IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特開2024-112323ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム
<>
  • 特開-ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム 図1
  • 特開-ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム 図2
  • 特開-ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム 図3
  • 特開-ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム 図4
  • 特開-ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム 図5
  • 特開-ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム 図6
  • 特開-ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112323
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/10 20060101AFI20240814BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H02J7/10 B
H01M10/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021070903
(22)【出願日】2021-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】堀川 真代
(72)【発明者】
【氏名】水杉 真也
(72)【発明者】
【氏名】大沼 孟光
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB01
5G503CA03
5G503CA12
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB02
5H030BB03
5H030FF43
(57)【要約】
【課題】ニッケル亜鉛電池の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる、ニッケル亜鉛電池の制御方法及びニッケル亜鉛電池を備える電源システムを提供する。
【解決手段】このニッケル亜鉛電池の制御方法は、所定の電圧値でもってニッケル亜鉛電池を充電する定電圧充電ステップを含む。所定の電圧値は単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である。また、このニッケル亜鉛電池の制御方法は、所定の電流値でもってニッケル亜鉛電池を充電する定電流充電ステップを更に含み、定電流充電ステップにおいてニッケル亜鉛電池の単セルの端子間電圧が閾値電圧に到達した後に定電圧充電ステップに移行してもよい。その場合、閾値電圧は単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル亜鉛電池を制御する方法であって、
所定の電圧値でもって前記ニッケル亜鉛電池を充電する定電圧充電ステップを含み、
前記所定の電圧値は単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である、ニッケル亜鉛電池の制御方法。
【請求項2】
所定の電流値でもって前記ニッケル亜鉛電池を充電する定電流充電ステップを更に含み、
前記定電流充電ステップにおいて前記ニッケル亜鉛電池の端子間電圧が閾値電圧に到達した後に前記定電圧充電ステップに移行し、
前記閾値電圧は単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である、請求項1に記載のニッケル亜鉛電池の制御方法。
【請求項3】
ニッケル亜鉛電池と、
前記ニッケル亜鉛電池の充放電を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、所定の電圧値でもって前記ニッケル亜鉛電池を充電する定電圧充電動作を行い、
前記所定の電圧値は単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である、電源システム。
【請求項4】
前記制御部は、所定の電流値でもって前記ニッケル亜鉛電池を充電する定電流充電動作を更に行い、前記定電流充電動作において前記ニッケル亜鉛電池の端子間電圧が閾値電圧に到達した後に前記定電圧充電動作に移行し、
前記閾値電圧は単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である、請求項3に記載の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料を負極に用いた非水電解液二次電池の充電方法が開示されている。この充電方法では、充電開始時の電池温度に応じて充電電圧を設定し、この充電電圧でもって定電圧充電を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-52760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源システムに用いられる二次電池として、ニッケル亜鉛電池が注目されている。ニッケル亜鉛電池は、水酸化カリウム水溶液等の水系電解液を用いる水系電池であることから、高い安全性を有すると共に、亜鉛電極とニッケル電極との組み合わせにより、水系電池としては高い起電力を有する。さらに、ニッケル亜鉛電池は、優れた入出力性能に加えて、低コストといった利点を有する。ニッケル亜鉛電池は、例えば、電気自動車またはハイブリッド車における補助電池(補機)として用いられ得る。
【0005】
ニッケル亜鉛電池は、充放電を繰り返すと次第に劣化して初期の性能を維持できなくなるという性質を有する。したがって、ニッケル亜鉛電池の劣化のペースを遅くして、ニッケル亜鉛電池を長寿命化することが望まれている。本開示は、ニッケル亜鉛電池の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる、ニッケル亜鉛電池の制御方法及びニッケル亜鉛電池を備える電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るニッケル亜鉛電池の制御方法は、所定の電圧値でもってニッケル亜鉛電池を充電する定電圧充電ステップを含む。所定の電圧値は、単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である。また、本開示に係る電源システムは、ニッケル亜鉛電池と、ニッケル亜鉛電池の充放電を制御する制御部と、を備える。制御部は、所定の電圧値でもってニッケル亜鉛電池を充電する定電圧充電動作を行う。所定の電圧値は、単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である。
【0007】
ニッケル亜鉛電池の劣化には様々な要因があるが、その一つとして、充放電を繰り返すうちに析出した亜鉛が電極に付着及び成長してデンドライトとなり、このデンドライトを介して正極と負極とが短絡するという現象がある。デンドライトの成長が速いほど、ニッケル亜鉛電池の寿命が短くなる。本発明者による実験によれば、充電電圧が単セルあたり1.88V~1.90Vである場合にデンドライトによる短絡が短期間で生じ、また充電電圧が単セルあたり1.85V以下である場合には充電不足が発生した。これに対し、充電電圧が単セルあたり1.93V以上である場合には、同じ期間内にデンドライトによる短絡が発生せず、ニッケル亜鉛電池の電池寿命を延ばすことができた。すなわち、充電電圧が単セルあたり1.93V以上であることにより、ニッケル亜鉛電池の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる。また、本発明者の知見によれば、充電電圧が単セルあたり1.95Vより大きいと、ニッケル亜鉛電池が過充電となり易く、過充電を繰り返すことによってニッケル亜鉛電池が早期に劣化してしまう。すなわち、充電電圧が単セルあたり1.95V以下であることにより、ニッケル亜鉛電池の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる。
【0008】
上記の制御方法は、所定の電流値でもってニッケル亜鉛電池を充電する定電流充電ステップを更に含み、定電流充電ステップにおいてニッケル亜鉛電池の端子間電圧が閾値電圧に到達した後に定電圧充電ステップに移行してもよい。また、上記の電源システムにおいて、制御部は、所定の電流値でもってニッケル亜鉛電池を充電する定電流充電動作を行い、定電流充電動作においてニッケル亜鉛電池の端子間電圧が閾値電圧に到達した後に定電圧充電動作に移行してもよい。これらの場合、閾値電圧は単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下であってもよい。このように、定電流充電から定電圧充電に移行する際の閾値電圧を単セルあたり1.93V以上とすることにより、デンドライトによる短絡といったニッケル亜鉛電池の劣化を抑制して、電池寿命を延ばすことができる。また、定電流充電から定電圧充電に移行する際の閾値電圧を単セルあたり1.95V以下とすることにより、過充電によるニッケル亜鉛電池の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ニッケル亜鉛電池の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができるニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る電源システムの構成の一例を示す回路図である。
図2】コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図3】一実施形態に係る亜鉛電池の制御方法を示すフローチャートである。
図4】実験の結果を示すグラフであって、充電電圧と、75サイクル時における充電率との関係を示す。
図5】実験の結果を示すグラフであって、サイクル数と容量維持率との関係を示す。
図6】実験に使用したニッケル亜鉛電池セルの、75サイクル後の負極における亜鉛の析出状態を示す電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7】実験に使用したニッケル亜鉛電池セルの、75サイクル後の負極における亜鉛の析出状態を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本開示によるニッケル亜鉛電池の制御方法および電源システムの実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態に係る電源システム1の構成の一例を示す回路図である。電源システム1は、例えば電気自動車またはハイブリッド車の補助電池(補機)として用いられる。なお、電源システム1が適用される対象は移動体に限定されず、電源システム1は固定物にも適用可能である。固定物への適用の例として、電源システム1は、無停電電源装置(UPS)として家庭、オフィス、工場、農場等の様々な場所で利用され得る。
【0013】
図1に示すように、電源システム1は、ニッケル亜鉛電池2と、制御部3と、充放電制御回路4とを備えている。ニッケル亜鉛電池2は正側端子2a及び負側端子2bを有する。ニッケル亜鉛電池2は、正側端子2aと負側端子2bとの間に直列に接続された複数のセルを含んで構成されてもよい。負側端子2bは、電源システム1のグランド配線に接続されている。
【0014】
充放電制御回路4は、充電制御回路41と、放電制御回路42とを有する。充電制御回路41の入力端は電源配線を介して電源システム1の外部の電源と電気的に接続されており、電源配線から電源電力Pin(例えば+12V)を受ける。充電制御回路41の出力端はニッケル亜鉛電池2の正側端子2aと電気的に接続されている。充電制御回路41は、後述する制御部3から充電の指示を受けると、ニッケル亜鉛電池2の正側端子2aへ充電電圧を印加し、充電電流Jcを供給する。
【0015】
放電制御回路42の入力端は、ニッケル亜鉛電池2の正側端子2aと電気的に接続されている。放電制御回路42の出力端は、電源システム1の外部の車載機器等の電力負荷と電気的に接続されている。放電制御回路42は、後述する制御部3から放電の指示を受けると、ニッケル亜鉛電池2の正側端子2aから放電電流Jdを受け取り、この放電電流Jdを出力電力Poutとして電力負荷へ供給する。
【0016】
制御部3は、コンピュータ31と、電源部32と、分圧部34と、参照電圧生成回路36と、を有する。制御部3は、これらの構成要素が一つのパッケージ内に収容されて成り、制御部3の外部との信号入出力のための複数の端子3a~3eを該パッケージに有する。
【0017】
コンピュータ31は、ニッケル亜鉛電池2の充電及び放電を制御するコンピュータであって、例えばマイクロコンピュータである。図2は、コンピュータ31のハードウェア構成例を示す図である。この図に示すように、コンピュータ31は、プロセッサ311、メモリ312、及びアナログ/デジタル(A/D)変換回路313を有する。プロセッサ311、メモリ312、及びA/D変換回路313は、データバス314を介して互いに接続されている。プロセッサ311は例えばCPUであり、メモリ312は例えばフラッシュメモリで構成される。コンピュータ31の各機能は、プロセッサ311が、メモリ312に格納されているプログラムを実行することで実現される。例えば、プロセッサ311は、メモリ312から読み出したデータまたは通信端子を介して受信したデータに対して所定の演算を実行し、その演算結果を他の装置に出力することで、他の装置を制御する。あるいは、プロセッサ311は受信したデータまたは演算結果をメモリ312に格納する。コンピュータ31は1台のコンピュータにより構成されてもよいし、複数のコンピュータの集合(すなわち分散システム)により構成されてもよい。制御部3のハードウェア構成はコンピュータに限定されず、同様の機能を有する回路であれば任意に選択されてよい。
【0018】
再び図1を参照する。コンピュータ31は、2つの信号入出力端子(I/Oポート)を有する。一方の信号入出力端子は、制御部3の端子3aを介して、充電制御回路41の制御端子と電気的に接続されている。他方の信号入出力端子は、制御部3の端子3bを介して、放電制御回路42の制御端子と電気的に接続されている。コンピュータ31は、これらの信号入出力端子から制御信号を出力することにより、充電制御回路41および放電制御回路42の動作を制御する。
【0019】
電源部32は、制御部3の端子3cを介してニッケル亜鉛電池2の正側端子2aと電気的に接続されており、ニッケル亜鉛電池2の端子間電圧Vaを、制御部3を駆動するための電源電圧として受ける。また、電源部32は、制御部3の端子3dを介して、電源システム1の外部から起動信号S1を受ける。電源部32は、起動信号S1の状態に応じて、電圧変換を開始する。電源部32は、ニッケル亜鉛電池2の端子間電圧Vaから変換した電源電圧Vs1を、コンピュータ31の電源端子に提供する。なお、コンピュータ31のグランド端子は、制御部3の端子3eを介して、ニッケル亜鉛電池2の負側端子2bと電気的に接続され、ニッケル亜鉛電池2の負側端子2bと同電位(グランド電位)とされている。
【0020】
分圧部34は、ニッケル亜鉛電池2の端子間電圧Vaを分圧するために設けられている。分圧部34は、互いに直列に接続された一対の抵抗341,342を有する。抵抗341,342からなる直列回路の一端は、端子3cを介してニッケル亜鉛電池2の正側端子2aと電気的に接続されている。該直列回路の他端は、制御部3の端子3eを介して、ニッケル亜鉛電池2の負側端子2bと電気的に接続されている。したがって、抵抗341,342の間のノードには、抵抗341,342の抵抗比に応じて端子間電圧Vaが分圧された電圧信号Saが生成される。電圧信号Saは、コンピュータ31のアナログ入力端子に入力され、コンピュータ31が内蔵するA/D変換回路313によってデジタル信号に変換される。コンピュータ31は、この電圧信号Saの大きさに基づいて、端子間電圧Vaの大きさを知ることができる。
【0021】
参照電圧生成回路36は、参照電圧Vrefを生成する基準電圧源ICである。参照電圧生成回路36によって生成された参照電圧Vrefは、コンピュータ31のアナログ入力端子に入力され、コンピュータ31が内蔵するA/D変換回路313によってデジタル信号に変換される。このデジタル信号は、コンピュータ31が入力するアナログ信号(電圧信号Sa)の基準電圧として用いられる。
【0022】
以上の構成を備える本実施形態の電源システム1の動作について説明する。同時に、本実施形態に係る亜鉛電池の制御方法について説明する。図3は、本実施形態に係る亜鉛電池の制御方法を示すフローチャートである。
【0023】
まず、電源システム1の外部から電源部32が起動信号S1を受けると、電源部32は、電源電圧Vs1の生成を開始する。これにより、コンピュータ31が動作を開始する(ステップST1)。次に、コンピュータ31が電源システム1の外部から通信回路等を通じて充電指示を示す信号を受信すると、コンピュータ31は充電制御回路41へ制御信号を送信し、充電制御回路41の充電動作を開始させる(充電ステップST2)。コンピュータ31は、まず、所定の電流値でもってニッケル亜鉛電池2を充電する定電流充電動作を行うように充電制御回路41を制御する(定電流充電ステップST21)。定電流充電における電流値は例えば0.1C~10Cの範囲内であり、一実施例では0.3Cである。なお、本明細書においては、電池の理論容量を1時間で完全放電させる電流の大きさを1Cと定義する。そして、この定電流充電ステップST21の間、コンピュータ31は、ニッケル亜鉛電池2の端子間電圧Vaが閾値電圧に到達したか否かを確認し続ける(判定ステップST22)。閾値電圧の電圧値は、単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である。定電流充電ステップST21においてニッケル亜鉛電池2の端子間電圧Vaが閾値電圧に到達すると(判定ステップST22:YES)、コンピュータ31は、所定の電圧値でもってニッケル亜鉛電池2を充電する定電圧充電に移行するように充電制御回路41を制御する(定電圧充電ステップST23)。定電圧充電における電圧値は、単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下である。コンピュータ31は、所定の条件を満たした場合に、定電圧充電ステップST23を終了する。
【0024】
ここで、単セルあたりの電圧値とは、一つのニッケル亜鉛電池のセルあたりの電圧値をいう。ニッケル亜鉛電池の複数のセルが直列に接続されている場合には、その直列回路の両端の電圧値を、直列に接続されたセルの個数で除算した値が単セルあたりの電圧値である。すなわち、電圧値が単セルあたり1.95Vである場合、N個(Nは2以上の整数)のセルが直列に接続された構成においては、その直列回路の両端の電圧値は1.95×N(V)となる。
【0025】
充電ステップST2ののち、コンピュータ31が電源システム1の外部から通信回路等を通じて放電指示を示す信号を受信すると、コンピュータ31は放電制御回路42へ制御信号を送信し、放電制御回路42に放電動作を行わせる(放電ステップST3)。以降、電源システム1の動作を終了するまで(ステップST4)、上記の充電ステップST2及び放電ステップST3を繰り返し行う。
【0026】
以上の構成を備える本実施形態の電源システム1およびニッケル亜鉛電池2の制御方法によって得られる効果について説明する。前述したように、ニッケル亜鉛電池2は、充放電を繰り返すと次第に劣化して初期の性能を維持できなくなるという性質を有する。したがって、ニッケル亜鉛電池2の劣化のペースを遅くして、ニッケル亜鉛電池2を長寿命化することが望まれている。ニッケル亜鉛電池2の劣化には様々な要因があるが、その一つとして、充放電を繰り返すうちに析出した亜鉛が電極に付着及び成長してデンドライトとなり、このデンドライトを介して正極と負極とが短絡するという現象がある。デンドライトの成長が速いほど、ニッケル亜鉛電池2の寿命が短くなる。
【0027】
本発明者は、ニッケル亜鉛電池の充電電圧と電極間の短絡までの期間との関係を調べるため、ニッケル亜鉛電池のサイクル実験を実施した。この実験では、5個のニッケル亜鉛電池セルを用意し、1回の充電と1回の放電との組み合わせを1サイクルとして、充放電を繰り返した。充放電の条件は下記の通りである。
・試験温度:40℃
・充電方式:定電流充電ののち定電圧充電
・定電流充電の電流値:0.3C
・定電流充電の終了条件:端子間電圧が定電圧充電の電圧値まで増加すること
・定電圧充電の電圧値:1.85V、1.88V、1.90V、1.93V、1.95V(セル毎に異なる)
・定電圧充電の終了条件:充電電流が1/20Cまで減少するか、又は充電開始から5時間が経過すること
・放電方式:定電流放電
・定電流放電の電流値:0.3C
・定電流放電の端子間電圧:1.1V
・充電と放電との間の休止時間:1時間
【0028】
また、本実験では、25サイクル毎に容量確認を行った。容量確認の条件は下記の通りである。
・試験温度:25℃
・充電方式:定電流充電ののち定電圧充電
・定電流充電の電流値:0.3C
・定電圧充電の電圧値:1.9V(各セルで共通)
・定電圧充電の終了条件:充電電流が1/20Cまで減少するか、又は充電開始から5時間が経過すること
・放電方式:定電流放電
・定電流放電の電流値:0.3C
・定電流放電の端子間電圧:1.1V
・充電と放電との間の休止時間:1時間
【0029】
ニッケル亜鉛電池セルの正極と負極とが短絡すると、充電率(=充電容量/放電容量×100)が上昇する。この実験では、充電率が105%を超えた場合に短絡と判定した。
【0030】
図4図5及び下記の表1は、上記の実験の結果を示すグラフである。図4は、充電電圧と、75サイクル時における充電率との関係を示すグラフである。図4の横軸は充電電圧(単位:V)を示し、図4の縦軸は充電率(単位:%)を示す。また、図5は、サイクル数と容量維持率との関係を示すグラフである。図5の横軸はサイクル数を示し、図5の縦軸は容量維持率(単位:%)を示す。
【0031】
図4図5及び表1に示されるように、充電電圧が1.88V~1.90Vである場合に短絡が早期に生じ、また充電電圧が1.85V以下である場合には充電不足(容量維持率の顕著な低下)が発生した。これに対し、充電電圧が1.93V以上である場合には、同じ期間内に短絡が発生せず、ニッケル亜鉛電池2の電池寿命を延ばすことができた。
【表1】
【0032】
すなわち、定電圧充電ステップST23における充電電圧が単セルあたり1.93V以上であることにより、ニッケル亜鉛電池2の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる。また、本発明者の知見によれば、定電圧充電ステップST23における充電電圧が単セルあたり1.95Vより大きいと、ニッケル亜鉛電池2が過充電となり易く、過充電を繰り返すことによってニッケル亜鉛電池2が早期に劣化してしまう。すなわち、定電圧充電ステップST23における充電電圧が単セルあたり1.95V以下であることにより、ニッケル亜鉛電池2の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる。
【0033】
図6及び図7は、実験に使用したニッケル亜鉛電池セルの、75サイクル後の負極における亜鉛の析出状態を示す電子顕微鏡(SEM)写真である。図6は充電電圧を1.90Vとしたセルを示し、図7は充電電圧を1.95Vとしたセルを示す。充電電圧を1.95Vとしたセル(図7)と比較して、充電電圧を1.90Vとしたセル(図6)では、亜鉛が多く析出し、針状のデンドライトが大きく成長していることがわかる。つまり、上記の短絡は、亜鉛が多く析出してデンドライトが成長したことに起因するといえる。
【0034】
また、本実施形態のように、定電流充電ステップST21(定電流充電動作)から定電圧充電ステップST23(定電圧充電動作)に移行する際の閾値電圧が単セルあたり1.93V以上であり且つ1.95V以下であってもよい。このように、定電流充電から定電圧充電に移行する際の閾値電圧を1.93V以上とすることにより、デンドライトによる短絡といったニッケル亜鉛電池2の劣化を抑制して、電池寿命を延ばすことができる。また、定電流充電から定電圧充電に移行する際の閾値電圧を1.95V以下とすることにより、過充電によるニッケル亜鉛電池2の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる。
【0035】
本発明による亜鉛電池の制御方法及び電源システムは、上述した実施形態の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0036】
上述した実施形態では、ニッケル亜鉛電池2を充電する際に定電流充電及び定電圧充電を行っているが、定電圧充電のみ行ってもよい。その場合であっても、定電圧充電の充電電圧を1.93V以上1.95V以下とすることにより、ニッケル亜鉛電池2の劣化を抑制して電池寿命を延ばすことができる。
【符号の説明】
【0037】
1…電源システム、2…ニッケル亜鉛電池、2a…正側端子、2b…負側端子、3…制御部、3a~3e…端子、4…充放電制御回路、31…コンピュータ、32…電源部、34…分圧部、36…参照電圧生成回路、41…充電制御回路、42…放電制御回路、311…プロセッサ、312…メモリ、313…A/D変換回路、314…データバス、341,342…抵抗、Jc…充電電流、Jd…放電電流、Pin…電源電力、Pout…出力電力、S1…起動信号、Sa…電圧信号、Va…端子間電圧、Vref…参照電圧、Vs1…電源電圧。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7