(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112012
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】転移の予防、改善又は治療用の組成物、及び、転移抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/545 20150101AFI20240813BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240813BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240813BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240813BHJP
A61K 35/13 20150101ALI20240813BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240813BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240813BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
A61K35/545
A61P35/00 ZNA
A61P35/04
A61P37/04
A61K35/13
A61K39/00 Z
C12N5/10
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016812
(22)【出願日】2023-02-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書 1 資料1:Current Oncology,2022,29の学術論文 資料2:第69回日本実験動物学会総会での「低分化がん細胞由来細胞外小胞の転移抑制効果におけるマクロファージ応答解析」の抄本及びポスター等 1 資料3:第74回日本細胞生物学会大会での「Nanog過剰発現がマウス結腸がん細胞の転移能に与える影響」の要旨及びポスター等 1 資料4:Cells 2022,11,3881(1-17)の学術論文
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】508259205
【氏名又は名称】株式会社バイオビジネスブリッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】松岡(▲斉▼藤) 美佳子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 せつ子
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C085AA03
4C085BB01
4C085CC03
4C085DD24
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG08
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB57
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】 がんの転移の抑制をするための新たな技術を提供すること。
【解決手段】 本発明は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む、転移の予防、改善又は治療用の組成物、転移抑制用組成物を提供することができる。本発明は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞を含む組成物、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む組成物を含む、転移抑制用の組合せ品を提供することもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む、転移の予防、改善又は治療用の組成物。
【請求項2】
多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む、転移抑制用組成物。
【請求項3】
前記多能性幹細胞が、人工多能性(iPS)細胞である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記がん細胞のがんが、悪性黒色腫、及び結腸がんからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞は、TGF-β1が1.6pg/μg以下の量を含む細胞外小胞である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、自家ワクチンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
前記多能性幹細胞が、自己由来の多能性幹細胞である、及び/又は、前記Nanog過剰発現がん細胞が、自己由来のNanog過剰発現がん細胞である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、がん疾患の動物、がんの予後の動物、又は、がん治療前或いはがん治療中或いはがん治療後の動物に対して使用する組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
多能性幹細胞由来の細胞外小胞を含む組成物と、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む組成物と、を含む、転移抑制用の組合せ品。
【請求項10】
多能性幹細胞由来の細胞外小胞、又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞の少なくともいずれか一方を含む組成物であり、
対象動物に対して、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を組合せて使用して、転移を抑制するために用いる、前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移の予防、改善又は治療用の組成物、転移抑制用組成物、転移抑制用の組合せ品等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの転移は、がん細胞が発生したある臓器(原発巣)から移動して、血液やリンパ液などを介して離れた臓器又は別の臓器に再びがんを形成することを転移という。転移には、例えば、血行性転移、リンパ行性転移、管腔性転移などが挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1では、ラマトロバンおよび/またはその薬学的に許容される塩であるCRTH2阻害剤を有効成分とする、がん転移又は再発抑制剤が提案されている。
また、例えば、特許文献2では、がん又はがん転移を治療するためのワクチンの製造のための、AGE抗原の使用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2017/209272
【特許文献2】特開2022-456号公報
【特許文献3】WO2007/069666
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mikako Saito et al., Molecular and Cellular Biochemistry (2021) 476:2651-2661.
【非特許文献2】斉藤 美佳子ら,“遺伝子改変B16メラノーマ細胞由来細胞外小胞の転移抑制効果”,第73回日本細胞生物学会大会(2021年6月29日~7月2日)
【非特許文献3】斉藤 美佳子ら,“低分化がん細胞由来細胞外小胞の転移能に及ぼす影響”,第44回日本分子生物学会(2021年12月1日~12月3日)
【非特許文献4】K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676.
【非特許文献5】Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S., Nature. 2007 448(7151):313-7 PubMed ID: 17554338.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、がんの転移の抑制をするための新たな技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞にそれぞれ、転移抑制作用があることを見出し、さらに、これらを併用することで相乗効果を発揮することも見出し、本発明を完成させた。本発明は以下のとおりである。
【0008】
本発明は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む、転移の予防、改善又は治療用の組成物を提供するものである。
また、本発明は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む、転移抑制用組成物を提供するものである。
また、本発明は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞を含む組成物、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む組成物を含む、転移抑制用の組合せ品を提供するものである。
また、本発明は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞の少なくともいずれか一方を含む組成物であり、対象動物に対して、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を組合せて使用して、転移を抑制するために用いる、前記組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、がんの転移の抑制をするための新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】ELISAで分析したF10細胞、Nanog
+F10細胞及びTGF-β1(-)F10細胞における各EVsのTGF-β1濃度(平均±SD、n=3)(縦軸:細胞外小胞中のTGF-β1濃度(pg/μg))を示す図である。
【
図1B】PBS、Nanog
+F10-EV(n=6)、TGF-β1(-)F10-EVsの事前投与が、転移の可能性に及ぼす影響を示す図である。TGF-β1(-)F10細胞の注入後の画像、数、及び転移性コロニーの体積への影響。スケールバー5mm。n=7.
***:p<0.001,
**:p<0.01,
*:p<0.05、†:p<0.1、左図縦軸:コロニー数、右図縦軸:コロニー体積量(mm3)。
【
図2】メラノーマ導入(0日)前に、マウスに対する細胞外小胞の事前投与(下矢印)の工程及びメラノーマ導入後の解析までの期間(14日)を示す概要図である。
【
図3】肝臓における転移能評価を示す図である。上段図:臓器写真、scale bar:5mm。下段左図:転移コロニー数。下段右図:転移コロニー体積。PBS(n=7),Nanog
+F10-EV(n=6),iPS-EV(n=7),Nanog
+F10-EV+iPS-EV(併用)(n=7)、†p<0.1、
*p<0.05、
**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。また、各数値範囲(~)の上限値(以下)と下限値(以上)は、所望により、任意に組み合わせることができる。また、後述の「1.」~「4.」等の説明において、各種細胞、各種細胞外小胞、各種成分、各種使用割合、各種調製などの各技術的特徴、各構成、各定義、各用語、各方法などで重複する説明については適宜省略することもある。しかし、「1.」~「4.」等の説明は、「1.」~「4.」の各技術又は各実施形態の何れにも当てはまり、それぞれの各技術又は各実施形態等において適宜採用することができる。
【0012】
1.本技術の概要
本発明者らは、マウスメラノーマ細胞株B16-BL6の転移能の増強にNanog過剰発現の有効性を初めて実証した(非特許文献1)。本発明者らは、さらに研究を進めた結果、マウスメラノーマ野生株(B16F10)に、Nanogを過剰発現させ転移能を増強させた株(Nanog+F10)を作製し、この細胞から細胞外小胞を単離し、単離されたNanog+F10由来の細胞外小胞が、がんの転移を抑制できることを見出した(非特許文献2及び3)。
【0013】
さらに、本発明者らは、結腸がん系のColon26株にNanogを過剰発現させ転移能を増強させた株を作製し、この結腸がん細胞由来の細胞外小胞にも転移抑制作用があることを確認できた。このことから、本発明者らは、種々のがん細胞及びNanog遺伝子を用いて作製された、Nanog過剰発現がん細胞を、転移抑制用の細胞外小胞の生産に利用できること、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を転移抑制に用いることができると考えた。
【0014】
加えて、本発明者らは、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞が転移抑制作用を発揮する原因について、鋭意検討した結果、細胞外小胞中のTGF-β1濃度が大きく関与していることを新たに見出した(
図1参照)。具体的には、本発明者らは、細胞外小胞中のTGF-β1濃度が所定以下の低濃度のNanog過剰発現がん細胞を選択し、このNanog過剰発現がん細胞を用いて生産した細胞外小胞を用いることで、転移抑制作用をより効果的に発揮できると考えた。
【0015】
さらに、本発明者らは、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞、及びこれらの混合物を用いた、転移抑制実験を行った結果、後記〔実施例〕に示すように、(1)Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞、(2)多能性幹細胞由来の細胞外小胞、(3)Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞及び多能性幹細胞由来の細胞外小胞の組合せについて、(1)>(2)>(3)と転移コロニー数が小さくなるとともに、これら(1)~(3)は優れた転移抑制作用を発揮することを確認できた。そして、このなかで、(3)Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞及び多能性幹細胞由来の細胞外小胞の組合せが、最も優れた転移抑制作用を発揮することを確認できた(
図3参照)。このように、多能性幹細胞から、転移抑制可能な細胞外小胞が得られることは新たな知見であり、さらにNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞及び多能性幹細胞由来の細胞外小胞の組合せによって、さらに転移抑制作用がより向上したことは一般的な知見からすると全く予測し得ないことであった。
【0016】
以上のことから、本技術は、Nonog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞(以下、「前記細胞外小胞」ともいう)を用いる、転移抑制、又は、転移の予防、改善もしくは治療の技術を提供することができる。さらに、本技術は、これら細胞外小胞の組合せ又はその使用は、転移抑制作用の観点から、より好ましい。
【0017】
また、後記〔実施例〕において、メラノーマ導入前の事前投与及び導入後の投与なしの条件において、前記細胞外小胞による転移抑制作用が発揮されている。このことから、本技術の前記細胞外小胞は、ワクチン又は予防ワクチンとして使用可能と考える。さらに、本技術は、がんの転移や再発等が懸念される、がん治療後又は予後の対象動物(ヒトを含む)に対しても、副作用を低減しつつ転移又は再発の予防等の技術を提供することもできる。また、本技術は、がんの予防、改善又は治療等に用いることも可能である。
さらに、前記細胞外小胞を生産するNonog過剰発現がん細胞及び多能性幹細胞は、自己の細胞を用いても作製が可能な細胞である。このため、本技術は、オーダーメイド医療によってより良好な転移抑制作用を期待できる。よって、本技術は、オーダーメイド医療品又は自家ワクチンも提供することができる。
【0018】
2.本技術に係る組成物(転移抑制用組成物、転移の予防、改善又は治療用組成物等)
本技術は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む、転移抑制用の組成物、又は、転移の予防用、転移の改善用又は転移の治療用の組成物を提供することができる。
【0019】
また、本技術は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞を含む組成物、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む組成物を含む、転移抑制用の組合せ品を提供することができる。
【0020】
本技術では、多能性幹細胞由来の細胞外小胞及び/又はNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞(以下、「前記細胞外小胞」ともいう)を用いることができ、いずれか一方又はその両方を使用することができる。
このうち、(a)多能性幹細胞由来の細胞外小胞、(b)Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞及び多能性幹細胞由来の細胞外小胞の組合せ、から選択される1種又は2種以上が好ましい。より好ましくは、がん転移抑制作用が相乗的に向上した、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞及び多能性幹細胞由来の細胞外小胞の組合せである。
【0021】
また、本技術では、多能性幹細胞由来の細胞外小胞又はNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞のいずれか一方を含む組成物を、対象動物に対して、多能性幹細胞由来の細胞外小胞及びNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を組合せて使用する、転移を抑制するために用いる前記組成物を提供することがきる。
【0022】
前記「転移抑制用」は、本明細書に記載されている用途、また、がん転移抑制で期待される用途に置き換えてもよい。例えば、転移抑制用を、転移の予防用、転移の改善用又は転移の治療用としてもよい。また、本技術の用途として、例えば、ワクチン(好適には自家ワクチン)、がんの術後又は予後のがんの再発防止用組成物、がん転移の予防用組成物等が挙げられる。
また、本技術は、がん疾患の動物、がんの予後の動物、又は、がん治療前或いはがん治療中或いはがん治療後の動物に対して使用することが好ましい。
【0023】
2-1.多能性幹細胞由来の細胞外小胞
本技術に用いる多能性幹細胞由来の細胞外小胞は、多能性幹細胞から得ることができ、培養後の培養液内に含まれる細胞外小胞を用いることがより好ましく、培養液から分離又は精製手段等にて分離又は精製された細胞外小胞がさらに好ましい。培養方法、回収方法等については、後述する。
【0024】
2-1-1.多能性幹細胞
本技術では、多能性幹細胞を用いることが好ましい。多能性幹細胞は、体を構成するほとんどすべてに分化できる幹細胞として、再生医療、オーダーメイド医療などに期待されている。
【0025】
本技術に用いる多能性幹細胞は、特に限定されないが、その組織の細胞にも分化していない状態(未分化状態)をいう。当該多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能な状態である多能性を有し、かつ増殖能を併せ持つ幹細胞であることが、好適である。当該多能性幹細胞として、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植によるクローン胚由来の胚性幹細胞(ntES細胞)、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞等を由来とする体細胞性幹細胞(Muse細胞や間葉系幹細胞等)等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。これら細胞は、公知の製造方法にて製造したり、市場や公的機関等から取得したりすることができる。当該細胞は、哺乳動物の細胞が好ましく、対象動物に対応した細胞が好ましく、例えば対象動物がヒトである場合、ヒト細胞由来であることがより好ましい。また、本技術では、多能性幹細胞として、保存等の自己細胞、又は、自己体細胞から採取し調製された細胞を用いることが、好ましい。
【0026】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウス等の哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された幹細胞である。精子幹細胞は、精子由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される細胞である。
【0027】
本技術において、前記多能性幹細胞のうち、人工多能性幹細胞(iPS細胞)が好ましい。当該iPS細胞は、対象動物に対応した細胞を由来とすることが好ましく、哺乳動物(好適にはヒト)の細胞を由来とすることがより好ましい。通常、iPS細胞の作製に用いる細胞は、特に限定されず、体細胞由来のiPS細胞が好ましい。iPS細胞は最も多能性が高い細胞であるので、iPS細胞由来の細胞外小胞は、幅広いがん又はがん細胞に対して良好な転移抑制等の効果を発揮すると考える。
【0028】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、ある特定の再プログラミング因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(非特許文献4:K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676;非特許文献5:Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S., Nature. 2007 448(7151):313-7 PubMed ID: 17554338;特許文献3:WO 2007/069666)。再プログラム化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子又はES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物であれば良く、特に限定されないが、例えばOCT3/4、SOX2及びKLF4; OCT3/4、KLF4及びC-MYC; OCT3/4、SOX2、KLF4及びC-MYC; OCT3/4及びSOX2; OCT3/4、SOX2及びNANOG; OCT3/4、SOX2及びLIN28; OCT3/4及びKLF4などの組み合わせである。
【0029】
本技術では、iPS細胞の作製に用いる体細胞としては、分化細胞が好適である。
前記体細胞として、より具体的な例として、例えば、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞);組織前駆細胞;リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞、角化細胞、毛細胞、幹細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞、脳細胞、胚細胞、腎細胞、及び脂肪細胞等の分化した細胞;等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。例えば、がん疾患又は予後の動物を対象動物とする場合には、その動物に対応する種類の動物及び/又はそのがん組織の部位に対応する組織部位であって正常な細胞(言い換えると、がん細胞でない体細胞)を選択することが挙げられる。例えば、肝がんのヒトを対象とする場合には、ヒトの肝臓の正常細胞を用いること、悪性黒色腫のイヌを対象とする場合には、イヌのメラノサイトの正常細胞が挙げられる。ただし、iPS細胞は多能性が高い細胞であるので体細胞の種類に特に限定されないため、これらの例はあくまで1例であり、がん細胞に対応する体細胞からiPS細胞を作製しなければならないということではない。また、ヒトの場合には、免疫拒絶の観点から、HLAホモドナー由来のiPS細胞が好ましいと考える。
【0030】
本技術に用いる体細胞は、卵子、卵母細胞、ES細胞等の生殖系細胞又は分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好適には、ヒトを含む哺乳動物の動物細胞)をいう。体細胞は、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、及び成熟した健全な若しくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代培養、及び株化細胞のいずれも包含される。
【0031】
2-2.Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞
本技術に用いるNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞は、がん細胞又は動物培養細胞にNanog遺伝子を導入することにより得ることができ、Nanog過剰発現がん細胞の培養後の培養液内に含まれる細胞外小胞を用いることがより好ましく、分離又は精製手段等にて分離又は精製された細胞外小胞がさらに好ましい。培養方法、回収方法等については、後述する。
【0032】
2-2-1.Nanog過剰発現がん細胞
本技術では、Nanog過剰発現がん細胞を用いることが好ましい。低濃度TGF-β1の細胞外小胞が生産可能なNanog過剰発現がん細胞が、より好ましく、当該低濃度TGF-β1は、TGF-β1濃度が1.6pg/細胞外小胞1μg以下が好ましい。低濃度TGF-β1の細胞外小胞を得るためのNanog過剰発現がん細胞は、後述するTGF-β1量測定方法を用いたスクリーニング方法にて得ることができる。
【0033】
前記Nanog過剰発現がん細胞を得るために使用する「がん細胞」としては、特に限定されず、例えば、乳がん、悪性黒色腫、結腸がん、結腸直腸がん、肝細胞がん、子宮頸がん、胚性がん、体細胞がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、扁平上皮がんなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、悪性黒色腫、及び結腸がん等から選択される1種又は2種以上が好ましい。
【0034】
また、前記Nanog過剰発現がん細胞は、がんが発生した器官(原発巣)のがん細胞と同じがん細胞を用いて調製することが好ましく、対象動物から採取したがん細胞を用いて調製することがより好ましい。例えば、がん疾患の動物を対象動物とする場合には、その動物に対応する種類の動物及び/又はそのがん組織の部位のがん細胞を選択することが望ましい。例えば、肝がんのヒトを対象とする場合には、ヒトの肝臓がん細胞を用いること、悪性黒色腫のイヌを対象とする場合には、イヌのメラノーマが好ましい。
【0035】
なお、がんが発生する器官としては、特に限定されないが、例えば、消化器系(消化管など)、循環器系、呼吸器系(発声器官など)、泌尿器系、生殖器系、内分泌器系、感覚器系、神経系、運動器系(骨、関節、靭帯、筋肉など)が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上のがん細胞を用いることができる。
【0036】
Nanog遺伝子の導入方法としては、特に限定されないが、例えば、ウイルスベクター、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。ウイルスベクターとしては、例えば、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、センダイウイルス、レトロウイルス等が挙げられるが、これに限定されない。このうち、ウイルスベクター及びリポフェクションのいずれかを少なくとも用いることが好ましく、併用でもよい。
【0037】
前記Nanog過剰発現がん細胞を作製する際に、Nanogの過剰発現ベクターを用いることが好ましく、当該Nanog過剰発現ベクターは、Nanog遺伝子を特定領域(例えばpCAG-IRES-PuroR-EGFP)に挿入することによって構築できる。好適な一例として、ベクター製品及びリポフェクション試薬の混合物を、宿主細胞を含む培地に添加し、37℃で1~3日程度培養すること、更に適宜培地交換しながら、37℃で10~18日の2週間程度培養すること、培養後Nanog過剰発現がん細胞のNanog遺伝子発現状態を検出又は測定する方法にて選択すること、により、Nanog過剰発現がん細胞を得ることができる。
【0038】
また、低濃度TGF-β1の細胞外小胞を生産させるためのTGF-β1(-)がん細胞を作製する場合には、公知のノックダウン方法などを用いて行うことができる。例えば、TGF-β1のノックダウンベクターを作製し、このノックダウンベクターを用いてNanog過剰発現がん細胞の調製方法を参考にして、TGF-β1ノックダウンがん細胞株を得ることができる。さらに、このなかから、後述するTGF-β1測定によるスクリーニング方法等により、低濃度TGF-β1の細胞外小胞を生産させるためのTGF-β1(-)がん細胞を選択又はスクリーニングすることが好ましい。
【0039】
遺伝子発現状態(発現量など)を分析する方法としては、特に限定されないが、例えば、ノーザンプロッティング法、マイクロアレイ法、RNAシーケンス法、遺伝子定量法、免疫染色法、ウェスタンブロット法などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種上用いることができる。遺伝子定量法又は遺伝子増幅の方法などは、特に限定されず、例えば、PCR法、RT-PCR法、LAMP法など一般的に用いられている方法を用いることができる。
【0040】
2-3.多能性幹細胞由来の細胞外小胞及び/又はNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を生産するための細胞の選択方法又はスクリーニング方法等
【0041】
前記細胞外小胞を生産するための細胞を、細胞外小胞中のTGF-β1濃度を指標にして、選択、選別、判定又はスクリーニングしてもよい。細胞外小胞中のTGF-β1濃度を指標として、前記細胞外小胞を生産するための細胞として適しているかどうかを判定し、適している細胞を選択してもよい。このとき、細胞外小胞中のTGF-β1濃度が低濃度になる細胞を、選択等をすることが好ましい。これにより、転移抑制用の細胞外小胞を生産する細胞を、より効率よく、より簡便に、より精度良く、選択等をすることができる。これにより、転移抑制可能な細胞外小胞を生産できる細胞又は細胞株を、生産効率又は品質の観点から、安定して提供することもできる。
【0042】
選択等の対象とする細胞は、特に限定されず、例えば、多能性幹細胞又はNanog過剰発現がん細胞の調製後、保存細胞やストック細胞の使用時、又は継代培養後などの細胞が挙げられる。
【0043】
前記低濃度は、細胞の種類ごとに閾値濃度(転移抑制又は転移促進の濃度)を設け適宜設定することが望ましい。例えば、転移抑制濃度を前記TGF-β1濃度が1.6pg/μg以下と設定し、この濃度設定に基づき、細胞外小胞中のTGF-β1濃度が1.6pg/μg以下である細胞を選択することが、好ましい。例えば、Nanog過剰発現メラノーマ細胞を使用する場合には、前記TGF-β1濃度1.6pg/μg以下を基準にすることが、より好適である。
【0044】
本技術は、細胞外小胞中のTGF-β1濃度を指標にして又はTGF-β1測定方法を用いて、前記細胞外小胞を生産するための細胞を選択する方法又はスクリーニングをする方法等を提供することもできる。当該方法は、転移抑制用の細胞外小胞の生産に適した細胞のスクリーニング方法、選択方法、判定方法、又は検出方法などであってもよい。
【0045】
前記細胞外小胞中のTGF-β1の測定方法は、特に限定されず、公知の測定方法又は市販キットを適宜用いることができる。例えば、TGF-β1 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems)を用い、このマニュアルに従って、pg/μg(1μgの細胞外小胞におけるTGF-β1の量(pg))を測定することができる。具体的な一例として、7つの異なるスタンダードサンプル(既知の濃度)に対して450nmでの吸光度を測定して検量線を作成した後、10μgとなる測定サンプルの450nmでの吸光度から測定することができる。
【0046】
2-4.本技術に係る多能性幹細胞由来の細胞外小胞及び/又はNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞の用途
【0047】
本技術に用いる前記細胞外小胞は、転移の予防、改善又は治療用の組成物、転移抑制用の組成物、及び転移抑制用組成物等の組合せ品もしくは組合せ品を構成するための各組成物などに含ませること又は当該組成物等に使用することができ、有効成分として組成物等に含有させてもよい。なお、本技術において、当該組成物は、剤であってもよいし、剤は、組成物であってもよい。
また、前記細胞外小胞は、本技術の転移抑制用組成物等の組成物を製造するために使用することができ、医薬の製造における前記細胞外小胞の使用を提供することも可能である。
また、本技術は、転移抑制などのための、前記細胞外小胞等又はその使用を提供することもできる。また、本技術は、転移抑制などのために用いる、前記細胞外小胞等を提供することも可能である。
また、本技術は、前記細胞外小胞等を用いる転移抑制方法や転移の予防・改善・治療方法、又は前記細胞外小胞を含む組成物を用いる転移抑制方法や転移の予防・改善・治療方法などを提供することも可能である。
【0048】
本技術の対象となる症状もしくは疾患は、がん、がんの転移、その予後が好ましく、転移又は予後を対象とすることがより好ましい。がんとして、特に限定されないが、例えば、乳がん、悪性黒色腫、結腸がん、結腸直腸がん、肝細胞がん、子宮頸がん、胚性がん、体細胞がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、扁平上皮がんなどが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、悪性黒色腫、及び結腸がん等から選択される1種又は2種以上が好ましい。
【0049】
本技術において、「予防」とは、適用対象における症状若しくは疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象における症状若しくは疾患の発症の危険性を低下させること等をいう。本技術において、「改善」とは、適用対象における疾患、症状又は状態の好転又は維持;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0050】
本技術は、前記細胞外小胞等を、例えば、医薬品(ヒト用、動物用を含む)、皮膚外用剤(ヒト用、動物用を含む)、医薬部外品、飼料、化粧料、飲食品及びこれらへの添加剤等に、使用することができるが、これらに特に限定されず、これらから1種又は2種以上を選択してもよい。このうち、医薬品、皮膚外用剤等が、好適である。また、前記細胞外小胞は、組成物に対する配合剤又は添加剤として使用してもよく、例えば、医薬品等の組成物に配合又は添加するために用いる前記細胞外小胞であってもよい。
【0051】
また、本技術は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞及びNanog過剰発現がん細胞由来細胞外小胞を、対象動物に対して、組合せて使用する場合には、それぞれを別々の時期に又は同時期に使用してもよく、別々の組成物にして、組合せ又は組合せ製品として使用してもよい。また、本技術は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞を含む第1組成物、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来細胞外小胞を含む第2組成物、を含む又はこれら細胞外小胞を本質的部分として構成する、組合せ又は組合せ品を提供することもできる。前記組合せは、点滴等のパックや注射シリンジ、貼付材等の容器又は包装容器、基材等を含んだ状態であってもよく、使用説明書や取扱説明書などが含まれてもよい。また、組合せは、セットであってもよいし、キットであってもよい。
【0052】
また、多能性幹細胞由来の細胞外小胞(A)及びNanog過剰発現がん細胞由来細胞外小胞(B)の質量使用割合又は組成物中の質量含有割合は、特に限定されないが、前記(A):前記(B)は、好ましくは1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1、さらに好ましくは1:3~3:1、より好ましくは1:2~2:1、より好ましくは1:1である。
【0053】
本技術が、例えば、医薬品、及び医薬部外品の場合には、前記細胞外小胞又は前記組成物等を、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤等の経口剤;外皮用剤、塗布剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤、口腔剤、坐剤等の外用剤;点滴剤、注射剤等の非経口剤等に配合することできるが、これらに限定されないが、これらから1種又は2種以上を選択することができる。本技術は、外用剤;点滴剤、注射剤;侵襲的治療に用いる医薬品;直接体内(例えば、血液、リンパ液、組織等)に薬剤を注入する投与剤などが好ましく、これらから選択される1種又は2種以上が好ましい。
【0054】
本技術の適用対象は、特に限定されないが、ヒト、及び非ヒト動物(例えば、飼育動物、愛玩動物(いわゆるペット)、競技用動物、家畜等)等の動物に適用することができる。このうち、哺乳動物が好適であり、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、マウスなどから選択される1種又は2種以上に用いることが好適であり、ヒト及びペットが好ましく、より好ましくはヒトである。
【0055】
本技術は、がん疾患の動物、がんの予後の動物、又は、がん治療前或いはがん治療中或いはがん治療後の動物に対して使用することが、好ましい。
【0056】
前記細胞外小胞及び前記組成物等の使用方法(例えば投与方法)としては、注射針やカテーテル、手術等による直接体内投与等の侵襲的な投与;経皮投与、経口投与、皮膚への塗布や貼付等の非侵襲的な投与などが挙げられるが、これらに限定されない。前記細胞外小胞の使用量又は投与量としては、本技術の効果が得られる量であればよく、特に制限はなく、当該製剤の剤型、適用部位、年齢、性別等に応じて適宜調整するとよい。
【0057】
前記細胞外小胞の使用量は、例えば、使用する有効成分の種類、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。対象動物に対する投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。投与は継続して投与することが好ましいが、投与間隔は、連日でもよいし、例えば、2日又は3日間隔にて投与してもよい。また、1日当たり1回~3回の投与であってもよい。
【0058】
前記細胞外小胞の投与量は、対象動物の体重1kg当たり、5mL~25mLが好ましく、より好ましくは5mL~12.5mLである。細胞外小胞の濃度は、例えば、10~30mg/10mLなどが挙げられるが、これに限定されない。
組成物全質量中の前記細胞外小胞含有量は、特に制限はなく、前記細胞外小胞を、例えば0.0001~99%が挙げられ、好ましくは0.001~99質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.01~90質量%程度含有させることができる。「組成物全質量中」の「組成物」は、上述した転移抑制用組成物、組合せ品に用いる組成物等であってもよく、製剤であってもよい。
【0059】
本技術の医薬品等は、それぞれの分野(医薬品分野、皮膚外用剤分野など)において許容される一般的な製造方法を利用して製造することができる。また、本技術は、前記細胞外小胞の他に、必要に応じて各種添加剤等の任意成分を併用することができる。
【0060】
本技術において、前記任意成分として、上述した医薬品、皮膚外用剤等において許容される成分を適宜配合又は使用することができ、例えば、免疫賦活剤、賦形剤、着色剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、保湿剤、pH調整剤等から選択される1種又は2種以上を適宜使用してもよく、これにより所望の剤型を得ることができる。
【0061】
3.本技術に係る前記細胞外小胞の製造方法
本技術は、細胞(好適には、多能性幹細胞又はNanog過剰発現がん細胞)を用いて転移抑制作用を有する細胞外小胞を生産させる、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞の製造方法を提供することができる。
本技術は、細胞を培養する細胞培養工程を含む、前記細胞外小胞の製造方法を提供することができる。
本技術の好適な態様として、細胞培養の前処理工程と、細胞培養工程と、培養後の細胞外小胞の回収工程と、を含む、前記細胞外小胞の製造方法を提供することができる。
【0062】
3-1.使用する細胞
前記細胞が、動物細胞、又は、培養可能に改変された動物の培養細胞であることが好ましい。前記細胞が、多能性幹細胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞であることが好ましい。動物細胞は、自己由来の細胞が好ましく、自己由来の細胞は、対象動物の所望の箇所から採取された細胞を培養又は継代培養したものが好ましく、採取された細胞を、動物培養細胞に調製又は改変した自己由来の動物培養細胞であってもよい。また、継代培養を行った細胞を用いることが好ましく、より好ましくは継代2~3回目の細胞、さらに好ましくは継代2回目の細胞である。
前記細胞は、所定の低濃度以下のTGF-β1を含む細胞外小胞を生産する細胞が好ましく、当該濃度はTGF-β1濃度が1.6pg/細胞外小胞1μgであることが、より好ましい。前記細胞として、転移抑制作用を有する細胞外小胞を生産可能な、多能性幹細胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞が好ましい。
【0063】
3-2.細胞培養工程(前記細胞外小胞の生産工程)
細胞培養工程は、前記細胞外小胞を生産する生産工程であってもよく、又は、本技術に用いる細胞由来の細胞外小胞を生産するための細胞培養工程であることが好ましい。さらに、細胞を培養する前の前処理工程(好適には、培地の調製工程)、及び/又は、培養後の細胞外小胞の回収工程、をさらに含むことが好ましい。前処理工程は、使用前の培地から細胞外小胞等の不純物を低減又は除去することが好ましく、これにより、細胞外小胞枯渇培地(EVs枯渇培地)を得ることができる。不純物が低減された前処理培地(好適にはEVs枯渇培地)に、細胞を添加して培養を開始することが好ましく、これにより、転移抑制作用を発揮する細胞外小胞が、精度よく効率よく得ることができる。細胞培養工程の条件は、特に限定されず、多能性幹細胞又は動物細胞の一般的な培養方法を参考にして行うことができる。また、本技術において継代培養を行う場合には、一般的な継代培養の方法を参考にして行うことができる。また、多能性幹細胞を培養する場合には、フィーダーレス又はフィーダーフリーの条件が好ましい。
【0064】
培養培地としては、多能性幹細胞又は動物細胞の一般的な培養方法で用いている公知の培養培地又は市販の培養培地を用いることができる。培養培地としては、特に限定されないが、例えば、TeSR、必須(Essential)8培地、BME、BGJb、CMRL1066、グラスゴーMEM、改良MEM亜鉛オプション(Zinc Option)、IMDM、Medium199、イーグルMEM、αMEM、DMEM、Ham、RPMI1640、フィッシャー培地等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。培養培地には、さらに抗生物質(例えば、Penicillin-Streptomycin)を配合したものが好ましい。このうち、RPMI1640培地が好ましく、EVs枯渇FESを含むRPMI1640培地がより好ましく、当該培地に抗生物質を更に含むものがさらに好ましい。
【0065】
3-3.培養に使用する前の培地の前処理工程
さらに、培養に使用する培養培地は、前処理工程にて、細胞外小胞枯渇培地(以下、「EVs枯渇培地」ともいう)にすることが、本技術で製造された細胞外小胞の転移抑制作用をより良好により安定して発揮できる観点から、好ましい。
【0066】
本発明者らは、本技術に用いる前記細胞外小胞による転移抑制作用をより良好により安定して発揮させるために、鋭意検討し、その結果、培養に使用する培養培地にすでに細胞外小胞(EVs)が含まれ悪影響を及ぼしており、この原因は培養培地に一般的に増殖用添加剤として添加するFBS(ウシ胎児血清)中に含まれるEVsであると考えた。そして、本発明者らは、FBSに含まれるEVsを除去又は低減し、このEVs枯渇FBSを使用したEVs枯渇培地を調製した。このEVS枯渇培地を使用した培養工程を行うことで、より良好に転移抑制作用を発揮できる本技術の前記細胞外小胞を得ることができた。EVs枯渇培地を用いて培養された又は生産された前記細胞外小胞を転移抑制のために使用することが好ましい。
【0067】
EVs枯渇培地又はEVs枯渇添加成分を調製する手段として、遠心分離、フィルター処理等が挙げられる。EVsが含まれる可能性のある培養培地の添加成分については、培養培地に使用する前に、前処理として、添加成分中のEVsを除去又は分離するような手段を行うことが好ましい。例えば、添加成分(好適にはFBS)を、10℃以下や4℃以下など低い温度下で、遠心分離(50,000~150,000(好適には90,000から0,000)×g、70~90分間)を単数又は複数回(2~3回程度)を行い、上清を回収してEVs枯渇添加成分にすることが好ましい。これにより、EVs枯渇添加成分又は当該添加成分を含むEVs枯渇培地を得ることができる。これにより、不要なEVsを低減又は除去することができ、本技術の前記細胞外小胞による転移抑制作用をより良好に発揮させることができる。なお、培養培地に使用する添加成分として、例えば、増殖用添加剤等が挙げられ、添加成分として、一般的にウシ胎児血清(FBS)が使用されている。
【0068】
3-4.前記細胞外小胞の回収工程
本技術に用いる前記細胞外小胞の回収工程では、培養後の培養液(好適には培養上清)から本技術に用いる前記細胞外小胞を回収することが好ましい。より好適には、EVs枯渇培地での培養後に得られた培養液から前記細胞外小胞を回収することがより好ましい。前記細胞外小胞を培養液から分離又は精製する方法としては、特に限定されないが、例えば、膜ろ過(限外ろ過膜、逆浸透膜等)、遠心分離、カラムクロマトグラフィー等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。このうち、遠心分離及び/又は膜ろ過を用いることが好ましく、より好適な態様として、上清回収のための遠心分離(好適には低速)及び沈殿物回収のための遠心分離(好適には高速)を用い、必要に応じて不純物を除去するために膜ろ過を行うことが好ましい。遠心分離のときの温度は、低温が好ましく、例えば10℃以下、4℃以下又は3~5℃が好ましい。
【0069】
前記細胞外小胞の回収工程の好適な態様としては、低速遠心分離にて上清を得る工程、回収された上清から高速遠心分離にて沈殿物を得る工程を含むことであり、当該沈殿物を本技術に用いるEVs溶液に調製することができる。
【0070】
より好適な具体的な態様としては、(a)培養上清を低速遠心分離にて上清を得ること、(b)前記(a)で得られた上清から第1高速遠心分離にて上清を得ること、(c)前記(b)で得られた上清から第2高速遠心分離にて上清を除去した沈殿物を得ること、(d)前記(c)の沈殿物をEVs枯渇FBSにて懸濁させた懸濁液をフィルター(例えば、ポアサイズ0.22μm程度のHPLC試料用処理フィルター)にて濾過し、濾液を得ること、(e)前記(d)の濾液から、第3高速遠心分離にて上清を除去した沈殿物を得ること、(f)前記(e)の沈殿物をEVs枯渇FBSにて懸濁させて、EVs溶液を得る。
【0071】
低速遠心分離の場合には、1,000~3,000(好適には2,000)×gが好ましく、10~30分間(好適には20分間)が好ましい。高速遠心分離の場合には、好ましくは50,000~150,000×g、より好ましくは80,000~120,000×g、さらに好ましくは100,000×gである。高速遠心分離の時間としては、好ましくは30分~120分間であり、上清を回収する場合には、好ましくは30~50分間(好適には40分間)であり、沈殿物を回収する場合には、その下限値として、好ましくは70分間以上、より好ましくは80分間以上であり、またその上限値は特に限定されないが、例えば2時間又は3時間等が挙げられる。
【0072】
本技術の好適な態様として、EVs枯渇培地を用いて細胞を培養して生産された又はEVs枯渇培地及び細胞を用いて生産された、細胞外小胞を得る工程(当該細胞外小胞は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞である)、
得られた前記細胞外小胞から、前記細胞外小胞中のTGF-β1濃度が低濃度(好適には1.6pg/μg以下)の細胞外小胞を選択する工程、を含む、
転移抑制用の細胞外小胞の調製方法又は製造方法を提供することもできる。
【0073】
本技術の好適な態様として、EVs枯渇培地を用いて細胞を培養して生産された又はEVs枯渇培地及び細胞を用いて生産された、細胞外小胞を得る工程(当該細胞外小胞は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞である)、
得られた前記細胞外小胞から、前記細胞外小胞中のTGF-β1濃度が低濃度(好適には1.6pg/μg以下)の細胞外小胞を選択する工程、
選択された、TGF-β1低濃度の細胞外小胞(当該細胞外小胞は、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞)を、対象動物に使用又は投与する工程、を含む、
対象動物の転移抑制方法を提供することもできる。
【0074】
3-5.自家ワクチンの調製方法
本技術に用いる細胞外小胞は、自家ワクチン療法に使用できる又は自家ワクチン療法に準じて得られた細胞外小胞が好ましい。本技術は、転移抑制又は転移予防等を目的として、自己の細胞又は組織から作製するオーダーメイドのワクチンであることが、免疫反応等の副作用軽減又は転移抑制作用効果向上等の観点から、好ましい。これにより、がんの術後又は予後のがんの再発防止、がん転移の予防等の効果が期待できる。
【0075】
自家ワクチンの調製方法の一例として、手術や生体検査等で採取された自己細胞組織(例えば、がん細胞や体細胞等)を用いて動物培養細胞を調製すること、この自己由来の動物培養細胞から細胞外小胞を調製すること、及び、当該細胞外小胞を転移抑制や転移予防等の組成物又は自家ワクチンとして対象動物に使用すること又は投与することが好ましい。
【0076】
4.また、本技術は、以下の別の側面、又は、以下の構成もしくは技術的特徴を適宜採用することも可能である。
・〔1〕 多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む、転移の予防、改善又は治療用の組成物、又は転移抑制用組成物、又はがん若しくはがん再発の予防、改善又は治療用の組成物。
・〔2〕 多能性幹細胞由来の細胞外小胞を含む組成物、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む組成物を含む、転移抑制用の組合せ又は組合せ製品。当該組合せは、セット又はキットであってもよい。
・〔3〕 前記〔1〕記載の組成物を製造するため又は製造するために用いる、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞又はその使用。
・〔4〕 転移の予防、改善又は治療用の、又は転移抑制用の、又はがん若しくはがん再発の予防、改善又は治療用の、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞。
・〔5〕 多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を、又は、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1つの組成物若しくは細胞外小胞を使用する、転移の予防、改善又は治療の方法、又は転移抑制の方法、又はがん若しくはがん再発の予防、改善又は治療の方法。
【0077】
・〔6〕 多能性幹細胞由来の細胞外小胞を含む組成物と、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を含む組成物と、を含む、転移抑制用の組合せ品、又はその使用。
・〔7〕 多能性幹細胞由来の細胞外小胞、又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞の少なくともいずれか一方を含む組成物であり、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を併用して、転移を抑制するために用いる、前記組成物、又は、前記組成物の使用。
【0078】
・〔8〕 細胞由来の細胞外小胞の生産工程を含む、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞の製造方法。さらに、動物細胞を培養する前の前処理工程(好適には、培地の調製工程)、及び/又は、培養後の細胞外小胞の回収工程、をさらに含むことが好ましい。
・〔9〕 前記〔8〕の製造方法にて得られた、多能性幹細胞由来の細胞外小胞、及び/又は、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞。
【0079】
・〔10〕 培養細胞、多能性幹細胞、及びNanog過剰発現がん細胞から選択される1種又は2種以上の細胞から、TGF-β1測定により、転移抑制用細胞外小胞を生産する細胞を選択又はスクリーニングする方法。
・〔11〕 さらに、細胞外小胞中のTGF-β1濃度が1.6pg/μg以下の細胞外小胞を生産する細胞を選択又はスクリーニングする、前記〔10〕に記載の方法。
・〔12〕 前記〔10〕又は〔11〕に記載の方法にて得られた細胞を用いる、転移抑制用細胞外小胞の製造方法、又は、当該製造方法にて得られた細胞外小胞を使用する、がんの転移又はがん再発の予防、改善或いは治療方法、又は、がんの転移又はがん再発の抑制方法。
【0080】
・〔13〕 前記多能性幹細胞が、人工多能性(iPS)細胞である、前記〔1〕~〔12〕のいずれか1つに記載の組成物、細胞外小胞、使用、方法。
・〔14〕前記がん細胞のがんが、悪性黒色腫、及び結腸がんからなる群から選択される1種又は2種以上である、前記〔1〕~〔13〕のいずれか1つに記載の組成物、細胞外小胞、使用、方法。
・〔15〕 前記Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞は、TGF-β1が1.6pg/μg以下の量を含む細胞外小胞である、前記〔1〕~〔14〕のいずれか1つに記載の組成物、細胞外小胞、使用、方法。
・〔16〕 前記組成物が、自家ワクチンである、前記〔1〕~〔15〕のいずれか1つに記載の組成物、細胞外小胞、使用、方法。当該自家ワクチンは、自己のがん細胞又は自己の体細胞に基づき製造されたワクチンが好適である。
・〔17〕 前記多能性幹細胞が、自己由来の多能性幹細胞である、及び/又は、前記Nanog過剰発現がん細胞が、自己由来のNanog過剰発現がん細胞である、前記〔1〕~〔16〕のいずれか1つに記載の組成物、細胞外小胞、使用、方法。
・〔18〕 がん疾患の動物、がんの予後の動物、又は、がん治療前或いはがん治療中或いはがん治療後の動物に対して使用する、前記〔1〕~〔16〕のいずれか1つに記載の組成物、細胞外小胞、使用、方法。
【実施例0081】
以下、実施例等に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例等は、本技術の代表的な実施例等の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0082】
<材料及び方法>
<細胞培養>
マウスメラノーマ細胞株B16-F10(F10)細胞とマウスマクロファージ細胞株J774.1細胞をR10培地(10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640[Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA])およびペニシリン-ストレプトマイシン[Thermo Fisher Scientific])を37℃、5%CO2で、培養しました。
【0083】
<動物>
この研究は、ARRIVEガイドライン[24. Percie du Sert, N. et al., The ARRIVE guidelines 2.0: Updated guidelines for reporting animal research. PLoS Biol. 2020, 18, e3000411.]に従って実施した。C57BL/6雄マウスは、明期12時間、暗期12時間の明暗周期下で、特定の病原体のない部屋で飼育した。すべてのマウスに固形飼料(MF、オリエンタル酵母株式会社、東京、日本)を与え、実験では8~9週齢のマウスを使用しました。動物実験は、東京農工大学の「動物実験等に関する規程」のガイドラインに従って実施され、東京農工大学動物実験委員会(IACUC No. 30-128 および No. R02-130)によって承認された。
【0084】
<Nanog過剰発現細胞株およびTGF-β1ノックダウン細胞株の調製>
Nanogの過剰発現ベクターは、Nanog遺伝子をpCAG-IRES-PuroR-EGFPに挿入することによって構築された。ベクター産物(4μg/250μL RPMI)とLipofectamine 2000溶液(5μL/250μL RPMI)を混合し、25℃で20分間インキュベートした。混合物を90%コンフルエントなF10細胞に添加し、3時間インキュベートした。次に、細胞をフレッシュなR10培地に交換し37℃で48時間培養した。1.5μg/mLのピューロマイシンを含むR10に培地を交換した後、細胞を2週間培養し、Nanog過剰発現細胞(Nanog+F10)を選択した。shTGF-β1をpU6-PGK-PuroRに挿入することにより、TGF-β1のノックダウンベクターを作製した。このベクターを用いて、Nanog過剰発現細胞株と同様のプロトコールでTGF-β1ノックダウン細胞株を作製した。Nanogの過剰発現は、以下に説明する定量的RT-PCRおよびウェスタン分析によって確認された。TGF-β1のノックダウンは、以下に説明するように、定量的RT-PCR、ウェスタン分析、およびELISAによって確認された。
【0085】
<定量的RT-PCR>
製造元の指示に従って、ISOGEN II(ニッポンジーン、東京、日本)によって全RNAを調製した。Nanog、EGFP、puroR、TGF-β1、F4/80、CD68、CD80、CD86、CD163、およびCD206 mRNAの発現レベルは、StepOnePlusTM Real-Time PCR System (Applied Biosystems、Waltham、MA、USA)を使用した定量的RT-PCRによって決定された。解析条件は、95℃、10分、反応セット45サイクル(95℃変性15秒、60℃アニーリング1.0分)、メルトカーブ解析用反応セット(95℃で15秒、および60℃で1分間)。それぞれのターゲットRNAのプライマーセットをテーブルS1に示す。標的mRNAの量は、Gapdh mRNAの量に対して正規化された。
【0086】
<ウェスタン分析>
細胞のタンパク質サンプルは、次の手順に従って調製した。70~80%コンフルエントな細胞をPBSで洗浄した後、RIPAバッファー(25mM Tris-HCl、150mM NaCl、1%NP-40、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、pH7.6;Thermo Fisher Scientific)を培養皿に添加した。培養皿を氷上に15分間置いた。その後、セルスクレーパーで培養皿から細胞を剥がし、1.5mLマイクロチューブに集めた。細胞懸濁液を氷上で超音波処理し(UR-20P; TOMY SEIKO、東京、日本)、20,000 x gで15分間遠心分離した。上清を細胞のタンパク質サンプルとして回収した。EVのタンパク質溶液は、次のように調製された。超遠心分離の沈殿物として得られたEVのペレットをRIPAバッファーに懸濁し、氷上で15分間静置した。Pierce(登録商標)BCA(商標)Protein Assayキット(Thermo Fisher Scientific)を使用してタンパク質濃度を測定した。タンパク質溶液を、93μg/mL DTT、0.12g/mL SDS、0.6mL/mLグリセロール、および0.6mL/mLブロモフェノールブルーを含む1/6容量の0.375M Tris-HCl (pH 6.8)緩衝液と混合しました。その後、溶液を95℃で5分間加熱し、150VでSDS-PAGEにかけた。
【0087】
PVDFメンブレンへのブロッティングは、100V、4℃で3時間行った。次にPVDFメンブレンを5(w/v)%スキムミルクを含むTBS-T(1(v/v)%Tween20を含むTris緩衝生理食塩水(25mMTris、pH7.4、150mMNaCl))溶液に25℃で30分間浸漬した。次に、PVDFメンブレンを、一次抗体を含む5%スキムミルクTBS-T溶液で25℃で3時間インキュベートした。マウスGapdh(1:1000、sc-32233;SantaCruz Biotechnology、米国テキサス州ダラス)、マウスNanog(1:500、ab80892、Abcam、ケンブリッジ、英国)、およびマウスHSC70(1:500、sc-7298、Santa Cruz)に対する一次抗体がそれぞれ使用された。TBS-Tで3回洗浄した後、メンブレンを二次抗体(アルカリホスファターゼに結合した抗マウス免疫グロブリン、Promega、Madison、WI、USA)を含むTBS-Tで25℃で1時間インキュベートしました。メンブレンをTBS-Tで3回洗浄した後、アルカリホスファターゼ用のWestern Blue Stabilized Substrate (Promega)と25℃で5分間インキュベートした。ImageJ ソフトウェア (NIH: https://imagej.nih.gov/ij/ (2017年10月30日にアクセス))を使用して、標的タンパク質の着色バンドを定量化しました。
【0088】
<ELISA>
EVおよび培養液中のTGF-β1の量は、製造元の指示に従って、TGFbeta 1 Quantikine ELISAキット(R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州、米国)を使用して測定した。培養皿から培養液を回収した後、トリプシン/EDTA処理により細胞を回収し、細胞数を推定した。培養培地中のTGF-β1の量を細胞数で割って、細胞当たりに放出されたTGF-β1の量を決定した。
【0089】
<細胞増殖の測定>
F10およびNanog+F10細胞は、それぞれ直径6cmのディッシュのR10培地で培養した。開始細胞の数は、直径6cmのディッシュあたり1x105細胞でした。細胞計数には3皿を使用した。合計で、0時間、48時間、および96時間での細胞数には9枚の皿が使用されました。96時間培養用のディッシュでは、48時間後に培地を新しいR10に交換し、さらに48時間培養しました。それぞれの時点で、1mLのPBSで2回洗浄し、200μLのトリプシン/EDTAで5分間処理し、2mLの培養液を加えて細胞を回収し、1500rpm x 5分間で遠心分離しました。沈殿物を2mLの培養液に懸濁し、8倍希釈で血球計数器を用いて細胞計数を行った。
【0090】
<Nanog遺伝子の配列>
Nanog遺伝子の配列は、以下の表1のとおりである。
【0091】
【0092】
<Nanog過剰発現メラノーマ細胞由来の細胞外小胞中のTGF-β1濃度の転移抑制実験>
図1に示すように、EVに関しては、Nanog
+F10-EV及びTGF-β1(-)F10-EVにおけるTGF-β1タンパク質の量は、F10-EV(3.9pg/μg)に対し、それぞれ0.41倍(1.6pg/μg)及び0.13倍(0.5pg/μg)であった。したがって、TGF-β1ノックダウンは、Nanog
+F10-EVのTGF-β1タンパク質の量に対して明らかな減少効果があった。このような低レベルのTGF-β1が誘導転移に及ぼす影響をテストするために、TGF-β1(-)F10-EVをマウスの尾静脈に週3回、3週間前投与したところ、その数と量がTGF-β1(-)F10細胞の転移性コロニーの数は、PBSが前投与された対照マウスと比較して、それぞれ0.65倍及び0.22倍に減少した。したがって、TGFβ1(-)F10-EVは、Nanog
+F10-EVと同様に転移抑制効果を示した。これらの結果は、EV中のTGF-β1が低濃度で転移抑制、EV中のTGF-β1が高濃度で転移促進となるEV中のTGF-β1の濃度依存的な役割を示唆する。この役割の切り替えの閾値濃度は、1.6~3.9pg/μgの間である可能性がある。
【0093】
転移性メラノーマ細胞株B16-F10(F10)は、Nanogの過剰発現によって、より未分化な状態(低分化状態)に変更された。作製された細胞株Nanog+F10は、F10よりも高い転移能を示しました。全細胞の代わりに、そこからの細胞外小胞(EV)が、転移に対する自己ワクチンとしての可能な役割について分析した。Nanog+F10細胞からのEV(Nanog+F10-EV)は転移を抑制でき、転移の少ないF10細胞からのEV(F10-EV)は転移を増強した。TGF-β1はNanogの過剰発現によって最も集中的に影響を受ける分泌サイトカインであるため、Nanog+F10-EVの役割におけるTGF-β1の関与が分析された。Nanog+F10-EVのTGF-β1濃度は、その転移抑制の役割のために1.6pg/μgと低くすることが重要であることが示唆された。Nanog+F10-EVに応答して、肝臓で免疫反応が観察され、腫瘍促進CD163陽性マクロファージの数が特異的に減少したことが示された。
また、FACSにより、EV取込み量の異なるJ774.1を分画し、各分画をNanog+F10と共培養させた後に、Nanog+F10の浸潤能を調べた結果、EV取込み量が多いほど、浸潤能は低いことも分かった。
これらのことは、メラノーマ転移に対する新規な自己ワクチン候補としてのNanog+F10-EVになり得ることを示している。
【0094】
また、結腸がん細胞株colon26についても、F10のときと同様の方法にて、Nanogの過剰発現の細胞株Nanog+colon26を作製した。結腸がん細胞株colon26は、Nanogの過剰発現によって、より未分化な状態(低分化状態)に変更された。作製された細胞株Nanog+colon26からの細胞外小胞(Nanog+colon26-EV)の効果は、結腸がんでも観察された。
これらのことは、他のがんのNanog過剰発現細胞に由来するEVでも同様の抗転移効果が得られることが予想される。
【0095】
<Nanog過剰発現メラノーマ細胞、iPS細胞由来細胞外小胞(EVs)の転移抑制実験>
【0096】
<細胞>
・マウスメラノーマ細胞
・細胞株;B16F10(入手先:東北大学東加齢医学研究所附属医用細胞資源センター
・マウスiPS細胞(iPS-MEF-Ng-20D-17、入手先;理化学研究所バイオリソース研究センター(Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S. Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells. Nature. 2007 448(7151):313-7 PubMed ID: 17554338)
【0097】
<方法>
〔Nanog過剰発現メラノーマ細胞の培養およびEVsの単離〕
細胞融解後2回目の継代時に、10cm dish に5.0×105cells の細胞を播種した。48時間後、EVs枯渇RPMI培地に交換し、37℃、5%CO2下で培養した。
さらに、48時間培養後、培養上清を回収して4℃、2,000×gで20 分間遠心した。回収した上清をさらに4℃、10,000×gで40分間遠心した。さらに上清を回収し、4℃、100,000×gで80分間超で遠心した。上清を取り除き、EVs枯渇PBSを加えて溶解し、懸濁液をHPLC試料前処理用0.22μmフィルターで濾過し、さらに4℃、100,000×gで80分間超で遠心した。上清を除き、EVs枯渇PBSを加えて懸濁し、Nanog過剰発現メラノーマ細胞由来のEVs溶液とした。
【0098】
〔iPS細胞の培養及びEVsの単離〕
継代2回目のiPS細胞を0.1%ゼラチンコーティングされた10cm dishに2.4×106cells播種し、37℃、5%CO2、フィーダーフリーの条件下で一晩培養した後、EVs枯渇培地を用いて培地交換を行った。
さらに、48時間培養後、培養上清を回収して4℃、2,000×gで20分間遠心した。回収した上清をさらに4℃、10,000×gで40分間遠心した。さらに上清を回収し、4℃、100,000×gで80分間超で遠心した。上清を取り除き、EVs枯渇PBSを加えて溶解し、懸濁液をHPLC試料前処理用0.22μmフィルターで濾過し、さらに4℃、100,000×gで80分間超で遠心した。上清を除き、EVs枯渇PBSを加えて懸濁し、iPS細胞由来のEVs溶液とした。
【0099】
〔EVs枯渇培地〕
FBSを4℃、100,000×gで80分間の条件で2回遠心し、得た上清をEVs枯渇FBSとした。これにRPMI1640培地とPenicillin-Streptomycinを加えたものをEVs枯渇培地として使用した。
【0100】
〔マウスへの投与〕
EVs事前投与の実験群は以下の通り。
Nanog
+F10 細胞及びiPS細胞由来EVs(Nanog
+F10-EVs、iPS-EVs)のそれぞれのサンプルを5μg/100μL PBS、Nanog
+F10-EVs+iPS-EVsのサンプルを10μg/100μL PBSとして調整した。
(1)PBS
(2)Nanog
+F10-EVs(5 μg)
(3)iPS-EV(5 μg)
(4)Nanog
+F10-EVs+iPS-EVsi(5μg+5μg)
各EVsサンプルを100μL PBS、9回尾静脈投与した。その後、Nanog
+F10細胞を2.5×105 cells/250μL PBS尾静脈投与を行い、2週間後に転移能評価を行った。
図2に示すように下矢印が、EVsサンプルを尾静脈投与した日を示す。
【0101】
図3に示すように、(1)PBS、(2)Nanog
+F10-EV(Nanog過剰発現メラノーマ細胞由来の細胞外小胞)、(3)iPS-EV(iPS細胞由来の細胞外小胞)、(4)Nanog
+F10-EV+iPS-EV(これらの組合せ)について、(2)>(3)>(4)と転移コロニー数が小さくなり、これら(2)~(4)は優れた転移抑制作用が発揮され、このうちNanog
+F10-EV+iPS-EV(これらの組合せ)が最も優れた転移抑制作用が発揮されていた。このことは、転移に対する新規な自家ワクチン候補としての、Nanog
+F10-EV、iPS-EV、これらの組合せの可能性を示している。
【0102】
上述した実験結果から、Nanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞及び/又は多能性幹細胞由来の細胞外小胞に、がんの転移に対する新規な自家ワクチン候補になり得ることを示している。さらに、がん細胞が発生したある臓器(原発巣)のがん細胞を用いたNanog過剰発現がん細胞を作製し、そのNanog過剰発現がん細胞由来の細胞外小胞を使用することで、その原発巣のがんの転移に適用した自家ワクチンを得ることができることも示している。
【0103】
なお、本明細書において、「第1、第2、第3…」、「A、B、C…」、「1次、2次、3次…」などと数字やアルファベット等を付して、便宜上説明することがあるが、これにより、本発明が、順序など狭義に限定解釈されることはなく、任意に順序を変更してもよい。また、本明細書において、例えば「培養する(こと)」等の「する(こと)」を、方法、工程、手段又はステップ等としてもよく、これら用語を適宜置き換えてもよく、例えば、「ステップ」を、「する(こと)」、方法、工程、又は手段等としてもよく、「工程」を、「する(こと)」、方法、ステップ、又は手段等としてもよく、「手段」を、「する(こと)」、方法、工程又はステップ、機構、システム(系)、装置又は部としてもよく、「部」は、機構、手段、装置又はシステム(系)、又はこれらに備えるための機構、手段又は装置等としてもよい。組合せ製品は、組合せ品又は組合せであってもよい。