(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111849
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ不織布及び電磁波遮蔽シート
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20240813BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20240813BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240813BHJP
C08L 83/02 20060101ALI20240813BHJP
C08L 83/16 20060101ALI20240813BHJP
D06M 11/79 20060101ALI20240813BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20240813BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C01B32/168
C01B33/12
C08K3/04
C08L83/02
C08L83/16
D06M11/79
B32B5/24
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016492
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 諒
【テーマコード(参考)】
4F100
4G072
4G146
4J002
4L031
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AD11A
4F100AK79B
4F100BA02
4F100DG15A
4F100EJ82
4F100GB41
4F100JD08
4F100YY00B
4G072AA25
4G072BB20
4G072GG02
4G072HH28
4G072HH30
4G072JJ14
4G072KK01
4G072KK20
4G072LL11
4G072MM31
4G072MM40
4G072RR05
4G072TT30
4G072UU07
4G072UU26
4G072UU30
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB07
4G146AD40
4G146BA04
4G146CB19
4G146CB32
4J002CP021
4J002CP211
4J002DA016
4J002FD116
4J002GT00
4L031AA27
4L031AB34
4L031BA20
4L031DA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カーボンナノチューブ不織布単体の強度不足を、ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物によって形成されたシリカ層をカーボンナノチューブ不織布に設けることで補強したカーボンナノチューブ不織布の提供。
【解決手段】カーボンナノチューブ不織布にシリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布。シリカ層が下記式(1)で表わされる単位からなる主骨格を有し、重量平均分子量が100~50000のポリシラザン化合物によって形成されたカーボンナノチューブ不織布。
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、官能基を有する有機基、アルキルシリル基、アルコキシ基を表わす。R
3は水素原子またはシリル基を表す。R
1、R
2は同一でも異なっていてもよい。ただし、R
1、R
2の少なくとも1つは水素原子である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ不織布にシリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布。
【請求項2】
シリカ層に有機基を有する化合物を含有する請求項1に記載のカーボンナノチューブ不織布。
【請求項3】
シリカ層が下記式(1)で表わされる単位からなる主骨格を有し、重量平均分子量が100~50000のポリシラザン化合物によって形成された請求項1に記載のカーボンナノチューブ不織布。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、官能基を有する有機基、アルキルシリル基、アルコキシ基を表わす。R
3は水素原子またはシリル基を表す。R
1、R
2は同一でも異なっていてもよい。ただし、R
1、R
2の少なくとも1つは水素原子である。)
【請求項4】
シリカ層がテトラアルコキシシラン化合物、アルキルポリシリケート化合物又はこれらの部分加水分解物のアルコキシシラン化合物によって形成された請求項1に記載のカーボンナノチューブ不織布。
【請求項5】
シリカ層がカーボンナノチューブ不織布100質量部に対して1~80質量部である請求項1に記載のカーボンナノチューブ不織布。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ不織布からなる電磁波遮蔽シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブの不織布及びこれを用いた電磁波遮蔽シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ(CNT)の不織布が軽量で高強度のため、防衛や宇宙航空関係の用途で使用されるようになってきた。
また、最近では電磁波の高周波数帯域(1~300GHz)を利用する5Gや6Gなどの高速通信が話題となっている。電磁波を通信に利用するワイヤレス機器が増加しており、増え続ける電磁波は、電子機器が周囲からの電磁波に干渉を受けて誤動作をしたり、自ら発する電磁波により情報漏洩してしまう原因となる。また、急速に進展している自動車などの自動運転を推進するためには低周波の電磁波からミリ波までの様々な電磁環境において電磁波の送受信が正しく行われなければならない。そこで、電磁波遮蔽対策が重要な技術課題となっており、マイクロ波・ミリ波・テラヘルツ波に対して優れた電磁波遮蔽性能を持った電磁波遮蔽体材料が望まれている。
【0003】
有望な電磁波遮蔽材料として、カーボンナノチューブ不織布が注目されている(特許文献1)。カーボンナノチューブ不織布は化学気相成長(CVD)法などで生産したカーボンナノチューブのエアロゲルを延伸や押圧することで容易に生産することができる(特許文献2~4)。しかし、このカーボンナノチューブ不織布単体では強度が弱く、容易にほつれたり、破れたりすることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6182176号
【特許文献2】特許第4864093号
【特許文献3】特許第5819888号
【特許文献4】特許第5951699号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、カーボンナノチューブ不織布単体の強度不足を補ったカーボンナノチューブ不織布及びこれを用いた電磁波遮蔽シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブ不織布に、シリカ層を形成すれば、カーボンナノチューブ不織布の表面の硬度と、カーボンナノチューブ不織布の強度を向上できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は以下のカーボンナノチューブ不織布及びこれを用いた電磁波遮蔽シートを提供する。
【0007】
<1>
カーボンナノチューブ不織布にシリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布。
<2>
シリカ層に有機基を有する化合物を含有する<1>に記載のカーボンナノチューブ不織布。
<3>
シリカ層が下記式(1)で表わされる単位からなる主骨格を有し、重量平均分子量が100~50000のポリシラザン化合物によって形成された<1>又は<2>に記載のカーボンナノチューブ不織布。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、官能基を有する有機基、アルキルシリル基、アルコキシ基を表わす。R
3は水素原子またはシリル基を表す。R
1、R
2は同一でも異なっていてもよい。ただし、R
1、R
2の少なくとも1つは水素原子である。)
<4>
シリカ層がテトラアルコキシシラン化合物、アルキルポリシリケート化合物又はこれらの部分加水分解物のアルコキシシラン化合物によって形成された<1>又は<2>に記載のカーボンナノチューブ不織布。
<5>
シリカ層がカーボンナノチューブ不織布100質量部に対して1~80質量部である<1>~<4>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ不織布。
<6>
<1>~<5>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ不織布からなる電磁波遮蔽シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカーボンナノチューブ不織布は、カーボンナノチューブ不織布にシリカ層を形成し、カーボンナノチューブ不織布の表面の硬度と、カーボンナノチューブ不織布の強度を向上したカーボンナノチューブ不織布である。本発明のカーボンナノチューブ不織布は単体での使用や有機繊維クロス、無機繊維クロスと積層化した高強度複合材料、更には電磁波遮蔽シートなど幅広い用途に展開できる。
本発明の電磁波遮蔽シートは高強度で、ミリ波やテラヘルツ波に対し優れた電磁波遮蔽性能を示す。本発明の電磁波遮蔽シートは、高速大容量通信対応機器や自動車、航空機などの移動体用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<カーボンナノチューブ不織布>
本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布の厚さは1mm以下であることが好ましく、カーボンナノチューブの直径や長さに限定されないが、一般的に直径は50nm以下で、長さが2mm以下の単層から多層のカーボンナノチューブ繊維が絡み合ったものである。
カーボンナノチューブはメタンなどの炭素源とフェロセンなどの触媒を気相中で1000℃~1500℃の温度で反応させることで製造することができる。
本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布は、カーボンナノチューブを水や有機溶媒などに懸濁させたカーボンナノチューブ分散液からろ過や、紙すきのような方法によって乾燥前の不織布を作製し、これを乾燥することで不織布とすることができる。
また、本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布は、カーボンナノチューブのエアロゲルを直接延伸、押圧処理などして製造した、市場から入手可能なものであってもよい。市場から入手可能なものとしては、例えば、Tortech社製CNTM10やHuntsman社製MIRALON-T01などが挙げられる。
本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布は比抵抗を0.005Ω・cm以下、望ましくは0.003Ω・cm以下とした導電性の高いものが好ましい。
【0012】
本発明で使用するカーボンナノチューブ不織布は、10GHz以上の広範囲の周波数で優れた電磁波遮蔽性能を有している。しかし、カーボンナノチューブ不織布自体だけでは強度が不足しているため、容易にほつれたり、破れやすく、使いづらい。
本発明に用いるカーボンナノチューブ不織布は、厚さ1mm以下で、比抵抗が0.005Ω・cm以下の導電性の高いカーボンナノチューブ不織布が好ましく、これにシリカ層を形成することで、高強度で破れにくく、且つほつれにくくした本発明品が得られる。
【0013】
<シリカ層>
本発明は、カーボンナノチューブ不織布にシリカ層を有することを特徴とする。
【0014】
<ポリシラザン化合物>
カーボンナノチューブ不織布にシリカ層を形成するためのポリシラザン化合物は下記式(1)で表わされる単位からなる主骨格を有するものが好ましい。
【化2】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、官能基を有する有機基、アルキルシリル基、アルコキシ基を表わす。R
3は水素原子またはシリル基を表す。R
1、R
2は同一でも異なっていてもよい。ただし、R
1、R
2の少なくとも1つは水素原子である。)
【0015】
式(1)のR1、R2に示される官能基を有する有機基としては、3-グリシドキシプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチル基、8-グリシドキシオクチル基などのエポキシ系有機基、3-アミノプロピル基、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基などのアミノ系有機基、ビニル基、7-オクテニル基、3-メタクリロキシプロピル基、8-メタクリロキシオクチル基、p-スチリル基、メタクリルアミド基などの不飽和基含有有機基やその他に3-メルカプトプロピル基のメルカプト系有機基、3-イソシアネートプロピル基のイソシアネート系有機基、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物系の酸無水物などが挙げられる。
【0016】
上記ポリシラザン化合物の重量平均分子量(Mn)は100~500,000が好ましく、500~100,000がより好ましく、1,000~20,000が更に好ましい。
本明細書中で言及する重量平均分子量(Mn)とは、下記条件で測定したGPCによるポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量を指すこととする。
[GPC測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:UV検出器
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperMultipore HZ-M(4.6mmI.D.×15cm×4)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度0.5質量%のTHF溶液)
【0017】
本発明で用いるポリシラザン化合物は、1分子内に少なくともSi-H結合からなる水素原子を有し、かつN-H結合を有するポリシラザンが好ましく、ポリシラザン化合物単独は勿論のこと、ポリシラザンと他のポリマーとの共重合体やポリシラザンと他の化合物との混合物であってもよい。
ポリシラザン化合物には、1分子内に鎖状構造、環状構造又は架橋構造を有するもの、若しくは1分子内にこれら構造を同時に複数有するものがあり、1種単独で用いても、2種以上の混合物して用いてもよい。
【0018】
ポリシラザン化合物の代表例としては下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
式(1)において、ケイ素原子に結合するR
1とR
2、及び窒素原子と結合するR
3が水素原子を有するポリシラザン化合物(ペルヒドロポリシラザン;無機ポリシラザン)は、式(2)で表され、具体的な構造は、式(3)に表されるように直鎖状ポリシラザン構造(a成分)、環状ポリシラザン構造(b成分)及びポリシラザンの末端基(c成分)からなる。
【化3】
【化4】
【0019】
式(3)のポリシラザンは、繰り返し単位が-SiH2NH-の鎖状ポリマーと環状ポリマーとであり、架橋構造を有しない。
【0020】
上記式(1)でR1及びR3に水素原子を有し、R2に有機基を有するポリシラザン化合物(ポリオルガノ(ヒドロ)シラザン;有機ポリシラザン)は、繰り返し単位が-(R2SiHNH)-で、重合度が主に3~5の環状構造を有するものや、下記式で示される1分子中に鎖状構造と環状構造とを同時に有するものが挙げられる。
(R2SiHNH)x〔(R2SiH)1.5N〕1-x(0.4<x<1)
【0021】
上記式(1)で、R1に水素原子を有し、R2に有機基及びR3にシリル基を有するポリシラザン化合物と、R1及びR2に有機基を有し、R3に水素原子を有するポリシラザン化合物とは、繰り返し単位が-(R1R2SiNR3)-の直鎖状構造と、重合度が主に3~5の環状構造とを有している。
【0022】
下記式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1つ有する1種又は2種以上のポリシラザン化合物は、下記式(4)で表されるシロキサン結合を有するケイ素化合物とを混合してシリカ層を形成することができる。シリカ層にシロキサン構造を導入することで、柔軟性に優れ、疎水性に優れるシリカ層となる。
下記式(4)のケイ素化合物は、ポリシラザン化合物との反応から末端がアルコキシ基又はシラノール基を含有するケイ素化合物が好ましい。
下記式(1)のポリシラザン化合物と下記式(4)のケイ素化合物との混合比率は、ポリシラザン化合物が67~99質量%、ケイ素化合物が33~1質量%であることが好ましく、ポリシラザン化合物が80~95質量%、ケイ素化合物が20~5質量%であることがより好ましい。
【化5】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、官能基を有する有機基、アルキルシリル基、アルコキシ基を表わす。R
3は水素原子またはシリル基を表す。R
1、R
2は同一でも異なっていてもよい。ただし、R
1、R
2の少なくとも1つは水素原子である。)
【化6】
(式(4)中、R
4及びR
5は、それぞれ独立して水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、炭素数2~10のアルケニル基である。)
上記式(4)で表される繰り返し単位の数(n)は、特に制限はないが、1500以下が好ましく、500以下がより好ましく、100以下が更に好ましい。
【0023】
シリカ層を形成するためのポリシラザン化合物の使用量は、カーボンナノチューブ不織布100質量部に対して1~100質量部が好ましく、5~80がより好ましく、10~60質量部がさらに好ましい。
【0024】
<アルコキシシラン化合物>
カーボンナノチューブ不織布にシリカ層を形成するためにアルコキシシラン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン化合物、アルキルポリシリケート化合物及びこれらの誘導体等)も用いることができる。
テトラアルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが代表例として挙げられる。また、これら化合物の部分加水分解物も使用することができる。
アルキルポリシリケート化合物としてはメチルポリシリケート、エチルポリシリケートなどが代表例として挙げられる。また、これら化合物を部分的に加水分解し、シラノール基を有する化合物も使用することができる。
更に、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物と、アルキルポリシリケート化合物との混合物や反応物も使用することができる。
【0025】
シリカ層を形成するためのアルコキシシラン化合物の使用量は、カーボンナノチューブ不織布100質量部に対して1~120質量部が好ましく、5~100がより好ましく、10~80質量部がさらに好ましい。
【0026】
<シリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布の製造>
本発明のシリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布はポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物を用いて、例えば、下記の方法等により製造することができる。
シリカ層の形成方法は、カーボンナノチューブ不織布に、ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物と、溶媒と、反応促進化合物となどを含む組成物を含浸又は塗布する工程と、前記組成物を加水分解又は300℃以下で処理する硬化工程とを有する方法が挙げられる。
【0027】
本発明の製造に用いられるポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物を含む組成物は、ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物を溶解し得る溶媒を含む。このような溶媒としては、前記の各成分を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、例えば、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、i-デカン等、(c)脂環式炭化水素化合物、例えば、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p-メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、(d)エーテル類、例えば、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、及び、(e)ケトン類、例えば、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等が挙げられる。これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物、(d)エーテル類及び(e)ケトン類がより好ましい。アルコキシシラン化合物の場合は(f)アルコール類、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等も溶媒として使用することができる。
これらの溶媒は、1種単独で使用してもよいし、溶媒の蒸発速度の調整のため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用してもよい。
【0028】
本発明においてポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物を含む組成物には、さらにシリカ転化反応促進化合物を含んでもよい。ここで、該促進化合物とは、ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物との相互反応によりシリカに転化する反応を促進する化合物である。
【0029】
ポリシラザン化合物に対する反応促進化合物としては、金属カルボン酸、N-ヘテロ環状化合物、アミン化合物等が挙げられる。
金属カルボン酸としては、特にニッケル、チタン、白金、ロジウム、コバルト、鉄、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、イリジウム又はアルミニウムを含む金属カルボン酸が好ましい。
N-ヘテロ環状化合物としては、例えば、芳香族性を示さないN-ヘテロ環状化合物が好ましく、特に、1,3-ジ-4-ピペリジルプロパン、4,4’-トリメチレンビス(1-メチルピペリジン)、ジアザビシクロ-[2.2.2]オクタン又はシス-2,6-ジメチルピペラジンが好ましい。
アミン化合物としては、特に下記式(A)で示されるアミン化合物が好ましい。
【化7】
(式(A)中、R
Aはそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~3の炭化水素基を示し、ここで、一つの窒素に結合する二つのR
Aは同時に水素原子ではなく、L1およびL2はそれぞれ独立に、-CH
2-、-NR
A1-(ここで、R
A1は水素原子または炭素原子数1~4の炭化水素基であり)又は-O-であり、p1およびp3はそれぞれ独立に0~4の整数であり、p2は1~4の整数である)
【0030】
反応促進化合物は反応速度や反応温度の調整のために任意の割合で添加できるが、一般的にはポリシラザン化合物に対して0.001~10質量%の範囲内で添加することが好ましい。
【0031】
また、アルコキシシラン化合物に対するシリカ転化反応促進化合物としては酸性化合物や塩基性化合物が適宜使用可能である。
酸性化合物としては酢酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられ、塩基性化合物としては、アンモニアやアミン化合物が挙げられる。
アルコキシシラン化合物に対するシリカ転化反応促進化合物の配合量は、アルコキシシランに対して、0.01~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましい。
【0032】
<カーボンナノチューブ不織布への処理工程>
含浸又は塗布工程
ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物を所定量含む組成物(処理液)に、カーボンナノチューブ不織布を含浸又は塗布した後、溶媒を乾燥してプリプレグを作製する。
また、処理液の塗布方法は含浸方法の他に任意の方法で塗布することができる。例えば、スプレーコーティング、流し塗り、手塗り、バーコーティングなどにより塗布することができる。
含浸又は塗布工程後、プリプレグは硬化工程に付される。
【0033】
硬化工程
ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物を含浸又は塗布させたプリプレグの硬化は水蒸気、酸素、またはその混合ガスを含む雰囲気中、すなわち酸化雰囲気中で行われることが好ましい。本発明においては、特に酸素を含む雰囲気下で硬化させることが好ましい。ここで、酸素の含有率は体積を基準として1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
ここで、本発明の効果を損なわない範囲で、雰囲気中に窒素やヘリウムなどの不活性ガスが混在していてもよい。望ましくはポリシラザン化合物含有組成物に含まれる促進化合物の存在下で前記雰囲気下、300℃以下で1~10時間ほど加熱処理することでシリカ類に容易に転化することができる。望ましくは150℃~300℃で硬化させることでシリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布を製造することができる。
ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物の塗布量はカーボンナノチューブ100質量部に対して1~80質量部であることが好ましく、10~65質量部であることがより好ましい。1質量部未満ではカーボンナノチューブ不織布の強度の向上が期待できず、80質量部超では強度は向上できるが硬くなりすぎて柔軟性が損なわれる場合がある。
【0034】
<電磁波遮蔽シート製造方法>
本発明のシリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布からなる電磁波遮蔽シートは高強度で優れた電磁波遮蔽性能が得られるミリ波やテラヘルツ波に対し優れた電磁波遮蔽性能を示す。
この電磁波遮蔽シートは任意の方法で製造可能であるが、ポリシラザン化合物又はアルコキシシラン化合物を溶媒(揮発性)に溶解して、カーボンナノチューブ不織布に含浸又は塗布したカーボンナノチューブ不織布プリプレグを硬化させることで作製する。次いで作製したカーボンナノチューブ不織布を単層で使用することができるが、多層で積層して使用する場合はカーボンナノチューブ不織布間に未硬化の熱硬化性樹脂フィルムを介在させて積層し、加圧下で加熱することで電磁波遮蔽シートを製造することができる。熱硬化性樹脂フィルムとして、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミドなどが使用可能である。また、熱硬化性樹脂フィルムの代わりに、熱可塑性フィルムも使用可能である。熱可塑性フィルムとして、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、PET樹脂、フッ素樹脂などが使用可能である。
本発明のシリカ層を有するカーボンナノチューブ不織布を使用することで電磁波遮蔽シートのみならず、カーボン繊維布と積層させることでより衝撃強度が強く、軽量で金属の代替も可能な構造材料を提供できる。
【実施例0035】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
実施例及び比較例で使用した各材料を以下に示す。また、本発明における物性値および特性値は、下記の方法にて測定した。
【0036】
材料
カーボンナノチューブ不織布
(1)単層カーボンナノチューブ不織布(単層CNT不織布と略)
単層カーボンナノチューブ(名城ナノカーボン社製EC1.5ーP)を純水に分散させた水溶液をろ過してシートを作製し、溶媒を乾燥除去した不織布
厚さ52μm、比抵抗2.13E-03(Ω・cm)
(2)CNTM10 Tortech社製
厚さ40μm、比抵抗2.44E-03(Ω・cm)
【0037】
(1)ポリシラザン組成物1
X-45-870-5(商品名:重量平均分子量4200のペルヒドロポリシラザン5質量%、ジブチルエーテル94.95質量%、アミン触媒0.05質量%を含有するポリシラザン組成物、信越化学工業製)
(2)ポリシラザン組成物2
メチル基を含有するポリシラザン
X-45-872-5(商品名:重量平均分子量2400のモノメチルポリシラザン5質量%、ジブチルエーテル94.95質量%、アミン触媒0.05質量%を含有するポリシラザン組成物、信越化学工業製)
(3)ポリシラザン組成物3
X-45-870-5(商品名:重量平均分子量4200のペルヒドロポリシラザン5質量%、ジブチルエーテル94.95質量%、アミン触媒0.05質量%を含有するポリシラザン組成物、信越化学工業製)100質量部とKF9701(商品名:両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン、信越化学工業(株)製、n=40)0.3質量部を混合したケイ素化合物5.7質量%含有ポリシラザン組成物
(4)ポリシラザン組成物4
X-45-870-5(商品名:重量平均分子量4200のペルヒドロポリシラザン5質量%、ジブチルエーテル94.95質量%、アミン触媒0.05質量%を含有するポリシラザン組成物、信越化学工業製)100質量部とKF9701(商品名:両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン、信越化学工業(株)製、n=40)1質量部を混合したケイ素化合物16.7質量%含有ポリシラザン組成物
【0038】
(1)アルコキシシラン化合物(ポリシリケート)組成物1
テトラエトキシシラン(KBE-04、信越化学工業製)100質量部、エタノール467質量部、35.0質量%塩酸10質量部の混合物
(2)アルコキシシラン化合物(ポリシリケート)組成物2
テトラエトキシシラン(KBE-04、信越化学工業製)60.5質量部、メチルトリメトキシシラン(KBM-13、信越化学工業製)39.5質量部、エタノール581質量部、35.0質量%塩酸10質量部の混合物
【0039】
測定方法
(1)引張強度
不織布の引張強度は、作製した不織布から10mmx100mmの試験片を切り出し、掴み幅50mm、引張速度100mm/minの条件で島津製作所製オートグラフ(AGS-500NS)によって測定した。
試験結果は3回測定した平均値で示した。
(2)比抵抗
比抵抗は下記式により計算した。
比抵抗(Ω・cm)=表面抵抗率(Ω/□)・厚さ(cm)
表面抵抗率は、ロレスタ-GX MCP-T700(低抵抗 抵抗率計、日東精工アナリテック社製)を使用して測定した。厚さはMitutoyo製マイクロメータを使用して測定した。これら測定値を用いて比抵抗を算出した。
(3)電磁波遮蔽特性
電磁波遮蔽特性は、キーコム社製電磁波シールド測定装置を用いて70GHzでの透過減衰量を測定した。測定系の概略図を
図1に示す。アンリツ社製ベクトルネットワークアナライザーに接続したy軸上の2つのアンテナ間に試料である前記不織布を不織布の面がy軸に直交するように設置し、z軸方向に電場の振動をもつ電磁波を照射することで試料を透過した電磁波を測定し、透過減衰量(dB)を記録した。
【0040】
比較例1
単層カーボンナノチューブ(EC1.5-P、名城ナノカーボン製)と純水とをミキサー(IMF-800、岩谷産業)で1分間攪拌し、0.5g/Lのカーボンナノチューブ水分散液を1L作製した。作製した水分散液をΦ185mmの桐山ロートでろ過した後、80℃の乾燥機中で2時間乾燥させ、更に110℃で1時間乾燥させた。乾燥後にろ紙を剥がしたものを単層CNT不織布とした。引張強度は1.49MPaで、比抵抗は2.13E-03Ω・cmであった。また、70GHzにおける透過減衰量は84dBであった。
【0041】
実施例1
比較例1で作製した単層CNT不織布をポリシラザン組成物1(処理液1)に10秒間含浸させた。単層CNT不織布を処理液1から取り出し、25℃で30分間乾燥させて溶媒を除去した後、150℃の乾燥機中で2時間加熱して硬化させた。硬化後の単層CNT不織布の重量増加率は44.3wt.%であった。引張強度は14.4MPaと向上した。比抵抗は3.31E-03Ω・cmで70GHzにおける伝送損失は82dBであった。
【0042】
実施例2
ポリシラザン組成物1(処理液1)を、ポリシラザン組成物2(処理液2)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、シリカ層を有するCNT不織布を作製した。硬化後の単層CNT不織布の重量増加率は39.6wt.%であった。引張強度は11.6MPaと向上した。比抵抗は4.09E-03Ω・cmで70GHzにおける伝送損失は79dBであった。
【0043】
実施例3
ポリシラザン組成物1(処理液1)を、ポリシラザン組成物3(処理液3)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、シリカ層を有するCNT不織布を作製した。硬化後の単層CNT不織布の重量増加率は47.8wt.%であった。引張強度は16.5MPaと向上した。比抵抗は3.50E-03Ω・cmで70GHzにおける伝送損失は81dBであった。
【0044】
実施例4
ポリシラザン組成物1(処理液1)を、ポリシラザン組成物4(処理液4)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、シリカ層を有するCNT不織布を作製した。硬化後の単層CNT不織布の重量増加率は50.3wt.%であった。引張強度は18.1MPaと向上した。比抵抗は3.76E-03Ω・cmで70GHzにおける伝送損失は80dBであった。
【0045】
実施例5
ポリシラザン組成物1(処理液1)を、アルコキシシラン化合物組成物1(処理液5)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、シリカ層を有するCNT不織布を作製した。硬化後のCNT不織布の重量増加率は23.3wt.%であった。引張強度は23.3MPaと向上した。比抵抗は1.13E-03Ω・cmで70GHzにおける伝送損失は91dBであった。
【0046】
実施例6
ポリシラザン組成物1(処理液1)を、アルコキシシラン化合物組成物2(処理液6)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、シリカ層を有するCNT不織布を作製した。硬化後のCNT不織布の重量増加率は41.5wt.%であった。引張強度は15.8MPaと向上した。比抵抗は1.29E-03Ω・cmで70GHzにおける伝送損失は86dBであった。
【0047】
シリカ層がテトラアルコキシシラン化合物、アルキルポリシリケート化合物又はこれらの部分加水分解物のアルコキシシラン化合物によって形成された請求項1に記載のカーボンナノチューブ不織布。