(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111903
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物、その加水分解縮合物、コーティング組成物および被覆物品
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240813BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016612
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 一憲
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020AA05
4H020AB02
4H020BA33
4J038DL031
4J038NA06
(57)【要約】
【課題】 親水性および防曇性の耐水性に優れるコーティング組成物を与える有機ケイ素化合物を提供すること。
【解決手段】
下記式(1)で表される有機ケイ素化合物。
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、Xは、硫黄原子が介在していてもよい炭素数2~20の2価飽和炭化水素基を表し、nは、1~3の整数である。)
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される有機ケイ素化合物。
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、Xは、硫黄原子が介在していてもよい炭素数2~20の2価飽和炭化水素基を表し、nは、1~3の整数である。)
【請求項2】
下記式(2)または下記式(3)で表される請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【化2】
(式中、R
1、R
2およびnは、前記と同じ意味を表し、mは、1~10の整数であり、kは、2~10の整数である。)
【請求項3】
請求項1または2記載の有機ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む組成物。
【請求項4】
請求項1または2記載の有機ケイ素化合物、この有機ケイ素化合物の加水分解縮合物またはその両方を含むコーティング組成物。
【請求項5】
基材と、この基材の少なくとも一方の面に、直接または1つ以上のその他の層を介して形成された請求項4記載のコーティング組成物からなる被膜とを有する被覆物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、その加水分解縮合物、有機ケイ素化合物を含有するコーティング組成物および被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス等の無機材料、プラスチック等の有機材料から形成される基材の曇りに対する改善要求が高まってきている。基材の曇りに対する改善方法としては、一般的に基材の表面上に親水性被膜をコートすることにより達成されている。例えば、含窒素複素環構造中の窒素原子に正電荷を有するスルホベタイン構造を有する有機ケイ素化合物を主成分とするコーティング組成物が、基材に親水性を付与することが可能なコート剤として知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
しかし、上記コーティング組成物を適用したコート膜は、耐水性が十分ではなく、水と接触した際に、上述した親水性や防曇性等の表面特性が劣化する場合があり、更なる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-48966号公報
【特許文献2】特開2022-82176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、親水性および防曇性の耐水性に優れるコーティング組成物を与える有機ケイ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、グリセロール誘導体構造を有する特定の有機ケイ素化合物が、耐水性に優れ、ガラス等の無機材料、プラスチック等の有機材料から形成される基材に持続性のある親水性、防曇性能を付与することができるコーティング組成物を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表される有機ケイ素化合物、
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、R
2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を表し、Xは、硫黄原子が介在していてもよい炭素数2~20の2価飽和炭化水素基を表し、nは、1~3の整数である。)
2. 下記式(2)または下記式(3)で表される1の有機ケイ素化合物、
【化2】
(式中、R
1、R
2およびnは、前記と同じ意味を表し、mは、1~10の整数であり、kは、2~10の整数である。)
3. 1または2の有機ケイ素化合物の加水分解縮合物を含む組成物、
4. 1または2の有機ケイ素化合物、この有機ケイ素化合物の加水分解縮合物またはその両方を含むコーティング組成物、
5. 基材と、この基材の少なくとも一方の面に、直接または1つ以上のその他の層を介して形成された4のコーティング組成物からなる被膜とを有する被覆物品
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機ケイ素化合物は、耐水性に優れ、ガラス等の基材に持続性のある親水性および防曇性を付与できるコーティング組成物を与える。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の有機ケイ素化合物は下記式(1)で表される。
【0010】
【0011】
式(1)において、R1は、それぞれ独立に、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8のアリール基を表す。
R1のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
R1のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1は、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0012】
R2は、それぞれ独立に、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8のアリール基を表し、これらアルキル基およびアリール基の具体例としては、それぞれR1で例示した基と同様のものが挙げられるが、中でもメチル基が好ましい。
【0013】
Xは、硫黄原子が介在していてもよい炭素数2~20の2価飽和炭化水素基を表し、下記式で示される基が好ましい。
【0014】
【化4】
(式中、mは、1~10の整数であり、kは、2~10の整数である。)
【0015】
すなわち、本発明の有機ケイ素化合物は、好ましくは下記式(2)または下記式(3)で表される化合物である。
【0016】
【化5】
(式中、R
1、R
2、n、mおよびkは、上記と同じ意味を表す。)
【0017】
特に、上記mおよびkについて、本発明の有機ケイ素化合物の単位質量当たりの水酸基含有量および防曇性の点から、mは、1~8の整数が好ましく、3がより好ましく、kは、2~6の整数が好ましく、5がより好ましい。
【0018】
本発明の有機ケイ素化合物の具体例を以下に例示するが、これらに限定されない。
【0019】
【化6】
(式中、Meは、メチル基を意味する。以下同様。)
【0020】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物は、例えば、下記式(I)で表されるメルカプト基含有シラン化合物と、下記式(II)で表されるグリセロール誘導体とをチオール-エン反応させる方法、または、下記式(III)で表されるヒドロシランと、下記式(II)で表されるグリセロール誘導体とをヒドロシリル化反応させる方法で製造することができる。
【0021】
【化7】
(式中、R
1、R
2、k、mおよびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0022】
上記式(I)で表されるメルカプト基含有シラン化合物の具体例を以下に示すが、これらに限定されない。これらの中でも下記構造式(4)で表される3-メルカプトプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0023】
【0024】
上記式(II)で表されるグリセロール誘導体としては、好ましくは7-オクテン-1,2,3-トリオールである。
【0025】
上記式(III)で表されるヒドロシランの具体例を以下に示すが、これらに限定されない。これらの中でも下記構造式(5)で表されるトリメトキシシランが好ましい。
【0026】
【0027】
上記式(I)で表されるメルカプト基含有シラン化合物と、上記式(II)で表されるグリセロール誘導体とのチオール-エン反応は、公知のチオール-エン反応に従って行うことができる。
【0028】
チオール-エン反応では、必要に応じて有機過酸化物、アゾ化合物等の触媒を用いてもよい。
有機過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジtert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等が挙げられる。
アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビスプロパン、2,2’-ジクロロ-2,2’-アゾビスプロパン、1,1’-アゾ(メチルエチル)ジアセテート、2,2’-アゾビスイソブタン、2,2’-アゾビスイソブチルアミド、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-2-メチルプロピオン酸メチル、2,2’-ジクロロ-2,2’-アゾビスブタン、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビスイソ酪酸ジメチル、3,5-ジヒドロキシメチルフェニルアゾ-2-メチルマロノジニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルバレロニトリル、4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸ジメチル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
【0029】
触媒の使用量は、上記式(I)で表されるメルカプト基含有シラン化合物と、上記式(II)で表されるグリセロール誘導体との合計量100質量部当たり、0.00001~10質量部が好ましい。
【0030】
チオール-エン反応では、必要に応じて溶媒を使用してもよい。
使用可能な溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、デカン等の脂肪族炭化水素類などが挙げられる。
チオール-エン反応の反応温度は、0~150℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、溶媒を使用する場合は溶媒の沸点に応じて設定すればよい。反応時間は、1~150時間が好ましく、5~100時間がより好ましい。
【0031】
チオール-エン反応の際の上記式(I)で表されるメルカプト基含有シラン化合物と、上記式(II)で表されるグリセロール誘導体との使用比率は、メルカプト基含有シラン化合物(I)1モルに対し、グリセロール誘導体(II)0.75~1.25モルが好ましく、0.9~1.1モルがより好ましい。
【0032】
また、上記式(III)で表されるヒドロシランと、上記式(II)で表されるグリセロール誘導体とのヒドロシリル化反応は、公知のヒドロシリル化反応に従って行うことができる。
【0033】
ヒドロシリル化反応触媒としては、例えば、白金ブラック、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール変性物、塩化白金酸とオレフィン,ビニルシロキサン,アセチレンアルコール等との錯体等が挙げられる。添加量は、所望する硬化速度に応じて適宜選択すればよいが、通常は反応に供する上記式(III)で表されるヒドロシランと、上記式(II)で表されるグリセロール誘導体の質量の合計に対し、白金族金属の質量換算で、好ましくは0.1~500ppm、より好ましくは1~200ppmである。
【0034】
ヒドロシリル化反応の条件は、特に制限はないが、反応温度20~120℃、反応時間1~8時間が好ましく、反応温度20~100℃、反応時間1~6時間がより好ましい。
【0035】
ヒドロシリル化反応の際の、上記式(III)で表されるヒドロシランと上記式(II)で表されるグリセロール誘導体との比率は、ヒドロシラン(III)1モルに対し、グリセロール誘導体(II)0.75~1.25モルが好ましく、0.9~1.1モルがより好ましい。
【0036】
本発明のコーティング組成物は、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物およびその加水分解縮合物のうち1種以上を含むものである。
特に、上記式(1)で表される本発明の有機ケイ素化合物は、加水分解縮合させることにより、得られる膜の耐久性をより向上させることができる。加水分解縮合を行う際、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の有機ケイ素化合物を添加し、共加水分解縮合を行ってもよい。
【0037】
その他の有機ケイ素化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリペントキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ-グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシエチルエチルジメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリアセトキシシラン、3,3,3-トリフロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β-シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトメチルジエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリプロポキシシラン、(R)-N-1-フェニルエチル-N’-トリエトキシシリルプロピルウレア、(R)-N-1-フェニルエチル-N’-トリメトキシシリルプロピルウレア、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ブロモプロピルトリエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられ、これらは単独で、または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0038】
加水分解縮合には、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蟻酸、蓚酸、マレイン酸等の酸;アンモニア、メチルアミン、エチルアミン等のアルカリ;塩酸、硫酸、硝酸等の金属塩等の触媒を用いてもよい。
加水分解縮合反応に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等エーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン溶媒;水;これらの混合溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種類または2種類以上で使用できる。
これらの中でも、アルコール系溶媒および水が好ましい。
【0039】
加水分解縮合の反応温度は、0℃~溶媒の沸点が好ましく、0~120℃がより好ましく、5~80℃がより一層好ましい。
反応時間は、10分~80時間が好ましく、30分~50時間がより好ましく、30分~2時間がより一層好ましい。
【0040】
本発明のコーティング組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、水、上述のその他の有機ケイ素化合物、メタノール,エタノール等のアルコール類、その他の添加剤等を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蟻酸、蓚酸、マレイン酸等の酸;アンモニア、メチルアミン、エチルアミン等のアルカリ;無機酸化物;レベリング剤;界面活性剤等が挙げられる。
【0041】
特に、耐久性の高い親水膜が得られることから、本発明のコーティング組成物は、無機酸化物を含むことが好ましい。
無機酸化物しては、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、フッ化マグネシウム微粒子等が好ましく、これらはコロイド溶液として用いることがより好ましい。
【0042】
上記レベリング剤および界面活性剤は、塗膜均一性を向上させるために含有させるものであり、公知のものから適宜選択して用いることができるが、入手が容易な市販品を用いることが好ましい。
【0043】
本発明のコーティング組成物中に含まれる上記式(1)で表される有機ケイ素化合物は、シリカゾル(例えば、水性シリカゾル:日産化学(株)製Na+安定型アルカリ性ゾルST-30L、オルガノシリカゾル:日産化学(株)製オルガノシリカゾルIPA-ST等、好ましくはST-30L)上のシラノール基と反応させてもよい。
【0044】
この場合、反応に用いる溶媒の具体例および好適例としては、上記加水分解縮合反応で例示した溶媒と同様のものが挙げられる。
反応温度は、0℃~溶媒の沸点が好ましく、0~120℃がより好ましく、5~80℃がより一層好ましい。
反応時間は、10分~80時間が好ましく、30分~50時間がより好ましく、30分~2時間がより一層好ましい。
【0045】
本発明においては、上述の方法で得られた溶液をそのままコーティング組成物として用いても、必要に応じて、当該溶液を濃縮したり、当該溶液に溶媒を加えて希釈したり、当該溶液中の溶媒をその他の溶媒に置換したりして用いてもよい。
本発明のコーティング組成物中に含まれる上記式(1)で表される有機ケイ素化合物およびその加水分解縮合物の含有量は、特に限定されないが、親水性の観点から、組成物全体に対して0.0001~50質量%が好ましく、0.001~30質量%がより好ましい。
【0046】
本発明のコーティング組成物は、各種基材の少なくとも一方の面に、直接または1つ以上のその他の層を介して適用することで、これらに親水性を付与することができる。
基材を構成する材料の具体例としては、ガラス;合成樹脂{ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂、エチレン四フッ化エチレン共重合体樹脂、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂等)、ポリブタジエン、ポリイソプロピレン、SBR、ニトリルラバー、EPM、EPDM、エピクロルヒドリンラバー、ネオプレンラバー、ポルサルファイド、ブチルラバー等};金属(鉄、アルミニウム、ステンレス、チタン、銅、黄銅、これらの合金等);セルロース、セルロース誘導体、セルロース類似体(キチン、キトサン、ポルフィラン等)、綿、絹、ウール等の天然繊維;レーヨン等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;ビニロン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアラミド繊維等の合成繊維;これらの繊維の複合繊維(ポリエステル/綿等)等が挙げられ、その形態としては、基板、シート、フィルム、繊維等が挙げられる。
また、これらの基材の表面が、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液で処理されている基材や、基材本体と表層が異なる種類の塗料で被覆された化粧合板等も用いることもできる。他の層としては、ポリエステル樹脂塗装、ポリウレタン樹脂塗装、アミノアルキド樹脂塗装、ラッカー塗装、吹付塗装、水性ワックス塗装により得られたものなどが挙げられる。
【0047】
本発明のコーティング組成物を基板上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して塗膜を形成し、親水性コート膜を得ることができる。
塗布法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、バーコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フロートコート法、刷毛塗り法、グラビアコート法、ロール転写法、ブレードコート法、エアーナイフコート法、スリットコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法等を用いることができる。
【実施例0048】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルは、BURKER社製AVANCE III 400を用いて重メタノール(CD3OD)中で測定した。
【0049】
[1]有機ケイ素化合物の製造
[実施例1-1]
【化10】
【0050】
窒素置換した100mL反応容器に、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン3.92g、7-オクテン-1,2,3-トリオール(クラレ(株)製、以下同様。)3.48g、メタノール64.2g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.18gを入れ、60℃で1時間反応させた。反応後、濾過することにより、有機ケイ素化合物A-1の10質量%メタノール溶液60gを得た。
1H-NMR(CD3OD):δ3.69~3.59ppm(s、9H、-Si(OCH3)3)、3.83~3.28ppm(m、4H、OCH-、OCH2-)、2.62~2.45ppm(m、4H、-SCH2-)、1.79~1.21ppm(m、10H、-CH2-)、0.83~0.72ppm(m、2H、-SiCH2-)
【0051】
【0052】
窒素置換した100mL反応容器に、8-メルカプトオクチルトリメトキシシラン5,32g、7-オクテン-1,2,3-トリオール3.48g、メタノール76.8g、AIBN0.18gを入れ、60℃で1時間反応させた。反応後、濾過することにより、有機ケイ素化合物B-1の10質量%メタノール溶液70gを得た。
1H-NMR(CD3OD):δ3.70~3.59ppm(s、9H、-Si(OCH3)3)、3.80~3.25ppm(m、4H、OCH-、OCH2-)、2.68~2.47ppm(m、4H、-SCH2-)、1.81~1.20ppm(m、20H、-CH2-)、0.82~0.71ppm(m、2H、-SiCH2-)
【0053】
【0054】
窒素置換した100mL反応容器に、7-オクテン-1,2,3-トリオール32.0g、白金触媒CAT-PL-50T(信越化学工業(株)製)0.03gを入れ、80℃に昇温した後、トリメトキシシラン36.7gを滴下し、80℃で2時間反応させた。反応後、余剰のトリメトキシシランを留去した後に濾過することにより、有機ケイ素化合物C-1を50g得た。
1H-NMR(CD3OD):δ3.68~3.61ppm(s、9H、-Si(OCH3)3)、3.83~3.26ppm(m、4H、OCH-、OCH2-)、1.75~1.30ppm(m、8H、-CH2-)、0.82~0.73ppm(m、2H、-SiCH2-)
【0055】
【0056】
窒素置換した100mL反応容器に、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン4.9g、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(東京化成工業(株)製)3.3g、メタノール74.0g、AIBN0.24gを入れ、60℃で1時間反応させた。反応後、濾過することにより有機ケイ素化合物D-1の10質量%メタノール溶液68gを得た。
【0057】
【0058】
窒素置換した100mL反応容器中に、トリメトキシ-3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルシラン6.22g、1,3-プロパンスルトン(東京化成工業(株)製)2.76g、メタノール35.9gを入れ、25℃で24時間反応させた。反応後、濾過することにより、有機ケイ素化合物E-1の20質量%メタノール溶液40gを得た。
【0059】
【0060】
反応器中に、トリメトキシ-4-(N,N-ジメチルアミノ)フェニルシラン5.07g、1,3-プロパンスルトン(東京化成工業株式会社製)1.92g、メタノール5.31gを入れ、25℃で24時間反応させた。反応後、濾過することにより、有機ケイ素化合物F-1の59質量%メタノール溶液12gを得た。
【0061】
[2]コーティング組成物の製造
[実施例2-1]
窒素置換した200mL混合容器に、実施例1-1で得られた有機ケイ素化合物A-1の10質量%メタノール溶液50g、イオン交換水49.95g、酢酸0.05gを入れ、25℃で1時間撹拌し、無色透明液体のコーティング組成物A-2を得た。
【0062】
[実施例2-2]
窒素置換した200mL混合容器に、実施例1-2で得られた有機ケイ素化合物B-1の10質量%メタノール溶液50g、イオン交換水49.95g、酢酸0.05gを入れ、25℃で1時間撹拌し、無色透明液体のコーティング組成物B-2を得た。
【0063】
[実施例2-3]
窒素置換した200mL混合容器に、実施例1-3で得られた有機ケイ素化合物C-1を5g、イオン交換水94.95g、酢酸0.05gを入れ、25℃で1時間撹拌し、無色透明の無色透明液体のコーティング組成物C-2を得た。
【0064】
[比較例2-1]
窒素置換した200mL混合容器に、比較例1-1で得られた有機ケイ素化合物D-1の10質量%メタノール溶液50g、イオン交換水49.95g、酢酸0.05gを入れ、25℃で1時間撹拌し、無色透明液体のコーティング組成物D-2を得た。
【0065】
[比較例2-2]
窒素置換した200mL混合容器に、比較例1-2で得られた有機ケイ素化合物E-1の20質量%メタノール溶液25g、メタノール25g、イオン交換水49.95g、酢酸0.05gを入れ、25℃で1時間撹拌し、無色透明液体のコーティング組成物E-2を得た。
【0066】
[比較例2-3]
窒素置換した200mL混合容器に、比較例1-3で得られた有機ケイ素化合物F-1の59質量%メタノール溶液8.5g、メタノール41.5g、イオン交換水49.95g、酢酸0.05gを入れ、25℃で1時間撹拌し、無色透明液体のコーティング組成物F-2を得た。
【0067】
[3]被覆物品の作製と評価
[実施例3-1~3-3、比較例3-1~3-3]
実施例2-1~2-3、比較例2-1~2-3で得られたコーティング組成物A-2~F-2を、それぞれ縦5.0cm、横15cm、厚さ1.5mmガラス板の表面に0.1g滴下し、不織布を使用して、表面全体に均一に塗布した後、105℃で10分間乾燥させることにより各コーティング組成物からなる被膜を有するガラス板を作製した。
得られた各被膜について、次の各試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0068】
(1)防曇性
上記各被膜に呼気を吹きかけ、被膜の表面が曇った場合を「×」、曇らなかった場合を「○」とし、さらに、40℃の温水浴上方、水面から3cmの高さに60秒間置いて、被膜の表面が曇らなかった場合を「◎」として、防曇性を評価した。
(2)水垂れ跡
上記防曇性評価で、40℃の温水浴上方に60秒間静置して防曇性評価を行った後の塗膜を、25℃にて10分間自然乾燥した後に、表面を1,000lmの電灯で照らし、塗膜表面に水の垂れた跡が見られるか、目視による確認を行った。水垂れ跡が見られた場合を「+」、水垂れ跡が見られなかった場合を「-」として評価した。
(3)耐水性
上記各被膜を、25℃の水に24時間および240時間浸漬し、紙ワイパーで表面の水を吸い取った後、25℃にて10分間自然乾燥し、上記防曇性の評価を行った。
(4)耐湿性
上記各被膜を、80℃、95%RHに設定した恒温恒湿器(KCL-2000W、東京理化器械(株))中に、240時間静置した。その後、25℃にて10分間自然乾燥し、上記防曇性の評価を行った。
(5)耐熱性
上記各被膜を、120℃に設定した恒温器(SPHH-201、エスペック(株))中に、240時間静置した。その後、25℃にて10分間静置し、上記防曇性の評価を行った。
【0069】
【0070】
表1に示されるように、実施例3-1~3-3のコーティング組成物で処理されたガラス板は、持続性に優れた防曇性を示すことがわかる。
一方、比較例3-1では初期防曇性が不十分であり、比較例3-2では、水垂れ跡がみられたほか、耐水性試験後および耐湿性試験後に防曇性が消失しており、耐久性に劣ることがわかる。また、比較例3-3では、240時間の耐水性試験後および耐湿性試験後の防曇性が不足することがわかる。