(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112054
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】微生物燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/16 20060101AFI20240813BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20240813BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240813BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/02
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016879
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000230973
【氏名又は名称】日本工営株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘明
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 奈央子
【テーマコード(参考)】
4D040
5H126
【Fターム(参考)】
4D040DD03
4D040DD11
4D040DD31
5H126AA01
5H126BB08
5H126BB10
5H126FF03
5H126GG05
5H126JJ03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、発電性能に優れた微生物燃料電池、当該微生物燃料電池を含む汚水処理システム、及び当該微生物燃料電池を用いる発電方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る微生物燃料電池は、アノード電極およびカソード電極を含み、前記アノード電極が、棒状導電体およびシート状カーボンを含み、前記シート状カーボンが前記棒状導電体に貫通されており、前記アノード電極と前記カソード電極との間にイオン交換膜が配置されており、且つ前記アノード電極と前記カソード電極とが外部で電気的に接続されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極およびカソード電極を含み、
前記アノード電極が、棒状導電体およびシート状カーボンを含み、
前記シート状カーボンが前記棒状導電体に貫通されており、
前記アノード電極と前記カソード電極との間にイオン交換膜が配置されており、且つ前記アノード電極と前記カソード電極とが外部で電気的に接続されていることを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項2】
1枚の前記シート状カーボンが折り畳まれて2箇所以上で前記棒状導電体に貫通されており、且つ隣り合うシート状カーボン面間に空隙が設けられている請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項3】
2枚以上の前記シート状カーボンが前記棒状導電体に貫通されており、且つ前記シート状カーボン間にスペーサーが配置されている請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項4】
前記空隙が2mm以上、20mm以下である請求項2に記載の微生物燃料電池。
【請求項5】
前記シート状カーボン間の間隔が2mm以上、20mm以下である請求項3に記載の微生物燃料電池。
【請求項6】
前記シート状カーボンが炭素繊維不織布である請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項7】
前記棒状導電体1mあたりの前記シート状カーボンの割合が10g以上、50g以下である請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項8】
2以上の前記アノード電極を含む請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項9】
活性汚泥を含み且つ汚水が流入する曝気槽、及び請求項1~8のいずれかに記載の微生物燃料電池を含み、
前記シート状カーボンが前記汚水に接触していることを特徴とする汚水処理システム。
【請求項10】
活性汚泥を含み且つ汚水が流入する曝気槽の汚水中に、請求項1~8のいずれかに記載の微生物燃料電池を、前記シート状カーボンが前記汚水に接触するよう浸漬する工程を含むことを特徴とする発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電性能に優れた微生物燃料電池、当該微生物燃料電池を含む汚水処理システム、及び当該微生物燃料電池を用いる発電方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水などの汚水の処理には、活性汚泥が活用されている。即ち、汚水へ空気を送り込みつつ、活性汚泥に含まれている微生物により有機化合物を分解させた後に上澄みを次段階へ供給し、多段階で汚水を浄化することが行われている。この際、汚水に含まれる有機化合物を分解しつつ電子を生じる反応を行う微生物が存在する。よって、汚水を処理するに当たり、かかる電子を外部に取り出して活用する微生物燃料電池が検討されている。
【0003】
本発明者らも、例えば、電流生産菌がグラフェンの粒に挟まれるようにした粗密な凝集構造を有する微生物収容体を、アノード電極に接触するように配置した汚染水処理装置(特許文献1)や、従来の微生物燃料電池ではアノードとカソードとの間にカチオン交換膜が配置されていたのに対して、かかるカチオン交換膜が汚水中の水素イオン以外のカチオンにより劣化し易いため、アニオン交換膜を含む微生物燃料電池(特許文献2)を開発している。
【0004】
微生物燃料電池のカソード反応は、汚水や大気中に含まれている水分子や酸素の還元反応であり、電子が供給されれば進行するので、微生物燃料電池の発電はアノード反応が律速になる。微生物燃料電池のアノードは、一般的にカーボン等の導電性素材で構成されており、アノードに付着した微生物が汚水中の有機化合物を分解して電子を発生させることから、アノードにおける酸化反応を促進するために、アノードの表面積は大きい程よいと考えられている。そこで、
図4に模式的に示すようにカーボン繊維をブラシ状に成形したアノードが開発されている(非特許文献1)。非特許文献2には、プリーツ状カーボンシートや竹炭に比べて、ブラシ状カーボン繊維のアノードを含む微生物燃料電池が、回復電流に最も優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6358509号公報
【特許文献2】特許第6624470号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】BURUCE LOGANら,Environ.Sci.Technol.,2007,41,3341-3346
【非特許文献2】Wataru Nagahashiら,J.Gen.Microbiol.,67,248-255(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、種々の微生物燃料電池が開発されており、ブラシ状で表面積の大きいアノードも開発されている。
しかし、アノードに含まれるカーボン材料の表面を酸化して微生物を付着させ易くするために焼成が行われるが、カーボン材料の強度は低下するため、ブラシ状アノードのカーボンは、ブラシ状に成形した後に焼成せざるを得ず、また、焼成温度を高めることが難しかった。更に、発電性能がより一層高い微生物燃料電池が求められている。
そこで本発明は、発電性能に優れた微生物燃料電池、当該微生物燃料電池を含む汚水処理システム、及び当該微生物燃料電池を用いる発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、複数のシート状カーボンを導電性棒に貫通させたアノードが、表面積が比較的小さいにもかかわらず、同量のブラシ状カーボンからなるアノードに比べて、意外にも微生物燃料電池の発電性能をより一層高められることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0009】
[1] アノード電極およびカソード電極を含み、
前記アノード電極が、棒状導電体およびシート状カーボンを含み、
前記シート状カーボンが前記棒状導電体に貫通されており、
前記アノード電極と前記カソード電極との間にイオン交換膜が配置されており、且つ前記アノード電極と前記カソード電極とが外部で電気的に接続されていることを特徴とする微生物燃料電池。
[2] 1枚の前記シート状カーボンが折り畳まれて2箇所以上で前記棒状導電体に貫通されており、且つ隣り合うシート状カーボン面間に空隙が設けられている前記[1]に記載の微生物燃料電池。
[3] 2枚以上の前記シート状カーボンが前記棒状導電体に貫通されており、且つ前記シート状カーボン間にスペーサーが配置されている前記[1]に記載の微生物燃料電池。
[4] 前記空隙が2mm以上、20mm以下である前記[2]に記載の微生物燃料電池。
[5] 前記シート状カーボン間の間隔が2mm以上、20mm以下である前記[3]に記載の微生物燃料電池。
[6] 前記シート状カーボンが炭素繊維不織布である前記[1]~[5]のいずれかに記載の微生物燃料電池。
[7] 前記棒状導電体1mあたりの前記シート状カーボンの割合が10g以上、50g以下である前記[1]~[6]のいずれかに記載の微生物燃料電池。
[8] 2以上の前記アノード電極を含む前記[1]~[7]のいずれかに記載の微生物燃料電池。
[9] 活性汚泥を含み且つ汚水が流入する曝気槽、及び前記[1]~[8]のいずれかに記載の微生物燃料電池を含み、
前記シート状カーボンが前記汚水に接触していることを特徴とする汚水処理システム。
[10] 活性汚泥を含み且つ汚水が流入する曝気槽の汚水中に、前記[1]~[8]のいずれかに記載の微生物燃料電池を、前記シート状カーボンが前記汚水に接触するよう浸漬する工程を含むことを特徴とする発電方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る微生物燃料電池は、汚水を浄化するための曝気槽に浸漬するのみで、活性汚泥中の微生物が付着し、汚水に含まれる有機化合物の分解により発生する電子を外部に取り出すことにより発電することができる。即ち、不要な有機化合物を燃料として電力に変換できるため、SDGsの観点からも優れている。また、本発明に係る微生物燃料電池のアノードに含まれるカーボン材料は、シート状であり且つ棒状導電体に貫通させるのみであるので、高温で焼成した後にアノードに成形することが可能である。更に、本発明に係る微生物燃料電池は、最近主流となりつつあったブラシ状アノード電極を含む微生物燃料電池よりも更に発電性能に優れている。従って本発明は、汚水の浄化と効率的な発電を並行して実施可能な技術として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る棒状導電体貫通型アノードの一態様を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る棒状導電体貫通型アノードの一態様を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る棒状導電体貫通型アノードの一態様を示す模式図である。
【
図4】
図4は、従来のブラシ状アノードの模式図である。
【
図5】
図5は、従来のブラシ状アノード電極を含む微生物燃料電池と本発明に係る微生物燃料電池の電流密度の経時的変化を示すグラフである。
【
図6】
図6は、従来の微生物燃料電池のブラシ状アノード電極と本発明に係る微生物燃料電池のアノード電極の電流に対する電位を示すグラフである。
【
図7】
図7は、従来の微生物燃料電池のカソード電極と本発明に係る微生物燃料電池のカソード電極の電流に対する電位を示すグラフである。
【
図8】
図8は、発電時において従来の微生物燃料電池のブラシ状アノード電極と本発明に係る微生物燃料電池のアノード電極に付着したバイオマスの量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る微生物燃料電池は、アノード電極およびカソード電極を含み、前記アノード電極が、棒状導電体およびシート状カーボンを含み、前記シート状カーボンが前記棒状導電体に貫通されており、前記アノード電極と前記カソード電極との間にイオン交換膜が配置されており、且つ前記アノード電極と前記カソード電極とが外部で電気的に接続されている。
【0013】
微生物燃料電池のカソード反応は、汚水または大気中の水、酸素、及び電子が関与する還元反応であり、電子が供給されれば進行するため、微生物燃料電池の発電ではアノード反応が律速である。よって、アノード反応を効率的に進行せしめるために、従来、比表面積の大きいブラシ状カーボンからなるアノード電極が開発されていた。しかし、本発明者らの実験的知見によれば、同量のカーボンを含むものであっても、ブラシ状アノード電極を含む微生物燃料電池に比べて、本発明に係る微生物燃料電池の発電性能の方が優れていた。その理由としては、ブラシ状カーボンには、その表面積の大きさから、発電反応に関与しない微生物も多く付着し、アノード抵抗が増大したり、発電反応に関与する微生物の増殖や発電反応が妨げられる一方で、本発明に係る微生物燃料電池のアノード電極の表面積が、発電反応に関与する微生物に適したものである可能性がある。また、本発明のアノード電極の作製は容易であり、原料シート状カーボンを高温で焼成してから成形することが可能であることから、高度に酸化されたカーボン表面が発電反応に関与する微生物の増殖に適している可能性もある。
【0014】
アノード電極は、棒状導電体およびシート状カーボンを含み、前記シート状カーボンが前記棒状導電体に貫通されている構造を有する。
【0015】
棒状導電体は、アノード反応により生じた電子の集電体としての役割と、シート状カーボンを固定する役割を有するものである。棒状導電体の素材としては、導電性に優れるものであれば特に制限されないが、例えば、鉄、ステンレス、銅、銀などが挙げられ、水中でも錆び難いステンレスが好ましい。棒状導電体の大きさは、実施規模などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、断面が多角形である場合は対角線、円形の場合は長径の長さを2mm以上、10cm以下とすることができる。当該長さとしては、5mm以上が好ましく、また、5cm以下が好ましく、3cm以下がより好ましく、2cm以下がより更に好ましい。また、棒状導電体の長さは、例えば汚水処理場の曝気槽の大きさ等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、30cm以上、2m以下とすることができる。
【0016】
シート状カーボンは、炭素繊維をシート状に成形したものであり、例えば、炭素繊維を加工した織布、不織布、織物、カーボンペーパーが挙げられる。シートの柔軟性の観点から、織布、不織布、織物が好ましく、製造コストや炭素繊維間の適度な空隙の観点から不織布がより好ましい。或いは、ポリアクリロニトリル繊維などの高分子繊維の織布または不織布や、炭素繊維または高分子繊維の織布または不織布に樹脂を含浸させたものを、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で加熱することにより黒鉛化したものを用いてもよい。
【0017】
シート状カーボンは、微生物の付着を促進するために、表面酸化処理することが好ましい。具体的には、例えば、空気雰囲気下、400℃以上、1000℃以下で加熱する。なお、ブラシ状アノード電極の場合、炭素繊維を酸化処理すると強度が低下してアノード電極への成形が不可能になるため、ブラシ状アノード電極に成形してから酸化処理する必要があり、そのため、酸化処理温度を高めることができない。それに対して本発明のアノード電極は、シート状カーボンを棒状導電体に貫通させるのみで容易に作製できるため、酸化処理したシート状カーボンを使うことができる。そのため、シート状カーボンの酸化処理温度を比較的高く設定することが可能である。
【0018】
1枚のシート状カーボンを折り畳み、2箇所以上で棒状導電体に貫通させてもよい。例えば、
図2に模式的に示す通り、細長いシート状カーボンをプリーツ状に成形し、その2以上の各襞を棒状導電体に貫通させてもよい。また、
図3に模式的に示す通り、細長いシート状カーボンを、いわゆる七夕飾りの「ちょうちん」の形状またはその類似形状にしてもよい。具体的には、細長いシート状カーボンを円柱状とし、縦方向またはその斜め方向に断続的に切れ込みを入れ、上下から圧力をかけて切れ込み部分を外側に膨らませ、更に、棒状導電体であるステンレス糸でシート状カーボンを縫い付けて形状を安定化させてもよい。これらの場合、シート状カーボン間の間隔は、外側に膨らませた部分の隣合う頂点の距離をいうものとする。
【0019】
また、
図1に模式的に示す通り、2枚以上のシート状カーボンを棒状導電体に貫通させることが好ましい。
図1の態様であれば、複数枚のシート状カーボンの間隔が安定化し、その結果、シート状カーボンの表面または近辺における微生物の活動に支障が生じないと考えられる。この場合、各シート状カーボンの形状や大きさは実施規模などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、シート状カーボンの平面形状としては、円形、楕円形などの略円形、四角形や六角形などの多角形のいずれでもよく、一平面あたりの平面積としては、例えば、20cm
2以上、200cm
2以下とすることができる。なお、折り畳んだシート状カーボンの場合の一平面とは、隣り合う折り目から折り目までの平面をいう。
【0020】
シート状カーボン間や、プリーツ状カーボンの襞間には、
図1に模式的に示す通り、スペーサーを配置することができる。スペーサーにより、シート状カーボン間やプリーツ状カーボンの襞間の間隙をより確実に確保することができ、微生物の活動の低下の抑制が可能になる。スペーサーの素材としては、微生物の活動やアノード反応を阻害するものでなければ特に制限されないが、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン等からなる発泡プラスチック等を挙げることができる。また、スペーサーは、多孔質のものであってもよい。スペーサーの厚さとしては、例えば、2mm以上、50mm以下とすることができる。また、スペーサーの厚さは、シート状カーボン間またはプリーツ状カーボンの襞間の間隔が2mm以上、20mm以下になるよう調整してもよい。スペーサーの形状や大きさも実施規模などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、スペーサーの平面形状としては、円形、楕円形などの略円形、四角形や六角形などの多角形のいずれでもよく、平面積としては、例えば、1cm
2以上、10cm
2以下とすることができる。なお、プリーツ状カーボンの場合には、シート状カーボンを折り畳むことにより、隣り合う平面間に自然に空隙が生じるため、スペーサーを挟まなくてもよい。また、プリーツ状カーボンの隣り合う平面間の空隙の距離や、隣り合うシート状カーボン間の間隔は、当該距離または間隔の最大値をいうものとする。
【0021】
アノード電極におけるシート状カーボンの量は、発電反応に関与する微生物が良好に活動することができ、良好に発電できる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、棒状導電体1mあたりのシート状カーボンの割合を5g以上、100g以下とすることができる。当該割合としては、10g以上、50g以下が好ましい。
【0022】
1本のアノード電極中、1枚の前記シート状カーボンが折り畳まれている部分と、2枚以上のシート状カーボンが棒状導電体に貫通されている部分の両方が含まれていてもよいが、製造の容易性から、いずれか一方の態様のみが含まれているものが好ましい。
【0023】
アノード電極は、棒状導電体にシート状カーボンを、好ましくは棒状導電体にシート状カーボンとスペーサーを交互に貫通させることにより、容易に作製することができる。最下および最上のシート状カーボンは、シリコーンゴム栓などで固定することが好ましい。
【0024】
微生物燃料電池のカソード反応は、汚水や大気中に含まれている水分子と酸素の還元反応であり、電子が供給されれば進行するので、微生物燃料電池の発電はアノード反応が律速になる。よって、本発明に係る微生物燃料電池としては、2以上のアノード電極を含むものが好ましい。微生物燃料電池あたりのアノード電極の数としては、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がより更に好ましい。当該数の上限は特に制限されないが、アノード電極が過剰に多いと発電反応に支障が生じる可能性があり得るため、当該数としては20以下が好ましい。
【0025】
なお、本発明に係るシート状カーボンが棒状導電体に貫通した棒状導電体貫通型アノードの他、一般的なアノードを併用してもよい。
【0026】
カソード電極は、主に以下のいずれかの反応の場となるものであれば特に制限されない。
H2O + 1/2O2 + 2e- → 2OH-
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O
【0027】
前記カソード反応において、H2Oは処理すべき汚水中に含まれていてもよいし、大気中の水蒸気であってもよい。また、O2は、汚水中に含まれるものであってもよい。即ち、カソード電極は、処理すべき汚水に接触していてもよいし、大気に接触していてもよい。
【0028】
カソード電極は、例えば、導電性基材に酸化還元触媒を担持させたものであってもよい。導電性基材としては、例えば、シート状カーボンを用いることができる。カソード電極として使用するシート状カーボンは、繊維状活性炭であってもよい。繊維状活性炭の原料としては、綿、麻といった天然セルロース繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶剤紡糸法による再生セルロース繊維、更にはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、リグニン繊維、フェノール系繊維、石油ピッチ繊維などの合成繊維が挙げられるが、得られる繊維状活性炭の強度などの物性や吸着性能から、再生セルロース繊維、フェノール系繊維およびアクリル系繊維が好ましい。繊維状活性炭は、従来公知の方法によって製造することができるが、例えばこれらの原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛に必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活することによって製造することができる。
【0029】
カソード電極の酸化還元触媒としては、例えば、活性炭や白金が挙げられる。酸化還元触媒の担持方法としては、例えば、酸化還元触媒と溶媒を含むペーストを導電性基材に塗布した後に乾燥すればよい。前記ペーストには、イオンの移動を促進するために、PDADMAC等のイオン交換樹脂や、導電経路の形成のために、カーボンブラック等の導電性粒子を添加してもよい。
【0030】
アノード電極とカソード電極との間には、イオン交換膜を配置する。イオン交換膜を介して、一方の電極で生じたイオンを他方の電極に送達することにより、発電反応を円滑に進行せしめることができる。
【0031】
イオン交換膜としては、カチオン交換膜とアニオン交換膜がある。カチオン交換膜としては、例えば、側鎖にスルホン酸基を有するNafion(登録商標)が挙げられる。イオン交換膜としてカチオン交換膜を用いる場合、アノード電極では有機物が二酸化炭素と水素イオンに分解され、水素イオンがカチオン交換膜を介してカソード電極に送達され、カソード電極において還元反応が進行すると考えられる。
【0032】
但し、反応で生じる水素イオンの他、汚水中には様々なカチオンが含まれており、かかるカチオンがカチオン交換膜を通過することにより、カチオン交換膜が劣化し得る。よって、イオン交換膜としては、アニオン交換膜が好ましい。イオン交換膜としてアニオン交換膜を用いる場合、アニオン交換膜を介してカソード反応により生じた水酸化物イオンがアノード電極へ送達され、有機物の分解に寄与すると考えられる。
【0033】
アノード電極、イオン交換膜およびカソード電極の配置は、アノード電極とカソード電極とをイオン交換膜で隔てられるのであれば、特に制限されない。例えば、円柱状基材上のカソード電極を形成し、更にその上をイオン交換膜で被覆し、その周囲に本発明に係るシート状カーボンが棒状導電体に貫通した棒状導電体貫通型アノードを設置し、カソード電極とアノード電極を外部で電気的に接続すればよい。前記イオン交換膜上には更にアノード電極を形成し、微生物燃料電池コアとしてもよい。コアのアノード電極は、一般的なアノード電極でよい。
【0034】
本発明に係る微生物燃料電池においては、アノード電極とカソード電極とが外部で電気的に接続されており、アノード反応により生じた電子が外部で仕事をした後にカソード電極へ運ばれる。本発明に係る微生物燃料電池が2以上のアノード電極を含む場合には、各アノード電極がカソード電極と接続される。一般的に、カソード反応の方が効率的に進行するため、この場合には、微生物燃料電池の発電性能はより一層高いものとなる。
【0035】
本発明に係る汚水処理システムは、活性汚泥を含み且つ汚水が流入する曝気槽、及び本発明に係る微生物燃料電池を含み、アノード電極のシート状カーボンが汚水に接触している。本発明に係る汚水処理システムにより、汚水を浄化しつつ効率的に発電することが可能になる。
【0036】
汚水処理システムの曝気槽中の汚水には、一般的に、活性汚泥による汚水の浄化の促進のために、散気管やエアレータ等により、圧搾空気を微細な気泡として吹き込む。カソード電極に汚水が接触する場合には、かかる気泡に含まれる酸素がカソード反応で使われると考えられる。
【0037】
少なくともアノード電極のシート状カーボンを汚水に接触させる。汚水中の活性汚泥に含まれ、発電反応に関与する微生物は、汚水処理中にアノード電極のシート状カーボンに付着し、発電反応に寄与すると考えられる。アノード電極のシート状カーボンには、使用前に活性汚泥を付着させてもよい。
【0038】
曝気槽は複数設け、汚水を段階的に浄化してもよい。この場合、微生物燃料電池は全ての曝気槽に設置してもよいし、曝気槽の一部、例えば汚水中の有機物濃度がより高いより上流の曝気槽にのみ設置してもよい。
【0039】
曝気槽での浄化処理を受けた汚水は、一般的に、沈殿槽へ送られる。沈殿槽では、活性汚泥を沈殿させることにより、処理水を得る。沈殿槽で分離された活性汚泥は、曝気槽へ返送してもよい。
【0040】
本発明に係る発電方法は、活性汚泥を含み且つ汚水が流入する曝気槽の汚水中に、本発明に係る微生物燃料電池を、少なくともアノード電極のシート状カーボンが汚水に接触するよう浸漬する工程を含む。即ち、本発明に係る微生物燃料電池のアノード電極のみを曝気槽の汚水中に浸漬してもよいし、微生物燃料電池自体を汚水中に浸漬してもよい。この際、カソード電極は汚水に接触していても接触していなくてもよい。活性汚泥に含まれ且つ有機物を分解して電子を生じる微生物と、汚水中の有機物および汚水中または大気中の酸素により、発電される。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
実施例1
(1)棒状導電体貫通型アノードの作製
図1に模式的に示す棒状導電体貫通型アノードを作成した。具体的には、炭素繊維の前駆体として、ポリアクリロニトリル繊維からなるスパンレース不織布(シンワ社製,目付:100g/m
2、平均繊維径:20μm,平均繊維長:80mm)を、窒素ガス中、5℃/分で1500℃まで昇温して黒鉛化した後、空気雰囲気下、650℃で5分間酸化処理し、50g/m
2のカーボンスパンレースを得た。得られたカーボンスパンレースを63.2mm角に切断したシート100枚と、24mmφ発泡ポリウレタンスペーサーとを交互に6mmφ×1mのステンレス棒に突き刺し、両端をシリコーン製ゴム栓で固定することにより、シート状カーボンとスペーサーとの交互積層体が棒状導電体に貫通されている棒状導電体貫通型アノードを作製した。
アノード1本あたりのカーボン量は20g、カーボンスパンレースシートの総面積は8000cm
2であり、発泡ポリウレタンスペーサーの厚さは、上下から圧縮したために約5~10mmであった。
【0043】
(2)コア用アノードの作製
炭素繊維の前駆体として、ポリアクリロニトリル繊維からなるスパンレース不織布(シンワ社製,目付:100g/m2,平均繊維径:20μm,平均繊維長:80mm)を、窒素ガス中、5℃/分で1500℃まで昇温して黒鉛化した後、空気雰囲気下、650℃で5分間酸化処理することにより、コア用アノードとして50g/m2のカーボンスパンレースを得た。
【0044】
(3)コア用カソードの作製
単糸繊度2.2dtex、20番手のノボラック系フェノール樹脂繊維紡績糸から目付220g/m2の丸編物を作製し、410℃の不活性雰囲気中で30分間加熱した後、水蒸気を12容量%含有する雰囲気中、890℃で2時間賦活した。得られたガス吸着層の絶乾質量は103g/m2、BET比表面積は1421m2/g、厚さは0.98mmであった。
このカーボンニットを500mm×1200mmにカットした。
活性炭7.5g、カーボンブラック4.5g、イソプロパノール48mL、PDADMAC24mL、超純水18mL、60%PTFE分散液を混合したペーストをカットしたカーボンニットに塗布し、25℃で24時間乾燥した。
【0045】
(4)微生物燃料電池の作製
内径50mm×1mのステンレスメッシュ円筒に、内側から順番に、上記(3)で得たコア用カソード、アニオン交換膜(「ネオセプタASE」アストム社製)、上記(2)で得たコア用アノード、及びステンレスメッシュを巻き付けて、円筒状の微生物燃料電池本体コアを得た。呼び径300mm、内径286mmの塩化ビニル製キャップにエポキシ樹脂およびエポキシ樹脂硬化剤を流し込み、キャップの中央に円筒状微生物燃料電池本体コアを設置し、円筒状モジュールの両端を封止した。キャップの上部に穴をあけ、15cmにカットした塩化ビニル製パイプを接続し、吸気口を設けた。
円筒状モジュールの周囲に、上記(1)で得た棒状導電体貫通型アノード6本を設置し、円筒状微生物燃料電池本体コアの端部に露出したカソードと、各棒状導電体貫通型アノードを、可変抵抗装置を介して電線で接続することにより、微生物燃料電池を得た。
【0046】
比較例1
図4に模式的に示す従来のブラシ状アノードを作成した。具体的には、カーボン繊維糸(「T300B-3k-40B」東レ社製)を5cm以上に切断し、ステンレス線間に挟みつつステンレス線をねじり込み、直径が5cmになるようカーボン繊維糸を切断することにより、ブラシ状に成形した。得られたブラシをアセトンで洗浄した後、450℃で5時間焼成することにより、ブラシ状アノードを作製した。なお、ブラシ状アノード1本あたりのカーボン量は、実施例1(1)のアノードに合わせて20gに調整した。
上記棒状導電体貫通型アノードの代わりにブラシ状アノードを用いた以外は実施例1(4)と同様にして、微生物燃料電池を作製した。
【0047】
試験例1: 発電実験
実施例1の微生物燃料電池の棒状導電体貫通型アノードには、都市下水処理場の曝気槽から得られた活性汚泥を付着させた。また、比較例1の微生物燃料電池のブラシ状アノードは別実験でいったん使用したため、予め洗浄した上で乾燥させ、実施例1の棒状導電体貫通型アノードと同様に活性汚泥を付着させた。
都市下水処理場の初沈処理水を、液深が80cm、液量が50mLとなるよう17mL/minの流速で、実施例1および比較例1の微生物燃料電池の各塩化ビニル製キャップの上部からで且つ本体コアの外側に、チューブポンプを用いて並列で連続供給した。この場合、各微生物燃料電池中の処理水の平均滞留時間は48時間であった。
2022年4月18日から実験を開始し、当初の抵抗値は27Ωに設定し、開始から7日目に1Ωに変更した。
実験開始から18日目に処理水供給ラインに詰りが発生して流量が低下し、21日目に比較例1の微生物燃料電池への処理水供給用ポンプが不調になり、ポンプを交換するなどのトラブルが生じた。同ポンプは、実験開始から25日目に再度新品に交換した。
実験開始からの電流密度を
図5に示す。
図5に示す結果の通り、実験系が安定した23日目以降では、比較例1の微生物燃料電池に比べて、実施例1の微生物燃料電池の電流密度の方が明らかに高い傾向が見られた。
【0048】
また、印加抵抗を変化させることにより電流値を変え、電流値に対するアノードとカソードの電位を測定した。各微生物燃料電池の電流に対するアノード電位を
図6に、電流に対するカソード電位を
図7に示す。なお、
図6および
図7中、例えば「実施例1_39」は、実施例1の微生物燃料電池を使った、実験開始から39日目のデータを示す。
図6および
図7に示される結果の通り、同実験日における同一電流に対するアノード電位とカソード電位は、何れも実施例1の微生物燃料電池の方が高いことが示された。
【0049】
試験例2: 付着バイオマスに関する実験
(1)付着バイオマスの定量
試験例1において、微生物燃料電池の運転開始から51日経過後、実施例1の棒状導電体貫通型アノードおよび比較例1のブラシ状アノードからそれぞれバイオフィルム試料を取得し、その乾燥重量を測定した。
具体的には、棒状導電体貫通型アノードおよびブラシ状アノード各3本を抜き取り、付着したバイオフィルムを搾り取って1Lポリエチレン製瓶に回収した。各アノードを水で洗浄し、得られた懸濁液を同瓶に回収する操作を3回繰り返した。得られた懸濁液を遠沈管に取り、4℃、10000rpmで15分間遠心分離した。上澄みを捨て、沈殿物を蒸留水で洗いながら、重量測定済みのビーカーに移しこんだ。ビーカーを105℃で一晩以上乾燥し、デシケーターで30分放冷後、重量を測定し、アノード1本当たりのバイオマス付着量の平均値を算出した。結果を
図8に示す。
図8中、「CB」はブラシ状アノードを示し、「GNWF」は棒状導電体貫通型アノードを示す。
図8に示される結果の通り、ブラシ状アノード1本あたりに付着していたバイオマスの乾燥重量は1.6±0.078gであるのに対して、棒状導電体貫通型アノードでは0.27±0.021gと、バイオマス付着量が有意に少なかった。
【0050】
(2)付着バイオマスの菌相解析
実施例1の棒状導電体貫通型アノードおよび比較例1のブラシ状アノードより採取したバイオフィルムからDNAを抽出し、16SrRNA遺伝子のV4領域を表液としてPCR増幅を行い、パイロシーケンスで得られたシーケンスについて系統解析を行った。代表的な電流生産微生物について存在割合を比較した結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
(3)実験結果の考察
図8に示される結果の通り、棒状導電体貫通型アノードに付着したバイオマスは、ブラシ状アノードに比べて明らかに少なかった。
また、表1に示される結果の通り、棒状導電体貫通型アノードに付着したバイオマスでは、電流生産菌を含むDesulfovibrio属の存在割合が高かった。
【0053】
以上の結果より、比較例1の微生物燃料電池のブラシ状アノードでは、発電反応に関与しない微生物も多く付着してしまい、アノード抵抗が増大し、かえって発電反応を阻害してしまったのに対して、実施例1の棒状導電体貫通型アノードでは、微生物の付着量は比較的少ないものの、おそらく発電反応に関与する微生物が選択的に付着し、且つ微生物の過剰付着によるアノード抵抗の増大が抑制されたことにより、棒状導電体貫通型アノードを含む微生物燃料電池の発電性能がより高いものとなったと考えらえる。