(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111632
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 8/12 20060101AFI20240809BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240809BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20240809BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240809BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240809BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C08F8/12
C08K3/08
B32B27/28 102
B32B27/18 Z
C08L29/04 S
C08F216/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016249
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】畑中 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 梨沙
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AA04A
4F100AA07A
4F100AA08A
4F100AA18A
4F100AA18H
4F100AA31A
4F100AA31H
4F100AH02A
4F100AH03A
4F100AK69A
4F100AT00B
4F100BA01
4F100DG10B
4F100DG15B
4F100EH17
4F100GB15
4F100JD02
4J002BB221
4J002DA117
4J002DK007
4J002EU056
4J002GG02
4J100AA02P
4J100AA02Q
4J100AG03P
4J100AG03Q
4J100AG04P
4J100AG04Q
4J100AG05P
4J100AG05Q
4J100BA03H
4J100DA32
4J100DA42
4J100HA09
4J100HB39
4J100HE08
4J100HE12
4J100JA58
4J100JA59
4J100JA60
(57)【要約】
【課題】加熱時の経時的な増粘が抑制されたエチレン-ビニルアルコール系共重合体を提
供する。
【解決手段】エチレン-ビニルアルコール系共重合体を、HMBCを用いた二次元NMR
において、
13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有するピークと
1H
スペクトルの3.5~3.7ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関を示し、
1
3Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有するピークと
1Hスペクトルの
4.8~5.2ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関を示すものとする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HMBCを用いた二次元NMRにおいて、13Cスペクトルの173~176ppmの
化学シフトを有するピークと1Hスペクトルの3.5~3.7ppmの化学シフトを有す
るピークとの間で相関を示し、13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを
有するピークと1Hスペクトルの4.8~5.2ppmの化学シフトを有するピークとの
間で相関を示す、エチレン-ビニルアルコール系共重合体。
【請求項2】
アルカリ金属化合物(A)とアルカリ土類金属化合物(B)をさらに含み、前記アルカ
リ土類金属塩(B)の金属換算含有量に対する前記アルカリ金属塩(A)の金属換算含有
量の含有量比(A/B)が0.5よりも大きい、請求項1に記載のエチレン-ビニルアル
コール系共重合体。
【請求項3】
前記EVOHにおける特徴側鎖構造の含有率が、0.0001~30モル%である、請
求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体を含む、
樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体から形成
された、成形体。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体を含む層
を有する、多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体に関し、さらに詳しくは、加熱時の
経時的な増粘が抑制されたエチレン-ビニルアルコール系共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下、「EVOH」と称する場合がある)は
、高分子側鎖に存在する水酸基同士の水素結合のため、非常に強い分子間力を有する。そ
れゆえに、結晶性が高く、また、非晶部分においても分子間力が高いため、EVOHを用
いたフィルムは、気体分子等が通過しにくく、優れたガスバリア性を示す。
【0003】
しかし、EVOHは分子内に比較的活性な水酸基を有するため、酸素がほとんど無い状
態の押出成形機内部でも、高温溶融状態で酸化・架橋反応が起こり、経時的に増粘しやす
く安定した加工が難しい傾向がある。
【0004】
かかる課題を解決するために、例えば、特許文献1では、エチレン含有量が20~60
モル%、ケン化度が90モル%以上のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(A)、酢
酸(B)、酢酸マグネシウムおよび/または酢酸カルシウム(C)を含有してなり、かつ
(B)の含有量が(A)100重量部に対して0.05重量部以下、(C)の含有量が金
属換算で(A)100重量部に対して0.001~0.02重量部であることを特徴とす
る樹脂組成物が開示されている。また、特許文献1には、この樹脂組成物を用いることで
、溶融成形時のロングラン成形性に優れ、フィッシュアイ、スジ、着色が少なく、外観性
にも優れた成形物が得られ、さらには該成形物を積層体とした場合にも臭気が低減されて
おり、延伸や深絞り等の二次加工後も該積層体の層間接着性にも優れることが開示されて
いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、成形装置におけるフィードブロック・ダイ形状の多様化、最終製品における多層
構造体の薄膜化や層数増加等の各種高機能化要求に伴って、成形装置が高機能化する傾向
がある。他方、高機能化により複雑化した成形装置内で、劣化した樹脂が最終製品に混入
し、合格基準に満たない製品が発生して生産性(ロングラン成形性)が低下する傾向があ
る。
前記特許文献1に開示の技術は、溶融成形時のロングラン成形性に優れるものではある
が、高機能化により複雑化した成型装置においては、上記劣化した樹脂が最終製品に混入
することに起因するロングラン成形性が十分ではなく、さらなるロングラン成形性の改善
が求められている。
【0007】
本発明者らは、成形装置の構造上避けることのできないEVOHの滞留に着目し、かか
る滞留が原因でEVOH劣化物が発生するものと推測した。そこで、本発明は、かかるE
VOH劣化物の発生を防止する目的で、滞留の原因となる加熱時の経時的な増粘が抑制さ
れたEVOHを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の二次元核磁
気共鳴分光法(以下、二次元NМRとも称する)スペクトルを有するEVOHは加熱時の
経時的な増粘が抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]HMBCを用いた二次元NMRにおいて、13Cスペクトルの173~176pp
mの化学シフトを有するピークと1Hスペクトルの3.5~3.7ppmの化学シフトを
有するピークとの間で相関を示し、13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフ
トを有するピークと1Hスペクトルの4.8~5.2ppmの化学シフトを有するピーク
との間で相関を示す、エチレン-ビニルアルコール系共重合体。
[2]アルカリ金属化合物(A)とアルカリ土類金属化合物(B)をさらに含み、前記ア
ルカリ土類金属塩(B)の金属換算含有量に対する前記アルカリ金属塩(A)の金属換算
含有量の含有量比(A/B)が0.5よりも大きい、[1]のエチレン-ビニルアルコー
ル系共重合体。
[3]前記EVOHにおける特徴側鎖構造の含有率が、0.0001~30モル%である
、上記[2]のエチレン-ビニルアルコール系共重合体。
[4]上記[1]~[3]のいずれかのエチレン-ビニルアルコール系共重合体を含む、
樹脂組成物。
[5]上記[1]~[3]のいずれかのエチレン-ビニルアルコール系共重合体から形成
された、成形体。
[6]上記[1]~[3]のいずれかのエチレン-ビニルアルコール系共重合体を含む層
を有する、多層構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のEVOHは、溶融成形時の経時的な増粘を抑制し、ロングラン成形性に優れる
。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のEVOHの
1H NMR測定のチャート図である。
【
図2】実施例1のEVOHのHMBCを用いた二次元NMR測定のチャート図である。
【
図3】実施例2のEVOHの
1H NMR測定のチャート図である。
【
図4】実施例2のEVOHのHMBCを用いた二次元NMR測定のチャート図である。
【
図5】比較例1のEVOHの
1H NMR測定のチャート図である。
【
図6】比較例1のEVOHのHMBCを用いた二次元NMR測定のチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである
。
なお、本発明において、「xおよび/またはy(x,yは任意の構成または成分)」と
は、xのみ、yのみ、xおよびy、という3通りの組合せを意味するものである。
【0013】
[EVOH]
本発明の一実施形態であるEVOH(以下、本EVOHとも称する)は、HMBC(H
eteronuclear Multiple Bond Coherence)を用い
た二次元NMRにおいて、13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有す
るピークと1Hスペクトルの3.5~3.7ppmの化学シフトを有するピークとの間で
相関を示し、13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有するピークと1
Hスペクトルの4.8~5.2ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関を示す。
つまり、本EVOHは、HMBCを用いた二次元NMRにおいて2つの特徴的な相関を示
す。
本EVOHは、上記の特徴的な相関を示すことにより、溶融成形時の経時的な増粘を抑
制し、ロングラン成形性に優れるという効果を奏する。
本EVOHが上記効果を奏する理由は不明だが、後述する方法により製造することで、
EVOHの側鎖に本EVOH特有の構造(特徴側鎖構造とも称する)が形成されることに
起因すると推測される。
【0014】
本EVOHにおける特徴側鎖構造の含有率(以下、単に「含有率」ともいう)は、特に
限定されないが、通常は0.0001~30モル%であり、さらに好ましくは0.001
~10モル%、特に好ましくは0.01~5モル%、殊に好ましくは0.1~1モル%で
ある。含有率が上記範囲内であることにより、熱安定性をより向上させることができる。
【0015】
(
1H NMR)
本EVOHにおける特徴側鎖構造の含有率は、以下の方法により算出できる。
EVOHを、NMR装置を用いて
1H NMR測定(溶媒:DMSO-D6、測定温度
:50℃)して得られたチャートを用いて算出する。
図1に例示されるようなNMRチャート中の各ピークは、次のように帰属される。
(A)4.9~5.2ppm:特徴側鎖構造分岐部のメチンプロトン
(B)3.3~4.0ppm:ビニルアルコールユニット中のメチンプロトン
(C)1.95~2.0ppm:酢酸ビニルユニット中のメチルプロトン
(D)0.95~1.95ppm:メチレンプロトン
(E)0.7~0.95ppm:末端のメチルプロトン
(A)~(E)の各積分値を用いて、含有率を計算する。ここで、(A)の範囲には酢酸
ビニルユニット中のメチンプロトンなど特徴側鎖構造分岐部のメチンプロトン以外も含ま
れるため、含有率の計算には下記に記す式で求める(A’)を使用する。
(A’)=(A)―{(A(ブランク))×(D)}/(D(ブランク))
含有量(モル%)は下記の式より求められる。
含有量=(A’)/((B)/2+(C)/6+(D)/4+(E)/6)×100モル
%
ブランクには、後述する方法により特徴側鎖構造を持たせる前のEVOHを用いる。
【0016】
(HMBCを用いた二次元NMR)
本EVOHが有する特徴的な相関は、HMBCを用いた二次元NMR測定を用いて解析
できる。以下に解析方法を詳述する。
EVOHを、NMR装置を用いて1H-13C HMBC測定(溶媒:DMSO-D6
、測定温度:80℃、試料濃度20%)を行う。ロングレンジJ値を8Hz、取り込み時
間0.2秒、待ち時間2秒、積算回数64回で測定する。化学シフト値はDMSOのピー
クを基準(1H:2.5ppm、13C:39.5ppm)とする。
本EVOHは、上記測定により、13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフ
トを有するピークと1Hスペクトルの3.5~3.7ppmの化学シフトを有するピーク
との間で相関を示し、13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有するピ
ークと1Hスペクトルの4.8~5.2ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関
を示すという特徴を有する。
【0017】
本EVOHは、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレ
ン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性
の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般
的には酢酸ビニルが用いられる。
【0018】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合法としては、公知の任意の重合法、例
えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いて行うことができ、一般的にはメ
タノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重
合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0019】
このようにして製造されるEVOHは、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位
を主とし、ケン化度が100モル%未満の場合、未ケン化部分として残存する若干量のビ
ニルエステル構造単位を含むものである。
【0020】
前記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面や、製造時の不純物の処理効率の
面から、一般的には前述のとおり酢酸ビニルが用いられる。また、酢酸ビニル以外のビニ
ルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸
ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン
酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息
香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上
併せて用いることができる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素
数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。
【0021】
本EVOHのISO14663に基づいて測定されるエチレン構造単位の含有量は、通
常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは27~35モル%で
ある。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿度下でのガスバリア性、溶融成形性が低下す
る傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。なお、かかる
エチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際
のエチレンの圧力によって制御することができる。
【0022】
本EVOHのJIS K6726に基づいて測定されるケン化度(ただし、EVOH(
A)は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)は、通常90~100モル%、好
ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化
度が低すぎる場合にはガスバリア性が低下する傾向がある。なお、かかるケン化度は、エ
チレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウ
ム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御できる。
【0023】
本EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0
.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~3
5g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向が
あり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
【0024】
かかるMFRは、本EVOHの重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエス
テル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することがで
きる。
【0025】
また、本EVOHは、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、本EVOHの10モル
%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
【0026】
前記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;3
-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5
-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化
物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペ
ンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ
-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,
3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセ
テート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイ
ン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が
1~18であるモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数
1~18であるN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-ア
クリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミ
ンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、ア
ルキル基の炭素数が1~18であるN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメ
タクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリル
アミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミ
ド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN
-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アル
キル基の炭素数が1~18であるアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエ
ーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビ
ニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類
;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン
化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコー
ル類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロ
リド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。こ
れらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0027】
特に、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOH、すなわち、側鎖に水
酸基を有するEVOHは、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好まし
く、より好ましくは側鎖に1級水酸基を有するEVOHであり、特に好ましくは1,2-
ジオール構造を側鎖に有するEVOHである。
【0028】
側鎖に1級水酸基を有するEVOHとしては、当該1級水酸基を有するモノマー由来の
構造単位の含有量が、EVOHの通常0.1~20モル%、さらには0.5~15モル%
、特には1~10モル%のものが好ましい。
【0029】
また、本EVOHとしては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアル
キレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0030】
さらに、本EVOHは、2種以上のEVOH、例えば、ケン化度が異なるもの、重合度
が異なるもの、共重合成分が異なるもの等の混合物であってもよい。
【0031】
[アルカリ金属化合物(A)]
本EVOHはアルカリ金属化合物(A)を含んでいても良い。前記アルカリ金属化合物
(A)のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウ
ムがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。これらの
うち、好ましくはナトリウムおよびカリウムであり、特に好ましくはナトリウムである。
【0032】
前記アルカリ金属化合物(A)としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ金属水酸
化物等があげられる。これらは水溶性であることが好ましい。なかでも、分散性の点から
アルカリ金属塩が好ましい。
また、前記アルカリ金属化合物(A)は、経済性と分散性の点から、無機層状化合物や
複塩を除くことが好ましい。
【0033】
前記アルカリ金属化合物(A)は、例えばアルカリ金属塩として存在する場合の他、イ
オン化した状態、あるいは樹脂や他の配位子とした錯体の状態で存在していてもよい。
アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩
、塩化物塩等の無機塩;酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩
等の炭素数2~11のモノカルボン酸塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピ
ン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩等の炭素数2~11のジカルボン酸塩;ラウリン酸
塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12-ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、
モンタン酸塩等の炭素数12以上のモノカルボン酸塩、EVOH樹脂の重合末端カルボキ
シル基とのカルボン酸塩等のカルボン酸塩等があげられる。これらは単独でもしくは2種
類以上併せて用いることができる。アルカリ金属化合物(A)の分子量としては、通常2
0~10000、好ましくは20~1000、特に好ましくは20~500である。
これらのなかでも、好ましくはカルボン酸塩であり、特に好ましくは炭素数2~11の
モノカルボン酸塩であり、さらに好ましくは酢酸塩である。
【0034】
前記アルカリ金属化合物(A)の含有量は特に限定されないが、本EVOHに対し、金
属換算した重量基準で通常1~1000ppm、好ましくは5~800ppm、さらに好
ましくは10~700ppm、特に好ましくは100~600ppmである。前記アルカ
リ金属化合物(A)の含有量が多すぎる場合は生産性が損なわれる傾向があり、少なすぎ
る場合は熱安定性が低下する傾向がある。
なお、前記アルカリ金属化合物(A)を2種以上併せて用いた場合、前記アルカリ金属
化合物(A)の含有量は、全アルカリ金属の金属換算量を合計した値である。
【0035】
前記アルカリ金属化合物(A)の含有量は、例えば、本EVOHを、加熱灰化したもの
を塩酸等にて酸処理して得られる溶液に、純水を加えて定容したものを検液とし、原子吸
光光度計にて測定することができる。
【0036】
[アルカリ土類金属化合物(B)]
本EVOHはアルカリ土類金属化合物(B)を含む。前記アルカリ土類金属化合物(B
)のアルカリ土類金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、スト
ロンチウム、バリウム、ラジウムがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて
用いることができる。これらのうち、市場入手性や経済性の点で好ましくはマグネシウム
、カルシウムである。
【0037】
前記アルカリ土類金属化合物(B)としては、アルカリ土類金属の塩、酸化物、水酸化
物等があげられる。なかでも、経済性や分散性の点からアルカリ土類金属酸化物またはア
ルカリ土類金属塩が好ましく、特にアルカリ土類金属塩が好ましい。前記アルカリ土類金
属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等があげられる。前記ア
ルカリ土類金属塩としては、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩
、塩化物塩等の無機塩やカルボン酸塩があげられる。
前記アルカリ土類金属化合物(B)は、経済性や分散性の点から、モンモリロナイト等
の層状無機化合物や、ハイドロタルサイト等の複塩を除くことが好ましい。
【0038】
なかでも加熱時の粘度低下効果に優れる点で、カルボン酸塩が好ましい。かかるカルボ
ン酸塩としては飽和または不飽和のカルボン酸塩があげられる。例えば、酢酸塩、酪酸塩
、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステ
アリン酸塩、12ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩等の1価カルボ
ン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン
酸塩等の2価カルボン酸塩等があげられる。これらは単独でもしくは2種類以上併せて用
いることができる。市場入手性の点で好ましくは直鎖飽和カルボン酸塩であり、より好ま
しくは1価カルボン酸塩である。
かかるカルボン酸塩のアニオンの炭素数は通常2~25であり、生産性の点で好ましく
は2~22であり、特に好ましくは6~20である。
【0039】
前記アルカリ土類金属化合物(B)の形態としては、例えば、固形状(粉末、微粉末、
フレーク等)、半固体状、液体状、ペースト状、溶液状、エマルジョン状(水分散液)等
の任意の性状のものを用いることができる。なかでも粉末状であることが好ましい。
【0040】
前記アルカリ土類金属化合物(B)の含有量は特に限定されないが、本EVOHに対し
、金属換算した重量基準で通常0.1~500ppm、好ましくは0.5~300ppm
、より好ましくは1~200ppm、さらに好ましくは2~150ppmである。前記ア
ルカリ土類金属化合物(B)の含有量が多すぎる場合は熱安定性が低下する傾向があり、
少なすぎる場合は本EVOHの成形性が低下する傾向がある。
なお、前記アルカリ土類金属化合物(B)を2種以上併せて用いた場合、前記アルカリ
土類金属化合物(B)の含有量は、全アルカリ土類金属の金属換算量を合計した値である
。
【0041】
前記アルカリ土類金属化合物(B)の含有量は、例えば、本EVOHを、加熱灰化した
ものを塩酸等にて酸処理して得られる溶液に、純水を加えて定容したものを検液とし、原
子吸光光度計にて測定することができる。
【0042】
[アルカリ金属化合物(A)のアルカリ土類金属化合物(B)に対する含有量比(A/B
)]
本EVOHは、前記アルカリ金属化合物(A)の前記アルカリ土類金属化合物(B)に
対する含有量比(A/B)が0.5よりも大きい。前記含有量比(A/B)は、1以上が
好ましく、2以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。
なお、前記含有量比(C/D)の上限は特に限定されないが、通常10000以下であ
り、5000以下が好ましく、1000以下がより好ましく、300以下がさらに好まし
く、50以下が特に好ましい。
前記含有量比(A/B)が上記範囲内であることにより、本EVOHの熱安定性をより
向上させることができる。
【0043】
[ホウ素化合物]
本EVOHには、溶融成形時の経時的な増粘を抑制する効果をより高めることができる
点から、さらにホウ素化合物を含有することが好ましい。
【0044】
前記ホウ素化合物としては、ホウ酸またはその金属塩が挙げられ、例えば、ホウ酸、ホ
ウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛,メタホウ酸亜鉛等)、ホ
ウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸
アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等)、ホウ酸カドミウム(
オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウム等)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウ
ム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等)、
ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀等)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四
ホウ酸銅等)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ
酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)、ホ
ウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛等)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホ
ウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケル等)、ホウ酸バリウム(オルトホウ
酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウム等)、ホウ酸ビ
スマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタ
ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム等)、ホウ酸マ
ンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガン等)、ホウ酸リチ
ウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム等)等の他、ホウ砂、
カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、スイアン石、ザイベリ石等のホウ酸塩鉱物等が
挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上を併せて用いてもよい。なかでも、ホウ砂
、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナ
トリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等)が好まし
い。
【0045】
前記ホウ素化合物の含有量は、特に限定されないが、含有量の下限は、本EVOHに対
してホウ素換算で、好ましくは1ppm、より好ましくは10ppm、特に好ましくは2
0ppm、殊に好ましくは50ppmである。含有量の上限は、本EVOHに対してホウ
素換算で、好ましくは1000ppm、より好ましくは500ppm、特に好ましくは3
00ppm、殊に好ましくは100ppmである。含有量が上記範囲内であることにより
、ロングラン成形性向上効果をさらに高めることができる。特定量のホウ素化合物を用い
ることによって優れた効果が得られる理由は明らかではないが、溶融粘度の調整により本
EVOHの排出性が高まるためと推測される。
【0046】
前記ホウ素化合物のホウ素換算での含有量は、公知の分析方法にて測定することができ
る。例えば、本EVOHを湿式分解後、定容したものを検液とし、誘導結合プラズマ発光
分析法(ICP-AES)にてホウ素量を定量することができる。
【0047】
[EVOHの製造方法]
本EVOHは、HMBCを用いた二次元NMRにおいて上記の特徴的な相関を示す。こ
のような相関を示すEVOHは、例えば以下の製造方法により得ることができる。(1)
EVOHと、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニ
ン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン
、チロシン、トリプトファン等の中性アミノ酸を混合する、(2)EVOHを、前記中性
アミノ酸を含有する処理液と接触させる、(3)前記中性アミノ酸の存在下でエチレンと
ビニルエステル系モノマーを共重合する、(4)前記中性アミノ酸の存在下でエチレン-
ビニルエステル系共重合体をケン化する等が挙げられ、効率的に本EVOHを製造できる
点から、上記(1)の方法が好ましい。
これら方法(1)~(4)は単独で採用してもよいし、適宜組み合わせてもよい。
なお、混合するアミノ酸はD体であってもL体であっても良く、これらの混合物であっ
ても良い。
EVOHと混合するアミノ酸について、酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸を用いた場合、
EVOHのpHが酸性もしくは塩基性に偏ってしまうことがあり、分解や架橋等の予期せ
ぬ副反応が生じる虞がある。中性アミノ酸はEVOHにpHの変化による影響を与えない
ため好ましい。
【0048】
上記(1)の方法では、EVOHとトリプトファン等の中性アミノ酸を混合する工程を
含む。混合する方法は特に限定されないが、EVOHとトリプトファンを溶融混錬する等
が挙げられる。効率的に本EVOHを製造できる点で溶融混錬する方法が好ましい。
これらの方法で製造された本EVOHは、上記の特徴的な二次元NMRの相関を有し、
熱安定性に優れる。
【0049】
前記溶融の混合方法としては、通常、各成分をドライブレンドした後に溶融して混合す
る方法が挙げられる。混合装置としては、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシン
グロール、バンバリーミキサー、プラストミル等の公知の混練装置を用いることができる
が、通常は単軸または二軸の押出機を用いることが工業上好ましい。また、前記押出機は
、必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好
ましい。
【0050】
前記溶融混練温度は、通常、押出機およびダイの設定温度として160~300℃の範
囲であり、好ましくは170~260℃、特に好ましくは180~240℃である。かか
る温度が低すぎる場合には、樹脂が未溶融状態となり、加工状態が不安定になる傾向があ
り、高すぎる場合には、樹脂組成物が熱劣化して、得られる成形品の品質が低下する傾向
にある。
【0051】
[樹脂組成物]
本EVOHは樹脂組成物に含有されていても良い(本EVOHを含む樹脂組成物を本樹
脂組成物と称する)。
本EVOHは、本樹脂組成物の主成分であることが好ましい。ここで、主成分とは、そ
の含有量が、本樹脂組成物の50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、
より好ましくは80質量%であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好まし
くは95質量%以上である。
【0052】
本樹脂組成物は、上記(1)の本EVOHの製造方法で用いられる中性アミノ酸を含ん
でいても良い。その含有量は特に限定されないが、本EVOHに対して0.000001
質量%以上9質量%未満であることが好ましく、0.00001質量%以上8質量%以下
であることがより好ましく、0.0001質量%以上7質量%以下であることがさらに好
ましく、0.001質量%以上5質量%以下であることが特に好ましく、0.01質量%
以上4質量%以下であることが殊に好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であること
が最も好ましい。
【0053】
また、本樹脂組成物は、本EVOH以外の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド、ポリエ
ステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の各種熱可塑性樹脂)を、本発
明の効果を阻害しない範囲(例えば、本樹脂組成物の通常30質量%以下、好ましくは2
0質量%以下、特に好ましくは10質量%以下)にて含有することができる。これらの熱
可塑性樹脂は単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0054】
さらに、本樹脂組成物には、発明の効果を阻害しない範囲(例えば、本樹脂組成物の5
質量%以下)で、必要に応じて、可塑剤、補強剤、充填剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止
剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、帯電防止剤
、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤等が含有
されてもよい。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0055】
[樹脂組成物の調製]
本樹脂組成物は、本EVOHと必要に応じて配合される任意成分とを混合して調製する
ことによって得ることができる。
【0056】
前記混合方法としては特に限定はなく、各成分をドライブレンドにより混合したものを
本樹脂組成物として直接利用することもできるが、一般には、溶融混合法、溶液混合法等
により混合した後、ペレット等の取り扱いやすい形状に成形して本樹脂組成物として調製
する方法が用いられ、生産性の点から溶融混合法が好ましい。
【0057】
前記溶融混合方法としては、通常、各成分をドライブレンドした後に溶融して混合する
方法が挙げられる。混合装置としては、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシング
ロール、バンバリーミキサー、プラストミル等の公知の混練装置を用いることができるが
、通常は単軸または二軸の押出機を用いることが工業上好ましい。また、前記押出機は、
必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ま
しい。
【0058】
前記溶融混練温度は、通常、押出機およびダイの設定温度として160~300℃の範
囲であり、好ましくは170~260℃、特に好ましくは180~240℃である。かか
る温度が低すぎる場合には、樹脂が未溶融状態となり、加工状態が不安定になる傾向があ
り、高すぎる場合には、樹脂組成物が熱劣化して、得られる成形品の品質が低下する傾向
にある。
【0059】
本樹脂組成物における任意成分の添加量の調整方法としては特に限定はなく、所望の添
加量を加えて調整する方法、マスターバッチを作製して希釈する方法等を取ることができ
る。また、マスターバッチを希釈する場合、希釈方法は任意の方法をとることができるが
、生産性の点からドライブレンドが好ましい。
【0060】
また、任意成分は、上記の方法以外に、例えば、本EVOHの製造時に添加して含有さ
せてもよい。
【0061】
本EVOHまたは本樹脂組成物は、通常、溶融成形法により、例えば、フィルム、シー
ト、カップ、繊維等の成形品に成形される。かかる溶融成形方法としては、例えば、押出
成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、
射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常150~300℃の範囲から適宜選択
できる。得られた成形品(フィルム、シート、カップ、繊維等)は、一軸または二軸延伸
、真空成形等の二次加工に供することもできる。
【0062】
また、本EVOHまたは本樹脂組成物を用いて溶融成形により得られる成形品は、本E
VOHまたは本樹脂組成物のみからなる成形品であってもよく、また、他の樹脂シートや
フィルム、紙、不織布、金属箔等の基材と積層された多層構造体からなる成形品であって
もよい。
【0063】
前記多層構造体の製造については、本EVOHまたは本樹脂組成物を用いて成形された
フィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、他の基材に本EVOHま
たは本樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本EVOHまたは本樹脂組成物と他の
基材とを共押出する方法、本EVOHまたは本樹脂組成物を用いてなるフィルム、シート
等と、他の基材からなる層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル
系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法等を
採用することができる。
【実施例0064】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない
限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例に先立ち、以下の成分を準備した。
【0066】
[EVOH]
・EVOH(1):エチレン構造単位の含有量29.3モル%、MFR3.8g/10分
(210℃、荷重2160g)、ケン化度99.7モル%、アルカリ金属化合物含有量(
金属換算)171ppm(ナトリウム170ppm、カリウム1ppm)、アルカリ土類
金属化合物含有量(金属換算)8.1ppm(マグネシウム0.1ppm、カルシウム8
ppm)、ホウ素化合物含有量(ホウ素換算)90ppm
・EVOH(2):エチレン構造単位の含有量29.3モル%、MFR8.8g/10分
(210℃、荷重2160g)、ケン化度99.6モル%、アルカリ金属化合物含有量(
金属換算)6ppm(ナトリウム6ppm)、アルカリ土類金属化合物含有量(金属換算
)15ppm(マグネシウム15ppm、カルシウム0ppm)、ホウ素化合物含有量(
ホウ素換算)90ppm
・L-トリプトファン(東京化成工業社製)
【0067】
<実施例1>
EVOH(1)とL-トリプトファンを、L-トリプトファンがEVOH(1)とL-
トリプトファンの合計量に対して3.0質量%となるようドライブレンドし、混合物を作
製した。
【0068】
[NMR測定]
下記の条件にて、上記混合物55gを溶融混錬し、樹脂組成物を作製した。
(溶融混練条件)
装置:ブラベンダー社製プラストグラフ
条件:220℃、50rpm、混練5分
【0069】
(
1H NMR測定)
樹脂組成物を、測定装置「400MHz NMR、クライオプローブ」(ブルカージャ
パン株式会社製)を用いて
1H NMR測定(溶媒:DMSO-D6、測定温度:50℃
)して得られたチャートを用いて算出した。
図1は当該測定により得られたチャート図で
ある。
図1のNMRチャート中の各ピークは、次のように帰属された。
(A)4.9~5.2ppm:特徴側鎖構造分岐部のメチンプロトン
(B)3.3~4.0ppm:ビニルアルコールユニット中のメチンプロトン
(C)1.95~2.0ppm:酢酸ビニルユニット中のメチルプロトン
(D)0.95~1.95ppm:メチレンプロトン
(E)0.7~0.95ppm:末端のメチルプロトン
(A)~(E)の各積分値を用いて、含有率を計算した。ここで、(A)の範囲には酢酸
ビニルユニット中のメチンプロトンなど特徴側鎖構造分岐部のメチンプロトン以外も含ま
れるため、含有率の計算には下記に記す式で求める(A’)を使用した。
(A’)=(A)―{(A(ブランク))×(D)}/(D(ブランク))
含有量(モル%)は下記の式より求めた。
含有量=(A’)/((B)/2+(C)/6+(D)/4+(E)/6)×100モル
%
ブランクにはL-トリプトファンとドライブレンドする前のEVOH(A1)を用いた
。
【0070】
(HMBCを用いた二次元NMR測定)
樹脂組成物について、測定装置「400MHz NMR、クライオプローブ」(ブルカ
ージャパン株式会社製)を用いて
1H-
13C HMBC測定(溶媒:DMSO-D6、
測定温度:80℃、試料濃度20%)を行った。ロングレンジJ値を8Hz、取り込み時
間0.2秒、待ち時間2秒、積算回数64回で測定した。化学シフト値はDMSOのピー
クを基準(
1H:2.5ppm、
13C:39.5ppm)とした。
図2は当該測定によ
り得られたチャート図である。
13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有するピークと
1Hスペクト
ルの3.5~3.7ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関を示し、
13Cスペ
クトルの173~176ppmの化学シフトを有するピークと
1Hスペクトルの4.8~
5.2ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関を示す場合は下記表1の相関にお
いて〇とし、当該相関がみられない場合は×とした。
【0071】
[増粘比の評価]
下記条件にて、上記混合物55gを溶融混練して樹脂組成物を作製し、トルク値の経時
変化を記録した。
(溶融混練条件)
装置:ブラベンダー社製プラストグラフ
条件:240℃、50rpm、予熱5分間、混練180分
【0072】
得られた60分経過後トルク値、180分経過後のトルク値から、下記の式により増粘
比を算出した。
増粘比=測定180分経過時点のトルク値/測定60分経過時点のトルク値
【0073】
<実施例2、比較例1>
EVOHやL-トリプトファンの種類や量を、以下の表1に記載の通りに変更した以外
は、実施例1と同様に樹脂組成物を作製して測定および評価を行った。
図3および
図4は夫々実施例2の
1H NMR測定により得られたチャート図、HMB
Cを用いた二次元NMR測定により得られたチャート図である。
図5および
図6は夫々比較例1の
1H NMR測定により得られたチャート図、HMB
Cを用いた二次元NMR測定により得られたチャート図である。
【0074】
【0075】
図2および
図4から、実施例1および実施例2は、HMBCを用いた二次元NMRにお
いて、
13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有するピークと
1Hスペ
クトルの3.5~3.7ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関(図中の(1)
)を示し、且つ
13Cスペクトルの173~176ppmの化学シフトを有するピークと
1Hスペクトルの4.8~5.2ppmの化学シフトを有するピークとの間で相関(図中
の(2))を示すことがわかる。
一方で、
図6から、比較例1は当該相関を示さないことがわかる。
【0076】
表1の結果から、上記相関を示す実施例1と実施例2のEVOHは、当該相関を示さな
い比較例1のEVOHと比較して経時的な増粘が抑制され、ロングラン成形性が向上して
いることがわかる。また、含有量比(A/B)が0.5よりも大きい実施例1は、含有量
比(A/B)が0.4の実施例2と比較して増粘比が低く、ロングラン成形性がより向上
していることがわかる。