IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 愛知製鋼株式会社の特許一覧

特開2024-111753車両用の位置推定システム及び位置推定方法
<>
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図1
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図2
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図3
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図4
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図5
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図6
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図7
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図8
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図9
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図10
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図11
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図12
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図13
  • 特開-車両用の位置推定システム及び位置推定方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111753
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】車両用の位置推定システム及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20240809BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240809BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240809BHJP
   G05D 1/49 20240101ALI20240809BHJP
【FI】
G01C21/28
G08G1/16 C
G05D1/02 J
G05D1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016443
(22)【出願日】2023-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】椋本 博学
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
【テーマコード(参考)】
2F129
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB20
2F129BB21
2F129BB33
2F129BB48
2F129BB66
5H181AA01
5H181CC18
5H181CC24
5H181CC30
5H181FF07
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H301AA01
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC09
5H301CC10
5H301EE04
5H301FF04
5H301GG17
(57)【要約】
【課題】GNSSや自律航法による測位手法に対して、磁気マーカを利用する測位手法を組み合わることで、位置推定精度を向上できる車両用システムを提供すること。
【解決手段】磁気マーカが配設された床面あるいは路面を移動する車両の位置を推定する位置推定システム1は、磁気マーカを検出する磁気センサユニット11と、磁気マーカの位置を基準として推定される車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズとして含むパラメータを設定するパラメータ設定回路155と、パラメータ設定回路155により設定されたパラメータに基づき、予め定められた第1の直交座標上の車両位置を推定するフィルタリング回路157と、を含んでおり、パラメータ設定回路155は、第1の直交座標上の車両の向きに応じて観測ノイズを動的に変更する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気マーカが配設された床面あるいは路面を移動する車両の位置を推定するシステムであって、
前記磁気マーカを検出する検出部と、
前記磁気マーカの位置を基準として推定される車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズとして含むパラメータを設定するパラメータ設定部と、
該パラメータ設定部により設定されたパラメータに基づき、予め定められた第1の直交座標上の車両位置を推定する推定部と、を含み、
前記パラメータ設定部は、前記第1の直交座標上の車両の向きに応じて前記観測ノイズを動的に変更するように構成されている車両用の位置推定システム。
【請求項2】
請求項1において、前記パラメータ設定部は、車両の向きを基準とした第2の直交座標における前記位置的な誤差の2次元的な分散度合いを表す指標値を、前記第1の直交座標における前記位置的な誤差の2次元的な分散度合いを表す指標値に変換することにより、前記観測ノイズを動的に変更するように構成されている車両用の位置推定システム。
【請求項3】
請求項1において、前記検出部は、前記磁気マーカを利用して車両の向きを推定可能であって、
前記パラメータ設定部が設定するパラメータには、前記検出部により推定された車両の向きの方位的な誤差の分散度合いを表す指標値が、観測ノイズとして含まれており、
前記推定部は、前記パラメータに基づき、前記第1の直交座標上の車両の位置及び車両の向きを推定する車両用の位置推定システム。
【請求項4】
請求項3において、前記検出部は、前記第1の直交座標上の既知の方位に沿って配列された2つの磁気マーカのそれぞれに対する車幅方向の車両のずれ量である横偏差に基づいて前記既知の方位に対する車両の向きの角度的な偏差を推定することにより、前記第1の直交座標上の車両の向きを推定するように構成されている車両用の位置推定システム。
【請求項5】
磁気マーカが配設された床面あるいは路面を移動する車両の位置を推定する方法であって、
前記磁気マーカを磁気的に検出し、検出された磁気マーカの位置を基準として車両位置を推定する処理と、
当該推定された車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズとして含むパラメータを設定する処理と、
該パラメータに基づき、予め定められた第1の直交座標上の車両位置を推定する処理と、を含み、
前記パラメータを設定する処理において、前記第1の直交座標上の車両の向きに応じて前記観測ノイズを動的に変更する車両用の位置推定方法。
【請求項6】
請求項5において、前記パラメータを設定する処理において、車両の向きを基準とした第2の直交座標における前記位置的な誤差の2次元的な分散度合いを表す指標値を、前記第1の直交座標における前記位置的な誤差の2次元的な分散度合いを表す指標値に変換することにより、前記観測ノイズを動的に変更する車両用の位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の位置を推定するためのシステム及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、衛星電波を受信して車両位置を測位するGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用する車両用のナビゲーション装置や運転支援装置や自動運転装置などが実現されている(例えば下記の特許文献1参照。)。GNSSは、複数の人工衛星から送信されて来る衛星電波を受信できる環境下で有効に動作する。一方、トンネル内やビルの谷間など、電波の受信状態が良好でない環境では、GNSSによる測位が困難となったり、測位精度を確保できなくなることがある。
【0003】
そこで、車両用のナビゲーション装置や運転支援装置や自動運転装置などでは、GNSSによる測位に対して、自律航法(推測航法、慣性航法、Dead Reckoning)による測位を組み合わせることにより、衛星電波を受信できない環境下での車両位置の測位を可能としている(例えば下記の特許文献2参照。)。車両向けの自律航法としては、車輪速センサ、ヨーレートセンサ、加速度センサ、電子コンパス、ジャイロセンサ等を利用する各種の自律航法が知られている。
【0004】
また、床面あるいは路面に配設された磁気マーカを利用し、車両位置の測位精度の向上を図っているシステムの提案もある(例えば下記の特許文献3参照。)。このシステムでは、車両が移動しながら、路面に配設された磁気マーカを順次、検出する。車両によりいずれかの磁気マーカが検出されたときには、その磁気マーカに対する車両の横偏差が計測され、磁気マーカの敷設位置から横偏差の分だけオフセットさせることで車両位置が測位される(磁気ポジショニング)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-129671号公報
【特許文献2】特開2022-024741号公報
【特許文献3】特開2019-125136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GNSSや自律航法による測位手法に対して、磁気マーカを利用する測位手法を組み合わせれば、車両位置の推定精度を向上できる可能性が高い一方、異なる測位手法を組み合わせる場合、システム構成が複雑になったり、組合せの態様によっては却って推定精度が損なわれたり、するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、GNSSや自律航法による測位手法に対して、磁気マーカを利用する測位手法を組み合わることで、位置推定精度を向上できる車両用システム及び車両用の位置推定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、磁気マーカが配設された床面あるいは路面を移動する車両の位置を推定するシステムであって、
前記磁気マーカを検出する検出部と、
前記磁気マーカの位置を基準として推定される車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズとして含むパラメータを設定するパラメータ設定部と、
該パラメータ設定部により設定されたパラメータに基づき、予め定められた第1の直交座標上の車両位置を推定する推定部と、を含み、
前記パラメータ設定部は、前記第1の直交座標上の車両の向きに応じて前記観測ノイズを動的に変更するように構成されている車両用の位置推定システムにある。
【0009】
本発明の一態様は、磁気マーカが配設された床面あるいは路面を移動する車両の位置を推定する方法であって、
前記磁気マーカを磁気的に検出し、検出された磁気マーカの位置を基準として車両位置を推定する処理と、
当該推定された車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズとして含むパラメータを設定する処理と、
該パラメータに基づき、予め定められた第1の直交座標上の車両位置を推定する処理と、を含み、
前記パラメータを設定する処理において、前記第1の直交座標上の車両の向きに応じて前記観測ノイズを動的に変更する車両用の位置推定方法にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の位置推定システム及び位置推定方法は、磁気マーカが配設された床面あるいは路面を移動する車両の位置をパラメータに基づいて推定するシステムあるいは方法である。本発明の位置推定システム及び位置推定方法では、予め定められた第1の直交座標上の車両位置が推定される。第1の直交座標上の車両位置の推定の際には、検出された磁気マーカの位置を基準として推定される車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズとして含むパラメータに基づいて車両位置が推定される。この位置推定システム及び位置推定方法では、車両の向きに応じて観測ノイズを動的に変更することにより、推定精度の向上を図ることができる。
【0011】
本発明の位置推定システム及び位置推定方法は、車両の向きに応じて動的に観測ノイズを変更することにより精度高く車両位置を推定可能なシステムあるいは方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における、位置推定システムの説明図。
図2】実施例1における、磁気マーカの斜視図。
図3】実施例1における、車両の構成を示すブロック図。
図4】実施例1における、位置推定システムの構成を示すブロック図。
図5】実施例1における、磁気マーカを通過する際の前後方向の磁気計測値の変化を示すグラフ。
図6】実施例1における、磁気マーカの真上に磁気検出ユニットが位置するとき、各磁気センサCnによる車幅方向の磁気計測値の分布の近似曲線を示すグラフ。
図7】実施例1における、位置推定アルゴリズムの処理の流れを示すフロー図。
図8】実施例1における、磁気マーカに対する横偏差の説明図。
図9】実施例1における、磁気ポジショニングによる誤差の説明図。
図10】実施例1における、内分比r(θ)とθとの関係を表すグラフ。
図11】実施例1における、θ>π/2の場合の観測ノイズ(σX、σY)の説明図。
図12】実施例1における、θ=π/2の場合の観測ノイズ(σX、σY)の説明図。
図13】実施例2における、1つの磁気マーカを検出したのみでは車両の方位(向き)が不定となることの説明図。
図14】実施例2における、2つの磁気マーカの検出に応じて車両の方位を特定できることの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、車両位置(自車両の位置)を精度高く推定するための位置推定システム1に関する例である。この内容について、図1図12を用いて説明する。
【0014】
本例の位置推定システム1は、図1のごとく、道路に沿って配設された磁気マーカ10を利用して車両位置を推定するように構成されたシステムである。位置推定システム1では、拡張カルマンフィルタによる状態推定により、デッドレコニングによる位置推定の精度が向上されている。
【0015】
位置推定システム1が推定する車両位置は、例えば、車両2(図1)の車線維持走行や自動走行などの運転支援制御を実現するための車両ECU20に入力される。車両ECU20は、位置推定システム1が推定した車両位置を利用し、車両2の走行制御を実行する。車両ECU20は、例えば、予め設定された経路に沿って車両2を走行させるよう、図示しないエンジンスロットルアクチュエータやステアリングアクチュエータやブレーキアクチュエータ等を制御する。
【0016】
本例の構成では、車両2が走行する経路1Rに沿うよう、磁気マーカ10が2m間隔で配設されている。磁気マーカ10(図2)は、例えば、直径30mm、高さ28mmの柱状の磁石10Mよりなり、路面に穿設された収容孔(図示略)に収容されて埋設される。各磁気マーカ10の上向きの端面(磁石10Mの端面)には、無線タグ10Tが取り付けられている。磁石10M(磁気マーカ10)は、磁気双極子モーメントが軸方向に沿っている永久磁石であり、両端面が異なる磁極性を呈する。本例では、例えば、N極が上向きとなるように各磁気マーカ10が埋設される。
【0017】
無線タグ10Tは、アンテナパターンが印刷された樹脂製のフィルムシートに、ICチップが表面実装されたシート状の電子部品である。無線タグ10Tは、外部給電により動作し、予め記憶しているタグ情報を無線出力する。タグ情報は、磁気マーカ10の敷設位置を表す位置情報を含む情報である。シート状の無線タグ10Tは、磁気マーカ10の端面に貼り付けられている。
【0018】
位置推定システム1は、図3及び図4のごとく、磁気マーカ10を検出する磁気センサユニット11、車輪202に取り付けられた車輪速センサ12L・R、無線タグ10Tとの間で無線通信を実行するタグリーダ13、及び位置推定アルゴリズムを実行する演算ユニット15、等を含めて構成されている。磁気センサユニット11は、車両2の前部に配置され、タグリーダ13は車両2の後部に配置されている。
【0019】
車輪速センサ12L・R(図3図4)は、左右の車輪202(後輪)の回転速度(車輪速)を計測するセンサである。車輪速センサ12L・Rは、車輪202の車輪速の計測信号であるセンサ信号を出力する。車輪速センサ12L・Rは、操舵輪201ではなく、操舵方向が固定された車輪202に取り付けられている。車輪速センサ12L・Rが計測した車輪速を時間積分すれば、各車輪202が転動した距離を特定できる。左右の車輪202が転動した距離を比較すれば、車両2が直進状態にあるのかコーナリング状態にあるのかを特定できる。さらに、この比較に基づけば、車両2の方位(向き)の変動量(yaw角の変動量)などを特定可能である。本例の位置推定システム1では、車輪速センサ12L・Rによるセンサ信号を利用してデッドレコニングによる位置推定が実行される。
【0020】
磁気センサユニット11は、図4のごとく、複数の磁気センサCn(nは1~15の整数)や、図示しないCPU等を含む検出処理回路112、等を備えるユニットである。磁気センサユニット11は、磁気マーカ10を検出する検出部の一例である。磁気センサユニット11は棒状の細長い形状を呈している。磁気センサユニット11では、10cmの等間隔で15個の磁気センサCnが一直線上に配列されている。磁気センサユニット11は、車幅方向の中央に磁気センサC8が位置する状態で、車幅方向に沿うように車両2に取り付けられる。
【0021】
磁気センサCn(図4)は、公知のMI効果(Magneto Impedance Effect)を利用して磁気を検出するMIセンサである。MI効果は、直線的に組み込まれる感磁体(例えばアモルファスワイヤ等。)のインピーダンスが、その長手方向に作用する磁界の強さに応じて変化するという磁気的な効果である。磁気センサCnでは、互いに直交するように2本の感磁体が組み込まれ、これにより、直交する2軸方向に作用する磁気の検出が可能になっている。本例では、車両2の前後方向及び車幅方向の磁気成分を各磁気センサCnが検出できるよう、磁気センサユニット11が車両2側に取り付けられている。MIセンサである磁気センサCnは高感度であり、磁気マーカ10が作用する磁気を確実性高く検出できる。
【0022】
磁気センサユニット11の検出処理回路112(図4)は、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理などを実行する演算回路である。この検出処理回路112は、各種の演算を実行する図示しないCPU、図示しないROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリ素子、等を利用して構成されている。
【0023】
検出処理回路112は、各磁気センサCnが出力するセンサ信号を取得してマーカ検出処理を実行する。検出処理回路112は、磁気マーカ10を検出すると、その旨を表すマーカ検出結果を演算ユニット15に入力する。マーカ検出処理では、磁気マーカ10の検出に加えて、磁気マーカ10に対する車両2の横偏差が計測される。横偏差は、磁気マーカ10に対する車両2の基準点の車幅方向のずれ量である。本例では、磁気センサユニット11の中央に位置する磁気センサC8の位置が、基準点に設定されている。マーカ検出結果には、磁気マーカ10を検出した旨に加えて、検出された磁気マーカ10に対する横偏差の情報が含まれる。
【0024】
タグリーダ13(図3図4)は、磁気マーカ10に保持された無線タグ10Tと無線通信を実行する無線装置である。タグリーダ13は、無線給電により無線タグ10Tを動作させてタグ情報を無線出力させ、そのタグ情報を受信するように構成されている。上記のごとくタグ情報には、少なくとも、磁気マーカ10の敷設位置(マーカ位置)を表す位置情報が含まれている。
【0025】
タグリーダ13は、磁気センサユニット11により磁気マーカ10が検出されたとき、無線タグ10Tに対する無線給電を実行する。上記のごとく、車両2の前部の磁気センサユニット11に対し、タグリーダ13は車両2の後部に配置されている。このような位置関係は、磁気マーカ10の検出を契機としてタグリーダ13が無線給電を開始し、無線タグ10Tからタグ情報を取得する、という構成に好適である。
【0026】
演算ユニット15(図4)は、車両位置を推定する位置推定アルゴリズムを実行するユニットである。演算ユニット15は、各種の演算を実行するCPU(central processing unit)、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子、などが実装された電子基板(図示略)を備えている。
【0027】
演算ユニット15は、外部との入出力ポートを備えている。演算ユニット15が入出力ポートを介して取得する信号や情報としては、磁気センサユニット11によるマーカ検出結果、タグリーダ13によるタグ情報、車輪速センサ12L・Rのセンサ信号、等がある。マーカ検出結果には、上記のごとく、磁気マーカ10を検出した旨、及び磁気マーカ10に対する横偏差、等が含まれる。タグ情報には、上記のごとく、磁気マーカの敷設位置(マーカ位置)を表す位置情報が含まれる。
【0028】
演算ユニット15は、ROMから読み出したソフトウェアプログラムをCPUが実行することにより、以下の各回路としての機能を実現する。
(1)デッドレコニング回路151:車輪速センサ12L・Rのセンサ信号を利用するデッドレコニングにより車両位置を推定する回路。
(2)磁気ポジショニング回路153:磁気ポジショニングを実行する回路。磁気ポジショニングは、マーカ位置(磁気マーカ10の敷設位置)を基準として車両位置を測位(推定)する処理である。
(3)パラメータ設定回路155:EKF(Extended Kalman Filter、拡張カルマンフィルタ)のパラメータである観測ノイズを設定する回路。
(4)フィルタリング回路157:EKFの観測更新により車両位置の推定精度を高める回路。
【0029】
パラメータ設定回路155は、パラメータ設定部の一例をなし、磁気ポジショニングにより測位された車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズとして含むパラメータを設定する。磁気ポジショニングは、磁気マーカ10の位置(マーカ位置)を基準として車両位置を測位(推定)する処理である。
【0030】
フィルタリング回路157は、推定部の一例をなし、パラメータ設定回路155により設定されたパラメータに基づき、グローバル座標(第1の直交座標の一例であるXY座標)上の車両位置を推定する。パラメータ設定回路155は、グローバル座標(XY座標)上の車両2の方位(向き)に応じて観測ノイズを動的に変更するパラメータ設定部の一例である。
【0031】
本例の位置推定アルゴリズムは、拡張カルマンフィルタ(EKF)を利用するアルゴリズムである。位置推定アルゴリズムでは、状態方程式と観測方程式とが設定されている。状態方程式は、車両位置の情報を含む状態を表す方程式である。状態方程式は、過去の状態から新たな状態を推定するために利用される。観測方程式は、車両位置の情報を含む状態に基づいて観測値を推定するための方程式である。観測値は、上記の磁気ポジショニングにより測位される車両位置である。
【0032】
次に、(a)マーカ検出処理、及び(b)位置推定アルゴリズムによる処理、の内容を順番に説明する。さらに、位置推定アルゴリズムにおいて重要な、(c)観測ノイズの動的な変更方法について説明する。
【0033】
(a)マーカ検出処理
マーカ検出処理は、磁気センサユニット11が実行する処理である。磁気センサユニット11は、3kHzの周波数でマーカ検出処理を実行する。磁気センサCnは、上記の通り、車両2の前後方向の磁気成分および車幅方向の磁気成分を計測可能である。例えばこの磁気センサCnが、車両2の前後方向に沿って移動して磁気マーカ10の真上を通過するとき、前後方向の磁気計測値は、図5のごとく磁気マーカ10の前後で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように時間的に変化する。
【0034】
車両2の走行中では、いずれか一の磁気センサCnが検出する前後方向の磁気計測値について、その正負が反転するゼロクロスZc1が生じたとき、磁気センサユニット11が磁気マーカ10の真上に位置すると判断できる。検出処理回路112は、このように前後方向の磁気計測値のゼロクロスZc1が生じた場合、磁気マーカ10を検出したと判断する。
【0035】
ただし、磁気マーカ10の真上に磁気センサユニット11が位置したときに直ちに磁気マーカ10を検出することは困難である。ゼロクロスZc1よりも時間的に前の期間のみならず、ゼロクロスZc1よりも時間的に後の期間における磁気計測値(前後方向の磁気計測値)の変化を取得できない限り、ゼロクロスZc1を検出できないからである。本例のマーカ検出処理では、磁気センサユニット11が磁気マーカ10の真上を通過した後、磁気マーカ10から200mm離れるまでの期間における磁気計測値の変化が、ゼロクロスZc1を検出するために必要である。なお、ゼロクロスZc1の検出に要する期間は、磁気マーカのサイズや磁力、磁気センサユニットの取付高さ、等によって異なる。ゼロクロスZc1の検出に要する期間は、必要に応じて適宜、設定可能である。
【0036】
また例えば、磁気センサCnと同じ仕様の磁気センサについて、磁気マーカ10の真上を通過する車幅方向の直線に沿う移動を仮想してみる。この磁気センサによる車幅方向の磁気計測値は、磁気マーカ10を挟んだ両側で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。15個の磁気センサCnが車幅方向に配列されている磁気センサユニット11の場合、磁気マーカ10の位置に対して左右、どちらの側に位置する磁気センサCnであるかによって、車幅方向の磁気計測値の正負が異なってくる(図6)。
【0037】
図6は、各磁気センサCnの車幅方向の磁気計測値の分布の近似曲線を例示している。同図の分布では、磁気計測値の正負が反転するゼロクロスZc2が、磁気マーカ10の真上に現れる。磁気マーカ10の車幅方向の位置は、ゼロクロスZc2を挟んで隣り合う2つの磁気センサCnの中間の位置として特定可能である。
【0038】
検出処理回路112は、磁気マーカ10に対する車両2の車幅方向のずれ量である横偏差を計測する。本例では、磁気センサユニット11の中央の磁気センサC8の位置が、車両2の基準点として設定されている。例えば図6の場合、磁気マーカ10に対応するゼロクロスZc2の位置がC9とC10との中間辺りのC9.5に相当する位置となっている。上記のように磁気センサC9とC10の間隔は10cmであるから、磁気マーカ10に対する車両2の横偏差(車幅方向のずれ量)は、(9.5-8)×10cm=15cmとなる。
【0039】
(b)位置推定アルゴリズムによる処理(位置推定処理という)
位置推定処理は、第1の直交座標の一例であるXY座標上の車両位置を推定(測位)する処理である。図7のフロー図を参照して演算ユニット15による位置推定処理の流れを説明する。なお、車両2の位置を原点とし車両2の方位を基準とするローカル座標であるxy座標(第2の直交座標の一例)に対し、XY座標は車両2の位置や方位に依存しないグローバル座標である。
【0040】
演算ユニット15は、車輪速センサ12L・Rによるセンサ信号(車輪速の計測信号)をプログラムの実行周期毎に取得し(S11)、デッドレコニングによる車両位置の推定を実行する(S12)。デッドレコニングによる位置推定では、車両2の位置と共に方位(向き)が推定される。また、演算ユニット15は、磁気センサユニット11によるマーカ検出結果を取得し(S13)、磁気マーカ10が検出されたか否かを判断する(S14)。磁気マーカ10が未検出の場合(S14:NO)、ステップS12で推定された車両位置がそのまま、位置推定処理の結果として出力される。
【0041】
一方、磁気マーカ10が検出された場合には(S14:YES)、演算ユニット15は、ステップS22~S25の一連の処理を実行することにより、グローバル座標であるXY座標上の車両位置の情報を含む状態の推定を実行する(状態推定)。
【0042】
演算ユニット15は、磁気マーカ10が検出されると(S14:YES)、マーカ位置を起点として、マーカ検出処理で計測された横偏差の分だけ位置をずらすことで車両位置を測位する(S22、磁気ポジショニング)。そして、演算ユニット15は、磁気ポジショニングにより測位された車両位置の誤差に基づいて観測ノイズ(σX、σY)を設定する(S23)。観測ノイズ(σX、σY)は、EKFのパラメータのひとつであり、車両2の方位に応じて動的に変更される。なお、観測ノイズの動的な変更方法は、本例の構成を技術的に特徴付ける点のひとつであり、後で詳しく説明する。
【0043】
演算ユニット15は、観測ノイズ(σX、σY)に基づいて観測誤差の共分散行列を設定し(S24)、この共分散行列を用いて観測更新を実行する(S25)。演算ユニット15は、EKFによる観測更新を実行することで、車両位置を補正し、位置推定精度を高める。観測更新は、周知のカルマンゲインによる補正である。観測更新は、パラメータに基づいて予め定められた第1の直交座標上の車両位置を推定する処理の一例である。
【0044】
(c)観測ノイズの動的な変更方法
観測ノイズの動的な変更方法を説明するに当たって、まず、磁気ポジショニングによる測位誤差の発生傾向を説明する。マーカ位置に基づいて車両位置を測位する磁気ポジショニングでは、車両2の前後方向に沿う測位誤差が、次に説明する通り、車両2の車幅方向に沿う測位誤差よりも大きくなるという傾向がある。
【0045】
マーカ検出処理は、図5中のゼロクロスZc1を検出することにより磁気マーカ10を検出する処理である。上記のごとく、磁気センサユニット11が磁気マーカ10の直上に至ったとき、直ちにゼロクロスZc1を検出することは不可能である。本例の構成では、磁気マーカ10の検出タイミングは、上記のごとく、車両2が磁気マーカ10を通過してから、およそ200mm走行した後の時点である。
【0046】
マーカ検出処理では、図8のごとく、マーカ位置の座標(Xm、Ym)と、計測された横偏差OFと、により、まず、磁気マーカ10の直上を通過時の車両位置(Xk、Yk)が計算される。そして、磁気マーカ10通過時の車両位置(Xk、Yk)と、検出タイミングに達するまでの車輪速情報等に基づき、デッドレコニングに相当する処理によって検出タイミングでの車両位置(Xo、Yo)の座標が計算される。
【0047】
そしてEKFによる車両位置の補正(観測更新)には、デッドレコニングに相当する処理によって求めた検出タイミングでの車両位置(Xo、Yo)が利用される。このとき、上記の200mmの走行区間におけるデッドレコニングの推定誤差が、磁気ポジショニングによる測位誤差となる。真横には移動しないという車両2の運動特性に起因し、デッドレコニングによる推定誤差は縦長となる。それ故、磁気ポジショニングによる測位誤差は、図9の通り、縦長となる。車両2の前後方向の誤差σLおよび車幅方向の誤差σWは、車両2の位置及び方位を基準としたローカル座標であるxy座標上の誤差である。誤差(σW、σL)は、磁気ポジショニングにより測位された車両位置のローカル座標における位置的な誤差の2次元的な分散度合いを表す指標値の一例である。
【0048】
本例では、ローカル座標であるxy座標上の誤差(σW、σL)を、グローバル座標であるXY座標上の誤差(σX、σY)に変換している。この変換により、磁気マーカ10の検出タイミングにおける車両の方位θ(向き、yaw角)に応じて、観測ノイズ(σX、σY)が動的に変更される。観測ノイズ(σX、σY)は、磁気ポジショニングにより測位された車両位置(Xo、Yo)(図8参照。)の2次元的な分散度合いを表す指標値の一例である。
【0049】
本例では、車幅方向の誤差σWおよび車両2の前後方向の誤差σLを、r(θ):1-r(θ)で内分する次式により、観測ノイズ(σX、σY)に変換している。なお、方位θは、X軸に沿う方向のときがゼロ及びπ、Y軸に沿う方向のときがπ/2、3π/2とする。
(数1)
【0050】
内分比r(θ)は次式で表される値であり、方位θと内分比r(θ)との関係は図10のような三角波をなす関係となる。
(数2)
【0051】
上記の式1により変換される観測ノイズ(σX、σY)について、図11及び図12を例示して説明する。これらの図では、3種類の誤差円が例示されている。第1の誤差円(実線)は、車両2の方位θに応じて観測ノイズを動的に変更しない場合の誤差円である。第2の誤差円(破線)は、磁気ポジショニングによって測位される車両位置の位置的な誤差(σW、σL)により規定される楕円であって、その長軸が車両2の方位(向き)に応じて変動する誤差円である。第2の誤差円は、車両基準のローカル座標系であるxy座標(図9参照。)における誤差円(σW、σL)である。第3の誤差円(点線)は、上記の式1により変換される観測ノイズ(σX、σY)の誤差円である。第1の誤差円は、磁気ポジショニングの位置的な誤差(σW、σL)のうちの大きい方のσLにより規定される直径σLの誤差円である。直径σLの真円の誤差円であれば、車両2の方位θに関わらず、磁気ポジショニングに係る誤差円(σW、σL)を包含できる。第1の誤差円(σL、σL)では、車両2の前後方向に比べて車幅方向の誤差が少ないという磁気ポジショニングの測位誤差(推定誤差)の傾向が反映されていない。
【0052】
上記の式1により変換される観測ノイズ(σX、σY)の誤差円(点線で示される第3の誤差円)は、例えば図11のごとく、長軸及び短軸がX軸あるいはY軸に沿う楕円であると共に、誤差円(σW、σL)と重なる面積が大きく、はみ出す面積が小さい、誤差円である。なお、図11は、車両2の方位θが、π/2を若干超えて、Y軸から傾いた場合の例示である。
【0053】
例えば図12は、車両2の向きがY軸に沿っておりθ=π/2の場合の誤差円(σW、σL)及び誤差円(σX、σY)の例示である。この場合、ローカル座標であるxy座標の座標軸と、グローバル座標であるXY座標の座標軸と、が一致する。そのため、ローカル座標であるxy座標上の誤差(σW、σL)が、そのまま、グローバル座標であるXY座標上の誤差(σX、σY)となる。
【0054】
磁気ポジショニングによる誤差(σW、σL)は、車両2の位置及び向き(方位)を基準としたローカル座標上で規定されるものである。それ故、このローカル座標上の誤差(σW、σL)がグローバル座標上に座標変換された観測ノイズ(σX、σY)は、車両2の方位θに応じて動的に変化するものとなる。この観測ノイズ(σX、σY)は、磁気ポジショニングによる測位誤差(σW、σL)の発生傾向を反映したものである。この観測ノイズ(σX、σY)は、図11及び図12で例示した第1の誤差円(σL、σL)よりも精度が高いものとなっている。それ故、観測ノイズ(σX、σY)を利用すれば、状態推定の精度を向上でき、車両位置の推定精度を高めることができる。
【0055】
本例では、EKFの観測値である磁気ポジショニングによる車両位置の観測ノイズ(σX、σY)を、上記のように車両2の方位に応じて動的に変更することにより、EKFにおける観測更新の精度を高めている。観測更新の精度を高くできれば、状態推定による車両位置の推定精度を向上できる。
【0056】
以上のように構成された本例の位置推定システム1は、磁気マーカ10が配設された路面を移動する車両2の位置を、位置推定のためのパラメータに基づいて推定するシステムである。この位置推定システム1では、磁気ポジショニングにより測位された車両位置の位置的な誤差の分散度合いを表す指標値を、観測ノイズ(σX、σY)として含むパラメータが設定される。そして、位置推定システム1では、観測ノイズ(σX、σY)を含むパラメータに基づき、第1の直交座標の一例であるグローバル座標上の車両位置が推定される。
【0057】
磁気マーカ10の位置に基づいて車両位置を測位する磁気ポジショニングによる位置的な誤差の度合いは、車両2の前後方向と車幅方向とで違いが生じる傾向がある。そこで本例では、このような違いを考慮し、車両2の方位に応じて観測ノイズを動的に変更することで車両位置の推定精度の向上を図っている。
【0058】
本例では、EKFのパラメータとして観測ノイズを例示している。観測ノイズに加えて、車輪速センサの計測対象のタイヤ径(スケールファクタ)や、車両2の重心位置や、車両2のトレッド幅等を、パラメータに含めることも良い。この場合には、車両2の走行特性を反映でき、車両位置の推定精度を向上できる。さらに、ヨーレートセンサや加速度センサ等のセンサをデッドレコニングに利用する場合には、ヨーレートセンサのバイアスや、加速度センサのバイアス等のセンサパラメータを、EKFのパラメータに含めることも良い。
【0059】
さらに、車両2のイグニッションスイッチがOFF状態へ切り替えられたとき、デッドレコニングに用いられるセンサパラメータの推定値を保存することも良い。イグニッションスイッチがON状態に切り替えられたときに、保存したセンサパラメータの推定値を読み出すと良い。この場合には、センサパラメータが初期値から収束するまでの期間を短縮できる。
【0060】
本例では、状態推定の手法として拡張カルマンフィルタ(EKF)を例示している。状態推定の手法はEKFに限定されず、例えばパーティクルフィルタ(PF)等を採用することも良い。なお、EKFの観測誤差共分散行列の成分のうち、方位θに対応する対角成分の大きさによって上記のσWを大きくすることも良い。
【0061】
(実施例2)
本例は、実施例1の位置推定システム1に基づき、磁気ポジショニングにより車両位置(自車両の位置)に加えて車両の方位を推定する例である。この内容について、図13及び14を参照して説明する。
【0062】
実施例1の構成では、磁気ポジショニングにより車両位置を測位する一方、車両の方位(向き)を推定していない。実施例1では、観測ノイズを動的に変更するに当たって、デッドレコニングにより推定された車両の方位を利用する構成を例示している。
【0063】
一方、本例では、磁気ポジショニングにより測位された車両の方位を利用し、観測ノイズ(σX、σY)を動的に変更している。本例の状態方程式は、車両位置及び車両の方位の情報を含む状態を表す方程式である。本例の構成では、EKFによる状態推定により、車両位置に加えて、グローバル座標における車両の方位が推定される。
【0064】
本例の観測方程式は、車両位置及び車両の方位θの情報を含む状態に基づいて観測値を推定するための方程式である。さらに、本例の観測ノイズには、(σX、σY)に加えて、車両の方位θの誤差σθが含まれている。そして、本例では、観測ノイズ(σX、σY、σθ)に基づいて観測ノイズの共分散行列を設定している。σθは、検出部の一例である磁気センサユニット11により推定された車両の方位θの角度的な誤差の分散度合いを表す指標値の一例である。
【0065】
また、本例の構成では、磁気マーカ10の敷設仕様及びタグ情報が実施例1とは相違している。本例では、実施例1と同様、経路に沿って2m間隔でN極の磁気マーカ10Nが配設されているのに加えて、各磁気マーカ10Nに対してS極の磁気マーカ10Sが付設されている(図14参照。)。S極の磁気マーカ10Sは、対応する磁気マーカ10Nよりも時間的に先行して検出可能なように75cm上流に配設されている。
【0066】
実施例1と同様、N極の磁気マーカ10Nには無線タグが取り付けられている一方、S極の磁気マーカ10Sには無線タグは取り付けられていない。N極の磁気マーカ10Nの無線タグは、マーカ位置を表す位置情報に加えて、方位情報を含むタグ情報を出力する。方位情報は、S極の磁気マーカ10SとN極の磁気マーカ10Nとを結ぶ方向dirVを表す情報である。
【0067】
まず、実施例1のように磁気マーカ10を1つのみ利用する場合には車両の方位の推定が難しい理由を、図13を参照しながら説明する。1つの磁気マーカ10に対する横偏差OFが計測された場合、磁気センサユニット11の中央の磁気センサC8が取り得る位置として図13中の半径OFの円を特定できる。しかし、磁気センサC8が取り得る位置は、半径OFの円周上において不定である。このように、1つの磁気マーカ10に対する横偏差OFが特定されただけでは、磁気センサユニット11の姿勢(向き)が不定であり、車両の方位を推定することは困難である。
【0068】
一方、本例の構成では、図14のごとく、S極の磁気マーカ10SとN極の磁気マーカ10Nの組合せを車両が通過する際、各磁気マーカ10で計測された横偏差OF1、OF2を利用して車両の方位を推定している。隣り合う2つの2つの磁気マーカ10S、10Nに対する横方向OF1、OF2が計測されている場合、第1の磁気マーカ10Sを中心とした半径OF1の円と、第2の磁気マーカ10Nを中心とした半径OF2の円と、を特定できる。この場合には、2つの円に対する共通接線Comが定まり、共通接線Comに対する円の接点を磁気センサC8の位置として特定できる。共通接線Comは車両の移動軌跡に一致し、共通接線Comの方向が車両の方位(向き)となる。
【0069】
本例の構成では、上記のごとく、磁気マーカ10Sと磁気マーカ10Nとを結ぶ方向dirV(マーカ方向)が、タグ情報によって既知の方位となっている。絶対方位であるマーカ方向に対する共通接線Comの角度的な偏差を推定することで、共通接線Comの絶対方位、すなわち車両の絶対方位(XY座標上の車両の向き)の特定が可能である。
【0070】
本例では、実施例1と同様、拡張カルマンフィルタ(EKF)を利用する位置推定アルゴリズムを利用して車両位置が推定される。実施例1との相違点は、状態方程式が車両位置及び車両の方位の情報を含む状態を表す方程式である点、観測方程式が車両位置及び車両の方位の情報を含む状態に基づいて観測値を推定するための方程式である点、状態推定により車両位置に加えて車両の方位が推定される点、等にある。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0071】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している
【符号の説明】
【0072】
1 位置推定システム
10 磁気マーカ
11 磁気センサユニット(検出部)
15 演算ユニット(推定部)
155 パラメータ設定回路(パラメータ設定部)
157 フィルタリング回路(推定部)
2 車両
20 車両ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14