(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024111986
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の評価方法、および、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240813BHJP
【FI】
C30B29/06 502Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016773
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】平木 敬一郎
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA04
4G077CF10
4G077EH10
4G077GA02
4G077GA06
4G077HA06
(57)【要約】
【課題】育成したシリコン単結晶の所定領域が、ゲッタリング能力が高くかつ半導体デバイスの品質不良発生を抑制できるエピタキシャルシリコンウェーハを作成可能な領域であるか否かを判定することができるシリコン単結晶の評価方法を提供すること。
【解決手段】シリコン単結晶の評価方法は、チョクラルスキー法により育成され、ボロンが添加された抵抗率が10mΩ・cm以下、かつ、酸素濃度が12×10
17atoms/cm
3以上16×10
17atoms/cm
3以下のシリコン単結晶の直胴部から取得された評価用ウェーハを有する評価用エピタキシャルウェーハに対して酸素析出核成長処理工程を行い、当該評価用エピタキシャルウェーハの評価用ウェーハのBMD密度が閾値以上の場合、評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が不合格領域であると判定し、閾値未満の場合、所定領域が合格領域であると判定する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により育成され、ボロンが添加された抵抗率が10mΩ・cm以下、かつ、酸素濃度が12×1017atoms/cm3以上16×1017atoms/cm3以下のシリコン単結晶の評価方法であって、
前記シリコン単結晶の直胴部におけるボトム側の領域から評価用ウェーハを取得する評価用ウェーハ取得工程と、
前記評価用ウェーハの表面にエピタキシャル層を成長させて、評価用エピタキシャルウェーハを作成する評価用エピタキシャルウェーハ作成工程と、
前記評価用エピタキシャルウェーハに対して、酸化性雰囲気下で以下の式(1)および式(2)を満たす条件で熱処理を行う酸素析出核成長処理工程と、
前記酸素析出核成長処理工程後の前記評価用エピタキシャルウェーハを構成する前記評価用ウェーハのBMD密度を測定するBMD密度測定工程と、
前記BMD密度測定工程で測定された前記BMD密度が閾値以上の場合、前記直胴部における前記評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が不合格領域であると判定し、前記閾値未満の場合、前記所定領域が合格領域であると判定する評価工程と、を備える、シリコン単結晶の評価方法。
H≧-0.06×T+70 … (1)
900≦T≦1100 … (2)
H:熱処理時間(時間)
T:熱処理温度(℃)
【請求項2】
前記酸素析出核成長処理工程後の評価用エピタキシャルウェーハに対してフラッシュランプ熱処理を行った際に、前記エピタキシャル層に転位欠陥が発生した前記評価用エピタキシャルウェーハを構成する前記評価用ウェーハのBMD密度を測定し、当該測定値以下に前記閾値を設定する閾値設定工程を備える、請求項1に記載のシリコン単結晶の評価方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶の前記直胴部は、当該直胴部から取得されたシリコンウェーハに対して、酸化性雰囲気下で800℃の温度で3時間の熱処理後、1000℃の温度で16時間の熱処理を行った場合に、前記シリコンウェーハにおけるBMD密度が3×109個/cm3以上1×1011個/cm3を満たすように形成された直胴部である、請求項1に記載のシリコン単結晶の評価方法。
【請求項4】
前記シリコン単結晶の前記直胴部は、OSF領域を含まない、請求項1に記載のシリコン単結晶の評価方法。
【請求項5】
予め、引き上げ炉内の温度測定、または、シミュレーションにより酸素析出核形成温度帯域を求めておき、育成中のシリコン単結晶が前記酸素析出核形成温度帯域に滞在した時間を算出する滞在時間算出工程を備え、
前記評価用ウェーハ取得工程において、前記滞在時間算出工程で算出された滞在時間が所定滞在時間を超える前記ボトム側の領域から前記評価用ウェーハを取得する、請求項1に記載のシリコン単結晶の評価方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の評価方法で合格領域と判定された領域から取得したウェーハにエピタキシャル成長処理を行ってエピタキシャルウェーハを製造する、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の評価方法、および、エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板材料としてエピタキシャルシリコンウェーハ(以下、「エピウェーハ」と言う場合がある)が広く使用されている。エピウェーハは、チョクラルスキー法(以下、「CZ法」と言う場合がある)により育成されたシリコン単結晶から切り出したシリコンウェーハ(以下、「ウェーハ」と言う場合がある)の表面に、エピタキシャル層(以下、「エピ層」と言う場合がある)が形成されたものであり、エピ層の結晶の完全性が高いため、高品質で信頼性が高い半導体デバイスを製造することが可能である。
【0003】
近年、デバイス工程におけるラッチアップ現象の防止や、トレンチ構造のキャパシタを用いる場合にトレンチ周辺の電圧印加時の空乏層広がりを防止することを目的に、ボロンを高濃度にドープしたp+シリコンウェーハの表面にエピ層を形成したエピウェーハの提供が求められている。
【0004】
一方、エピウェーハのエピ層が金属不純物で汚染されていると、半導体デバイス特性が悪化してしまう。そこで、エピ層の金属不純物による汚染を排除するために、ゲッタリング作用を有するエピウェーハの提供が求められる。
ゲッタリング技術としては、一般的に、デバイスプロセスの熱処理中に誘起される酸素起因の微小な酸素析出物(BMD:Bulk Micro Defect)を利用して不純物元素を捕獲するイントリンシックゲッタリング(intrinsic gettering、以下、IGという)が採用される。
【0005】
しかしながら、エピ層の形成工程で高温熱処理がウェーハに施されることにより、ウェーハに内在する微小な酸素析出核が縮小、消滅してしまい、その後のデバイスプロセスにおいて、ウェーハ内にゲッタリング源となるBMDを十分に誘起させることができず、エピウェーハはゲッタリング能力が低いという問題がある。
このような問題を解決するために、特許文献1では、CZ法でシリコン単結晶を製造する段階で、育成中のシリコン単結晶が650℃付近の酸素析出核形成温度帯域に滞在する滞在時間を長くし、かつ、シリコン単結晶内に取り込まれる酸素濃度が均一になるように製造条件を制御することにより、トップからボトムまでの直胴部全体に亘ってBMD密度が均一にかつ高密度のシリコン単結晶の製造方法が報告されている。
【0006】
また、特許文献2では、ボロンは酸素析出核の安定性を増大させるため、シリコン単結晶のボロン濃度を高濃度に添加すると、酸素析出物が形成されやすいことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-208894号公報
【特許文献2】特開2017-24965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シリコン単結晶の製造過程において、酸素析出核を形成するようにシリコン単結晶の酸素濃度や熱履歴を調整することは有効な手段であり、ボロン濃度を高濃度にするほどウェーハ中のBMD密度の増大を図ることができる。このため、本発明者はボロンをより高濃度に添加したp++シリコンウェーハ、具体的には、ボロンが添加された抵抗率が10mΩ・cm以下のウェーハにエピタキシャル層を形成したエピウェーハの提供を想起した。
【0009】
ところが、酸素濃度が高く、かつ高濃度にボロンが添加されたウェーハ表面にエピ層を形成したエピウェーハに対してFLA(flash lamp annealing)などの熱処理を行うと、ウェーハ中のBMDを起点に転位が発生し、転位がエピタキシャル層にまで達した転位欠陥が発生する場合があることが判明した。この原因について鋭意研究し、以下の知見を得た。
【0010】
通常、エピウェーハのウェーハ中のBMDはそのサイズが小さいため、直接、ウェーハ中のBMD密度を測定することができない。このため、ウェーハ中のBMD密度を測定するには、一般的に、エピウェーハに対して800℃以下の低温熱処理を行ってウェーハ内に酸素析出核を形成する処理を行った後、1000℃以上の高温熱処理を行って酸素析出核を成長させて酸素析出物として顕在化させる処理が行われる。具体的には、800℃の温度で3時間の熱処理を行った後、引き続き1000℃の温度で16時間の熱処理を施す2-step熱処理が実施される。その後、この2-step熱処理が施されたエピウェーハについて、光学顕微鏡や赤外散乱トモグラフ法などを用いて、ウェーハ中のBMD密度が測定される。
【0011】
ところが、本発明者の実験によれば、エピウェーハに対して上記のような2-step熱処理を行った後のBMD密度評価において、ウェーハ内で観察されるBMD密度がほぼ同レベルの密度であるにも関わらず、エピ層に転位欠陥が発生する場合と発生しない場合があることが明らかとなった。
【0012】
この原因について調査したところ、シリコン単結晶からウェーハを切り出す位置によって、転位欠陥の発生状況は変化し、シリコン単結晶育成過程において、酸素析出核形成温度帯域に滞在する滞在時間が最も長くなるシリコン単結晶の直胴部におけるボトム側の領域から取得されたウェーハにおいて、エピ層に転位欠陥が発生する場合があることを確認した。しかしながら、直胴部のボトム側の領域から取得されたウェーハであれば必ず転位欠陥が発生するというものではなく、エピ層に転位欠陥が発生しないケースも散見された。
【0013】
本発明は、育成したシリコン単結晶の所定領域が、ゲッタリング能力が高くかつ半導体デバイスの品質不良発生を抑制できるエピタキシャルシリコンウェーハを作成可能な領域であるか否かを判定することができるシリコン単結晶の評価方法、および、当該シリコン単結晶の評価方法により評価されたシリコン単結晶を用いるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のシリコン単結晶の評価方法は、チョクラルスキー法により育成され、ボロンが添加された抵抗率が10mΩ・cm以下、かつ、酸素濃度が12×1017atoms/cm3以上16×1017atoms/cm3以下のシリコン単結晶の評価方法であって、前記シリコン単結晶の直胴部におけるボトム側の領域から評価用ウェーハを取得する評価用ウェーハ取得工程と、前記評価用ウェーハの表面にエピタキシャル層を成長させて、評価用エピタキシャルウェーハを作成する評価用エピタキシャルウェーハ作成工程と、前記評価用エピタキシャルウェーハに対して、酸化性雰囲気下で以下の式(1)および式(2)を満たす条件で熱処理を行う酸素析出核成長処理工程と、前記酸素析出核成長処理工程後の前記評価用エピタキシャルウェーハを構成する前記評価用ウェーハのBMD密度を測定するBMD密度測定工程と、前記BMD密度測定工程で測定された前記BMD密度が閾値以上の場合、前記直胴部における前記評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が不合格領域であると判定し、前記閾値未満の場合、前記所定領域が合格領域であると判定する評価工程と、を備える。
H≧-0.06×T+70 … (1)
900≦T≦1100 … (2)
H:熱処理時間(時間)
T:熱処理温度(℃)
【0015】
本発明のシリコン単結晶の評価方法において、前記酸素析出核成長処理工程後の評価用エピタキシャルウェーハに対してフラッシュランプ熱処理を行った際に、前記エピタキシャル層に転位欠陥が発生した前記評価用エピタキシャルウェーハを構成する前記評価用ウェーハのBMD密度を測定し、当該測定値以下に前記閾値を設定する閾値設定工程を備える、ことが好ましい。
【0016】
本発明のシリコン単結晶の評価方法において、前記シリコン単結晶の前記直胴部は、当該直胴部から取得されたシリコンウェーハに対して、酸化性雰囲気下で800℃の温度で3時間の熱処理後、1000℃の温度で16時間の熱処理を行った場合に、前記シリコンウェーハにおけるBMD密度が3×109個/cm3以上1×1011個/cm3を満たすように形成された直胴部である、ことが好ましい。
【0017】
本発明のシリコン単結晶の評価方法において、前記シリコン単結晶の前記直胴部は、OSF領域を含まない、ことが好ましい。
【0018】
本発明のシリコン単結晶の評価方法において、予め、引き上げ炉内の温度測定、または、シミュレーションにより酸素析出核形成温度帯域を求めておき、育成中のシリコン単結晶が前記酸素析出核形成温度帯域に滞在した時間を算出する滞在時間算出工程を備え、前記評価用ウェーハ取得工程において、前記滞在時間算出工程で算出された滞在時間が所定滞在時間を超える前記ボトム側の領域から前記評価用ウェーハを取得する、請求項1に記載のシリコン単結晶の評価方法。
【0019】
本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、上述のシリコン単結晶の評価方法で合格領域と判定された領域から取得したウェーハにエピタキシャル成長処理を行ってエピタキシャルウェーハを製造する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を導くために行った実験結果を示す図であり、(A)は実験例1~3のウェーハ取得位置を表すシリコン単結晶の固化率と抵抗率との関係を示すグラフであり、(B)は実験例1~3のシリコン単結晶の固化率と形成温度滞在時間との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明を導くために行った実験結果を示す図であり、(A)は実験例1~3のシリコン単結晶の固化率と2-step析出熱処理が行われたウェーハのBMD密度との関係を示すグラフであり、(B)は実験例1~3のウェーハの抵抗率と2-step析出熱処理が行われたウェーハのBMD密度との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明を導くために行った実験における転位欠陥の発生状態を示す図である。
【
図4】本発明を導くために行った実験結果を示す図であり、(A)は実験例1~3のシリコン単結晶の固化率と酸素析出核成長処理が行われたウェーハのBMD密度との関係を示すグラフであり、(B)は実験例1~3のウェーハの抵抗率と酸素析出核成長処理が行われたウェーハのBMD密度との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態に係る閾値設定処理を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態に係る閾値の設定方法の一例を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の評価処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本発明を導くに至った経緯]
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、転位欠陥の発生の原因が、酸素析出核形成温度帯域の滞在時間が長くなることによるシリコン単結晶育成中の酸素析出過多により、ウェーハ中のBMD密度が増大し過ぎることが原因と推測し、育成したシリコン単結晶がエピ層に転位欠陥が発生しない結晶領域であるかどうかの合否判定が行えるシリコン単結晶の評価方法を完成するに至った。
以下、本発明を導くに至った経緯の詳細について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図示しないシリコン単結晶製造装置を用い、ドーパントとしてボロンを添加し、直胴部が以下の条件を満たすようにCZ法による育成条件を制御して、肩部、直胴部およびテール部を有する実験例1のシリコン単結晶を製造した。シリコン単結晶の直胴部の仕様は以下の通りである。
なお、以下の説明において、酸素濃度は、ASTM F121-1979に規定される赤外吸収法に準拠して、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)を用いて測定される酸素濃度である。
上端(トップ部)の抵抗率:15mΩ・cm以下
酸素濃度:12.0×1017atoms/cm3以上13.5×1017atoms/cm3以下
直径:300mm(外周円筒研削後の直径)
結晶領域:COP(Crystal Originated Particle)、OSF(Oxidation induced Stacking Fault:酸化誘起積層欠陥)領域および転位クラスターを含まない
【0023】
また、直胴部上端の抵抗率が10mΩ・cmになるようにしたこと以外は、実験例1と同じように育成条件を制御して、実験例2のシリコン単結晶を得た。
さらに、直胴部上端の抵抗率が5mΩ・cmになるようにしたこと以外は、実験例1と同じように育成条件を制御して、実験例3のシリコン単結晶を得た。
実施例1~3のシリコン単結晶に対して外周円筒研削処理を行って、直胴部直径が300mmのシリコン単結晶に加工した。
【0024】
次に、実験例1のシリコン単結晶の直胴部における固化率が5%、95%および10×N%(Nは1以上9以下の整数)の合計11箇所(以下、「ウェーハ取得位置」と言う場合がある)から、それぞれ3枚ずつの実験例1のウェーハを取得した。また、実験例2,3のシリコン単結晶の直胴部からも、実験例1のシリコン単結晶と同様に、ウェーハ取得位置からそれぞれ3枚ずつの実験例2,3のウェーハを取得した。本実験例1~3では、バンドソーを用いてシリコン単結晶の直胴部からウェーハを切り出した。
なお、固化率が0%の位置は直胴部の引き上げ方向上端であり、100%の位置は下端である。
そして、取得された各ウェーハに対して、所定の加工処理(研削、エッチング、研磨、洗浄)を行い、ウェーハ取得位置が互いに異なる1枚ずつの実験例1~3のウェーハの抵抗率を測定した。実験例1~3のウェーハ取得位置を表すシリコン単結晶の固化率と抵抗率との関係を
図1(A)に示す。
【0025】
図1(A)に示すように、実験例1,2,3のシリコン単結晶の直胴部の抵抗率は、それぞれ15mΩ・cm以下、10mΩ・cm以下、5mΩ・cm以下であることを確認できた。
【0026】
シリコン単結晶の冷却過程における800℃以下600℃以上の温度は、シリコン単結晶に酸素析出核が形成される酸素析出核形成温度帯域として知られている。そこで、実験例1~3のシリコン結晶の各位置における800℃から600℃に冷却されるまでに要する時間、つまり酸素析出核形成温度帯域に保持されている時間(以下、「形成温度滞在時間」と言う場合がある)を調べた。実験例1~3のシリコン単結晶の固化率と形成温度滞在時間との関係を
図1(B)に示す。
なお、固化率が80%未満の位置の形成温度滞在時間は、80%の位置の形成温度滞在時間以下となるため、固化率が80%未満の位置の形成温度滞在時間を
図1(B)で示していない。
また、
図1(B)に示す関係は、予め、引き上げ炉内の温度測定を行うか、あるいは公知のシミュレーションにより酸素析出核形成温度帯域を求めておき、育成中のシリコン単結晶の直胴部およびテール部の形成時の引き上げ速度の実績値に基づいて算出することができる。
【0027】
図1(B)に示すように、実験例1~3のシリコン単結晶において、固化率が約90%の位置の形成温度滞在時間が局所的に最も長くなることを確認できた。このように、直胴部における固化率が85%以上の領域に、形成温度滞在時間が最長の位置が発生する。以下、形成温度滞在時間が最長の位置を、「形成温度滞在時間最長位置」と言う場合がある。
形成温度滞在時間最長位置における形成温度滞在時間の長さは、実験例3のシリコン単結晶が最も長く、実験例1のシリコン単結晶が最も短い結果であった。すなわち、抵抗率が低くなる(ボロン濃度が高くなる)ほど、形成温度滞在時間が長くなることが確認された。これは、ボロン濃度が高くなることでシリコン単結晶そのものの冷却速度が低下することにより、形成温度滞在時間が長くなったと推定される。
また、形成温度滞在時間が長いほど、シリコン単結晶に形成される酸素析出核が多くなることと、
図1(B)に示される結果から、実験例1~3のシリコン単結晶に含まれる酸素析出核は、固化率が約90%の形成温度滞在時間最長位置が最も多いと推定することができる。また、実験例1~3のシリコン単結晶における形成温度滞在時間最長位置の酸素析出核の個数を比較すると、実験例3のシリコン単結晶が最も多く、実験例1のシリコン単結晶が最も少ないと推定することができる。
【0028】
次に、合計99枚の実験例1~3のウェーハに、図示しない気相成長装置を用いて、1000℃以上1175℃以下の温度で厚さ3μmのエピ層をそれぞれ成長させて、合計99枚ずつの実験例1~3のエピウェーハを作成した。
そして、ウェーハ取得位置が互いに異なる2枚ずつの実験例1~3のエピウェーハに対して、一般的に行われているBMDを析出させるための2-step析出熱処理を行った。2-step析出熱処理は、酸化性雰囲気の図示しない熱処理炉内で酸素析出核形成温度である800℃で3時間の熱処理を行う第1熱処理と、熱処理炉からエピウェーハを取り出すことなく1000℃まで温度を上げて、酸素析出核成長温度である1000℃で16時間の熱処理を行う第2熱処理と、を備える。第1熱処理の温度は、酸素析出核形成温度帯域の温度であれば良く、600℃以上800℃以下の範囲で設定され、第2熱処理の温度は、酸素析出核が成長する温度帯に設定する必要があり、少なとも900℃以上の温度に設定される。
【0029】
そして、2-step析出熱処理が行われたエピウェーハのうち、ウェーハ取得位置が互いに異なる1枚ずつの実験例1~3のエピウェーハを劈開し、劈開断面をライトエッチング液で2μmエッチングした後、光学顕微鏡で劈開断面を観察してウェーハのBMD密度を測定した。BMD密度の測定範囲は、エピウェーハの中心から5mm外側の位置から、外縁から10mm内側の位置までの範囲である。
実験例1~3のシリコン単結晶の固化率と2-step析出熱処理が行われたエピウェーハのウェーハのBMD密度との関係を
図2(A)に示す。実験例1~3のウェーハの抵抗率と2-step析出熱処理が行われたウェーハのBMD密度との関係を
図2(B)に示す。
【0030】
図2(A)に示すように、実験例1のシリコン単結晶では、固化率が高くなるほどBMD密度が高くなるものの、BMD密度が3×10
9個/cm
3以上を満たす直胴部領域は固化率80%以降の極僅かな結晶領域でしか得られないことが確認された。一方、実験例2,3のシリコン単結晶では、ボロンが高濃度に添加された抵抗率が10mΩ・cm以下のシリコン単結晶であることから、実験例1よりもBMD密度が高く、直胴部全域に亘ってBMD密度が3×10
9個/cm
3以上1×10
11個/cm
3以下であり、ほぼ直胴部全域に亘ってBMD密度が均一なシリコン単結晶であることが確認された。
また、
図2(B)に示すように、本実験例1~3のいずれにおいても、シリコン単結晶の抵抗率が低くなるほどBMD密度が増加することが確認できた。
【0031】
次に、2-step析出熱処理が行われたエピウェーハのうち、劈開されていない(BMD密度測定を行わなかった)残りの実験例1~3のエピウェーハに対して、半導体デバイス製造工程の一部を模擬したフラッシュランプ熱処理を行った。本実験例1~3では、フラッシュランプ熱処理として、SCREENセミコンダクターソリューションズ社製のフラッシュランプ熱処理装置(LA-3000-F)を用い、室温から800℃のアシストヒート温度までの予備加熱を行った後、1200℃の窒素雰囲気下で20msecの熱処理を行った。なお、フラッシュランプ熱処理条件は、上記条件に限定されるものではない。例えば、熱処理温度は1300℃でも良く、熱処理時間を1.4msecや2msecに設定するなど、ユーザで実施されるデバイスプロセス条件を模擬した熱処理条件であれば良い。
この後、実験例1~3のエピウェーハのエピ層側の表面をX線トポグラフィー法により観察し、エピ層への転位欠陥の発生状況を調べた。
その結果、実験例2,3のエピウェーハのうち、固化率90%の位置のウェーハを有するエピウェーハのみに、転位欠陥が発生することが分かった。つまり、直胴部の抵抗率が10mΩ・cm以下のシリコン単結晶における、形成温度滞在時間最長位置とほぼ同じ位置のウェーハを有するエピウェーハのみに、転位欠陥が発生することが分かった。
また、転位欠陥が発生しているエピウェーハを劈開し、劈開断面をTEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)で観察したところ、
図3に示すように、BMD密度が特に高い領域(
図3におけるBMD高密度領域)におけるウェーハ表面のBMDが転位欠陥を誘発していることを確認でき、ウェーハのBMD密度が高いほど、転位欠陥が発生し易いことが分かった。
【0032】
このようなBMD密度と転位欠陥の発生し易さとの関係、および、フラッシュランプ熱処理後の転位欠陥の発生状況から、実験例2,3のシリコン単結晶における形成温度滞在時間最長位置のBMD密度が、他の位置よりも局所的に高いと推定することができる。しかし、
図2(A),(B)に示す結果は、実験例2,3のシリコン単結晶における形成温度滞在時間最長位置のBMD密度が他の位置よりも局所的に高いことを表していない。
本発明者は、実験例2,3のシリコン単結晶における固化率90%の位置のウェーハを有するエピウェーハに、転位欠陥が発生し易いことを説明するための熱処理として、2-step析出熱処理が適切でないと考えた。
そこで、本発明者は、鋭意研究を重ねる過程において、以下の実験を行った。
【0033】
まず、2-step析出熱処理が行われていない残りの実験例1~3のエピウェーハに対して、新たな酸素析出核成長処理を行った。この酸素析出核成長処理では、酸素析出核形成温度帯域での熱処理を行わずに、酸化性雰囲気の熱処理炉内で酸素析出核成長温度帯域の温度である900℃で16時間の熱処理を行った。
そして、酸素析出核成長処理後の各エピウェーハのウェーハに対して、2-step析出熱処理を行った場合と同様の方法でBMD密度を測定した。
実験例1~3のシリコン単結晶の固化率と酸素析出核成長処理が行われたウェーハのBMD密度との関係を
図4(A)に示す。実験例1~3のウェーハの抵抗率と酸素析出核成長処理が行われたウェーハのBMD密度との関係を
図4(B)に示す。
【0034】
図4(A)に示すように、実験例1~3のシリコン単結晶の全てにおいて、シリコン単結晶の固化率90%の位置でウェーハのBMD密度が局所的に高くなり、固化率90%の位置のBMD密度と固化率80%の位置のBMD密度との差は、実験例1、実験例2、実験例3の順に大きくなることを確認できた。
また、
図4(B)に示すように、抵抗率が低い実験例2および実験例3では、局所的にBMD密度が増大することを確認できた。つまり、抵抗率が低いほど、固化率90%の位置のBMD密度と固化率80%の位置のBMD密度との差が大きくなることを確認できた。なお、酸素析出核成長処理条件を酸素析出核成長温度帯域の温度である1100℃で4時間の熱処理に変更しても、ほぼ
図4(A)、(B)で示す結果と同等の結果であった。
【0035】
図4(A),(B)に示すBMD密度が局所的に高くなる固化率は、
図1に示す酸素析出核形成温度帯域の形成温度滞在時間が局所的に長くなる固化率と、フラッシュランプ熱処理後に転位欠陥が発生するエピウェーハのウェーハ取得位置の固化率とにほぼ一致する。
以上の結果から、本発明者は、エピウェーハに対して酸素析出核成長処理を行い、BMD密度を測定することにより、シリコン単結晶の所定領域が、ゲッタリング能力が高くかつ半導体デバイスの品質不良発生を抑制できるエピウェーハを作成可能な領域であるか否かを判定できるという知見を得た。
そして、本発明者は、エピウェーハに対して2-step析出熱処理を行う場合と、酸素析出核成長処理を行う場合とで、BMDの発生状況が異なる原因を以下のように推定した。
【0036】
シリコン単結晶の直胴部には、酸素析出核成長温度帯域による熱処理でBMDに成長するサイズの酸素析出核(以下、「成長可能析出核」と言う場合がある)と、酸素析出核成長温度帯域による熱処理でBMDに成長しないサイズの酸素析出核(以下、「成長不可能析出核」と言う場合がある)とが存在する。
そして、形成温度滞在時間が長く酸素析出核の存在数が多い位置ほど、当該位置における成長可能析出核の割合(以下、「成長可能析出核割合」と言う場合がある)が高くなる。このため、シリコン単結晶の形成温度滞在時間最長位置における成長可能析出核は、他の位置と比べて局所的に多くなる。
【0037】
一方、ウェーハに存在する一部の酸素析出核は、エピ層成長時の加熱により消失する。しかし、形成温度滞在時間最長位置のウェーハの成長可能析出核が、他の位置のウェーハと比べて局所的に多くなるという関係は変わらない。
【0038】
エピウェーハに対して、2-step析出熱処理のように、最初に酸素析出核形成温度帯域での熱処理を行うと、成長不可能析出核が大きくなって成長可能析出核になり、当該エピウェーハのウェーハにおける成長可能析出核が多くなる。酸素析出核形成温度帯域での熱処理前の成長可能析出核割合が低い位置ほど、つまり成長不可能析出核の割合が高い位置ほど、酸素析出核形成温度帯域での熱処理により成長可能析出核になる成長不可能析出核が多くなる。
このため、直胴部の各位置から得られたウェーハを有するエピウェーハに対して、2-step析出熱処理のように、最初に酸素析出核形成温度帯域での熱処理を行うことにより、各エピウェーハのウェーハにおける当該熱処理後の成長可能析出核の個数の差が小さくなり、形成温度滞在時間最長位置のウェーハにおける成長可能析出核が他の位置のウェーハと比べて局所的に多くならなくなる。
そして、酸素析出核成長温度帯域での熱処理を行うことにより、成長可能析出核のみがBMDに成長する。
したがって、2-step析出熱処理のように、酸素析出核形成温度帯域での熱処理後に酸素析出核成長温度帯域での熱処理を行うと、シリコン単結晶の固化率と2-step析出熱処理が行われたウェーハのBMD密度との関係は、
図2(A)に示すように、形成温度滞在時間最長位置とほぼ同じ固化率90%の位置のウェーハのBMD密度が局所的に高くならない分布になると推定した。
【0039】
一方、形成温度滞在時間最長位置のウェーハにおける成長可能析出核が他の位置のウェーハと比べて局所的に多いという関係を有する各エピウェーハに対して、酸素析出核成長処理のように、酸素析出核形成温度帯域での熱処理を行わずに、酸素析出核成長温度帯域での熱処理を行うと、成長不可能析出核が大きくなって成長可能析出核になることがなく、熱処理前に存在していた成長可能析出核のみがBMDに成長する。このため、シリコン単結晶の固化率と酸素析出核成長処理が行われたウェーハのBMD密度との関係は、
図4(A)に示すように、形成温度滞在時間最長位置とほぼ同じ固化率90%の位置のウェーハのBMD密度が局所的に高くなる分布になると推定した。
本発明のシリコン単結晶の評価方法は、以上の知見に基づいて完成された。
【0040】
[実施形態]
次に、本発明の一実施形態について説明する。
【0041】
〔実施形態の概要〕
本実施形態は、まず、シリコン単結晶の育成条件およびエピタキシャル層の成長条件に関連付けられた複数の閾値であって、育成条件および成長条件のうち少なくとも一方が互いに異なる複数の閾値を設定する閾値設定処理を行う。
【0042】
次に、複数の閾値のうち1つの閾値を用いて、本発明のシリコン単結晶の評価方法を用いるシリコン単結晶の評価処理を行う。
シリコン単結晶の評価処理は、評価対象のシリコン単結晶の直胴部から得られた評価用ウェーハにエピ層を成長させて評価用エピウェーハを作成し、上述の酸素析出核成長処理が行われた評価用エピウェーハのBMD密度を測定する。また、複数の閾値から、評価対象のシリコン単結晶と同じ育成条件および評価用エピウェーハのエピ層と同じ成長条件に関連付けられた閾値を選出する。そして、評価用ウェーハのBMD密度が閾値以上の場合、当該評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が不合格領域であると判定し、閾値未満の場合、前記所定領域が合格領域であると判定する。不合格領域は、評価用エピウェーハのエピ層と同じ成長条件で形成されたエピ層を有するエピウェーハであって、ゲッタリング能力が高くかつ半導体デバイスの品質不良発生を抑制できるエピウェーハを作成不可能な領域である。合格領域は、評価用エピウェーハのエピ層と同じ成長条件で形成されたエピ層を有するエピウェーハであって、ゲッタリング能力が高くかつ半導体デバイスの品質不良発生を抑制できるエピウェーハを作成可能な領域である。
以下、閾値設定処理およびシリコン単結晶の評価処理の詳細について説明する。
【0043】
〔閾値設定処理〕
閾値設定処理について、図面を参照しながら説明する。
図5は、閾値設定処理を示すフローチャートである。
図6は、閾値の設定方法の一例を示す説明図である。
なお、閾値設定処理は、本発明のシリコン単結晶の評価方法の一部を構成する。
【0044】
図5に示す閾値設定処理は、所定のシリコン単結晶の育成条件および所定のエピタキシャル層の成長条件に関連付けられた1つの閾値を設定する。
閾値設定処理において、シリコン単結晶製造装置を用いて、所定の育成条件(シリコン単結晶製造装置のホットゾーンの構成、シリコン単結晶のドーパント、抵抗率、形状、引き上げ速度)で閾値設定用のシリコン単結晶を製造する(ステップS1)。
また、ステップS1で製造された閾値設定用のシリコン単結晶は、以下の特性を有する。
ドーパント:ボロン
抵抗率:1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下
酸素濃度:12×10
17atoms/cm
3以上16×10
17atoms/cm
3以下
直径:300mm(外周円筒研削後の直径)
結晶領域:COP、OSF領域および転位クラスターを含まない
BMD密度:直胴部全域から取得されたウェーハに対して2-step析出熱処理(例えば、第1熱処理:800℃で3時間以上、第2熱処理:1000℃で16時間以上)を行った場合のBMD密度(実験例1~3のウェーハのBMD密度の測定方法と同様の方法により測定されたBMD密度)は3×10
9個/cm
3以上1×10
11個/cm
3
【0045】
このように製造された閾値設定用のシリコン単結晶の固化率と形成温度滞在時間との関係は、
図1(B)に示すように、直胴部下端側の形成温度滞在時間が局所的に長くなる場合がある。
【0046】
次に、閾値設定用のシリコン単結晶の直胴部におけるボトム側の領域からウェーハを取得する(ステップS2)。なお、ステップS2および後述するステップS22において、直胴部におけるボトム側の領域とは、固化率が85%以上の領域である。固化率が85%以上の領域内において、酸素析出核形成温度帯域に滞在する滞在時間が最長となる結晶領域が発生する。また、ステップS2で取得されるウェーハは、本発明の評価用ウェーハでもある。
ステップS2において、直胴部における長さ方向の互いに異なる複数の位置から2枚ずつのウェーハを取得する。そして、取得された各ウェーハに対して、各種装置を用いて所定の加工処理(研削、エッチング、研磨、洗浄)を行う。
【0047】
この後、図示しない気相成長装置を用いて、所定の加工処理が行われたウェーハに、所定の成長条件(成長温度、成長時間、成長ガス、エピ層の厚さ)でエピ層を成長させることにより、第1エピウェーハおよび第2エピウェーハを作成する(ステップS3:エピウェーハ作成工程)。
第1エピウェーハは、直胴部の同じ位置から取得された2枚のエピウェーハのうち一方のエピウェーハであり、第2エピウェーハは、他方のエピウェーハである。
【0048】
次に、図示しない熱処理炉を用いて、各第1エピウェーハおよび各第2エピウェーハに対して酸素析出核成長処理を行う(ステップS4:閾値設定用BMD密度測定工程)。
ステップS4の酸素析出核成長処理では、酸素析出核形成温度帯域での熱処理を行わずに、酸素析出核成長温度帯域の酸化性雰囲気下で熱処理を行う。
酸素析出核成長処理の条件は、酸素析出核成長温度をT(℃)、熱処理時間をH(時間)とした場合、以下の式(3)および式(4)の条件を満たすことが好ましい。例えば、酸素析出核成長処理は、900℃の温度で16時間以上行われても良いし、1100℃の温度で4時間以上行われても良い。酸素析出核成長処理が式(3)の条件を満たさない場合、2-step析出熱処理を行う場合のように、成長不可能析出核が大きくなって成長可能析出核になってしまい、形成温度滞在時間最長位置を含む所定領域から取得された第1エピウェーハのBMD密度が、他の位置から取得された第1ウェーハのBMDよりも局所的に高くならないおそれがあるからである。
H≧-0.06×T+70 … (3)
900≦T≦1100 … (4)
【0049】
次に、酸素析出核成長処理後の各第1エピウェーハを構成する第1ウェーハのBMD密度を測定する(ステップS5:閾値設定用BMD密度測定工程)。
BMD密度の測定方法としては、実験例1~3のウェーハのBMD密度の測定方法と同様の方法を例示することができる。
【0050】
次に、図示しないフラッシュランプ熱処理装置を用いて、酸素析出核成長処理後の各第2エピウェーハに対してフラッシュランプ熱処理を行う(ステップS6:フラッシュランプ熱処理工程)。
フラッシュランプ熱処理としては、実験例1~3のエピウェーハ対して行ったフラッシュランプ熱処理と同様の条件を例示することができる。
【0051】
この後、各第2エピウェーハにおける欠陥の発生位置を特定するために、各第2エピウェーハの表面観察を行う(ステップS7:欠陥有無判定工程、欠陥位置特定工程)。
表面観察方法としては、第2エピウェーハのエピ層側の表面をX線トポグラフィー法により観察する方法を例示することができる。
次に、表面観察結果に基づいて、各第2エピウェーハに欠陥が発生しているか否かを判定する(ステップS8:欠陥有無判定工程、欠陥位置特定工程)。
【0052】
第2エピウェーハに欠陥が発生していると判定した場合(ステップS8:YES)、当該第2エピウェーハにおける欠陥の発生位置の断面観察を行う(ステップS9:欠陥有無判定工程、判定工程)。
断面観察方法としては、第2エピウェーハを劈開し、劈開断面をTEMにより観察する方法を例示することができる。
次に、断面観察結果に基づいて、欠陥が第2エピウェーハにBMDに起因する転位欠陥か否かを判定する(ステップS10:欠陥有無判定工程、判定工程)。
【0053】
欠陥がBMD起因の転位欠陥であると判定した場合(ステップS10:YES)、取得位置が当該第2エピウェーハを構成する第2ウェーハと同じ第1ウェーハのBMD密度を不合格値に設定する(ステップS11)。
【0054】
一方、断面観察結果に基づき第2エピウェーハに欠陥が発生していないと判定した場合(ステップS8:NO)、または、表面観察結果に基づき欠陥がBMD起因の転位欠陥でないと判定した場合(ステップS10:NO)、取得位置が当該第2エピウェーハを構成する第2ウェーハと同じ第1ウェーハのBMD密度を合格値に設定する(ステップS12)。
【0055】
全ての第1ウェーハのBMD密度を不合格値または合格値に設定した後、不合格値のBMD密度が存在するか否かを判定する(ステップS13)。
【0056】
不合格値のBMD密度が存在すると判定した場合(ステップS13:YES)、不合格値および合格値に基づいて、閾値を設定する(ステップS14:設定工程)。
例えば、最も小さい不合格値以下、かつ、最も大きい合格値を超える値を、閾値として設定する。具体的には、第1ウェーハの取得位置を表す固化率と、BMD密度の合否との関係が
図6に示すような関係(丸印が合格値、ばつ印が不合格値)の場合、最も小さい不合格値である固化率90%のBMD密度と、最も大きい合格値である固化率80%のBMD密度との間の閾値設定可能範囲内の所定値が、閾値として設定される。
なお、合格値を考慮に入れずに、最も小さい不合格値よりも所定値小さい値を、閾値として設定しても良い。
【0057】
ここで、ステップS14において、転位欠陥が発生した第2エピウェーハの第2ウェーハにおけるBMD密度ではなく、当該第2ウェーハに隣接する位置から取得された第1ウェーハにおけるBMD密度に基づいて、閾値を設定している。しかし、このように、互いに隣接する2枚のウェーハのBMD密度はほぼ同じであると考えられるため、ステップS14の処理は、エピ層に転位欠陥が発生したエピウェーハ(第1エピウェーハ)の評価用ウェーハ(第1ウェーハ)におけるBMD密度以下に、閾値を設定する処理とみなすことができる。
なお、例えば、ステップS9,S10の処理を行わずに、ステップS7の表面観察が行われたウェーハのBMD密度を測定し、表面観察において転位欠陥が発生したと判定したか否かに基づいて、前記表面観察が行われたウェーハのBMD密度を用いてステップS12またはステップS13の処理を行っても良い。この場合、ステップS3において作成されたエピウェーハを第1,第2エピウェーハに区別することなく、かつ、ステップS5の処理を行うことなく、ステップS4、ステップS6以降の処理を行えば良い。
【0058】
ステップS14で設定された閾値は、閾値設定用のシリコン単結晶の育成条件および評価用エピウェーハのエピ層の成長条件、つまりシリコン単結晶の所定の育成条件およびエピ層の所定の成長条件に関連付けられる。
なお、ステップS14の閾値の設定工程は、作業者が行っても良いし、コンピュータが行っても良い。また、閾値は、紙などの媒体に記載されても良いし、表示装置で表示できるようにコンピュータの記憶部に記憶されても良い。
【0059】
一方、不合格値のBMD密度が存在しないと判定した場合(ステップS13:NO)、ステップS14の処理を行うことなく、閾値設定処理を終了する。
【0060】
以上の閾値設定処理を、閾値設定用のシリコン単結晶の育成条件および評価用エピウェーハのエピ層の成長条件のうち少なくとも一方を異ならせて複数回行うことにより、シリコン単結晶の育成条件およびエピタキシャル層の成長条件に関連付けられた複数の閾値であって、育成条件および成長条件のうち少なくとも一方が互いに異なる複数の閾値を設定することができる。
【0061】
〔シリコン単結晶の評価処理〕
次に、本発明のシリコン単結晶の評価方法の一部を構成するシリコン単結晶の評価処理について、図面を参照しながら説明する。
図7は、シリコン単結晶の評価処理を示すフローチャートである。
【0062】
図7に示すように、シリコン単結晶製造装置を用いて、所定の育成条件で評価対象のシリコン単結晶を製造する(ステップS21)。
ステップS21で製造された評価対象のシリコン単結晶は、上述した閾値設定用のシリコン単結晶と同じ特性(ドーパント、抵抗率、酸素濃度、直径、結晶領域、BMD密度)を有する。
【0063】
次に、評価対象のシリコン単結晶の直胴部におけるボトム側の領域(固化率が85%以上の領域)から評価用ウェーハを取得する(ステップS22:評価用ウェーハ取得工程)。
ステップS22において、まず、例えば、予め、引き上げ炉内の温度測定、または、シミュレーションにより酸素析出核形成温度帯域を求めておき、シリコン単結晶が酸素析出核形成温度帯域に滞在した時間を算出する(滞在時間算出工程)。そして、算出された滞在時間が所定滞在時間を超えるボトム側の領域から評価用ウェーハを取得する。
この後、各種装置を用いて、取得された各評価用ウェーハに対して所定の加工処理(研削、エッチング、研磨、洗浄)を行う。
なお、以下のように評価用ウェーハを取得しても良い。例えば、直胴部における形成温度滞在時間最長位置を特定する。そして、直胴部における形成温度滞在時間最長位置と、形成温度滞在時間最長位置から引き上げ方向の上端側および下端側にそれぞれ同じ距離離れた位置と、からそれぞれ1枚ずつの評価用ウェーハを取得しても良い。例えば、形成温度滞在時間最長位置が固化率85%の位置の場合、固化率70%、85%、100%の位置から評価用ウェーハを取得しても良い。
また、評価用ウェーハの取得位置は、1箇所でも良いし、2箇所以上であっても良い。
【0064】
次に、図示しない気相成長装置を用いて、評価用ウェーハに所定の成長条件でエピ層を成長させることにより、評価用エピウェーハを作成する(ステップS23:評価用エピタキシャルウェーハ作成工程)。
【0065】
次に、作業者は、図示しない熱処理炉を用いて、各評価用エピウェーハに対して酸素析出核成長処理を行う(ステップS24:酸素析出核成長処理工程)。
ステップS24の酸素析出核成長処理は、閾値設定処理におけるステップS4と同じ条件で行われる。
【0066】
次に、酸素析出核成長処理後の各評価用エピウェーハを構成する評価用ウェーハのBMD密度を測定する(ステップS25:BMD密度測定工程)。
BMD密度の測定は、各評価用ウェーハの中心、中心から半径の半分外側の位置、外縁から10mm内側の位置に対して、閾値設定処理におけるステップS5と同じ方法で行われる。
なお、BMD密度の測定位置は、実験例1~3のエピウェーハと同様の範囲であっても良いし、所定の1箇所、2箇所、または、4箇所以上であっても良い。
【0067】
この後、複数の閾値から、評価対象のシリコン単結晶と同じ育成条件および評価用エピウェーのエピ層と同じ成長条件に関連付けられた閾値を選出する(ステップS26:閾値選出工程)。
なお、ステップS26の閾値選出処理は、コンピュータが行っても良い。
【0068】
そして、各評価用ウェーハのBMD密度と、選出された閾値と、に基づいて、評価を行う(ステップS27:評価工程)。
例えば、評価用ウェーハの3箇所のBMD密度のうち、少なくとも1箇所のBMD密度が閾値以上の場合、直胴部における当該評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が不合格領域であると判定する。
一方、評価用ウェーハの3箇所のBMD密度の全てが閾値未満の場合、当該評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が合格領域であると判定する。
なお、不合格領域および合格領域は、評価用ウェーハの取得位置を中心とする領域であっても良いし、中心としない領域であっても良い。例えば、不合格領域および合格領域は、評価用ウェーハの取得位置を固化率X%の位置とした場合、固化率(X-5)%の位置から固化率(X+5)%の位置であっても良い。また、ステップS27の評価処理は、コンピュータが行っても良い。
【0069】
また、ステップS22における評価用ウェーハの取得位置が複数箇所の場合、ステップS27の評価処理を以下のように行っても良い。
BMD密度が閾値未満であると判定された評価用ウェーハが存在する場合、BMD密度が閾値未満の評価用ウェーハのうち、最も上端側から取得された評価用ウェーハの取得位置を下端とする上端側の全ての領域を、合格領域であると判定し、当該合格領域よりも下端側の全ての領域を不合格領域であると判定しても良い。このように、直胴部の下端側のみから取得した評価用ウェーハのBMD密度に基づいて、上端側の領域を合格領域であると判定する理由は、当該上端側の領域は、例えば
図1(B)に示すように、その形成温度滞在時間が評価用ウェーハの最も上端側の取得位置の形成温度滞在時間よりも短く、そのBMD密度も低いと考えられるからである。
【0070】
〔実施形態の効果〕
シリコン単結晶の評価処理は、ボロンが添加された抵抗率が10mΩ・cm以下、かつ、酸素濃度が12×10
17atoms/cm
3以上16×10
17atoms/cm
3以下のシリコン単結晶から取得された評価用ウェーハを用いて評価用エピウェーハを作成し、当該評価用エピウェーハに対して、酸素析出核形成温度帯域での熱処理を行うことなく、酸化性雰囲気下で上記式(3)および式(4)を満たす酸素析出核成長温度帯域の酸素析出核成長処理を行う。そして、シリコン単結晶の評価処理は、評価用ウェーハのBMD密度が閾値以上の場合、直胴部における評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が不合格領域であると判定し、閾値未満の場合、所定領域が合格領域であると判定する。
このように、評価用エピウェーハに対して2-step析出熱処理ではなく酸素析出核成長処理を行うことにより、
図4(A)に示すように、形成温度滞在時間最長位置を含む所定領域から取得された評価用ウェーハのBMD密度が、他の位置から取得された評価用ウェーハのBMD密度よりも局所的に高くなるように、BMDを発生させることができる。したがって、酸素析出核成長処理が行われた評価用ウェーハのBMD密度と閾値との大小関係に基づいて、評価用ウェーハの取得位置を含む所定領域が、ゲッタリング能力が高くかつ半導体デバイスの品質不良発生を抑制できるエピウェーハを作成可能な合格領域であるか否かを判定することができる。
また、シリコン単結晶の評価処理は、シリコン単結晶の直胴部の抵抗率が1mΩ・cm以上10mΩ・cm以下(ボロン濃度が8.5×10
18atoms/cm
3以上1.18×10
20atoms/cm
3以下)、かつ、直胴部の酸素濃度が12×10
17atoms/cm
3以上16×10
17atoms/cm
3以下のシリコン単結晶を評価対象とする。
このように、ボロン濃度および酸素濃度が高いシリコン単結晶を評価対象にすることにより、合格領域と判定された領域からBMD密度に優れるゲッタリング能力が高いエピウェーハを作成することができる。
【0071】
シリコン単結晶の評価処理は、直胴部全域から取得されたウェーハに対して2-step析出熱処理を行った場合に、BMDの密度が3×10
9個/cm
3以上1×10
11個/cm
3以下になるように形成されたシリコン単結晶を評価対象とする。
図2(A)に示すように、2-step析出熱処理では形成温度滞在時間最長位置から得られたウェーハのBMD密度が局所的に高くならないシリコン単結晶であっても、評価処理により、
図4(A)に示すように、形成温度滞在時間最長位置から得られたウェーハのBMD密度を局所的に高くすることができ、適切にシリコン単結晶の評価を行うことができる。
【0072】
シリコン単結晶の評価処理は、直胴部にOSF領域を含まないシリコン単結晶を評価対象とする。
このため、合格領域から得られたウェーハを用いたエピウェーハに、OSFに起因する欠陥が発生することを抑制できる。
【0073】
シリコン単結晶の評価処理は、シリコン単結晶の育成条件およびエピタキシャル層の成長条件に関連付けられた複数の閾値であって、育成条件および成長条件のうち少なくとも一方が互いに異なる複数の閾値から、評価対象のシリコン単結晶と同じ育成条件および評価用エピウェーハのエピ層と同じ成長条件に関連付けられた閾値を選出し、当該選出された閾値に基づいて行う。
ここで、転位欠陥の発生の一因であるBMD密度は、シリコン単結晶の育成条件に依存すると考えられる。また、BMDはエピ層成長時の加熱により消失するため、BMD密度は、エピ層の成長条件に依存すると考えられる。さらに、転位欠陥の発生のし易さは、エピ層の厚さに依存すると考えられる。また、ステップS14における閾値の設定基準が同じであれば、閾値は、シリコン単結晶の育成条件およびエピ層の成長条件に応じた値になると考えられる。
このため、評価対象のシリコン単結晶と異なる育成条件および評価用エピウェーハのエピ層と異なる成長条件のうち少なくとも一方に関連付けられた閾値を用いて評価を行うと、不合格領域が合格領域と判定されるおそれがある。
本実施形態のように、評価対象のシリコン単結晶と同じ育成条件および評価用エピウェーハのエピ層と同じ成長条件に関連付けられた閾値を用いることにより、より適切にシリコン単結晶の評価を行うことができる。
【0074】
閾値設定処理は、閾値設定用のシリコン単結晶の直胴部から取得された互いに隣接する第1ウェーハおよび第2ウェーハにエピタキシャル層を成長させて、第1エピウェーハおよび第2エピウェーハを作成する。次に、閾値設定処理は、第1エピウェーハおよび第2エピウェーハに対して酸素析出核成長処理を行った後、第1エピウェーハの第1ウェーハのBMD密度を測定する。また、第2エピウェーハに対してフラッシュランプ熱処理を行い、エピタキシャル層に転位欠陥が発生しているか否かを判定する。そして、閾値設定処理は、エピタキシャル層に転位欠陥が発生している場合、第1ウェーハのBMD密度に基づいて、閾値設定用のシリコン単結晶の育成条件および第1,第2エピウェーハのエピ層の成長条件に関連付けられた閾値を設定する。
このように、実験的に求めた閾値をシリコン単結晶の評価処理に用いることにより、より適切にシリコン単結晶の評価を行うことができる。
【0075】
閾値設定処理は、エピタキシャル層に転位欠陥が発生しているか否かを判定するに際し、第2エピウェーハのエピタキシャル層側の表面を観察して、欠陥の発生位置を特定し、第2エピウェーハにおける欠陥の発生位置の断面を観察して、欠陥が第2ウェーハのBMD起因の転位欠陥か否かを判定する。
このように、第2エピウェーハにおける転位欠陥の存在を確認するための断面位置を、表面観察により予め特定することにより、効率的に転位欠陥の有無を判定することができる。
【0076】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の種々の改良並びに設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0077】
例えば、シリコン単結晶の評価処理に用いる閾値として、シリコン単結晶の育成条件およびエピ層の成長条件に関連付けられた複数の閾値であって、育成条件および成長条件のうち少なくとも一方が互いに異なる複数の閾値を予め設定したが、シリコン単結晶の育成条件およびエピ層の成長条件に関係なく1つの閾値を設定しても良い。
【0078】
シリコン単結晶の評価処理に用いる閾値を、シリコン単結晶の育成条件およびエピタキシャル層の成長条件に関連付けられた複数の閾値であって、育成条件および成長条件のうち少なくとも一方が互いに異なる複数の閾値から選出したが、互いに異なるシリコン単結晶の育成条件のみに関連付けられた複数の閾値から、評価対象のシリコン単結晶と同じ育成条件に関連付けられた閾値を選出しても良い。なお、この場合、上述した閾値設定処理のステップS14において、閾値をシリコン単結晶の育成条件のみに関連付ければ良い。
このように、評価対象のシリコン単結晶と同じ育成条件に関連付けられた閾値を用いることにより、育成条件に関係なく設定された閾値を用いる場合と比べて、より適切にシリコン単結晶の評価を行うことができる。
【0079】
閾値設定処理において、第2エピウェーハの表面観察により欠陥が発生していることが確認された場合、当該欠陥をBMD起因の転位欠陥とみなしても良い。
また、例えば、転位欠陥が発生し得る位置を経験的に把握している場合、第2エピウェーハの表面観察を行わずに、転位欠陥が発生し得る位置の断面観察を行っても良い。
【0080】
BMD密度の測定方法として、赤外レーザ光線をウェーハの表面から入射し、その散乱光を検出する赤外散乱トモグラフ(LST:Laser Scattering Tomography)法を用いても良く、この場合、閾値は上記実施形態とは異なる値に設定される可能性がある。