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特開2024-112103プラズマ処理を行う装置、及びプラズマ処理を行う方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112103
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】プラズマ処理を行う装置、及びプラズマ処理を行う方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20240813BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20240813BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240813BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
C23C16/455
C23C16/50
H01L21/31 C
H05H1/46 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016969
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カク 剣明
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA05
2G084AA07
2G084AA13
2G084CC12
2G084CC13
2G084CC16
2G084CC18
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD15
2G084DD23
2G084DD55
2G084FF15
4K030AA03
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA16
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA18
4K030BA38
4K030BA46
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA05
4K030EA06
4K030FA01
4K030GA02
4K030LA15
5F045AA08
5F045AB31
5F045AC03
5F045AC11
5F045AC12
5F045AC16
5F045AC17
5F045AD06
5F045AE01
5F045AE21
5F045BB14
5F045DP03
5F045DQ10
5F045EF05
5F045EF07
5F045EH05
5F045EH13
5F045EK07
(57)【要約】
【課題】プラズマ化した処理ガスに含まれるイオンによる影響を抑制して、基板に対してプラズマ処理を行う技術を提供する。
【解決手段】基板にプラズマ処理を行う装置は、処理容器内に設けられた前記基板の載置台と、前記載置台の上方側に配置され、処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成空間と、前記プラズマ形成空間と前記処理空間との間に配置されたシャワープレートとを備える。さらに前記シャワープレートは、前記プラズマ形成空間から前記処理ガスのプラズマが流入する複数のプラズマ流入孔が形成された第1の面と、前記処理空間へ向けて前記処理ガスのプラズマが流出する複数のプラズマ流出孔が形成された第2の面との間に設けられた区画壁により互いに区画され、各々、前記処理ガスのプラズマに含まれるイオンを衝突させてトラップするためのイオントラップ面が設けられた、複数のイオントラップ空間を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理容器内の基板にプラズマ化した処理ガスを供給してプラズマ処理を行う装置であって、
前記処理容器内に設けられ、前記基板を載置するための載置台と、
前記載置台の上方側に配置され、前記処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するプラズマ形成空間と、
前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、
前記プラズマ形成空間と、前記処理空間との間に配置されたシャワープレートと、を備え、
前記シャワープレートは、
前記プラズマ形成空間から前記処理ガスのプラズマが流入する複数のプラズマ流入孔が形成された第1の面と、
前記処理空間へ向けて前記処理ガスのプラズマが流出する複数のプラズマ流出孔が形成された第2の面と、
前記第1の面と前記第2の面との間に設けられた区画壁により互いに区画され、各々、前記プラズマ流入孔から流入した前記処理ガスのプラズマに含まれるイオンを衝突させてトラップした後、プラズマ流出孔を介して前記処理空間へ向けて流出させるためのイオントラップ面が設けられた、複数のイオントラップ空間と、を備える、装置。
【請求項2】
前記イオントラップ面は、前記プラズマ流入孔の出口に対向する位置に配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記イオントラップ空間の高さ寸法が0.1mm~3.1mmの範囲内である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記イオントラップ空間は、筒状に構成され、これら筒状の複数の前記イオントラップ空間が、前記シャワープレートの面内にマトリックス状に並べて配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記イオントラップ空間は、前記シャワープレートの周方向に沿って環状に構成され、これら環状の複数の前記イオントラップ空間が、前記シャワープレートの面内に同心状に並べて配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記シャワープレートには、複数の前記プラズマ流出孔に加え、プラズマ化した前記処理ガスと反応して前記基板に膜を形成するための原料ガスを、前記第2の面から前記処理空間へ向けて供給するための複数の原料ガス供給孔が形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記プラズマ形成空間は、前記シャワープレートを構成し、前記第1の面を備える導電板と、誘電体を挟んで前記シャワープレートとの間に隙間を介して配置された電極板との間に形成され、
前記プラズマ形成機構は、前記電極板と前記導電板との一方側に接続された高周波電源部と、他方側に接続された接地端とを備え、これら電極板と導電板との間の容量結合により前記プラズマ形成空間に供給された前記処理ガスをプラズマ化する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記プラズマ流出孔の開口面積は、当該プラズマ流出孔が設けられている前記イオントラップ空間の横断面積よりも小さく構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記プラズマ流出孔は、前記イオントラップ空間側から前記処理空間側へ向けて次第に開口面積が広くなるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記区画壁には、前記プラズマ流入孔から流入した前記処理ガスのプラズマに含まれるイオンを電気的に引き寄せて壁面にトラップするために電力が印加される導電部材が設けられている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記区画壁には、隣り合って配置された前記イオントラップ空間同士を連通させるための連通路が設けられている、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
処理容器内の基板にプラズマ化した処理ガスを供給してプラズマ処理を行う方法であって、
前記処理容器内に設けられ、前記基板を載置するための載置台と、前記載置台の上方側に配置され、前記処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するプラズマ形成空間と、前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、前記プラズマ形成空間と、前記処理空間との間に配置されたシャワープレートと、を用い、
前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給する工程と、
前記プラズマ形成機構により、前記プラズマ形成空間に供給された前記処理ガスをプラズマ化する工程と、
前記プラズマ化する工程にて形成された処理ガスのプラズマを、前記シャワープレートの第1の面に形成された複数のプラズマ流入孔を介して、前記プラズマ形成空間から、前記シャワープレート内に形成された複数のイオントラップ空間に流入させる工程と、
区画壁により互いに区画され、各々、イオントラップ面が設けられた複数の前記イオントラップ空間にて、前記プラズマ流入孔から流入した前記処理ガスのプラズマに含まれるイオンを前記イオントラップ面に衝突させてトラップする工程と、
前記トラップする工程にてイオンがトラップされた後の前記処理ガスのプラズマを、前記シャワープレートの第2の面に形成された複数のプラズマ流出孔を介して、複数の前記イオントラップ空間から、前記処理空間に流入させる工程と、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理を行う装置、及びプラズマ処理を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程にて、半導体ウエハ(以下、「ウエハ」と記載する)に対して処理ガスをプラズマ化することにより得られた反応性の高い活性種を用いて、成膜処理やエッチング処理を行うことが知られている。活性種にはイオンやラジカルが含まれるが、このうちラジカルを選択的に用いてプラズマ処理を行う場合がある。
【0003】
例えば特許文献1には、上部電極とシャワープレートとの間に生成された容量結合プラズマにより反応ガスを解離させた後、シャワープレートからリモートプラズマとして供給する技術が記載されている。この特許文献1には、このシャワープレートの直下に多孔板状のイオントラップを設け、プラズマ中のイオンをトラップすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-203155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、プラズマ化した処理ガスに含まれるイオンによる影響を抑制して、基板に対してプラズマ処理を行う技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、処理容器内の基板にプラズマ化した処理ガスを供給してプラズマ処理を行う装置であって、
前記処理容器内に設けられ、前記基板を載置するための載置台と、
前記載置台の上方側に配置され、前記処理ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するプラズマ形成空間と、
前記プラズマ形成空間に前記処理ガスを供給するための処理ガス供給部と、
前記プラズマ形成空間と、前記処理空間との間に配置されたシャワープレートと、を備え、
前記シャワープレートは、
前記プラズマ形成空間から前記処理ガスのプラズマが流入する複数のプラズマ流入孔が形成された第1の面と、
前記処理空間へ向けて前記処理ガスのプラズマが流出する複数のプラズマ流出孔が形成された第2の面と、
前記第1の面と前記第2の面との間に設けられた区画壁により互いに区画され、各々、前記プラズマ流入孔から流入した前記処理ガスのプラズマに含まれるイオンを衝突させてトラップした後、プラズマ流出孔を介して前記処理空間へ向けて流出させるためのイオントラップ面が設けられた、複数のイオントラップ空間と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、プラズマ化した処理ガスに含まれるイオンによる影響を抑制して、基板に対してプラズマ処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る成膜装置の縦断側面図である。
図2】成膜装置のプラズマ形成空間及びシャワープレートの構成例を示す縦断側面図である。
図3】シャワープレートの第1の構成例を示す斜視図である。
図4】第1の構成例に係るシャワープレートを他の方向から見た斜視図である。
図5】シャワープレートの第2の構成例を示す斜視図である。
図6】第2の構成例に係るシャワープレートを他の方向から見た斜視図である。
図7】前記シャワープレートに設けられたイオントラップ空間の例に係る作用図である。
図8】シャワープレートの第3の構成例を示す縦断側面図である。
図9】区画壁に、電力が印加される導電部材が設けられたイオントラップ空間の例に係る作用図である。
図10】区画壁に、イオントラップ空間を連通させる連通路が設けられたシャワープレートの例に係る縦断側面図である。
図11】開口面積が広くなるプラズマ流出孔が設けられたシャワープレートの例に係る拡大縦断斜視図である。
図12】テーパー面によりイオントラップ面を構成したシャワープレートの縦断側面図である。
図13】シャワープレートのシミュレーションモデルである。
図14】シミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<成膜装置1>
初めに、本開示に係る「プラズマ処理を行う装置」の一実施形態である成膜装置1の全体構成例について、図1を参照しながら説明する。本例の成膜装置1は、プラズマ化した反応ガス(処理ガス)と、膜原料を含む原料ガスとをウエハに供給し、ウエハの表面に所望の物質の膜を成膜するように構成されている。ウエハに形成する膜に特段の限定はなく、絶縁膜を形成するための金属酸化膜や金属窒化膜であってもよいし、金属膜であってもよい。また、後述するように、この成膜装置1は、プラズマ化した反応ガスをウエハに供給するにあたり、活性種に含まれるイオンの影響を抑制することが可能な構成を備えている。
【0010】
この成膜装置1における成膜を行う手法としては、原料ガスとプラズマ化した反応ガスとを連続的に供給し、ウエハの表面に膜物質を堆積させるCVD法であってもよい。また、原料ガスの供給と排気、プラズマ化した反応ガスの供給と排気を交互に実施し、ウエハへの原料ガスの吸着と、反応ガスとの反応とを繰り返して、膜物質の薄膜を積層させるALD法であってもよい。
【0011】
本例の処理容器11は扁平な円筒状の金属により構成され、接地されている。処理容器11の側壁は、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口12と、この搬入出口12を開閉するゲートバルブ13と、を備え、搬入出口12よりも上部側には、平面視において円環状に構成された排気ダクト14が設けられている。排気ダクト14の内周面には、周方向に沿って伸びるスリット状の排気口141が形成されている。排気ダクト14の側壁面には開口部15が形成され、この開口部15には排気管16を介して、圧力調節機構や真空ポンプを含む排気機構17が接続されている。
【0012】
処理容器11内にはウエハWを水平に載置するための載置台21が設けられており、この載置台21には、ウエハWを加熱するためのヒーター211が内蔵されている。載置台21の下面側中央部には、処理容器11の底部を貫通し、上下方向に伸びる棒状の支持部材22の上端部が接続され、この支持部材22の下端部には駆動部231が接続されている。支持部材22及び駆動部231は載置台21の昇降機構23を構成している。この昇降機構23によって載置台21は、図1に示す上方側の処理位置と、この処理位置の下方側の位置との間を昇降移動することができる。下方側の位置は、搬入出口12から処理容器11内に進入するウエハWの搬送機構(不図示)との間で当該ウエハWの受け渡しを行うための受け渡し位置である。処理位置において、載置台21の上方側の空間は、ウエハWを処理するための処理空間10を構成している。
【0013】
また、載置台21の下方側には、昇降機構241によって昇降自在に構成された複数本の支持ピン24が配置されている。載置台21を受け渡し位置に位置させたとき、支持ピン24を昇降させると、載置台21に設けられた貫通孔20を介して支持ピン24が載置台21の上面から突没する。この動作により、載置台21と搬送機構との間でウエハWの受け渡しを行うことができる。
【0014】
円環状に構成された排気ダクト14の内側、即ち、載置台21の上方側には、処理ガスである反応ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成空間30と、その内部に、後述する複数のイオントラップ空間51が設けられたシャワープレート5と、が配置されている。これらプラズマ形成空間30及びシャワープレート5の詳細な構成については、図2以降にて説明するので、これらに各種のガスを供給するガス供給系25の構成例について先に説明しておく。
【0015】
<ガス供給系25>
本例のガス供給系25は、原料ガスを供給する原料ガス供給源26と、反応ガスを供給する反応ガス供給源27と、を備えている。原料ガスは、ウエハWに形成される膜の膜物質の原料となるプリカーサ(膜原料)を含むガスである。また、反応ガスは、プリカーサと反応して膜物質を得るためのガスである。
【0016】
膜物質として、金属、例えばチタンを含む膜を形成する場合には、四塩化チタン(TiCl)を含む原料ガスを例示することができる。反応ガスとしては、酸化膜を形成する場合の酸素(O)ガスやオゾン(O)ガス、窒化膜を形成する場合のアンモニア(NH)ガス、プリカーサを還元して金属膜を形成する場合の還元ガスである水素(H)ガスなどを例示することができる。反応ガスに対しては、反応ガスのプラズマ化を補助するために、アルゴン(Ar)ガスなどの補助ガスを添加してもよい。パージガスとしては、窒素(N)ガスやArガス、ヘリウム(He)ガス、クリプトン(Kr)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の不活性ガスや、プラズマ化されていない処理ガスを例示できる。
【0017】
原料ガス供給源26には、原料ガス供給ライン261の一端が接続され、この原料ガス供給ライン261には、上流側から順に、流量調節部262及びバルブV1が介設されている。また、反応ガス供給源27には反応ガス供給ライン271の一端が接続され、この反応ガス供給ライン271には、上流側から順に、流量調節部272及びバルブV2が介設されている。さらに、ALDにより成膜を行う場合には、短時間に十分な量の原料ガスや反応ガスを供給するため、バルブV1、V2の上流側に、各ガスの貯留タンク263、273を設けてもよい。
なお、ガス供給系25の構成は、この例に限定されるものではなく、例えば各ガス供給ライン261、271に対し、処理容器11からの原料ガスや反応ガスの排出を促進するパージガスを供給するためのパージガス供給ラインを合流させてもよい。
【0018】
<プラズマ形成空間30>
以下、図2図6も参照しながら、プラズマ形成空間30、シャワープレート5の構成について説明する。なお、図1は、成膜装置1の全体構成を説明するための図面であるため、シャワープレート5の構成については、簡略化して表示してある。
先ず、プラズマ形成空間30内の構成例について説明する。プラズマ形成空間30は、反応ガスをプラズマ化するためのプラズマ形成機構を構成するものである。この例のプラズマ形成空間30は、誘電体部材により構成された円環状の側壁部18を挟んで、互いに上下に対向するように配置された反応ガス供給用のシャワーヘッド3とシャワープレート5との間に形成されている。
【0019】
この例において、シャワーヘッド3は、図1及び図2に示すように、処理容器11の天井部に配置され、例えばウエハWよりも直径が大きい平面視円形状に構成されている。シャワーヘッド3の内部にはガスの拡散空間31が形成され、シャワーヘッド3の下面には、その構成部材を厚さ方向に貫通し、拡散空間31に連通する複数の吐出孔32が分散して形成されている。
【0020】
このシャワーヘッド3は金属により構成され、その下面は容量結合プラズマ(CCP)を生成するための上部電極として機能する。この観点で、シャワーヘッド3は、本実施の形態の電極板に相当している。一方、図2に示すようにシャワープレート5の構成部材は接地されている。
【0021】
図2に示すように、シャワーヘッド3は、整合器33を介して交流の高周波電源部34に接続され、高周波電力が供給されるように構成されている。高周波電源部34の周波数は13.56MHzや2.45GHzを例示できる。この際、高周波電力にDCを重畳するように構成してもよい。また、交流の高周波電源部34の代わりに、直流の電源を用い、PWM(Pulse Width Modulation)によりDCパルスを印加する構成であってもよい。なお、上述の例に替えて、シャワーヘッド3を接地し、シャワープレート5に高周波電源部34を接続する構成も排除されるものではない。
【0022】
プラズマ形成空間30に対しては、シャワーヘッド3を介して反応ガス供給ライン271より反応ガスが供給される。この観点で、反応ガス供給ライン271及びその上流側に接続された反応ガス供給源27、流量調節部272などは、本例の処理ガス供給部を構成している。
【0023】
<シャワープレート5>
次に、シャワープレート5の構成例について、図2図6を参照して説明する。なお、図2はシャワープレート5について、上下方向(Z方向)に拡大して描いている。このシャワープレート5は、プラズマ形成空間30と処理空間10との間に設けられ、載置台21に載置されるウエハWと対向するように配置されている。
【0024】
例えばシャワープレート5は、ウエハWよりも直径が大きい円板状に形成され、その周縁領域が既述の側壁部18の下面側に配置されている。本例のシャワープレート5の下面周縁は排気ダクト14にて支持されており、側壁部18は、排気ダクト14の上面と処理容器11の天井部19とを接続するように設けられている。こうして、成膜装置1の内部は、シャワープレート5によって上下に区画され、シャワープレート5の上方がプラズマ形成空間30、下方が処理空間10として構成される。以下、プラズマ形成空間30に向けて配置されたシャワープレート5の上面を第1の面50a、処理空間10に向けて配置されたシャワープレート5の下面を第2の面50bとも呼ぶ。
【0025】
シャワープレート5の内部には、複数のイオントラップ空間51が設けられている。これらイオントラップ空間51は、第1の面50aと第2の面50bとの間に設けられた区画壁512によって互いに区画されている。各イオントラップ空間51は、第1の面50aに複数、設けられたプラズマ流入孔501に連通し、プラズマ形成空間30にて形成された反応ガスのプラズマは、これらのプラズマ流入孔501を介してイオントラップ空間51に流れ込む。また、イオントラップ空間51は、第2の面50bに複数、設けられたプラズマ流出孔502に連通し、イオントラップ空間51に流れ込んだ反応ガスのプラズマは、これらのプラズマ流出孔502を介して処理空間10へ向けて流出する。
【0026】
このように、プラズマ形成空間30内にてプラズマ化された反応ガスは、シャワープレート5に形成された複数のイオントラップ空間51内を流れた後、処理空間10へと供給される。この観点で本例の成膜装置1は、リモート式のプラズマ処理装置を構成している。
【0027】
ここで、反応ガスをプラズマ化することにより得られた反応性の高い活性種には、イオンやラジカル、中性粒子が含まれている。イオンのうち、高いエネルギーを持つイオンは、ウエハに成膜される膜や下地に対して、電気的ダメージや、高速に移動して衝突することによる物理的ダメージを発生させるおそれがある。さらに、高いエネルギーを持つイオンにより膜原料が過剰解離し、成膜制御が困難になる懸念もある。このため、プラズマ化した反応ガスに含まれる、高いエネルギーを持つイオンの影響を抑制し、成膜に適したエネルギーを有するイオンやラジカル、中性粒子をウエハWに供給して処理を行うことが好ましい。
【0028】
<イオントラップ空間51>
そこで、本例では各イオントラップ空間51に、プラズマに含まれるイオンを衝突させてトラップするためのイオントラップ面511を設け、活性種に含まれるイオンの含有量を低減する。一方、イオントラップ空間51は、プラズマ中のラジカルや中性粒子を選択的に通過させてウエハWに供給する構成となっている。
【0029】
図2図7に示すように、本例のイオントラップ空間51においては、プラズマ流出孔502の開口面積は、当該プラズマ流出孔502が設けられているイオントラップ空間51の横断面積よりも小さく設定されている。そして、この設定を実現するにあたり、プラズマ流出孔502を形成する、シャワープレート5の下部側領域の構成部材は、イオントラップ空間51を区画する区画壁512の内壁面よりも、イオントラップ空間51の内側へ突出した構成部を備えている。そして、区画壁512の内壁面よりも内側へ突出した構成部(以下、「突出部513」ともいう)の上面は、プラズマ流入孔501の出口側の開口と対向する位置に配置されている。この構成において、突出部513の上面は、本例のイオントラップ面511に相当している。
【0030】
シャワープレート5内における、複数のイオントラップ空間51の構成、配置については、種々のものを例示できる。
例えば図3図4の一部破断斜視図に示すシャワープレート5Aでは、各イオントラップ空間51を筒状に構成している。そして、これら筒状の複数のイオントラップ空間51を、シャワープレート5Aの面内にマトリックス状に並べて配置している。なお、本開示においては、図3図4や後述の図11中に示すように、上下方向の高さ寸法よりも、直径が大きい、扁平な円盤形状のイオントラップ空間51についても「筒状」の概念に含む。
【0031】
ここで図3は、第1の面50a側からシャワープレート5Aを見た状態を示しており、図4は、第2の面50b側からシャワープレート5を見た状態を示している。各イオントラップ空間51に対応して設けられたプラズマ流入孔501は、筒状のイオントラップ空間51の横断面形状に沿って環状に並べて設けられている。そして、これら環状に並べられたプラズマ流入孔501の組が、マトリックス状に並べて配置されている(図3)。
【0032】
このプラズマ流入孔501の配置に対応させて、イオントラップ面511についても筒状の区画壁512の内壁面に沿った小環状に構成されている。プラズマ流出孔502は、当該環状のイオントラップ面511の内側に設けられた小孔状の流路として構成されている(図4)。なお、これらの図においては、後述する拡散空間62や原料ガス供給孔61の記載は省略してある。
【0033】
一方、図5図6の一部破断斜視図に示すシャワープレート5Bでは、各イオントラップ空間51を、当該シャワープレート5Bの周方向に沿って環状に構成している。そして、これら環状の複数のイオントラップ空間51を、シャワープレート5Bの面内に同心状に並べて配置している。
【0034】
これらの図において、図5は、第1の面50a側からシャワープレート5Bを見た状態を示しており、図6は、第2の面50b側からシャワープレート5Bを見た状態を示している。各イオントラップ空間51に対応して設けられたプラズマ流入孔501は、環状のイオントラップ空間51の平面形状に沿って環状に並べて設けられている。そして、これら環状に並べられたプラズマ流入孔501の組が、同心状に並べて配置されている(図5)。
【0035】
このプラズマ流入孔501の配置に対応させて、イオントラップ面511についても環状の区画壁512の内周側、外周側の両内壁面に沿って環状に構成されている。即ち、シャワープレート5Bのイオントラップ空間51において、環状のイオントラップ面511は、2つずつ配置されている。プラズマ流出孔502は、これら2つの環状のイオントラップ面511に挟まれるように、環状のスリット流路として構成されている(図6)。なお、これらの図においても、後述する拡散空間62や原料ガス供給孔61の記載は省略してある点は、図3図4の場合と同様である。
【0036】
<原料ガス供給孔61>
さらに、シャワープレート5には、プラズマ化した反応ガスの供給を行うための既述のイオントラップ空間51に加え、処理空間10に向けて原料ガスを供給するための複数の原料ガス供給孔61が形成されている。図1図2図7に示す例では、イオントラップ空間51の下部において、プラズマ流出孔502とは異なる領域に、原料ガスの拡散空間62と、この拡散空間62に連通する原料ガス供給孔61とが設けられている。
【0037】
既述のように図示は省略してあるが、例えば複数の原料ガスの拡散空間62は、図3図4に示したイオントラップ空間51と同様に、筒状(既述のように「円盤形状」の場合を含む)に形成してマトリックス状に配列してもよい。また、拡散空間62は、図4図5に示したイオントラップ空間51と同様に、環状に形成して同心状に配置してもよい。
【0038】
複数の拡散空間62同士は不図示のガス流路により互いに接続されている。そして、既述のプラズマ流出孔502は、複数の拡散空間62同士の間を貫くように形成されている。また、各拡散空間62の下部には原料ガス供給孔61が形成されている。既述のように、イオンがトラップされた後の反応ガスが流れるプラズマ流出孔502はマトリックス状や同心状に並べられている。このとき、原料ガス供給孔61は、これらプラズマ流出孔502の間に位置するように、小孔状又はスリット状に形成される。
【0039】
また、図2に示すように、シャワープレート5の周縁部側に形成された拡散空間621には、原料ガス供給路64の下流端が接続されている。この原料ガス供給路64は、例えば図2に示すように、側壁部18内を上下に延在し、処理容器11の天井部19に開口するように形成されている。原料ガス供給路64の上流側はガス供給系25の原料ガス供給ライン261に接続されている。こうして、原料ガス供給ライン261から原料ガス供給路64に供給された原料ガスは、接続用の拡散空間を介して各拡散空間62に供給され、原料ガス供給孔61から処理空間10に向けて吐出される。
【0040】
以上に説明した構成を備えるシャワープレート5は、単体部材により構成してもよいし、複数の部材を組み合わせて構成してもよい。シャワープレート5は、例えばステンレス、アルミニウム等の金属や、石英、セラミックス、樹脂などの誘電体により構成される。特に既述のようにシャワーヘッド3とシャワープレート5との間に容量結合プラズマを形成する場合には、例えば第1の面50aを構成する部材は、金属により構成される。第1の面50aを構成する金属製のシャワープレート5の構成部材の表面は、導電体膜や誘電体膜で覆われていてもよい。
【0041】
図1の説明に戻ると、成膜装置1は制御部100を備えている。制御部100は、プログラムを記憶した記憶部、メモリ、CPUを含むコンピュータにより構成される。プログラムは、制御部100から成膜装置1の各部に向けて制御信号を出力し、ウエハWの搬入出や成膜処理を実行するための命令(ステップ)が組まれている。このようなプログラムは、コンピュータの記憶部、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)、不揮発性メモリなどに格納され、この記憶部から読み出されて制御部100にインストールされる。
【0042】
<成膜処理>
次いで、以上に説明した構成を備える成膜装置1を用い、プラズマ処理として、ウエハWへの成膜処理を実施する動作について説明する。
外部の真空搬送室に処理対象のウエハWが搬送されてきたら、ゲートバルブ13を開き、搬入出口12を介して、ウエハWを保持した搬送機構(不図示)を処理容器11内に進入させる。そして、下方位置にて待機している載置台21に対し、支持ピン24を用いてウエハWの受け渡しを行う。
【0043】
しかる後、処理容器11から搬送機構を退出させ、ゲートバルブ13を閉じると共に、処理容器11内の圧力調節、ウエハWの温度調節を行う。次いで、プラズマ形成空間30へ向けて反応ガスの供給を行う(処理ガスを供給する工程)と共に、高周波電源部34からシャワーヘッド3に高周波電力を印加する。
シャワーヘッド3への高周波電力の印加によって、シャワーヘッド3とシャワープレート5との間に容量結合プラズマを形成し、プラズマ形成空間30に供給された反応ガスがプラズマ化される(処理ガスをプラズマ化する工程)。なお、既述のようにプラズマ化する反応ガスにはArガスなどの補助ガスを同時に供給してもよい。
【0044】
<イオントラップ空間51の作用>
プラズマ形成空間30にてプラズマ化された反応ガスは、プラズマ流入孔501を介してイオントラップ空間51内に流れ込む(イオントラップ空間に流入させる工程)。このとき、図7に示すように、プラズマ流入孔501の出口側の開口と対向する位置には、イオントラップ空間51が配置されている。イオントラップ空間51内に進入した反応ガスのプラズマは、プラズマ流入孔501からの吐出方向に沿ってイオントラップ面511へ向かって流れた後、イオントラップ面511に案内されて流れ方向を変え、プラズマ流出孔502に流れ込む。
【0045】
この反応ガスのプラズマには、イオンIやラジカルなどの活性種や中性粒子が含まれる。一方、プラズマ流入孔501の側壁518の表面近傍には、プラズマのバルク流れの領域よりも電位の低いシース領域が形成される。このため、正電荷を有するイオンIの一部は、側壁518の表面近傍のシース領域に引き寄せられ、側壁518の表面にトラップされる。その後、直行性あるイオンIはイオントラップ面511に衝突しイオントラップ面511の表面にトラップされる(イオンをトラップする工程)。
【0046】
上述の作用により、反応ガスのプラズマに含まれる、高いエネルギーを持つイオンIが効率的にトラップされる。この結果、イオンの含有量が少なく、ラジカルの含有量が多いリモートプラズマを、プラズマ流出孔502を介して載置台21上のウエハWに対して供給することができる(処理空間に流入させる工程)。
【0047】
ここで、本例のシャワープレート5において、複数のイオントラップ空間51は区画壁512によって互いに区画されている。言い換えると、シャワープレート5は、プラズマ形成空間30に向けて配置された第1の面50aを構成する部材と、処理空間10に向けて配置された第2の面50bを構成する部材とが、複数の区画壁512によって接続された構成となっている。
【0048】
一方、プラズマ形成空間30に向けて配置された第1の面50aには、プラズマから熱が入射する。ここで、背景技術にて説明した、特許文献1に記載の技術のように、多孔板状のシャワープレートの直下に多孔板状のイオントラップを配置する従来の構成の成膜装置にて、プラズマからシャワープレートに熱が入射する場合を考える。従来構成の場合には、シャワープレートがプラズマから受け取った熱の伝熱先は、他の部材と接触するシャワープレートの周縁部のみとなってしまう。このため、シャワープレート全体が均一に冷却されにくく、例えば中央部と周縁部とで温度差の大きな領域が形成されてしまうおそれがある。
【0049】
シャワープレート面内で大きな温度差が形成されると、プラズマ形成空間30における反応ガスのプラズマ化の状態についても面内で大幅に不均衡となり、活性種濃度などの濃度差が形成されるおそれがある。この結果、シャワープレートに対向して配置されたウエハWに対しても、例えば中央部側と周縁部側とで活性種の濃度分布の差が大きなプラズマが供給され、面内均一性の高い成膜処理を行ううえでの阻害要因となってしまうおそれもある。
【0050】
この点、既述のように、本実施の形態のシャワープレート5は、第1の面50aを構成する部材と、第2の面50bを構成する部材とが、複数の区画壁512によって接続されている。これは、従来構成における、多孔板状のシャワープレートと、その直下に配置された多孔板状のイオントラップとが、複数の区画壁512によって接続された構成に対応している。このため、複数の区画壁512が伝熱路となって、プラズマからの熱入射がある第1の面50a側の構成部材から、プラズマからの熱入射の無い第2の面50b側の構成部材を介しても、熱を逃がすことができる。この結果、第1の面50aの面内で、活性種濃度の分布がより均一なプラズマを形成することが可能となり、面内均一性の高い成膜を行うことができる。
【0051】
また、区画壁512によって区画された複数のイオントラップ空間51を設けることにより、各イオントラップ空間51の形状(筒状、環状、多面形状など)や、複数のイオントラップ空間51の配置(マトリックス状の配置や同心状の配置)を種々設定することができる(図3図4図5図6を参照)。また、各イオントラップ空間51においても、イオントラップ空間51の高さ、幅、配置角度、イオントラップ空間51の横断面積とプラズマ流出孔502の開口面積との比、イオントラップ面511の幅や面積、イオントラップ面511をテーパー面により構成するなど、多くの設計変数を設定することが可能である。これらの設計変数を最適化することによって、より効率的にイオンIをトラップする構成を探索する最適設計も容易となる。
【0052】
ここで、図3図7を用いて例示したイオントラップ空間51のように、各イオントラップ空間51について、第1の面50a側に複数のプラズマ流入孔501を設け、第2の面50b側に1つのプラズマ流出孔502を設ける構成は、必須ではない。例えば図8に示すシャワープレート5Cでは、各イオントラップ空間51の下面側には底板部517が設けられている。そして、第1の面50a側には、底板部517の上面の中央領域と対向するように1つのプラズマ流入孔501が設けられている。一方、当該中央領域を囲む底板部517の周縁部には、複数のプラズマ流出孔502が設けられている。この構成の場合、プラズマ流入孔501の出口と対向する、底板部517の上面の中央領域がイオントラップ面511を構成する。
【0053】
以上に説明した成膜処理において、CVD法により成膜を行う場合は、イオントラップ空間51にてイオンIがトラップされた後のプラズマ化した反応ガスの供給と、原料ガス供給孔61を介した原料ガスの供給とを並行して実施してもよい。
また、ALD法により成膜を行う場合には、例えば「原料ガス供給孔61を介した原料ガスの供給(ウエハWへのプリカーサの吸着)→イオントラップ空間51及び原料ガス供給孔61を介したパージガスの供給→イオントラップ空間51を介したプラズマ化した反応ガスの供給(ウエハWに吸着したプリカーサとの反応)→イオントラップ空間51及び原料ガス供給孔61を介したパージガスの供給」のサイクルが、所定回数繰り返される。
【0054】
予め設定された期間、CVD法またはALD法による成膜を行ったら、反応ガス、原料ガスの供給、及びシャワーヘッド3への高周波電力の供給を停止する。しかる後、搬入時とは反対の手順にて、成膜が行われたウエハWを処理容器11から搬出する。
【0055】
<効果>
本実施形態に係る成膜装置1によれば以下の効果がある。プラズマ化した反応ガスを、複数のイオントラップ空間51に流入させ、イオントラップ面511にてイオンIをトラップした後、プラズマ流出孔502を介して処理空間10へと供給する。このため、ラジカルの濃度を高めた反応ガスをウエハWに供給して成膜処理を行うことができる。
【0056】
<第2の実施形態>
図9は、イオントラップ面511に加えて、区画壁512の内壁面においてもイオンIをトラップすることが可能に構成された第2の実施形態を示している。なお、図9図13において、図1図7を用いて説明したものと共通の構成要素には、これらの図に付したものと共通の符号を付してある。
【0057】
図9に示すように、第2の実施形態に係るシャワープレート5Dにおいて、区画壁512は、金属により構成された第1の面50a、第2の面50bの構成部材と各々、接するように絶縁部材515の層を配置している。そして、これら絶縁部材515の間に挟まれるように導電部材514の層を設け、当該導電部材514に対し、電源部52を接続した構成となっている。ここで電源部52は、直流電源により構成し、導電部材514に対して例えば負極を接続してもよい。但し、導電部材514に直流電源の負極を接続することは必須の要件ではない。例えば、導電部材514に対して直流電源の正極を接続してもよいし、電源部52を、交流電源により構成してもよい。
【0058】
上述の構成を備えたシャワープレート5Dにおいて、電源部52から導電部材514に電力を印加すると、導電部材514によって構成された区画壁512の内壁面の電位が変化する。この結果、既述のイオントラップ面511に加え、導電部材514に対してもイオンIを電気的に引き寄せ、導電部材514の内壁面にトラップすることができる。
【0059】
<第3の実施形態>
次いで図10に示す第3の実施形態に係るシャワープレート5Eは、隣り合って配置されたイオントラップ空間51を区画する区画壁512に対し、これらイオントラップ空間51同士を連通させるための連通路516が設けられている。連通路516を設けることにより隣り合うイオントラップ空間51間の圧力差が小さくなり、各プラズマ流出孔502からより均一にプラズマ化した反応ガスを供給することができる。また、イオントラップ空間51内のガス置換性が向上し、より短い時間でパージを行うことができるという効果もある。
【0060】
<第4の実施形態>
また、図11に示す第4の実施形態に係るシャワープレート5Fにおいては、各プラズマ流出孔502の開口面積が、イオントラップ空間51側から処理空間10側へ向けて次第に広くなるように構成されている。プラズマ流出孔502の開口面積を次第に広げることにより、ウエハWの面内の広い領域に亘って、より均一にプラズマ化した反応ガスを供給することができる。
【0061】
また図12に示すように、イオントラップ面511は、区画壁512側からプラズマ流出孔502側へ向けて、その高さ位置が次第に低くなるように形成されたテーパー面によって構成してもよい。また、テーパー面によってイオントラップ面511を構成する手法は、図3図10を用いて説明した他の実施形態に係るシャワープレート5、5A~5Eに設けられたイオントラップ空間51に適用してもよい。
【0062】
ここで、上述の各実施の形態に係る成膜装置1に設けるプラズマ形成機構は、平行平板型の構成に限定されるものではなく、マイクロ波によりプラズマを発生させてもよい。また、アンテナの周囲に形成された高周波の変動磁場により渦電流を発生させて処理ガスをプラズマ化するICP(Inductively Coupled Plasma)を利用してもよい。さらに、SWP(Surface-Wave Plasma)、DPP(Discharge Produced Plasma)、HCP(Hollow Cathode Plasma)等によりプラズマを発生させてもよい。
【0063】
さらに、図1において実施される成膜処理では、シャワープレート5の原料ガス供給孔61から供給される原料ガスとしては、既述のTiClガス以外に、SiHガスやSiを含むガス、NHガスやNを含むガス、金属材料系ガスなどを例示することができる。また、原料ガス供給孔61をシャワープレート5に設ける構成には限らず、シャワープレート5とは独立して設けられた原料ガス供給孔から処理空間10に原料ガスを供給するようにしてもよい。例えば原料ガスノズルを処理空間10内に挿入するように設け、この原料ガスノズルに形成された原料ガス供給孔を介して原料ガスを供給する構成であってもよい。
【0064】
また、本開示は成膜処理には限定されず、ウエハWに形成された膜のエッチングを行うエッチング処理装置や、プラズマ化された改質ガスにより、ウエハW上の物質の改質を行う改質処理を行う改質装置に適用してもよい。
例えばエッチング処理について、図1に示す装置をエッチング装置に適用し、ウエハW表面に形成されたガリウムヒ素膜(GaAs膜)に対して原子層エッチング(Atomic Layer Etching)処理を行う場合を例にして説明する。このエッチングでは、処理空間10に、シャワープレート5の原料ガス供給孔61を介してエッチャントガスを供給し、載置台21上のウエハ表面に形成されたGaAs膜に吸着させる。エッチャントガスとしては、塩素(Cl)ガス、塩化水素(HCl)ガスなどの腐食性ガスを用いることができる。
【0065】
次いで、プラズマ形成空間30にて、不活性ガス例えばArガスをプラズマ化し、シャワープレート5の各イオントラップ空間51を介して処理空間10に供給する。この例では、プラズマ形成空間30にてプラズマ化されるArガスが処理ガスに相当する。この際、イオントラップ空間51に設けられたイオントラップ面511にて、Arガスから高いエネルギーのイオンを除去し、低いエネルギーのイオンまたはラジカルを処理空間10に供給する。Arガスの活性種に含まれるラジカルまたは低いエネルギーイオンは、ウエハ表面のGaAs膜に吸着したエッチャントガスに衝突し、電気エネルギーを与えて、エッチャントガスとエッチング対象の原子層との化学反応を誘発する。これによりエッチャントガスとGaAs膜の原子層、不活性ガスがウエハ表面から除去される。
【0066】
エッチャントガスの吸着と、プラズマ化されたArガスの供給との間には、処理空間10にパージガスを導入して排気が行われる。これらの工程を繰り返して、予め設定された量のエッチングが行われる。
プラズマ化されたArガスには、様々なエネルギーのイオンが含まれているが、原子層エッチングでは、原子層1層単位でエッチングを行うため、低いエネルギーのイオンやラジカルを用いることが求められる。上述の例では、Arガスについては、例えば20eV以下のエネルギーのイオンとラジカルをウエハWに供給することが好ましい。
【0067】
このように低いエネルギーのイオンやラジカルを用いてエッチング処理を行うので、ウエハWや堆積した膜に欠陥を与えずにGaAs膜の原子層1層をエッチングすることができる。従って、原子層エッチングにおいても、イオントラップ空間51にて、プラズマ化された処理ガスから高いエネルギーのイオンを除去できる構成は有効である。
また、図1に示す装置を用いて、原子層エッチングと成膜処理とを、ガスを切り替えて実施し、エッチングと成膜処理を連続して実施するようにしてもよい。
【0068】
さらにまた、原子層エッチングを実施するときに、シャワープレート5の原料ガス供給孔61から供給されるエッチャントガスとしては、既述のClガス、HClガス以外に、CHFガス、CHFガス、Hガス、BClガス、SiClガス、Brガス、HBrガス、NFガス、CFガス、SFガス、Oガス、SOガスやCOSガスなどを例示することができる。
【0069】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上述の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【実施例0070】
(シミュレーション)
プラズマ流入孔501、イオントラップ空間51、プラズマ流出孔502の設計を種々変化させて、これらの領域におけるラジカルの濃度分布を流体シミュレータにより特定の条件下(圧力、温度、流量など)でシミュレーションし、ラジカル失活量の少ない構成例を探索した。
A.シミュレーション条件
図3図4を用いて説明した構成のプラズマ流入孔501、イオントラップ空間51、プラズマ流出孔502に対応するシミュレーションモデルを作成した(図13)。プラズマ流入孔501の直径はd1=2mm、設置数は10、プラズマ流出孔502の直径はd2=6mmとした。また、イオントラップ空間51の上面側の部材の厚さはt1=2mm、下面側の部材の厚さはt2=6mmとした。そして、イオントラップ空間51の直径d3を種々変化させて設定した条件下において、以下の考え方に基づきイオントラップ空間51の高さt3を決定した。図13中には、プラズマ流入孔501の外周縁の位置から入射したイオンIの軌跡を太線の矢印IDで示してある。この条件下で、プラズマ流入孔501の外周縁の位置から、矢印ID以上の入射角で入射したイオンIが、イオントラップ面511の表面や区画壁512の内壁面にトラップされる条件が形成されるようにイオントラップ空間51の高さt3を求めた。この場合、イオントラップ面511に対し、矢印IDよりも小さな入射角を持ったイオンIは、プラズマ流入孔501を構成する、イオントラップ空間51の上面側の部材の側面にトラップされることになる。本例のシミュレーション条件として、圧力は133Pa、温度は200℃、プラズマ流出孔502から流入する処理ガスの流量は4sccmに設定した。処理ガスは、水素ガスとし、プラズマ形成空間30における水素ラジカルの質量分率を0.001%とした。
【0071】
(実施例1)イオントラップ空間51の直径をd3=10.4mmに設定した。イオントラップ空間51の高さはt3=0.2mmとなった。
(実施例2)イオントラップ空間51の直径をd3=12mmに設定した。イオントラップ空間51の高さはt3=1mmとなった。
(実施例3)イオントラップ空間51の直径をd3=16mmに設定した。イオントラップ空間51の高さはt3=3mmとなった。
(実施例4)イオントラップ空間51の直径をd3=20mmに設定した。イオントラップ空間51の高さはt3=5mmとなった。
【0072】
B.シミュレーション結果
図14は、各実施例におけるイオントラップ空間51の高さt3に対し、プラズマ流出孔502の出口位置における水素ラジカルの残余率をプロットした図である。既述のように、これらの実施例では、プラズマ流入孔501、プラズマ流出孔502の直径の直径d1、d2などを固定した条件下で、直径d3の設計値を変化させている。そして、既述の手法に基づき、各直径d3の条件下における好適なイオントラップ空間51の高さt3を導きだしている。
【0073】
図14によれば、上述の条件下でイオントラップ空間51の直径d3を変化させたとき、水素ラジカルの残余率が最大となるイオントラップ空間51の高さt3が存在することが分かる。例えばラジカルの残余率が40%以上となる、イオントラップ空間51の高さt3は、0.1mm以上、3.1mm以下の範囲を好適範囲として例示することができる。上述の範囲において、イオントラップ空間51の高さt3の下限値(0.1mm)は、部材の加工制約である。
【符号の説明】
【0074】
1 成膜装置
21 載置台
30 プラズマ形成空間
5、5A~5G
シャワープレート
51 イオントラップ空間
511 イオントラップ面
512 区画壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14