(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112576
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/047 20060101AFI20240814BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240814BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240814BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240814BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240814BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240814BHJP
A61K 36/82 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
A61K31/047
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P25/28
A61P25/24
A61P25/16
A61P25/18
A23L33/105
A61K36/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017711
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 遼太郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018ME10
4B018ME14
4C088AB45
4C088AC05
4C088BA06
4C088BA11
4C088NA14
4C088ZB21
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA09
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZA18
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】アルギナーゼ1の発現を促進する物質を提供することを目的とする。
【解決手段】R1バリゲノール及び/又はテアサポゲノールBを有効成分として含有する、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R1バリゲノールを有効成分として含有する、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤。
【請求項2】
テアサポゲノールBを有効成分として含有する、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤。
【請求項3】
R1バリゲノールとテアサポゲノールBとを有効成分として含有する、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳内の免疫細胞であるミクログリアは脳内の恒常性維持を担う細胞の1つである。ミクログリアはIL-10やアルギナーゼ1等の抗炎症因子を発現することで脳内炎症を抑制し、認知症等の神経変性疾患に対して保護的に作用することが知られている。
【0003】
アルギナーゼ1は、アルギニンから尿素を生成する反応を触媒する酵素であるアルギナーゼのアイソタイプの1つである。アルギナーゼ1の発現上昇によって基質であるアルギニンが枯渇し、それによってアルギニンを原料に産生される一酸化窒素の合成が抑制され、抗炎症作用を示すことが知られている(非特許文献1)。
【0004】
以上のことから、ミクログリアのアルギナーゼ1の発現を促進させる物質が求められている。
【0005】
また、ミクログリアは、脳内の恒常性維持を担い、脳内へのミクログリアの注入は神経保護的に働くこと(非特許文献2)からも、脳内のミクログリアの維持や増殖促進は神経保護に貢献すると考えられている。そのため、ミクログリアに細胞毒性を示さずに増殖を促進する物質が求められている。
【0006】
以上の背景から、ミクログリアに細胞毒性を示さずに増殖を促進し、アルギナーゼ1の発現を上昇させる物質が求められている。
【0007】
ところで、アルギナーゼ1の発現を促進する物質は既に知られている。
【0008】
例えば、特許文献1には、ヒト皮膚組織において、白麹菌に含まれる14-デヒドロエルゴステロール及びエルゴステロールがアルギナーゼ1の発現を促進することが記載されている。
【0009】
特許文献2には、ヒト皮膚組織においてオレアノール酸がアルギナーゼ1の産生を促進することが記載されている。一方で、特許文献2には、ミクログリアにおけるオレアノール酸のアルギナーゼ1の産生促進効果や、細胞増殖能に与える影響については記載されていない。
【0010】
特許文献3には、木通(モクツウ)の抽出エキスが表皮のアルギナーゼ1の発現を促進することが記載されている。
【0011】
特許文献4には、バクモンドウエキスが皮膚細胞のアルギナーゼ1の発現を促進することが記載されている。
【0012】
特許文献5には、アンズ果汁が皮膚細胞のアルギナーゼ1の発現を促進することが記載されている。
【0013】
一方、特許文献6には、R1-バリゲノールがオキシトシン受容体を活性化することが示されている。また、特許文献7には、R1-バリゲノールがミクログリアの活性化を抑制することが記載されている。
【0014】
しかしながら、R1-バリゲノールが、アルギナーゼ1遺伝子発現を促進する効果を有することは、従来において知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第6783962号公報
【特許文献2】特許第6605794号公報
【特許文献3】特許第3823373号公報
【特許文献4】特開2003-277285号公報
【特許文献5】特許第5527917号公報
【特許文献6】特開2022-072837号公報
【特許文献7】特開2022-183626号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】ファルマシア, p.362, Vol. 53, No. 4, 2017
【非特許文献2】薬剤学, 71 (5), 259-267 (2011), ミクログリアによるBBB非崩壊型の脳へのターゲティングDDS
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述の実情に鑑み、アルギナーゼ1遺伝子の発現を促進する物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、R1バリゲノールとテアサポゲノールBがアルギナーゼ1遺伝子発現を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を包含する。
【0019】
[1]R1バリゲノールを有効成分として含有する、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤。
[2]テアサポゲノールBを有効成分として含有する、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤。
[3]R1バリゲノールとテアサポゲノールBとを有効成分として含有する、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルギナーゼ1遺伝子の発現を促進することができる。また、本発明によれば、脳内ミクログリア細胞の増殖を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、R1バリゲノール及び/又はテアサポゲノールBを有効成分として含有するものである。特に、本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、ミクログリアにおけるアルギナーゼ1遺伝子の発現を促進するものである。また、本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、脳内ミクログリア細胞の増殖を促進することができ、ミクログリア増殖促進剤ということもできる。
【0022】
アルギナーゼ1は、アルギニンから尿素を生成する反応を触媒する酵素であるアルギナーゼのアイソタイプの1つである。アルギナーゼ1の発現上昇によって基質であるアルギニンが枯渇し、それによってアルギニンを原料に産生される一酸化窒素の合成が抑制され、抗炎症作用を示すことが知られている(ファルマシア, p.362, Vol. 53, No. 4, 2017)。
【0023】
本発明において有効成分の1つである、R1バリゲノール(R1-barrigenol)は、茶に含まれるサポニンのアグリコンであり、抗菌作用(Oh JH, et al., Molecules. 19(3):3607-3616, 2014 Published 2014 Mar 24. doi:10.3390/molecules19033607)、トリテルペン類の1種オキシトシン受容体活性化作用(特開2022-072837号公報)やミクログリア活性化抑制効果(特開2022-183626号公報)等が知られている。R1バリゲノールは、下記化学式1の構造を有している。
【0024】
【0025】
また、本発明において有効成分の1つである、テアサポゲノールB(Theasapogenol B)は、茶に含まれるサポニンのアグリコンである(農化, 第43巻, 第11号, pp. 750~757, 1969)。テアサポゲノールBは、下記化学式2の構造を有している。
【0026】
【0027】
本発明において、R1バリゲノール及び/又はテアサポゲノールBは、天然物由来の素材である茶の花部及び葉部より抽出して得られる抽出物から精製することができる。茶は、ツバキ科ツバキ属の植物チャノキ(学名Camellia sinensis)である。抽出試料として例えば茶の花部や葉部を用いることが出来る。本発明においてこれらの抽出試料の保存状態、粉砕方法、品種又は産地は、特に限定されない。
【0028】
抽出物は、当業者に公知の抽出方法によって得ることができ、例えば抽出方法として、有機溶媒抽出、超臨界流体抽出法、加温加圧抽出法等を挙げることができる。上記抽出方法は、それぞれを単独で用いてもよいし、複数の抽出方法を組合せて用いてもよい。
【0029】
本発明において、特に好ましい抽出方法は溶媒抽出である。溶媒抽出は当業者に知られる一般的な手法を用いて行うことができる。具体的には、先ず、粉砕物又は乾燥破砕物に水と有機溶媒とを添加して、室温又は加温にて抽出する。
【0030】
抽出溶媒としては、エタノール、メタノール、酢酸エチル、アセトン、水等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの溶媒は単独又は2種類以上を混合して用いてもよい。好ましくは、食品等への使用の安全性からエタノールを用いるのが望ましい。添加する溶媒の量は、抽出素材の重量の1~100倍、好ましくは5~50倍、例えば10倍量を用いる。
【0031】
抽出方法としては、例えば、茶の花部若しくは葉部と前記抽出溶媒とを混合し、室温で1~5時間攪拌又は抽出溶媒の煮沸温度で1~5時間還流して抽出を行った後、ろ過や遠心分離等により抽出液から試料残渣を取り除き、減圧又は限外ろ過により抽出物を濃縮する方法が挙げられる。さらに酸若しくはアルカリによる加水分解を行う。さらに、抽出液を乾固、凍結乾燥、スプレードライ等の一般的な方法により乾燥させることも出来る。
【0032】
上記のようにして得られた抽出物より、R1-バリゲノール及び/又はテアサポゲノールBを適当な分離法及び精製法を組み合わせて精製して用いることが可能である。当該精製法としては、例えば、液-液分配、有機溶媒沈澱、各種カラムクロマトグラフィー(例えば、HPLC、シリカゲルクロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等)、結晶化等を使用することができる。
【0033】
得られた、R1-バリゲノール及び/又はテアサポゲノールBは、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤としてそのまま直接摂取することも出来るし、また、公知の担体や各種基材等に配合することも出来る。
【0034】
また、本発明は、本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤を含有するアルギナーゼ1遺伝子発現促進用食品に関する。本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品、栄養機能食品等の保健機能食品、特別用途食品(例えば、病者用食品)、疾病リスク低減表示を付した食品、健康補助食品、サプリメント等として調製されてもよい。
【0035】
サプリメントとして、例えば、一般的なサプリメントの製造に用いられる種々の添加剤と共に錠剤、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等の形状とすることができる。また液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。
【0036】
配合可能な食品に特に限定はないが、例えば、飯類、餅類、麺類、パン類及びパスタ類等の炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキ等の洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルトやプリン等の冷菓や氷菓などの各種菓子類;ジュース、清涼飲料水、乳飲料、茶飲料、機能性飲料、栄養補助飲料、ノンアルコールビール等の各種飲料;ビール、発泡酒等のアルコール飲料;スープ、味噌汁、お吸い物等の飲食品;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギ等)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味類を含む);だし、しょうゆ、みりんその他の調味料等が挙げられる。
【0037】
また、本発明に係る食品は、本発明の効果を損なわない範囲で、アルギナーゼ1遺伝子発現促進剤の他、栄養補助成分等の他の成分を含むことができる。かかる成分には、ビタミン類(例えば、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK、ナイアシン、パントテン酸、葉酸等)、カロチノイド(例えば、β-カロチン、リコピン、フコキサンチン等)、ミネラル類(例えば、海藻成分、CCM、ヘム鉄、鉄塩系、乳清カルシウム、発酵乳酸カルシウム、牛骨カルシウム、珊瑚カルシウム、卵殻カルシウム等)、各種植物体並びにその抽出物、精製物及び分画物(例えば、オオバコ、クロレラ、スピルリナ、にんにく、いちょう葉、ギムネマ、杜仲の葉、しその葉、ハトムギ、大豆グロブリン、ルチン、緑茶抽出物、テアニン、ポリフェノール類、甘草、ユッカ、大豆サポニン、カフェイン、ホワトルベリーエキス、シャンピニオンエキス、ガルシニア・カンボジアエキス等)、微生物並びにその増殖因子及び微生物生産物(例えば、乳酸菌、酵母、乳酸菌増殖因子等)、食物繊維及びその酵素分解物(例えば、アップルファイバー、コーンファイバー、澱粉由来の食物繊維、難消化性デキストリン、グアガム酵素分解物、サツマイモ繊維、大豆繊維、海藻繊維、きのこ繊維、茶繊維、酸性多糖類、植物粘質物、小麦フスマ等)、動物体並びにその抽出物、精製物、分解物及び生産物(例えば、ローヤルゼリー、プロポリス、牡蠣エキス、キチン、キトサン、タウリン、コラーゲン、ゼラチン等)、各種オリゴ糖(例えば、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等)、脂質(例えば、不飽和脂肪酸(DHA、EPA等)、リン脂質、サラトリム等)、各種蛋白質及び蛋白分解物(例えば、とうもろこし蛋白、大豆蛋白、TMP(トータルミルクプロテイン)、ラクトアルブミン、カゼイン、ホエー、グルタチオン、大豆ペプチド、卵白ペプチド、グルタミンペプチド等)、脱脂胚芽等の小麦胚芽等が挙げられる。
【0038】
本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、助剤と共に任意の形態に製剤化して、経口投与が可能な食品又は医薬品とすることができる。例えば、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバターを担体として使用できる。
【0039】
経口剤の態様とする場合は、有効成分に、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)又は滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及びオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)等を用いることができる。
【0040】
本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、経口剤として投与する場合は、R1バリゲノール及び/又はテアサポゲノールBの配合濃度や、剤型、投与対象者の年齢、体重、性別、運動前に服用する場合には運動の負荷等の条件により適宜定めることができる。例えば、剤型がタブレットの場合、水等と一緒に服用することが好ましい。投与間隔は適宜定めることができ、例えば、食事の前、食事の後、食間、運動の前、運動の後のいずれであってもよい。
【0041】
本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤の経口投与量は、1日当たりのヒトのR1バリゲノール及び/又はテアサポゲノールB摂取量として、通常1mg~5000mg/日であり、好ましくは5mg~1000mg/日であり、更に好ましくは10mg~100mg/日である。
【0042】
また、本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤が、R1バリゲノールとテアサポゲノールBとの双方を有効成分として含有する場合には、例えばR1バリゲノールとテアサポゲノールBとをモル濃度比で1:1~1:10で含有することが好ましい。このようなモル濃度比によれば、R1バリゲノール又はテアサポゲノールB単独の場合と比較して、より高いアルギナーゼ1遺伝子発現促進効果を得ることができる。
【0043】
本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤の効果については、例えば細胞レベルで、本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤を添加した培地でミクログリア細胞を培養した後、当該促進剤不添加等の陰性対照と比較して、ミクログリア細胞株におけるアルギナーゼ1遺伝子のmRNAレベルでの発現量が有意に高い場合には、本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、有用な効果を有するものと判断することができる。
【0044】
経口摂取した本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤は、脳内に移行し、脳内ミクログリアのアルギナーゼ1の発現が促進され脳内の炎症が抑制される。脳内の炎症は、様々な脳機能の低下や障害の原因であり、本発明に係るアルギナーゼ1遺伝子発現促進剤によって認知機能の改善、ストレスの低減、うつ症状の緩和、また認知症、パーキンソン病、統合失調症、自閉症等の神経炎症を呈する疾患の症状が改善される。
【実施例0045】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕アルギナーゼ1遺伝子発現測定試験1
(1)培地調整
R1-バリゲノール(以下、「R1B」と省略する)、テアサポゲノールB(以下、「TheaB」と省略する)、オレアノール酸(以下、「OA」と省略する)がアルギナーゼ1遺伝子の発現に与える影響を評価するために、表1の通り4つの配合を設定した。被験物質をDMSOに溶解させたサンプル液をDMEM培地(10%FBS含有)に0.5%含むように添加し、終濃度が表1に記載の濃度となるようにした。配合1には、0.5%濃度となるようにDMSOを添加した。
【0047】
【0048】
(2)細胞試験
マウスミクログリア細胞株(BV2細胞)を96Well plateに5×104個/wellとなるように播種した。培地はDMEM培地(10%FBS含有)を用いた。24時間後、表1の通り調整した配合1~4の培地に交換した。
【0049】
配合1~4の培地で24時間培養した後にミクログリア中のmRNAをTRIzol RNA Isolation Reagents(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、RNeasy Mini Kit(株式会社キアゲン)を用いて抽出した。抽出したRNAサンプルからPrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ株式会社)を用いてcDNAを合成した。TB Green Premix Ex Taq(タカラバイオ株式会社)を用いてリアルタイムPCRにてGAPDHとアルギナーゼ1の定量分析を行った。アルギナーゼ1の遺伝子発現量はGAPDHに対する相対発現量で評価し、配合1で処理した細胞の発現量を1とした時の各細胞の遺伝子発現量を表2に記載した。
【0050】
【0051】
実験の結果、配合2(R1-バリゲノール 20μM含有)と配合3(テアサポゲノールB 20μM含有)で処理した細胞のアルギナーゼ1遺伝子発現は配合1で処理した細胞に比べて高いことから20μMのR1-バリゲノールとテアサポゲノールBのアルギナーゼ1遺伝子発現促進効果が示された。
【0052】
また、配合4(オレアノール酸 20μM含有)で処理した細胞のアルギナーゼ1遺伝子発現は配合1で処理した細胞よりも低かった。特許第6605794号公報において、オレアノール酸は皮膚組織においてアルギナーゼ1の発現を促進すると記載されていたが、ミクログリア細胞においては20μMのオレアノール酸はアルギナーゼ1遺伝子の発現促進効果を有しないことが示された。
【0053】
〔実施例2〕細胞毒性評価試験1
mRNAの抽出以外は実施例1と同様に実施した。実施例1と同様に配合1~4の培地で24時間培養した後、CellTiter 96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(プロメガ株式会社)を用いて生細胞数を評価した。生細胞数は配合1の培地で培養した細胞を100とした時の相対値で評価した。結果を表3に示した。
【0054】
【0055】
試験の結果、配合2(R1-バリゲノール 20μM含有)と配合3(テアサポゲノールB 20μM含有)で処理した細胞の生細胞数は配合1に比べて高いことからR1-バリゲノールとテアサポゲノールBは細胞毒性を示さず、ミクログリアの増殖を促進することが示された。一方で、配合4(オレアノール酸 20μM含有)の結果から、20μMのオレアノール酸はミクログリアの増殖を促進しないことが示された。
【0056】
実施例1の結果と合わせて考えると、R1-バリゲノールとテアサポゲノールBはミクログリアの増殖を促進し、且つアルギナーゼ1遺伝子の発現を上昇させるが、オレアノール酸にこれらの効果は認められなかった。
【0057】
〔実施例3〕アルギナーゼ1遺伝子発現測定試験2
(1)培地調整
R1-バリゲノール(以下、「R1B」と省略する)とテアサポゲノールB(以下、「TheaB」と省略する)をミクログリアに共添加した際のアルギナーゼ1遺伝子の発現を評価するために、表4の通り6つの配合を設定した。被験物質をDMSOに溶解させたサンプル液をDMEM培地(10%FBS含有)に0.5%含むように添加し、終濃度が表4に記載の濃度となるようにした。配合5には0.5%濃度となるようにDMSOを添加した。添加したR1BとTheaBのモル濃度比率は表4の通りとなった。
【0058】
【0059】
(2)細胞試験
配合5~10の培地を用いて実施例1の細胞試験と同様に実施した。
試験の結果、表5に示すように、配合7、8、9で処理した細胞のアルギナーゼ1遺伝子発現が配合6(R1Bのみ添加)と配合10(TheaBのみ添加)で処理した細胞に比べて高かった。このことからR1BとTheaBをモル濃度比で1:1~1:10で添加した際に高いアルギナーゼ1遺伝子発現促進効果が示された。
【0060】
【0061】
〔実施例4〕細胞毒性評価試験2
R1-バリゲノール(以下、「R1B」と省略する)とテアサポゲノールB(以下、「TheaB」と省略する)の共添加のミクログリアに対する細胞毒性及び細胞増殖能に与える影響を評価した。
【0062】
実施例3の培地調整と同様に配合5~10の培地を調製した。さらに、また使用する培地の配合以外は実施例2と同様に実施した。生細胞数は配合5の培地で培養した細胞を100とした時の相対値で評価した。結果を表6に示した。
【0063】
【0064】
試験の結果、配合7、8、9で処理した場合の生細胞数が配合6(R1Bのみ添加)と配合10(TheaBのみ添加)で処理した細胞に比べて多かった。このことからR1BとTheaBをモル濃度比で1:1~1:10で添加した際に高いミクログリアの細胞増殖促進効果が示された。
【0065】
実施例3の結果と合わせて考えるとR1BとTheaBをそれぞれ単体で添加した場合に比べて、R1BとTheaBをモル濃度比で1:1~1:10で添加した場合に高い細胞増殖促進効果を示し、且つアルギナーゼ1遺伝子発現促進効果を示した。