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特開2024-112617窒化物結晶成長用種基板、窒化物結晶基板の製造方法、および剥離中間体
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  • 特開-窒化物結晶成長用種基板、窒化物結晶基板の製造方法、および剥離中間体 図1
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  • 特開-窒化物結晶成長用種基板、窒化物結晶基板の製造方法、および剥離中間体 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112617
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】窒化物結晶成長用種基板、窒化物結晶基板の製造方法、および剥離中間体
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20240814BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20240814BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20240814BHJP
   H01L 21/205 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B33/00
C30B25/18
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017784
(22)【出願日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 正史
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 序章
(72)【発明者】
【氏名】今野 泰一郎
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB02
4G077AB09
4G077AB10
4G077BE13
4G077BE15
4G077DB04
4G077DB08
4G077EB01
4G077ED02
4G077ED06
4G077EF02
4G077FJ03
4G077HA12
4G077TA04
4G077TB02
4G077TB05
5F045AA03
5F045AA04
5F045AB14
5F045AC03
5F045AC08
5F045AC12
5F045AC19
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045AF04
5F045AF09
5F045AF19
5F045BB12
5F045DA53
(57)【要約】
【課題】窒化物結晶基板を容易に得る。
【解決手段】窒化物結晶成長用種基板は、基板と、基板の上方に設けられ、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層と、中間層上に設けられ、中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含むカバー層と、を備え、中間層は、ポーラス状に構成され、カバー層の表面の算術平均粗さは、1.0nm以下であり、カバー層の表面の二乗平均平方根粗さは、2.0nm以下である、ここで、算術平均粗さおよび二乗平均平方根粗さは、原子間力顕微鏡によりカバー層の表面を5μm角の視野で観察したときの値である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に設けられ、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層と、
前記中間層上に設けられ、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含むカバー層と、
を備え、
前記中間層は、ポーラス状に構成され、
前記カバー層の表面の算術平均粗さは、1.0nm以下であり、
前記カバー層の前記表面の二乗平均平方根粗さは、2.0nm以下である、
ここで、前記算術平均粗さおよび前記二乗平均平方根粗さは、原子間力顕微鏡により前記カバー層の前記表面を5μm角の視野で観察したときの値である
窒化物結晶成長用種基板。
【請求項2】
前記中間層の厚さは、100nm超である
請求項1に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【請求項3】
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記基板の主面に沿った方向における前記中間層中の前記複数のボイドのそれぞれの長さは、前記基板の主面に直交する任意の断面を見たときに、30nm以上である
請求項1または請求項2に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【請求項4】
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記基板の主面に沿った方向における前記中間層中の前記複数のボイドのそれぞれの長さは、前記カバー層の下面から下方に30nmの深さにおける前記基板の主面に沿った断面を見たときに、30nm以上である
請求項1または請求項2に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【請求項5】
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記中間層の厚さ方向における前記複数のボイドのそれぞれの深さは、100nm超である
請求項1または請求項2に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【請求項6】
前記カバー層の厚さは、10nm以上2μm以下である
請求項1または請求項2に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【請求項7】
前記基板の直径は、2インチ以上である
請求項1または請求項2に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【請求項8】
前記基板と前記中間層との間に設けられ、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含む下地層をさらに備える
請求項1または請求項2に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【請求項9】
(a)基板を準備する工程と、
(b)前記基板の上方に、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層を形成する工程と、
(c)前記中間層上に、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含むカバー層を形成する工程と、
(d)電気化学処理により、前記カバー層の表面状態を維持しつつ、前記カバー層における転位を通して前記中間層をポーラス状にする工程と、
(e)前記カバー層上に、III族窒化物結晶からなる再成長層をエピタキシャル成長させる工程と、
(f)ポーラス状にした前記中間層の少なくとも一部を境として、前記再成長層を前記基板から剥離させる工程と、
を備える
窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項10】
(f)では、(e)後に降温する間に、前記再成長層を前記基板から自発的に剥離させる
請求項9に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項11】
(e)では、(0001)面を成長面として前記再成長層を成長させる
請求項9または請求項10に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項12】
(f)では、前記再成長層に生じた引張応力により、前記(0001)面を上側が凹んだ球面状に反らせることで、前記基板の外周から中央に向けて前記再成長層を自発的に剥離させる
請求項11に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項13】
(a)では、前記基板として、III族窒化物からなる自立基板を準備し、
(f)後に、(g)残存した前記基板の表面を研磨する工程を実施し、
(b)から(g)までを含むサイクルを繰り返す
請求項9または請求項10に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【請求項14】
請求項9または請求項10に記載の窒化物結晶基板の製造方法により得られる剥離中間体であって、
少なくとも、前記カバー層と、前記再成長層と、を備える
剥離中間体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物結晶成長用種基板、窒化物結晶基板の製造方法、および剥離中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物結晶からなる窒化物結晶基板を得る製造方法として、様々な方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-178984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、再成長層を安定的に成長させるとともに、再成長層を容易に剥離することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
基板と、
前記基板の上方に設けられ、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層と、
前記中間層上に設けられ、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含むカバー層と、
を備え、
前記中間層は、ポーラス状に構成され、
前記カバー層の表面の算術平均粗さは、1.0nm以下であり、
前記カバー層の前記表面の二乗平均平方根粗さは、2.0nm以下である、
ここで、前記算術平均粗さおよび前記二乗平均平方根粗さは、原子間力顕微鏡により前記カバー層の前記表面を5μm角の視野で観察したときの値である
窒化物結晶成長用種基板が提供される。
【0006】
本開示の他の態様によれば、
(a)基板を準備する工程と、
(b)前記基板の上方に、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層を形成する工程と、
(c)前記中間層上に、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含むカバー層を形成する工程と、
(d)電気化学処理により、前記カバー層の表面状態を維持しつつ、前記カバー層における転位を通して前記中間層をポーラス状にする工程と、
(e)前記カバー層上に、III族窒化物結晶からなる再成長層をエピタキシャル成長させる工程と、
(f)ポーラス状にした前記中間層の少なくとも一部を境として、前記再成長層を前記基板から剥離させる工程と、
を備える
窒化物結晶基板の製造方法が提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
上述の窒化物結晶基板の製造方法により得られる剥離中間体であって、
少なくとも、前記カバー層と、前記再成長層と、を備える
剥離中間体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、再成長層を安定的に成長させるとともに、再成長層を容易に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶成長用種基板を示す概略断面図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。
図3A図3Aは、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示す概略断面図である。
図3B図3Bは、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示す概略断面図である。
図3C図3Cは、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示す概略断面図である。
図4図4は、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示す概略断面図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示す概略断面図である。
図6図6は、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示す概略断面図である。
図7図7は、本開示の一実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法を示す概略断面図である。
図8A図8Aは、サンプルA1の表面を原子間力顕微鏡により観察した図である。
図8B図8Bは、サンプルA2の表面を原子間力顕微鏡により観察した図である。
図8C図8Cは、サンプルA3の表面を原子間力顕微鏡により観察した図である。
図9図9は、サンプルA1の断面を走査型電子顕微鏡により観察した図である。
図10図10は、サンプルA2の断面を走査型電子顕微鏡により高倍率で観察した図である。
図11図11は、サンプルA1の再成長層が剥離した断面を走査型電子顕微鏡により観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<発明者等が得た知見>
窒化物結晶基板を得る製造方法として、例えば、上述の特許文献1に記載のVAS(Void-Assisted Separation)法が知られている。
【0011】
VAS法では、まず、サファイア基板上に、GaN層およびTi層をこの順で成長させる。次に、水素(H)ガスおよびアンモニア(NH)ガスを含む雰囲気中で熱処理を行うことで、Ti層をメッシュ状のTiN層に改質しつつ、GaN層中にボイドを形成する。この状態のTiN層およびGaN層上に、GaN再成長層を成長させる。その後、ボイドを有するGaN層を境として、GaN再成長層を基板から剥離させる。その結果、剥離したGaN再成長層から、GaN結晶基板を得ることができる。
【0012】
しかしながら、VAS法では、面内で均一なメッシュ状のTiN層と、面内で均一なボイドを有するGaN層と、を形成することが困難であった。このため、大面積のGaN結晶基板を得ることが困難となっていた。
【0013】
そこで、発明者等は、窒化物層にボイドを形成する方法として、電気化学処理を検討した。発明者等は、鋭意検討した結果、以下に記載する方法により、再成長層を安定的に成長させるとともに、再成長層を容易に剥離させることに成功した。
【0014】
以下の本開示は、発明者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0015】
<本開示の一実施形態>
以下、本開示の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
(1)窒化物結晶成長用種基板
図1を参照し、本実施形態に係る窒化物結晶成長用種基板について説明する。なお、図1において、中間層300を除く断面のハッチングを省略している。
【0017】
以下では、ウルツ鉱構造を有するIII族窒化物結晶において、<0001>軸(例えば[0001]軸)を「c軸」といい、(0001)面を「c面」という。なお、(0001)面を「+c面(III族元素極性面)」といい、(000-1)面を「-c面(窒素(N)極性面)」ということがある。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る窒化物結晶成長用種基板10は、例えば、後述の再成長層500を安定的に成長させ、その後に再成長層500を剥離させるための積層構造を有する中間体として構成されている。
【0019】
具体的には、本実施形態の窒化物結晶成長用種基板10は、例えば、基板100と、下地層200と、中間層300と、カバー層400と、を有している。
【0020】
[基板]
本実施形態では、基板100は、例えば、III族窒化物と異なる材料からなる基板である。具体的には、基板100としては、例えば、サファイア基板、炭化シリコン(SiC)基板、シリコン(Si)基板、ガリウム砒素(GaAs)基板が挙げられる。なお、基板100は、絶縁性であってもよいし、導電性であってもよい。ここでは、基板100は、例えば、サファイア基板とする。
【0021】
一方で、基板100は、III族窒化物からなる自立基板(例えばGaN自立基板)であってもよい。
【0022】
基板100の直径は、例えば、2インチ(50.8mm)以上であり、或いは、4インチ(100mm)以上であってもよい。これにより、後述する大面積の再成長層500を成長させることができる。
【0023】
基板100の厚さは、例えば、150μm以上3mm以下である。
【0024】
基板100は、例えば、成長面となる主面120を有している。主面120に対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面(+c面)である。
【0025】
本実施形態では、基板100のc面が、主面120に対して傾斜していてもよい。すなわち、基板100のc軸は、主面120の法線に対して所定のオフ角で傾斜していてもよい。基板100のオフ角は、例えば、0°以上5°以下である。
【0026】
基板100の主面120の算術平均粗さ(Ra)は、例えば、0.3nm未満である。
【0027】
[下地層]
下地層200は、例えば、基板100上に設けられ、III族窒化物結晶を含んでいる(III族窒化物結晶からなっている)。
【0028】
下地層200は、III族窒化物結晶を含む層として、例えば、窒化アルミニウム(AlN)バッファ層と、窒化ガリウム(GaN)層と、を基板100上にこの順で有している。ただし、下地層200は、AlNバッファ層を有していなくてもよい。
【0029】
下地層200のうちのGaN層は、例えば、n型である。当該GaN層は、n型不純物(n型ドーパント)として、例えば、Siを含んでいる。
【0030】
下地層200のうちのGaN層中のキャリア濃度は、例えば、後述の中間層300のキャリア濃度よりも低い。言い換えれば、下地層200のうちのGaN層中のn型不純物濃度は、例えば、後述の中間層300のn型不純物濃度よりも低い。具体的には、下地層200中のキャリア濃度(およびn型不純物濃度)は、例えば、1×1018cm-3以下である。これにより、後述の中間層300を電気化学処理によりポーラス状にするポーラス工程S50において、中間層300の下側のエッチングストッパとして、下地層200を機能させることができる。
【0031】
下地層200のうちのGaN層中のキャリア濃度の下限値は限定されるものではない。ただし、下地層200のうちのGaN層中のキャリア濃度は、例えば、1×1016cm-3以上であってもよい。これにより、下地層200自身も若干の導電性を有していることで、後述のポーラス工程S50において、電気化学処理により、中間層300の下部に向けて中間層300のエッチングを進行させることができる。
【0032】
下地層200の厚さは特に限定されるものではない。ただし、下地層200の厚さは、例えば、0nm超5μm以下であってもよい。下地層200の厚さを5μm以下とすることで、基板100上の積層総厚を例えば15μm以下に調整することができる。これにより、基板100と下地層200などの各層との線膨張係数差に起因したクラックを抑制することができる。
【0033】
下地層200の表面に対して最も近い低指数の結晶面は、GaN層のc面である。
【0034】
[中間層]
中間層300は、例えば、基板100の上方に位置する下地層200上に設けられ、n型のIII族窒化物結晶を含んでいる。(中間層300の後述のボイド360以外の部分はIII族窒化物結晶からなっている。)
【0035】
中間層300は、n型のIII族窒化物結晶を含む層として、例えば、SiドープGaN層により構成されている。
【0036】
本実施形態では、中間層300中のキャリア濃度は、例えば、下地層200中のキャリア濃度および後述のカバー層400中のキャリア濃度よりも高い。言い換えれば、中間層300中のn型不純物濃度は、例えば、下地層200中のキャリア濃度および後述のカバー層400中のn型不純物濃度よりも高い。具体的には、中間層300中のキャリア濃度(およびn型不純物濃度)は、例えば、3×1018cm-3以上であり、或いは1×1019cm-3以上であってもよい。
【0037】
なお、中間層300中のキャリア濃度の上限値は限定されるものではない。ただし、中間層300中のキャリア濃度は、例えば、1×1020cm-3以下であってもよく、或いは5×1019cm-3以下であってもよい。これにより、中間層300の結晶性の低下を抑制することができる。
【0038】
本実施形態では、キャリア濃度が相対的に高い中間層300は、電気化学処理の選択的なエッチングにより、複数のボイド360を含むポーラス状に構成されている。これにより、窒化物結晶成長用種基板10上に再成長させた再成長層500を、ポーラス状にした中間層300の少なくとも一部を境として、基板100から剥離させることができる。
【0039】
本実施形態では、電気化学処理により、カバー層400の厚さ方向に貫通する転位Dを通して、中間層300に電解液を浸透させることで、中間層300中に複数のボイド360が形成されている。
【0040】
これにより、中間層300中の複数のボイド360のそれぞれは、例えば、後述のカバー層400中の複数の転位Dのそれぞれと重なる位置に形成されている。中間層300中の複数のボイド360は、例えば、カバー層400の下面から厚さ方向に基板100に向けて延在している。なお、ボイド360は、下地層200に到達していなくてもよい。
【0041】
一方で、中間層300のボイド360以外の隔壁部分は、下地層200の上部または中間層300の下部と、カバー層400とを繋いでいる。これにより、中間層300は、複数のボイド360を有していても、一定の厚さを維持している。
【0042】
本実施形態では、中間層300の厚さは、例えば、100nm超であり、或いは500nm以上であってもよく、或いは1μm以上あってもよい。これにより、中間層300中に大きなボイド360を形成することができる。
【0043】
中間層300の厚さの上限値は限定されるものではない。ただし、中間層300の厚さは10μm以下であってもよい。中間層300の厚さを10μm以下とすることで、基板100上の積層総厚を例えば15μm以下に調整することができる。これにより、基板100と中間層300などの各層との線膨張係数差に起因したクラックを抑制することができる。
【0044】
本実施形態では、基板100の主面120に沿った方向における中間層300中の複数のボイド360のそれぞれの長さは、基板100の主面120に直交する任意の断面を見たときに、例えば、30nm以上であり、或いは100nm以上であってもよい。これにより、後述の再成長層500を窒化物結晶成長用種基板10上に再成長させる再成長工程S60において、中間層300のボイド360を維持することができる。
【0045】
本実施形態では、基板100の主面120に沿った方向における中間層300中の複数のボイド360のそれぞれの長さは、後述のカバー層400の下面から下方に30nmの深さにおける基板100の主面に沿った断面を見たときに、例えば、30nm以上であり、或いは100nm以上であってもよい。これによっても、後述の再成長層500を窒化物結晶成長用種基板10上に再成長させる再成長工程S60において、中間層300のボイド360を維持することができる。
【0046】
基板100の主面120に沿った方向における中間層300中のボイド360の長さの上限値は限定されるものではない。ただし、基板100の主面120に沿った方向におけるボイド360の長さは10μm以下であってもよい。これにより、後述の中間層300をポーラス状にするポーラス工程S50において電気化学処理条件を適宜調整することで、中間層300がエッチングされるときに発生するアウトガスを起因としたカバー層400の剥離を抑制することができる。
【0047】
本実施形態では、中間層300の厚さ方向における複数のボイド360のそれぞれの深さは、例えば、100nm超であり、或いは500nm以上であってもよく、或いは1μm以上であってもよい。これによっても、後述の再成長層500を窒化物結晶成長用種基板10上に再成長させる再成長工程S60において、中間層300のボイド360を維持することができる。
【0048】
ボイド360の深さの上限値は限定されるものではない。ただし、ボイド360の深さは、中間層300の厚さ以下としてもよい。これにより、後述の再成長層500を剥離させる剥離工程S70において、中間層300から他の層への剥離の過剰な広がりを抑制することができる。
【0049】
[カバー層]
カバー層400は、例えば、中間層300上に設けられ、III族窒化物結晶を含んでいる。(カバー層400の後述の微小ボイド以外の部分はIII族窒化物結晶からなっている。)
【0050】
カバー層400は、III族窒化物結晶を含む層として、例えば、SiドープGaN層により構成されている。ただし、カバー層400は、例えば、ノンドープ層(ノンドープGaN層)であってもよい。
【0051】
本実施形態では、カバー層400中のキャリア濃度は、例えば、中間層300のキャリア濃度よりも低い。言い換えれば、カバー層400中のn型不純物濃度は、例えば、中間層300のn型不純物濃度よりも低い。具体的には、カバー層400中のキャリア濃度(およびn型不純物濃度)は、例えば、1×1018cm-3以下である。これにより、中間層300をポーラス状にするポーラス工程S50において、当該カバー層400のエッチングを抑制しつつ、中間層300を選択的にポーラス状にすることができる。すなわち、所定の電圧下で、中間層300のボイド360のサイズを大きくしつつ、カバー層400の微小ボイドを大きくならないようにすることができる。
【0052】
カバー層400中のキャリア濃度の下限値は限定されるものではない。ただし、カバー層400中のキャリア濃度は、例えば、1×1016cm-3以上であってもよく、或いは、1×1017cm-3以上であってもよい。このように、カバー層400自身も導電性を有していることで、中間層300をポーラス状にするポーラス工程S50の電気化学処理において、カバー層400を介して中間層300を陽極842に接続し、中間層300の全体を陽極842と等電位にすることができる。
【0053】
本実施形態では、カバー層400は、例えば、厚さ方向に貫通する複数の転位Dを有している。カバー層400の表面における転位密度は、例えば、1×10cm-2以上1×10cm-2以下である。上述のように、電気化学処理により、カバー層400の厚さ方向に貫通する転位Dを通して、中間層300に電解液を浸透させることで、中間層300をポーラス状にすることができる。
【0054】
これに対し、本実施形態では、キャリア濃度が相対的に低いカバー層400の表面は、ほとんどエッチングされていない。つまり、カバー層400が上述のように複数の転位Dを有していても、カバー層400の転位D付近の表面では、過度なエッチングが生じていない。これにより、カバー層400の表面状態は、平坦に維持されている。
【0055】
具体的には、カバー層400の表面の算術平均粗さ(Ra)は、例えば、1.0nm以下であり、且つ、カバー層400の表面の二乗平均平方根粗さ(RMS)は、例えば、2.0nm以下である。或いは、カバー層400の表面のRaは、例えば、0.5nm以下であってもよく、且つ、カバー層400の表面のRMSは、例えば、1.0nm以下であってもよい。ここで、RaおよびRMSは、原子間力顕微鏡(AFM)によりカバー層400の表面を5μm角の視野で観察したときの値である。
【0056】
上述のように、カバー層400の表面粗さを小さく維持することで、カバー層400上に、結晶性の良い厚膜の再成長層500を安定的に成長させることができる。
【0057】
なお、カバー層400の表面のRaおよびRMSの下限値は限定されるものではなく、基板100の主面120のRaおよびRMSに近くてもよい。具体的には、カバー層400の表面のRaおよびRMSの下限値は、それぞれ、0.1nm、0.2nmであってもよい。
【0058】
カバー層400の表面では、転位D付近にエッチングが生じていないが、カバー層400の表面よりも下の位置では、転位Dを含む領域に、エッチングされた微小なボイド(不図示)が生じていてもよい。この場合、微小なボイドは、カバー層400の表面よりも下の位置から、中間層300に近づくにつれて広がるように形成される。
【0059】
本実施形態では、カバー層400の厚さは、例えば、10nm以上2μm以下であり、或いは50nm以上1.5μm以下であってもよい。カバー層400の厚さを80nm以上とし、或いは100nm以上とすることで、中間層300をポーラス状にするポーラス工程S50において、中間層300がエッチングされるときに発生するアウトガスを起因としたカバー層400の剥離を抑制することができる。一方で、カバー層400の厚さを2μm以下とし、或いは1.5μm以下とすることで、中間層300をポーラス状にするポーラス工程S50において、カバー層400の転位Dを通して中間層300まで、電解液を安定的に到達させることができる。これにより、中間層300のボイド形成を安定的に行うことができる。
【0060】
(2)窒化物結晶基板の製造方法
図1図7を参照し、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法について説明する。なお、図3B図7において、中間層300を除く断面のハッチングを省略している。
【0061】
図2に示すように、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法は、例えば、基板準備工程S10と、下地層形成工程S20と、中間層形成工程S30と、カバー層形成工程S40と、ポーラス工程S50と、再成長工程S60と、剥離工程S70と、後処理工程S80と、を有している。
【0062】
(S10:基板準備工程)
まず、図3Aに示すように、基板100を準備する。ここでは、基板100は、例えば、サファイア基板とする。基板100の直径を、例えば、2インチ(50.8mm)以上とする。
【0063】
基板100は、例えば、成長面となる主面120を有している。主面120に対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面(+c面)とする。上述のように、基板100のc軸は、主面120の法線に対して所定のオフ角で傾斜していてもよい。
【0064】
(S20:下地層形成工程)
基板100を準備したら、図3Aに示すように、例えば、気相成長法により、基板100上にIII族窒化物結晶を含む下地層200を形成する。
【0065】
具体的には、例えば、ハイドライド気相成長(HVPE)法により、所定の成長温度に加熱された基板100に対して、塩化アルミニウム(AlCl)ガスおよびNHガスを供給することで、AlNバッファ層を成長させる。次に、所定の成長温度に加熱された基板100に対して、塩化ガリウム(GaCl)ガスおよびNHガスを供給することで、GaN層を成長させる。なお、各層の成長温度を、例えば、900℃以上1100℃以下とする。以上により、基板100の主面120上に、下地層200として、AlNバッファ層およびGaN層をこの順で形成する。
【0066】
本実施形態では、下地層200を例えばn型とする。具体的には、下地層200としてのGaN層を成長させるときに、n型ドーパントガスとしてのジクロロシラン(SiHCl)ガスを更に供給することで、SiドープGaN層を成長させる。
【0067】
本実施形態では、下地層200のうちのGaN層中のキャリア濃度を、例えば、中間層300のキャリア濃度よりも低くする。言い換えれば、下地層200のうちのGaN層中のn型不純物濃度を、例えば、中間層300のn型不純物濃度よりも低くする。具体的には、下地層200中のキャリア濃度(およびn型不純物濃度)を、例えば、1×1018cm-3以下とする。
【0068】
本実施形態では、下地層200の表面に対して最も近い低指数の結晶面は、GaN層のc面となる。このような結晶面を有する平坦な下地層200の表面を予め形成しておくことで、下地層200の表面上に、結晶性の良い中間層300およびカバー層400を成長させることができる。
【0069】
(S30:中間層形成工程)
下地層200を形成したら、図3Bに示すように、例えば、気相成長法により、基板100の上方に位置する下地層200上に、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層300を形成する。
【0070】
具体的には、例えば、有機金属気相成長(MOVPE)法により、所定の成長温度に加熱された基板100に対して、III族原料ガスとしてのトリメチルガリウム(TMG)ガス、アンモニアガス(NH)およびn型ドーパントガスとしてのトリメチルシラン(SiH(CH)ガスを供給することで、下地層200上に、中間層300として、SiドープGaN層を成長させる。なお、中間層300は、c面を成長面として成長する。
【0071】
本実施形態では、中間層300中のキャリア濃度を、例えば、下地層200のキャリア濃度およびカバー層400のキャリア濃度よりも高くする。言い換えれば、中間層300中のn型不純物濃度を、例えば、下地層200のn型不純物濃度およびカバー層400のn型不純物濃度よりも高くする。具体的には、中間層300中のキャリア濃度(およびn型不純物濃度)を、例えば、3×1018cm-3以上とし、或いは1×1019cm-3以上としてもよい。これにより、後述のポーラス工程S50において中間層300を選択的にポーラス状にすることができる。
【0072】
本実施形態では、中間層300の厚さを、例えば、100nm超とし、或いは500nm以上としてもよく、或いは1μm以上としてもよい。これにより、後述のポーラス工程S50において、中間層300中に大きなボイドを形成することができる。
【0073】
(S40:カバー層形成工程)
中間層300を形成したら、図3Cに示すように、例えば、気相成長法により、中間層300上に、III族窒化物結晶を含むカバー層400を形成する。
【0074】
具体的には、例えば、MOVPE法により、n型ドーパントガスとしてのSiHガスの供給量が中間層形成工程S30よりも少ない点を除いて中間層形成工程S30と同様の条件下で、中間層300上に、カバー層400として、SiドープGaN層を成長させる。なお、カバー層400は、c面を成長面として成長する。
【0075】
本実施形態では、カバー層400中のキャリア濃度を、例えば、中間層300のキャリア濃度よりも低くする。言い換えれば、カバー層400中のn型不純物濃度を、例えば、中間層300のn型不純物濃度よりも低くする。具体的には、カバー層400中のキャリア濃度(およびn型不純物濃度)を、例えば、1×1018cm-3以下とする。これにより、後述のポーラス工程S50において、当該カバー層400のエッチングを抑制しつつ、中間層300を選択的にポーラス状にすることができる。
【0076】
本実施形態では、カバー層400の厚さを、例えば、10nm以上2μm以下とし、或いは50nm以上1.5μm以下としてもよい。これにより、後述のポーラス工程S50において、アウトガスを起因とした剥離を抑制しつつ、カバー層400の転位Dを通した中間層300のボイド形成を安定的に行うことができる。
【0077】
ここで、カバー層形成工程S40が完了した状態では、下地層200、中間層300およびカバー層400は、例えば、厚さ方向に貫通する複数の転位Dを有している。カバー層400の表面における転位密度は、例えば、1×10cm-2以上1×10cm-2以下である。カバー層400における転位Dは、以下のポーラス工程S50に利用される。
【0078】
(S50:ポーラス工程)
カバー層400を形成したら、図4に示すように、電気化学処理により、カバー層400の表面状態を維持しつつ、カバー層400の転位Dを通して中間層300をポーラス状にする。
【0079】
具体的には、例えば、以下の手順により、電気化学処理を行う。
【0080】
図4に示すように、まず、処理槽820と、電源840と、電流計860と、を準備する。なお、電源840および電流計860は、電流電圧電源として1つの装置に組み込まれていてもよい。
【0081】
処理槽820内には、電解液810を充填する。電解液810は、III族窒化物を電気化学エッチング可能なイオンを含む溶液である。電解液810としては、例えば、しゅう酸、硝酸、フッ化水素酸、硫酸、硫酸ナトリウム(NaSO)、水酸化ナトリウム(NaOH)などを含む水溶液が挙げられる。ここでは、電解液810をしゅう酸溶液とする。
【0082】
また、電気化学処理を行うための各電極を準備する。具体的には、上述のカバー層形成工程S40が完了した積層体において、カバー層400の表面に陽極842を設け、陽極842を電源840に接続する。一方で、陰極844を準備し、陰極844を電源840に接続する。陰極844としては、腐食耐性を有しつつ電流が流れやすい材料が用いられる。具体的な陰極844としては、例えば、プラチナ(Pt)、金(Au)、ボロンドープダイヤモンドが挙げられる。
【0083】
各電極の接続が完了したら、陽極842を接続した積層体と、陰極844とを、処理槽820内の電解液810に浸漬させる。この状態で、電源840により、陽極842と陰極844との間に所定の電圧を印加する。これにより、電気化学処理を行う。このとき、電流計860における電流の変化に基づき、電気化学処理の進行具合を確認する。
【0084】
このとき、当該電気化学処理により、キャリア濃度が相対的に低いカバー層400の転位Dを通して、キャリア濃度が相対的に高い中間層300に向けて、C 2-を含む電解液を浸透させる。すなわち、カバー層400の転位Dを、電解液が浸透するナノサイズの経路として利用する。このようにして中間層300まで到達した電解液により、中間層300を選択的にエッチングする。これにより、中間層300中の複数の転位D付近において、それぞれ、複数のボイド360を形成する。その結果、中間層300をポーラス状にすることができる。
【0085】
一方で、以下の反応式により、中間層300をエッチングしたときに生じるIII族元素イオン(Ga3+)と、窒素(N)ガスとが、カバー層400の転位Dを通して、カバー層400よりも外側に放出される。
2GaN + 6h → 2Ga3+ + N
【0086】
このとき、本実施形態では、基板100の主面120に沿った方向における中間層300中の複数のボイド360のそれぞれの長さを、基板100の主面120に直交する任意の断面を見たときに、例えば、30nm以上とし、或いは100nm以上としてもよい。
【0087】
このとき、本実施形態では、基板100の主面120に沿った方向における中間層300中の複数のボイド360のそれぞれの長さを、カバー層400の下面から下方に30nmの深さにおける基板100の主面に沿った断面を見たときに、例えば、30nm以上とし、或いは100nm以上としてもよい。
【0088】
このとき、本実施形態では、中間層300の厚さ方向における複数のボイド360のそれぞれの深さを、例えば、100nm超とし、或いは500nm以上とし、或いは1μm以上としてもよい。
【0089】
このような複数のボイド360を中間層300に形成することにより、後述の再成長工程S60において、中間層300のボイド360を維持することができる。
【0090】
一方で、当該電気化学処理において、キャリア濃度が相対的に低いカバー層400の表面では、ほとんどエッチングが生じない。これにより、カバー層400の表面状態を平坦に維持することができる。
【0091】
このとき、本実施形態では、ポーラス工程S50後において、カバー層400の表面のRaを、例えば、1.0nm以下とし、且つ、カバー層400の表面のRMSを、例えば、2.0nm以下とする。或いは、カバー層400の表面のRaを、例えば、0.5nm以下としてもよく、且つ、カバー層400の表面のRMSを、例えば、1.0nm以下としてもよい。ここで、RaおよびRMSは、AFMによりカバー層400の表面を5μm角の視野で観察したときの値である。
【0092】
上述のように、カバー層400の表面粗さを小さく維持することで、カバー層400上に、結晶性の良い厚膜の再成長層500を安定的に成長させることができる。
【0093】
上述した中間層300の選択的エッチングを実現することができる電気化学処理の具体的条件としては、例えば、以下が挙げられる。処理電圧は、中間層300などのキャリア濃度に基づいて調整される。処理電流は、処理面積(基板100の面積)に基づいて調整される。処理時間は、中間層300の厚さに基づいて調整される。
【0094】
電解液の温度:常温(10℃以上30℃以下)
処理電圧:1V以上200V以下、或いは10V以上20V以下
処理電流:0.01mA以上60A以下、或いは0.1mA以上10A以下
処理時間:0.1min以上180min以下、或いは1min以上30min以下
【0095】
以上の電気化学処理により、窒化物結晶成長用種基板10が形成される。
【0096】
電気化学処理の後、窒化物結晶成長用種基板10を処理槽820の電解液から取り出す。その後、処理槽820から取り出した窒化物結晶成長用種基板10を、純水などにより洗浄し、乾燥させる。これにより、中間層300のボイド360中に残留した電解液が除去される。以上により、ポーラス工程S50が完了する。
【0097】
このようにして、図1に示した本実施形態の窒化物結晶成長用種基板10が得られる。当該窒化物結晶成長用種基板10は、後述の再成長工程S60および剥離工程S70に用いられる。
【0098】
(S60:再成長工程)
ポーラス工程S50が完了したら、図5に示すように、カバー層400上に、III族窒化物結晶からなる再成長層500をエピタキシャル成長させる。再成長層500の成長方法としては、例えば、気相成長法を用いる。
【0099】
具体的には、例えば、HVPE法により、所定の成長温度に加熱された窒化物結晶成長用種基板10に対して、GaClガスおよびNHガスを供給することで、GaN層を成長させる。なお、各層の成長温度を、例えば、1000℃以上1100℃以下とする。以上により、カバー層400の表面上に、再成長層500として、GaN層をエピタキシャル成長させる。なお、再成長層500としての当該GaN層中に各種ドーパントを添加してもよい。
【0100】
このとき、本実施形態では、表面が平坦なカバー層400上において再成長層500の成長を開始することで、c面510以外の結晶面(傾斜界面)を生じさせることなく、c面510を成長面として再成長層500を成長させることができる。つまり、再成長層をVAS法などのように3次元成長させるのではなく、カバー層400の表面全体にわたって再成長層500をステップフロー成長させることができる。これにより、再成長層500の結晶性を向上させることができる。なお、再成長層500のc面510の法線であるc軸は、所定のオフ角で傾斜した基板100のc軸を引き継いだオフ角で傾斜していてもよい。
【0101】
このとき、本実施形態では、再成長層500の厚さを、例えば、600μm以上とし、或いは1mm以上としてもよい。再成長層500の厚さの上限値は特に限定されるものではない。ただし、生産性向上の観点から、再成長層500の厚さを、例えば、100mm以下としてもよい。
【0102】
ここで、再成長層500は、カバー層400から引き継がれた複数の転位Dを有している。しかしながら、再成長層500での転位Dの位置が、厚膜の再成長層500の成長とともに、ランダムウォークのように移動する。これにより、再成長層500の成長中に、転位D同士が会合したり、転位Dがループを形成したりする。このような現象により、厚膜の再成長層500表面に到達する転位が減少する。その結果、再成長層500の転位密度を低減することが可能となる。(なお、図5は簡略化しているため、図5中の転位数は減少していない。)
【0103】
その結果、本実施形態では、再成長層500の表面における転位密度を、例えば、3×10cm-2以下とすることができ、或いは1×10cm-2以下とすることができ、或いは5×10cm-2以下とすることができる。再成長層500の表面における転位密度の上限値は、再成長層500の厚さに依存する。
【0104】
(S70:剥離工程)
再成長工程S60が完了したら、図6に示すように、ポーラス状にした中間層300の少なくとも一部を境として、再成長層500を基板100から剥離させる。
【0105】
本実施形態では、再成長工程S60後に降温する間に、再成長層500を基板100から自発的に剥離させる。
【0106】
ここで、再成長工程S60では、再成長層500に引張応力が生じる。これは、例えば、上述したように、再成長層500の厚さが厚くなるにしたがって、転位密度が減少していることに起因している。
【0107】
このようにして再成長層500に生じた引張応力により、再成長層500のc面510を上側が凹んだ球面状に反らせる。これにより、基板100の外周から中央に向けて再成長層500を自発的に且つ徐々に剥離させる。その結果、大面積の再成長層500の剥離を容易かつ安定的に行うことができる。
【0108】
以上の剥離工程S70により、少なくとも、カバー層400と、再成長層500と、を備える剥離中間体20が形成される。剥離中間体20のカバー層400の下面に、中間層300の残留片が残っていてもよい。
【0109】
(S80:後処理工程)
剥離工程S70が完了したら、図7に示すように、例えば、再成長層500の表面の中心の法線方向に対して垂直な切断面に沿って、ワイヤーソーにより、再成長層500をスライスする。これにより、アズスライス基板としての窒化物結晶基板50(以下、「基板50」と略す)を形成する。
【0110】
次に、研磨装置により基板50の両面を研磨する。これにより、基板50の主面が鏡面化される。
【0111】
以上の工程により、本実施形態のIII族窒化物の単結晶からなる基板50が得られる。
【0112】
基板50の直径は、例えば、2インチ以上であり、或いは4インチ以上であってもよい。基板50の厚さは、例えば、150μm以上3mm以下である。
【0113】
(3)本実施形態のまとめ
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0114】
(a)本実施形態のポーラス工程S50では、電気化学処理により、カバー層400の表面状態を維持しつつ、カバー層400の転位Dを通して中間層300をポーラス状にする。再成長工程S60では、カバー層400上に、再成長層500をエピタキシャル成長させる。
【0115】
ここで、比較例1として、カバー層400を形成せずに、ポーラス状にした中間層300上に直接的に再成長層500を成長させる場合について説明する。比較例1では、再成長層500を成長させるときに、中間層300中のボイド360が再成長層500により埋め込まれる。このため、再成長層500の剥離のきっかけとなるボイド360が消失してしまう。その結果、再成長層500を基板100から剥離することが困難となる。
【0116】
これに対し、本実施形態では、上述のように、キャリア濃度が相対的に低いカバー層400が、キャリア濃度が相対的に高い中間層300を覆った状態で、電気化学処理を行う。これにより、カバー層400の表面状態を維持しつつ、カバー層400の転位Dを通して、中間層300を選択的にポーラス状にすることができる。
【0117】
ポーラス状の中間層300上におけるカバー層400の表面状態を平坦に維持することで、再成長工程S60において、当該カバー層400を再成長下地層として利用して、結晶性の良い厚膜の再成長層500を安定的に成長させることができる。
【0118】
一方で、平坦なカバー層400により、中間層300の複数のボイド360を覆っていることで、再成長工程S60において、中間層300中のボイド360の埋め込みを抑制し、中間層300中のボイド360を維持することができる。その後、ポーラス状に維持された中間層300の少なくとも一部を境として、再成長層500を基板100から容易かつ安定的に剥離させることができる。
【0119】
以上のようにして、本実施形態によれば、剥離した再成長層500から、III族窒化物の単結晶からなる基板50を容易に得ることが可能となる。
【0120】
(b)本実施形態のポーラス工程S50後に得られる窒化物結晶成長用種基板10では、カバー層400の表面のRaが1.0nm以下であり、且つ、カバー層400の表面のRMSが2.0nm以下である。すなわち、カバー層400が上述のように複数の転位Dを有していても、カバー層400の表面状態が平坦に維持されている。これにより、上述のように、カバー層400上に、結晶性の良い厚膜の再成長層500を安定的に成長させることができる。
【0121】
(c)本実施形態の中間層形成工程S30では、中間層300の厚さを100nm超とする。これにより、ポーラス工程S50において、中間層300中に大きなボイド360を形成することができる。
【0122】
ここで、比較例2として、文献Fabien C.-P. Massabuau et al.,APL Mater.8,031115(2020)について説明する。比較例2では、高nドープ層と、低nドープ層と、を交互に複数積層させた。次に、当該積層体に対して、電気化学処理を行った。これにより、ポーラス状の高nドープ層と、低nドープ層と、を複数有するDBR(distributed Bragg reflector)を形成した。ポーラス状の高nドープ層と、低nドープ層と、のそれぞれの厚さは、DBRに入射する光の波長の1/4倍程度であり、例えば、100nm以下としていた。
【0123】
しかしながら、比較例2において、仮にDBR上に再成長層を成長させると、再成長における成長温度において、ポーラス状の高nドープ層が潰され、高nドープ層中のボイドが消失してしまう。このため、再成長層を基板から剥離するための犠牲層として、DBRを利用することが困難となる。
【0124】
これに対し、本実施形態では、中間層300の厚さを100nm超とすることで、上述のように、中間層300中に大きなボイド360を形成することができる。これにより、再成長工程S60において、中間層300中の潰れを抑制し、中間層300中のボイド360を維持することができる。その結果、ポーラス状に維持された中間層300の少なくとも一部を境として、再成長層500を基板100から容易かつ安定的に剥離させることができる。
【0125】
(d)本実施形態のポーラス工程S50では、基板100の主面120に沿った方向における中間層300中の複数のボイド360のそれぞれの長さを、基板100の主面120に直交する任意の断面を見たときに、30nm以上とする。
【0126】
さらに、本実施形態のポーラス工程S50では、基板100の主面120に沿った方向における中間層300中の複数のボイド360のそれぞれの長さを、カバー層400の下面から下方に30nmの深さにおける基板100の主面に沿った断面を見たときに、例えば、30nm以上とする。
【0127】
これにより、再成長工程S60において、基板100の主面120に沿った方向におけるボイド360の微小な潰れが生じたとしても、中間層300中のボイド360を消失させずに維持することができる。その結果、(c)と同様に、再成長層500を基板100から容易かつ安定的に剥離させることができる。
【0128】
(e)本実施形態のポーラス工程S50では、中間層300の厚さ方向における複数のボイド360のそれぞれの深さを、100nm超とする。これにより、再成長工程S60において、中間層300の厚さ方向(深さ方向)におけるボイド360の微小な潰れが生じたとしても、中間層300中のボイド360を消失させずに維持することができる。その結果、(c)および(d)と同様に、再成長層500を基板100から容易かつ安定的に剥離させることができる。
【0129】
(f)本実施形態のカバー層形成工程S40では、カバー層400の厚さを10nm以上2μm以下とする。
【0130】
カバー層400の厚さが10nm未満であると、ポーラス工程S50において中間層300がエッチングされるときに発生するNガスなどのアウトガスによって、カバー層400が中間層300から容易に剥離する可能性がある。
【0131】
これに対し、本実施形態では、カバー層400の厚さを10nm以上とすることで、ポーラス工程S50において中間層300がエッチングされるときにNガスなどのアウトガスが生じたとしても、カバー層400を維持しつつ、カバー層400の転位Dを通して、カバー層400よりも外側にアウトガスを放出することができる。これにより、中間層300からのカバー層400の剥離を抑制することができる。
【0132】
一方で、カバー層400の厚さが2μm超であると、ポーラス工程S50において、カバー層400の転位Dを通して中間層300まで電解液を到達させることが困難となる。このため、中間層300中にボイド360を形成することが困難となる。
【0133】
これに対し、本実施形態では、カバー層400の厚さを2μm以下とすることで、ポーラス工程S50において、カバー層400の転位Dを通して中間層300まで、電解液を安定的に到達させることができる。これにより、中間層300中にボイド360を安定的に形成することができる。
【0134】
(g)本実施形態の剥離工程S70では、再成長工程S60後に降温する間に、再成長層500を基板100から自発的に剥離させる。
【0135】
ここで、本実施形態の方法と異なる別の方法として、例えば、ダミー基板転写方法が考えられる。当該ダミー基板転写方法では、ダミー基板を再成長層500に貼り付けて、ダミー基板とともに再成長層500を基板100から機械的に剥離する。しかしながら、ダミー基板転写方法は、ダミー基板貼り付け、機械的剥離、およびダミー基板除去を含むため、工程が複雑になる。
【0136】
これに対し、本実施形態では、再成長層500を基板100から自発的に剥離させることで、特段の別工程を不要とすることができる。つまり、製造方法を簡略化することができる。
【0137】
(h)本実施形態の剥離工程S70では、再成長層500に生じた引張応力により、c面510を上側が凹んだ球面状に反らせることで、基板100の外周から中央に向けて再成長層500を自発的に剥離させる。
【0138】
ここで、上述のダミー基板転写方法では、ダミー基板による機械的剥離具合が作業者の力加減に依存するため、再成長層500を基板100から均等に剥がすことが困難となる。
【0139】
これに対し、本実施形態では、再成長層500のc面510の反りを利用することで、基板100の外周から中央に向けて再成長層500を徐々に剥離させることができる。言い換えれば、基板100の中央に対して同心円状に均等に、再成長層500を剥離させることができる。その結果、大面積の再成長層500の剥離を容易かつ安定的に行うことができる。
【0140】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0141】
上述の実施形態では、下地層形成工程S20を行う場合について説明したが、下地層形成工程S20を行わなくてもよい。つまり、下地層200は無くてもよい。中間層形成工程S30において、基板100上に、中間層300を直接形成してもよい。
【0142】
上述の実施形態では、下地層200の上層、中間層300、カバー層400および再成長層500のそれぞれがGaN結晶を含む場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。各層は、GaN結晶に限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物結晶、すなわち、InAlGa1-x-yNの組成式(但し、0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される結晶からなっていてもよい。
【0143】
上述の実施形態では、基板100の主面120のRaが0.3nm未満である場合について説明したが、基板100の主面120は、例えば、周期的な凹凸を有するようにパターン加工されていてもよい。基板100は、例えば、いわゆるPSS(Patterned Sapphire Substrate)であってもよい。
【0144】
上述の実施形態では、基板100がIII族窒化物からなる自立基板(例えばGaN自立基板)であってもよいと述べた。当該基板100としてのIII族窒化物からなる自立基板は、例えば、以下の変形例のように、いわゆるGaN on GaNで成長させた半導体装置の機能層を剥離した後に、再利用してもよい。
【0145】
変形例では、まず、基板準備工程S10において、基板100として、III族窒化物からなる自立基板を準備する。基板準備工程S10後、上述の実施形態と同様に、下地層形成工程S20からポーラス工程S50までを行う。次に、再成長工程S60において、再成長層500として、機能層を成長させる。ここでいう「機能層」とは、半導体装置の少なくとも一部として機能する層のことを意味する。剥離工程S70では、再成長層500としての機能層を剥離する。次に、剥離工程S70後に、残存した基板100の表面を研磨する研磨工程を実施する。研磨工程後、基板100を再利用することで、下地層形成工程S20から研磨工程までを含むサイクルを繰り返す。このように、変形例では、基板100としてのIII族窒化物からなる自立基板を再利用することができ、半導体装置などの製造コストを低減することができる。
【0146】
上述の実施形態では、下地層200の上層、中間層300、カバー層400および再成長層500が、互いに同一のGaN結晶を含む場合について説明したが、下地層200の上層、中間層300、カバー層400および再成長層500のうち少なくとも1層が、他の層と異なるIII族窒化物結晶を含んでいてもよい。
【0147】
上述の実施形態では、下地層200の上層、中間層300、カバー層400および再成長層500がn型ドーパントとしてSiを含む場合について説明したが、下地層200の上層、中間層300、カバー層400および再成長層500の少なくとも1層は、n型ドーパントとして、例えば、ゲルマニウム(Ge)を含んでいてもよい。
【0148】
上述の実施形態では、下地層200、中間層300、カバー層400および再成長層500の成長方法として、上述のそれぞれの気相成長法を用いる場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。下地層200、中間層300、カバー層400および再成長層500の成長方法として、それぞれ、MOVPE法、HVPE法、HVPE法およびMOVPE法を用いてもよい。或いは、下地層200、中間層300、カバー層400および再成長層500のうち少なくともいずれかの成長方法として、気相成長法以外の成長方法を用いてもよい。
【実施例0149】
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について説明する。
【0150】
(1)窒化物結晶成長用種基板および剥離中間体の作製について
サンプルA1~A6、サンプルB1~3のそれぞれにおいて、後述の表1および以下に記載した条件下で窒化物結晶成長用種基板を作製した。サンプルA1~A6においては、窒化物結晶成長用種基板を用いて再成長工程および剥離工程を行った。
【0151】
[基板]
サンプルA1において、窒化物結晶成長用種基板を得るための基板は、以下の基板を使用した。
基板:サファイア基板
基板の主面の面方位:+c面
基板の直径:4インチ(100.0mm)
基板の厚さ:650μm
サンプルA2~A6、サンプルB1~3において、窒化物結晶成長用種基板を得るための基板は、以下の基板を使用した。
基板:サファイア基板
基板の主面の面方位:+c面
基板の直径:2インチ(50.8mm)
基板の厚さ:430μm
【0152】
[サンプルA1およびA4]
サンプルA1では、後述の表1に示すように、HVPE法により、下記条件下にて、基板上に、下地層としてAlNバッファ層、およびSiドープGaN層をこの順で形成した。
下地層の成長温度:1055℃。
AlNバッファ層の厚さおよびGaN層の厚さ:それぞれ、100nm、4μm
下地層としてのGaN層中のキャリア濃度:2.2×1016cm-3
【0153】
次に、MOVPE法により、下記条件下にて、下地層上に、中間層として、SiドープGaN層を成長させた。
中間層の成長温度:1000℃。
中間層の厚さ:1μm
中間層中のキャリア濃度:1.6×1019cm-3
【0154】
次に、MOVPE法により、下記条件下にて、下地層上に、カバー層として、SiドープGaN層を成長させた。
カバー層の成長温度:1000℃。
カバー層の厚さ:1μm
カバー層中のキャリア濃度:3.1×1017cm-3
【0155】
次に、電気化学処理により、下記条件下にて、カバー層の転位を通して中間層をポーラス状にした。これにより、窒化物結晶成長用種基板を得た。なお、窒化物結晶成長用種基板は観察用と再成長用で2つ作製した。
電解液の温度:常温(23℃)
処理電圧:50V
処理電流:最大で100mA
処理時間:6min
【0156】
次に、HVPE法により、下記条件にて、カバー層上に、再成長層として、GaN層を成長させた。
再成長層の成長温度:1055℃。
再成長層の厚さ:200μm
【0157】
再成長後に降温する間に、再成長層を基板から剥離させた。
【0158】
サンプルA4では、後述の表2に示すように、基板の直径を2インチとし、再成長層の厚さを800μmとした点を除いて、サンプルA1と同様に、窒化物結晶成長用種基板を用いて再成長工程および剥離工程を実施した。
【0159】
[サンプルA2、A3、A5およびA6]
サンプルA2およびA3では、後述の表1に示すように、基板の直径、中間層の成長法並びに厚さ、カバー層の成長法並びに厚さがサンプル1と異なる条件下で、窒化物結晶成長用種基板を作製した。その後、サンプル1と同様に、再成長工程および剥離工程を実施した。
【0160】
サンプルA5および6では、後述の表2に示すように、再成長層の厚さを800μmとした点を除いて、それぞれ、サンプルA2およびA3と同様に、窒化物結晶成長用種基板を用いて再成長工程および剥離工程を実施した。
【0161】
[サンプルB1]
サンプルB1では、後述の表1に示すように、基板の直径を2インチとし、カバー層を無しとした点を除いて、サンプルA1と同様に、窒化物結晶成長用種基板を作製した。サンプルB1では、サンプルA1と同様に再成長工程を実施した。
【0162】
[サンプルB2]
サンプルB2では、後述の表1に示すように、中間層の成長法並びに厚さ、カバー層の成長法並びに厚さがサンプルA2と異なる点を除いて、サンプルA2と同様に、窒化物結晶成長用種基板を作製した。サンプルB2では、再成長工程以降の工程を実施しなかった。
【0163】
[サンプルB3]
サンプルB3では、後述の表1に示すように、基板の直径、中間層の厚さ、カバー層の厚さがサンプルA1と異なる点を除いて、サンプルA1と同様に、窒化物結晶成長用種基板を作製した。サンプルB3では、サンプルA1と同様に再成長工程を実施した。
【0164】
(2)評価
各サンプルにおいて、以下の評価を行った。
【0165】
(光学顕微鏡)
サンプルB1~B3の窒化物結晶成長用種基板、サンプルB1およびB2の再成長工程後の積層物において、外観検査として、光学顕微鏡により、表面または断面を観察した。
【0166】
(AFM)
サンプルA1~A6の窒化物結晶成長用種基板において、AFMにより、カバー層の表面を5μm角の視野で観察した。
【0167】
(走査型電子顕微鏡(SEM))
サンプルA1~A6において、SEMにより、基板の主面に直交する断面として、窒化物結晶成長用種基板の断面と、再成長層剥離後の断面とを観察した。
【0168】
(3)結果
表1および表2、図8A~11を参照し、評価結果について説明する。
【0169】
【表1】
【0170】
【表2】
【0171】
[サンプルB1]
サンプルB1では、カバー層を形成しなかったため、ポーラス状の中間層が露出した状態で、再成長工程を行った。このため、中間層中のボイドが再成長層により埋め込まれていた。その結果、再成長層を基板から剥離することができなかった。
【0172】
[サンプルB2]
サンプルB2では、電気化学処理後にカバー層の一部が剥離していた。サンプルB2では、カバー層の厚さが10nm未満であったため、電気化学処理で発生したアウトガスによって、カバー層が剥離したと考えられる。
【0173】
[サンプルB3]
サンプルB3では、再成長工程後に、中間層中のボイドが消失していた。これは、再成長における成長温度において、ポーラス状の中間層が潰されたためと考えられる。その結果、再成長層を基板から剥離することができなかった。
【0174】
[サンプルA1~A6]
サンプルA1~A3の窒化物結晶成長用種基板におけるカバー層をAFMにより観察した結果、図8A~8Cに示すように、カバー層中の転位が観察されたが、カバー層は、全体として、平坦な表面状態を維持していた。表1に示すように、カバー層の表面のRaが0.5nm以下であり、且つ、カバー層の表面のRMSが1.0nm以下であった。
【0175】
サンプルA1の窒化物結晶成長用種基板の断面をSEMにより観察した結果、図9に示すように、中間層が選択的にポーラス状に形成されていた。基板の主面に直交する断面におけるボイドの長さは、80nm以上400nm以下であった。中間層の厚さ方向におけるボイドの深さは、約420nmであった。
【0176】
サンプルA2およびA3の窒化物結晶成長用種基板の断面をSEMにより観察した結果、図示していないが、サンプルA1と同様に、中間層が選択的にポーラス状に形成されていた。ただし、サンプルA2およびA3では、図10に示すように、カバー層の表面よりも下の位置に、微小なボイドが観察された。しかしながら、微小ボイドは、カバー層の表面には到達していなかった。
【0177】
サンプルA1~A3の再成長工程では、特段の不良が生じることなく、再成長層を安定的に成長させることができた。
【0178】
サンプルA1~A3の再成長層が剥離した断面をSEMにより観察した結果、図11に示すように、ポーラス状にした中間層を境として、再成長層が基板から剥離していた。
【0179】
再成長層の厚さを800μmとしたサンプルA4~A6についても、それぞれ、サンプルA1~A3と同等であったことを確認した。
【0180】
[まとめ]
本開示に係る方法を適用したサンプルA1~A6によれば、再成長層を安定的に成長させるとともに、再成長層を容易に剥離することができたことを確認した。
【0181】
<付記>
以下、本開示の態様について付記する。
【0182】
(付記1)
基板と、
前記基板の上方に設けられ、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層と、
前記中間層上に設けられ、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含むカバー層と、
を備え、
前記中間層は、ポーラス状に構成され、
前記カバー層の表面の算術平均粗さは、1.0nm以下であり、
前記カバー層の前記表面の二乗平均平方根粗さは、2.0nm以下である、
ここで、前記算術平均粗さおよび前記二乗平均平方根粗さは、原子間力顕微鏡により前記カバー層の前記表面を5μm角の視野で観察したときの値である
窒化物結晶成長用種基板。
【0183】
(付記2)
前記中間層の厚さは、100nm超である
付記1に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0184】
(付記3)
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記基板の主面に沿った方向における前記中間層中の前記複数のボイドのそれぞれの長さは、前記基板の主面に直交する任意の断面を見たときに、30nm以上である
付記1または付記2に記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0185】
(付記4)
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記基板の主面に沿った方向における前記中間層中の前記複数のボイドのそれぞれの長さは、前記カバー層の下面から下方に30nmの深さにおける前記基板の主面に沿った断面を見たときに、30nm以上である
付記1から付記3のいずれか1つに記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0186】
(付記5)
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記中間層の厚さ方向における前記複数のボイドのそれぞれの深さは、100nm超である
付記1から付記4のいずれか1つに記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0187】
(付記6)
前記カバー層の厚さは、10nm以上2μm以下である
付記1から付記5のいずれか1つに記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0188】
(付記7)
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記中間層中の前記複数のボイドは、前記カバー層の下面から前記基板に向けて延在している
付記1から付記6のいずれか1つに記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0189】
(付記8)
前記中間層は、複数のボイドを含み、
前記中間層中の前記複数のボイドのそれぞれは、前記カバー層中の複数の転位のそれぞれと重なる位置に形成されている
付記1から付記7のいずれか1つに記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0190】
(付記9)
前記基板の直径は、2インチ以上である
付記1から付記8のいずれか1つに記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0191】
(付記10)
前記基板と前記中間層との間に設けられ、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含む下地層をさらに備える
付記1から付記9のいずれか1つに記載の窒化物結晶成長用種基板。
【0192】
(付記11)
(a)基板を準備する工程と、
(b)前記基板の上方に、n型のIII族窒化物結晶を含む中間層を形成する工程と、
(c)前記中間層上に、前記中間層のキャリア濃度よりも低いキャリア濃度を有するIII族窒化物結晶を含むカバー層を形成する工程と、
(d)電気化学処理により、前記カバー層の表面状態を維持しつつ、前記カバー層における転位を通して前記中間層をポーラス状にする工程と、
(e)前記カバー層上に、III族窒化物結晶からなる再成長層をエピタキシャル成長させる工程と、
(f)ポーラス状にした前記中間層の少なくとも一部を境として、前記再成長層を前記基板から剥離させる工程と、
を備える
窒化物結晶基板の製造方法。
【0193】
(付記12)
(f)では、(e)後に降温する間に、前記再成長層を前記基板から自発的に剥離させる
付記11に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0194】
(付記13)
(e)では、(0001)面を成長面として前記再成長層を成長させる
付記11または付記12に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0195】
(付記14)
(f)では、前記再成長層に生じた引張応力により、前記(0001)面を上側が凹んだ球面状に反らせることで、前記基板の外周から中央に向けて前記再成長層を自発的に剥離させる
付記13に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0196】
(付記15)
(a)では、前記基板として、III族窒化物からなる自立基板を準備し、
(f)後に、(g)残存した前記基板の表面を研磨する工程を実施し、
(b)から(g)までを含むサイクルを繰り返す
付記11から付記14のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
【0197】
(付記16)
付記11から付記15のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法により得られる剥離中間体であって、
少なくとも、前記カバー層と、前記再成長層と、を備える
剥離中間体。
【符号の説明】
【0198】
10 窒化物結晶成長用種基板
20 剥離中間体
50 基板
100 基板
120 主面
200 下地層
300 中間層
360 ボイド
400 カバー層
500 再成長層
510 c面
810 電解液
820 処理槽
840 電源
842 陽極
844 陰極
860 電流計
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11