(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111568
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】真空ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04C 25/02 20060101AFI20240809BHJP
【FI】
F04C25/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016152
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 裕之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 崇志
(72)【発明者】
【氏名】小西 康貴
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA07
3H129AA15
3H129AB06
3H129BB05
3H129BB06
3H129CC25
3H129CC32
(57)【要約】
【課題】循環液の漏洩を防止する構造を有する真空ポンプ装置が提供される。
【解決手段】真空ポンプ装置MPは、液封式真空ポンプ部Pと、液封式真空ポンプ部に接続されたキャンドモータ部Mと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液封式真空ポンプ部と、前記液封式真空ポンプ部に接続されたキャンドモータ部と、を備える真空ポンプ装置であって、
前記液封式真空ポンプ部は、回転軸に固定され、かつ前記真空ポンプ装置に導入された液体によって液環を形成する羽根車を備えており、
前記キャンドモータ部は、
前記回転軸を回転可能に支持し、かつ前記液体によって潤滑されるすべり軸受と、
前記回転軸を回転させる回転子および固定子と、
前記回転子と前記固定子との間に配置されたキャンと、を備えている、真空ポンプ装置。
【請求項2】
前記真空ポンプ装置は、前記液封式真空ポンプ部と前記キャンドモータ部との間で前記液体を流通させる連絡口を有している、請求項1に記載の真空ポンプ装置。
【請求項3】
前記連絡口は、前記羽根車のボス部の直径以下の大きさを有している、請求項2に記載の真空ポンプ装置。
【請求項4】
前記すべり軸受は、前記回転軸の軸線方向において、前記真空ポンプ装置の中央に配置されている、請求項1に記載の真空ポンプ装置。
【請求項5】
前記液封式真空ポンプ部は、前記液体を前記羽根車に導入するポンプ側液体導入口を有するポンプケーシングを備えており、
前記ポンプ側液体導入口は、前記回転軸に形成された、前記液体を前記すべり軸受に導入する貫通孔に連通している、請求項1に記載の真空ポンプ装置。
【請求項6】
前記ポンプケーシングは、
前記ポンプ側液体導入口を通じて、前記羽根車の前端面側に導入された液体によって液膜を形成する前側液膜領域と、
前記ポンプ側液体導入口、前記貫通孔、および前記すべり軸受を通じて、前記羽根車の後端面側に導入された液体によって液膜を形成する後側液膜領域と、を有している、請求項5に記載の真空ポンプ装置。
【請求項7】
前記キャンドモータ部は、前記液体を前記すべり軸受に導入するモータ側液体導入口を有するモータケーシングを備えており、
前記モータ側液体導入口は、前記回転軸に形成された、前記液体を前記羽根車に導入する貫通孔に連通している、請求項1に記載の真空ポンプ装置。
【請求項8】
前記ポンプケーシングは、
前記モータ側液体導入口および前記貫通孔を通じて、前記羽根車の前端面側に導入された液体によって液膜を形成する前側液膜領域と、
前記モータ側液体導入口および前記すべり軸受を通じて、前記羽根車の後端面側に導入された液体によって液膜を形成する後側液膜領域と、を有している、請求項7に記載の真空ポンプ装置。
【請求項9】
前記真空ポンプ装置は、前記回転軸に形成された貫通孔を通過する液体の流量を調整する流量調整構造を備えている、請求項1に記載の真空ポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーシング内に配置された羽根車と、ケーシング内に形成された液環と、で構成される閉空間の容積を変化させることによって、気体を移送する液封式真空ポンプ装置が知られている。このような真空ポンプ装置は、羽根車の回転による遠心力をケーシング内に封入された液体に付与することによって、ケーシング内に液環を形成するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-184782号公報
【特許文献2】特開2022-007639号公報
【特許文献3】特開2022-034237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケーシング内に液環を形成するために、ケーシングの内部は一定の循環液で満たされている。その一方で、羽根車が固定された回転軸はケーシングを貫通して延びているため、回転軸とケーシングとの間には僅かな隙間が形成されている。したがって、ケーシングに導入された液体の、隙間からの漏洩を抑制する必要がある。特に、液体の漏洩を嫌う装置内で液封式真空ポンプ装置を用いる場合には、循環液の漏洩を確実に防止する必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、循環液の漏洩を防止する構造を有する真空ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、液封式真空ポンプ部と、前記液封式真空ポンプ部に接続されたキャンドモータ部と、を備える真空ポンプ装置が提供される。前記液封式真空ポンプ部は、回転軸に固定され、かつ前記真空ポンプ装置に導入された液体によって液環を形成する羽根車を備えており、前記キャンドモータ部は、前記回転軸を回転可能に支持し、かつ前記液体によって潤滑されるすべり軸受と、前記回転軸を回転させる回転子および固定子と、前記回転子と前記固定子との間に配置されたキャンと、を備えている。
【0007】
一態様では、前記真空ポンプ装置は、前記液封式真空ポンプ部と前記キャンドモータ部との間で前記液体を流通させる連絡口を有している。
一態様では、前記連絡口は、前記羽根車のボス部の直径以下の大きさを有している。
一態様では、前記すべり軸受は、前記回転軸の軸線方向において、前記真空ポンプ装置の中央に配置されている。
【0008】
一態様では、前記液封式真空ポンプ部は、前記液体を前記羽根車に導入するポンプ側液体導入口を有するポンプケーシングを備えており、前記ポンプ側液体導入口は、前記回転軸に形成された、前記液体を前記すべり軸受に導入する貫通孔に連通している。
一態様では、前記ポンプケーシングは、前記ポンプ側液体導入口を通じて、前記羽根車の前端面側に導入された液体によって液膜を形成する前側液膜領域と、前記ポンプ側液体導入口、前記貫通孔、および前記すべり軸受を通じて、前記羽根車の後端面側に導入された液体によって液膜を形成する後側液膜領域と、を有している。
一態様では、前記キャンドモータ部は、前記液体を前記すべり軸受に導入するモータ側液体導入口を有するモータケーシングを備えており、前記モータ側液体導入口は、前記回転軸に形成された、前記液体を前記羽根車に導入する貫通孔に連通している。
【0009】
一態様では、前記ポンプケーシングは、前記モータ側液体導入口および前記貫通孔を通じて、前記羽根車の前端面側に導入された液体によって液膜を形成する前側液膜領域と、前記モータ側液体導入口および前記すべり軸受を通じて、前記羽根車の後端面側に導入された液体によって液膜を形成する後側液膜領域と、を有している。
一態様では、前記真空ポンプ装置は、前記回転軸に形成された貫通孔を通過する液体の流量を調整する流量調整構造を備えている。
【発明の効果】
【0010】
液封式真空ポンプ部と、キャンドモータ部と、を備える真空ポンプ装置は、循環液の漏洩を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】真空ポンプ装置の一実施形態を示す図である。
【
図5】真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
【
図6】真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
【
図7】真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
【
図8】真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下で説明する図面において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。以下に示す複数の実施形態において、特に説明しない構成および動作は、同一であるので、その重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、真空ポンプ装置の一実施形態を示す図である。
図1に示すように、真空ポンプ装置MPは、液封式真空ポンプ構造を有する液封式真空ポンプ部Pと、キャンドモータ構造を有するキャンドモータ部Mと、を備えている。
【0014】
キャンドモータ構造を有する真空ポンプ装置MPは、液体の漏洩を防止することができる。さらに、キャンドモータ構造を有する真空ポンプ装置MPは、液封式真空ポンプ部Pによって移送される気体の漏洩(真空漏れ)を防止することができ、真空効率を向上させることができる。以下、真空ポンプ装置MPの詳細な構造について説明する。
【0015】
液封式真空ポンプ部Pおよびキャンドモータ部Mは、互いに直列的に接続されている。以下、本明細書において、液封式真空ポンプ部Pを単にポンプ部Pと呼ぶことがあり、キャンドモータ部Mは単にモータ部Mと呼ぶことがある。ポンプ部Pは、回転軸10に固定され、かつ真空ポンプ装置MPに導入された液体によって液環を形成する羽根車1と、羽根車1を収容するポンプケーシング20と、を備えている。羽根車1は、回転軸10に固定されたボス部1aと、ボス部1aから放射状に延びる複数の翼1bと、を有している。
【0016】
羽根車1は、その回転によって、ポンプケーシング20内の液体に遠心力を作用させ、液環を形成する。ポンプ部Pは、羽根車1および液環で構成された閉空間を、圧縮を伴いながら、回転移動させることにより、真空状態を作り出すように構成されている。
【0017】
図1に示すように、ポンプケーシング20は、吸気口21および排気口22を有するポンプカバー24と、羽根車1の半径方向外側に配置されたポンプフレーム25と、を備えている。ポンプカバー24およびポンプフレーム25は、互いに接続されている。ポンプカバー24は、ポンプフレーム25に密着する内端面24aと、内端面24aとは反対側の外端面24bと、を有している。
【0018】
吸気口21および排気口22は、ポンプフレーム25の内周面25aと羽根車1との間に形成されたポンプ空間7に連通している。ポンプカバー24は、吸気口21および排気口22の間に配置され、かつ液体を羽根車1に導入する液体導入口(ポンプ側液体導入口)23を有している。液体導入口23は、回転軸10の軸線方向CLと一直線上に並んでおり、回転軸10に形成された貫通孔10aに連通している。
【0019】
図1に示すように、吸気口21、排気口22、および液体導入口23は、ポンプカバー24の外端面24bおよび内端面24aに接続されており、軸線方向CLと平行に延びている。吸気口21、排気口22、および液体導入口23のそれぞれは、接続管(図示しない)に接続される。吸気口21、排気口22、および液体導入口23は、同一平面上、すなわち、外端面24b上に形成されているため、吸気口21、排気口22、および液体導入口23のそれぞれに接続管を容易に接続することができる。
【0020】
ポンプ部Pは、回転軸10を回転自在に支持し、かつ液体導入口23から導入された液体によって潤滑されるすべり軸受(ポンプ側すべり軸受)4を備えている。本実施形態では、すべり軸受4は、軸受組立体であり、回転軸10に作用するラジアル荷重およびスラスト荷重を支持するように構成されている。
【0021】
すべり軸受4は、液体導入口23を構成するポンプカバー24の内周面に固定された固定側軸受5と、回転軸10に固定され、かつ固定側軸受5に対向する回転側軸受6と、を備えている。固定側軸受5は、円筒形状を有しており、回転軸10の貫通孔10aに連通する内周面5aを有している。回転軸10は、固定側軸受5の内周面5aの内側に配置されている。回転軸10に固定された回転側軸受6は、リング形状を有しており、かつ回転軸10の回転力が伝達される構造を有している。
【0022】
液体導入口23を通じて、ポンプ部Pに導入された液体の一部は、固定側軸受5の内周面5aと回転軸10の外周面との間に形成された僅かな隙間を通過して、固定側軸受5と回転側軸受6との間に導入される。液体が固定側軸受5と回転側軸受6との間に存在する状態で、回転軸10が回転すると、回転側軸受6は、液体の存在下で固定側軸受5にすべり接触する。
【0023】
ポンプ部Pは、羽根車1を回転軸10に固定するためのナット44と、ナット44と羽根車1との間に配置されたスペーサ3と、を備えている。ナット44およびスペーサ3は、回転軸10に装着されている。すべり軸受4を通過した液体は、液体導入口23と回転軸10(より具体的には、ナット44およびスペーサ3)との間に形成された環状の隙間を通過して、ポンプ空間7に供給される。
【0024】
図2は、ポンプ部の一部分を拡大した図である。
図2に示すように、ポンプケーシング20は、液体導入口23を通じて羽根車1の前端面1c側に導入された液体によって液膜を形成する前側液膜領域8を有している。前側液膜領域8は、吸気口21および排気口22に連通している。液体導入口23と回転軸10との間の隙間を通過した液体は、羽根車1の前端面1cとポンプカバー24の内端面24aとの間に形成された、ポンプ空間7の一部を構成する前側液膜領域8に導入される。
【0025】
ポンプカバー24は、液体導入口23に接続され、かつ前側液膜領域8に連通する液体流路26を有している。液体導入口23から供給された液体の一部は、液体流路26を通じて、前側液膜領域8に導入される。液体導入口23と回転軸10との間の隙間と、液体流路26と、を通過した液体が前側液膜領域8に存在する状態で、羽根車1が回転すると、前側液膜領域8には、移送される気体のシール性を維持する液膜が形成される。液膜は、液環の一部を構成している。
【0026】
軸線方向CLに沿って延びる液体導入口23と回転軸10との間の環状の隙間は、羽根車1のボス部1aの直径以下の大きさを有している。言い換えれば、内端面24aに接続された液体導入口23の直径の大きさは、ボス部1aの直径以下の大きさである(
図2参照)。このような関係性が存在すれば、ポンプカバー24は、ボス部1aの外側に配置された流路(例えば、液体流路26)を有してもよい。すなわち、ポンプカバー24は、上記関係性を有する流路を備えていれば、その他の追加的な流路を有してもよい。
【0027】
翼1bの、ボス部1aとの接続部分(すなわち、翼1bの基端部分)の周速は、翼1bの先端部分の周速よりも低い。したがって、翼1bの基端部分に形成される液膜は途切れやすく、結果として、気体のシール性が低下するおそれがある。本実施形態では、液体導入口23と回転軸10との間の隙間は、ボス部1aの直径以下の大きさを有しているため、この隙間を通過する液体は、ボス部1aに直接導入される。したがって、適切な量の液体を翼1bの基端部分に安定的に導入することができ、結果として、前側液膜領域8に形成された液膜を効果的に維持することができる。
【0028】
図3は、ポンプ空間を示す図である。
図3に示すように、羽根車1を取り囲むポンプフレーム25は、その円周方向において異なる厚みを有している。ポンプ空間7には、液体導入口23を通じて、所定量(すなわち、ポンプ空間7に液環LRを形成するために必要な量であり、例えば、約半分の量)の液体が供給される。
【0029】
この状態で、羽根車1が回転すると、複数の翼1bは、ポンプフレーム25の内周面25aに向かってポンプ空間7内の液体を掻き出し、液体は、ポンプフレーム25の内周面25aに沿って回転する。この回転によって、ポンプ空間7に環状の液体(すなわち、液環)LRが形成される。液環LRを形成することにより、液環LRと羽根車1との間には、回転軸10の回転方向(すなわち、ポンプフレーム25の円周方向)に沿った、異なる大きさの閉空間が形成される。
【0030】
羽根車1が回転すると、真空ポンプ装置MPの外部の気体が吸気口21を通じて、ポンプ空間7(より具体的には、閉空間)に導入される。閉空間に導入された気体は、圧縮されながら、羽根車1の回転とともに排気口22に移動される。このように、気体の吸引、圧縮、および排気を繰り返すことにより、真空状態が形成される。
【0031】
気体の移送により、ポンプ空間7の閉空間には、真空層が形成され、液体導入口23と真空層との間には、圧力差が生じる。したがって、ポンプ部Pは、この圧力差により、液体導入口23に導入された液体を効率よく、回転側軸受6と固定側軸受5との間の隙間に導入することができる。
【0032】
図1に示すように、モータ部Mは、回転軸10を回転可能に支持し、かつ真空ポンプ装置MPに導入された液体によって潤滑されるすべり軸受(モータ側すべり軸受)48と、回転軸10を回転させる回転子36と、回転子36を取り囲む固定子35と、回転子36と固定子35との間に配置されたキャン34と、を備えている。本実施形態において、すべり軸受48は、軸受組立体であり、回転軸10に作用するラジアル荷重およびスラスト荷重を支持するように構成されている。
【0033】
図1に示す実施形態では、真空ポンプ装置MPは、ポンプ部Pとモータ部Mとの間に配置された中間ケーシング31を備えている。中間ケーシング31は、真空ポンプ装置MPの中間に配置された板状のブラケットである。中間ケーシング31は、ポンプフレーム25に密着するポンプ側端面31aを有しており、ポンプフレーム25は、ポンプカバー24と中間ケーシング31との間に配置されている。ポンプ空間7は、ポンプフレーム25の内周面25aと、ポンプカバー24の内端面24aと、中間ケーシング31のポンプ側端面31aと、で囲まれた空間である(
図2参照)。
【0034】
回転子36および固定子35は、回転軸10を回転させる回転要素である。モータ部Mは、回転要素としての回転子36および固定子35を収容するモータケーシング30を備えている。モータケーシング30は、固定子35が固定されたモータフレーム33と、モータフレーム33の一方の開口端を閉じるモータカバー32と、を備えている。
【0035】
モータフレーム33は、固定子35を取り囲んでおり、中間ケーシング31とモータカバー32との間に配置されている。中間ケーシング31は、モータフレーム33に密着するモータ側端面31bを有しており、モータフレーム33の他方の開口端は中間ケーシング31によって閉じられている。
【0036】
ポンプカバー24と中間ケーシング31との間にポンプフレーム25を配置し、中間ケーシング31とモータカバー32との間にモータフレーム33を配置した状態で、通しボルトなどの締結具(図示しない)によって、ポンプカバー24およびモータカバー32を締め付ける。この締め付けによって、ポンプ部Pおよびモータ部Mは、互いに直列的に接続され、一体的に構成される。
【0037】
図1に示すように、真空ポンプ装置MPは、回転軸10の軸線方向CLに沿って配置されたポンプカバー24、中間ケーシング31、およびモータカバー32を備えており、中間ケーシング31を貫通して延びる回転軸10は、モータフレーム33およびモータカバー32で構成される密閉空間に配置されている。回転軸10の開口端は、この密閉空間に配置されているため、回転軸10の貫通孔10aから流出する液体は、モータ部Mの外部には漏洩しない。このようにして、モータ部Mは、貫通孔10aを通じてモータ部Mに導入された液体の漏洩を防止することができる。
【0038】
モータ部Mは、回転軸10に固定された回転部材42と、回転部材42に装着された回転子カバー37と、を備えている。回転子36は、回転部材42に固定されており、回転子カバー37は、キャン34の内側に配置されており、回転部材42に固定された回転子36を液密的に覆っている。
【0039】
図1に示す実施形態では、すべり軸受48は、中間ケーシング31に配置されている。より具体的には、中間ケーシング31は、回転軸10の軸線方向CLにおいて、真空ポンプ装置MPの中央に配置されている。したがって、すべり軸受48は、真空ポンプ装置MPの中央に配置される。このような配置により、すべり軸受48は、回転軸10に作用するラジアル荷重およびスラスト荷重をバランスよく支持することができる。したがって、真空ポンプ装置MPは、すべり軸受4を省略してもよく、結果として、ポンプ装置MPの全体のサイズを小さくすることができる。
【0040】
すべり軸受48は、中間ケーシング31に装着された固定側軸受40と、回転部材42に装着された回転側軸受41と、を有している。固定側軸受40は、円筒形状を有しており、回転軸10(より具体的には、回転軸10に装着された円筒状のスリーブ43)が貫通する内周面40aを有している。したがって、固定側軸受40の内周面40aと回転軸10(より具体的には、スリーブ43)との間には、僅かな隙間が形成されている。
【0041】
回転側軸受41は、固定側軸受40を取り囲む円筒形状を有しており、回転側軸受41と固定側軸受40との間には、僅かな隙間が形成されている。液体導入口23を通じてポンプ部Pに導入された液体の一部は、回転軸10の貫通孔10aを通じてモータ部Mに供給される。モータ部Mに供給された液体は、回転部材42の端面42aとモータカバー32の端面32aとの間の隙間と、回転子カバー37とキャン34との間の隙間と、を通過して、すべり軸受48に導入される。
【0042】
すべり軸受48に導入された液体は、固定側軸受40と回転側軸受41との間の隙間を通過する。液体が固定側軸受40と回転側軸受41との間に存在する状態で、回転軸10が回転すると、回転側軸受41は、液体の存在下で固定側軸受40にすべり接触する。
【0043】
液体が存在しない状態で、回転軸10が回転すると、すべり軸受48で摩擦熱が発生したり、真空ポンプ装置MPが大きく振動してしまうおそれがある。本実施形態では、真空ポンプ装置MPは、液体導入口23および貫通孔10aを通じて、液体をすべり軸受48に直接導入する構造を有している。
【0044】
このような構造により、すべり軸受48に液体を確実に供給することができる。したがって、真空ポンプ装置MPは、すべり軸受48の摩擦(摩耗)や真空ポンプ装置MPの振動などの問題を防止することができる。同様に、真空ポンプ装置MPは、液体導入口23を通じて、液体をすべり軸受4に直接導入する構造を有しているため、すべり軸受4の摩擦(摩耗)や真空ポンプ装置MPの振動などの問題を防止することができる。
【0045】
図4は、連絡口を拡大した図である。
図4に示すように、すべり軸受48を通過した液体は、固定側軸受40の内周面40aと回転軸10(より具体的には、スリーブ43)との間の隙間に導入される。この隙間は、回転軸10の軸線方向CLに沿って延びている。
【0046】
真空ポンプ装置MPは、ポンプ部Pとモータ部Mとの間で液体を流通させる連絡口80(
図4の一点鎖線で囲まれた領域参照)を有している。連絡口80は、中間ケーシング31の連通孔31cと回転軸10の外周面(より具体的には、スリーブ43)との間に形成されている。連絡口80は、ポンプフレーム25の内周面25aと羽根車1との間に形成されたポンプ空間7に連通している。
【0047】
より具体的には、ポンプケーシング20は、液体導入口23、貫通孔10a、およびすべり軸受48を通じて、羽根車1の後端面1d側に導入された液体によって液膜を形成する後側液膜領域9を有している。連絡口80を通過した液体は、羽根車1の後端面1dと中間ケーシング31のポンプ側端面31aとの間の隙間に形成された、ポンプ空間7の一部を構成する後側液膜領域9に導入される。後端面1dとスリーブ43との間には、羽根車1を回転軸10に固定するための、回転軸10に装着されたナット45が配置されている。
【0048】
連絡口80は、羽根車1のボス部1aの直径以下の大きさを有している。言い換えれば、中間ケーシング31の連通孔31cの直径の大きさは、ボス部1aの直径以下の大きさである。このような構造により、液体をボス部1aに直接、導入することができる。したがって、適切な量の液体が安定的に翼1bの基端部分に導入され、結果として、後側液膜領域9に形成された液膜を効果的に維持することができる。
【0049】
本実施形態では、液体導入口23を通じて導入された液体が前側液膜領域8における液膜を形成し、連絡口80を通じて導入された液体が後側液膜領域9における液膜を形成する。前側液膜領域8および後側液膜領域9に供給された液体がポンプ空間7における液環LR(
図3参照)を形成する。
【0050】
このように、ポンプ装置MPは、羽根車1の両側(すなわち、前側液膜領域8および後側液膜領域9)に液体を供給する構造を有している。言い換えれば、ポンプ装置MPは、液体をポンプ部Pに直接導入し、かつモータ部Mを通過させた液体をポンプ部Pに導入する構造を有している。
【0051】
発熱体としての回転子36および固定子35が異常に発熱すると、真空ポンプ装置MPが故障するおそれがある。したがって、真空ポンプ装置MPの安定的な運転を実現するために、モータ部Mに導入された液体によって、回転子36および固定子35を冷却することが望ましい。その一方で、ポンプ空間7に形成された閉空間に導入された気体の圧縮に起因して、圧縮熱が生じ、圧縮熱によって、ポンプ空間7内の液体が加熱される可能性がある。
【0052】
本実施形態では、真空ポンプ装置MPは、液体導入口23および貫通孔10aを通じて、新鮮な液体(すなわち、圧縮熱の影響を受けていない液体)を回転子36に供給することができる。したがって、回転子36は、回転子カバー37を通じて、新鮮な液体によって冷却される。同様に、固定子35は、キャン34を通じて、新鮮な液体によって冷却される。結果として、回転子36および固定子35の異常発熱を防止することができ、真空ポンプ装置MPの安定的な運転を実現することができる。
【0053】
図5は、真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。以下に示す複数の実施形態において、特に説明しない構成および動作は、上述した実施形態と同一であるので、その重複する説明を省略する。
【0054】
図5に示す実施形態では、すべり軸受48は、モータカバー32に配置されている。より具体的には、固定側軸受40はモータカバー32の端面32aに固定されており、回転側軸受41は回転部材42の端面42aに固定されている。回転子36および固定子35から構成された回転要素は、回転軸10の軸線方向CLにおいて、真空ポンプ装置MPの中央に配置されている。
【0055】
液体導入口23を通じてモータ部Mに導入された液体の一部は、回転側軸受41と固定側軸受40との間の隙間を通過して、キャン34と回転子カバー37との間の隙間に導入される。
【0056】
図5に示すように、モータカバー32は、モータ部Mに導入された液体の一部をキャン34と回転子カバー37との間の隙間に導入させる流通孔50を有している。流通孔50は、回転軸10の軸線方向CLと垂直に延びている。したがって、モータ部Mに導入された液体の一部は、流通孔50を通じて、キャン34と回転子カバー37との間の隙間に導入される。
【0057】
このように、モータ部Mに導入された液体は、回転側軸受41と固定側軸受40との間の隙間と、モータカバー32の流通孔50と、を通過して、キャン34と回転子カバー37との間の隙間に導入される。液体は、回転子カバー37に接触して、回転子36の熱を奪いつつ、中間ケーシング31の連通孔31cと回転軸10の外周面(より具体的には、スリーブ43)との間に形成された連絡口80を通じて、後側液膜領域9に導入される。
【0058】
図6は、真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
図6に示す実施形態では、
図5に示す実施形態と同様に、すべり軸受48は、モータカバー32に配置されている。
図6に示すように、中間ケーシング31は、ポンプ空間7(より具体的には、後側液膜領域9)に連通する吸気口60および排気口61を有している。このように、真空ポンプ装置MPは、複数(
図6に示す実施形態では、2つ)の吸気口21,60と、複数(
図6に示す実施形態では、2つ)の排気口22,61と、を有してもよい。
【0059】
図6を参照して説明した真空ポンプ装置MPを設置する場合には、吸気口21,60のうちの1つを閉じ、排気口22,61のうちの1つを閉じる。言い換えれば、真空ポンプ装置MPの設置環境に応じて、作業者は、吸気口21,60のうち、使用する吸気口と、排気口22,61のうち、使用する排気口と、を選択することができる。したがって、真空ポンプ装置MPが狭小空間に設置される場合であっても、真空ポンプ装置MPは、その設置環境の制約を受けることなく、真空状態を作り出すことができる。
【0060】
図7は、真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
図7に示す実施形態では、
図5および
図6に示す実施形態と同様に、すべり軸受48は、モータカバー32に配置されている。
図7に示すように、ポンプカバー24は、液体導入口23を有しておらず、その代わりに、モータカバー32は、液体をすべり軸受48に導入する液体導入口(モータ側液体導入口)70を有している。一実施形態では、ポンプカバー24は、液体導入口23を有してもよい。この場合、作業者は、真空ポンプ装置MPの使用環境に応じて、適宜、液体導入口23を閉じてもよい。
【0061】
液体導入口70は、軸線方向CLと垂直な方向において、モータカバー32の中央に形成されている。液体導入口70は、回転軸10の軸線方向CLと一直線上に並んでおり、回転軸10の貫通孔10aに連通している。液体導入口70を通じてモータ部Mに導入された液体の一部は、回転側軸受41と固定側軸受40との間の隙間と、モータカバー32の流通孔50と、を通過して、キャン34と回転子カバー37との間の隙間に導入される。液体は、回転子カバー37を介して回転子36の熱を奪いつつ、連絡口80を通じて、後側液膜領域9に導入される。
【0062】
液体導入口70を通じてモータ部Mに導入された液体の一部は、回転軸10の貫通孔10aを通じて、ポンプ部Pに導入される。ポンプ部Pに導入された液体は、ポンプカバー24の液体流路26と、回転側軸受6と固定側軸受5との間の隙間と、を通じて、前側液膜領域8に導入される。
【0063】
図1乃至
図6に示す実施形態では、真空ポンプ装置MPは、液体導入口23に導入された液体を、貫通孔10aを通じて、ポンプ部Pからモータ部Mに流通させる構造を有しているが、
図7に示す実施形態では、真空ポンプ装置MPは、液体導入口70に導入された液体を、貫通孔10aを通じて、モータ部Mからポンプ部Pに流通させる構造を有している。
【0064】
図7に示すように、真空ポンプ装置MPは、回転軸10の貫通孔10aを通過する液体の流量を調整する流量調整構造71を備えている。流量調整構造71は、ポンプ部Pに導入される液体の流れ(流量)を絞るように構成されている。
図7に示す実施形態では、流量調整構造71は、貫通孔10aに固定されたオリフィスである。
【0065】
一実施形態では、オリフィスとしての流量調整構造71は、回転軸10に脱着可能に取り付けられてもよい。図示しないが、流量調整構造71は、
図1乃至
図6に示す実施形態における真空ポンプ装置MPに適用されてもよい。
【0066】
前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに形成される液膜を効果的に維持するためには、前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに導入される液体の流量が等しいことが望ましい。特に、本実施形態では、モータ部Mに導入された液体は、1つの流路(すなわち、連絡口80)を通過して後側液膜領域9に導入される一方で、ポンプ部Pに導入された液体は、2つの流路(すなわち、液体流路26と、回転側軸受6と固定側軸受5との間の隙間と、)を通過して、前側液膜領域8に導入される。
【0067】
本実施形態では、流量調整構造71を貫通孔10aに配置することにより、ポンプ部Pに導入される液体の流量を制限することができるため、前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに導入される液体の流量を等しくすることができる。一実施形態では、流量調整構造71は、液体の流量を調整することができれば、必ずしも、貫通孔10aに配置される必要はない。例えば、流量調整構造71は、液体流路26に配置されてもよい。
【0068】
作業者は、流量調整構造71を交換することにより、前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに導入される液体の流量を調整してもよい。例えば、流量調整構造71がオリフィスである場合には、作業者は、内径の異なる複数のオリフィスを用意し、適宜、オリフィスを交換してもよい。
【0069】
図8は、真空ポンプ装置の他の実施形態を示す図である。
図6および
図7に示す実施形態では、真空ポンプ装置MPは、ポンプカバー24に形成された吸気口21および排気口22と、中間ケーシング31に形成された吸気口60および排気口61と、を備えている。
図8に示す実施形態では、真空ポンプ装置MPは、ポンプカバー24に形成された単一の吸気口21と、中間ケーシング31に形成された単一の排気口61と、を備えている。
【0070】
このように、ポンプカバー24は吸気口21のみを有し、中間ケーシング31は排気口61のみを有してもよい。一実施形態では、中間ケーシング31は吸気口60のみを有し、ポンプカバー24は排気口22のみを有してもよい(
図6および
図7参照)。
【0071】
図6乃至
図8に示す実施形態では、真空ポンプ装置MPは、吸気口21(または吸気口60)および排気口22(または排気口61)をポンプ空間7の両側に配置することができる。前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに形成される液膜を効果的に維持するためには、前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに接続される気体流路(すなわち、吸気口21,60および排気口22,61)の数は少ないことが好ましい。
【0072】
本実施形態では、吸気口21(または吸気口60)および排気口22(または排気口61)をポンプ空間7の両側に配置することにより、前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに接続される気体流路の数を1つにすることができる。したがって、前側液膜領域8および後側液膜領域9のそれぞれに形成された液膜は、途切れることなく、効果的に維持される。
【0073】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 羽根車
1a ボス部
1b 翼
1c 前端面
1d 後端面
3 スペーサ
4 ポンプ側すべり軸受
5 固定側軸受
5a 内周面
6 回転側軸受
7 ポンプ空間
8 前側液膜領域
9 後側液膜領域
10 回転軸
10a 貫通孔
20 ポンプケーシング
21 吸気口
22 排気口
23 ポンプ側液体導入口
24 ポンプカバー
24a 内端面
24b 外端面
25 ポンプフレーム
25a 内周面
26 液体流路
30 モータケーシング
31 中間ケーシング
31a ポンプ側端面
31b モータ側端面
31c 連通孔
32 モータカバー
32a 端面
33 モータフレーム
34 キャン
35 固定子
36 回転子
37 回転子カバー
40 固定側軸受
40a 内周面
41 回転側軸受
42 回転部材
42a 端面
48 モータ側すべり軸受
50 流通孔
60 吸気口
61 排気口
70 モータ側液体導入口
71 流量調整構造
80 連絡口
MP 真空ポンプ装置
P 液封式真空ポンプ部
M キャンドモータ部
LR 液環