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特開2024-111792絶縁ゲート型半導体装置及び絶縁ゲート型半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111792
(43)【公開日】2024-08-19
(54)【発明の名称】絶縁ゲート型半導体装置及び絶縁ゲート型半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240809BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
H01L29/78 301B
H01L29/78 652K
H01L29/78 658F
H01L29/78 658A
H01L29/78 658E
H01L29/78 652T
H01L29/78 301G
H01L21/316 S
H01L21/316 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115789
(22)【出願日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2023016260
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】渡部 平司
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓真
(72)【発明者】
【氏名】志村 考功
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 豊
(72)【発明者】
【氏名】大内 祐貴
【テーマコード(参考)】
5F058
5F140
【Fターム(参考)】
5F058BA20
5F058BB01
5F058BC02
5F058BF02
5F058BF04
5F058BF07
5F058BF12
5F058BF23
5F058BF29
5F058BF56
5F058BF62
5F058BF63
5F058BH03
5F058BH04
5F140AA06
5F140BA02
5F140BA20
5F140BD01
5F140BD06
5F140BE07
5F140BE08
5F140BE10
5F140BE17
5F140BF01
5F140BF04
5F140BF05
5F140BJ08
5F140BK34
(57)【要約】
【課題】界面準位密度の低減ができ、半導体装置の信頼性の劣化を抑制することが可能な絶縁ゲート型半導体装置及び絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化シリコンからなるチャネル形成領域の上面にシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、窒素原子を含むガスでゲート絶縁膜を熱処理することで、ゲート絶縁膜と炭化シリコンとの界面を窒化処理して、チャネル形成領域とゲート絶縁膜との界面に中間窒化層を形成する工程と、二酸化炭素ガスと窒素ガスとの混合ガスでゲート絶縁膜を熱処理することで、ゲート絶縁膜中の窒素原子の一部を除去し、界面に窒化終端層を形成する工程と、ゲート絶縁膜の上に、チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極を形成する工程とを含む。二酸化炭素ガスに対する窒素ガスの比が0.25以上、0.75以下の割合である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化シリコンからなるチャネル形成領域の上面にシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、
窒素原子を含むガスで前記ゲート絶縁膜を熱処理することで、前記ゲート絶縁膜と前記チャネル形成領域との界面の炭化シリコンを窒化処理して、前記界面に中間窒化層を形成する工程と、
二酸化炭素ガスと窒素ガスとの混合ガスで前記ゲート絶縁膜を熱処理することで、前記ゲート絶縁膜中の窒素原子の一部を除去し、前記界面に窒化終端層を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜の上に、前記チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記二酸化炭素ガスに対する前記窒素ガスの比が0.25以上、0.75以下であることを特徴とする絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記窒化終端層は、前記混合ガス中で、800℃以上、1400℃未満の温度で熱処理して形成されることを特徴とする請求項1に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記チャネル形成領域の前記上面の面方位が(0001)面であり、前記窒化終端層が1000℃以上、1300℃以下の温度で熱処理して形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記チャネル形成領域の前記上面の面方位が(000-1)面、(11-20)面、及び(1-100)面のいずれかであり、前記窒化終端層が900℃以上、1200℃以下の温度で熱処理して形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項5】
炭化シリコンからなるチャネル形成領域の上面に設けられたシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜と、
前記チャネル形成領域と前記ゲート絶縁膜との界面の前記チャネル形成領域の炭化シリコンが窒素と結合した窒化終端層と、
前記ゲート絶縁膜の上に設けられ、前記チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極と
を備え、
前記窒化終端層が設けられた前記界面をX線光電子分光法で測定したときの窒素の1s軌道に起因するスペクトル信号の強度INと前記チャネル形成領域に由来するシリコンの2p軌道に起因するスペクトル信号の強度ISiとの強度比IN/ISiに関して、前記界面から2nm以上3nm以下の間の前記ゲート絶縁膜を残したときの第1の強度比IN/ISiに対して、前記ゲート絶縁膜を除去したときの前記窒化終端層での第2の強度比IN/ISiが0.65以上であることを特徴とする絶縁ゲート型半導体装置。
【請求項6】
前記ゲート絶縁膜の中に、前記ゲート絶縁膜の伝導帯下端から2.2eVより深く、3.2eV以下のエネルギ準位を有する電子トラップの密度が3×1011cm-2/eV以下であることを特徴とする請求項5に記載の絶縁ゲート型半導体装置。
【請求項7】
前記ゲート絶縁膜の中に、前記ゲート絶縁膜の伝導帯下端から2.6eVより深く、3.2eV以下のエネルギ準位を有する電子トラップの密度が1×1010cm-2/eV以下であることを特徴とする請求項6に記載の絶縁ゲート型半導体装置。
【請求項8】
前記チャネル形成領域の前記上面の面方位が(0001)面であり、前記第2の強度比IN/ISiが、0.02以上、0.03以下であることを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体装置。
【請求項9】
前記チャネル形成領域の前記上面の面方位が(000-1)面、(11-20)面、及び(1-100)面のいずれかであり、前記第2の強度比IN/ISiが、0.05以上、0.08以下であることを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ゲート型半導体装置及び絶縁ゲート型半導体装置の製造方法に係り、特に炭化シリコン(SiC)を用いた絶縁ゲート型半導体装置及び絶縁ゲート型半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCを用いたMOSFETでは、半導体層上にゲート絶縁膜を形成する際に、高密度の界面準位ができる。ゲート絶縁膜形成後に窒素原子(N)を含有するガス中で加熱する窒化処理でゲート絶縁膜と半導体層との界面に窒化終端層を形成して、界面準位密度(Dit)を低減することが可能である。しかし、バイアス印加ストレスに対してゲート閾値電圧の変動が生じ、信頼性の劣化を招くという問題がある。特許文献1では、窒化処理後に二酸化炭素(CO2)ガスによる熱処理でゲート閾値電圧変動を改善している。しかし、界面準位密度の低減が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021‐86896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、上記問題点を鑑み、半導体装置の信頼性劣化を抑制することができ、界面準位密度の低減が可能な絶縁ゲート型半導体装置及び絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、(a)炭化シリコンからなるチャネル形成領域の上面にシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、(b)窒素原子を含むガスでゲート絶縁膜を熱処理することで、ゲート絶縁膜と炭化シリコンとの界面を窒化処理して、チャネル形成領域とゲート絶縁膜との界面に中間窒化層を形成する工程と、(c)二酸化炭素ガスと窒素ガスとの混合ガスでゲート絶縁膜を熱処理することで、ゲート絶縁膜中の窒素原子の一部を除去し、界面に窒化終端層を形成する工程と、(d)ゲート絶縁膜の上に、チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極を形成する工程とを含み、二酸化炭素ガスに対する窒素ガスの比が0.25以上、0.75以下である絶縁ゲート型半導体装置の製造方法であることを要旨とする。
【0006】
本発明の他の態様は、(a)炭化シリコンからなるチャネル形成領域の上面に設けられたシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜と、(b)チャネル形成領域とゲート絶縁膜との界面のチャネル形成領域の炭化シリコンが窒素と結合した窒化終端層と、(c)ゲート絶縁膜の上に設けられ、チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極とを備え、窒化終端層が設けられた界面をX線光電子分光法で測定したときの窒素の1s軌道に起因するスペクトル信号の強度INとチャネル形成領域に由来するシリコンの2p軌道に起因するスペクトル信号の強度ISiとの強度比IN/ISiに関して、界面から2nm以上3nm以下の間のゲート絶縁膜を残したときの第1の強度比IN/ISiに対して、ゲート絶縁膜を除去したときの窒化終端層での第2の強度比IN/ISiが0.65以上である絶縁ゲート型半導体装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、半導体装置の信頼性劣化を抑制することができ、界面準位密度の低減が可能な絶縁ゲート型半導体装置及び絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図2】実施形態に係る絶縁ゲート構造の評価に用いるMOSキャパシタの製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
図3】実施形態に係る絶縁ゲート構造の評価に用いるMOSキャパシタの製造方法の図2に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図4】実施形態に係る絶縁ゲート構造の評価に用いるMOSキャパシタの製造方法の図3に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図5】実施形態に係る絶縁ゲート構造の評価に用いるMOSキャパシタの製造方法の図4に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図6】比較例2のMOSキャパシタの一例を示す断面概略図である。
図7】MOSキャパシタの酸化膜界面近傍の評価に用いるSi2pのXPSスペクトルの一例を示す図である。
図8】MOSキャパシタの酸化膜界面近傍の評価に用いるN1sのXPSスペクトルの一例を示す図である。
図9】Si面MOSキャパシタの酸化膜界面近傍の強度比の測定結果の一例を示す図である。
図10】Si面MOSキャパシタの酸化膜界面近傍の規格化強度比の測定結果の一例を示す図である。
図11】Si面MOSキャパシタの評価結果の一例を示す表である。
図12】m面MOSキャパシタの酸化膜界面近傍の強度比の測定結果の一例を示す図である。
図13】m面MOSキャパシタの酸化膜界面近傍の規格化強度比の測定結果の一例を示す図である。
図14】m面MOSキャパシタの評価結果の一例を示す表である。
図15】実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
図16】実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の図15に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図17】実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の図16に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図18】実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の図17に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図19】実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の図18に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図20】実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の図19に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
図21】比較例7の絶縁ゲート型半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図22】実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の評価結果の一例を示す表である。
図23】絶縁ゲート型半導体装置のゲート絶縁膜の通電試験の概要を説明するバンド図である。
図24】絶縁ゲート型半導体装置のゲート絶縁膜の通電試験による電子トラップ状態を説明する図である。
図25】絶縁ゲート型半導体装置のゲート絶縁膜の電子トラップ測定系の概要を説明する図である。
図26】絶縁ゲート型半導体装置のゲート絶縁膜の電子トラップの評価方法を説明する図である。
図27】実施例7のゲート絶縁膜の電子トラップの評価結果を示す図である。
図28】比較例7のゲート絶縁膜の電子トラップの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。
【0010】
本明細書においてMOSトランジスタのソース領域は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のエミッタ領域として選択可能な「一方の主電極領域(第1主電極領域)」である。又、MOS制御静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)等のサイリスタにおいては、一方の主電極領域はカソード領域として選択可能である。MOSトランジスタのドレイン領域は、IGBTにおいてはコレクタ領域を、サイリスタにおいてはアノード領域として選択可能な半導体装置の「他方の主電極領域(第2主電極領域)」である。本明細書において単に「主電極領域」と言うときは、当業者の技術常識から妥当な第1主電極領域又は第2主電極領域のいずれかを意味する。
【0011】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。また以下の説明では、第1導電型がp型、これと反対となる第2導電型がn型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をn型、第2導電型をp型としても構わない。またnやpに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物密度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じnとnとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物密度が厳密に同じであることを意味するものではない。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0012】
本発明の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置は、ゲート絶縁膜にシリコン酸化膜(SiO2)膜を用いた横型MOSFETである。図1に示すように第1導電型(p型)の炭化シリコン(SiC)半導体からなるチャネル形成領域(ベース領域)3を備え、チャネル形成領域3の表面に反転チャネルを形成する。チャネル形成領域3の上部には、高不純物密度の第2導電型(n+型)の主電極領域4a、4b、例えばソース領域(第1主電極領域)4a及びドレイン領域(第2主電極領域)4bが選択的に設けられる。ソース領域4a及びドレイン領域4bを跨いでチャネル形成領域3の上面に、窒素(N)で終端された窒化終端層6を介して絶縁ゲート型電極構造(5,7)が設けられる。絶縁ゲート型電極構造(5,7)は、SiO2膜からなるゲート絶縁膜5及びゲート絶縁膜5上のゲート電極(制御電極)7で構成される。ゲート電極7は、チャネル形成領域3の表面ポテンシャルを、ゲート絶縁膜5を介して静電的に制御して、チャネル形成領域3の表面に反転チャネルを形成する。
【0013】
窒化終端層6は、ゲート絶縁膜5及びチャネル形成領域3の界面を窒化処理した後に二酸化炭素(CO2)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(CO2+N2混合ガス)によって熱処理して設ける。窒化処理によって、SiO2膜とSiC半導体層との界面でSiCと結合した窒素(N)によるNパッシベーションが生成される。MOSFETのゲート絶縁膜5であるSiO2膜として、酸素(O2)ドライ酸化やウェット酸化等の熱酸化膜、あるいはスパッタ、熱化学気相堆積(CVD)、及びプラズマCVD等の堆積酸化膜が採用可能である。ゲート電極7の材料としては、アルミニウム(Al)等の金属膜、燐(P)等の不純物を高濃度に添加したポリシリコン層(ドープドポリシリコン層)等が使用可能である。
【0014】
チャネル形成領域3は、図1に示すように、n型のSiC半導体からなる基板1の上にエピタキシャル成長して設けられる。また、ソース領域4a及びドレイン領域4bにそれぞれ物理的に接するようにソース電極(第1主電極)8a及びドレイン電極(第2主電極)8bが設けられる。ソース電極8a及びドレイン電極8bは、それぞれソース領域4a及びドレイン領域4bにオーミック接続されている。ソース電極8a及びドレイン電極8bは、例えば、Alからなる単層膜や、ニッケルシリサイド(NiSix)、窒化チタン(TiN)、Alの順で積層された金属膜が使用可能である。なお、図示は省略したが、ソース電極8aとチャネル形成領域3とを電気的に接続するp+型のコンタクト領域がソース領域4aと分離して、チャネル形成領域3に配置されている。
【0015】
SiC結晶には結晶多形が存在し、主なものは立方晶の3C、及び六方晶の4H、6Hである。室温における禁制帯幅は3C-SiCでは2.23eV、4H-SiCでは3.26eV、6H-SiCでは3.02eVの値が報告されている。本発明の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、4H-SiCを用いて説明する。実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置においては、基板1はSiCからなる半導体基板(SiC基板)を用いる。SiC基板を用いた場合、チャネル形成領域3はSiCからなるエピタキシャル層(SiCエピ層)で構成された構造を例示する。SiC基板の面方位は、(0001)面(Si面)を用いて説明するが、(11-20)面(a面)、(1-100)面(m面)、及び(000-1)面(C面)を用いてもよい。
【0016】
図1に示すように、実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、ゲート電極7に電圧を印加してゲート絶縁膜5とチャネル形成領域3との界面にチャネルとなる反転層を形成する。このとき、ソース電極8aとドレイン電極8b間に電圧を印加することで、ソース領域4aからキャリア(電子)がチャネルに注入される。注入されたキャリアは、チャネルを走行してドレイン領域4bに流れ込む。
【0017】
通常、ゲート絶縁膜5に用いるSiO2膜を熱酸化法等で形成すると、SiO2膜とSiC半導体層の界面に炭素(C)原子が残留し、高密度の界面準位が形成される。界面準位に電子が捕獲されると、クーロン散乱等により電子移動度が低下する。SiO2膜とSiC半導体層の界面をN原子で終端するNパッシベーションで、界面準位密度を低減する方法が提案されている。しかし、SiO2膜とSiC半導体層の界面に高濃度窒化領域を形成すると、SiO2膜中に入った窒素原子(N)により正孔トラップが生成される。そのため、ゲート負電圧印加ストレスに対して、ゲート閾値電圧変動が生じる負バイアス温度不安定性(NBTI)によって、駆動条件によっては半導体装置の動作信頼性が確保できないという問題がある。NBTIを改善するために、SiO2膜とSiC半導体層の界面近傍のN濃度を抑えるように規定すると、界面を不動態化するSiCと結合したN原子の量が減少するため、界面準位密度が増加して電子移動度が低下する。また、正バイアス印加ストレスに対するゲート閾値電圧変動が生じる正バイアス温度不安定性(PBTI)によって半導体装置の動作信頼性を確保することが困難となる。
【0018】
実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、窒化処理してゲート絶縁膜5及びチャネル形成領域3の界面に形成した中間窒化層をCO2ガスとN2ガスとの混合ガス流中で熱処理して窒化終端層6を設ける。熱処理は、大気圧でCO2+N2混合ガスを一定流量比で流しながら行う。CO2+N2混合ガス雰囲気熱処理によって、SiO2膜とSiC半導体層との界面をパッシベーションするN原子の面密度の減少を防ぎつつ、界面近傍、例えば3nm程度以内のゲート絶縁膜5中のN原子含有量を低減する。その結果、半導体装置のゲート閾値電圧の変動による信頼性劣化を抑制することができ、界面準位密度の低減による高電子移動度の確保が可能となる。
【0019】
(MOSキャパシタ)
半導体装置のゲート閾値電圧の変動は、例えば、MOSキャパシタのフラットバンド電圧(Vfb)のシフトによって評価できる。そこで、実施形態に係る絶縁ゲート構造に相当するMOSキャパシタを作製してMOSキャパシタの界面特性を評価した。図2図5に示す工程図を用いて、実施形態に係る絶縁ゲート構造に相当するMOSキャパシタの製造方法を説明する。SiC基板の面方位として、(0001)面(Si面)及び(1-100)面(m面)を用いて説明するが、他の面方位であってもよい。なお、以下に述べるMOSキャパシタの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0020】
まず、窒素(N)等のn型不純物が添加されたn型のSiC基板(基板)2を用意する。基板2は4H-SiC基板であり、面方位が(0001)面(Si面)、または(1-100)面(m面)である。まず、基板2を過酸化水素にアルカリや酸を加えて加熱して洗浄するRCA洗浄し、フッ化水素(HF)処理して乾燥する。図2に示すように、洗浄した基板2の上面に、100%O2ガス雰囲気中、1200℃程度の温度で160分間程度加熱して50nm程度のSiO2からなる酸化膜5aを形成する。酸化膜5aとして、ドライ酸化膜を例示したが、ウェット酸化膜でもよく、また、熱CVD、プラズマCVD等による堆積酸化膜でもよい。例えば、減圧熱CVDでシラン(SiH4)ガスと酸素(O2)ガスを用いて、0.2Pa程度の圧力、600℃程度の温度で酸化膜5aを堆積してもよい。
【0021】
次に、窒素(N2)ガスに一酸化窒素(NO)ガスを10%添加したガス雰囲気中、1250℃程度の温度で60分間程度加熱して窒化処理を行う。この窒化処理により、図3に示すように、酸化膜5aと基板2との界面においてN原子が基板2のSiCと結合したNパッシベーションをなす中間窒化層6aが形成される。なお、窒化処理には、NOに代えて亜酸化窒素(N2O)ガスを用いてもよい。
【0022】
窒化処理後に、CO2ガスとN2ガスとの流量比が1:1のCO2+N2混合ガス雰囲気中、3通りの温度でそれぞれ30分間程度加熱する熱処理を行う。基板2の面方位がSi面の場合、熱処理の温度は、実施例1として1300℃、実施例2として1200℃、実施例3として1100℃の温度である。基板2の面方位がm面の場合は、熱処理の温度は、実施例4として1200℃、実施例5として1100℃である。CO2+N2混合ガス熱処理により、図4に示すように、中間窒化層6aから一部のN原子が除去されたNパッシベーションをなす窒化終端層6がそれぞれの態様で生成される。同時に、酸化膜5aと基板2の界面近傍の酸化膜5aの中のN原子濃度が低減する。
【0023】
図5に示すように、リフトオフ又は通常のフォトリソグラフィの手法を用いて、酸化膜5aの上面に直径が200μm程度の金属膜の円形パターンを形成する。円形パターンの前提となる金属膜は、スパッタリング法、真空蒸着法等により、酸化膜5aの上面に、厚さが100nm程度のAl等の金属膜を堆積すれば良い。引き続き、スパッタリング法、真空蒸着法等により、基板2の裏面全面に厚さが100nm程度のAl等の金属膜を堆積する。このようにして、表面電極10及び裏面電極11が形成される。
【0024】
作製したSiC-MOSキャパシタの実施例1~5のそれぞれについて、X線電子分光法(XPS)測定及びCV測定を行い、MOS界面特性を評価している。実施例1~3と比較するため、基板2がSi面MOSキャパシタの比較例1~3を作製して評価している。比較例1は、CO2+N2混合ガス雰囲気中1400℃の温度で加熱する熱処理によって窒化終端層6を生成している。比較例2は、図6に示すように、図3の窒化処理による中間窒化層6a形成後にCO2+N2混合ガス熱処理を行わずに、表面電極10及び裏面電極11を形成している。比較例3は、CO2+N2混合ガスに代えて100%のCO2ガス雰囲気中、1300℃で30分程度加熱する熱処理を行って窒化終端層6を生成している。また、SiC-MOSキャパシタの実施例4,5と比較するため、m面MOSキャパシタの比較例4~6を作製して評価している。比較例4は、CO2+N2混合ガス熱処理を1300℃の温度で行って窒化終端層6を生成している。比較例5は、中間窒化層6a形成後の熱処理を行っていない。比較例6は、100%のCO2ガス雰囲気中、1200℃で30分程度の熱処理を行って窒化終端層6を生成している。
【0025】
XPS測定は、X線源としてアルミニウム(Al)Kα線を用い、検出角90度で表面分析を行う。酸化膜5aを希弗酸、例えば弗酸濃度が1%の水溶液で表面から徐々にステップエッチングしながらステップエッチング毎に繰り返し測定を行う。98eV~108eVの結合エネルギの範囲のナロースキャンでSi2p軌道に起因するスペクトル信号(Si2p信号)の検出を行う。同時に、394eV~402eVの結合エネルギの範囲のナロースキャンでN1s軌道に起因するスペクトル信号(N1s信号)の検出を行う。なお、窒化終端層6及び中間窒化層6aは希弗酸によっては除去されない。そのため、酸化膜5aが除去されてSiO2残膜厚が0nmでは、窒化終端層6又は中間窒化層6aをなすSiC表面が露出する。
【0026】
図7に示すように、Si2p信号について、基板2由来のSiC成分の信号と、酸化膜5a由来のSiO2成分の信号とをピーク分離する。SiC成分の信号のピーク位置は101eV~102eVで、SiO2成分の信号のピーク位置は103eV~104eVである。ピーク分離したSi2p信号から、SiC成分のスペクトル信号のエネルギ積分値S(SiC)と、SiO2成分のスペクトル信号のエネルギ積分値S(SiO2)とを算出する。また、図8に示すように、N1s信号のエネルギ積分値S(N)を算出する。
【0027】
SiC成分のエネルギ積分値S(SiC)及びSiO2成分のエネルギ積分値S(SiO2)と、SiO2の理論密度から、ステップエッチング毎の酸化膜5aの残膜厚を算出する。界面近傍のNとSiの強度比IN/ISiは、N1s信号のエネルギ積分値S(N)とSiC成分のエネルギ積分値S(SiC)との比S(N)/S(SiC)から算出する。また、SiO2残膜厚が2nm~3nm、例えば2.5nm~2.8nm程度のときの強度比IN/ISiの値で界面近傍の強度比IN/ISiを規格化した規格化強度比を算出する。図9及び図10にSi面MOSキャパシタについて、図12及び図13にm面MOSキャパシタについて、酸化膜5aの残膜厚が3nm未満の窒化終端層6又は中間窒化層6aを含む界面近傍におけるXPS測定結果を示す。
【0028】
図9は、Si面MOSキャパシタについての強度比IN/ISiとSiO2残膜厚との関係を示す図である。図9に示すように、実施例1、比較例2及び比較例3において酸化膜5aの残膜厚が界面から2.5nm程度のときの強度比IN/ISiは、それぞれ0.028程度、0.040程度及び0.026程度で飽和する傾向にある。実施例1では、強度比IN/ISiは、残膜厚が1nm程度より薄くなると減少が顕著になり、酸化膜5aが完全に除去されて残膜厚が0nmとなる界面での基板2のSiC表面で0.02程度となる。一方、比較例2では、強度比IN/ISiは、残膜厚が0.4nm程度の位置から急激に減少し、界面での基板2のSiC表面で0.025程度となる。比較例3では、強度比IN/ISiは、残膜厚が0.2nm程度より薄くなると次第に減少し、界面での基板2のSiC表面で0.017程度となる。
【0029】
図10は、Si面MOSキャパシタについての規格化強度比とSiO2残膜厚との関係を示す図である。図10に示すように、実施例1では、規格化強度比はSiC表面となる界面に向かって減少するが、残膜厚が0nmの界面においても規格化強度比は0.72程度を保持している。一方、比較例2及び比較例3において規格化強度比は、少なくとも残膜厚が1nm以上で0.8以上であるが、残膜厚が0.5未満となる界面近傍では急激に減少し、残膜厚が0nmの界面において0.63~0.64程度となる。
【0030】
図11には、Si面MOSキャパシタの実施例1~3及び比較例1~3についてのXPS測定結果及びCV測定による界面準位密度Ditとフラットバンド電圧(Vfb)シフトを示す。XPS測定結果の「SiC表面I/ISi」は、図9におけるSiO2残膜厚0nmの時の強度比を、「SiC表面規格化IN/ISi」は、図10における残膜厚0nmの時の規格化強度比を示している。界面準位密度Ditは伝導帯端Ecから0.2eVのエネルギ位置での準位密度である。Vfbシフトは、それぞれ正バイアスでは+6MV/cm及び負バイアスでは-6MV/cmで印加時間1000時間の条件でバイアスストレス後に測定している。特に、負バイアス条件は、ゲートリーク電流が生じ始める厳しい条件であり、酸化膜5a中の正孔トラップ量の目安となる。Vfbシフト量(ΔVfb)が小さいほど正孔トラップが少ないことを示す。
【0031】
図11の表に示すように、酸化膜5aを完全に除去した残膜厚が0nmの界面での強度比IN/ISiは、CO2+N2混合ガス熱処理温度が1100℃~1300℃の実施例1~3では0.020~0.023程度である。CO2+N2混合ガス熱処理温度が1400℃と高い比較例1では、界面での基板2のSiC表面の強度比IN/ISiは0.012程度に低減する。また、SiC表面の強度比IN/ISiは、窒化処理後の熱処理を行わない比較例2で0.025程度と高く、CO2ガス熱処理を行った比較例3では0.017程度と減少する。図9に示すように、酸化膜5a中、例えば残膜厚が2.5nm~2.6nm程度のときの強度比IN/ISiは、比較例2で0.040程度と高く、実施例1及び比較例3では0.026~0.028程度に減少する。このように、CO2+N2混合ガス及びCO2ガス熱処理により、界面での基板2のSiC表面及び酸化膜5a中のSi-N結合が切断され、Nが脱離することが判る。また、SiC表面の規格化強度比(IN/ISi)は、CO2+N2混合ガス熱処理を行った実施例1~3及び比較例1において、0.72~0.77である。一方、CO2+N2混合ガス熱処理を行わなかった比較例2及び比較例3では、規格化強度比(IN/ISi)が0.65未満となる。
【0032】
また、図11の表に示すように、比較例1ではCO2+N2混合ガス熱処理温度が1400℃と高くSiC表面のN減少が顕著で、SiC界面酸化が増大するため界面準位密度Ditが1×1012cm-2/eVに上昇している。CO2+N2混合ガス熱処理温度が1300℃~1100℃の実施例1~3では、窒化終端層6のN減少が抑えられ、Nパッシベーションの効果により界面準位密度Ditが5×1011cm-2/eV~3×1011cm-2/eVと低い。Vfbシフト量は、実施例1~3及び比較例1では、正バイアス条件で0.1V~0.15V程度であり、負バイアス条件で-2.1V~-2.6V程度といずれも小さい。一方、窒化処理だけの比較例2では、Nパッシベーションの効果により界面準位密度Ditが3×1011cm-2/eVと抑えられる。しかし、比較例2はバイアスストレス後のVfbシフトが顕著で、正バイアス条件で1.0V程度、負バイアス条件で-4.9V程度と大きい。CO2ガス熱処理を行った比較例3では、界面でのSiC表面のNが減少し、界面準位密度Ditが9×1011cm-2/eVに上昇しているが、Vfbシフト量は、正バイアス条件で0.1V程度、負バイアス条件で-2.5V程度と小さい。このように、実施例1~実施例3では、界面準位密度Ditが5×1011cm-2/eV程度以下を維持しつつ、正バイアス条件及び負バイアス条件でのVfbシフトが改善されている。
【0033】
図12は、m面MOSキャパシタについての強度比IN/ISiとSiO2残膜厚との関係を示す図である。図12に示すように、実施例4、比較例5及び6において酸化膜5aの残膜厚が2nm~3nm、例えば2.8nm程度のときの強度比IN/ISiは、それぞれ0.072程度、0.117程度及び0.071程度で飽和する傾向にある。実施例4では、強度比IN/ISiは、残膜厚が薄くなるにつれて減少し、残膜厚が0nmとなる界面での基板2のSiC表面で0.052程度となる。一方、比較例5では、強度比IN/ISiは、残膜厚が0.4nm程度の位置から急激に減少し、界面での基板2のSiC表面で0.064程度となる。比較例6では、強度比IN/ISiは、残膜厚が0.4nm程度より薄くなると大きく減少し、界面での基板2のSiC表面で0.039程度となる。
【0034】
図13は、m面MOSキャパシタについての規格化強度比とSiO2残膜厚との関係を示す図である。図13に示すように、実施例4では、規格化強度比はSiC表面となる界面に向かって減少するが、残膜厚が0nmの界面においても規格化強度比は0.72程度を保持している。一方、比較例5及び比較例6において規格化強度比は、残膜厚が0.5nm以上で0.8以上であり、残膜厚が0.5未満となる界面近傍では急激に減少し、界面において0.55程度となる。
【0035】
図14には、m面MOSキャパシタの実施例4及び5、比較例4~6についてのXPS測定結果及びCV測定による界面準位密度Ditとフラットバンド電圧(Vfb)シフトを示す。XPS測定結果の「SiC表面I/ISi」は、図12におけるSiO2残膜厚0nmの時の強度比を、「SiC表面規格化IN/ISi」は、図13における残膜厚0nmの時の規格化強度比を示している。
【0036】
図14の表に示すように、酸化膜5aを完全に除去した基板2のSiC表面での強度比IN/ISiは、CO2+N2混合ガス熱処理温度が1200℃及び1100℃の実施例4及び5では、それぞれ0.052及び0.058程度である。CO2+N2混合ガス熱処理温度が1300℃と高い比較例4では、基板2のSiC表面での強度比IN/ISiは0.044程度に低減する。また、窒化処理後の熱処理を行わない比較例5では、基板2のSiC表面での強度比IN/ISiは0.064程度と高い。CO2ガス熱処理を行った比較例6では、基板2のSiC表面での強度比IN/ISiは0.039程度と減少する。図12に示すように、酸化膜5a中、例えば残膜厚が2.5nm~2.8nm程度のときの強度比IN/ISiは、比較例5で0.117程度と高く、実施例4及び比較例6では0.071~0.072程度に減少する。このように、m面においてもSi面と同様に、CO2+N2混合ガス及びCO2ガス熱処理により、界面での基板2のSiC表面及び酸化膜5a中のSi-N結合が切断され、Nが脱離することが判る。また、SiC表面の規格化強度比(IN/ISi)は、CO2+N2混合ガス熱処理を行った実施例4及び5、比較例4において、0.70~0.76程度である。一方、熱処理無しの比較例5及びCO2ガス熱処理の比較例6では、規格化強度比(IN/ISi)が0.55程度と小さくなる。
【0037】
図14の表に示すように、CO2+N2混合ガス熱処理温度が1200℃及び1100℃の実施例4及び5では、SiC表面のN減少が抑えられ、Nパッシベーションの効果により界面準位密度Ditが3×1011cm-2/eVと低い。Vfbシフト量は、実施例4及び5では、正バイアス条件で0.1V~0.11V程度であり、負バイアス条件で-1.1V程度といずれも小さい。CO2+N2混合ガス熱処理温度が1300℃と高い比較例4では、SiC界面酸化の増大でSiC表面のNが減少するため、界面準位密度Ditが7×1011cm-2/eV程度に上昇している。また、比較例4は、バイアスストレス後のVfbシフトも、正バイアス条件で0.2V程度、負バイアス条件で-3.2V程度と大きい。一方、窒化処理だけの比較例5では、Nパッシベーションの効果により界面準位密度Ditが3×1011cm-2/eVと抑えられる。しかし、比較例5はバイアスストレス後のVfbシフトが顕著で、正バイアス条件で0.5V程度、負バイアス条件で-2.9V程度と大きい。CO2ガス熱処理の比較例6では、SiC表面のN減少により、界面準位密度Ditが7×1011cm-2/eV程度に上昇し、Vfbシフト量は正バイアス条件で0.1V程度、負バイアス条件で-2.5V程度である。このように、実施例4及び5では、界面準位密度Ditが3×1011cm-2/eV程度を維持しつつ、正バイアス条件及び負バイアス条件でのVfbシフトが改善されている。
【0038】
上述の説明では、基板2として、面方位が(0001)面(Si面)及び(1-100)面(m面)のSiC基板を用いている。Si面は、(11-20)面(a面)、(1-100)面(m面)、及び(000-1)面(C面)に比べて酸化速度が遅い。そのため、Si面では、CO2+N2混合ガス熱処理温度は900℃以上、1400℃未満の範囲、望ましくは1000℃以上、1300℃以下の範囲が好適である。一方、a面、m面、及びC面では、CO2+N2混合ガス熱処理温度は800℃以上1300℃未満の範囲、望ましくは900℃以上、1200℃以下の範囲が好適である。
【0039】
加熱されたCO2ガスは、800℃~1400℃程度で、還元ガスのCO及び酸化ガスのO2に分解される。例えば、100%のCO2ガス雰囲気中、1200℃で熱処理を行うと、O2分圧は450Pa程度で、1000℃では130Pa程度である。O2ガスはSi-N結合を切ってSi-O結合に変換する酸化作用があり、窒化処理で導入された界面のSiC表面のSi-N結合及び界面近傍のSiO2膜中のSi-N結合あるいはSi-O-N結合が切断される。その結果、窒化処理によって形成した界面のNパッシベーションが破壊されてしまう。窒化処理後に熱処理を行う場合、界面酸化を抑制するために、O2分圧を300Pa程度以下、例えば250Pa程度以下に抑えることが望ましい。熱処理温度が900℃を越えて1400℃未満の範囲では、界面酸化を抑制するためにCO2ガスにN2ガスを25%以上添加した混合ガスを用いればよい。また、CO2+N2混合ガスのCO2ガス濃度が25%以下になると、CO2ガスによるSiO2膜中の欠陥低減効果が不十分となるため、混合ガスのN2ガス濃度は75%以下が好ましい。
【0040】
また、100%のCO2ガス雰囲気であっても、熱処理温度を1000℃程度まで下げると、O2分圧を130Pa程度と低減でき、界面のSiC酸化を抑えることが可能となる。しかし、熱処理温度が1000℃と低いため、SiO2膜中の欠陥低減には長時間を要する。そのため、界面SiCの酸化によるN脱離が生じる。CO2+N2混合ガスを用いると、高温の熱処理雰囲気ガス中でO2とN2との反応により微量のNOガスが発生する。発生したNOにより、界面SiCが再窒化されて界面酸化によるN脱離を抑えることが可能となる。CO2+N2混合ガス熱処理時間は、30分以上、120分以下が望ましい。熱処理が30分未満では、SiO2膜中のSi-N結合あるいはSi-O-N結合の切断が不十分となり、Nによる正孔トラップを低減することができない。熱処理が120分を越えるとSiO2膜の増加が進み、界面SiCの酸化によるNパッシベーションが破壊され界面準位密度Ditの上昇を招いてしまう。
【0041】
実施形態に係る絶縁ゲート構造では、酸化膜5a形成後に、NO窒化処理に引き続きCO2+N2混合ガス熱処理を実施する。CO2+N2混合ガス熱処理では、800℃以上、1400℃未満の温度が望ましい。界面酸化を抑制してNパッシベーションの破壊を防止するために、Si面では、900℃以上、1400℃未満、望ましくは1000℃以上、1300℃以下の熱処理温度が好ましい。Si面に比べて酸化速度が速いa面、m面、及びC面では、800℃以上、1300℃未満、望ましくは900℃以上、1200℃以下の熱処理温度が好ましい。また、界面のNパッシベーションの効果を保持するため、CO2+N2混合ガス中のN2ガスの流量は、0.25以上、0.75以下の範囲の割合が望ましい。また、熱処理時間は、30分以上、120分以下の範囲が望ましい。
【0042】
(絶縁ゲート型半導体装置の製造方法)
次に、図15図20に示す工程図を用いて、実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を、横型MOSFETの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるMOSFETの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0043】
まず、窒素(N)等のn型不純物が添加されたn型のSiC基板(基板)1を用意する。基板1は4H-SiC基板であり、面方位が(0001)面(Si面)である。基板1の上面に、p型のチャネル形成領域(ベース領域)3をエピタキシャル成長させる。チャネル形成領域3の上面側から、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入技術などにより、N等のn型不純物を選択的に注入する。熱処理を行うことにより注入されたn型不純物イオンを活性化さる。その結果、図15に示すように、チャネル形成領域3の上部にn+型のソース領域(第1主電極領域)4a及びドレイン領域(第2主電極領域)4bが選択的に埋め込まれる。図示は省略したが、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入技術などにより、Al等のp型不純物を選択的に注入してp+型のボディコンタクト領域がソース領域4aと分離して、チャネル形成領域3に配置される。
【0044】
図16に示すように、チャネル形成領域3の上面に、100%O2ガス雰囲気中、1200℃程度の温度で160分間程度加熱して50nm程度のSiO2からなる酸化膜5bを形成する。酸化膜5bとして、ドライ酸化膜を例示したが、ウェット酸化膜でもよく、また、熱CVD、プラズマCVD等による堆積酸化膜でもよい。例えば、減圧熱CVDでシラン(SiH4)ガスと酸素(O2)ガスを用いて、0.2Pa程度の圧力、600℃程度の温度で酸化膜5bを堆積してもよい。
【0045】
次に、N2ガスに一酸化窒素(NO)ガスを10%添加したガス雰囲気中、1250℃程度の温度で60分間程度加熱して窒化処理を行う。この窒化処理により、図17に示すように、酸化膜5bと、チャネル形成領域3、ソース領域4a及びドレイン領域4bとの界面に中間窒化層6aが形成される。中間窒化層6aは、界面のSiCがNと結合したNパッシベーションを構成する。なお、窒化処理には、NOに代えてN2Oガスを用いてもよい。
【0046】
窒化処理後、CO2ガス及びN2ガスの混合ガス(CO2+N2混合ガス)雰囲気中、2通りの温度でそれぞれ30分間程度の加熱処理を行う。2通りの温度は、実施例6として1300℃、実施例7として1200℃を採用する。この2通りの温度で熱処理により、図18に示すように、酸化膜5bと、チャネル形成領域3、ソース領域4a及びドレイン領域4bとの界面近傍の酸化膜5bの中のN原子濃度が、2通りの態様で低減する。又、2通りの態様で、中間窒化層6aから一部のN原子が除去されたNパッシベーションをなす窒化終端層6が生成される。
【0047】
フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング等により酸化膜5bにソースコンタクトホール及びドレインコンタクトホールを開口する。その結果、図19に示すように、チャネル形成領域3の上面にソース領域4a及びドレイン領域4bを跨ぐようにゲート絶縁膜5のパターンが選択的に残留する。
【0048】
スパッタリング法、真空蒸着法等により、ゲート絶縁膜5、ソースコンタクトホール及びドレインコンタクトホールの上面に厚さが100μm程度のAl等の金属膜を堆積する。フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング等により、金属膜を分離してゲート電極7、ソース電極8a及びドレイン電極8bのパターンを形成する。その結果、ソース領域4a及びドレイン領域4bの端部の一部を跨ぐように、チャネル形成領域3の上面に、窒化終端層6を介して絶縁ゲート型電極構造(5,7)が形成される。このようにして、図20に示した実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置が完成する。
【0049】
このようにして作製した2通りの横型MOSFETの実施例6及び7について、トランジスタ特性の測定を行い、電界効果移動度、閾値電圧Vth及びバイアス印加試験による閾値電圧(Vth)シフトの評価を行う。バイアス印加試験は、200℃、100時間で+20Vの正バイアス条件、及び200℃、100時間で-10Vの負バイアス条件で行っている。また、図21に示すように、実施例6及び7と比較するため、窒化処理後に図17のCO2+N2混合ガス熱処理を実施せず、ゲート絶縁膜5、ゲート電極7、ソース電極8a及びドレイン電極8bを形成した比較例7を作製して評価する。更に、窒化処理後に、CO2+N2混合ガスに代えて100%のCO2ガス雰囲気中、1300℃で30分程度の熱処理を行った比較例8も作製して評価している。
【0050】
図22に、トランジスタの評価結果と、XPS測定結果を併せて示す。図22の表に示すように、1300℃及び1200℃でCO2+N2混合ガス熱処理した実施例6及び実施例7の電界効果移動度は、それぞれ22cm2/Vs及び23cm2/Vsである。従来の窒化処理だけの比較例7の電界効果移動度が22cm2/Vsで、CO2ガス熱処理した比較例8は20cm2/Vsである。図22の表に示すように、実施例6、7及び比較例7はいずれも、ゲート絶縁膜5の残膜厚が0nmのSiC表面の強度比IN/ISiが0.020以上である。一方、比較例8は、残膜厚が0nmのSiC表面の強度比IN/ISiが0.017と低下しNパッシベーションが破壊され、界面準位密度Ditが上昇して電界効果移動度が低下している。このように、CO2+N2混合ガス熱処理では、窒化処理によって得られたNパッシベーションが破壊されないため、実施例6及び7は電界効果移動度を比較例7に対して同レベルに保持できる。
【0051】
また、図22の表に示すように、閾値電圧Vthと正バイアス条件でのVthシフトは、実施例6、実施例7、比較例7及び比較例8との間には差はない。しかし、負バイアス条件では、Vthシフトが比較例7で-0.15Vに対し、実施例6、実施例7及び比較例8では-0.06V~-0.08VとVthシフトが抑制されている。窒化処理によってゲート絶縁膜5の中に導入されたN原子はVthシフトの要因となるが、CO2+N2混合ガスあるいはCO2ガスによる熱処理でゲート絶縁膜5の中のN結合を低減でき、Vthシフトを改善できる。CO2ガスによる熱処理では、ゲート絶縁膜5の中だけでなく、SiC界面のN結合も低減するため、上述のように電界効果移動度が減少する。
【0052】
CO2+N2混合ガス熱処理した実施例6及び7は、窒化処理だけの比較例7と同等の電界効果移動度を保持しているが、比較例7では閾値電圧Vthの安定性が劣る。図22の表に示すように、SiC表面規格化強度比は、実施例6及び7で0.71~0.76程度に対して、比較例7及び8では0.63~0.64程度と低減している。電界効果移動度の低減を抑え、閾値電圧Vthの安定性を向上させるためには、SiC表面の規格化強度比及び強度比IN/ISiを適切に規定する必要がある。SiC表面規格化強度比としては、0.65以上の範囲、望ましくは0.7以上の範囲とすればよい。SiC表面強度比IN/ISiとしては、Si面では0.02以上、0.03以下の範囲とし、a面、m面及びC面では0.05以上、0.08以下の範囲とすればよい。このように、実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、電界効果移動度の向上ができ、Vthシフトを抑制することができ、半導体装置の信頼性の劣化を抑制することが可能となる。
【0053】
実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法では、酸化膜5b形成後に、NO窒化処理に引き続きCO2+N2混合ガス熱処理を実施してゲート絶縁膜5及び窒化終端層6を形成する。CO2+N2混合ガス熱処理では、800℃以上、1400℃未満の温度が望ましい。界面酸化を抑制してNパッシベーションの破壊を防止するために、Si面では、900℃以上、1400℃未満、望ましくは1000℃以上、1300℃以下の熱処理温度が好ましい。Si面に比べて酸化速度が速いa面、m面、及びC面では、800℃以上、1300℃未満、望ましくは900℃以上、1200℃以下の熱処理温度が好ましい。また、界面のNパッシベーションの効果を保持するため、CO2+N2混合ガス中のCO2ガスに対するN2ガスの流量比は、0.25以上、0.75以下の範囲が望ましい。また、熱処理時間は、30分以上、120分以下の範囲が望ましい。
【0054】
(ゲート絶縁膜の電子トラップの評価)
絶縁ゲート型半導体装置に正負のゲート電圧を交互印加するAC駆動によって正の閾値電圧(Vth)シフトが生じる。このVthシフトは、ゲート絶縁膜中の電子トラップに捕獲された電子に起因する。通電試験によりゲート絶縁膜に電子を注入し、絶縁ゲート型半導体装置の閾値電圧Vthのシフト量ΔVthを用いてゲート絶縁膜中の電子トラップ準位を評価することができる。
【0055】
ゲート絶縁膜の電子トラップの評価には、図5に示したMOSキャパシタあるいは図1又は図20に示した横型MOSFETである絶縁ゲート型半導体装置が用いられる。例えば、MOSキャパシタの場合は、図23に示すように、SiO2などの酸化膜上に設けたAl金属膜に正電圧VGを印加して、Al金属膜からn型SiC半導体層に微小な通電電流IGを一定の通電時間で流す。通電中に、SiC半導体層と酸化膜との半導体界面に蓄積する電子が、界面の障壁を越えて、あるいはトンネルして酸化膜に注入される。注入された電子の一部が酸化膜中の電子トラップに捕獲される。酸化膜への注入電子量(注入電荷量)は、通電電流IGと通電時間との積の値を素電荷で割ることにより求めることができる。MOSFETを用いる場合は、n型半導体層のソース電極及びドレイン電極を短絡してソース電極とゲート電極との間に正電圧又は負電圧を印加して通電すればよい。
【0056】
MOSFETにおいては、ゲート絶縁膜に用いる酸化膜中の電子トラップ密度nTは、閾値電圧Vthのシフト量ΔVthを用いて、式(1)から算出することができる。なお、MOSキャパシタの場合は、式(1)のΔVthに換えてCV測定から得られるフラットバンド電圧のVfbシフト量ΔVfbを用いればよい。電子トラップ密度nTは、トラップされた電子が酸化膜中に一様に分布していると仮定して求められる値である。従って、実際に電子のトラップ準位が酸化膜中に一様に分布していることを示しているのではなく、このように仮定して求めた値を、酸化膜中に存在する電子トラップ数の大小の指標として用いている。

T=-(2Cox/d)ΔVth (1)

ここで、Coxは単位面積当たりの酸化膜容量、dは酸化膜の厚さである。図24は、酸化膜への注入電子量に対するVthのシフト量ΔVth又はトラップ電子密度nTの関係の概略を示す線形グラフである。図24に示すように、シフト量ΔVth又はトラップ電子密度nTは、通電時間の増加により注入電子量が累積すると飽和する傾向が見られる。なお、長時間の通電によって累積した注入電子量が限界に達すると、酸化膜の絶縁破壊が生じる。
【0057】
以下において、ゲート絶縁膜5中の電子トラップ準位の評価手順を説明する。まず、通電試験で実施例7のソース電極8a及びドレイン電極8bを短絡して、ソース電極8aとゲート電極7との間に正バイアス又は負バイアスを印加する。例えば、ゲート電極7に正電圧VGを印加してソース領域4a及びドレイン領域4bからゲート電極7に微小な通電電流IGを所定の通電時間で流す。通電中に、ゲート絶縁膜5に注入された電子の一部がゲート絶縁膜5中の電子トラップに捕獲される。通電電流IGは、30pA以上100pA以下の範囲、例えば50pA程度の定電流である。
【0058】
通電試験でゲート絶縁膜5中のトラップ準位に電子を捕獲させた後、暗状態中室温でMOSFETの伝達特性(Id-Vg)の測定を行い、閾値電圧Vthを求める。例えば、閾値電圧Vthは、ドレイン電流Idが50nAのゲート電圧Vgの値で規定する。続いて、ゲート絶縁膜5にゲート電圧を印加しながら長波長光から短波長光へと単色光を変更しながら照射することで、ゲート絶縁膜5中のトラップ電子を準位の浅い順に引き抜き、電子トラップ準位の評価を行う。例えば、図25に示すように、キセノン(Xe)ランプ等の光源20からの光をモノクロメータ等の分光器22で分光し、ロッドレンズ等の集光器24を介して単色光26をゲート絶縁膜5に照射する。あるいは、光源20として、波長の異なるレーザ光を用いて照射してもよい。
【0059】
図26に示すように、ゲート電極7のAl金属膜に負電圧-Vgを印加しながら、まず単色光26として照射光子エネルギhν(hはプランク定数、νは光の振動数)の光を照射する。光照射により、ゲート絶縁膜5のSiO酸化膜中の照射光子エネルギhν以下の浅いトラップ準位から電子が放出される。その後、暗状態中室温で伝達特性の測定を行い、閾値電圧Vthの負のVthシフトにより酸化膜中のトラップ準位からの電子放出を確認する。Vthシフトがあれば、再度照射光子エネルギhνの光照射と光照射後の伝達特性の測定とをVthシフトがなくなるまで繰り返す。Vthシフトが無いことを確認したら、単色光26として増分δhνで増加させた照射光子エネルギ(hν+δhν)の光を照射する。そして、伝達特性の測定を行い、Vthシフトを確認する。Vthシフトがあれば、再度照射光子エネルギ(hν+δhν)の光照射と光照射後の伝達特性の測定とをVthシフトがなくなるまで繰り返す。Vthシフトがなければ、単色光26として更に増分δhνで増加させた照射光子エネルギ(hν+2δhν)の光を照射し、Vthシフトを確認する。Vthシフトがあれば、再度照射光子エネルギ(hν+2δhν)の光照射と光照射後の伝達特性の測定とをVthシフトがなくなるまで繰り返す。このように、単色光26の照射光子エネルギを所定のトラップ準位に対応するエネルギまで増分δhνずつ増加させてトラップ準位の状態密度分布を評価する。
【0060】
図22に示した実施例7及び比較例7のMOSFETのゲート絶縁膜5について、通電試験による電子捕獲、及びその後の光照射による捕獲電子の放出を行って得られたVthシフトからトラップ準位の状態密度分布を評価した。電子放出には、単色光26の照射光子エネルギを1.8eVから3.2eVの範囲で0.2eVずつ増加させながら照射して行っている。図27及び図28に、実施例7及び比較例7についての電子トラップ準位の密度分布の評価結果を示す。なお、図27及び図28において、横軸の「照射光子エネルギ(eV)」は、ゲート絶縁膜5の酸化膜での伝導帯下端からのトラップ準位の深さに対応する。図27に示すように、実施例7では、電子トラップ準位が酸化膜の伝導帯下端からの深さが1.8eV~2.6eVの範囲で、最大6×1011cm-2/eV程度の密度で存在している。一方、図28に示すように、比較例7では、電子トラップ準位が酸化膜の伝導帯下端からの深さが1.8eV~3.2eVの範囲で、最大2×1012cm-2/eV程度の密度で存在している。このように、実施例7では、比較例7に比べて、酸化膜の伝導帯下端からの深さが2.2eVより深い準位の電子トラップ密度が少ない。更に、酸化膜の伝導帯下端からの深さが2.6eV~3.2eVの範囲で電子トラップの準位は検出限界の1×1010cm-2/eV以下である。
【0061】
更に、実施例7及び比較例7で作製したMOSFETについてAC駆動試験を行い、Vthシフトの評価を行っている。AC駆動試験は、130℃、200kHz、ゲート電圧Vg=+15V/-10Vで、1000時間の条件で行っている。AC駆動試験後のVthシフトは、実施例7では+0.05V程度で、比較例7では+0.11Vであり、実施例7は比較例7に比べてAC駆動試験後のVthシフトが小さい。ゲート絶縁膜5の伝導帯下端からの深さが2.2eV~3.2eVの範囲の電子トラップ準位の密度を低くすれば、AC駆動によるVthシフトを低減することが可能となる。このように、ゲート絶縁膜5の中に、ゲート絶縁膜5の伝導帯下端から2.2eVより深く、3.2eV以下のエネルギ準位を有する電子トラップの密度が3×1011cm-2/eV以下であることが望ましい。また、ゲート絶縁膜5の中に、ゲート絶縁膜5の伝導帯下端から2.6eVより深く、3.2eV以下のエネルギ準位を有する電子トラップの密度が1×1010cm-2/eV以下であることが更に望ましい。
【0062】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0063】
上述のように、実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置に係る半導体装置においては、4H-SiCを用いた横型MOSFETを例示したが、6H-SiC、3C-SiCを用いた半導体装置に適用することも可能である。更に、プレーナゲート縦型MOSFETやトレンチゲート縦型MOSFETにも適用することも可能である。
【0064】
このように、上記の実施形態及び各変形例において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0065】
1、2…基板(SiC基板)
3…チャネル形成領域(ベース領域)
4a…ソース領域(第1主電極領域)
4b…ドレイン領域(第2主電極領域)
5…ゲート絶縁膜
5a、5b…酸化膜
6…窒化終端層
6a…中間窒化層
7…ゲート電極(制御電極)
8a…ソース電極
8b…ドレイン電極
10…表面電極
11…裏面電極
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