(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011156
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】発育ステージの予測方法及び発育ステージの予測プログラム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240118BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240118BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240118BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q10/04
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112928
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 千沙
(72)【発明者】
【氏名】菊井 玄一郎
(72)【発明者】
【氏名】下田 星児
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】発育ステージの到達時期を精度よく予測できるようにする。
【解決手段】モデル生成部は、作物栽培における第1の発育ステージと第2の発育ステージとを含む複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の実測値と、前記作物が発育する期間のうち予め定められた期間の気象要素の実測値と、前記複数の発育ステージの後の第3の発育ステージに到達した到達時期の実測値と、を学習データとして用いて、前記第3の発育ステージの到達時期を予測するための機械学習モデルを構築し、予測部は、前記機械学習モデルに、前記複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の入力値(例えばx1、x2)と、前記予め定められた期間の気象要素の入力値(例えばt1,t2)と、を入力することで、前記第3の発育ステージの到達時期(例えばy1)を予測し、出力する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物栽培における第1の発育ステージと第2の発育ステージとを含む複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の実測値と、前記作物が発育する期間のうち予め定められた期間の気象要素の実測値と、前記複数の発育ステージの後の第3の発育ステージに到達した到達時期の実測値と、を学習データとして用いて、前記第3の発育ステージの到達時期を予測するための機械学習モデルを構築し、
前記機械学習モデルに、前記複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の入力値と、前記予め定められた期間の気象要素の入力値と、を入力することで、前記第3の発育ステージの到達時期を予測し、出力する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする発育ステージの予測方法。
【請求項2】
前記予め定められた期間は、前記複数の発育ステージそれぞれと前記第3の発育ステージとの間の期間の少なくとも1つの期間である、ことを特徴とする請求項1に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項3】
前記気象要素は、平均気温であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項4】
前記作物は、小麦であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発育ステージの予測方法。
【請求項5】
作物栽培における第1の発育ステージと第2の発育ステージとを含む複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の実測値と、前記作物が発育する期間のうち予め定められた期間の気象要素の実測値と、前記複数の発育ステージの後の第3の発育ステージに到達した到達時期の実測値と、を学習データとして用いて、前記第3の発育ステージの到達時期を予測するための機械学習モデルを構築し、
前記機械学習モデルに、前記複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の入力値と、前記予め定められた期間の気象要素の入力値と、を入力することで、前記第3の発育ステージの到達時期を予測し、出力する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする発育ステージの予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発育ステージの予測方法及び発育ステージの予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
作物を栽培する場合、作物の発育に応じて、施肥の時期や施肥量、収穫時期等を決定する必要があり、農家等はこれらを決定するために圃場調査を行っている。圃場調査においては、圃場まで出向き、作物の生育状況を目で見て判断し、作物の発育がどこまで進んでいるかを確認するのが一般的である。しかし、圃場調査は手間と時間を要するため、高齢化や人手不足の問題を抱えている農家等において負担になるおそれがある。
【0003】
したがって、圃場調査を行わなくても、作物がいつどの程度発育するかを予測できることが好ましい。最近では、起算日からの気温の積算値が閾値を超えた日を予測日(例えば所定の発育ステージに到達する日)と予測する方法(積算温度モデルと呼ぶ)が知られている(例えば、特許文献1、2等参照)。また、ある関数に気温や日長などを投入することで得られる発育速度(DeVeropmental Rate(DVR))の積算値が所定値を超える日を予測日とする方法(DVRモデルと呼ぶ)が知られている(例えば、非特許文献1、特許文献3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-030253号公報
【特許文献2】特開2018-164408号公報
【特許文献3】特開2021-190108号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中園(2014)小麦の発育段階の推定モデル.日作紀.83,249-259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記方法を用いれば、気温などの気象要素に基づいて、作物の発育ステージ(出穂期や成熟期など)を予測することができる。しかしながら、上記方法では、気象要素以外の要素が発育ステージへ与える影響が十分に考慮されているとは言えない。
【0007】
本発明は、発育ステージの到達時期を精度よく予測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発育ステージの予測方法は、作物栽培における第1の発育ステージと第2の発育ステージとを含む複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の実測値と、前記作物が発育する期間のうち予め定められた期間の気象要素の実測値と、前記複数の発育ステージの後の第3の発育ステージに到達した到達時期の実測値と、を学習データとして用いて、前記第3の発育ステージの到達時期を予測するための機械学習モデルを構築し、前記機械学習モデルに、前記複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の入力値と、前記予め定められた期間の気象要素の入力値と、を入力することで、前記第3の発育ステージの到達時期を予測し、出力する、処理をコンピュータが実行する予測方法である。
【0009】
また、本発明の発育ステージの予測プログラムは、作物栽培における第1の発育ステージと第2の発育ステージとを含む複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の実測値と、前記作物が発育する期間のうち予め定められた期間の気象要素の実測値と、前記複数の発育ステージの後の第3の発育ステージに到達した到達時期の実測値と、を学習データとして用いて、前記第3の発育ステージの到達時期を予測するための機械学習モデルを構築し、前記機械学習モデルに、前記複数の発育ステージそれぞれに到達した到達時期の入力値と、前記予め定められた期間の気象要素の入力値と、を入力することで、前記第3の発育ステージの到達時期を予測し、出力する、処理をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の発育ステージの予測方法及び発育ステージの予測プログラムは、発育ステージの到達時期を精度よく予測することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る発育ステージ予測システムの構成を概略的に示す図である。
【
図2】北海道秋まき小麦の発育ステージの推移を示す図である。
【
図3】
図3(a)は、サーバのハードウェア構成の一例を示す図であり、
図3(b)は、サーバの機能ブロック図である。
【
図4】
図4(a)は、実測値(発育ステージ到達日)の一例を示す図であり、
図4(b)は、実測値(平均気温)の一例を示す図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(e)は、重回帰モデル(1)を説明するための図である。
【
図6】
図6(a)は、重回帰モデル(1)を説明するための図であり、
図6(b)は、重回帰モデル(2)を説明するための図であり、
図6(c)は、重回帰モデル(3)を説明するための図であり、
図6(d)は、重回帰モデル(4)を説明するための図である。
【
図7】モデル生成処理を示すフローチャートである。
【
図8】発育ステージ予測処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発育ステージ予測システムの一実施形態について、
図1~
図9に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1には、一実施形態に係る発育ステージ予測システム100の構成が概略的に示されている。本実施形態の発育ステージ予測システム100は、
図1に示すように、サーバ10と、利用者端末70と、を備える。サーバ10及び利用者端末70はインターネットなどのネットワーク80に接続されており、サーバ10と利用者端末70との間のデータのやり取りが可能となっている。
【0014】
利用者端末70は、PC(Personal Computer)やスマートフォン、タブレット型端末など、農家等の利用者が利用可能な情報処理装置である。利用者端末70は、利用者が入力した情報をサーバ10に送信し、サーバ10から送信されてきた情報を受信して表示する。
【0015】
サーバ10は、データセンタ等に設置された情報処理装置であり、作物が各発育ステージに到達する日(到達日)を予測し、利用者端末70に出力する装置である。
【0016】
ここで、本実施形態のサーバ10は、一例として北海道の秋まき小麦の発育ステージ(生育ステージ、生育期節とも呼ばれる)を予測するものとする。
図2には、北海道の秋まき小麦の発育ステージが示されている。秋まき小麦の発育ステージは、
図2に示すように播種期→出芽期→根雪期→融雪期→起生期→幼穂形成期→止葉期→出穂期→開花期→成熟期の順に推移する。このうち、幼穂形成期や出穂期には施肥が行われることから、これら幼穂形成期や出穂期に到達する時期を予測できることが好ましい。また、成熟期の後に収穫が行われることから、成熟期に到達する時期についても予測できることが好ましい。更に、開花期の前後の天気が収量に影響することから、開花期に到達する時期についても予測できることが好ましい。したがって、本実施形態のサーバ10は、
図2において実線枠で示されている幼穂形成期、出穂期、開花期、成熟期の到達日を予測して出力する。
【0017】
図3(a)には、サーバ10のハードウェア構成の一例が示されている。
図3(a)に示すように、サーバ10は、CPU(Central Processing Unit)90、ROM(Read Only Memory)92、RAM(Random Access Memory)94、ストレージ(ここではSSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive))96、ネットワークインタフェース97、及び可搬型記憶媒体用ドライブ99等を備えている。これらサーバ10の構成各部は、バス98に接続されている。サーバ10では、ROM92あるいはストレージ96に格納されているプログラム(発育ステージの予測プログラムを含む)、或いは可搬型記憶媒体用ドライブ99が可搬型記憶媒体91から読み取ったプログラムをCPU90が実行することにより、
図3(b)に示す各部の機能が実現される。なお、
図3(b)の各部の機能は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。
【0018】
図3(b)には、サーバ10の機能ブロック図が示されている。
図3(b)に示すように、サーバ10は、実測値取得部20と、モデル生成部22と、入力情報取得部24と、予測部26と、を備える。
【0019】
実測値取得部20は、実際に北海道の各地点において秋まき小麦を栽培したときに得られた、
図4(a)に示すようなデータを取得する。
図4(a)のデータにおいては、識別番号(No.)に対し、データの取得位置と、播種期、融雪期、幼穂形成期、出穂期、開花期、成熟期の各発育ステージに到達した日(到達日)の実測値とが対応付けられている。
【0020】
また、実測値取得部20は、各地点における各発育ステージ間の平均気温のデータを取得する。実測値取得部20は、例えば、
図4(a)の各地点の位置情報と、各発育ステージの到達日の情報とを用いて、気象庁のデータベースや国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構と呼ぶ)のメッシュ農業気象データ等から各ステージ間の平均気温のデータを取得する。ただし、これに限らず、実測値取得部20は、各地点において秋まき小麦を栽培した人が利用者端末70等に入力した各発育ステージ間の平均気温の情報を取得してもよい。ここで、平均気温は、期間内の各日における日中平均気温の平均とすることができる。日中平均気温は、例えば、(日最高気温+日最低気温)/2により求めることができる。なお、
図4(b)の識別番号(No.)と
図4(a)の識別番号(No.)が一致しているデータ同士は、対応するデータである。
【0021】
図3(b)に戻り、モデル生成部22は、実測値取得部20が取得した実測値(
図4(a)、
図4(b))を用いて、幼穂形成期、出穂期、開花期、成熟期の各発育ステージの到達日を予測するために用いる重回帰モデルを生成する。ここで、本実施形態では、幼穂形成期の到達日を予測する際に、
図5(a)に示すように、播種期のDOY(Day of Year:1月1日からの日数)、融雪期のDOY、播種期から融雪期の間の平均気温、融雪期から幼穂形成期の間の平均気温を用いる。なお、本明細書において、「播種期から融雪期の間の平均気温」は、播種期から融雪期の間のうち、積雪深が20cm以下であった日の気温の平均値を意味する。
図5(b)に示すように、播種期のDOYと、融雪期から幼穂形成期までの日数と、の間には相関が見られ、
図5(c)に示すように、融雪期のDOYと、融雪期から幼穂形成期までの日数と、の間には相関が見られるためである。また、
図5(d)に示すように、播種期から融雪期の間の平均気温と、融雪期から幼穂形成期までの日数との間には相関が見られ、
図5(e)に示すように、融雪期から幼穂形成期の間の平均気温と、融雪期から幼穂形成期までの日数と、の間には相関が見られるためである。なお、ある発育ステージに到達した時期が、他の発育ステージに到達する時期に影響する点については、例えば“江口・島田(2000) 小麦の発育日数の変動要因の解析と生育期予測.日作紀.69,49-53”にも記載されている。
【0022】
本実施形態のモデル生成部22は、
図6(a)に示すように、播種期のDOYをx1、融雪期のDOYをx2、播種期から融雪期の間の平均気温(播種期から融雪期の間のうち、積雪深が20cm以下であった日の気温の平均値)をt1、融雪期から幼穂形成期の間の平均気温をt2とし、融雪期から幼穂形成期までの日数をy1とした場合に、
図4(a)、
図4(b)の実測値を学習データとして用い、機械学習により、次式(1)に示すような重回帰モデル(1)を生成する。なお、a0は定数、am(m=1~4)は係数である。
y1=a0+a1×x1+a2×x2+a3×t1+a4×t2 …(1)
【0023】
なお、上式(1)の重回帰モデル(1)は1次式で表されているが、m次式(mは2以上)で表されてもよい。
【0024】
また、融雪期のDOY、幼穂形成期のDOY、融雪期から幼穂形成期の間の平均気温、幼穂形成期から出穂期の間の平均気温のそれぞれと、幼穂形成期から出穂期までの日数との間には、
図5(b)~
図5(e)と同様に相関が見られる。したがって、本実施形態のモデル生成部22は、
図6(b)に示すように、播種期のDOYをx2、融雪期のDOYをx3、播種期から融雪期の間の平均気温をt2、融雪期から幼穂形成期の間の平均気温をt3とし、融雪期から幼穂形成期までの日数をy2とした場合に、
図4(a)、
図4(b)の実測値を学習データとして用い、機械学習により、次式(2)に示すような重回帰モデル(2)を生成する。
y2=a5+a6×x2+a7×x3+a8×t2+a9×t3 …(2)
【0025】
また、幼穂形成期のDOY、出穂期のDOY、幼穂形成期から出穂期の間の平均気温、出穂期から開花期の間の平均気温、出穂期から成熟期の間の平均気温のそれぞれと、出穂期から開花期までの日数及び出穂期から成熟期までの日数との間には、
図5(b)~
図5(e)と同様に相関が見られる。したがって、本実施形態のモデル生成部22は、
図6(c)、
図6(d)に示すように、幼穂形成期のDOYをx3、出穂期のDOYをx4、幼穂形成期から出穂期の間の平均気温をt3、出穂期から開花期の間の平均気温をt4、出穂期から成熟期の間の平均気温をt5とし、出穂期から開花期までの日数をy3、出穂期から成熟期までの日数をy4とした場合に、
図4(a)、
図4(b)の実測値を学習データとして用い、機械学習により、次式(3)、(4)に示すような重回帰モデル(3)、(4)を生成する。
y3=a10+a11×x3+a12×x4+a13×t3+a14×t4 …(3)
y4=a15+a16×x3+a17×x4+a18×t3+a19×t5 …(4)
【0026】
なお、重回帰モデル(4)については、出穂期のDOY(x4)、出穂期から開花期の間の平均気温(t4)、及び開花期のDOY(x5)、開花期から成熟期の間の平均気温(t6)を変数とする重回帰モデルとしてもよい。
【0027】
図3(b)に戻り、入力情報取得部24は、利用者端末70に入力される情報を取得し、予測部26に送信する。なお、利用者端末70に入力される情報は、例えば、
図6(a)に示す播種期のDOY(x1)、融雪期のDOY(x2)、播種期から融雪期の間の平均気温(播種期から融雪期の間のうち、積雪深が20cm以下であった日の気温の平均値)(t1)、融雪期から幼穂形成期の間の平均気温(t2)であるものとする。なお、幼穂形成期に到達する前の段階では、融雪期から幼穂形成期までの期間が分からないが、融雪期から幼穂形成期までの期間の推定値はモデル生成部22が求めることができるため、その期間の平均気温の予測データや平年値データを融雪期から幼穂形成期の間の平均気温(t2)として用いることとすればよい。
【0028】
予測部26は、入力情報取得部24が取得した情報と、モデル生成部22が生成した重回帰モデル(1)~(4)と、を用いて、各発育ステージの到達日を予測し、予測結果を利用者端末70に出力する。
【0029】
(サーバ10の処理について)
次に、
図7、
図8のフローチャートに沿って、サーバ10の処理について詳細に説明する。
【0030】
(モデル生成処理)
図7は、実測値取得部20とモデル生成部22の処理(モデル生成処理)を示すフローチャートである。ステップS10において、実測値取得部20は、各発育ステージの到達日、気象要素(ここでは各発育ステージ間の平均気温)の実測値(
図4(a)、
図4(b)参照)を取得する。
【0031】
次いで、ステップS12において、モデル生成部22は、ステップS10で取得した実測値を学習データとして用いて、機械学習により、融雪期と幼穂形成期の間の日数を予測するための重回帰モデル(1)を生成する。
【0032】
次いで、ステップS14において、モデル生成部22は、ステップS10で取得した実測値を学習データとして用いて、機械学習により、幼穂形成期と出穂期の間の日数を予測するための重回帰モデル(2)を生成する。
【0033】
次いで、ステップS16において、モデル生成部22は、ステップS10で取得した実測値を学習データとして用いて、機械学習により、出穂期と開花期の間の日数を予測するための重回帰モデル(3)を生成する。
【0034】
次いで、ステップS18において、モデル生成部22は、ステップS10で取得した実測値を学習データとして用いて、機械学習により、出穂期と成熟期の間の日数を予測するための重回帰モデル(4)を生成する。
【0035】
【0036】
(発育ステージ予測処理)
次に、
図8に基づいて、入力情報取得部24と予測部26の処理(発育ステージ予測処理)について説明する。なお、利用者は、融雪期に到達後、幼穂形成期に到達する前の段階で、利用者端末70に播種期の到達日の実測値(
図6(a)のx1)、融雪期の到達日の実測値(
図6(a)のx2)、栽培地点の位置情報を入力するものとする。
【0037】
図8の処理が開始されると、まずステップS50において、入力情報取得部24は、播種期の到達日の実測値(
図6(a)のx1)、融雪期の到達日の実測値(
図6(a)のx2)、及び栽培地点の位置情報を取得する。なお、利用者端末70に播種期の到達日(年月日)、融雪期の到達日(年月日)が入力された場合には、入力情報取得部24は、播種期、融雪期の到達日(年月日)をDOYに変換する。
【0038】
次いで、ステップS52において、入力情報取得部24は、播種期から融雪期の間の平均気温(ここでは、播種期から融雪期の間のうち、積雪深が20cm以下であった日の気温の平均値)の実測値(
図6(a)のt1)を取得する。例えば、入力情報取得部24は、農研機構のメッシュ農業気象データベース等から、入力された地点における播種期と融雪期の間の平均気温のデータを取得する。
【0039】
次いで、ステップS54において、入力情報取得部24は、融雪期の到達日以降の所定期間(融雪期から幼穂形成期までに相当する期間)の平均気温の予測値(
図6(a)のt2)を取得する。なお、所定期間の推定値はモデル生成部22が求めることができるため、入力情報取得部24は、その所定期間の平均気温を取得する。なお、入力情報取得部24は、所定期間の平均気温の予測値として、例えば、農研機構のメッシュ農業気象データベースに含まれる、気象庁による予測値を取得してもよい。また、入力情報取得部24は、所定期間の平均気温の予測値として、農研機構のメッシュ農業気象データベースに含まれる、気象庁からの平年値に基づくデータを取得してもよい。
【0040】
次いで、ステップS56において、予測部26は、重回帰モデル(1)を用いて幼穂形成期の到達日を予測する。この場合、予測部26は、重回帰モデル(1)に、播種期の到達日(DOY)x1と、融雪期の到達日(DOY)x2と、播種期と融雪期の間の平均気温(ここでは、播種期から融雪期の間のうち、積雪深が20cm以下であった日の気温の平均値)t1と、融雪期の到達日以降の所定期間の平均気温t2と、を入力することで、融雪期から幼穂形成期までの日数y1を求める(
図6(a)参照)。そして、予測部26は、求めた日数y1から、幼穂形成期の到達日(DOY)x3及び幼穂形成期の到達日(年月日)を算出する。
【0041】
次いで、ステップS58において、入力情報取得部24は、予測した幼穂形成期の到達日以降の所定期間(幼穂形成期から出穂期までに相当する期間)の平均気温の予測値(
図6(b)のt3)を取得する。なお、所定期間の推定値はモデル生成部22が求めることができるため、入力情報取得部24は、その所定期間の平均気温を、ステップS54と同様の方法により取得する。
【0042】
次いで、ステップS60において、予測部26は、重回帰モデル(2)を用いて出穂期の到達日を予測する。この場合、予測部26は、重回帰モデル(2)に、融雪期の到達日(DOY)x2と、ステップS56で予測した幼穂形成期の到達日(DOY)x3と、融雪期と幼穂形成期の間の平均気温t2と、幼穂形成期の到達日以降の所定期間の平均気温t3と、を入力することで、幼穂形成期から出穂期までの日数y2を求める(
図6(b)参照)。そして、予測部26は、求めた日数から、出穂期の到達日(DOY)x4及び出穂期の到達日(年月日)を算出する。
【0043】
次いで、ステップS62において、入力情報取得部24は、予測した出穂期の到達日以降の所定期間(出穂期から開花期までに相当する期間、及び出穂期から成熟期までに相当する期間)の平均気温の予測値(
図6(c)のt4、及び
図6(d)のt5)を取得する。なお、各所定期間の推定値はモデル生成部22が求めることができるため、入力情報取得部24は、各所定期間の平均気温をステップS54と同様の方法により取得する。
【0044】
次いで、ステップS64において、予測部26は、重回帰モデル(3)を用いて開花期の到達日を予測する。この場合、予測部26は、重回帰モデル(3)に、ステップS56で予測した幼穂形成期の到達日(DOY)x3と、ステップS60で予測した出穂期の到達日(DOY)x4と、幼穂形成期と出穂期の間の平均気温t3と、出穂期の到達日以降の所定期間(出穂期から開花期までに相当する期間)の平均気温t4と、を入力することで、出穂期から開花期までの日数y3を求める(
図6(c)参照)。そして、予測部26は、求めた日数y3から、開花期の到達日(DOY及び年月日)を算出する。
【0045】
次いで、ステップS66において、予測部26は、重回帰モデル(4)を用いて成熟期の到達日を予測する。この場合、予測部26は、重回帰モデル(4)に、ステップS56で予測した幼穂形成期の到達日(DOY)x3と、ステップS60で予測した出穂期の到達日(DOY)x4と、幼穂形成期と出穂期の間の平均気温t3と、出穂期の到達日以降の所定期間(出穂期から成熟期までに相当する期間)の平均気温t5と、を入力することで、出穂期から成熟期までの日数y4を求める(
図6(d)参照)。そして、予測部26は、求めた日数から、成熟期の到達日(DOY及び年月日)を算出する。
【0046】
次いで、ステップS68において、予測部26は、各到達日を利用者端末70に出力する。利用者端末70には各発育ステージに到達する日の予測結果が表示される。
【0047】
【0048】
なお、
図8の処理の予測結果が表示された後に、利用者が、例えば幼穂形成期の実際の到達日(DOY)を入力することもある。この場合には、入力された幼穂形成期の実際の到達日を用いて、幼穂形成期以降の発育ステージの到達日を予測するようにしてもよい。
【0049】
(実施例)
以下、実施例について説明する。本発明者は、北海道の秋まき小麦「きたほなみ」について、過去に得られた
図4(a)、
図4(b)のような実測値(北海道農業研究センターで得られたデータや、北海道の各市町村で得られた各発育ステージの到達日のデータ)を用いて重回帰モデル(1)~(4)を生成した。なお、平均気温のデータとしては、農研機構のメッシュ農業気象データを用いた。また、北海道農業研究センターで得られたデータや、北海道の各市町村で得られたデータを用いて、重回帰モデルの交差検証(LOOCV:Leave One Out Cross Validation)を行った(検証A)。更に、北海道立総合研究機構(道総研)のデータを用いて重回帰モデルを検証した(検証B)。更に、十勝地方で得られたデータを用いて重回帰モデルを検証した(検証C)。各検証においては、本実施形態の方法を用いる場合、積算温度モデルを用いる場合、DVRモデルを用いる場合それぞれの平均二乗偏差(RMSE:Root Mean Square Error)を求めた。
【0050】
図9には、検証A、B、Cの結果が示されている。なお、括弧内の数字はデータ数を示している。
図9に示すように、検証A~Cのいずれにおいても、本実施形態の方法は、RMSEが3日以内であり、積算温度モデルやDVRモデルを用いる場合と比べ、同等かそれ以上の予測精度が得られることが分かった。
【0051】
以上詳細に説明したように、本実施形態によると、モデル生成部22は、作物栽培における発育ステージそれぞれに到達した到達日の実測値と、複数の発育ステージ間の期間の平均気温の実測値と、を学習データとして用いて、発育ステージの到達日を予測するための重回帰モデルを生成する。また、予測部26は、予測対象の発育ステージの到達日を予測する際に、生成した重回帰モデルを用いる。これにより、予測対象の発育ステージよりも前の複数の発育ステージの到達時期が、予測対象の発育ステージの到達時期に影響することを考慮して、予測対象の発育ステージの到達日を精度よく予測することができる。本実施形態においては、幼穂形成期や出穂期の到達日を精度よく予測できるため、農家等は、施肥のタイミングや施肥量を適切に決定することができる。また、成熟期の到達日を精度よく予測できるため、農家等は、収穫のタイミングを適切に決定することができる。また、開花期の到達日を精度よく予測できるため、開花期前後の天気に基づいて収量予測を精度よく行うことができる。このように、農家等は、圃場調査を行わなくても、適切な栽培管理を行うことができる。
【0052】
なお、上記実施形態では、重回帰モデル(1)~(4)が、2つの発育ステージの到達日が入力可能なモデルである場合について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、重回帰モデル(1)~(4)は、3つ以上の発育ステージの到達日を入力可能なモデルであってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、重回帰モデル(1)~(4)が、2つの期間の平均気温を入力可能なモデルである場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、重回帰モデル(1)~(4)は、1つの期間の平均気温を入力可能なモデルであってもよい。例えば、重回帰モデル(1)(上式(1))は、播種期から融雪期の間の平均気温(ここでは、播種期から融雪期の間のうち、積雪深が20cm以下であった日の気温の平均値)t1と、融雪期から幼穂形成期の間の平均気温t2と、を入力可能なモデルであることとしたが、これに限らず、例えば、平均気温t1、t2のいずれか一方を入力可能なモデルであってもよいし、播種期から幼穂形成期の間の平均気温を入力可能なモデルであってもよい。また、重回帰モデル(1)~(4)は、3以上の期間の平均気温を入力可能なモデルであってもよい。例えば、
図6(b)の重回帰モデル(2)は、変数がx2、x3、t2,t3であるが、重回帰モデル(2)の変数として
図6(a)のx1,t1が含まれていてもよい。
【0054】
なお、上記実施形態では、重回帰モデル(1)~(4)の気象要素の変数が平均気温である場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、気象要素の変数として、期間内の積算気温などを用いてもよいし、日射量やCO2濃度などを用いてもよい。
【0055】
なお、上記実施形態では、作物が北海道秋まき小麦である場合について説明したが、これに限られるものではない。作物は春まき小麦であってもよいし、その他の作物(葉菜類、果菜類等)であってもよい。
【0056】
なお、重回帰モデルは、品目や品種ごと、地域ごとに生成するのが好ましい。ただし、1つの重回帰モデルを利用可能な品種や地域の範囲については、上記実施例のような方法で検証し、特定することが好ましい。
【0057】
なお、上記の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、処理装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体(ただし、搬送波は除く)に記録しておくことができる。
【0058】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの可搬型記憶媒体の形態で販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0059】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記憶媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記憶媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することもできる。また、コンピュータは、サーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することもできる。
【0060】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 サーバ
20 実測値取得部
22 モデル生成部
24 入力情報取得部
26 予測部
70 利用者端末
90 CPU(コンピュータ)
100 発育ステージ予測システム