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特開2024-112393真空ポンプおよびルーツロータの形状を決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112393
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】真空ポンプおよびルーツロータの形状を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/18 20060101AFI20240814BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F04C18/18 B
F04C29/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017363
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】長山 真己
(72)【発明者】
【氏名】カマタカラ アナガ
(72)【発明者】
【氏名】堀部 悠河
(72)【発明者】
【氏名】大渕 真志
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA06
3H129AB06
3H129BB36
3H129BB42
3H129CC02
(57)【要約】
【課題】粉体がルーツロータ間に挟まれにくく、ルーツロータのスムーズな回転を維持することができる真空ポンプを提供する。
【解決手段】第1ルーツロータ8および第2ルーツロータ9のそれぞれは、インボリュート曲線からなる形状を有するインボリュート側面31と、インボリュート側面31の外側端部に接続された円弧凸面34と、インボリュート側面31の内側端部に接続された円弧凹面36を有しており、円弧凸面34の曲率半径R1は、円弧凹面36の曲率半径R2よりも小さい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのロータ室を内部に有するポンプケーシングと、
前記ロータ室内に並列に配置された第1ルーツロータおよび第2ルーツロータを備え、
前記第1ルーツロータおよび前記第2ルーツロータのそれぞれは、インボリュート曲線からなる形状を有するインボリュート側面と、前記インボリュート側面の外側端部に接続された円弧凸面と、前記インボリュート側面の内側端部に接続された円弧凹面を有しており、
前記円弧凸面の曲率半径は、前記円弧凹面の曲率半径よりも小さい、真空ポンプ。
【請求項2】
前記円弧凸面および前記円弧凹面のそれぞれは、前記インボリュート側面よりも長い、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記円弧凸面および前記円弧凹面が対面したときの、前記円弧凸面と前記円弧凹面との間に形成される空間の幅は、前記円弧凸面と前記円弧凹面との最小隙間の位置から離れるに従って大きくなる、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記円弧凸面の曲率半径は、前記円弧凹面の曲率半径の0.2~0.9倍である、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
ルーツロータの形状を決定する方法であって、
ルーツロータの諸元を変えながら、前記諸元を満たす形状を持つルーツロータの複数の候補を前記演算システムにより生成し、
前記複数の候補のうちの1つの候補の形状を持つ一対のルーツロータの複数の回転角度に対応する前記一対のルーツロータ間の複数の隙間を前記演算システムにより算定し、
前記複数の隙間のうち最大隙間を決定し、
前記複数の候補について、前記複数の隙間の算定と、前記最大隙間の決定を繰り返して、前記複数の候補に対応する複数の最大隙間を決定し、
前記複数の最大隙間のうち最も小さい最大隙間に対応する候補のルーツロータの形状を決定することを含む、方法。
【請求項6】
前記複数の回転角度に対応する前記複数の隙間を補間することで、複数の追加の回転角度に対応する追加の複数の隙間を算定することをさらに含み、
前記最大隙間は、前記複数の隙間と前記追加の複数の隙間から決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記決定された形状のルーツロータは、請求項1乃至3のいずれか一項の前記第1ルーツロータおよび前記第2ルーツロータである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ルーツロータの前記諸元は、一対のルーツロータの中心間距離、ルーツロータの前記インボリュート側面の圧力角、ルーツロータの半径、ルーツロータ間の隙間、ルーツロータの前記円弧凸面の曲率半径、およびルーツロータの前記円弧凹面の曲率半径のうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関し、特に半導体デバイス、液晶パネル、LED、太陽電池等の製造に使用されるプロセスガスを排気する用途に好適に使用される真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶パネル、LED、太陽電池等を製造する製造プロセスにおいては、プロセスガスをプロセスチャンバ内に導入してエッチング処理やCVD処理等の各種処理を行っている。プロセスチャンバに導入されたプロセスガスは、真空ポンプによって排気される。一般に、高い清浄度が必要とされるこれらの製造プロセスに使用される真空ポンプは、気体の流路内にオイルを使用しない、いわゆるドライ真空ポンプである。このようなドライ真空ポンプの代表例として、ロータ室内に配置された一対のルーツロータを互いに反対方向に回転させて、気体を移送する容積式真空ポンプがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-077782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロセスガスは、副生成物からなる粉体を含むことがある。このような粉体は、プロセスガスとともに真空ポンプ内に流入する。また、真空ポンプ内の状態(例えば、温度、圧力)によっては、プロセスガスが真空ポンプに流入した後に真空ポンプ内で粉体が生成されることもある。粉体の大部分は、プロセスガスとともに真空ポンプから排出されるが、粉体の一部はロータ室内に留まり、ロータ室内に徐々に堆積する。特に、対向する2つのルーツロータの凸面と凹面が面接触(実際には非接触)の状態のときに、粉体の逃げ場がないために、粉体はこれらルーツロータの凸面と凹面との間に強く挟まれて、ルーツロータの回転が阻害されてしまうことがある。
【0005】
そこで、本発明は、粉体がルーツロータ間に挟まれにくく、ルーツロータのスムーズな回転を維持することができる真空ポンプを提供する。また、本発明は、そのようなルーツロータの形状を決定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、少なくとも1つのロータ室を内部に有するポンプケーシングと、前記ロータ室内に並列に配置された第1ルーツロータおよび第2ルーツロータを備え、前記第1ルーツロータおよび前記第2ルーツロータのそれぞれは、インボリュート曲線からなる形状を有するインボリュート側面と、前記インボリュート側面の外側端部に接続された円弧凸面と、前記インボリュート側面の内側端部に接続された円弧凹面を有しており、前記円弧凸面の曲率半径は、前記円弧凹面の曲率半径よりも小さい、真空ポンプが提供される。
【0007】
一態様では、前記円弧凸面および前記円弧凹面のそれぞれは、前記インボリュート側面よりも長い。
一態様では、前記円弧凸面および前記円弧凹面が対面したときの、前記円弧凸面と前記円弧凹面との間に形成される空間の幅は、前記円弧凸面と前記円弧凹面との最小隙間の位置から離れるに従って大きくなる。
一態様では、前記円弧凸面の曲率半径は、前記円弧凹面の曲率半径の0.2~0.9倍である。
【0008】
一態様では、ルーツロータの形状を決定する方法であって、ルーツロータの諸元を変えながら、前記諸元を満たす形状を持つルーツロータの複数の候補を前記演算システムにより生成し、前記複数の候補のうちの1つの候補の形状を持つ一対のルーツロータの複数の回転角度に対応する前記一対のルーツロータ間の複数の隙間を前記演算システムにより算定し、前記複数の隙間のうち最大隙間を決定し、前記複数の候補について、前記複数の隙間の算定と、前記最大隙間の決定を繰り返して、前記複数の候補に対応する複数の最大隙間を決定し、前記複数の最大隙間のうち最も小さい最大隙間に対応する候補のルーツロータの形状を決定することを含む、方法が決定される。
【0009】
一態様では、前記方法は、前記複数の回転角度に対応する前記複数の隙間を補間することで、複数の追加の回転角度に対応する追加の複数の隙間を算定することをさらに含み、前記最大隙間は、前記複数の隙間と前記追加の複数の隙間から決定される。
一態様では、前記ルーツロータは、インボリュート曲線からなる形状を有するインボリュート側面と、前記インボリュート側面の外側端部に接続された円弧凸面と、前記インボリュート側面の内側端部に接続された円弧凹面を有しており、前記円弧凸面の曲率半径は、前記円弧凹面の曲率半径よりも小さい。
一態様では、ルーツロータの前記諸元は、一対のルーツロータの中心間距離、ルーツロータの前記インボリュート側面の圧力角、ルーツロータの半径、ルーツロータ間の隙間、ルーツロータの前記円弧凸面の曲率半径、およびルーツロータの前記円弧凹面の曲率半径のうちの少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0010】
第1ルーツロータの円弧凸面の曲率半径は、第2ルーツロータの円弧凹面の曲率半径よりも小さいので、第1ルーツロータの円弧凸面上の1点と第2ルーツロータの円弧凹面上の1点とが最小隙間を形成し、その最小隙間の両側ではルーツロータ間の隙間は徐々に広がる。したがって、粉体は、第1ルーツロータの円弧凸面と第2ルーツロータの円弧凹面との間に挟まれにくい。結果として、ルーツロータは、スムーズな回転を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】真空ポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】ルーツロータの拡大図である。
図4】ルーツロータ間の隙間を説明する拡大図である。
図5】2つのルーツロータが反対方向に回転している様子を示す図である。
図6】ルーツロータの形状を決定する演算システムの一実施形態を示す模式図である。
図7】ルーツロータの形状を決定する方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
図8】一対のルーツロータを一回転させたときのルーツロータ間の隙間の変化を示すグラフである。
図9】三葉ルーツロータの一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、真空ポンプ装置の一実施形態を示す断面図であり、図2図1のA-A線断面図である。以下に説明する実施形態の真空ポンプ装置は、容積式真空ポンプ装置である。特に、図1および図2に示す真空ポンプ装置は、気体の流路内にオイルを使用しない、いわゆるドライ真空ポンプ装置である。ドライ真空ポンプ装置は、気化したオイルが上流側に流れることがないので、高い清浄度が必要とされる半導体デバイスの製造装置に好適に使用することができる。
【0013】
図1に示すように、真空ポンプ装置は、真空ポンプ1と、この真空ポンプ1を駆動する電動機2を備えている。本実施形態の真空ポンプ1は、単段真空ポンプである。すなわち、真空ポンプ1は、ロータ室5を内部に有するポンプケーシング6と、ロータ室5内に配置された単段のルーツロータ8,9と、ルーツロータ8,9を支持する一対の回転軸11,12を備えている。一実施形態では、真空ポンプ1は、複数のロータ室内に配置された多段のルーツロータを有する多段真空ポンプであってもよい。
【0014】
図1ではルーツロータ8および回転軸11のみが示されているが、ルーツロータ8とルーツロータ9は、ポンプケーシング6内に並列に配置されており、回転軸11と回転軸12は並列に配置されている。図2は、互いに並列に配置されているルーツロータ8とルーツロータ9を示している。ルーツロータ8は回転軸11に支持され、ルーツロータ9は回転軸12に支持されている。
【0015】
ルーツロータ8とルーツロータ9は互いに非接触であり、かつルーツロータ8,9は、ポンプケーシング6の内面と非接触である。したがって、ルーツロータ8,9は、潤滑油の使用なしで、ポンプケーシング6内でスムーズに回転することができる。
【0016】
ルーツロータ8と回転軸11は、一体構造物であってもよい。同様に、ルーツロータ9と回転軸12は、一体構造物であってもよい。電動機2は回転軸11,12のうちの一方に連結されている。一実施形態では、一対の電動機2が、回転軸11,12にそれぞれ連結されていてもよい。
【0017】
ポンプケーシング6は、ロータ室5に連通する気体入口14および気体出口15を有している。気体入口14は、移送すべき気体で満たされたチャンバ(図示せず)に連結される。一例では、気体入口14は、半導体デバイスの製造装置のプロセスチャンバに連結され、真空ポンプ1は、プロセスチャンバに導入されたプロセスガスを排気する用途に使用される。
【0018】
真空ポンプ1は、ポンプケーシング6の側壁6Aの外側に位置するギヤハウジング16をさらに備えている。ギヤハウジング16の内部には、互いに噛み合う一対のギヤ20が配置されている。なお、図1では1つのギヤ20のみが描かれている。これらギヤ20は、回転軸11,12にそれぞれ固定されている。電動機2は、図示しないモータドライバによって回転し、電動機2が連結された回転軸11,12のうちの一方は、ギヤ20を介して、電動機2が連結されていない回転軸11,12のうちの他方を反対方向に回転させる。
【0019】
回転軸11,12は、ポンプケーシング6の側壁6Aに保持された軸受17と、ポンプケーシング6の他方の側壁6Bに保持された軸受18により回転可能に支持されている。電動機2は、ポンプケーシング6の側壁6Bの外側に位置するモータハウジング22と、モータハウジング22内に配置されたモータロータ2Aおよびモータステータ2Bを有している。
【0020】
一実施形態では、回転軸11,12にそれぞれ連結された一対の電動機2が設けられてもよい。一対の電動機2は、図示しないモータドライバによって同期して反対方向に回転し、図2に示すように、回転軸11,12およびルーツロータ8,9を同期して反対方向に回転させる。この場合のギヤ20の役割としては、突発的な外的要因によるルーツロータ8の同期回転の脱調を防ぐことにある。
【0021】
電動機2がルーツロータ8,9を回転させると、気体は、気体入口14を通ってロータ室5に吸い込まれる。気体は、ロータ室5内のルーツロータ8,9の回転によって気体出口15Eに送られ、気体出口15Eを通ってポンプケーシング6から排出される。
【0022】
ルーツロータ8,9は、同じ外形を有している。したがって、以下、ルーツロータ8について説明する。図3は、ルーツロータ8の拡大図である。図3に示すように、ルーツロータ8は、インボリュート曲線からなる形状を有するインボリュート側面31と、インボリュート側面31の外側端部に接続された円弧凸面34と、インボリュート側面31の内側端部に接続された円弧凹面36を有している。ルーツロータ8は、2つの突出部を有する、いわゆる二葉ルーツロータである。したがって、ルーツロータ8は、2つの円弧凸面34と、4つのインボリュート側面31と、2つの円弧凹面36を有している。2つの円弧凸面34は、4つのインボリュート側面31の外側端部に接続され、2つの円弧凹面36は、4つのインボリュート側面31の内側端部に接続されている。円弧凸面34および円弧凹面36のそれぞれは、インボリュート側面31よりも長い。
【0023】
円弧凸面34の曲率半径R1は、円弧凹面36の曲率半径R2よりも小さい。一実施形態では、円弧凸面34の曲率半径R1は、円弧凹面36の曲率半径R2の0.2~0.9倍である。したがって、図4に示すように、ルーツロータ8の円弧凸面34が、ルーツロータ9の円弧凹面36に対向するとき、ルーツロータ8の円弧凸面34上の1点とルーツロータ9の円弧凹面36上の1点のみが近接し、円弧凸面34と円弧凹面36との間に最小隙間G1minが形成される。空間40の幅Wは、最小隙間G1minが形成される位置から離れるに従って徐々に大きくなる。
【0024】
ルーツロータ8の円弧凸面34の曲率半径R1は、ルーツロータ9の円弧凹面36の曲率半径R2よりも小さいので、ルーツロータ8の円弧凸面34上の1点とルーツロータ9の円弧凹面36上の1点とが最小隙間G1minを形成し、その最小隙間G1minの両側ではルーツロータ8,9間の隙間は徐々に広がる。したがって、粉体は、ルーツロータ8の円弧凸面34とルーツロータ9の円弧凹面36との間に挟まれにくい。結果として、ルーツロータ8,9は、スムーズな回転を維持することができる。
【0025】
図5は、2つのルーツロータ8,9が反対方向に回転している様子を示す図である。図5に示すように、ルーツロータ8およびルーツロータ9のインボリュート側面31同士は互いに対向し、円弧凸面34および円弧凹面36には対向しない。一方、ルーツロータ8の円弧凸面34は、ルーツロータ9の円弧凹面36に対向し、ルーツロータ9のインボリュート側面31には対向しない。同様に、ルーツロータ9の円弧凸面34は、ルーツロータ8の円弧凹面36に対向し、ルーツロータ8のインボリュート側面31には対向しない。ルーツロータ8およびルーツロータ9が一回転している間、ルーツロータ8とルーツロータ9は線接触せず、点接触(実際には非接触)する。したがって、ルーツロータ8とルーツロータ9との間に粉体が挟まりにくい。2つのルーツロータ8,9のインボリュート側面31間の隙間G2は、常に一定である。
【0026】
インボリュート側面31は、外側に湾曲する面である。したがって、ルーツロータ8のインボリュート側面31上の一点とルーツロータ9のインボリュート側面31上の一点の間に隙間G2が形成され、隙間G2の両側では隙間は広がっている。このようなインボリュート側面31の点接触(実際には非接触)により、ルーツロータ8のインボリュート側面31とルーツロータ9のインボリュート側面31の間には、粉体は挟まりにくい。
【0027】
次に、上述したルーツロータ8,9の形状を決定する方法について説明する。ルーツロータ8,9の形状の決定は、図6に示す演算システム50によって実行される。この演算システム50は、プログラムが格納された記憶装置50aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置50bを備えている。演算システム50は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。記憶装置50aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置50bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、演算システム50の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0028】
図7は、ルーツロータの形状を決定する方法の一実施形態を説明するフローチャートである。
ステップ1では、演算システム50は、ルーツロータの諸元を変えながら、諸元を満たす形状を持つルーツロータの複数の候補を生成する。ルーツロータの諸元は、一対のルーツロータの中心間距離、ルーツロータのインボリュート側面31の圧力角、ルーツロータの半径、ルーツロータ間の隙間、ルーツロータの円弧凸面34の曲率半径、およびルーツロータの円弧凹面36の曲率半径の少なくとも1つを含む。演算システム50は、諸元を構成するこれらの要素(条件)のうちの少なくとも1つを変えながら、諸元を満たす形状を持つルーツロータの複数の候補を生成する。例えば、演算システム50は、ルーツロータのインボリュート側面31の圧力角、ルーツロータの円弧凸面34の曲率半径、およびルーツロータの円弧凹面36の曲率半径を変えながら、諸元を満たす形状を持つルーツロータの複数の候補を生成する。
【0029】
ステップ2では、演算システム50は、上記複数の候補のうちの1つの候補の形状を持つ一対のルーツロータの複数の回転角度に対応するルーツロータ間の複数の隙間を算定する。より具体的には、各候補の形状を持つ一対のルーツロータを仮想空間内で反対方向に回転させながら、ルーツロータ間の隙間を所定の回転角度間隔で算定する。
【0030】
図8は、ある候補の一対のルーツロータを一回転させたときのルーツロータ間の隙間の変化を示すグラフである。図8において、縦軸はルーツロータ間の隙間を表し、横軸はルーツロータの回転角度を表している。2つのルーツロータのインボリュート側面31同士が対向しているときは、ルーツロータ間の隙間G2は概ね一定であるが、2つのルーツロータの円弧凸面34と円弧凹面36が対向しているときは、ルーツロータ間の隙間G1は変化する。
【0031】
演算システム50は、各回転角度でのルーツロータ間の隙間を算定する。したがって、複数の回転角度に対応する複数の隙間が取得される。演算システム50は、得られた複数の隙間のうち最大隙間を決定する。図8の例では、最大隙間はグラフのピーク値である。最大隙間が大きすぎると、真空ポンプ1の排気性能が低下する。
【0032】
ルーツロータの形状によっては、ある回転角度で算出されたルーツロータ間の隙間が負の数値を示すことがある。隙間が負であるということは、ルーツロータが接触することを意味する。ルーツロータが接触すると、ルーツロータの回転が阻害される。したがって、ステップ3では、演算システム50は、上記ステップ2で算出された複数の隙間の中に負の隙間があるか否かを判定する。
ステップ4では、負の隙間がある場合には、演算システム50は、上記ステップ1で生成した複数の候補から、負の隙間があるその候補を削除する。
【0033】
ステップ5では、演算システム50は、各候補について算定された複数の隙間の中から最大隙間を決定する。
ステップ6では、演算システム50は、複数の候補に関して、複数の隙間の算定と、最大隙間の決定を繰り返して、複数の候補にそれぞれ対応する複数の最大隙間を決定する。より具合的には、演算システム50は、ステップ2からステップ5を繰り返す。
ステップ7では、演算システム50は、上記ステップ6で決定された複数の最大隙間のうち最も小さい最大隙間に対応する候補のルーツロータの形状を決定する。
このようにして、図1乃至図5を参照して説明したルーツロータ8,9の形状が決定される。
【0034】
一実施形態では、上記ステップ2において、ルーツロータ間の隙間をより細かい回転角度間隔で算定するために、演算システム50は、算定された複数の隙間を回転角度に沿って補間することで、追加の複数の隙間を算定してもよい。すなわち、演算システム50は、追加の複数の回転角度に対応する追加の複数の隙間を補間する。補間の例としては、スプライン補間が挙げられる。上記ステップ5では、最大隙間は、ステップ2で算定された複数の隙間と、上記追加の複数の隙間の中から決定される。
【0035】
隙間の補間は、予め定められた回転角度範囲内でのみ実行されてもよい。例えば、隙間の補間は、図4に示すように、円弧凸面34と円弧凹面36が対向する回転角度範囲内で実行されてもよい。特に、円弧凸面34と円弧凹面36との隙間G1が最小になる回転角度(図8の2つのピーク点の間のボトム点の回転角度)を含む回転角度範囲内で隙間の補間が実行されてもよい。
【0036】
上述した実施形態のルーツロータ8,9は、2つの突出部を有する二葉ルーツロータであるが、本発明は上記実施形態には限定されず、3つの突出部を有する三葉ルーツロータ、または4つ以上の突出部を有する多葉ルーツロータにも適用することができる。
【0037】
例えば、図9は、三葉ルーツロータの一実施形態を示す図である。この実施形態でも、ルーツロータ51,52のそれぞれは、インボリュート曲線からなる形状を有するインボリュート側面31と、インボリュート側面31の外側端部に接続された円弧凸面34と、インボリュート側面31の内側端部に接続された円弧凹面36を有しており、円弧凸面34の曲率半径R3は、円弧凹面36の曲率半径R4よりも小さい。特に説明しない三葉ルーツロータ51,52の本実施形態の構成は、図1乃至図5を参照して説明した上記実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0038】
図6乃至図8を参照して説明したルーツロータの形状を決定する方法の実施形態は、図9に示す三葉ルーツロータ、および4つ以上の突出部を有する多葉ルーツロータにも適用することができる。
【0039】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0040】
1 真空ポンプ
2 電動機
2A モータロータ
2B モータステータ
5 ロータ室
6 ポンプケーシング
8,9 ルーツロータ
11,12 回転軸
14 気体入口
15 気体出口
16 ギヤハウジング
17 軸受
18 軸受
20 ギヤ
22 モータハウジング
31 インボリュート側面
34 円弧凸面
36 円弧凹面
40 空間
50 演算システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9