形態のフィルムの総質量100質量%に対する、前記液晶ポリエステルの含有量の割合の上限値は、前記芳香族ポリスルホン等の任意成分の含有量を考慮して適宜定めればよく、一例として、99.9質量%以下であってよく、99質量%以下であってよく、98質量%以下であってよい。
【0107】
実施形態のフィルムの総質量100質量%に対する、前記液晶ポリエステルの含有量の割合の上記数値範囲の一例としては、50質量%以上99.9質量%以下であってよく、80質量%以上99.9質量%以下であってよく、90質量%以上99質量%以下であってよく、95質量%以上98質量%以下であってよい。
【0108】
実施形態のフィルムが芳香族ポリスルホンを含有する場合、前記液晶ポリエステルと前記芳香族ポリスルホンとの合計含有量100質量部に対する、前記芳香族ポリスルホンの含有量は、0.1質量部以上であってよく、0.2質量部以上であってよく、1質量部以上であってよく、2質量部以上であってよい。
実施形態のフィルムが上記下限値以上で芳香族ポリスルホンを含むことで、上記の最大断面高さRtmの値の数値範囲、及び上記L*、a*、及びb*の標準偏差の和の値の数値範囲を満たすフィルムをより一層容易に取得できる。
【0109】
実施形態のフィルムが芳香族ポリスルホンを含有する場合、前記液晶ポリエステルと前記芳香族ポリスルホンとの合計含有量100質量部に対する、前記芳香族ポリスルホンの含有量は、0.1質量部以上20質量部以下であってよく、0.2質量部以上15質量部以下であってよく、1質量部以上10質量部以下であってよく、2質量部以上5質量部以下であってよい。
【0110】
実施形態のフィルムが芳香族ポリスルホンを含有する場合、実施形態のフィルムの総質量100質量%に対する、前記芳香族ポリスルホンの含有量は、0.1質量%以上20質量%以下であってよく、0.2質量%以上15質量%以下であってよく、1質量%以上10質量%以下であってよく、2質量%以上5質量%以下であってよい。
【0111】
上記で例示した液晶ポリエステルおよび芳香族ポリスルホンの含有量の割合の数値は、それらの和が、質量基準で100%を超えない範囲において適宜組み合わせてよい。
一例として、実施形態のフィルムの総質量100質量%に対し、液晶ポリエステルが50質量%以上99.9質量%以下で、芳香族ポリスルホンが0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、液晶ポリエステルが80質量%以上99.9質量%以下で、芳香族ポリスルホンが0.2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、液晶ポリエステルが90質量%以上99質量%以下で、芳香族ポリスルホンが1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましく、液晶ポリエステルが95質量%以上98質量%以下で、芳香族ポリスルホンが2質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。
【0112】
実施形態のフィルムは、最大断面高さRtmの値と、CIELAB色空間における明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値とが特定の数値範囲であることにより、応力緩和の値が良好に低減されている。
また、実施形態のフィルムは、フィルムの応力緩和の値の低減の度合いと、フィルムの光沢度の度合いとのバランスにも優れる。
【0113】
最大断面高さRtmの値と、前記標準偏差の和の値との2項目について、なぜフィルムの応力緩和と関連があるのか、詳細は明らかではない。しかし、想定される事柄として、これらの2つの項目が、残留応力の一因となり得るフィルムのシワなどの微細構造の状態を反映していることが考えられる。
フィルムの表面のシワなどの微細構造の状態は、上記Rtmに反映されると考えられる。Rtmの値が小さいほど突出した凹凸がなく、フィルム面内での局所的な欠陥が低減されていることを示しており、フィルム表面の構造の均一性に優れると考えられる。
一方、フィルムの内部の微細構造の状態は、明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値に反映されると考えられる。ただし、フィルムが、圧縮等の表面を平滑化する処理を経ていた場合では、フィルム表面のRtmの値は低下するが、フィルム内部の微細構造への影響は小さい。そこで本実施形態のフィルムでは、Rtmに加えて、上記の明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値を特定の範囲とすることで、フィルム内部の微細構造が良好に反映されており、応力緩和の値の低減の度合いが、より一層良好であると考えられる。
【0114】
≪フィルムの製造方法≫
実施形態のフィルムの製造方法は、液晶ポリエステルを含む樹脂組成物を、ダイから押し出して、フィルムに成形することを含む。
実施形態のフィルムの製造方法によれば、上記実施形態のフィルムを製造可能である。
【0115】
前記フィルム成形の方法としては、インフレーション法又はTダイ法が挙げられる。
【0116】
実施形態のフィルムの製造方法としては、液晶ポリエステルを含む樹脂組成物を、インフレーション法又はTダイ法により、フィルムに成形することを含む方法が好ましい。
【0117】
前記樹脂組成物は、上述した液晶ポリエステルと、必要に応じて用いられる任意成分とを、一括で又は適当な順序で混合して得ることができる。
【0118】
任意成分としては、芳香族ポリスルホンが挙げられる。前記樹脂組成物は液晶ポリエステルと、芳香族ポリスルホンとを含むことが好ましい。樹脂組成物における液晶ポリエステル、芳香族ポリスルホン、添加剤等のその他の任意成分、およびそれらの配合量としては、上記の実施形態の≪フィルム≫において例示した成分、およびそれらの含有量と同一であってよい。
【0119】
樹脂組成物の流動開始温度は、250℃以上400℃以下であってよく、270℃以上360℃以下であってよく、280℃以上340℃以下であってよい。
【0120】
本明細書において、樹脂組成物の流動開始温度は、上記の液晶ポリエステルの流動開始温度で例示した測定方法において、液晶ポリエステルに代えて樹脂組成物を試料として測定することにより得られる。
【0121】
以下、実施形態のフィルムの製造方法について、Tダイ法によるフィルムの製造を行う場合を例に説明する。
【0122】
図1は、Tダイ法による実施形態のフィルムの製造方法に用いられる製造装置10の構成の一例、及びフィルムの製造過程の一例を示す模式図である。
【0123】
液晶ポリエステルを含む樹脂組成物の各原料を、ホッパー110を経て押出機11のシリンダー111内へ投入し、スクリュー112を回転させながら加熱し、樹脂組成物の流動物Mを得る。
次いで、流動物Mをダイ12から押し出した後、2つの冷却ロール14a,14bで挟みこみ、フィルム1を得る。得られたフィルム1は、送り方向に設けられた複数の引張ロール16a~16fへと誘導され、巻取機18により巻き取られる。
【0124】
上記では、Tダイ法を例にフィルム成形について説明したが、実施形態のフィルムの製造方法は、インフレーション法等のダイから押し出してフィルム成形を行う任意の成形方法に好適に適用される。
【0125】
ダイからの流動物の押し出しにより製造されるフィルムには、細かなシワなどの微細構造が発生する場合があり、フィルムの製膜過程は、フィルムの残留応力の発生要因の一つであると考えられる。
【0126】
また、上記で示した冷却ロール14a,14bでの挟み込みのように、フィルム化後のフィルムの圧縮により、表面のシワが抑制された場合でも、フィルム内部の微細構造については、残留応力の発生要因となっていると考えられる。
【0127】
したがって、インフレーション法又はTダイ法により成形されたフィルムは、残留応力が生じ易いと考えられるところ、フィルムにおける最大断面高さRtmの値と、CIELAB色空間における明度L*、色度a*、及び色度b*の標準偏差の和の値とを特定の数値範囲内とすることで、応力緩和の値の低減の効果が発揮されやすい。
【実施例0128】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0129】
〔流動開始温度(FT)の測定〕
フローテスター(CFT-500EX、株式会社島津製作所製)を用いて、測定試料(液晶ポリエステル又は樹脂組成物)約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、測定試料を溶融させ、ノズルから押し出した。当該測定試料が4800Pa・sの粘度を示す温度を測定し、当該温度を測定試料の流動開始温度とした。
【0130】
[フィルムの厚さの測定]
フィルムを、長さ方向(MD)に7cm、幅方向(TD)に7cmの正方形に切り出し、試験サンプルを得た。U字形鋼板マイクロメータPMU150-25MJ(株式会社ミツトヨ製)を用いて、試験サンプルの無作為に選出した9箇所の厚さを測定し、その平均値を算出し、フィルム厚さとした。
【0131】
[芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量の測定]
芳香族ポリスルホンの数平均絶対分子量(Mn)は、下記の測定条件によるGPC分析によってJIS K 7252-5に準拠して求めた。なお、Mnはいずれも2回測定し、その平均値を求めた。
[測定条件]
試料:10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド溶液1mLに対し、芳香族ポリスルホン0.002gを配合した
試料注入量:100μL
カラム(固定相):東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR-H」(7.8mmφ×300mm)を2本直列に連結
カラム温度:40℃
溶離液(移動相):10mM臭化リチウム含有N,N-ジメチルホルムアミド
溶離液流量:0.8mL/分
検出器:示差屈折率計(RI)+多角度光散乱光度計(MALS)
分子量標準物質:ポリスチレン
【0132】
〔フィルムの最大断面高さRtmの測定〕
フィルムを、長さ方向(MD)に7cm、幅方向(TD)に7cmの正方形に切り出し、フィルムの反りによる影響を抑制するために、ガラスエポキシ樹脂板に両面テープを用いて貼り合わせ、試験サンプルを得た。ガラスエポキシ樹脂板に貼り合わせた面とは反対側のフィルム表面について、表面粗さ計(SE600LK31、株式会社小坂研究所製)を用いて、フィルムの最大断面高さRtmを測定した。具体的には、フィルムの長さ方向について、フィルム上の異なる5点を無作為に選出し、各点を測定開始点として、JIS B 0633:2001に準拠して、以下の条件でJIS B 0601:2013で定められる最大断面高さRtを測定した。幅方向についても同様に、異なる5点を無作為に選出し、各点を測定開始点としてJIS B 0601:2013で定められる最大断面高さRtを測定した。長さ方向と幅方向の合計10点でのRtの測定値の平均を算出し、実施形態のフィルムの最大断面高さRtmとした。
触針先端半径:2μm
触針速度 :0.5mm/sec
測定力 :0.75mN
評価長さ :4mm
基準長さ :0.8mm
【0133】
〔CIELAB色空間の各座標の標準偏差の和の算出〕
フィルムに対し、上記の〔フィルムの最大断面高さRtmの測定〕で作製した試験サンプルのフィルム面側から、分光測色計(CM-3600A、コニカミノルタセンシング株式会社製)を用いて、JIS Z 8722:2009 幾何条件cに準拠し、以下の条件で、CIELAB色空間における、JIS Z 8781-4:2013で定められる明度L*、色度a*、及び色度b*を測定した。
フィルムの長さ方向(MD)に4.5cm、幅方向(TD)に4.5cmの正方形の領域内で、異なる任意の16点を測定点とした。ただし、すべての測定点の測定径(4mmφ)の中心同士の間隔は1.2cm以上とした。
L*値の標準偏差をσ(L*)、a*値の標準偏差をσ(a*)、b*値の標準偏差をσ(b*)とし、標準偏差の和=σ(L*)+σ(a*)+σ(b*)を算出した。この値が小さいほど、所謂、フィルムの“色ムラ”が小さいことを示す。
正反射光処理:SCI(正反射光込み)
測定径 :4mmφ
UV条件 :410nm以下カット
【0134】
〔フィルムの光沢度の測定〕
上記〔フィルムの最大断面高さRtmの測定〕で作製した試験サンプルのフィルム面側から、グロスチェッカ(光沢計)(IG-331、株式会社堀場製作所製)を用いて、入射角20°と60°のフィルムの光沢度をそれぞれ測定した。フィルム面の無作為に選出した異なる9点を測定し、それらの平均を算出した。
【0135】
〔フィルムの応力緩和の測定〕
精密万能試験機(AG-IS、株式会社島津製作所製)と恒温槽(TCE-N300、株式会社島津製作所製)を用いて、フィルムの応力緩和を測定した。
フィルムを、幅方向(TD)が長手となるようにJIS K 6251に記載のダンベル状3号形に打ち抜き、試験片とした。100℃に設定した恒温槽内で、試験片を初期長50mm、0.1mm/minで引っ張り、試験力が1Nとなった位置で引っ張りを停止して30分間保持した。試験力が1Nとなった時点と、30分経過した時点との応力の差を応力緩和とした。
【0136】
〔液晶ポリエステルの製造〕
液晶ポリエステルAの製造方法:
撹拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸1035.0g、ハイドロキノン255.2g、2,6-ナフタレンジカルボン酸378.3g、テレフタル酸83.1g、無水酢酸1189.9gおよび触媒として1-メチルイミダゾール0.175gを添加し、室温で15分間撹拌した後、撹拌しながら昇温した。内温が140℃となったところで、同温度を保持したまま1時間撹拌した。
次に、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、140℃から310℃まで4時間40分かけて昇温した。同温度310℃で1時間30分保温して、芳香族ポリエステルを得た。得られた芳香族ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、芳香族ポリエステルの粉末(粒子径は約0.1mm~約1mm)を得た。この粉末について、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、274℃であった。
得られた粉末を、30℃から225℃まで50分かけて昇温した後、同温度225℃から250℃まで1時間40分かけて昇温し、次いで、同温度250℃から300℃まで8時間20分かけて昇温した後、同温度300℃で10時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却して液晶ポリエステルA粉末を得た。冷却後の液晶ポリエステルA粉末の流動開始温度(FT)を測定したところ、326℃であった。
【0137】
〔芳香族ポリスルホンの製造〕
本実施例で用いた芳香族ポリスルホンB、芳香族ポリスルホンC、芳香族ポリスルホンD及び芳香族ポリスルホンEを、それぞれ以下のようにして製造した。
【0138】
芳香族ポリスルホンBの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン300.3g、ビス(4-クロロフェニル)スルホン346.3g、および重合溶媒としてジフェニルスルホン570.1gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温して、溶液を得た。
得られた溶液に、炭酸カリウム170.8gを添加した後、290℃まで徐々に昇温し、290℃でさらに1時間30分反応させた。得られた反応液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトンおよびメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで、150℃で加熱乾燥させて、芳香族ポリスルホンBを得た。得られた芳香族ポリスルホンBの数平均絶対分子量は18000であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕後、分級することで、芳香族ポリスルホンB粉末(D50の値:540μm)を得た。
【0139】
芳香族ポリスルホンCの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン300.3g、ビス(4-クロロフェニル)スルホン330.8g、および重合溶媒としてジフェニルスルホン560.3gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温して、溶液を得た。
得られた溶液に、炭酸カリウム159.7gを添加した後、290℃まで徐々に昇温し、290℃でさらに3時間反応させた。得られた反応液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトンおよびメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで、150℃で加熱乾燥させて、芳香族ポリスルホンCを得た。得られた芳香族ポリスルホンCの数平均絶対分子量は10000であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕後、分級することで、芳香族ポリスルホンB粉末(D50の値:500μm)を得た。
【0140】
芳香族ポリスルホンDの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン300.3g、ビス(4-クロロフェニル)スルホン365.3g、および重合溶媒としてジフェニルスルホン594.0gを仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温して、溶液を得た。
得られた溶液に、炭酸カリウム172.5gを添加した後、288℃まで徐々に昇温し、288℃でさらに3時間反応させた。得られた反応液を、室温まで冷却して固化させ、細かく粉砕した後、温水による洗浄並びにアセトンおよびメタノールの混合溶媒による洗浄を数回行い、次いで、150℃で加熱乾燥させて、芳香族ポリスルホンDを得た。得られた芳香族ポリスルホンDの数平均絶対分子量は14000であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕後、分級することで、芳香族ポリスルホンD粉末(D50の値:520μm)を得た。
【0141】
芳香族ポリスルホンEの製造方法:
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた重合槽に、炭酸カリウム3.57質量部、ビス(4-クロロフェニル)スルホン5.13質量部およびN-メチル-2-ピロリドン120質量部を加えて混合し、100℃に昇温後、ポリエーテルスルホン(住友化学株式会社製、スミカエクセル3600P)120質量部を加えた。ポリエーテルスルホンが溶解した後、190℃に昇温後、4-アミノフェノール4.53質量部およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)60質量部を混合したものを滴下し、200℃に昇温して10時間反応させた。
次いで、得られた反応混合溶液を、NMPで希釈し、室温まで冷却して、未反応の炭酸カリウム及び副生した塩化カリウムを析出させた。上述の析出操作後の反応混合溶液を、水中に滴下し、芳香族ポリスルホンを析出させ、ろ過で、不要なNMPを除去することにより、析出物を得た。得られた析出物を、入念に水で繰り返し洗浄し、150℃で加熱乾燥させることにより、アミノ基を主鎖の末端の少なくとも一方に有するアミノ基含有芳香族ポリスルホン、すなわち芳香族ポリスルホンEを得た。得られた芳香族ポリスルホンEの数平均絶対分子量は6600であった。さらに衝撃式粉砕機により粉砕後、分級することで、芳香族ポリスルホンE粉末(D50の値:43μm)を得た。
【0142】
〔樹脂組成物の調製〕
表1に示す割合(質量%)で、液晶ポリエステルA粉末、或いは、液晶ポリエステルA粉末と、芳香族ポリスルホンB粉末、芳香族ポリスルホンC粉末、芳香族ポリスルホンD粉末、又は芳香族ポリスルホンE粉末とを混合し、二軸押出機によりシリンダーの加温温度340℃で造粒して、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0143】
〔フィルムの製造〕
(実施例1~10、比較例1)
上記で得られた各ペレットを、
図1に示す構成のTダイ製膜装置の、Tダイを備えた20mmφの単軸押出機を用いて、ダイ温度325℃で溶融押出しし、200℃に設定した一対の冷却ロールで挟み込むことにより、フィルムの厚さを調整して、各実施例又は比較例のフィルムを得た。
【0144】
上記の各測定項目の測定結果を表1に示す。
【0145】
【0146】
フィルムのRtmが2.0μm以下であり、且つ、L*、a*、及びb*の標準偏差の和の値が1.5以下の規定を満たす各実施例1~10のフィルムでは、当該規定を満たさない比較例1のフィルムに比べ、応力緩和の値の小さなフィルムが得られていた。
【0147】
比較例1と実施例9とを参照した場合、最大断面高さRtmの値がより小さい実施例9のほうが、より応力緩和の値は低減されていた。
また、各実施例同士を参照すると、Rtm及びL*、a*、及びb*の標準偏差の値の和の両方の値が顕著に小さな、実施例5-7、10等で、応力緩和の値がより顕著に低減されていた。
これらのことから、Rtmが2.0μm以下の規定と、L*、a*、及びb*の標準偏差の値の和が1.2以下の規定と、の両方の規定が応力緩和の低下に作用し、両方の規定を満たすことで、応力緩和の値の低減が良好に達成されたフィルムが得られたことがわかる。
【0148】
実施例1~10で得られた各フィルムについて、フィルムの応力緩和の値が小さいほど、フィルムの反りの程度が小さかった。
【0149】
また、光沢度にも着目すると、Rtmが1.1μm以下であり、且つL*、a*、及びb*の標準偏差の和の値が1.5以下であるフィルム(実施例4~10)は、光沢度の向上と応力緩和の低下との両方に優れていた。
【0150】
各実施例を参照すると、芳香族ポリスルホンの含有量の増加に従い、上記の応力緩和の低下の度合いが良好であった。
【0151】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換などの変更が可能である。また、本発明は各実施形態に限定されることはなく、請求の範囲にのみ限定される。