(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112208
(43)【公開日】2024-08-20
(54)【発明の名称】イソブテンの生成方法、イソブテン生成用触媒、及びイソブテン生成システム
(51)【国際特許分類】
C07C 5/27 20060101AFI20240813BHJP
C07C 11/09 20060101ALI20240813BHJP
B01J 23/04 20060101ALI20240813BHJP
B01J 29/08 20060101ALI20240813BHJP
B01J 29/40 20060101ALI20240813BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20240813BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240813BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240813BHJP
C07B 35/08 20060101ALN20240813BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
C07C5/27
C07C11/09
B01J23/04 Z
B01J29/08 Z
B01J29/40 Z
C25B3/03
C25B3/26
C25B9/00 G
C07B35/08
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017127
(22)【出願日】2023-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂広
(72)【発明者】
【氏名】及川 博
(72)【発明者】
【氏名】志村 勝也
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 忠博
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BC01A
4G169BC02B
4G169BC08A
4G169BC10B
4G169CB41
4G169DA06
4G169EC22Y
4G169ZA04B
4G169ZA11B
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC21
4H006AC27
4H006AC41
4H006AD18
4H006BA02
4H006BA06
4H006BA08
4H006BA09
4H006BA10
4H006BA30
4H006BA33
4H006BA69
4H006BA71
4H006BC10
4H006BD33
4H006DA12
4H006DA15
4H039CJ10
4K021AC02
4K021DC11
(57)【要約】
【課題】ノルマルブテンをイソブテンに異性化する方法において、副生成物の生成を限りなく抑制することができ、高いイソブテンの収率が得られる、イソブテンの生成方法を提供すること。
【解決手段】ノルマルブテンをイソブテンに異性化する異性化工程を含む、イソブテンの生成方法であって、異性化工程において、ノルマルブテンは塩基性触媒に接触される、イソブテンの生成方法。異性化工程における反応温度は、25~249℃の範囲内であることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルマルブテンをイソブテンに異性化する異性化工程を含む、イソブテンの生成方法であって、
前記異性化工程において、前記ノルマルブテンは塩基性触媒に接触される、イソブテンの生成方法。
【請求項2】
前記異性化工程における反応温度は、25~249℃の範囲内である、請求項1に記載のイソブテンの生成方法。
【請求項3】
前記塩基性触媒は、固体塩基触媒、又は固体塩基触媒若しくは固体酸触媒に塩基性金属が担持された触媒のうち何れかであり、
前記固体酸触媒は、ゼオライトであり、前記固体塩基触媒は、アルミナである、請求項1又は2に記載のイソブテンの生成方法。
【請求項4】
前記塩基性金属は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも何れかである、請求項3に記載のイソブテンの生成方法。
【請求項5】
ノルマルブテンを異性化してイソブテンを生成する異性化反応を促進させるイソブテン生成用触媒であって、
固体塩基触媒、又は固体塩基触媒若しくは固体酸触媒に塩基性金属が担持された触媒のうち何れかである、イソブテン生成用触媒。
【請求項6】
前記固体酸触媒は、ゼオライトであり、前記固体塩基触媒は、アルミナである、請求項5に記載のイソブテン生成用触媒。
【請求項7】
前記塩基性金属は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも何れかである、請求項5又は6に記載のイソブテン生成用触媒。
【請求項8】
二酸化炭素を電解することでエチレンを生成する電解装置と、
前記エチレンを二量化することでノルマルブテンを生成する二量化装置と、
前記ノルマルブテンを異性化することでイソブテンを生成する異性化装置と、を含み、
前記異性化装置は、前記ノルマルブテンが接触する触媒を含み、
前記触媒は、塩基性触媒である、イソブテン生成システム。
【請求項9】
加水反応装置を更に含み、
前記加水反応装置は、前記異性化装置から生成される前記ノルマルブテン、及び前記イソブテンを含む混合物から、前記ノルマルブテンを分離し、
前記加水反応装置により分離された前記ノルマルブテンは、前記異性化装置に返送される、請求項8に記載のイソブテン生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソブテンの生成方法、イソブテン生成用触媒、及びイソブテン生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気候変動の緩和又は影響軽減を目的とした取り組みが継続され、この実現に向けて二酸化炭素の排出量低減に関する研究開発が行われている。例えば、排ガスや大気中の二酸化炭素を回収し、電気化学的に還元して有価物を得る技術が知られている。上記技術は、カーボンニュートラルを達成する可能性のある有望な技術である。
【0003】
二酸化炭素を電気化学的に還元することで、エチレンが生成する。エチレンを多量化触媒の存在下で多量化反応させることで、1-ブテン等のオレフィンが生成する。ところで、1-ブテンを含むノルマルブテンの構造異性体であるイソブテンは工業的に重要な炭化水素であり、合成中間体として様々な用途がある。例えば、イソブテンをメタノールやエタノールと付加反応させることで、ガソリンの添加剤として用いられるMTBEやETBEが得られる。また、イソブテンを二量化及びアルキル化することで、ガソリンに添加されるイソオクタンが得られる。従って、ノルマルブテンをイソブテンに異性化する異性化反応を促進させる触媒に関する技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Catalysis 167, 273-278(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には、FER型等のゼオライト触媒の存在下でノルマルブテンをイソブテンに異性化することで、イソブテンの高い収率が得られる結果が示されている。一方で、非特許文献1に開示された異性化反応では、炭素数3や炭素数5の副生成物がかなりの割合で生成している。従って、異性化反応後に未反応のノルマルブテンを分離回収することが困難であった。また、仮に未反応のノルマルブテンを分離回収することができたとしても、副生成物が生成するため、イソブテンの収率を所定以上の収率にすることができなかった。以上より、ノルマルブテンをイソブテンに異性化する方法において、イソブテンの収率を更に向上させる技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ノルマルブテンをイソブテンに異性化する方法において、副生成物の生成を限りなく抑制することができ、高いイソブテンの収率が得られる、イソブテンの生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、ノルマルブテンをイソブテンに異性化する異性化工程を含む、イソブテンの生成方法であって、前記異性化工程において、前記ノルマルブテンは塩基性触媒に接触される、イソブテンの生成方法に関する。
【0008】
(1)の発明によれば、副生成物の生成を限りなく抑制することができ、高いイソブテンの収率が得られる、イソブテンの生成方法を提供できる。
【0009】
(2) 前記異性化工程における反応温度は、25~249℃の範囲内である、(1)に記載のイソブテンの生成方法。
【0010】
(2)の発明によれば、より高いイソブテンの収率が得られると共に、異性化工程のコストを低減できる。
【0011】
(3) 前記塩基性触媒は、固体塩基触媒、又は固体塩基触媒若しくは固体酸触媒に塩基性金属が担持された触媒のうち何れかであり、前記固体酸触媒は、ゼオライトであり、前記固体塩基触媒は、アルミナである、(1)又は(2)に記載のイソブテンの生成方法。
【0012】
(3)の発明によれば、副生成物の生成を限りなく抑制することができ、より高いイソブテンの収率が得られる、イソブテンの生成方法を提供できる。
【0013】
(4) 前記塩基性金属は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも何れかである、(3)に記載のイソブテンの生成方法。
【0014】
(4)の発明によれば、より高いイソブテンの収率が得られる、イソブテンの生成方法を提供できる。
【0015】
(5) また、本発明は、ノルマルブテンを異性化してイソブテンを生成する異性化反応を促進させるイソブテン生成用触媒であって、固体塩基触媒、又は固体塩基触媒若しくは固体酸触媒に塩基性金属が担持された触媒のうち何れかである、イソブテン生成用触媒に関する。
【0016】
(5)の発明によれば、副生成物の生成を限りなく抑制することができ、高いイソブテンの収率が得られる、イソブテン生成用触媒を提供できる。
【0017】
(6) 前記固体酸触媒は、ゼオライトであり、前記固体塩基触媒は、アルミナである、(5)に記載のイソブテン生成用触媒。
【0018】
(6)の発明によれば、より高いイソブテンの収率が得られる、イソブテン生成用触媒を提供できる。
【0019】
(7) 前記塩基性金属は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも何れかである、(5)又は(6)に記載のイソブテン生成用触媒。
【0020】
(7)の発明によれば、より高いイソブテンの収率が得られる、イソブテンの生成方法を提供できる。
【0021】
(8) また、本発明は、二酸化炭素を電解することでエチレンを生成する電解装置と、前記エチレンを二量化することでノルマルブテンを生成する二量化装置と、前記ノルマルブテンを異性化することでイソブテンを生成する異性化装置と、を含み、前記異性化装置は、前記ノルマルブテンが接触する触媒を含み、前記触媒は、塩基性触媒である、イソブテン生成システムに関する。
【0022】
(8)の発明によれば、排ガスや大気中の二酸化炭素を回収して工業的に重要な炭化水素であるイソブテンを生成することが可能であるため、カーボンニュートラルの達成に寄与できる。また、ノルマルブテンをイソブテンに異性化することでイソブテンを生成する異性化反応において、副生成物の生成を限りなく抑制することができ、高いイソブテンの収率が得られるイソブテン生成システムを提供できる。
【0023】
(9) 加水反応装置を更に含み、前記加水反応装置は、前記異性化装置から生成される前記ノルマルブテン、及び前記イソブテンを含む混合物から、前記ノルマルブテンを分離し、前記加水反応装置により分離された前記ノルマルブテンは、前記異性化装置に返送される、(8)に記載のイソブテン生成システム。
【0024】
(9)の発明によれば、イソブテン生成システムの異性化装置におけるイソブテンの収率を、理論上100%に近い収率とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係るイソブテン生成システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】触媒の種類毎のイソブテン収率を示すグラフである。
【
図3】塩基量と触媒活性(イソブテン収率)との関係を示すグラフである。
【
図4】固体酸触媒にNaを添加した際の、Na
2O濃度とイソブテン収率との関係を示すグラフである。
【
図5】固体塩基触媒にNaを添加した際の、Na
2O添加量とイソブテン収率との関係を示すグラフである。
【
図6】固体酸触媒に各種金属を添加した際の、MOx添加量とイソブテン収率との関係を示すグラフである。
【
図7】固体酸触媒に各種金属を添加した際の、塩基量と触媒活性(イソブテン収率)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<イソブテン生成用触媒>
本実施形態に係るイソブテン生成用触媒は、ノルマルブテンをイソブテンに異性化する異性化反応を促進させる触媒である。本明細書中において、ノルマルブテンとは、構造異性体である1-ブテン、cis-2-ブテン、及びtrans-2-ブテンが平衡状態で存在する平衡混合物を意味する。
【0027】
本実施形態に係るイソブテン生成用触媒は、塩基性触媒である。イソブテン生成用触媒として塩基性触媒を用いることで、好ましいイソブテンの収率が得られるだけでなく、反応温度を低温化できることからイソブテン生成に要するコストを低減することができる。本実施形態において、塩基性触媒とは、固体塩基触媒、又は固体塩基触媒若しくは固体酸触媒に塩基性金属が担持された触媒のうち何れかを意味する。
【0028】
固体塩基触媒としては、例えば、アルミナが挙げられる。アルミナとしては、特に限定されず、α、γ、δ、η、θ型等の結晶相を有するアルミナが挙げられる。上記アルミナは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。上記アルミナは、多孔質化された活性アルミナであってもよい。活性アルミナは、例えば、水和物を脱水する公知の方法により得ることができる。上記アルミナとしては、市販品を用いることができる。アルミナの形状としては、粒状、粉体状等が挙げられる。
【0029】
固体塩基触媒としては、アルミナ以外に、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2)等の金属酸化物が挙げられる。
【0030】
固体酸触媒に後述する塩基性金属を担持させることで、本実施形態に係る塩基性触媒として用いることができる。固体酸触媒としては、例えば、ゼオライトが挙げられる。ゼオライトとしては、特に限定されず、例えば、FER型ゼオライト(フェリエライト)、MFI型ゼオライト(ZSM-5)、MOR型ゼオライト(モルデナイト)、FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)、BEA型ゼオライト(ベータ型ゼオライト)、CHA型ゼオライト(チャバサイト)等が挙げられる。上記ゼオライトは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。固体酸触媒としては、ゼオライト以外に二酸化ケイ素(SiO2)を用いることもできる。
【0031】
塩基性金属が固体酸触媒に担持されることで、固体酸触媒は塩基性触媒として機能する。塩基性金属としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属が挙げられる。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Frが挙げられ、アルカリ土類金属としては、Ca、Sr、Ba、Ra、Be、Mg等が挙げられる。上記以外に、塩基性金属は、Zn、Zr、W、La等であってもよい。上記塩基性金属は、例えば、酸化物や硝酸塩等の化合物の状態で担持されてもよい。塩基性金属は、周期表における周期数がより大きく族番号がより小さい、即ち、より塩基性が高い金属であることが好ましい。
【0032】
塩基性金属は、固体塩基触媒に担持されてもよい。固体塩基触媒は、塩基性金属が担持されていない場合であっても、塩基性触媒として機能するが、固体塩基触媒に塩基性金属を担持させることで、より塩基性触媒としての機能を向上させることができる。
【0033】
塩基性金属を固体酸触媒又は固体塩基触媒に担持させる方法としては、特に限定されず、含浸法等の公知の方法により担持させることができる。含浸法としては、特に制限されないが、例えば、硝酸塩等の塩基性金属の化合物の溶液を固体酸触媒又は固体塩基触媒に含浸させ、その後加温により乾燥させて溶媒を蒸発させ、その後焼成を行う蒸発乾固法を用いることができる。含浸法としては、上記以外に、吸着法やスプレー法等を用いることもできる。塩基性金属は、固体酸触媒又は固体塩基触媒が多孔質体である場合、その細孔内に担持される。固体酸触媒又は固体塩基触媒が多孔質体では無い場合、塩基性金属は、その外表面に担持されてもよい。
【0034】
塩基性金属の担持量は、特に限定されないが、固体酸触媒に担持される場合、触媒重量に対して、0.01~10質量%とすることができる。上記担持量は、0.07~10質量%とすることが好ましく、0.1~10質量%とすることがより好ましく、1.0~10質量%とすることが更に好ましい。なお、上記担持量は、10質量%以上とすることもできる。
【0035】
塩基性触媒は、CO2-TPDで求められる塩基点が0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましい。CO2-TPDは酸プローブ分子である二酸化炭素(CO2)を塩基性触媒に吸着させて脱離ガスを測定することで塩基点の量を求める公知の方法を適用することができる。
【0036】
<イソブテンの生成方法>
本実施形態に係るイソブテンの生成方法は、原料物質であるノルマルブテンを、異性化反応を促進させる触媒である上記塩基性触媒に接触させる異性化工程を含む。上記異性化工程におけるノルマルブテンの異性化反応は、以下の式(1)により示される。
【0037】
【0038】
上記式(1)において、ノルマルブテン(n-Butene)を便宜上、1-ブテン(1-Butene)として記載しているが、ノルマルブテンは実際には1-ブテン、cis-2-ブテン、及びtrans-2-ブテンが平衡状態で存在する平衡混合物である。上記式(1)における「i-Butene」はイソブテンを意味する。上記式(1)における「unreactive n-Butene」は異性化反応によって異性化せず未反応であるノルマルブテンを意味する。上記式(1)において、生成物としてイソブテン、及びノルマルブテンを記載しているが、上記生成物以外に、微量の副生成物が上記式(1)で示す異性化反応により生成する可能性がある。
【0039】
異性化工程において、反応温度は、25~249℃の範囲内であることが好ましく。反応温度は、25~200℃であることがより好ましく、25~150℃であることが更に好ましく、25~100℃であることが最も好ましい。本実施形態に係る塩基性触媒を用いることにより、異性化工程を低温化し、異性化工程に要するコストを低減できるだけでなく、反応温度を低温化することで、より好ましいイソブテン収率が得られる。
【0040】
異性化工程において、ノルマルブテンを含む原料ガスの空間速度GHSV(gas hourly space velocity)は、20000~80000ml・g-1・h-1であることが好ましい。また、接触時間(W/F)は、0.0008~0.0031g・min・ml-1であることが好ましい。これにより、ノルマルブテンの転化率を向上させることができる。上記ノルマルブテンの転化率は、以下の式(2)により示される。
【0041】
ノルマルブテン転化率(%) = ((原料ガス中のノルマルブテンの物質量)-(生成ガス中のノルマルブテンの物質量))/(原料ガス中のノルマルブテンの物質量)×100 (2)
【0042】
上記イソブテンの選択率は以下の式(3)で示され、上記イソブテンの収率は以下の式(4)で示される。
【0043】
イソブテン選択率(%) = (生成ガス中のイソブテンの物質量)/(原料ガス中のノルマルブテンの物質量)×100 (3)
【0044】
イソブテン収率(%) =(イソブテン選択率(%))×(ノルマルブテン転化率(%))÷100 (4)
【0045】
本実施形態に係るイソブテンの生成方法は、上記異性化工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、イソブテンをN2ガスにより所定の希釈率に希釈することで原料ガスを調製する工程を含んでいてもよい。また、生成ガスから未反応のノルマルブテンを分離する工程を含んでいてもよく、更に分離したノルマルブテンを原料ガスとして再利用する工程を含んでいてもよい。本実施形態に係るイソブテンの生成方法は、副生成物の生成を限りなく抑制することができるため、生成ガスから未反応のノルマルブテンを容易に分離することができる。また、生成ガスから分離したノルマルブテンを原料ガスとして再利用することで、理論上のイソブテンの収率を、100%近くまで向上させることができる。
【0046】
上記生成ガスから未反応のノルマルブテンを分離する工程は、例えば以下の式(5)で示す加水反応(水付加反応)により実現できる。
【0047】
【0048】
上記式(5)における加水反応により、イソブテンのみを、室温で液体又は固体であるTBA(tert-ブチルアルコール)へと変換することができるため、室温で気体であるノルマルブテンを、上記生成ガスから容易に分離することができる。具体的な方法としては、例えば、Mo、WおよびVから選ばれる少なくとも1種の元素を縮合配位元素とするヘテロポリ酸を含む水溶液を用い、かつ100℃未満の温度で反応させる方法等の公知の方法を用いることができる。なお、TBAは公知の二量化技術、及び水素化技術によりイソオクタンへと変換すること等により有効に利用することができる。イソオクタンは、ガソリンの基材等として利用できるためである。
【0049】
<イソブテン生成システム>
本実施形態に係るイソブテン生成システム1は、
図1に示すように、電解装置10と、二量化装置20と、異性化装置30と、加水反応装置40と、各装置間を接続する流路F1~F4と、を有する。
【0050】
電解装置10は、二酸化炭素(CO2)を電気化学的に還元することで、エチレン(C2H4)を生成する装置である。電解装置10は、二酸化炭素を還元する電解セルによって二酸化炭素を還元する。電解セルとしては、例えば、カソードと、アノードと、を少なくとも有する電解セルが挙げられる。カソードは、二酸化炭素を電気化学的に還元してエチレン(C2H4)等の炭化水素を生成し、また水を還元して水素を生成する。アノードは、水酸化物イオンを酸化して酸素を生成する。電解装置10により生成されるエチレン(C2H4)は、流路F1を介して二量化装置20に供給される。
【0051】
電解装置10に供給される二酸化炭素(CO2)の供給源は、特に限定されず、空気中から分離回収されるものであってもよく、ボイラ等の燃焼設備から排出される排ガスから分離回収されるものであってもよい。
【0052】
二量化装置20は、流路F1を介して供給されるエチレン(C2H4)を二量化反応により二量化し、ノルマルブテン(n-C4H8)を生成する装置である。二量化装置20は、反応器21と、冷却分離器22と、を有する。二量化装置20は、ノルマルブテン(n-C4H8)を例えば80%以上の収率で生成することができる。
【0053】
反応器21は、例えば、オレフィン多量化触媒の存在下でエチレンの多量化反応を行ってノルマルブテン(n-C4H8)、1-ヘキセン、1-オクテン等の増炭されたオレフィンを生成する。オレフィン多量化触媒は、例えば、シリカアルミナやゼオライトを担体に用いた固体酸触媒、遷移金属錯体化合物等である。上記担体に担持される金属原子としては、例えば、Niが挙げられる。
【0054】
冷却分離器22は、反応器21で多量化反応後の生成ガスに対して気液分離を行う。生成ガスに含まれる増炭されたオレフィンは、炭素数の増加に応じて沸点が上昇するため、冷却分離器22の温度を、目的物質であるノルマルブテン(n-C4H8)の沸点以上、かつ炭素数6以上の他のオレフィンの沸点未満とすることで、ノルマルブテン(n-C4H8)と炭素数6以上の他のオレフィンとを容易に気液分離できる。冷却分離器22により分離されるノルマルブテン(n-C4H8)は、流路F2を介して異性化装置30に供給される。冷却分離器22により分離される炭素数6以上の他のオレフィンは、液体留分として分離、及び排出される。
【0055】
異性化装置30は、流路F2を介して供給されるノルマルブテン(n-C4H8)からイソブテン(i-C4H8)を生成する装置である。異性化装置30は、上記塩基性触媒を有する。塩基性触媒は、例えば、異性化装置30が備える固定床反応器の触媒層に充填される。上記触媒層に対してノルマルブテン(n-C4H8)を含むガスが流通することで、ノルマルブテン(n-C4H8)と塩基性触媒とが接触し、異性化反応が促進される。異性化装置30は、上記以外に、ノルマルブテン(n-C4H8)をN2ガスで所定の希釈率に希釈する希釈装置を備えていてもよい。また、ノルマルブテン(n-C4H8)を含むガスの流量、並びに固定床反応器の温度、及び圧力を調節可能な公知の装置を備えていてもよい。異性化装置30により生成されるイソブテン(i-C4H8)と未反応のノルマルブテン(n-C4H8)とを含む混合物は、流路F3を介して加水反応装置40に供給される。
【0056】
加水反応装置40は、流路F3を介して供給されるイソブテン(i-C4H8)と未反応のノルマルブテン(n-C4H8)とを含む混合物から、上記式(5)における加水反応により、未反応のノルマルブテン(n-C4H8)を分離する装置である。加水反応装置40により、イソブテン(i-C4H8)のみが加水反応によりTBA(tert-ブチルアルコール)へと変換され、気液分離によりノルマルブテン(n-C4H8)と分離される。加水反応装置40により分離されるTBA(tert-ブチルアルコール)は、既存の技術によってイソオクタン等に変換されて使用される。加水反応装置40により分離される未反応のノルマルブテン(n-C4H8)は、返送流路としての流路F4により、異性化装置30に返送される。流路F4は、流路F2の途中に接続されていてもよく、異性化装置30に接続されていてもよい。
【0057】
上記構成を有するイソブテン生成システム1によれば、以下の効果が奏される。イソブテン生成システム1は、塩基性触媒を有する異性化装置30を有しているため、目的物質であるイソブテン(i-C4H8)を高収率で得ることができると共に、副生成物の生成を限りなく抑制することができる。また、イソブテン生成システム1は、異性化装置30により生成されるイソブテン(i-C4H8)と未反応のノルマルブテン(n-C4H8)との混合物を分離する加水反応装置40を備え、加水反応装置40により分離される未反応のノルマルブテン(n-C4H8)を異性化装置30に返送する返送流路としての流路F4を備える。これにより、異性化装置30における、原料物質であるノルマルブテンに対するイソブテン(i-C4H8)の収率を、理論上100%に近い収率とすることができる。
【0058】
また、イソブテン生成システム1は、排ガスや大気中の二酸化炭素を回収して工業的に重要な炭化水素であるイソブテンを生成することが可能であるため、カーボンニュートラルの達成に寄与する。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0060】
上記実施形態において、イソブテン生成システム1を各装置間が流路F1~F4により直接接続されるものとして説明した。上記に限定されない。各装置は生成物をボンベ等の貯留槽に貯留してもよく、当該貯留槽を運搬することで、他の装置に生成物を供給するものであってもよい。
【実施例0061】
以下、実施例を用いて本発明について詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0062】
[塩基性触媒の種類とイソブテン収率との関係]
以下の表1に示す各触媒を用い、ノルマルブテン(n-C4H8):15ml/min、N2:50ml/minの流量で反応ガスを流通させ、異性化反応させた。反応条件は温度:200℃、圧力:0.1MPa、反応時間:40min、触媒量:0.2gとした。
【0063】
【0064】
なお、表1におけるCatalyst.No2の触媒は、以下の手順で調製した。硝酸アルミニウム9水和物、TEOS、尿素を用いて均一沈殿法(尿素10等量、エージング80℃,48h)にて沈殿させ、得られた微粉体を700℃,6hの条件で焼成し、触媒を調製した。
【0065】
<ガスクロマトグラフィー>
表1に示す各触媒による異性化反応により生成した生成ガスをガスクロマトグラフィーにより定量分析した。ガスクロマトグラフィーの測定条件は以下に示す通りである。
【0066】
(測定条件)
測定装置:GC-2014(島津製作所社製)
カラム:Rtx-1(RESTEK,長さ60m,内径0.25mm,膜厚0.5mm)
キャリアーガス:N2(全流量50ml/min、パージ流量3.0ml/min)
スプリット比:66.1(カラム流量0.70ml/min)
Injection:250℃
Detection:280℃
分析:40℃で10min、次いで20℃/minで200℃まで昇温、次いで200℃で9.5min(計30min)
【0067】
上記ガスクロマトグラフィーにより得られた分析結果を元に、イソブテンの収率を求め、結果を以下の表2、及び
図2のグラフに示した。なお表2における「収率/% iso-C
4H
8」がイソブテン収率を示す。表2、及び
図2に示すように、塩基性触媒である触媒5、6、7、8、9、10、11、14、16、17(数字は表1、表2、及び
図2におけるCatalyst.No)を用いることにより、高いイソブテンの収率が得られることが明らかである。
【0068】
【0069】
[反応温度とイソブテン収率との関係]
触媒として、フェリエライト(東ソー(株)製、760HOA,FER(シリカ/アルミナ比60前後))及びγ-アルミナ(日揮ユニバーサル(株)製、JRC-ALO-6)をそれぞれ用い、以下の表3に示す各反応温度にてノルマルブテン(n-C
4H
8)の異性化反応を行った。反応条件は反応温度以外、
図2と同様とした。結果を表3に示す。なお表3における「収率/% iso-C
4H
8」がイソブテン収率を示す。
【0070】
【0071】
表3に示すように、特に250℃未満の温度範囲において、塩基性触媒であるγ-アルミナはフェリエライトよりも高いイソブテン収率が得られ、かつ副生成物も発生していない結果が明らかである。更に、フェリエライトが高温になるほど高いイソブテン収率が得られるのに対し、塩基性触媒であるγ-アルミナは逆に低温になるほど高いイソブテン収率が得られる結果が明らかである。
【0072】
[触媒の塩基量とイソブテン収率との関係1]
それぞれ塩基量の異なるγ-アルミナ、θ-アルミナ、シリカマグネシア、及びゼオライトを用い、異性化反応を行い、塩基点の量とイソブテン収率との関係を求めた。異性化反応の測定は、
図2と同様の条件で行った。塩基点の量の測定はCO
2-TPDにより行った。測定装置は触媒分析装置BELCAT B(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。反応条件は以下の通りである。触媒量を0.1gとし、石英セルに充填した。前処理としてHe(30ml/min)流通下、500℃で1時間加熱した後、Heを流通させながら50℃まで冷却した。次いで、50℃でCO
2(30ml/min)を1時間流通させ、CO
2を吸着させた後、50℃でHe(30ml/min)を1時間流通させ、物理吸着したCO
2を脱離した。その後、He(30ml/min)流通下、50℃から800℃まで10℃/minで昇温し、800℃で30min保持し、脱離したCO
2の量を測定して塩基点の量を求めた。結果を
図3に示した。
図3に示すように、触媒の塩基点の量が多くなるほど、イソブテン収率が向上する傾向があることが明らかである。
【0073】
[塩基性金属担持量とイソブテン収率との関係1]
以下の表4に示す、塩基性金属(Na
2O)が担持されたY型ゼオライト(
図4に「〇」で示す)、Na型ゼオライト「HSZ-320NAA」(東ソー株式会社製)及び表4における「JRC-Z-HY4.8」(触媒化成工業株式会社製)にNa
2Oを添加した触媒(
図4に「△」で示す)を用い、
図2と同様の条件で異性化反応を行い、各触媒におけるNa
2Oの含有量(重量%)とイソブテン収率との関係を求めた。結果を以下の表4及び
図4に示した。
【0074】
【0075】
表4及び
図4に示すように、固体酸触媒であるゼオライトにおいて、塩基性金属(Na
2O)の含有量が多いほど、高いイソブテン収率が得られる結果が明らかである。
【0076】
[塩基性金属担持量とイソブテン収率との関係2]
γ-アルミナであるJRC-ALO-6(日揮ユニバーサル(株)製)、及び、JRC-ALO-6に対し、含浸法により異なる量のNaを担持させた触媒について、
図4と同様に各触媒におけるNa
2Oの含有量(重量%)とイソブテン収率との関係を求めた。なお含浸法による触媒の作製は、JRC-ALO-6に対し、NaNO
3水溶液を含浸させた後、110℃、12hの条件で乾燥させ、次いで400℃、3hの条件で焼成することにより行った。結果を表5に示す。
【0077】
【0078】
[塩基性金属担持量とイソブテン収率との関係3]
γ-アルミナであるJRC-ALO-6(日揮ユニバーサル(株)製)等のアルミナ(
図5に「〇」で示す)、及び、JRC-ALO-6に対し、含浸法により異なる量のNaを担持させた触媒(
図5に「△」で示す)について、
図4と同様に各触媒におけるNa
2Oの含有量(重量%)とイソブテン収率との関係を求めた。なお含浸法による触媒の作製は、JRC-ALO-6に対し、NaNO
3水溶液を含浸させた後、110℃、12hの条件で乾燥させ、次いで400℃、3hの条件で焼成することにより行った。結果を
図5に示した。表5及び
図5に示すように、固体塩基触媒であるアルミナにおいて、塩基性金属(Na
2O)の含有量が多いほど、高いイソブテン収率が得られる結果が明らかである。
【0079】
[添加金属とイソブテン収率との関係1]
ゼオライトであるCBV28014(ゼオリスト社製、ZSM-5型、シリカアルミナ比280)に対して、添加金属としてNa、Mg、Zn、La、W、及びZrをそれぞれ添加量を変えて担持させ、
図4と同様に各触媒における添加金属の含有量(MOx換算量、重量%)とイソブテン収率との関係を求めた。結果を
図6に示した。
図6に示すように、添加金属の含有量を増やすにつれ、イソブテン収率が向上する結果が明らかである。また、添加金属の種類としては、Naが最も添加量あたりのイソブテン収率が向上する効果が高く、Mgが次いで効果が高かった。従って、添加金属としてアルカリ金属やアルカリ土類金属を用いることで高いイソブテン収率の向上効果が得られることが明らかである。
【0080】
[添加金属とイソブテン収率との関係2]
図6と同様の条件で、添加金属として表6に示す各金属を添加量0.7mol%(各金属原子換算量)としてCBV28014に担持させ、
図4と同様に添加金属の種類とイソブテン収率との関係を求めた。結果を表6に示す。
【0081】
【0082】
表6の結果から、周期表における周期数がより大きく族番号がより小さい、即ち、より塩基性が高い金属を添加金属として用いることで、より高いイソブテン収率の向上効果が得られることが明らかである。
【0083】
[触媒の塩基量とイソブテン収率との関係2]
図6における各種金属を添加した各触媒の塩基点の量の測定を、
図3と同様にCO
2-TPDにより行い、塩基点の量とイソブテン収率との関係を求めた。結果を
図7に示した。
図7に示すように、塩基点の量とイソブテンの収率との間には比例関係があり、塩基点の量が増えるほど、イソブテンの収率が向上する結果が明らかである。