(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111702
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】抗菌性フィルム、包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/02 20060101AFI20240809BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240809BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240809BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20240809BHJP
A01N 43/16 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
B32B9/02
B65D65/40 D
A01P3/00
A01N25/10
A01N43/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016355
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晶大
(72)【発明者】
【氏名】柿原 健佑
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4H011
【Fターム(参考)】
3E086AD01
3E086AD19
3E086BA04
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3E086DA08
4F100AH02A
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4F100BA02
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4F100JB16B
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4F100JL013
4H011AA02
4H011BB08
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】包装体などとして用いることにより、内容物の生菌の増殖を抑制し、内容物の保存性を向上させる抗菌性フィルムを提供する。
【解決手段】抗菌性フィルムは、基材層(A)の少なくとも一面側に、ショ糖脂肪酸エステルを含む層(B)を有することを特徴とする。層(B)は、コーティングにより形成されるのが好ましく、ショ糖脂肪酸エステルとしては、構成脂肪酸に飽和脂肪酸を含み、構成脂肪酸の炭素数が22以下で、HLBが10以上であるのが好適である。また、層(B)中にショ糖脂肪酸エステルを60質量%以上含むのが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(A)の少なくとも一面側に、ショ糖脂肪酸エステルを含む層(B)を有する、抗菌性フィルム。
【請求項2】
基材層(A)が、熱可塑性樹脂からなる層(I)と、シール層(II)との少なくとも2層を備えた、請求項1に記載の抗菌性フィルム。
【請求項3】
基材層(A)が、熱可塑性樹脂からなる層(I)、ガスバリア層(III)、シール層(II)の少なくとも3層を備えた、請求項1に記載の抗菌性フィルム。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は3に記載の抗菌性フィルム。
【請求項5】
前記ガスバリア層(III)が、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂を主成分樹脂として含む、請求項3に記載の抗菌性フィルム。
【請求項6】
前記シール層(II)が、ポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂として含む、請求項2又は3に記載の抗菌性フィルム。
【請求項7】
前記ショ糖脂肪酸エステルが、構成脂肪酸の炭素数が22以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性フィルム。
【請求項8】
前記ショ糖脂肪酸エステルが、層(B)中に60質量%以上含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性フィルム。
【請求項9】
前記ショ糖脂肪酸エステルが、HLBが10以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性フィルム。
【請求項10】
前記ショ糖脂肪酸エステルが、構成脂肪酸に飽和脂肪酸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性フィルム。
【請求項11】
前記層(B)が、コーティングにより形成されたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性フィルム。
【請求項12】
食品包装用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性フィルム。
【請求項13】
深絞り成形用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗菌性フィルム。
【請求項14】
請求項13に記載の抗菌性フィルムを深絞り成形の底材として使用した包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する抗菌フィルム、それを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食糧問題として、食べられずに廃棄されるなどの食品ロスが問題となっている。食品ロスを解消するための手段の一つとして、食品の包装に抗菌性フィルムを用い、食品の消費期限/賞味期限を延長する手段が採られており、それを達成するための抗菌性フィルムが開発されてきた。
【0003】
そのような抗菌性フィルムに関し、例えば、特許文献1にはバリアフィルムの両面に抗菌性樹脂フィルムが積層されており、有機系抗菌剤をシクロデキストリンで包接した抗菌性粒子を含む樹脂フィルムが開示されている。
【0004】
一方、食品の保存期間中の生菌の増殖を抑制し、保存性を高めるために食品に各種の保存料を添加することが行われている。例えば、特許文献2には、液状飲食品等に添加して抗菌作用を示す好適な材料の抗菌性乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-282741号公報
【特許文献2】特開2000-342197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のフィルムは、十分な抗菌性を発揮させるために抗菌性粒子の量を増やそうとすると抗菌性粒子が樹脂フィルムへ相溶しないため、抗菌性粒子の凝集物や異物が発生し、フィルムの外観が損なわれるおそれがあった。また、環境意識の高まりもあり、フィルム製品の薄膜化や使用原料の削減、リサイクル性の改善なども行われている。そのようななか、リサイクル性を高めるため、薄番手の樹脂フィルムを使用した場合、無機系粒子が起点となってフィルムを破断するなどのフィルム製膜における問題が生じるおそれもあった。
また、特許文献2に開示されたように、保存料を食品に練り込むことで菌類の増殖を抑えることができるが、多量に練り込まなければならず、保存料の使用量が多くなるという問題があった。さらには、保存料などを食品に添加することを忌避する傾向もあり、食品添加剤を極力減らすことが望まれる。
本発明者は、鋭意研究を行った結果、食品包装用途などの包装体を工夫し、内容物の生菌の増殖を効果的に抑制し、内容物の保存性を向上させることができるフィルムを開発した。
【0007】
すなわち、基材層の少なくとも一面側に、ショ糖脂肪酸エステルを含む層を有するフィルムとし、例えば、これを包装体として用いることにより、内容物の生菌の増殖を抑制し、内容物の保存性を向上させることができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 基材層(A)の少なくとも一面側に、ショ糖脂肪酸エステルを含む層(B)を有する、抗菌性フィルム。
【0010】
[2] 基材層(A)が、熱可塑性樹脂からなる層(I)と、シール層(II)との少なくとも2層を備えた、[1]に記載の抗菌性フィルム。
【0011】
[3] 基材層(A)が、熱可塑性樹脂からなる層(I)、ガスバリア層(III)、シール層(II)の少なくとも3層を備えた、[1]に記載の抗菌性フィルム。
【0012】
[4] 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種である、[2]又は[3]に記載の抗菌性フィルム。
【0013】
[5] 前記ガスバリア層(III)が、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂を主成分樹脂として含む、[3]に記載の抗菌性フィルム。
【0014】
[6] 前記シール層(II)が、ポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂として含む、[2]又は[3]に記載の抗菌性フィルム。
【0015】
[7] 前記ショ糖脂肪酸エステルが、構成脂肪酸の炭素数が22以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の抗菌性フィルム。
【0016】
[8] 前記ショ糖脂肪酸エステルが、層(B)中に60質量%以上含む、[1]~[7]のいずれかに記載の抗菌性フィルム。
【0017】
[9] 前記ショ糖脂肪酸エステルが、HLBが10以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の抗菌性フィルム。
【0018】
[10] 前記ショ糖脂肪酸エステルが、構成脂肪酸に飽和脂肪酸を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の抗菌性フィルム。
【0019】
[11] 前記層(B)が、コーティングにより形成されたものである、[1]~[10]のいずれかに記載の抗菌性フィルム。
【0020】
[12] 食品包装用である、[1]~[11]のいずれかに記載の抗菌性フィルム。
【0021】
[13] 深絞り成形用である、[1]~[11]のいずれかに記載の抗菌性フィルム。
【0022】
[14] [13]に記載の抗菌性フィルムを深絞り成形の底材として使用した包装体。
【発明の効果】
【0023】
本発明の抗菌性フィルムは、例えば、食品包装用途などの包装体として使用することにより、内容物の生菌の増殖を効果的に抑制することができるとともに、内容物へショ糖脂肪酸エステルが移行して保存性を向上させることができる。さらに、食品の保存料としても使用されるショ糖脂肪酸エステルを用いるため人体への安全性も確保される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明の一実施形態の抗菌性フィルムは、基材層(A)の少なくとも一面側に、ショ糖脂肪酸エステルを含む層(B)を有するものである。
【0026】
<基材層(A)>
本発明の基材層(A)は、層(B)を積層するものであり、フィルム状のものであればよい。例えば、フィルム状に成形し得る種々の合成樹脂材料から作製されるものであれば、特に限定されない。フィルム状への成形加工性や抗菌性フィルムとして二次加工性などのハンドリングのし易さなどから、合成樹脂材料としては、熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、熱可塑性樹脂を含む層であることが好ましい。具体的には、ラップフィルム、成形フィルム、単層フィルム、積層フィルム、蓋材用フィルムとして汎用されているフィルムなどを用いることができる。これらフィルムは、未延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよい。
【0027】
当該熱可塑性樹脂としては、種々の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂(PO)、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリスチレン系樹脂(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂(PVC)、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で、または2種以上を併用することができる。
【0028】
基材層(A)の厚みは、特に限定されないが、5~600μmの範囲が好ましく、10~500μmの範囲がより好ましく、12~400μmの範囲がさらに好ましい。基材層の厚みが上記下限値以上であると、製膜がしやすく、上記上限値以下であると、コストの点で有利である。
【0029】
基材層(A)は、単層でもよいが、複数の層を有する積層フィルムを用いてもよい。
単層の場合には、基材層(A)が上記熱可塑性樹脂を含む層であることが好ましく、上記熱可塑性樹脂を主成分として含む層であることが好ましい。このようは単層フィルムとしては、上記熱可塑性樹脂からなる市販のフィルムを使用することができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂を使用した、A-PETシートや、二軸延伸PETフィルムや、ポリアミド系樹脂(PA)やポリスチレン樹脂(PS)を使用した二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリスチレンシートなどである。
【0030】
積層フィルムの場合には、各層が上記熱可塑性樹脂を含む層であってもよく、また、熱可塑性樹脂を含む層(I)の他、シール層(II)、ガスバリア層(III)やその他の層を備えててもよい。
基材層(A)は、熱可塑性樹脂からなる層(I)と、シール層(II)との少なくとも2層を備えるのが好ましく、熱可塑性系樹脂からなる層(I)、ガスバリア層(III)、シール層(II)の少なくとも3層を備えるのがより好ましい。3層の場合は、(I)/(III)/(II)の積層順が好ましい。
【0031】
<熱可塑性樹脂を含む層(I)>
熱可塑性樹脂を含む層(I)は、上記熱可塑性樹脂を含み、この樹脂を主成分として含むことが好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、上述した、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、これら2種以上を併用してもよい。
これら熱可塑性樹脂は、食品包装用のフィルム基材として好ましく使用されており、フィルム状への成形加工性だけでなく、包装体として使用するための成形性や印刷性など二次加工性などのハンドリングがしやすい。
【0033】
<シール層(II)>
シール層(II)は、ヒートシール性を付与するための層であり、例えば、ポリオレフィン系樹脂(PO)を主成分として含むシール層にすることができる。なかでも、ヒートシール性の観点からポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0034】
<ガスバリア層(III)>
ガスバリア層(III)は、ガスバリア性を付与するための層であり、ガスバリア性を有する樹脂を主成分として含むことが好ましい。基材層(A)にガスバリア層(III)を有することで、本発明の抗菌性フィルムを食品包装用に好適に用いることができる。
ガスバリア性を有する樹脂としては、ポリアミド系樹脂(PA)、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリビニルアルコール系樹脂(PVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、プルラン、デンプン、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、またはそれらの誘導体などの水溶性多糖類、ゼラチンなどを挙げることができる。これらは1種類を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
ガスバリア性やフィルムの製膜性などの観点から、ポリビニルアルコール系樹脂(PVOH)、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)が好ましく、なかでも、ガスバリア性、耐水性のバランスの観点からエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)を主成分として含むのが好ましい。より具体的には、市販のものとして、三菱ケミカル社製「ダイアミロン」(商品名)等を挙げることができる。
【0035】
エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体(エチレン-ビニルエステル系共重合体)をケン化することにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができるが、一般的にはメタノール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。このようにして製造されるエチレンービニルアルコール共重合樹脂は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主な構造単位とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0036】
<積層構成例>
積層フィルムとした場合は、具体的には、PP層/PA層/EVOH層/PA層/PE層等の層構成が例示される。PP層は熱可塑性樹脂を含む層(I)に該当し、PE層はシール層(II)に該当し、EVOH層及びPA層はガスバリア層(III)に該当する。
前記積層フィルムとする場合は、従来公知製法に従い製造すればよい。なかでも、複数の押出機を用いて積層ダイにより共押出する方法が好ましい。
【0037】
<基材層(A)の製法>
本発明の基材層(A)、公知の方法、例えば、インフレーション法、押出Tダイ法等を用いることにより製造することができる。
積層フィルムとする場合は、各層を形成する熱可塑性樹脂組成物を用いて、上述した公知の方法のほか、予め採取したフィルムを、ラミネーション法等を用いて積層フィルムを製造することができる。特に、フィルムの層数が多い場合でも製膜工程は変わらない点や厚み制御が比較的容易である点で、共押出Tダイ法を用いることが好ましい。
【0038】
<層(B)>
本発明の層(B)は、基材層(A)の少なくとも一面側に備え、ショ糖脂肪酸エステルを含む層である。包装体とした場合に、内容物に接する面に備えるのが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖の持つ8個の水酸基を持ち、この水酸基に脂肪酸をエステル型に結合させたものである。
ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよく、これらの混合物であってもよいが、抗菌効果の観点から、好ましくは飽和脂肪酸、或いは飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸との混合物であってもよい。混合物とする場合、飽和脂肪酸を主成分として含むことが好ましい。
【0039】
本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数は、特に限定されないが、上限は抗菌効果の観点から22以下が好ましく、18以下がより好ましく、16以下がさらに好ましい。また、特に限定するものではないが、下限は8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上記範囲であることにより、菌の細胞膜に対する界面活性作用や代謝阻害作用がより強くなる傾向があり、菌の増殖を抑える効果が強くなるためと推定される。
なお、ショ糖脂肪酸エステルは、通常、構成脂肪酸の炭素数の異なるものの混合物として供給される。そのため、本発明において、例えば、構成脂肪酸の炭素数が22以下のショ糖脂肪酸エステルという場合には、構成脂肪酸の炭素数が22以下のショ糖脂肪酸エステルを主成分として含むショ糖脂肪酸エステルを意味し、炭素数が22を超えるショ糖脂肪酸エステルを含むこともある。
【0040】
具体的には、例えば、飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルとして、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステルなどを挙げることができる。不飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルとして、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルなどを挙げることができる。これらを1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、ショ糖脂肪酸エステル成分におけるモノエステルの比率が80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましい。
【0041】
本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、水系溶剤への溶解度と分散性の観点から、HLB値の下限は10以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。また、特に限定するものではないが上限は20以下が好ましい。上記範囲であることにより、フィルムから内容物(食品)へショ糖酸エステルがより移行しやすい傾向があり、菌の増殖を抑える効果の観点でも好ましい。
ここで、HLB値とは、水と油への親和性の程度を表す値であり、0~20の範囲で示される。値が小さいほど油への親和性(親油性)があり、値が大きいほど水への親和性(親水性)があるといえる。
【0042】
ショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、「リョートーシュガーエステルP-1670」、「リョートーシュガーエステルM-1695」、「リョートーシュガーエステルL-1695」、「リョートーシュガーエステルP-1570」、「リョートーシュガーエステル モノエステル-P」(以上、三菱ケミカル社製、商品名);「DKエステルSS」、「DKエステルF-160」、「DKエステルF-140」(以上、第一工業製薬社製、商品名)等を挙げることができる。
【0043】
本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルは、抗菌効果の観点から、層(B)中に、60質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。100質量%であることが最も好ましい。
上記したとおり、ショ糖脂肪酸エステルは、通常、構成脂肪酸の炭素数の異なるものの混合物として供給される。よって、例えば、構成脂肪酸の炭素数が16のショ糖脂肪酸エステル100質量%という場合には、構成脂肪酸の炭素数が16のショ糖脂肪酸エステルを主成分として含むことを意味し、それ以外の炭素数のショ糖脂肪酸エステルが含まれることもある。
【0044】
層(B)には、ショ糖脂肪酸エステルの他に、pH調整剤、界面活性剤などの添加剤を含ませてもよい。
pH調整剤としては、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、アンモニア等を用いることができる。
界面活性剤としては、例えば、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等を用いることができる。
【0045】
<層(B)の形成法>
本発明の層(B)は、基材層(A)の少なくとも一面側に備えればよく、下記コーティング組成物を基材層(A)に塗布する方法(コーティング)により形成するのが好ましい。コーティングすることにより、ショ糖脂肪酸エステルを高濃度にできるとともに対象物にショ糖脂肪酸エステルを移行させ、抗菌作用を発揮させやすくすることができる。
コーティング方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、グラビアコート、ロールコート、スプレーコート、シルクスクリーンコート、パートコート、フレキソ印刷等公知の手段により、基材層(A)上に塗工することができる。
また、ショ糖脂肪酸エステルを配合した熱可塑性樹脂との配合物を押出機を用いて予めフィルム状にして、基材層(A)とラミネートする方法や、積層ダイにより基材層(A)共に複数の押出機を用いて共押出してもよい。
【0046】
基材層(A)にシール層(II)を有する構成とした場合は、少なくともシール層(II)側に層(B)を備えるのが好ましい。
【0047】
<コーティング方法>
基材層(A)に層(B)をコーティングする場合、例えば、ショ糖脂肪酸エステルを含むコーティング組成物を製造し、その組成物をコーティングすることが好ましい。
【0048】
<コーティング組成物>
コーティング組成物は、ショ糖脂肪酸エステルと、水系溶剤とを含み、さらに上記添加剤を含有してもよい。
水系溶剤としては、イオン交換水等の水やエタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコールを挙げることができる。塗布性の観点から、溶剤としての水に加えて、上記のアルコール等の有機溶剤を少量含有させるのが好ましい。
コーティング組成物中のショ糖脂肪酸エステルの含有量は、30質量%以下であるのが好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下がよりさらに好ましい。
【0049】
コーティング組成物は、抗菌効果の観点から、被膜量が、10mg/m2以上5000mg/m2以下であることが好ましく、100mg/m2以上3000mg/m2以下であることがより好ましく、200mg/m2以上2000mg/m2以下であることがさらに好まく、300mg/m2以上1000mg/m2以下であることが最も好ましい。
また、層(B)の厚みとしては、0.01~5μmの範囲であることが好ましく、0.11~3μmの範囲がより好ましく、0.2~2μmの範囲がさらに好ましく、0.3~1μmの範囲が最も好ましい。上記下限値以上であると十分な抗菌性が得られ、またコストの面から上記上限値以下が好ましい。
【0050】
<用途>
本発明の抗菌性フィルムは、特に限定するものではないが、肉類、魚類、野菜類、果実類、デザート類などの食品の包装体に適しており、特に、深絞り包装体、真空包装体、ガス置換包装体など、保存中に酸素濃度が低く、乳酸菌などの嫌気性菌が繁殖するおそれのある包装体を作製するのに適している。その他、例えばパウチ包装体、ピロー包装体などの各種包装体を作製することもできる。中でも、深絞り包装体が好ましく、深絞り包装体の底材に用いるのが特に好ましい。
【0051】
本発明の抗菌性フィルムから深絞り包装体を作製する場合において、絞り加工を行う際に成形性を高めるために、抗菌性フィルムは無延伸で製造することが好ましい。パウチ包装、ピロー包装および真空包装には、無延伸にて製造した後、強度およびガスバリア性の付与の観点から、例えば、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等の延伸フィルムを、ドライラミネート法等で積層することが好ましい。
【0052】
<用語の説明>
本発明において、「フィルム」は「シート」の意を包含し、また、「シート」は「フィルム」の意を包含するものである。
本発明において、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
さらにまた、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【0053】
本発明で規定する数値範囲の上限値および下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0054】
本発明において「主成分」とは、対象物に含まれる成分のうち最も多い質量%を占める成分であることを意味する。主成分の含有量については、対象物に含まれる成分の含有量を100質量%したとき、その成分が占める質量が50質量%以上である場合、60質量%以上である場合、70質量%以上である場合、80質量%以上である場合、90質量%以上である場合、100質量%である場合を想定することができる。
【実施例0055】
以下、本発明の一実施例を説明する。但し、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1,2及び比較例1として、以下の抗菌性フィルムを作製した。
【0057】
[実施例1]
エタノール及びイオン交換水からなる水系溶剤にショ糖脂肪酸エステルとして三菱ケミカル社製ショ糖パルミチン酸エステル(構成脂肪酸の炭素数が16、HLB:16)を70℃で30分間分散させた後に25℃まで冷却して、コーティング組成物を調製した(下記表1参照)。
該コーティング組成物を、下記積層フィルム(基材層(A)に相当)のポリエチレン層側に塗布し、80℃で5分乾燥して水系溶剤を蒸発させて層(B)を形成した。層(B)の重量、厚みは下記表2に示す。
乾燥させたフィルム(試験フィルム)を、下記評価方法にて評価した。その結果を下記表2に記す。
【0058】
積層フィルム(総厚み110μm:三菱ケミカル社製):PP(30μm)/PA(7μm)/EVOH(8μm)/PA(15μm)/PE(50μm)
【0059】
[実施例2]
ショ糖パルミチン酸エステルの代りに、三菱ケミカル社製ショ糖ミリスチン酸エステル(構成脂肪酸の炭素数が14、HLB:16)を用いたこと以外は実施例1と同様にコーティング組成物を調製し、試験フィルムを得て、実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、被膜を形成せずに、積層フィルムをそのまま実施例1と同様に評価した。
【0061】
【0062】
<評価方法>
(1)被膜の単位面積あたりの質量測定(乾燥後)
各実施例及び比較例の測定試料から10cm角に切り出したサンプルの質量を測定した。次いで、同サンプルのコーティング層を水にてふき取り、ふき取り後の質量を測定した。ふき取り前後の質量差により被膜の単位面積あたりの被膜量(質量)および厚みを算出した。
【0063】
(2)抗菌性試験
市販のロースハムを1.4g(縦3.4cm×横2.4cm)に切り分け、Leuconostoc pseudomesenteroidesITH-11(乳酸菌)を終濃度2.7×102(CFU/g)程度になるようにハムの両面に植菌した。各実施例及び比較例の抗菌性フィルムをそれぞれ縦3.5cm×横2.5cmの大きさに切り出し、これを植菌したロースハムの両面にそれぞれ密着させ、恒温庫(庫内温度10℃)内で7日間、14日間、21日間、35日間保管した。
保管0日目又は保管後のロースハムをストマッカー袋に入れ、このストマッカー袋に滅菌済生理食塩水90mLを加え、60秒間ストマッキングし、これを試料懸濁液とし、滅菌済生理食塩水で段階希釈後、標準寒天培地(日水製薬株式会社)を用いた混釈平板法(35℃,48時間)にて生菌数を測定し、下記基準で評価した。
○:21日間保管後の菌数1.0×102CFU/g未満
△:21日間保管後の菌数1.0×102CFU/g以上1.0×104CFU/g未満
×:21日間保管後の菌数1.0×104CFU/g以上
【0064】
【0065】
表2の結果から、本発明の抗菌性フィルム(実施例1及び2)は、抗菌性を持たないフィルム(比較例1)に比べて保管後のハムに含まれる乳酸菌の生菌数が少なく、乳酸菌に対する抗菌性に優れていることが確認された。また、35日間の保管後においても抗菌性が持続していることが確認された。