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特開2024-112371トマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法
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  • 特開-トマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112371
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】トマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 4/00 20060101AFI20240814BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20240814BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240814BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20240814BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A01H4/00
C12Q1/24
C12Q1/02
A01H6/82
C12N5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017317
(22)【出願日】2023-02-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100130661
【弁理士】
【氏名又は名称】田所 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】岡 駿佑
【テーマコード(参考)】
2B030
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AB03
2B030CA01
2B030CA28
2B030CB01
2B030CD14
2B030CD17
4B063QA05
4B063QQ09
4B063QR78
4B063QS10
4B063QX01
4B065AA88X
4B065AC12
4B065AC20
4B065BC50
4B065CA53
(57)【要約】
【課題】トマトの胚珠中の胚を取り出し易くするとともに観察も容易となるトマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法を提供すること。
【解決手段】トマトの胚珠を0.2質量%以上0.6質量%以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で浸漬することを特徴とするトマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトの胚珠を0.2質量%以上0.6質量%以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で浸漬することを特徴とするトマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的な胚珠・胚培養の技術は、農作物の育種分野で従来から行われている重要な技術である。
特に、異種・属の有用な形質を目的系統に導入する遠縁交雑では、生殖隔離機構によって雑種胚が正常に生育しないことが頻繁に起こるため、胚珠・胚培養技術は特に必要とされている(例えば非特許文献1参照)。
胚珠・胚培養にて効率的に目的系統を得るためには、適切な生育ステージの胚を選抜し、多量に培養に供する必要がある。
その為、胚珠を直接培養、又は胚珠から胚を摘出して培養する前に胚の形態を観察し判別することが重要である。
一般的に胚形態を観察する方法として、実体顕微鏡下で胚珠を解剖する方法が挙げられる(例えば非特許文献2参照)。
トマトでは未熟胚や奇形胚などは胚乳部分との癒着が強く、傷つけずに胚を単離するには熟練の技術が必要とされている。
また、組織固定・切片化法(例えば非特許文献3参照)や組織透明化法(例えば非特許文献4、5、6参照)によって胚形態を観察する方法があるが、これらの方法は試料作製に時間を要し、胚を観察するまでに数日~数週間かかること、試料作製の段階で胚が死滅してしまうという欠点がある。
【0003】
次亜塩素酸ナトリウムは、種子等の消毒目的で広く使用されているが、未熟胚を得るために次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用した例として、未熟イネ種子の皮を除き70%エタノールで1分間処理した後、Tween-20を1滴含有する1.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で処理し、続いて滅菌水で洗浄し種子からの未熟胚を、顕微鏡下で滅菌鉗子を使用して無菌的に切除する未熟胚を形質転換に使用する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-531146号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B.R Thomas、外1名、「Efficient Hybridization Between Lycopersicon esculentum and L. peruvianum via Embryo Callus」、Theoretical and Applied Genetics、(ドイツ)、Springer、1981年7月、第59巻、第4号、p. 215-219
【非特許文献2】Lanzhuang Chen、外1名、「Cross-compatibility between the Cultivated Tomato Lycopersicon esculentum and the Wild Species L. peruvianum, L. chilense Assessed by Ovule Culture in vitro」、Japanese Journal of Breeding、一般社団法人日本育種学会、1991年6月1日、第41巻、第2号、p. 223-230
【非特許文献3】新田洋司、「作物の形態研究法:マクロからミクロまで パラフィン切片作製法とその利点」、日本作物学会紀事、日本作物学会、2009年7月7日、第74巻、第1号、p. 95-97
【非特許文献4】ALEKSANDRA PONITKA、外1名、「Cleared-ovule technique used for rapid access to early embryo development in Secale cereale×Zea mays croses」、ACTA BIOLOGICA CRACOVIENSIA Series Botanica、(ポーランド)、Polish Academy of Sciences、2004年3月11日、第46巻、p. 133-137
【非特許文献5】Monika Kwiatkowska、外4名、「Refinement of a clearing protocol to study crassinucellate ovules of the sugar beet (Beta vulgaris L., Amaranthaceae)」、Plant Methods、(英国)、BioMed Central、2019年7月8日、第15巻、第71号
【非特許文献6】坂本勇貴、外1名、「植物の透明化技術TOMEI(A Novel Clearing Method “TOMEI”)」、顕微鏡、公益社団法人日本顕微鏡学会、2016年9月29日、第51巻、第3号、p. 150-153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のとおり、胚珠中の胚の観察や取り出すことが行われている。
本発明の目的は、トマトの胚珠中の胚を取り出し易くするとともに観察も容易となるトマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、トマトの胚珠を特定濃度の次亜塩素酸ナトリウムで浸漬処理することで、胚乳部分と胚の癒着が緩和され、胚珠中の胚が取り出し易くなり、球状胚から成熟胚まで様々な生育ステージの胚を傷つけることなく容易に取り出せること、胚珠が透明化することで胚珠中の胚が目視で観察できることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、トマトの胚珠を0.2質量%以上0.6質量%以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で浸漬することを特徴とするトマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトマトの胚珠中の胚を観察、又は取り出すための前処理方法により胚珠中の胚が観察でき、又は胚珠中から容易に胚を取り出すことができる。
取り出した胚は、培養し発芽およびカルス化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】受粉後10日目の果実、胚珠、胚を示す写真である。
図2】受粉後12日目の果実、胚珠、胚を示す写真である。
図3】受粉後14日目の果実、胚珠、胚を示す写真である。
図4】受粉後17日目の果実、胚珠、胚を示す写真である。
図5】受粉後21日目の果実、胚珠、胚を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、トマトの胚珠とは、受粉後、受精卵が生育開始してから種子になるまでの間の未成熟の種子をいう。
本発明では、受粉した後に肥大した果実の果皮をメス等で切開・切除し、胎座に付着している胚珠をピンセット等で剥離することで、果実内から胚珠を取り出すことができる。
取り出した胚珠は、0.2質量%以上0.6質量%以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で浸漬する。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度が0.2質量%未満では、効果が十分ではなく、0.6質量%を超えると、取り出した胚が成長し難くなるため好ましくない。
浸漬時間は、胚珠の大きさにより、適宜調整するが、トマトの胚珠は図1~5に示すように略楕円形をしているので、胚珠の長手方向(楕円の長径)の長さをLmm、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度をM質量%(Mは0.2以上0.6以下の範囲)としたとき、(3KL)/(5M)秒間(Kは150以上200以下の定数)の範囲が好ましい。
浸漬時間が短い場合は効果が十分ではなく、長くなると、取り出した胚が成長し難くなるため好ましくない。
浸漬方法は、胚珠が次亜塩素酸ナトリウム水溶液で浸漬できれば、特に限定はない。
例えば、ビーカー、チューブ等を使用して浸漬処理をする。
この段階で、胚珠が透明化してくるので、胚を取り出さす胚の形状を観察することができる。
しかし、胚を胚珠から取り出し観察するほうが胚をより確実に観察できる。
胚珠から胚を取り出す方法は、胚珠の珠皮を裂開させ内容物を押し出す方法でよく、例えば、ピンセットで胚珠に穴を開けて胚を押し出す方法が挙げられる。
取り出した胚を培養する場合は、胚を滅菌水等で洗浄し培地を使用して成長させることができる。
培養方法は、従来から植物の胚を培養する方法が使用でき、特に限定はない。
例えば、MS培地・LS培地・White培地・B5培地等の固体培地上に無菌的に胚を静置・培養する方法を挙げることができる。
発芽した胚は培養により植物体にまで育成することができる。
また、培養中に発芽せずにカルス化した胚についても再度分化させることで植物体にまで育成することができる。
【実施例0011】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[試験例]
(1)受粉後、10日目、12日目、14日目、17日目、21日目のトマトの果実(品種名: Micro-Tom(非単為結果性))から果実の果皮をメスで切開・切除し、胎座に付着している胚珠をピンセットで剥離して胚珠を取り出した。
使用したトマトの果実を図1図5(A)に示す。
果実サイズは、10日目は約10mm~12mm、12日目は約12mm~14mm、14日目は約14mm~16mm、17日目は約16mm~17mm、21日目は約17mm~18mmであった。
(2)0.6質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.5mlチューブに分注し、取り出した胚珠を浸漬し数度タッピングして静置した。
浸漬時間は、受粉後、10日目は600秒間、12日目は850秒間、14日目は1100秒間、17日目は1900秒間、21日目は2400秒間行い、胚珠をチューブから取り出した。
胚珠の大きさ(長手方向)は、10日目は約1.7mm~2.0mm、12日目は約2.0mm~2.4mm、14日目は約2.4mm~2.6mm、17日目は約3.0mm~3.6mm、21日目は約3.6mm~3.8mmであった。
浸漬前の胚珠を図1図5(B)に浸漬後の胚珠を図1図5(C)に示す。
浸漬後は、胚珠が透明になり内容物が確認できる状態になった。
(3)ピンセットで胚珠に穴を開け、胚と胚乳(内容物)を押し出した。
(4)押し出した内容物について、胚乳に内包されている胚をピンセットで分離し、滅菌水で洗浄した。
(5)この胚を実体顕微鏡(オリンパス社製:製品名 SZ61)で観察した。
結果を図1図5(D)に示す。
(6)この胚をムラシゲスクーグ培地に置床し温度25℃、明期16時間:暗期8時間の栽培室で培養した。
胚の発芽率は、受粉後の経過日数により影響されるが、本願発明の方法では、胚発芽率は14日目で30サンプル中16サンプル、17日目で6サンプル中6サンプル、21日目で14サンプル中14サンプルであり良好な結果が得られた。
また、胚のカルス化率も受粉後の経過日数により影響されるが、本願発明の方法では、胚のカルス化は10日目で35サンプル中8サンプル、12日目で24サンプル中1サンプル、14日目で30サンプル中2サンプルであった。
図1
図2
図3
図4
図5